JPWO2012090631A1 - 磁気比例式電流センサ - Google Patents
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Abstract
素子間におけるゼロ磁場抵抗値(R0)や抵抗温度係数(TCR0)のズレを無くし、高精度に電流測定を行うこと。被測定電流からの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する4つの磁気抵抗効果素子(122a〜122c,123)で構成された磁界検出ブリッジ回路(13)を有し、4つの磁気抵抗効果素子(122a〜122c,123)は、反平行結合膜を介して第1の強磁性膜と第2の強磁性膜とを反強磁性的に結合させてなる強磁性固定層と、非磁性中間層と、軟磁性自由層とを有し、第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜は、キュリー温度が略同じであり、かつ、磁化量の差が実質的にゼロであり、3つの磁気抵抗効果素子(122a〜122c)の強磁性固定層の磁化方向が同じであり、1つの磁気抵抗効果素子(123)の強磁性固定層の磁化方向が3つの磁気抵抗効果素子(122a〜122c)の強磁性固定層の磁化方向と180°異なる方向である。
Description
本発明は、磁気抵抗効果素子(TMR素子、GMR素子)を用いた磁気比例式電流センサに関する。
電気自動車においては、エンジンで発電した電気を用いてモータを駆動しており、このモータ駆動用の電流の大きさは、例えば電流センサにより検出される。この電流センサは、導体の周囲に、一部に切り欠き(コアギャップ)を有する磁気コアを配置し、このコアギャップ内に磁気検出素子を配置してなるものである。
電流センサの磁気検出素子として、磁化方向が固定された固定磁性層、非磁性層、及び磁化方向が外部磁界に対して変動するフリー磁性層の積層構造を備える磁気抵抗効果素子(GMR素子、TMR素子)などが用いられている。このような磁気抵抗効果素子を用いる電流センサにおいては、磁気抵抗効果素子と固定抵抗素子とでフルブリッジ回路を構成している(特許文献1)。
しかしながら、磁気抵抗効果素子と固定抵抗素子とでフルブリッジ回路を構成する場合、磁気抵抗効果素子の膜構成と、固定抵抗素子の膜構成が異なるために、ゼロ磁場抵抗値(R0)や、ゼロ磁場での抵抗温度係数(TCR0)が磁気抵抗効果素子と固定抵抗素子との間で異なってしまう。このため、温度変化により、ブリッジ回路の出力である中点電位が変動してしまい、出力に誤差が生じてしまい、高精度に電流測定を行うことができないという問題がある。
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、素子間におけるゼロ磁場抵抗値(R0)や抵抗温度係数(TCR(Temperature Coefficient Resistivity)0)のズレを無くし、高精度に電流測定を行うことができる磁気比例式電流センサを提供することを目的とする。
本発明の磁気比例式電流センサは、被測定電流からの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する4つの磁気抵抗効果素子で構成され、前記誘導磁界に略比例する電圧差を生じる2つの出力を備える磁界検出ブリッジ回路と、前記誘導磁界を減衰させる磁気シールドと、を具備し、前記磁界検出ブリッジ回路の電圧差を用いて前記被測定電流の電流値を算出する磁気比例式電流センサであって、前記4つの磁気抵抗効果素子は、反平行結合膜を介して第1の強磁性膜と第2の強磁性膜とを反強磁性的に結合させてなるセルフピン止め型の強磁性固定層と、非磁性中間層と、軟磁性自由層とを有し、前記第1の強磁性膜及び前記第2の強磁性膜は、キュリー温度が略同じであり、かつ、磁化量の差が実質的にゼロであり、前記4つの磁気抵抗効果素子のうち3つの磁気抵抗効果素子の強磁性固定層の磁化方向が同じであり、残り1つの磁気抵抗効果素子の強磁性固定層の磁化方向が前記3つの磁気抵抗効果素子の強磁性固定層の磁化方向と180°異なる方向であることを特徴とする。
この構成によれば、磁気検出ブリッジ回路が膜構成の同じ4つの磁気抵抗効果素子で構成されているので、素子間におけるゼロ磁場抵抗値(R0)や抵抗温度係数(TCR0)のズレを無くすことができる。このため、環境温度によらず中点電位のばらつきを小さくでき、高精度に電流測定を行うことができる。
本発明の磁気比例式電流センサにおいては、前記磁気シールド及び前記磁界検出ブリッジ回路が同一基板上に形成されてなることが好ましい。
本発明の磁気比例式電流センサにおいては、前記磁気シールドが前記磁界検出ブリッジ回路より前記被測定電流に近い側に配置されることが好ましい。
本発明の磁気比例式電流センサにおいては、前記4つの磁気抵抗効果素子は、その長手方向が互いに平行になるように配置された複数の帯状の長尺パターンが折り返してなる形状を有し、前記誘導磁界が前記長手方向に直交する方向に沿うように印加されることが好ましい。
本発明の磁気比例式電流センサにおいては、前記第1の強磁性膜が40原子%〜80原子%のFeを含むCoFe合金で構成され、前記第2の強磁性膜が0原子%〜40原子%のFeを含むCoFe合金で構成されていることが好ましい。
本発明の磁気比例式電流センサにおいては、前記磁気シールドは、アモルファス磁性材料、パーマロイ系磁性材料、及び鉄系微結晶材料からなる群より選ばれた高透磁率材料で構成されていることが好ましい。
本発明の磁気比例式電流センサは、被測定電流からの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する4つの磁気抵抗効果素子で構成された磁界検出ブリッジ回路を有し、4つの磁気抵抗効果素子は、反平行結合膜を介して第1の強磁性膜と第2の強磁性膜とを反強磁性的に結合させてなる強磁性固定層と、非磁性中間層と、軟磁性自由層とを有し、第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜は、キュリー温度が略同じであり、かつ、磁化量の差が実質的にゼロであり、4つの磁気抵抗効果素子のうち3つの磁気抵抗効果素子の強磁性固定層の磁化方向が同じであり、残り1つの磁気抵抗効果素子の強磁性固定層の磁化方向が前記3つの磁気抵抗効果素子の強磁性固定層の磁化方向と180°異なる方向であるので、素子間におけるゼロ磁場抵抗値(R0)や抵抗温度係数(TCR0)の違いに起因する出力誤差を無くし、高精度に電流測定を行うことができる。
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1及び図2は、本発明の実施の形態に係る磁気比例式電流センサを示す図である。本実施の形態においては、図1及び図2に示す磁気比例式電流センサは、被測定電流Iが流れる導体11の近傍に配設される。この磁気比例式電流センサは、導体11に流れる被測定電流Iによる誘導磁界を検出する磁界検出ブリッジ回路(磁気検出ブリッジ回路)13を有する。磁界検出ブリッジ回路13は、被測定電流Iからの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する4つの磁気抵抗効果素子122a〜122c,123を有する。このように磁気抵抗効果素子を有する磁界検出ブリッジ回路13を用いることにより、高感度の磁気比例式電流センサを実現することができる。
この磁界検出ブリッジ回路13は、被測定電流Iにより生じた誘導磁界に略比例する電圧差を生じる2つの出力を備える。図2に示す磁界検出ブリッジ回路13においては、磁気抵抗効果素子122bと磁気抵抗効果素子122cとの間の接続点に電源Vddが接続されており、磁気抵抗効果素子122aと磁気抵抗効果素子123との間の接続点にグランド(GND)が接続されている。さらに、この磁界検出ブリッジ回路13においては、磁気抵抗効果素子122aと磁気抵抗効果素子122bとの間の接続点から一つの出力(Out1)を取り出し、磁気抵抗効果素子122cと磁気抵抗効果素子123との間の接続点からもう一つの出力(Out2)を取り出している。これら二つの出力の電圧差から、磁気比例式電流センサは被測定電流Iを算出する。
図3は、図1に示す磁気比例式電流センサを示す断面図である。図3に示すように、本実施の形態に係る磁気比例式電流センサにおいては、磁気シールド30及び磁界検出ブリッジ回路13が同一基板21上に形成されている。図3に示す構成においては、磁気シールド30が被測定電流Iに近い側に配置されている。すなわち、導体11に近い側から磁気シールド30、磁気抵抗効果素子122a〜122c,123の順に配置する。これにより、磁気抵抗効果素子122a〜122c,123を導体11から遠ざけることができ、被測定電流Iから磁気抵抗効果素子122a〜122c,123に印加される誘導磁界を小さくすることができる。このため、広い範囲の電流測定が可能になる。
図3に示す層構成について詳細に説明する。図3に示す磁気比例式電流センサにおいては、基板21上に絶縁層である熱シリコン酸化膜22が形成されている。熱シリコン酸化膜22上には、アルミニウム酸化膜23が形成されている。アルミニウム酸化膜23は、例えば、スパッタリングなどの方法により成膜することができる。また、基板21としては、シリコン基板などが用いられる。
アルミニウム酸化膜23上には、磁気抵抗効果素子122a〜122c、123が形成されており、前述の磁界検出ブリッジ回路13が作り込まれる。磁気抵抗効果素子122a〜122c,123としては、TMR素子(トンネル型磁気抵抗効果素子)、GMR素子(巨大磁気抵抗効果素子)などを用いることができる。本発明に係る磁気比例式電流センサにおいて用いられる磁気抵抗効果素子の膜構成については後述する。
磁気抵抗効果素子は、図2の拡大図に示すように、その長手方向が互いに平行になるように配置された複数の帯状の長尺パターン(ストライプ)が折り返してなる形状(ミアンダ形状)を有するGMR素子であることが好ましい。このミアンダ形状において、感度軸方向(Pin方向)は、長尺パターンの長手方向(ストライプ長手方向)に対して直交する方向(ストライプ幅方向)である。このミアンダ形状においては、誘導磁界がストライプ長手方向に直交する方向(ストライプ幅方向)に沿うように印加される。
このミアンダ形状においては、リニアリティを考慮すると、ピン(Pin)方向の幅が1μm〜10μmであることが好ましい。この場合において、リニアリティを考慮すると、長手方向が誘導磁界の方向に対して垂直になることが望ましい。このようなミアンダ形状にすることにより、ホール素子よりも少ない端子数(2端子)で磁気抵抗効果素子の出力を採ることができる。
また、アルミニウム酸化膜23上には、電極24が形成されている。電極24は、電極材料を成膜した後に、フォトリソグラフィ及びエッチングにより形成することができる。
磁気抵抗効果素子122a〜122c,123及び電極24を形成したアルミニウム酸化膜23上には、絶縁層としてポリイミド層25が形成されている。ポリイミド層25は、ポリイミド材料を塗布し、硬化することにより形成することができる。
ポリイミド層25上には、磁気シールド30が形成されている。磁気シールド30を構成する材料としては、アモルファス磁性材料、パーマロイ系磁性材料、又は鉄系微結晶材料等の高透磁率材料を用いることができる。なお、磁気シールド30は、適宜省略しても良い。
また、ポリイミド層25上には、シリコン酸化膜31が形成されている。シリコン酸化膜31は、例えば、スパッタリングなどの方法により成膜することができる。ポリイミド層25及びシリコン酸化膜31の所定の領域(電極24が存在する領域)にコンタクトホールが形成され、そのコンタクトホールに電極パッド26が形成されている。コンタクトホールの形成には、フォトリソグラフィ及びエッチングなどが用いられる。電極パッド26は、電極材料を成膜した後に、フォトリソグラフィ及びめっきにより形成することができる。
このような構成を有する磁気比例式電流センサにおいては、図3に示すように、被測定電流Iから発生した誘導磁界Aを磁気抵抗効果素子で受け、その抵抗変化に応じた電圧が出力される。
本発明の磁気比例式電流センサにおいては、図3に示すように磁気シールド30を有する。磁気シールド30は、被測定電流Iから生じ磁気抵抗効果素子に印加される誘導磁界を減衰させることができる。したがって、誘導磁界Aが大きい場合でも電流測定が可能である。つまり、広い範囲の電流測定が可能である。また、この磁気シールド30により、外部磁界の影響を低減させることができる。
上記構成を有する磁気比例式電流センサは、磁気検出素子として磁気抵抗効果素子、特にGMR素子やTMR素子を有する磁界検出ブリッジ回路13を用いる。これにより、高感度の磁気比例式電流センサを実現することができる。また、この磁気比例式電流センサは、磁気検出ブリッジ回路13が膜構成の同じ4つの磁気抵抗効果素子で構成されているので、素子間におけるゼロ磁場抵抗値(R0)や抵抗温度係数(TCR0)のズレを無くすことができる。このため、環境温度によらず中点電位のばらつきを小さくでき、高精度に電流測定を行うことができる。また、上記構成を有する磁気比例式電流センサは、磁気シールド30及び磁界検出ブリッジ回路13が同一基板上に形成されてなるので、小型化を図ることができる。さらに、この磁気比例式電流センサは、磁気コアを有しない構成であるので、小型化、低コスト化を図ることができる。
本発明において使用する磁気抵抗効果素子の膜構成は、例えば、図10(a)に示すものである。すなわち、磁気抵抗効果素子は、図10(a)に示すように、基板41に設けられた積層構造を有する。なお、図10(a)においては、説明を簡単にするために、基板41には磁気抵抗効果素子以外の下地層などは省略して図示している。磁気抵抗効果素子は、シード層42a、第1の強磁性膜43a、反平行結合膜44a、第2の強磁性膜45a、非磁性中間層46a、軟磁性自由層(フリー磁性層)47a,48a、及び保護層49aを含む。
シード層42aは、NiFeCrあるいはCrなどで構成される。保護層49aは、Taなどで構成される。なお、上記積層構造において、基板41とシード層42aとの間に、例えば、Ta,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち少なくとも1つの元素を含む非磁性材料などで構成される下地層を設けても良い。
この磁気抵抗効果素子においては、反平行結合膜44aを介して第1の強磁性膜43aと第2の強磁性膜45aとを反強磁性的に結合させており、いわゆるセルフピン止め型の強磁性固定層(SFP層:Synthetic Ferri Pinned層)が構成されている。
この強磁性固定層において、反平行結合膜44aの厚さを0.3nm〜0.45nm、もしくは、0.75nm〜0.95nmにすることにより、第1の強磁性膜43aと第2の強磁性膜45aとの間に強い反強磁性結合をもたらすことができる。
また、第1の強磁性膜43aの磁化量(Ms・t)と第2の強磁性膜45aの磁化量(Ms・t)が実質的に同じである。すなわち、第1の強磁性膜43aと第2の強磁性膜45a間で磁化量の差が実質的にゼロである。このため、SFP層の実効的な異方性磁界が大きい。したがって、反強磁性材料を用いなくても、強磁性固定層(Pin層)の磁化安定性を十分に確保できる。これは、第1の強磁性膜の膜厚をt1とし、第2の強磁性膜の膜厚をt2とし、両層の単位体積あたりの磁化及び誘導磁気異方性定数をそれぞれMs,Kとすると、SFP層の実効的な異方性磁界が次式(1)で示されるためである。したがって、本発明の磁気比例式電流センサに用いる磁気抵抗効果素子は、反強磁性層を有しない膜構成を有する。
式(1)
eff Hk=2(K・t1+K・t2)/(Ms・t1−Ms・t2)
式(1)
eff Hk=2(K・t1+K・t2)/(Ms・t1−Ms・t2)
第1の強磁性膜43aのキュリー温度(Tc)と第2の強磁性膜45aのキュリー温度(Tc)とは、略同じである。これにより、高温環境においても両膜43a,45aの磁化量(Ms・t)差が略ゼロとなり、高い磁化安定性を維持することができる。
第1の強磁性膜43aは、40原子%〜80原子%のFeを含むCoFe合金で構成されていることが好ましい。これは、この組成範囲のCoFe合金が、大きな保磁力を有し、外部磁場に対して磁化を安定に維持できるからである。また、第2の強磁性膜45aは、0原子%〜40原子%のFeを含むCoFe合金で構成されていることが好ましい。これは、この組成範囲のCoFe合金が小さな保磁力を有し、第1の強磁性膜43aが優先的に磁化する方向に対して反平行方向(180°異なる方向)に磁化し易くなるためである。この結果、上記式(1)で示すHkをより大きくすることが可能となる。また、第2の強磁性膜45aをこの組成範囲に限定することで、磁気抵抗効果素子の抵抗変化率を大きくすることができる。
第1の強磁性膜43a及び第2の強磁性膜45aは、その成膜中にミアンダ形状のストライプ幅方向に磁場が印加され、成膜後の第1の強磁性膜43a及び第2の強磁性膜45aに誘導磁気異方性が付与されることが好ましい。これにより、両膜43a,45aはストライプ幅方向に反平行に磁化することになる。また、第1の強磁性膜43a及び第2の強磁性膜45aの磁化方向は、第1の強磁性膜43aの成膜時の磁場印加方向で決まるため、第1の強磁性膜43aの成膜時の磁場印加方向を変えることにより、同一基板上に磁化方向が異なる強磁性固定層を持つ複数の磁気抵抗効果素子を形成することが可能である。
強磁性固定層の反平行結合膜44aは、Ruなどにより構成される。また、軟磁性自由層(フリー層)47a,48aは、CoFe合金、NiFe合金、CoFeNi合金などの磁性材料で構成される。また、非磁性中間層46aは、Cuなどにより構成される。また、軟磁性自由層47a,48aは、その成膜中にミアンダ形状のストライプ長手方向に磁場が印加され、成膜後の軟磁性自由層47a,48aには誘導磁気異方性が付与されることが好ましい。これにより、磁気抵抗効果素子においては、ストライプ幅方向の外部磁場(被測定電流からの磁場)に対して線形的に抵抗変化し、ヒステリシスを小さくすることができる。このような磁気抵抗効果素子においては、強磁性固定層、非磁性中間層及び軟磁性自由層により、スピンバルブ構成を採っている。
本発明の磁気比例式電流センサで用いる磁気抵抗効果素子の膜構成の例としては、例えば、NiFeCr(シード層:5nm)/Fe70Co30(第1の強磁性膜:1.65nm)/Ru(反平行結合膜:0.4nm)/Co90Fe10(第2の強磁性膜:2nm)/Cu(非磁性中間層:2.2nm)/Co90Fe10(軟磁性自由層:1nm)/NiFe(軟磁性自由層:7nm)/Ta(保護層:5nm)である。このような膜構成の磁気抵抗効果素子について、R−H波形を調べたところ、図9に示すようになり、反強磁性膜により固定磁性層の磁化を固定するタイプの磁気抵抗効果素子のR−H波形と同じ特性が得られたことが分かった。なお、図9に示すR−H波形については、通常測定される条件で求めた。
本発明の磁気比例式電流センサにおいては、図4に示すように、4つの磁気抵抗効果素子122a〜122c,123のうち3つの磁気抵抗効果素子122a〜122cの強磁性固定層の磁化方向(第2の強磁性膜の磁化方向:Pin2)が同じであり、残り1つの磁気抵抗効果素子123の強磁性固定層の磁化方向(第2の強磁性膜の磁化方向:Pin2)が3つの磁気抵抗効果素子122a〜122cの強磁性固定層の磁化方向と180°異なる方向である。
このように配置された4つの磁気抵抗効果素子を有する磁気比例式電流センサは、磁気検出ブリッジ回路13の2つの出力(OUT1、OUT2)の電圧差を検出することにより被測定電流を測定する。ここで、4つの磁気抵抗効果素子のゼロ磁場抵抗値は略同じ(R0)である。また、4つの磁気抵抗効果素子の抵抗変化は磁場の強さに略比例し、抵抗変化率も略同じである。
図5に示すように、図5の紙面向かって左側から被測定電流が流れると、図6に示すように、4つの磁気抵抗効果素子122a〜122c,123には、誘導磁界Aが同じ方向に印加される。
2つの磁気抵抗効果素子122a,122b(OUT1側)の強磁性固定層の磁化方向は同じであるため、誘導磁界Aの強さによらず、磁気抵抗効果素子122aの抵抗値と磁気抵抗効果素子122bの抵抗値とは常に同じ値を示す。したがって、OUT1の出力は常に一定(Vdd/2)である。このため、磁気抵抗効果素子122a,122bは固定抵抗素子と同じ役割を果たす。
一方、2つの磁気抵抗効果素子122c,123(OUT2側)の強磁性固定層の磁化方向は互いに反平行であるため、誘導磁界Aの強さに応じて磁気抵抗効果素子122c,123は異なる方向に抵抗変化する。誘導磁界による磁気抵抗効果素子122cの抵抗変化を−ΔRとすると、磁気抵抗効果素子122cの抵抗値はR0−ΔRであり、磁気抵抗効果素子123の抵抗値はR0+ΔRである。つまり、磁気抵抗効果素子122c,123の合成抵抗値は、誘導磁界Aの強さによらず2R0である。したがって、OUT2の出力は、
VOUT2=Vdd・(R0+ΔR)/2R0=Vdd/2+Vdd・ΔR/2R0
となる。つまり、抵抗変化ΔRとOUT2の出力とは略線形の関係にある。OUT1の出力は常にVdd/2であるから、OUT1とOUT2の電圧差はVdd・ΔR/2R0(または、−Vdd・ΔR/2R0)となり抵抗変化ΔRに略比例する。ΔRは磁場の強さに略比例するから、誘導磁界と略比例の関係にある電圧差が得られる。
VOUT2=Vdd・(R0+ΔR)/2R0=Vdd/2+Vdd・ΔR/2R0
となる。つまり、抵抗変化ΔRとOUT2の出力とは略線形の関係にある。OUT1の出力は常にVdd/2であるから、OUT1とOUT2の電圧差はVdd・ΔR/2R0(または、−Vdd・ΔR/2R0)となり抵抗変化ΔRに略比例する。ΔRは磁場の強さに略比例するから、誘導磁界と略比例の関係にある電圧差が得られる。
また、図7に示すように、図7の紙面向かって右側から被測定電流が流れると、2つの磁気抵抗効果素子122a,122b(OUT1側)及び2つの磁気抵抗効果素子122c,123(OUT2側)には、誘導磁界Aが図8に示すようにそれぞれ印加される。この場合の動作も図5及び図6の場合と同様である。
このように、本発明の磁気比例式電流センサは、同じ膜構造を有する4つの磁気抵抗効果素子で磁気検出ブリッジ回路を構成し、1つの磁気抵抗効果素子の第1の強磁性膜(第2の強磁性膜)の磁化方向を他の3つの磁気抵抗効果素子の第1の強磁性膜(第2の強磁性膜)の磁化方向と反平行方向になるようにしている。このため、4つの磁気抵抗効果素子のゼロ磁場抵抗値(R0)や抵抗温度係数(TCR0)を一致させることができ、温度変化により中点電位がばらつかない、高精度の電流センサを実現することができる。
上述のような4つの磁気抵抗効果素子を用いた磁気比例式電流センサは、反強磁性膜で固定磁性層の磁化を固定するタイプの磁気抵抗効果素子を用いて作製することもできる。この場合、4つの磁気抵抗効果素子のうち1つの磁気抵抗効果素子の固定磁性層(Pin層)の交換結合方向を他の3つの磁気抵抗効果素子の固定磁性層の交換結合方向と反平行方向にするために、レーザ局所アニールを適用するか、あるいは、磁気抵抗効果素子に隣接して磁界印加用コイルを設置する必要がある。このような方法は、磁気抵抗効果素子がチップ最表面付近にあるセンサやデバイスを作製する場合には適用することができるが、本発明の磁気比例式電流センサのように、磁気抵抗効果素子上に厚い有機絶縁膜や厚い磁気シールド膜などを設置したデバイスの作製には適していない。このため、本発明に係る磁気比例式電流センサにおいては、上述の反強磁性膜を有しない磁気抵抗効果素子が特に有用である。
本発明に係る磁気比例式電流センサでは、ポリイミド膜などの有機絶縁膜で磁気抵抗効果素子やその配線などを絶縁分離している。有機絶縁膜は、一般にスピンコートなどで有機材料を塗布した後に、200℃以上の加熱処理を施すことにより形成される。この有機絶縁膜は磁気検出ブリッジ回路形成の後工程で形成されるため、磁気抵抗効果素子も一緒に加熱されてしまう。反強磁性膜で固定磁性層の磁化を固定するタイプの磁気抵抗効果素子の製造工程においては、この有機絶縁膜の形成工程の熱履歴により固定磁性層の特性が劣化しないように、磁場を印加しながら加熱処理する必要がある。本発明に係る磁気比例式電流センサでは、反強磁性膜を用いていないため、磁場を印加しながら加熱処理を行わなくても固定磁性層の特性を維持することが可能である。したがって、磁化容易軸が加熱処理中の磁場方向と直交する軟磁性自由層のヒステリシスの劣化を抑えることができる。
また、反強磁性膜で固定磁性層の磁化を固定するタイプの磁気抵抗効果素子を用いる場合、反強磁性材料のブロッキング温度(交換結合磁界が消失する温度)がおよそ300℃〜400℃であり、この温度に向けて交換結合磁界が徐々に低下していくため、高温になるほど固定磁性層の特性が不安定となる。本発明に係る磁気比例式電流センサでは、反強磁性膜を用いていないため、固定磁性層の特性は主に固定磁性層を構成する強磁性材料のキュリー温度に依存する。一般に、CoFeなどの強磁性材料のキュリー温度は反強磁性材料のブロッキング温度よりもはるかに高い。したがって、第1の強磁性膜と第2の強磁性膜の強磁性材料のキュリー温度を一致させて高温領域においても磁化量(Ms・t)差をゼロに保つことにより、高い磁化安定性を維持することができる。
また、反強磁性膜で固定磁性層の磁化を固定するタイプの磁気抵抗効果素子を用いる場合、アニール時の印加磁場方向に交換結合磁界を発生させるため、第1の強磁性膜の磁化量(Ms・t)と第2の強磁性膜の磁化量(Ms・t)とで意図的に差を付ける必要がある。これは、磁化量差がゼロの場合、第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜が共に飽和する磁界が、アニール時に印加できる磁場(〜15kOe(×103/4π A/m))を超えてしまい、その結果、アニール後の第1の強磁性膜及び第2の強磁性膜の磁化分散が大きくなって、ΔR/Rの劣化を引き起こすためである。また、ΔR/Rをより大きくするため、第1の強磁性膜よりも第2の強磁性膜の膜厚を厚く(磁化量を大きく)する場合が多い。一般に、第2の強磁性膜の方が第1の強磁性膜より磁化量が多い場合、素子側壁において第2の強磁性膜から軟磁性自由層へ印加される還流磁界が大きくなり、出力のアシンメトリへ与える影響が大きくなる。また、この還流磁界は温度依存が大きいため、アシンメトリの温度依存も大きくなる。本発明に係る磁気比例式電流センサにおいては、磁気抵抗効果素子の第1の強磁性膜と第2の強磁性膜の磁化量差がゼロであるため、このような問題を解決することもできる。
また、本発明に係る磁気比例式電流センサの磁気抵抗効果素子は反強磁性材料を含まないため、材料コストや、製造コストを抑制することもできる。
図10(a)〜(c)及び図11(a)〜(c)は、本発明の実施の形態に係る磁気比例式電流センサにおける磁気抵抗効果素子の製造方法を説明するための図である。まず、図10(a)に示すように、基板41上に、シード層42a、第1の強磁性膜43a、反平行結合膜44a、第2の強磁性膜45a、非磁性中間層46a、軟磁性自由層(フリー磁性層)47a,48a、及び保護層49aを順次形成する。第1の強磁性膜43a及び第2の強磁性膜45aの成膜中には、ミアンダ形状のストライプ幅方向に磁場を印加する。図10において、第1の強磁性膜43a、第2の強磁性膜45aともに印加磁場方向は紙面奥側から手前側に向かう方向である。成膜後は第1の強磁性膜43aが印加磁場方向に優先的に磁化し、第2の強磁性膜45aは第1の強磁性膜43aの磁化方向とは反平行方向(180°異なる方向)に磁化する。また、軟磁性自由層(フリー磁性層)47a,48aの成膜中には、ミアンダ形状のストライプ長手方向に磁場を印加する。
次いで、図10(b)に示すように、保護層49a上にレジスト層50を形成し、フォトリソグラフィ及びエッチングにより、磁気抵抗効果素子122a〜122c側の領域上にレジスト層50を残存させる。次いで、図10(c)に示すように、イオンミリングなどにより、露出した積層膜を除去して、磁気抵抗効果素子123を設ける領域の基板41を露出させる。
次いで、図11(a)に示すように、露出した基板41上に、シード層42b、第1の強磁性膜43b、反平行結合膜44b、第2の強磁性膜45b、非磁性中間層46b、軟磁性自由層(フリー磁性層)47b,48b、及び保護層49bを順次形成する。第1の強磁性膜43b及び第2の強磁性膜45bの成膜中には、ミアンダ形状のストライプ幅方向に磁場を印加する。図11において、第1の強磁性膜43b、第2の強磁性膜45aともに印加磁場方向は紙面手前側から奥側に向かう方向である。上記と同じ原理により、第1の強磁性膜43aと第2の強磁性膜45aは反平行方向(180°異なる方向)に磁化する。また、軟磁性自由層(フリー磁性層)47b,48bの成膜中には、ミアンダ形状のストライプ長手方向に磁場を印加する。
次いで、図11(b)に示すように、保護層49a,49b上にレジスト層50を形成し、フォトリソグラフィ及びエッチングにより、磁気抵抗効果素子122a〜122c,123の形成領域上にレジスト層50を残存させる。次いで、図11(c)に示すように、イオンミリングなどにより、露出した積層膜を除去して、磁気抵抗効果素子122a〜122c,123を形成する。
このように、本発明の磁気比例式電流センサによれば、磁気検出ブリッジ回路が膜構成の同じ4つの磁気抵抗効果素子で構成されているので、素子間におけるゼロ磁場抵抗値(R0)や抵抗温度係数(TCR0)のズレを無くすことができる。このため、環境温度によらず中点電位のばらつきを小さくでき、高精度に電流測定を行うことができる。
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することができる。例えば、上記実施の形態における材料、各素子の接続関係、厚さ、大きさ、製法などは適宜変更して実施することが可能である。その他、本発明は、本発明の範囲を逸脱しないで適宜変更して実施することができる。
本発明は、電気自動車のモータ駆動用の電流の大きさを検出する電流センサに適用することが可能である。
本出願は、2010年12月27日出願の特願2010−289629に基づく。この内容は、全てここに含めておく。
次いで、図11(a)に示すように、露出した基板41上に、シード層42b、第1の強磁性膜43b、反平行結合膜44b、第2の強磁性膜45b、非磁性中間層46b、軟磁性自由層(フリー磁性層)47b,48b、及び保護層49bを順次形成する。第1の強磁性膜43b及び第2の強磁性膜45bの成膜中には、ミアンダ形状のストライプ幅方向に磁場を印加する。図11において、第1の強磁性膜43b、第2の強磁性膜45aともに印加磁場方向は紙面手前側から奥側に向かう方向である。上記と同じ原理により、第1の強磁性膜43aと第2の強磁性膜45bは反平行方向(180°異なる方向)に磁化する。また、軟磁性自由層(フリー磁性層)47b,48bの成膜中には、ミアンダ形状のストライプ長手方向に磁場を印加する。
Claims (6)
- 被測定電流からの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する4つの磁気抵抗効果素子で構成され、前記誘導磁界に略比例する電圧差を生じる2つの出力を備える磁界検出ブリッジ回路と、前記誘導磁界を減衰させる磁気シールドと、を具備し、前記磁界検出ブリッジ回路の電圧差を用いて前記被測定電流の電流値を算出する磁気比例式電流センサであって、
前記4つの磁気抵抗効果素子は、反平行結合膜を介して第1の強磁性膜と第2の強磁性膜とを反強磁性的に結合させてなるセルフピン止め型の強磁性固定層と、非磁性中間層と、軟磁性自由層とを有し、前記第1の強磁性膜及び前記第2の強磁性膜は、キュリー温度が略同じであり、かつ、磁化量の差が実質的にゼロであり、前記4つの磁気抵抗効果素子のうち3つの磁気抵抗効果素子の強磁性固定層の磁化方向が同じであり、残り1つの磁気抵抗効果素子の強磁性固定層の磁化方向が前記3つの磁気抵抗効果素子の強磁性固定層の磁化方向と180°異なる方向であることを特徴とする磁気比例式電流センサ。 - 前記磁気シールド及び前記磁界検出ブリッジ回路が同一基板上に形成されてなることを特徴とする請求項1記載の磁気比例式電流センサ。
- 前記磁気シールドが前記磁界検出ブリッジ回路より前記被測定電流に近い側に配置されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の磁気比例式電流センサ。
- 前記4つの磁気抵抗効果素子は、その長手方向が互いに平行になるように配置された複数の帯状の長尺パターンが折り返してなる形状を有し、前記誘導磁界が前記長手方向に直交する方向に沿うように印加されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の磁気比例式電流センサ。
- 前記第1の強磁性膜が40原子%〜80原子%のFeを含むCoFe合金で構成され、前記第2の強磁性膜が0原子%〜40原子%のFeを含むCoFe合金で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の磁気比例式電流センサ。
- 前記磁気シールドは、アモルファス磁性材料、パーマロイ系磁性材料、及び鉄系微結晶材料からなる群より選ばれた高透磁率材料で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の磁気比例式電流センサ。
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