JPWO2012086656A1 - ハードコート被膜を有する樹脂基板およびハードコート被膜を有する樹脂基板の製造方法 - Google Patents

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Abstract

シリコーン系ハードコート層がプライマー層を介して樹脂基板に設けられた構造において、耐擦傷性とともに、耐候密着性、耐候クラック性等の耐候性を向上させる。ハードコート被膜を有する樹脂基板の製造方法は、樹脂基板の少なくとも一方の面上にアクリル系ポリマーを主成分として含有するプライマー層形成用組成物を塗布し乾燥させてプライマー層を形成する工程と、前記プライマー層の表面にコロナ放電処理を施す工程と、コロナ放電処理を施したプライマー層の表面に、シランカップリング剤を主成分として含むシランカップリング剤組成物を塗布し乾燥させてシランカップリング剤処理を施す工程と、前記コロナ放電処理およびシランカップリング剤処理が施された前記プライマー層の表面に、オルガノポリシロキサンを主成分として含有するハードコート層形成用組成物を塗布し硬化させてハードコート層を形成する工程とを有する。

Description

本発明は、ハードコート被膜を有する樹脂基板、およびハードコート被膜を有する樹脂基板の製造方法に関する。
近年、自動車等の車両用の窓材や家屋、ビル等の建物に取り付けられる建材用の窓材として、これまでの無機ガラス板に代わって透明樹脂板の需要が高まっている。特に、自動車等の車両では軽量化のために、窓材に透明樹脂板を用いることが提案されており、とりわけ芳香族ポリカーボネート系の透明樹脂板は、耐破壊性、透明性、軽量性、易加工性等に優れるため、有望な車両用窓材としてその使用が検討されている。しかしながら、このような透明樹脂板は、無機ガラス板の代わりに使用するには耐擦傷性や耐候性等の点で問題があった。
そこで、透明樹脂板の耐擦傷性、耐候性等を向上させる目的で、種々のハードコート剤、特にシリコーン系ハードコート剤を用いて透明樹脂板の表面に被膜(ハードコート層)を形成することが提案されている。また、その際、ハードコート層と透明樹脂板との密着性を向上させるために、プライマー層等の接着層を介在させることも提案されている。さらに、このような接着層の表面にコロナ処理等の表面処理を施すことにより、接着効果をより高める技術も報告されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、このような従来のハードコート層を設けた透明樹脂板は、長期使用後のクラックの発生や密着性の低下等、耐候性の問題があった。特に、紫外線照射および高湿度を繰り返す環境下に長時間置くと、プライマー層とシリコーン系ハードコート層との間の密着性が低下し、剥離が生じ易いという問題があった。ここで、耐候性は長期間の屋外使用で黄変、塗膜のクラック、剥離が発生しないことであり、したがって、その評価には数年から10年超の長時間が必要となる。そのため、一般に、人工的に紫外線や温湿度環境等を設定した促進耐候性試験により耐候性を評価することが行われている。そこで、紫外線照射および高湿度を繰り返す環境下であっても密着性が低下することがなく、透明樹脂板に対し長期間十分な耐擦傷性や耐候性等を付与し得るハードコート層を備えた樹脂基板の開発が要望されている。
日本特表2005−536370号公報
本発明は、上記要望に応えるべくなされたものであって、シリコーン系ハードコート層がプライマー層を介して樹脂基板に設けられたハードコート被膜を有する樹脂基板において、耐擦傷性に優れるとともに、促進耐候性試験後の密着性(以下、「耐候密着性」ともいう。)、促進耐候性試験後のクラック性(以下、「耐候クラック性」ともいう。)等の耐候性に優れたハードコート被膜を有する樹脂基板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明の一態様に係るハードコート被膜を有する樹脂基板の製造方法は、樹脂基板の少なくとも一方の面上にアクリル系ポリマーを主成分として含有するプライマー層形成用組成物を塗布し乾燥させてプライマー層を形成する工程と、前記プライマー層の表面にコロナ放電処理を施す工程と、コロナ放電処理を施したプライマー層の表面に、シランカップリング剤を主成分として含むシランカップリング剤組成物を塗布し乾燥させてシランカップリング剤処理を施す工程と、前記コロナ放電処理およびシランカップリング剤処理が施された前記プライマー層の表面に、オルガノポリシロキサンを主成分として含有するハードコート層形成用組成物を塗布し硬化させてハードコート層を形成する工程とを有することを特徴としている。
また、本発明の他の態様に係るハードコート被膜を有する樹脂基板は、樹脂基板の少なくとも一方の面上に、アクリル系ポリマーを主成分として含有するプライマー層と、オルガノポリシロキサンの硬化物を主成分として含むハードコート層とを、前記樹脂基板側から順に有するハードコート被膜を有する樹脂基板であって、前記プライマー層の前記ハードコート層側表面に、コロナ放電処理およびシランカップリング剤処理が順に施されていることを特徴としている。
本明細書において、「ハードコート被膜」とは、樹脂基板上に形成されたハードコート層を含む多層からなる被膜をいう。すなわち、本発明においては、プライマー層およびハードコート層を有する被膜全体を、「ハードコート被膜」という。
本発明のハードコート被膜を有する樹脂基板の製造方法によれば、耐擦傷性に優れるとともに、耐候密着性、耐候クラック性等の耐候性にも優れるハードコート被膜を有する樹脂基板を得ることができる。また、本発明のハードコート被膜を有する樹脂基板は、耐擦傷性に優れるとともに、耐候密着性、耐候クラック性等の耐候性にも優れる。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明のハードコート被膜を有する樹脂基板は、樹脂基板の少なくとも一方の面上に、プライマー層により接合されたハードコート層を有するとともに、それらのプライマー層のハードコート層側表面に、コロナ放電処理およびシランカップリング剤処理が順に施されたものである。
<樹脂基板>
本発明に使用される樹脂基板を構成する樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ハロゲン化ビスフェノールAとエチレングリコールとの重縮合物、アクリルウレタン樹脂、ハロゲン化アリール基含有アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
これらのなかでもポリカーボネート樹脂(芳香族系ポリカーボネート樹脂等)、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート系アクリル樹脂等)が好ましく、ポリカーボネート樹脂がより好ましい。さらに、ポリカーボネート樹脂のなかでも、芳香族系ポリカーボネート樹脂がより好ましく、特にビスフェノールA系ポリカーボネート樹脂が好ましい。
なお、樹脂基板は、上記のような熱可塑性樹脂を2種以上含む単層構造の基板であってもよいし、これらの樹脂基板を用いて2層以上積層した積層構造の基板であってもよい。また、樹脂基板の形状は、特に限定されず、平板であってもよいし、湾曲していてもよい。湾曲した樹脂基板としては、射出成型により作られる三次元成形体が挙げられる。さらに、樹脂基板の色調は無色透明または着色透明であることが好ましい。
<プライマー層>
本発明のハードコート被膜を有する樹脂基板においては、上記樹脂基板の少なくとも一方の面上に、プライマー層が設けられる。このプライマー層は、アクリル系ポリマーを主成分として含有する組成物(プライマー層形成用組成物)を上記樹脂基板の少なくとも一方の面上に塗布し乾燥させることによって形成される。
[プライマー層形成用組成物]
(1)アクリル系ポリマー
プライマー層形成用組成物の主成分であるアクリル系ポリマーとしては、例えば、メタクリル基を有するモノマー(メタクリル酸エステル)の1種以上を重合単位とするホモポリマーまたはコポリマー(共重合体)が用いられる。
メタクリル酸エステルとしては、アルキル基の炭素数が6以下のメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、なかでも、メタクリル酸メチル(以下、「MMA」と記すこともある)、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチルが好ましい。
具体的には、アクリル系ポリマーとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸エチルをそれぞれモノマー単位とするホモポリマー、つまり、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸tert−ブチル、ポリメタクリル酸エチル、またはメタクリル酸メチルと、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸エチル、およびメタクリル酸イソブチルからなる群から選ばれる1種以上とのコポリマー等が好ましく使用される。アクリル系ポリマーのモノマー単位としては、特に、メタクリル酸メチルが好ましく、このメタクリル酸メチルに基づく重合単位を、少なくとも90モル%以上含有するホモポリマーまたはコポリマーが、アクリル系ポリマーとして特に好ましく使用される。
このアクリル系ポリマーは、プライマー層としての密着性や強度の性能が十分に発揮される点から、質量平均分子量Mwが20,000以上であることが好ましく、50,000以上であることがより好ましい。また、アクリル系ポリマーは、質量平均分子量Mwが百万以下であることが好ましい。質量平均分子量Mwが20,000未満であるか、または百万を超えると、プライマー層としての密着性や強度の性能が十分に発揮されないおそれがある。なお、このアクリル系ポリマーの質量平均分子量Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により、ポリスチレンを標準物質として測定された値である。
このようなアクリル系ポリマーは市販もされており、本発明においては、これらの市販品、例えば、ダイヤナールLR269(商品名、三菱レイヨン社製、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、質量平均分子量:100,000)、LR248(商品名、三菱レイヨン社製、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、質量平均分子量:155,000)等のような、予め適当な溶媒に溶解した溶液として市販されているものを使用することができる。また、ダイヤナールBR80(商品名、三菱レイヨン社製、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、質量平均分子量:90,000)、ダイヤナールBR88(商品名、三菱レイヨン社製、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、質量平均分子量:430,000)、M−4003(商品名、根上工業社製、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、質量平均分子量:700,000−1,300,000)等のようなアクリル系ポリマーを、適当な溶媒に溶解して使用することが可能である。さらに、これらのアクリル系ポリマーの2種以上を混合して使用することも可能である。
アクリル系ポリマーのプライマー層形成用組成物中の含有量は、50質量%〜98質量%であることが好ましく、70質量%〜95質量%であることがより好ましい。含有量が50質量%未満ではプライマー層と樹脂基板との密着性が低下し、剥離が発生する可能性がある。また、98質量%を越えるとプライマー層のハードコート層に対する密着性を十分に向上させることが困難になるおそれがある。
本発明において、アクリル系ポリマーを主成分として含有するプライマー層形成用組成物とは、溶媒を除いたプライマー層形成用組成物の各成分の合量に対し、アクリル系ポリマーを50%以上含有することを示す。
なお、上記した数値範囲を示す「〜」とは、特段の定めがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用され、以下本明細書において「〜」は、同様の意味をもって使用される。
(2)その他の成分
プライマー層形成用組成物には、上記アクリル系ポリマー以外に、さらに紫外線吸収剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤、粘性調整剤等の添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で含んでもよい。
樹脂基板の黄変を抑制するために、前記プライマー層形成用組成物には、紫外線吸収剤が含まれていることが好ましい。紫外線吸収剤としては、後述するハードコート層形成用組成物に含まれる紫外線吸収剤と同様のものを用いることができる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。プライマー層中の紫外線吸収剤の含有量は、アクリル系ポリマー100質量部に対して、1質量部〜50質量部であることが好ましく、1質量部〜30質量部であることが特に好ましい。
光安定剤としては、ヒンダードアミン類、またはニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、ニッケルコンプレクス−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルリン酸モノエチラート、ニッケルジブチルジチオカーバメート等のニッケル錯体が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。プライマー層中の光安定剤の含有量は、アクリル系ポリマー100質量部に対して、0.01質量部〜50質量部であることが好ましく、0.1質量部〜10質量部であることが特に好ましい。
また、プライマー層形成用組成物には、通常、溶媒が含まれる。溶媒としては、(1)アクリル系ポリマーを安定に溶解することが可能な溶媒であれば、特に限定されない。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等のエステル類;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メトキシエタノール、ジアセトンアルコール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ガソリン、軽油、灯油等の炭化水素類;アセトニトリル、ニトロメタン、水等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。溶媒は、好ましくは、酢酸n−ブチル、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコールから選ばれる少なくとも1種である。
溶媒の量は、アクリル系ポリマー100質量部に対して、50質量部〜10000質量部であることが好ましく、100質量部〜5000質量部であることがより好ましく、100質量部〜2000質量部であることが特に好ましい。なお、プライマー層形成用組成物中の不揮発成分(固形分)の含有量は、組成物全量に対して0.5質量%〜75質量%であることが好ましく、1質量%〜50質量%であることがより好ましく、3質量%〜30質量%であることが特に好ましい。
プライマー層形成用組成物は、以上説明した各種成分を通常の方法で、均一に混合することにより得られる。
[プライマー層の形成]
プライマー層は、上記のようにして調製した組成物を、樹脂基板上に塗布し、加熱乾燥することにより形成される。プライマー層形成用組成物を樹脂基板上に塗布する方法としては、特に限定されないが、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法、スピンコート法等が使用される。また、乾燥のための加熱条件は、特に限定されないが、50℃〜140℃で5分〜3時間であることが好ましい。
このようして形成されるプライマー層は、厚さが0.5μm〜10μmであることが好ましく、2μm〜8μmであることがより好ましい。プライマー層の厚さが0.5μm未満であると、耐候性が不足することがあり、10μmを超えると、基板の反り等の不具合が発生することがある。
[プライマー層の表面処理]
本発明のハードコート被膜を有する樹脂基板においては、プライマー層の表面に対し、(1)コロナ放電処理および(2)シランカップリング剤処理からなる表面改質処理が、この順でなされる。
(1)コロナ放電処理
コロナ放電処理は、電極間に高電圧をかけて放電し、電極間に配置された樹脂基板のプライマー層の表面を活性化する処理である。具体的には、プライマー層表面に高エネルギーの電子やイオンが衝突してラジカルやイオンが生成し、これに周囲のオゾン、酸素、窒素、水分等が反応して、プライマー層表面にカルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基等の極性官能基が導入される。
このコロナ放電処理による効果は、電極とプライマー層との間隔、印加電圧、移動速度、湿度、電極の種類、プライマー層の種類等によっても異なるが、本発明においては、例えば、電極とプライマー層との間隔を1mm〜5mmとし、プライマー層表面に対する放電エネルギーが20W・min/m〜500W・min/mとなる処理を施すことが好ましい。放電エネルギーが20W・min/m未満では、プライマー層表面の活性化(具体的には、プライマー層表面にカルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基等の極性官能基の導入)が不十分となり、ハードコート層とプライマー層間の耐候密着性が不十分となり、最終的に得られるハードコート被膜を有する樹脂基板に良好な耐候性を付与し得ないおそれがある。また、放電エネルギーが、500W・min/mを超えると、プライマー層表面の活性化が過剰になって、プライマー層表面が劣化することで、ハードコート層とプライマー層の密着力が低下するおそれがある。放電エネルギーは30W・min/m〜300W・min/mであることがより好ましく、40W・min/m〜200W・min/mであることが特に好ましい。
プライマー層に対し、上記のような好ましいコロナ放電処理を行うには、高周波発生電源(ジェネレータ)、高圧トランス、および電極を備えたコロナ放電処理装置を用い、電極とプライマー層との間隔、処理電力、移動速度、および電極幅を適宜調節するようにすればよい。具体的には、例えば、電極とプライマー層との間隔2mm、電力100W、電極幅350mm、移動速度30mm/s〜90mm/sの処理条件で処理する方法が用いられる。ここで、コロナ放電処理は、例えば、定速で移動するプレートあるいはベルトの上にプライマー層が形成された基材(樹脂基板)を載せ、プレートあるいはベルトの移動方向に対して垂直な向きに電極を設置し、プレートあるいはベルト所定の速度で移動させることで行う。移動速度とは、プライマー層が形成された基材と電極との相対速度を言う。
(2)シランカップリング剤処理
シランカップリング剤処理は、上記コロナ放電処理により極性官能基が導入されたプライマー層表面にシランカップリング剤を塗布して、シランカップリング剤が有する反応性官能基を予めコロナ放電処理で導入されている極性官能基と反応させるものである。シランカップリング剤の反応性官能基と極性官能基が反応することにより、シランカップリング剤がプライマー層表面に強固な力で結合される。
このシランカップリング剤処理に用いられるシランカップリング剤は、コロナ放電処理で導入された極性官能基と反応する官能基を有するものであれば、特に制限なく使用される。エポキシ基、メルカプト基、イソシアネート基、および(メタ)アクリル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有するシランカップリング剤が好ましい。なお、本明細書における(メタ)アクリル基は、アクリル基またはメタクリル基を意味する。同様に、(メタ)アクリレートは、アクリレートまたはメタクリレートを意味し、また(メタ)アクリル酸は、アクリル酸またはメタクリル酸を意味する。
具体的には、シランカップリング剤としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−(メタクリロプロピル)トリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、イミダゾールシラン等が挙げられる。これらのなかでも、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランが好ましい。シランカップリング剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
シランカップリング剤処理は、上記シランカップリング剤を溶媒に溶解して調製した組成物(以下、「シランカップリング剤組成物」という。)をコロナ放電処理したプライマー層表面に塗布し乾燥させることによって行われる。
シランカップリング剤の溶解に用いる溶媒は、シランカップリング剤を安定に溶解することが可能な溶媒であれば、特に限定されない。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メトキシエタノール、ジアセトンアルコール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ガソリン、軽油、灯油等の炭化水素類等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。溶媒の量は、シランカップリング剤組成物中の不揮発成分(固形分)濃度が0.01質量%〜20質量%となる量が好ましく、0.05質量%〜5質量%となる量がより好ましい。
シランカップリング剤組成物をプライマー層表面に塗布する方法としては、特に限定されないが、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法、スピンコート法等が使用される。処理の均一性等の観点からは、ディップコート法が好ましい。また、乾燥条件は、特に限定されないが、室温で、20分〜1時間程度が好ましい。
<ハードコート層>
本発明のハードコート被膜を有する樹脂基板においては、上記のようなコロナ放電処理およびシランカップリング剤による処理がなされたプライマー層の表面に、オルガノポリシロキサンを含む硬化膜からなるハードコート層が形成される。このハードコート層は、特に限定されないが、以下に示すようなオルガノポリシロキサンを含む組成物(ハードコート層形成用組成物)を前記プライマー層の表面に塗布し加熱硬化させることによって形成することが好ましい。
[ハードコート層形成用組成物]
(オルガノポリシロキサン)
本発明のハードコート層の形成に用いるハードコート層形成用組成物が含むオルガノポリシロキサンとしては、硬化性のオルガノポリシロキサンであれば、特に制限なく用いることができる。
一般に、オルガノポリシロキサンはM単位、D単位、T単位、Q単位と呼ばれる含ケイ素結合単位から構成される。このうち、硬化性のオルガノポリシロキサンは主としてT単位またはQ単位から構成されるオリゴマー状のポリマーであり、T単位のみから構成されるポリマー、Q単位のみから構成されるポリマー、T単位とQ単位から構成されるポリマーがある。また、それらポリマーは少量のM単位やD単位をさらに含むこともある。
硬化性のオルガノポリシロキサンにおいて、T単位は、1個のケイ素原子を有し、そのケイ素原子に結合した1個の水素原子または1価の有機基と、他のケイ素原子に結合した酸素原子(または他のケイ素原子に結合できる官能基)3個とを有する単位である。ケイ素原子に結合した1価の有機基はケイ素原子に結合する原子が炭素原子である1価の有機基である。他のケイ素原子に結合できる官能基は水酸基または加水分解により水酸基となる基(以下加水分解性基という)である。他のケイ素原子に結合した酸素原子と他のケイ素原子に結合できる官能基の合計は3個であり、他のケイ素原子に結合した酸素原子と他のケイ素原子に結合できる官能基の数の違いにより、T単位はT1、T2、T3と呼ばれる3種の単位に分類される。T1は他のケイ素原子に結合した酸素原子の数が1個、T2はその酸素原子の数が2個、T3はその酸素原子の数が3個である。本明細書等においては、他のケイ素原子に結合した酸素原子をOで表し、他のケイ素原子に結合できる1価の官能基をZで表す。
なお、他のケイ素原子に結合した酸素原子を表すOは、2個のケイ素原子間を結合する酸素原子であり、Si−O−Siで表される結合中の酸素原子である。したがって、Oは、2つの含ケイ素結合単位のケイ素原子間に1個存在する。言い換えれば、Oは、2つの含ケイ素結合単位の2つのケイ素原子に共有される酸素原子を表す。後述の含ケイ素結合単位の化学式において、1つのケイ素原子にOが結合している様に表現するが、このOは他の含ケイ素結合単位のケイ素原子と共有している酸素原子であり、2つの含ケイ素結合単位がSi−O−O−Siで表される結合で結合することを意味するものではない。
前記M単位は上記有機基3個とO1個を有する単位、D単位は上記有機基2個とO2個(またはO1個とZ基1個)を有する単位、Q単位は上記有機基0個とO4個(またはO1個〜3個とZ基3個〜1個の計4個)を有する単位である。それぞれの含ケイ素結合単位は、他のケイ素原子に結合した酸素原子(O)を有しない(Z基のみを有する)化合物(以下モノマーともいう)から形成される。T単位を形成するモノマーを以下Tモノマーという。M単位、D単位、Q単位を形成するモノマーも同様に、それぞれMモノマー、Dモノマー、Qモノマーという。
モノマーは、(R’−)Si(−Z)4−aで表される。ただし、aは0〜3の整数、R’は水素原子または1価の有機基、Zは水酸基または他のケイ素原子に結合できる1価の官能基を表す。この化学式において、a=3の化合物がMモノマー、a=2の化合物がDモノマー、a=1の化合物がTモノマー、a=0の化合物がQモノマーである。モノマーにおいて、Z基は通常加水分解性基である。また、R’が2または3個存在する場合(aが2または3の場合)、複数のR’は異なっていてもよい。R’としては、後述の好ましいRと同じ範疇のものが好ましい。
硬化性オルガノポリシロキサンは、モノマーのZ基の一部をOに変換する反応により得られる。オルガノポリシロキサンが2種以上の含ケイ素結合単位を含むコポリマーの場合、通常、これらコポリマーはそれぞれ対応するモノマーの混合物から得られる。モノマーのZ基が加水分解性基の場合、Z基は加水分解反応により水酸基に変換され、次いで別々のケイ素原子に結合した2個の水酸基の間における脱水縮合反応により、2個のケイ素原子が酸素原子(O)を介して結合する。硬化性オルガノポリシロキサン中には水酸基(または加水分解しなかったZ基)が残存し、硬化性オルガノポリシロキサンの硬化の際にこれら水酸基やZ基が上記と同様に反応して硬化する。硬化性オルガノポリシロキサンの硬化物は3次元的に架橋したポリマーであり、T単位やQ単位の多い硬化性オルガノポリシロキサンの硬化物は架橋密度の高い硬化物となる。硬化の際、硬化性オルガノポリシロキサンのZ基がOに変換されるが、Z基(特に水酸基)の一部は残存し、水酸基を有する硬化物となると考えられる。硬化性オルガノポリシロキサンを高温で硬化させた場合は水酸基がほとんど残存しない硬化物となることもある。
モノマーのZ基が加水分解性基である場合、そのZ基としては、アルコキシ基、塩素原子、アシルオキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。多くの場合、モノマーとしてはZ基がアルコキシ基のモノマーが使用される。アルコキシ基は塩素原子等と比較すると反応性の比較的低い加水分解性基であり、Z基がアルコキシ基であるモノマーを使用して得られる硬化性オルガノポリシロキサン中にはZ基として水酸基とともに未反応のアルコキシ基が存在することが多い。モノマーのZ基が反応性の比較的高い加水分解性基(例えば塩素原子)の場合、そのモノマーを使用して得られる硬化性オルガノポリシロキサン中のZ基はそのほとんどが水酸基となる。したがって、通常の硬化性オルガノポリシロキサンにおいては、それを構成する各単位におけるZ基は、水酸基からなるかまたは水酸基とアルコキシ基からなることが多い。
本発明においては、これら硬化性のオルガノポリシロキサンのうちでも、主としてT単位を主な含ケイ素結合単位として構成される硬化性のオルガノポリシロキサンが好ましく用いられる。以下、特に言及しない限り、硬化性のオルガノポリシロキサンを単にオルガノポリシロキサンという。ここで、本明細書において、T単位を主な構成単位とするオルガノポリシロキサン(以下、「オルガノポリシロキサン(T)」ともいう。)とは、M単位、D単位、T単位およびQ単位の合計数に対するT単位数の割合が50%〜100%のオルガノポリシロキサンをいうが、本発明においてより好ましくは、このT単位数の割合が70%〜100%のオルガノポリシロキサンを、特に好ましくはこのT単位数の割合が90%〜100%のオルガノポリシロキサンを用いるものである。また、T単位以外に少量含まれる他の単位としてはD単位とQ単位が好ましく、特にQ単位が好ましい。
すなわち、本発明においては、これら硬化性のオルガノポリシロキサンのなかでも、T単位とQ単位のみで構成され、その個数の割合がT:Q=90〜100:10〜0であるオルガノポリシロキサンが特に好ましく用いられる。
なお、オルガノポリシロキサンにおけるM単位、D単位、T単位、Q単位の数の割合は、29Si−NMRによるピーク面積比の値から計算できる。
本発明において好ましく用いられるオルガノポリシロキサン(T)は、下記T1〜T3で表されるT単位を有するオルガノポリシロキサンである。
T1:R−Si(−OX)(−O−)
T2:R−Si(−OX)(−O−)
T3:R−Si(−O−)
(式中、Rは水素原子または炭素数が1〜10の置換または非置換の1価の有機基を表し、Xは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表し、Oは2つのケイ素原子を連結する酸素原子を表す)
上記化学式におけるRは、1種に限定されず、T1、T2、T3はそれぞれ複数種のRを含んでいてもよい。また、上記化学式における−OXは水酸基またはアルコキシ基を表す。−OXはT1およびT2の間で同一であっても異なっていてもよい。T1における2つの−OXは異なっていてもよく、例えば、一方が水酸基で他方がアルコキシ基であってもよい。また、2つの−OXがいずれもアルコキシ基である場合、それらのアルコキシ基は異なるアルコキシ基であってもよい。ただし、後述のように、通常は2つのアルコキシ基は同一のアルコキシ基である。
なお、2個のケイ素原子を結合する酸素原子(O)を有しない、−OXのみを3個有するT単位を、以下T0という。T0は、実際には、オルガノポリシロキサン中に含まれる未反応のTモノマーに相当し、含ケイ素結合単位ではない。このT0は、T1〜T3の単位の解析においてT1〜T3と同様に測定される。
オルガノポリシロキサン中のT0〜T3は、核磁気共鳴分析(29Si−NMR)によりオルガノポリシロキサン中のケイ素原子の結合状態を測定して解析できる。T0〜T3の数の比は、29Si−NMRのピーク面積比から求める。オルガノポリシロキサン分子中の−OXは、赤外吸光分析により解析できる。ケイ素原子に結合した水酸基とアルコキシ基の数の比は両者の赤外吸収ピークのピーク面積比から求める。オルガノポリシロキサンの質量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、および分散度Mw/Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により、ポリスチレンを標準物質として測定した値をいう。このようなオルガノポリシロキサンの特性は、分子1個の特性をいうものではなく、各分子の平均の特性として求められるものである。
オルガノポリシロキサン(T)中には、1分子中に複数存在するT1、T2、T3はそれぞれ異なる2種以上が存在していてもよい。例えば、Rが異なる2種以上のT2が存在していてもよい。このようなオルガノポリシロキサンは2種以上のTモノマーの混合物から得られる。例えば、Rが異なる2種以上のTモノマーの混合物から得られるオルガノポリシロキサン中には、Rが異なるそれぞれ2種以上のT1、T2、T3が存在すると考えられる。Rが異なる複数のTモノマーの混合物から得られたオルガノポリシロキサン中の異なるRの数の比は、T単位全体として、Rが異なるTモノマー混合物の組成比を反映している。しかし、T1、T2、T3それぞれにおけるRが異なる単位の数の比は、Rが異なるTモノマー混合物の組成比を反映しているとは限らない。なぜならば、たとえTモノマーにおける3個の−OXが同一であっても、Tモノマー、T1、T2の反応性がRの相違によって異なる場合があるからである。
オルガノポリシロキサン(T)は、R−Si(−OY)で表されるTモノマーの少なくとも1種から製造されることが好ましい。この式において、Rは前記のRと同一であり、Yは炭素数1〜6のアルキル基を表す。Yは非置換のアルキル基以外に、アルコキシ置換アルキル基等の置換アルキル基であってもよい。1分子中の3個のYは異なっていてもよい。しかし、通常は3個のYは同一のアルキル基である。Yは、炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、炭素数1または2であることがより好ましい。具体的なYとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、2−メトキシエチル基等が挙げられる。
Rは水素原子または炭素数が1〜10の置換または非置換の1価の有機基である。有機基とは、前記のようにケイ素原子に結合する原子が炭素原子である有機基をいう。
非置換の1価の有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルアルキル基等の炭化水素基が挙げられる。これら炭化水素基としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基やアルキニル基、炭素数5または6のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアルアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ビニル基、アリル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
置換の1価の有機基としては、シクロアルキル基、アリール基、アルアルキル基等の環の水素原子がアルキル基で置換された炭化水素基、前記炭化水素基の水素原子がハロゲン原子、官能基、官能基含有有機基等で置換された置換有機基等がある。官能基としては水酸基、メルカプト基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、シアノ基等が好ましい。ハロゲン原子置換有機基としては、クロロアルキル基、ポリフルオロアルキル基等の塩素原子またはフッ素原子を有するアルキル基が好ましい。官能基含有有機基としては、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、グリシジル基、エポキシシクロヘキシル基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、N−アミノアルキル置換アミノアルキル基等が好ましい。特に、塩素原子、メルカプト基、エポキシ基、アミノ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、グリシジル基、アルキルアミノ基、N−アミノアルキル置換アミノアルキル基等が好ましい。官能基や官能基含有有機基等で置換された置換有機基を有するTモノマーはシランカップリング剤と呼ばれる範疇の化合物を含む。
置換有機基の具体例としては、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−メルカプトプロピル基、p−メルカプトメチルフェニルエチル基、3−アクリロイルオキシプロピル基、3−メタクリロイルオキシプロピル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、3−アミノプロピル基、N−フェニル−3−アミノプロピル基、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基、2−シアノエチル基等が挙げられる。
上記Rとして特に好ましい1価有機基は、炭素数1〜4のアルキル基である。オルガノポリシロキサン(T)としては、炭素数1〜4のアルキル基を有するTモノマーの単独またはその2種以上を使用して得られるオルガノポリシロキサンが好ましい。また、オルガノポリシロキサン(T)として炭素数1〜4のアルキル基を有するTモノマーの1種以上と少量の他のTモノマーを使用して得られるオルガノポリシロキサンもまた好ましい。他のTモノマーの割合はTモノマー全量に対し30モル%以下、特に15モル%以下が好ましい。他のTモノマーとしては、シランカップリング剤と呼ばれる範疇の、官能基や官能基含有有機基等で置換された置換有機基を有するTモノマーが好ましい。
炭素数1〜4のアルキル基を有するTモノマーの具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらのなかでも、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシランが好ましい。
置換有機基等を有するTモノマーの具体例としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−シアノエチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
R−Si(−OY)で表されるTモノマー以外の(R’−)Si(−Z)4−aで表されるTモノマー(a=3)としては、例えば、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、3−グリシドキシプロピルトリクロロシラン、メチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン等が挙げられる。
(R’−)Si(−Z)4−aで表されるDモノマー(a=2)において、2個のR’は同一であっても、異なっていてもよい。同一の場合は、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。異なる場合は、一方のR’が炭素数1〜4のアルキル基であり、他方のR’が前記官能基や官能基含有有機基等で置換された置換有機基であることが好ましい。また、Z基としては、炭素数1〜4のアルコキシ基、アセトキシ基等が好ましい。
Dモノマーとしては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジアセトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−シアノエチルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
(R’−)Si(−Z)4−aで表されるQモノマー(a=0)において、4個のZ基は異なっていてもよいが、通常は同一である。Z基としては、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましく、特にメトキシ基またはエトキシ基であることが好ましい。
Qモノマーとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラsec−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン等が挙げられる。
本発明に用いられるオルガノポリシロキサン(T)は、上記Tモノマー等を部分加水分解縮合させることによって得られる。通常、Tモノマー等と水とを溶媒中で加熱することによりこの反応を行う。反応系には触媒を存在させることが好ましい。モノマーの種類、水の量、加熱温度、触媒の種類や量、反応時間等の反応条件を調節して目的のオルガノポリシロキサンを製造することができる。また、場合によっては市販のオルガノポリシロキサンをそのまま、目的のオルガノポリシロキサンとして使用することや、市販のオルガノポリシロキサンを使用して目的とするオルガノポリシロキサンを製造することも可能である。
上記触媒としては、酸触媒が好ましい。酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜硝酸、過塩素酸、スルファミン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、乳酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。これらのなかでも、酢酸が好ましい。上記溶媒としては、親水性の有機溶媒が好ましく、アルコール系溶媒がより好ましい。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−エトキシエタノール、ジアセトンアルコール、2−ブトキシエタノール等が挙げられる。反応温度は、触媒が存在する場合、室温で反応させることができる。通常は、20℃〜80℃の反応温度から目的に応じて適切な温度を採用する。
加水分解縮合反応はT0(Tモノマー)からT1が生成し、T1からT2が生成し、T2からT3が生成する反応である。加水分解性基の1個以上が水酸基変換されたT0からT1が生成する縮合反応、2個の−OXの少なくとも一方が水酸基であるT1からT2が生成する縮合反応、および−OXが水酸基であるT2からT3が生成する縮合反応のそれぞれの反応速度は、この順に遅くなると考えられる。加水分解性基の加水分解反応を考慮しても、反応が進むにしたがって各単位の存在量のピークはT0からT3へ移動していくと考えられる。反応条件が比較的温和である場合には、存在量のピークの移動は比較的整然と進行すると考えられる。本発明に用いるオルガノポリシロキサン(T)のなかでも、後述するオルガノポリシロキサン(a)は、T0やT1の存在量が少なく、かつT2とT3の存在量の比が特定の範囲にある比較的高分子量のオルガノポリシロキサンであり、このようなオルガノポリシロキサンは比較的温和な反応条件を選択することにより製造することができる。
上記縮合反応の反応性はRによって変化し、Rが異なると水酸基の反応性も変化する。通常Rが小さいほど(例えば、Rがアルキル基の場合、アルキル基の炭素数が少ないほど)、水酸基の反応性は高い。したがって、加水分解性基の反応性と水酸基の反応性の関係を考慮して、Tモノマーを選択することが好ましい。
さらに、加水分解性基の水酸基への加水分解反応の速度は、加水分解性基の種類により変化し、縮合反応の速度との関係を考慮することが好ましい。例えば、T2のOX基がアルコキシ基である場合、その加水分解反応の速度が遅すぎると、OX基が水酸基であるT2が少なくなる。同様に、加水分解反応の速度が遅すぎるとOX基が水酸基であるT1が少なくなる。このため、オルガノポリシロキサン中のアルコキシ基に対する水酸基の存在量の比が高いものを得ることが困難となる。このため、OX基であるアルコキシ基は反応性の高いアルコキシ基、すなわち炭素数の低いアルコキシ基が好ましく、メトキシ基がもっとも好ましい。加水分解性基の反応性が充分高い場合、加水分解性基の割合の高いオルガノポリシロキサンから、縮合反応をあまり進めることなく、水酸基の割合の高いオルガノポリシロキサンを得ることができる。
本発明に用いるハードコート層形成用組成物には、このようにして得られる硬化性のオルガノポリシロキサン(T)の1種を単独で配合することも、2種以上を併用して配合することも可能である。耐擦傷性の観点から特に好ましいオルガノポリシロキサン(T)の組合せとして、オルガノポリシロキサン(a)およびオルガノポリシロキサン(b)の組合せについて以下に説明するが、本発明に用いる硬化性オルガノポリシロキサンがこれらに限定されるものではない。また、オルガノポリシロキサン(a)およびオルガノポリシロキサン(b)が、それぞれ単独でオルガノポリシロキサン(T)として本発明に使用されることを妨げるものでもない。
(オルガノポリシロキサン(a))
オルガノポリシロキサン(a)は、T1〜T3の各単位を、T1:T2:T3=0〜5:15〜40:55〜85、かつT3/T2=1.5〜4.0の割合で含む。また、オルガノポリシロキサン(a)中のOX基について、それがアルコキシ基である個数(A)とそれが水酸基である個数(B)との割合、(B)/(A)が分子平均で12.0以上である。さらに、オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量は800〜8000である。なお、オルガノポリシロキサン(a)は、TモノマーであるT0を実質的に含まない。
オルガノポリシロキサン(a)を構成するT1、T2およびT3の割合については、(T2+T3)/(T1+T2+T3)が0.85〜1.00の範囲にあることが好ましく、0.90以上1.00未満であることがより好ましい。また、T3/T2については、好ましい範囲は2.0〜4.0である。
オルガノポリシロキサン(a)を構成するT1、T2およびT3の割合を、各分子の平均組成でこのような範囲にすることで、オルガノポリシロキサン(a)と後述するオルガノポリシロキサン(b)とを組み合わせて本発明に係るハードコート層形成用組成物に用いた際に、最終的に得られるハードコート層の耐擦傷性を向上させることができる。
オルガノポリシロキサン(a)における(B)/(A)は、縮合反応性を示すパラメータであり、この値が大きいほど、つまりアルコキシ基に比べて水酸基の割合が多いほど、オルガノポリシロキサン(a)とオルガノポリシロキサン(b)とを組み合わせてハードコート層形成用組成物とした際に、硬化膜形成時の硬化反応が促進される。また、硬化膜形成時に未反応で残ったアルコキシ基は、最終的に得られるハードコート層の耐擦傷性の低下を招くおそれがあり、後硬化が進行すればマイクロクラックの原因ともなるため、アルコキシ基に比べて水酸基の割合が多いほどよい。オルガノポリシロキサン(a)における(B)/(A)は、12.0以上であるが、好ましくは16.0以上である。なお、(A)は0であってもよい。
(B)/(A)の値が12.0未満であると、アルコキシ基に比べて水酸基の割合が少なすぎて、硬化反応促進の効果が得られず、またアルコキシ基の影響により耐擦傷性の低下を招くおそれがあり、後硬化が進行してマイクロクラックの原因となる。つまり、(B)/(A)の値が12.0未満であると、硬化膜形成に際して、オルガノポリシロキサン(a)とオルガノポリシロキサン(b)の硬化反応により形成される3次元架橋構造(ネットワーク構造)に、オルガノポリシロキサン(a)の一部が組み込まれずブリードアウトしやすくなること等に起因して、架橋密度が低下し、耐摩耗性が得られない、硬化が十分に進行しにくくなる等の問題が発生するおそれがある。
オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量は800〜8000であり、好ましくは、1000〜6000である。オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量がこの範囲にあることで、オルガノポリシロキサン(a)とオルガノポリシロキサン(b)とを組み合わせて本発明のハードコート層形成用組成物に用いた際に、最終的に得られるハードコート層の耐擦傷性を十分に向上させることができる。
本発明において、特に耐擦傷性に優れたハードコート層を形成するためのハードコート層形成用組成物に用いるオルガノポリシロキサン(a)を得るには、原料の加水分解性シラン化合物として、全Tモノマー中70質量%以上がメチルトリアルコキシシラン、好ましくはアルコキシ基の炭素数は1〜4を用いることが好ましい。ただし、密着性の改善、親水性、撥水性等の機能発現を目的として少量のメチルトリアルコキシシラン以外のTモノマーを併用することもできる。
オルガノポリシロキサン(a)を製造する方法としては、上記のように、溶媒中で酸触媒存在下にTモノマー等を加水分解縮合反応させる。ここで加水分解に必要な水は、モノマー1当量に対して通常、水1当量〜10当量、好ましくは1.5当量〜7当量、さらに好ましくは3当量〜5当量である。モノマーを加水分解および縮合する際に、コロイダルシリカ(後述する)が存在する反応系で行うこともでき、このコロイダルシリカとして水分散型のコロイダルシリカを使用した場合は、水はこの分散液から供給される。酸触媒の使用量は、モノマー100質量部に対して、0.1質量部〜50質量部が好ましく、1質量部〜20質量部が特に好ましい。溶媒としては、前記アルコール系溶媒が好ましく、得られるオルガノポリシロキサン(a)の溶解性が良好な点から、具体的には、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールが特に好ましい。
通常、反応温度は20℃〜40℃、反応時間は1時間〜数日間が採用される。モノマーの加水分解縮合反応は発熱反応であるが、系の温度は60℃を超えないことが好ましい。このような条件で十分に加水分解反応を進行させ、ついで、得られるオルガノポリシロキサンの安定化のため40℃〜80℃で1時間〜数日間縮合反応を進行させることも好ましく行われる。
オルガノポリシロキサン(a)は、また、市販のオルガノポリシロキサンから製造することができる。市販のオルガノポリシロキサンは通常水酸基に比較してアルコキシ基の割合が高いオルガノポリシロキサンであるので、特に、前記(B)/(A)以外は目的とするオルガノポリシロキサン(a)に類似した市販のオルガノポリシロキサンを使用して加水分解反応で水酸基の割合を高めて、オルガノポリシロキサン(a)を製造することが好ましい。
オルガノポリシロキサン(a)の原料として使用できる市販のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物である下記のオルガノポリシロキサンがある。なお、「ND」の表記は、核磁気共鳴分析装置、日本電子株式会社製、ECP400(商品名)を用いて29Si−NMRのピーク面積比を測定した際に、検出量以下であることを示す(以下同様)。
メチル系シリコーンレジンKR−220L(商品名、信越化学工業社製);T0:T1:T2:T3=ND:ND:28:72、Si−OH/SiO−CH=11.7、質量平均分子量Mw=4720、数平均分子量Mn=1200、Mw/Mn=3.93。
メチル系シリコーンレジンKR−500(商品名、信越化学工業社製);T0:T1:T2:T3=ND:15:58:27、Si−OH基由来のピークはFT−IRにより確認されず、実質SiO−CHのみ存在。Mw=1240、Mn=700、Mw/Mn=1.77。
上記のような市販のオルガノポリシロキサンからオルガノポリシロキサン(a)を製造する場合、市販のオルガノポリシロキサンを、酸触媒存在下で主にアルコキシ基の加水分解を行うことが好ましい。例えば、市販のオルガノポリシロキサンに0倍量〜10倍量(質量)の溶媒を加え、よく撹拌し、次いで0.1質量%〜70質量%程度の濃度の酸水溶液を添加して、15℃〜80℃、好ましくは20℃〜70℃の温度で1時間〜24時間撹拌する等の方法が挙げられる。用いる溶媒としては水溶媒が使用でき、そのほか水を添加した前記アルコール系溶媒も使用できる。
(オルガノポリシロキサン(b))
オルガノポリシロキサン(b)は、オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量の1/10倍〜1/1.5倍の質量平均分子量を有するオルガノポリシロキサンである。オルガノポリシロキサン(b)は、組み合わされるオルガノポリシロキサン(a)よりも質量平均分子量の小さいオルガノポリシロキサンであり、前記T1〜T3単位を有する。T1、T2、T3の数の比、T3/T2の割合、(B)/(A)の比は特に限定されない。
オルガノポリシロキサン(b)の質量平均分子量は、好ましくは組み合わされるオルガノポリシロキサン(a)の1/8倍〜1/1.5倍である。オルガノポリシロキサン(b)の質量平均分子量がオルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量の1/1.5倍を超えると、言い換えれば、オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量がオルガノポリシロキサン(b)の質量平均分子量の1.5倍未満では、最終的に得られるハードコート層の靱性が低下し、クラックの発生の要因となる。また、オルガノポリシロキサン(b)の質量平均分子量がオルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量の1/10倍未満では、言い換えれば、オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量がオルガノポリシロキサン(b)の質量平均分子量の10倍を超えると、最終的に得られるハードコート層の耐擦傷性が低くなり、十分な耐擦傷性を有するハードコート層を得ることができない可能性がある。
より好ましいオルガノポリシロキサン(b)は、T0、T1、T2およびT3で示される各含ケイ素結合単位が、これらの単位の個数の割合で、T0:T1:T2:T3=0〜5:0〜50:5〜70:10〜90の範囲にあるオルガノポリシロキサンである。オルガノポリシロキサン(b)中のT0およびT1の割合が大きいということは、一般にそのオルガノポリシロキサンを製造する際に、原料モノマーの加水分解反応や縮合反応が不充分であったことを示す。オルガノポリシロキサン(b)において、T0およびT1の割合が大きいと、これとオルガノポリシロキサン(a)とを含有するハードコート層形成用組成物を用いて、硬化膜を形成させる際の熱硬化時に、クラックの発生が多くなる傾向となる。また、一般にオルガノポリシロキサンを製造する際に、原料モノマーの縮合反応を進行させすぎると、得られるオルガノポリシロキサンのT3の割合が高くなる。オルガノポリシロキサン(b)において、T3の割合が必要以上に高くなると、これとオルガノポリシロキサン(a)を含むハードコート層形成用組成物を用いて、硬化膜を形成させる際の熱硬化時に、適切な架橋反応が困難になるため、硬化膜を形成できなくなるおそれがあり、また最終的に十分な耐擦傷性を有するハードコート層を得ることができないことがある。
オルガノポリシロキサン(b)としては、オルガノポリシロキサン(a)と同様にTモノマー等から製造することができる。また、市販のオルガノポリシロキサンをそのままオルガノポリシロキサン(b)として使用することができる。オルガノポリシロキサン(b)として使用することができる市販のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、下記のオルガノポリシロキサンがある。なお、「trace」の表記は、核磁気共鳴分析装置、日本電子株式会社製、ECP400(商品名)を用いて29Si−NMRのピーク面積比を測定した際に、0.01以上0.25以下であることを示す(以下同様)。
トスガード510(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製);分子量:Mn=1370、Mw=1380、Mw/Mn=1.01。(T単位の個数):(M単位とD単位とQ単位のそれぞれの個数の総量)=99.9以上:ND。T0:T1:T2:T3=ND:2:36:62。
KP851(商品名、信越化学工業社製);分子量:Mn=1390、Mw=1400、Mw/Mn=1.01、(T単位の個数):(M単位とD単位とQ単位のそれぞれの個数の総量)=99.9以上:ND。T0:T1:T2:T3=trace:21:58:21。
上記オルガノポリシロキサン(a)に対するオルガノポリシロキサン(b)の含有量の割合は、質量比で、1.5倍〜30倍であることが好ましく、2倍〜15倍であることがより好ましい。このような割合で両者を含有すれば、硬化反応により形成されるオルガノポリシロキサン3次元架橋構造が、オルガノポリシロキサン(b)主体の3次元架橋構造中に(a)成分オルガノポリシロキサンが部分的に組み込まれた構成となり、最終的に得られるハードコート層の耐擦傷性を良好なものとすることができる。
本発明に用いられるハードコート層形成用組成物は、上記硬化性のオルガノポリシロキサン、好ましくはオルガノポリシロキサン(T)を含有する。ハードコート層形成用組成物におけるオルガノポリシロキサンの含有量は、溶媒を除く組成成分(以下、「不揮発成分」ともいう)全量に対して、50質量%〜100質量%であることが好ましく、60質量%〜95質量%であることがより好ましい。この不揮発成分の量は、150℃で45分間保持した後の質量変化に基づいて測定される。
本発明において、オルガノポリシロキサンを主成分として含有するハードコート層形成用組成物とは、溶媒を除いたハードコート層形成用組成物の各成分の合量に対し、オルガノポリシロキサンを50%以上含有することを示す。
(任意成分)
ハードコート層形成用組成物には、上記オルガノポリシロキサンの他に、種々の添加剤が含まれていてもよい。例えば、ハードコート層の耐擦傷性をさらに向上させるためには、シリカ微粒子を配合することが好ましく、コロイダルシリカを配合することがより好ましい。なお、コロイダルシリカとは、シリカ微粒子が、水またはメタノール、エタノール、イソブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の有機溶媒中に分散されたものをいう。
シリカ微粒子は、上記オルガノポリシロキサンの製造過程で、原料のモノマーに配合することもできる。コロイダルシリカを含む反応系中でオルガノポリシロキサンを製造することにより、シリカ微粒子を含むオルガノポリシロキサンが得られる。例えば、コロイダルシリカにTモノマーと必要により水や酸触媒を添加し、コロイダルシリカの分散媒中で前記のようにオルガノポリシロキサンを製造することができる。このようにして得られたオルガノポリシロキサンを使用して、シリカ微粒子を含む本発明に用いるハードコート層形成用組成物を製造することができる。
本発明に用いるシリカ微粒子は、平均粒径(BET法)が1nm〜100nmであることが好ましい。平均粒径が100nmを超えると、粒子が光を乱反射するため、得られるハードコート層の曇価(ヘーズ)の値が大きくなり、光学品質上好ましくない場合がある。平均粒径は5nm〜40nmであることがより好ましい。これは、ハードコート層に耐擦傷性を付与しつつ、かつハードコート層の透明性を保持するためである。また、コロイダルシリカは水分散型および有機溶剤分散型のいずれであってもよいが、好ましくは水分散型である。酸性水溶液中で分散させたコロイダルシリカを用いることがより好ましい。コロイダルシリカには、アルミナゾル、チタンゾル、セリアゾル等のシリカ微粒子以外の無機質微粒子を含有させることもできる。
シリカ微粒子の含有量としては、溶媒を除く組成成分(不揮発成分)全量に対して、1質量%〜50質量%となる量が好ましく、5質量%〜40質量%となる量がより好ましい。シリカ微粒子の含有量が1質量%未満では、得られるハードコート層において十分な耐擦傷性を確保できないことがあり、また、含有量が50質量%を越えると、不揮発成分中のオルガノポリシロキサンの割合が低くなりすぎて、オルガノポリシロキサンの熱硬化による硬化膜形成が困難になる、最終的に得られるハードコート層にクラックが発生する、シリカ微粒子同士の凝集が起こってハードコート層の透明性が低下する等の問題が発生するおそれがある。
ハードコート層形成用組成物には、また、塗工性向上の目的で、消泡剤や粘性調整剤等の添加剤を配合してもよく、プライマー層への密着性向上の目的で密着性付与剤等の添加剤が配合してもよく、さらに、塗工性および得られる塗膜の平滑性を向上させる目的でレベリング剤等の添加剤を配合してもよい。これらの添加剤の配合量は、オルガノポリシロキサン100質量部に対して、各添加剤成分毎に0.01質量部〜2質量部となる量が好ましい。ハードコート層形成用組成物には、また、本発明の目的を損なわない範囲で、染料、顔料、フィラー等を配合してもよい。
ハードコート層形成用組成物には、さらに、硬化触媒を配合してもよい。硬化触媒としては、例えば、脂肪族カルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、酒石酸、コハク酸等)のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;ベンジルトリメチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等の四級アンモニウム塩;アルミニウム、チタン、セリウム等の金属アルコキシドやキレート;過塩素酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、イミダゾール類およびその塩、トリフルオロメチルスルホン酸アンモニウム、ビス(トルフルオルメチルスルホニル)ブロモメチルアンモニウム等が挙げられる。硬化触媒の配合量は、オルガノポリシロキサン100質量部に対して、好ましくは0.01質量部〜10質量部であり、より好ましくは0.1質量部〜5質量部である。硬化触媒の配合量が0.01質量部未満では十分な硬化速度が得られにくく、10質量部を超えるとハードコート層形成用組成物の保存安定性が低下したり、沈殿物を生じたりすることがある。
また、ハードコート層形成用組成物には、樹脂基板の黄変を抑制するために、紫外線吸収剤を配合することが好ましい。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾイミダゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、ベンジリデンマロネート系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの紫外線吸収剤は、1種を単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。また、最終的に得られるハードコート層から上記紫外線吸収剤がブリードアウトするのを抑制するために、トリアルコキシシリル基を有する紫外線吸収剤を用いてもよい。トリアルコキシシリル基を有する紫外線吸収剤は、オルガノポリシロキサンの熱硬化による硬化膜形成の際に、加水分解反応により水酸基に変換され、次いで脱水縮合反応により硬化膜中に組み込まれ、結果として、紫外線吸収剤のハードコート層からのブリードアウトを抑制することができるものである。トリアルコキシシリル基としては、具体的には、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等が挙げられる。ハードコート層形成用組成物中の紫外線吸収剤の配合量は、オルガノポリシロキサン100質量部に対して、0.1質量部〜50質量部であることが好ましく、0.1質量部〜30質量部であることが特に好ましい。
さらに、本発明においては、常温でのハードコート層形成用組成物のゲル化を防止して、保存安定性を高めるために、ハードコート層形成用組成物のpHを3.0〜6.0に調整することが好ましく、4.0〜5.5に調整することがより好ましい。pHが2.0以下あるいは7.0以上の条件下では、ケイ素原子に結合した水酸基が極めて不安定であるため保存に適さない。pH調整の手法としては、酸の添加、硬化触媒の含有量の調整等が挙げられる。酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜硝酸、過塩素酸、スルファミン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、乳酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が使用される。
ハードコート層形成用組成物は、通常、必須成分であるオルガノポリシロキサン、および任意成分である種々の添加剤等が溶媒中に溶解、分散した形態で調製される。前述したハードコート層形成用組成物中の全不揮発成分が溶媒中に安定に溶解または分散することが重要であり、そのために溶媒は、少なくとも20質量%以上、好ましくは50質量%以上のアルコールを含有することが好ましい。
このような溶媒に用いるアルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−エトキシエタノール、ジアセトンアルコール、および2−ブトキシエタノール等が挙げられる。これらのなかでも、オルガノポリシロキサンの溶解性が良好な点、塗工性が良好な点から、沸点が80℃〜160℃のアルコールが好ましい。具体的には、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−エトキシエタノール、ジアセトンアルコール、および2−ブトキシエタノールが好ましい。
また、ハードコート層形成用組成物に用いる溶媒には、オルガノポリシロキサンを製造する際に、原料モノマー、例えばアルキルトリアルコキシシランを加水分解することに伴って発生する低級アルコール等や、水分散型コロイダルシリカ中の水で加水分解反応に関与しない水分、有機溶媒分散系のコロイダルシリカを使用した場合にはその分散有機溶媒も含まれる。
さらに、ハードコート層形成用組成物においては、上記以外の溶媒として、水/アルコールと混和することができるアルコール以外の他の溶媒を併用してもよい。このような溶媒としては、アセトン、アセチルアセトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類が挙げられる。
ハードコート層形成用組成物において用いる溶媒の量は、ハードコート層形成用組成物中の全不揮発成分100質量部に対して、50質量部〜3000質量部であることが好ましく、150質量部〜2000質量部であることがより好ましい。
ハードコート層形成用組成物は、以上説明した各種成分を通常の方法で、均一に混合することにより得られる。
[ハードコート層の形成]
ハードコート層は、上記のようにして調製したハードコート層形成用組成物を、コロナ放電処理およびシランカップリング剤処理が、この順になされたプライマー層上に塗布して塗膜を形成した後、塗膜を加熱硬化させることにより形成される。
ハードコート層形成用組成物をプライマー層上に塗布する方法としては、特に限定されないが、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法、スピンコート法等の通常の塗工方法が使用される。用いる塗工方法に応じて、ハードコート層形成用組成物の粘度、固形分濃度等を適宜調整することが好ましい。
ハードコート層形成用組成物をプライマー層の表面に塗布して形成される塗膜の厚さは、組成物における固形分濃度の影響を受ける。硬化後の膜厚が所定の範囲内になるように、固形分濃度を勘案する等して、適宜調整することが好ましい。
プライマー層上に施される硬化膜の膜厚は、以下に説明する硬化後の状態で、0.1μm〜20μmであることが好ましく、1μm〜10μmであることがより好ましく、2μm〜10μmであることが特に好ましい。ハードコート層の膜厚が小さすぎると、十分な耐擦傷性、耐候性を確保することが困難になるおそれがある。一方、ハードコート層の膜厚が大きすぎると、クラックや剥離が発生しやすくなるおそれがある。したがって、十分な耐擦傷性、耐候性を確保しつつ、クラックや剥離の発生を抑制するためには、硬化膜の膜厚(すなわち、ハードコート層の膜厚)は、0.1μm〜20μmであることが好ましい。なお、この膜厚は、樹脂基板のような基板上にハードコート層を単独で成膜した時の厚さを意味する。
このようにして形成されたハードコート層形成用組成物の塗膜に、次いで、熱処理を施すことによって、上記オルガノポリシロキサンを硬化させる。なお、本明細書において、「ハードコート層形成用組成物が硬化する」ということがあるが、これはハードコート層形成用組成物に含まれるオルガノポリシロキサンが硬化することをいう。また、この熱処理に先立って、必要に応じて乾燥の操作を設けてもよい。
乾燥は、上記のようにしプライマー層上に形成された塗膜を、通常、常温または樹脂基板の熱変形温度未満の温度条件下に一定時間置くことにより、塗膜中の溶媒の一部または全部が除去される操作である。溶媒の乾燥条件としては、例えば、0℃〜60℃の温度で、10分〜10時間保持する条件が挙げられる。また、減圧度を調整しながら真空乾燥等により溶媒の除去を行ってもよい。
このような任意に行われる乾燥の後、塗膜に対し熱処理を施して硬化膜を形成する。この熱処理は、ハードコート層形成用組成物を縮合硬化させるために通常行われる処理と同様の処理とすることができる。
熱処理は、樹脂基板の耐熱性に問題がない範囲において高い温度で行うことが、より早く硬化を完了させることができ好ましい。しかし、例えば、1価の有機基としてメチル基を有するオルガノポリシロキサンを用いた場合、加熱硬化時の温度が250℃以上では、熱分解によりメチル基が脱離する。したがって、加熱温度としては、50℃〜200℃が好ましく、80℃〜160℃がより好ましく、100℃〜140℃が特に好ましい。加熱手段としては、自然対流型恒温器、定温型乾燥器、熱風循環式乾燥器、送風型乾燥器、真空乾燥装置で加熱する方法等が用いられる。また、電気炉等も使用できる。さらに赤外線ランプを用いた加熱手段も適宜用いることが可能である。これらの加熱手段は、1種を使用してもよく2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
熱処理時間は、塗膜を構成するハードコート層形成用組成物に含まれるオルガノポリシロキサンが十分に縮合硬化してシロキサン結合による3次元構造が形成されるような時間であれば特に制限されないが、10分間〜4時間が好ましく、20分間〜3時間がより好ましく、30分間〜2時間が特に好ましい。
<トップコート層>
本発明のハードコート被膜を有する樹脂基板においては、耐擦傷性、耐候性、膜強度等をさらに向上させるために、ハードコート層上に、主成分がSiOとなるトップコート層を施してもよい。主成分がSiOとなるトップコート層の形成方法としては、ハードコート層上にポリ(パーヒドロ)シラザンを塗工し硬化する手法や、蒸着、スパッタ等の手法を用いることができる。
<ハードコート被膜を有する樹脂基板>
本発明のハードコート被膜を有する樹脂基板においては、ハードコート層がコロナ放電処理およびシランカップリング剤処理が順に施されたプライマー層の表面に設けられているため、従来のような表面処理が施されていないプライマー層を介してハードコート層が設けられたものに比べ、ハードコート層とプライマー層の耐候密着性、が向上する。この結果、樹脂基板に対しハードコート層が有する良好な耐擦傷性、高い耐候性を付与することができる。
なお、上記のような表面処理によりプライマー層とハードコート層の密着性が向上するのは、次のような理由からと考えられる。すなわち、プライマー層をコロナ放電処理することによって、前述したように、プライマー層表面に高エネルギーの電子やイオンが衝突してラジカルやイオンが生成し、これに周囲のオゾン、酸素、窒素、水分等が反応して、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基等の極性官能基が導入される。次いで、このように極性官能基が導入されたプライマー層表面に、シランカップリング剤処理を行うことによって、導入された極性官能基にシランカップリング剤の反応性官能基が反応して化学的に結合し、その後、ハードコート層を設ける際に、シランカップリング剤の加水分解性シリル基とハードコート層を構成するオルガノポリシロキサンのシラノール基または加水分解性シリル基が、加水分解反応を経て、脱水縮合する。プライマー層に導入された極性官能基とシランカップリング剤の反応性官能基の結合、シランカップリング剤の加水分解性シリル基とオルガノポリシロキサンのシラノール基または加水分解性シリル基との結合はいずれも共有結合による強固な結合であり、水分によって結合が切断されることは少ない。したがって、高湿度条件下であってもハードコート層のプライマー層に対する密着性が低下することはない。一方、上記のような表面が施されていないプライマー層の場合、ハードコート層とは水素結合等によって結合しているだけである。水素結合による結合力は共有結合に比べはるかに弱く、水分によって容易に切断される。したがって、高湿度条件下にあってはハードコート層のプライマー層に対する密着性が低下する。このため、上記のような表面処理したプライマー層上にハードコート層を設けた本発明のハードコート被膜を有する樹脂基板においては、表面処理されていないプライマー層上にハードコート層を設けた従来のハードコート被膜を有する樹脂基板に比べ、高湿度条件下での耐候密着性が大きく向上すると考えられる。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、例1〜6が実施例であり、例7、8が比較例である。なお、オルガノポリシロキサンの分析は以下に示す方法により行った。
(1)ケイ素原子結合水酸基の個数(B)/ケイ素原子結合アルコキシ基の個数(A)
以下、実施例において用いたオルガノポリシロキサンは、ケイ素原子結合アルコキシ基として、ケイ素原子結合メトキシ基(SiO−CH)を有するもののみであったため、上記(B)/(A)として、以下の方法により求めたSi−OH/SiO−CHの比を用いた。赤外吸光分析装置(FT−IR、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、型式:Avatar/Nicolet FT−IR360)を用い、2860cm−1付近のSiO−CHに由来する吸収と900cm−1付近のSi−OHに由来する吸収の面積比からSi−OH/SiO−CHの比を求めた。
(2)オルガノポリシロキサン中のケイ素原子の結合状態の解析
ハードコート層形成用組成物が含有するオルガノポリシロキサン中のケイ素原子の結合状態、具体的には、M単位、D単位、T単位、Q単位の存在の割合、およびT0〜T3の存在比を、核磁気共鳴分析装置(29Si−NMR:日本電子株式会社製、ECP400)を用いて、29Si−NMRのピーク面積比からそれぞれ求めた。測定条件はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製10mmφ試料管使用、プローブ:T10、共鳴周波数79.42MHz、パルス幅10μsec、待ち時間20sec、積算回数1500回、緩和試薬:Cr(acac)を0.1質量%、外部標準試料:テトラメチルシランである。また、各構造に由来する29Si−NMRの化学シフトは、メチル系オルガノポリシロキサンの場合、以下のとおりである。
(M単位〜Q単位)
M単位:15ppm〜5ppm、
D単位:−15ppm〜−25ppm、
T単位:−35ppm〜−75ppm、
Q単位:−90ppm〜−130ppm。
(T0〜T3)
T0:−40ppm〜−41ppm、
T1:−49ppm〜−50ppm、
T2:−57ppm〜−59ppm、
T3:−66ppm〜−70ppm。
(3)数平均分子量Mn、質量平均分子量Mw、および分散度Mw/Mn
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、Waters社製のWaters2695、RI検出、カラム:Styragel ガードカラム+HR1+HR4+HR5E、溶離液:クロロホルム)によって求めた。
[プライマー層形成用組成物の調製]
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)(Mn=120,000、Mw=340,000、Mw/Mn=2.8)と紫外線吸収剤ジベンゾレゾルシノール(DBR;クラリアント社製、吸光係数ε(350−380)ave:5.5)を、PMMA100質量部に対してDBRを10質量部の割合で配合し、1−メトキシ−2−プロパノール:ジアセトンアルコール=85:15(質量比)からなる混合溶媒に溶解し、不揮発分10質量%のプライマー層形成用組成物(Pr−1)を得た。
なお、ポリメタクリル酸メチルのMn、Mw、およびMw/Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー社製のHLC−8220GPC、RI検出、カラム:TSKguardcolum SuperHZ−L+TSKgel SuperHZ4000+HZ3000+HZ2500+HZ2000、溶離液:THF)によって求めた。
[ハードコート層形成用組成物の調製]
0.2Lのフラスコに、メチル系シリコーンレジンKR−500(信越化学工業社製 商品名;Si−OH基由来のピークはFT−IRにより確認されず、実質SiO−CHのみである。各T単位の存在比T0:T1:T2:T3=ND:15:58:27、Mn=700、Mw=1240、Mw/Mn=1.77)10gと1−ブタノール10gを加えてよく撹拌し、さらに酢酸10gとイオン交換水10gを加えてよく撹拌した。この溶液を40℃で1時間撹拌し、オルガノポリシロキサン(a)組成物(MSi−1)を得た。
上記オルガノポリシロキサン(a)について、FT−IRにより、原料であるKR−500との比較を行ったところ、SiO−CH基由来のピークの減少およびSi−OH基由来のピークの出現を確認した。FT−IRのピーク面積比から求めたオルガノポリシロキサン(a)のSi−OH/SiO−CHの比は41.0であった。オルガノポリシロキサン(a)はT単位のみからなり、29Si−NMRの化学シフトから求めた各T単位の存在比は、T0:T1:T2:T3=ND:1.1:30.1:68.8であった。また、Mnは520、Mwは1150、Mw/Mnは2.22であった。
また、1Lのフラスコに、約30nmの平均粒子径をもつ水分散コロイダルシリカ(pH3.1、固形分20質量%)167gと酢酸14gを仕込み、さらにメチルトリメトキシシラン136gを添加した。1時間撹拌したところ、この混合物のpHは4.5で安定化した。この混合物を25℃で4日間熟成して、部分加水分解縮合させ、オルガノポリシロキサン(b)を含む組成物を得た。
この組成物は不揮発成分が40質量%で、含有するオルガノポリシロキサン(b)はT単位を主とした結合構造(T単位の個数:M単位とD単位とQ単位のそれぞれの個数の総量=100:0)をもち、29Si−NMRの化学シフトから求めた各T単位の存在比は、T0:T1:T2:T3=ND:2:54:44であった。オルガノポリシロキサン(b)には、モノマー状のT0体[R−Si(OH)](Rは1価の有機基)がほぼ存在せず、原料のメチルトリメトキシシランはオリゴマー状のオルガノポリシロキサンにほぼ完全に転換されていることが確認された。オルガノポリシロキサン(b)のMnは400、Mwは670、Mw/Mnは1.68であった。
上記で得られたオルガノポリシロキサン(b)100質量部に、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤4質量部を加え、25℃で24時間以上熟成した。希釈溶媒として混合溶媒(1−ブタノール:イソプロパノール:メタノール:1−メトキシ−2−プロパノール=40:40:15:5(質量比))を用いて、不揮発分25質量%(150℃、45分)、粘度4.4mPa・sのオルガノポリシロキサン(b)組成物(PSi−1)を調製した。
上記オルガノポリシロキサン(a)組成物(MSi−1)80部に、上記オルガノポリシロキサン(b)組成物(PSi−1)20部を加え均一に混合して、ハードコート層形成用組成物(HC−1)を得た。
[シランカップリング剤組成物の調製]
(調製例1)
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを2−プロパノールに溶解し、固形分0.25質量%のシランカップリング剤組成物(SiC−1)を調製した。
(調製例2)
3−メルカプトプロピルトリメトキシシランを2−プロパノールに溶解し、固形分0.25質量%のシランカップリング剤組成物(SiC−2)を調製した。
(調製例3)
3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランをヘキサンに溶解し、固形分0.25質量%のシランカップリング剤組成物(SiC−3)を調製した。
[ハードコート被膜を有する樹脂基板サンプルの作製]
(例1)
厚さ3mmのポリカーボネート樹脂板(旭硝子社製 商品名 カーボグラス(登録商標)ポリッシュ クリヤー)に、プライマー層形成用組成物(Pr−1)をディップ方式でコーティングし、25℃で20分間放置した後、120℃で30分間加熱し硬化させて、膜厚4μmのプライマー層を形成した。
次に、このプライマー層表面に対し、コロナ放電処理装置(ジェネレータ:TANTEC社製 HV2010、トランス:TANTEC社製 HT10−280IL、電極:SUSワイヤ(350mm幅))を用いて、電力100W、距離2mm、移動速度90mm/sの条件でコロナ放電処理を行った。この処理によるプライマー層表面に対する放電エネルギーは53W・min/mであった。
次に、コロナ放電処理したプライマー層上に、シランカップリング剤組成物(SiC−1)をディップ方式(引上げ速度10mm/s)でコーティングし、室温で30分乾燥した。
次に、コロナ放電処理およびシランカップリング剤処理を施したプライマー層上に、ハードコート層形成用組成物(HC−1)をディップ方式でコーティングし、25℃で20分間放置した後、120℃で1時間加熱し硬化させて、膜厚3μmのハードコート層を形成し、樹脂基板サンプルを作製した。この樹脂基板サンプルは、ポリカーボネート樹脂板の両面にプライマー層およびハードコート層を有する。
(例2)
プライマー層の膜厚を5μmとし、かつコロナ放電処理条件を、電力100W、移動速度30mm/sで、プライマー層表面に対する放電エネルギーが159W・min/mになるようにした以外は例1と同様にして、樹脂基板サンプルを作製した。
(例3)
シランカップリング剤組成物(SiC−1)に代えて、シランカップリング剤組成物(SiC−2)を用いた以外は例1と同様にして、樹脂基板サンプルを作製した。
(例4)
シランカップリング剤組成物(SiC−1)に代えて、シランカップリング剤組成物(SiC−2)を用いた以外は例2と同様にして、樹脂基板サンプルを作製した。
(例5)
シランカップリング剤組成物(SiC−1)に代えて、シランカップリング剤組成物(SiC−3)を用いた以外は例1と同様にして、樹脂基板サンプルを作製した。
(例6)
シランカップリング剤組成物(SiC−1)に代えて、シランカップリング剤組成物(SiC−3)を用いた以外は例2と同様にして、樹脂基板サンプルを作製した。
(例7)
コロナ放電処理およびシランカップリング剤処理を行わなかった以外は例2と同様にして、樹脂基板サンプルを作製した。
(例8)
シランカップリング剤処理を行わなかった以外は例2と同様にして、樹脂基板サンプルを作製した。
[ハードコート被膜を有する樹脂基板サンプルの評価]
上記例1〜8で得られた各樹脂基板サンプルについて、下記項目の評価を行った。
<1>膜厚(プライマー層およびハードコート層)
各サンプルにおけるハードコート層およびプライマー層の膜厚を干渉膜厚測定装置(スペクトラ・コープ社製、商品名 Solid Lambda Thickness)を用いて測定した。なお、屈折率はn=1.46(ハードコート層)およびn=1.56(プライマー層)の値を用いた。
<2>初期外観
ハードコート層およびプライマー層を合わせた被膜全体(以下、ハードコート被膜という。)を目視で観察し、クラックまたは剥離の有無を調べた。
○:クラックまたは剥離なし
×:クラックまたは剥離有り
<3>初期ヘーズ(曇価)
JIS K7105(6.4)に準拠し、ヘーズメーター(スガ試験機株式会社製、型式 HGM−2)を用いて測定した。
<4>密着性
JIS K5600(5.9)に準拠し、カミソリ刃を用いて、ハードコート被膜に1mm間隔で縦、横11本ずつ切れ目を入れて100個の碁盤目を作製し、セロテープ(登録商標)CT24(ニチバン社製)をよく付着させた後、剥離テストを行い、膜が剥離せずに残存したマス目数(x)の割合(x/100)を調べた。
<5>耐擦傷性
JIS K5600(5.9)に準拠し、テーバー磨耗試験機(東洋精機製作所社製、型式 ROTARY ABRASION TESTER)に磨耗輪(TABER社製 商品名 CALIBRASE(登録商標)CS−10F)を装着し、荷重500g下での500回転後のヘーズ(曇価)を測定し、試験前の曇価との差(曇価差)ΔH500を求め、評価した。なお、ヘーズは上記<3>と同様の方法で測定した。
<6>耐候性
光源にメタルハライドランプを用いた促進耐候性試験機(ダイプラ・ウインテス社製、商品名 KW−R5TP−A)を用い、下記に示す光照射、結露、暗黒の3条件を順に繰り返し負荷した後、上記<2>および<4>と同様の方法で外観および密着性を評価した。なお、負荷は光照射、結露および暗黒を1サイクルとして50サイクル(600時間)行い、結露の前後にはシャワーを各10秒間ずつ実施した。
・光照射:照度80mW/cm2(ウシオ電機社製の照度測定装置UIT−101(型式)で測定)、ブラックパネル温度63℃、相対湿度80%の条件で4時間光を照射。
・結露:光を照射せずに、相対湿度98%の条件下でブラックパネル温度を63℃から30℃に自然冷却して4時間保持。
・暗黒:光を照射せずに、ブラックパネル温度75℃、相対湿度90%の条件下に4時間保持。
上記の評価結果を、使用した各組成物の種類、およびコロナ放電処理条件(放電エネルギー)とともに、表1に示す。
Figure 2012086656
表1から明らかなように、プライマー層に対しコロナ放電処理およびそれに続くシランカップリング剤処理を施した例1〜6のサンプルについては、促進耐候性試験後も初期の良好な外観およびハードコート被膜の密着性が維持されていた。これに対し、コロナ放電処理およびシランカップリング剤処理がいずれも施されなかった例7では、促進耐候性試験によって、ハードコート被膜が完全に剥離してしまい、シランカップリング剤処理のみが施された例8でも、同様に、ハードコート被膜が完全に剥離してしまった。なお、光学顕微鏡、FT−IR(ATR法)により観察したところ、このハードコート被膜の剥離は、プライマー層とハードコート層間の剥離であることが確認された。この結果から、コロナ放電処理およびシランカップリング剤処理の両処理を行うことが、ハードコート層の密着性の低下を防止し、樹脂基板に対し長期間にわたって耐擦傷性や耐候性等を付与する上で、極めて重要であることが示唆される。
本発明により得られるハードコート被膜を有する樹脂基板は、優れた耐擦傷性、耐候性を有するものであり、自動車や各種交通機関に取り付けられる車両用の窓材、家屋、ビル等の建物に取り付けられる建材用の窓材等として有用である。
なお、2010年12月20日に出願された日本特許出願2010−283375号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の開示として取り入れるものである。

Claims (7)

  1. 樹脂基板の少なくとも一方の面上にアクリル系ポリマーを主成分として含有するプライマー層形成用組成物を塗布し乾燥させてプライマー層を形成する工程と、
    前記プライマー層の表面にコロナ放電処理を施す工程と、
    コロナ放電処理を施したプライマー層の表面に、シランカップリング剤を主成分として含むシランカップリング剤組成物を塗布し乾燥させてシランカップリング剤処理を施す工程と、
    前記コロナ放電処理およびシランカップリング剤処理が施された前記プライマー層の表面に、オルガノポリシロキサンを主成分として含有するハードコート層形成用組成物を塗布し硬化させてハードコート層を形成する工程と、
    を有することを特徴とするハードコート被膜を有する樹脂基板の製造方法。
  2. 前記コロナ放電処理は、プライマー層表面に対する放電エネルギーが20W・min/m〜500W・min/mとなる処理である、請求項1記載のハードコート被膜を有する樹脂基板の製造方法。
  3. 前記シランカップリング剤が、エポキシ基、メルカプト基、イソシアネート基、および(メタ)アクリル基からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する化合物を含む、請求項1または2記載のハードコート被膜を有する樹脂基板の製造方法。
  4. 前記シランカップリング剤が、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、および3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1または2記載のハードコート被膜を有する樹脂基板の製造方法。
  5. 前記オルガノポリシロキサンが、下記T1〜T3で表される含ケイ素結合単位を、前記単位の個数の割合で、T1:T2:T3=0〜5:15〜40:55〜85、およびT3/T2=1.5〜4.0を満足するように含み、分子内のケイ素原子に結合するアルコキシ基の個数(A)に対するケイ素原子に結合する水酸基の個数(B)の割合(B)/(A)が分子平均で12.0以上であり、かつ質量平均分子量が800〜8000であるオルガノポリシロキサンを含む、請求項1乃至4のいずれか1項記載のハードコート被膜を有する樹脂基板の製造方法。
    T1:R−Si(−OX)(−O−)
    T2:R−Si(−OX)(−O−)
    T3:R−Si(−O−)
    (式中、Rは水素原子または炭素数が1〜10の置換または非置換の1価の有機基を表し、Xは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表し、Oは2つのケイ素原子を連結する酸素原子を表す。)
  6. 前記樹脂基板が、ポリカーボネート樹脂からなる、請求項1至5のいずれか1項記載のハードコート被膜を有する樹脂基板の製造方法。
  7. 樹脂基板の少なくとも一方の面上に、アクリル系ポリマーを主成分として含有するプライマー層と、オルガノポリシロキサンの硬化物を主成分として含むハードコート層とを、前記樹脂基板側から順に有するハードコート被膜を有する樹脂基板であって、
    前記プライマー層の前記ハードコート層側表面に、コロナ放電処理およびシランカップリング剤処理が順に施されていることを特徴とするハードコート被膜を有する樹脂基板。
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