以下、本発明の一実施形態に係る車両のサスペンション装置について図面を用いて説明する。図1は、同実施形態に係る車両のサスペンション装置のシステム構成を概略的に示している。
このサスペンション装置は、各車輪WFL、WFR、WRL、WRRと車体Aとの間にそれぞれ設けられる4組のサスペンション本体10FL、10FR、10RL、10RRと、各サスペンション本体10FL、10FR、10RL、10RRの作動を制御する電子制御ユニット50とを備えている。以下、4組のサスペンション本体10FL、10FR、10RL、10RRおよび車輪WFL、WFR、WRL、WRRについては、特に前後左右を区別する場合を除いて、単にサスペンション本体10および車輪Wと総称する。
サスペンション本体10は、図2に示すように、車輪Wを支持するロアアームLAと車体Aとの間に設けられ、空気の弾性(圧縮性)を利用して路面から受ける衝撃を吸収し乗り心地を高めるとともに車体Aの重量を弾性的に支持するサスペンションばねとしてのエアばね装置20と、エアばね装置20の上下振動に対して減衰力を発生させるショックアブソーバとして機能する電磁式ショックアブソーバ30とを並列的に備えて構成される。以下、エアばね装置20の上部側、つまり車体A側を「ばね上部」と呼び、エアばね装置20の下部側、つまり車輪W側を「ばね下部」と呼ぶ。
電磁式ショックアブソーバ30は、同軸状に配置されるアウタシリンダ31およびインナシリンダ32と、インナシリンダ32の内側に設けられるボールねじ機構35と、ボールねじ機構35の動作によりロータ(図示略)が回されて誘導起電力を発生する電動モータ40(以下、単にモータ40と呼ぶ)とを備える。本実施形態においては、モータ40として、ブラシ付DCモータが用いられる。
アウタシリンダ31とインナシリンダ32とは、同軸異径パイプで構成され、インナシリンダ32の外周に軸方向へ摺動可能にアウタシリンダ31が設けられる。図中、符号33,34は、アウタシリンダ31内にインナシリンダ32を摺動可能に支持する軸受である。
ボールねじ機構35は、モータ40のロータと一体的に回転するボールねじ36と、ボールねじ36に形成された雄ねじ部分37に螺合する雌ねじ部分38を有するボールねじナット39とからなる。ボールねじナット39は、図示しない回り止めにより、その回転運動ができないように規制されている。従って、このボールねじ機構35においては、ボールねじナット39の上下軸方向の直線運動がボールねじ35の回転運動に変換され、逆に、ボールねじ36の回転運動がボールねじナット39の上下軸方向の直線運動に変換される。
ボールねじナット39の下端は、アウタシリンダ31の底面に固着されており、ボールねじ36に対してアウタシリンダ31を軸方向に相対移動させようとする外力が加わると、ボールねじ36が回転してモータ40を回転させる。このときモータ40は、そのロータに設けた電磁コイル(図示略)が、ステータに設けた永久磁石(図示略)から発生する磁束を横切ることによって、電磁コイルに誘導起電力を発生させて発電機として働く。
インナシリンダ32の上端は、取付プレート41に固定される。この取付プレート41は、モータ40のモータケーシング42に固定されるとともに、その中央に形成した貫通孔43にボールねじ36が挿通される。ボールねじ36は、モータケーシング42内においてモータ40のロータと連結されるとともに、インナシリンダ32内の軸受44によって回転可能に支持される。
エアばね装置20は、電磁式ショックアブソーバ30の外周に設けられるもので、モータケーシング42の外周を囲む円筒状の上部ケース21と、アウタシリンダ31の外周面を囲む下部ケース22と、両ケース21,22を気密状態で連結するゴムを主成分としたダイアフラム23とを備え、これらのケース21,22とダイアフラム23とによりアウタシリンダ31、インナシリンダ32、モータケーシング42の外周に空気室24を形成する。上部ケース21および下部ケース22は、それぞれモータケーシング42およびアウタシリンダ31の外周面に気密的に溶接固定されることで、空気室24を密閉状態にする。
上部ケース21には、この空気室24内に空気を供給したり空気室24内から空気を排出したりする給排口としてのノズル25が設けられる。このノズル25には、図1に示すように、給排装置80からの高圧空気流路となる給排気管81が接続され、ノズル25からの給排気により空気室24内の空気圧が調整されるようになっている。
車両が走行中にばね下部(車輪W側)が上下動する場合は、インナシリンダ32に対してアウタシリンダ31が軸方向に摺動してエアばね装置20が伸縮することにより、路面から受ける衝撃を吸収し乗り心地を高めるとともに車両の重量を支持する。このとき、ボールねじナット39がボールねじ36に対して上下動してボールねじ36を回転させる。このため、モータ40は、ロータが回転して電磁コイルに誘導起電力が発生し、後述する外部回路100を介して発電電流が流れることによりロータの回転を止めようとする抵抗力が発生する。この抵抗力が電磁式ショックアブソーバ30の減衰力として働く。減衰力の調整は、各電磁式ショックアブソーバ30ごとに設けられた外部回路100によりモータ40の電磁コイルに流れる電流の大きさを調整することで可能となる。
次に、サスペンション本体10の作動を制御する構成について説明する。サスペンション装置は、外部回路100と給排装置80の作動を制御する電子制御ユニット(以下、ECUと呼ぶ)50を備えている。ECU50は、マイクロコンピュータを主要部として備え、その機能に着目すると、外部回路100のスイッチング制御により電磁式ショックアブソーバ30のモータ40に流れる電流量を調整して減衰力を制御するアブソーバ制御部51と、給排装置80の制御によりエアばね装置20に供給される空気量を調整して車高を制御するエアばね制御部52とに大別される。アブソーバ制御部51は、モータ40の回転角度に関連する情報等を記憶する不揮発性メモリ51aを備えている。
ECU50には、ばね上部とばね下部との上下方向の離間距離(以下、ストロークSと呼ぶ)を各車輪Wの位置においてそれぞれ検出するストロークセンサ61が接続されている。また、ECU50には、各電磁式ショックアブソーバ30のモータ40の回転角度を検出する回転角センサ62が接続されている。この回転角センサ62は、各モータ40のロータの回転角度(回転角度位置)を表す信号を出力するもので、例えば、エンコーダやレゾルバ等を使用することができる。以下、回転角センサ62により検出されたモータ40のロータの回転角度を、モータ回転角度θmと呼ぶ。また、ECU50は、CAN(Controller Area Network)通信システムと接続され、CAN通信線を介して車両の各種情報を取得できるようになっている。本実施形態においては、ECU50は、CAN通信線を介して車速Vxを表す情報を取得する。
次に、図3を用いて、外部回路100について説明する。外部回路100は、ばね上部(車体A側)とばね下部(車輪W側)との相対運動によりモータ40のロータがボールねじ機構35を介して回されたとき、モータ40で発生した誘導起電力により、モータ40の通電端子間(第1端子t1と第2端子t2との間)に発電電流が流れることを許容する回路であり、また、モータ40の誘導起電力(誘起電圧)が大きいときには、発電電流の一部を蓄電装置110に流して蓄電装置110充電する回路でもある。図中において、Rmはモータ40の内部抵抗、Lmはモータインダクタンスを表す。この図では、Rm,Lmをモータ40の表示記号Mの外に記載しているが、実際には、Rm,Lmは、第1端子t1と第2端子t2との間に存在するものである。
外部回路100は、モータ40の第1端子t1と第2端子t2とを、a点とb点とにおいて電気的に結ぶ配線abと、c点とd点とにおいて電気的に結ぶ配線cdとを備えている。尚、図中において、配線については、各点(a,b,c…)を結ぶ線であるため、その符号の表示を省略している。配線abには、a点からb点に向かう方向の電流の流れを許容しb点からa点に向かう方向の電流の流れを阻止する第1ダイオードD1と、b点からa点に向かう方向の電流の流れを許容しa点からb点に向かう方向の電流の流れを阻止する第2ダイオードD2とが設けられている。配線cdには、c点側から順に、第1スイッチング素子SW1,第1抵抗器R1,第2抵抗器R2,第2スイッチング素子SW2が直列に設けられている。第1抵抗器R1,第2抵抗器R2は、減衰力を設定する固定抵抗器である。本実施形態においては、第1スイッチング素子SW1,第2スイッチング素子SW2としてMOS−FETを使用するが他のスイッチング素子を使用することもできる。第1スイッチング素子SW1,第2スイッチング素子SW2は、それぞれゲートがECU50のアブソーバ制御部51に接続され、アブソーバ制御部51からのPWM(Pulse Width Modulation)制御信号により設定されるデューティ比でオンオフ作動するように構成されている。尚、本明細書におけるデューティ比とは、オンデューティ比、つまり、パルス信号のオン時間とオフ時間とを足し合わせた時間に対するパルス信号のオン時間の比を表す。
また、第1端子t1とa点とは、配線t1aにより電気的に連結され、第2端子t2とb点とは、配線t2bにより電気的に連結されている。配線t1aには、電流センサ111が設けられている。電流センサ111は、モータ40に流れる電流を検出して、通電方向を示す情報を含めた測定値ixを表す検出信号をECU50のアブソーバ制御部51に出力する。
また、配線abにおける第1ダイオードD1と第2ダイオードD2との間のe点と、配線cdにおける第1抵抗器R1と第2抵抗器R2との間のf点とは、配線efにより電気的に連結されている。第1スイッチング素子SW1と第1抵抗器R1との接続点となるg点には、車載電源バッテリとして設けられた蓄電装置110への充電路となる第1充電路giが分岐して設けられる。また、第2スイッチング素子SW2と第2抵抗器R2との接続点となるh点には、蓄電装置110への充電路となる第2充電路hiが分岐して設けられる。第1充電路giと第2充電路hiとは、i点と蓄電装置110の正極jとを結ぶ主充電路ijにi点で接続されている。また、f点と蓄電装置110の負極kとはグランドラインkfにより接続されている。尚、蓄電装置110には、車両内に設けられた各種の電気負荷が接続されている。
第1充電路giには、g点からi点に向かう方向の電流の流れを許容しi点からg点に向かう方向の電流の流れを阻止する第3ダイオードD3が設けられる。また、第2充電路hiには、h点からi点に向かう方向の電流の流れを許容しi点からh点に向かう方向の電流の流れを阻止する第4ダイオードD4が設けられる。つまり、外部回路100から蓄電装置110への充電を許容し、蓄電装置110から外部回路100への放電を阻止するように充電回路が構成されている。
次に、外部回路100の動作について説明する。モータ40は、ばね上部とばね下部との相対運動によりボールねじ機構35を介してロータが回されると、その回転方向に応じた向きに誘導起電力を発生する。例えば、ばね上部とばね下部とが接近して電磁式ショックアブソーバ30が圧縮される圧縮動作時においては、モータ40の第1端子t1が高電位となり第2端子t2が低電位となる。逆に、ばね上部とばね下部とが離れて電磁式ショックアブソーバ30が伸ばされる伸長動作時においては、モータ40の第2端子t2が高電位となり第1端子t1が低電位となる。
従って、電磁式ショックアブソーバ30が圧縮される圧縮動作時においては、c点、f点、e点、b点を通って、第1端子t1から第2端子t2に発電電流が流れる第1接続路cfebが形成される。また、電磁式ショックアブソーバ30が伸ばされる伸長動作時においては、d点、f点、e点、a点を通って、第2端子t2から第1端子t1に発電電流が流れる第2接続路dfeaが形成される。つまり、電磁式ショックアブソーバ30の圧縮動作と伸長動作とで発電電流の流れる回路が異なるように構成されている。この例では、第1抵抗器R1が、第1端子t1から第2端子t2に流れる発電電流に対する抵抗となり、第1スイッチング素子SW1が、第1端子t1から第2端子t2に流れる発電電流の大きさ(通電量)を調整する電流調整器として機能する。また、第2抵抗器R2が、第2端子t2から第1端子t1に流れる発電電流に対する抵抗となり、第2スイッチング素子SW2が、第2端子t2から第1端子t1に流れる発電電流の大きさ(通電量)を調整する電流調整器として機能する。
モータ40の電磁コイルに発電電流が流れることにより、モータ40に発電ブレーキが働き、これによりボールねじナット39とボールねじ36との相対回転を抑制する。つまり、ばね上部とばね下部との相対運動を抑制する減衰力が発生する。また、発電電流の大きさを調整することにより減衰力を調整することができる。従って、第1抵抗器R1の抵抗値と第1スイッチング素子SW1のデューティ比にて圧縮動作に対する減衰力を設定でき、第2抵抗器R2の抵抗値と第2スイッチング素子SW2のデューティ比にて伸長動作に対する減衰力を設定できる。つまり、電磁式ショックアブソーバ30の圧縮動作方向と伸長動作方向とに対して、独立して減衰力を設定することができる。本実施形態においては、第1抵抗器R1の抵抗値は、第2抵抗器R2の抵抗値よりも大きくされており、基本的には、圧縮動作に対する減衰力が、伸長動作に対する減衰力よりも小さくなるように設定されている。
また、このような減衰力の調整は、各輪ごとに電磁式ショックアブソーバ30の外部回路100のスイッチング制御により独立して行うことができるものである。
また、モータ40で発生する誘導起電力は、モータ回転速度が大きくなるほど大きくなる。そして、誘導起電力(誘起電圧)が蓄電装置110の出力電圧(蓄電電圧)を越えると、モータ40で発電された電力の一部が蓄電装置110に回生される。例えば、電磁式ショックアブソーバ30の圧縮動作時であれば、発電電流がg点で2方向に分流し、一方は、そのまま第1接続路cfebを流れ、他方は、第1充電路giに流れる。従って、第1充電路giに流れた発電電流により蓄電装置110が充電される。また、電磁式ショックアブソーバ30の伸長動作時であれば、発電電流がh点で2方向に分流し、一方は、そのまま第2接続路dfeaを流れ、他方は、第2充電路hiに流れる。従って、第2充電路hiに流れた発電電流により蓄電装置110が充電される。
次に、エアばね装置20により車高調整を行う構成について説明する。エアばね装置20は、図1に示すように、給排装置80からの高圧空気流路となる給排気管81が接続され、給排装置80の作動により空気室24内の空気圧が調整されることにより、車輪Wと車体Aとの離間距離を調整する。これにより、車高が調整される。
給排装置80は、ポンプ85と、ポンプ85を駆動するポンプモータ86と、給気と排気とを切り換える電磁式の切替弁87とを備えている。切替弁87は、2位置切替弁であって、第1位置においては、ポンプ85の高圧側(吐出側)と主給排気管82とを連通するとともにポンプ85の低圧側(吸入側)と低圧配管83とを連通し、第2位置においては、ポンプ85の高圧側と低圧配管83とを連通するとともにポンプ85の低圧側と主給排気管82とを連通する。主給排気管82は、途中で4本に分岐し、この分岐した給排気管81が各エアばね装置20のノズル25に接続されている。また、給排気管81にはそれぞれ電磁式の開閉弁84(常閉弁)が設けられている。低圧配管83の先端側は、フィルタ(図示略)を介して大気開放されている。
この給排装置80は、ECU50のエアばね制御部52により制御される。エアばね制御部52は、給排装置80を駆動するための駆動回路(図示略)を備えており、ストロークセンサ61により検出されるストロークSに基づいて、駆動回路を制御してポンプモータ86、切替弁87、開閉弁84を駆動する。本実施形態のサスペンション装置においては、運転者の操作によって車高を変更するための車高変更スイッチ90が設けられており、設定車高を運転者の好みに応じて選択できるようになっている。そして、エアばね制御部52は、車高変更スイッチ90により設定された車高に基づいて給排装置80を駆動制御する。車高は、ストロークセンサ61により検出されるストロークSに対応した値となるため、以下、ストロークセンサ61により検出されるストロークSから求められた車高を実車高と呼ぶ。また、車高変更スイッチ90により設定された車高を設定車高と呼び、エアばね制御部52により制御される車高の目標値を目標車高と呼ぶ。目標車高は、後述する目標車高変更制御ルーチンにより、設定車高の近傍範囲内において変更される。尚、目標車高の初期値は、設定車高に設定される。
エアばね制御部52は、ストロークセンサ61により検出した実車高と目標車高とを比較し、実車高が目標車高よりも低い場合には、切替弁87を第1位置にした状態でポンプモータ86を駆動するとともに各開閉弁84を開弁する。これにより、圧縮エアがエアばね装置20の空気室24に供給され車高が上がっていく。エアばね制御部52は、4輪ごとにストロークセンサ61により実車高を検出し、実車高が目標車高になると、その車輪Wに対応する開閉弁84を閉弁する。そして、4輪の実車高が全て目標車高に達するとポンプモータ86の作動を停止する。
また、実車高が目標車高よりも高い場合には、切替弁87を第2位置にした状態でポンプモータ86を駆動するとともに各開閉弁84を開弁する。これにより、エアばね装置20の空気室24内の空気がポンプ85により吸引されて排出され車高が下がっていく。エアばね制御部52は、4輪ごとにストロークセンサ61により実車高を検出し、実車高が目標車高になると、その車輪Wに対応する開閉弁84を閉弁する。そして、4輪の実車高が全て目標車高に達するとポンプモータ86の作動を停止する。尚、こうしたエアばね装置52により車高調整制御は、予め設定されている禁止条件が成立しているときには実行されないようになっている。
次に、ECU50のアブソーバ制御部51が行う減衰力制御処理について説明する。図4は、アブソーバ制御部51の実行する減衰力制御ルーチンを表すフローチャートである。この減衰力制御ルーチンは、アブソーバ制御部51のROM内に制御プログラムとして記憶されており、各輪の電磁式ショックアブソーバ30ごとに独立して実行される。減衰力制御ルーチンは、イグニッションスイッチがオンされてからオフされるまでの間、所定の短い周期で繰り返し実行される。
減衰力制御ルーチンが起動すると、アブソーバ制御部51は、ステップS11において、ストロークセンサ61により検出されるばね上部とばね下部との上下方向の離間距離であるストロークSを読み込み、そのストロークSを時間で微分処理してストローク速度Vsを計算する。このとき、バンドパスフィルタ処理を行ってストローク速度信号からバネ上共振周波数域成分(例えば、0.1Hz〜3.0Hz)を抽出してストローク速度Vsを求めるとよい。
続いて、アブソーバ制御部51は、ステップS12において、ストローク速度Vsの方向(符号)から、電磁式ショックアブソーバ30が圧縮動作している状態か否かを判断する。電磁式ショックアブソーバ30が圧縮動作している場合(S12:Yes)には、ステップS13において、目標減衰力F*をF*=C1・Vsとして計算し、電磁式ショックアブソーバ30が伸長動作している場合には、ステップS14において、目標減衰力F*をF*=C2・Vsとして計算する。このC1,C2は、目標減衰係数であって、圧縮動作に対する減衰力を伸長動作に対する減衰力よりも小さくするために、減衰係数C1は、減衰係数C2よりも小さく設定されている。
続いて、アブソーバ制御部51は、ステップS15において、目標減衰力F*が得られるための発電電流値である目標電流i*を計算する。目標電流i*は、目標減衰力F*をトルクに換算し、その値をモータトルク定数で除算することにより求められる。尚、目標電流i*は、電磁式ショックアブソーバ30の伸縮動作を妨げる方向に発電電流を流して減衰力を発生させるものであるため、その通電方向は、電磁式ショックアブソーバ30の動作方向に応じて異なる。つまり、電磁式ショックアブソーバ30の圧縮動作時であれば、第1端子t1から第1接続路cfebを通って第2端子t2に流れる向きとなり、電磁式ショックアブソーバ30の伸長動作時であれば、第2端子t2から第2接続路dfeaを通って第1端子t1に流れる向きとなる。
続いて、アブソーバ制御部51は、ステップS16において、電流センサ111により検出される実電流ixを読み込む。次に、ステップS17において、目標電流i*と実電流ixの偏差Δi(=i*−ix)に基づくフィードバック制御(例えば、PID制御)により、実電流ixが目標電流i*と等しくなるように、第1スイッチング素子SW1あるいは第2スイッチング素子SW2にPWM制御信号を送ってデューティ比を調整する。この場合、アブソーバ制御部51は、電磁式ショックアブソーバ30の圧縮動作時であれば第1スイッチング素子SW1のデューティ比を調整することにより、電磁式ショックアブソーバ30の伸長動作時であれば第2スイッチング素子SW2のデューティ比を調整することにより、モータ40に流れる発電電流が目標電流i*と等しくなるように制御する。尚、デューティ比を調整しない側のスイッチング素子(圧縮動作時であれば第2スイッチング素子SW2,伸長動作時であれば第1スイッチング素子SW1)については、デューティ比を例えば0%に固定しておけばよい。
アブソーバ制御部51は、こうした減衰力制御ルーチンを所定の短い周期で繰り返す。従って、電磁式ショックアブソーバ30の圧縮方向と伸長方向とでそれぞれ適した特性の減衰力を発生させることができる。
ところで、減衰力発生用のモータ40としてブラシ付モータを使用する場合、ブラシ部(ブラシと整流子)において、特定の整流子が集中して摩耗してしまうおそれがある。これは、サスペンションばね(本実施形態においては、エアばね装置20)により車高が決まるため、車両停止時においてブラシと整流子とが同じモータ回転角度で接触しやすく、乗員の乗降による振動やエンジンの振動等が電磁式ショックアブソーバ30に伝達されると、モータ40がその回転角度を中心として正逆回転するため、ブラシと擦れあう頻度が特定の整流子において高くなるからである。
例えば、図6に示すように、車高が設定車高となっているときのモータ40の回転角度(回転位置)を基準回転角度θm0とすると、上記の振動等により、その基準回転角度θm0を中心とした所定角度±αの範囲(αは振幅により変化する)において、ロータRoが正逆回転する。このため、モータ40の回転角度が基準回転角度θm0となっているときにブラシBrに接触する整流子Co、および、その整流子Coに所定角度範囲内(±α)で隣接する整流子CoがブラシBrと擦れ合う頻度が高くなる。尚、図6においては、モータ40の回転角度を、ロータRoの設定ポイントPrと回転中心Oとを結ぶ回転基準線RLが、ステータの設定ポイントPsと回転中心Oとを結ぶ固定基準線SLに対してなす角度として説明している。図6に示す例では、基準回転角度θm0は90°となる。
そこで、本実施形態においては、車両が停止しているときの、モータ40の回転角度をサンプリングし、そのサンプリングした回転角度の度数分布が平均化するように、つまり、ブラシと擦れ合う整流子が特定の整流子に集中しないように目標車高を設定車高から変更する。
図5は、アブソーバ制御部51の実行する目標車高変更制御ルーチンを表すフローチャートである。この目標車高変更制御ルーチンは、アブソーバ制御部51のROM内に制御プログラムとして記憶されており、各輪の電磁式ショックアブソーバ30ごとに独立して実行される。目標車高変更制御ルーチンは、上述した減衰力制御ルーチンと並行して、イグニッションスイッチがオンされてからオフされるまでの間、所定の短い周期で繰り返し実行される。
目標車高変更制御ルーチンが起動すると、アブソーバ制御部51は、ステップS20において、CAN通信線を介して車速Vxを読み込む。続いて、車速Vxがゼロか否か、つまり、車両が停止しているか否かを判断する。車両が停止していない場合には、目標車高変更制御ルーチンを一旦終了する。目標車高変更制御ルーチンは、所定の短い周期で繰り返される。従って、車両が停止するまで待機することになる。ステップS21において、車両が停止したことが検出されると、アブソーバ制御部51は、ステップS22において、モータ回転角度θmをサンプリングするタイミングか否かを判断する。モータ回転角度θmをサンプリングするタイミングは、予め、所定時間ごとに行うように設定されている。本実施形態においては、車両の停止を検出してから1分おきにモータ回転角度θmをサンプリングするように設定されている。本実施形態では、車両の停止を検出して所定時間経過したときを初回のサンプリングタイミングとするが、車両の停止を検出した時点を初回のサンプリングタイミングとしてもよい。
ステップS21において、最初に「Yes」と判断された場合には、車両の停止直後であり、車両停止から所定時間(例えば、1分)経過していないため、まだモータ回転角度θmのサンプリングタイミングではない。この場合には、目標車高変更制御ルーチンを一旦終了する。こうした処理が繰り返され、車両の停止状態が所定時間継続したことが確認されると、モータ回転角度θmのサンプリングタイミングとなる(S22:Yes)。この場合、アブソーバ制御部51は、ステップS23において、カウント値Tが予め設定した設定値Tmaxに達したか否かを判断する。このカウント値Tは、モータ回転角度θmのサンプリング回数を表し、不揮発性メモリ51aに記憶されている。従って、このステップS23においては、不揮発性メモリ51aからカウント値Tを読み込んで判断する。尚、カウント値Tの初期値は「0」である。
アブソーバ制御部51は、カウント値Tが設定値Tmaxに達していない場合(S23:No)は、ステップS24において、回転角センサ62により検出されるモータ回転角度θmを読み込む。続いて、ステップS25において、図7に示すように、設定車高に対応する基準モータ回転角度θm0と回転角センサ62により検出されたモータ回転角度θmとの角度差β(=θm−θm0)を算出し、その算出した角度差βを不揮発性メモリ51aに記憶する。
この処理を実行するにあたって、アブソーバ制御部51は、エアばね制御部52から、現在の設定車高を表す情報を取得し、その設定車高に対応するモータ回転角度である基準モータ回転角度θm0を設定する。車高とモータ回転角度とは1対1の関係を有するため、設定車高に対応するモータ回転角度は一義的に決まる。アブソーバ制御部51は、車高変更スイッチ90により設定可能な設定車高と、その設定車高に対応するモータ回転角度との関係を表す関連付けデータを予めROM等に記憶しており、その関連付けデータを参照して、現在の設定車高に対応する基準モータ回転角度θm0を求める。尚、アブソーバ制御部51は、後述するように、エアばね制御部52に対して目標車高の変更指令を出力するが、この時点においては、まだ目標車高の変更指定を出力していないため、エアばね制御部52は、設定車高を目標車高として車高制御している。
アブソーバ制御部51は、ステップS25において角度差βを算出して不揮発性メモリ51aに記憶すると、続くステップS26において、カウント値Tを「1」だけインクリメントして、インクリメントした値を新たなカウント値Tとして不揮発性メモリ51aに記憶更新する。そして、目標車高変更制御ルーチンを一旦終了する。
こうした目標車高変更制御ルーチンが繰り返し実行されると、車両が停止しているあいだ、所定の周期でモータ回転角度θmが読み込まれ、設定車高に対応する基準モータ回転角度θm0とモータ回転角度θmとの角度差βが不揮発性メモリ51aに記憶される。従って、不揮発性メモリ51aには、角度差βの情報(角度情報)が蓄積されていく。図8は、不揮発性メモリ51aに記憶された角度差βの度数分布例を表す。図中、横軸は角度差βを表し、縦軸は角度差βごとの検出回数つまり度数を表す。
尚、角度差βの情報(角度情報)を不揮発性メモリ51aに蓄積するにあたっては、角度差βを検出(計算)するたびにその角度差βを記憶蓄積してもよいし、角度差βを検出(計算)するたびに角度差βごとの検出回数を更新記憶するようにしてもよい。要するに、角度差βの度数分布が得られる角度情報であれば、どのような形態で角度情報を蓄積してもよい。
アブソーバ制御部51は、こうした処理を繰り返し、カウント値Tが設定値Tmaxに到達すると(S23:Yes)、つまり、不揮発性メモリ51aに蓄積された角度差βのデータ数が設定値Tmaxに到達すると、その処理をステップS27に進める。アブソーバ制御部51は、このステップS27において、角度差βの度数分布を作成し、この度数分布が平均化するように、つまり、角度差βの度数分布が特定の角度に集中することが低減されるように、目標車高の変更量ΔHを計算する。目標車高を変更すれば、その変更量ΔHに対応したモータ回転角度だけ度数分布がシフトする。従って、度数の高い領域が度数の低い領域に移動するように目標車高を変更すれば、角度差βの度数分布が特定の角度に集中することが低減される。
本実施形態においては、図9に示すように、角度差βの蓄積情報により得られた度数分布Z1(図8)に基づいて、この度数分布Z1を角度差βの軸方向に沿ってシフトさせた仮想度数分布Z2を設定し、この仮想度数分布Z2と度数分布Z1との重なり(図の度数分布Z1,Z2の領域の重なり面積)が最小となるシフト量Δθm(仮想度数分布Z2を度数分布Z1からシフトさせる角度)を算出し、このシフト量Δθmを車高に換算して車高変更量ΔHを求める。これは、目標車高を車高変更量ΔHだけ変更した場合、角度差βの度数分布が現時点の度数分布Z1に対してシフト量Δθmだけシフトしたものと予想されるため、この予想される度数分布を仮想度数分布Z2として、この仮想度数分布Z2と度数分布Z1との重なりを最小にすることで、角度差βの度数分布を最適に平均化することができるからである。
シフト量Δθmは、車高変更量ΔHに対応するものであるため、シフト量Δθmの大きさ(絶対値)を大きくすればするほど、目標車高が設定車高からずれてしまう。そこで、本実施形態においては、設定車高に対して許容される目標車高の変更幅が決められており、この車高許容範囲に対応したシフト量Δθmの許容範囲が予め設定されている(図9参照)。この例では、設定車高に対応する基準モータ回転角度θm0に対して、プラス側とマイナス側に同じ値だけの許容値を設定した許容範囲が設定される。従って、ステップS27においては、この許容範囲内においてシフト量Δθmが算出されることになる。
アブソーバ制御部51は、ステップS27において、車高変更量ΔHを算出すると、続くステップS28において、エアばね制御部52に対して、車高変更量ΔHを指示する車高変更指令を出力する。これにより、エアばね制御部52は、目標車高を車高変更量ΔHだけ変更する。従って、ブラシと擦れ合う整流子が特定のものに集中しなくなる。続いて、アブソーバ制御部51は、ステップS29において、不揮発性メモリ51aに記憶されているカウント値Tをゼロクリアして、目標車高変更制御ルーチンを一旦終了する。
こうして目標車高変更制御ルーチンが繰り返されることで、角度差βのデータが不揮発性メモリ51aに蓄積されていく。そして、角度差βのデータ数(カウント値T)が所定数(Tmax)だけ増加するたびに、角度差βの度数分布に基づいて、その度数分布が平均化するように、シフト量Δθmを計算し、そのシフト量Δθmに対応する車高変更量ΔHをエアばね制御部52に指令する。
以上説明した本実施形態のサスペンション装置によれば、ブラシ付モータを使った低コストの電磁式ショックアブソーバ30を用いて、圧縮動作と伸長動作とで独立した特性にて減衰力制御を行うことができる。従って、低コストにて良好な減衰制御を行うことができる。また、車両が停止しているときにモータ回転角度θmを繰り返しサンプリングし、基準モータ回転角度θm0とモータ回転角度θmとの角度差βを角度情報として蓄積し、角度差βの度数分布が平均化するように目標車高を変更する。これにより、モータ40の各整流子におけるブラシとの接触頻度が平均化される。この結果、モータ40のブラシ部の耐久性を向上させることができる。また、目標車高を変更するに際しては、予め設定した許容範囲内において行うように制限しているため、車高を適正範囲に維持することができる。
以上、本実施形態のサスペンション装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、本実施形態においては、モータ回転角度θmの度数分布を平均化する構成として、角度差βの度数分布が平均化するように目標車高を変更する構成を採用しているが、角度差βを算出せずに、モータ回転角度θmを表す情報を蓄積し、モータ回転角度θmの度数分布が平均化するように目標車高を変更する構成であってもよい。モータ回転角度θmを表す情報を蓄積するにあたっては、サンプリングしたモータ回転角度θmを記憶蓄積してもよいし、モータ回転角度θmごとのサンプリング回数を更新記憶してもよい。
また、本実施形態においては、電磁式ショックアブソーバ30は、モータ40の発電により減衰力を発生するものであるが、大きな減衰力を必要とする場合、あるいは、減衰力とは反対方向の力である推進力を必要とする場合に、電源装置(例えば、蓄電装置110)からモータ40に電源供給してモータ40の駆動力により減衰力あるいは推進力を発生させる構成を加えたものであってもよい。また、本実施形態においては、モータ40で発電した電力を車載電源バッテリに回生する構成であるが、各外部回路100内に蓄電装置を設け、発電電力で蓄電装置に充電するとともに、蓄電装置に蓄電された電力を利用してモータ40を駆動するようにしてもよい。
また、本実施形態においては、ストローク速度Vsに基づいて目標減衰力F*を設定しているが、例えば、スカイフックダンパ理論を用いるなど、目標減衰力F*の設定にあたっては種々の方式を採用することができる。