JPWO2011019036A1 - パルス電圧を用いた荷電粒子ビームの取り出し方法 - Google Patents

パルス電圧を用いた荷電粒子ビームの取り出し方法 Download PDF

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Abstract

【課題】パルス電圧を用いて、高速且つ安定的に荷電粒子ビームを取り出し、さらに取り出された荷電粒子ビームの強度を均一にし、高精度な照射線量の制御を可能にする荷電粒子ビームの取り出し方法を提供することを目的とする。【解決手段】上記課題を解決するために、本願発明は、荷電粒子ビームを加速する円形加速器において、加速された荷電粒子ビームの一部にパルス電圧を印加し、荷電粒子ビームの一部のみに運動量偏差を発生させ、荷電粒子ビームの進行方向に対する水平方向の位相空間内において、運動量偏差が大きい一部の荷電粒子を安定外領域かつ取り出し領域に位置させ、前記安定外領域かつ取り出し領域に位置した荷電粒子群を選択的に水平方向に大きく偏向させて取り出すことを特徴とする荷電粒子ビームの取り出し方法の構成とした。【選択図】図1

Description

本願発明は、シンクロトロンと呼ばれる円形加速器を主構成とする加速器に関し、より詳しくは加速された荷電粒子ビームの取り出し技術に関する。
従来から荷電粒子ビームの加速には、高周波加速空洞から発生する高周波電圧を用いたシンクロトロンがある。近年、誘導加速セルから発生する誘導電圧を用いた荷電粒子ビームの加速方法が開発された。そして加速された荷電粒子ビームは、物理実験や医療等に使用されてきた。
シンクロトロンでは荷電粒子ビームは、設計軌道をベータトロン振動しながら周回している。従来の加速された荷電粒子ビームの取り出しには、特許文献1の従来技術に記載のように荷電粒子ビームの水平方向(横方向、半径方向、或いはx方向などとも呼ぶ。)に生じる共鳴現象である「3次共鳴」が用いられてきた。
ここで、荷電粒子ビームの「水平方向」とは、シンクロトロンにおける荷電粒子ビームの軌道の周回面の半径が増加する方向を正と定める方向である。シンクロトロン内で荷電粒子ビームが周回しているとき、周回面の上から荷電粒子ビームの周回軌道を観察した場合、遠心力は水平方向の正側に働く。そのため周回ビームラインと取り出しビームラインが干渉しないよう、荷電粒子ビームの取り出し口は一般に周回軌道の外側に配置される。そして、荷電粒子ビームを取り出すときは、周回している荷電粒子ビームの内、最外側を周回する一部の粒子を取り出す。
従来から3次共鳴により荷電粒子ビームを周回軌道から取り出すためには、(1)荷電粒子ビームの進行方向のエネルギーを変化させること。(2)荷電粒子ビームを横方向の高周波電場により、共振周波数で振動させること。(2)6極電磁石の励磁によりベータトロン振動の安定領域を変化させること。の何れかが採用されてきた。
ここで、6極電磁石が発生する磁場は、荷電粒子ビームの水平方向の位相空間内での安定領域の大きさを規定し、前記磁場が大きいほど安定領域は小さくなる。また位相空間は、個々の荷電粒子が、基準粒子が描く設計軌道の中心に対する相対位置を横軸に、個々の荷電粒子の運動量偏差を縦軸に採用した平面として表することができ、荷電粒子ビーム挙動の説明において一般的に用いられる。
荷電粒子ビームが安定領域に留まれる条件として、水平方向位相空間内での各荷電粒子の座標、および進行方向の運動量偏差がともに影響することが分かっている。すなわち、位相空間内で同じ座標に位置する荷電粒子であっても、進行方向の運動量偏差が大きい場合、その荷電粒子に対する位相空間内での安定領域は小さいことが分かっている。
例えば、上述の(3)の荷電粒子ビームの取り出し方法に相当するものとして、特許文献1の発明が開示されている。特許文献1に記載の発明は、荷電粒子ビームの取り出し開始前にエミッタンスを増加させること(請求項1)。また、荷電粒子ビームの取り出し開始時の水平方向又は垂直方向のエミッタンスを、ビームのエネルギーによらず概ね一定にすること(請求項2)。さらに、加速開始時又は加速の途中から加速終了までの間、水平方向又は垂直方向のエミッタンスを概ね一定に保つこと(請求項3)を特徴とする。その原理を図8に示した。ここで、エミッタンスは理想荷電粒子の運動軌跡に対して実在の荷電粒子が個々に持つ運動量誤差に起因するビームの「位相空間的広がり」を意味する。
図8は、荷電粒子ビームのエネルギーを変化させて荷電粒子ビームを取り出す従来の荷電粒子ビームの取り出し方法の原理模式図であり、荷電粒子ビーム内運動偏差(Δp/p)を縦軸に、時間(t)を横軸として表した。
荷電粒子ビーム内運動偏差(Δp/p)とは、偏向磁場によって定まる、設計軌道を周回するエネルギーを有する荷電粒子(基準粒子)と、個々の荷電粒子における進行方向との運動量偏差(Δp)、基準粒子の進行方向の運動量(p)の比である。Tは基準粒子がシンクロトロンを1周するのに要する時間(周回周期)である。
図8に示すように、従来の荷電粒子ビームの取り出し方法では、高周波加速空洞から発生する高周波電圧2c(点線)で加速した荷電粒子ビーム6全体(点線)に、高周波加速空洞とは別に設けた高周波発生装置から高周波電圧6e(実線)を印可し、荷電粒子ビームの取り出し直前の荷電粒子群6a全体(実線)をさらに加速(上向き矢印)させることで、安定領域から安定外領域8aに外れた荷電粒子群6b(着色部分)を選択的に、例えば出射デフレクタなどで出射ライン4に取り出していた。
特許文献1の技術を含む従来からの荷電粒子ビームの取り出し方法では、図8に示すように何れも加速した荷電粒子ビームの全体に影響を与えるものであった。また荷電粒子ビームを取り出し状態に調整するまで時間を要し、さらに取り出された荷電粒子ビームの強度に大きな強度差があり、ビーム強度を一定にすることが困難であった。
従来の荷電粒子ビームの取り出し方法で、取り出した荷電粒子ビームのビーム強度[A]は、次の理由で一定にできなかった。
従来の高周波電圧(RF)を用いたシンクロトロンでは、高周波電圧が荷電粒子ビームの進行方向の閉じ込めと荷電粒子ビームの加速の両機能を担うことを前提としていた。また、水平方向の共鳴周波数は、偏向電磁石の磁場強度及び収束電磁石の磁場強度によって磁場強度を一定な状態を作ろうとしても、電源ノイズなどの影響により磁場強度が10−4オーダーの変動幅(図8安定外領域8a内の実線及び点線間の両矢印)で変動する。
さらに、荷電粒子ビームの取り出し条件は、荷電粒子ビーム内の荷電粒子のエネルギー誤差(運動量偏差)がある値以上であること、即ち、荷電粒子ビームは水平方向において、設計軌道から離れて周回していること、また磁場強度によって定まる共鳴周波数の小数部が1/3に達することを条件としていた。
従って、従来の荷電粒子ビームの取り出し方法では、(1)荷電粒子ビームのエネルギーを一定にして、即ち荷電粒子ビームを加速せず、6極電磁石の磁場強度を変化させる方法、
(2)6極電磁石の磁場強度を一定にして荷電粒子ビームを加速させる方法、(3)6極電磁石の磁場強度及び荷電粒子ビームのエネルギーを一定にして、水平方向の共鳴周波数で水平方向にさらに振動させる方法の何れかが用いられてきた。
しかし、前段落(1)、(2)の取り出し方法では、常に荷電粒子ビームが「共鳴条件」ぎりぎりに存在し、ノイズによる磁場の変動に伴い水平方向のベータトロン周波数も変動するため、磁場強度によって定まる共鳴周波数の小数部が1/3に達することの条件に合致する瞬間と合致しない瞬間がノイズによって定まっていた。ノイズは制御可能因子ではないため、前段落(1)、(2)の方法では時間的変動の激しいビーム強度しか得られなかった。
他方、前々段落(3)の方法においては、荷電粒子ビーム強度をある程度一定にすることは可能であったが、水平方向の共鳴周波数を変更するため高周波電圧を印加した後、荷電粒子ビームの振動が増大するのに時間を要していた(特許文献1)。
図8に示すように、従来荷電粒子ビームの取り出し方法では、荷電粒子ビーム全体を高周波加速空洞とは別の低い高周波電圧で加速するため、常に荷電粒子ビームの一部が共鳴条件(安定外領域8a)と接しており、かつ共鳴条件も上述のように変動している。さらに、荷電粒子ビームを共鳴条件(安定外領域8a)から外し設計軌道に戻すために多数の周回回数を必要としていた。
このように、ノイズにより取り出されてしまう従来の荷電粒子の共鳴条件の変動に基づく荷電粒子ビームの取り出し方法では、取り出し条件、即ち取り出される荷電粒子ビームのビーム強度を時間的に一定に制御することはできなかった。
図9は、従来の円形加速器における位相空間での荷電粒子の分布である。横軸xは、水平方向で、0が設計軌道、(+)方向が設計軌道の外側、(−)方向が設計軌道の内側である。縦軸x‘は水平方向の運動量に相当する軌道勾配x’=dx/dsであり、dxが設計軌道を原点とする実荷電粒子ビームの横方向位置、dsが進行方向の位置である。
荷電粒子ビームを構成する荷電粒子群はベータトロン振動をしながら周回しており、荷電粒子ビームがシンクロトロンを周回し続ける安定状態を継続してプロットすると、個々の荷電粒子はこの位相空間上に閉じた軌道(閉軌道)を描く。
ここで、シンクロトロンを周回する荷電粒子ビームは外力のない状態ではイオンが持つ電荷による斥力のためXおよびY方向のビームサイズが広がる。このため真空ダクト中を安定して周回できるよう4極電磁石によってビーム収束力を発生させている。
このとき荷電粒子ビームは斥力と収束力の関係からばね運動と同じ方程式で記述される振動運動をしながらシンクロトロン内を周回する。機械構造物に共振周波数が存在するのと同様の原理により、荷電粒子ビームにも特定の振動数を与えるとその振動振幅が時間とともに増大する共振周波数が存在する。
荷電粒子ビームの1周回中における横方向振動数をチューンと呼び、ビームにおける共振条件は、チューンの小数部が1/2、1/3、・・・1/nの分数になった場合に生じることが分かっている。
荷電粒子ビームを構成する荷電粒子はそれぞれ運動量と位置が少しずつ異なっており、共振の振幅を調節すると、荷電粒子ビーム中で周回方向のタイミング関係には影響を与えないが、共振条件を満たす荷電粒子のみその横方向振幅が増大し、取り出し軌道に達する。共振の振幅を調節するためには、4極電磁石や6極電磁石の電流を調節し、上記共振条件を発生させることによって達成される。
このとき、3次共鳴を用いて荷電粒子ビーム取出しを行う場合、荷電粒子ビームが安定して周回できる領域(安定領域)と振幅が増大する領域(不安定領域)は、荷電粒子ビームの位置と運動量によって振動周波数が異なることから、図9に示されるような3角形の領域によって分割される。3角形の内側が安定領域、外側が不安定領域である。チューンの小数部が1/3または2/3よりわずかに大きい状態で周回しているとき、荷電粒子ビームに与える磁場を一定に保ったまま荷電粒子ビームのエネルギーを増大させると、チューンは減少するため、図中の不安定領域が減少する。
従って、3次共鳴に近い状態では、荷電粒子ビームがシンクロトロンを3周するとこの位相空間のほぼ同じ座標に戻るように運動するため、安定領域は3角形に近い形状となる。荷電粒子ビームを構成する個々の荷電粒子は異なるΔp/pを持つ。
ベータトロン振動数はシンクロトロンを構成する偏向電磁石および収束電磁石の強度によって定まり、安定領域の大きさは6極磁石によって定まる。すなわち、ある荷電粒子が閉軌道を描くかどうかは、Δp/pが6極磁石で定まるある値以下であるかどうかで定まる。Δp/pと6極磁石強度をある値と仮定した場合における安定領域の限界が図9で定まる三角形の内側である。
なお、個々の荷電粒子が持つΔp/pが異なるため、Δp/pが増大すると安定領域は小さくなり、ある閾値値以上のΔp/pを持つ荷電粒子では、安定領域の大きさは0となる。すなわち、6極磁石の磁場を一定にした状態であっても、Δp/pがある値以上になればその荷電粒子は必ず取り出される。言い換えれば、安定領域の大きさは、個々の荷電粒子が持つΔp/pによって異なる。
図9において、点線で示した境界8dで囲まれた三角形(大)の内側が加速中の荷電粒子6d(黒ドット)の安定領域8bである。荷電粒子ビームの取り出しに際して、荷電粒子ビーム全体を高周波電圧6eで加速させると、荷電粒子6cは運動量を増し、安定領域は境界8fで囲まれた斜線で示した安定領域8c(Δp/p=0.003)に変化する。安定領域8cは、Δp/pの増加に伴って小さくなる。ここでは、便宜的にΔp/p=0.002を加速前の荷電粒子がもつ運動量偏差、Δp/p=0.003を加速後の荷電粒子がもつ運動量偏差とする。
前述の説明より、Δp/pの小さい荷電粒子6dにとっては安定領域8b内で閉軌道を描くため取り出されない。一方、安定外領域8aに位置する荷電粒子6dは、一点鎖線で示したように横方向の振動が次第に増大するため、軌道が外側へと膨らむ。シンクロトロン周回軌道上のある箇所には、横方向のある位置以上の領域だけに電場を生じさせ、その領域に飛び込んだ荷電粒子の軌道を横方向に大きく偏向させる出射デフレクタが設置されている。
なお、電場を生じさせる領域(取り出し領域8e)は出射デフレクタの設計時に定められる。安定外領域8aに位置する荷電粒子6dは取り出し領域8eに入り、出射ライン4に取り出される。他方、安定領域8c内の荷電粒子6cは、シンクロトロン中を周回し続け、Δp/pを高周波電圧6eでさらに増加させることで取り出されることになる。
特許文献1の荷電粒子ビームの取り出し方法を実現する高周波加速空洞を用いた加速器を図10に特許文献1と名称、符号、その他一部変更して示した。
図10に示すように、従来の加速器1aは、入射ライン3と、シンクロトロン2nと、出射ライン4と、ビーム利用ライン5からなる。
入射ライン3は、イオン源で発生させた荷電粒子を所定速度まで加速させる前段加速器3aと、荷電粒子を輸送管3cを介してシンクロトロン2n内に入射させる入射器3bなどから構成される。
シンクロトロン2nは、入射された荷電粒子ビーム6を加速し、加速した荷電粒子ビームを3次共鳴を利用して出射ライン4に出射する円形加速器である。シンクロトロン2nは、荷電粒子ビーム6を真空ダクト内部の設計軌道2aに保つ偏向電磁石2iと、収束力又は発散力を持つ四極電磁石である収束電磁石2j又は発散電磁石2kと、高周波電圧2cで荷電粒子ビーム6の閉じ込めと加速をする高周波加速空胴2bと、荷電粒子ビーム6の取り出しに際して荷電粒子ビーム6を加速する高周波電圧6eを印可する高周波加速空洞2bと異なる高周波電圧印可装置2m及び共鳴励起用の多極電磁石である6極電磁石8などから構成される。荷電粒子ビーム6は、設計軌道2aの周囲をベータトロン振動しながら周回する。
出射ライン4は、出射用デフレクタ等の出射器4aと輸送管4bなどから構成されている。ビーム利用ライン5は、実験室、医療現場である。座標系は荷電粒子ビーム6の周回方向をs、水平方向をx(外側を+、内側を−とする)、垂直方向をyとする。
他方、誘導加速セルを用いた荷電粒子ビームの加速方法として特許文献2〜6の技術が開示されている。特許文献2は、閉じ込め用と加速用の2種の誘導加速セルから荷電粒子ビームに印加される誘導電圧によって、あらゆる種類のイオンの閉じ込めと加速を可能にする加速方法を提供するものである。また、イオン源による取り出しエネルギーがシンクロトロンで周回可能な最低エネルギー以上であれば、前段加速器を不要にできる特長を持つ。
特許文献3〜6では、それぞれ誘導加速セルから印加される誘導電圧の発生タイミングを制御する方法、誘導電圧の発生タイミングを制御し荷電粒子ビームの周回軌道を制御する方法、誘導電圧を荷電粒子ビームに印加してシンクロトロン振動周波数を制御する方法を提供するものである。
特許文献6は、一組の誘導加速装置から印加される同一の矩形の正の誘導電圧及び同一の矩形の負の誘導電圧からなる誘導電圧の発生タイミングを制御し、荷電粒子ビームを加速する方法を提供するものである。
しかしながら、誘導加速セルから発生される誘導加速電圧(パルス電圧)を利用し、加速された荷電粒子ビームを取り出す方法についての検討はされていない。
ここで、粒子線治療において、投与線量は荷電粒子ビーム電流の時間積分に比例する量である。荷電粒子ビームの照射野は、放射線照射を意図する3次元的空間領域である。必要な投与線量が不正確または目的とする照射野内で不均一である場合、或いは投与線量が過剰の場合には重篤な副作用を生じる確率が増大する。他方投与線量が不足した場合には照射部位からの腫瘍再発を生じる確率が増大する。
すなわち、粒子線治療においては、意図する投与線量を過不足なく正確かつ均一に照射することが求められるため、短時間に高線量を投与するためには、荷電粒子ビーム強度を時間的に制御できることが極めて重要である。
シンクロトロンから取り出された荷電粒子ビームのサイズは数センチメートルの直径であるため、大きな照射面積を必要とする粒子線治療装置では、荷電粒子ビームは、取り出しビームライン5に設置されたワブラー電磁石とよばれる回転磁場によって偏向させ、照射面積を拡大してターゲットに照射する。
本方式はワブラー照射法と呼ばれている。回転磁場の回転周波数は100Hz以下であるため、ビーム強度が時間的に安定しない荷電粒子ビームの取り出し方法を採用する場合、治療照射では荷電粒子ビームを回転磁場の開始点を変化させながら何度も繰り返して照射することで、照射野内の投与線量を均一化する必要があった。従って、荷電粒子ビーム照射治療において、ビーム強度が時間的に安定しないことが根本的な原因となって治療時間が増大し、患者にとって極めて大きな負担となっていた。
また、他の荷電粒子ビームの照射法として、ブラウン管テレビの電子線走査と同様に荷電粒子ビームを2次元面で走査し、必要な照射線量を必要な照射箇所に供給するスポットスキャニング照射法と呼ばれている手法が採用されている。
スポットスキャニング照射法によって局所的な線量変化を実現する場合には、荷電粒子ビーム自体によって局所的な線量が決まってしまう。そのため、ビーム強度が時間的に安定しない場合には平均ビーム強度を減少させ、長時間の照射をして照射線量を調節することになり、患者に対してさらに大きな負担となる。
一般に粒子線治療においては照射位置精度を高めるために剛性の高い固定具を用いて患者を治療台に固定するため、全身状態の不良な場合が多い治療患者にとって、治療時間の増大は著しい苦痛となるばかりでなく、治療照射の可否までも左右する問題となっている。
特開平09−35899号公報 特開2006−310013号公報 特開2007−018756号公報 特開2007−018849号公報 特開2007−018757号公報 特開2007−165220号公報
そこで、本願発明は、パルス電圧を用いて、高速且つ安定的に荷電粒子ビームを取り出し、さらに取り出された荷電粒子ビームの強度を均一にし、高精度な照射線量の制御を可能にする荷電粒子ビームの取り出し方法を提供することを目的とする。
本願発明は、上記課題を解決するために、荷電粒子ビームを加速する円形加速器において、加速された荷電粒子ビームの一部にパルス電圧を印加し、荷電粒子ビームの一部のみに運動量偏差を発生させ、荷電粒子ビームの進行方向に対する水平方向の位相空間内において、運動量偏差が大きい一部の荷電粒子を安定外領域かつ取り出し領域に位置させ、前記安定外領域かつ取り出し領域に位置した荷電粒子群を選択的に水平方向に大きく偏向させて取り出すことを特徴とする荷電粒子ビームの取り出し方法の構成とした。
また、前記荷電粒子ビームの取り出しラインにビームモニタを設け、前記ビームモニタからのビーム強度シグナルを基に、前記荷電粒子ビームに対する前記パルス電圧の印加回数を決定するフィードバック制御を備えることを特徴とする前記荷電粒子ビームの取り出し方法とした。さらに、前記パルス電圧が、荷電粒子ビームの進行方向に対して正又は負の電圧であることを特徴とする前記何れかに記載の荷電粒子ビームの取り出し方法の構成とした。加えて、前記パルス電圧の電圧値又は印可時間を調節し、取り出される荷電粒子ビームのビーム強度を調節することを特徴とする前記何れかに記載の荷電粒子ビームの取り出し方法の構成とした。
また、荷電粒子の入射装置と、高周波加速空洞により荷電粒子を加速するシンクロトロンと、荷電粒子の出射装置と、荷電粒子ビーム利用ラインとからなる加速器であって、さらに荷電粒子ビームの一部にパルス電圧を印加するパルス電圧発生装置を荷電粒子ビームの周回設計軌道上に備え、加速された荷電粒子ビームの一部にパルス電圧を印加し、荷電粒子ビームの一部のみに運動量偏差を発生させ、荷電粒子ビームの進行方向に対する水平方向の位相空間内において、運動量偏差が大きい一部の荷電粒子を安定外領域かつ取り出し領域に位置させ、前記安定外領域かつ取り出し領域に位置した荷電粒子群を選択的に水平方向に大きく偏向させる出射装置により、前記荷電粒子ビーム利用ラインに取り出すことを特徴とする加速器の構成とした。
さらに、前記荷電粒子利用ラインへの荷電粒子ビームの取り出しライン中に、ビームモニタを設け、前記ビームモニタのビーム強度シグナルを基に、前記荷電粒子ビームに対する前記パルス電圧の印加回数を決定するフィードバック制御手段を備えることを特徴とする前記加速器の構成とし、また前記パルス電圧発生装置が、前記設計軌道上に備えられた荷電粒子ビームの通過を感知するバンチモニタからの通過シグナル及び前記設計軌道上に備えられた荷電粒子ビームの重心位置を感知する位置モニタからの位置シグナルを基に、誘導加速セルから荷電粒子ビームの一部にパルス電圧を印可することを特徴とする前記何れかに記載の加速器の構成とした。
本願発明は、上記構成により以下の効果を発揮する。先ず第1に、荷電粒子ビームの一部にパルス電圧を印可することで、荷電粒子ビームの一部のみを高速かつ安定的に取り出し状態に加速制御することができ、従来の荷電粒子ビームの取り出し方法と比較して取り出し時間を約1/10に短縮することができる。従って、本願発明を医療用の加速器に採用すると照射時間を大幅に短縮でき、患者の負担を著しく軽減できる。
また、取り出したビーム強度をモニタし、パルス電圧のパターンに対しフィードバックする制御法を採用することで、取り出される荷電粒子ビーム強度を均一にすることができる。従って、本願発明を医療用の加速器に採用すると、照射部位に対して極めて高精度で瞬間的な荷電粒子ビーム強度並びに照射線量の制御が可能になり、治療に必要な投与線量を正確に照射することで、意図した治療効果を確実に得ると同時に予期せぬ不要な副作用の発現を著しく軽減できる。
本願発明の加速器の概略図である。 パルス電圧発生装置の一例の模式図である。 真空ダクトに連結している誘導加速セルの断面模式図である。 本願発明の荷電粒子ビームの取り出し方法の原理模式図であり、荷電粒子ビームの進行方向の運動量偏差を時間(t)を基準に表した。 パルス電圧を荷電粒子ビームに印加したときの位相空間での荷電粒子の分布である。 荷電粒子ビームの取り出しを行わない場合(A)と本願発明(B)の荷電粒子ビームの取り出し方法のシミュレーション結果の比較である。 本願発明(破線)と従来(実線)の荷電粒子ビームの取り出し方法による荷電粒子ビーム強度の比較結果(シミュレーション)である。 従来の荷電粒子ビームの取り出し方法の原理模式図であり、荷電粒子ビームの進行方向の運動量偏差を時間(t)を基準に表した。 従来の円形加速器における位相空間での荷電粒子の分布である。 従来の円形加速器の概略図である。
以下、本願発明である荷電粒子ビームの取り出し方法について説明する。図1は、本願発明の加速器の概略図である。
本願発明の荷電粒子ビーム6を取り出す方法に用いられる加速器1は、入射ライン3と、シンクロトロン2と、出射ライン4と、ビーム利用ライン5と、荷電粒子ビーム6の取り出しを制御するビーム取出制御機構10からなる。
入射装置3、シンクロトロン2、出射装置4、ビーム利用ライン5は、従来からの技術を使用できる。図10と同一の名称、符号は作用、機能が同一であり、説明を省略する。ビーム取出制御機構10は、パルス電圧発生装置7とビームモニタ9とからなる。なお、シンクロトロン2においては、パルス電圧発生装置7が図10の高周波電圧印可装置2mに代替する。
パルス電圧発生装置7は、荷電粒子ビーム6の加速、減速を可能とするパルス電圧7aであればどのようなパルス電圧7aを発生させるどのような装置であっても構わない。またパルス電圧の形状も矩形に限定されない。パルス電圧7aの発生制御方法、パルス電圧発生装置7の構成の一例を図2に示す。
図2では、荷電粒子ビーム6の加速に同期し、荷電粒子ビーム6の一部に誘導電圧としてのパルス電圧7aを印可するパルス電圧発生装置7の構成の一例を説明する。
パルス電圧発生装置7は、誘導電圧であるパルス電圧7aを発生させる誘導加速セル7dと、パルス電圧7aの発生を制御する制御装置7eとからなる。基本的構成は、特許文献6と同様で、誘導電圧としてのパルス電圧7aを荷電粒子ビーム6の一部に印可できればよい。
誘導加速セル7dは、図3に示すように、特許文献2〜6に用いた加速用、閉込用の誘導電圧を発生させる誘導加速セルと同一でよい。荷電粒子ビーム6の一部にパルス電圧7aを印可し、共鳴振動を荷電粒子ビーム6の一部に発生させ、3次共鳴により出射デフレクタなどにより出射ライン4に取り出す。なお、共鳴次数は3次に限定されず、たとえば2次であってもよい。また、出射デフレクタによらず、パルス電圧の印可を制御すること、即ち周回軌道上から磁場影響を受けない領域にパルス電圧で移動させることで、パルス電圧のみによっても荷電粒子ビームを直線的に出射ラインに取り出すことも可能である。
図3は、真空ダクトに連結している誘導加速セルの断面模式図である。ここで、誘導加速セル7dとは、これまで作られてきた線形誘導加速器用の誘導加速セルと原理的には同じ構造である。
誘導加速セル7dは、内筒7p及び外筒7qからなる2重構造で、外筒7qの内に磁性体7rが挿入されてインダクタンスを作る。荷電粒子ビーム6が周回する真空ダクト2pと接続された内筒7pの一部がセラミックなどの絶縁体7sでできている。
磁性体7rを取り囲む1次側の電気回路にスイッチング電源7hに接続されたDC充電器7iからパルス電圧7tを印加すると、1次側導体には1次電流7uが流れる。この1次電流7uは1次側導体の周りに磁束を発生させ、1次側導体に囲まれた磁性体7rが励磁される。
これによりトロイダル形状の磁性体7rを貫く磁束密度が時間的に増加する。このとき絶縁体7sを挟んで、導体の内筒7pの両端部7vである2次側の絶縁部にファラデーの誘導法則にしたがって誘導電場が発生する。この誘導電場が電場7wとなる。この電場7wが生じる部分を加速ギャップ7xという。従って、誘導加速セル6は本例では1対1のトランスである。
誘導加速セル7dの1次側の電気回路にパルス電圧7tを発生させるスイッチング電源7hを接続し、スイッチング電源7hを外部からオン及びオフすることで、加速電場の発生を自由に制御することができる。従って、誘導加速セル7dは、1次側電気回路にスイッチング電源7hからパルス電圧7tを受けて、2次側絶縁部に誘導され、荷電粒子ビーム6に印加される誘導電圧7aを生成する。
また、図2を参照し、パルス電圧発生装置7の制御装置7eについて説明する。制御装置7eは、位置モニタ2eとバンチモニタ2dとデジタル信号装置7nとパターン生成器7kとスイッチング電源7hとDC充電器7iと電送線7gと誘導電圧モニタ7f等からなり、誘導加速セル7dで発生するパルス電圧7aの発生タイミングを荷電粒子ビーム6の一部に印可されるように制御する装置である。詳しくは特許文献6に説明されている。
位置モニタ2eは、真空ダクト2pの中に設けられ荷電粒子ビーム6の重心位置を感知するモニタで、荷電粒子ビーム6が設計軌道2aからどれだけ水平方向の内側、または外側にズレているかを検出する。
また、位置モニタ2eは、荷電粒子ビーム6の設計軌道2aに対するズレに比例した電圧値を出力する装置であり、例えば、進行方向sに対して斜めのスリットを持つ2枚の導体によって構成されており、荷電粒子ビーム6の通過に伴い導体表面に電荷が誘起される。
誘起される電荷の量は荷電粒子ビーム6と導体間の位置に依存するため、2枚の導体に誘起されるそれぞれの電荷の量は荷電粒子ビーム6の位置に依存して異なり、結果として2枚の導体に誘起される電圧値に差が生じることを利用する。検出された荷電粒子ビームの水平方向の位置情報である位置シグナル2gは、デジタル信号装置7nに入力され、パルス電圧7aの発生制御に使用される。主に位置シグナル2gは、取り出し状態に好適な水平方向の軌道のズレの制御に利用する。
バンチモニタ2dは、真空ダクト2pの中に設けられ荷電粒子ビーム6の通過を感知するモニタで、荷電粒子ビームが通過した瞬間にあわせてパルスである通過シグナル2fを発生する。検出された荷電粒子ビームの通過情報である通過シグナル2fは、デジタル信号装置7nに入力され、パルス電圧7aの発生制御に使用される。主に通過シグナル2fは、パルス電圧7aの発生を荷電粒子ビーム6の通過に同期させる制御に用いる。
スイッチング電源7hは、誘導加速セル7dに伝送線7gを介してパルス電圧7tを与え、高繰り返し動作可能である。スイッチング電源5bは、一般に複数の電流路を持ち、その各枝路を通過する電流を調整し、電流の方向を制御することで負荷(ここでは誘導加速セル7d)に正と負の電圧を発生させる。DC充電器7iは、スイッチング電源7hに電力を供給する。スイッチング電源7hのオン及びオフ動作をパターン生成器7k、デジタル信号処理装置7nで制御する。誘導電圧モニタ7fは、前記誘導加速セル6より印加された誘導電圧値を測定するモニタである。
なお、パルス電圧7aは、荷電粒子ビームの一部を進行方向sに加速するための正のパルス電圧と、誘導加速セルの磁気的飽和を回避するとともに進行方向と逆向きに作用する負のパルス電圧からなり、何れのパルス電圧も荷電粒子ビームに印可する場合がある。
パターン生成器7kは、スイッチング電源7hのオン及びオフ動作を制御するゲート信号パターン7jを生成する。即ち、ゲート親信号7mを基にスイッチング電源7hの電流路のオン及びオフの組み合わせへと変換する装置である。デジタル信号処理装置7nは、パターン生成器7kによるゲート信号パターン7jの生成のもと信号であるゲート親信号7mを計算する。
ゲート信号パターン7jとは、誘導加速セル7dより印加されるパルス電圧7aを制御するパターンである。パルス電圧7aを印加する際に、その印加時間と発生タイミングを決定する信号及び正のパルス電圧及び負のパルス電圧との間の休止時間を決定するための信号である。従って、ゲート信号パターン7jによって加速する荷電粒子ビームの長さ合わせてパルス電圧7aの印可タイミング、印可時間の調節が可能である。
ビームモニタ9は、取り出された荷電粒子ビーム6の輸送経路に設けられ、荷電粒子ビーム6がビームモニタ9を通過した瞬間の荷電粒子ビーム6の電流強度を測定及び監視するモニタである。
ビームモニタ9は、荷電粒子ビーム6が1次側コイル、検出器側が2次側コイルで表わされる一般的な電流トランスと等価な原理で構成され、荷電粒子ビーム自体を電流として、2次側コイルを巻き付けた磁性体内を通過させ、2次側コイルに誘導される電圧または電流を測定することで瞬間的な荷電粒子ビームの電流値を荷電粒子ビームを破壊せずに測定する。
ビームモニタ9により得られた荷電粒子ビーム強度[A]は、アナログ/デジタル変換器により数値情報に変換される。このデジタル数値情報がビーム強度シグナル9aとしてパルス電圧発生装置7に送られ、シンクロトロン2内での次回ビーム周回以降における荷電粒子ビーム6の取り出し制御(「フィードバック制御9b」という。)に利用される。
以下、フィードバック制御9bについて詳しく説明する。ビーム強度シグナル9aは、パルス電圧発生装置7のデジタル信号装置7nに入力される。デジタル信号装置7nにはある瞬間において取り出すべき荷電粒子ビーム電流強度の情報が記憶されており、ビーム強度シグナル9bと比較される。
なお、この取り出すべき荷電粒子ビーム強度電流の情報は、あらかじめデータとして与えられる方法に限定されず、一例として関数などを用いたリアルタイム演算により与えてもよい。ビーム強度シグナル9bの値が記憶されたビーム強度に対して大きい場合、ビーム強度が過剰であるため、取り出しビーム強度を減少するようにパルス電圧7aを制御する。
具体的には、荷電粒子ビームの進行方向において正のパルスが印加されている局所に対し負のパルス電圧を印加するか、正のパルス電圧の時間幅を減少させる。この場合では荷電粒子はΔp/pが小さくなると安定領域が増大するため、荷電粒子ビームの取り出し強度を減少または停止することができる。
一方、ビーム強度シグナル9bの値が記憶されたビーム強度に対して小さい場合、ビーム強度が不足であるため取り出しビーム強度を増加させるようにパルス電圧を制御する。具体的には、荷電粒子ビームの進行方向において正のパルスが印加されている局所に対して、周回毎のパルス電圧印加割合を増加させるか、パルス電圧の時間幅を増大させることで、取り出しに寄与するビーム電流を増大させる。
図4は、パルス電圧発生装置の一例の模式図である。本願発明の荷電粒子ビームの取り出し方法の原理模式図であり、荷電粒子ビーム6の進行方向の運動量偏差(Δp/p)を、基準粒子の周回時間を基準とする時間(t)に対する分布として表した。記号の意味は、図8と同じである。
図4に示すように、高周波加速空洞2bからの波線(鎖線)で示した高周波電圧2cで加速された荷電粒子ビーム6の一部に一点鎖線で示したパルス電圧(正のパルス電圧7b)を印可することで、荷電粒子ビーム6の一部(点線部分)の荷電粒子群6aが加速(上向き矢印)される。
そして運動量偏差(Δp/p)が増加し、加速された荷電粒子群6aの一部(荷電粒子群6b)が安定外領域8aに位置し何れ出射ライン4に取り出される。なお負のパルス電圧7cは、磁気的飽和を解消することのみならず、必要に応じて荷電粒子ビーム6に印可し荷電粒子ビーム6の減速に使用することもできる。
パルス電圧7aを印可して、荷電粒子ビーム6の一部(荷電粒子群6a)のみの運動量偏差(Δp/p)を増加させる本願発明では、パルス電圧7aを受けない荷電粒子ビーム6は安定外領域から距離があり、またノイズに起因する不必要な荷電粒子ビーム6の取り出し現象が発生しない。従って、取り出される荷電粒子ビーム6のビーム強度をパルス電圧7aを用いて意図的に調節することができる。
また、荷電粒子ビームの取り出しを停止する場合においても、低い高周波電圧6eを用いて荷電粒子ビーム全体を取り出し前の状態に復帰させる必要がなく、局所的にパルス電圧7aを印加することで停止できるため、従来技術と比較して次回の荷電粒子ビーム6の取り出しを高速に行うことができる。
図5は、パルス電圧を荷電粒子ビームに印加したときの位相空間での荷電粒子の分布である。記号の意味は、図8と同じである。
図5に示されるように水平方向xの安定条件は、荷電粒子ビーム6の水平方向xの位置と及び荷電粒子個々の水平方向勾配(x‘=dx/ds)で決定される。パルス電圧7aを印可する前の荷電粒子ビーム6の安定領域8b(Δp/p=0.002)は、境界8dで囲まれた三角形(大)である。
荷電粒子ビーム6の取り出しに際して、荷電粒子ビーム6の一部にパルス電圧7aを印可すると、一部の荷電粒子6d(黒ドット)群が加速され、それらの安定領域8c(Δp/p=0.003)は斜線8fによって狭められた三角形(小)内となる。一方、パルス電圧7aを受けない荷電粒子6c(白丸)群は、依然三角形(大)が安定領域8bのままとなる。
即ち、安定領域8bから安定領域8cを除いた部分が荷電粒子ビーム6の一部にパルス電圧7aを受けた荷電粒子の安定外領域8aとなる。従って、安定外領域8aに位置する黒ドットの荷電粒子6dのみが何れ取り出し領域8eに位置し、出射ライン4に取り出される。
また、本願発明では荷電粒子の一部のみ加速させるため、パルス電圧7aの印可を受けない荷電粒子群は安定領域(共鳴条件)の十分内側に位置するため、ノイズの影響を受けることなく、極めて一定なビーム強度で取り出すことができる。
加えて、誘導電圧7aの電圧値及びパルス長を変化させることで、取り出されるビーム強度の調節が可能となる。また、ビームモニタ9の検出値を基にパルス電圧の発生回数、欠損、電圧値、パルス長を変更するフィードバック制御9bをすることで、高精度なビーム強度制御が可能となる。
図6は、荷電粒子ビームの取り出しを行わない場合(A)と本願発明(B)の荷電粒子ビームの取り出し方法のシミュレーション結果の比較である。
シミュレーションは、実際に設計ならびに製作されている粒子線治療装置に用いられるシンクロトロンをモデルとし、シンクロトロン周長、偏向磁場強度、収束磁場強度、6極磁場強度ならびに出射デフレクタの取り出し位置を現実に製作され、通常運転で用いられるパラメータ設定で入力した。
このシミュレーションにより、1000個の荷電粒子、1000周回(実時間にして0.3msec相当)を模擬した。なお、当該シミュレーションは、基本的なビーム物理の検証において、実績のある既存のビーム物理コードならびに製作されたシンクロトロンの設計検討とも相互に比較検証を行い、荷電粒子ビームの取り出しにおける位相空間での荷電粒子の挙動を同等に再現することを確認している。
図6(A)、(B)は、それぞれ、左図は進行方向sの荷電粒子の位相空間分布であり、右図は荷電粒子の水平方向xの位相空間分布である。(B)においては、荷電粒子の20%に対して、正のパルス電圧7bを印可した。
分布は1000周回での荷電粒子の位相空間位置をすべて重ねてプロットしたもので、右図では荷電粒子は三角形の安定領域を左回りに回転するように安定領域内で閉軌道運動をしている。
その結果、荷電粒子ビームの取り出しを行わない場合(A)では殆ど取り出し領域8eに荷電粒子は存在しないことを確認し、本願発明(B)では、荷電粒子ビームの一部(20%)にパルス電圧7aを印加((B)の左図)したところ、取り出し領域8eに多数のドット(荷電粒子)が確認できた((B)の右図)。
荷電粒子ビームの取り出しを行わない場合(A)と本願発明(B)の荷電粒子ビームの取り出し方法において、パルス電圧を局所的に印加する以外の物理的パラメータは同一である。すなわち、荷電粒子ビームの取り出しに寄与する因子としてパルス電圧のみが寄与していることがわかる。また、荷電粒子ビームが安定領域内に保たれており、ノイズ等による意図しない取り出しが行われていないことがわかる。
図6(B)左図で加速された(運動量偏差Δp/pが大きくなった)荷電粒子の振る舞いが右図の水平方向(x)の位相空間で変化し、安定領域8cから安定外領域8aに入ることで、水平方向xでの取り出し領域8e(x>67mm)の荷電粒子の増加として現れる。
従って、異なる運動量偏差Δp/pの荷電粒子ビームの一部の荷電粒子に対し、パルス電圧7aを印加することで水平方向(x)の粒子はΔp/pごとに異なった軌道を描き、パルス電圧7aを印加した荷電粒子のみが取り出されていることがわかる。
図7は、本願発明(破線)と従来(実線)の荷電粒子ビームの取り出し方法による荷電粒子ビーム強度)の比較結果(シミュレーション)である。シミュレーションは、1000個の荷電粒子を1000周回させた後に、特許文献1を想定した取り出し方法(従来の取り出し方法)と本願発明のパルス電圧7aを荷電粒子ビーム6に印可した取り出し方法を想定したときのビームモニタ9での想定される測定値である。縦軸がビーム強度[A]、横軸が時間(秒)であり、1.5秒はシンクロトロンにおける荷電粒子ビームの取り出しの時間である。
図7に示されるように、従来の荷電粒子ビームの取り出し方法では、取り出された荷電粒子ビームのビーム強度は、時間的変動が激しくなることが避けられない。
従来の荷電粒子ビームの取り出し方法では上述したように、荷電粒子ビームの水平方向の外縁が常に共鳴線(境界線)に接しており、ノイズによるビーム強度の変動がトリガーとなって荷電粒子ビームの取り出し/停止現象が生じる。
前述のように従来からの荷電粒子ビームの取り出し方法においては、荷電粒子ビーム全体を加速して取り出す場合、荷電粒子ビームの横方向における安定領域の減少割合が時間的に一定にならず、また前述の通りノイズによる制御不能な荷電粒子ビームの取り出しが生じるため、取り出された荷電粒子ビームのビーム強度を一定にすることができなかった。
また、横方向に荷電粒子ビームを共振させて荷電粒子ビームを取り出す場合においても、横方向の荷電粒子ビーム分布に偏りがあるため、ビーム強度を時間的に安定させるためには共振振幅を制御する必要があり、かつ取り出される荷電粒子ビームの分布を意図的に調節することは不可能であった。
一方、本願発明では取り出された荷電粒子ビームのビーム強度は一定であることが分かる前述のシミュレーションでは1000周回、0.3msecで該当箇所の荷電粒子ビームの取り出しが行えることを明らかにした。荷電粒子ビームの一部へのパルス電圧の印可は、1msecよりも十分早い時間に達成することができるため、1msec以下においてもビーム強度を意図的に一定に高速かつ高精度に荷電粒子ビームの取り出し制御することができることとなる。
本願発明の取り出し方法では、荷電粒子ビーム中の一部(取り出したい荷電粒子群)に対して、加速電圧(場合によっては減速電圧)がかかるようなパルス電圧を印加するため、取り出したい荷電粒子群のみで、荷電粒子ビームの内荷電粒子のエネルギー誤差がある値以上の条件(共鳴条件)が満される。
即ち、本願発明では、荷電粒子ビーム全体の進行方向の運動量偏差(Δp/p)を小さくし、安定領域をノイズによる荷電粒子ビームの取り出しを受けない大きさに保つことで、ノイズによる荷電粒子ビームの取り出しを防止し、併せて荷電粒子ビームに局所的なパルス電圧を印加し、パルス電圧の時間幅を調節することで、進行方向での荷電粒子分布を利用したビーム強度調節が可能となる。進行方向での荷電粒子分布を変化させる方法は、荷電粒子ビームを進行方向に閉じ込めている電圧の振幅並びに形状を変化させることで容易に行うことができ、多数の実例が存在する。
本願発明の荷電粒子ビームの取り出し方法は、パルス電圧を用いて、高速且つ安定的に荷電粒子ビームを取り出し、さらに取り出された荷電粒子ビームの強度を均一にし、高精度な照射線量制御を可能にするため、取り分け医療分野において利用されることが期待でき、照射時間の短縮および高精度の照射治療が可能になり、患者への治療での負担を軽減することができる。
1 加速器
1a 加速器
2 シンクロトロン
2a 設計軌道
2b 高周波加速空洞
2c 高周波電圧
2d バンチモニタ
2e 位置モニタ
2f 通過シグナル
2g 位置シグナル
2h 高周波電圧
2i 偏向電磁石
2j 収束電磁石
2k 発散電磁石
2m 高周波電圧印加装置
2n シンクロトロン
2p 真空ダクト
3 入射ライン
3a 前段加速
3b 入射器
3c 輸送管
4 出射ライン
4a 出射器
4b 輸送管
5 ビーム利用ライン
6 荷電粒子ビーム
6a 荷電粒子群
6b 荷電粒子群
6c 荷電粒子
6d 荷電粒子
6e 高周波電圧
7 パルス電圧発生装置
7a パルス電圧
7b 正のパルス電圧
7c 不のパルス電圧
7d 誘導加速セル
7e 制御装置
7f 誘導電圧モニタ
7g 電送線
7h スイッチング電源
7i DC充電器
7j ゲート信号パターン
7k パターン生成器
7m ゲート親信号
7n デジタル信号処理装置
7p 内筒
7q 外筒
7r 磁性体
7s 絶縁体
7t パルス電圧
7u 1次電流
7v 端部
7w 電場
7x 加速ギャップ
8 6極電磁石
8a 安定外領域
8b 安定領域
8c 安定領域
8d 境界
8e 取り出し領域
8f 境界
9 ビームモニタ
9a ビーム強度シグナル
9b フィードバック制御
10 ビーム取出制御機構

Claims (7)

  1. 荷電粒子ビームを加速する円形加速器において、加速された荷電粒子ビームの一部にパルス電圧を印加し、荷電粒子ビームの一部のみに運動量偏差を発生させ、荷電粒子ビームの進行方向に対する水平方向の位相空間内において、運動量偏差が大きい一部の荷電粒子を安定外領域かつ取り出し領域に位置させ、前記安定外領域かつ取り出し領域に位置した荷電粒子群を選択的に水平方向に大きく偏向させて取り出すことを特徴とする荷電粒子ビームの取り出し方法。
  2. 前記荷電粒子ビームの取り出しラインにビームモニタを設け、前記ビームモニタからのビーム強度シグナルを基に、前記荷電粒子ビームに対する前記パルス電圧の印加回数を決定するフィードバック制御を備えることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビームの取り出し方法。
  3. 前記パルス電圧が、荷電粒子ビームの進行方向に対して正又は負の電圧であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の荷電粒子ビームの取り出し方法。
  4. 前記パルス電圧の電圧値又は印可時間を調節し、取り出される荷電粒子ビームのビーム強度を調節することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の荷電粒子ビームの取り出し方法。
  5. 荷電粒子の入射装置と、高周波加速空洞により荷電粒子を加速するシンクロトロンと、荷電粒子の出射装置と、荷電粒子ビーム利用ラインとからなる加速器であって、
    さらに荷電粒子ビームの一部にパルス電圧を印加するパルス電圧発生装置を荷電粒子ビームの周回設計軌道上に備え、加速された荷電粒子ビームの一部にパルス電圧を印加し、荷電粒子ビームの一部のみに運動量偏差を発生させ、荷電粒子ビームの進行方向に対する水平方向の位相空間内において、運動量偏差が大きい一部の荷電粒子を安定外領域かつ取り出し領域に位置させ、前記安定外領域かつ取り出し領域に位置した荷電粒子群を選択的に水平方向に大きく偏向させる出射装置により、前記荷電粒子ビーム利用ラインに取り出すことを特徴とする加速器。
  6. 前記荷電粒子利用ラインへの荷電粒子ビームの取り出しライン中に、ビームモニタを設け、前記ビームモニタのビーム強度シグナルを基に、前記荷電粒子ビームに対する前記パルス電圧の印加回数を決定するフィードバック制御手段を備えることを特徴とする請求項5に記載の加速器。
  7. 前記パルス電圧発生装置が、前記設計軌道上に備えられた荷電粒子ビームの通過を感知するバンチモニタからの通過シグナル及び前記設計軌道上に備えられた荷電粒子ビームの重心位置を感知する位置モニタからの位置シグナルを基に、誘導加速セルから荷電粒子ビームの一部にパルス電圧を印可することを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の加速器。
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