JPWO2011142039A1 - サスペンション装置 - Google Patents

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Abstract

サスペンション装置1は、モータ40とボールネジ機構35とを有する電気式ショックアブソーバ30と、電気回路101と、反転増幅回路120と、慣性補償キャパシタCpとを備える。電気回路101は、モータ40に設けられる2つの通電端子間を電気的に接続する。反転増幅回路120は電気回路101に接続される。反転増幅回路120の出力端子Oに慣性補償キャパシタCpが接続される。モータ40および電気回路101には、バネ上部材とバネ下部材との接近動作および離間動作に伴い、発電電流が流れるとともに、ボールネジ軸36やモータ40のロータなどの回転体の慣性力を表す慣性相当電流Imも流れる。慣性補償キャパシタCpには慣性相当電流Imと逆相の電流Ipが流れる。この逆相の電流Ipにより、慣性相当電流Imが打ち消される。

Description

本発明は、車両のサスペンション装置に関する。本発明は特に、モータにより発生されるモータトルクによって減衰力を発生するショックアブソーバを有するサスペンション装置に関する。
車両のサスペンション装置は一般的に、車両のバネ上部材とバネ下部材との間に介装されたショックアブソーバおよびバネ部材を備える。バネ部材は弾性力を、ショックアブソーバは減衰力を、発生する。減衰力により、バネ上部材(車体側の部材)とバネ下部材(車輪側の部材)との接近動作および離間動作により生じるバネ上部材とバネ下部材との間の振動が減衰される。
モータを用いたショックアブソーバが知られている。このショックアブソーバのモータは、バネ上部材とバネ下部材とのいずれか一方に連結されるステータと、ステータに対して回転するロータを備える。このショックアブソーバは、バネ上部材とバネ下部材との接近動作および離間動作を回転動作に変換し、変換した回転動作をロータに伝達する動作変換機構を有していてもよい。
このショックアブソーバによれば、バネ上部材とバネ下部材が接近および離間したときに、例えば上記動作変換機構を介してモータのロータがステータに対して回転させられる。ロータの回転により誘導起電力(逆起電力)が発生する。誘導起電力の発生により誘導電流(発電電流)がモータに流れる。モータに発電電流が流れることにより、ロータの回転方向とは逆の方向に作用するモータトルクが発生する。斯かるモータトルクが減衰力として利用される。
特開2009−257486号公報は、互いに接近および離間する方向に振動する主振動系と、主振動系に付加される付加振動系を備える振動システムを開示する。付加振動系は、モータおよびボールネジ機構(動作変換機構)よりなる。またモータに発電電流を流すためのRLC直列回路が、モータに接続される。RLC直列回路により、この振動システムにおける慣性力、粘性力および弾性力が表現される。
図19は、車両の走行路面から車両に入力された振動のバネ上部材への伝達特性(バネ上振動伝達特性)を表すゲイン線図である。また、図20は、図19のP部拡大図である。これらの図において、線Aは、モータを有するショックアブソーバ(以下、このようなショックアブソーバを電気式ショックアブソーバと呼ぶ)を用いた場合における、バネ上振動伝達特性のゲイン線図である。線Bは、従来から使用されている流体粘性を利用したショックアブソーバ(以下、このようなショックアブソーバをコンベンショナルショックアブソーバと呼ぶ)を用いた場合における、バネ上振動伝達特性のゲイン線図である。
これらの図によれば、バネ上共振周波数付近(1Hz付近)のバネ上振動伝達特性は、電気式ショックアブソーバを用いた場合(線A)とコンベンショナルショックアブソーバを用いた場合(線B)とで、ほぼ同じ特性である。一方、バネ下共振周波数付近(10Hz付近)のバネ上振動伝達特性は、電気式ショックアブソーバを用いた場合(線A)とコンベンショナルショックアブソーバを用いた場合(線B)とで、異なる特性である。バネ下共振周波数付近では、電気式ショックアブソーバを用いた場合におけるバネ上部材への振動伝達率(ゲイン)が、コンベンショナルショックアブソーバを用いた場合におけるバネ上部材への振動伝達率(ゲイン)より大きい。バネ上部材への振動伝達率が大きいと、路面からの入力振動がバネ上部材により多く伝達される。このことは、電気式ショックアブソーバを使用した場合にバネ下共振周波数帯域の減衰力特性が悪化して車両の乗り心地が悪くなることを表す。
バネ上部材と、バネ下部材と、両部材との間に設けられたコンベンショナルショックアブソーバおよびバネ部材と、により構成される振動系の運動方程式は、下記(1)式および(2)式のように記述される。
Figure 2011142039
(1)式および(2)式において、Mはバネ上部材の質量、Kはバネ部材のバネ定数、Cは減衰係数、Kはタイヤの弾性定数、Zはバネ上部材の上下変位量、Z′はバネ上部材の上下速度、Z″はバネ上部材の上下加速度、Zはバネ下部材の上下変位量、Z′はバネ下部材の上下速度、Z″はバネ下部材の上下加速度、Zは路面の上下変位量である。
一方、バネ上部材と、バネ下部材と、両部材との間に設けられた電気式ショックアブソーバおよびバネ部材と、により構成される振動系の運動方程式は、下記(3)式および(4)式のように記述される。
Figure 2011142039
(3)式および(4)式において、Jは、電気式ショックアブソーバに含まれ、バネ上部材とバネ下部材との間の接近動作および離間動作に伴い回転する回転体(例えばモータのロータ)の慣性モーメントである。[2π/N]は、電気式ショックアブソーバの伸縮量と、上記回転体の回転量(回転角度)との比率(減速比)であり、例えば電気式ショックアブソーバが動作変換機構としてボールネジ機構を有する場合、Nがボールネジ軸のリードに相当する。(3)式および(4)式の右辺第1項は、回転体の慣性力を表す。
(1)式と(3)式、(2)式と(4)式とを比較してわかるように、両振動系の運動方程式で異なる部分は、回転体の慣性項の有無である。すなわち、電気式ショックアブソーバを用いた場合、回転体の慣性力が減衰力に影響を及ぼす結果、図19および図20に示されるようにバネ下共振周波数付近での振動伝達特性が悪化するのである。回転体の質量は、バネ下部材の質量に近いため、バネ下共振周波数付近の振動に対する影響が大きく、それ故、バネ下共振周波数付近での振動伝達特性を特に悪化させるものと考えられる。
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、その目的は、電気式ショックアブソーバが使用されるサスペンション装置において、バネ下共振周波数付近でのバネ上振動伝達特性が改善されたサスペンション装置を提供することにある。
本発明のサスペンション装置は、車両のバネ上部材とバネ下部材とのいずれか一方に連結されたステータおよび前記ステータに対して回転するロータを有するモータを備え、前記バネ上部材と前記バネ下部材との接近動作および離間動作により前記ロータが回転させられることにより発生する誘導起電力によって前記モータに誘導電流が流れることにより、減衰力を発生するショックアブソーバと、前記モータに設けられる2つの通電端子間を電気的に接続した電気回路と、前記モータに流れる電流であり、少なくとも前記ロータを含み前記バネ上部材と前記バネ下部材との接近動作および離間動作に伴い回転する回転体の慣性力を表す慣性相当電流が低減するように、前記電気回路の電気的特性を調整する電気特性調整手段と、を備える。
本発明のサスペンション装置によれば、バネ上部材とバネ下部材とが接近・離間した場合、これらの接近動作および離間動作によりロータはステータに対して回転させられる。ロータがステータに対して回転した場合、電磁誘導により誘導起電力(逆起電力)が発生する。この誘導起電力によって誘導電流(発電電流)がモータ内(モータのコイル内)に流れる。この発電電流は、モータに設けられる2つの通電端子間を電気的に接続する電気回路に流れる。発電電流がモータおよび電気回路に流れることにより、ロータの回転方向とは反対の方向に働くモータトルクが発生する。このモータトルクが、バネ上部材とバネ下部材の接近動作および離間動作により生じるバネ上部材とバネ下部材との間の振動に対する減衰力として作用する。減衰力により振動が減衰される。
また、本発明のショックアブソーバは、モータのロータのように、バネ上部材とバネ下部材との接近動作および離間動作により回転する回転体を有する。モータおよび電気回路には、減衰力の発生に寄与する誘導電流(発電電流)の他、上記回転体の慣性力を電気的に表す電流(慣性相当電流)も流れる。慣性相当電流の位相は誘導電流(発電電流)の位相と異なる。したがって、慣性相当電流により表される慣性力が減衰力に悪影響を及ぼし、その結果、バネ下共振周波数付近の振動に対するバネ上振動伝達特性の悪化をもたらす。
この点に関し、本発明の電気特性調整手段は、慣性相当電流が低減するように、電気回路の電気的特性を調整する。このため、慣性相当電流が低減され、あるいは打ち消される。慣性相当電流が低減され、あるいは打ち消されることにより、減衰力に及ぼす慣性力の影響が低減あるいは除去される。よって、バネ下共振周波数付近におけるバネ上振動伝達特性が改善される。
前記慣性相当電流は、前記電気回路に仮想的に並列接続され、前記回転体の慣性(慣性モーメント)に相当する静電容量を持つ慣性相当キャパシタに流れる電流により表される。したがって、電気特性調整手段によって慣性相当キャパシタに流れる電流を低減することにより、バネ下共振周波数付近におけるバネ上振動伝達特性が改善される。
前記電気特性調整手段は、前記モータに設けられる通電端子のうち一方の通電端子に接続される非反転入力端子と、他方の通電端子に接続される反転入力端子と、出力端子とを有する演算増幅器と、入力抵抗と、帰還抵抗と、を備えた反転増幅回路と、前記出力端子に接続された慣性補償キャパシタと、を備えるものであるのがよい。
反転増幅回路は、入力信号に対して出力信号の位相が180°変化する増幅回路である。この反転増幅回路の非反転入力端子をモータの一方の通電端子に、反転入力端子をモータの他方の通電端子に電気的に接続した場合、反転増幅回路の入力端子間には、モータにて発生した誘導起電力(逆起電力)が印加される。よって、出力端子側に誘導起電力と逆相の電圧が印加される。
また、反転増幅回路の出力端子には、慣性補償キャパシタが接続されている。このため、出力端子側に印加された電圧(誘導起電力と逆相の電圧)により、慣性補償キャパシタには慣性相当電流と逆相の電流が流れる。つまり、慣性補償キャパシタに流れる電流は、電気回路に仮想的に並列接続された慣性相当キャパシタに流れる電流の逆相電流である。慣性補償キャパシタに慣性相当電流とは逆相の電流が流れることにより、慣性相当電流が低減される。慣性相当電流が低減されることによって、減衰力に及ぼす慣性力の影響が低減される。よって、バネ下共振周波数付近におけるバネ上振動伝達特性が改善される。
前記反転増幅回路の増幅率および慣性補償キャパシタの静電容量は、前記慣性補償キャパシタに流れる電流によって慣性相当電流を低減することができるように、決められているとよい。好ましくは、前記慣性補償キャパシタに流れる電流の大きさが、前記慣性相当電流の大きさとほぼ等しくなるように、前記反転増幅回路の増幅率および慣性補償キャパシタの静電容量が決められているとよい。
より好ましくは、前記反転増幅回路の増幅率は1に設定され、前記慣性補償キャパシタは、前記回転体の慣性に相当する静電容量を持つものとすることである。具体的には、慣性補償キャパシタの静電容量は、回転体の慣性モーメントJをモータのトルク定数Kの自乗で割った値(J/K )に設定するとよい。このように増幅率および静電容量を決めることにより、慣性補償キャパシタには、慣性相当電流と大きさが等しく、逆相の電流が流れる。慣性補償キャパシタに慣性相当電流と大きさが等しく、逆相の電流が流れることにより、慣性相当電流が打ち消される。慣性相当電流が打ち消されることによって、減衰力に及ぼす慣性力の影響が除去される。よって、バネ下共振周波数付近におけるバネ上振動伝達特性が改善される。また、慣性相当電流と逆相の電流が反転増幅回路により自動的に作り出されるので、慣性の影響を除去するためにマイクロコンピュータなどによる演算処理を必要としない。このため、マイクロコンピュータによる制御を必要としない電気式ショックアブソーバに本発明を適用することにより、安価で性能の良い電気式ショックアブソーバを備えるサスペンション装置を提供することができる。
前記慣性補償キャパシタに流れる電流は、前記電気回路に供給されるように構成されているとよい。また、前記慣性補償キャパシタが、前記出力端子と、前記非反転入力端子あるいは前記モータの一方の通電端子との間に実質的に接続されるように、構成されているとよい。後述の実施形態で示すように、前記慣性補償キャパシタに接続された接続路と、前記反転増幅回路の非反転入力端子と前記電気回路とを接続する接続路が同電位であるとよい。
また、本発明の他のサスペンション装置の特徴は、前記電気特性調整手段が、前記電気回路と、この電気回路に仮想的に並列接続され前記回転体の慣性に相当する静電容量を持つ慣性相当キャパシタと、によって構成される並列共振回路の反共振周波数が、バネ下共振周波数またはバネ下共振周波数に近い周波数として予め定められた周波数と一致するように、前記電気回路の電気的特性を調整することである。
上述したように、回転体の慣性力は、電気回路に並列接続され回転体の慣性に相当する静電容量を持つ慣性相当キャパシタに流れる慣性相当電流により電気的に表される。したがって、電気回路とこの電気回路に仮想的に並列接続された慣性相当キャパシタとにより、並列共振回路が構成され得る。本発明では、この並列共振回路の反共振周波数がバネ下共振周波数またはバネ下共振周波数に近い周波数として予め定められた周波数に一致するように、電気回路の電気的特性が調整される。反共振周波数がバネ下共振周波数である場合、バネ下共振周波数帯域の振動に対する電気回路のインピーダンスが増大する。電気回路のインピーダンスが増大すると、モータおよび電気回路に流れる、慣性相当電流や減衰力の発生に寄与する誘導電流(発電電流)が低減される。このため、バネ下共振周波数帯域の振動に対する減衰力が低減される。バネ下共振周波数帯域の振動に対する減衰力を小さくすることにより、路面からの入力振動が、バネ下部材のみのばたつきにより吸収される。このためバネ上部材への振動の伝達が抑えられる。よって、バネ下共振周波数付近におけるバネ上振動伝達特性が改善される。
また、前記電気回路には、抵抗値が可変な外部抵抗器が接続され、前記電気特性調整手段は、前記ショックアブソーバにより発生される減衰力の目標値である目標減衰力を演算する目標減衰力演算手段と、前記目標減衰力に基づいて、前記ショックアブソーバが前記目標減衰力を発生するために前記電気回路が持つべき外部抵抗値である必要抵抗値を演算する必要抵抗値演算手段と、前記外部抵抗器の抵抗値によって、前記必要抵抗値と、前記反共振周波数がバネ下共振周波数またはバネ下共振周波数に近い周波数として予め定められた周波数と一致するために前記電気回路が持つべき外部インダクタンスとして予め求められている必要インダクタンスと、の合成インピーダンスが表されるように、前記外部抵抗器の抵抗値を補正する抵抗値補正手段と、を備えるのがよい。
ショックアブソーバにより発生される減衰力の大きさは、電気回路に接続される抵抗の大きさに依存する。本発明では、例えばスカイフック理論などによって減衰力の目標値である目標減衰力が求められ、ショックアブソーバが目標減衰力を発生するために電気回路が持つべき外部抵抗値(必要抵抗値)が、目標減衰力に基づいて求められる。また、電気回路と慣性相当キャパシタとにより構成される並列共振回路の反共振周波数が、バネ下共振周波数またはバネ下共振周波数に近い周波数として予め定められた周波数と一致するために電気回路が持つべき外部インダクタンス(必要インダクタンス)が予め求められている。
そして、電気回路に接続された外部抵抗器の抵抗値によって必要抵抗値と必要インダクタンスとの合成インピーダンスが表されるように、外部抵抗器の抵抗値が補正(可変制御)される。このため、必要インダクタンスを得るためのコイル(インダクタ)を電気回路に接続することを要さない。
このように外部抵抗器の抵抗値が補正された場合、例えばバネ上共振周波数付近の振動に対してショックアブソーバが目標減衰力を発生することにより、速やかに振動が減衰される。また、バネ下共振周波数付近の振動に対しては、反共振により電気回路のインピーダンスが増大することにより、減衰力が低減される。減衰力が低減されることにより、路面からの入力振動は、バネ下部材のみのばたつきにより吸収される。このためバネ上部材への振動の伝達が抑えられる。よって、バネ下共振周波数付近におけるバネ上振動伝達特性が改善される。
本明細書において、「抵抗値が可変な外部抵抗器」は、そこを流れる電流が変化し得るように構成されているものであれば、どのようなものでも良い。この外部抵抗器には、抵抗値自体を変化させる可変抵抗器のみならず、固定抵抗器とスイッチング素子とにより構成され、スイッチング素子の開閉制御(例えばデューティー制御)により、固定抵抗器を流れる電流を変化させるようなものも含まれるものとする。
また、本発明の他のサスペンション装置の特徴は、前記電気特性調整手段が、前記誘導起電力と前記回転体の慣性に相当する静電容量とに基づいて、前記慣性相当電流を演算する慣性相当電流演算手段と、前記演算された前記慣性相当電流と逆相の電流である慣性補償電流を、前記電気回路に供給する慣性補償電流供給手段と、を備えることである。
慣性補償電流供給手段によって、電気回路に、慣性相当電流とは逆相の電流である慣性補償電流が供給される。電気回路に慣性補償電流が流れることにより、慣性相当電流が低減され、あるいは打ち消される。慣性相当電流が低減され、あるいは打ち消されることによって、減衰力に及ぼす慣性力の影響が除去される。よって、バネ下共振周波数付近の振動に対するバネ上振動伝達特性が改善される。
また、本発明の他のサスペンション装置は、第1のインピーダンスを持つ第1素子と、第2のインピーダンスを持つ第2素子と、前記第1素子と前記電気回路との接続と、前記第2素子と前記電気回路との接続とを、選択的に切り替える接続状態切り替え装置と、を備える。前記第1のインピーダンスは、前記第1素子が前記電気回路に接続されたときに発生する減衰力によって、前記バネ上部材の振動が抑制されるように、予め設定されたインピーダンスである。前記第2のインピーダンスは、前記第2素子が前記電気回路に接続されたときに、前記電気回路のインピーダンスが前記回転体の慣性に相当する静電容量により表されるインピーダンスよりも小さくなるように、予め設定されたインピーダンスである。そして、前記電気特性調整手段は、前記慣性相当電流が、前記第1素子が前記電気回路に接続されたときに前記電気回路に流れる前記誘導電流である正規電流よりも小さいときには、前記第1素子と前記電気回路とが接続され、前記慣性相当電流が前記正規電流よりも大きいときには、前記第2素子と前記電気回路とが接続されるように、前記接続状態切り替え装置の作動を制御する。
慣性相当電流が、第1素子が電気回路に接続されたときに電気回路に流れる誘導電流(発電電流)である正規電流よりも小さい場合は、回転体の慣性力が減衰力に及ぼす影響が小さいので、慣性力の影響を除去する必要性に乏しい。このような場合は、第1インピーダンスを持つ第1素子が電気回路に接続される。これにより、バネ上部材の振動が効果的に抑制される。一方、慣性相当電流が正規電流よりも大きい場合は、回転体の慣性力が減衰力に及ぼす影響が大きい。また、慣性相当電流が正規電流よりも大きい場合は、バネ下共振周波数付近の振動がショックアブソーバに入力されている可能性が高い。これらのことから、慣性相当電流が正規電流よりも大きい場合、バネ下共振周波数帯域の振動に対するバネ上振動伝達特性が悪化する。このような場合、本発明によれば、第2インピーダンスを持つ第2素子が電気回路に接続される。第2素子のインピーダンスは、第2素子が電気回路に接続されたときに、電気回路のインピーダンスが回転体の慣性に相当する静電容量により表されるインピーダンス、すなわち慣性相当キャパシタのインピーダンスよりも小さくなるように、予め設定されている。よって、第2素子側に誘導電流が多く流れることにより、慣性相当電流の大きさが相対的に低下する。慣性相当電流の大きさが相対的に低下することにより、減衰力に及ぼす慣性力の影響が低減される。よって、バネ下共振周波数付近の振動に対するバネ上振動伝達率が改善される。
なお、上記電気回路のインピーダンスとは、電気回路に外部から接続された素子のインピーダンスのみならず、モータインダクタンスやモータの内部抵抗などのモータ内部のインピーダンスをも含めた全体のインピーダンスを表す。
前記第2のインピーダンスは、前記第2素子が前記電気回路に接続されたときに、前記電気回路とこの電気回路に仮想的に並列接続され前記回転体の慣性に相当する静電容量を持つ慣性相当キャパシタとによって構成される並列共振回路の反共振周波数が、バネ下共振周波数またはバネ下共振周波数に近い周波数として予め定められた周波数と一致するために必要なインピーダンスであってもよい。これによれば、第2素子が電気回路に接続された場合に、電気回路と慣性相当キャパシタとにより構成される並列共振回路の反共振周波数が、バネ下共振周波数あるいはバネ下共振周波数に近い周波数に一致する。反共振周波数がバネ下共振周波数である場合、バネ下共振周波数帯域の振動に対する電気回路のインピーダンスが増大する。電気回路のインピーダンスが増大すると、モータおよび電気回路に流れる、慣性相当電流や減衰力に寄与する誘導電流(発電電流)が低減される。このため、バネ下共振周波数帯域の振動に対する減衰力が低減される。このようにバネ下共振周波数帯域の振動に対する減衰力を小さくすることにより、路面からの入力振動は、バネ下部材のみのばたつきにより吸収される。このためバネ上部材への振動の伝達が抑えられる。よって、バネ下共振周波数付近におけるバネ上振動伝達特性が改善される。
また、本発明の他のサスペンション装置は、前記電気回路に接続される外部抵抗器と、前記電気回路を開閉するように作動可能なスイッチと、前記スイッチをデューティー制御するデューティー制御手段と、を備える。そして、前記電気特性調整手段は、前記慣性相当電流が前記誘導電流よりも小さいときには、前記スイッチのデューティー比を100%に設定し、前記慣性相当電流が前記誘導電流よりも大きいときには、前記ショックアブソーバにより発生される減衰力が所定の減衰力以下となるように、前記スイッチのデューティー比を予め設定されたデューティー比に設定する。
慣性相当電流が、減衰力の発生に寄与する誘導電流(発電電流)よりも小さいときに、スイッチのデューティー比を100%に設定することにより、所望の減衰力を発生させることができる。一方、慣性相当電流が誘導電流よりも大きいときには、ショックアブソーバにより発生される減衰力が所定の低い減衰力以下となるように、スイッチのデューティー比が予め設定した低い値(例えば50%)に設定される。慣性相当電流が誘導電流よりも大きい場合は、バネ下共振周波数付近の振動がショックアブソーバに入力されている可能性が高い。つまり、本発明では、バネ下共振周波数付近の振動が入力されているときに、スイッチのデューティー比を下げる。これによりモータおよび電気回路に流れる電流が低減される。その結果、減衰力が低減される。減衰力が低減されることにより、バネ下共振周波数付近の振動に対して、バネ下部材のみがばたつき、バネ上部材への振動の伝達が抑えられる。よって、バネ下共振周波数付近におけるバネ上振動伝達特性が改善される。
図1は、本発明の各実施形態に共通する車両のサスペンション装置1の全体概略図である。
図2は、サスペンション本体の一例を示す概略図である。
図3は、モータの内部構造の一例を示す概略図である。
図4は、第1実施形態に係る電気回路の回路図である。
図5は、第1実施形態において、サスペンションECUが実行する減衰力制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図6は、第1実施形態の変形例を示す電気回路の回路図である。
図7は、第2実施形態に係る電気回路の回路図である。
図8は、第2実施形態において、サスペンションECUが実行する減衰力制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図9は、第3実施形態に係る電気回路の回路図である。
図10は、慣性補償電流供給装置の一例を示す図である。
図11は、第3実施形態において、サスペンションECUが実行する慣性補償電流制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図12は、第3実施形態に示した方法により制御される電気式ショックアブソーバを有するサスペンション装置のバネ上振動伝達特性と、コンベンショナルショックアブソーバを有するサスペンション装置のバネ上振動伝達特性とを比較した図である。
図13は、第4実施形態に係る電気回路を示す回路図である。
図14は、第4実施形態において、サスペンションECUが実行するスイッチ制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図15は、慣性相当キャパシタCmのインピーダンスの周波数特性と、第4実施形態に係る第1素子が接続された電気回路のインピーダンスの周波数特性とを比較した図である。
図16は、第5実施形態に係る電気回路を示す回路図である。
図17は、第6実施形態に係る電気回路を示す回路図である。
図18は、第6実施形態において、サスペンションECUが実行するデューティー制御ルーチンの一例を示すプログラムである。
図19は、車両の走行路面から入力された振動のバネ上部材への伝達特性を表すゲイン線図である。
図20は、図18のP部拡大図である。
以下、本発明の実施形態について、説明する。
図1は、本発明の各実施形態に共通する車両のサスペンション装置1の全体概略図である。サスペンション装置1は、4組のサスペンション本体10FL,10FR,10RL,10RRと、サスペンションECU50とを備える。4組のサスペンション本体10FL,10FR,10RL,10RRは、各車輪WFL,WFR,WRL,WRRと車体Bとの間にそれぞれ設けられる。以下、4組のサスペンション本体10FL,10FR,10RL,10RRおよび車輪WFL,WFR,WRL,WRRについて、特に前後左右を区別する場合を除いて、単にサスペンション本体10および車輪Wと総称する。
図2は、サスペンション本体10の一例を示す概略図である。サスペンション本体10は、並列的に配置されたコイルスプリング20および電気式ショックアブソーバ30を備える。コイルスプリング20は、車輪Wに連結されるロアアームLAと車体Bとの間に設けられる。コイルスプリング20の上部側、つまり車体B側の部材を「バネ上部材」と呼び、コイルスプリング20の下部側、つまり車輪W側の部材を「バネ下部材」と呼ぶ。
電気式ショックアブソーバ30は、アウタシリンダ31およびインナシリンダ32と、ボールネジ機構35(動作変換機構)と、モータ40とを備える。
図2に示すように、アウタシリンダ31は有底円筒状に形成され、下方の底面部分でロアアームLA(バネ下部材側)に接続される。インナシリンダ32はアウタシリンダ31の内周側に同軸的に配置される。インナシリンダ32は、アウタシリンダ31の軸方向に移動可能となるように、アウタシリンダ31の内周側に取り付けられた軸受33,34により支持される。
ボールネジ機構35はインナシリンダ32の内側に設けられる。ボールネジ機構35はボールネジ軸36およびボールネジナット39を備える。ボールネジ軸36はインナシリンダ32内に同軸的に配置される。ボールネジナット39は雌ネジ部分38を有し、ボールネジ軸36に形成された雄ネジ部分37に螺合する。ボールネジナット39の下端は、アウタシリンダ31の底面から立設されたナット支持筒31aに固着される。このような連結構造からわかるように、ボールネジ機構35およびアウタシリンダ31は、バネ下部材側(ロアアームLA側)に連結される。また、ボールネジナット39は、図示しない回り止めによりその回転運動が規制される。したがって、ボールネジナット39は、バネ上部材とバネ下部材との間の接近動作および離間動作により、ボールネジ軸36の軸方向に沿って直線運動する。この直線運動がボールネジ軸36の回転運動に変換される。逆に、ボールネジ軸36が回転運動した場合、その回転運動がボールネジナット39の直線運動に変換される。
インナシリンダ32の上端が取付プレート41に固定される。取付プレート41は、モータ40のロータやステータを収容するモータケーシング404の下部に固定される。また取付プレート41の中央には貫通孔43が形成され、貫通孔43にボールネジ軸36が挿通される。ボールネジ軸36は、モータケーシング404内でモータ40のロータに連結されるとともに、インナシリンダ32内に配設された軸受44により回転可能に支持される。
図3はモータ40の内部構造の一例を示す概略図である。モータ40は中空円筒状のモータ軸401を有する。モータ軸401の外周面に、その周方向に沿って複数の極体(コアにコイルが巻回されたもの)402が固定される。モータ軸401および極体402がモータ40のロータを構成する。複数の極体402に対向するように、N極、S極の磁極を持つ1組の永久磁石403が、モータケーシング404の内面に固定される。永久磁石403とモータケーシング404がモータ40のステータを構成する。また、モータ40は、モータ軸401に固定された複数の整流子405と、その複数の整流子405と摺接するようにモータケーシング404に固定されたブラシ406とを有するブラシ付きDCモータである。
モータ軸401の内周側にボールネジ軸36の上部が挿通される。そして、モータ軸401とボールネジ軸36が一体回転するように、ボールネジ軸36の上端部分とモータ軸401の上端部分が接合される。また、モータケーシング404内には、回転角センサ63が取り付けられる。この回転角センサ63は、モータ軸401の回転角度(すなわちロータの回転角度)を検出する。
図2に示すように、取付ブラケット46がモータケーシング404に連結される。取付ブラケット46の上面に、車体Bに連結された弾性材料からなるアッパーサポート26が取り付けられる。このような連結構造からわかるように、モータ40のステータ(モータケーシング404および永久磁石403)およびインナシリンダ32は、アッパーサポート26を介してバネ上部材側に連結される。コイルスプリング20は、アウタシリンダ31の外周面に設けられた環状のリテーナ45と取付ブラケット46との間に介装される。
上記構成のサスペンション本体10において、車輪W(バネ下部材)と車体B(バネ上部材)とが接近または離間したとき、インナシリンダ32に対してアウタシリンダ31が軸方向に移動する。アウタシリンダ31の軸方向相対移動によりコイルスプリング20および電気式ショックアブソーバ30が伸縮する。コイルスプリング20の伸縮により、路面からバネ上部材が受ける衝撃が吸収される。また、電気式ショックアブソーバ30の伸縮に伴い、ボールネジナット39がボールネジ軸36の軸方向に沿って移動する。ボールネジナット39の軸方向相対移動によりボールネジ軸36が回転する。ボールネジ軸36の回転動作がモータ軸401に伝達されることにより、モータ40のロータ(モータ軸401および極体402)がステータ(永久磁石403およびモータケーシング404)に対して回転させられる。
モータ40(ロータ)が回転させられた場合、ロータを構成する極体402がステータを構成する永久磁石403から発生する磁束を横切ることによって、誘導起電力(逆起電力)が発生する。誘導起電力の発生により誘導電流(発電電流)がモータ40の極体(コイル)402に流れる。この発電電流により、モータ40は、ロータの回転方向とは逆方向、つまりロータの回転を停止する方向に作用するモータトルクを発生する。斯かるモータトルクが、バネ上部材とバネ下部材との接近動作および離間動作により生じるバネ上部材とバネ下部材との間の振動に対する減衰力として、バネ上部材およびバネ下部材に作用する。この減衰力によって振動が減衰される。
また、図1に示すように、サスペンションECU50が車体B側に搭載されている。このサスペンションECU50により、各電気式ショックアブソーバ30により発生される減衰力の制御や、バネ上振動伝達特性を改善するために必要な制御が行われる。なお、これらの制御を必要としない場合は、サスペンションECU50を設けなくても良い。
サスペンションECU50には、各バネ上加速度センサ61、各ストロークセンサ62および各回転角センサ63が接続される。バネ上加速度センサ61は、バネ上部材のうち各サスペンション本体10FL,10FR,10RL,10RRが取り付けられている部分の近傍位置(各輪位置)に配置されている。そして、各輪位置におけるバネ上部材の上下加速度(バネ上加速度)Gを検出する。ストロークセンサ62は、各電気式ショックアブソーバ30の付近に配置され、各電気式ショックアブソーバ30の基準位置からの伸縮量(ストローク変位量)Xを検出する。
また、本実施形態のサスペンション装置1は、各電気式ショックアブソーバ30の各モータ40に電気的に接続された電気回路100を有する。
a.第1実施形態
図4は、本発明の第1実施形態に係る電気回路101の回路図である。この電気回路101は、モータ40の2つの通電端子間(第1通電端子t1と第2通電端子t2との間)を電気的に外部接続する。また、電気回路101には、バネ上部材とバネ下部材との間の振動によりモータ40のロータがボールネジ機構35を介して回されたときに、モータ40で発生した誘導起電力(逆起電力)により、誘導電流(発電電流)が流れる。図中において、Rはモータ40の内部抵抗、Lはモータインダクタンスを表す。説明の便宜上、内部抵抗RとモータインダクタンスLをモータ40の外部に表記した。
電気回路101は、モータ40の第1通電端子t1に電気的に接続された第1接続路H1と、モータ40の第2通電端子t2に電気的に接続された第2接続路H2とを備える。また、第1接続路H1上のa点と第2接続路H2上のb点が第3接続路H3により接続され、第1接続路H1上のc点と第2接続路H2上のd点が第4接続路H4により接続される。さらに、第3接続路H3上のe点と第4接続路H4上のf点が第5接続路H5により接続される。
第3接続路H3上に第1ダイオードD1と第2ダイオードD2が設けられる。第1ダイオードD1はb点とe点との間に設けられ、第2ダイオードはa点とe点との間に設けられる。第1ダイオードD1は、e点からb点に向かう電流の流れを許容し、b点からe点に向かう電流の流れを阻止する。第2ダイオードD2は、e点からa点に向かう電流の流れを許容し、a点からe点に向かう電流の流れを阻止する。
第4接続路H4には、c点側からd点側に向かって、第1スイッチング素子SW1,第1抵抗器R1,第2抵抗器R2,第2スイッチング素子SW2がこの順に設けられる。第1抵抗器R1は、抵抗値R1を持つ固定抵抗器、第2抵抗器R2は、抵抗値R2を持つ固定抵抗器である。第1スイッチング素子SW1および第2スイッチング素子SW2は、電気回路101を開閉するスイッチである。この第1スイッチング素子SW1および第2スイッチング素子SW2は、本実施形態ではMOS−FETが使用されるが、他のスイッチング素子でもよい。
第1スイッチング素子SW1および第2スイッチング素子SW2のゲートはサスペンションECU50に接続される。そして、サスペンションECU50からのPWM(Pulse Width Modulation)制御信号により設定されるデューティー比にしたがってオンオフ作動するように構成される。なお、本明細書におけるデューティー比とは、オンデューティー比、つまり、パルス信号のオン時間とオフ時間とを足し合わせた時間に対するパルス信号のオン時間の比を表す。第1スイッチング素子SW1のデューティー制御により、第4接続路H4のうち、c点からf点までの間を流れる電流の大きさが制御される。また、第2スイッチング素子SW2のデューティー制御により、第4接続路H4のうち、d点からf点までの間を流れる電流の大きさが制御される。
第4接続路H4上の第1スイッチング素子SW1と第1抵抗器R1との間のg点に、第6接続路H6が接続される。また、第4接続路H4上の第2スイッチング素子SW2と第2抵抗器R2との間のh点に、第7接続路H7が接続される。第6接続路H6と第7接続路H7はi点で合流する。第6接続路H6には、g点からi点に向かう電流の流れを許容し、i点からg点に向かう電流の流れを阻止する第3ダイオードD3が設けられる。第7接続路H7には、h点からi点に向かう電流の流れを許容し、i点からh点に向かう電流の流れを阻止する第4ダイオードD4が設けられる。
また、i点には第8接続路H8が接続される。この第8接続路H8に、車載バッテリなどの蓄電装置110の正極jが接続される。また、f点には第9接続路H9が接続される。第9接続路H9は接地ラインである。第9接続路に、蓄電装置110の負極kが接続される。なお、蓄電装置110には、車両内に設けられた各種の電気負荷が接続される。
電気回路101にどのように発電電流が流れるかについて説明する。バネ上部材とバネ下部材との接近動作および離間動作により電気式ショックアブソーバ30が伸縮するとともにモータ40のロータがステータに対して回転させられた場合、誘導起電力(逆起電力)が発生する。この場合、誘導起電力の向きは、電気式ショックアブソーバ30が伸長されたか圧縮されたかにより異なる。例えば、バネ上部材とバネ下部材とが接近して電気式ショックアブソーバ30が圧縮されるとともに、モータ40のロータが一方向に回転した場合、モータ40の第1通電端子t1が高電位となり第2通電端子t2が低電位となる。逆に、バネ上部材とバネ下部材とが離間して電気式ショックアブソーバ30が伸長されるとともに、モータ40のロータが他方向に回転した場合、モータ40の第2通電端子t2が高電位となり第1通電端子t1が低電位となる。
したがって、電気式ショックアブソーバ30が圧縮される場合、発電電流は、モータ40の第1通電端子t1から、電気回路101中のc点、f点、e点、b点をこの順に経由して、モータ40の第2通電端子t2へと流れる。つまり、c点、f点、e点、b点をつなぐ第1通電経路cfebに発電電流が流れる。また、電気式ショックアブソーバ30が伸長される場合、発電電流は、モータ40の第2通電端子t2から、電気回路101中のd点、f点、e点、a点をこの順に経由して、モータ40の第1通電端子t1へと流れる。つまり、d点、f点、e点、a点をつなぐ第2通電経路dfeaに、発電電流が流れる。このように、電気式ショックアブソーバ30の圧縮動作と伸長動作とで、それぞれ異なる経路を通って電気回路101内を発電電流が流れる。発電電流がモータ40および電気回路101内を流れることにより、モータ40のロータの回転方向とは反対の方向に働くモータトルクが発生する。このモータトルクが、バネ上部材とバネ下部材の接近動作および離間動作により生じるバネ上部材とバネ下部材との間の振動に対する減衰力として作用する。
第1通電経路cfebを流れる発電電流の大きさは、第1スイッチング素子SW1のデューティー制御により調整される。第2通電経路dfeaを流れる発電電流の大きさは、第2スイッチング素子SW2のデューティ制御により調整される。発電電流の大きさは減衰力の大きさを表す。この電気回路101を用いることにより、電気式ショックアブソーバ30の圧縮動作に対する減衰力と伸長動作に対する減衰力とを、それぞれ独立して制御することができる。
第5接続路H5には、電流計Aが取り付けられている。この電流計Aは、第1通電経路cfebまたは第2通電経路dfeaを流れる実電流iを計測し、計測した実電流iを表す信号をサスペンションECU50に出力する。
また、モータ40で発生する誘導起電力が蓄電装置110の出力電圧(蓄電電圧)を越えた場合、モータ40で発電された電力の一部が蓄電装置110に回生される。例えば、電気式ショックアブソーバ30の圧縮動作時に、発電電流がg点で2方向に分流し、一方は第1通電経路cfebを流れ、他方は第6接続路H6および第8接続路H8を流れる。第6接続路H6および第8接続路H8を流れる発電電流により蓄電装置110が充電される。また、電気式ショックアブソーバ30の伸長動作時に、発電電流がh点で2方向に分流し、一方は第2通電経路dfeaを流れ、他方は第7接続路H7および第8接続路H8を流れる。第7接続路H7および第8接続路H8を流れる発電電流により蓄電装置110が充電される。
ところで、バネ上部材とバネ下部材との接近動作および離間動作に伴って電気式ショックアブソーバ30が伸縮した場合、モータ40のロータやボールネジ機構35のボールネジ軸36などの回転体が回転する。モータ40および電気回路101には、減衰力に寄与する発電電流の他、これらの回転体の慣性力を電気的に表した電流(慣性相当電流)が流れる。慣性相当電流の位相は、減衰力の発生に寄与する発電電流の位相とは異なる。回転体の機械的な慣性力は、電気回路101に仮想的に並列接続され、回転体の慣性(慣性モーメント)に相当する静電容量Cを持つ慣性相当キャパシタCmに流れる電流により電気的に表される。慣性相当キャパシタCmの静電容量Cは、具体的には、回転体の慣性モーメントJをモータ40のモータトルク定数Kの二乗で割った値(J/K )により表される。言うまでもないが、この慣性相当キャパシタCmは、実際に電気回路101に接続されているわけではない。
また、図4に示すように、電気回路101のa点に接続路L1が、b点に接続路L2が接続されている。接続路L1,L2を介して、オペアンプ(operational amplifier)を利用した反転増幅回路120が電気回路101に接続される。
反転増幅回路120は、接続路L1を介してモータ40の第1通電端子t1側に接続された反転入力端子(−)と、接続路L2を介してモータ40の第2通電端子t2側に接続された非反転入力端子(+)と、出力端子Oとを有する演算増幅器(オペアンプ)OPと、入力抵抗Rinと、帰還抵抗Rとを備える。入力抵抗Rinは反転入力端子(−)に接続される。帰還抵抗Rは、出力端子Oと反転入力端子(−)との間に設けられる。反転増幅回路120は、入力電圧Vinに対して出力電圧Voutの位相が180°変化する。また、本実施形態では、入力抵抗Rinの抵抗値Rinと帰還抵抗Rの抵抗値Rは等しい。したがって、電圧増幅率(R/Rin)は1である。入力電圧Vinは、モータ40にて発生する誘導起電圧Vと等しいから、反転増幅回路120の出力端子O側には、誘導起電力Vと大きさが同じで逆相の電圧が印加される。
出力端子Oに慣性補償キャパシタCpが接続される。慣性補償キャパシタCpの静電容量は、慣性相当キャパシタCmの静電容量(J/K )と等しい。また、慣性補償キャパシタCpに接続路L3が接続される。接続路L3および接続路L2は接地(ボディアース)されている。したがって、接続路L3と接続路L2は同電位であり、実質的に接続されている。
このような構成において、サスペンションECU50は、例えばスカイフック理論のような、乗り心地に関する制御理論に基づいて、電気式ショックアブソーバ30により発生される減衰力を制御する。図5は、サスペンションECU50が実行する減衰力制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。図5に示す減衰力制御ルーチンは、サスペンションECU50のROM内に制御プログラムとして記憶されている。サスペンションECU50は、この減衰力制御ルーチンを実行することにより、各電気式ショックアブソーバ30により発生される減衰力を、それぞれ独立に制御する。
減衰力制御ルーチンが起動すると、サスペンションECU50は、まずステップ(以下、ステップ番号をSと略記する)10にて、バネ上加速度センサ61により検出されるバネ上加速度Gと、ストロークセンサ62により検出されるストローク変位量Xとを入力し、続くS11において、バネ上加速度Gを積分することによりバネ上速度Vを、ストローク変位量Xを微分することによりストローク速度Vを、それぞれ演算する。バネ上速度Vは、バネ上部材の上下速度である。ストローク速度Vは、電気式ショックアブソーバ30の伸縮速度である。一例として、バネ上速度Vは、バネ上部材が上昇するときに正の速度、下降するときに負の速度となるように演算される。また、ストローク速度Vは、電気式ショックアブソーバ30が伸びるときに正の速度、縮むときに負の速度となるように演算される。次いで、S12において、ストローク速度Vとバネ上速度Vとの積が正であるか否かを判断する。
S12において、積が正であると判断された場合(S12:Yes)、サスペンションECU50はS13に進み、下記(5)式によって目標減衰力Fを演算する。
Figure 2011142039
上記(5)式において、Cは、予め定められる減衰係数(スカイフック減衰係数)である。
一方、S12において、積が正でないと判断された場合(S12:No)、サスペンションECU50はS14に進み、下記(6)式によって目標減衰力Fを得る。
Figure 2011142039
上記(6)式において、Fminは、電気式ショックアブソーバ30により出力され得る最小の減衰力(例えば0)である。
S13またはS14にて目標減衰力Fを演算した後は、サスペンションECU50は、S15に進み、電気式ショックアブソーバ30が目標減衰力Fを発生するために電気回路101に流れるべき電流の目標値(目標電流)iを演算する。なお、目標電流iは、目標減衰力Fをモータトルクに換算した値をモータトルク定数Kで除算することにより得られる。
次いで、サスペンションECU50は、S16に進み、電流計Aにより検出される実電流iを入力し、続くS17にて、ストローク速度Vの正負の符号に基づいて、電気式ショックアブソーバ30が圧縮動作しているか否かを判断する。圧縮動作時(S17:Yes)であれば、S18に進み、実電流iが目標電流iと等しくなるように、第1スイッチング素子SW1にPWM制御信号を出力する。この場合、例えば目標電流iと実電流iとの偏差Δi(=i−i)を小さくするように、PWM制御信号を出力する。これにより、電気式ショックアブソーバ30の圧縮動作時、すなわちバネ上部材とバネ下部材との接近動作時に、電気式ショックアブソーバ30により目標減衰力Fが発生されるように、第1スイッチング素子SW1がデューティー制御される。一方、伸長動作時(S17:No)であれば、S19に進み、実電流iが目標電流iと等しくなるように、第2スイッチング素子SW2にPWM制御信号を出力する。これにより、電気式ショックアブソーバ30の伸長動作時、すなわちバネ上部材とバネ下部材との離間動作時に、電気式ショックアブソーバ30により目標減衰力Fが発生されるように、第2スイッチング素子SW2がデューティー制御される。なお、目標減衰力FがFminであるときは、デューティー比が0%となるように、第1スイッチング素子SW1または第2スイッチング素子SW2をデューティー制御すればよい。
その後、サスペンションECU50はこのルーチンを一旦終了する。こうした制御を繰り返し実行することにより、電気式ショックアブソーバ30は、目標減衰力Fを発生するように、サスペンションECU50により制御される。
バネ上部材とバネ下部材との接近動作および離間動作に伴いショックアブソーバが伸縮する場合、その伸縮動作に伴い慣性力が発生する。上述したように本実施形態の電気式ショックアブソーバ30は、その伸縮に伴って回転するボールネジ軸36やモータ40のロータなどの回転体を含む。モータ40および電気回路101には、減衰力に寄与する発電電流および、これらの回転体の慣性力を電気的に表した慣性相当電流Iが流れる。慣性相当電流Iの位相は発電電流の位相と異なるので、慣性相当電流Iにより表される慣性力は減衰力に悪影響を及ぼす。その結果、上述したように、バネ下共振周波数付近の振動に対するバネ上振動伝達特性が悪化する。
慣性相当電流Iは、電気回路101に仮想的に並列接続された慣性相当キャパシタCmに流れる電流により表される。本実施形態では、電気回路101に反転増幅回路120を接続し、さらにこの反転増幅回路120の出力端子Oに慣性補償キャパシタCpを接続することにより、慣性相当キャパシタCmに流れる慣性相当電流Iを打ち消す。
慣性相当キャパシタCmに流れる慣性相当電流Iは、下記(7)式により表される。
Figure 2011142039
(7)式において、Cは、慣性相当キャパシタCmの静電容量(=J/Km)、Vは誘導起電力である。
また、反転増幅回路120の入力側に印加される電圧Vinは誘導起電力Vに等しく、出力側の電圧Voutは誘導起電力と逆相の電圧−Vである。よって、慣性補償キャパシタCpに流れる電流Iは、下記(8)により表される。
Figure 2011142039
(8)式において、Cは慣性補償キャパシタCpの静電容量である。
慣性補償キャパシタCpの静電容量Cは、回転体の慣性に相当する大きさ(J/K )である。この静電容量Cは、慣性相当キャパシタCmの静電容量Cに等しい。したがって、(7)式と(8)式からわかるように、慣性補償キャパシタCpに流れる電流Iは、慣性相当キャパシタCmに流れる慣性相当電流Iの逆相電流−Iである。
慣性補償キャパシタCpが接続されている接続路L3と、電気回路101のb点に接続された接続路L2とは同電位であり、実質的に接続されているから、慣性補償キャパシタCpに流れる電流Iは、接続路L3および接続路L2を介して電気回路101に流れる。電流Iが電気回路101に流れることにより、慣性相当キャパシタCmに流れる慣性相当電流Iが打ち消される。慣性相当電流Iが打ち消されることによって、減衰力に及ぼす慣性力の影響が除去される。よって、バネ下共振周波数付近の振動に対するバネ上振動伝達特性が改善される。
(変形例)
図6は、本実施形態の変形例を示す電気回路107の回路図である。この電気回路107は、図4に示す電気回路101から、第1および第2スイッチング素子SW1,SW2、電流計Aおよび、蓄電装置110を充電するための構成を除いたことの他、電気回路101と同一の構成である。したがって、電気回路107の説明は、上記第1実施形態における電気回路101の関連部分の説明を援用することにより、省略する。また、この電気回路107を用いる場合、電気式ショックアブソーバ30の減衰力は制御されないので、減衰力制御のためのサスペンションECUやセンサは必要ない。
電気回路107に、反転増幅回路120が接続される。反転増幅回路120の構成や、電気回路107と反転増幅回路120との接続構成は、上記第1実施形態にて説明した反転増幅回路120の構成や、電気回路101と反転増幅回路120との接続構成と同一である。したがって、これらの説明は、上記第1実施形態における反転増幅回路120の構成の説明および電気回路101と反転増幅回路120との接続構成の説明を援用することにより、省略する。
反転増幅回路120の出力端子Oには、慣性補償キャパシタCpが接続される。慣性補償キャパシタCpは、電気式ショックアブソーバ30の伸縮に伴って回転するボールネジ軸36やモータ40のロータなどの回転体の慣性(慣性モーメント)に相当する静電容量(J/K )を持つ。
慣性補償キャパシタCpに接続路L3が接続される。この接続路L3と、電気回路107のb点と反転増幅回路120の非反転入力端子(+)とを接続する接続路L2とは、同電位とされ、実質的に接続されている。
このような構成において、例えば、バネ上部材とバネ下部材とが接近して電気式ショックアブソーバ30が圧縮されるとともに、モータ40のロータが一方向に回転した場合、モータ40の第1通電端子t1が高電位となり第2通電端子t2が低電位となる。逆に、バネ上部材とバネ下部材とが離間して電気式ショックアブソーバ30が伸長されるとともに、モータ40のロータが他方向に回転した場合、モータ40の第2通電端子t2が高電位となり第1通電端子t1が低電位となる。
したがって、電気式ショックアブソーバ30が圧縮される場合、発電電流は、モータ40の第1通電端子t1から、電気回路107中のc点、f点、e点、b点をこの順に経由して、モータ40の第2通電端子t2へと流れる。つまり、c点、f点、e点、b点をつなぐ第1通電経路cfebに発電電流が流れる。また、電気式ショックアブソーバ30が伸長される場合、発電電流は、モータ40の第2通電端子t2から、電気回路107中のd点、f点、e点、a点をこの順に経由して、モータ40の第1通電端子t1へと流れる。つまり、d点、f点、e点、a点をつなぐ第2通電経路dfeaに、発電電流が流れる。このように、電気式ショックアブソーバ30の圧縮動作と伸長動作とで、それぞれ異なる経路を通って電気回路107内を発電電流が流れる。発電電流がモータ40および電気回路107内を流れることにより、モータ40のロータの回転方向とは反対の方向に働くモータトルクが発生する。このモータトルクが、バネ上部材とバネ下部材の接近動作および離間動作により生じるバネ上部材とバネ下部材との間の振動に対する減衰力として作用する。
電気式ショックアブソーバ30の圧縮動作時に第1通電経路cfebを発電電流が流れた場合、第1抵抗器R1の抵抗値R1に基づいて定められる減衰力が発生する。また、電気式ショックアブソーバ30の伸長動作時に第2通電経路dfeaを発電電流が流れた場合、第2抵抗器R2の抵抗値R2に基づいて定められる減衰力が発生する。
バネ上部材とバネ下部材との接近動作および離間動作に伴いショックアブソーバが伸縮する場合、その伸縮動作に伴い慣性力が発生する。本例の電気式ショックアブソーバ30も、その伸縮に伴って回転するボールネジ軸36やモータ40のロータなどの回転体を含む。モータ40および電気回路107には、減衰力に寄与する発電電流および、これらの回転体の慣性力を電気的に表した慣性相当電流Iが流れる。慣性相当電流Iの位相は発電電流の位相と異なるので、慣性相当電流Iにより表される慣性力は減衰力に悪影響を及ぼす。その結果、バネ下共振周波数付近の振動に対するバネ上振動伝達特性が悪化する。
慣性相当電流Iは、電気回路107に仮想的に並列接続され、回転体の慣性に相当する静電容量(J/K )を有する慣性相当キャパシタCmに流れる電流により表される。本例においては、上記第1実施形態と同様に、反転増幅回路120の出力端子Oに接続された慣性補償キャパシタCpに慣性相当電流Iと大きさが同じで逆相の電流Iが流れ、この電流Iが電気回路107に供給されるために慣性相当電流Iが打ち消される。慣性相当電流Iが打ち消されることで、バネ下共振周波数付近の周波数帯におけるバネ上振動伝達特性が改善される。
本例および上記第1実施形態で示したように、電気回路101(107)に、増幅率が1に設定された反転増幅回路120を接続し、且つ、反転増幅回路120の出力端子Oに、回転体の慣性に相当する静電容量を持つ慣性補償キャパシタCpを接続することにより、自動的に、慣性相当電流Iと大きさが同じで逆相の電流が作り出される。この電流が電気回路101(107)に供給されることにより、慣性相当電流Iが打ち消される。よって、ECU等により特別な制御をすることなく慣性の影響が除去される。
また、減衰力をECU等で制御しない簡易な電気式ショックアブソーバに第1実施形態および変形例で説明した慣性相当電流Iを打ち消すための技術を適用することにより、低価格で、且つ、慣性の影響が除去された減衰力を発生する性能のよい電気式ショックアブソーバを備えたサスペンション装置を提供することができる。
b.第2実施形態
上記第1実施形態においては、慣性相当キャパシタCmに流れる慣性相当電流Iを反転増幅回路120により生成された逆相電流Iで打ち消すことによって、バネ下共振周波数付近の振動に対するバネ上振動伝達特性を改善する例を示した。以下に説明する第2実施形態では、慣性相当キャパシタCmと電気回路とにより構成される並列共振回路の反共振周波数をバネ下共振周波数付近の周波数と一致させることにより、バネ下共振周波数付近の振動に対するバネ上振動伝達特性を改善する例を示す。
図7は、第2実施形態に係る電気回路102である。電気回路102は、第1実施形態に係る電気回路101に類似する。ただし、電気回路102には、上記第1実施形態例にて説明した反転増幅回路120や慣性補償キャパシタCpなどは、接続されていない。電気回路102を構成する各要素のうち、電気回路101に示された要素と同一の要素については、同一の符号で示すことにより、その具体的な説明を省略する。
電気回路102の接続路H4のc点とf点との間には、第1可変抵抗器VR1が設けられる。第1可変抵抗器VR1は、第1スイッチング素子SW1と固定抵抗値R1を持つ第1抵抗器R1とを備える。また、接続路H4のd点とf点との間には、第2可変抵抗器VR2が設けられる。第2可変抵抗器VR2は、第2スイッチング素子SW2と固定抵抗値R2を持つ第2抵抗器R2とを備える。
第1可変抵抗器VR1は、第1スイッチング素子SW1のスイッチング制御により第1抵抗器R1に流れる電流量を調節することで、見かけ上の抵抗値を変更することができるように構成されている。第2可変抵抗器VR2は、第2スイッチング素子SW2のスイッチング制御により第2抵抗器R2に流れる電流量を調節することで、見かけ上の抵抗値を変更することができるように構成されている。つまり、電気回路102には、抵抗値が可変な外部抵抗器(可変抵抗器)が接続されている。第1スイッチング素子SW1および第2スイッチング素子SW2は、サスペンションECU50により制御される。
電気回路102には、モータ40にて発生する誘導起電力により、発電電流が流れる。電気回路102内での発電電流の流れ方については、上記第1実施形態で説明した電気回路101内での発電電流の流れ方と同じであるので、その説明は省略する。
発電電流がモータ40および電気回路102内を流れることにより、モータ40のロータの回転方向とは反対の方向に働くモータトルクが発生する。このモータトルクが、バネ上部材とバネ下部材の接近動作および離間動作により生じるバネ上部材とバネ下部材との間の振動に対する減衰力として作用する。減衰力は、サスペンションECU50による第1スイッチング素子SW1および第2スイッチング素子SW2の制御により、制御される。
本実施形態の電気式ショックアブソーバ30も、その伸縮に伴って回転するボールネジ軸36やモータ40のロータなどの回転体を含む。モータ40および電気回路102には、減衰力の発生に寄与する発電電流および、これらの回転体の慣性力を表す慣性相当電流Iが流れる。慣性相当電流Iにより表される回転体の慣性力が減衰力に悪影響を及ぼす。その結果、バネ下共振周波数付近の振動に対するバネ上振動伝達特性が悪化する。
慣性相当電流Iは、電気回路102に仮想的に並列接続された慣性相当キャパシタCmに流れる電流により表される。本実施形態では、電気回路102と慣性相当キャパシタCmとにより構成される並列共振回路の反共振周波数をバネ下共振周波数付近の周波数に設定することにより、バネ上共振周波数付近の振動に対するバネ上振動伝達特性を改善する。
図8は、サスペンションECU50が実行する減衰力制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。この減衰力制御ルーチンが起動すると、サスペンションECU50は、まずS20にて、所望の制御理論に基づいて、目標減衰力Fを演算する。この場合、上記第1実施形態にて説明したスカイフック理論に基づいて目標減衰力Fを演算してもよい。また、例えば非線形H理論に基づいて目標減衰力Fを演算してもよい。
続いて、サスペンションECU50は、S21に進み、電気式ショックアブソーバ30が目標減衰力Fを発生するために必要な外部抵抗値である必要抵抗値Rを演算する。必要抵抗値Rの演算方法は、以下の通りである。
電気式ショックアブソーバ30により目標減衰力Fが発生される場合、目標減衰力Fは、電気回路102のインピーダンスを用いて下記(9)式のように表すことができる。
Figure 2011142039
(9)式において、F(s)は周波数領域で表された目標減衰力、V(s)は周波数領域で表されたストローク速度、Kはモータトルク定数[V/(rad/s)]、Nはボールネジ軸36のリード[m/回転]、Rは電気回路102の外部抵抗値[Ω]、Rはモータ40の内部抵抗値[Ω]、Lは電気回路102のインダクタンス[H]、sはラプラス演算子である。
また、電気回路102には、図7に示すように慣性相当キャパシタCmが仮想的に並列接続されている。したがって、電気回路102と慣性相当キャパシタCmとにより並列共振回路が構成され得る。並列共振回路の反共振周波数fは、下記(10)式により表される。
Figure 2011142039
(10)式において、Lは電気回路102のインダクタンスである。本実施形態では、反共振周波数がバネ下共振周波数またはバネ下共振周波数に近い周波数(目標周波数)fに設定される。目標周波数fは、例えば5〜15Hzの間の周波数に設定されるとよい。反共振周波数fを目標周波数fと一致させるために電気回路102が持つべき必要インダクタンスをLで表した場合、下記(11)式が成立する。
Figure 2011142039
(11)式において、Lはモータインダクタンスである。(11)式に基づき必要インダクタンスLが求められる。この必要インダクタンスLは、予め求められている。
(11)式により求められている必要インダクタンスLとモータインダクタンスLとの和(L+L)を、(9)式のインダクタンスLに代入することにより、下記(12)式が得られる。
Figure 2011142039
(12)式に最終値定理を適用することにより、(13)式が得られる。
Figure 2011142039
時間領域で表されるストローク速度V(t)をステップ応答で表現した場合、V(s)は1/sである。したがって、(13)式は(14)式のように表すことができる。
Figure 2011142039
(14)式の左辺に目標減衰力Fを代入することにより、目標減衰力Fに基づいて必要抵抗値Rが算出される。
次いで、サスペンションECU50は、S22に進み、補正抵抗値R′を演算する。補正抵抗値R′は、必要抵抗値Rと必要インダクタンスLとの合成インピーダンス、あるいはそれに近いインピーダンスを表すように設定される。補正抵抗値R′の演算方法は、以下の通りである。
目標減衰力Fと電気回路102のインピーダンスとの関係式は、上記(12)式のように表されるが、電気回路102には、実際には必要インダクタンス成分Lを持つコイル(インダクタ)が接続されていない。そこで、本実施形態においては、あたかも必要インダクタンス成分Lを持つコイルが接続されている電気回路102に発電電流が流れるように、電気回路102の電気的特性を調整する。すなわち、目標周波数fで反共振が起きるように、電気回路102の電気的特性を調整する。この場合、サスペンションECU50は、第1可変抵抗器VR1または第2可変抵抗器VR2の見かけ上の抵抗値を補正することにより、電気回路102の電気的特性を調整する。補正抵抗値をR′で表した場合、目標減衰力Fは、下記(15)式により表される。
Figure 2011142039
(12)式と(15)式から、(16)式が導かれる。
Figure 2011142039
(16)式からわかるように、補正抵抗値R′は、必要抵抗値Rと必要インダクタンスLとの合成インピーダンスを表す。サスペンションECU50は、S22にて、(16)式が成立するように補正抵抗値R′を演算する。すなわち、サスペンションECU50は、第1可変抵抗器VR1の抵抗値または第2可変抵抗器VR2の抵抗値により、必要抵抗値Rと必要インダクタンスLとの合成インピーダンスが表されるように、これらの可変抵抗器の抵抗値を補正(可変制御)する。
この場合、例えばサスペンションECU50は、以下のようにして補正抵抗値R′を演算する。
(12)式は(17)式のように記述される。
Figure 2011142039
(17)式中の伝達関数G(s)は(18)式のように記述される。
Figure 2011142039
また、(15)式は(19)式のように記述される。
Figure 2011142039
(19)式中の伝達関数G(s)は(20)式のように記述される。
Figure 2011142039
サスペンションECU50は、伝達関数G(s)のベクトル軌跡と、補正抵抗値R′を様々に変化させた複数の伝達関数G(s)のベクトル軌跡とを記憶しておき、そのときに入力される電気式ショックアブソーバ30の振動の周波数から演算される角周波数ωにおける伝達関数G(s)の複素平面位置と各伝達関数G(s)の複素平面位置と間の距離をそれぞれ演算する。そして、最も小さい距離を演算したときに用いられた伝達関数G(s)を抽出する。抽出した伝達関数G(s)に用いられている抵抗値を補正抵抗値R′に設定する。こうして補正抵抗値R′が演算される。
次いで、サスペンションECU50は、S23に進み、ストローク速度Vの正負の符号に基づいて、電気式ショックアブソーバ30が圧縮動作しているか否かを判断する。圧縮動作時(S23:Yes)であれば、S24に進み、第1可変抵抗器VR1の見かけ上の抵抗値が補正抵抗値R′になるように、第1スイッチング素子SW1に制御指令を出力する。例えば補正抵抗値R′が第1抵抗器R1の抵抗値R1の半分であれば、第1スイッチング素子SW1が50%のデューティー比で開閉するように、第1スイッチング素子SW1に制御指令を出力する。一方、伸長動作時(S23:No)であれば、S25に進み、第2可変抵抗器VR2の見かけ上の抵抗値が補正抵抗値R′になるように、第2スイッチング素子SW2に制御指令を出力する。S22,S24およびS25により、必要抵抗値Rと必要インダクタンスLとの合成インピーダンスが第1可変抵抗器VR1または第2可変抵抗器VR2の見かけ上の抵抗値によって表されるように、これらの抵抗値が補正される。サスペンションECU50は、S24またはS25にて制御指令を出力した後に、このルーチンを一旦終了する。
上述のような減衰力制御ルーチンが繰り返し実行されることにより、第1可変抵抗器VR1または第2可変抵抗器VR2の見かけ上の抵抗値が必要抵抗値Rと必要インダクタンスLとの合成インピーダンスを表すように補正される。このため、電気回路102と慣性相当キャパシタCmとにより構成される並列共振回路の反共振周波数がバネ下共振周波数またはその付近の周波数に設定される。
したがって、バネ上部材とバネ下部材との間の振動の周波数がバネ上共振周波数付近である場合、電気回路102と慣性相当キャパシタCmとの間で反共振は起こらず、電気式ショックアブソーバ30が目標減衰力を発生する。このため上記振動が速やかに減衰される。
一方、バネ上部材とバネ下部材との間の振動の周波数がバネ下共振周波数付近である場合、電気回路102と慣性相当キャパシタCmとの間で反共振が起きる。反共振により回路インピーダンスが増大し、モータ40および電気回路102に電流が流れ難くなる。これにより、慣性相当電流Iや減衰力の発生に寄与する発電電流が低減される。モータ40および電気回路102に流れる発電電流が低減されることにより、電気式ショックアブソーバ30により発生される減衰力も低減される。つまり、バネ下共振周波数帯域の振動に対する減衰力が低減される。バネ下共振周波数帯域の振動に対する減衰力が低減されることにより、バネ下共振周波数帯域の振動が、バネ下部材のみのばたつきにより吸収される。バネ下部材のばたつきにより振動が吸収されることで、その振動がバネ上部材に伝達されることが抑制される。このため、バネ下共振周波数付近におけるバネ上振動伝達率が改善される。
c.第3実施形態
図9は、本発明の第3実施形態に係る電気回路103を示す回路図である。図に示すように、この電気回路103は、モータ40の第1通電端子t1と第2通電端子t2とを接続する主接続路Hを備える。主接続路H上に、所定の抵抗値を持つ外部抵抗器Rが設けられている。なお、図中、Lはモータインダクタンス、Rはモータ40の内部抵抗を、それぞれ示す。また、この電気回路103には、慣性相当キャパシタCmが仮想的に並列接続されている。
電気回路103には、慣性補償電流供給装置300が接続される。慣性補償電流供給装置300は、電気回路103に流れる慣性相当電流Iと逆相の電流を、電気回路103に供給する。慣性補償電流供給装置300は、第1端子301および第2端子302を備える。第1端子301と主接続路H上のA点が、第1接続路L1で電気的に接続される。第2端子302と主接続路H上のB点が、第2接続路L2で電気的に接続される。A点は、モータ40の第1通電端子t1と外部抵抗器Rとの間に位置し、B点は、モータ40の第2通電端子t2と外部抵抗器Rとの間に位置する。
図10は、慣性補償電流供給装置300の一例を示す図である。慣性補償電流供給装置300は、直流電源V1と、直流電源V1の正極側に接続された正極側接続路Pと、直流電源V1の負極側に接続された負極側接続路Nと、正極側接続路Pに介装されたトランジスタスイッチTR、固定抵抗器Rおよび電流計CAと、経路切り替え装置303とを備える。
経路切り替え装置303は、第1スイッチSW1および第2スイッチSW2を備える。各スイッチは、一つの入力端子(a端子)と、二つの出力端子(b端子、c端子)と、可動片とを備える。可動片が動作することにより、入力端子に接続される出力端子が切り替えられる。
第1スイッチSW1のa端子には正極側接続路Pが、第2スイッチSW2のa端子には負極側接続路Nが、それぞれ接続される。また、第1スイッチSW1のb端子および第2スイッチSW2のc端子は、慣性補償電流供給装置300の第1端子301に接続される。第1スイッチSW1のc端子および第2スイッチSW2のb端子が、慣性補償電流供給装置300の第2端子302に接続される。
トランジスタスイッチTRおよび経路切り替え装置303は、サスペンションECU50により制御される。サスペンションECU50によりトランジスタスイッチTRが制御されることにより、慣性補償電流供給装置300から電気回路103に供給される電流の大きさが変更制御される。サスペンションECU50により経路切り替え装置303の切り替え状態が制御されることにより、慣性補償電流供給装置300から電気回路103に供給される電流の向きが変更制御される。電流の大きさと向きを調整することにより、慣性相当電流Iと逆相の電流を電気回路103に供給することが可能となる。
電気回路103には、モータ40にて誘導起電力が発生した場合に、発電電流が流れる。電気回路103にどのように発電電流が流れるかについて説明する。バネ上部材とバネ下部材との接近動作および離間動作により電気式ショックアブソーバ30が伸縮するとともにモータ40のロータがステータに対して回転させられた場合、誘導起電力(逆起電力)が発生する。この場合、誘導起電力の向きは、電気式ショックアブソーバ30が伸長されたか圧縮されたかにより異なる。例えば、バネ上部材とバネ下部材とが接近して電気式ショックアブソーバ30が圧縮される場合に、モータ40の第1通電端子t1が高電位となり第2通電端子t2が低電位となる。逆に、バネ上部材とバネ下部材とが離間して電気式ショックアブソーバ30が伸長される場合に、モータ40の第2通電端子t2が高電位となり第1通電端子t1が低電位となる。
したがって、電気式ショックアブソーバ30が圧縮される場合、発電電流は、モータ40の第1通電端子t1側から主接続路Hを通って第2通電端子t2側に向かう方向に流れる。また、電気式ショックアブソーバ30が伸長される場合、発電電流は、モータ40の第2通電端子t2側から主接続路Hを通って第1通電端子t1側に向かう方向に流れる。つまり、電気式ショックアブソーバ30の圧縮と伸長とで、電気回路103を流れる発電電流の向きが逆転する。
発電電流がモータ40および電気回路103内を流れることにより、モータ40のロータの回転方向とは反対の方向に働くモータトルクが発生する。このモータトルクが、バネ上部材とバネ下部材の接近動作および離間動作により生じるバネ上部材とバネ下部材との間の振動に対する減衰力として作用する。
本実施形態の電気式ショックアブソーバ30も、その伸縮に伴って回転するボールネジ軸36やモータ40のロータなどの回転体を含む。モータ40および電気回路103には、減衰力に寄与する発電電流および、これらの回転体の慣性力を表す慣性相当電流Iが流れる。慣性相当電流Iにより表される慣性力が、減衰力に悪影響を及ぼす。その結果、バネ下共振周波数付近の振動に対するバネ上振動伝達特性が悪化する。
慣性相当電流Iは、電気回路103に仮想的に並列接続された慣性相当キャパシタCmに流れる電流により表される。本実施形態では、慣性相当電流Iを演算するとともに、慣性補償電流供給装置300から慣性相当電流Iと逆相の慣性補償電流I電気回路103に供給することにより、慣性相当電流Iを打ち消す。
図11は、慣性補償電流供給装置300から慣性補償電流Iを電気回路103に供給するためにサスペンションECU50が実行する慣性補償電流制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
慣性補償電流制御ルーチンが起動すると、サスペンションECU50は、まず図11のS30にて、回転角センサ63からモータ40(ロータ)の回転角θを入力する。次いで、入力したモータ回転角θを時間微分することにより、モータ回転角速度ωを演算する(S31)。続いて、モータ回転角速度ωにモータトルク定数Kを乗じることにより、誘導起電力(逆起電力)Vを演算する(S32)。次に、誘導起電力Vを時間微分し、その微分値に慣性相当キャパシタCmの静電容量Cを乗じることにより、慣性相当キャパシタCmに流れる慣性相当電流Iを演算する(S33)。
続いてサスペンションECU50は、電流計CAが検出した実電流iを入力する(S34)。次いで、実電流iが、慣性相当電流Iの逆相電流−Iと一致するように、トランジスタスイッチTRおよび経路切り替え装置303を制御する(S35)。
この場合、例えば、サスペンションECU50は、電流計CAにより検出された実電流iの大きさと慣性相当電流Iの大きさが等しくなるようにトランジスタスイッチTRのデューティー比を決定し、決定したデューティー比に基づいて、トランジスタスイッチTRを制御する。また、サスペンションECU50は、例えば演算した慣性相当電流Iが図9において矢印で示す方向に流れる場合には、経路切り替え装置303の第1スイッチSW1および第2スイッチSW2のa端子とc端子とが接続されるように、経路切り替え装置303に制御指令を出力する。これにより、慣性補償電流供給装置300の第2端子302から接続路L2を経て、慣性相当電流Iと大きさの等しい慣性補償電流Iが、B点側から電気回路103に供給される。供給される電流の向きは、慣性相当電流Iと逆向きである。また、例えば演算した慣性相当電流Iが図9において矢印で示す方向と反対の方向に流れる場合には、サスペンションECU50は、経路切り替え装置303の第1スイッチSW1および第2スイッチSWのa端子とb端子とが接続されるように、経路切り替え装置303に制御指令を出力する。これにより、慣性補償電流供給装置300の第1端子301から接続路L1を経て、慣性相当電流Iと大きさの等しい慣性補償電流Iが、A点側から電気回路103に供給される。供給される電流の向きは、慣性相当電流Iと逆向きである。つまり、慣性補償電流供給装置300は、慣性相当電流Iに対して大きさが同じで常に逆相となる電流を、電気回路103に供給する。
S35にてトランジスタスイッチTRおよび経路切り替え装置303を制御した後、サスペンションECU50は、このルーチンを一旦終了する。
サスペンションECU50が慣性補償電流制御ルーチンを繰り返し実行することにより、慣性相当電流Iの逆相電流である慣性補償電流Iが電気回路103に常に供給される。供給された慣性補償電流Iにより、モータ40および電気回路103を流れる慣性相当電流Iが打ち消される。慣性相当電流Iが打ち消されることにより、回転体の慣性力が減衰力に及ぼす影響が除外される。その結果、バネ下共振周波数付近におけるバネ上振動伝達特性が改善される。
図12は、本実施形態の電気回路103が接続された電気式ショックアブソーバ30を備えるサスペンション装置のバネ上振動伝達特性と、コンベンショナルショックアブソーバを備えるサスペンション装置のバネ上振動伝達特性とを比較した図である。図において、線Aが本実施形態のサスペンション装置のバネ上振動伝達特性を表すゲイン線図である。線Bがコンベンショナルショックアブソーバを備えるサスペンション装置のバネ上振動伝達特性を表すゲイン線図である。図からわかるように、全ての周波数帯域において、線Aも線Bもほぼ同じバネ上振動伝達特性を示す。このことから、本実施形態のサスペンション装置のバネ上振動伝達特性は、回転体の慣性の影響が除外されたことによって、特にバネ下共振周波数付近の振動に対して改善されていることがわかる。
d.第4実施形態
次に、本発明の第4実施形態について説明する。図13は、本実施形態に係る電気回路104を示す回路図である。図に示すように、本実施形態に係る電気回路104は、モータ40の第1通電端子t1に接続された第1接続路H1と、モータ40の第2通電端子t2に接続された第2接続路H2とを備える。第1接続路H1に、第1分岐路B1および第2分岐路B2が接続される。第1分岐路B1に、インピーダンスZ1(第1のインピーダンス)を持つ第1素子E1が介装される。第2分岐路B2に、インピーダンスZ2(第2のインピーダンス)を持つ第2素子E2が介装される。また、第2接続路H2にスイッチSW(接続状態切り替え装置)が接続される。スイッチSWは、3個の端子(端子a,端子b,端子c)および、一個の可動片を備える。端子aは第2接続路H2に接続される。端子bは第1分岐路B1に接続され、端子cは第2分岐路B2に接続される。可動片は、端子aを、端子bと端子cとのいずれか一方に選択的に接続する。スイッチSWにより、第1素子E1と電気回路104との接続と、第2素子E2と電気回路104との接続とが、選択的に切り替えられる。スイッチSWの動作はサスペンションECU50により制御される。
また、この電気回路104には、慣性相当キャパシタCmが仮想的に並列接続されている。慣性相当キャパシタCmは、電気式ショックアブソーバ30の伸縮に伴って回転するボールネジ軸36やモータ40のロータなどの回転体の慣性力(慣性モーメント)に相当する静電容量(J/Km)を持つ。なお、図中、Lはモータインダクタンス、Rはモータ40の内部抵抗を、それぞれ示す。
電気回路104には、モータ40にて誘導起電力が発生した場合に発電電流が流れる。電気回路104に第1素子E1が接続されている場合、発電電流は第1素子E1に流れる。第1素子E1のインピーダンスZ1の大きさは、第1素子E1が電気回路104に接続されているときに、モータ40および電気回路104に発電電流が流れることにより発生される減衰力によって、バネ上部材の振動が効果的に抑制されるように、予め設定される。また、電気回路104に第2素子E2が接続されている場合、発電電流は第2素子E2に流れる。第2素子E2のインピーダンスZ2の大きさは、第2素子E2が接続された電気回路104のインピーダンス(モータインダクタンスLおよび内部抵抗Rを含む)が、慣性相当キャパシタCmのインピーダンスよりも小さくなるように、予め設定される。
次に、電気回路104にどのように発電電流が流れるかについて説明する。バネ上部材とバネ下部材との接近動作および離間動作により電気式ショックアブソーバ30が伸縮するとともにモータ40のロータが回転させられた場合、誘導起電力(逆起電力)が発生する。この場合、誘導起電力の向きは、電気式ショックアブソーバ30が伸長されたか圧縮されたかにより異なる。例えば、バネ上部材とバネ下部材とが接近して電気式ショックアブソーバ30が圧縮されるとともに、モータ40のロータが一方向に回転した場合、モータ40の第1通電端子t1が高電位となり第2通電端子t2が低電位となる。逆に、バネ上部材とバネ下部材とが離間して電気式ショックアブソーバ30が伸長されるとともに、モータ40のロータが他方向に回転した場合、モータ40の第2通電端子t2が高電位となり第1通電端子t1が低電位となる。
したがって、電気式ショックアブソーバ30が圧縮される場合、発電電流は、モータ40の第1通電端子t1側から第1接続路H1を通り、第1素子E1または第2素子E2を経由し、さらに第2接続路H2を経て第2通電端子t2側に向かう方向に流れる。また、電気式ショックアブソーバ30が伸長される場合、発電電流は、モータ40の第2通電端子t2側から第2接続路H2を通り、第1素子E1または第2素子E2を経由し、さらに第1接続路H1を経て第1通電端子t1側に向かう方向に流れる。つまり、電気式ショックアブソーバ30の圧縮と伸長とで、電気回路104を流れる発電電流の向きが逆転する。
発電電流がモータ40および電気回路104内を流れることにより、モータ40のロータの回転方向とは反対の方向に働くモータトルクが発生する。このモータトルクが、バネ上部材とバネ下部材の接近動作および離間動作により生じるバネ上部材とバネ下部材との間の振動に対する減衰力として作用する。
本実施形態の電気式ショックアブソーバ30も、その伸縮に伴って回転するボールネジ軸36やモータ40のロータなどの回転体を含む。このため、モータ40および電気回路104には、減衰力の発生に寄与する発電電流の他、これらの回転体の慣性力を表す慣性相当電流Iが流れる。慣性相当電流Iにより表される慣性力が減衰力に悪影響を及ぼす。その結果、バネ下共振周波数付近の振動に対するバネ上振動伝達特性が悪化する。
慣性相当電流Iは、電気回路104に仮想的に並列接続された慣性相当キャパシタCmに流れる電流により表される。本実施形態では、慣性相当電流Iが、減衰力の発生に寄与する発電電流に及ぼす影響を低減するために、慣性相当電流Iと、第1素子E1が電気回路104に接続されたときにモータ40および電気回路104に流れる発電電流(正規電流)Iとを演算するとともに、演算した慣性相当電流Iと正規電流Iとの大小関係に基づいて、スイッチSWの作動をサスペンションECU50が制御する。このようなスイッチSWの作動制御により、慣性相当電流Iが低減される。
図14は、スイッチSWの作動を制御するためにサスペンションECU50が実行するスイッチ制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。スイッチ制御ルーチンが起動すると、サスペンションECU50は、まず、回転角センサ63からモータ40(ロータ)の回転角θを入力する(S40)。次いで、入力したモータ回転角θを時間微分することにより、モータ回転角速度ωを演算する(S41)。続いて、モータ回転角速度ωにモータトルク定数Kを乗じることにより、誘導起電力Vを演算する(S42)。次に、誘導起電力Vを時間微分し、その微分値に慣性相当キャパシタCmの静電容量Cを乗じることにより、慣性相当キャパシタCmに仮想的に流れる慣性相当電流Iを演算する(S43)。
次に、サスペンションECU50は、第1素子E1が電気回路104に接続されているときにモータ40および電気回路104を流れる発電電流である正規電流Iを演算する(S44)。電気回路104のインピーダンスは、第1素子E1のインピーダンスZ1と、モータ40のインダクタンスLよび内部抵抗Rにより表される。電気回路104のインピーダンスのうちインダクタンス成分をL、抵抗成分をRで表した場合、誘導起電圧Vは、下記(21)式のように記述される。
Figure 2011142039
(21)式をラプラス変換することにより、(22)式を得る。
Figure 2011142039
(22)式は、入力を誘導起電力V、出力を正規電流Iとした場合に、入力と出力との関係が伝達関数G(s)により表されることを示す。G(s)は、一次遅れの伝達関数である。一次遅れの伝達関数はローパスフィルタを表す。したがって、(22)式に基づいて、例えば誘導起電力Vを、上記(22)式の伝達関数G(s)を表すようなローパスフィルタに通すことにより、正規電流Iが求められる。
続いて、サスペンションECU50は、慣性相当電流Iが正規電流I以上であるか否かを判断する(S45)。慣性相当電流Iが正規電流I未満である場合(S45:No)、スイッチSWのa端子とb端子が接続されるように、スイッチSWに制御信号を出力する(S47)。その後、このルーチンを一旦終了する。一方、慣性相当電流Iが正規電流I以上である場合(S45:Yes)、サスペンションECU50は、スイッチSWのa端子とc端子が接続されるように、スイッチSWに制御信号を出力する(S46)。その後、このルーチンを一旦終了する。
このようなスイッチ制御が繰り返されることにより、慣性相当電流Iが正規電流Iよりも小さい場合には、電気回路104に第1素子EL1が接続される。また、慣性相当電流Iが正規電流I以上である場合には、電気回路104に第2素子EL2が接続される。
図15は、慣性相当キャパシタCmのインピーダンスの周波数特性と、第1素子EL1が接続された電気回路104のインピーダンスの周波数特性とを比較した図である。図中、線Aが慣性相当キャパシタCmのインピーダンスの周波数特性を、線Bが電気回路104のインピーダンスの周波数特性を表す。なお、第1素子EL1は、抵抗値Rの固定抵抗とした。
線Aにより示される慣性相当キャパシタCmのインピーダンスは、(1/(ωC))により表される。ωは振動の角周波数(=2πf)である。慣性相当キャパシタCmのインピーダンスは周波数fに反比例し、周波数fが大きくなるほど小さくなる。一方、線Bにより示される電気回路104のインピーダンスは、(ωL+(R+R))により表される。電気回路104のインピーダンスは、周波数fに比例し、周波数fが大きくなるほど大きくなる。したがって、周波数fが小さい場合には、慣性相当キャパシタCmのインピーダンスが電気回路104のインピーダンスよりも大きいが、周波数fが大きい場合には、慣性相当キャパシタCmのインピーダンスが電気回路104のインピーダンスよりも小さい。
本実施形態においては、図15に示すように、ほぼ7Hz前後の周波数を境に、慣性相当キャパシタCmのインピーダンスの大きさと電気回路104のインピーダンスの大きさが逆転する。よって、バネ上共振周波数(1Hz付近)の振動周波数帯域においては、慣性相当キャパシタのインピーダンスが電気回路104のインピーダンスよりも大きい。一方、バネ下共振周波数(10Hz付近)の振動周波数帯域においては、慣性相当キャパシタCmのインピーダンスが電気回路104のインピーダンスよりも小さい。
慣性相当電流Iが正規電流Iよりも小さい場合は、慣性相当キャパシタCmのインピーダンスが電気回路104のインピーダンスよりも大きい。また、慣性相当電流Iが正規電流Iよりも小さい場合は、慣性相当電流Iにより表される慣性力が正規電流Iにより表される減衰力に及ぼす悪影響の度合いが小さいので、斯かる悪影響を抑える必要性に乏しい。さらに、慣性相当キャパシタCmのインピーダンスが電気回路104のインピーダンスよりも大きい場合は、図15に示すように、電気式ショックアブソーバ30に入力されている振動の周波数がバネ上共振周波数付近であると考えられる。これらのことから、慣性相当電流Iが正規電流Iよりも小さい場合は電気式ショックアブソーバ30にバネ上共振周波数付近の振動が入力されている可能性が高く、斯かる場合には慣性相当電流Iにより表される慣性力が減衰力に及ぼす悪影響を抑える必要性に乏しいと言える。
この場合、本実施形態では、電気回路104に第1素子E1が接続される。第1素子E1のインピーダンスZ1の大きさは、上述したように、第1素子E1が電気回路104に接続されたときにモータ40および電気回路104に発電電流が流れることにより発生される減衰力によって、バネ上部材の振動が効果的に抑制されるように予め設定されている。したがって、バネ上共振周波数付近の振動が入力されているときは、電気式ショックアブソーバ30が所望の減衰力を発生することにより、バネ上部材の振動が速やかに減衰される。
慣性相当電流Iが正規電流Iよりも大きい場合は、慣性相当キャパシタCmのインピーダンスが電気回路104のインピーダンスよりも小さい。また、慣性相当電流Iが正規電流Iよりも大きい場合は、慣性相当電流Iにより表される慣性力が正規電流Iにより表される減衰力に及ぼす悪影響が大きいので、斯かる悪影響を抑える必要性が大きい。さらに、慣性相当キャパシタCmのインピーダンスが電気回路104のインピーダンスよりも小さい場合は、図15に示すように、電気式ショックアブソーバ30に入力されている振動の周波数がバネ下共振周波数付近であると考えられる。これらのことから、慣性相当電流Iが正規電流Iよりも大きい場合は電気式ショックアブソーバ30にバネ下共振周波数付近の振動が入力されている可能性が高く、斯かる場合には慣性相当電流Iにより表される慣性力が減衰力に及ぼす悪影響を抑える必要性が大きいと言える。
この場合、本実施形態においては、電気回路104に第2素子E2が接続される。第2素子E2のインピーダンスZ2の大きさは、上述したように、第2素子E2が接続された電気回路104のインピーダンスが慣性相当キャパシタCmのインピーダンスよりも小さくなるように、予め設定されている。したがって、バネ下共振周波数付近の振動が入力されているときは、電気回路104のインピーダンスが小さくされる。このためモータ40および電気回路104に多くの正規電流Iが流れ、慣性相当電流Iの大きさが相対的に低下する。慣性相当電流Iの大きさが相対的に低下することにより、慣性相当電流Iにより表される慣性力が、正規電流Iにより表される減衰力に及ぼす悪影響が低減される。その結果、バネ下共振周波数付近の振動に対するバネ上部材への振動伝達特性が改善される。
e.第5実施形態
図16は、本発明の第5実施形態に係る電気回路105の回路図である。この電気回路105は、第2素子E2の構成を除いて基本的に第4実施形態にて示した電気回路104と同じである。したがって、第2素子E2の構成のみを説明し、その他の構成の説明は省略する。
本実施形態の第2素子E2は、インダクタンス成分Lを有するコイルである。本実施形態では、電気回路105に第2素子E2が接続されている場合に、電気回路105と慣性相当キャパシタCmとにより構成される並列共振回路の反共振周波数がバネ下共振周波数もしくはバネ下共振周波数近傍の周波数として予め決められている目標周波数fとなるように、第2素子E2を構成するコイルのインダクタンスLが決められる。
バネ上部材とバネ下部材との接近動作および離間動作によりモータ40のロータが回転させられた場合、モータ40にて誘導起電力が発生し、モータ40および電気回路105に発電電流が流れる。発電電流が流れることにより、モータ40のロータの回転方向とは反対の方向に働くモータトルクが発生する。このモータトルクが、バネ上部材とバネ下部材の接近動作および離間動作により生じるバネ上部材とバネ下部材との間の振動に対する減衰力として作用する。電気回路105内での発電電流の流れ方については、上記第4実施形態で説明した電気回路104内での発電電流の流れ方と同じであるので、その説明は省略する。
本実施形態の電気式ショックアブソーバ30も、その伸縮に伴って回転するボールネジ軸36やモータ40のロータなどの回転体を含む。このため、モータ40および電気回路105には、減衰力の発生に寄与する発電電流および、これらの回転体の慣性力を表す慣性相当電流Iが流れる。慣性相当電流Iにより表される慣性力が減衰力に悪影響を及ぼす。その結果、バネ下共振周波数付近の振動に対するバネ上振動伝達特性が悪化する。
本実施形態では、バネ下共振周波数付近の振動に対するバネ上振動伝達特性を改善するために、慣性相当電流Iと、第1素子E1が電気回路105に接続されているときにモータ40および電気回路105に流れる発電電流(正規電流)Iとを演算するとともに、演算した慣性相当電流Iと正規電流Iとの大小関係に基づいて、スイッチSWの作動をサスペンションECU50が制御する。
サスペンションECU50がスイッチSWの作動を制御するために実行する制御ルーチンは、図13に示すスイッチ制御ルーチンと同じである。簡単に説明すると、サスペンションECU50は、モータ40にて発生する誘導起電力Vを求め、誘導起電力Vに基づき慣性相当電流Iを演算し、さらに、第1素子E1が接続された電気回路105に流れる正規電流Iを演算する。慣性相当電流Iと正規電流Iとを比較し、慣性相当電流Iが正規電流I未満である場合は、スイッチSWの端子aと端子bが接続されるように、スイッチSWに制御信号を出力する。慣性相当電流Iが正規電流I以上である場合は、スイッチSWの端子aと端子cが接続されるように、スイッチSWに制御信号を出力する。
慣性相当電流Iが正規電流Iよりも小さい場合は電気式ショックアブソーバ30にバネ上共振周波数付近の振動が入力されている可能性が高く、斯かる場合には慣性相当電流Iにより表される慣性力が減衰力に及ぼす悪影響を抑える必要性に乏しい。この場合、本実施形態では、電気回路105に第1素子E1が接続される。第1素子E1のインピーダンスZ1の大きさは、第1素子E1が電気回路105に接続されているときにモータ40および電気回路105に発電電流が流れることにより発生される減衰力によって、バネ上部材の振動が効果的に抑制されるように予め設定されている。したがって、バネ上共振周波数付近の振動が入力されているときは、電気式ショックアブソーバ30が所望の減衰力を発生することにより、バネ上部材の振動が速やかに減衰される。
慣性相当電流Iが正規電流Iよりも大きい場合は電気式ショックアブソーバ30にバネ下共振周波数付近の振動が入力されている可能性が高く、斯かる場合には慣性相当電流Iにより表される慣性力が減衰力に及ぼす悪影響を抑える必要性が大きい。この場合、本実施形態においては、第2素子E2が電気回路105に接続される。第2素子E2は、上述したように、第2素子E2が電気回路105に接続されたときに、電気回路105と慣性相当キャパシタCmとにより構成される並列共振回路の反共振周波数が、バネ下共振周波数またはバネ下共振周波数に近い周波数として予め定められた周波数に一致するために必要なインダクタンス成分Lを持つコイルである。したがって、バネ下共振周波数付近の振動が入力されているときは、電気回路105と慣性相当キャパシタCmとの間で反共振が起きる。反共振により、バネ下共振周波数付近における回路インピーダンスが増大し、電流がモータ40および電気回路105に流れ難くなる。これにより、慣性相当電流Iや正規電流Iが低減される。電気回路105に流れる正規電流Iが低減されることにより、電気式ショックアブソーバ30により発生される減衰力も低減される。つまり、バネ下共振周波数帯域の振動に対する減衰力が低減される。バネ下共振周波数帯域の振動に対する減衰力が低減されることにより、バネ下共振周波数帯域の振動が、バネ下部材のみのばたつきにより吸収される。バネ下部材のばたつきにより振動が吸収されることで、その振動がバネ上部材に伝達されることが抑制される。このため、バネ下共振周波数付近におけるバネ上振動伝達率が改善される。
f.第6実施形態
図17は、本発明の第6実施形態に係る電気回路106を示す回路図である。この電気回路106は、モータ40の第1通電端子t1と第2通電端子t2とを接続する主接続路Hを備える。主接続路Hには、外部抵抗器Rおよび電気回路106を開閉するスイッチSWが接続されている。このスイッチSWは、サスペンションECU50によりデューティー制御される。なお、図中、Lはモータインダクタンス、Rはモータ40の内部抵抗を、それぞれ示す。また、電気回路106には、慣性相当キャパシタCmが仮想的に並列接続されている。
バネ上部材とバネ下部材との接近動作および離間動作によりモータ40のロータが回転させられた場合、モータ40にて誘導起電力が発生し、モータ40および電気回路106に発電電流が流れる。発電電流が流れることにより、モータ40のロータの回転方向とは反対の方向に働くモータトルクが発生する。このモータトルクが、バネ上部材とバネ下部材の接近動作および離間動作により生じるバネ上部材とバネ下部材との間の振動に対する減衰力として作用する。電気回路106を発電電流がどのように流れるかについては、上記第3実施形態で説明した発電電流の流れ方と同じであるので、その説明は省略する。
本実施形態の電気式ショックアブソーバ30も、その伸縮に伴って回転するボールネジ軸36やモータ40のロータなどの回転体を含む。このため、モータ40および電気回路106には、減衰力の発生に寄与する発電電流および、これらの回転体の慣性力を表す慣性相当電流Iが流れる。慣性相当電流Iにより表される慣性力が減衰力に悪影響を及ぼす。その結果、バネ下共振周波数付近の振動に対するバネ上振動伝達特性が悪化する。
本実施形態では、バネ下共振周波数付近の振動に対するバネ上振動伝達特性を改善するため、慣性相当電流Iと発電電流Iとを演算するとともに、演算した慣性相当電流Iと発電電流Iとの大小関係に基づいて、スイッチSWをサスペンションECU50がデューティー制御する。
図18は、サスペンションECU50が実行するデューティー制御ルーチンの一例を示すプログラムである。デューティー制御ルーチンが起動すると、サスペンションECU50は、まず、回転角センサ63からモータ40(ロータ)の回転角θを入力する(S60)。次いで、入力したモータ回転角θを時間微分することにより、モータ回転角速度ωを演算する(S61)。続いて、モータ回転角速度ωにモータトルク定数Kを乗じることにより、誘導起電力Vを演算する(S62)。次に、誘導起電力Vを時間微分し、その微分値に慣性相当キャパシタCmの静電容量Cを乗じることにより、慣性相当キャパシタCmに流れる慣性相当電流Iを演算する(S63)。
次に、サスペンションECU50は、上記第4実施形態にて説明した正規電流Iの演算手法と同様の演算手法により、電気回路106を流れる発電電流I演算する(S64)。続いて、慣性相当電流Iが発電電流I以上であるか否かを判断する(S65)。慣性相当電流Iが発電電流I未満である場合(S65:No)、サスペンションECU50は、スイッチSWのデューティー比αを100%に設定し、設定したデューティー比αで作動するようにスイッチSWに制御指令を出力する(S67)。その後、このルーチンを一旦終了する。一方、慣性相当電流Iが発電電流I以上である場合(S65:Yes)、サスペンションECU50は、スイッチSWのデューティー比αを例えば50%に設定し、設定したデューティー比αで作動するようにスイッチSWに制御指令を出力する(S66)。その後、このルーチンを一旦終了する。
本実施形態においては、慣性相当電流Iが発電電流I以上であるときに、スイッチSWのデューティー比を小さくすることにより、モータ40および電気回路106を流れる慣性相当電流および発電電流が低減される。発電電流が低減された場合、減衰力も低減する。また、慣性相当電流Iが発電電流I以上であるときは、バネ下共振周波数付近の振動が入力されていると考えられる。したがって、バネ下共振周波数付近の振動に対する減衰力が低減される。バネ下共振周波数帯域の振動に対する減衰力を低減することで、バネ下共振周波数帯域の振動が、バネ下部材のみのばたつきにより吸収される。バネ下部材のばたつきにより振動が吸収されることにより、その振動がバネ上部材に伝達されることが抑制される。このため、バネ下共振周波数付近におけるバネ上振動伝達率が改善される。
以上、本発明の様々な実施形態について説明した。各実施形態は、電気式ショックアブソーバ30により減衰力が発生されるサスペンション装置において、電気式ショックアブソーバ30に含まれる回転体の慣性力が減衰力に及ぼす影響を除去あるいは低減するための手段を提供する。具体的には、各実施形態は、モータ40およびモータ40に接続された電気回路100に流れる慣性相当電流Iを低減するように、電気回路100の電気的特性を調整する電気特性調整手段を備えるサスペンション装置1を提供する。
電気特性調整手段として、第1実施形態は、モータ40に設けられる通電端子のうち第2通電端子t2に接続される非反転入力端子(+)と、第1通電端子t1に接続される反転入力端子(−)と、出力端子Oとを有する演算増幅器OPと、入力抵抗Rinと、帰還抵抗Rと、を備えた反転増幅回路120と、出力端子Oに接続された慣性補償キャパシタCpと、を備える構成を開示する。この構成によれば、慣性補償キャパシタCpに、慣性相当電流Iとは逆相の電流が流れる。この逆相電流が電気回路101に供給されることにより、慣性相当電流Iが低減され、あるいは打ち消される。その結果、バネ下共振周波数付近におけるバネ上振動伝達特性が改善される。
第2実施形態は、電気回路102に抵抗値が可変な外部抵抗器VR1,VR2が接続され、電気特性調整手段が、車両の運動状態に基づいて電気式ショックアブソーバ30により発生される減衰力の目標値である目標減衰力を演算する目標減衰力演算手段(S20)と、目標減衰力に基づいて、電気式ショックアブソーバ30が目標減衰力を発生するために電気回路102に必要な外部抵抗値である必要抵抗値Rを演算する必要抵抗値演算手段(S21)と、外部抵抗器VR1,VR2の抵抗値によって、必要抵抗値Rと必要インダクタンスLとの合成インピーダンスが表されるように、外部抵抗器VR1,VR2の抵抗値を補正する抵抗値補正手段(S22,S24,S25)と、を備える構成を開示する。必要インダクタンスLは、電気回路102とこの電気回路102に仮想的に並列接続された慣性相当キャパシタCmとにより構成される並列共振回路の反共振周波数がバネ下共振周波数またはバネ下共振周波数に近い周波数として予め定められた周波数と一致するために電気回路102が持つべき外部インダクタンスとして予め求められている。この構成によれば、振動周波数がバネ下共振周波数付近の周波数であるときに、電気回路102と慣性相当キャパシタCmとにより構成される並列共振回路に反共振が起きる。反共振により電気回路102に電流が流れ難くなり、慣性相当電流Iや、減衰力に寄与する発電電流が低減される。その結果、バネ下共振周波数付近におけるバネ上振動伝達特性が改善される。
第3実施形態は、電気特性調整手段が、誘導起電力と、慣性相当キャパシタCmの静電容量とに基づいて、慣性相当キャパシタCmに流れる慣性相当電流Iを演算する慣性相当電流演算手段(S33)と、慣性相当電流Iと大きさが同じで逆相の電流である慣性補償電流Iを電気回路103に供給する慣性補償電流供給装置300と、を備える構成を開示する。この構成によれば、慣性相当電流Iとは大きさが同じで逆相の電流が電気回路103に供給される。供給された逆相電流により、慣性相当電流Iが低減され、あるいは打ち消される。その結果、バネ下共振周波数付近におけるバネ上振動伝達特性が改善される。
第4および第5実施形態は、電気特性調整手段が、慣性相当電流Iと、第1素子E1が電気回路104(105)に接続されたときにモータ40および電気回路104(105)に流れる発電電流である正規電流Iとの大小に応じて、接続状態切り替え装置SWの作動を制御する構成を開示する。具体的には、電気特性調整手段が、慣性相当電流Iが正規電流Iよりも小さいときには、第1素子E1と電気回路104(105)とが接続され、慣性相当電流Iが正規電流Iよりも大きいときには、第2素子E2と電気回路104(105)とが接続されるように、接続状態切り替え装置SWの作動を制御する構成を開示する。
第4実施形態によれば、慣性相当電流Iが正規電流Iよりも大きいときに、第2素子E2と電気回路104とが接続されることにより、電気回路104のインピーダンスが慣性相当キャパシタCmのインピーダンスよりも小さくされる。よって、慣性相当キャパシタCmに流れる慣性相当電流Iが低減される。その結果、バネ下共振周波数付近におけるバネ上振動伝達特性が改善される。
第5実施形態によれば、慣性相当電流Iが正規電流Iよりも大きいときに、第2素子E2と電気回路105とが接続されることにより、振動周波数がバネ下共振周波数付近の周波数であるときに、電気回路105と慣性相当キャパシタCmとにより構成される並列共振回路に反共振が起きる。反共振により電流がモータ40および電気回路105に流れ難くなる。その結果、バネ下共振周波数付近におけるバネ上振動伝達特性が改善される。
第6実施形態は、前記電気特性調整手段が、慣性相当電流Iが発電電流Iよりも小さいときには、スイッチSWのデューティー比を100%に設定し、慣性相当電流Iが発電電流Iよりも大きいときには、電気式ショックアブソーバ30により発生される減衰力が所定の減衰力以下となるように、スイッチSWのデューティー比を予め設定されたデューティー比に設定する構成を開示する。この構成によれば、慣性相当電流Iが正規電流Iよりも大きいときに、スイッチSWがデューティー制御されることによりモータ40および電気回路106に流れる電流が低減される。その結果、バネ下共振周波数付近におけるバネ上振動伝達特性が改善される。
本発明は、上記実施形態に開示された事項に限定して解釈されるものではない。例えば、上記実施形態の電気式ショックアブソーバはモータおよびボールネジ機構(動作変換機構)を備えているが、このような専用の動作変換機構は必ずしも必要ではない。動作変換機構を必要としない電気式ショックアブソーバとして、例えば、電動スタビライザ装置を想定することができる。電動スタビライザ装置は、モータにより発生される力により車両のロールを抑える機能を有する。車両のロールはバネ上部材とバネ下部材とが接近または離間することにより生じる。つまり、電動スタビライザ装置は、バネ上部材とバネ下部材との接近動作および離間動作により生じるロール振動を抑える電気式ショックアブソーバと捉えることができる。また、電動スタビライザ装置のモータのロータには、車両のロール運動がスタビライザバーを介して回転運動として直接伝達される。したがって、バネ上部材とバネ下部材との接近動作および離間動作をロータの回転動作に変換するための専用の動作変換機構を必要としない。このような動作変換機構を備えていない電気式ショックアブソーバ装置にも、本発明を適用することができる。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、変形可能である。

Claims (9)

  1. 車両のサスペンション装置において、
    車両のバネ上部材とバネ下部材とのいずれか一方に連結されたステータおよび前記ステータに対して回転するロータを有するモータを備え、前記バネ上部材と前記バネ下部材との接近動作および離間動作により前記ロータが回転させられることにより発生する誘導起電力によって前記モータに誘導電流が流れることにより、減衰力を発生するショックアブソーバと、
    前記モータに設けられる2つの通電端子間を電気的に接続した電気回路と、
    前記モータに流れる電流であり、少なくとも前記ロータを含み前記バネ上部材と前記バネ下部材との接近動作および離間動作に伴い回転する回転体の慣性力を表す慣性相当電流が低減するように、前記電気回路の電気的特性を調整する電気特性調整手段と、
    を備えることを特徴とする、サスペンション装置。
  2. 請求の範囲1に記載のサスペンション装置において、
    前記電気特性調整手段は、
    前記モータに設けられる通電端子のうち一方の通電端子に接続される非反転入力端子と、他方の通電端子に接続される反転入力端子と、出力端子とを有する演算増幅器と、入力抵抗と、帰還抵抗と、を備えた反転増幅回路と、
    前記出力端子に接続された慣性補償キャパシタと、を備えることを特徴とする、サスペンション装置。
  3. 請求の範囲2に記載のサスペンション装置において、
    前記反転増幅回路の増幅率は1に設定され、
    前記慣性補償キャパシタは、前記回転体の慣性に相当する静電容量を持つことを特徴とする、サスペンション装置。
  4. 請求の範囲1に記載のサスペンション装置において、
    前記電気特性調整手段は、前記電気回路と、この電気回路に仮想的に並列接続され前記回転体の慣性力に相当する静電容量を持つ慣性相当キャパシタと、によって構成される並列共振回路の反共振周波数が、バネ下共振周波数またはバネ下共振周波数に近い周波数として予め定められた周波数と一致するように、前記電気回路の電気的特性を調整することを特徴とする、サスペンション装置。
  5. 請求の範囲4に記載のサスペンション装置において、
    前記電気回路には、抵抗値が可変な外部抵抗器が接続され、
    前記電気特性調整手段は、
    前記ショックアブソーバにより発生される減衰力の目標値である目標減衰力を演算する目標減衰力演算手段と、
    前記目標減衰力に基づいて、前記ショックアブソーバが前記目標減衰力を発生するために前記電気回路が持つべき外部抵抗値である必要抵抗値を演算する必要抵抗値演算手段と、
    前記外部抵抗器の抵抗値によって、前記必要抵抗値と、前記反共振周波数がバネ下共振周波数またはバネ下共振周波数に近い周波数として予め定められた周波数と一致するために前記電気回路が持つべき外部インダクタンスとして予め求められている必要インダクタンスと、の合成インピーダンスが表されるように、前記外部抵抗器の抵抗値を補正する抵抗値補正手段と、
    を備えることを特徴とする、サスペンション装置。
  6. 請求の範囲1に記載のサスペンション装置において、
    前記電気特性調整手段は、
    前記誘導起電力と前記回転体の慣性に相当する静電容量とに基づいて、前記慣性相当電流を演算する慣性相当電流演算手段と、
    前記演算された前記慣性相当電流と逆相の電流である慣性補償電流を、前記電気回路に供給する慣性補償電流供給手段と、
    を備えることを特徴とする、サスペンション装置。
  7. 請求の範囲1に記載のサスペンション装置において、
    第1のインピーダンスを持つ第1素子と、
    第2のインピーダンスを持つ第2素子と、
    前記第1素子と前記電気回路との接続と、前記第2素子と前記電気回路との接続とを、選択的に切り替える接続状態切り替え装置と、を備え、
    前記第1のインピーダンスは、前記第1素子が前記電気回路に接続されたときに発生する減衰力によって、前記バネ上部材の振動が抑制されるように、予め設定されたインピーダンスであり、
    前記第2のインピーダンスは、前記第2素子が前記電気回路に接続されたときに、前記電気回路のインピーダンスが前記回転体の慣性に相当する静電容量により表されるインピーダンスよりも小さくなるように、予め設定されたインピーダンスであり、
    前記電気特性調整手段は、前記慣性相当電流が、前記第1素子が前記電気回路に接続されたときに前記電気回路に流れる前記誘導電流である正規電流よりも小さいときには、前記第1素子と前記電気回路とが接続され、前記慣性相当電流が前記正規電流よりも大きいときには、前記第2素子と前記電気回路とが接続されるように、前記接続状態切り替え装置の作動を制御することを特徴とする、サスペンション装置。
  8. 請求の範囲1に記載のサスペンション装置において、
    第1のインピーダンスを持つ第1素子と、
    第2のインピーダンスを持つ第2素子と、
    前記第1素子と前記電気回路との接続と、第2素子と前記電気回路との接続とを、選択的に切り替える接続状態切り替え装置と、を備え、
    前記第1のインピーダンスは、前記第1素子が前記電気回路に接続されたときに発生する減衰力によって、前記バネ上部材の振動が抑制されるように、予め設定されたインピーダンスであり、
    前記第2のインピーダンスは、前記第2素子が前記電気回路に接続されたときに、前記電気回路とこの電気回路に仮想的に並列接続され前記回転体の慣性に相当する静電容量を持つ慣性相当キャパシタとによって構成される並列共振回路の反共振周波数が、バネ下共振周波数またはバネ下共振周波数に近い周波数として予め定められた周波数と一致するために必要なインピーダンスであり、
    前記電気特性調整手段は、前記慣性相当電流が、前記第1素子が前記電気回路に接続されたときに前記電気回路に流れる前記誘導電流である正規電流よりも小さいときには、前記第1素子と前記電気回路とが接続され、前記慣性相当電流が前記正規電流よりも大きいときには、前記第2素子と前記電気回路とが接続されるように、前記接続状態切り替え装置の作動を制御することを特徴とする、サスペンション装置。
  9. 請求の範囲1に記載のサスペンション装置において、
    前記電気回路に接続される外部抵抗器と、
    前記電気回路を開閉するように作動可能なスイッチと、
    前記スイッチをデューティー制御するデューティー制御手段と、を備え、
    前記電気特性調整手段は、前記慣性相当電流が前記誘導電流よりも小さいときには、前記スイッチのデューティー比を100%に設定し、前記慣性相当電流が前記誘導電流よりも大きいときには、前記ショックアブソーバにより発生される減衰力が所定の減衰力以下となるように、前記スイッチのデューティー比を予め設定されたデューティー比に設定することを特徴とする、サスペンション装置。
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