JPWO2013183102A1 - 信号処理装置 - Google Patents

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Abstract

対象とする信号の過大入力を推定する過大入力推定部102と、過大入力推定部102によって推定された過大入力情報をもとに、対象とする信号の過大入力を緩和する周波数特性を算出する制御部105と、制御部105が算出した周波数特性に基づいて、対象とする信号の周波数特性を変形する周波数特性変形部103とを備える。

Description

この発明は、本発明は、音響信号再生における歪みや音割れを改善する信号処理技術に関するものである。
音楽やアナウンス音などの音響信号をスピーカで再生するスピーカ再生システムでは、歪みや音割れによって音質が劣化することがある。歪みや音割れの原因は2つに大別される。第一は、スピーカへの入力信号が歪んでいるケースであり、第二は、入力信号は歪んでいなくてもスピーカの再生限界を超えることで歪みや音割れが発生するケースである。
第一のケースについては、以下のように説明することができる。最近の音響信号再生システムではデジタル処理によって周波数特性を補正したり、音量を調整したりする装置が増えてきている。周波数特性の補正では、例えば高周波数成分を10dB増強すると、−10dBFS以上の音量値でデジタル信号が飽和する可能性がうまれる。なお0dBFSはデジタル信号の最大振幅値を表す。このため、大音量時に再生音がデジタル的に歪んでしまい、音質が劣化してしまうこととなる。この様子を図2に示す。
図2において、縦軸はデジタル信号の振幅強度を、横軸は周波数を示す。また、信号が飽和して音割れの発生する領域をグレーで示し、その境界を太線で示す。201、202、203は、周波数特性が補正されたデジタル音響信号の周波数特性の一例を示しており、201は音量値が小さいときの特性、202は音量値が中程度のときの特性、203は音量値が大きいときの特性である。201や202の音量値では、音響信号は0dBFSを超えないため、音割れが発生せず、本来の音質で楽しむことができる。しかし、203のように音量を上げてしまうと、高周波数成分の一部の信号強度が0dBFSを超えてしまい、デジタル的に飽和してしまうこととなる。信号が飽和すると歪みや音割れが発生して音質が劣化する。
このように、周波数特性が補正されたデジタル信号を大音量で再生しようとすると、特定の周波数成分がデジタル信号の最大振幅値となる0dBFSを超えるケースがあるため、これが原因で信号が飽和して歪みや音割れが発生することとなる。
次に、第二のケース、すなわちスピーカの再生限界を超えることで歪みや音割れが発生するケースについて説明する。
スピーカ再生では、スピーカの振動板が振れることのできる最大の変位幅があり、これを超えるような信号を入力するとスピーカ振動板がうまく振動することができなくなって歪みや音割れが発生する。ここで、スピーカ振動板の変位幅は入力信号の周波数に依存する。この関係を図3に示す。図3は、電圧(V)を変化させずに、信号の周波数のみを変化させてスピーカに入力したときにおけるスピーカ振動板の変位幅を示している。なお、図3は、実際にはスピーカの制動度合いを示すQ値等の違いによってF0近傍の特性が図3よりも膨らんだり平らになったりするが、おおまかな傾向は変わらない。また、変位幅の特性が図3に示す特性と異なっているスピーカに対しても本発明を適用することができるため、説明上の利点から、スピーカ振動板の変位幅の特性を図3と見做して以下の説明を行う。
図3より、スピーカ振動板の変位幅は、F0(スピーカの最低共振周波数)よりも低い周波数成分でほぼ一定値となり、F0よりも高い周波数成分では、およそ−12dB/octの傾斜で変位幅が減少していく。これは、F0近傍以下の低い周波数成分をスピーカに入力したほうが、高い周波数成分を入力するよりもスピーカ振動板がより大きい変位幅で振れることを示している。したがって、低い周波数成分を多く含む信号をスピーカに入力し、その電圧を上げていくと、ある電圧以上で振動板の最大変位幅を超えてしまうこととなる。すなわち、低い周波数成分が多く含まれる信号ほど、また、電圧を上げるほど、スピーカの再生限界を超えやすくなると言える。この様子を図4に示す。
図4において、縦軸は信号の振幅強度を、横軸は周波数を示す。また、スピーカ振動板の変位限界を超えて音割れの発生する領域をグレーで示し、その境界を太線で示す。ここで、図4の特性は音響信号の振幅値に対する特性なので、図3に示したスピーカの変位幅の特性とは異なり、スピーカ振動板の変位限界は+12dB/octの傾斜となる。
また、401、402、403は、スピーカで再生する音響信号の周波数特性を示しており、特に低周波数成分を多く含むケースを想定している。401は音量値が小さいときの特性、402は音量値が中程度のときの特性、403は音量値が大きいときの周波数特性である。401のように小さな音量値で再生する分には、低周波数成分を多く含む音響信号でもスピーカ振動板の最大変位幅を超えないため、音割れが発生せず、本来の音質で楽しむことができる。しかし、402や403のように音量を上げてしまうと、スピーカ振動板の最大変位幅を超えてしまうため、歪みや音割れが発生して音質が劣化することとなる。
このように、振動板の最大変位幅を超えるような信号を入力すると、振動板がうまく振動できなくなって歪みや音割れが発生することとなる。
歪みや音割れは、本来の音響信号には含まれない音であるため、音楽を楽しもうとするときの大きな阻害要因となる。
この問題に対して、従来では図13に示す処理構成によって歪みや音割れを緩和していた。図13では、入力信号1301に対して、低周波数成分を抑圧するHPF(高域通過フィルタ)1302を通してから信号1303を出力する構成となっている。このような構成にすることによって、スピーカに入力する前に、音割れの原因となる低周波数成分を抑圧することができるため、歪みや音割れの発生する割合を減少させることができる。しかし、従来の技術では、HPF1302によって低周波数成分を抑圧してしまうため、例えば、再生する信号の低周波数成分が少なく、大電圧でスピーカを駆動しても音割れが発生しないような場合にも、常に低域成分が抑圧されてしまって本来の音を再生できなくなるという課題がある。また、それほど大きな電圧で駆動せず、高域通過フィルタ1302を通さなくとも音割れが発生しないようなケースでも、低周波成分を常に抑圧してしまうため、本来の音を再生できなくなるという課題もある。すなわち、従来の技術では、大電圧駆動時(大音量時)の音割れ防止のために、低周波数成分を過剰に抑圧して本来の音質を楽しめなくなるという課題がある。
この課題を緩和する技術として、例えば、特許文献1に開示されている技術がある。図14は特許文献1に開示されている振幅制限装置の処理ブロックである。特許文献1によれば、過大入力を抑えるための振幅制限において、振幅制限特性による歪の量を検出し,この値に基づいて周波数帯域毎のゲインを制御することで、振幅制限による音質劣化を緩和している。
特開2009−147701号公報
しかしながら、上述した特許文献1に開示された技術では、抑圧する周波数成分が分割する帯域幅に制限されるため、本来抑圧しなくても良い周波数成分まで過剰に抑圧して音質が劣化してしまうという課題があった。例えば、BPF(帯域通過フィルタ)によってサブバンドに分割する帯域幅が100Hzの場合を考える。このとき、60Hz以下の周波数成分に大きな強度を持つ信号を入力すると、本来ならば60Hz以下の信号成分のみを抑圧すれば音割れが発生しないことになる。然しながら、同技術では0〜100Hzの信号成分全体の強度を抑圧してしまうため、抑圧すべき周波数成分以外の成分(60〜100Hzの成分)も抑圧されてしまうこととなる。また、図3に示した通り、スピーカ振幅板の変位幅は周波数特性を持つが、特許文献1に開示されている振幅制限装置では、変位幅の周波数特性を反映させた処理構成とはなっていない。このため、スピーカ振動板の最大変位を超えることによって発生する音割れを防止する機能を有していないと言える。
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、音質を保持したままスピーカ再生における歪み、音割れを防ぐことが可能な信号処理装置を提供することを目的とする。
この発明に係る信号処理装置は、対象とする信号の過大入力を推定する過大入力推定部と、過大入力推定部によって推定された過大入力情報をもとに、対象とする信号の過大入力を緩和する周波数特性を算出する制御部と、制御部が算出した周波数特性に基づいて、対象とする信号の周波数特性を変形する周波数特性変形部とを備えるものである。
この発明によれば、音質を保持した状態でスピーカ再生における歪み、音割れを防ぐことができる。
実施の形態1による信号処理装置の原理説明図である。 デジタル信号の振幅限界と音源の周波数特性の関係を示す図である。 スピーカ振動板の変位特性を示す図である。 スピーカの振動限界と音源の周波数特性の関係を示す図である。 実施の形態2による信号処理装置の原理説明図である。 実施の形態3による信号処理装置の原理説明図である。 実施の形態4による信号処理装置の原理説明図である。 実施の形態4による信号処理装置の2つのゲイン係数による周波数特性の 実施の形態5による信号処理装置の原理説明図である。 実施の形態5による信号処理装置の2つのゲイン係数による周波数特性の遷移を示す説明図である。 実施の形態6による信号処理装置の原理説明図である。 実施の形態6による信号処理装置の3つのゲイン係数による周波数特性の遷移を示す説明図である。 従来技術の原理説明図である。 従来技術の振幅制限装置の処理ブロック図である。
以下、この発明をより詳細に説明するために、この発明を実施するための形態について、添付の図面に従って説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の原理説明図である。以下、本発明の動作について説明する。
本発明による信号処理装置に入力された入力信号101は分岐され、過大入力推定部102と、周波数特性変形部103に送られる。
過大入力推定部102では、入力信号101が対象スピーカに対して過大入力となるかどうか、あるいはデジタル信号の最大振幅値を超えているかどうかを推定し、推定結果信号104を制御部105へ向けて出力する。
制御部105では、過大入力推定部102から入力された推定結果信号104を用いて、入力信号101が過大入力にならないような周波数特性を算出し、この周波数特性を実現するパラメータ106を周波数特性変形部103に向けて出力する。パラメータ106の具体例としては、周波数特性を変形させるフィルタ係数である。
周波数特性変形部103は、制御部105から送られてきたパラメータ106に従い、入力信号101の周波数特性を変形させて、出力信号107を出力する。パラメータ106がフィルタ係数であれば、周波数特性部ではこの係数106を用いてフィルタ処理を行う。
以上のように、実施の形態1の処理構成により、再生音響信号が過大入力になることを防ぐことが可能となる。このため、本発明によって、歪みや音割れを抑圧することができるという効果が得られる。また、制御部によって、できるだけ周波数特性の変形を少なくして歪みや音割れが発生しなくなるようにすることで、必要最小限の周波数特性変化で歪みや音割れを防止することができるという効果も得られる。
実施の形態2.
図5は本発明の別の実施例を示す図である。本実施例では、スピーカ振動板の変位限界を超えないように音響信号の周波数特性を変形させる例を示している。以下、本実施例の動作について説明する。
本発明による信号処理装置に入力された入力信号101は分岐され、過大入力推定部102と、周波数特性変形部103に送られる。
本実施例の過大入力推定部102は、スピーカ振動板変位推定部501から構成されていることが特徴である。スピーカ振動板変位推定部501では、ボリューム値や対象スピーカのF0等の情報502と入力信号101とからスピーカ振動板の変位値を推定する。変位値推定の具体例としては、F0をカットオフ周波数とする2次IIRフィルタによるLPFを用意し、これに入力信号101を通してからボリューム値を乗算することで、対象スピーカの変位幅に概略比例した値が求められる。また、2次IIRフィルタによるLPFではQ値を変更させることも可能なので、対象スピーカの制動度合いに応じてQ値を変えて推定精度を向上させることもできる。もちろん他の方法、例えばFIRフィルタで対象スピーカの振動板変位特性を模擬しても良い。
このように求めたスピーカ変位値を推定結果信号104として制御部105へ向けて出力する。
制御部105では、入力された推定結果信号104に対してHPF処理を行い、変位推定信号の振幅値が所定の閾値以内に収まるようなHPFのフィルタ係数を求める。所定の閾値とは対象スピーカの振動板の最大変位幅に概略相当する値である。また、HPFのフィルタ係数の算出方法としては、まず、HPFのカットオフ周波数を低く設定(例えば20Hzに設定)し、徐々にカットオフ周波数を上げていって、HPFの出力信号の振幅値が閾値以下になるカットオフ周波数を求めればよい。また、このときのフィルタ係数を周波数特性変形部103へ向けて出力する。
本実施例による周波数特性変形部103は可変フィルタ503から構成されている。可変フィルタ503は、制御部105から送られてきたフィルタ係数106を用いて、入力信号101をフィルタ処理し、得られた信号を出力信号107として出力する。
以上のように、実施の形態2の処理構成により、主に低周波数成分の強度が支配的なスピーカ振動板の変位幅を抑圧することができるため、歪みや音割れを防ぐことができるという効果が得られる。また、本実施例の制御部では、HPFのカットオフ周波数をできるだけ小さな値にすることができるため、必要最小限の周波数特性の変化で歪みや音割れを防止することができるという効果も得られる。
実施の形態3.
図6は本発明の別の実施例を示す図である。本実施例では、高周波数成分の補正が多いような周波数特性補正を施されたデジタル音響信号において、デジタル信号の最大振幅を超えないように信号の周波数特性を変形させる例を示している。以下、本実施例の動作について説明する。
本発明による信号処理装置に入力された入力信号101は分岐され、過大入力推定部102と、周波数特性変形部103に送られる。
本実施例の過大入力推定部102は、デジタル信号振幅算出部601から構成されていることが特徴である。デジタル信号振幅算出部601では、ボリューム値602と入力信号101を乗算してボリューム処理後の振幅値を求め、求めた振幅値を推定結果信号104として制御部105へ向けて出力する。
制御部105では、入力された推定結果信号104、すなわち振幅値に対してLPF処理を行い、LPF処理後の信号が所定の閾値以内に収まるようなLPFのフィルタ係数を求める。所定の閾値とは通常は0dBFSを設定するがこれに限らず、スピーカ耐入力とアンプ出力との整合がとれておらず、アンプの出力を制限させたい場合などにはこれよりも小さい値を設定してもよい。また、LPFのフィルタ係数の算出方法としては、まず、LPFのカットオフ周波数を高く設定(例えば20KHzに設定)し、徐々にカットオフ周波数を下げていって、LPFの出力信号の振幅値が閾値以下となるカットオフ周波数を求めればよい。また、このときのフィルタ係数を周波数特性変形部103へ向けて出力する。
本実施例による周波数特性変形部103も実施例2と同様に可変フィルタ503から構成されている。可変フィルタ503は、制御部105から送られてきたフィルタ係数106を用いて、入力信号101をフィルタ処理し、得られた信号を出力信号107として出力する。
以上のように、実施の形態3の処理構成により、高周波数成分を多く補正しているようなデジタル音響信号の振幅値を抑圧することができ、歪みや音割れを抑圧することができるという効果が得られる。また、本実施例の制御部では、LPFのカットオフ周波数をできるだけ大きな値にすることができるため必要最小限の周波数特性の変化で歪みや音割れを防止することができるという効果も得られる。
実施の形態4.
図7は本発明の別の実施例を示す図である。本実施例では、周波数特性変形部103を可変フィルタではなく、固定フィルタと位相補正と複数の乗算器と加算器から構成している点が特徴である。本実施例の動作について説明する。
本発明による信号処理装置に入力された入力信号101は分岐され、位相補正部701とHPF702に送られる。
位相補正部701は入力信号101の周波数振幅特性を変えずに、HPF702の位相特性と略同一の特性となるように位相特性のみを補正し、得られた信号703を第一の乗算器705と過大入力推定部102に向けて出力する。
HPF702は入力信号101をフィルタ処理し、得られた信号704を第二の乗算器706と過大入力推定部102に向けて出力する。
ここで、HPF702と略同一の位相特性となるように位相を補正する位相補正部701の実現方法について説明する。HPF702を2次IIRフィルタ1段で実現する場合、その位相特性はカットオフ周波数のところで丁度90度回転し、それ以降の周波数成分では180度まで徐々に回転することとなる。このような位相特性を実現する位相補正部は、1次IIRフィルタによる全域通過フィルタで構成することができる。また、HPFを2次IIRフィルタ2段で実現する場合、位相特性はカットオフ周波数のところで丁度180度回転し、それ以降の周波数成分では360度まで徐々に回転することとなる。このような位相特性を実現する位相補正部は2次IIRフィルタによる全域通過フィルタで構成することができる。また、HPFを2次IIRフィルタN段で実現する場合、1次IIRと2次IIRの全域通過フィルタを適切に直列接続することで同じ位相特性を実現することができる。また、HPFをFIRフィルタで実現する場合、位相特性は直線位相となるため、位相補正部はサンプル遅延処理で構成することができる。このようにHPF702と同じ位相特性となるような位相補正部701を実現することができる。
本実施例の過大入力推定部102は、実施例2と同様にスピーカ振動板変位推定部501から構成されている。スピーカ振動板変位推定部501では、ボリューム値や対象スピーカのF0等の情報502を用いて、信号703を再生したときのスピーカ振動板の変位値を推定し、第一のスピーカ振動板変位値707を求める。同様に、信号704を再生したときのスピーカ振動板の変位値を推定し、第二のスピーカ振動板変位値708を求める。変位値推定の具体例としては、実施例2と同様の方法で求められるため詳細説明を省略する。
このように求めた2つのスピーカ振動板変位値707、708を制御部105へ向けて出力する。
制御部105では、入力された2つのスピーカ振動板変位値707、708に対して、夫々異なるゲイン係数を乗じてから加算したときに、振幅値の絶対値が所定の閾値以内に収まるような2つのゲイン係数を求める。ただし、2つのゲイン係数の合計を1とする。
このような条件で2つのゲイン係数を変えていくと、異なった低域減衰効果を実現することができる。図8は、HPF702を、カットオフ周波数80Hzの2次IIRフィルタ2段で実現し、位相補正部701を、カットオフ周波数80Hzの2次IIRの全域通過フィルタ1段で実現した時の2つのゲイン係数による周波数特性の遷移を表している。また、図8において、スピーカ振動板変位値707に対するゲイン係数をA1、スピーカ振動板変位値708に対するゲイン係数をA2としたとき、801はX1=1.0、X2=0.0の特性、802はX1=0.1、X2=0.9の特性、803は、X1=0.0、X2=1.0の特性を示す。このように、完全に平坦な特性(X1=1.0、X2=0.0)から、カットオフ周波数80Hzの2次IIRフィルタ2段と同じ特性(X1=0.0、X2=1.0)となる間で異なった低域減衰特性を実現できることがわかる。また、カットオフ周波数以上の周波数成分については、合計1となる割合で位相の揃った成分を加算するため、強度の増減はなく平坦な特性を保つことができる。
このような2つのゲイン係数の具体的な算出法としては、スピーカ振動板変位値707をX1、スピーカ振動板変位値707をX2、X1に対するゲイン係数をA1、X2に対するゲイン係数をA2、所定の閾値をTとすると、以下の式(1)を満たすA1、A2を求めることで実現できる。
T>ABS(X1×A1+X2×A2) ・・・(1)
A1+A2=1
なお、ABS(x)はxの絶対値を表す。
また、周波数特性の変形を必要最小限に抑えるためには、上述した式(1)を満たすA1、A2の組み合わせの中で、A1の値が1に近くなる組み合わせを求めることが好ましい。これはA1が位相特性のみを補正した信号を元にした信号でありX1を1に近づけるほど周波数特性の変形が少なくなるからである。このようなゲイン係数を求めるためには、まず、A1=1として、A1の値を徐々に小さくしながらABS(X1×A1+X2×A2)の値を求め、Tよりも小さくなった時点のA1、A2を採用すれば良い。
このように求めたA1をゲイン係数709として第一の乗算器705に向けて出力する。また、A2をゲイン係数710として第二の乗算器706に向けて出力する。
第一の乗算器705では、入力された信号703とゲイン係数709を乗じて、得られた信号711を加算器713に向けて出力する。
第二の乗算器706では、入力された信号704とゲイン係数710を乗じて、得られた信号712を加算器713に向けて出力する。
加算器713では、入力された2つの信号711、712を加算し、得られた信号を出力信号107として出力する。
以上のように、この実施の形態4の処理構成により、周波数特性変形部や制御部を簡易に実現することができるという効果がある。
実施の形態5.
実施例4で説明したHPF702をLPFに置き換えることで、高周波数成分の補正が多いような周波数特性補正を施されたデジタル音響信号において、デジタル信号の最大振幅を超えないように信号の周波数特性を変形させることも可能である。図9はHPF702をLPFに置き換えた場合の実施例を示す処理構成である。
本発明による信号処理装置に入力された入力信号101は分岐され、位相補正部701とLPF901に送られる。
位相補正部701は入力信号101の周波数振幅特性を変えずに、LPF901の位相特性と略同一の特性となるように位相特性のみを補正し、得られた信号703を第一の乗算器705と過大入力推定部102に向けて出力する。
LPF901は入力信号101をフィルタ処理し、得られた信号902を第二の乗算器706と過大入力推定部102に向けて出力する。
ここで、位相補正部701は、実施例4と同様に全域通過フィルタないしサンプル遅延処理で実現することができるため詳しい説明を省略する。
本実施例の過大入力推定部102は、実施例3と同様にデジタル信号振幅算出部601から構成されている。デジタル信号振幅算出部601では、ボリューム値602と入力信号703を乗算して第一の振幅値(スピーカ振動板変位値)707を求める。同様に、ボリューム値602と入力信号902を乗算して第二の振幅値(スピーカ振動板変位値)708を求める。
このように求めた第一および第二の振幅値707、708を制御部105へ向けて出力する。
制御部105では、入力された2つの振幅値707、708に対して、2つの異なるゲイン係数を乗じてから加算したときに、振幅値の絶対値が所定の閾値以内に収まるような2つのゲイン係数を夫々求める。ただし、2つのゲイン係数の合計を1とする。
このような条件で2つのゲイン係数を変えていくと、異なった高域減衰効果を実現することができる。図10は、LPF901を、カットオフ周波数6000Hzの2次IIRフィルタ2段で実現し、位相補正部701を、カットオフ周波数6000Hzの2次IIRの全域通過フィルタ1段で実現した時の2つのゲイン係数による周波数特性の遷移を表している。また、図10において、スピーカ振動板変位値707に対するゲイン係数をA1、スピーカ振動板変位値708に対するゲイン係数をA2としたとき、1001はX1=1.0、X2=0.0の特性、1002はX1=0.1、X2=0.9の特性、1003は、X1=0.0、X2=1.0の特性を示す。このように、完全に平坦な特性(X1=1.0、X2=0.0)から、カットオフ周波数6000Hzの2次IIRフィルタ2段の特性(X1=0.0、X2=1.0)まで、異なった高域減衰特性を実現できることがわかる。また、カットオフ周波数以下の周波数成分については、合計1となる割合で位相の揃った成分を加算するため、強度の増減はなく平坦な特性を保つことができる。このような2つのゲイン係数の具体的な算出法としては、実施例4と同様に求められるため、説明を省略する。
このように求めたA1をゲイン係数709として第一の乗算器705に向けて出力する。また、A2をゲイン係数710として第二の乗算器706に向けて出力する。
第一の乗算器705では、入力された信号703とゲイン係数709を乗じて、得られた信号711を加算器713に向けて出力する。
第二の乗算器706では、入力された信号704とゲイン係数710を乗じて、得られた信号712を加算器713に向けて出力する。
加算器713では、入力された2つの信号711、712を加算し、得られた信号を出力信号107として出力する。
以上のように、この実施の形態5の処理構成により、周波数特性変形部や制御部を簡易に実現することができるという効果がある。
実施の形態6.
実施例4、5では、1つの位相補正部と1つのHPFないしLPFにて周波数特性変形部103を実現していたが、これに限らず、複数の位相補正部と複数のHPFないしLPFにて周波数特性変形部103を実現しても良い。
図11は、3つの位相補正部と3つHPFにて周波数特性変形部を実現した例を示す図である。以下、本実施例の動作について説明する。
本発明による信号処理装置に入力された入力信号101は3つに分岐され、第一のHPF1101と第二のHPF1102、第三のHPF1103に送られる。
第一のHPF1101では、入力信号をフィルタ処理し、得られた信号1104を第一の位相補正部1107に向けて出力する。
第二のHPF1102では、入力信号をフィルタ処理し、得られた信号1105を第二の位相補正部1108に向けて出力する。
第三のHPF1103では、入力信号をフィルタ処理し、得られた信号1106を第三の位相補正部1109に向けて出力する。
第一の位相補正部1107では、信号の周波数振幅特性を変えずに、第二のHPF1102と第三のHPF1103とを両方処理したときの位相特性と略同一の特性となるように位相特性のみを補正し、得られた信号1110を第一の乗算器1113と過大入力推定部102に向けて出力する。
第二の位相補正部1108では、信号の周波数振幅特性を変えずに、第一のHPF1101と第三のHPF1103とを両方処理したときの位相特性と略同一の特性となるように位相特性のみを補正し、得られた信号1111を第二の乗算器1114と過大入力推定部102に向けて出力する。
第三の位相補正部1109では、信号の周波数振幅特性を変えずに、第一のHPF1101と第二のHPF1102とを両方処理したときの位相特性と略同一の特性となるように位相特性のみを補正し、得られた信号1112を第三の乗算器1115と過大入力推定部102に向けて出力する。
ここで、各位相補正部は実施例4と同様に全域通過フィルタないしサンプル遅延処理で実現することができるため詳しい説明を省略する。
本実施例の過大入力推定部102は、スピーカ振動板変位推定部501から構成されている。スピーカ振動板変位推定部501では、ボリューム値や対象スピーカのF0等の情報502を用いて、信号1110を再生したときのスピーカ振動板の変位値を推定し、第一のスピーカ振動板変位値1116を求める。同様に、信号1111を再生したときのスピーカ振動板の変位値を推定し、第二のスピーカ振動板変位値1117を求める。同様に、信号1112を再生したときのスピーカ振動板の変位値を推定し、第三のスピーカ振動板変位値1118を求める。
変位値推定の具体例としては、実施例2と同様の方法で求められるため詳細説明を省略する。
このように求めた3つのスピーカ振動板変位値1116、1117、1118を制御部105へ向けて出力する。
制御部105では、入力された3つのスピーカ振動板変位値1116、1117、1118に対して、夫々異なるゲイン係数を乗じてから加算したときに、振幅値の絶対値が所定の閾値以内に収まるような3つのゲイン係数を求める。ただし、3つのゲイン係数の合計を1とする。
このような条件で3つのゲイン係数を変えていくと、異なった低域減衰効果を実現することができる。図12は、第一のHPF1101を、カットオフ周波数30Hzの2次IIRフィルタ2段で実現し、第二のHPF1102を、カットオフ周波数70Hzの2次IIRフィルタ2段で実現し、第三のHPF1103を、カットオフ周波数140Hzの2次IIRフィルタ4段で実現し、第一の位相補正部1107をカットオフ周波数70Hzの2次IIRフィルタ1段とカットオフ周波数140Hzの2次IIRフィルタ2段とを直列に接続して実現し、第二の位相補正部1108をカットオフ周波数30Hzの2次IIRフィルタ1段とカットオフ周波数140Hzの2次IIRフィルタ2段とを直列に接続して実現し、第三の位相補正部1109をカットオフ周波数30Hzの2次IIRフィルタ1段とカットオフ周波数70Hzの2次IIRフィルタ1段とを直列に接続して実現したときの3つのゲイン係数による周波数特性の遷移を表している。
また、図12において、スピーカ振動板変位値1116に対するゲイン係数をA1、スピーカ振動板変位値1117に対するゲイン係数をA2、スピーカ振動板変位値1118に対するゲイン係数をA3としたとき、1201はX1=1.0、X2=0.0、X3=0.0の特性、1202はX1=0.1、X2=0.9、X3=0.0の特性、1203は、X1=0.0、X2=1.0、X3=0.0の特性、1204は、X1=0.0、X2=0.1、X3=0.9の特性、1205は、X1=0.0、X2=0.0、X3=1.0の特性を示す。このように、完全に平坦な特性(X1=1.0、X2=0.0、X3=0.0)から、カットオフ周波数140Hzの2次IIRフィルタ4段の特性(X1=0.0、X2=0.0、X3=1.0)まで、異なった高域減衰特性を実現できることがわかる。また、カットオフ周波数以下の周波数成分については、合計1となる割合で位相の揃った成分を加算するため、強度の増減はなく平坦な特性を保つことができる。
また、このような3つのゲイン係数の具体的な算出法としては、スピーカ振動板変位値1116をX1、スピーカ振動板変位値1117をX2、スピーカ振動板変位値1118をX3、X1に対するゲイン係数をA1、X2に対するゲイン係数をA2、X3に対するゲイン係数をA3、所定の閾値をTとすると、以下の式(2)を満たすA1、A2、A3を求めることで実現できる。
T>ABS(X1×A1+X2×A2+X3×A3) ・・・(2)
A1+A2+A3=1
なお、ABS(x)はxの絶対値を表す。
このように求めたA1をゲイン係数1119として第一の乗算器1113に向けて出力する。また、A2をゲイン係数1120として第二の乗算器1114に向けて出力する。また、A3をゲイン係数1121として第三の乗算器1115に向けて出力する。
第一の乗算器1113では、入力された信号1110とゲイン係数1119を乗じて、得られた信号1122を加算器713に向けて出力する。
第二の乗算器1114では、入力された信号1111とゲイン係数1120を乗じて、得られた信号1123を加算器713に向けて出力する。
第二の乗算器1115では、入力された信号1112とゲイン係数1121を乗じて、得られた信号1124を加算器713に向けて出力する。
加算器713では、入力された3つの信号1122、1123、1124を加算し、得られた信号を出力信号107として出力する。
以上のように、この実施の形態6の処理構成により、3つの位相補正と3つのHPFにて周波数特性変形部を実現することができ、周波数特性変形部にて、実施例4、5よりも通常のHPFに近い特性を実現できるという効果が得られる。
もちろん、位相補正とHPFの個数を増やすことで、さらに通常のHPFに近い特性を実現できるようになる。また、本構成のHPFをLPFに置き換えることにより、高周波数成分の補正が多いような周波数特性補正を施されたデジタル音響信号において、デジタル信号の最大振幅を超えないように信号の周波数特性を変形させることも可能となる。
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
以上のように、この発明に係る信号処理装置は音響信号再生における歪みや音割れを改善することができ、オーディオ再生装置などに利用することができる。
101 入力信号、102 過大入力推定部、103 周波数特性変形部、104 推定結果信号、105 制御部、106 パラメータ、107 出力信号、501 スピーカ振動板変位推定部、502 情報、503 可変フィルタ、602 ボリューム値、701 位相補正部、702 HPF、705 第一の乗算器、706 第二の乗算器、713 加算器、901 LPF、1101 第一のHPF、1102 第二のHPF、1103 第三のHPF、1107 第一の位相補正部、1108 第二の位相補正部、1109 第三の位相補正部、1113 第一の乗算器、1114 第二の乗算器、1115 第三の乗算器。
本発明は、音響信号再生における歪みや音割れを改善する信号処理技術に関するものである。
音楽やアナウンス音などの音響信号をスピーカで再生するスピーカ再生システムでは、歪みや音割れによって音質が劣化することがある。歪みや音割れの原因は2つに大別される。第一は、スピーカへの入力信号が歪んでいるケースであり、第二は、入力信号は歪んでいなくてもスピーカの再生限界を超えることで歪みや音割れが発生するケースである。
第一のケースについては、以下のように説明することができる。最近の音響信号再生システムではデジタル処理によって周波数特性を補正したり、音量を調整したりする装置が増えてきている。周波数特性の補正では、例えば高周波数成分を10dB増強すると、−10dBFS以上の音量値でデジタル信号が飽和する可能性がうまれる。なお0dBFSはデジタル信号の最大振幅値を表す。このため、大音量時に再生音がデジタル的に歪んでしまい、音質が劣化してしまうこととなる。この様子を図2に示す。
図2において、縦軸はデジタル信号の振幅強度を、横軸は周波数を示す。また、信号が飽和して音割れの発生する領域をグレーで示し、その境界を太線で示す。201、202、203は、周波数特性が補正されたデジタル音響信号の周波数特性の一例を示しており、201は音量値が小さいときの特性、202は音量値が中程度のときの特性、203は音量値が大きいときの特性である。201や202の音量値では、音響信号は0dBFSを超えないため、音割れが発生せず、本来の音質で楽しむことができる。しかし、203のように音量を上げてしまうと、高周波数成分の一部の信号強度が0dBFSを超えてしまい、デジタル的に飽和してしまうこととなる。信号が飽和すると歪みや音割れが発生して音質が劣化する。
このように、周波数特性が補正されたデジタル信号を大音量で再生しようとすると、特定の周波数成分がデジタル信号の最大振幅値となる0dBFSを超えるケースがあるため、これが原因で信号が飽和して歪みや音割れが発生することとなる。
次に、第二のケース、すなわちスピーカの再生限界を超えることで歪みや音割れが発生するケースについて説明する。
スピーカ再生では、スピーカの振動板が振れることのできる最大の変位幅があり、これを超えるような信号を入力するとスピーカ振動板がうまく振動することができなくなって歪みや音割れが発生する。ここで、スピーカ振動板の変位幅は入力信号の周波数に依存する。この関係を図3に示す。図3は、電圧(V)を変化させずに、信号の周波数のみを変化させてスピーカに入力したときにおけるスピーカ振動板の変位幅を示している。なお、図3は、実際にはスピーカの制動度合いを示すQ値等の違いによってF0近傍の特性が図3よりも膨らんだり平らになったりするが、おおまかな傾向は変わらない。また、変位幅の特性が図3に示す特性と異なっているスピーカに対しても本発明を適用することができるため、説明上の利点から、スピーカ振動板の変位幅の特性を図3と見做して以下の説明を行う。
図3より、スピーカ振動板の変位幅は、F0(スピーカの最低共振周波数)よりも低い周波数成分でほぼ一定値となり、F0よりも高い周波数成分では、およそ−12dB/octの傾斜で変位幅が減少していく。これは、F0近傍以下の低い周波数成分をスピーカに入力したほうが、高い周波数成分を入力するよりもスピーカ振動板がより大きい変位幅で振れることを示している。したがって、低い周波数成分を多く含む信号をスピーカに入力し、その電圧を上げていくと、ある電圧以上で振動板の最大変位幅を超えてしまうこととなる。すなわち、低い周波数成分が多く含まれる信号ほど、また、電圧を上げるほど、スピーカの再生限界を超えやすくなると言える。この様子を図4に示す。
図4において、縦軸は信号の振幅強度を、横軸は周波数を示す。また、スピーカ振動板の変位限界を超えて音割れの発生する領域をグレーで示し、その境界を太線で示す。ここで、図4の特性は音響信号の振幅値に対する特性なので、図3に示したスピーカの変位幅の特性とは異なり、スピーカ振動板の変位限界は+12dB/octの傾斜となる。
また、401、402、403は、スピーカで再生する音響信号の周波数特性を示しており、特に低周波数成分を多く含むケースを想定している。401は音量値が小さいときの特性、402は音量値が中程度のときの特性、403は音量値が大きいときの周波数特性である。401のように小さな音量値で再生する分には、低周波数成分を多く含む音響信号でもスピーカ振動板の最大変位幅を超えないため、音割れが発生せず、本来の音質で楽しむことができる。しかし、402や403のように音量を上げてしまうと、スピーカ振動板の最大変位幅を超えてしまうため、歪みや音割れが発生して音質が劣化することとなる。
このように、振動板の最大変位幅を超えるような信号を入力すると、振動板がうまく振動できなくなって歪みや音割れが発生することとなる。
歪みや音割れは、本来の音響信号には含まれない音であるため、音楽を楽しもうとするときの大きな阻害要因となる。
この問題に対して、従来では図13に示す処理構成によって歪みや音割れを緩和していた。図13では、入力信号1301に対して、低周波数成分を抑圧するHPF(高域通過フィルタ)1302を通してから信号1303を出力する構成となっている。このような構成にすることによって、スピーカに入力する前に、音割れの原因となる低周波数成分を抑圧することができるため、歪みや音割れの発生する割合を減少させることができる。しかし、従来の技術では、HPF1302によって低周波数成分を抑圧してしまうため、例えば、再生する信号の低周波数成分が少なく、大電圧でスピーカを駆動しても音割れが発生しないような場合にも、常に低域成分が抑圧されてしまって本来の音を再生できなくなるという課題がある。また、それほど大きな電圧で駆動せず、高域通過フィルタ1302を通さなくとも音割れが発生しないようなケースでも、低周波成分を常に抑圧してしまうため、本来の音を再生できなくなるという課題もある。すなわち、従来の技術では、大電圧駆動時(大音量時)の音割れ防止のために、低周波数成分を過剰に抑圧して本来の音質を楽しめなくなるという課題がある。
この課題を緩和する技術として、例えば、特許文献1に開示されている技術がある。図14は特許文献1に開示されている振幅制限装置の処理ブロックである。特許文献1によれば、過大入力を抑えるための振幅制限において、振幅制限特性による歪の量を検出し、この値に基づいて周波数帯域毎のゲインを制御することで、振幅制限による音質劣化を緩和している。
特開2009−147701号公報
しかしながら、上述した特許文献1に開示された技術では、抑圧する周波数成分が分割する帯域幅に制限されるため、本来抑圧しなくても良い周波数成分まで過剰に抑圧して音質が劣化してしまうという課題があった。例えば、BPF(帯域通過フィルタ)によってサブバンドに分割する帯域幅が100Hzの場合を考える。このとき、60Hz以下の周波数成分に大きな強度を持つ信号を入力すると、本来ならば60Hz以下の信号成分のみを抑圧すれば音割れが発生しないことになる。然しながら、同技術では0〜100Hzの信号成分全体の強度を抑圧してしまうため、抑圧すべき周波数成分以外の成分(60〜100Hzの成分)も抑圧されてしまうこととなる。また、図3に示した通り、スピーカ振幅板の変位幅は周波数特性を持つが、特許文献1に開示されている振幅制限装置では、変位幅の周波数特性を反映させた処理構成とはなっていない。このため、スピーカ振動板の最大変位を超えることによって発生する音割れを防止する機能を有していないと言える。
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、音質を保持したままスピーカ再生における歪み、音割れを防ぐことが可能な信号処理装置を提供することを目的とする。
この発明に係る信号処理装置は、対象とする信号の過大入力を推定する過大入力推定部と、過大入力推定部によって推定された過大入力情報をもとに、対象とする信号の過大入力を緩和する周波数特性を算出する制御部と、制御部が算出した周波数特性に基づいて、対象とする信号の周波数特性を変形する周波数特性変形部とを備えるものである。
この発明によれば、音質を保持した状態でスピーカ再生における歪み、音割れを防ぐことができる。
実施の形態1による信号処理装置の原理説明図である。 デジタル信号の振幅限界と音源の周波数特性の関係を示す図である。 スピーカ振動板の変位特性を示す図である。 スピーカの振動限界と音源の周波数特性の関係を示す図である。 実施の形態2による信号処理装置の原理説明図である。 実施の形態3による信号処理装置の原理説明図である。 実施の形態4による信号処理装置の原理説明図である。 実施の形態4による信号処理装置の2つのゲイン係数による周波数特性の 実施の形態5による信号処理装置の原理説明図である。 実施の形態5による信号処理装置の2つのゲイン係数による周波数特性の遷移を示す説明図である。 実施の形態6による信号処理装置の原理説明図である。 実施の形態6による信号処理装置の3つのゲイン係数による周波数特性の遷移を示す説明図である。 従来技術の原理説明図である。 従来技術の振幅制限装置の処理ブロック図である。
以下、この発明をより詳細に説明するために、この発明を実施するための形態について、添付の図面に従って説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の原理説明図である。以下、本発明の動作について説明する。
本発明による信号処理装置に入力された入力信号101は分岐され、過大入力推定部102と、周波数特性変形部103に送られる。
過大入力推定部102では、入力信号101が対象スピーカに対して過大入力となるかどうか、あるいはデジタル信号の最大振幅値を超えているかどうかを推定し、推定結果信号104を制御部105へ向けて出力する。
制御部105では、過大入力推定部102から入力された推定結果信号104を用いて、入力信号101が過大入力にならないような周波数特性を算出し、この周波数特性を実現するパラメータ106を周波数特性変形部103に向けて出力する。パラメータ106の具体例としては、周波数特性を変形させるフィルタ係数である。
周波数特性変形部103は、制御部105から送られてきたパラメータ106に従い、入力信号101の周波数特性を変形させて、出力信号107を出力する。パラメータ106がフィルタ係数であれば、周波数特性部ではこの係数106を用いてフィルタ処理を行う。
以上のように、実施の形態1の処理構成により、再生音響信号が過大入力になることを防ぐことが可能となる。このため、本発明によって、歪みや音割れを抑圧することができるという効果が得られる。また、制御部によって、できるだけ周波数特性の変形を少なくして歪みや音割れが発生しなくなるようにすることで、必要最小限の周波数特性変化で歪みや音割れを防止することができるという効果も得られる。
実施の形態2.
図5は本発明の別の実施例を示す図である。本実施例では、スピーカ振動板の変位限界を超えないように音響信号の周波数特性を変形させる例を示している。以下、本実施例の動作について説明する。
本発明による信号処理装置に入力された入力信号101は分岐され、過大入力推定部102と、周波数特性変形部103に送られる。
本実施例の過大入力推定部102は、スピーカ振動板変位推定部501から構成されていることが特徴である。スピーカ振動板変位推定部501では、ボリューム値や対象スピーカのF0等の情報502と入力信号101とからスピーカ振動板の変位値を推定する。変位値推定の具体例としては、F0をカットオフ周波数とする2次IIRフィルタによるLPFを用意し、これに入力信号101を通してからボリューム値を乗算することで、対象スピーカの変位幅に概略比例した値が求められる。また、2次IIRフィルタによるLPFではQ値を変更させることも可能なので、対象スピーカの制動度合いに応じてQ値を変えて推定精度を向上させることもできる。もちろん他の方法、例えばFIRフィルタで対象スピーカの振動板変位特性を模擬しても良い。
このように求めたスピーカ変位値を推定結果信号104として制御部105へ向けて出力する。
制御部105では、入力された推定結果信号104に対してHPF処理を行い、変位推定信号の振幅値が所定の閾値以内に収まるようなHPFのフィルタ係数を求める。所定の閾値とは対象スピーカの振動板の最大変位幅に概略相当する値である。また、HPFのフィルタ係数の算出方法としては、まず、HPFのカットオフ周波数を低く設定(例えば20Hzに設定)し、徐々にカットオフ周波数を上げていって、HPFの出力信号の振幅値が閾値以下になるカットオフ周波数を求めればよい。また、このときのフィルタ係数を周波数特性変形部103へ向けて出力する。
本実施例による周波数特性変形部103は可変フィルタ503から構成されている。可変フィルタ503は、制御部105から送られてきたフィルタ係数106を用いて、入力信号101をフィルタ処理し、得られた信号を出力信号107として出力する。
以上のように、実施の形態2の処理構成により、主に低周波数成分の強度が支配的なスピーカ振動板の変位幅を抑圧することができるため、歪みや音割れを防ぐことができるという効果が得られる。また、本実施例の制御部では、HPFのカットオフ周波数をできるだけ小さな値にすることができるため、必要最小限の周波数特性の変化で歪みや音割れを防止することができるという効果も得られる。
実施の形態3.
図6は本発明の別の実施例を示す図である。本実施例では、高周波数成分の補正が多いような周波数特性補正を施されたデジタル音響信号において、デジタル信号の最大振幅を超えないように信号の周波数特性を変形させる例を示している。以下、本実施例の動作について説明する。
本発明による信号処理装置に入力された入力信号101は分岐され、過大入力推定部102と、周波数特性変形部103に送られる。
本実施例の過大入力推定部102は、デジタル信号振幅算出部601から構成されていることが特徴である。デジタル信号振幅算出部601では、ボリューム値602と入力信号101を乗算してボリューム処理後の振幅値を求め、求めた振幅値を推定結果信号104として制御部105へ向けて出力する。
制御部105では、入力された推定結果信号104、すなわち振幅値に対してLPF処理を行い、LPF処理後の信号が所定の閾値以内に収まるようなLPFのフィルタ係数を求める。所定の閾値とは通常は0dBFSを設定するがこれに限らず、スピーカ耐入力とアンプ出力との整合がとれておらず、アンプの出力を制限させたい場合などにはこれよりも小さい値を設定してもよい。また、LPFのフィルタ係数の算出方法としては、まず、LPFのカットオフ周波数を高く設定(例えば20KHzに設定)し、徐々にカットオフ周波数を下げていって、LPFの出力信号の振幅値が閾値以下となるカットオフ周波数を求めればよい。また、このときのフィルタ係数を周波数特性変形部103へ向けて出力する。
本実施例による周波数特性変形部103も実施例2と同様に可変フィルタ503から構成されている。可変フィルタ503は、制御部105から送られてきたフィルタ係数106を用いて、入力信号101をフィルタ処理し、得られた信号を出力信号107として出力する。
以上のように、実施の形態3の処理構成により、高周波数成分を多く補正しているようなデジタル音響信号の振幅値を抑圧することができ、歪みや音割れを抑圧することができるという効果が得られる。また、本実施例の制御部では、LPFのカットオフ周波数をできるだけ大きな値にすることができるため必要最小限の周波数特性の変化で歪みや音割れを防止することができるという効果も得られる。
実施の形態4.
図7は本発明の別の実施例を示す図である。本実施例では、周波数特性変形部103を可変フィルタではなく、固定フィルタと位相補正と複数の乗算器と加算器から構成している点が特徴である。本実施例の動作について説明する。
本発明による信号処理装置に入力された入力信号101は分岐され、位相補正部701とHPF702に送られる。
位相補正部701は入力信号101の周波数振幅特性を変えずに、HPF702の位相特性と略同一の特性となるように位相特性のみを補正し、得られた信号703を第一の乗算器705と過大入力推定部102に向けて出力する。
HPF702は入力信号101をフィルタ処理し、得られた信号704を第二の乗算器706と過大入力推定部102に向けて出力する。
ここで、HPF702と略同一の位相特性となるように位相を補正する位相補正部701の実現方法について説明する。HPF702を2次IIRフィルタ1段で実現する場合、その位相特性はカットオフ周波数のところで丁度90度回転し、それ以降の周波数成分では180度まで徐々に回転することとなる。このような位相特性を実現する位相補正部は、1次IIRフィルタによる全域通過フィルタで構成することができる。また、HPFを2次IIRフィルタ2段で実現する場合、位相特性はカットオフ周波数のところで丁度180度回転し、それ以降の周波数成分では360度まで徐々に回転することとなる。このような位相特性を実現する位相補正部は2次IIRフィルタによる全域通過フィルタで構成することができる。また、HPFを2次IIRフィルタN段で実現する場合、1次IIRと2次IIRの全域通過フィルタを適切に直列接続することで同じ位相特性を実現することができる。また、HPFをFIRフィルタで実現する場合、位相特性は直線位相となるため、位相補正部はサンプル遅延処理で構成することができる。このようにHPF702と同じ位相特性となるような位相補正部701を実現することができる。
本実施例の過大入力推定部102は、実施例2と同様にスピーカ振動板変位推定部501から構成されている。スピーカ振動板変位推定部501では、ボリューム値や対象スピーカのF0等の情報502を用いて、信号703を再生したときのスピーカ振動板の変位値を推定し、第一のスピーカ振動板変位値707を求める。同様に、信号704を再生したときのスピーカ振動板の変位値を推定し、第二のスピーカ振動板変位値708を求める。変位値推定の具体例としては、実施例2と同様の方法で求められるため詳細説明を省略する。
このように求めた2つのスピーカ振動板変位値707、708を制御部105へ向けて出力する。
制御部105では、入力された2つのスピーカ振動板変位値707、708に対して、夫々異なるゲイン係数を乗じてから加算したときに、振幅値の絶対値が所定の閾値以内に収まるような2つのゲイン係数を求める。ただし、2つのゲイン係数の合計を1とする。
このような条件で2つのゲイン係数を変えていくと、異なった低域減衰効果を実現することができる。図8は、HPF702を、カットオフ周波数80Hzの2次IIRフィルタ2段で実現し、位相補正部701を、カットオフ周波数80Hzの2次IIRの全域通過フィルタ1段で実現した時の2つのゲイン係数による周波数特性の遷移を表している。また、図8において、スピーカ振動板変位値707に対するゲイン係数をA1、スピーカ振動板変位値708に対するゲイン係数をA2としたとき、801は1=1.0、2=0.0の特性、802は1=0.1、2=0.9の特性、803は、1=0.0、2=1.0の特性を示す。このように、完全に平坦な特性(1=1.0、2=0.0)から、カットオフ周波数80Hzの2次IIRフィルタ2段と同じ特性(1=0.0、2=1.0)となる間で異なった低域減衰特性を実現できることがわかる。また、カットオフ周波数以上の周波数成分については、合計1となる割合で位相の揃った成分を加算するため、強度の増減はなく平坦な特性を保つことができる。
このような2つのゲイン係数の具体的な算出法としては、スピーカ振動板変位値707をX1、スピーカ振動板変位値708をX2、X1に対するゲイン係数をA1、X2に対するゲイン係数をA2、所定の閾値をTとすると、以下の式(1)を満たすA1、A2を求めることで実現できる。
T>ABS(X1×A1+X2×A2) ・・・(1)
A1+A2=1
なお、ABS(x)はxの絶対値を表す。
また、周波数特性の変形を必要最小限に抑えるためには、上述した式(1)を満たすA1、A2の組み合わせの中で、A1の値が1に近くなる組み合わせを求めることが好ましい。これは1が位相特性のみを補正した信号を元にした信号であり1を1に近づけるほど周波数特性の変形が少なくなるからである。このようなゲイン係数を求めるためには、まず、A1=1として、A1の値を徐々に小さくしながらABS(X1×A1+X2×A2)の値を求め、Tよりも小さくなった時点のA1、A2を採用すれば良い。
このように求めたA1をゲイン係数709として第一の乗算器705に向けて出力する。また、A2をゲイン係数710として第二の乗算器706に向けて出力する。
第一の乗算器705では、入力された信号703とゲイン係数709を乗じて、得られた信号711を加算器713に向けて出力する。
第二の乗算器706では、入力された信号704とゲイン係数710を乗じて、得られた信号712を加算器713に向けて出力する。
加算器713では、入力された2つの信号711、712を加算し、得られた信号を出力信号107として出力する。
以上のように、この実施の形態4の処理構成により、周波数特性変形部や制御部を簡易に実現することができるという効果がある。
実施の形態5.
実施例4で説明したHPF702をLPFに置き換えることで、高周波数成分の補正が多いような周波数特性補正を施されたデジタル音響信号において、デジタル信号の最大振幅を超えないように信号の周波数特性を変形させることも可能である。図9はHPF702をLPFに置き換えた場合の実施例を示す処理構成である。
本発明による信号処理装置に入力された入力信号101は分岐され、位相補正部701とLPF901に送られる。
位相補正部701は入力信号101の周波数振幅特性を変えずに、LPF901の位相特性と略同一の特性となるように位相特性のみを補正し、得られた信号703を第一の乗算器705と過大入力推定部102に向けて出力する。
LPF901は入力信号101をフィルタ処理し、得られた信号902を第二の乗算器706と過大入力推定部102に向けて出力する。
ここで、位相補正部701は、実施例4と同様に全域通過フィルタないしサンプル遅延処理で実現することができるため詳しい説明を省略する。
本実施例の過大入力推定部102は、実施例3と同様にデジタル信号振幅算出部601から構成されている。デジタル信号振幅算出部601では、ボリューム値602と入力信号703を乗算して第一の振幅値(スピーカ振動板変位値)707を求める。同様に、ボリューム値602と入力信号902を乗算して第二の振幅値(スピーカ振動板変位値)708を求める。
このように求めた第一および第二の振幅値707、708を制御部105へ向けて出力する。
制御部105では、入力された2つの振幅値707、708に対して、2つの異なるゲイン係数を乗じてから加算したときに、振幅値の絶対値が所定の閾値以内に収まるような2つのゲイン係数を夫々求める。ただし、2つのゲイン係数の合計を1とする。
このような条件で2つのゲイン係数を変えていくと、異なった高域減衰効果を実現することができる。図10は、LPF901を、カットオフ周波数6000Hzの2次IIRフィルタ2段で実現し、位相補正部701を、カットオフ周波数6000Hzの2次IIRの全域通過フィルタ1段で実現した時の2つのゲイン係数による周波数特性の遷移を表している。また、図10において、スピーカ振動板変位値707に対するゲイン係数をA1、スピーカ振動板変位値708に対するゲイン係数をA2としたとき、1001は1=1.0、2=0.0の特性、1002は1=0.1、2=0.9の特性、1003は、1=0.0、2=1.0の特性を示す。このように、完全に平坦な特性(1=1.0、2=0.0)から、カットオフ周波数6000Hzの2次IIRフィルタ2段の特性(1=0.0、2=1.0)まで、異なった高域減衰特性を実現できることがわかる。また、カットオフ周波数以下の周波数成分については、合計1となる割合で位相の揃った成分を加算するため、強度の増減はなく平坦な特性を保つことができる。このような2つのゲイン係数の具体的な算出法としては、実施例4と同様に求められるため、説明を省略する。
このように求めたA1をゲイン係数709として第一の乗算器705に向けて出力する。また、A2をゲイン係数710として第二の乗算器706に向けて出力する。
第一の乗算器705では、入力された信号703とゲイン係数709を乗じて、得られた信号711を加算器713に向けて出力する。
第二の乗算器706では、入力された信号704とゲイン係数710を乗じて、得られた信号712を加算器713に向けて出力する。
加算器713では、入力された2つの信号711、712を加算し、得られた信号を出力信号107として出力する。
以上のように、この実施の形態5の処理構成により、周波数特性変形部や制御部を簡易に実現することができるという効果がある。
実施の形態6.
実施例4、5では、1つの位相補正部と1つのHPFないしLPFにて周波数特性変形部103を実現していたが、これに限らず、複数の位相補正部と複数のHPFないしLPFにて周波数特性変形部103を実現しても良い。
図11は、3つの位相補正部と3つHPFにて周波数特性変形部を実現した例を示す図である。以下、本実施例の動作について説明する。
本発明による信号処理装置に入力された入力信号101は3つに分岐され、第一のHPF1101と第二のHPF1102、第三のHPF1103に送られる。
第一のHPF1101では、入力信号をフィルタ処理し、得られた信号1104を第一の位相補正部1107に向けて出力する。
第二のHPF1102では、入力信号をフィルタ処理し、得られた信号1105を第二の位相補正部1108に向けて出力する。
第三のHPF1103では、入力信号をフィルタ処理し、得られた信号1106を第三の位相補正部1109に向けて出力する。
第一の位相補正部1107では、信号の周波数振幅特性を変えずに、第二のHPF1102と第三のHPF1103とを両方処理したときの位相特性と略同一の特性となるように位相特性のみを補正し、得られた信号1110を第一の乗算器1113と過大入力推定部102に向けて出力する。
第二の位相補正部1108では、信号の周波数振幅特性を変えずに、第一のHPF1101と第三のHPF1103とを両方処理したときの位相特性と略同一の特性となるように位相特性のみを補正し、得られた信号1111を第二の乗算器1114と過大入力推定部102に向けて出力する。
第三の位相補正部1109では、信号の周波数振幅特性を変えずに、第一のHPF1101と第二のHPF1102とを両方処理したときの位相特性と略同一の特性となるように位相特性のみを補正し、得られた信号1112を第三の乗算器1115と過大入力推定部102に向けて出力する。
ここで、各位相補正部は実施例4と同様に全域通過フィルタないしサンプル遅延処理で実現することができるため詳しい説明を省略する。
本実施例の過大入力推定部102は、スピーカ振動板変位推定部501から構成されている。スピーカ振動板変位推定部501では、ボリューム値や対象スピーカのF0等の情報502を用いて、信号1110を再生したときのスピーカ振動板の変位値を推定し、第一のスピーカ振動板変位値1116を求める。同様に、信号1111を再生したときのスピーカ振動板の変位値を推定し、第二のスピーカ振動板変位値1117を求める。同様に、信号1112を再生したときのスピーカ振動板の変位値を推定し、第三のスピーカ振動板変位値1118を求める。
変位値推定の具体例としては、実施例2と同様の方法で求められるため詳細説明を省略する。
このように求めた3つのスピーカ振動板変位値1116、1117、1118を制御部105へ向けて出力する。
制御部105では、入力された3つのスピーカ振動板変位値1116、1117、1118に対して、夫々異なるゲイン係数を乗じてから加算したときに、振幅値の絶対値が所定の閾値以内に収まるような3つのゲイン係数を求める。ただし、3つのゲイン係数の合計を1とする。
このような条件で3つのゲイン係数を変えていくと、異なった低域減衰効果を実現することができる。図12は、第一のHPF1101を、カットオフ周波数30Hzの2次IIRフィルタ2段で実現し、第二のHPF1102を、カットオフ周波数70Hzの2次IIRフィルタ2段で実現し、第三のHPF1103を、カットオフ周波数140Hzの2次IIRフィルタ4段で実現し、第一の位相補正部1107をカットオフ周波数70Hzの2次IIRフィルタ1段とカットオフ周波数140Hzの2次IIRフィルタ2段とを直列に接続して実現し、第二の位相補正部1108をカットオフ周波数30Hzの2次IIRフィルタ1段とカットオフ周波数140Hzの2次IIRフィルタ2段とを直列に接続して実現し、第三の位相補正部1109をカットオフ周波数30Hzの2次IIRフィルタ1段とカットオフ周波数70Hzの2次IIRフィルタ1段とを直列に接続して実現したときの3つのゲイン係数による周波数特性の遷移を表している。
また、図12において、スピーカ振動板変位値1116に対するゲイン係数をA1、スピーカ振動板変位値1117に対するゲイン係数をA2、スピーカ振動板変位値1118に対するゲイン係数をA3としたとき、1201は1=1.0、2=0.0、3=0.0の特性、1202は1=0.1、2=0.9、3=0.0の特性、1203は、1=0.0、2=1.0、3=0.0の特性、1204は、1=0.0、2=0.1、3=0.9の特性、1205は、1=0.0、2=0.0、3=1.0の特性を示す。このように、完全に平坦な特性(1=1.0、2=0.0、3=0.0)から、カットオフ周波数140Hzの2次IIRフィルタ4段の特性(1=0.0、2=0.0、3=1.0)まで、異なった高域減衰特性を実現できることがわかる。また、カットオフ周波数以下の周波数成分については、合計1となる割合で位相の揃った成分を加算するため、強度の増減はなく平坦な特性を保つことができる。
また、このような3つのゲイン係数の具体的な算出法としては、スピーカ振動板変位値1116をX1、スピーカ振動板変位値1117をX2、スピーカ振動板変位値1118をX3、X1に対するゲイン係数をA1、X2に対するゲイン係数をA2、X3に対するゲイン係数をA3、所定の閾値をTとすると、以下の式(2)を満たすA1、A2、A3を求めることで実現できる。
T>ABS(X1×A1+X2×A2+X3×A3) ・・・(2)
A1+A2+A3=1
なお、ABS(x)はxの絶対値を表す。
このように求めたA1をゲイン係数1119として第一の乗算器1113に向けて出力する。また、A2をゲイン係数1120として第二の乗算器1114に向けて出力する。また、A3をゲイン係数1121として第三の乗算器1115に向けて出力する。
第一の乗算器1113では、入力された信号1110とゲイン係数1119を乗じて、得られた信号1122を加算器713に向けて出力する。
第二の乗算器1114では、入力された信号1111とゲイン係数1120を乗じて、得られた信号1123を加算器713に向けて出力する。
の乗算器1115では、入力された信号1112とゲイン係数1121を乗じて、得られた信号1124を加算器713に向けて出力する。
加算器713では、入力された3つの信号1122、1123、1124を加算し、得られた信号を出力信号107として出力する。
以上のように、この実施の形態6の処理構成により、3つの位相補正と3つのHPFにて周波数特性変形部を実現することができ、周波数特性変形部にて、実施例4、5よりも通常のHPFに近い特性を実現できるという効果が得られる。
もちろん、位相補正とHPFの個数を増やすことで、さらに通常のHPFに近い特性を実現できるようになる。また、本構成のHPFをLPFに置き換えることにより、高周波数成分の補正が多いような周波数特性補正を施されたデジタル音響信号において、デジタル信号の最大振幅を超えないように信号の周波数特性を変形させることも可能となる。
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
101 入力信号、102 過大入力推定部、103 周波数特性変形部、104 推定結果信号、105 制御部、106 パラメータ、107 出力信号、501 スピーカ振動板変位推定部、502 情報、503 可変フィルタ、602 ボリューム値、701 位相補正部、702 HPF、705 第一の乗算器、706 第二の乗算器、713 加算器、901 LPF、1101 第一のHPF、1102 第二のHPF、1103 第三のHPF、1107 第一の位相補正部、1108 第二の位相補正部、1109 第三の位相補正部、1113 第一の乗算器、1114 第二の乗算器、1115 第三の乗算器。
この発明に係る信号処理装置は、対象とする信号の過大入力を推定する過大入力推定部と、過大入力推定部によって推定された過大入力情報をもとに、高域通過フィルタまたは低域通過フィルタのカットオフ周波数を変化させ、対象とする信号の過大入力を緩和する周波数特性を算出する制御部と、制御部が算出した周波数特性に基づいて、対象とする信号の周波数特性を変形する周波数特性変形部とを備えるものである。
この発明に係る信号処理装置は、対象とする信号の過大入力を推定する過大入力推定部と、過大入力推定部によって推定された過大入力情報に対し高域通過フィルタ処理を行い当該高域通過フィルタのカットオフ周波数を変化させ、対象とする信号の過大入力を緩和する周波数特性を算出する制御部と、制御部が算出した周波数特性に基づいて、対象とする信号の周波数特性を変形する周波数特性変形部とを備えるものである。

Claims (10)

  1. 対象とする信号の過大入力を推定する過大入力推定部と、
    前記過大入力推定部によって推定された過大入力情報をもとに、前記対象とする信号の過大入力を緩和する周波数特性を算出する制御部と、
    前記制御部が算出した周波数特性に基づいて、前記対象とする信号の周波数特性を変形する周波数特性変形部とを備えたことを特徴とする信号処理装置。
  2. 前記過大入力推定部は、前記対象とする信号を再生するスピーカを構成する振動板の振れの変位幅を推定する変位推定部を備えたことを特徴とする請求項1記載の信号処理装置。
  3. 前記制御部は、高域通過フィルタのカットオフ周波数を変化させ、前記対象とする信号の過大入力を緩和する周波数特性を算出することを特徴とする請求項1または請求項2記載の信号処理装置。
  4. 前記変位推定部は、前記スピーカを構成する振動板の振れの変位幅を推定する際に、前記スピーカのボリューム値、前記スピーカの最低共振周波数情報、前記スピーカのQ値のうちの少なくとも1つを用いて、前記変位幅を模擬するフィルタを構成し、前記対象とする信号を前記フィルタに入力して得られた信号を出力することを特徴とする請求項2または請求項3記載の信号処理装置。
  5. 前記過大入力推定部は、前記対象とする信号を再生するスピーカのボリューム値を制御した後の、前記対象とする信号の飽和状態を推定する信号振幅値算出部を備えることを特徴とする請求項1記載の信号処理装置。
  6. 前記制御部は、低域通過フィルタのカットオフ周波数を変化させ、前記対象とする信号の過大入力を緩和する周波数特性を算出することを特徴とする請求項1または請求項5記載の信号処理装置。
  7. 前記周波数特性変形部は、高域通過フィルタと、前記対象とする信号の位相特性を補正し前記高域通過フィルタの位相特性と略同一とする位相補正部と、前記位相補正部から出力された信号のゲインを調整する第一の乗算器と、前記高域通過フィルタから出力された信号のゲインを調整する第二の乗算器と、前記第一の乗算器のゲイン係数と第二の乗算器のゲイン係数の合計が一定値となるように、前記第一および前記第二の乗算器のゲイン係数を決定する係数決定部と、前記第一および前記第二の乗算器から出力される信号を加算する加算器とを備えたことを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項記載の信号処理装置。
  8. 前記周波数特性変形部は、低域通過フィルタと、前記対象とする信号の位相特性を補正し前記低域通過フィルタの位相特性と略同一とする位相補正部と、前記位相補正部から出力された信号のゲインを調整する第一の乗算器と、前記低域通過フィルタから出力された信号のゲインを調整する第二の乗算器と、前記第一の乗算器のゲイン係数と第二の乗算器のゲイン係数の合計が一定値となるように、前記第一および前記第二の乗算器のゲイン係数を決定する係数決定部と、前記第一および前記第二の乗算器から出力される信号を加算する加算器とを備えたことを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1項記載の信号処理装置。
  9. 前記周波数特性変形部は、カットオフ周波数の異なる複数の高域通過フィルタと、前記対象とする信号の位相特性を補正し、前記各高域通過フィルタの位相特性と略同一とする位相補正部と、前記各高域通過フィルタおよび前記位相補正部から出力された信号のゲインを調整する複数の前記乗算器と、前記複数の乗算器のゲイン係数の合計が一定値となるように各ゲイン係数を決定する係数決定部と、前記複数の乗算器から出力される信号を加算する加算器とを備え、
    前記対象とする信号を前記複数の高域通過フィルタに通して複数のフィルタ出力信号を生成し、生成された各フィルタ信号の位相特性を、他の高域通過フィルタの位相特性に相当する位相補正部を用いて補正して各フィルタ出力信号の位相特性を略同一とし、前記係数決定部は前記複数の乗算器の各ゲイン係数の合計が一定値となるように各ゲイン係数を決定し、前記加算器は前記位相補正された各フィルタ出力信号に対して、前記係数決定部が決定した各ゲイン係数により重みづけを行った後、各フィルタ出力信号を加算することを特徴とする請求項7記載の信号処理装置。
  10. 前記周波数特性変形部は、カットオフ周波数の異なる複数の低域通過フィルタと、前記対象とする信号の位相特性を補正し、前記各低域通過フィルタの位相特性と略同一とする位相補正部と、前記各低域通過フィルタおよび前記位相補正部から出力された信号のゲインを調整する複数の前記乗算器と、前記複数の乗算器のゲイン係数の合計が一定値となるように各ゲイン係数を決定する係数決定部と、前記複数の乗算器から出力される信号を加算する加算器とを備え、
    前記対象とする信号を前記複数の低域通過フィルタに通して複数のフィルタ出力信号を生成し、生成された各フィルタ信号の位相特性を、他の低域通過フィルタの位相補正に相当する位相補正部を用いて補正して各フィルタ出力信号の位相特性を略同一とし、前記係数決定部は前記複数の乗算器の各ゲイン係数の合計が一定値となるように各ゲイン係数を決定し、前記加算器は前記位相補正された各フィルタ出力信号に対して、前記係数決定部が決定した各ゲイン係数により重みづけを行った後、各フィルタ出力信号を加算することを特徴とする請求項8記載の信号処理装置。
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