JPWO2012102131A1 - 弾性波素子およびそれを用いた弾性波装置 - Google Patents
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Abstract
SAW素子1は、基板3と、基板3の上面3aに配置された電極指13bと、電極指13bの上面に配置された質量付加膜9とを有する。質量付加膜9は、電極指13bが伸びている方向に直交する方向における断面を見たときに、該断面における幅が上辺で最も小さくなっている。このような形状からなる質量付加膜9を電極指13bの上面に配置したことによって、電気機械結合係数を高くすることができる。
Description
本発明は、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)素子等の弾性波素子およびそれを用いた弾性波装置に関する。
圧電基板と、圧電基板の主面上に設けられたIDT(InterDigital Transducer)電極(励振電極)とを有する弾性波素子が知られている(例えば特許文献1または2)。IDT電極は、弾性波の進行方向に直交する方向に延びる複数の電極指を有する。そして、弾性波素子は、圧電効果を利用して、電気信号の弾性波への変換および弾性波の電気信号への変換を行う。
なお、特許文献1および2の技術では、SiO2からなる保護層(SiO2膜)がIDT電極の上から圧電基板の主面に被せられている。保護層は、IDT電極の腐食抑制、IDT電極の特性の温度変化の補償等に寄与している。また、特許文献1および2では、IDT電極と保護層との密着性を向上させるために、これらの間に密着層を形成することを提案している(特許文献1の段落0011、特許文献2の段落0107)。特許文献1および2において、密着層は、SAWの伝搬に影響を及ぼさないように薄く形成されている。具体的には、密着層は、50〜100Å(特許文献1の段落0009)もしくはSAWの波長の1%以下(特許文献2の段落0108)とされている。
弾性波素子においては、電気機械結合係数の向上が望まれることがある。例えば、電気機械結合係数を大きくすることにより、高帯域フィルタを実現することができる。
従って、電気機械結合係数を高くすることが可能な弾性波素子および弾性波装置が提供されることが望ましい。
本発明の一態様に係る弾性波素子は、圧電基板と、該圧電基板の上面に配置された電極指と、該電極指の上面に配置された質量付加膜と、を備え、前記質量付加膜は、前記電極指が伸びている方向に直交する方向における断面を見たときに、該断面における幅が上辺で最も小さい。
本発明の一態様に係る弾性波装置は、上記の弾性波素子と、該弾性波素子が取り付けられた回路基板と、を備える。
上記の構成によれば、電極指の上面に質量付加膜を配置し、該質量付加膜を、電極指が伸びている方向に直交する方向における断面を見たときに、該断面における幅が上辺で最も小さいことによって、電気機械結合係数を高くすることができる。
以下、本発明の実施形態に係るSAW素子およびSAW装置について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明で用いられる図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。
(SAW素子の構成および製造方法)
図1(a)は本発明の実施形態に係るSAW素子1の平面図、図1(b)は図1(a)のIb−Ib線における断面図である。なお、SAW素子1は、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下では、便宜的に、直交座標系xyzを定義するとともに、z方向の正側(図1(a)の紙面手前側、図1(b)の紙面上方)を上方として、上面、下面等の用語を用いるものとする。
図1(a)は本発明の実施形態に係るSAW素子1の平面図、図1(b)は図1(a)のIb−Ib線における断面図である。なお、SAW素子1は、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下では、便宜的に、直交座標系xyzを定義するとともに、z方向の正側(図1(a)の紙面手前側、図1(b)の紙面上方)を上方として、上面、下面等の用語を用いるものとする。
SAW素子1は、基板3と、基板3の上面3aに設けられたIDT電極5および反射器7と、IDT電極5および反射器7上に設けられた質量付加膜9(図1(b))と、上面3aを質量付加膜9の上から覆う保護層11(図1(b))とを有している。なお、SAW素子1は、この他にも、IDT電極5に信号の入出力を行うための配線等を有していてもよい。
基板3は、圧電基板によって構成されている。具体的には、例えば、基板3は、タンタル酸リチウム(LiTaO3)単結晶,ニオブ酸リチウム(LiNbO3)単結晶等の圧電性を有する単結晶の基板によって構成されている。より好適には、基板3は、128°±10°Y−XカットのLiNbO3基板によって構成されている。基板3の平面形状および各種寸法は適宜に設定されてよい。一例として、基板3の厚み(z方向)は、0.2mm〜0.5mmである。
IDT電極5は、一対の櫛歯状電極13を有している。各櫛歯状電極13は、SAWの伝搬方向(x方向)に延びるバスバー13a(図1(a))と、バスバー13aから上記伝搬方向に直交する方向(y方向)に伸びる複数の電極指13bとを有している。2つの櫛歯状電極13同士は、互いに噛み合うように(電極指13bが互いに交差するように)設けられている。
なお、図1(a)等は模式図であり、実際には、これよりも多数の電極指を有する複数対の櫛歯状電極が設けられてよい。また、複数のIDT電極5が直列接続や並列接続等の方式で接続されたラダー型SAWフィルタが構成されてもよいし、複数のIDT電極5をX方向に沿って配置した2重モードSAW共振器フィルタ等が構成されてよい。また、複数の電極指の長さを異ならせることによって、アポタイズによる重み付けを行ってもよい。
IDT電極5は、例えば、Alを主成分とする材料(Al合金を含む)によって形成されている。Al合金は、例えば、Al−Cu合金である。なお、「Alを主成分とする」とは、基本的にはAlを材料とするものであるが、SAW装置1の製造過程等において自然に混入しうるAl以外の不純物等が混ざった材料も含む。以下、主成分との表現を用いた場合も同様の意味である。また、IDT電極5は、複数の金属層から構成されてもよい。IDT電極5の各種寸法は、SAW素子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定される。一例として、IDT電極5の厚みe(図1(b))は、100nm〜300nmである。
なお、IDT電極5は、基板3の上面3aに直接配置されていてもよいし、別の部材を介して基板3の上面3aに配置されていてもよい。別の部材は、例えば、Ti、Cr、あるいはこれらの合金等である。このようにIDT電極5を別の部材を介して基板3の上面3aに配置する場合は、別の部材の厚みはIDT電極5の電気特性に殆ど影響を与えない程度の厚み(例えば、Tiの場合はIDT電極5の厚みの5%の厚み)に設定される。
複数の電極指13bは、そのピッチ(繰り返し間隔)p(図1(b))が、例えば、共振させたい周波数でのSAWの波長λの半波長と同等となるように設けられている。波長λ(2p)は、例えば、1.5μm〜6μmである。各電極指13bの幅w1(図1(b))は、SAW素子1に要求される電気特性等に応じて適宜に設定され、例えば、ピッチpに対して0.4p〜0.6pである。
反射器7は、IDT電極5の電極指13bのピッチpと概ね同等のピッチの格子状に形成されている。反射器7は、例えば、IDT電極5と同一の材料によって形成されるとともに、IDT電極5と同等の厚みに形成されている。
質量付加膜9は、IDT電極5および反射器7の電気特性を向上させるためのものである。質量付加膜9は、例えば、IDT電極5および反射器7の上面の全面に亘って設けられている。質量付加膜9を構成する材料は、例えば、IDT電極5および反射器7を構成する材料(AlまたはAl合金等)に比較して弾性波の伝搬速度が遅くなる材料、あるいはIDT電極5および反射器7を構成する材料(AlまたはAl合金等)、および保護層11を構成する材料(後述)に比較して音響インピーダンスが異なる材料のうち、少なくとも一方の条件を満たす材料を主成分とする材料によって構成されている。音響インピーダンスの相違は、ある程度以上であることが好ましく、例えば、15MRayl以上、より好ましくは20MRayl以上であることが好ましい。質量付加膜9の好適な材料および質量付加膜9の好適な厚みt(図1(b))については後述する。
質量付加膜9は、電極指13bの長手方向(y方向)に直交する方向における断面を見たときに、該断面における幅が上辺で最も小さくなるように形成されている。そして、この断面における幅は、下辺では上辺よりも大きくなっている。換言すれば、質量付加膜9は、y方向に見て、上面側部分が下面側部分よりも狭く形成されている。SAW素子1において質量付加膜9の断面形状は台形状になっている。質量付加膜9の台形の下底の長さは、例えば、電極指13bの幅w1と同等である。台形の上底の長さ(幅w2)の好ましい範囲については後述する。
保護層11は、例えば、基板3の上面3aの概ね全面に亘って設けられており、質量付加膜9が設けられたIDT電極5および反射器7を覆うとともに、上面3aのうちIDT電極5および反射器7から露出する部分を覆っている。保護層11の上面3aからの厚みT(図1(b))は、IDT電極5および反射器7の厚みeよりも大きく設定されている。例えば、厚みTは、厚みeよりも100nm以上厚く、200nm〜700nmである。
保護層11は、絶縁性を有する材料を主成分とする材料からなる。好適には、保護層11は、温度が上昇すると弾性波の伝搬速度が速くなるSiO2などの材料を主成分とする材料によって形成されており、これによって温度の変化による特性の変化を小さく抑えることができる。すなわち温度補償に優れた弾性波素子とすることができる。なお、基板3を構成する材料など、一般的な材料は、温度が上昇すると弾性波の伝搬速度は遅くなる。
また保護層11の表面は、大きな凹凸がないようにしておくことが望ましい。圧電基板上を伝搬する弾性波の伝搬速度は保護層11の表面の凹凸に影響を受けて変化するため、保護層11の表面に大きな凹凸が存在すると、製造された各弾性波素子の共振周波数に大きなばらつきが生じることとなる。したがって、保護層11の表面を平坦にしておけば、各弾性波素子の共振周波数が安定化する。具体的には、保護層11の表面の平坦度を、圧電基板上を伝搬する弾性波の波長の1%以下とすることが望ましい。
図2(a)〜図2(e)は、SAW素子1の製造方法の概要を説明する、製造工程毎の図1(b)に対応する断面図である。製造工程は、図2(a)から図2(e)まで順に進んでいく。なお、各種の層は、プロセスの進行に伴って形状等が変化するが、変化の前後で共通の符号を用いることがあるものとする。
図2(a)に示すように、まず、基板3の上面3a上には、IDT電極5および反射器7となる導電層15、ならびに質量付加膜9となる付加層17が形成される。具体的には、まず、スパッタリング法、蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition:化学的気相堆積)法等の薄膜形成法によって、上面3a上に導電層15が形成される。次に、同様の薄膜形成法によって、付加層17が形成される。
付加層17が形成されると、図2(b)に示すように、付加層17および導電層15をエッチングするためのマスクとしてのレジスト層19が形成される。具体的には、ネガ型もしくはポジ型の感光性樹脂の薄膜が適宜な薄膜形成法によって形成され、フォトリソグラフィー法等によってIDT電極5および反射器7等の非配置位置において薄膜の一部が除去される。
次に、図2(c)に示すように、RIE(Reactive Ion Etching:反応性イオンエッチング)等の適宜なエッチング法によって、付加層17および導電層15のエッチングを行う。これによって、質量付加膜9が設けられたIDT電極5および反射器7が形成される。その後、図2(d)に示すように、適宜な薬液を用いることによって、レジスト層19は除去される。
そして、図2(e)に示すように、スパッタリング法もしくはCVD法等の適宜な薄膜形成法によって保護層11となる薄膜が形成される。この時点においては、保護層11となる薄膜の表面には、IDT電極5等の厚みに起因して凹凸が形成されている。そして、必要に応じて化学機械研磨等によって表面が平坦化され、図1(b)に示すように、保護層11が形成される。なお、保護層11は、平坦化の前もしくは後において、後述するパッド39(図15)等を露出させるために、フォトリソグラフィー法等によって一部が除去されてもよい。
図3(a)および図3(b)は、質量付加膜9を台形に形成する方法の例を説明する図である。具体的には、図3(a)は、図2(b)の領域IIIaの拡大図、図3(b)は、図2(c)の領域IIIbの拡大図である。
付加層17および導電層15のエッチングにおいては、わずかながらマスクであるレジスト層19もエッチングされる。従って、図3(a)において示すように、実線で示されたレジスト層19および付加層17の表面形状は、エッチングの進行に伴って、点線EL1で示される形状から、点線EL2で示される形状へと順次移行していく。
すなわち、エッチングの初期段階(図3(a)において実線で示されたレジスト層19)では、レジスト層19の下面外周部の下に位置していた付加層17が露出するようになり、この部分がエッチングされ、さらにエッチングが進行すると、今度は、若干エッチングされたレジスト層19(図3(a)において点線EL1で示されたレジスト層19)の下面外周部の下に位置していた付加層17が露出するようになり、この部分がエッチングされ、このようなエッチングが徐々に進行することによって台形状の質量付加膜9が得られる。
そこで、レジスト層19の側面がよりいっそうエッチングされるようにエッチング条件(例えば、RIEによるエッチングの場合は、エッチングガスの組成比や印加電圧)を設定すれば、レジスト層19の側面がより傾斜した状態となり、これに伴って質量付加膜9の側面もより傾斜したものとなる。すなわち、エッチングの条件を変えることによって質量付加膜9の形状を制御することができる。
図4(a)および図4(b)は、質量付加膜9を台形に形成する方法の他の例を説明する図である。具体的には、図4(a)は、図2(a)から図2(b)へ遷移する間(露光工程)における図2(b)の領域IIIaの拡大図に相当する図であり、図4(b)は、図2(b)の領域IIIaの拡大図である。
この例においては、レジスト層19は、ポジ型のフォトリソグラフィーによって構成されている。従って、図4(a)に示すように、マスク21を介してIDT電極5等の非配置位置に対して光が照射される。そして、光が照射された部分が除去されて、レジスト層19は、図4(b)に示す形状となる。
このとき、マスク21の遮光部の下に位置するレジスト層19は、光が照射されないため基本的には除去されないが、マスク21の遮光部の外周部の下に位置する部分は、遮光部の縁で回折した光が照射され、その上面側が除去される。その結果、レジスト層19は、上面側部分が下面側部分よりも小さい台形状となる。そうすると図3において説明したように、付加層17のエッチング方向が傾斜しやすくなり、図4(b)において点線EL3に示すように、付加層17は台形状にエッチングされる。なお、この例においても、露光条件などを変えることによって、質量付加膜9の形状を制御することができる。
図5(a)〜図5(c)、図6(a)および図6(b)、ならびに、図7(a)および図7(b)を参照して、比較例の作用を説明するとともに、実施形態のSAW素子1の作用を説明する。
図5(a)は、第1の比較例のSAW素子101の作用を説明する断面図である。SAW素子101は、実施形態のSAW素子1において質量付加膜9および保護層11がない状態のものとなっている。
IDT電極5によって基板3に電圧が印加されると、矢印y1によって示すように、基板3の上面3a付近において上面3aに沿って伝搬するSAWが誘起される。また、SAWは、矢印y2によって示すように、電極指13bとギャップ部(電極指13bの非配置領域)との境界において反射する。そして、矢印y1およびy2で示すSAWによって電極指13bのピッチを半波長とする定在波が形成される。定在波は、当該定在波と同一周波数の電気信号に変換され、電極指13bによって取り出される。このようにして、SAW素子1は、共振子もしくはフィルタとして機能する。
しかし、SAW素子101においては、その温度が上昇すると、基板3における弾性波の伝搬速度が遅くなり、また、ギャップ部が大きくなる。その結果、共振周波数が低くなり、所望の特性が得られないおそれがある。また、IDT電極5は、上方に露出されていることから、水分に触れやすく、腐食のおそれがある。
図5(b)は、第2の比較例のSAW素子201の作用を説明する断面図である。SAW素子201は、実施形態のSAW素子1において質量付加膜9がない状態のものとなっている。換言すれば、第1の比較例のSAW素子101に保護層11を付加したものとなっている。
SAW素子201においては、保護層11が設けられていることから、矢印y3によって示すように、誘起されるSAWは、基板3だけでなく、保護層11においても伝搬する。ここで、例えば、保護層11は、温度が上昇すると弾性波の伝搬速度が速くなるSiO2などの材料によって形成されている。従って、基板3および保護層11を伝搬するSAW全体としては、温度上昇による速度の変化が抑制されることになる。すなわち、保護層11によって、温度上昇による基板3の特性変化が補償される。また、保護層11によってIDT電極5は水分に触れる蓋然性が低減され、ひいては、腐食のおそれが低減される。
しかし、SAWの振動が基板3から保護層11に移り過ぎると、SAWから電気信号への変換等が十分になされないようになる。すなわち、電気機械結合係数が低下する。また、IDT電極5がAlもしくはAl合金で形成され、保護層11がSiO2で形成された場合においては、IDT電極5と保護層11とで音響的な性質が近似し、電極指13bとギャップ部との境界が音響的に曖昧になる。換言すれば、電極指13bとギャップ部との境界における反射係数が低下する。その結果、図5(b)において図5(a)の矢印y2よりも小さい矢印y4によって示すように、SAWの反射波が十分に得られず、所望の特性が得られないおそれがある。
図5(c)は、実施形態のSAW素子1の作用を説明する断面図である。
SAW素子1は、保護層11を有していることから、第2の比較例のSAW素子201と同様に、温度特性の補償効果等が得られる。また、質量付加膜9がIDT電極5よりも弾性波の伝搬速度が遅くなる材料によって形成されている場合においては、矢印y5の位置を矢印y3の位置よりも下方にして示すように、電極指13b付近においてSAWが保護層11に移り過ぎることが抑制され、その結果、電気機械結合係数が高くなる。さらに、質量付加膜9が、音響インピーダンスがIDT電極5および保護層11の音響インピーダンスとある程度相違する材料によって形成されている場合には、電極指13bとギャップ部との境界位置における反射係数が高くなる。その結果、矢印y2によって示すように、SAWの反射波を十分に得ることが可能となる。
図6(a)は、第3の比較例のSAW素子301の作用を説明する断面図である。SAW素子301は、実施形態における台形状の質量付加膜9に代えて、矩形状の質量付加膜309を有したものとなっている。
図6(a)において、複数の点BPは、SAWの振動中心の一例を示している。SAWは、電極指13bの非配置領域(ギャップ部)においては、基板3の表面付近に分布し、電極指13bの配置領域においては、質量付加膜309に分布する。換言すれば、SAWの振動中心の軌跡は、電極指13bの配置領域において基板3の表面から離れる。その結果、電気機械結合係数は小さくなる。
図6(b)は、実施形態のSAW素子1の作用を説明する断面図である。
図6(b)において、複数の点BP(BP1含む)は、SAWの振動中心の一例を示している。SAW素子1においては、電極指13bの非配置位置と配置位置との境界において、質量付加膜9の質量が少なくなっていることから、SAW素子301に比較して、SAWの振動中心の基板3から質量付加膜9への遷移は緩やかとなり、SAWの振動中心は点BP1に示されるように、電極指13bを通る。すなわち、SAWの振動中心は、基板3に近づく。その結果、電気機械結合係数は大きくなる。
図7(a)は、質量付加膜9の形状を変化させたときの電気機械結合係数K2の変化を示している。
図7(a)は、シミュレーション計算によって得られたものである。
計算条件は、以下のとおりである。
基板3の材料:128°Y−XカットのLiNbO3基板
IDT電極5の材料:Al
保護層11の材料:SiO2
質量付加膜9の材料:Ta2O5
IDT電極5の正規化厚みe/λ:0.08
保護層11の正規化厚みT/λ:0.33
質量付加膜9の正規化厚みt/λ:0.05
質量付加膜9の下底の正規化長さw1/p:0.50
質量付加膜9の上底の正規化長さw2/p:0.35〜0.50の範囲で変化させた。
計算条件は、以下のとおりである。
基板3の材料:128°Y−XカットのLiNbO3基板
IDT電極5の材料:Al
保護層11の材料:SiO2
質量付加膜9の材料:Ta2O5
IDT電極5の正規化厚みe/λ:0.08
保護層11の正規化厚みT/λ:0.33
質量付加膜9の正規化厚みt/λ:0.05
質量付加膜9の下底の正規化長さw1/p:0.50
質量付加膜9の上底の正規化長さw2/p:0.35〜0.50の範囲で変化させた。
図7(a)において、横軸は、質量付加膜9の上底の正規化長さw2/pを示し、縦軸は、電気機械結合係数K2を示している。今回の計算条件では、w2/p=0.5のとき、w2/p=w1/pである。すなわち、w2/p=0.5のとき、質量付加膜の形状は矩形である(質量付加膜は、第3の比較例の質量付加膜309である)。
この計算結果より、質量付加膜9を台形にすることによって(w2/pを0.5未満とすることによって)、電気機械結合係数K2が高くなることが確認された。より具体的には、w2/w1が0.7以上1.0未満の場合において電気機械結合係数K2が高くなることが確認された。なお、質量付加膜9を矩形状から少しでも台形状にすれば、電気機械結合係数K2が高くなる効果が得られると考えられるが、シミュレーション計算上は、w2/w1が0.98のとき(w2/pが0.49のとき)に効果が発現されることが確認できている。
ここで、質量付加膜9を台形にすると、質量付加膜9の体積も全体として減少する。従って、質量付加膜の形状に関わらず、単に質量付加膜の体積が減少したことによって電気機械結合係数K2が高くなった可能性がある。そこで、質量付加膜の厚さtを変化させることによって質量付加膜9の体積を減少させた場合における、質量付加膜の体積の減少の影響を調べた。
図7(b)は、質量付加膜の厚さtを変化させたときの電気機械結合係数K2の変化を示している。
図7(b)は、シミュレーション計算によって得られたものであり、その計算条件は、質量付加膜に係る条件以外については、図7(a)の計算条件と概ね同一である。
図7(b)の計算においては、質量付加膜は矩形(第3の比較例の質量付加膜309)とされ、その正規化厚みt/λを0.03〜0.05の範囲で変化させた。
図7(b)において、横軸は、質量付加膜309の正規化厚みt/λを示し、縦軸は、電気機械結合係数K2を示している。
図7(b)の計算においては、質量付加膜は矩形(第3の比較例の質量付加膜309)とされ、その正規化厚みt/λを0.03〜0.05の範囲で変化させた。
図7(b)において、横軸は、質量付加膜309の正規化厚みt/λを示し、縦軸は、電気機械結合係数K2を示している。
図7(b)から、質量付加膜の厚みtを減少させて質量付加膜の体積を減少させた場合には、電気機械結合係数K2は減少している。従って、図7(a)における電気機械結合係数K2の向上は、単純な質量付加膜の体積の減少によるものではなく、その形状の変化に起因するものであることが確認された。
また、図7(a)においては、w2/pを小さくしていくと、電気機械結合係数K2の上昇は頭打ちとなる(w2/p=0.4)。これは、図7(b)の結果から、体積の減少による電気機械結合係数K2の減少によるものと考えられる。
図8(a)〜図8(f)は、SAW素子の変形例を示す断面図である。
図8(a)のSAW素子は、電極指25の形状が図1(b)等に示した電極指13bの形状と相違する。具体的には、電極指25の長手方向に沿った側面が、基板3の上面に近づくにつれて広がるように傾斜している。より具体的には、電極指25は、電極指25の長手方向に直交する方向における断面を見たときに、断面形状が台形になるように形成されている。なお、質量付加膜9の下底の長さは、電極指25の上底の長さと同等とされ、また、質量付加膜9と電極指25とは、これらの側面の上面3aに対する傾斜角が互いに同一とされている。
図8(b)および図8(c)のSAW素子は、図8(a)のSAW素子と同様に、台形状の電極指25を有し、また、質量付加膜9の下底の長さは、電極指25の上底の長さと同等とされている。ただし、図8(b)のSAW素子においては、質量付加膜9の側面は、電極指25の側面よりも傾斜が大きくなっている。逆に、図8(c)のSAW素子においては、質量付加膜9の側面は、電極指25の側面よりも傾斜が小さくなっている。
図8(a)〜図8(c)のいずれにおいても、質量付加膜9において、上面側部分が下面側部分よりも狭くされることによって、上述したように、電気機械結合係数K2の向上の効果が得られる。さらに、電極指25においても、上面側部分が下面側部分よりも狭くされることによって、SAWの振動中心の基板3から質量付加膜9への遷移がさらに緩やかになり、ひいては、電気機械結合係数K2がさらに向上することが期待される。
なお、図8(a)〜図8(c)の電極指25は、例えば、質量付加膜9と同様に、エッチングの時間を比較的短くすることなどによって、台形状とされる。電極指25および質量付加膜9の側面の傾斜角は、質量付加膜9のエッチング速度と電極指25のエッチング速度との差を考慮して適宜にエッチングの条件が設定されることなどによって、互いに同一または異なる大きさとされる。または、電極指25および質量付加膜9の側面の傾斜角は、電極指25と質量付加膜9とで、別個に、マスクの形成およびエッチングが行われることによって、互いに同一または異なる大きさとされる。
図8(d)〜図8(f)のSAW素子は、質量付加膜9と同様に、電極指25の長手方向に見て、上面側部分が下面側部分よりも狭く形成された質量付加膜26、27および28を有している。ただし、質量付加膜26、27および28は、台形状とは異なる形状とされている。
具体的には、図8(d)の質量付加膜26は、電極指25の長手方向に見て、一の矩形の上に当該矩形よりも幅が狭い他の矩形を重ねた形状とされている。このような形状は、例えば、マスクの形成およびエッチングを2回に分けて行うことによって実現される。
図8(e)の質量付加膜27は、電極指25の長手方向に見て、上面と側面との角部が平面もしくは曲面(図8(e)では曲面)によって面取りされた形状となっている。このような形状は、例えば、台形状の質量付加膜9と同様に、エッチングの時間の調整など、エッチングの条件を適宜に設定することによって実現される。
図8(f)の質量付加膜28は、電極指25の長手方向に見て、概略ドーム状とされている。この場合の質量付加膜28の断面における上辺はほぼ点に近い。このような形状は、例えば、質量付加膜28となる材料を電極指25上に印刷して形成すると、該材料の表面張力によって実現される。
なお、図8(d)〜図8(f)のSAW素子においては、電極指は、台形状の電極指25とされているが、矩形状の電極指13bとされてもよい。
図8(d)〜図8(f)のいずれの質量付加膜においても、質量付加膜9と同様に、上面側部分が下面側部分よりも狭くされることによって、電極指25の配置領域と非配置領域との境界において、質量付加膜の質量が減少される。その結果、いずれの質量付加膜も、質量付加膜9と同様に、SAWの振動中心の基板3から質量付加膜への遷移を緩やかにする作用を奏し、ひいては、電気機械結合係数K2が向上する。
(質量付加膜の好適な材料および厚み)
以下、質量付加膜9の好適な材料および厚みtについて検討する。ただし、以下の検討におけるシミュレーション計算においては、質量付加膜は矩形(第3の比較例の質量付加膜309)とされている。しかし、質量付加膜9は、質量付加膜309を改良したものであるから、質量付加膜309における好適な材料および厚みは、質量付加膜9においても好適な材料および厚みである。
以下、質量付加膜9の好適な材料および厚みtについて検討する。ただし、以下の検討におけるシミュレーション計算においては、質量付加膜は矩形(第3の比較例の質量付加膜309)とされている。しかし、質量付加膜9は、質量付加膜309を改良したものであるから、質量付加膜309における好適な材料および厚みは、質量付加膜9においても好適な材料および厚みである。
また、以下の検討においては、質量付加膜の奏する作用のうち、反射係数の増大の作用に着目する。ただし、反射係数の増大の作用に着目して選定した好適な材料および厚みは、電気機械結合係数K2に関しても好適なものであることを随所にて確認する。
以下の検討において、特に断りがない限り、基板3は128°Y−XカットのLiNbO3基板であり、IDT電極5はAlからなり、保護層11はSiO2からなるものとする。
図9(a)および図9(b)は、電極指13bの1本当たりの反射係数Γ1および電気機械結合係数K2を示すグラフである。
図9(a)および図9(b)は、シミュレーション計算によって得られたものである。計算条件は、以下のとおりである。
IDT電極5の正規化厚みe/λ:0.08
保護層11の正規化厚みT/λ:0.25
質量付加膜309の正規化厚みt/λ:0.01〜0.05の範囲で変化させた。
質量付加膜309の材料:WC、TiN、TaSi2
各材料の音響インピーダンス(単位はMRayl):
SiO2:12.2 Al:13.5
WC:102.5 TiN:56.0 TaSi2:40.6
IDT電極5の正規化厚みe/λ:0.08
保護層11の正規化厚みT/λ:0.25
質量付加膜309の正規化厚みt/λ:0.01〜0.05の範囲で変化させた。
質量付加膜309の材料:WC、TiN、TaSi2
各材料の音響インピーダンス(単位はMRayl):
SiO2:12.2 Al:13.5
WC:102.5 TiN:56.0 TaSi2:40.6
図9(a)および図9(b)において、横軸は質量付加膜309の正規化厚みt/λを示している。図9(a)において縦軸は電極指13bの1本当たりの反射係数Γ1を示している。図9(b)において縦軸は電気機械結合係数K2を示している。
図9(a)および図9(b)において、線L1、L2およびL3は、それぞれ、質量付加膜309がWC、TiNおよびTaSi2からなる場合に対応している。図9(a)において、線LS1は、反射係数Γ1の一般的に好ましいとされる範囲の下限を示している。図9(b)において、線LS2は、電気機械結合係数K2の一般的に好ましいとされる範囲の下限を示している。
これらの図より、質量付加膜309が設けられることによって、電気機械結合係数K2を一般的に好ましいとされる範囲に留めつつ、反射係数Γ1を一般的に好ましいとされる範囲とすることが可能であることが確認された。
また、これらの図より、質量付加膜309の正規化厚みt/λが大きくなるほど、反射係数Γ1および電気機械結合係数K2が高くなっていることが窺える。このような傾向は、いずれの材料によって質量付加膜309が形成された場合においても生じている。
一般には、音波が伝搬する媒質間における音響インピーダンスの差が大きいほど反射波は大きい。しかし、TaSi2(線L3)は、TiN(線L2)に比較して、音響インピーダンスが小さく、ひいては、SiO2との音響インピーダンスの差が小さいにも関わらず、反射係数Γ1が大きくなっている。以下では、この理由について検討する。
音響インピーダンスZSが互いに同一で、ヤング率Eおよび密度ρが互いに異なる種々の仮想材料によって質量付加膜309を形成した場合(ケースNo.1〜No.7)について、反射係数Γ1および電気機械結合係数K2を計算した。
計算条件は、以下のとおりである。
IDT電極5の正規化厚みe/λ:0.08
保護層11の正規化厚みT/λ:0.30
質量付加膜309の正規化厚みt/λ:0.03
質量付加膜309の物性値:
ZS E ρ
(MRayl)(GPa)(103kg/m3)
No.1: 50 100 25.0
No.2: 50 200 12.5
No.3: 50 300 8.33
No.4: 50 400 6.25
No.5: 50 500 5.00
No.6: 50 600 4.17
No.7: 50 700 3.57
なお、ZS=√(ρE)である。
IDT電極5の正規化厚みe/λ:0.08
保護層11の正規化厚みT/λ:0.30
質量付加膜309の正規化厚みt/λ:0.03
質量付加膜309の物性値:
ZS E ρ
(MRayl)(GPa)(103kg/m3)
No.1: 50 100 25.0
No.2: 50 200 12.5
No.3: 50 300 8.33
No.4: 50 400 6.25
No.5: 50 500 5.00
No.6: 50 600 4.17
No.7: 50 700 3.57
なお、ZS=√(ρE)である。
図10(a)および図10(b)は、上記の条件に基づいて計算した結果を示すグラフである。横軸は、No.を示し、縦軸は、電極指13bの1本当たりの反射係数Γ1または電気機械結合係数K2を示している。線L5は計算結果を示している。
図10(a)において、反射係数Γ1は、音響インピーダンスZSが同一であっても、ヤング率Eが小さく、密度ρが大きいほど大きくなっている。また、No.1〜No.3における反射係数Γ1の変化率は、No.3〜No.7における反射係数Γ1の変化率よりも大きくなっている。換言すれば、No.3付近において、臨界的意義を見出す余地がある。
このような反射係数Γ1の変化は、以下のように、質量付加膜309を構成する材料の弾性波の伝搬速度の相違によって生じているものと考えられる。まず、導波路理論より、振動分布は弾性波の伝搬速度の遅い媒質の領域ほど大きくなる。一方、No.1〜No.7の仮想材料の弾性波の伝搬速度Vは、以下のようになる(単位はm/s)。なお、V=√(E/ρ)である。
No.1: 2000 No.2: 4000 No.3: 6000
No.3: 8000 No.4:10000 No.6:12000
No.7:14000
No.1: 2000 No.2: 4000 No.3: 6000
No.3: 8000 No.4:10000 No.6:12000
No.7:14000
従って、同等の音響インピーダンスの質量付加膜309であっても、振動分布が質量付加膜309に集中する弾性波の伝搬速度が遅い質量付加膜309の方が、振動分布が周りに分散してしまう弾性波の伝搬速度が速い質量付加膜309よりも、実効的に反射係数が高くなると考えられる。
また、SiO2の弾性波の伝搬速度は5560m/s、Alの弾性波の伝搬速度は5020m/sである。従って、No.1および2の質量付加膜309の弾性波の伝搬速度は、保護層11およびIDT電極5の弾性波の伝搬速度よりも遅く、No.3〜7の質量付加膜309の弾性波の伝搬速度は、保護層11およびIDT電極5の弾性波の伝搬速度よりも速い。従って、上述したNo.3付近における反射係数の変化率の変化も、弾性波の伝搬速度によって説明できる。
なお、図10(a)において、横軸を弾性波の伝搬速度とみなしたときのSiO2およびAlの弾性波の伝搬速度を線LV1およびLV2によって示す。また、図10(b)に示す電気機械結合係数K2は、ヤング率Eおよび密度ρが変化しても、好ましい範囲内に収まっている。
以上のとおり、質量付加膜309は、保護層11およびIDT電極5を形成する材料と音響インピーダンスが相違し、かつ保護層11およびIDT電極5を形成する材料よりも弾性波の伝搬速度が遅い材料からなることが好ましい。なお、保護層11およびIDT電極5を形成する材料よりも音響インピーダンスが小さい材料よりも、大きい材料の方が、保護層11およびIDT電極5を形成する材料よりも弾性波の伝搬速度が遅いという条件を満たしやすく、材料の選定が容易である。
このような材料としては、例えば、Ta2O5、TaSi2、W5Si2が挙げられる。これらの物性値(音響インピーダンスZS、弾性波の伝搬速度V、ヤング率E、密度ρ)は、以下のとおりである。
ZS V E ρ
(MRayl)(m/s)(GPa)(103kg/m3)
Ta2O5 :33.8 4352 147 7.76
TaSi2 :40.6 4438 180 9.14
W5Si2 :67.4 4465 301 15.1
ZS V E ρ
(MRayl)(m/s)(GPa)(103kg/m3)
Ta2O5 :33.8 4352 147 7.76
TaSi2 :40.6 4438 180 9.14
W5Si2 :67.4 4465 301 15.1
なお、図9(a)において例示したWCおよびTiNは、保護層11およびIDT電極5を形成する材料よりも弾性波の伝搬速度が遅いという条件を満たさない(WCのV:6504m/s、TiNのV:10721m/s)。
TaSi2(図9(a)の線L3)よりもさらに音響インピーダンスが保護層11およびIDT電極5の音響インピーダンスに近いTa2O5(AlおよびSiO2との音響インピーダンスの差が20MRayl程度)について反射係数を計算し、上記の材料に関する知見について確認を行った。
計算条件は、以下のとおりである。
IDT電極5の正規化厚みe/λ:0.08
保護層11の正規化厚みT/λ:0.27、0.30または0.33
質量付加膜309の正規化厚みt/λ:0.01〜0.09の範囲で変化させた。
IDT電極5の正規化厚みe/λ:0.08
保護層11の正規化厚みT/λ:0.27、0.30または0.33
質量付加膜309の正規化厚みt/λ:0.01〜0.09の範囲で変化させた。
図11は上記の条件に基づいて計算した結果を示すグラフである。横軸および縦軸は図9(a)の縦軸および横軸と同様である。なお、線L7、L8およびL9は、それぞれ、保護層11の正規化厚みT/λが0.27、0.30および0.33の場合に対応している(線L7、L8およびL9はほぼ重なっている)。
図11において、Ta2O5は、TiN(図9(a)の線L2)に比較して、音響インピーダンスが保護層11の音響インピーダンスに近いにも関わらず、弾性波の伝搬速度が遅いことから、反射係数が高くなっている。
図11においては、保護層11の正規化厚みT/λは、概ね、反射係数に影響を及ぼさないという結果となっている。
次に、質量付加膜309の厚みtの好ましい範囲について検討する。まず、質量付加膜309の厚みtの好ましい範囲の下限値(以下、「好ましい範囲の」を省略して単に「下限値」ということがある。)について検討する。
図12(a)は、IDT電極5(全ての電極指13b)の反射係数Γallを模式的に示すグラフである。図12(a)において横軸は周波数fを示し、縦軸は反射係数Γallを示している。
反射係数Γallが概ね1(100%)となる周波数帯(f1〜f2)は、ストップバンドと呼ばれている。なお、実用上、ストップバンドにおける反射係数Γallは、完全に1である必要はなく、例えば、反射係数Γallが0.99以上である周波数帯がストップバンドとして特定されてよい。また、一般に、ストップバンドの下端f1もしくは上端f2においては、反射係数Γallが急激に変化するから、この変化の間がストップバンドと特定されてもよい。
IDT電極5の反射係数Γallは、電極指13bの1本当たりの反射係数Γ1および電極指13bの本数等によって決定される。そして、反射係数Γ1が小さくなると、ストップバンドの幅SBは小さくなることが一般的に知られている。
図12(b)は、IDT電極5の電気的なインピーダンスZeを模式的に示すグラフである。
図12(b)において横軸は周波数fを示し、縦軸はインピーダンスの絶対値|Ze|を示している。一般に知られているように、|Ze|は、共振周波数f3において極小値をとり、反共振周波数f4において極大値をとる。また質量付加膜309の正規化厚みt/λを変えるとストップバンドの下端f1と共振周波数f3とが一致した状態でストップバンドの上端f2と反共振周波数f4とが変化する。このときの変化の割合は、ストップバンドの上端f2の方が反共振周波数f4よりも大きい。
ここで、仮に、ストップバンドの上端f2が、線L11で示す、反共振周波数f4よりも低い周波数であると仮定すると、領域Sp1において仮想線(2点鎖線)で示すように、共振周波数f3と反共振周波数f4との間の周波数帯(幅Δf)においてスプリアスが発生する。その結果、所望のフィルタ特性等が得られないおそれがある。
一方、ストップバンドの上端f2が、線L12で示す、反共振周波数f4よりも高い周波数であると仮定すると、領域Sp2において仮想線(2点鎖線)で示すように、スプリアスは、反共振周波数f4よりも高い周波数において発生する。この場合、スプリアスがフィルタ特性等に及ぼす影響は抑制される。
従って、ストップバンドの上端f2は反共振周波数f4よりも高い周波数であることが好ましい。ここでストップバンドの上端f2は反射係数に依存するから、ストップバンドの上端f2が反共振周波数f4よりも高い周波数となるようにIDT電極5の反射係数を調整すればよい。そして、IDT電極5の反射係数は図9や図11において示したように質量付加膜309の正規化厚みt/λが大きくなるほど直線的に増加するから、質量付加膜309の正規化厚みt/λを調整することによってストップバンドの上端f2を反共振周波数f4よりも高い周波数とすることができる。すなわち、質量付加膜309の正規化厚みt/λをストップバンドの上端f2が反共振周波数f4よりも高くなる厚みとすることによって、共振周波数f3と反共振周波数f4との間の周波数帯(幅Δf)においてスプリアスの発生が抑制される。
ここで、図11に示したように、反射係数Γ1は、保護層11の正規化厚みT/λの影響を受ける。また、幅Δfは、保護層11の正規化厚みT/λの影響を受ける。そこで、質量付加膜309の正規化厚みt/λは、保護層11の正規化厚みT/λに応じて決定されることが好ましい。
そこで、ストップバンドの上端f2が反共振周波数f4と同等となる正規化厚みt/λを保護層11の正規化厚みT/λを変化させて算出し、その計算結果に基づいて、正規化厚みt/λの下限値を正規化厚みT/λによって規定した。
図13は、ストップバンドの上端f2が反共振周波数f4よりも高くなる正規化厚みt/λを説明するグラフであり、質量付加膜309の材料をTa2O5とした場合を例にとっている。
図13において、横軸は保護層11の正規化厚みT/λを示し、縦軸は質量付加膜309の正規化厚みt/λを示している。実線LN1は、ストップバンドの上端f2が反共振周波数f4と同等となる正規化厚みt/λの計算結果を示したものである。なお、計算において、IDT電極5の正規化厚みe/λは、0.08λとした。
実線LN1によって示されるように、ストップバンドの上端f2が反共振周波数f4と同等となる正規化厚みt/λは、2次曲線により好適に近似曲線を導き出すことが可能であった。
具体的には、以下のとおりである。
Ta2O5:
t/λ=0.5706(T/λ)2−0.3867(T/λ)+0.0913
TaSi2:
t/λ=0.3995(T/λ)2−0.2675(T/λ)+0.0657
W5Si2:
t/λ=0.2978(T/λ)2−0.1966(T/λ)+0.0433
Ta2O5:
t/λ=0.5706(T/λ)2−0.3867(T/λ)+0.0913
TaSi2:
t/λ=0.3995(T/λ)2−0.2675(T/λ)+0.0657
W5Si2:
t/λ=0.2978(T/λ)2−0.1966(T/λ)+0.0433
なお、いずれの下限値の式においても、正規化厚みt/λの極小値は、特許文献2において示された密着層の正規化厚みの最大値(0.01)よりも大きい。特許文献1は、密着層の厚みが波長によって正規化されていないので比較が難しい。しかし、正規化された厚みが大きくなるように、周波数を高く(例えばUMTSの最大周波数2690MHz)、弾性波の伝搬速度を遅く(例えば3000m/s)しても、λ=1.1μmであり、特許文献1の密着層の厚さの最大値(100Å)は0.01λ未満である。
次に、質量付加膜309の厚みtの好ましい範囲の上限値(以下、「好ましい範囲の」を省略して単に「上限値」ということがある。)について検討する。
図9(a)および図11に示したように、質量付加膜309の正規化厚みt/λが大きくなるほど反射係数が高くなる。従って、正規化厚みt/λの上限値は、質量付加膜309が保護層11から露出しない範囲ということになる。
正規化厚みt/λの下限値と同様に、正規化厚みt/λの上限値を式によって規定するならば、例えば、IDT電極5の厚さe/λを、一般的なSAW素子における厚さe/λに照らして0.1未満と見積もり、下記の式のように規定できる。
上限値:t/λ=T/λ−0.1
上限値:t/λ=T/λ−0.1
以上の検討から導かれる正規化厚みt/λの好ましい範囲を、Ta2O5を例にとり、図14に示す。
図14において、横軸および縦軸は、図13と同様に、保護層11の正規化厚みT/λおよび質量付加膜309の正規化厚みt/λを示している。線LL1は下限値を示し(図13の線LN1に対応)、線LH1は上限値を示している。これらの線の間のハッチングされた領域が質量付加膜309の正規化厚みt/λの好ましい範囲である。なお、線LH5は、特許文献2において示された密着層の正規化厚みの上限値(0.01)を示している。
図14において、横軸および縦軸は、図13と同様に、保護層11の正規化厚みT/λおよび質量付加膜309の正規化厚みt/λを示している。線LL1は下限値を示し(図13の線LN1に対応)、線LH1は上限値を示している。これらの線の間のハッチングされた領域が質量付加膜309の正規化厚みt/λの好ましい範囲である。なお、線LH5は、特許文献2において示された密着層の正規化厚みの上限値(0.01)を示している。
(SAW装置の構成)
図15は、本実施形態に係るSAW装置51を示す断面図である。
図15は、本実施形態に係るSAW装置51を示す断面図である。
SAW装置51は、例えば、フィルタもしくはデュプレクサを構成している。SAW装置51は、SAW素子31と、SAW素子31が実装される回路基板53とを有している。
SAW素子31は、例えば、いわゆるウェハレベルパッケージのSAW素子として構成されている。SAW素子31は、上述したSAW素子1と、基板3のSAW素子1側を覆うカバー33と、カバー33を貫通する端子35と、基板3のSAW素子1とは反対側を覆う裏面部37とを有している。
カバー33は、樹脂等によって構成されており、SAWの伝搬を容易化するための振動空間33aをIDT電極5および反射器7の上方(z方向の正側)に構成している。基板3の上面3a上には、IDT電極5と接続された配線38と、配線38に接続されたパッド39とが形成されている。端子35は、パッド39上において形成され、IDT電極5と電気的に接続されている。裏面部37は、例えば、特に図示しないが、温度変化等によって基板3表面にチャージされた電荷を放電するための裏面電極と当該裏面電極を覆う絶縁層とを有している。
回路基板53は、例えば、いわゆるリジッド式のプリント配線基板によって構成されている。回路基板53の実装面53aには、実装用パッド55が形成されている。
SAW素子31は、カバー33側を実装面53aに対向させて配置される。そして、端子35と実装用パッド55は、半田57によって接着される。その後、SAW素子31は封止樹脂59によって封止される。
なお、以上の実施形態において、基板3は圧電基板の一例であり、保護層11は絶縁層の一例である。
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
弾性波素子は、(狭義の)SAW素子に限定されない。例えば、絶縁層(11)の厚さが比較的大きい(例えば0.5λ〜2λ)、いわゆる弾性境界波素子(ただし、広義のSAW素子に含まれる。)であってもよい。なお、弾性境界波素子においては、振動空間(33a)の形成は不要であり、ひいては、カバー33等も不要である。
弾性波素子において、絶縁層(11)は必須の要件ではなく、また、絶縁層は、腐食防止のみを目的として設けられ、電極指の厚みよりも薄くされてもよい。これらの場合においても、質量付加膜は、例えば、電極指の材料よりも弾性波の伝搬速度の遅い材料により形成されることにより、反射係数を大きくすることができ、SAWの反射効率が良くなるためSAWの共振子内における閉じ込め効果が向上する。これにより、例えば、損失を少なくすることができるといった効果を奏する。また、これらの場合においても、実施形態と同様に、付加層が、上面側部分が下面側部分よりも狭く形成されることによって、SAWの振動中心が電極指の表面に急激に遷移することが抑制され、電気機械結合係数が向上するという効果が奏される。
弾性波素子は、ウェハレベルパッケージのものに限定されない。例えば、SAW素子は、カバー33および端子35等を有さず、基板3の上面3a上のパッド39と、回路基板53の実装用パッド55とが半田57によって直接接着されてもよい。そして、SAW素子1(保護層11)と回路基板53の実装面53aとの隙間によって振動空間が形成されてよい。
質量付加膜は、電極の全面に亘って設けられることが好ましい。ただし、質量付加膜は、電極指のみに設けられるなど、電極の一部にのみ設けられてもよい。さらに、質量付加膜は、電極指の長手方向に見て中央側の一部のみに設けられるなどしてもよい。また、質量付加膜は、電極の上面だけでなく、側面にも設けられてもよい。質量付加膜の材料は、導電材料であってもよいし、絶縁材料であってもよい。具体的には、タングステン、イリジウム、タンタル、銅などの導電材料、BaxSr1−xO3、PbxZn1−xO3、ZnO3などの絶縁材料を質量付加膜の材料として挙げることができる。また、図9(a)において好ましい材料とされなかったWC等も質量付加膜の材料とされてよい。
質量付加膜を絶縁材料により形成することによって、質量付加膜を金属材料によって形成したものに比べ、電極の腐食を抑制し弾性波素子の電気特性を安定化させることができる。なぜならば、SiO2からなる絶縁層にはピンホールが形成されることがあり、このピンホールが形成されると、これを介して電極部分まで水分が浸入することとなるが、電極上に電極材料と異なる材料からなる金属膜が配置されていると、浸入した水分によって、異種金属間の電池効果よる腐食が発生するおそれがあるからである。よって、質量付加膜をTa2O5などの絶縁材料によって形成すれば、電極と質量付加膜との間において電池効果は殆ど起きないため、電極の腐食が抑制された信頼性の高い弾性波素子とすることができる。
絶縁層(11)の上面は、電極指の位置において凸となるように、凹凸を有していてもよい。この場合、反射係数をさらに高くすることができる。当該凹凸は、図2(e)を参照して説明したように、絶縁層の成膜時に電極指の厚みに起因して形成されるものであってもよいし、絶縁層の表面を電極指の間の領域においてエッチングして形成されるものであってもよい。
基板は、128°±10°Y−XカットのLiNbO3基板の他にも、例えば、38.7°±Y−XカットのLiTaO3などを用いることができる。電極(電極指)の材料は、AlおよびAlを主成分とする合金に限定されず、例えば、Cu、Ag、Au、Pt、W、Ta、Mo、Ni、Co、Cr、Fe、Mn、Zn、Tiであってもよい。絶縁層の材料は、SiO2に限定されず、例えば、SiO2以外の酸化珪素であってもよい。
1…SAW素子(弾性波素子)、3…基板(圧電基板)、3a…上面、5…IDT電極(電極)、9…質量付加膜、11…保護層(絶縁層)。
Claims (9)
- 圧電基板と、
該圧電基板の上面に配置された電極指と、
該電極指の上面に配置された質量付加膜と、を備え、
該質量付加膜は、前記電極指が伸びている方向に直交する断面を見たときに、該断面における幅が上辺で最も小さい、弾性波素子。 - 前記質量付加膜が配置された前記電極指と、前記圧電基板の上面のうち前記電極指から露出する部分とを覆い、前記圧電基板の上面からの厚みが前記電極指および前記質量付加膜の合計の厚みよりも大きい絶縁層をさらに備える、請求項1に記載の弾性波素子。
- 前記絶縁層は酸化珪素を主成分とする、請求項2に記載の弾性波素子。
- 前記質量付加膜は、前記電極指の材料および前記絶縁層の材料よりも音響インピーダンスが大きく、かつ前記電極指の材料および前記絶縁層の材料よりも弾性波の伝搬速度が遅い材料を主成分とする、請求項2または3に記載の弾性波素子。
- 前記質量付加膜は絶縁材料を主成分とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性波素子。
- 前記質量付加膜は、前記断面における形状が台形である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性波素子。
- 前記台形の下底に対する前記台形の上底の長さの比が0.7以上1.0未満である、請求項6に記載の弾性波素子。
- 前記電極指は、該電極指の長手方向に沿った側面が、前記圧電基板の上面に近づくにつれて広がるように傾斜している、請求項1〜7のいずれか1項に記載の弾性波素子。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載の弾性波素子と、
該弾性波素子が取り付けられた回路基板と、を備える弾性波装置。
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