JP2023095554A - 歯科用充填キット - Google Patents

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大和 野尻
Yamato Nojiri
直樹 西垣
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Abstract

【課題】優れた歯質に対する接着性と窩洞封鎖性を有する、2液型歯科用ボンディング材と、自己接着性歯科用コンポジットレジンと、を備える、歯科用充填キットを提供すること。【解決手段】酸性基を有する単量体(a)、酸性基を有しない単量体(b)、及び光重合開始剤(c)を含む自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)と、第1剤と第2剤とを含み、前記第1剤が酸性基を有する単量体(f)を含み、前記第1剤及び第2剤の少なくとも一方が化学重合促進剤(h)を含み、かつ前記第1剤及び第2剤の少なくとも一方が水(i)を含む、2液型歯科用ボンディング材(Y)と、を備える、歯科用充填キット。【選択図】なし

Description

本発明は歯科用充填キットに関する。
現在、齲蝕等により生じた歯質(エナメル質、象牙質及びセメント質)の損傷のうち、形成された窩洞の大きさが比較的小さい場合の修復には、1液型の歯科用ボンディング材と1材型の歯科用コンポジットレジンとを併用した接着システムにより充填修復治療を行うことが主流となっている。このような充填修復治療の一般的な手順としては、まず1液型の歯科用ボンディング材を窩洞内全体に塗布し、必要に応じてエアブローにより水又は有機溶媒などの揮発成分を除去した後に光照射を行い、歯科用ボンディング材を硬化させる。その後、1材型の歯科用コンポジットレジンを窩洞内に充填し、光照射等により歯科用コンポジットレジンを硬化させ、必要に応じて歯科用コンポジットレジンの硬化物の表面の形状調整又は研磨等を行うことで、充填修復治療が完了となる。
このような充填修復治療に用いられる1液型の歯科用ボンディング材は、酸性基を有する単量体、酸性基を有しない単量体、重合開始剤、及び水などを含む組成物であり、1材型の歯科用コンポジットレジンは、酸性基を有しない単量体、重合開始剤、及びフィラーなどを含み、かつ酸性基を有する単量体を含まない組成物であることが一般的である。前記歯科用ボンディング材としては、1液型であり、かつ重合開始剤として光重合開始剤を含有する光硬化型の材料が主流である。一方で、特許文献1には保管安定性等の観点から、酸性基を有する単量体と特定の化合物とが分包された2液型の歯科用ボンディング材が開示されており、歯科用コンポジットレジンと併用した態様も記載されている。
このような充填修復治療においては、操作ステップの簡便化が進んでおり、例えば、特許文献2には、酸性基を有する単量体を含有する特定の歯科用ボンディング材と、酸性基を有する単量体等を含有する歯科用コンポジットレジンとを構成要素とする歯科用充填キットが開示されており、ボンディング材への光照射を行うことなく十分な接着強さと辺縁封鎖性とが得られることが記載されている。
特開2011-121869号公報 特開2006-131621号公報
しかしながら、本発明者らが検討したところ、特許文献1の2液型の歯科用ボンディング材は、光重合開始剤を含まない組成物のみならず、光重合開始剤を含む組成物として前記ボンディング材へ光照射した場合であっても、歯科用コンポジットレジンと併用した場合の歯質に対する接着性及び窩洞の辺縁における封鎖性に改善の余地があることがわかった。より詳細には、特許文献1の歯科用コンポジットレジンと、2液型の歯科用ボンディング材とを併用した場合においても、窩洞に歯科用コンポジットレジンを充填して重合硬化させた場合、窩洞の辺縁における封鎖性(以下、「窩洞封鎖性」とも称する)については、歯科用コンポジットレジンの重合時の収縮応力によって、窩洞を構成する窩壁から、窩洞に充填された重合後の硬化物であるコンポジットレジンが剥離し、コンポジットレジンと歯質との間に隙間が生じ、この隙間から口腔内の細菌等が侵入する現象である辺縁漏洩を十分に抑制できていなかった。
また、特許文献1において開示される、市販の光硬化型歯科用コンポジットレジン(製品名「パルフィークエステライト」、株式会社トクヤマデンタル)には、酸性基を有する単量体が配合されていなかった。
また、特許文献2の歯科用充填キットは、歯質に対する接着強さをもって辺縁封鎖性にも優れるというものであり、辺縁封鎖性は実施例では評価されていなかった。特許文献2に対して、本発明者らが検討したところ、窩洞に歯科用コンポジットレジンを充填して重合硬化させた場合、窩洞封鎖性については、特許文献1と同様に、歯科用コンポジットレジンの重合時の収縮応力によって、歯科用コンポジットレジンと歯質との間に隙間が生じ、辺縁漏洩を十分に抑制できないということが見い出された。また、特許文献2の歯科用充填キットは、例えば、加齢などの種々の理由により歯質が着色した場合に、該着色した歯質に対して、色がなじむようなコンポジットレジンを充填するときのように、透明性が低いシェードを使用する際には硬化深度が小さくなることから、ボンディング材の硬化性が低下し、窩洞封鎖性が低下することが分かった。
そこで本発明は、優れた歯質に対する接着性と窩洞封鎖性を有する、2液型歯科用ボンディング材と、自己接着性歯科用コンポジットレジンと、を備える、歯科用充填キットを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、酸性基を有する単量体と化学重合促進剤と含む特定組成の2液型歯科用ボンディング材と、酸性基を有する単量体を含む特定組成の歯科用コンポジットレジンと、を備える、歯科用充填キットが上記課題を解決できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[1]酸性基を有する単量体(a)、酸性基を有しない単量体(b)、及び光重合開始剤(c)を含む自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)と、
第1剤と第2剤とを含み、
前記第1剤が酸性基を有する単量体(f)を含み、
前記第1剤及び第2剤の少なくとも一方が化学重合促進剤(h)を含み、かつ
前記第1剤及び第2剤の少なくとも一方が水(i)を含む、2液型歯科用ボンディング材(Y)と、
を備える、歯科用充填キット。
[2]前記自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)が、フィラー(d)をさらに含む、[1]に記載の歯科用充填キット。
[3]前記第1剤及び第2剤の少なくとも一方が、酸性基を有しない単量体(g)をさらに含む、[1]又は[2]に記載の歯科用充填キット。
[4]化学重合促進剤(h)が、アミン類、ボレート化合物、スルフィン酸及びその塩、チオ尿素化合物、銅化合物、チオール化合物並びにバナジウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の歯科用充填キット。
[5]化学重合促進剤(h)がボレート化合物を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の歯科用充填キット。
[6]前記第2剤に、有機過酸化物及び無機過酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の化学重合開始剤(j)をさらに含む、[1]~[5]のいずれかに記載の歯科用充填キット。
[7]化学重合開始剤(j)が、有機過酸化物であり、前記有機過酸化物が、ヒドロペルオキシド、ケトンペルオキシド、ペルオキシエステル、及びジアシルペルオキシドからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[6]に記載の歯科用充填キット。
[8]前記第2剤が水を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の歯科用充填キット。
[9]前記第1剤及び第2剤が、実質的に光重合開始剤を含まない、[1]~[8]のいずれかに記載の歯科用充填キット。
[10]前記第1剤及び第2剤の少なくとも一方が光重合開始剤(k)をさらに含む、[1]~[8]のいずれかに記載の歯科用充填キット。
[11]前記第1剤及び第2剤の少なくとも一方が有機溶媒をさらに含む、[1]~[10]のいずれかに記載の歯科用充填キット。
[12]光重合開始剤(c)が水溶性光重合開始剤(c-1)を含む、[1]~[11]のいずれかに記載の歯科用充填キット。
[13]酸性基を有する単量体(a)がリン酸基を有する単量体を含む、[1]~[12]のいずれかに記載の歯科用充填キット。
[14]リン酸基を有する単量体が炭素数6~20のアルキレン基を有する2価のリン酸基を有する単量体を含む、[13]に記載の歯科用充填キット。
[15]酸性基を有する単量体(a)と酸性基を有する単量体(f)が同一の単量体を含む、[1]~[14]のいずれかに記載の歯科用充填キット。
本発明によれば、優れた歯質に対する接着性と窩洞封鎖性を有する、2液型歯科用ボンディング材と、自己接着性歯科用コンポジットレジンと、を備える、歯科用充填キットを提供することができる。また、本発明の歯科用充填キットは、自己接着性歯科用コンポジットレジンと2液型歯科用ボンディング材との組合せを用いることで、1液型の歯科用ボンディング材と自己接着性歯科用コンポジットレジンとの組合せに比べて、2mm以上等の深い窩洞においても窩洞封鎖性に優れる。さらに、本発明の歯科用充填キットは、自己接着性歯科用コンポジットレジンと2液型歯科用ボンディング材との組合せを用いることで、1液型の歯科用ボンディング材と自己接着性歯科用コンポジットレジンとの組合せに比べて、歯質に対する接着性の耐久性と窩洞封鎖性の耐久性にも優れる。
本発明の歯科用充填キットは、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)と、2液型歯科用ボンディング材(Y)(以下、単に「歯科用ボンディング材(Y)」と称することがある)と、を備える。自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、酸性基を有する単量体(a)、酸性基を有しない単量体(b)、及び光重合開始剤(c)を含む。2液型歯科用ボンディング材(Y)は、第1剤と第2剤とを含み、前記第1剤が酸性基を有する単量体(f)を含み、前記第1剤及び第2剤の少なくとも一方が化学重合促進剤(h)を含み、かつ前記第1剤及び第2剤の少なくとも一方が水(i)を含む。2液型歯科用ボンディング材(Y)は、使用直前に混合して使用することができる。
酸の存在下で高い重合活性を示す化学重合開始剤系としては、熱安定性の高い有機過酸化物からなる酸化剤と、還元剤(還元剤は、1種単独で還元剤として機能する場合と2種以上が組み合わされて還元剤として機能する場合があり、総称して「重合促進剤」とも呼ばれる)が知られている。このような化学重合開始剤系は、酸化剤の性質と、還元剤の性質と、他の成分との反応を考慮して、配合される。例えば、酸化剤と、還元剤とを分包し、2材型の歯科用硬化性組成物(例えば、ボンディング材)として使用されることが知られている。
本発明の歯科用充填キットが歯質に対する接着性、窩洞の辺縁における封鎖性、及びこれらの耐久性に優れる理由は定かではないが、本発明者らは以下のように推定している。本発明の2液型歯科用ボンディング材(Y)では、第1剤及び第2剤の少なくとも一方が化学重合促進剤(h)を含む。このような化学重合系を用いる2液型歯科用ボンディング材(Y)と自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)とを組み合わせることによって、
歯科用ボンディング材(Y)と自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)との界面において、硬化が促進され、両者の界面の接着が強固になるためと推測される。歯質(特に象牙質)に対する接着性で必要になる脱灰の効果も奏する一方で、歯科用ボンディング材(Y)と自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)との界面における接着が強固になることに起因して、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の重合時の収縮応力によって、窩洞を構成する窩壁及び窩底部から、窩洞に充填された重合後の硬化物である自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)が剥離することを抑制でき、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)と歯質との間に隙間が生じないため、窩洞の辺縁(窩縁)における封鎖性も優れる。さらに前述の通り、初期の接着性、窩洞の辺縁における封鎖性に優れ、歯質と歯科用ボンディング材(Y)の界面と歯科用ボンディング材(Y)と自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)との界面がともに強固であることから、歯科用ボンディング材(Y)と自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の全範囲において耐久性(歯質に対する接着性の耐久性及び窩洞封鎖性の耐久性)にも優れる。
以下、本発明の歯科用充填キットに用いられる各成分について、説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、メタクリルとアクリルの総称であり、これと類似の表現(「(メタ)アクリル酸」「(メタ)アクリロニトリル」等)についても同様である。また、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
まず、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)について説明する。
<酸性基を有する単量体(a)>
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)には、歯質に対する接着性、窩洞封鎖性、及びこれらの耐久性の観点から、酸性基を有する単量体(a)が必須である。自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)には、ラジカル単量体が好適に用いられる。酸性基を有する単量体(a)におけるラジカル単量体の具体例としては、(メタ)アクリレート系単量体、(メタ)アクリルアミド系単量体、α-シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α-ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等のエステル類、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ-N-ビニル誘導体、スチレン誘導体等が挙げられる。これらの中でも、硬化性の観点から(メタ)アクリレート系単量体、(メタ)アクリルアミド系単量体が好ましい。
本発明に用いられる酸性基を有する単量体(a)としては、例えば、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸性基を少なくとも1個有する単量体が挙げられる。また、酸性基を有する単量体(a)としては、後記する歯科用ボンディング材(Y)に用いる酸性基を有する単量体(f)の例示である、一般式(6)で示される酸性基を有する単量体、一般式(7)で示される酸性基を有する単量体も挙げられる。酸性基を有する単量体(a)は、1種を単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。酸性基を有する単量体(a)の具体例を下記する。
リン酸基を有する単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(
メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-(2-ブロモエチル)ハイドロジェンホスフェート、2-メタクリロイルオキシエチル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2-メタクリロイルオキシプロピル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート並びにこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩及びアミン塩が挙げられる。リン酸基を有する単量体のうち、炭素数6~20のアルキレン基を有する2価のリン酸基を有する単量体が好ましく、歯質に対する接着性、窩洞封鎖性、及びこれらの耐久性により優れる点から、炭素数6~12のアルキレン基を有する2価のリン酸基を有する単量体がより好ましく、炭素数8~12のアルキレン基を有する2価のリン酸基を有する単量体がさらに好ましい。
ピロリン酸基を有する単量体としては、ピロリン酸ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕並びにこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩及びアミン塩が挙げられる。
チオリン酸基を有する単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンチオホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンチオホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンチオホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンチオホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。
ホスホン酸基を有する単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノアセテート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。
カルボン酸基を有する単量体としては、分子内に1個のカルボキシル基又はその酸無水
物基を有する一官能性(メタ)アクリル酸エステル、分子内に複数のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
分子内に1個のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性単量体の例としては、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイルグリシン、N-(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート、O-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-o-アミノ安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、N-(メタ)アクリロイル-4-アミノサリチル酸等及びこれらの化合物のカルボキシル基を酸無水物基化した化合物が挙げられる。
分子内に複数のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性単量体の例としては、例えば、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキサン-1,1-ジカルボン酸、9-(メタ)アクリロイルオキシノナン-1,1-ジカルボン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシデカン-1,1-ジカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、12-(メタ)アクリロイルオキシドデカン-1,1-ジカルボン酸、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデカン-1,1-ジカルボン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-3’-(メタ)アクリロイルオキシ-2’-(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸無水物、6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-2,3,6-トリカルボン酸無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル-1,8-ナフタル酸無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,8-トリカルボン酸無水物等が挙げられる。
スルホン酸基を有する単量体としては、2-スルホエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、上述の酸性基を有する単量体(a)の中でも、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)として用いた場合に歯質に対する接着性、窩洞封鎖性、及びこれらの耐久性が良好である観点から、リン酸基を有する単量体又はカルボン酸基を有する単量体を含むことが好ましく、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアン
ハイドライド、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、及び、2-メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物がより好ましく、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェートがさらに好ましく、硬化性とのバランスの観点から、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートが特に好ましい。
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における酸性基を有する単量体(a)の含有量は、歯質に対する接着性、窩洞封鎖性、及びこれらの耐久性の観点から、本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における単量体の総量100質量部において、1~40質量部であることが好ましく、2.5~35質量部であることがより好ましく、5~30質量部であることがさらに好ましい。
<酸性基を有しない単量体(b)>
本発明における酸性基を有しない単量体(b)としては、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1);25℃の水に対する溶解度が10質量%未満である酸性基を有しない疎水性単量体(b-2)(以下、単に「疎水性単量体(b-2)」と称することがある);25℃の水に対する溶解度が10質量%以上である酸性基を有しない親水性単量体(b-3)(以下、単に「親水性単量体(b-3)」と称することがある)が挙げられる。酸性基を有しない単量体(b)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明において、酸性基を有さず、アクリルアミド基とメタクリロイルオキシ基とを含有する化合物を非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)とし、酸性基を有さず、かつ非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)に含まれない化合物を、親水性の程度に応じて、疎水性単量体(b-2)と、親水性単量体(b-3)と分ける。
・非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)
ある好適な実施形態としては、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)を含む、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)が挙げられる。非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)は、歯質に対する接着性、窩洞封鎖性、及びこれらの耐久性などを向上させることから、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
Figure 2023095554000001
式中、Zは置換基を有していてもよいC1~C8の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族基又は芳香族基であって、前記脂肪族基は、-O-、-S-、-CO-、-CO-O-、-O-CO-、-NR1-、-CO-NR1-、-NR1-CO-、-CO-O-NR1-、-O-CO-NR1-及び-NR1-CO-NR1-からなる群より選ばれる少なくとも1個の結合
基によって中断されていてもよい。R1は、水素原子又は置換基を有していてもよいC1
8の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族基を表す。
Zは、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)の親水性を調整する部位である。Zで表される置換基を有していてもよいC1~C8の脂肪族基は、飽和脂肪族基(アルキレン基、シクロアルキレン基(例えば、1,4-シクロへキシレン基等))、不飽和脂肪族基(アルケニレン基、アルキニレン基)のいずれであってもよく、入手又は製造の容易さ及び化学的安定性の観点から飽和脂肪族基(アルキレン基)であることが好ましい。Zは、歯質に対する接着性、重合硬化性等の観点から、置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐鎖状のC1~C4の脂肪族基であることが好ましく、置換基を有していてもよい直鎖状又は分岐鎖状のC2~C4の脂肪族基であることがより好ましい。脂肪族基としては、アルキレン基が好ましい。前記C1~C8のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基などが挙げられる。
Zで表される置換基を有していてもよい芳香族基としては、例えばアリーレン基、芳香族性ヘテロ環基が挙げられる。前記芳香族基としては、アリーレン基が、芳香族性ヘテロ環基よりも好ましい。芳香族性ヘテロ環基のヘテロ環は、一般には不飽和である。芳香族性ヘテロ環は、5員環又は6員環であることが好ましい。アリーレン基としては、例えば、フェニレン基が好ましい。芳香族性ヘテロ環基のヘテロ環としては、例えば、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、及び1,3,5-トリアジン環が挙げられる。前記芳香族基のうち、フェニレン基が特に好ましい。
1における脂肪族基としては、飽和脂肪族基(アルキル基)、不飽和脂肪族基(アル
ケニル基、アルキニル基)のいずれであってもよく、入手又は製造の容易さ及び化学的安定性の観点から飽和脂肪族基(アルキル基)が好ましい。R1における前記C1~C8の直
鎖又は分岐鎖のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペ
ンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、1
-エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、1,1-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基等が挙げられ、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が好ましい。
1としては、水素原子又は置換基を有していてもよい直鎖状若しくは分岐鎖状のC1~C4のアルキル基がより好ましく、水素原子又は置換基を有していてもよい直鎖状若しく
は分岐鎖状のC1~C3のアルキル基がさらに好ましい。
Zの前記脂肪族基が前記結合基によって中断されている場合、結合基の数は特に限定されないが、1~10個程度であってもよく、好ましくは1個、2個又は3個であり、より好ましくは1個又は2個である。また、前記式(1)において、Zの脂肪族基は連続する前記結合基によって中断されないものが好ましい。すなわち、前記結合基同士が隣接しないものが好ましい。結合基としては、-O-、-S-、-CO-、-CO-O-、-O-CO-、-NH-、-CO-NH-、-NH-CO-、-CO-O-NH-、-O-CO-NH-及び-NH-CO-NH-からなる群より選ばれる少なくとも1個の結合基がさらに好ましく、-O-、-S-、-CO-、-NH-、-CO-NH-及び-NH-CO-からなる群より選ばれる少なくとも1個の結合基が特に好ましい。
Zにおける置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素
原子)、カルボキシル基、C2~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基、C1~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、C1~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基等が挙げられる。
非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)の具体例としては、特に限定されないが、以下に示すものが挙げられる。
Figure 2023095554000002
この中でも、歯質に対する接着性、窩洞封鎖性、及びこれらの耐久性、重合硬化性の観点から、Zが置換基を有していてもよいC2~C4の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族基である非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物が好ましく、N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド(通称「MAEA」)、N-メタクリロイルオキシプロピルアクリルアミド、N-メタクリロイルオキシブチルアクリルアミド、N-(1-エチル-(2-メタクリロイルオキシ)エチル)アクリルアミド、N-(2-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)エチル)アクリルアミドがより好ましく、象牙質のコラーゲン層への浸透に関わる親水性の高さの観点からMAEA、N-メタクリロイルオキシプロピルアク
リルアミドがさらに好ましい。
非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)は、1種単独を配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)の含有量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における単量体の総量100質量部において、1~60質量部が好ましく、2~45質量部がより好ましく、3~30質量部がさらに好ましく、5~25質量部が特に好ましい。
・酸性基を有しない疎水性単量体(b-2)
酸性基を有しない疎水性単量体(b-2)は、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)のハンドリング性、硬化物の機械的強度などを向上させる。疎水性単量体(b-2)としては、酸性基を有さず重合性基を有するラジカル単量体が好ましく、ラジカル重合が容易である観点から、重合性基は(メタ)アクリル基及び/又は(メタ)アクリルアミド基が好ましい。疎水性単量体(b-2)とは、酸性基を有さず、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)に相当せず、かつ25℃の水に対する溶解度が10質量%未満の単量体を意味する。疎水性単量体(b-2)としては、例えば、芳香族化合物系の二官能性単量体、脂肪族化合物系の二官能性単量体、三官能性以上の単量体などの架橋性の単量体が挙げられる。
芳香族化合物系の二官能性単量体としては、例えば、2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。これらの中でも、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称「Bis-GMA」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数:2.6、通称「D-2.6E」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパンが好ましい。
脂肪族化合物系の二官能性単量体としては、例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリ
コールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(通称「3G」)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)、1,10-デカンジオールジメタクリレート(通称「DD」)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレートが好ましい。
三官能性以上の単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラ(メタ)アクリロイルオキシメチル-4-オキサヘプタンなどが挙げられる。これらの中でも、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレートが好ましい。
上記の疎水性単量体(b-2)の中でも、機械的強度及びハンドリング性の観点で、芳香族化合物系の二官能性単量体、及び脂肪族化合物系の二官能性単量体が好ましく用いられる。芳香族化合物系の二官能性単量体としては、Bis-GMA、D-2.6Eが好ましい。脂肪族化合物系の二官能性単量体としては、グリセロールジ(メタ)アクリレート、3G、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、DD、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、UDMAが好ましい。
上記の疎水性単量体(b-2)の中でも、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)として用いた場合の歯質に対する接着性、窩洞封鎖性、及びこれらの耐久性が良好である観点から、Bis-GMA、D-2.6E、3G、UDMA、DDがより好ましく、D-2.6E、3G、Bis-GMAがさらに好ましい。
疎水性単量体(b-2)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を併用してもよい。疎水性単量体(b-2)の含有量が下記上限値以下であることによって、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の歯質への濡れ性が低下して接着性が低下することを抑制しやすく、同含有量が前記下限値以上であることで、所望の硬化物の機械的強度が得られやすい。本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における疎水性単量体(b-2)の含有量は、本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における単量体の総量100質量部において、20~98質量部が好ましく、40~95質量部がより好ましく、60~92質量部がさらに好ましい。
・酸性基を有しない親水性単量体(b-3)
親水性単量体(b-3)は、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の歯質への濡れ性を向上させる。親水性単量体(b-3)としては、酸性基を有さず重合性基を有するラジカル単量体が好ましく、ラジカル重合が容易である観点から、重合性基は(メタ)ア
クリル基及び/又は(メタ)アクリルアミド基が好ましい。親水性単量体(b-3)とは、酸性基を有さず、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)に相当せず、かつ25℃の水に対する溶解度が10質量%以上のものを意味し、該溶解度が30質量%以上のものが好ましく、25℃において任意の割合で水に溶解可能なものがより好ましい。親水性単量体としては、水酸基、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロプレン基、アミド基などの親水性基を有するものが好ましい。親水性単量体(b-3)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の数が9以上のもの)などの親水性の単官能性(メタ)アクリレート系単量体;N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、4-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-トリヒドロキシメチル-N-メチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド及びN,N-ジエチルアクリルアミドなどの親水性の単官能性(メタ)アクリルアミド系単量体などが挙げられる。
これらの親水性単量体(b-3)の中でも、歯質に対する接着性、窩洞封鎖性、及びこれらの耐久性の観点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、親水性の単官能性(メタ)アクリルアミド系単量体が好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド及びN,N-ジエチルアクリルアミドがより好ましい。親水性単量体(b-3)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における親水性単量体(b-3)の含有量は、単量体の総量100質量部において、0~50質量部の範囲が好ましく、0~40質量部がより好ましく、0~30質量部がさらに好ましい。親水性単量体(b-3)の含有量は単量体の総量100質量部において、0質量部であってもよい。本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)において親水性単量体(b-3)の含有量が前記下限値以上であることで、十分な接着性の向上効果が得られやすく、前記上限値以下であることで、所望の硬化物の機械的強度が得られやすい。
自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における酸性基を有しない単量体(b)の含有量は、単量体の総量100質量部において、60~99質量部が好ましく、65~97.5質量部がより好ましく、70~95質量部がさらに好ましい。また、歯質に対する接着性、窩洞封鎖性、及びこれらの耐久性の観点から、疎水性単量体(b-2)と親水性単量体(b-3)の質量比率は疎水性単量体(b-2):親水性単量体(b-3)=10:0~1:2であることが好ましく、10:0~1:1であることがより好ましく、10:0~2:1であることがさらに好ましい。
ある好適な実施形態としては、二官能性以上の(メタ)アクリルアミド系単量体を実質的に含まない、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)が挙げられる。また、他のある好適な実施形態としては、リン酸水素ジエステル基含有単量体を実質的に含まない、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)が挙げられる。リン酸水素ジエステル基含有単量体は、(メタ)アクリロイルオキシ基及び/又は(メタ)アクリルアミド基を有することが好ましい。本発明において、ある単量体を実質的に含まないとは、当該単量体の含有量が、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の組成物に含まれる単量体の総量100質量部において、0.5質量部未満であり、0.1質量部未満であることが好ましく、
0.01質量部未満であることがより好ましく、0質量部であってもよい。また、実質的に含まれない当該単量体の含有量は、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の組成物全体において、0.5質量%未満であってもよく、0.1質量%未満であってもよい。
<光重合開始剤(c)>
光重合開始剤(c)は水溶性光重合開始剤(c-1)と非水溶性光重合開始剤(c-2)に分類される。光重合開始剤(c)としては、水溶性光重合開始剤(c-1)のみを用いてもよく、非水溶性光重合開始剤(c-2)のみを用いてもよく、水溶性光重合開始剤(c-1)と非水溶性光重合開始剤(c-2)を併用してもよいが、併用することが好ましい。
・水溶性光重合開始剤(c-1)
水溶性光重合開始剤(c-1)は、親水的な歯面界面での重合硬化性を向上させ、高い接着強さを実現できる。水溶性光重合開始剤(c-1)は、25℃の水に対する溶解度が10g/L以上であり、15g/L以上であることが好ましく、20g/L以上であることがより好ましく、25g/L以上であることがさらに好ましい。同溶解度が10g/L以上であることで、接着界面部において水溶性光重合開始剤(c-1)が歯質中の水に十分に溶解し、重合促進効果が発現しやすくなる。
水溶性光重合開始剤(c-1)としては、例えば、水溶性チオキサントン類、水溶性アシルホスフィンオキシド類、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンの水酸基へ(ポリ)エチレングリコール鎖を導入したもの、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの水酸基及び/又はフェニル基へ(ポリ)エチレングリコール鎖を導入したもの、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンのフェニル基へ-OCH2COO-Na+を導入したもの、2-ヒドロ
キシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンの水酸基及び/又はフェニル基へ(ポリ)エチレングリコール鎖を導入したもの、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンのフェニル基へ-OCH2COO-Na+を導入したものなどのα-
ヒドロキシアルキルアセトフェノン類;2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-1-[(4-モルホリノ)フェニル]-1-ブタノンなどのα-アミノアルキルフェノン類のアミノ基を四級アンモニウム塩化したものなどが挙げられる。
前記水溶性チオキサントン類としては、例えば、2-ヒドロキシ-3-(9-オキソ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(1-メチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(1,3,4-トリメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライドなどが使用できる。
前記水溶性アシルホスフィンオキシド類としては、下記一般式(2)又は(3)で表されるアシルホスフィンオキシド類が挙げられる。
Figure 2023095554000003
Figure 2023095554000004
式(2)及び(3)中、R2、R3、R4、R5、R6、及びR7は互いに独立して、C1
4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又はハロゲン原子であり、Mは水素イオン、
アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、マグネシウムイオン、ピリジニウムイオン(ピリジン環が置換基を有していてもよい)、又はHN+91011(式中、R9、R10、及びR11は互いに独立して、有機基又は水素原子)で示されるアンモニウムイオンで
あり、nは1又は2であり、XはC1~C4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基であり、R8は-CH(CH3)COO(C24O)pCH3で表され、pは1~1000の整数を表す。
2、R3、R4、R5、R6、及びR7のアルキル基としては、C1~C4の直鎖状又は分岐鎖状のものであれば特に限定されず、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、2-メチルプロピル基、tert-ブチル基などが挙げられる。R2、R3、R4、R5、R6、及びR7のアルキル基としては、C1~C3の直鎖状のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。Xとしては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基などが挙げられる。Xとしては、C1~C3の直鎖状のアルキレン基が好ましく、メチレン基又はエチレン基がより好ましく、メチレン基がさらに好ましい。
Mがピリジニウムイオンである場合のピリジン環の置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、カルボキシル基、C2~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基、C1~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、C1~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基などが挙げられる。Mとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、マグネシウムイオン、ピリジニウムイオン(ピリジン環が置換基を有していてもよい)、又はHN+91011(式中、記号は上記と同一意味を有する)で示されるアンモニウムイオンが好ましい。アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオンが挙げられる。アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、ラジウムイオンが挙げられる。R9、R10、及びR11の有機基としては、前記ピ
リジン環の置換基と同様のもの(ハロゲン原子を除く)が挙げられる。
これらの中でも、R2、R3、R4、R5、R6、及びR7がすべてメチル基である化合物が自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の組成物中での保存安定性及び色調安定性の点から特に好ましい。また、アンモニウムイオンとしては、各種のアミンから誘導されるアンモニウムイオンが挙げられる。アミンの例としては、アンモニア、トリメチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルアニリン、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルアミノメタクリレート、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸及びそのアルキルエステル、4-(N,N-ジエチルアミノ)安息香酸及びそのアルキルエステル、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジンなどが挙げられる。
8としては、歯質への接着性の観点から、pは1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上がさらに好ましく、4以上が特に好ましい。pは1000以下が好ましく、100以下がより好ましく、75以下がさらに好ましく、50以下が特に好ましい。
これらの水溶性アシルホスフィンオキシド類の中でも、Mn+がリチウムイオンである一般式(2)で表される化合物、及び、R8で表される基に相当する部分が分子量950であるポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレートから合成された一般式(3)で表される化合物が特に好ましい。これらの化合物において、一般式(2)におけるR2、R3、及びR4、並びに一般式(3)におけるR2、R3、R4、R5、R6、及びR7は前記したとおりである。
このような構造を有する水溶性アシルホスフィンオキシド類は、公知方法に準じて合成することができ、一部は市販品としても入手可能である。例えば、特開昭57-197289号公報や国際公開第2014/095724号などに開示された方法により合成することができる。水溶性光重合開始剤(c-1)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
水溶性光重合開始剤(c-1)は、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)に溶解されていても自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の組成物中に粉末の形態で分散されていてもよい。
水溶性光重合開始剤(c-1)を組成物中に粉末の形態で分散させる場合、その平均粒子径が過大であると沈降しやすくなるので、500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。一方、平均粒子径が過小であると粉末の比表面積が過大になって自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の組成物への分散可能な量が減少するので、0.01μm以上が好ましい。すなわち、水溶性光重合開始剤(c-1)の平均粒子径は0.01~500μmの範囲が好ましく、0.01~100μmの範囲がより好ましく、0.01~50μmの範囲がさらに好ましい。
各々の水溶性光重合開始剤(c-1)の粉末の平均粒子径は、粒子100個以上の電子顕微鏡写真をもとに画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View;株式会社マウンテック製)を用いて画像解析を行った後に体積平均粒子径として算出することができる。
水溶性光重合開始剤(c-1)を組成物中に粉末の形態で分散させる場合の開始剤の形状については、球状、針状、板状、破砕状など、種々の形状が挙げられるが、特に制限されない。水溶性光重合開始剤(c-1)は、粉砕法、凍結乾燥法、再沈殿法などの従来公知の方法で作製することができ、得られる粉末の平均粒子径の観点で、凍結乾燥法及び再沈殿法が好ましく、凍結乾燥法がより好ましい。
水溶性光重合開始剤(c-1)の含有量は、得られる自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の硬化性などの観点からは、本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における単量体の総量100質量部に対して、0.01~20質量部が好ましく、歯
質への接着性の点から、0.05~10質量部がより好ましく、0.1~5質量部がさらに好ましい。水溶性光重合開始剤(c-1)の含有量が前記下限値以上であることで、接着界面での重合が十分に進行し、十分な接着強さを得られやすい。一方、水溶性光重合開始剤(c-1)の含有量が前記上限値以下であることで、十分な接着強さが得られやすい。
・非水溶性光重合開始剤(c-2)
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、硬化性の観点から、水溶性光重合開始剤(c-1)に加えて25℃の水への溶解度が10g/L未満である非水溶性光重合開始剤(c-2)(以下、非水溶性光重合開始剤(c-2)と称することがある。)を含むことが好ましい。本発明に用いられる非水溶性光重合開始剤(c-2)は、公知の光重合開始剤を使用することができる。非水溶性光重合開始剤(c-2)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
非水溶性光重合開始剤(c-2)としては、水溶性光重合開始剤(c-1)以外の(ビス)アシルホスフィンオキシド類、チオキサントン類、ケタール類、α-ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物、α-アミノケトン系化合物などが挙げられる。
前記(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、アシルホスフィンオキシド類としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。ビスアシルホスフィンオキシド類としては、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,5,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシドなどが挙げられる。
前記チオキサントン類としては、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサンテン-9-オンなどが挙げられる。
前記ケタール類としては、例えば、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどが挙げられる。
前記α-ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ベンジル、dl-カンファーキノン、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナントレンキノン、4,4’-オキシベンジル、アセナフテンキノンなどが挙げられる。この中でも、可視光域に極大吸収波長を有している観点から、dl-カンファーキノンが特に好ましい。
前記クマリン類としては、例えば、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-チエノイルクマリン、3-ベンゾイル-5,7-ジメトキシクマリン、3-ベンゾイル-7-メトキシクマリン、3-
ベンゾイル-6-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-8-メトキシクマリン、3-ベンゾイルクマリン、7-メトキシ-3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3,5-カルボニルビス(7-メトキシクマリン)、3-ベンゾイル-6-ブロモクマリン、3,3’-カルボニルビスクマリン、3-ベンゾイル-7-ジメチルアミノクマリン、3-ベンゾイルベンゾ[f]クマリン、3-カルボキシクマリン、3-カルボキシ-7-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-6-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-8-メトキシクマリン、3-アセチルベンゾ[f]クマリン、3-ベンゾイル-6-ニトロクマリン、3-ベンゾイル-7-ジエチルアミノクマリン、7-ジメチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-ジエチルアミノ)クマリン、7-メトキシ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-(4-ニトロベンゾイル)ベンゾ[f]クマリン、3-(4-エトキシシンナモイル)-7-メトキシクマリン、3-(4-ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3-(4-ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3-[(3-ジメチルベンゾチアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3-[(1-メチルナフト[1,2-d]チアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3,3’-カルボニルビス(6-メトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-アセトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-ジメチルアミノクマリン)、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジブチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾイミダゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジオクチルアミノ)クマリン、3-アセチル-7-(ジメチルアミノ)クマリン、3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)、3,3’-カルボニル-7-ジエチルアミノクマリン-7’-ビス(ブトキシエチル)アミノクマリン、10-[3-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1-オキソ-2-プロペニル]-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オン、10-(2-ベンゾチアゾリル)-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オンなどの特開平9-3109号公報、特開平10-245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。
上述のクマリン類の中でも、特に、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)及び3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)が好適である。
前記アントラキノン類としては、例えば、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノンなどが挙げられる。
前記ベンゾインアルキルエーテル化合物としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられる。
前記α-アミノケトン系化合物としては、例えば、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オンなどが挙げられる。
これらの非水溶性光重合開始剤(c-2)の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、α-ジケトン類、及びクマリン類からなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化
性を示す自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)が得られる。
非水溶性光重合開始剤(c-2)の含有量は特に限定されないが、得られる自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の組成物の硬化性などの観点から、本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における単量体の総量100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.05~7質量部がより好ましく、0.1~5質量部がさらに好ましい。なお、非水溶性光重合開始剤(c-2)の含有量が前記上限値以下であることで、非水溶性光重合開始剤(c-2)自体の重合性能が低い場合においても、十分な接着強さが得られやすく、さらには自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)からの重合開始剤(c-1b)自体の析出を抑制できる。
水溶性光重合開始剤(c-1)と非水溶性光重合開始剤(c-2)を併用する場合、本発明における水溶性光重合開始剤(c-1)と非水溶性光重合開始剤(c-2)の質量比〔(c-1):(c-2)〕は、好ましくは10:1~1:10であり、より好ましくは7:1~1:7であり、さらに好ましくは5:1~1:5であり、特に好ましくは3:1~1:3である。水溶性光重合開始剤(c-1)が質量比10:1より多く含有されると、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)自体の硬化性が低下し、2液型歯科用ボンディング材(Y)と組み合わせて使用した際に歯質に対する接着性、窩洞封鎖性、及びこれらの耐久性等の本発明の効果を発現させることが困難になる場合がある。一方、非水溶性光重合開始剤(c-2)が質量比1:10より多く含有されると、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)自体の硬化性は高められるものの接着界面部の重合促進が不十分になり、高い接着性を発現させることが困難になる場合がある。
・化学重合開始剤
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、さらに化学重合開始剤を含有することができる。化学重合開始剤としては、有機過酸化物、無機過酸化物が挙げられ、有機過酸化物が好ましく用いられる。上記の化学重合開始剤に使用される有機過酸化物は特に限定されず、公知のものを使用することができる。代表的な有機過酸化物としては、例えば、ケトンペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシエステル、ペルオキシジカーボネートなどが挙げられる。これらの有機過酸化物の具体例としては、国際公開第2008/087977号に記載のものが挙げられる。化学重合開始剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。無機過酸化物としては、ペルオキソ二硫酸塩及びペルオキソ二リン酸塩などが挙げられ、これらの中でも、硬化性の点で、ペルオキソ二硫酸塩が好ましい。
<フィラー(d)>
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、ハンドリング性を調整するために、また硬化物の機械的強度(曲げ弾性率等)を高めるために、フィラー(d)を含む。フィラー(d)としては、無機フィラー、有機無機複合フィラー、有機フィラー等が挙げられる。フィラー(d)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
無機フィラーの素材としては、石英、シリカ;カオリン、クレー、雲母、マイカなどのシリカを基材とする鉱物;アルミナ、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-ジルコニア、シリカ-アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、亜鉛ガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケ
ートガラス、酸化イッテルビウム、酸化イットリウム、ジルコニア、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、シリカコートフッ化イッテルビウムなどが挙げられる。これらもまた、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることができる。これらの中でも、得られる自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の機械的強度、透明性が優れる点で、石英、シリカ、シリカ-ジルコニア、バリウムガラス、酸化イッテルビウム、シリカコートフッ化イッテルビウムが好ましく用いられ、より好ましくは石英、シリカ、シリカ-ジルコニア、バリウムガラス、シリカコートフッ化イッテルビウムが用いられる。得られる自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)のハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記無機フィラーの平均粒子径は0.001~50μmであることが好ましく、0.001~10μmであることがより好ましい。なお、本発明において、無機フィラーに、後記するように表面処理をした場合は、無機フィラーの平均粒子径は、表面処理前の平均粒子径を意味する。ある好適な実施形態としては、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)のフィラー(d)が無機フィラーを含む、歯科用充填キットが挙げられる。市販品としては、「アエロジル(登録商標)OX50」、「アエロジル(登録商標)50」、「アエロジル(登録商標)200」、「アエロジル(登録商標)380」、「アエロジル(登録商標)R972」、「アエロジル(登録商標)130」(以上、いずれも日本アエロジル株式会社製、商品名)が挙げられる。
無機フィラーの形状としては、特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができ、例えば、不定形フィラー及び球状フィラーが挙げられる。自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の硬化物の機械的強度を向上させる観点からは、前記無機フィラーとして球状フィラーを用いることが好ましい。本発明に用いられる球状フィラーとは、電子顕微鏡でフィラーの写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子が丸みをおびており、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で割った平均均斉度が0.6以上であるフィラーである。前記球状フィラーの平均粒子径は好ましくは0.05~5μmである。平均粒子径が0.05μm未満の場合、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)中の球状フィラーの充填率が低下し、機械的強度が低くなるおそれがある。一方、平均粒子径が5μmを超える場合、前記球状フィラーの表面積が低下し、高い機械的強度を有する自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の硬化物が得られないおそれがある。
前記無機フィラーは、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の流動性を調整するため、必要に応じて、シランカップリング剤などの公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。シランカップリング剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。シランカップリング剤としては、公知のものが制限なく使用できる。シランカップリング剤としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(β-メトキエトキシ)シラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリエトキシシラン、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリエトキシシラン、κ-メタクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、κ-メタクリロイルオキシデシルトリエトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、(γ-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン等が挙げられる。
表面処理の方法としては、公知の方法を特に限定されずに用いることができ、例えば、無機フィラーを激しく撹拌しながら上記表面処理剤をスプレー添加する方法、適当な溶媒へ無機フィラーと上記表面処理剤とを分散又は溶解させた後、溶媒を除去する方法、或い
は水溶液中で上記表面処理剤のアルコキシ基を酸触媒により加水分解してシラノール基へ変換し、該水溶液中で無機フィラー表面に付着させた後、水を除去する方法などがあり、いずれの方法においても、通常50~150℃の範囲で加熱することにより、無機フィラー表面と上記表面処理剤との反応を完結させ、表面処理を行うことができる。なお、表面処理量は特に制限されず、例えば、処理前の無機フィラー100質量部に対して、表面処理剤を1~10質量部用いることができる。
本発明で用いられる有機無機複合フィラーとは、上述の無機フィラーに単量体を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものである。前記有機無機複合フィラーとしては、例えば、TMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)などを用いることができる。前記有機無機複合フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる組成物のハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記有機無機複合フィラーの平均粒子径は、0.001~50μmであることが好ましく、0.001~10μmであることがより好ましい。
有機フィラーの素材としては、例えばポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル-メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体などが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いることができる。有機フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。得られる自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)のハンドリング性及び機械的強度などの観点から、前記有機フィラーの平均粒子径は、0.001~50μmであることが好ましく、0.001~10μmであることがより好ましい。
なお、本明細書において、フィラーの平均粒子径は、レーザー回折散乱法や粒子の電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、0.1μm以上の粒子の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が、0.1μm未満の超微粒子の粒子径測定には電子顕微鏡観察が簡便である。0.1μmはレーザー回折散乱法により測定した値である。本明細書においてフィラーの平均粒子径とは、フィラーの一次粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)を意味する。
レーザー回折散乱法は、具体的に例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2300:株式会社島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて体積基準で測定することができる。
電子顕微鏡観察は、具体的に例えば、粒子の電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、S-4000型)写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View(株式会社マウンテック製))を用いて測定することにより求めることができる。このとき、粒子径は、粒子の最長の長さと最短の長さの算術平均値として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均一次粒子径が算出される。
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、異なった材質、粒度分布、形態を持つ2種以上のフィラーを、混合又は組み合わせて用いることが好ましい。2種以上のフィラーを組み合わせることにより、フィラーが密に充填されるとともに、フィラーと単量体、もしくはフィラー同士の相互作用点が増える。また、フィラーの種類により、剪
断力の有無によるペーストの流動性をコントロール可能となる。中でも、本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)のハンドリング性とペースト性状の観点から、前記フィラー(d)が、平均粒子径1nm以上0.1μm未満のフィラー(d-1)と、平均粒子径0.1μm以上1μm以下のフィラー(d-2)との組み合わせ(I)、平均粒子
径1nm以上0.1μm未満のフィラー(d-1)と、平均粒子径1μm超10μm以下のフィラー(d-3)との組み合わせ(II)、平均粒子径1nm以上0.1μm未満のフィラー(d-1)と、平均粒子径0.1μm以上1μm以下のフィラー(d-2)、平均粒子径1μm超10μm以下のフィラー(d-3)との組み合わせ(III)、及び平均粒
子径0.1μm以上1μm以下のフィラー(d-2)同士の組み合わせ(IV)が好ましく、これらの組み合わせの中でも、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)のペースト性状の観点から、(I)、(II)、(III)がより好ましく、(I)、(II)がさらに好
ましい。平均粒子径0.1μm以上1μm以下のフィラー(d-2)同士の組み合わせ(IV)とは、平均粒子径が異なる2種の0.1μm以上1μm以下のフィラー(d-2)を含む実施形態を意味する。なお、上記組み合わせであれば、各粒子径のフィラー(d)に異なる種類のフィラーが含まれていてもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲内で、意図せずに、フィラー以外の粒子が不純物として含まれていてもよい。
フィラー(d)の含有量は特に限定されないが、硬化物の機械的強度と歯質への接着性の観点から、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の総量100質量部において、50質量部以上であることが好ましく、50~90質量部であることがより好ましく、55~85質量部であることがさらに好ましく、60~80質量部であることが特に好ましい。
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の製造方法は、酸性基を有する単量体(a)、酸性基を有しない単量体(b)、及び光重合開始剤(c)、さらに必要に応じてフィラー(d)を含むものであれば、特に限定はなく、当業者に公知の方法により、容易に製造することができる。
<化学重合促進剤(e)>
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、非水溶性光重合開始剤(c-2)及び/又は後述する化学重合開始剤とともに化学重合促進剤(e)を用いることができる。自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)に用いられる化学重合促進剤(e)としては、例えば、アミン類、スルフィン酸及びその塩、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、硫黄を有する還元性無機化合物、チオ尿素化合物、アルデヒド類、チオール化合物、ボレート化合物、バルビツール酸化合物、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、第4周期の遷移金属化合物(銅化合物を除く)、第4周期の遷移金属化合物以外のその他の遷移金属化合物などが挙げられ、アミン類、スルフィン酸及びその塩、硫黄を有する還元性無機化合物、チオ尿素化合物、アルデヒド類、チオール化合物、ボレート化合物、バルビツール酸化合物、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物が好ましい。化学重合促進剤(e)は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
化学重合促進剤(e)として用いられるアミン類は、脂肪族アミン及び芳香族アミンに分けられる。脂肪族アミンとしては、例えば、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミンなどの第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N-メチルエタノールアミンなどの第2級脂肪族アミン;N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエ
タノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの第3級脂肪族アミンなどが挙げられる。これらの中でも、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の硬化性及び保存安定性の観点から、第3級脂肪族アミンが好ましく、その中でもN-メチルジエタノールアミン及びトリエタノールアミンがより好ましく用いられる。
また、芳香族アミンとしては、例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジイソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸メチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸プロピル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸ブチルなどが挙げられる。これらの中でも、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)に優れた硬化性を付与できる観点から、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル及び4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
スルフィン酸及びその塩としては、ベンゼンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸、o-トルエンスルフィン酸、エチルベンゼンスルフィン酸、デシルベンゼンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸(ナトリウム塩は以下、「TPBSS」と略称することがある)、クロルベンゼンスルフィン酸、ナフタリンスルフィン酸などの芳香族スルフィン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、鉄塩、亜鉛塩、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩が挙げられる。これらの中でも、組成物の硬化性及び保存安定性の点で、p-トルエンスルフィン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸及び2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩が好ましく、p-トルエンスルフィン酸、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩がより好ましい。
ベンゾトリアゾール化合物及び/又はベンゾイミダゾール化合物としては、それぞれ下記一般式(4)で表される化合物及び一般式(5)で表される化合物等が挙げられる。
Figure 2023095554000005
Figure 2023095554000006
上記一般式(4)及び(5)において、A1~A8はそれぞれ独立して、水素原子、水酸基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニル基、アラルキル基、又はハロゲン原子を表す。
1~A8で表されるアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、炭素数が1~10のものが好ましい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基、シクロヘプタニル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、シクロオクチル基、n-ノニル基、シクロノニル基、n-デシル基などが挙げられる。これらの中でも特にメチル基、エチル基が好ましい。
1~A8で表されるアリール基は、炭素数が6~14のものが好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基などが挙げられる。
1~A8で表されるアルコキシ基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、炭素数が1~8のものが好ましい。具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、n-オクチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基などが挙げられる。
1~A8で表されるアルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状、及び環状のいずれであってもよく、炭素数が1~6のものが好ましい。具体例としては、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基などが挙げられる。
1~A8で表されるアラルキル基の例としては、アリール基(特に、炭素数6~10のアリール基)で置換されたアルキル基(特に、炭素数1~10のアルキル基)が挙げられ、具体的にはベンジル基などが挙げられる。
1~A8で表されるハロゲン原子の例としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など
が挙げられる。
1~A8としては、水素原子、又はメチル基が好ましい。
ベンゾトリアゾール化合物及びベンゾイミダゾール化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ベンゾトリアゾール化合物及びベンゾイミダゾール化合物の具体例としては、1H-ベンゾトリアゾール(以下、「BTA」と略称することがある)、5-メチル-1H-ベンゾトリアゾール、5,6-ジメチル-1H-ベンゾトリアゾール、ベンゾイミダゾール、5-メチルベンゾイミダゾール、5,6-ジメチルベンゾイミダゾールなどが挙げられる。これらの中でも、組成物の色調や保存安定性の点で、1H-ベンゾトリアゾール、5-メチル-1H-ベンゾトリアゾールが好ましい。
硫黄を有する還元性無機化合物としては、亜硫酸塩、重亜硫酸塩(亜硫酸水素塩)、ピロ亜硫酸塩、チオ硫酸塩、チオン酸塩、亜ジチオン酸塩などが挙げられる。これらの中でも亜硫酸塩、重亜硫酸塩が好ましく、具体例としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムなどが挙げられる。硫黄を有する還元性無機化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
チオ尿素化合物としては、1-(2-ピリジル)-2-チオ尿素、チオ尿素、メチルチオ尿素、エチルチオ尿素、エチレンチオ尿素、4,4-ジメチルエチレンチオ尿素、N,N’-ジメチルチオ尿素、N,N’-ジエチルチオ尿素、N,N’-ジ-N-プロピルチオ尿素、ジシクロヘキシルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、トリエチルチオ尿素、トリシクロヘキシルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラn-プロピルチオ尿素、ジシクロヘキシルチオ尿素、テトラシクロヘキシルチオ尿素、N-アセチルチオ尿素,N-ベンゾイルチオ尿素,ジフェニルチオ尿素、ピリジルチオ尿素などが挙げられ、これらの中でも4,4-ジメチルエチレンチオ尿素、ピリジルチオ尿素、N-ベンゾイルチオ尿素が好ましい。
アルデヒド類としては、例えば、テレフタルアルデヒド、ベンズアルデヒド誘導体などが挙げられる。ベンズアルデヒド誘導体としては、ジメチルアミノベンズアルデヒド、p-メトキシベンズアルデヒド、p-エトキシベンズアルデヒド、p-n-オクチルオキシベンズアルデヒドなどが挙げられる。これらの中でも、歯質への接着性の観点から、p-n-オクチルオキシベンズアルデヒドが好ましい。
チオール化合物としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトベンゾオキサゾール、2-メルカプトベンゾイミダゾール、デカンチオール、チオ安息香酸などが挙げられる。
ボレート化合物、バルビツール酸化合物、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、及びハロゲン化合物の具体例としては、国際公開第2008/087977号に記載のものが挙げられる。
前記ボレート化合物としては、アリールボレート化合物が好ましい。当該アリールボレート化合物としては、例えば、1分子中に1~4個のアリール基を有するボレート化合物などが挙げられる。
1分子中に1個のアリール基を有するボレート化合物としては、例えば、トリアルキル
フェニルホウ素、トリアルキル(p-クロロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-フルオロフェニル)ホウ素、トリアルキル[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ素、トリアルキル[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、トリアルキル(p-ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(m-ニトロフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(m-ブチルフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、トリアルキル(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素(上記各例示におけるアルキル基はn-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基等である)、これらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等)などが挙げられる。
1分子中に2個のアリール基を有するボレート化合物としては、例えば、ジアルキルジフェニルホウ素、ジアルキルジ(p-クロロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-フルオロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ素、ジアルキルジ[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、ジアルキルジ(p-ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m-ニトロフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m-ブチルフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、ジアルキルジ(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素(上記各例示におけるアルキル基はn-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基等である)、これらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等)などが挙げられる。
1分子中に3個のアリール基を有するボレート化合物としては、例えば、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリ(p-クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-フルオロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ素、モノアルキルトリ[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、モノアルキルトリ(p-ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m-ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m-ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素(上記各例示におけるアルキル基はn-ブチル基、n-オクチル基、n-ドデシル基等である)、これらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等)などが挙げられる。
1分子中に4個のアリール基を有するボレート化合物としては、例えば、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p-クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p-フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ素、テトラキス[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p-ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(
m-ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p-ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p-ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m-ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p-オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m-オクチルオキシフェニル)ホウ素、(p-フルオロフェニル)トリフェニルホウ素、[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]トリフェニルホウ素、(p-ニトロフェニル)トリフェニルホウ素、(m-ブチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(p-ブチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(m-オクチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、(p-オクチルオキシフェニル)トリフェニルホウ素、これらの塩(ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等)などが挙げられる。
アリールボレート化合物の中でも、保存安定性の観点から、1分子中に3個又は4個のアリール基を有するボレート化合物が好ましい。なお、アリールボレート化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記バルビツール酸化合物としては、例えば、バルビツール酸、1,3-ジメチルバルビツール酸、1,3-ジフェニルバルビツール酸、1,5-ジメチルバルビツール酸、5-ブチルバルビツール酸、5-エチルバルビツール酸、5-イソプロピルバルビツール酸、5-シクロヘキシルバルビツール酸、1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-エチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-n-ブチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-イソブチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-シクロペンチルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-シクロヘキシルバルビツール酸、1,3-ジメチル-5-フェニルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-1-エチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸、5-メチルバルビツール酸、5-プロピルバルビツール酸、1,5-ジエチルバルビツール酸、1-エチル-5-メチルバルビツール酸、1-エチル-5-イソブチルバルビツール酸、1,3-ジエチル-5-ブチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-メチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-オクチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-ヘキシルバルビツール酸、5-ブチル-1-シクロヘキシルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸、チオバルビツール酸類、これらの塩などが挙げられる。これらのバルビツール酸化合物の塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩(マグネシウム塩を含む)などが挙げられ、より具体的には、5-ブチルバルビツール酸ナトリウム、1,3,5-トリメチルバルビツール酸ナトリウム、1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツール酸ナトリウムなどが挙げられる。
特に好適なバルビツール酸化合物は、5-ブチルバルビツール酸、1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸、これらのナトリウム塩である。
前記トリアジン化合物としては、例えば、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2,4,6-トリス(トリブロモメチル)-s-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリブロモメチル)-s-トリアジン、2-フェニル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-メチルチオフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-クロロフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2,4-ジクロロフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメ
チル)-s-トリアジン、2-(p-ブロモフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-トリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-n-プロピル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(α,α,β-トリクロロエチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-スチリル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(p-メトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(o-メトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(p-ブトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(3,4-ジメトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(3,4,5-トリメトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(1-ナフチル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-ビフェニリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N-ヒドロキシエチル-N-エチルアミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N-ヒドロキシエチル-N-メチルアミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-{N,N-ジアリルアミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジンなどが挙げられる。
これらのトリアジン化合物の中でも、重合活性の点では、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-s-トリアジンが好ましく、また保存安定性の点では、2-フェニル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(p-クロロフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-ビフェニリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジンが好ましい。なお、トリアジン化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記銅化合物としては、例えば、ラジカル重合性単量体に可溶な化合物が好ましい。銅化合物としては、一価又は二価の銅化合物が用いられ、二価の銅化合物がより好ましい。一価の銅化合物としては、例えば、酢酸銅(I)、イソ酪酸銅(I)、クエン酸銅(I)、フタル酸銅(I)、オクチル酸銅(I)、オクテン酸銅(I)、ナフテン酸銅(I)、メタクリル酸銅(I)などが挙げられる。二価の銅化合物としては、例えば、カルボン酸銅(II)、β-ジケトン銅(II)、β-ケトエステル銅(II)、銅アルコキシド、ジチオカルバミン酸銅、銅と無機酸の塩等が挙げられる。カルボン酸銅(II)としては、クエン酸銅(II)、酢酸銅(II)、フタル酸銅(II)、酒石酸銅(II)、オレイン酸銅(II)、オクチル酸銅(II)、オクテン酸銅(II)、ナフテン酸銅(II)、メタクリル酸銅(II)、4-シクロヘキシル酪酸銅(II)等が挙げられる。β-ジケトン銅(II)としては、アセチルアセトン銅(II)、トリフルオロアセチルアセトン銅(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトン銅(II)、2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト銅(II)、ベンゾイルアセトン銅(II)等が挙げられる。β-ケトエステル銅(II)としては、アセト酢酸エチル銅(II)等が挙げられる。銅アルコキシドとしては、銅(II)メトキシド、銅(II)エトキシド、銅(II)イソプロポキシド、銅(II)2-(2-ブトキシエトキシ)エトキシド、銅(II)2-(2-メトキシエトキシ)エトキシド等が挙げられる。ジチオカルバミン酸銅としては、ジメチルジチオカルバミン酸銅(II)等が挙げられる。銅と無機酸の塩としては、硝酸銅(II)、臭化銅(II)及び塩化銅(II)が挙げられる。銅化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの内でも、ラジカル重合性単量体に対する溶解性と反応性の観点から、カルボン酸銅(II)、β-ジケトン銅(II)、β-ケトエステル銅(II)がさらに好ましく、酢酸銅(II)、アセチルアセトン銅(II)が特に好ましい。
前記スズ化合物としては、例えば、ジ-n-ブチル錫ジマレエート、ジ-n-オクチル錫ジマレエート、ジ-n-オクチル錫ジラウレート、ジ-n-ブチル錫ジラウレートなどが挙げられる。これらの中でも、ジ-n-オクチル錫ジラウレート、ジ-n-ブチル錫ジラウレートが好ましい。
バナジウム化合物としては、三価、四価又は五価のバナジウム化合物が用いられ、四価又は五価のバナジウム化合物が好ましい。バナジウム化合物の具体例としては、例えば、バナジウム(IV)アセチルアセトネート、バナジウム(V)アセチルアセトネート、バナジ
ルアセチルアセトネート(バナジウム(IV)オキシアセチルアセトナート)、バナジル(IV)ステアレート、バナジウム(III)ナフテネート、バナジウム(III)ベンゾイルアセトネート、バナジル(IV)ベンゾイルアセトネート、しゅう酸オキソバナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、オキソビス(1-フェニル-1,3-ブタンジオネート)バナジウム(IV)、バナジウム(V)オキシトリイソプロポキシド、メタバナジン酸アンモン(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、五酸化バナジウム(V)、四酸化二バナジウム(IV)及び硫酸バナジル(IV)等が挙げられる。その中でも溶媒(C)への溶解性等の観点から、バナジウム(IV)アセチルアセトネート、バナジウム(V)アセチルアセトネート、バナジルアセチルアセトネート、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)が好ましく、バナジルアセチルアセトネート及びビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)がより好ましい。
前記ハロゲン化合物としては、例えば、ジラウリルジメチルアンモニウムクロリド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルセチルアンモニウムクロリド、ジラウリルジメチルアンモニウムブロミドなどが挙げられる。
第4周期の遷移金属化合物としては、例えば、スカンジウムイソプロポキシド、鉄(III)エトキシド、チタニウムメトキシド、チタニウムエトキシド、チタニウムイソプロポ
キシド、チタニウムブトキシド、チタニウムヒドロキシド等の化合物が挙げられる。
第4周期の遷移金属化合物以外のその他の遷移金属化合物としては、例えば、炭酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、ストロンチウムエトキシド、スズ(II)メトキシド、インジウムエトキシド、イットリウムイソプロポキシド、ランタンメトキシド、ランタンエトキシド、ランタンイソプロポキシド、ランタンブトキシド、ランタンヒドロキシド、炭酸ランタン、フッ化ランタン、セリウムイソプロポキシド、プラセオジムイソプロポキシド、プロメチウムイソプロポキシド、ネオジウムイソプロポキシド、サマリウムイソプロポキシド、ユーロピウムイソプロポキシド、ガドリニウムイソプロポキシド、テルビウムエトキシド、テルビウムメトキシド、ジスプロシウムイソプロポキシド、ホルミウムイソプロポキシド、エルビウムイソプロポキシド、ツリウムイソプロポキシド、イッテルビウムイソプロポキシド、アクチニウムエトキシド、フッ化チタニウム、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、タングステン(IV)メトキシド、タングステン(IV)イソプロポキシド、タングステン(IV)ブトキシド等が挙げられる。
本発明に用いられる化学重合促進剤(e)の含有量は特に限定されないが、得られる歯科用充填キットの硬化性などの観点からは、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における単量体の総量100質量部に対して、0.001~30質量部が好ましく、0.01~10質量部がより好ましく、0.1~5質量部がさらに好ましい。化学重
合促進剤(e)の含有量が前記下限値以上である場合、重合が十分に進行し、十分な接着性を得られやすく、より好適には0.05質量部以上である。一方、化学重合促進剤(e)の含有量が前記上限値以下である場合、十分な接着性が得られやすく、さらには自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)からの化学重合促進剤(e)自体の析出を抑制できるため、より好適には20質量部以下である。
<フッ素イオン放出性物質>
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、さらにフッ素イオン放出性物質を含有してもよい。フッ素イオン放出性物質を含有することによって、歯質に耐酸性を付与することができる自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)が得られる。フッ素イオン放出性物質としては、例えば、メタクリル酸メチルとメタクリル酸フルオライドとの共重合体などのフッ素イオン放出性ポリマー;フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウムなどの金属フッ化物類;フルオロアルミノシリケートガラスなどが挙げられる。フッ素イオン放出性物質は1種を単独で含有してもよく、2種以上を組み合わせて含有してもよい。
また、本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)には、性能を低下させない範囲内で、公知の添加剤を含有することができる。かかる添加剤としては、重合禁止剤、酸化防止剤、着色剤(顔料、染料)、紫外線吸収剤、有機溶媒等の溶媒、増粘剤等が挙げられる。添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ある実施形態では、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における溶媒(例えば、水、有機溶媒)の含有量が自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の総量に基づいて、1質量%未満であることが好ましく、0.1質量%未満であることがより好ましく、0.01質量%未満であることがさらに好ましい。
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノンモノメチルエーテル、t-ブチルカテコール、2-t-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン等が挙げられる。重合禁止剤の含有量は、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の単量体の総量100質量部に対して0.001~1.0質量部が好ましい。
自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の組成割合の一例を示す。自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)における単量体の総量を100質量部とした場合、酸性基を有する単量体(a)を1~40質量部、酸性基を有しない単量体(b)を60~99質量部含み、単量体の総量100質量部に対して、光重合開始剤(c)を0.05~10質量部、フィラー(d)を100~900質量部、化学重合促進剤(e)0.001~30質量部を含むことが好ましく、単量体の総量100質量部において、酸性基を有する単量体(a)を2.5~35質量部、酸性基を有しない単量体(b)を65~97.5質量部含み、単量体の総量100質量部に対して、光重合開始剤(c)を0.1~5質量部、フィラー(d)を120~560質量部、化学重合促進剤(e)0.01~10質量部含むことがより好ましく、単量体の総量100質量部において、酸性基を有する単量体(a)を5~30質量部、酸性基を有しない単量体(b)を70~95質量部含み、単量体の総量100質量部に対して、光重合開始剤(c)を0.15~2.5質量部、フィラー(d)を150~400質量部、化学重合促進剤(e)を0.1~5質量部含むことがさらに好ましい。
また、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)において、単量体の総量は10~50質量%が好ましく、15~45質量%がより好ましく、20~40質量%がさらに好ましい。自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)におけるフィラー(d)の含有量は、50~90質量%が好ましく、55~85質量%がより好ましく、60~80質量%がさ
らに好ましい。
本発明の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、操作性の観点から、全ての成分が予め混合された1材型(1ペースト型)であることが好ましい。自己接着性歯科用コンポジットレジンが2材型である場合、適用すると、2材を使用直前に混和して用いる必要があり、気泡が混入するおそれがあり、自己接着性歯科用コンポジットレジンの硬化物の特性にも影響するおそれがある。そのため、本発明では、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)が1材型であることにより、2材を混和する必要がなく、そのまま使用することができ、操作性に優れ、気泡が混入するおそれがなく、組成物ペーストの廃棄ロスも抑制できる。本発明の1材型の自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)は、円筒状のシリンジ容器に充填されて使用することがより好ましい。シリンジ容器の円筒部の大きさは、長さ10cm、かつ内径15mm以下が好ましく、長さ7.5cm、かつ内径10mm以下がより好ましい。又はハンドリング性を向上させるためにシリンジの先端にノズルを装着して使用することができる。ノズルの大きさは長さ25mm、かつ開口部の内径1.5mm以下が好ましく、長さ20mm、かつ開口部の内径0.75mm以下がより好ましい。
〔2液型歯科用ボンディング材(Y)〕
本発明の2液型歯科用ボンディング材(Y)は、第1剤と第2剤とを含み、第1剤は酸性基を有する単量体(f)を含む。第1剤及び第2剤の少なくとも一方が化学重合促進剤(h)を含む。さらに、第1剤及び第2剤の少なくとも一方が水(i)を含む。
歯科用ボンディング材(Y)は化学重合開始剤と還元剤(化学重合促進剤(h))によるレドックス反応を起こす場合と、化学重合促進剤(h)が酸性条件下で硬化する場合がある。例えば、化学重合促進剤(h)がアリールボレート化合物である場合、アリールボレート化合物はまず、アリールボレート化合物が酸性化合物の作用により分解しアリールボラン化合物を形成し、次いで、このアリールボラン化合物が雰囲気中に存在する酸素により酸化されて重合活性種のラジカルを生成する機構である。さらに、このラジカル生成機構にさらに過酸化物が加わると、上記アリールボラン化合物は該過酸化物によっても活発に酸化されるため、ラジカルの生成は、より活性化されると推測される。歯質への接着性の観点から、化学重合開始剤と還元剤(化学重合促進剤(h))によるレドックス反応を起こす場合が好ましい。
歯科用ボンディング材(Y)は水(i)を含むことから、使用後にエアブローで水(i)を揮発させることが好ましい。
<単量体>
本発明の2液型歯科用ボンディング材(Y)に用いられる単量体には、ラジカル重合性単量体が好適に用いられる。単量体におけるラジカル重合性単量体の具体例としては、(メタ)アクリレート系重合性単量体、(メタ)アクリルアミド系重合性単量体、α-シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α-ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等のエステル類、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ-N-ビニル誘導体、スチレン誘導体等が挙げられる。これらの中でも、硬化性の観点から(メタ)アクリレート系重合性単量体、(メタ)アクリルアミド系重合性単量体が好ましい。さらに、歯質に対する接着性、窩洞封鎖性、及びこれらの耐久性の観点から、本発明の2液型歯科用ボンディング材(Y)において、単量体は、酸性基を有する単量体(f)を含むことが必要である。2液型歯科用ボンディング材(Y)は、酸性基を有しない単量体(g)をさらに含むものが好ましい。
<酸性基を有する単量体(f)>
酸性基を有する単量体(f)は、主に、歯質(象牙質、エナメル質)、に対する接着性
を向上できる。本発明に用いられる酸性基を有する単量体(f)としては、一例として、酸性基を有する単量体(a)と同様のものが挙げられ、後記する下記一般式(6)で示される酸性基を有する単量体、下記一般式(7)で示される酸性基を有する単量体も挙げられる。酸性基を有する単量体(f)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。酸性基を有する単量体(f)の中でも、2液型歯科用ボンディング材(Y)として用いた場合に歯質に対する接着性、窩洞封鎖性、及びこれらの耐久性が良好である観点から、リン酸基を有する単量体又はカルボン酸基を有する単量体を含むことが好ましく、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、及び、2-メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物がより好ましく、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェートがさらに好ましく、硬化性とのバランスの観点から、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートが特に好ましい。
本発明の2液型歯科用ボンディング材(Y)における酸性基を有する単量体(f)の含有量は、歯質に対する接着性、窩洞封鎖性、及びこれらの耐久性の観点から、単量体の総量100質量部において、1~30質量部であることが好ましく、2.5~27.5質量部であることがより好ましく、5~25質量部であることがさらに好ましい。2液型歯科用ボンディング材(Y)における「単量体の総量」とは、第1剤及び第2剤に含まれる単量体の合計量を意味する。
本発明の2液型歯科用ボンディング材(Y)の他の実施形態は、酸性基を有する単量体(f)が、下記一般式(6)で示される酸性基を有する単量体、下記一般式(7)で示される酸性基を有する単量体を含むものが挙げられる。
一般式(6)で示される酸性基を有する単量体及び一般式(7)で示される酸性基を有する単量体の合計量に対する一般式(7)で示される酸性基を有する単量体の配合割合が、3質量%~40質量%であることが好ましい。
Figure 2023095554000007
〔一般式(6)中、RA11は、水素原子又はメチル基を表し、W1は、オキシカルボニル基(-COO-)、イミノカルボニル基(-CONH-)、又は、フェニレン基(-C64-)を表し、RA21は、(i)結合手、(ii)炭素数1~30である2~6価の炭化水
素基、又は(iii)炭素数1~30であり、エーテル結合及びエステル結合から選択される少なくとも一方の結合を含む2~6価の有機基を表し、X1は1価の酸性基を表す。
また、m1は、1~4の整数を表し、n1は1~6-m1の整数を表す。ここで、m1+n1はRA21の価数を表す。〕
Figure 2023095554000008
〔一般式(7)中、RA11及びRA12は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、W1及びW2は、それぞれ独立に、オキシカルボニル基(-COO-)、イミノカルボニル基(-CONH-)、又はフェニレン基(-C64-)を表し、RA21及びRA22は、それぞれ独立に、(i)結合手、(ii)炭素数1~30である2~6価の炭化水素基、又は、(iii)炭素数1~30であり、エーテル結合及びエステル結合から選択される少なくとも一方の結合を含む2~6価の有機基を表し、X1は1価の酸性基を表し、X2は2価の酸性基を表す。また、m1及びm2は、それぞれ独立に1~4の整数を表し、n1は1~6-m1の整数を表し、n2は1~6-m2の整数を表す。ここで、m1+n1はRA21の価数を表し、m2+n2はRA22の価数を表す。〕
1価の酸性基としては、酸性基を有する単量体(a)の酸性基として例示したものが挙げられる。2価の酸性基としては、リン酸二水素モノエステル基{-O-P(=O)(OH)2}、リン酸水素ジエステル基{-O-P(=O)(OH)-O-}等が挙げられる
。ある好適な実施形態としては、一般式(7)において、RA11及びRA12は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表し、W1及びW2は、それぞれ独立に、オキシカルボニル基(-COO-)、又はイミノカルボニル基(-CONH-)を表し、RA21及びRA22は、それぞれ独立に、(ii)炭素数1~10である2価の炭化水素基、又は、(iii)炭素数1~10であり、エーテル結合及びエステル結合から選択される少なくとも一方の結合を含む2価の有機基を表し、X2は、リン酸二水素モノエステル基{-O-P(=O
)(OH)2}又は、リン酸水素ジエステル基{-O-P(=O)(OH)-O-}を表
し、m1、m2、n1及びn2は、それぞれ1である化合物が挙げられる。一般式(6)で示される酸性基を有する単量体及び一般式(7)で示される酸性基を有する単量体の化合物の例としては、WO2018/034212号に開示された化合物が挙げられる。一般式(6)で示される酸性基を有する単量体及び一般式(7)で示される酸性基を有する単量体の具体例としては、ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート等が挙げられる。
・酸性基を有しない単量体(g)
本発明における酸性基を有しない単量体(g)としては、酸性基を有しない単量体(b
)と同様のものが挙げられる。酸性基を有しない単量体(g)としては、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(g-1);25℃の水に対する溶解度が10質量%未満である酸性基を有しない疎水性単量体(g-2)(以下、単に「疎水性単量体(g-2)」と称することがある);25℃の水に対する溶解度が10質量%以上である酸性基を有しない親水性単量体(g-3)(以下、単に「親水性単量体(g-3)」と称することがある)が挙げられる。酸性基を有しない単量体(g)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明において、酸性基を有さず、アクリルアミド基とメタクリロイルオキシ基とを含有する化合物を非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(g-1)とし、酸性基を有さず、かつ非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(g-2)に含まれない化合物を、親水性の程度に応じて、疎水性単量体(g-2)と、親水性単量体(g-3)と分ける。
・非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(g-1)
非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(g-1)は、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(b-1)と同様のものが挙げられる。非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(g-1)は、2液型歯科用ボンディング材(Y)の歯質に対する接着性などの特性を向上させることから、一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(g-1)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を併用してもよい。
非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(g-1)の含有量は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、本発明の2液型歯科用ボンディング材(Y)における単量体の総量100質量部において、1~60質量部が好ましく、2~45質量部がより好ましく、3~30質量部がさらに好ましく、5~25質量部が特に好ましい。
・酸性基を有しない疎水性単量体(g-2)
酸性基を有しない疎水性単量体(g-2)は、2液型歯科用ボンディング材(Y)のハンドリング性、硬化物の機械的強度などを向上させる。疎水性単量体(g-2)としては、酸性基を有さず重合性基を有するラジカル単量体が好ましく、ラジカル重合が容易である観点から、重合性基は(メタ)アクリル基及び/又は(メタ)アクリルアミド基が好ましい。疎水性単量体(g-2)とは、酸性基を有さず、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(g-1)に相当せず、かつ25℃の水に対する溶解度が10質量%未満の単量体を意味する。疎水性単量体(g-2)は、酸性基を有しない疎水性単量体(b-2)と同様のものが挙げられる。
疎水性単量体(g-2)の中でも、2液型歯科用ボンディング材(Y)(組成物)として用いた場合の歯質に対する接着性、窩洞封鎖性、及びこれらの耐久性が良好である観点から、Bis-GMA、D-2.6E、3G、UDMA、DDがより好ましく、D-2.6E、3G、Bis-GMAがさらに好ましい。疎水性単量体(g-2)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を併用してもよい。
疎水性単量体(g-2)の含有量が過多な場合は、2液型歯科用ボンディング材(Y)の歯質への濡れ性が低下して接着性が低下することがあり、同含有量が過少な場合は、硬化物の強度が不十分となるおそれがある。そこで、本発明の2液型歯科用ボンディング材(Y)における疎水性単量体(g-2)の含有量は、単量体の総量100質量部において、20~99質量部が好ましく、40~95質量部がより好ましく、60~95質量部がさらに好ましい。
・酸性基を有しない親水性単量体(g-3)
本発明の2液型歯科用ボンディング材(Y)としては、単量体が酸性基を有しない親水
性単量体(g-3)を含むことが好ましい。親水性単量体(g-3)は、2液型歯科用ボンディング材(Y)の歯質への濡れ性を向上させる。親水性単量体(g-3)としては、酸性基を有さず重合性基を有するラジカル単量体が好ましく、ラジカル重合が容易である観点から、重合性基は(メタ)アクリル基及び/又は(メタ)アクリルアミド基が好ましい。親水性単量体(g-3)とは、酸性基を有さず、非対称型アクリルアミド・メタクリル酸エステル化合物(g-1)に相当せず、かつ25℃の水に対する溶解度が10質量%以上のものを意味し、該溶解度が30質量%以上のものが好ましく、25℃において任意の割合で水に溶解可能なものがより好ましい。親水性単量体(g-3)としては、酸性基を有しない親水性単量体(b-3)と同様のものが挙げられる。
これらの親水性単量体(g-3)の中でも、歯質に対する接着性、窩洞封鎖性、及びこれらの耐久性の観点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、親水性の単官能性(メタ)アクリルアミド系単量体が好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド及びN,N-ジエチルアクリルアミドがより好ましい。親水性単量体(g-3)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の2液型歯科用ボンディング材(Y)における親水性単量体(g-3)の含有量が過少な場合には接着力の向上効果が十分に得られないおそれがあり、過多な場合には硬化物の機械的強度が低下することがある。そこで、本発明の2液型歯科用ボンディング材(Y)における親水性単量体(g-3)の含有量は、単量体の総量100質量部において、0~50質量部の範囲が好ましく、0~40質量部がより好ましく、0~30質量部がさらに好ましい。親水性単量体(g-3)の含有量は単量体の総量100質量部において、0質量部であってもよい。
酸性基を有しない単量体(g)の含有量は、単量体の総量100質量部において、50~99質量部が好ましく、60~97質量部がより好ましく、70~95質量部がさらに好ましい。また、歯質に対する接着性、窩洞封鎖性、及びこれらの耐久性の観点から、親水性単量体と疎水性単量体の質量比率は0:10~2:1であることが好ましく、0:10~1:1がより好ましく、0:10~1:2がさらに好ましい。
ある好適な実施形態としては、二官能性以上の(メタ)アクリルアミド系単量体を実質的に含まない、2液型歯科用ボンディング材(Y)が挙げられる。
<水(i)>
本発明の2液型歯科用ボンディング材(Y)は、水(i)を含む。水は、歯質の表面を脱灰して歯質に対する接着性を向上させるとともに、シランカップリング剤が存在する場合には、シランカップリング剤の存在下において、無機フィラーを含む補綴物(例えば、CAD/CAM用レジンブロックやコンポジットレジン、ジルコニア、アルミナ、二ケイ酸リチウムガラス、陶材等のセラミックス材料歯科用セラミックスなど)に対する接着性も向上させる機能を持つ。また、本実施形態の2液型歯科用ボンディング材(Y)では、被着体の表面に対して、第1剤と第2剤とを混合し、塗布することにより、上述した各成分と被着体との相互作用や、上述した各成分の相互作用による化学重合等が進行し、接着性が発揮される。水は、接着性に悪影響を及ぼす不純物を実質的に含有しないものを使用する必要があり、蒸留水又はイオン交換水が好ましい。水の含有量が過少な場合、脱灰作用促進効果が十分に得られないおそれがあり、過多な場合は接着性が低下することがある。さらには、シランカップリング剤の保存安定性が低下し、特にシリカ系酸化物の接着強度が低下する場合がある。そのため、水(i)の含有量は、歯科用ボンディング材(Y)の全質量に基づいて、1~50質量%の範囲が好ましく、2~50質量%の範囲がより好ましく、3~20質量%の範囲がさらに好ましい。「歯科用ボンディング材(Y)の全質
量」とは、第1剤及び第2剤の合計質量を意味する。
<化学重合促進剤(h)>
本発明の2液型歯科用ボンディング材(Y)は、歯質に対する接着性、窩洞封鎖性、及びこれらの耐久性の観点から、化学重合促進剤(h)を含む。化学重合促進剤(h)としては公知の化学重合促進剤を使用することができる。化学重合促進剤(h)は、化学重合促進剤(e)と同様のものが挙げられる。化学重合促進剤(h)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ある好適な実施形態としては、化学重合促進剤(h)が、アミン類、ボレート化合物、スルフィン酸及びその塩、チオ尿素化合物、銅化合物、チオール化合物並びにバナジウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、歯科用充填キットが挙げられる。他の好適な実施形態としては、化学重合促進剤(h)が、ボレート化合物を含む、歯科用充填キットが挙げられる。
本発明の2液型歯科用ボンディング材(Y)における化学重合促進剤(h)の含有量は、得られる2液型歯科用ボンディング材(Y)の歯質に対する接着性等の観点から、単量体の総量100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましい。また、化学重合促進剤(h)の含有量は、得られる2液型歯科用ボンディング材(Y)の歯質に対する接着性等の観点から、重合性単量体成分の総量100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
・有機溶媒
2液型歯科用ボンディング材(Y)は、第1剤及び第2剤の少なくとも一方が有機溶媒をさらに含んでいてもよい。本発明の歯科用ボンディング材(Y)が有機溶媒を含有する場合、接着性、塗布性、歯質への浸透性をより向上させることができ、組成物(ボンディング材)の各成分の分離をより防止することができる。有機溶媒としては、通常、常圧下における沸点が150℃以下であり、且つ25℃における水に対する溶解度が5質量%以上の、より好ましくは30質量%以上の、さらに好ましくは任意の割合で水に溶解可能な有機溶媒が使用される。
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類:テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;ヘキサン、トルエン、クロロホルム等の炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中でも、生体に対する安全性と、揮発性に基づく除去の容易さの双方を勘案した場合、有機溶媒が水溶性有機溶媒であることが好ましく、具体的には、エタノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、アセトン、及びテトラヒドロフランが好ましく、エタノール、2-プロパノール、アセトン、2-メチル-2-プロパノール及びテトラヒドロフランがより好ましい。前記有機溶媒の含有量は特に限定されず、実施形態によっては前記有機溶媒の配合を必要としないものもある。前記有機溶媒を用いる実施形態においては、有機溶媒の含有量は、歯科用ボンディング材(Y)の全質量に基づいて、1~85質量%の範囲が好ましく、10~80質量%の範囲がより好ましく、15~75質量%の範囲がさらに好ましい。
〔化学重合開始剤(j)〕
本発明の2液型歯科用ボンディング材(Y)は、歯科用ボンディング材(Y)のみで硬化できる点から、その実施形態によっては第1剤及び第2剤の少なくとも一方が化学重合開始剤(j)をさらに含むことが好ましい。化学重合開始剤(j)としては、有機過酸化
物、無機過酸化物が挙げられる。化学重合開始剤(j)は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。化学重合開始剤(j)は、第1剤又は第2剤のいずれが含有していてもよい。
ある実施形態としては、第1剤が化学重合開始剤(j)を含む、2液型歯科用ボンディング材(Y)が挙げられる。他の実施形態としては、第2剤が化学重合開始剤(j)を含む、2液型歯科用ボンディング材(Y)が挙げられる。
化学重合開始剤(j)としては、レドックス系重合開始剤の酸化剤が挙げられる。以下に説明する。
上記したように、ある好適な実施形態においては、2液型歯科用ボンディング材(Y)が化学重合開始剤(j)と、還元剤としての化学重合促進剤(h)とによるレドックス反応を行うレドックス系重合開始剤を備える。レドックス系重合開始剤の酸化剤として使用される化学重合開始剤(j)としては、有機過酸化物等が挙げられる。
2液型歯科用ボンディング材(Y)がレドックス系重合開始剤を備える場合、酸化剤と還元剤が別々に包装された包装形態をとり、使用する直前に両者を混合する必要がある。レドックス系重合開始剤の酸化剤として使用される化学重合開始剤(j)としては、有機過酸化物が挙げられる。有機過酸化物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記レドックス系重合開始剤を備える2液型歯科用ボンディング材(Y)において、レドックス系重合開始剤としては、酸化剤(化学重合開始剤(j))である有機過酸化物と、還元剤(化学重合促進剤(h))であるアミン化合物との組み合わせ;酸化剤である有機過酸化物、還元剤であるアミン化合物及びスルフィン酸塩との組み合わせ;又は、酸化剤である有機過酸化物、還元剤であるアミン化合物及びボレート化合物の組み合わせ等が挙げられる。
レドックス系重合開始剤の酸化剤として使用される前記有機過酸化物としては、公知の化合物が制限なく使用できる。有機過酸化物としては、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の化学重合開始剤と同様のものが挙げられる。有機過酸化物としては、例えば、ケトンペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシエステル、ペルオキシジカーボネート等が挙げられる。これらの有機過酸化物の具体例としては、国際公開第2008/087977号に記載のものが挙げられる。
ケトンペルオキシドとしては、メチルエチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、メチルシクロヘキサノンペルオキシド、メチルアセトアセテートペルオキシド、アセチルアセトンペルオキシド等が挙げられる。
ヒドロペルオキシドとしては、p-メンタンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t-ヘキシルヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシドが挙げられる。
ジアシルペルオキシドとしては、イソブチリルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、ステアリルペルオキシド、スクシニックアシッドペルオキシド、m-トルオイルベンゾイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド等が挙
げられる。
ジアルキルペルオキシドとしては、α,α-ビス(t-ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3等が挙げられる。
ペルオキシケタールとしては、1,1-ビス(t-ヘキシルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロドデカン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート、2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパンが挙げられる。
ペルオキシエステルとしては、α,α-ビス(ネオデカノイルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルペルオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシネオデカノエート、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルペルオキシネオデカノエート、t-ヘキシルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-ヘキシルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(2-エチルヘキサノイルペルオキシ)ヘキサン、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ヘキシルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシイソブチレート、t-ヘキシルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシマレイックアシッド、t-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(m-トルオイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルペルオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシ-m-トルオイルベンゾエート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、ビス(t-ブチルペルオキシ)イソフタレート等が挙げられる。
ペルオキシジカーボネートとしては、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)ペルオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジ(2-メトキシブチル)ペルオキシジカーボネート、ジ(3-メチル-3-メトキシブチル)ペルオキシジカーボネート等が挙げられる。
なお、これら以外にもt-ブチルトリメチルシリルペルオキシド、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン等が好適に使用できる。これら有機過酸化物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよいが、重合活性の点から、ヒドロペルオキシドが特に好ましい。
無機過酸化物としては、ペルオキソ二硫酸塩及びペルオキソ二リン酸塩などが挙げられ、これらの中でも、硬化性の点で、ペルオキソ二硫酸塩が好ましい。ペルオキソ二硫酸塩の具体例としては、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アルミニウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウムが挙げられる。
化学重合開始剤(j)の含有量は、硬化性の観点から、2液型歯科用ボンディング材(Y)における単量体の総量100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.02~8質量部がより好ましく、0.05~5質量部がさらに好ましい。
<光重合開始剤(k)>
2液型歯科用ボンディング材(Y)の第1剤及び第2剤の少なくとも一方に光重合開始剤(k)をさらに含んでいてもよい。
光重合開始剤(k)は水溶性光重合開始剤(k-1)と非水溶性光重合開始剤(k-2)に分類される。光重合開始剤(k)としては、水溶性光重合開始剤(k-1)のみを用いてもよく、非水溶性光重合開始剤(k-2)のみを用いてもよく、水溶性光重合開始剤(k-1)と非水溶性光重合開始剤(k-2)を併用してもよいが、併用することが好ましい。
・水溶性光重合開始剤(k-1)
水溶性光重合開始剤(k-1)は、親水的な歯面界面での重合硬化性が向上し、歯質に対する高い接着性を実現できる。水溶性光重合開始剤(k-1)は、25℃の水に対する溶解度が10g/L以上であり、15g/L以上であることが好ましく、20g/L以上であることがより好ましく、25g/L以上であることがさらに好ましい。同溶解度が10g/L以上であることで、接着界面部において水溶性光重合開始剤(k-1)が歯質中の水に十分に溶解し、重合促進効果が発現しやすくなる。
水溶性光重合開始剤(k-1)は、水溶性光重合開始剤(c-1)と同様のものが挙げられる。水溶性光重合開始剤(k-1)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
水溶性光重合開始剤(k-1)は、2液型歯科用ボンディング材(Y)に溶解されていても組成物中に粉末で分散されていてもよい。
水溶性光重合開始剤(k-1)を粉末で分散する場合、その平均粒子径が過大であると沈降しやすくなるので、500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。一方、平均粒子径が過小であると粉末の比表面積が過大になって組成物への分散可能な量が減少するので、0.01μm以上が好ましい。すなわち、水溶性光重合開始剤(k-1)の平均粒子径は0.01~500μmの範囲が好ましく、0.01~100μmの範囲がより好ましく、0.01~50μmの範囲がさらに好ましい。
各々の水溶性光重合開始剤(k-1)の粉末の平均粒子径は、水溶性光重合開始剤(c-1)の粉末と同様の方法で算出できる。
水溶性光重合開始剤(k-1)を2液型歯科用ボンディング材(Y)中に粉末で分散させる場合の開始剤の形状については、球状、針状、板状、破砕状など、種々の形状が挙げられるが、特に制限されない。水溶性光重合開始剤(k-1)は、粉砕法、凍結乾燥法、再沈殿法などの従来公知の方法で作製することができ、得られる粉末の平均粒子径の観点で、凍結乾燥法及び再沈殿法が好ましく、凍結乾燥法がより好ましい。
水溶性光重合開始剤(k-1)の含有量は、得られる2液型歯科用ボンディング材(Y)の硬化性などの観点からは、本発明の2液型歯科用ボンディング材(Y)における単量体の総量100質量部に対して、0.01~20質量部が好ましく、歯質への接着性等の
点から、0.05~10質量部がより好ましく、0.1~5質量部がさらに好ましい。水溶性光重合開始剤(k-1)の含有量が0.01質量部未満の場合、接着界面での重合が十分に進行せず、接着性の低下を招くおそれがある。一方、水溶性光重合開始剤(k-1)の含有量が20質量部を超える場合、十分な接着性が得られなくなるおそれがあり、さらには2液型歯科用ボンディング材(Y)における溶解、分散、拡散が不十分になるおそれがある。
・非水溶性光重合開始剤(k-2)
本発明の2液型歯科用ボンディング材(Y)は、硬化性の観点から、水溶性光重合開始剤(k-1)以外に25℃の水への溶解度が10g/L未満である非水溶性光重合開始剤(k-2)(以下、非水溶性光重合開始剤(k-2)と称することがある。)を含むことが好ましい。本発明に用いられる非水溶性光重合開始剤(k-2)は、公知の光重合開始剤を使用することができる。非水溶性光重合開始剤(k-2)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
非水溶性光重合開始剤(k-2)としては、非水溶性光重合開始剤(c-2)と同様のものが挙げられる。
非水溶性光重合開始剤(k-2)の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、α-ジケトン類、及びクマリン類からなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す2液型歯科用ボンディング材(Y)が得られる。
非水溶性光重合開始剤(k-2)の含有量は特に限定されないが、得られる組成物の硬化性などの観点から、本発明の2液型歯科用ボンディング材(Y)における単量体の総量100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.05~7質量部がより好ましく、0.1~5質量部がさらに好ましい。なお、非水溶性光重合開始剤(k-2)の含有量が10質量部を超えると、重合開始剤自体の重合性能が低い場合には、十分な接着強さが得られなくなるおそれがあり、さらには2液型歯科用ボンディング材(Y)からの析出を招くおそれがある。
水溶性光重合開始剤(k-1)と非水溶性光重合開始剤(k-2)を併用する場合、本発明における水溶性光重合開始剤(k-1)と非水溶性光重合開始剤(k-2)の質量比〔(k-1):(k-2)〕は、好ましくは10:1~1:10であり、より好ましくは7:1~1:7であり、さらに好ましくは5:1~1:5であり、最も好ましくは3:1~1:3である。水溶性光重合開始剤(k-1)が質量比10:1より多く含有されると、2液型歯科用ボンディング材(Y)自体の硬化性が低下し、高い接着性を発現させることが困難になる場合がある。一方、非水溶性光重合開始剤(k-2)が質量比1:10より多く含有されると、2液型歯科用ボンディング材(Y)自体の硬化性は高められるものの接着界面部の重合促進が不十分になり、高い接着性を発現させることが困難になる場合がある。
他のある実施形態としては、さらにフィラーを含む、2液型歯科用ボンディング材(Y)を備える歯科用充填キットが挙げられる。2液型歯科用ボンディング材(Y)に用いるフィラーとしては、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)のフィラー(d)と同様のものが挙げられる。フィラーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。フィラーの平均粒子径の測定方法等も自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)のフィラー(d)で説明したとおりである。
無機フィラーの形状としては、不定形フィラー及び球状フィラーが挙げられる。2液型歯科用ボンディング材(Y)の機械的強度を向上させる観点からは、前記無機フィラーとして球状フィラーを用いることが好ましい。ここで球状フィラーとは、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)のフィラー(d)で説明したとおりである。フィラーの平均粒子径は、歯科用ボンディング材(Y)中のフィラーの充填率が低下せず、機械的強度を維持できる点から、0.01μm以上が好ましく、フィラーの分散安定性を維持するのに十分である点から1μm以下が好ましい。
2液型歯科用ボンディング材(Y)では、異なった材質、粒度分布、形態を持つ2種以上のフィラーを、混合又は組み合わせて用いてもよく、また、本発明の効果を損なわない範囲内で、意図せずに、フィラー以外の粒子が不純物として含まれていてもよい。本発明におけるフィラーは、市販品を使用してもよい。
2液型歯科用ボンディング材(Y)に用いられるフィラーの含有量は特に限定されず、2液型歯科用ボンディング材(Y)の全質量に基づいて、0.1~30質量%の範囲が好ましく、0.5~20質量%の範囲がより好ましく、1.0~10質量%の範囲がさらに好ましい。
この他、2液型歯科用ボンディング材(Y)には、本発明の効果を阻害しない範囲で、フッ素イオン放出性物質、pH調整剤、重合禁止剤(例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ))、着色剤、蛍光剤、香料、機能性単量体などを配合してもよい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、セチルピリジニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライド、トリクロサンなどの抗菌性物質を配合してもよい。金属に接着性を付与する機能性単量体としては、例えば、10-メルカプトデシル(メタ)アクリレート、6-(4-ビニルベンジル-n-プロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオン、6-メタクリロイルオキシへキシル 2-チオラウシル-5-カルボキシレート、特開平10-1473号公報に記載のチオウラシル誘導体や特開平11-92461号公報に記載のジスルフィド化合物などの硫黄元素を有するモノマーが挙げられ、貴金属に対して優れた接着性を有することから、6-メタクリロイルオキシへキシル 2-チオラウシル-5-カルボキシレートが好ましい。
ある実施形態では、歯科用ボンディング材(Y)の保存安定性の観点から、実質的に光重合開始剤を含まない方が好ましい。実質的に光重合開始剤を含まないとは、光重合開始剤の含有量が、2液型歯科用ボンディング材(Y)に含まれる単量体の総量に対して0.1質量%未満であり、0.05質量%未満であることが好ましく、0.01質量%未満であることがより好ましく、0質量%であってもよい。
2液型歯科用ボンディング材(Y)の全質量に基づいて、酸性基を有する単量体(f)の含有量は、歯質に対する接着性、窩洞封鎖性、及びこれらの耐久性の観点から、0.1~20質量%が好ましく、0.5~15質量%がより好ましく、1~10質量%がさらに好ましい。
2液型歯科用ボンディング材(Y)の全質量に基づいて、化学重合促進剤(h)の含有量は、歯質に対する接着性、窩洞封鎖性、及びこれらの耐久性の観点から、0.01~10質量%が好ましく、0.05~8質量%がより好ましく、0.1~6質量%がさらに好ましい。
2液型歯科用ボンディング材(Y)の全質量に基づいて、単量体の総量は5~97質量%が好ましく、10~95質量%がより好ましく、15~90質量%がさらに好ましい。
2液型歯科用ボンディング材(Y)の全質量に基づいて、フィラーの含有量は、0~50質量%が好ましく、0~40質量%がより好ましく、0~30質量%がさらに好ましい。
2液型歯科用ボンディング材(Y)は、保管時においては、第1剤と第2剤とに分包された状態で保管される。ここで、分包の形態は、第1剤を構成する組成物と、第2剤を構成する組成物とが、保管時において互いに接触及び混合しない限りは特に制限されないが、通常は、シリンジ、袋、瓶などの各種の容器内に、第1剤と第2剤とがそれぞれ別々に保管される。一方、使用時においては、第1剤と第2剤とを混合して混合組成物を調製し、次にこの混合組成物を歯質等の被着体表面に付与することが通常であるが、被着体表面に対して第1剤と第2剤とを同時に付与又は別々に順次付与することで、被着体表面上において第1剤と第2剤とを混合することも可能である。
第1剤は、酸性基を有する単量体(f)を含む。第1剤はさらに、酸性基を有さない単量体(g)、有機溶媒を含むことが好ましい。また、第1剤はさらに、化学重合促進剤(h)又は重合禁止剤を含むことが好ましい。第1剤はさらに、水(j)、光重合開始剤(k)、化学重合促進剤(h)、化学重合開始剤(j)を含む実施形態であってもよい。
第1剤における各成分の含有量は、第1剤の単量体成分の全量100質量部において、酸性基を有する単量体(f)1~50質量部、及び酸性基を有しない単量体(g)50~99質量部を含むことが好ましく;酸性基を有する単量体(f)3~30質量部、及び酸性基を有しない単量体(g)70~97質量部を含むことがより好ましく;酸性基を有する単量体(f)3~25質量部、及び酸性基を有しない単量体(g)75~92.5質量部を含むことがさらに好ましい。
また、第1剤において、該単量体成分の全量100質量部に対して、化学重合促進剤(h)0.001~10質量部、化学重合開始剤(j)0.001~10質量部、フィラー0~30質量部、水(i)0~50質量部、及び有機溶媒0~500質量部を含むことが好ましく、重合促進剤(h)0.01~5質量部、化学重合開始剤(j)0.01~5質量部、フィラー0~20質量部、水(i)0~30質量部、及び有機溶媒0~200質量部を含むことがより好ましい。
また、第1剤における単量体の含有量の総量は、第1剤の全質量に基づいて、20~90質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましく、35~70質量%がさらに好ましい。
第1剤における水(i)の含有量は、第1剤の全質量に基づいて、0~40質量%が好ましく、0~30質量%がより好ましく、0~20質量%がさらに好ましい。
第1剤における有機溶媒の含有量は、第1剤の全質量に基づいて、5~90質量%が好ましく、15~80質量%がより好ましく、25~70質量%がさらに好ましい。
第1剤におけるフィラーの含有量は、第1剤の全質量に基づいて、0~20質量%が好ましく、0~10質量%がより好ましく、0~7.5質量%がさらに好ましい。
第2剤は、2液型歯科用ボンディング材(Y)を構成する必須材料の内、第1剤に含まれない材料を含有する。第2剤は、第1剤に含まれる材料を含んでいてもよい。第2剤は、酸性基を有する単量体(f)や酸性基を有さない単量体(g)を含むことを妨げないが、含まないことが好ましい。第2剤は、有機溶媒と水(j)を含むことが好ましい。第2剤は、化学重合促進剤(h)、化学重合開始剤(j)を含むものであってもよい。
第2剤における各成分の含有量について、化学重合促進剤(h)の含有量の総量は、第2剤の全質量に基づいて、0.01~15質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましく、0.5~7.5質量%がさらに好ましい。
第2剤における水(i)の含有量は、第2剤の全質量に基づいて、1~40質量%が好ましく、3~30質量%がより好ましく、5~25質量%がさらに好ましい。
第2剤における有機溶媒の含有量は、第2剤の全質量に基づいて、50~97質量%が好ましく、60~92質量%がより好ましく、65~89質量%がさらに好ましい。
第2剤における水(i)の含有量は、第2剤の全質量に基づいて、1~40質量%が好ましく、3~30質量%がより好ましく、5~25質量%がさらに好ましい。
第2剤における化学重合開始剤(j)の総量は0~15質量%が好ましく、0.01~10質量%がより好ましく、0.1~7.5質量%がさらに好ましい。
化学重合開始剤(j)は、第1剤と第2剤の両方に含まれていてもよいが、いずれか一方のみに含まれていることが好ましい。また、保管時においては、単量体と化学重合促進剤(h)と化学重合開始剤(j)の3成分は接触しない方がよいため、化学重合促進剤(h)又は化学重合開始剤(j)の少なくとも一方は、第1剤に含まれないことが好ましい。
好ましい実施形態としては、第1剤が、酸性基を有する単量体(f)、酸性基を有さない単量体(g)、有機溶媒、化学重合促進剤(h)及び重合禁止剤を含み、第2剤が、化学重合促進剤(h)、水(j)、有機溶媒及び化学重合開始剤(j)を含む2液型歯科用ボンディング材(Y)が挙げられる。
2液型歯科用ボンディング材(Y)の使用時における第1剤と第2剤との混合比率(第1剤/第2剤)については、接着性及び操作性が大幅に損なわれない範囲で適宜選択できるが、ハンドリング性、製品パッケージ化の容易さなどの実用上の観点からは、混合比率(第1剤/第2剤)が、体積比で1/5~5/1の範囲内が好ましく、1/3~3/1の範囲内がより好ましい。あるいは、混合比率(第1剤/第2剤)が質量比で1/5~5/1の範囲内が好ましく、1/3~3/1の範囲内がより好ましい。また、通常、本実施形態の2液型歯科用ボンディング材(Y)の利用者は、本実施形態の2液型歯科用ボンディング材(Y)の開発者、製造者あるいは販売者が定めた混合比率(以下、「指定混合比率」と称す)に従って、第1剤と第2剤とを混合する。なお、使用時の実際の混合比率は、接着性及び操作性が大幅に損なわれない範囲であれば指定混合比率からずれることは許容され、例えば、指定混合比率を基準(100%)とした場合の使用時の実際の混合比率は33%~300%の範囲であってもよく、50%~200%の範囲が好ましい。
指定混合比率は、混合比率情報表示媒体に表示することができる。この混合比率情報表示媒体としては、例えば、i)紙箱等からなる製品パッケージ、ii)紙媒体及び/又は電子データとして提供される製品の使用説明書、iii)第1剤及び第2剤を各々密封状態で保管する容器(ボトル、シリンジ、包装袋等)、iv)紙媒体及び/又は電子データとして提供される製品カタログ、v)製品とは別に電子メールや郵便物等により製品利用者に送付される通信文などが利用できる。また、指定混合比率は、上記i)~v)に示す以外の態様により製品利用者が認知しうる態様で、製品利用者に提供されてもよい。
<本発明の歯科用充填キットの構成>
本発明の歯科用充填キットは、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)、及び2液型歯科用ボンディング材(Y)を備える。自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)、及び2液型歯科用ボンディング材(Y)は、通常それぞれ独立の容器に充填されている。
本発明の歯科用充填キットにはさらにエッチング材、歯科用プライマーなどを組み合わせて含んでいてもよい。エッチング材は窩洞封鎖性の観点から、エナメル質のみに適用することが好ましい。歯質との接着強さ、及び窩洞封鎖性の観点から歯科用プライマーを組み合わせることが好ましい。歯科用プライマーは単独で重合してもしなくてもよいが、窩洞封鎖性の観点から、光、又は化学重合にて重合させた方が好ましい。エッチング材、及
び歯科用プライマーはそれぞれ単独で使用しても、組み合わせて使用してもよい。窩洞封鎖性の観点から、エッチング材の使用後に歯科用プライマーを適用する手順が好ましい。
<具体的な適用方法、手順>
・歯科用ボンディング材(Y)の処理
自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)を適用する歯質表面を歯科用ボンディング材(Y)で処理する。処理は歯科用ボンディング材(Y)を塗布し、所定の処理時間静置する方法;歯科用ボンディング材(Y)を塗布し、所定の処理時間マイクロブラシ等の器具で擦る方法などが挙げられるが、窩洞封鎖性の観点から、所定の処理時間マイクロブラシ等の器具で擦る方法が好ましい。その後、エアブローにより、溶媒を除去する。歯科用ボンディング材が光重合開始剤を含む場合は溶媒を除去後さらに歯科用光照射器で光照射を行う方法が挙げられる。
・自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の適用
歯科用ボンディング材(Y)で歯面(窩洞)を処理した後、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)を適用する。自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)を充填し、表面を整えた後に光重合開始剤を配合した自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の場合は歯科用光照射器で光照射を行い、硬化させる。化学重合開始剤を含む自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の場合は、硬化が完了するまで静置する。その後、場合によっては表面の形態修正、及び研磨を行う。
エッチング材、及び歯科用プライマーなどを組み合わせる場合、エッチング材を使用する場合は歯科用ボンディング材(Y)の適用前に使用し、歯科用プライマーを使用する場合は、歯科用ボンディング材(Y)の適用前に使用する。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。なお、例中の部は、特記しない限り質量部である。
次に、実施例及び比較例の歯科用充填キットの成分を略号とともに以下に記す。
・自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)
[酸性基を有する単量体(a)]
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
[酸性基を有しない単量体(b)]
Bis-GMA:2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン
D-2.6E:2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数:2.6)
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
DD:1,10-デカンジオールジメタクリレート
MAEA:N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド
DEAA:N,N-ジエチルアクリルアミド
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
[光重合開始剤(c)]
・水溶性光重合開始剤(c-1)
Li-TPO:フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸リチウム・非水溶性光重合開始剤(c-2)
CQ:カンファーキノン
BAPO:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド
[フィラー(d)]
フィラー1:日本アエロジル株式会社製、超微粒子シリカ「アエロジル(登録商標)R972」、平均粒子径:16nm
フィラー2:シラン処理シリカ
OX50(日本アエロジル株式会社製、超微粒子シリカ「アエロジル(登録商標)OX50」、平均粒子径:0.04μm)100g、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン7g、及び0.3質量%酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、80℃で5時間加熱処理を行い、フィラー2を得た。
フィラー3:シラン処理珪石粉
珪石粉(石英、株式会社ニッチツ製、商品名:ハイシリカ)をボールミルで粉砕し、粉砕珪石粉を得た。得られた粉砕珪石粉の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製、型式「SALD-2300」)を用いて体積基準で測定したところ、2.2μmであった。この粉砕珪石粉100質量部に対して、常法により4質量部のγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理を行い、シラン処理珪石粉を得た。
フィラー4:シラン処理バリウムガラス粉
バリウムガラス(エステック社製、商品コード「E-3000」)をボールミルで粉砕し、バリウムガラス粉を得た。得られたバリウムガラス粉の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製、型式「SALD-2300」)を用いて体積基準で測定したところ、2.4μmであった。このバリウムガラス粉100質量部に対して常法により3質量部のγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理を行い、シラン処理バリウムガラス粉を得た。
フィラー5:シラン処理バリウムガラス粉
GM27884 NF180グレード(SCHOTT社製バリウムガラス、平均粒子径:0.18μm)100g、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン13g、及び0.3質量%酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、80℃で5時間加熱処理を行い、フィラー5を得た。
フィラー6:シラン処理バリウムガラス粉
8235 UF0.7グレード(SCHOTT社製バリウムガラス、平均粒子径:0.7μm)100g、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン6g、及び0.3質量%酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、80℃で5時間加熱処理を行い、フィラー6を得た。
フィラー7:シラン処理球状シリカ-ジルコニア複合酸化物粉
球状シリカ-ジルコニア複合酸化物(平均粒子径:0.3μm)100g、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン10g、及び0.3質量%酢酸水溶液200mLを三口フラスコに入れ、2時間、室温下で撹拌した。凍結乾燥により水を除去した後、80℃で5時間加熱処理を行い、フィラー7を得た。
[化学重合促進剤(e)]
DABE:4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル
[重合禁止剤]
BHT:3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン
・歯科用ボンディング材(Y)
[酸性基を有する単量体(f)]
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
P-2M:ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート
4-META:4-メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物
[酸性基を有しない単量体(g)]
Bis-GMA:2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
[フィラー(d)]
AEROSIL R972:日本アエロジル株式会社製の微粒子シリカ「AEROSIL(登録商標)R972」(疎水性ヒュームドシリカ、平均粒子径:16nm)
[化学重合促進剤(h)]
BMOV:ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)
PhB-TEOA:テトラフェニルホウ素のトリエタノールアミン塩
PhB-Na:テトラフェニルホウ素のナトリウム塩
Cu-AcAc:アセチルアセトン銅
MBI:2-メルカプトベンゾイミダゾール
p-TSA:p-トルエンスルホン酸
PTS-Na:p-トルエンスルフィン酸ナトリウム
DEPT:N,N-ジメチル-p-トルイジン
DABE:4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル
[水(i)]
精製水
[有機溶媒]
アセトン
エタノール
IPA:イソプロパノール
[化学重合開始剤(j)]
BPO:ベンゾイルペルオキシド
パーオクタ(登録商標)H:1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド
[光重合開始剤(k)]
CQ:カンファーキノン
TMDPO:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド
[その他]
MTU-6:6-メタクリロイルオキシへキシル 2-チオラウシル-5-カルボキシレート(下記式(8))
Figure 2023095554000009
MPS:γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン
[重合禁止剤]
BHT:3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン
[実施例1~32及び比較例1~5]
[自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)の調製]
下記表3~5に示す原料(但し、ボンディング材は除く)を常温(23℃)暗所で混合、及び混練してペースト状の自己接着性歯科用コンポジットレジンを調製し、以下の試験例1、及び2の方法に従って特性を調べた。結果を表3~5に示す。
[歯科用ボンディング材(Y)の調製]
下記表1~2に示す各成分を、第1剤と第2剤とに分けて、常温(23℃)下において混合し、第1剤と第2剤を作製した。当該第1剤と第2剤の組合せが歯科用ボンディング材(Y)に相当する。得られた当該第1剤と第2剤は、それぞれ「クリアフィル(登録商標)トライエスボンドNDクイック」(クラレノリタケデンタル株式会社製)の容器に充填して用いた。
試験例1 象牙質との接着強さ
[象牙質に対する剪断接着試験]
ウシ下顎前歯の唇面を流水下にて#80のシリコンカーバイド紙(日本研紙株式会社製)で研磨して、象牙質の平坦面を露出させたサンプルをそれぞれ得た。15穴を有するモールド(15-hole mold、ウルトラデント社製、φ35mm×高さ25mm)の底面にテープを貼り、その上にサンプルの歯を固定した。石膏をモールド内に充填し、約30分静置し、石膏を硬化させた。モールドから、サンプルを取り出し、流水下にて#600のシリコンカーバイド紙(日本研紙株式会社製)で被着面が確保できる大きさ(φ2.38mm以上)まで研磨し、被着面を超音波で5分間水洗して、サンプルを調製した。
歯科用ボンディング材(Y)の第1剤と第2剤をそれぞれ1滴ずつ同じ混和皿内に滴下し、マイクロブラシにて混ぜた後、前記サンプルの被着面に塗布し、10秒間放置した。その後、エアブローして溶媒を除去した。光重合開始剤を含む歯科用ボンディング材の場合は、その後、歯科用LED光照射器(ウルトラデント社製、商品名「VALO」)にて10秒間光照射することにより、歯科用ボンディング材(Y)を硬化させた。
続いて、別途用意したφ2.38mmのCR充填用モールド(Bonding Mold Insert、ウルトラデント社製)を専用器具(Bonding Clamp、ウルトラデント社製)に取り付けた。次に、専用器具に取り付けられたCR充填用モールドが、前記サンプルにおける歯科用ボンディング材(Y)を硬化させた面と密着するように、CR充填用モールドを下げて、サンプルを固定した。次に、各実施例及び比較例で作製した歯科用コンポジットレジン(X)をCR充填用モールドが有する穴に厚さ1mm厚以内となるように薄く充填した。その後再度、モールド内に充填し(モールドの2/3ぐらいまで、2mm厚程度)、10秒間放置した後、歯科用LED光照射器(ウルトラデント
社製、商品名「VALO」)にて10秒間光照射することにより、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)を硬化させた。モールドからサンプルを外し、接着試験供試サンプルとした。接着試験供試サンプルは各20個作製した。20個のサンプルのうち10個については、初期接着強さを評価するため、24時間、37℃水中静置後ただちに剪断接着強さを測定した。残りの10個については、接着耐久性を評価するため、24時間、37℃水中静置後さらに4℃の冷水と60℃の温水に交互に1分間浸漬する工程を1サイクルとする熱サイクルを4000サイクル行った後に剪断接着強さを測定した。接着耐久性に関する前記熱サイクル後の剪断接着強さを表中、「耐久性」として示す。接着強さ(剪断接着強さ)の測定は、接着試験供試サンプルを専用ホルダー(Test Base Clamp、ウルトラデント社製)に取り付け、専用冶具(Crosshead Assembly、ウルトラデント社製)と万能試験機(株式会社島津製作所製)を用い、クロスヘッドスピードを1mm/分に設定して測定し、平均値を表に示した(n=10)。
試験例2 窩洞封鎖性
ヒト大臼歯の咬合面を歯ブラシにて磨き、表面の付着物を除去した。マニー(登録商標)ダイヤバー(登録商標)SF-21(マニー株式会社製)を用いて、注水下、エアータービンにて直径4mm×深さ4mmの円柱型の窩洞を形成した。窩洞形成後、歯根を切り落とし、窩底部から2mm程度の厚さの歯質が残るように歯根側から歯質を研磨した。流水にて窩洞内を水洗した後、エアブローにて乾燥させた。歯科用ボンディング材(Y)の第1剤と第2剤をそれぞれ1滴ずつ同じ混和皿内に滴下し、マイクロブラシにて混ぜた後、マイクロブラシを用いて窩洞内に塗布し、10秒間放置した。その後、エアブローして溶媒を除去した。歯科用ボンディング材(Y)が光重合開始剤を含む場合は、その後、歯科用LED光照射器(ウルトラデント社製、商品名「VALO」)にて10秒間光照射することにより、歯科用ボンディング材を硬化させた。次いで、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)を充填し、10秒間放置した後、歯科用LED光照射器(ウルトラデント社製、商品名「VALO」)にて10秒間光照射した。
試験供与サンプルは各8個作製した。8個のサンプルのうち4個については、初期の窩洞封鎖性を評価するため、24時間37℃水中浸漬後ただちに初期の窩洞封鎖性を測定した。残りの4個については、窩洞封鎖性の耐久性を評価するため、24時間37℃水中浸漬後さらに4℃の冷水と60℃の温水に交互に1分間浸漬する工程を1サイクルとする熱サイクルを4000サイクル行った後に窩洞封鎖性の耐久性を測定した。窩洞封鎖性の耐久性に関する前記熱サイクル後の窩洞封鎖性を表中、「耐久性」として示す。測定方法はサンプルを光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT、IVS-2000、
Santec株式会社)にて観察し、窩洞の適合性を評価した(n=4)。窩洞の上側半分は歯冠側から観察し、下側(窩底部)部分は歯根側から観察した。窩洞の剥離が見られないサンプルをスコア0、窩洞側面の剥離が見られたサンプルをスコア1、窩底部の剥離が見られたサンプルをスコア2、窩洞側面及び窩底部の剥離が見られたサンプルをスコア3とし、n=4の内最もサンプル数が多いスコアを評価結果とした。
Figure 2023095554000010
Figure 2023095554000011
Figure 2023095554000012
Figure 2023095554000013
Figure 2023095554000014
Figure 2023095554000015
表3~5の結果より、実施例の歯科用充填キットは、象牙質に対する初期の接着強さが22MPa上であり、接着耐久性は20MPa以上であった。窩洞封鎖性のスコアは初期、耐久性とも1以下であった。本発明の歯科用充填キットは、初期の歯質に対する接着性及び窩洞封鎖性のみならず、長期的な歯質に対する接着性及び窩洞封鎖性についても優れていた。一方、表6に示されるように、比較例の中で、自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)に酸性基を有する単量体(a)が含まれていない比較例1は良好な象牙質に対する接着性、窩洞封鎖性を示さず、歯科用ボンディング材(Y)の構成要件を満たしていない比較例2~4について、良好な象牙質に対する接着性、窩洞封鎖性を示さなかった。比較例5について、ボンディング材22が調製後にゲル化したため、試験を実施できなかった。特許文献2では、光重合開始剤系の1材型のボンディング材組成物が開示されており、上記比較例5に対応する。
本発明の歯科用充填キットは、歯科治療の充填治療に好適に使用することができる。本発明の歯科用充填キットは、深い窩洞においても窩洞封鎖性に優れ、4mm以上等の深い窩洞の歯科充填治療に特に好適に使用することができる。

Claims (15)

  1. 酸性基を有する単量体(a)、酸性基を有しない単量体(b)、及び光重合開始剤(c)を含む自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)と、
    第1剤と第2剤とを含み、
    前記第1剤が酸性基を有する単量体(f)を含み、
    前記第1剤及び第2剤の少なくとも一方が化学重合促進剤(h)を含み、かつ
    前記第1剤及び第2剤の少なくとも一方が水(i)を含む、2液型歯科用ボンディング材(Y)と、
    を備える、歯科用充填キット。
  2. 前記自己接着性歯科用コンポジットレジン(X)が、フィラー(d)をさらに含む、請求項1に記載の歯科用充填キット。
  3. 前記第1剤及び第2剤の少なくとも一方が、酸性基を有しない単量体(g)をさらに含む、請求項1又は2に記載の歯科用充填キット。
  4. 化学重合促進剤(h)が、アミン類、ボレート化合物、スルフィン酸及びその塩、チオ尿素化合物、銅化合物、チオール化合物並びにバナジウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の歯科用充填キット。
  5. 化学重合促進剤(h)がボレート化合物を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の歯科用充填キット。
  6. 前記第2剤に、有機過酸化物及び無機過酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の化学重合開始剤(j)をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の歯科用充填キット。
  7. 化学重合開始剤(j)が、有機過酸化物であり、前記有機過酸化物が、ヒドロペルオキシド、ケトンペルオキシド、ペルオキシエステル、及びジアシルペルオキシドからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項6に記載の歯科用充填キット。
  8. 前記第2剤が水を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の歯科用充填キット。
  9. 前記第1剤及び第2剤が、実質的に光重合開始剤を含まない、請求項1~8のいずれか1項に記載の歯科用充填キット。
  10. 前記第1剤及び第2剤の少なくとも一方が光重合開始剤(k)をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の歯科用充填キット。
  11. 前記第1剤及び第2剤の少なくとも一方が有機溶媒をさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の歯科用充填キット。
  12. 光重合開始剤(c)が水溶性光重合開始剤(c-1)を含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の歯科用充填キット。
  13. 酸性基を有する単量体(a)がリン酸基を有する単量体を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の歯科用充填キット。
  14. リン酸基を有する単量体が炭素数6~20のアルキレン基を有する2価のリン酸基を有
    する単量体を含む、請求項13に記載の歯科用充填キット。
  15. 酸性基を有する単量体(a)と酸性基を有する単量体(f)が同一の単量体を含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の歯科用充填キット。
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