JPWO2013005800A1 - アルスロバクターグロビホルミスの生産する酵素 - Google Patents
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Abstract
解決手段:アルスロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物から得ることができ、下記の基質特異性を有するケトース3−エピメラーゼ:
(1)D−またはL−ケトースの3位をエピマー化し、対応するD−またはL−ケトースを生成する。
(2)D−またはL−ケトースの中ではD−フラクトースおよびD−プシコースに対する基質特異性が最も高い。
Description
(A)D−またはL−ケトースの3位をエピマー化し、対応するD−またはL−ケトースを生成する。
(B)D−またはL−ケトース中ではD−フラクトースおよびD−プシコースに対する基質特異性が最も高い。
以上のとおり、上記のような問題に対処するために、D−フルクトースを基質として用いて、D−プシコースを酵素的に生成する方法について研究が行なわれている。しかし、現在までに開発された方法は、食品としてのD−プシコースの生産に利用するには安全性の点で問題点が多い。
その結果、数多く単離した菌株の中に新規なケトース3−エピメラーゼを産生するアルスロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物を見出した。また、当該微生物由来の新規なケトース3−エピメラーゼは、DまたはL−ケトースの3位に作用し、対応するD−またはL−ケトースへのエピマー化を触媒する幅広い基質特異性を有しており、意外にも、D−またはL−ケトースの中ではD−フラクトースおよびD−プシコースに対する基質特異性が最も高く、D−フラクトースからのD−プシコースの製造に適していることを見出した。そして、アルスロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物より得ることのできる新規ケトース3−エピメラーゼとその製造方法を確立するとともに、該酵素を利用したケトースの変換方法ならびにケトースの製造方法を確立して本発明を完成した。
(1)アルスロバクター属に属する微生物から得ることができ、下記(A)、(B)の基質特異性を有するケトース3−エピメラーゼ。
(A)D−またはL−ケトースの3位をエピマー化し、対応するD−またはL−ケトースを生成する。
(B)D−またはL−ケトースの中ではD−フラクトースおよびD−プシコースに対する基質特異性が最も高い。
(2)アルスロバクター属に属する微生物が、アルスロバクター グロビホルミスである上記(1)記載のケトース3−エピメラーゼ。
(3)アルスロバクター属に属する微生物が、アルスロバクター グロビホルミス M30(受託番号 NITE BP−1111)である上記(1)記載のケトース3−エピメラーゼ。
(5)下記の理化学的性質(a)〜(e)を有する上記(1)から(4)のいずれかに記載のケトース3−エピメラーゼ。
(a)至適pH
30℃、30分間反応、20mMのマグネシウム(Mg2+)存在下の条件で、6ないし11。
(b)至適温度
pH7.5、30分間反応、20mMのマグネシウム(Mg2+)存在下の条件で、60ないし80℃。
(c)pH安定性
4℃、24時間保持の条件下で、少なくともpH5ないし11の範囲で安定。
(d)熱安定性
pH7.5、1時間保持、4mMのマグネシウムイオン(Mg2+)の存在下の条件で、約50℃以下で安定。マグネシウムイオン(Mg2+)の非存在下の条件で、約40℃以下で安定。
(e)金属イオンによる活性化
二価マンガンイオン(Mn2+)、二価コバルトイオン(Co2+)、カルシウム(Ca2+)およびマグネシウムイオン(Mg2+)により活性化される。
(6)下記の基質特異性1.〜8.を有する上記(1)から(5)のいずれかに記載のケトース3−エピメラーゼ。
記
1.D-フルクトースを基質としたときの相対活性が43.8%、
2.D-プシコースを基質としたときの活性が100%、
3.D-ソルボースを基質としたときの相対活性が1.13%、
4.D-タガトースを基質としたときの相対活性が18.3%、
5.L-フルクトースを基質としたときの相対活性が0.97%、
6.L-プシコースを基質としたときの相対活性が21.2%、
7.L-ソルボースを基質としたときの相対活性が16.6%、
8. L-タガトースを基質としたときの相対活性が44.0%。
ただし、D−プシコースのエピ化活性を100としてそれぞれのケトースに対する活性を相対活性として示している。
(7)D−またはL−ケトースから選ばれる1種以上のケトースを含有する溶液に、上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のケトース3−エピメラーゼを作用させて、該ケトースの3位をエピマー化することを特徴とするケトースの変換方法。
(8)D−またはL−ケトースから選ばれる1種以上のケトースを含有する溶液に、上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のケトース3−エピメラーゼを作用させて該ケトースの3位をエピマー化し、対応するケトースを生成せしめ、これを採取することを特徴とするケトースの製造方法。
1.アルスロバクター グロビホルミス由来の本酵素を食品産業で用いる最も大きな特長としては菌の安全性にある。
2.D−プシコース生産菌の最適なpHは、シュードモナス属(Pseudomonas)は7〜9、リゾビウム属(Rhizobium)は9〜9.5、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)は7〜8である。一方で、本菌株による酵素の最適pHは6〜8の間にあり、着色の少ない7以下のpHにおいてもD−プシコース生産は可能である。
3.30分間の酵素活性を測定した結果からは、リゾビウム属(Rhizobium)はMn2+、Mg2+、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)はCo2+、Mn2+で活性が増加することが報告されている。本酵素の場合は、Mn2+、およびCo2+によって活性増加が認められる。また、Mg2+、Ca2+によっても活性が増加する。
4.従来の酵素と比較して幅広い温度帯での反応が可能である。
5.L−タガトースからL−ソルボースへの反応活性が大きい。
6.培地に添加するD−プシコースが0.15%と少なくても活性のある菌体が得られる。
7.水でも酵素活性があり、フルクトースからプシコースへの反応が進行する。
8.シュードモナス チコリよりも増殖速度が大きい。
すなわち、本発明は、アルスロバクター(Arthrobacter)属に属する微生物から得ることのできるケトース3−エピメラーゼの提供、ならびに、その酵素を利用して、D−またはL−ケトースの3位をエピマー化し、対応するD−またはL−ケトースを製造する方法を提供することができる。当該微生物から得ることのできる本発明のケトース3−エピメラーゼは、とりわけD−プシコースおよびD−フラクトース間の相互変換を良く触媒することから、D−フラクトースからのD−プシコースの製造に有用である。
本酵素、アルスロバクター・グロビフォルミスを食品産業で用いる最も大きな特長としては、菌の安全性にある。この菌種はまずアメリカにおいて、FDAによるEAFUS(Everything Added to Food in the United States):A Food Additive Databaseに“Glucose isomerase from immobilized arthrobacter globiformis”として収載されている。この使用法は、菌体をそのまま固定化するもので、菌体自体の安全性が非常に高いことを証明するものである。
また欧州においては、EFFCA(The European food & feed cultures association)とIFD(International Federation for the Roofing Trade)による“Inventory of Microorganisms with a documented history of use in food”において“Citrus fermentation to remove limonin and reduce bitterness”として使用されている旨が記載されている。これは、酵母等と同様に、この菌種は発酵に使われていることを示すもので、極めて安全性が高いことを示す。日本においては、アルスロバクター属は“α-アミラーゼ、イソマルトデキストラナーゼ、インベルターゼ、ウレアーゼ、グルカナーゼ、α-グルコシルトランスフェラーゼ、フルクトシルトランスフェラーゼ”などの酵素基原微生物として、また、トレハロースやビタミンK(メナキノン)生産菌として食品添加物リストに収載されている。
このように日米欧において長い使用実績があるにも関わらず、この菌種によるエピメラーゼ酵素が見出されてこなかったことは驚くべきことである。
また、糖質酵素の代表的なものであるグルコースイソメラーゼによるぶどう糖から果糖の生産には多くの菌株が報告され(60種以上)ているが、実用化されたものは、ストレプトマイセス属(Streptomyces), バシルス属(Bacillus), アクチノプラーネス属(Actinoplanes), アルスロバクター属など少数の属での利用がなされているに過ぎない。このように、アルスロバクター属は食実績のある安全性の高い菌種である。
さらに、本発明の特長としては以下の事項にある。
D−プシコース生産菌の最適なpHは、シュードモナス属は7〜9、リゾビウム属は9〜9.5、アグロバクテリウム属は7〜8である。一方で、本菌株による酵素の最適pHは6−8の間にあり、着色の少ない7以下のpHにおいてもD−プシコース生産は可能である。
また、30分間の酵素活性を測定した結果からは、リゾビウム属はMn2+、Mg2+、アグロバクテリウム属はCo2+、Mn2+で活性が増加することが報告されている。本酵素の場合は、Mn2+、およびCo2+によって活性増加が認められる。また、Mg2+、Ca2+によっても活性が増加することから、Mg2+などを用いた本菌株によるD−プシコース生産が可能である。
本発明者等は数多く単離した菌株の中に新規なケトース3−エピメラーゼを産生する微生物M30株を見出し、M30株は16SrRNA遺伝子塩基配列相同性に基づく系統解析により、アルスロバクター グロビホルミスに属することが判明した。
菌株の同定
(1)16SrRNA遺伝子塩基配列相同性
16SrRNA遺伝子領域を解析し塩基数734を特定した。
(2)相同性検索
この菌株の16SrRNA遺伝子の塩基配列について、BLASTサーチ(日本DNAデータバンク)により既知の菌種との相同性検索を行った。上記特定した塩基数734の塩基配列に対し相同性97%以上であった菌株名と相同性(%)の値からM30株の微生物は、アルスロバクター グロビホルミス(Arthrobacter globiformis)であることが決定された。
本発明のケトース3−エピメラーゼ活性を有する菌株であるアルスロバクター グロビホルミス(Arthrobacter globiformis)M30は2011年6月22日付で千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8所在の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託し、まず受領番号NITE AP−1111として受領され、受託番号NITE P−1111として寄託された。
精製前の酵素、ケトース3−エピメラーゼの活性は、D−フラクトースを基質とし、D−プシコースの生成量を測定することにより測定することができる。具体的には、酵素反応液組成は、50mMトリス-HCl緩衝液(pH7.0) 200 ml, 0.2M D−フラクトース375μl、酵素液100μl、10mM 塩化マンガン75μlを用い、55℃30分間反応し、2分間ボイルすることで反応を止めHPLCによって反応後の液組成を測定する。酵素活性1単位は、上記条件下において、D−フラクトースをエピマー化し1分間に1μmolのD−プシコースを生成する酵素量と定義する。逆反応であるD−プシコースからD−フラクトースへエピ化する酵素単位についても同様の条件で測定し同様に定義する。
本発明のケトース3−エピメラーゼは、下記の理化学的性質を有している場合がある。
(a)至適pH
55℃、30分間反応、1mMの二価コバルトイオン(Co2+)存在下の条件下で、6.0ないし10。
(b)至適温度
pH7.0、30分間反応、1mMの二価コバルトイオン(Co2+)存在下の条件下で、約50℃ないし約70℃。
(c)pH安定性
4℃、24分間保持、少なくともpH5.5ないし11の範囲で安定。
(d)熱安定性
pH7.0、10分間保持、1mMの二価コバルトイオン(Co2+)存在下の条件下で、約70℃以下で安定、1mMの二価コバルトイオン(Co2+)非存在下の条件下で約60℃以下で安定。
(e)金属イオンによる活性化
二価マンガンイオン(Mn2+)または二価コバルトイオン(Co2+)により活性化される。
D−プシコース0.2%を炭素源とし硫安を窒素源とする無機塩培地に、アルスロバクター グロビホルミス(Arthrobacter globiformis)M30(受託番号 NITE BP−1111)株の種培養液1%(v/v)を無菌的に添加し、通気撹拌しながら30℃で16時間培養した。得られた培養液中のケトース3−エピメラーゼ活性は約14単位/100ml培養液であった。
遠心分離により培養液から菌体を回収した。回収した菌体は1mMトリス-HCl緩衝液(pH7.0)を用いて、洗浄した。次いで、菌体を10mlの1mMトリス-HCl緩衝液(pH7.0)に懸濁した後、その菌体懸濁液を氷水中で冷却しながら超音波ホモジナイザー(株式会社SONICS&MATERIALS)で細胞破砕した。破砕物を12000rpmで20分遠心し、その遠心上清を粗酵素とした。
Cellulose Ester Dialysis Membrane(SPECTRUM Laboratory社)に粗酵素をいれ、メンブレン全体を20mM EDTAを含む10mM トリス-HCl緩衝液に12時間浸して透析した。メンブレンを10mM トリス-HCl(pH 7.0)緩衝液で2回洗浄した後、メンブレンから粗酵素液を取り出した。
下記の反応条件により、それぞれ反応させた後、煮沸により反応を停止した。反応液をイオン交換樹脂により脱塩し、フィルター処理してHPLCサンプルを調製した。サンプルは、HPLCシステム(東ソー)においてCK08EC(三菱化学)を用いてクロマト分析した。クロマトグラムのピーク面積値から、生成した各種糖を算出した。
<実験5:ケトース3−エピメラーゼの性質>
1.炭素源とその濃度の活性への影響
0.05−1%のD−プシコース(D−p)、1%のD−フラクトース(D−f)、1%のD−タガトース(D−t)、0.1%フラクトース(D−f)および0.1%D−プシコース(D−p)、1%D−プシコース(D−p)および0.1%D−タガトース(D−t)を含むMSM培地でアルスロバクター グロビホルミス M30(受託番号 NITE BP−1111)株を培養し、上記と同様の操作で得た粗酵素の各活性を調べた。
3種の異なる培地(最少無機塩(MSM)培地, TSB培地, および酵母エキス(YE)培地) で 30℃で16時間培養し、上記と同様の方法で粗酵素を得た。
その結果(図2)、酵素は最も安価な最少無機塩培地にD−プシコースを添加することで一番酵素活性が高いことが明らかになった。
実験3で示したEDTAを含む緩衝液に対して透析した酵素液を用い、以下の表1に示す反応条件下で酵素活性を測定した。得られた結果は図3に示す。
EDTAに対して透析することで活性が消失するということは、本酵素は金属イオンを要求することを示している。酵素活性に及ぼす金属イオンの影響を測定したところ、MnCl2,CoCl2を添加することで酵素活性が増大した。このことから、本酵素はMn2+またはCo2+を要求することが確認された。
10−80℃の様々な温度での反応を行い。至適温度を求めた反応条件は表2に示す。測定結果を図4に示す。50℃から70℃の温度範囲に至適温度が存在した。
熱安定性について、コバルトイオンの存在する場合と、存在しない場合について検討した。1mMのコバルトイオンの存在下で、pH7.0において10−80℃で10分熱処理を行い、残存活性を測定した。その結果を図5に示す。このようにコバルトイオンが存在する場合は70℃まで安定であり、コバルトイオンが存在しない場合は60℃まで安定であることが明らかとなった。
各種pHでの酵素反応を行い、至適反応 pH を求めた。それぞれのpHで用いた緩衝液は次に示すものである。pH3−6の50mMクエン酸緩衝液;pH6.0−8.0の50mMリン酸緩衝液;pH7.0−9.0のトリス-HCl緩衝液;およびpH9.0−11.0のグリシン-水酸化ナトリウム緩衝液を用いた。反応条件は表3に示す。得られた結果は図6に示す。最適pHは6−10の範囲であることがわかった。
酵素をそれぞれのpHに4℃で24時間保持し、残存する酵素活性を55℃で30分反応することで求めた。その結果を図7に示した。本酵素は約pH6からpH11まで幅広いpH安定性を示した。
8種類の六単糖(ケト―ス)を用いて精製前の本酵素の基質特異性について検討した。酵素反応組成は、表4に示したように各基質0.2M350μl、酵素液350μl(トリス緩衝液 pH7.0)で、55℃30分反応しHPLCによる分析によりそれぞれの糖からエピ化され生産されたケトースを測定した。その結果は以下のようになった。D−プシコースのエピ化活性を100としてそれぞれのケトースに対する活性を、相対活性として示している。
D−フルクトース(D-fructose)、D−プシコース(D-psicose)、D−ソルボース(D-sorbose)、D−タガトース(D-tagatose)、L−フルクトース(L-fructose)、L−プシコース(L-psicose)、L−ソルボース(L-sorbose)、L−タガトース(L-tagatose)を基質として活性を相対活性として表5に示す。最もD−プシコースに対する活性が強く、次いでD−フラクトースであった。これらの基質特異性は他の遊離のケトース3エピメラーゼと比較すると、D−プシコース3エピメラーゼ(DPE)と言えるものであり、シュードモナス チコリのD−タガトース3−エピメラーゼ(DTE)とは明らかに異なる特異性を示した。
次に、本発明の酵素をさらに純粋な状態に精製して理化学的な性質を測定した。
[酵素の精製時および精製酵素の活性測定および蛋白質の測定]
酵素活性の測定については、表6に記載の酵素反応液組成を用いて酵素反応を行った。30℃で30分酵素反応を行い、この条件下で1分間に1μmoleのD−フラクトースを生成する酵素量を1単位とした。反応後、反応液を3分間沸騰液中にいれることで反応を停止し、脱イオン処理後、HPLC分析により生成したD−フラクトースを測定した。また、蛋白質の測定については、ブラッドフォード法により、ブラッドフォード液250μlに対し酵素液5μLを加え均一に攪拌した後に測定した。
[菌の前培養]
本菌を表7に示す培地に接種し前培養を行った。500ml三角フラスコに培地100mlを入れ、30℃・200rpmにて12時間振とう培養を行った。
前培養の生育培地100mLを表8に示す本培養10lに接種し、30℃にて通気量2ml/min、300rpmで通気撹拌培養を24時間行った。
本培養10Lから生菌体230gを得た。これを1lの緩衝液(10mM Tris−HCl pH7.5+1mM MgCl2)に懸濁し、高圧ホモジナイザーを用いて菌体を破砕し、酵素を抽出した。破砕条件は20000psiで行った。遠心分離(10000rpm, 20min, 4℃)により不溶物を除去し粗酵素液1150mlを得た。酵素の精製にはこの粗酵素液の130mlを用いた。
[PEG(ポリエチレン グリコール)による分画]
粗酵素液130mlにPEG6000を26g添加し(濃度20%)、低温にて撹拌溶解した。生成した沈殿と上清とを遠心分離(10000rpm,20min,4℃)により分離した。沈殿は30mLの緩衝液に溶解した。活性を測定した結果、沈殿中には活性は存在しなかった。ついで上清にPEG26g(終濃度40%)添加し同様に、生成する沈殿と上清に分け、活性を測定した。その結果沈殿中に活性は認められなかった。上清に活性が認められた。
[PEG除去の方法]
PEG濃度40%においても酵素は沈殿することなく、上清に存在した。上清の酵素を次の精製過程へ進めるためには、PEG を除去する必要がある。PEGはイオン交換樹脂には吸着しない性質を用いて、PEGを除去した。具体的には、イオン交換樹脂に酵素を吸着させPEGを洗い流し、その後吸着した酵素を高濃度のNaClで樹脂から溶出することでPEGを除去した。
PEG除去の具体的方法を次に示す。
緩衝液(10mM Tris−HCl pH7.5+10mM MgCl2)で平衡化したQ−Sepharose Fast Flow 58mlにPEG40%を含む酵素液を入れ、10分間ゆっくり撹拌することで酵素を吸着させた。その樹脂をカラム(容積約50ml)に詰め、緩衝液(1M NaCl+10mM Tris−HCl pH7.5+10mM MgCl2)150mlで溶出した。10mlずつ分画し活性のある部分を回収した。それを緩衝液(10mM Tris−HCl pH7.5+10mM MgCl2)にたいして一夜透析することでNaClを除去し、PEG分画酵素液を得た。
PEG分画酵素液をイオンクロマト分離法によって精製を行った。用いたカラムはQ−Sepharose High Performanceであり、AKTAシステムを用い流速1.5ml/minで1M NaClの濃度勾配で35%から60%を5mlずつのフラクションに分けて分画した。図8に示す矢印のフラクションに酵素活性が溶出された。それを回収しイオン交換クロマト分離による精製酵素を得た。図8にはイオン交換クロマト分離溶出図を示す。蛋白質溶出の図8の中央部の矢印で示した部分に酵素活性が存在したので、この部分を回収した。
イオン交換クロマト分離により精製した酵素を疎水クロマト分離法によりさらに精製を行った。用いたカラムはRESOURCE PHE 6mlである。酵素液に2Mとなるように硫安を加えて溶解した。流速3ml/minで2Mの硫安100%から0%まで濃度を下げて溶出し5mLずつ分画した。図9の矢印の大きなピークに酵素活性が溶出された。その画分を透析し硫安を除去し疎水クロマト分離精製酵素を得た。蛋白質の溶出の二つ目の大きなピークに活性が存在した。図9の矢印は回収した画分を示している。
酵素の精製過程について、粗酵素、PEG分画酵素、イオン交換クロマト分離精製酵素、疎水クロマトグラフィー精製酵素のそれぞれの蛋白質量、酵素活性などをまとめて精製表として表9に示した。この精製により収率12%、精製倍率31.5倍の精製酵素を得た。
常法に従いSDS PAGE(ゲル濃度15%)を用いて精製酵素の純度を確認した。図10においては、左が標準の蛋白質であり、次の2レーンが疎水クロマトグラフィーを用いて精製した後の酵素である。この結果は29〜45kDaの間に単一なバンドが確認された。これにより酵素は純粋に精製されたことを確認した。
精製した酵素の性質について検討した。
[反応至適pH]
図11で示すようにpH6〜11において活性を示し、最も活性が高いpHは7.5であった。
測定にあたり、反応の至適pHについてD−プシコースを基質として用い、各種緩衝液pH 4〜11を用いて30℃で30分反応し、生成したD−フラクトースを、HPLCを用いて測定することで求めた。 反応液組成を表10に、使用したバッファーを表11に示す。
反応温度と総体活性を測定した結果を示す図12から、本酵素の至適温度はMg2+イオン添加時で70℃であることが明らかとなった。Mg2+イオンの非存在下では至適温度が60°であり、Mg2+イオン存在下では至適温度が顕著に高くなり、60℃ないし80℃で高い活性を示した。図12では Mg2+イオン存在下で最も高い活性を示した70℃を100とした相対活性で示した。 反応条件は表12に示すように精製酵素をpH7.5において各温度で30分反応し、生成するD−フラクトースの量を測定した。Mg2+イオンを添加する場合と添加しない場合(MgCl2のかわりに水を添加)について検討した。反応は20,30,40,50,60,70,80,90,100℃で30分間おこなった。
精製酵素のpH安定性を検討した結果を図13に示すようにpH5〜11まで安定であることが明らかとなった。
測定条件は、各pHで4℃・24時間保ち、その酵素をpH7.5によって反応した。残存活性の測定はpH 7.5、30℃で30分行った。使用した緩衝液は至適pHに用いたと同じものを用いた。
図13では、クエン酸緩衝液pH6の場合の残存活性を100とし、それぞれのpHにおける残存活性を相対活性として表した。
精製酵素の熱安定性について、Mg2+イオンの存在下あるいは非存在下で検討した。Mg2+イオンが存在する場合と存在しない場合では、熱安定性が大きく変化し、Mg2+イオンが酵素の熱安定性を増大させた。Mg2+イオン存在下では50℃・1時間で安定であった。一方、Mg2+イオンが存在しない場合は、全体として約10℃低い熱安定性であった。なお、至適反応温度が70℃であることと、この結果から本酵素は基質の存在により安定性が増大することを示している。すなわちES複合体の安定性が高いことを示していると考えられる。図14では熱処理をしない酵素の活性を100とした相対活性で表した。
熱処理条件としては、精製酵素液40μl、緩衝液(10mM Tris−HCl pH7.5)160μl、4mM MgCl2 (Mg2+イオン非添加の場合は水)100μlの全量300μlとし、これを各温度で1時間保持した後氷水中で10分間冷却後、残存する酵素活性を常法に従って測定した。
酵素の金属イオン要求性について検討した。精製酵素を1mM EDTAを含む10mM Tris−HCl pH7.5に2時間透析した。その後EDTAを含まない10mM Tris−HCl緩衝液pH7.5に一昼夜透析し、EDTA処理酵素を得た。この酵素を用いて、各種金属イオン1mMを含む条件でD−プシコースを基質としてその活性に対する影響を測定した。その結果を、無添加の酵素活性を100として、各金属イオン添加時の活性を相対活性で表わし、表13に示した。
Mg2+,Co2+,Mn2+の各イオン存在下では、活性が1.3倍以上となり、Mg2+イオン存在下で最も高い活性が認められた。この結果より、本酵素はMg2+イオンにより活性化される。熱安定性におけるMg2+イオンの大きな影響を考慮すると本酵素反応にはMg2+イオンが重要であることが明らかとなった。
全ケトヘキソースについて本酵素の反応性について検討した。反応液組成は表14に示した。その結果、D−プシコースを100とした相対活性として表に整理した。本酵素は全ケトヘキソースに活性は示すが、D−プシコースに最も高い活性を示し、D−プシコース3−エピメラーゼであることが明確となった。基質特異性については表15にまとめた。D−sorbose、L−fructoseは70℃・120分、それ以外は70℃・20分で反応させて初速度を求めた。
本酵素のD−プシコースとD−フラクトースのKmおよびVmaxを測定した。測定は30℃でMg2+イオン存在下の酵素活性測定の条件下で行った。その結果D−プシコースについては、Vmax=168U/mg, Km=30.1mMであり、D−フラクトースについては、Vmax=68.5U/mg, Km=31.5mMであった。
[サブユニットの分子量]
SDS-PAGE (ゲル濃度15%)による精製酵素の移動距離と分子量マーカーの移動距離を測定した。その結果、本酵素のサブユニットの分子量はおよそ32kDaであることが明らかとなった。
図15に泳動距離と分子量の関係を示す。図15はマーカー蛋白質の泳動距離cmと分子量kDaとの関係を示している。精製酵素の移動距離は約4.1cm であることから、本酵素のサブユニットは約32kDaであると推定された。なお、泳動図は図10に示した。
ゲル濾過クロマトグラフィーを用いて、本酵素の分子量を測定した。すなわち標準蛋白質と移動距離の関係図16を求め、本酵素の移動距離から計算した。その結果、酵素の分子量は約120kDaであることが明らかになった。
分子量の測定には、ゲルろ過クロマトグラフィーのカラムは、Superdex 200pg 16/600 を用いた。使用したランニングバッファー組成は10mM Tris−HClpH7.5, NaCl 200mM, MgCl2 1mM である。
使用標準タンパク(マーカー) は以下の5種類を用いた。
(1)Ovalbumin MW:44,000
(2)Conalbumin 75,000
(3)Aldolase 158,000
(4)Ferritin 440,000
(5)Tyroglobulin 669,000
本酵素は72.5mlに溶出したので、移動距離と分子量との関係より計算し、本酵素の分子量は約120kDaであることが明らかとなった。SDS-PAGEによるサブユニットの分子量は約32kDaであり、ゲル濾過法を用いた本酵素の分子量は約120kDaである。このことから、本酵素はサブユニットの分子量が32kDaのホモテトラマー構造であると考えられる。
これまで報告されているD−タガトース3−エピメラーゼおよびD−プシコース3−エピメラーゼの性質を表16にまとめた。本菌株の生産する酵素は他の微生物起源のケトヘキソース3−エピメラーゼと比較し、至適温度が高いことが大きな特徴である。
その結果、D−プシコースを基質とした場合も、D−フラクトースを基質とした場合も同じ平衡比に達した。
平衡比 D−プシコース:D−フラクトース=27:73
この結果はD−フラクトースを用いて反応すると、その27%がD−プシコースへ変換できることを示しており、D−プシコースをD−フラクトースから生産できることを明確に示す結果である。
従って、本発明のケトース3−エピメラーゼとその製造方法の確立は、製糖産業のみならず、これに関連する食品、化粧品、医薬品産業における工業的意義が極めて大きい。
本酵素を生産する、アルスロバクター グロビフォルミスを食品産業で用いる最も大きな特徴としては、菌の安全性にある。この菌種はアメリカにおいて、FDAによるEAFUSに収載されていることは、菌体自体の安全性が非常に高いことを証明するものである。これまで知られているD-プシコースの生産酵素としては、シュードモナス属、アグロバクテリウム属、リゾビウム属などによるものがあるが、これらは米欧のリストには収載されていないばかりか、日和見菌としてや、植物細胞感染などの報告もあり、安全性を確認するには多くの労力を要する微生物であった。本発明で菌体自体の安全性が非常に高い菌を使用できることは大きな技術の進歩である。
Claims (8)
- アルスロバクター属に属する微生物から得ることができ、下記(A)、(B)の基質特異性を有するケトース3−エピメラーゼ。
(A)D−またはL−ケトースの3位をエピマー化し、対応するD−またはL−ケトースを生成する。
(B)D−またはL−ケトースの中ではD−フラクトースおよびD−プシコースに対する基質特異性が最も高い。 - アルスロバクター属に属する微生物が、アルスロバクター グロビホルミスである請求項1記載のケトース3−エピメラーゼ。
- アルスロバクター属に属する微生物が、アルスロバクター グロビホルミス M30(受託番号 NITE BP−1111)である請求項1記載のケトース3−エピメラーゼ。
- SDS‐PAGEによるサブユニットの分子量が約32kDaであり、ゲル濾過法による分子量が120kDaである、サブユニットの分子量が32kDaのホモテトラマー構造である請求項1から3のいずれかに記載のケトース3−エピメラーゼ。
- 下記の理化学的性質(a)〜(e)を有する請求項1から4のいずれかに記載のケトース3−エピメラーゼ。
(a)至適pH
30℃、30分間反応、20mMのマグネシウム(Mg2+)存在下の条件で、6ないし11。
(b)至適温度
pH7.5、30分間反応、20mMのマグネシウム(Mg2+)存在下の条件で、60ないし80℃。
(c)pH安定性
4℃、24時間保持の条件下で、少なくともpH5ないし11の範囲で安定。
(d)熱安定性
pH7.5、1時間保持、4mMのマグネシウムイオン(Mg2+)の存在下の条件で、約50℃以下で安定。マグネシウムイオン(Mg2+)の非存在下の条件で、約40℃以下で安定。
(e)金属イオンによる活性化
二価マンガンイオン(Mn2+)、二価コバルトイオン(Co2+)、カルシウム(Ca2+)およびマグネシウムイオン(Mg2+)により活性化される。 - 下記の基質特異性1.〜8.を有する請求項1から5のいずれかに記載のケトース3−エピメラーゼ。
記
1.D-フルクトースを基質としたときの相対活性が43.8%、
2.D-プシコースを基質としたときの活性が100%、
3.D-ソルボースを基質としたときの相対活性が1.13%、
4.D-タガトースを基質としたときの相対活性が18.3%、
5.L-フルクトースを基質としたときの相対活性が0.97%、
6.L-プシコースを基質としたときの相対活性が21.2%、
7.L-ソルボースを基質としたときの相対活性が16.6%、
8. L-タガトースを基質としたときの相対活性が44.0%。
ただし、D−プシコースのエピ化活性を100としてそれぞれのケトースに対する活性を相対活性として示している。 - D−またはL−ケトースから選ばれる1種以上を含有する溶液に、請求項1ないし6のいずれかに記載のケトース3−エピメラーゼを作用させて、該ケトースの3位をエピマー化することを特徴とするケトースの変換方法。
- D−またはL−ケトースから選ばれる1種以上を含有する溶液に、請求項1ないし6のいずれかに記載のケトース3−エピメラーゼを作用させて該ケトースの3位をエピマー化し、対応するケトースを生成せしめ、これを採取することを特徴とするケトースの製造方法。
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