JP2016030392A - ハードコート層付き樹脂基板およびハードコート層付き樹脂基板の製造方法 - Google Patents

ハードコート層付き樹脂基板およびハードコート層付き樹脂基板の製造方法 Download PDF

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亮平 小口
山本 祐治
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Tatsuya Miyajima
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Abstract

【課題】十分な耐擦傷性を有し、かつ高温下での耐クラック性にも優れるハードコート層を備えた樹脂基板およびその製造方法を提供する。【解決手段】ハードコート層付き樹脂基板10は、樹脂基板11と、樹脂基板11の少なくとも一方の面上に順に形成されたプライマー層12およびシリコーン系ハードコート層13を備え、ハードコート層13は表面に光改質層13aを有し、プライマー層12は下記(1)および/または(2)の要件を満たしている。(1)層厚が10μm以上である(2)ポリマー成分100質量部に対し、20〜60質量部のシリカ粒子を含む【選択図】図1

Description

本発明は、ハードコート層付き樹脂基板、およびハードコート層付き樹脂基板の製造方法に関する。
近年、自動車等の車輌用の窓材や家屋、ビル等の建物に取り付けられる建材用の窓材として、無機ガラス板に代わって透明樹脂板の需要が高まっている。特に、自動車等の車両では軽量化のために、窓材に透明樹脂板を用いることが提案されている。なかでも芳香族ポリカーボネート系の透明樹脂板は、耐破壊性、透明性、軽量性、易加工性等に優れるため、有望な車両用窓材としてその使用が検討されている。しかしながら、このような透明樹脂板は、ガラス板の代わりに使用するには耐擦傷性や耐候性の点で問題があった。
そこで、透明樹脂板の耐擦傷性および耐候性を向上させる目的で、種々のハードコート材を用いて透明樹脂板の表面に高硬度の被膜(ハードコート層)を形成することが提案されている。またその際、透明樹脂板とハードコート層との密着性を高めるために、透明樹脂板上にプライマー層を設けることも提案されている。
ところで、上記ハードコート材には、一般に、シラノール基の縮合反応によって硬化するオルガノポリシロキサン(シリコーン)をベースとした組成物が、高硬度の被膜形成が可能で、高い耐擦傷性を有し得ることから、使用されている。そして、最近では、より高い耐擦傷性を得るため、上記シリコーンベースの被膜に真空紫外光を照射して、表面にSiOからなる改質層を形成することにより、表面硬度をより高めることが検討されている(例えば、特許文献1等参照)。
しかしながら、このように光照射により被膜表面の高硬度化を図ったものでは、高温(70℃程度以上)下で使用すると、場合により、被膜表層にクラックが入ることがあった。このクラックの発生は、光照射により被膜表層に圧縮応力が生ずる一方、被膜表層の線膨張係数が低下して、表層と下層との線膨張係数の差が大きくなった結果、表層に圧縮応力を超える引張応力が生じたことが主たる要因と考えられる。
国際公開第2009−110152号公報
本発明は、上記従来技術の課題に対処してなされたもので、十分な耐擦傷性を有し、かつ高温下での耐クラック性にも優れるハードコート層を備えた樹脂基板、およびそのようなハードコート層付き樹脂基板を製造する方法を提供することを目的とする。
本発明の一態様に係るハードコート層付き樹脂基板は、樹脂基板と、前記樹脂基板の少なくとも一方の面上に順に形成されたプライマー層およびシリコーン系ハードコート層を備え、前記ハードコート層は表面に光改質層を有し、前記プライマー層は下記(1)および/または(2)の要件を満たすことを特徴としている。
(1)層厚が10μm以上である
(2)ポリマー成分100質量部に対し、20〜60質量部のシリカ粒子を含む
本発明の他の態様に係るハードコート層付き樹脂基板の製造方法は、少なくとも一方の面上に下記(1)および/または(2)の要件を満たすプライマー層が形成された樹脂基板を用意する工程と、前記プライマー層上にオルガノポリシロキサンを含有するハードコート剤組成物を塗布し硬化させて硬化膜を形成する工程と、前記硬化膜にXeエキシマ光照射処理を施す照射工程と、前記照射工程後の硬化膜を酸化処理した後、熱処理を施してハードコート層とする工程とを具備することを特徴としている。
(1)層厚が10μm以上である
(2)ポリマー成分100質量部に対し、20〜60質量部のシリカ粒子を含む
本発明によれば、高い耐擦傷性を有し、かつ耐クラック性にも優れるハードコート層を具備するハードコート層付き樹脂基板を得ることができる。
本発明のハードコート層付き樹脂基板の一例を示す断面図である。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
<ハードコート層付き樹脂基板>
本発明のハードコート層付き樹脂基板は、樹脂基板の少なくとも一方の面上にプライマー層およびハードコート層を順に備えたものであり、ハードコート層の表面には後述するような光改質層が形成されている。プライマー層は、樹脂基板の少なくとも一方の面上に直接設けられていてもよく、他の被覆層を介して設けられていてもよい。他の被覆層としては、応力緩和層等が挙げられる。
図1は本発明のハードコート層付き樹脂基板10の一例を示した断面図である。この例では、ハードコート層付き樹脂基板10は、樹脂基板11の少なくとも一方の面上に直接プライマー層12が設けられ、このプライマー層12を介して、表面に光改質層13aを有するハードコート層13が設けられている。なお、図1は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、厚みの比率等は実際のものとは異なることに留意されたい。
まず、ハードコート層付き樹脂基板を構成する樹脂基板、プライマー層およびハードコート層について説明する。
(樹脂基板)
本発明に用いる樹脂基板の材料である樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ハロゲン化ビスフェノールAとエチレングリコールとの重縮合物、アクリルウレタン樹脂、ハロゲン化アリール基含有アクリル樹脂等が挙げられる。
これらの中でも芳香族系ポリカーボネート樹脂等のポリカーボネート樹脂やポリメチルメタクリレート系アクリル樹脂等のアクリル樹脂が好ましく、ポリカーボネート樹脂がより好ましい。さらに、ポリカーボネート樹脂のなかでも特にビスフェノールA系ポリカーボネート樹脂が好ましい。なお、樹脂基板は、上記のような熱可塑性樹脂を2種以上含んでもよいし、これらの樹脂を用いて、2層以上積層された積層基板であってもよい。また、樹脂基板の形状は、特に限定されず、平板であってもよいし、湾曲していてもよい。さらに、樹脂基板の色調は無色透明または着色透明であることが好ましい。
樹脂基板の厚みは、用途によって適宜選択すればよい。窓材用途の場合、樹脂基板の厚みは、通常、1〜30mmであり、好ましくは2〜20mmである。
(プライマー層)
プライマー層は、樹脂基板とハードコート層との密着性を向上させるために設けられる層である。本発明においては、プライマー層は、プライマー組成物を用いて、下記(1)および(2)の要件の少なくとも一方が満足するように形成されている。
(1)層厚が10μm以上である
(2)ポリマー成分100質量部に対し、20〜60質量部のシリカ粒子を含む
上記要件のいずれか一方を少なくとも満足するように形成することにより、ハードコート層表面の高温下の耐クラック性を向上させることができる。
要件(1)のみを満たす場合、層厚は20μm以上であることが好ましい。但し、あまり厚いと加工性が乏しいため、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。
一方、要件(2)のみを満たす場合、シリカ粒子の含有量は、ポリマー成分100質量部に対し、20〜55質量部であることが好ましく、25〜55質量部であることがより好ましい。要件(2)を満たす場合、プライマー層の層厚は、10μm未満であってよい。但し、あまり薄いと、プライマー層本来の機能が低下し、樹脂基板とハードコート層とを十分に接着できないおそれがあるうえ、後述するような添加剤を含有させた場合に、その必要量を保持できないおそれがあることから、0.1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましい。
シリカ粒子を含有させるために、プライマー組成物にコロイダルシリカを含有させることが好ましい。コロイダルシリカとは、シリカ粒子を、水、またはメタノール、エタノール、イソブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の有機溶媒中に分散させたものをいう。
上記シリカ粒子は、平均粒径(BET法)が10〜100nmであることが好ましい。平均粒径が100nmを超えると、粒子が光を乱反射するため、得られるプライマー層の曇価(ヘーズ)値が大きくなり、光学特性上好ましくない場合がある。平均粒径は5〜40nmであることがより好ましい。コロイダルシリカを用いる場合、水分散型および有機溶剤分散型のいずれであってもよいが、水分散型を使用することが好ましい。酸性水溶液中に分散させたコロイダルシリカを用いることがより好ましい。
プライマー層は、本発明においては、アクリル系ポリマーを含むプライマー組成物で構成することが好ましい。
アクリル系ポリマーとしては、アルキル基の炭素数が6以下のアルキル基を有するアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルから選ばれる少なくとも1種を「主なモノマー」とするホモポリマーやそれらモノマー同士のコポリマーが好ましい。ここで「主なモノマー」とは、具体的には、原料モノマー全体に対して90〜100モル%含有するものを指し、以下同様とする。また、上記主なモノマーと、それ以外のアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルの少なくとも1種とのコポリマーも好ましい。それ以外のモノマーとしては、炭素数7以上のアルキル基や炭素数12以下のシクロアルキル基を有するアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルが挙げられる。また、これらモノマーとともに、官能基含有アルキル基(例えば、ヒドロキシアルキル基)を有するアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルを少量共重合させて得られるコポリマーも使用できる。上記シクロアルキル基としては、シクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、4−t−ブチルシクロヘキシル基、イソボルニル基、ジシクロペンタニル基、ジシクロペンテニルオキシエチル基等が挙げられる。
これらの中でも、本発明に用いるアクリル系ポリマーとしては、メタクリル酸アルキルエステルから選ばれる1種または2種以上を主なモノマー単位として重合して得られるポリマーが好ましい。さらに、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル等から選ばれるアルキル基の炭素数が6以下のメタクリル酸アルキルエステルの1種または2種以上を主なモノマーとして重合して得られるホモポリマーまたはコポリマーが好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸エチル等のホモポリマー、メタクリル酸メチルと、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチルから選ばれる1種または2種以上とのコポリマーがより好ましい。
その他に、加水分解性シリル基および/またはSiOH基がC−Si結合を介して結合したアクリル系単量体から選ばれる1種以上を重合/共重合して得られるアクリル系ポリマーも使用できる。
前記アクリル系単量体としては、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
また、プライマー層形成に用いられるこれらのアクリル系ポリマーは、質量平均分子量(Mw)が20,000以上であることが好ましく、50,000以上であることがより好ましく、百万以下のものが好ましく使用される。質量平均分子量がこの範囲にあるアクリル系ポリマーは、プライマー層としての密着性や強度の性能が十分に発揮され好ましい。アクリル系ポリマーの質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィによりポリスチレンを標準物質として測定した値をいう。
プライマー組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記成分以外の他の添加剤が含まれていてもよい。
例えば、樹脂基板の黄変を抑制するために、紫外線吸収剤が含まれていてもよい。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾイミダゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、ベンジリデンマロネート系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの紫外線吸収剤は、1種を使用してもよく2種以上を併用してもよい。プライマー組成物中の紫外線吸収剤の含有量は、アクリル系ポリマー等のポリマー成分100質量部に対して、1〜50質量部であることが好ましく、1〜30質量部がより好ましい。
プライマー組成物には、また光安定剤が含まれていてもよい。光安定剤としては、ヒンダードアミン類;ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、ニッケルコンプレクス−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルリン酸モノエチラート、ニッケルジブチルジチオカーバメート等のニッケル錯体が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。プライマー組成物中の光安定剤の含有量は、アクリル系ポリマー等のポリマー成分100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部がより好ましい。
プライマー組成物には、その他、レベリング剤、消泡剤、粘性調整剤等が含まれていてもよい。
プライマー組成物には、通常、溶媒が含まれる。溶媒としては、ポリマー成分を安定に溶解することが可能な溶媒であれば、特に限定されない。ポリマー成分としてアクリル系ポリマーを用いる場合、具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等のエステル類;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ガソリン、軽油、灯油等の炭化水素類;アセトニトリル、ニトロメタン、水等が使用される。これらは1種を使用してもよく2種以上を併用してもよい。
溶媒の量は、アクリル系ポリマー等のポリマー成分100質量部に対して、50〜10000質量部が好ましく、100〜10000質量部がより好ましい。なお、プライマー組成物中の不揮発成分(固形分)の含有量は、組成物全量に対して0.5〜75質量%であることが好ましく、1〜40質量%であることがより好ましい。
(プライマー層の形成)
プライマー層は、上記プライマー組成物を樹脂基板上に塗布し乾燥させることによって形成することができる。
プライマー組成物を樹脂基板上に塗布する方法としては、特に限定されないが、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法等が挙げられる。また、乾燥のための加熱条件は、特に限定されないが、50〜140℃で5分〜3時間程度が好ましい。
プライマー層を樹脂基板上に形成するにあたっては、上記のようなプライマー組成物を樹脂基板上に塗布し乾燥させる方法のみならず、プライマー層を樹脂フィルム上に共押出で形成する、樹脂フィルム上にプライマー組成物を塗布し乾燥させてプライマー層を形成する等の方法により、プライマー層と樹脂フィルムの積層体(以下、「樹脂フィルム積層体」という)を得、この樹脂フィルム積層体の樹脂フィルムのプライマー層と反対側の面上に樹脂基板を射出成形する方法を採ることもできる。
樹脂フィルム積層体を製造する方法は、特に上記方法に限定されるものではなく、予めフィルム状に成形したプライマー層を樹脂フィルムの押出成形時に連続的にラミネートする方法や、予めフィルム状に成形したプライマー層および樹脂フィルムをプレス機で熱圧着する方法等も用いることができる。共押出法を用いる方法は、厚さ10μm以上のプライマー層を形成する場合に特に好適である。
樹脂フィルムとしては、樹脂基板を構成する樹脂と同種、好ましくは同じ樹脂からなる樹脂フィルムが使用される。樹脂フィルムの厚みは、150〜400μmが好ましい。このような厚さの樹脂フィルムを用いることにより、樹脂基板を射出成形する際に樹脂フィルムにシワが発生するのを抑制できるとともに、射出成形される溶融樹脂の冷却が十分に行われることで溶融樹脂の熱に起因する樹脂フィルムの白濁を抑制できる。また、作業性もよい。樹脂フィルムの厚さは、好ましくは180〜350μmであり、より好ましくは200〜300μmである。
射出成形する樹脂基板の材料は、前述したとおりであり、ポリカーボネート樹脂が好ましいが、特にこれに限定されない。
射出成形の方法も特に限定されず、通常、金型を用いて樹脂を射出成形するのと同様の方法が適用できる。
すなわち、例えば、上型および下型からなる二割構造の金型を備え、それらの上型および下型により形成される空間(キャビティ)内に溶融樹脂を射出注入して樹脂基板を成形できる装置を用いて樹脂フィルム積層体付き樹脂基板を得ることができる。以下、その一例を記載する。
まず、下型内に樹脂フィルム積層体を、下型の底面に樹脂フィルム積層体のプライマー層が接するように配置する。次に下型の上に上型を置き、これらの上型および下型により形成されたキャビティ内に樹脂基板の材料である溶融樹脂を射出注入し、樹脂フィルム積層体の樹脂フィルムに接するように樹脂基板を成形する。これにより、樹脂フィルム積層体と樹脂基板が積層一体化した樹脂フィルム積層体付き樹脂基板が得られる。
なお、溶融樹脂を充填する際には、下型と上型の間に若干隙間を持たせておき、溶融樹脂を充填した後に下型と上型の間に隙間がないように完全に閉じてもよい。
製品形状として2次曲面あるいは3次曲面の絞り比が高い樹脂フィルム積層体付き樹脂基板を得るには、予め樹脂フィルム積層体を金型の樹脂フィルム積層体配置面の形状に賦形後、金型内に配置することが好ましい。樹脂フィルム積層体と射出成形により形成される樹脂基板を積層一体成形する場合、例えば、得られる樹脂フィルム積層体付き樹脂基板の曲率(H/D)が0.1を超えると、樹脂フィルム積層体上にシワが発生することがある。このような場合、予め樹脂フィルム積層体を真空成形、圧空成形、プレス成形、ストレート成形、ドレープ成形、プラグアシスト成形等により予備成形を行うことが好ましく、真空成形等により形状を付与することにより賦形性に優れる樹脂フィルム積層体付き樹脂基板が得られる。
射出成形の温度、すなわち溶融樹脂の温度は、用いる樹脂の種類による。例えば、樹脂としてポリカーボネートを用いる場合は、通常、270〜380℃に設定される。また、射出成型時、金型は、電気ヒーター等により、通常、溶融樹脂の温度より200〜300℃低い温度に加熱される。
(ハードコート層)
ハードコート層は、ハードコート剤組成物から構成される。
ハードコート剤組成物としては、以下に示すようなオルガノポリシロキサンを必須成分として含有するシリコーン系ハードコート剤組成物の使用が好ましい。
(オルガノポリシロキサン)
本発明のハードコート層に好適なハードコート剤組成物が含有するオルガノポリシロキサンとしては、硬化性のオルガノポリシロキサンであれば、特に制限なく用いることができる。
オルガノポリシロキサンはM単位、D単位、T単位、Q単位と呼ばれる含ケイ素結合単位から構成される。この内、硬化性のオルガノポリシロキサンは主としてT単位またはQ単位から構成されるオリゴマー状のポリマーであり、T単位のみから構成されるポリマー、Q単位のみから構成されるポリマー、T単位とQ単位から構成されるポリマーがある。またそれらポリマーはさらに少量のM単位やD単位を含むこともある。
硬化性のオルガノポリシロキサンにおいて、T単位は、1個のケイ素原子を有し、そのケイ素原子に結合した1個の水素原子または1価の有機基と、他のケイ素原子に結合した酸素原子(または他のケイ素原子に結合できる官能基)3個とを有する単位である。ケイ素原子に結合した1価の有機基はケイ素原子に結合する原子が炭素原子である1価の有機基である。他のケイ素原子に結合できる官能基は水酸基または加水分解により水酸基となる基(以下加水分解性基という)である。他のケイ素原子に結合した酸素原子と他のケイ素原子に結合できる官能基の合計は3個であり、他のケイ素原子に結合した酸素原子と他のケイ素原子に結合できる官能基の数の違いにより、T単位はT1、T2、T3と呼ばれる3種の単位に分類される。T1は他のケイ素原子に結合した酸素原子の数が1個、T2はその酸素原子の数が2個、T3はその酸素原子の数が3個である。本明細書等においては、他のケイ素原子に結合した酸素原子をOで表し、他のケイ素原子に結合できる1価の官能基をZで表す。
なお、他のケイ素原子に結合した酸素原子を表すOは、2個のケイ素原子間を結合する酸素原子であり、Si−O−Siで表される結合中の酸素原子である。したがって、Oは、2つの含ケイ素結合単位のケイ素原子間に1個存在する。言い換えれば、Oは、2つの含ケイ素結合単位の2つのケイ素原子に共有される酸素原子を表す。後述の含ケイ素結合単位の化学式において、1つのケイ素原子にOが結合している様に表現するが、このOは他の含ケイ素結合単位のケイ素原子と共有している酸素原子であり、2つの含ケイ素結合単位がSi−O−O−Siで表される結合で結合することを意味するものではない。
前記M単位は上記有機基3個とO1個を有する単位、D単位は上記有機基2個とO2個(またはO1個とZ基1個)を有する単位、Q単位は上記有機基0個とO4個(またはO1〜3個とZ基3〜1個の計4個)を有する単位である。それぞれの含ケイ素結合単位は、他のケイ素原子に結合した酸素原子(O)を有しない(Z基のみを有する)化合物(以下モノマーともいう)から形成される。T単位を形成するモノマーを以下Tモノマーという。M単位、D単位、Q単位を形成するモノマーも同様にMモノマー、Dモノマー、Qモノマーという。
モノマーは、(R’−)Si(−Z)4−aで表される。但し、aは0〜3の整数、R’は水素原子または1価の有機基、Zは水酸基または他のケイ素原子に結合できる1価の官能基を表す。この化学式において、a=3の化合物がMモノマー、a=2の化合物がDモノマー、a=1の化合物がTモノマー、a=0の化合物がQモノマーである。モノマーにおいて、Z基は通常加水分解性基である。また、R’が2または3個存在する場合(aが2または3の場合)、複数のR’は異なっていてもよい。R’としては、後述の好ましいRと同じ範疇のものが好ましい。
硬化性オルガノポリシロキサンは、モノマーのZ基の一部をOに変換する反応により得られる。オルガノポリシロキサンが2種以上の含ケイ素結合単位を含むコポリマーの場合、通常、これらコポリマーはそれぞれ対応するモノマーの混合物から得られる。モノマーのZ基が加水分解性基の場合、Z基は加水分解反応により水酸基に変換され、次いで別々のケイ素原子に結合した2個の水酸基の間における脱水縮合反応により、2個のケイ素原子が酸素原子(O)を介して結合する。硬化性オルガノポリシロキサン中には水酸基(または加水分解しなかったZ基)が残存し、硬化性オルガノポリシロキサンの硬化の際にこれら水酸基やZ基が上記と同様に反応して硬化する。硬化性オルガノポリシロキサンの硬化物は3次元的に架橋したポリマーであり、T単位やQ単位の多い硬化性オルガノポリシロキサンの硬化物は架橋密度の高い硬化物となる。硬化の際、硬化性オルガノポリシロキサンのZ基がOに変換されるが、Z基(特に水酸基)の一部は残存し、水酸基を有する硬化物となると考えられる。硬化性オルガノポリシロキサンを高温で硬化させた場合は水酸基がほとんど残存しない硬化物となることもある。
モノマーのZ基が加水分解性基である場合、そのZ基としては、アルコキシ基、塩素原子、アシルオキシ基、イソシアネート基等が挙げられる。多くの場合、モノマーとしてはZ基がアルコキシ基のモノマーが使用される。アルコキシ基は塩素原子等と比較すると反応性の比較的低い加水分解性基であり、Z基がアルコキシ基であるモノマーを使用して得られる硬化性オルガノポリシロキサン中にはZ基として水酸基とともに未反応のアルコキシ基が存在することが多い。モノマーのZ基が反応性の比較的高い加水分解性基(例えば塩素原子)の場合、そのモノマーを使用して得られる硬化性オルガノポリシロキサン中のZ基はそのほとんどが水酸基となる。したがって、通常の硬化性オルガノポリシロキサンにおいては、それを構成する各単位におけるZ基は、水酸基からなるかまたは水酸基とアルコキシ基からなることが多い。
本発明においては、これら硬化性のオルガノポリシロキサンのうちでも、T単位を主な含ケイ素結合単位として構成される硬化性のオルガノポリシロキサンが好ましく用いられる。以下、特に言及しない限り、硬化性のオルガノポリシロキサンを単にオルガノポリシロキサンという。ここで、本明細書において、T単位を主な構成単位とするオルガノポリシロキサン(以下、必要に応じて「オルガノポリシロキサン(T)」という。)とは、M単位、D単位、T単位およびQ単位の合計数に対するT単位数の割合が50〜100%のオルガノポリシロキサンをいうが、本発明においてより好ましくは、該T単位数の割合が70〜100%のオルガノポリシロキサンを、特に好ましくは該T単位数の割合が90〜100%のオルガノポリシロキサンを用いるものである。また、T単位以外に少量含まれる他の単位としてはD単位とQ単位が好ましく、特にQ単位が好ましい。
すなわち、本発明においては、これら硬化性のオルガノポリシロキサンのうちでも、T単位とQ単位のみで構成され、その個数の割合がT:Q=90〜100:10〜0であるオルガノポリシロキサンが特に好ましく用いられる。
なお、オルガノポリシロキサンにおけるM単位、D単位、T単位、Q単位の数の割合は、29Si−NMRによるピーク面積比の値から計算できる。
本発明に好ましく用いられるオルガノポリシロキサン(T)は、下記T1〜T3で表されるT単位を有するオルガノポリシロキサンである。
T1:R−Si(−OX)(−O−)
T2:R−Si(−OX)(−O−)
T3:R−Si(−O−)
(式中、Rは水素原子または炭素数が1〜10の置換または非置換の1価の有機基を表し、Xは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表し、Oは2つのケイ素原子を連結する酸素原子を表す)
上記化学式におけるRは、1種に限定されず、T1、T2、T3はそれぞれ複数種のRを含んでいてもよい。また、上記化学式における−OXは水酸基またはアルコキシ基を表す。−OXはT1およびT2の間で同一であっても異なっていてもよい。T1における2つの−OXは異なっていてもよく、例えば、一方が水酸基で他方がアルコキシ基であってもよい。また、2つの−OXがいずれもアルコキシ基である場合、それらのアルコキシ基は異なるアルコキシ基であってもよい。但し、後述のように、通常は2つのアルコキシ基は同一のアルコキシ基である。
なお、2個のケイ素原子を結合する酸素原子(O)を有しない、−OXのみを3個有するT単位を以下T0という。T0は、実際には、オルガノポリシロキサン中に含まれる未反応のTモノマーに相当し、含ケイ素結合単位ではない。このT0は、T1〜T3の単位の解析においてT1〜T3と同様に測定される。
オルガノポリシロキサン中のT0〜T3は、核磁気共鳴分析(29Si−NMR)によりオルガノポリシロキサン中のケイ素原子の結合状態を測定して解析できる。T0〜T3の数の比は、29Si−NMRのピーク面積比から求める。オルガノポリシロキサン分子中の−OXは、赤外吸光分析により解析できる。ケイ素原子に結合した水酸基とアルコキシ基の数の比は両者の赤外吸収ピークのピーク面積比から求める。オルガノポリシロキサンの質量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および分散度(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより、ポリスチレンを標準物質として測定した値をいう。このようなオルガノポリシロキサンの特性は、分子1個の特性をいうものではなく、各分子の平均の特性として求められるものである。
オルガノポリシロキサン(T)中には、1分子中に複数存在するT1、T2、T3はそれぞれ異なる2種以上が存在していてもよい。例えば、Rが異なる2種以上のT2が存在していてもよい。このようなオルガノポリシロキサンは2種以上のTモノマーの混合物から得られる。例えば、Rが異なる2種以上のTモノマーの混合物から得られるオルガノポリシロキサン中には、Rが異なるそれぞれ2種以上のT1、T2、T3が存在すると考えられる。Rが異なる複数のTモノマーの混合物から得られたオルガノポリシロキサン中の異なるRの数の比は、T単位全体として、Rが異なるTモノマー混合物の組成比を反映している。しかし、T1、T2、T3それぞれにおけるRが異なる単位の数の比は、Rが異なるTモノマー混合物の組成比を反映しているとは限らない。なぜならば、たとえTモノマーにおける3個の−OXが同一であっても、Tモノマー、T1、T2の反応性がRの相違によって異なる場合があるからである。
オルガノポリシロキサン(T)は、R−Si(−OY)で表されるTモノマーの少なくとも1種から製造されることが好ましい。この式において、Rは前記のRと同一であり、Yは炭素数1〜6のアルキル基を表す。Yは非置換のアルキル基以外に、アルコキシ置換アルキル基等の置換アルキル基であってもよい。1分子中の3個のYは異なっていてもよい。しかし、通常は3個のYは同一のアルキル基である。Yは、炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、炭素数1または2であることがより好ましい。具体的なYとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、2−メトキシエチル基等が挙げられる。
Rは水素原子または炭素数が1〜10の置換または非置換の1価の有機基である。有機基とは、前記のようにケイ素原子に結合する原子が炭素原子である有機基をいう。
非置換の1価の有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルアルキル基等の炭化水素基が挙げられる。これら炭化水素基としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基やアルキニル基、炭素数5または6のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアルアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ビニル基、アリル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
置換の1価の有機基としては、シクロアルキル基、アリール基、アルアルキル基等の環の水素原子がアルキル基で置換された炭化水素基、前記炭化水素基の水素原子がハロゲン原子、官能基、官能基含有有機基等で置換された置換有機基等がある。官能基としては水酸基、メルカプト基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、シアノ基等が好ましい。ハロゲン原子置換有機基としては、クロロアルキル基、ポリフルオロアルキル基等の塩素原子またはフッ素原子を有するアルキル基が好ましい。官能基含有有機基としては、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、グリシジル基、エポキシシクロヘキシル基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、N−アミノアルキル置換アミノアルキル基等が好ましい。特に、塩素原子、メルカプト基、エポキシ基、アミノ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、グリシジル基、アルキルアミノ基、N−アミノアルキル置換アミノアルキル基等が好ましい。官能基や官能基含有有機基等で置換された置換有機基を有するTモノマーはシランカップリング剤と呼ばれる範疇の化合物を含む。
置換有機基の具体例としては、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−メルカプトプロピル基、p−メルカプトメチルフェニルエチル基、3−アクリロイルオキシプロピル基、3−メタクリロイルオキシプロピル基、3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基、3−アミノプロピル基、N−フェニル−3−アミノプロピル基、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基、2−シアノエチル基等が挙げられる。
上記Rとして特に好ましい1価の有機基は、炭素数1〜4のアルキル基である。オルガノポリシロキサン(T)としては、炭素数1〜4のアルキル基を有するTモノマーの単独またはその2種以上を使用して得られるオルガノポリシロキサンが好ましい。また、オルガノポリシロキサン(T)として炭素数1〜4のアルキル基を有するTモノマーの1種以上と少量の他のTモノマーを使用して得られるオルガノポリシロキサンもまた好ましい。他のTモノマーの割合はTモノマー全量に対し30モル%以下、特に15モル%以下が好ましい。他のTモノマーとしては、シランカップリング剤と呼ばれる範疇の、官能基や官能基含有有機基等で置換された置換有機基を有するTモノマーが好ましい。
炭素数1〜4のアルキル基を有するTモノマーの具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等が挙げられる。特に、メチルトリメトキシシランとエチルトリメトキシシランが好ましい。置換有機基等を有するTモノマーの具体例としては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−シアノエチルトリメトキシシラン。
R−Si(−OY)で表されるTモノマー以外の(R’−)Si(−Z)4−aで表されるTモノマー(a=1)としては、例えば、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、3−グリシドキシプロピルトリクロロシラン、メチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン等が挙げられる。
(R’−)Si(−Z)4−aで表されるDモノマー(a=2)において、2個のR’は同一であっても、異なっていてもよい。同一の場合は、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。異なる場合は、一方のR’が炭素数1〜4のアルキル基であり、他方のR’が前記官能基や官能基含有有機基等で置換された置換有機基であることが好ましい。また、Z基としては、炭素数1〜4のアルコキシ基、アセトキシ基等が好ましい。Dモノマーとしては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジアセトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−シアノエチルメチルジメトキシシラン。
(R’−)Si(−Z)4−aで表されるQモノマー(a=0)において、4個のZ基は異なっていてもよいが、通常は同一である。Z基としては、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましく、特にメトキシ基またはエトキシ基であることが好ましい。Qモノマーとしては、例えば、下記の化合物が挙げられる。
テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロポキシシラン、テトラn−ブトキシシラン、テトラsec−ブトキシシラン、テトラt−ブトキシシラン。
本発明に用いるオルガノポリシロキサン(T)は、上記Tモノマー等を部分加水分解縮合させることによって得られる。通常、Tモノマー等と水とを溶媒中で加熱することによりこの反応を行う。反応系には触媒を存在させることが好ましい。モノマーの種類、水の量、加熱温度、触媒の種類や量、反応時間等の反応条件を調節して目的のオルガノポリシロキサンを製造することができる。また、場合によっては市販のオルガノポリシロキサンをそのまま目的のオルガノポリシロキサンとして使用することや、市販のオルガノポリシロキサンを使用して目的とするオルガノポリシロキサンを製造することも可能である。
上記触媒としては、酸触媒が好ましい。酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜硝酸、過塩素酸、スルファミン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、乳酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。特に、酢酸が好ましい。上記溶媒としては親水性の有機溶媒が好ましく、特にアルコール系溶媒が好ましい。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−エトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−ブトキシエタノール等が挙げられる。反応温度は、触媒が存在する場合、室温で反応させることができる。通常は、20〜80℃の反応温度から目的に応じて適切な温度を採用する。
加水分解縮合反応はT0(Tモノマー)からT1が生成し、T1からT2が生成し、T2からT3が生成する反応である。加水分解性基の1個以上が水酸基変換されたT0からT1が生成する縮合反応、2個の−OXの少なくとも一方が水酸基であるT1からT2が生成する縮合反応、−OXが水酸基であるT2からT3が生成する縮合反応、の反応速度はこの順に遅くなると考えられる。加水分解性基の加水分解反応を考慮しても、反応が進むにしたがって各単位の存在量のピークはT0からT3へ移動していくと考えられる。反応条件が比較的温和である場合には存在量のピークの移動は比較的整然と進行すると考えられる。一方、反応条件が比較的激しい場合には反応がランダムに進行し各単位の存在量の分布は平板なものになり、T2やT3の存在量に対しT0やT1の存在量が多くなりやすい。後述のように、本発明に用いるオルガノポリシロキサン(T)のうちでもオルガノポリシロキサン(a)は、T0やT1の存在量が少なく、かつT2とT3の存在量の比が特定の範囲にある比較的高分子量のオルガノポリシロキサンであり、このようなオルガノポリシロキサンは比較的温和な反応条件を選択することにより製造することができる。
上記縮合反応の反応性はRによって変化し、Rが異なると水酸基の反応性も変化する。通常Rが小さいほど(例えば、Rがアルキル基の場合、アルキル基の炭素数が少ないほど)、水酸基の反応性は高い。したがって、加水分解性基の反応性と水酸基の反応性の関係を考慮して、Tモノマーを選択することが好ましい。
さらに、加水分解性基の水酸基への加水分解反応の速度は、加水分解性基の種類により変化し、縮合反応の速度との関係を考慮することが好ましい。例えば、T2のOX基がアルコキシ基である場合、その加水分解反応の速度が遅すぎると、OX基が水酸基であるT2が少なくなる。同様に、加水分解反応の速度が遅すぎるとOX基が水酸基であるT1が少なくなる。このため、オルガノポリシロキサン中のアルコキシ基に対する水酸基の存在量の比が高いものを得ることが困難となる。このため、OX基であるアルコキシ基は反応性の高いアルコキシ基、すなわち炭素数の低いアルコキシ基が好ましく、メトキシ基がもっとも好ましい。加水分解性基の反応性が充分高い場合、加水分解性基の割合の高いオルガノポリシロキサンから、縮合反応をあまり進めることなく、水酸基の割合の高いオルガノポリシロキサンを得ることができる。
本発明に用いるハードコート剤組成物には、このようにして得られる硬化性のオルガノポリシロキサン(T)の1種を単独で配合することも、2種以上を併用して配合することも可能である。耐擦傷性の観点から特に好ましいオルガノポリシロキサン(T)の組合せとして、オルガノポリシロキサン(a)およびオルガノポリシロキサン(b)の組合せについて以下に説明するが、本発明に用いる硬化性オルガノポリシロキサンがこれらに限定されるものではない。また、オルガノポリシロキサン(a)およびオルガノポリシロキサン(b)が、それぞれ単独でオルガノポリシロキサン(T)として本発明に使用されることを妨げるものでもない。
(オルガノポリシロキサン(a))
オルガノポリシロキサン(a)は、T1〜T3の各単位を、T1:T2:T3=0〜5:15〜40:55〜85、かつT3/T2=1.5〜4.0の割合で含む。また、オルガノポリシロキサン(a)中のOX基について、それがアルコキシ基である個数(A)とそれが水酸基である個数(B)との割合、(B)/(A)が分子平均で12.0以上である。かつ、オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量は800〜8000である。なお、オルガノポリシロキサン(a)は、TモノマーであるT0を実質的に含まない。
オルガノポリシロキサン(a)を構成するT1、T2およびT3の割合については、(T2+T3)/(T1+T2+T3)が0.85〜1.00の範囲にあることが好ましく、0.90以上1.00未満であることがより好ましい。また、T3/T2については、好ましい範囲は2.0〜4.0である。
オルガノポリシロキサン(a)を構成するT1、T2およびT3の割合を、各分子の平均組成でこのような範囲にすることで、オルガノポリシロキサン(a)と後述するオルガノポリシロキサン(b)とを組み合わせて本発明に係るハードコート剤組成物に用いた際に、最終的に得られるハードコート層の耐擦傷性を向上させることができる。
オルガノポリシロキサン(a)における(B)/(A)は、縮合反応性を示すパラメータであり、この値が大きいほど、つまりアルコキシ基に比べて水酸基の割合が多いほど、オルガノポリシロキサン(a)とオルガノポリシロキサン(b)とを組み合わせてハードコート剤組成物とした際に、硬化膜形成時の硬化反応が促進される。また、硬化膜形成時に未反応で残ったアルコキシ基は、最終的に得られるハードコート層の耐擦傷性の低下を招くおそれがあり、後硬化が進行すればマイクロクラックの原因ともなるため、アルコキシ基に比べて水酸基の割合が多いほどよい。オルガノポリシロキサン(a)における(B)/(A)は、12.0以上であるが、好ましくは16.0以上である。なお、(A)は0であってもよい。
(B)/(A)の値が12.0未満であると、アルコキシ基に比べて水酸基の割合が少なすぎて、硬化反応促進の効果が得られず、またアルコキシ基の影響により耐擦傷性の低下を招くおそれがあり、後硬化が進行してマイクロクラックの原因となる。つまり、(B)/(A)の値が12.0未満であると、硬化膜形成に際して、オルガノポリシロキサン(a)とオルガノポリシロキサン(b)の硬化反応により形成される3次元架橋構造(ネットワーク)に、オルガノポリシロキサン(a)の一部が組み込まれずブリードアウトしやすくなること等に起因して、架橋密度が低下し、耐摩耗性が得られない、硬化が十分に進行しにくくなる等の問題が発生する。
オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量は800〜8000であり、好ましくは、1000〜6000である。オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量がこの範囲にあることで、オルガノポリシロキサン(a)とオルガノポリシロキサン(b)とを組み合わせて本発明のハードコート剤組成物に用いた際に、最終的に得られるハードコート層の耐擦傷性を十分に向上させることができる。
本発明において、特に耐擦傷性に優れたハードコート層を形成するためのハードコート剤組成物に用いるオルガノポリシロキサン(a)を得るには、原料の加水分解性シラン化合物として、全Tモノマー中70質量%以上がメチルトリアルコキシシラン、好ましくはアルコキシ基の炭素数は1〜4を用いることが好ましい。但し、密着性の改善、親水性、撥水性等の機能発現を目的として少量のメチルトリアルコキシシラン以外のTモノマーを併用することもできる。
オルガノポリシロキサン(a)を製造する方法としては、上記のように、溶媒中で酸触媒存在下にTモノマー等を加水分解縮合反応させる。ここで加水分解に必要な水は、モノマー1当量に対して通常、水1〜10当量、好ましくは1.5当量〜7当量、さらに好ましくは3〜5当量である。モノマーを加水分解および縮合する際に、コロイダルシリカ(後述する)が存在する反応系で行うこともでき、このコロイダルシリカとして水分散型のコロイダルシリカを使用した場合は、水はこの分散液から供給される。酸触媒の使用量は、モノマー100質量部に対して、0.1〜50質量部が好ましく、1〜20質量部が特に好ましい。溶媒としては、前記アルコール系溶媒が好ましく、得られるオルガノポリシロキサン(a)の溶解性が良好な点から、具体的には、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールが特に好ましい。
通常、反応温度は20〜40℃、反応時間は1時間〜数日間が採用される。モノマーの加水分解縮合反応は発熱反応であるが、系の温度は60℃を超えないことが好ましい。このような条件で十分に加水分解反応を進行させ、ついで、得られるオルガノポリシロキサンの安定化のため40〜80℃で1時間〜数日間縮合反応を進行させることも好ましく行われる。
オルガノポリシロキサン(a)は、また、市販のオルガノポリシロキサンから製造することができる。市販のオルガノポリシロキサンは通常水酸基に比較してアルコキシ基の割合が高いオルガノポリシロキサンであるので、特に、前記(B)/(A)以外は目的とするオルガノポリシロキサン(a)に類似した市販のオルガノポリシロキサンを使用して加水分解反応で水酸基の割合を高めて、オルガノポリシロキサン(a)を製造することが好ましい。
オルガノポリシロキサン(a)の原料として使用できる市販のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、メチルトリメトキシシランの部分加水分解縮合物である以下のオルガノポリシロキサンがある。なお、「ND」の表記は、核磁気共鳴分析装置、日本電子株式会社製、ECP400(商品名)を用いて29Si−NMRのピーク面積比を測定した際に、検出量以下であることを示す(以下同様)。
メチル系シリコーンレジンKR−220L(商品名、信越化学工業社製);T0:T1:T2:T3=ND:ND:28:72、Si−OH/SiO−CH=11.7、質量平均分子量Mw=4720、数平均分子量Mn=1200、Mw/Mn=3.93。
メチル系シリコーンレジンKR−500(商品名、信越化学工業社製);T0:T1:T2:T3=ND:15:58:27、Si−OH基由来のピークはFT−IRにより確認されず、実質SiO−CHのみ存在。Mw=1240、Mn=700、Mw/Mn=1.77。
上記のような市販のオルガノポリシロキサンからオルガノポリシロキサン(a)を製造する場合、市販のオルガノポリシロキサンを、酸触媒存在下で主にアルコキシ基の加水分解を行うことが好ましい。例えば、市販のオルガノポリシロキサンに0〜10倍量(質量)の溶媒を加え、よく撹拌し、次いで0.1〜70質量%程度の濃度の酸水溶液を添加して、15〜80℃、好ましくは20〜70℃の温度で1〜24時間撹拌する等の方法が挙げられる。用いる溶媒としては水溶媒が使用でき、そのほか水を添加した前記アルコール系溶媒も使用できる。
(オルガノポリシロキサン(b))
本発明に用いるハードコート剤組成物に上記オルガノポリシロキサン(a)と組合わせて用いるオルガノポリシロキサン(b)は、オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量の1/10〜1/1.5倍(すなわち(0.1〜0.67)倍)の質量平均分子量を有するオルガノポリシロキサンである。オルガノポリシロキサン(b)は、組み合わされるオルガノポリシロキサン(a)よりも質量平均分子量の小さいオルガノポリシロキサンであり、前記T1〜T3単位を有する。T1、T2、T3の数の比、T3/T2の割合、前記した(B)/(A)の比は特に限定されない。
オルガノポリシロキサン(b)の質量平均分子量は、好ましくは組み合わされるオルガノポリシロキサン(a)の1/8〜1/1.5倍(すなわち(0.125〜0.67)倍)である。オルガノポリシロキサン(b)の質量平均分子量がオルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量の1/1.5倍を超えると、言い換えれば、オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量がオルガノポリシロキサン(b)の質量平均分子量の1.5倍未満では、最終的に得られるハードコート層の靱性が低下し、クラックの発生の要因となる。また、オルガノポリシロキサン(b)の質量平均分子量がオルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量の1/10倍未満では、言い換えれば、オルガノポリシロキサン(a)の質量平均分子量がオルガノポリシロキサン(b)の質量平均分子量の10倍を超えると、最終的に得られるハードコート層の耐擦傷性が低くなり、十分な耐擦傷性を有するハードコート層を得ることができない可能性がある。
より好ましいオルガノポリシロキサン(b)は、T0、T1、T2およびT3で示される各含ケイ素結合単位が、これらの単位の個数の割合で、T0:T1:T2:T3=0〜5:0〜50:5〜70:10〜90の範囲にあるオルガノポリシロキサンである。オルガノポリシロキサン(b)中のT0およびT1の割合が大きいということは、一般にそのオルガノポリシロキサンを製造する際に、原料モノマーの加水分解反応や縮合反応が不充分であったことを示す。オルガノポリシロキサン(b)において、T0およびT1の割合が大きいと、これとオルガノポリシロキサン(a)とを含有するハードコート剤組成物を用いて、硬化膜を形成させる際の熱硬化時に、クラックの発生が多くなる傾向となる。また、一般にオルガノポリシロキサンを製造する際に、原料モノマーの縮合反応を進行させすぎると得られるオルガノポリシロキサンのT3の割合が高くなる。オルガノポリシロキサン(b)において、T3の割合が必要以上に高くなると、これとオルガノポリシロキサン(a)を含むハードコート剤組成物を用いて、硬化膜を形成させる際の熱硬化時に、適切な架橋反応が困難になるため、硬化膜を形成できなくなるおそれがあり、また最終的に十分な耐擦傷性を有するハードコート層を得ることができないことがある。
オルガノポリシロキサン(b)としては、オルガノポリシロキサン(a)と同様にTモノマー等から製造することができる。また、市販のオルガノポリシロキサンをそのままオルガノポリシロキサン(b)として使用することができる。オルガノポリシロキサン(b)として使用することができる市販のオルガノポリシロキサンとしては、例えば、下記のオルガノポリシロキサンがある。なお、「trace」の表記は、核磁気共鳴分析装置、日本電子株式会社製、ECP400(商品名)を用いて29Si−NMRのピーク面積比を測定した際に、0.01以上0.25以下であることを示す(以下同様)。
トスガード510(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製);分子量:Mn=1370、Mw=1380、Mw/Mn=1.01。T単位の個数:(M単位とD単位とQ単位のそれぞれの個数の総量)=99.9以上:ND。T0:T1:T2:T3=ND:2:36:62。
KP851(商品名、信越化学工業社製);分子量:Mn=1390、Mw=1400、Mw/Mn=1.01、T単位の個数:(M単位とD単位とQ単位のそれぞれの個数の総量)=99.9以上:ND。T0:T1:T2:T3=trace:21:58:21。
ここで、以下に説明する本発明に用いるハードコート剤組成物においては、上記オルガノポリシロキサン(a)に対するオルガノポリシロキサン(b)の含有量の割合は、質量比で、1.5〜30倍であることが好ましく、2〜15倍であることがより好ましい。本発明に用いるハードコート剤組成物において、このような割合で両者を含有すれば、硬化反応により形成されるオルガノポリシロキサン3次元架橋構造が、オルガノポリシロキサン(b)主体の3次元架橋構造中に(a)成分オルガノポリシロキサンが部分的に組み込まれた構成となり、最終的に得られるハードコート層の耐擦傷性を良好なものとすることができる。
本発明に用いるハードコート剤組成物は、上記硬化性のオルガノポリシロキサン、好ましくはオルガノポリシロキサン(T)を含有する。ハードコート剤組成物におけるオルガノポリシロキサンの含有量は、溶媒を除く組成物(以下、必要に応じて「不揮発成分」という)全量に対して、50〜100質量%であることが好ましく、60〜95質量%であることがより好ましい。本発明において、不揮発成分の量は、150℃で45分間保持した後の質量変化に基づいて測定している。
(任意成分)
ハードコート剤組成物には、上記オルガノポリシロキサンの他に、種々の添加剤が含まれていてもよい。
例えば、本発明のハードコート層付き樹脂基板の耐擦傷性を向上させるために、シリカ粒子が含まれていてもよい。シリカ粒子を含有させるために、コロイダルシリカの使用が好ましい。
シリカ粒子は、上記オルガノポリシロキサンの製造過程で、原料のモノマーに配合することもできる。コロイダルシリカを含む反応系中でオルガノポリシロキサンを製造することにより、シリカ粒子を含むオルガノポリシロキサンが得られる。例えば、コロイダルシリカにTモノマーと必要により水や酸触媒を添加し、コロイダルシリカの分散媒中で前記のようにオルガノポリシロキサンを製造することができる。このようにして得られたオルガノポリシロキサンを使用して、シリカ粒子を含むハードコート剤組成物を製造することができる。
ハードコート剤組成物に用いるシリカ粒子は、平均粒径(BET法)が1〜100nmであることが好ましい。平均粒径が100nmを超えると、粒子が光を乱反射するため、得られるハードコート層の曇価(ヘーズ)値が大きくなり、光学特性上好ましくない場合がある。平均粒径は5〜40nmであることがより好ましい。コロイダルシリカを用いる場合、水分散型および有機溶剤分散型のいずれであってもよいが、水分散型を使用することが好ましい。酸性水溶液中に分散させたコロイダルシリカを用いることがより好ましい。コロイダルシリカには、アルミナゾル、チタンゾル、セリアゾル等のシリカ粒子以外の無機質粒子を含有させることもできる。
ハードコート剤組成物におけるシリカ微粒子の含有量としては、溶媒を除く組成物(不揮発成分)全量に対して、1〜50質量%となる量が好ましく、5〜40質量%となる量がより好ましい。不揮発成分中のシリカ微粒子の含有量が1質量%未満では、十分な耐擦傷性を確保できないことがあり、含有量が50質量%を越えると、オルガノポリシロキサンの割合が低くなりすぎて、オルガノポリシロキサンの硬化膜形成が困難になる、最終的に得られるハードコート層にクラックが発生する、シリカ粒子同士の凝集が起こってハードコート層の透明性が低下する等のおそれがある。
ハードコート剤組成物には、塗工性を向上させるために、消泡剤や粘性調整剤等の添加剤が含まれていてもよく、プライマー層への密着性を向上させるために、密着性付与剤等の添加剤が含まれていてもよく、塗工性および得られる塗膜の平滑性を向上させるために、レベリング剤等の添加剤が含まれていてもよい。これらの添加剤の配合量は、オルガノポリシロキサン100質量部に対して、それぞれ0.01〜2質量部となる量が好ましい。その他、ハードコート剤組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、染料、顔料、フィラー等が含まれていてもよい。
ハードコート剤組成物には、さらに硬化触媒が含まれていてもよい。硬化触媒としては、脂肪族カルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、酒石酸、コハク酸等)のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;ベンジルトリメチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等の四級アンモニウム塩;アルミニウム、チタン、セリウム等の金属アルコキシドやキレート;過塩素酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、イミダゾール類およびその塩、トリフルオロメチルスルホン酸アンモニウム、ビス(トルフルオルメチルスルホニル)ブロモメチルアンモニウム等が挙げられる。硬化触媒の配合量は、オルガノポリシロキサン100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部であり、より好ましくは0.1〜5質量部である。硬化触媒の含有量が0.01質量部未満では十分な硬化速度が得られにくく、10質量部を超えるとハードコート剤組成物の保存安定性が低下したり、沈殿物を生じたりすることがある。
また、ハードコート剤組成物には、樹脂基板の黄変を抑制するために、紫外線吸収剤が含まれていてもよい。紫外線吸収剤としては、プライマー組成物に含まれる紫外線吸収剤と同様のものを用いることができる。すなわち、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾイミダゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、ベンジリデンマロネート系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤等が使用できる。紫外線吸収剤は、1種を単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。また、最終的に得られるハードコート層から上記紫外線吸収剤がブリードアウトするのを抑制するために、トリアルコキシシリル基を有する紫外線吸収剤を用いてもよい。トリアルコキシシリル基を有する紫外線吸収剤は、オルガノポリシロキサンの熱硬化による硬化膜形成の際に、加水分解反応により水酸基に変換され、次いで脱水縮合反応により硬化膜中に組み込まれ、結果として、紫外線吸収剤のハードコート層からのブリードアウトを抑制することができるものである。このようなトリアルコキシシリル基として、具体的には、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等が挙げられる。ハードコート剤組成物中の紫外線吸収剤の含有量は、オルガノポリシロキサン100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、0.1〜30質量部であることがより好ましい。
さらに、本発明においては、常温でのハードコート剤組成物のゲル化を防止し、保存安定性を増すために、ハードコート剤組成物のpHを2.0〜7.0に調整することが好ましく、pHを3.0〜6.0に調整することがより好ましく、4.0〜5.5に調整することがより一層好ましい。pHが2.0未満または7.0超の条件下では、ケイ素原子に結合した水酸基が極めて不安定であるため保存性が低下する。pH調整の手法としては、酸の添加、硬化触媒の含有量の調整等が挙げられる。酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜硝酸、過塩素酸、スルファミン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、乳酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。
ハードコート剤組成物は、通常、必須成分であるオルガノポリシロキサン、および任意成分である種々の添加剤等が溶媒中に溶解、分散した形態で調製される。前記ハードコート剤組成物中の全不揮発成分が溶媒に安定に溶解、分散することが必要であり、そのために溶媒は、好ましくは少なくとも20質量%以上、より好ましくは50質量%以上のアルコールを含有する。
このような溶媒に用いるアルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−エトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、および2−ブトキシエタノール等が好ましく、これらのうちでも、オルガノポリシロキサンの溶解性が良好な点、塗工性が良好な点から、沸点が80〜160℃のアルコールが好ましい。具体的には、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−エトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、および2−ブトキシエタノールが好ましい。
また、本発明に係るハードコート剤組成物に用いる溶媒としては、オルガノポリシロキサンを製造する際に、原料モノマー、例えばアルキルトリアルコキシシランを加水分解することに伴って発生する低級アルコール等や、水分散型コロイダルシリカ中の水で加水分解反応に関与しない水分、有機溶媒分散系のコロイダルシリカを使用した場合にはその分散有機溶媒も含まれる。
さらに、本発明に用いるハードコート剤組成物においては、上記以外の溶媒として、水/アルコールと混和することができるアルコール以外の他の溶媒を併用してもよく、このような溶媒としては、アセトン、アセチルアセトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類が挙げられる。
本発明に係るハードコート剤組成物において用いる溶媒の量は、ハードコート剤組成物中の全不揮発成分100質量部に対して、50〜3000質量部であることが好ましく、150〜2000質量部であることがより好ましい。
本発明に用いるハードコート剤組成物は、上記説明した各種成分を通常の方法で、均一に混合することにより得られる。
(ハードコート層の形成)
ハードコート層は、上記のように調製されたハードコート剤組成物を用いて、例えば次のような方法で形成できる。この方法は、(a)ハードコート剤組成物の硬化膜を形成する工程(以下「硬化膜形成工程」という)、(b)Xeエキシマ光照射工程、および(c)酸化処理/熱処理工程を有する。
(a)硬化膜形成工程
この工程は、上記ハードコート剤組成物を、樹脂基板上に設けたプライマー層の上に塗布して前記組成物からなる塗膜を形成した後、得られた塗膜に熱処理(以下、「第1の熱処理」という)を施して硬化膜を形成する工程である。
上記ハードコート剤組成物を塗布する方法としては、特に限定されないが、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法等の通常の塗工方法が挙げられる。用いる塗工方法に応じて、ハードコート剤組成物の粘度、固形分濃度等を適宜調整することが好ましい。
ハードコート剤組成物をプライマー層等の表面に塗布して形成される塗膜の厚さは(硬化前の厚さ)は、組成物における固形分濃度による。硬化後の膜厚が所定の範囲内になるように、固形分濃度を勘案する等して、適宜調整することが好ましい。
硬化膜の膜厚は、以下に説明する硬化後の状態で、0.1μm以上20μm以下であることが好ましく、1μm以上10μm以下であることがより好ましく、2μm以上10μm以下であることがより一層好ましい。なお、本方法においては、上記塗膜の硬化後、得られる硬化膜に対して、さらに施される(b)Xeエキシマ光照射および(c)酸化処理/第2の熱処理によって膜厚が変化することはない。したがって、以下の硬化後の膜厚、すなわち硬化膜の膜厚を、最終的に得られるハードコート層の最終膜厚として扱ってよい。ハードコート層の膜厚が小さすぎると、十分な耐擦傷性を確保することが困難になる可能性がある。一方、ハードコート層の膜厚が大きすぎると、クラックや剥離が発生しやすくなるおそれがある。十分な耐擦傷性を確保しつつ、クラックや剥離の発生を抑制するためには、硬化膜の膜厚(すなわち、ハードコート層の膜厚)は、0.1μm以上20μm以下であることが好ましい。
このようにして上記プライマー層等の少なくとも一方の面上に形成されたハードコート剤組成物の塗膜に、次いで、第1の熱処理を施すことによって、上記オルガノポリシロキサンを硬化させる。なお、本明細書において、「ハードコート剤組成物が硬化する」という場合があるが、これはハードコート剤組成物に含まれるオルガノポリシロキサンが硬化することをいう。また、この処理に先立って、必要に応じて乾燥の操作を設けてもよい。
乾燥は、上記のようにしてプライマー層等上に形成されたハードコート剤組成物塗膜を、通常、常温〜樹脂基板の熱変形温度未満の温度条件下に一定時間置くことで行われ、これにより塗膜中の溶媒の一部または全部が除去される操作である。溶媒の乾燥条件として、具体的には、例えば0〜60℃の温度で、10分〜10時間保持する乾燥条件が挙げられる。また、減圧度を調整しながら真空乾燥等により溶媒の除去を行ってもよい。
本方法においては、任意に行われる乾燥の後、ハードコート剤組成物の塗膜に、第1の熱処理を施して硬化膜を形成する。この、ハードコート剤組成物塗膜に対して行う第1の熱処理は、ハードコート剤組成物を縮合硬化させるために通常行われる処理と同様の処理とすることができる。
上記で得られた塗膜に対して行う第1の熱処理は、樹脂基板の耐熱性に問題がない範囲において高い温度で行う方がより早く硬化を完了させることができ、好ましい。しかし、例えば、1価の有機基としてメチル基を有するオルガノポリシロキサンを用いた場合、加熱硬化時の温度が250℃以上では、熱分解によりメチル基が脱離するため、好ましくない。よって、硬化温度としては、50〜200℃が好ましく、80〜160℃がより好ましく、100〜140℃がより一層好ましい。また、加熱手段としては、自然対流型恒温器、定温型乾燥器、熱風循環式乾燥器、送風型乾燥器、真空乾燥装置で加熱する方法等が挙げられる。また、電気炉等も使用できる。さらに赤外線ランプを用いた加熱手段を用いることも可能である。これらの加熱手段は、1種を単独で使用してもよく2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
本方法における上記第1の熱処理にかかる時間は、上記塗膜を構成するハードコート剤組成物に含まれるオルガノポリシロキサンが十分に縮合硬化してシロキサン結合による3次元構造が形成されるような時間であれば特に制限されないが、10分〜4時間が好ましく、20分〜3時間がより好ましく、30分〜2時間がより一層好ましい。
(b)Xeエキシマ光照射工程
本方法におけるXeエキシマ光照射工程は、上記(a)硬化膜形成工程でプライマー層等上に形成された硬化膜に、好ましくは酸素濃度が5体積%以下の雰囲気下で、Xeエキシマ光による照射処理を施す工程である。
Xeエキシマ光は、波長172nmの紫外線であり、上記(a)で得られた硬化膜の表面にXeエキシマ光を照射することにより、該硬化膜の表面構造を変化させること、具体的には、硬化膜表面に存在するケイ素原子と炭素原子の結合を特異的に切断することが可能である。上記オルガノポリシロキサンを含有するハードコート剤組成物の硬化膜においては、硬化膜内部では、シロキサン結合による3次元架橋構造(ネットワーク)が形成されているが、硬化膜表面には、原料のオルガノポリシロキサンに由来する、1価の有機基、例えば、メチル基、エチル基等のアルキル基がケイ素原子に結合した−SiCHや−SiC等の構造が多く存在する。このような硬化膜の表面に、Xeエキシマ光を照射すれば、ケイ素原子と炭素原子の結合の全部または一部が切断され、例えば、−SiCH場合には、メチル基が切断され、Si・のようなラジカルが発生する。このように本方法においては、上記(a)で得られた硬化膜表面のケイ素原子と炭素原子の結合を切断して硬化膜表面にSiラジカルを発生させる手段として、Xeエキシマ光の照射を用いているが、これは、波長172nmのXeエキシマ光が、他の波長の紫外線に比べケイ素原子と炭素原子の結合を効果的に切断可能である理由による。
ここで、上記硬化膜表面にXeエキシマ光を照射する際に、雰囲気中に酸素が存在すると、酸素がXeエキシマ光を選択的に吸収することから、硬化膜表面に到達するXeエキシマ光の量が減少し、ケイ素原子−炭素原子結合を切断する効率が著しく低下する。また、酸素はXeエキシマ光の照射によりオゾンに変換され、この発生したオゾンが硬化膜表面や、プライマー層、さらには樹脂基板の劣化を引き起こすことがある。したがって、ハードコート剤組成物の硬化膜へのXeエキシマ光照射は、好ましくは酸素濃度が5体積%以下の雰囲気下、より好ましくは3体積%以下、より一層好ましくは1体積%以下の雰囲気下で行われる。具体的には、Xeエキシマ光を吸収せず、かつXeエキシマ光照射の影響を受けない不活性ガス、例えば、窒素、アルゴン等でガス置換された雰囲気中で行われることが好ましい。
上記ハードコート剤組成物の硬化膜表面に対するXeエキシマ光照射処理においては、硬化膜表面におけるXeエキシマ光照射エネルギーが、300〜9000mJ/cmとなる処理であることが好ましく、500〜8000mJ/cmとなる処理であることがより好ましく、1000〜8000mJ/cmであることがより一層好ましい。Xeエキシマ光照射エネルギーが300mJ/cmより小さいと、硬化膜表面におけるケイ素原子−炭素原子結合の切断が十分に促進されず、最終的に得られるハードコート層に十分な耐擦傷性を付与することができないことがある。また、Xeエキシマ光照射エネルギーが9000mJ/cmより大きいと、硬化膜表面だけでなく、より深部のケイ素原子−炭素原子結合や硬化膜を構成しているケイ素原子−酸素原子結合まで切断され、その後の熱処理(第2の熱処理)において硬化収縮による収縮応力に起因するクラック等の発生が促進されることがある。
本方法において、上記ハードコート剤組成物の硬化膜表面に対するXeエキシマ光照射は、具体的には、XeエキシマUVランプを用いて行うことができる。XeエキシマUVランプとしては、特に制限されず、各種用途においてXeエキシマ光を照射するために用いられるXeエキシマUVランプを用いることができる。このようなXeエキシマUVランプとしては、市販品としてエキシマ照射装置があり、例えば、標準型エキシマ光照射ユニット(放射照度:10mW/cm、ウシオ電機社製)、分離型エキシマ紫外線照射装置(放射照度:35mW/cm、岩崎電気社製)、ランプハウス型エキシマUV光源(E500−172、放射照度:10mW/cm、エキシマ社製)等を用いることが可能である。樹脂基板の形状に合わせて、適宜選択すればよい。
このようなXeエキシマUVランプを用いてXeエキシマ光照射を行うが、例えば、放射照度:10mW/cmのXeエキシマUVランプを用いて照射処理を行う場合に、硬化膜表面におけるXeエキシマ光照射エネルギーを上記好ましい範囲とするためには、密閉可能なチャンバー内に該ランプを設置し、該ランプから0.1〜10mm程度の距離に、所定の面積を有する上記ハードコート剤組成物の硬化膜を有する樹脂基板を、硬化膜の表面全体に均一にXeエキシマ光照射ができるように、該ランプに硬化膜を対向させて配置し、窒素ガス雰囲気下、1〜15分間のXeエキシマ光照射を行う等の方法が挙げられる。
なお、上記ハードコート剤組成物の硬化膜表面に存在するケイ素原子−炭素原子結合がXeエキシマ光照射により切断され、ケイ素原子に結合していた有機基数が照射前と比べて減少した状態は、最終的に得られるハードコート層を有する樹脂基板のハードコート層表面についてFT−IR等を用いた赤外吸光分析や走査型X線光電子分光装置を用いた表面組成分析等により確認することができる。本発明の製造方法においては、例えば、赤外吸光分析を用いて測定される上記硬化膜表面における有機基数の、Xeエキシマ光照射前に対するXeエキシマ光照射後の割合は、95%以下であることが好ましく、90%以下であることがより好ましい。この割合の下限は0%、つまりXeエキシマ光照射後に硬化膜表面における有機基の全てが切断された状態であってもよいが、その後の熱処理(第2の熱処理)において硬化収縮による収縮応力に起因するクラック等の発生が促進される点から、好ましくは80%程度である。
(c)酸化処理/第2熱処理工程
本方法の(c)酸化処理/第2熱処理工程は、上記Xeエキシマ光照射工程後の硬化膜を酸化処理した後、さらに第2の熱処理を施して、表面に硬質の薄膜(光改質層)を有するハードコート層とする工程である。
上記酸化処理は、通常、上記Xeエキシマ光照射工程後の硬化膜を、上記酸素濃度5体積%以下の密封状態から、空気中に取り出すことで十分に行われる。但し、必要に応じて、エキシマ光照射工程後、すぐに乾燥空気、酸素雰囲気、あるいは水蒸気雰囲気にさらすこと等の方法により、酸化処理を積極的に行うことも可能である。
この酸化処理により、上記Xeエキシマ光照射工程で発生した硬化膜表面のSiラジカルは酸化され、ケイ素原子に水酸基が結合した状態(−SiOH)となる。本方法においては、この状態の硬化膜を第2の熱処理に供することにより、硬化膜表面にシロキサン結合を形成させてSiOの高硬度の表面、すなわち硬質の薄膜を形成することで、十分な耐擦傷性を有するハードコート層を得るものである。
この第2の熱処理における温度条件としては、上記第1の熱処理と同様、樹脂基板の耐熱性に問題がない範囲において高い温度で行う方がより早く処理を完了させることができ好ましい。このような温度条件として、具体的には、80℃以上かつ樹脂基板の熱変形温度以下であることが好ましい。樹脂基板にビスフェノールA系ポリカーボネート樹脂を用いる場合、80〜140℃の範囲がより好ましく、80〜130℃の範囲がさらに好ましい。
また、加熱手段としても、上記第1の熱処理と同様の方法、具体的には、自然対流型恒温器、定温型乾燥器、熱風循環式乾燥器、送風型乾燥器、真空乾燥装置で加熱する方法等が挙げられる。また、電気炉等も使用できる。さらに赤外線ランプを用いた加熱手段も適宜用いることが可能である。これらの加熱手段は、1種を単独で使用してもよく2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
本方法における上記第2の熱処理にかかる時間は、上記酸化処理後の硬化膜表面における−SiOH同士が十分に反応してシロキサン結合(−Si−O−Si−)を形成しSiOとなるような時間であれば特に制限されないが、1分〜2時間が好ましく、5分〜2時間がより好ましく、5分〜1時間がより一層好ましい。
このように形成されるハードコート層は内部にシロキサン結合による3次元架橋構造(ネットワーク)が形成されているばかりでなく、ハードコート層の表面にハードコート層内部と比較して、シロキサン結合がより強固に形成された構造を有するものである。本明細書においては、かかるハードコート層の表面に形成されたシロキサン結合がより強固に形成された構造からなる層を「光改質層」または「硬質の薄膜」と称している。このような表面に光改質層を有するハードコート層を備えることにより、本発明のハードコート層付き樹脂基板は、表面の硬度が著しく改善され、全体として、優れた耐擦傷性を有する。
ここで、本発明のハードコート層付き樹脂基板のような薄膜材料の「硬さ」、すなわち、耐擦傷性といった機械的強度、を求める場合、一般的には微小硬度測定試験を用いて評価を行うことができる。微小硬度測定試験は、測定表面への一定の荷重条件のもとでの圧子の侵入深さから硬さを算出する試験方法であり、これにより、引っかき硬さに対応するマルテンス硬さを知ることができる。
この硬さは耐擦傷性を表す指標となるが、本発明のハードコート層付き樹脂基板においては、ハードコート層表面のマルテンス硬さが、光改質層が形成されていないものに比べ非常に高く、十分な耐擦傷性を有している。
なお、本発明のハードコート層付き樹脂基板においては、ハードコート層表面のマルテンス硬さは、具体的には、表面から150nmまでの深さにおいて、200〜850N/mmの値を有するものが好ましい。
本発明のハードコート層付き樹脂基板は、プライマー層が前述した要件(1)および(2)の少なくとも1つを満たすように形成されているので、ハードコート層の表層、すなわち光改質層におけるクラックの発生を防止できる。これは、要件(1)および(2)の少なくとも1つを満たすプライマー層を形成したことにより、シリコーンポリマーの縮合硬化に起因して発生する圧縮応力が、ハードコート層付き樹脂基板を構成する各層の線膨張係数差に起因して発生する引張応力より、高温時(例えば、80℃)においても大となって、表面が圧縮応力を持つようになったことによると考えられる。なお、これは、後述する実施例でも確認され、要件(1)および(2)の少なくとも一方を満足するように形成された本発明のハードコート層付き樹脂基板においては、下記の方法で測定されるシリコーンポリマーの縮合硬化に起因して発生する80℃における圧縮応力(縮合による圧縮応力)を「Cst」、下記の方法で算出される各層の線膨張係数差に起因して発生する80℃における引張応力(線膨張係数差による引張応力)を「Tst」としたとき、Cst>Tstを満たしており、その場合、クラックの発生はいずれも認められなかった。
縮合による圧縮応力:周囲温度80℃で、薄膜ストレス測定装置によって測定された、硬化膜形成前後のシリコンウエハの曲率半径の値と、硬化膜(硬化後)の膜厚の値を用いて下記式(1)から算出される応力値である。
Figure 2016030392
(式中、E/(1−ν)は、シリコンウエハの二軸弾性係数(結晶面(100):1.805×1011Pa)であり、hは、シリコンウエハの厚さ(m)であり、tは、硬化膜の厚さ(m)であり、Rは、硬化膜形成前のシリコンウエハの曲率半径と、硬化膜形成後のシリコンウエハの曲率半径との差(m)である。)
引張応力:ハードコート層付き樹脂基板を構成する各層の線膨張係数、ヤング率、厚さ、および周囲温度をパラメータとし、下記文献に記載の方法にしたがい算出される応力値である。
尾田十八ら,「多層ばり理論によるプリント基板の応力・変形の評価」,日本機械学会論文集(A編)、1993年7月,第59巻,第563号,pp.1777−1782
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、例1〜9が実施例であり、例10〜15が比較例である。また、オルガノポリシロキサンの分析を以下に示す方法によって行った。
(1)ケイ素原子結合水酸基の個数(B)/ケイ素原子結合アルコキシ基の個数(A)
以下、実施例において用いたオルガノポリシロキサンは、ケイ素原子結合アルコキシ基として、ケイ素原子結合メトキシ基(SiO−CH)を有するもののみであったため、上記(B)/(A)として、以下の方法により求めたSi−OH/SiO−CHの比を用いた。赤外吸光分析装置(FT−IR、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、型式:Avatar/Nicolet FT−IR360)を用い、2860cm−1付近のSiO−CHに由来する吸収と900cm−1付近のSi−OHに由来する吸収の面積比からSi−OH/SiO−CHの比を求めた。
(2)オルガノポリシロキサン中のケイ素原子の結合状態の解析
ハードコート剤組成物が含有するオルガノポリシロキサン中のケイ素原子の結合状態、具体的には、M単位、D単位、T単位、Q単位の存在の割合、およびT0〜T3の存在比を、核磁気共鳴分析装置(29Si−NMR:日本電子株式会社製、ECP400)を用いて、29Si−NMRのピーク面積比からそれぞれ求めた。測定条件等は以下のとおりである。
・ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製10mmφ試料管使用、
・プローブ:T10、
・共鳴周波数79.42MHz、
・パルス幅10μsec、
・待ち時間20sec、
・積算回数1500回、
・緩和試薬:Cr(acac)を0.1質量%含有、
・外部標準試料:テトラメチルシラン。
また、各構造に由来する29Si−NMRの化学シフトは、メチル系オルガノポリシロキサンの場合、以下のとおりである。
(M単位〜Q単位)
・M単位:15〜5ppm、
・D単位:−15〜−25ppm、
・T単位:−35〜−75ppm、
・Q単位:−90〜−130ppm。
(T0〜T3)
・T0:−40〜−41ppm、
・T1:−49〜−50ppm、
・T2:−57〜−59ppm、
・T3:−66〜−70ppm。
(3)数平均分子量Mn、質量平均分子量Mw、および分散度Mw/Mn
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC、Waters社製のWaters2695、RI検出、カラム:Styragel ガードカラム+HR1+HR4+HR5E、溶離液:クロロホルム)によって求めた。
[1]オルガノポリシロキサン(a)(MSi−1)の合成
0.2Lのフラスコに、メチル系シリコーンレジンKR−500(信越化学工業社製、Si−OH基由来のピークはFT−IRにより確認されず、実質SiO−CHのみである。各T単位の存在比はT0:T1:T2:T3=ND:15:58:27、Mn=700、Mw=1240、Mw/Mn=1.77)(10g)と1−ブタノール(10g)を加えよく撹拌し、酢酸(10g)、イオン交換水(10g)を加え、さらによく撹拌した。この溶液を40℃で1時間撹拌し、オルガノポリシロキサン(a)(MSi−1)を得た。このMSi−1を含有する溶液(MSi−1濃度:25質量%)をそのまま後述の[3]ハードコート剤組成物の調製に用いた。
得られたMSi−1について、FT−IRにより、原料であるKR−500との比較を行ったところ、SiO−CH基由来のピークの減少およびSi−OH基由来のピークの出現を確認した。FT−IRのピーク面積比から求めたMSi−1のSi−OH/SiO−CHの比は41.0であった。MSi−1はT単位のみからなり、29Si−NMRの化学シフトから求めた各T単位の存在比は、T0:T1:T2:T3=ND:1.1:30.1:68.8であった。MSi−1のMnは520、Mwは1150、Mw/Mnは2.22であった。
[2]オルガノポリシロキサン(b)(PSi−1)の合成およびオルガノポリシロキサン(b)(PSi−1)組成物溶液の調製
1Lのフラスコに、約15nmの平均粒子径をもつ水分散コロイダルシリカ(pH3.1、シリカ微粒子固形分35質量%)200gと酢酸0.2gを仕込み、メチルトリメトキシシラン138gを添加した。1時間撹拌した後、この組成物を25℃で4日間熟成してシリカ・メタノール−水分散液中で部分加水分解縮合物を確実に形成させた。
この組成物は不揮発成分が40質量%で、得られたオルガノポリシロキサン(オルガノポリシロキサン(b)(PSi−1))はT単位を主とした結合構造(T単位の個数:M単位とD単位とQ単位のそれぞれの個数の総量=100:0)をもち、29Si−NMRの化学シフトから求めた各T単位の存在比は、T0:T1:T2:T3=ND(検出されず):2:54:44であった。得られたオルガノポリシロキサンには、モノマー状のT0体[R−Si(OH)](Rは1価有機基)がほぼ存在せず、原料のメチルトリメトキシシランはオリゴマー状のオルガノポリシロキサンにほぼ完全に転換されていることが確認された。得られたオルガノポリシロキサン(b)(PSi−1)のMnは400、Mwは670、Mw/Mnは1.68であった。
上記で得られたオルガノポリシロキサン(b)(PSi−1)溶液(シリカ微粒子(c)含有)100質量部に、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤(4,6−ジベンゾイルレゾルシノール(DBR))4質量部を加え、25℃で24時間以上熟成した。希釈溶媒として1−ブタノール、イソプロパノールを用いて、不揮発成分が25質量%(150℃、45分)、粘度が4.4mPa・sのオルガノポリシロキサン(b)(PSi−1)組成物溶液を調製した。組成物のpHは5.0で安定化した。
[3]ハードコート剤組成物の調製
上記[2]で得られたオルガノポリシロキサン(b)(PSi−1)を含むオルガノポリシロキサン(b)組成物溶液80質量部、上記[1]で得られたオルガノポリシロキサン(a)(MSi−1)を含む溶液20質量部を混合して、ハードコート剤組成物(HC−1)を得た。
[4]プライマー組成物の調製
アクリル系プライマーSHP470(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製、固形分10質量%溶液)に、プロピレングリコールモノメチルエーテル分散コロイダルシリカのスノーテックス(登録商標)PGM-ST(商品名、日産化学工業社製;シリカ微粒子径10〜15nm、固形分30質量%)を、ベースポリマー100質量部あたりのシリカ微粒子の量が20、40、60質量部となるように添加し、均一に混合して、シリカ微粒子含有量の異なる3種のプライマー組成物(Pr−1)、(Pr−2)および(Pr−3)を得た。プライマー組成物(Pr−1)はシリカ微粒子を20質量部含有し、プライマー組成物(Pr−2)はシリカ微粒子を40質量部含有し、プライマー組成物(Pr−3)はシリカ微粒子を60質量部含有する。また、上記コロイダルシリカ未配合のアクリル系プライマーSHP470をプライマー組成物(Pr−4)として用意した。
[5]ハードコート層付き樹脂基板の作製
上記[3]および[4]で得られたハードコート剤組成物およびプライマー組成物を用いて、各実施例、比較例のハードコート層付き樹脂基板を作製した。なお、作製には、加熱乾燥手段として、熱風循環式乾燥器(三洋電機社製、CONVECTION OVEN、MOV−202F)を使用し、Xeエキシマ光照射手段として、Xeエキシマランプ光源(エキシマ社製、E500−172)を使用した。
(例1)
ポリカーボネート樹脂板(50mm×50mm×3mm;カーボグラス(登録商標)ポリッシュ クリヤー(商品名、旭硝子社製))に、プライマー組成物(Pr−2)をディップ方式で、乾燥後の膜厚が5μmになるように塗工し、120℃に設定した熱風循環式乾燥器を用いて30分間の加熱乾燥を行い、プライマー層を形成させた。次に、このプライマー層上に、ハードコート剤組成物(HC−1)をディップ方式でコーティングし、25℃で20分間保持して塗膜を形成した後、120℃に設定した熱風循環式乾燥器を用いて1時間の熱処理(第1の熱処理)を行い塗膜を硬化させて、ハードコート剤組成物の硬化膜を有する樹脂基板を作製した。硬化膜の膜厚は、2.9μmであった。この樹脂基板は、両面にプライマー層とハードコート剤組成物の硬化膜を有する。
上記ハードコート剤組成物の硬化膜を有する樹脂基板を、密封装置内のXeエキシマランプ光源(放射照度:10mW/cm)から1mmの位置に上記塗膜の片方の面が対向するようにセットし、窒素雰囲気下(酸素濃度:1体積%以下)において、Xeエキシマ光照射処理として、上記ランプ光源と対向する硬化膜全体に均一に、Xeエキシマランプ光を2分間照射した。
その後、上記樹脂基板を装置から取り出して大気雰囲気に曝して酸化処理を施し、120℃に設定した熱風循環式乾燥器を用いて1時間の熱処理(第2の熱処理)を行うことで、ハードコート層を有する樹脂基板を作製した。
なお、上記Xeエキシマ光照射処理における硬化膜表面でのXeエキシマ光照度を測定したところ、照度は10mW/cmであり、硬化膜表面が受けたXeエキシマ光照射エネルギーは1200mJ/cmであった。
得られたハードコート層付き樹脂基板のハードコート層の膜厚は、2.9μmであり、上記硬化膜からの変化はなかった。この樹脂基板は、両面にプライマー層とハードコート層が形成されているが、片面側はハードコート剤組成物の硬化膜からなり、Xeエキシマ光照射した片面側にのみ、Xeエキシマ光照射により改質されたハードコート層が形成されている。その目視による異常の有無を判定した結果、外観は問題なかった。
(例2〜6、10〜15)
プライマー組成物の塗布厚および/または使用するプライマー組成物を表1に示すように変えた以外は、例1と同様にして、ハードコート層付き樹脂基板を作製した。
なお、例4、11、15が、プライマー組成物(Pr−1)(シリカ含有量20質量部)を使用した例であり、(例1、5、12)が、プライマー組成物(Pr−2)(シリカ含有量40質量部)を使用した例であり、例2、6、13)が、プライマー組成物(Pr−3)(シリカ含有量が60質量部)を使用した例であり、例3、10,14が、プライマー組成物(Pr−4)(シリカ未配合)を使用した例である。
(例7)
ポリカーボネート樹脂(PC;住化スタイロンポリカーボネート社製、CALIBRE 300−10(商品名))とポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA;三菱レーヨン社製、VH067A(商品名))を溶融混練し、共押出成形を行い、110〜130℃の3本のロールで冷却して、プライマー層付き樹脂フィルム(樹脂フィルム積層体)を得た。PMMA層(プライマー層)およびPC層の厚みは、それぞれ50μmおよび160μmであった。
次に、得られたプライマー層付き樹脂フィルム(樹脂フィルム積層体)を400mm×400mmに裁断し、上型と下型からなる平板金型(金型を閉じたときのキャビティサイズ:400mm×400mm、厚み4mm)の下型内に、プライマー層が下型底面に接するように配置し、上型を用いて金型を閉じた。次いで、上型と下型の間を若干(2mm)開けた後、該平板金型のキャビティ内へ、ビスフェノールA系ポリカーボネート樹脂(Bayer社製、AG−2677(商品名)、Mw;約48,000)を、溶融樹脂温度300℃、金型温度90℃の成形条件で注入した。キャビティ内に溶融樹脂が充填率100%に充填されたところで、直ちに上型を2mm/secの速度で移動させて金型を閉じ成形した。その後、金型を開放し、成形品を取り出し、樹脂フィルム積層体付き樹脂基板を得た。
次に、得られた樹脂フィルム積層体付き樹脂基板のプライマー層上に、ハードコート剤組成物(HC−4)をフローコート方式でコーティングし、25℃で20分間保持して塗膜を形成した後、120℃に設定した熱風循環式乾燥器を用いて1時間の熱処理(第1の熱処理)を行い塗膜を硬化させて、ハードコート剤組成物の硬化膜を有する樹脂基板を作製した。硬化膜の膜厚は、2.9μmであった。
この後、得られたハードコート剤組成物の硬化膜を有する樹脂基板に対し、例1と同様のXeエキシマ光照射処理、酸化処理、および熱処理(第2の熱処理)を順に行い、ハードコート層付き樹脂基板を作製した。
この樹脂基板は、片面にプライマー層とハードコート層が形成されており、ハードコート層は表面にXeエキシマ光照射による光改質層を有している。
(例8、9)
プライマー層の厚みを表1に示すように変えた以外は、例7と同様にして、ハードコート層を有する樹脂基板を作製した。
[6]ハードコート層付き樹脂基板の評価
上記[5]の各例で得られたハードコート層付き樹脂基板について、下記項目<1>〜<4>の評価を行った。
<1>初期外観
上記[5]の各例で得られた各ハードコート層付き樹脂基板のハードコート層の初期における外観を目視で観察し、下記の基準で評価した。
○(合格):クラックなし
×(不合格):クラックあり
<2>耐候性(高温時耐クラック性)
上記[5]の各例で得られた各ハードコート層付き樹脂基板を80℃に設定したオーブン内に24時間放置した後、ハードコート層表面を目視で観察し、クラックの有無を調べた。
<3>耐擦傷性
JIS K5600(5.9)に準拠し、テーバー磨耗試験機(東洋精機製作所社製、型式:ROTARY ABRASION TESTER)に磨耗輪CALIBRASE(登録商標)CS−10F(TABER社製)を装着し、荷重1000g下、1000回転を行い、その前後でヘーズ(曇価)を測定し、試験後と試験前の曇価差ΔH1000を算出した。ヘーズはJIS K7105(6.4)に準拠し、ヘーズメーター(スガ試験機株式会社製、型式:HGM−2)を用いて測定した。
<4>表面硬度
ハードコート層表面について、微小硬さ試験機(フィッシャーインスツルメンツ社製、ピコデンター HM500)にビッカース角錐圧子を装着し、負荷−除荷試験を行い、荷重/進入深さ曲線を測定した。ここで、負荷速度Fは0.005mN/5sとし、クリープCは5sとし、除荷速度Fは負荷速度と同じとした。測定データをWIN−HCU(フィッシャーインスツルメンツ社製)により処理し、マルテンス硬さHM(N/mm)および押込み深さhmax(nm)を求めた。
上記で得られた初期外観、耐候性(高温時耐クラック性)、耐擦傷性、およびハードコート層の表面硬度の評価結果を、製造条件等とともに表1に示す。なお、表1には、以下に示す方法で測定算出した、ハードコート剤組成物硬化膜の圧縮応力、プライマー層の線膨張係数、線膨張係数差による引張応力、および表層応力も併せ示した。
<5>シリコーンポリマーの縮合硬化に起因して発生する80℃における圧縮応力(「圧縮応力」と表記)Cst
外径が4インチ、厚さが525±25μmのシリコンウエハのオリエンテーションフラットを基準とし、薄膜ストレス測定装置FLX−2320(KLA Tencor社製)内の所定位置に収容した後、周囲温度80℃で、シリコンウエハの曲率半径を計測した。
次に、シリコンウエハを取り出し、スピンコート法を用いてシリコンウエハ上にハードコート剤組成物(HC−1)を塗布した後、120℃で1時間加熱して硬化させ、シリコーン系硬化膜を形成した。形成されたシリコーン系硬化膜の膜厚を、干渉膜厚測定装置Solid Lamba Thickness(スペクトラ・コープ社製)を用いて、屈折率1.46の条件で測定した。
次に、シリコーン系硬化膜を形成する前と同様にして、周囲温度80℃で、シリコーン系硬化膜が形成されたシリコンウエハの曲率半径を計測した。
上記計測値を用いて、次式よりシリコーン系硬化膜の80℃における圧縮応力σ(MPa)を算出した。
Figure 2016030392
(式中、E/(1−ν)は、シリコンウエハの二軸弾性係数(結晶面(100):1.805×1011Pa)であり、hは、シリコンウエハの厚さ(m)であり、tは、硬化膜の厚さ(m)であり、Rは、硬化膜形成前のシリコンウエハの曲率半径と、硬化膜形成後のシリコンウエハの曲率半径との差(m)である。)
<6>プライマー層の線膨張係数
シリコーンポリマーの縮合硬化に起因して発生する圧縮応力の温度による変化を上記<5>に記載の方法に準じて測定し、次式よりプライマー層の線膨張係数を算出した。
Figure 2016030392
<7>線膨張係数差による80℃における引張応力(「引張応力」と表記)Tst
ポリカーボネート樹脂板、プライマー層、ハードコート層(改質層を除く)および改質層の各層の線膨張係数、ヤング率、厚さ、および周囲温度をパラメータとし、下記の文献に記載の方法にしたがい、算出した。
尾田十八ら,「多層ばり理論によるプリント基板の応力・変形の評価」,日本機械学会論文集(A編)、1993年7月,第59巻,第563号,pp.1777−1782
<8>80℃において表層で生じる応力(「表層応力」と表記)S
上記圧縮応力Cstと引張応力Tstとの差(Cst−Tst)を求め、80℃における表層応力S(MPa)とした。
Figure 2016030392
表1から明らかなように、プライマー層が下記の要件(1)および(2)の少なくとも一方の要件を満たしている例1〜9では、耐擦傷性が良好で、かつ80℃の高温下でもクラックの発生は認めらなかった。そして、これらの例は、いずれも、表層応力がいずれも>0MPa(圧縮応力Cst>引張応力Tst)であった。
(1)層厚が10μm以上である
(2)ポリマー成分100質量部に対し、20〜60質量部のシリカ粒子を含む
これに対し、要件(1)および(2)のいずれの要件も満たしていない例10〜15では、80℃の高温下でクラックの発生が認められた。そして、これらの例は、いずれも表面応力がいずれも<0MPa(圧縮応力Cst<引張応力Tst)であった。
以上の結果から、本発明によれば、耐擦傷性が良好で、かつ高温時の耐クラック性にも優れるハードコート層付き樹脂基板が得られることがわかる。
本発明のハードコート層付き樹脂基板は、高い耐擦傷性および耐候性を有しており、自動車や各種交通機関に取り付けられる車輌用の窓材、家屋、ビル等の建物に取り付けられる建材用の窓材等に使用される。
10…ハードコート層付き樹脂基板、11…樹脂基板、12…プライマー層、13…ハードコート層、13a…光改質層。

Claims (9)

  1. 樹脂基板と、前記樹脂基板の少なくとも一方の面上に順に形成されたプライマー層およびシリコーン系ハードコート層を備え、
    前記ハードコート層は表面に光改質層を有し、
    前記プライマー層は下記(1)および/または(2)の要件を満たすことを特徴とするハードコート層付き樹脂基板。
    (1)層厚が10μm以上である
    (2)ポリマー成分100質量部に対し、20〜60質量部のシリカ粒子を含む
  2. 前記光改質層が、圧縮応力層である請求項1に記載のハードコート層付き樹脂基板。
  3. 前記プライマー層が、アクリル系ポリマーを含む請求項1または2に記載のハードコート層付き樹脂基板。
  4. 前記ハードコート層の層厚が0.1〜100μmである請求項1〜3のいずれか1項に記載のハードコート層付き樹脂基板。
  5. 前記光改質層が、SiOを含む層である請求項1〜4のいずれか1項に記載のハードコート層付き樹脂基板。
  6. 前記光改質層の層厚が1〜200nmである請求項1〜5のいずれか1項に記載のハードコート層付き樹脂基板。
  7. 前記光改質層表面における、負荷速度・除荷速度F=0.005mN/5s、クリープC=5sの測定条件で測定したマルテンス硬さ(HM(0.005))が200〜850である請求項1〜6のいずれか1項に記載のハードコート層付き樹脂基板。
  8. 前記樹脂基板が、ポリカーボネート樹脂である請求項1〜7のいずれか1項に記載のハードコート層付き樹脂基板。
  9. 少なくとも一方の面上に下記(1)および/または(2)の要件を満たすプライマー層が形成された樹脂基板を用意する工程と、
    前記プライマー層上にオルガノポリシロキサンを含有するハードコート剤組成物を塗布し硬化させて硬化膜を形成する工程と、
    前記硬化膜にXeエキシマ光照射処理を施す照射工程と、
    前記照射工程後の硬化膜を酸化処理した後、熱処理を施してハードコート層とする工程と
    を具備することを特徴とするハードコート層付き樹脂基板の製造方法。
    (1)層厚が10μm以上である
    (2)ポリマー成分100質量部に対し、20〜60質量部のシリカ粒子を含む
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