JP4986076B2 - 応答制御システム - Google Patents
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Description
非特許文献1に示される発電式振動抑制装置は、特に宇宙空間での機器の微小振動の抑制を目的として、発電機の両端子間における負荷抵抗を変えることにより可変減衰力を発生させるものではあるが、これを付加しても振動系の固有振動数は変化するものではないので、これをそのまま建物等の構造物に適用しても十分な効果は得られないし、様々な振動系に対して広く適用できるものでもない。
以上のように、電磁誘導作用を利用した有効適切なダンパー機構やそれを利用した有効適切な応答制御システムについては、現時点では原理的な提案がなされているに過ぎず、実用化されるに至っていないのが実状である。
換言すると、直流発電機構を電気的に制御する電気回路における抵抗器、コイル、コンデンサーの容量を直流発電機構の特性に応じて適正に設定することのみで、機械振動の諸元である減衰係数、バネ剛性、慣性質量を設置したことと同じ効果が得られ、かつそれらの諸元を適正に設定することができることになる。
したがって本発明によれば、付加振動系をチューンドマスダンパー(TMD:動吸振器)として機能せしめて主振動系の共振特性を改善したり、あるいは付加振動系を振動遮断機構として機能せしめて特定周波数帯域における振動遮断特性を改善することができるし、LCR回路の構成によって1つのダンパー機構で高次(複数)モードの共振特性の改善や高次(複数)モードの振動遮断特性を得ることも可能である。
勿論、直流発電機構を電気回路により制御するといえどもあくまでパッシブな制御であって、電気回路の各諸元を設定すること以外は何らの制御や操作を必要とせず、当然に制御用あるいは操作用の電源を一切必要としない。
しかも、それらの電子部品としては高品質かつ信頼性に優れるものを安価にかつ容易に入手し得ることはもとより、たとえば可変抵抗器やバリコン(可変容量器)といった可変特性のものを自由に使用できることから、ダンパー機構としての特性や性能を自由にかつ幅広くコントロールすることが可能である。
まず、図1を参照して本発明の基本原理を説明する。
図1(a)において符号A、Bは互いに離接する方向に相対振動する構造体であり、符号1はそれら構造体A,Bからなる主振動系に対して付加される付加振動系としてのダンパー機構である。
この場合、直流モーター2に生じる起電力は回転軸の回転速度に比例するものであり、したがってその起電力はボールねじ機構4を介して直流モーター2に伝達される主振動系の加振速度x・に比例するものとなる。
なお、加振速度は本来は図1(a)に示すようにxの上部に・が付く記号で表すべきものであるが、本文中では便宜的に上記のようにx・として表すこととする。このことは請求項1での記載および他の記号についても同様とする。
したがってこのボールねじ機構4は、構造体A,B間に互いに離接する方向の相対振動が生じた際には、ボールナット6がボールねじ軸5に対して軸方向に変位し、それによりボールねじ軸5が強制的に回転せしめられてそれに連結されている直流モーター2の回転軸が回転せしめられるようになっている。つまり、ボールねじ機構4は主振動系の振動を回転運動に変換して直流モーター2に伝達するものであり、それにより直流モーター2の回転軸を強制回転させて発電機として機能せしめて起電力を生じさせるものである。
なお、ボールねじ軸5と直流モーター2との間にたとえば遊星歯車を用いた増速ギア等による適宜の増速機構を設置することにより、主振動系の振動を増速して直流モーター2に伝達するようにしても良い。
すなわち、主振動系の振動によりダンパー機構1(付加振動系)に軸方向変位が生じると、ボールねじ機構4を介して直流モーター2の回転軸が回転せしめられ、電磁誘導作用により直流モーター2が発電機として機能して起電力(電圧)が生じる。
その起電力による生じる電流値IはLCR回路からなる電気回路3(モーター負荷回路)により制御され、電流値Iに応じたトルクがダンパー反力(抵抗力F)としてボールねじ機構4を介して主振動系に伝達され、その抵抗力Fが制動力として作用してダンパー変位(主振動系の振動)に対する制動効果が得られるのである。
直流モーター2に生じる起電力Eは加振速度x・に比例するから、その起電力Eは係数K1を用いて次式で表される。
ここで、係数K1は加振速度x・に対する起電力Eの比を表す比例定数(単位:V・s/m)であるが、これは直流モーター2とボールねじ機構4とによる機構の特性値(増速機構を設ける場合にはその特性も含む)として一義的に定まる定数である。
すなわち、この付加振動系は、図1(c)に示すように、コイルのインダクタンスLに反比例するバネ剛性kを有するバネ要素と、抵抗器の抵抗値Rに反比例する減衰係数cを有する粘性減衰ダンパーと、コンデンサーのキャパシタンスCに比例する慣性質量ψを有する慣性質量ダンパーを備えたダンパー機構として機能するものである。
換言すれば、コイルのインダクタンスL、コンデンサーのキャパシタンスC、抵抗器の抵抗値Rを、直流モーター2とボールねじ機構4(および増速機構)の特性値として定まる上記の係数K1、K2を用いてそれぞれ次式の関係により決定することにより、付加振動系をバネ剛性kのバネ要素、慣性質量ψの慣性質量要素、減衰係数cの減衰要素を備えたダンパー機構として機能せしめることができることになる。
このことは、慣性質量のないコンデンサーが質量効果を生み、粘性減衰をもたない抵抗器が減衰効果を生み、バネ剛性をもたないコイルが剛性を生むことを意味する。
そして、それら各要素を自由に組み合わせることで、機械装置としての実態のない単なる電気回路3を直流モーター2(直流発電機構)に接続するだけで、主振動系に対する優れた応答制御効果が得られる機構を構成できることになる。
このように、電気回路図におけるコイル、コンデンサー、抵抗を、対応するバネ、慣性質量、粘性減衰に置換して同じ配列にした機械振動モデルと等価になる。
図2(a)に示すように、支持構造体に対してバネ剛性ksを介して構造体が相対振動する状態で支持されている主振動系に対し、上記のダンパー機構を付加振動系として設置する。
そして、付加振動系の固有振動数f0および減衰定数h0を次式の関係により決定し、付加振動系の固有振動数f0を構造体の固有振動数f1に同調させることにより、付加振動系はTMD(チューンドマスダンパー:動吸振器)として機能し、構造体の固有振動数帯域での共振特性を大幅に改善することができる。
この場合、直流モータの特性としての係数K1は K1=0.074×(2π/0.005)×5=465V・s/m、係数K2は K2=(0.074/0.94)×(2π/0.005)×5=495N/Aである。
構造体の質量m=10ton、構造体のバネ剛性ks=99kN/cm、減衰定数h=0.01とする。
構造体の固有振動数f1=5Hzであり、したがって付加振動系のダンパー機構の固有振動数f0=f1=5Hz、ω0=2πf0=31.4rad/sである。
コンデンサーのキャパシタンスC=4.35mFとすると、それに等価な慣性質量ψ=CK1K2=1001N・s2/m となる。
直流モーターの内部抵抗を含む回路の電気抵抗R=3.0Ωとすると、それに等価な減衰係数c=(1/R)K1K2=76700N・s/m=767N/kineとなり、慣性質量に対する等価減衰係数h0=1.22となる。
コイルのインダクタンスL=230mHとすると、それに等価なばね剛性k=(1/L)K1K2=10kN/cmとなる。
特に電子部品としては高品質かつ信頼性に優れるものを安価にかつ容易に入手し得ることはもとより、たとえば可変抵抗器やバリコン(可変容量器)といった可変特性のものを採用すれば、ダンパー機構としての特性や性能を自由にかつ幅広くコントロールすることが可能である。すなわち、本実施形態のようにTMDとして機能させる場合における固有振動数の同調作業はコンデンサー容量を可変にすることで容易に行うことができるし、最適な減衰を付与するための調整も可変抵抗器により容易に行うことができる。勿論、それらの調整はダンパー設置時のみならず設置後の適宜の時期やメンテナンス時にも行うことができるし、必要に応じて再調整や変更も自由に行うことができる。
上記の第1実施形態において直列接続しているコイルとコンデンサーとを図3(a)に示すように複数並列接続することにより、1台のダンパー機構により1次だけでなく高次の固有振動数における共振特性も同時に抑制できるTMDとすることができる。
具体的には、付加振動系の各次の固有振動数fi(iは次数。i=1,2,‥)と各次の減衰定数h0iを、共振特性を改善したい振動数に同調させるべく、次式により決定する。fiの設定について等号としないのは減衰効果によりfiをやや高振動数側にして同調させることが有利であるからである。
構造体の水平固有振動数は、1次:2.2Hz、2次:6.3Hz、3次:9.0Hzであり、1次に対する構造減衰はh=0.02とする。
3次モードの影響は小さいので無視して1次モードと2次モードのみを対象として制御することとし、直流モーターについての係数α=K1K2=2.3kNΩ/kineとする。
ψ1=10tonとし、したがってC1=ψ1/α=44mFとする。k1’=25kN/cmとし、したがってL1=α/k1’=92mHとする。R=0.5Ωとする。ψ2=10tonとし、したがってC2=ψ2/α=44mFとする。k2’=390kN/cmとし、したがってL2=α/k2’=5.9mHとする。
なお、抵抗Rについては(a)に示すようにLC直列回路を並列したものに対して直列に1つだけ設置すれば良いが、あるいは(b)に示すように各LC直列回路のそれぞれに対して抵抗Rを各コンデンサーに並列に設置しても良い。
従来のTMDによることでも同様の機能をもたせることは可能であるが、その場合には各々の対象振動数に対応した質量とバネから構成される複数のTMDを並列する必要があった。それに対し本実施形態では、電気回路の設定のみで1台のダンパーにより複数の振動数に対応したTMD機構を実現でき、したがって従来のTMDによる場合に比べてローコストで同等ないしそれ以上の効果が得られ、設置台数やスペースも少なくて済む利点がある。
それに加えて、本発明ではコイルとコンデンサーとを並列接続することも可能であり、その場合にはTMDとしてではなく特定の振動数帯域における振動遮断効果を得るための振動遮断機構として適用することも可能であり、以下、図4を参照してそれについて説明する。
図4(a)に示すようにコイルとコンデンサーとを並列接続した場合にも、その付加振動系は(b)に示すように、コイルのインダクタンスLに反比例するバネ剛性kを有するバネ要素と、抵抗器の抵抗値Rに反比例する減衰係数cを有する粘性減衰ダンパーと、コンデンサーのキャパシタンスCに比例する慣性質量ψを有する慣性質量ダンパーを備えたダンパー機構として機能するものであるが、この場合における直流モーターによる抵抗力Fは次式となる。式中のα=K1K2である。
以下、そのような振動遮断機構として適用する場合の具体的な実施形態について説明する。
図5に示すように、コイルとコンデンサーとを並列接続したLC並列回路によるダンパー機構を付加振動系として構造体剛性k1と並列に設置し、主振動系と付加振動系の遮断振動数f0および付加振動系の減衰定数h0を次式により決定する。
コンデンサーのキャパシタンスC=21.8mFとすると、それに等価な慣性質量ψ=5tonとなる。コイルのインダクタンスL=23mHとすると、それに等価なばね剛性k=100kN/cmとなる。抵抗値R=0.35Ωとすると、それに等価な減衰係数c=6.6KN/kineとなる。
等価減衰係数h0=2.0とし、構造減衰はh=0.01とする。
なお、この応答倍率は固定端から加振したときの加振振幅に対する構造体振幅の比であるが、Maxwelの相反定理から(c)に示すように構造体を加振したときの加振力に対する固定端反力の比F/Pも同じとなる。
上記第3実施形態におけるLC並列回路をさらに直列接続することにより、複数の遮断振動数をもつダンパーとなる。
すなわち、図6(a)に示すように、LC並列回路を各次の遮断振動数に対応させて複数直列接続し、かつ付加振動系および主振動系の各次の遮断振動数pfiと、付加減衰系の各次の減衰定数h0iを、次式の関係により決定する。
主振動系の固有振動数f1=5Hzの場合において、主振動系における構造体剛性k1 を無視(k1=0)した場合、L1、C1の設定によりpf1=7.1Hz(ξ1=pf1/f1=1.42)を1次遮断振動数として設定し、L2、C2の設定によりpf2=12.71Hz(ξ2=pf2/f1=2.54)を2次遮断振動数として設定することにより、図中の破線で示すようにそれら1次遮断振動数および2次遮断振動数の双方において振動遮断効果が得られることが分かる。
従来においてこのように2つの振動数で振動遮断特性を持たせるためには、2層の遮断層を直列に設けるしかなかったが、本発明によれば電気回路の設定のみで1台のダンパーによりそれを実現することができ、たとえば免震層に設置して建物の固有1次振動数と機器の固有振動数の両方を遮断するといったことが可能となる。また、当然ながらLC並列回路を3つ以上設けて3つ以上の振動モードに対応することも可能である。
なお、直流発電機構として直流モーターを使用する場合においては、整流子の数が多く、速度一定時(加速度ゼロ時)の電圧変動が小さいタイプのものを用いることが好ましい。速度一定時に電圧変動が生じると、コンデンサーに電流が流れてコイルの磁力により抵抗力が生じてしまうことから、慣性質量ダンパーとしての特性が上述した等価モデルからずれてしまうことが想定され、好ましくない。
また、上記実施形態のように直流発電機構と伝達機構との間に増速機構を設けることが好ましく、それにより直流発電機構の発電効率を向上させることができ、かつ大きな抵抗力を主振動系に伝達できるが、増速機構も必須ではなく不要であれば省略しても良い。
いずれにしても、伝達機構や増速機構を設ける場合にあっては、電気回路の諸元の決定に際しては直流発電機構の特性のみならず伝達機構や増速機構の特性も考慮した係数K1,K2を用いれば良い。
1 ダンパー機構(付加振動系)
2 直流モーター(直流発電機構)
3 電気回路
4 ボールねじ機構(伝達機構)
5 ボールねじ軸
6 ボールナット
7 軸受け
Claims (8)
- 相対振動する少なくとも2つの構造体からなる主振動系に対して付加振動系を設置し、主振動系の振動により付加振動系に生じる抵抗力Fを制動力として応答を制御するパッシブ型の応答制御システムであって、
前記付加振動系を、主振動系の振動によって加振されることにより電磁誘導作用によって加振速度x・(・はxの上部に付く)に比例する起電力Eを生じる直流発電機構と、該直流発電機構に付設されて該直流発電機構に流れる電流値Iを制御することによって該電流値Iに比例して生じる抵抗力Fを制御する電気回路とにより構成し、
かつ、前記電気回路をコイルとコンデンサーと抵抗器とから構成するとともに、前記コイルのインダクタンスL、前記コンデンサーのキャパシタンスC、前記抵抗器の抵抗値Rを、前記直流発電機構の特性値としての前記加振速度x・に対する前記起電力Eの比である係数K1、および前記電流値Iに対する前記抵抗力Fの比である係数K2を用いてそれぞれ次式の関係により決定することにより、前記付加振動系を等価なバネ剛性kのバネ要素、慣性質量ψの慣性質量要素、減衰係数cの減衰要素を備えたダンパー機構として機能せしめることを特徴とする応答制御システム。
- 請求項1記載の応答制御システムであって、
前記付加振動系を主振動系の固有振動数帯域における共振特性を改善するためのチューンドマスダンパーとして機能せしめるべく、前記電気回路におけるコイルとコンデンサーとを直列接続し、かつ前記付加振動系の固有振動数を主振動系の固有振動数に同調させることを特徴とする応答制御システム。 - 請求項2記載の応答制御システムであって、
前記付加振動系を主振動系の各次の固有振動数帯域における共振特性を改善するためのチューンドマスダンパーとして機能せしめるべく、前記電気回路におけるコイルとコンデンサーとを直列接続するとともに、その直列接続回路を各次の固有振動数帯域に対応させて複数並列接続し、かつ前記付加振動系の各次の固有振動数を主振動系の各次の固有振動数に同調させることを特徴とする応答制御システム。 - 請求項1記載の応答制御システムであって、
前記付加振動系を主振動系の特定の振動数帯域に対する振動遮断機構として機能せしめるべく、前記電気回路におけるコイルとコンデンサーとを並列接続し、かつ前記付加振動系と前記主振動系の共振振動数を遮断振動数に同調させることを特徴とする応答制御システム。 - 請求項4記載の応答制御システムであって、
前記付加振動系を主振動系の各次の振動数帯域に対する振動遮断機構として機能せしめるべく、前記電気回路におけるコイルとコンデンサーとを並列接続するとともに、その並列接続回路を各次の振動数帯域に対応させて複数直列接続し、かつ前記付加振動系と前記主振動系の各次の共振振動数を各次の遮断振動数に同調させることを特徴とする応答制御システム。 - 請求項1〜5のいずれか1項に記載の応答制御システムであって、
前記付加振動系における前記直流発電機構として、主振動系の振動により回転軸が回転せしめられて起電力を生じる直流モーターを用いることを特徴とする応答制御システム。 - 請求項6記載の応答制御システムであって、
主振動系の振動を直流発電機構としての直流モーターに対して伝達するための伝達機構としてボールねじ機構を用い、該ボールねじ機構によって主振動系の振動を回転運動に変換して前記直流モーターの回転軸を回転させ、かつ該直流モーターに生じる抵抗力を前記ボールねじ機構を介して主振動系に伝達することを特徴とする応答制御システム。 - 請求項7記載の応答制御システムであって、
伝達機構としてのボールねじ機構と直流発電機構としての直流モーターとの間に増速機構を設置し、該増速機構により主振動系の振動を増速して前記直流モーターに伝達し、かつ該直流モーターの抵抗力を前記増速機構により拡大して主振動系に伝達することを特徴とする応答制御システム。
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