本明細書においては、アクリル酸エステル類とメタクリル酸エステル類をまとめて(メタ)クリル酸エステルと記載することがある。他のアクリル酸誘導体とメタクリル酸誘導体についても同様である。
本発明のハードコート付き樹脂基材は、樹脂基材の少なくとも一方の表面上に、シリコーン系ハードコートを有するハードコート付き樹脂基材であって、前記シリコーン系ハードコートは、下記引張応力が35MPa以下となる硬化性シリコーン系ハードコート材料の硬化被膜からなることを特徴とするハードコート付き樹脂基材である。
引張応力:薄膜ストレス測定装置により、周囲温度25℃で、硬化性シリコーン系ハードコート材料の硬化被膜が形成されたシリコンウエハと該硬化被膜が形成される前のシリコンウエハの曲率半径を計測し、その曲率半径の差から計算された硬化被膜の引張応力。
なお、以下においては、硬化性シリコーン系ハードコート材料の硬化被膜を単に「硬化被膜」とも記載する。
本発明における硬化被膜の引張応力とは、周囲温度25℃で、薄膜ストレス測定装置によって測定された、硬化被膜形成前後のシリコンウエハの曲率半径の値と、硬化被膜(硬化後)の膜厚の値を用いて下式(1)で表される式によって算出される応力値である。なお、測定手順は実施例に詳述する。
式中、E/(1−ν)は、シリコンウエハの二軸弾性係数(結晶面(100):1.805×1011Pa)であり、hは、シリコンウエハの厚さ[m]であり、tは、硬化被膜の厚さ[m]であり、Rは、硬化被膜を形成する前のシリコンウエハの曲率半径と、硬化被膜を形成した後のシリコンウエハの曲率半径との差[m]である。
本発明において用いる硬化性シリコーン系ハードコート材料は、後述するように、熱硬化性オルガノポリシロキサンと溶媒とを含み、さらに必要に応じ種々の添加剤を含む組成物である。
通常、硬化性シリコーン系ハードコート材料が塗布された樹脂基材は、常温〜樹脂基材の熱変形温度未満の温度条件下で前記ハードコート材料中に含まれる溶媒を乾燥、除去した後、加熱することによって前記ハードコート材料中の熱硬化性オルガノポリシロキサンを熱硬化し、シリコーン系ハードコート付き樹脂基材となる。かかる熱硬化の過程で、前記ハードコート材料中に含まれる熱硬化性オルガノポリシロキサン中に含まれるシラノール基(−Si−OH)同士が脱水縮合反応を起こしてシロキサン結合(−Si−O−Si−)を形成し、耐摩耗性に優れた硬化被膜となる。昇温過程で、溶媒の蒸発により発生する毛管力と膜中で進行する脱水縮合反応によってゲル膜はち密化し、膜の体積減少率は数十%に達する。ゲル膜は完全弾牲体ではないが、これを弾性体であると近似すると、基材によって面内方向に拘束された状態で膜が収縮する際、膜の面内方向にはひずみが蓄積されることになる。その結果、膜の面内方向には引張応力が発生する。
そして、硬化被膜を形成する前後のシリコンウエハの曲率半径の差Rは、基材の厚さh、基材の弾性率E、基材のポアソン比ν、膜厚t、引張応力σによって決まる。基材の片面に形成された膜の面内方向に引張応力σが発生すれば、前記式(1)から読み取れるように、膜の面内方向に発生する応力σが大きいほど、前記曲率半径の差Rは大きくなる、つまり基材の反りが大きくなる。
よって、硬化被膜を形成する前後のシリコンウエハの曲率半径Rと、硬化被膜の膜厚tを調べれば、硬化被膜の引張応力が求められる。なお、曲率半径Rは、単結晶シリコンウエハの片面に硬化被膜を形成し、薄膜応力測定装置を使用して、該硬化被膜が形成されたウエハ表面上をレーザー光で走査し、反射光の方向からRを読み取ることによって求めることができる。
硬化被膜の形成後のシリコンウエハの曲率半径は、硬化性シリコーン系ハードコート材料の組成、硬化条件等により種々の値を取りうる。すなわち、硬化性シリコーン系ハードコート材料の組成、硬化条件等により、前記式(1)によって算出される硬化被膜の応力も様々な値となる。本発明者らは、前記式(1)によって算出される硬化被膜の応力が35MPa以下であれば、当該硬化被膜をシリコンウエハ上に形成する条件(硬化性シリコーン系ハードコート材料の組成や硬化条件等)を用いて樹脂基材の表面にハードコートを形成することにより、該樹脂基材の表面に形成されたハードコートにおけるクラックの発生や、樹脂基材からのハードコートの剥離を抑制できることを見出した。その結果、耐候性に優れたハードコート付き樹脂基材を得ることが可能となった。
ここで、前記式(1)によって算出される硬化被膜の応力が35MPaを超えると、該硬化被膜の原料である硬化性シリコーン系ハードコート材料を用いて樹脂基材の表面に形成されたハードコートにおけるクラックが発生したり、樹脂基材からハードコートが剥離したりするおそれがある。また、車両窓等の湾曲形状の成形体の場合、残留応力を有する樹脂成型体を基材として用いると、樹脂がハードコートの引張応力に耐え切れず、基材にクレーズと呼ばれるひび割れが発生するおそれもある。さらに、ハードコート付き樹脂基材を車両窓として車両に取り付けた場合、風圧などによって樹脂基材が変曲すると、樹脂基材の表面に形成されたハードコートにクラックが発生しやすくなる。前記引張応力の上限値は、25℃において、30MPaが好ましく、28MPaが特に好ましい。また、前記引張応力の下限値としては、1MPa以上が適当であり、10MPa以上が好ましく、20MPa以上が特に好ましい。
前記式(1)で表される引張応力の条件を満たすためには、硬化性シリコーン系ハードコート材料の組成や硬化条件を充分に考慮する必要がある。
本発明における硬化性シリコーン系ハードコート材料は、熱硬化性オルガノポリシロキサンと溶媒とを含み、必要に応じてさらに種々の添加剤を含む組成物である。前記熱硬化性オルガノポリシロキサンは、加水分解性基を有するシラン化合物(以下、加水分解性シラン化合物と記載する。)おびその部分加水分解縮合物からなる。
加水分解性基としては、アルコキシ基、イソシアネート基、アシルオキシ基、アリール基、およびハロゲン原子等が挙げられ、アルコキシ基が好ましい。アルコキシ基としては、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。また、これらの加水分解性シラン化合物は、該化合物に含まれる加水分解性基の一部があらかじめ加水分解され、シラノール基となっていてもよい。
前記式(1)で表される引張応力の条件を満たすためには、熱硬化性オルガノポリシロキサン中に含まれるケイ素原子の結合状態を適切にすることが重要である。
ケイ素原子は、その結合状態によって、Q体(ケイ素原子が酸素と結合する手(以下、結合手)を4つ有する)、T体(ケイ素原子が1個の有機基および3個の結合手を有する)、D体(ケイ素原子が2個の有機基および2個の結合手を有する)、およびM(ケイ素原子が3個の有機基および1個の結合手を有する)に分類され、これらQ体、T体、D体、およびM体の割合を適切に調整することが重要である。
本発明においては、硬化性シリコーン系ハードコート材料を用いて得られるハードコートの耐擦傷性を良好にするためには、T体を主とする熱硬化性オルガノポリシロキサン使用することが好ましく、実質的にT体のみを含む熱硬化性オルガノポリシロキサンを使用することが特に好ましい。
具体的には、29Si−NMRによるピーク面積比の値から(T体):(M体とD体とQ体との総量)=50:50〜100:0が好ましく、70:30〜100:0が特に好ましく、90:10〜100:0がとりわけ好ましい。
前記のような熱硬化性オルガノポリシロキサンを調製するために用いられる加水解性シラン化合物としては、下式(2)で表される加水分解性シラン化合物(以下、シラン化合物(2))が挙げられる。これらの化合物自身やこれらの化合物の部分加水分解縮合物を適宜組合わせることによって、前記M体、D体、T体およびQ体の割合を有する熱硬化性オルガノポリシロキサンを調製することが好ましい。なお、これらの化合物は2種以上併用してもよい。
(R1)nSi(OR2)4−n …(2)
(式中、nは、0〜3の整数を示す。R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数が1〜10の置換または非置換の1価有機基である。複数のR1が存在する場合、R1は互いに同一であっても異なっていてもよく、複数の(OR2)が存在する場合、(OR2)は互いに同一であっても異なっていてもよい。なお、有機基とは、ケイ素原子に結合する原子が炭素原子である基である。)
式(2)において、R1としては、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基やアルキニル基、炭素数6〜10のアリール基等が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ビニル基、アリル基、フェニル基、フェネチル基等、が挙げられる。
また、R1としては、これらの基がエポキシ基、(メタ)アクリロイルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、シアノ基、ハロゲン原子等で置換された、もしくは、これらの基中の炭素原子間にオキシ基、イミノ基、メチルイミノ基等が介在した基でもよい。具体的には、3−グリシドキシプロピル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基等のエポキシ基含有有機基;3−メタクリロイルオキシプロピル基、3−アクリロイルオキシプロピル基等の(メタ)アクリロイルオキシ基含有有機基;3−メルカプトプロピル基、2−(p−メルカプトメチルフェニル)エチル基等のメルカプト基含有有機基;3−アミノプロピル基、(2−アミノエチル)−3−アミノプロピル基等のアミノ基含有有機基;2−シアノエチル基等のシアノ基含有有機基等が例示される。
R2としては、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルコキシアルキル基、炭素数1〜10のアシル基等が挙げられ、炭素数1〜10のアルキル基が好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、メトキシエチル基、アセチル基等が挙げられる。なお、シラン化合物(2)は、シランカップリング剤と呼ばれる範疇の化合物を含む。
シラン化合物(2)としては、下記化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−シアノエチルトリメトキシシラン等のトリアルコキシまたはトリアシルオキシシラン類。
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジ(2−メトキシエトキシ)シラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジ(2−メトキシエトキシ)シラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジアセトキシシラン、3−プロピルメチルジメトキシシラン、3−プロピルメチルジエトキシシラン、3−プロピルメチルジプロポキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、2−シアノエチルメチルジメトキシシラン等のジアルコキシシランまたはジアシルオキシシラン類。
テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn−プロピルオキシシラン、テトラn−ブチルオキシシラン、テトラsec−ブチルオキシシラン、テトラt−ブチルオキシシラン等のテトラアルコキシシラン類。
さらに、加水分解性ケイ素化合物は、ある1つのケイ素原子の周辺にシロキサン結合が何個存在するかによっても分類される。T体を例にして説明する。加水分解性ケイ素化合物を、式R−Si(OX)3で表すと、ケイ素原子が酸素原子を介して他のケイ素原子と結合している数がいくつであるかによって、T0体、T1体、T2体、およびT3体に分類される。
T0:R−Si(OX)3
T1:R−Si(−OX)2(−O*−)
T2:R−Si(−OX)(−O*−)2
T3:R−Si(−O*−)3
(式中、Rは前記R1と同じ意味を表し、好ましい態様も同様である。Xは前記R2と同じ意味を表し、好ましい態様も同様である。O*は2つのケイ素原子を連結する酸素原子を表す。また、Rが複数ある場合、Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、(OX)が複数ある場合、(OX)は互いに同一であっても異なっていてもよい。なお、有機基とは、ケイ素原子に結合する原子が炭素原子である基である。)
たとえば、式R−Si(OX)3において、Rがメチル基、Xが水素原子である場合、T0〜T3は、以下のように表される。
T0:CH3−Si(OH)3
T1:CH3−Si(−OH)2(−O*−)
T2:CH3−Si(−OH)(−O*−)2
T3:CH3−Si(−O*−)3
本発明においては、T体としてはアルキルトリアルコキシシランが好ましく、アルキルトリアルコキシシランとしてはメチルトリアルコキシシランが好ましい。特に、全アルキルトリアルコキシシラン中70重量%以上がメチルトリアルコキシシランであることが特に好ましく、実質的に全量がメチルトリアルコキシシランであることがとりわけ好ましい。これは、メチルトリアルコキシシランが工業的に入手しやすいうえ、硬化収縮や屋外での曝露に伴う後収縮によるクラックの発生を抑制できるからである。ただし、基材とハードコートとの密着性改善、ハードコートに親水性や撥水性などの機能を付与すること等を目的として、メチルトリアルコキシシラン以外の少量のトリアルコキシシランを併用することは好ましい。メチルトリアルコキシシランと併用されるトリアルコキシシランとしては、式R−Si(OX)3におけるRが、炭素数2〜10のアルキル基、炭素数1〜10のフルオロアルキル基であるトリアルコキシシラン、または、前記Rが、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、3−メタクリロキシ基、3−アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、およびイソシアネート基で置換されたトリアルコキシシランが挙げられる。
熱硬化性オルガノポリシロキサン中に含まれるケイ素原子について、T0〜T3の存在比から、T体を主とした加水分解性シラン化合物およびその部分加水分解縮合物の縮合状態が理解でき、全体に占めるT3の割合が大きいほど、部分加水分解縮合反応が進行していることを示す。ここで、T体を主とする熱硬化性オルガノポリシロキサンを含む硬化性シリコーン系ハードコート材料において、加水分解反応の進行が不十分だと、熱硬化時に原料(加水分解ケイ素化合物)の蒸散や急激な硬化反応の進行等により、硬化被膜にクラックが発生する原因となる。また縮合反応が進行しすぎると、反応液中のゾルの粒子径が大きくなりすぎ、適切な架橋反応が不可能になるために、膜の耐擦傷性が低下するおそれがある。そのため、T体を主とした硬化性シリコーン系ハードコート材料を用いて得られるハードコートにおいて、クラックの発生がなく、耐擦傷性を良好にし、かつ塗工性や成膜性を付与するためには、T2体およびT3体を主に含む熱硬化性オルガノポリシロキサンを使用することが好ましい。また、ケイ素原子に結合した反応活性基によってもこれらの存在比は異なることが知られており、T0はごく微量存在するにとどまるか、またはまったく存在しないことが好ましい。特に、反応活性基がOH基の場合にこの傾向は顕著である。
実質的にT体を主とした硬化性シリコーン系ハードコート材料に含まれるケイ素原子は、T1体、T2体、およびT3体であることが特に好ましい。T体全体に占めるT2とT3の存在割合(T2+T3)/(T0+T1+T2+T3)が0.5〜1.0であることが好ましく、0.7〜1.0であることが特に好ましく、0.9〜1.0であることがとりわけ好ましい。またこれらの比は、T0:T1:T2:T3=0〜0.05:0〜0.45:0.2〜0.6:0.3〜0.8が好ましく、T0:T1:T2:T3=0〜0.05:0〜0.25:0.2〜0.6:0.3〜0.8が特に好ましく、T0:T1:T2:T3=0〜0.05:0〜0.05:0.2〜0.6:0.3〜0.8がとりわけ好ましい。
さらに、T2体とT3体との合計に対するT2体の割合であるT2/(T2+T3)は、0.1〜〜0.7の範囲にあることが好ましく、0.2〜0.7が特に好ましい。
これらT0体〜T3体の存在比は、加水分解性シラン化合物に対する適切な加水分解条件、縮合反応条件を採用することによって実現できる。なお、これらの存在比は29Si−NMRによるピーク面積比の値から求めることができる。
保護被膜の形成を目的とする観点から、熱硬化性オルガノポリシロキサンの数平均分子量は400以上であることが必要であり、500以上であることが好ましく、特に500〜10,000の分子量を有する複数のオルガノポリシロキサンの混合物であることがとりわけ好ましい。数平均分子量が400未満では成膜性に欠け、良好な硬化被膜の形成が難しくなる。また、重合度が低過ぎる、得られた硬化被膜におけるクラックの発生や、樹脂基材との接着性の低下が見られるほか、シリコーン系ハードコート材料の保存安定性が低下するおそれがある。
本発明においては、耐候性に優れるハードコートを形成可能なシリコーン系ハードコート材料を得るため、前記のケイ素原子の結合状態を満足する熱硬化性オルガノポリシロキサンを調製するが、これは、前記式(2)で表されるような加水分解性シラン化合物を部分加水分解縮合させることにより得られ、通常、加水分解性シラン化合物と水とを溶媒中で加熱することにより反応を行う。反応系には触媒を存在させることが好ましい。
ここで加水分解に必要な水は、トリアルコキシシランを用いた場合、加水分解性シラン化合物1当量に対して通常、水1〜10当量、好ましくは1.5当量〜7当量、さらに好ましくは3〜5当量である。加水分解性シラン化合物を加水分解および縮合する際に、コロイダルシリカ(後述する)を添加することが一般的に行われるが、このコロイダルシリカとして水分散型のコロイダルシリカを使用した場合は、水はこの分散液から供給される。
前記触媒としては、酸触媒が好ましい。酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜硝酸、過塩素酸、スルファミン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、乳酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸;が挙げられ、酢酸が好ましい。酸触媒の使用量は、加水分解性シラン化合物100質量部に対して、0.1〜50質量部が好ましく、1〜20質量部が特に好ましい。
加水分解性シラン化合物を加水分解および縮合する別の方法としては、加水分解性シラン化合物のアルコール溶液に、触媒の水溶液を添加する方法が挙げられる。アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−エトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、および2−ブトキシエタノール等が挙げられる。これらのうち、加水分解縮合反応によって得られるオルガノポリシロキサンの溶解性が良好な点から、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノールが好ましい。触媒としては酸触媒を使用できる。酸触媒としては、前記の酸触媒が使用でき、酢酸が好ましい。酸触媒の使用量も前記と同様である。
加水分解性シラン化合物の加水分解反応、縮合反応の条件は、使用する加水分解性シラン化合物の種類、系中に共存するコロイダルシリカ(後述する)の種類や量によって変化するが、一般的に系の温度が20〜40℃、反応時間が1時間〜数日間である。加水分解性シラン化合物の加水分解反応は発熱反応であるが、系の温度は60℃を超えないことが好ましい。このような条件で十分に加水分解反応を進行させ、ついで、ハードコート材料の安定化のため40〜80℃で1時間〜数日間縮合反応を進行させることも好ましく行われる。
シリコーン系ハードコート材料には、種々の添加剤が含まれていてもよい。たとえば、リコーン系ハードコートの耐擦傷性をさらに向上させるためには、コロイダルシリカを含むことが好ましい。なお、コロイダルシリカは、シリカ粒子が、水又はメタノール、エタノール、イソブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の有機溶媒中に分散されたものである。このシリカ粒子は、平均粒径(BET法)が1〜100nmであることが好ましい。平均粒径が100nmを超えると、粒子が光を乱反射するため、得られるハードコートの曇度の値が大きくなり、光学品質上好ましくない。さらに、平均粒径は5〜50nmであることが特に好ましい。これは、ハードコートに耐擦傷性を付与しつつ、かつハードコートの透明性を保持するためである。また、コロイダルシリカは水分散型および有機溶剤分散型のどちらも使用でき、水分散型を使用することが好ましい。さらには、酸性水溶液中で分散させたコロイダルシリカを用いることが特に好ましい。さらに、コロイダルシリカには、アルミナゾル、チタンゾル、セリアゾル等のシリカ以外の粒子を混合することもできる。
ハードコート材料にコロイダルシリカを添加する場合、コロイダルシリカ分散液中で前記加水分解性シラン化合物を、酸性条件下で加水分解縮合反応させる。この場合、使用する酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜硝酸、過塩素酸、スルファミン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、乳酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられ、酢酸が好ましい。酸の使用量は、加水分解性シラン化合物100質量部に対して、0.1〜50質量%が好ましく、0.5〜20質量%が特に好ましい。
また、硬化性シリコーン系ハードコート材料は、樹脂基材への塗工性向上の目的で、消泡剤、粘性調整剤を含んでいてもよく、樹脂基材への密着性向上の目的で密着性付与剤等の添加剤をさらに含んでもよく、ハードコート材料の樹脂基材への塗工性および得られる塗膜の平滑性を向上させる目的でレベリング剤を配合することが好ましい。これらの添加剤の配合量は、熱硬化性オルガノポリシロキサン100質量部に対して各成分それぞれ0.01〜2質量%となる量が好ましい。また、本発明の目的を損なわない範囲で染料、顔料、フィラーなどを添加してもよい。
また、硬化性シリコーン系ハードコート材料は、さらに硬化触媒を含むことが好ましい。硬化触媒としては、脂肪族カルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、酒石酸、コハク酸等)のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;ベンジルトリメチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩等の四級アンモニウム塩;アルミニウム、チタン、セリウム等の金属アルコキシドやキレート;過塩素酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、イミダゾール類及びその塩、トリフルオロメチルスルホン酸アンモニウム、ビス(トルフルオルメチルスルホニル)ブロモメチルアンモニウム等が挙げられる。
また、硬化触媒の配合量は熱硬化性オルガノポリシロキサン100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部であり、より好ましくは0.1〜5量部である。硬化触媒の含有量が0.01質量部より少ないと十分な硬化速度が得られにくく、10質量部より多いとハードコート材料の保存安定性が低下したり、沈殿物を生じたりすることがある。
また、硬化性シリコーン系ハードコート材料は、樹脂基材の黄変を抑制するために、さらに紫外線吸収剤を含むことが好ましい。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾイミダゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、ベンジリデンマロネート系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの紫外線吸収剤は、1種を使用してもよく2種以上を併用してもよい。硬化性シリコーン系ハードコート材料中の紫外線吸収剤の含有量は、熱硬化性オルガノポリシロキサン100質量部に対して、0.1〜100質量部であることが好ましく、0.1〜50質量部であることが特に好ましい。
さらに、常温でのハードコート材料のゲル化を防止し、保存安定性を増すために、ハードコート材料のpHを2.0〜7.0(好ましくは4.0〜5.5)に調節することが望ましい。pHが2以下あるいは7以上の条件下では、シラノール基が極めて不安定であるため適さない。pH調整の手法としては、酸の添加、硬化触媒の含有量の調整等が挙げられる。酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、亜硝酸、過塩素酸、スルファミン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、乳酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸が挙げられる。
硬化性シリコーン系ハードコート材料は、通常、必須成分である熱硬化性オルガノポリシロキサンおよび任意成分である種々の添加剤等が溶媒中に溶解、分散した形態で調製される。前記ハードコート組成物中の全不揮発成分が溶媒に安定に溶解、分散することが必要であり、そのために溶媒は、少なくとも20質量%以上、好ましくは50質量%以上のアルコールを含有する。
このような溶媒に用いるアルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−エトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、および2−ブトキシエタノール等が好ましく、これらのうちでも、オルガノポリシロキサンの溶解性が良好な点、樹脂基板への塗工性が良好な点から、沸点が80〜160℃のアルコールが好ましい。具体的には、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−エトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、および2−ブトキシエタノールが好ましい。
硬化性シリコーン系ハードコート材料に用いる溶媒としては、熱硬化性オルガノポリシロキサンを製造する際に、原料加水分解性シラン化合物、例えばアルコキシシランを加水分解することに伴って発生する低級アルコール等や、水分散型コロイダルシリカ中の水で加水分解反応に関与しない水分、有機溶媒分散系のコロイダルシリカを使用した場合にはその分散有機溶媒も含まれる。
さらに、硬化性シリコーン系ハードコート材料においては、上記以外の溶媒として、水/アルコールと混和することができるアルコール以外の他の溶媒を併用してもよく、このような溶媒としては、アセトン、アセチルアセトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸イソブチル等のエステル類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類が挙げられる。
硬化性シリコーン系ハードコート材料において用いる溶媒の量は、ハードコート剤組成物中の全不揮発成分100質量部に対して、50〜3000質量部であることが好ましく、150〜2000質量部であることがより好ましい。
本発明におけるハードコート付き樹脂基材は、前記加水分解性シラン化合物、このシラン化合物の一部又は全部が加水分解した加水分解物及びこの加水分解物が縮合した加水分解縮合物と溶媒と、必要に応じ前記添加剤を含む硬化性シリコーン系ハードコート材料を樹脂基材上に塗布して塗膜を形成し、前記塗膜中の硬化性化合物を硬化させることにより形成できる。シリコーン系ハードコート材料を塗布する方法としては、特に限定されないが、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法等が挙げられる。
シリコーン系ハードコート材料が塗布された樹脂基材は、通常、常温〜樹脂基材の熱変形温度未満の温度条件下で溶媒を乾燥、除去した後、加熱硬化する。かかる熱硬化反応は樹脂基材の耐熱性に問題がない範囲において高い温度で行う方がより早く硬化を完了させることができ好ましい。しかし、加水分解性シラン化合物としてメチル基を有するアルコキシシランを用いた場合、加熱硬化時の温度が250℃以上では、熱分解によりメチル基が脱離するため、好ましくない。よって、硬化温度としては、50〜200℃が好ましく、80〜160℃が特に好ましく、100℃〜140℃がとりわけ好ましい。硬化時間は10分間〜4時間が好ましく、20分間〜3時間が特に好ましく、30分間〜2時間がとりわけ好ましい。
ハードコートの膜厚は、0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、1μm以上20μm以下であることがさらに好ましく、2μm以上10μm以下であることが特に好ましい。ハードコートの膜厚が大きすぎると、前記引張応力の条件を満たす硬化性シリコーン系ハードコート材料を用いたものであっても、クラックや剥離が発生しやすくなるおそれがある。よって、充分な耐擦傷性を確保しつつ、クラックや剥離の発生を抑制ためには、ハードコートの膜厚は、0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。
本発明においては、前記硬化性シリコーン系ハードコート材料を用い、かつ、前記の硬化条件を採用することによって、式(1)で表されるシリコンウエハ上の硬化被膜の応力を35MPa以下にできる。その結果、前記硬化性シリコーン系ハードコート材料を用いて、かつ、前記硬化条件を採用することによって得られるハードコート付き樹脂基材が長期に渡り実使用環境下(屋外で曝露される環境下)におかれた場合においても、ハードコートのクラックや、ハードコートの基材からの剥離を抑制できる。すなわち、耐候性に優れたハードコート付き樹脂基材を得ることができる。
本発明においては、樹脂基材とシリコーン系ハードコートの間にプライマ層を有していてもよく、樹脂基材とシリコーン系ハードコートとの密着性向上のためには、プライマ層を有していることが好ましい。プライマ層は、特に限定されないが、本発明においては、アクリル系ポリマー、紫外線吸収剤、および溶媒を含むプライマ組成物を樹脂基材に塗布し乾燥させることによって形成することが好ましい。
アクリル系ポリマーとしては、アルキル基の炭素数が6以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルのホモポリマーやそれらモノマー同士のコポリマーが好ましい。また、炭素数は6以下の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの少なくとも1種と他の(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも1種とのコポリマーも好ましい。他の(メタ)アクリル酸エステルとしてはアルキル基の炭素数が7以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルや(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルが挙げられる。また、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとともに少量の官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル(例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルなど)を共重合して得られるコポリマーも使用できる。上記(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチルが挙げられる。
これらの中でも、本発明に用いるアクリル系ポリマーとしては、メタクリル酸アルキルエステルから選ばれる1種または2種以上を重合して得られるポリマーが好ましい。さらに、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル等から選ばれるアルキル基の炭素数が6以下のメタクリル酸アルキルエステルの1種または2種以上を重合して得られるホモポリマーまたはコポリマーが好ましく、メタクリル酸メチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸エチル等のホモポリマー、メタクリル酸メチルと、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチルから選ばれる1種または2種以上とのコポリマーがより好ましい。
その他に、加水分解性シリル基及び/又はSiOH基がC−Si結合を介して結合したアクリル系モノマー(a)と、有機系紫外線吸収性基を有するアクリル系モノマー(b)と、共重合可能な他のアクリル系モノマー(c)とからなる硬化性組成物を共重合して得られるアクリル系ポリマーも採用できる。
前記アクリル系モノマー(a)としては、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、11−メタクリロキシウンデシルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、アクリロキシメチルトリメトキシシラン、11−アクリロキシウンデシルトリメトキシシラン等が挙げられる。アクリル系モノマー(a)の量は、共重合組成で1〜50質量%、特に3〜40質量%の範囲が好ましい。
前記アクリル系モノマー(b)としては、2−(2−ヒドロキシ−5−(メタ)アクリロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−(メタ)アクリロキシメチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−5−(2−(メタ)アクリロキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−(2−(メタ)アクリロキシエチル)フェニル]−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3−メチル−5−(8−(メタ)アクリロキシオクチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(4−(メタ)アクリロキシブトキシ)ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシ−4’−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2,2’,4−トリヒドロキシ−4’−(2−(メタ)アクリロキシエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(3−(メタ)アクリロキシ−1−ヒドロキシプロポキシ)ベンゾフェノン等が挙げられる。前記アクリル系モノマー(b)の使用量は、共重合組成で1〜30質量%、特に3〜25質量%が好ましい。
前記アクリル系モノマー(a)および前記アクリル系モノマー(b)と共重合可能な他のアクリル系モノマー(c)としては、環状ヒンダードアミン構造を有する(メタ)アクリル系モノマー、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミドまたはこれらの誘導体等が挙げられる。
これらのモノマーのうち、(メタ)アクリル酸エステル類が好ましく、特に(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチルが好ましい。アクリル系モノマー(c)の使用量は、共重合組成で20〜98質量%、特に25〜95質量%の範囲が好ましい。
これらのアクリル系ポリマーは、重量平均分子量が20,000以上であることが好ましく、50,000以上〜1000,000以下が特に好ましい。
プライマ層には、樹脂基材の黄変を抑制するために、紫外線吸収剤が含まれる。紫外線吸収剤としては、シリコーン系ハードコート材料に含まれる紫外線吸収剤と同様のものを用いることができる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。プライマ層中の紫外線吸収剤の含有量は、アクリル系ポリマー100質量部に対して、1〜50質量部であることが好ましく、1〜30質量部が特に好ましい。
プライマ層は、さらに光安定剤等を含んでもよい。光安定剤としては、ヒンダードアミン類、;ニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、ニッケルコンプレクス−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルリン酸モノエチラート、ニッケルジブチルジチオカーバメート等のニッケル錯体が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。プライマ層中の光安定剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、0.1〜50質量部であることが好ましく、0.5〜10質量部が特に好ましい。
また、プライマ組成物には溶媒が含まれる。溶媒としては、前記アクリル系ポリマーを安定に溶解することが可能であれば、特に限定されない。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等のエステル類;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ガソリン、軽油、灯油等の炭化水素類;アセトニトリル、ニトロメタン、水等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。溶媒の量は、アクリル系ポリマー100質量部に対して、50〜10000質量部であることが好ましく、100〜10000質量部が特に好ましい。なお、プライマ組成物中の固形分の含有量は、プライマ組成物全量に対して0.5〜75質量%であることが好ましく、1〜40質量%であることが特に好ましい。
また、プライマは、レベリング剤、消泡剤、粘性調整剤等の添加剤をさらに含んでもよい。
プライマを塗布する方法としては、特に限定されないが、スプレーコート法、ディップコート法、フローコート法等が挙げられる。また、熱硬化条件は、特に限定されないが、50〜140℃で5分〜3時間であることが好ましい。
プライマ層は、プライマ層の膜厚が小さすぎると、樹脂基材とハードコート層との密着性を向上させる効果が不十分となることがあるため、樹脂基材とハードコート層とを十分に接着し、前記添加物の必要量を保持するのに必要な膜厚であればよい。このようなプライマ層の厚さとしては、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、2μm以上5μm以下であることが特に好ましい。
樹脂基材の材料である樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、ハロゲン化ビスフェノールAとエチレングリコールとの重縮合物、アクリルウレタン樹脂、ハロゲン化アリール基含有アクリル樹脂等が挙げられ、ポリカーボネート樹脂が好ましい。なお、樹脂基材は、これらの樹脂を2種以上含んでもよいし、これらの樹脂を用いて、2層以上積層された積層基材であってもよい。また、樹脂基材の形状は、特に限定されず、平板であってもよいし、湾曲していてもよい。さらに、樹脂基材の色調は無色透明又は着色透明であることが好ましい。
本発明のハードコート付き樹脂基材は、自動車や各種交通機関に取り付けられる車輌用の窓ガラス、家屋、ビル等の建物に取り付けられる建材用の窓ガラス、として使用できる。
次に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、例1、2、5、6は実施例であり、例3、4、7、8は比較例である。
[例1]
オルガノポリシロキサン(T0:T1:T2:T3=ND:2:54:44)、コロイダルシリカ、およびn−ブタノール系溶媒を用いて、不揮発分が25質量%、粘度が4.4mPa・sの熱硬化性ポリシロキサン組成物PSi−1を調製した。
なお、本例で用いたオルガノポリシロキサンは、メチルトリメトキシシランの加水分解縮合物、すなわちT体を主体とするオルガノポリシロキサンである。なお、オルガノポリシロキサンを構成するT体について、T0、T1、T2およびT3は、ケイ素原子が以下の結合構造を持つこと意味する。
T0:CH3−Si(OH)3
T1:CH3−Si(−OH)2(−O*−)
T2:CH3−Si(−OH)(−O*−)2
T3:CH3−Si(−O*−)3
なお、T0〜T3の比は、29Si−NMR(日本電子社製ECP400)を用いて、29Si−NMRのピーク面積比からそれぞれ求めた。測定条件はPTFE製10mmφ試料管使用、プローブ:T10、共鳴周波数79.42MHz、パルス幅10μsec、待ち時間20sec、積算時間1500回、緩和試薬:Cr(acac)3を0.1wt%、外部標準試料:テトラメチルシランである。また、各構造に由来する29Si−NMRの化学シフトは、以下のとおりである。
T0:−40〜−41ppm、
T1:−49〜−50ppm、
T2:−57〜−59ppm、
T3:−66〜−70ppm。
これらの結果から、得られたオルガノポリシロキサンは、モノマー状のT0:CH3−Si(OH)3はほぼ存在せず、原料のシラン化合物はオリゴマー状シリコーン化合物にほぼ完全に転換されていることが確認された。
不揮発分は、150℃で45分間加熱して測定した。
外径が4インチ、厚さが525±25μmのシリコンウエハのオリエンテーションフラットを基準とし、薄膜ストレス測定装置FLX−2320(KLA Tencor社製)内の所定位置に収容した後、周囲温度25℃で、シリコンウエハの曲率半径を計測した。次に、シリコンウエハを取り出し、スピンコート法を用いて、シリコンウエハ上にPSi−1を塗布した後、120℃で1時間加熱して硬化させ、シリコーン系硬化被膜を形成した。シリコンウエハ上に形成されたシリコーン系硬化被膜の膜厚を、干渉膜厚測定装置Solid Lambda Thickness(スペクトラ・コープ社製)を用いて、屈折率1.46の条件で測定したところ、2.5μmであった。
なお、硬化条件は、PSi−1を樹脂基材の表面に塗布して得られる塗膜について、赤外吸収スペクトル測定装置(Avatar/Nicolet FT−IR360、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)により全反射法を用いて波数910cm−1付近のシラノール基による吸収ピークの消失を確認することにより決定した。
次に、シリコーン系硬化被膜を形成する前と同様にして、周囲温度25℃で、シリコーン系硬化被膜が形成されたシリコンウエハの曲率半径を計測した。
(式中、E/(1−ν)は、シリコンウエハの二軸弾性係数(結晶面(100):1.805×1011Pa)であり、hは、シリコンウエハの厚さ[m]であり、tは、シリコーン系硬化被膜の厚さ[m]であり、Rは、シリコーン系硬化被膜を形成する前のシリコンウエハの曲率半径と硬化被膜を形成した後のシリコンウエハとの曲率半径の差[m]である。)から、シリコーン系硬化被膜の25℃における引張応力を算出したところ、24.8MPaであった。
次に、ディップコート法を用いて、厚さ3mmのポリカーボネートシートのカーボグラス(商品登録)ポリッシュ クリアー(商品名、旭硝子社製)上に、アクリル系プライマを塗布し、ポリカーボネートシートの両面に、プライマ層を形成した。次に、ディップコート法を用いて、プライマ層が形成されたポリカーボネートシート上に、PSi−1を塗布し、25℃で20分間放置した後、120℃で1時間加熱して硬化させ、ポリカーボネートシートの両面に、膜厚が4.7μmのシリコーン系硬化被膜を形成し、シリコーン系硬化被膜付きポリカーボネートシートを作製した。シリコーン系硬化被膜付きポリカーボネートシートは、シリコーン系硬化被膜にクラックは見られなかった。
次に、光源にメタルハライドランプを用いた促進耐候性試験機ダイプラ・メタルウェザー KU−R4(ダイプラ・ウインテス社製)を用いて、シリコーン系硬化被膜付きポリカーボネートシートに対して、光照射、結露、暗黒の3条件を連続で600時間負荷したところ、シリコーン系硬化被膜にクラックは見られなかった。なお、光照射とは、ブラックパネル温度63℃、相対湿度70%で、照度90mW/cm2の光を4時間照射するものであり、結露とは、光を照射せずに、相対湿度98%で、ブラックパネル温度を70℃から30℃に自然冷却させて4時間保持するものであり、暗黒とは、光を照射せずに、ブラックパネル温度70℃、相対湿度90%で4時間保持するものである。
また、JIS−K 5600 5.6に準拠し、碁盤目テープテストを実施したところ、100/100で密着性に問題はなかった。
[例2]
ポリシロキサン(T0:T1:T2:T3=ND:3:41:56)、コロイダルシリカ及びn−ブタノール系溶媒を用いて、不揮発分が25重量%、粘度が4.9mPa・sの熱硬化性ポリシロキサン組成物PSi−2を調製した。
PSi−1の代わりに、PSi−2を用いた以外は、例1と同様にして、シリコーン系硬化被膜の25℃における引張り応力及びシリコーン系硬化被膜付きポリカーボネートシートの耐候性を評価した(表1参照)。
[例3]
PSi−1の代わりに、トスガード510(モメンティブマテリアルズ社製)を用いた以外は、例1と同様にして、シリコーン系硬化被膜の25℃における引張り応力及びシリコーン系硬化被膜付きポリカーボネートシートの耐候性を評価した(表1参照)。このとき、シリコーン系硬化被膜のATRスペクトルに、波数910cm−1付近のシラノール基の吸収ピークが存在することを確認したため、シリコーン系硬化被膜は、一部未反応のシラノール基が残存していることが示唆された。
[例4]
PSi−1の代わりに、KP851(信越化学工業社製)を用いた以外は、例1と同様にして、シリコーン系硬化被膜の25℃における引張り応力及びシリコーン系硬化被膜付きポリカーボネートシートの耐候性を評価した(表1参照)。このとき、シリコーン系硬化被膜のATRスペクトルに、波数910cm−1付近のシラノール基の吸収ピークが存在することを確認したため、シリコーン系硬化被膜は、一部未反応のシラノール基が残存していることが示唆された。
[例5]
PSi−1の硬化条件を120℃で2時間に変更した以外は、例1と同様にして、シリコーン系硬化被膜の25℃における引張り応力及びシリコーン系硬化被膜付きポリカーボネートシートの耐候性を評価した(表1参照)。
[例6]
PSi−2の硬化条件を120℃で2時間に変更した以外は、例2と同様にして、シリコーン系硬化被膜の25℃における引張り応力及びシリコーン系硬化被膜付きポリカーボネートシートの耐候性を評価した(表1参照)。
[例7]
トスガード510の硬化条件を120℃で3時間に変更した以外は、例3と同様にして、シリコーン系硬化被膜の25℃における引張応力及びシリコーン系硬化被膜付きポリカーボネートシートの耐候性を評価した(表1参照)。このとき、シリコーン系硬化被膜のATRスペクトルから、波数910cm−1付近のシラノール基の吸収ピークが消失していることを確認した。
[例8]
KP851の硬化条件を120℃で3時間に変更した以外は、例4と同様にして、シリコーン系硬化被膜の25℃における引張応力及びシリコーン系硬化被膜付きポリカーボネートシートの耐候性を評価した(表1参照)。このとき、シリコーン系硬化被膜のATRスペクトルから、波数910cm−1付近のシラノール基の吸収ピークが消失していることを確認した。
なお、表中、外観における○は、クラックが見られないこと、×は、クラックが見られることを意味する。また、例7、8については、初期の外観が×であったため、それ以降の評価を実施しなかった。
表1より、シリコーン系硬化被膜の25℃における引張応力が35MPa以下である例1、2、5、6のシリコーン系ハードコート付き樹脂基材は、例3、4、7、8のシリコーン系ハードコート付き樹脂基材よりも耐候性が優れることがわかる。