本発明の歯科用重合性組成物は、(メタ)アクリル系重合性単量体(a)、下記式[I]で表される有機ケイ素化合物(b)、軟化剤(c)及び重合開始剤(d)を含有することを特徴とする。以下、本発明について詳細に説明する。なお、ある成分の「総量」とは、組成物全体に含有される当該成分(例えば、(メタ)アクリル系重合性単量体(a))の総量のことを意味し、本発明の組成物が2材型の形態をとる場合、各材に含有される当該成分の重量を合計したものを意味する。
(式中、R
1は水素原子又はメチル基を表し、R
2は加水分解可能な基を表し、R
3は炭素数1〜6の炭化水素基を表し、Xは酸素又は硫黄原子を表し、pは2又は3であり、qは3〜18の整数である。)
(メタ)アクリル系重合性単量体(a)
本発明において、(メタ)アクリル系重合性単量体(a)とは、分子内に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量体のことを意味する。(メタ)アクリル系重合性単量体(a)の具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体等が挙げられる。なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、メタクリル又はアクリルを意味し、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル又はメタクリロイルを意味する。
(メタ)アクリル系重合性単量体(a)は、(メタ)アクリロイル基を1個有する単官能性単量体と(メタ)アクリロイル基を複数有する多官能性単量体に大別される。(メタ)アクリル系重合性単量体(a)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してよい。
単官能性単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してよい。これらの中でも、歯科用重合性組成物の硬化物の柔軟性が優れる点で、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート及びセチル(メタ)アクリレートが好ましい。
多官能性単量体としては、芳香族化合物系の二官能性重合性単量体、脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体、三官能性以上の重合性単量体等が挙げられる。
芳香族化合物系の二官能性重合性単量体としては、例えば、2,2−ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称「Bis−GMA」)、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2−(4−(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してよい。これらの中でも、組成物の硬化性が優れる点で、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパンが好ましい。中でも、エトキシ基の平均付加モル数が2.6である化合物(通称「D2.6E」)が好ましい。
脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体としては、例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−エチル−1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)等が挙げられる。これらの中でも、得られる組成物の柔軟性と硬化性が優れる点で、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−エチル−1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート及び1,10−デカンオールジ(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレートが好ましい。
三官能性以上の重合性単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボキシ)プロパン−1,3−ジオール〕テトラメタクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキシヘプタン等が挙げられる。これらの中でも、硬化性に優れる点で、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが好ましい。
これらの(メタ)アクリル系重合性単量体(a)のうち、良好な可徹性及び仮着の保持力を有することから、単官能性単量体と二官能性単量体との組み合わせが好ましく、単官能性単量体と脂肪族化合物系の二官能性単量体との組み合わせがより好ましく、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、及びステアリル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種の単官能性単量体と、グリセロールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート及び1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタンからなる群から選択される少なくとも1種の脂肪族化合物系の二官能性単量体との組み合わせがさらに好ましい。
上記の単官能性単量体及び多官能性単量体は、酸性基を含まないものであるが、本発明の歯科用重合性組成物は、可徹性を発現させるため、酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体を含有しないことが好ましい。
酸性基含有(メタ)アクリル系重合性単量体としては、例えば、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、又はカルボン酸基等の酸性基を少なくとも1個有し、且つ(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個有するラジカル重合性単量体が挙げられる。
有機ケイ素化合物(b)
本発明で使用される有機ケイ素化合物(b)は、歯科用重合性組成物を仮着セメントとして用いた場合の可撤性を発現させる機能を有する。従来、有機ケイ素化合物は、無機粒子と(メタ)アクリレート系重合性単量体の混和性を向上させる目的や無機粒子の沈降・分離を抑制する目的で用いられるところ、本発明では、(メタ)アクリル系重合性単量体(a)及び重合開始剤(d)と組み合わせることによって、セメントに優れた可撤性を付与することができる。
上記一般式[I]で表される有機ケイ素化合物(b)において、式中、R1は水素原子又はメチル基を表し、R2は加水分解可能な基を表し、R3は炭素数1〜6の炭化水素基を表し、Xは酸素原子又は硫黄原子を表し、pは2又は3であり、qは3〜18の整数である。さらに、歯科用重合性組成物に可撤性を付与する効果が大きいことから、qは5〜15の整数であることが好ましく、8〜13の整数であることがより好ましい。
R2の加水分解可能な基としては、アルコキシ基、塩素原子又はイソシアネート基(−N=C=O)が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、炭素数1〜6のものがより好ましく、炭素数1〜3のものがさらに好ましい。アルコキシ基の具体例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
R3の炭素数1〜6の炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基等が挙げられる。Xは酸素原子が好ましい。
上記一般式[I]で表される有機ケイ素化合物(b)のうち、R1が水素原子又はメチル基であり、R2が炭素数1〜3のアルコキシ基であり、pが3であり、qが8〜13の整数である化合物が好ましい。
上記一般式[I]で表される有機ケイ素化合物(b)の具体例としては、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメトキシシラン、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルトリメトキシシラン、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメトキシシラン、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルトリメトキシシラン、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルトリメトキシシラン、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルトリメトキシシラン、13−(メタ)アクリロイルオキシトリデシルトリメトキシシラン、14−(メタ)アクリロイルオキシテトラデシルトリメトキシシラン、15−(メタ)アクリロイルオキシペンタデシルトリメトキシシラン、16−(メタ)アクリロイルオキシセチルトリメトキシシラン、17−(メタ)アクリロイルオキシヘプタデシルトリメトキシシラン、18−(メタ)アクリロイルオキシステアリルトリメトキシシラン等が好適に挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してよい。これらの中でも、歯科用重合性組成物の可撤性の付与効果が大きい点で、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルトリメトキシシラン、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメトキシシラン、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルトリメトキシシラン、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルトリメトキシシラン、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルトリメトキシシラン、13−(メタ)アクリロイルオキシトリデシルトリメトキシシラン、14−(メタ)アクリロイルオキシテトラデシルトリメトキシシラン、15−(メタ)アクリロイルオキシペンタデシルトリメトキシシランが好ましく、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルトリメトキシシラン、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルトリメトキシシラン、13−(メタ)アクリロイルオキシトリデシルトリメトキシシランがより好ましく、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルトリメトキシシランがさらに好ましい。
有機ケイ素化合物(b)の配合量は、良好な可撤性を発現する点から、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、0.01重量部以上が好ましく、0.1重量部以上がより好ましく、1.0重量部以上がさらに好ましい。また、歯科用重合性組成物の硬化性が顕著に低下しない点から、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、30重量部以下が好ましく、25重量部以下がより好ましく、20重量部以下がさらに好ましい。従って、上記観点より、有機ケイ素化合物(b)の配合量は、重合性組成物全体の(メタ)アクリレート系重合性単量体(a)100重量部に対して、0.01〜30重量部が好ましく、0.1〜25重量部がより好ましく、1.0〜20重量部がさらに好ましい。また、良好な可撤性及び仮着の保持力を発現する点から、有機ケイ素化合物(b)の配合量は、重合性組成物全体における単官能性の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、5〜90重量部が好ましく、7〜80重量部がより好ましく、10〜70重量部がさらに好ましい。
軟化剤(c)
本発明に用いられる軟化剤(c)は、歯科用重合性組成物に柔軟性を付与することによって、さらに可撤性を向上させるため、及び仮着の保持力を向上させるために用いられる。
軟化剤(c)としては、例えば、ゴム系重合体、エラストマー系重合体、シリコーン、オイル、可塑剤等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ゴム系重合体の軟化剤としては、例えば、天然ゴム、合成ポリイソプレンゴム、液状ポリイソプレンゴム及びその水素添加物、ポリブタジエンゴム、液状ポリブタジエンゴム及びその水素添加物、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、アクリルゴム、イソプレン−イソブチレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等が挙げられる。
エラストマー系重合体の軟化剤としては、例えば、スチレン系エラストマー〔例、ポリスチレン−ポリビニルイソプレン−ポリスチレントリブロック共重合体、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレンブロック共重合体、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリブタジエン−ポリ(α−メチルスチレン)ブロック共重合体、ポリ(p−メチルスチレン)−ポリブタジエン−ポリ(p−メチルスチレン)ブロック共重合体、又はこれらの水素添加物等〕、アクリル系エラストマー〔例、ポリメチルメタクリレート−ポリブチルアクリレートブロック共重合体、ポリメチルメタクリレート−ポリヘキシルアクリレート−ポリメチルメタクリレートブロック共重合体〕、オレフィン系エラストマー〔ポリエチレン−ポリプロピレン−ポリエチレンブロック共重合体〕等が挙げられる。
シリコーン系の軟化剤としては、例えば、シリコーンオイル、ポリシロキサン、シリコーンゴム等が挙げられる。
軟化剤に用いるオイルとしては、例えば、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系のプロセスオイル等の石油系軟化剤;パラフィン、落花生油、ロジン等の植物油系軟化剤等が挙げられる。
可塑剤としては、フタレート系可塑剤、セバケート系可塑剤等が挙げられる。フタレート系可塑剤としては、例えば、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ビス(エチルへキシル)フタレート、等のジアルキルフタレート(いずれのアルキル基も好適にはC1〜C11);ブチルフタリルブチルグリコラート等が挙げられる。セバケート系可塑剤としては、例えば、ジエチルセバケート、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート、ビス(エチルへキシル)セバケート等が挙げられる。これらの軟化剤(c)の中でも、(メタ)アクリル系重合性単量体との混和性、可徹性の強化及び溶出しにくい点で、液状ポリイソプレンゴム及びその水素添加物、ポリブタジエンゴム、液状ポリブタジエンゴム及びその水素添加物、アクリルゴム、スチレン系エラストマー、アクリル系エラストマーが好ましい。
軟化剤(c)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、溶出しにくい観点から、好ましくは500〜1,000,000の範囲であり、より好ましくは1,000〜500,000の範囲であり、さらに好ましくは5,000〜250,000の範囲である。軟化剤(c)の重量平均分子量が500以上であると、歯科用硬化性組成物から軟化剤(c)が溶出するおそれが小さく、一方、1,000,000以下であると、著しく混和しにくくなるおそれや歯科用硬化性組成物の粘度が著しく上昇し実用性を損なうおそれが小さい。軟化剤(c)が複数の軟化剤を含有する場合、それぞれのポリマーが前記範囲内の重量平均分子量を有することが好ましい。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって求まるポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
軟化剤(c)の配合量は、柔軟化効果が発現しやすい点から、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、0.5重量部以上が好ましく、5.0重量部以上がより好ましい。また、歯科用重合性組成物の粘度が顕著に上昇するおそれがない点から、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、50重量部以下が好ましく、40重量部以下がより好ましい。従って、上記観点より、軟化剤(c)の配合量は、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、0.5〜50重量部が好ましく、5.0〜40重量部がより好ましい。
重合開始剤(d)
本発明に用いられる重合開始剤(d)は、一般工業界で使用されている重合開始剤から選択して使用でき、中でも歯科用途に用いられている重合開始剤が好ましく用いられる。特に、化学重合開始剤(d−1)及び光重合開始剤(d−2)が、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用される。
化学重合開始剤(d−1)としては、有機過酸化物が好ましい。化学重合開始剤に使用される有機過酸化物は特に限定されず、公知のものを使用することができる。代表的な有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート等が挙げられる。これらの中でも、硬化性と保存安定性に優れる観点から、ハイドロパーオキサイド、ジアシルパーオキサイドが好ましい。
ハイドロパーオキサイドとしては、例えば、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の芳香族基を有しない脂肪族ハイドロパーオキサイド;ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の芳香族ハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
上記化学重合開始剤として用いられるジアシルパーオキサイドとしては、例えば、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド及びラウロイルパーオキサイド等が挙げられる。
これらの有機過酸化物の中でも、安全性、保存安定性及びラジカル生成能力の総合的なバランスから、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド及び1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドが特に好ましい。
光重合開始剤(d−2)としては、例えば、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類及びその塩;チオキサントン類又はチオキサントン類の第4級アンモニウム塩;ケタール類;α−ジケトン類;クマリン類;アントラキノン類;ベンゾインアルキルエーテル化合物類;α−アミノケトン系化合物等が挙げられる。これらの光重合開始剤の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキサイド類及びその塩、並びにα−ジケトン類からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す組成物が得られる。
(ビス)アシルホスフィンオキサイド類としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド及び2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイドナトリウム塩が特に好ましい。
α−ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ジベンジル、カンファーキノン、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナンスレンキノン、4,4’−オキシベンジル、アセナフテンキノン等が挙げられる。この中でも、可視光域に極大吸収波長を有している観点から、カンファーキノンが特に好ましい。
本発明に用いられる重合開始剤(d)の配合量は、特に限定されないが、得られる歯科用重合性組成物の硬化性に優れる点から、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、0.001重量部以上であることが好ましく、0.01重量部以上であることがより好ましく、0.1重量部以上であることがさらに好ましい。また、臭気や着色の観点から、(メタ)アクリル系重合性単量体(a)の総量に対して、30重量部以下であることが好ましく、20重量部以下であることがより好ましく、10重量部以下であることがさらに好ましい。従って、上記観点より、重合開始剤(d)の配合量は、(メタ)アクリル系重合性単量体(a)に対して、0.001〜30重量部であることが好ましく、0.01〜20重量部であることがより好ましく、0.1〜10重量部であることがさらに好ましい。
重合促進剤(e)
本発明の歯科用重合性組成物は、重合促進剤(e)を含有することが好ましい。重合促進剤(e)としては、例えば、チオ尿素化合物、遷移金属化合物、アミン類、スルフィン酸及びその塩、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、アルデヒド類、有機リン化合物、ボレート化合物、バルビツール酸誘導体、トリアジン化合物、ハロゲン化合物、チオール化合物等が挙げられる。これらの中でも、歯科用重合性組成物の硬化性が優れる点から、チオ尿素化合物、遷移金属化合物、アミン類が好ましい。
重合促進剤(e)として用いられるチオ尿素化合物としては、例えば、1−(2−ピリジル)−2−チオ尿素、チオ尿素、メチルチオ尿素、エチルチオ尿素、N,N’−ジメチルチオ尿素、N,N’−ジエチルチオ尿素、N,N’−ジ−n−プロピルチオ尿素、N,N’−ジシクロヘキシルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、トリエチルチオ尿素、トリ−n−プロピルチオ尿素、トリシクロヘキシルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、テトラエチルチオ尿素、テトラ−n−プロピルチオ尿素、テトラシクロヘキシルチオ尿素等が挙げられる。
重合促進剤(e)として用いられる遷移金属化合物としては、例えば、バナジウム化合物、銅化合物等が挙げられる。
バナジウム化合物としては、IV価及び/又はV価のバナジウム化合物類が好ましい。IV価及び/又はV価のバナジウム化合物類としては、例えば、四酸化二バナジウム(IV)、バナジルアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)等が好適に挙げられる。
銅化合物としては、例えば、アセチルアセトン銅、酢酸第2銅、オレイン酸銅、塩化第2銅、臭化第2銅等が好適に挙げられる。
これらの遷移金属化合物の中でも、バナジルアセチルアセトナート(IV)、アセチルアセトン銅、酢酸第2銅が最も好ましい。
重合促進剤(e)として用いられるアミン類としては、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミンが挙げられる。脂肪族アミンとしては、例えば、n−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−オクチルアミン等の第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチルエタノールアミン等の第2級脂肪族アミン;N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N−エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級脂肪族アミンが挙げられる。芳香族アミンとしては、例えば、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸メチル、4−(ジメチルアミノ)安息香酸2−ブトキシエチル、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル、4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノン、4−ジメチルアミノ安息香酸ブチル等が挙げられる。これらの中でも、組成物に優れた硬化性を付与できる観点から、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4−(ジメチルアミノ)安息香酸2−ブトキシエチル及び4−N,N−ジメチルアミノベンゾフェノンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく用いられる。
有機又は無機粒子(f)
本発明の歯科用重合性組成物には、硬化前の組成物のペースト性状を調整するために、また硬化物にX線造影性を付与するために、有機又は無機粒子(f)をさらに配合することができる。このような有機又は無機粒子(f)として、有機粒子、無機粒子、及び有機−無機複合粒子等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
有機粒子の素材としては、例えばポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。有機粒子の形状は特に限定されず、粒子径を適宜選択して使用することができる。
無機粒子の素材としては、石英、シリカ、アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、シリカ−ジルコニア、シリカ−アルミナ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス等が挙げられる。無機粒子の形状は特に限定されず、不定形粒子及び球状粒子等を適宜選択して使用することができる。
前記無機粒子は、(メタ)アクリル系重合性単量体(a)との混和性を調整するため、必要に応じて公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。かかる表面処理剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメトキシシラン、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルトリメトキシシラン、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメトキシシラン、7−(メタ)アクリロイルオキシヘプチルトリメトキシシラン、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルトリメトキシシラン、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルトリメトキシシラン、13−(メタ)アクリロイルオキシトリデシルトリメトキシシラン、14−(メタ)アクリロイルオキシテトラデシルトリメトキシシラン、15−(メタ)アクリロイルオキシペンタデシルトリメトキシシラン、16−(メタ)アクリロイルオキシセチルトリメトキシシラン、17−(メタ)アクリロイルオキシヘプタデシルトリメトキシシラン、18−(メタ)アクリロイルオキシステアリルトリメトキシシラン等が挙げられる。
有機−無機複合粒子とは、上述の無機粒子にモノマー化合物を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものである。有機−無機複合粒子としては、例えば、TMPT粒子(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカ粒子を混和、重合させた後に粉砕したもの)等を用いることができる。前記有機−無機複合粒子の形状は特に限定されず、粒子の粒子径を適宜選択して使用することができる。
有機又は無機粒子(f)の平均粒子径は、得られる組成物の取り扱い性及びその硬化物の機械的強度等の観点から、0.001〜50μmであることが好ましく、0.001〜10μmであることがより好ましい。
なお、本発明において、フィラーの平均粒子径は、レーザー回折散乱法や粒子の電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、0.10μm以上の粒子の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が、0.10μm以下の超微粒子の粒子系測定には電子顕微鏡観察が簡便である。前記0.10μmはレーザー回折散乱法により測定した値を意味する。
レーザー回折散乱法は、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2100:島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて測定することができる。
電子顕微鏡観察は、例えば、粒子の走査型電子顕微鏡(日立製作所製、S−4000型)写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Macview(株式会社マウンテック))を用いて測定することにより求めることができる。このとき、粒子の粒子径は、粒子の最長の長さと最短の長さの算術平均値として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均一次粒子径が算出される。
有機又は無機粒子(f)の配合量は特に限定されないが、得られる組成物の取り扱い性及びその硬化物の柔軟性の観点から、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対して、1〜500重量部が好ましく、1〜250重量部がより好ましい。
また、本発明の歯科用重合性組成物には、性能を低下させない範囲内で、公知の添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、重合禁止剤、酸化防止剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、有機溶媒、増粘剤等が挙げられる。
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノンモノメチルエーテル、t−ブチルカテコール、2−t−ブチル−4,6−ジメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン等が挙げられる。重合禁止剤の含有量は、(メタ)アクリレート系重合性単量体(a)100重量部に対して、0.001〜1.0重量部が好ましい。
本発明の歯科用重合性組成物は、特に限定されず、公知の製造方法により製造することができる。製造方法としては、例えば、前記した各成分を、常温下(25℃)で混合することにより製造することができる。
本発明の歯科用重合性組成物は、可徹性に優れる。インプラントに使用される金属及びセラミックスに対して仮着できる程度に高すぎず、かつ低すぎない程度の良好な接着性を示す。また、本発明の歯科用重合性組成物は、仮着の保持力に優れ、インプラントに使用される金属及びセラミックスに対して仮着できる程度の良好な接着耐久性を有する。従って、本発明の歯科用重合性組成物は、このような利点が生かされる歯科重合性組成物として好適に使用でき、特にインプラント用仮着セメントとして最適に使用することができる。
本発明の歯科用重合性組成物は、硬化後から37℃24時間保管した後のチタン及びセラミックスに対する引張接着強さが、2.0〜6.0MPaの範囲のものが好ましく、2.5〜5.5MPaの範囲のものがより好ましい。チタン及びセラミックスに対する引張接着強さの測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。また、本発明の歯科用重合性組成物は、チタン及びセラミックスに対する引張接着強さの変化率が30%以内のものが好ましく、20%以内のものがより好ましく、17.5%以内のものがさらに好ましく、10%以内のものが特に好ましい。引張接着強さの変化率の測定方法は、後記する実施例に記載のとおりである。
仮着セメントの好適な構成の一例を示す。仮着セメントは、重合性組成物全体の(メタ)アクリル系重合性単量体(a)100重量部に対し、有機ケイ素化合物(b)を0.1〜40重量部、軟化剤(c)を5〜50重量部、重合開始剤(d)を0.01〜20重量部、重合促進剤(e)を0.01〜20重量部含み、かつ無機粒子(f)を1〜500重量部含むことが好ましく、有機ケイ素化合物(b)を1.0〜30重量部、軟化剤(c)を5〜40重量部、重合開始剤(d)を0.1〜10重量部、重合促進剤(e)を0.1〜10重量部含み、かつ無機粒子(f)を1〜250重量部含むことがより好ましい。
本発明の歯科用重合性組成物は、シリンジ容器に収納して使用することができる。歯科用重合性組成物が2材型の場合には、例えば、並列に連結された2本のシリンジ容器に各材を収納することができ、シリンジ容器が、その先端にミキシングチップ等の混合器をさらに備えていてもよい。
本発明の歯科用重合性組成物が2材型の場合、例えば、A材(第1材)が、(メタ)アクリル系重合性単量体(a)、式[I]で表される有機ケイ素化合物(b)、軟化剤(c)及び重合開始剤(d)を含み、B材(第2材)が、(メタ)アクリル系重合性単量体(a)及び軟化剤(c)を含む2材型の態様が好ましい。また、前記2材型の態様において重合促進剤(e)を含む場合、B材(第2材)に重合促進剤(e)を含む態様が好ましい。さらに、前記2材型の態様において重合開始剤(d)が化学重合開始剤(d−1)及び光重合開始剤(d−2)である場合、A材(第1材)が化学重合開始剤(d−1)及び光重合開始剤(d−2)を含む態様が好ましい。前記した2材型の歯科用重合性組成物における各成分の種類及び配合量は、上述のとおりである。
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例の歯科用重合性組成物の成分を略号と共に以下に記す。
[(メタ)アクリル系重合性単量体(a)]
EHM:2−エチルヘキシルメタクリレート
DD:1,10−デカンジオールジメタクリレート
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
[有機ケイ素化合物(b)]
10MUS:10−メタクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン
11MUS:11−メタクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン
[軟化剤(c)]
SIS:ポリスチレン−ポリビニルイソプレン−ポリスチレントリブロック共重合体(クラレ製「ハイブラー5127」,Mw:120000)
LMB:ポリメチルメタクリレート−ポリブチルアクリレートジブロック共重合体(クラレ製「クラリティ1114」,Mw:75000)
PBM:ポリブチルメタクリレート(根上工業製「ハイパール6003」,Mw250000)
LIR:ポリイソプレン(クラレ製「LIR200」,Mw25000)
[化学重合開始剤(d−1)]
THP:1,1,3,3−テトラメチルハイドロパーオキサイド
[光重合開始剤(d−2)]
BAPO:ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド
[重合促進剤(e)]
PTU:1−(2−ピリジル)−2−チオ尿素
VOAA:バナジルアセチルアセトナート
[無機粒子(f)]
無機粒子(f)−1は、以下の製造方法に従って得られる。
無機粒子(f)−1:3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン処理バリウムガラス粉
バリウムガラス(エステック社製「E−3000」)を振動ボールミルで粉砕し、バリウムガラス粉を得た。得られたバリウムガラス粉100g、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン0.5g及びトルエン200mlを500mlの一口ナスフラスコに入れ、室温で2時間撹拌した。続いて、減圧下トルエンを留去した後、40℃で16時間真空乾燥し、さらに90℃で3時間真空乾燥し、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン処理バリウムガラス粉(無機粒子(f)−1)を得た。無機粒子(f)−1の平均粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、型式「SALD−2100」)を用いて測定したところ、2.4μmであった。
[重合禁止剤]
BHT:3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン
実施例1〜12及び比較例1〜3
下記表1〜表3に示す原料を常温下(25℃)で混合して、Aペースト及びBペーストを調製し、更に該Aペースト及び該Bペーストを体積比1:1で混合することにより実施例及び比較例の歯科用重合性組成物を得た。得られた歯科用重合性組成物のチタン及びセラミックスとの接着性、並びに可徹性は、以下のようにして測定又は評価した。
試験例1(チタンとの接着性)
縦横10mm×厚さ5mmのチタン片(株式会社松風製、チタン100、チタン含有率99.5%以上)を流水下にて#1000シリコン・カーバイド紙(日本研紙株式会社製)で研磨して平滑面を得た後、表面の水を歯科用エアシリンジで吹き飛ばした。
チタン片の平滑面に、直径5mmの丸孔を有する厚さ150μmの粘着テープを貼付して接着面積を規定した。次いで、歯科用重合性組成物を丸孔内に充填し、丸孔から溢れた余剰分は、カミソリで表面が平滑になるように除去した後、25℃の室内で1時間静置して歯科用重合性組成物を硬化させた。得られた歯科用重合性組成物の未重合層を残した硬化物に対して、市販の歯科用レジンセメント(クラレメディカル株式会社製、パナビア21)を用いてステンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)を圧着した。圧着後、当該サンプルを30分間室温で静置した後、蒸留水に浸漬した。接着試験供試サンプルは計10個作製し、蒸留水に浸漬したすべてのサンプルを、37℃に保持した恒温器内に24時間保管した(37℃24hrサンプル)。続いて、該37℃24hrサンプル10個のうち、半分の5個を4℃と60℃の水にそれぞれ1分ずつ浸漬する動作を3000回繰り返した(TC3000サンプル)。
上記の接着試験供試サンプルの引張接着強さを、万能試験機(島津製作所社製、オートグラフAG−100kNI)にて、クロスヘッドスピード2mm/minで測定し、平均値を引張接着強さとした。37℃24hrサンプル、TC3000サンプルともに、接着強さが1.0MPa未満の場合、接着力が低すぎて脱落原因となる。また、37℃24hrサンプルとTC3000サンプルの引張接着強さの変化率が30%以内であると、仮着の保持力に優れる。
引張接着強さの変化率(%)
=[1−(TC3000サンプルの引張接着強さ/37℃24hrサンプルの引張接着強さ)]×100
試験例2(ジルコニアとの接着性)
試験例1のチタン100をジルコニア片(クラレノリタケデンタル社製、カタナ)に変えたこと以外、試験例1と同様にして試験した。
試験例3(可徹性)
図1に記載のチタン製のアバットメント模型と、図2に記載の歯冠部模型(ナビック社製)を作製した。歯冠部模型側に歯科用重合性組成物を充填し、アバットメント模型と歯冠部模型を圧着した。37℃の恒温室に30分間静置して、歯科用重合性組成物を硬化させた後、硬化した余剰セメントを歯科用スケーラーで除去した。続いて、37℃の蒸留水に24時間浸漬した。可徹試験供試サンプルは計5個作製した。
上記の可徹試験供試サンプルの可徹性は、歯科用クラウンリムーバー(YDM社製)を台に固定された歯冠部模型とアバットメント模型の間に引掻けた後、ノックして、脱落するまでのノックの回数を数えることによって評価した。この試験において、ノック回数が3回以下の場合、可徹性に優れる。
表1及び表2の結果より、式[I]で表される有機ケイ素化合物(b)を含有する実施例の歯科用重合性組成物は、チタン及びジルコニアに対して仮着に適した接着性と仮着の保持力を有していることがわかる。さらに、歯冠部を撤去する際、リムーバーによるノック回数が少なく、可徹性にも優れていることがわかる。一方、表3の結果より、式[I]で表される有機ケイ素化合物(b)を含有しない比較例の歯科用重合性組成物は、仮着セメントに必要な仮着の保持力と可徹性を満たすことができないことがわかる。以上より、本発明の歯科用重合性組成物は、とりわけインプラント用仮着セメントに好適であることがわかる。