以下に、添付図面に基づいて、本発明である荷電粒子ビームの軌道制御装置及びその制御方法について詳細に説明する。図1は本発明である荷電粒子ビームの軌道制御装置6を含む誘導加速セルを用いたシンクロトロンの概略図である。
本発明である荷電粒子ビームの軌道制御装置6を利用するシンクロトロン1は、前段加速器により一定のエネルギーレベルまで加速され、入射された荷電粒子ビームが周回する設計軌道2を覆う真空ダクト、周回するバンチ3に強収束を保証する収束電磁石、偏向電磁石4など、バンチ3にバリアー電圧22を印加する閉込用誘導加速装置、バンチ3に加速用の誘導電圧8を印加する加速用誘導加速装置5、バンチ3の通過を知るためのバンチモニター9、バンチ3の加速速度をリアルタイムで測定するための速度モニター10、荷電粒子ビームが設計軌道2からどれだけ水平方向の内側2b、または外側2cにズレているかを検出する位置モニター11などからなる。
偏向電磁石4は、荷電粒子ビームの軌道を円形状に維持するために使用する装置である。偏向電磁石4は鉄心、あるいは空芯に導体をコイル状に巻きつけた構造をしており、導体に電流を流すことで荷電粒子ビームの進行軸と垂直な磁場強度3aを発生させる。偏向電磁石4に発生している磁場強度3aは導体に流れる電流と比例関係にあるため、この比例係数をあらかじめ求めておき、電流量を測定して換算することで磁場強度3aを求めることができる。
バンチモニター9は、バンチ3の通過を検出してパルスを出力する装置である。バンチモニター9は設計軌道2内に設置された導体、あるいは磁性体内を荷電粒子ビームが通過する際に生じる電磁エネルギーの一部を電圧または電流のパルスに変換するもので、バンチ3が通過する際に真空ダクトに誘起する壁電流を利用するものと、磁性体コアにコイルを巻きつけた形状の装置内をバンチ3が通過して生じる誘起電圧を利用する方法などがある。
速度モニター10は、バンチ3の周回速度3cに応じた電圧値あるいは電流値、あるいはデジタル値を発生させる装置である。速度モニター10はバンチモニター9のように荷電粒子ビームが通過した際に発生する電圧パルスあるいは電流パルスを、コンデンサーに蓄積して電圧値に変換するアナログ構造のものと、電圧パルスの数自体をデジタル回路で計数するデジタル構造のものが存在する。
位置モニター11は、バンチ3の設計軌道2に対するズレに比例した電圧値を出力する装置である。位置モニター11は、例えば、進行軸方向3dに対して斜めのスリットを持つ2枚の導体によって構成されており、荷電粒子ビームが通過した位置によって2枚の導体が荷電粒子ビームを感じる時間が異なり、結果として2枚の導体に誘起される電圧値に差が生じることを利用する。
例えば、バンチ3が位置モニター11の中心を通過した場合、誘起される電圧は等しいため、二つの導体に発生した電圧を差分した出力電圧値は0であり、設計軌道2の外側2cを通過した場合には中心からのズレに比例した正の電圧値、同様に内側2bを通過した場合には負の電圧値を出力する。
従って、偏向電磁石4、バンチモニター9、速度モニター10、位置モニター11は、高周波シンクロトロンの加速において用いられるものを利用することができる。
加速用誘導加速装置5は、バンチ3が周回する設計軌道2が中にある真空ダクトに接続され、バンチ3を進行軸方向3dに加速するための加速用の誘導電圧8を印加する加速用誘導加速セル7、前記加速用誘導加速セル7にパルス電圧5cを与える高繰り返し動作可能なスイッチング電源5a、前記スイッチング電源5aに電力を供給するDC充電器5b、前記スイッチング電源5aのオンおよびオフの動作をフィードバック制御して荷電粒子ビームの設計軌道2からのズレを修正する荷電粒子ビームの軌道制御装置6などからなる。
本発明である荷電粒子ビームの軌道制御装置6は、設計軌道2に設けられた各種検出器でリアルタイムに検出された荷電粒子ビームの情報である各種シグナルを受けて加速用の誘導電圧8の発生タイミングを計算するデジタル信号処理装置12、及び前記デジタル信号処理装置12より出力されたゲート親信号12aを基にスイッチング電源5aのオンおよびオフを駆動するゲート信号パターン13aを生成するパターン生成器13からなる。
ゲート親信号12aは、通過シグナル9aと同様に、荷電粒子ビームと加速用の誘導電圧8のタイミングを合わせるための可変遅延時間(図3)を経過した瞬間にデジタル信号処理装置12から出力される矩形の電圧パルスである。パターン生成器13はゲート親信号12aであるパルスの立ち上がりを認識することで動作を開始する。
パターン生成器13は、ゲート親信号12aをスイッチング電源5aの電流路のオンおよびオフの組み合わせへと変換する装置である。
スイッチング電源5aは一般に複数の電流路を持ち、その各枝路を通過する電流を調整し、電流の方向を制御することで負荷(ここでは加速用誘導加速セル7)に正と負の電圧を発生する(図9)。
ゲート信号パターン13aとは、加速用誘導加速セル7の加速用の誘導電圧8を制御するパターンである。加速電圧8aを印加する際に、加速電圧8aの印加時間と発生タイミング、リセット電圧8bを印加する際に、リセット電圧8bの印加時間と発生タイミングを決定する信号と、加速電圧8aおよびリセット電圧8bの間の休止時間を決定するための信号である。従って、ゲート信号パターン13aは加速するバンチ3の長さにあわせて調節が可能である。
加速用の誘導電圧8の発生タイミングの制御に使用される具体的シグナルは、偏向電磁石4から荷電粒子ビームが前段加速器から入射された瞬間に偏向電磁石4(円形加速器の制御装置を介して)から出力されるサイクルシグナル4a、さらにリアルタイムの磁場励磁パターンであるビーム偏向磁場強度シグナル4b、バンチモニター9から荷電粒子ビームが該バンチモニター9を通過した情報である通過シグナル9a、バンチ3の周回速度3cである速度シグナル10a、及び位置モニター11から周回する荷電粒子ビームが設計軌道2からどれだけズレているかを示す情報である位置シグナル11aなどである。
図2は、デジタル信号処理装置の構成図である。デジタル信号処理装置12は、可変遅延時間計算機14、可変遅延時間発生器15、加速電圧演算機16、及びゲート親信号出力器17からなる。
可変遅延時間計算機14は、可変遅延時間18を決定する装置である。可変遅延時間計算機14には、荷電粒子の種類に関する情報、後述の磁場励磁パターン(図5)を基に計算される可変遅延時間18の定義式が与えられている。
荷電粒子の種類に関する情報とは、加速する荷電粒子の質量と電価数である。上述したように、荷電粒子が加速用の誘導電圧8から得るエネルギーは電価数に比例し、これによって得られる荷電粒子の周回速度3cは荷電粒子の質量に依存する。可変遅延時間18の変化は荷電粒子の周回速度3cに依存するため、これらの情報を予め与えておく。
可変遅延時間18は、荷電粒子の種類、磁場励磁パターンが予め定まっているときは、予め計算し、必要な可変遅延時間パターン(図4)として与えることができる。
しかし、予め計算しておく場合は、荷電粒子ビームが設計軌道2から内側2bまたは外側2cに外れた場合には、荷電粒子ビームの軌道の修正ができない。そこで、予め可変遅延時間18を計算した場合は、後述の加速電圧演算機16で加速電圧8aの修正を行うこととなる。
また、可変遅延時間18をバンチ3の周回毎に、リアルタイムで計算する場合は、シンクロトロン1を構成する偏向電磁石4(円形加速器の制御装置を介して)からその時の磁場強度3aをビーム偏向磁場強度シグナル4bとして、可変遅延時間計算機14が受け取り、荷電粒子の種類に関する情報を与えることによって、予め計算する場合と同様に可変遅延時間18をバンチ3の周回ごとに計算すればよい。
さらに、荷電粒子ビームの周回速度3cを測定する速度モニター10を使用し、リアルタイムで荷電粒子ビームの周回速度3cである速度シグナル10aを可変遅延時間計算機14に入力すれば、後述の式(6)、及び式(7)に従って、荷電粒子の種類に関する情報を与えることなく、リアルタイムで可変遅延時間18を計算することもできる。
リアルタイムで可変遅延時間18を計算することにより、加速用誘導加速装置5を構成するDC充電器5b、バンクコンデンサー24等に起因して、印加する加速電圧値8iが所定の設定値から変動した場合、何らかの外乱によって、バンチ3の周回速度3cに突発的な変化が起こった場合であっても、加速電圧8aの発生タイミングを補正することで、荷電粒子ビームの軌道を修正することが可能となる。これを荷電粒子ビームの軌道制御という。
すなわち、荷電粒子ビームの軌道制御を行うことによって、的確に加速電圧8aをバンチ3に印加することが可能となる。その結果、より効率的に荷電粒子ビームを加速することができることとなる。つまり、誘導加速セルによって、任意の荷電粒子を任意のエネルギーレベルに加速することが可能となる。
上述のようにして与えられた可変遅延時間18は、デジタルデーターである可変遅延時間シグナル14aとして、可変遅延時間発生器15に出力される。
なお、可変遅延時間計算機14には、偏向電磁石4(円形加速器の制御装置を介して)からサイクルシグナル4aが入力される。サイクルシグナル4aとは、荷電粒子ビームがシンクロトロン1に入射される際に偏向電磁石4(円形加速器の制御装置を介して)から発生するパルス電圧であり、加速開始の情報である。通常、シンクロトロン1は、荷電粒子ビームの入射、加速、出射を何度も繰り返す。
従って、予め可変遅延時間18を開始している場合には、可変遅延時間計算機14は、加速の開始であるサイクルシグナル4aを得て、予め計算された可変遅延時間18に基づいて、可変遅延時間シグナル14aを可変遅延時間発生器15に出力する。
可変遅延時間発生器15は、バンチモニター9からの通過シグナル9a、及び可変遅延時間計算機14からの可変遅延時間シグナル14aを受けて、バンチモニター9を通過したバンチ3毎に、次回のバンチ3の周回における加速用の誘導電圧8を発生させるタイミングを計算して、加速電圧演算機16に可変遅延時間18の情報であるパルス15aを出力する。
可変遅延時間発生器15は、ある周波数を基準とするカウンターで、通過シグナル9aをデジタル信号処理装置12内に一定時間保持したのち通過させる機能を持つ装置である。
例えば、1kHzのカウンターであれば、カウンターの数値1000は、1秒と等価である。すなわち、可変遅延時間発生器15に、可変遅延時間18に相当する数値を入力することで、可変遅延時間18の長さの制御を行うことができる。
具体的には、可変遅延時間発生器15は、前記可変遅延時間計算機14によって出力された可変遅延時間18に相当する数値である可変遅延時間シグナル14aを基に、ゲート親信号12aの発生を可変遅延時間18に相当する時間の間停止する制御を行う。その結果、加速電圧8aの発生タイミングをバンチ3が加速用誘導加速セル7に到達した時間に合わせることができることとなる。
例えば、可変遅延時間計算機14によって、150という数値の可変遅延時間シグナル14aを上記1kHzのカウンターである可変遅延時間発生器15に出力した場合、可変遅延時間発生器15は、0.15秒の間パルス15aの発生を遅らせる制御を行う。
ここで、通過シグナル9aとは、バンチ3がバンチモニター9を通過した瞬間にあわせて発生するパルスである。パルスはそれを伝送する媒体あるいはケーブルの種類によって、適切な強度を持つ電圧型、電流型、光型などがある。
前記通過シグナル9aは、デジタル信号処理装置12に荷電粒子ビームの通過タイミングを時間情報として与えるために用いられる。荷電粒子ビームの通過により、発生したパルスの立ち上がり部によって、設計軌道2での荷電粒子ビームの進行軸方向3dでの位置が求められる。すなわち、通過シグナル9aは、可変遅延時間18の開始時間の基準である。
加速電圧演算機16は、加速用の誘導電圧8を発生(オン)させるか、発生させない(オフ)かを決定する装置である。
例えば、ある瞬間に必要な加速電圧値8iが0.5kVである場合、1=パルス16aを発生させる、0=パルス16aを発生させないと定義し、1.0kVの一定値の加速電圧8aを用いて、バンチ3が10周回する間に周回毎に加速電圧8aを印加する、しないを、[1、0、・・・、1](1が5回、0が5回)とすると、バンチ3が10周回の間に受けた平均的な加速電圧値(図6)は0.5kVとなる。このようにして、加速電圧演算機16が加速電圧8aをデジタル制御する。
ある時間に必要な加速電圧値8iは、荷電粒子の種類、磁場励磁パターンが予め定まっているときは、磁場励磁パターンから予め計算される理想的な加速電圧値パターン(図5)に対応する等価的な加速電圧値パターン(図5)として与えることができる。
例えば、等価的な加速電圧値パターンとは、1秒間に加速電圧値8iを0Vから1kVまで変化させ、0.1秒間隔で制御する場合、等価的な加速電圧値パターンは、加速開始から0.1秒間は0kV、0.1〜0.2秒間は0.1kV、0.2〜0.3秒間は0.2kV・・・0.9〜1.0秒間は1.0kVとする等のデーターテーブルである。
制御単位あたりの荷電粒子位ビームの周回数がn周であるとき、その間に加速電圧8aをm回荷電粒子ビームに与えた場合、荷電粒子ビームが制御単位の内に受ける等価的な加速電圧値は、加速用誘導加速セル7の出力する加速電圧値8iのm/n倍になる。
なお、mはnより必ず小さくなることは明らかである。この条件は荷電粒子ビームの軌道が変化する速さに比べて、制御単位内に含まれる荷電粒子ビームの周回数が十分少ない場合に成り立つ。この制御単位中の荷電粒子ビームの周回数は、制御単位中の荷電粒子ビームの周回数を少なくすることで電圧精度が下がり適切な電圧を与えられなくなる下限から制御単位中の荷電粒子ビームの周回数を多くすることで軌道の変化に反応できなくなる上限の範囲内において、任意に選択することができる。
例えば、制御単位を10周回とし、加速電圧値をV 0 とすると、加速電圧値を0.1・V0ごとに10段階に制御することができる。制御単位をバンチ3の20周回とすると、0.05・V0ごとに20段階に等価的な加速電圧値パターンを制御することができる。
しかし、上述のように、加速電圧8aが一定でないこと、また加速中の突発的なトラブルにより、荷電粒子ビームが設計軌道2よりズレた場合に軌道を修正するために、加速電圧8aの発生の停止、すなわちパルス密度(図6)の変更を行う必要がある(図7)。
加速電圧演算機16で、荷電粒子ビームの軌道を修正するためには、予め、修正のための基礎データーとして、どれだけの加速電圧値8iを荷電粒子ビームに与えると、どれだけ荷電粒子ビームの軌道が設計軌道2から外側2cへ移動するかの情報を加速電圧演算機16に与えておく必要がある。
次に、加速電圧演算機16は、設計軌道2にある位置モニター11から、加速中のある時点において、荷電粒子ビームがどれだけ設計軌道2からズレているかを位置シグナル11aとして受け、荷電粒子ビームの軌道を修正するための計算をバンチ3の周回毎にリアルタイムで行う。
荷電粒子ビームの軌道を制御単位の周回数nで修正するために必要な1周当たりの加速電圧は、現在の軌道半径をρ、その時間微分をρ’、磁場強度3aをB、その時間微分をB’、及び円形加速器の全長をC0とすると、次式(1)によって近似的に求められる。
V=C0×(B’×ρ+B×ρ’)・・・式(1)
このVは、制御単位における誘導加速セルで印加される平均的な加速電圧値である。
V=(m/n)Vacc(m<n)・・・式(2)
ここで、Vaccは、後述の式(12)によって求められる、理想的な加速電圧値(図7)である。
ρ’およびB’は、1周当たりのバンチ3の周回時間をt、制御単位内の軌道半径をΔρ、及び制御単位内の磁場強度3aの変化をΔB、tを周回数nだけ足し合わせた量をΣtとすると、次式(3)、式(4)によって求められる。
ρ’=Δρ/(Σt)・・・式(3)
B’=ΔB/(Σt)・・・式(4)
なお、これらのρ’、B’は、リアルタイムで加速用の誘導電圧8を制御する場合は、加速電圧演算機16で計算する。
1周当たりのバンチ3の周回時間tは、速度モニター10などから得られた周回速度3cをv、及び円形加速器の全長をC0とすると、次式(5)で求められる。
t=C0/v・・・式(5)
このtは、バンチ3の周回ごとに異なる値をとる。
これらの過程より加速電圧値を計算して、その計算結果に基づいて、必要な加速電圧8aを印加する、又は、過剰な加速電圧値に相当する加速電圧8aの印可を停止する。
加速電圧8aの印加を停止するとは、次回に予定されていた加速電圧8aの発生自体を行わないことをいう。
荷電粒子ビームの軌道が設計軌道2から外側2cにズレるのは、荷電粒子ビームに印加された加速電圧値8iがその瞬間に必要な加速電圧値8iより過剰であるため、偏向電磁石4の磁場励磁パターンと同期がとれないことによる(図10)。
従って、予め、又はリアルタイムで磁場励磁パターン(図5)から計算される等価的な加速電圧値パターン(図5)と、位置シグナル11aによってえられる軌道のズレから、過剰な加速電圧値8iを計算し、予め与えられている等価的な加速電圧値から過剰な加速電圧値8iを減じたパルス密度(図7)に修正する。
パルス密度を修正するとは、予め与えられていた、その瞬間に必要な加速電圧値8i、及び制御単位におけるパルス密度から、過剰分の加速電圧値8iに相当する加速電圧8aの印加を停止することによって可能である。
なお、予め与えられる等価的な加速電圧値パターンとは別に、例えば、少しでも荷電粒子ビームが設計軌道2から外側2cに外れた場合は、「大きく修正する」、「緩やかに修正する」などの荷電粒子ビームの軌道修正用のパルス密度などを予め与え、適宜必要なパルス密度を選択する方法で、荷電粒子ビームの軌道を制御することも可能である。
なお、式(1)の右辺を現代制御理論などから求められた、数値計算式によって表される任意の式に拡張することができることは当然である。
このような制御法を採用することにより、円形加速器の大きさによって異なる荷電粒子ビームの軌道変動の様子に対しても適切な軌道制御が可能になる。
なお、磁場励磁パターン、或いは等価的な加速電圧値パターン、修正用の基礎データー、修正用のパルス密度は書き換え可能なデーターとして、選択した荷電粒子の種類、磁場励磁パターンによって変更できる。
これらデーターを書き換えるだけで、本発明である荷電粒子ビームの軌道制御装置6を、任意の荷電粒子を任意のエネルギーレベルに加速することにも利用することができる。
又は、荷電粒子ビームの軌道を制御するためには、ある時間に必要な加速電圧値8iを、バンチ3の周回毎にリアルタイムで計算することが必要である。ある時間に必要な加速電圧値8iをリアルタイムで計算する場合は、誘導加速セルを用いたシンクロトロン1を構成する偏向電磁石4(円形加速器の制御装置を介して)からその時の磁場強度3aをビーム偏向磁場強度シグナル4bとして受け取り、予め計算する場合と同様な演算式により計算すればよい。
リアルタイムで、ある時間に必要な加速電圧値8iを計算することにより、加速用誘導加速装置5を構成するDC充電器5b、バンクコンデンサー24等に起因して、印加する加速電圧値8iが所定の設定値から変動した場合であっても、加速電圧8aの発生タイミング、及び加速電圧値8iを補正することが可能となり、的確に加速電圧8aを荷電粒子ビームに印加することが可能となる。その結果、より効率的に荷電粒子ビームを加速することができることとなる。
なお、図9で示した電流計である誘導電圧モニター26で得られる誘導電圧値である誘導電圧シグナル26aをデジタル信号処理装置12の可変遅延時間計算機14、及び加速電圧演算機16の一方、或いは両方にフィードバックすることでも、可変遅延時間18、理想的な加速電圧値8iに対応する等価的な加速電圧値8iを計算することもできる。
また、位置モニター11と誘導電圧モニター26とを併用することで、より精度よく荷電粒子ビームの軌道のズレを知ることができるため、荷電粒子ビームの軌道制御をより精度よく行うことができる。
上述のようにして与えられた荷電粒子ビームの加速中のある時間に必要な加速電圧値8iを基にして決定された、ゲート親信号12aの発生を制御するパルス16aをゲート親信号出力器17に出力する。
従って、加速電圧演算機16は、バンチモニター9から送られてくる通過シグナル9aを用いて、単にバンチ3の周回ごとに加速電圧8aを毎回出力するのではなく、リアルタイムで荷電粒子ビームの軌道修正に必要な加速電圧値8iを測定し、加速電圧演算機16に予め与えられた等価的な加速電圧値パターン(図6)に基づくパルス密度を修正するためにパルス16aを間欠出力する機能を持つものである。
ゲート親信号出力器17は、デジタル信号処理装置12を通過した可変遅延時間18と加速用の誘導電圧8のオンオフの両方の情報を含んだパルス16aをパターン生成器13に伝達するためのパルス、すなわちゲート親信号12aを発生させる装置である。
ゲート親信号出力器17から出力されるゲート親信号12aであるパルスの立ち上がりが、加速用の誘導電圧8の発生タイミングとして用いられる。また、ゲート親信号出力器17は、加速電圧演算機16から出力されるパルス16aを、パターン生成器13に伝送する媒体あるいはケーブルの種類によって、適切なパルス強度を持つ電圧型、電流型、光型などに変換する役割を持っている。
上述のようにしてなるデジタル信号処理装置12は、荷電粒子ビームが周回する設計軌道2にあるバンチモニター9からの通過シグナル9aを基に、スイッチング電源5aの駆動を制御するゲート信号パターン13aの基となるゲート親信号12aをパターン生成器13に出力する。つまりデジタル信号処理装置12が加速用の誘導電圧8のオンおよびオフをデジタル制御しているといえる。
リアルタイムで可変遅延時間18、必要な加速電圧値8iを計算することにより、何ら設定を変更することなく、シンクロトロン1の磁場励磁パターンに対応して、荷電粒子ビームの周回周波数に同期した加速電圧8aを印加することが可能になった。
図3は、荷電粒子ビームの周回と加速電圧8aの発生とタイミングを取るための可変遅延時間についての説明である。バンチモニター9からの通過シグナル9aが可変遅延時間発生器15に入力されてからゲート親信号12aが出力するまでの間の時間が可変遅延時間18である。
この可変遅延時間18を制御することは、加速電圧8aの発生タイミングを制御することと同じである。ゲート親信号12aの発生から加速電圧8aの発生までは、常に一定時間であるためである。
加速用の誘導電圧8で荷電粒子ビームを加速するためには、バンチ3が加速用誘導加速セル7に到達した時間に合わせて加速電圧8aを印加しなければならない。
さらに、加速中の荷電粒子ビームは、加速時間の経過とともに、単位時間当たりに設計軌道2を周回する回数(周回周波数(fREV))が変化する。例えば、KEKの12GeVPSにおいて陽子ビームを加速する場合、陽子ビームの周回周波数は、667kHzから882kHzまで変化する。
従って、荷電粒子ビームを意図した通りに加速するためには、加速時間とともに変化するバンチ3の移動時間3eに合わせて加速電圧8aを印加させ、また、バンチ3が加速用誘導加速セル7に存在しない時間帯にリセット電圧8bを発生させなければならない。
また、誘導加速セルを用いたシンクロトロン1を含む円形加速器は広い敷地に設置させるため、円形加速器を構成する各装置間を接続する信号線のケーブルを長く引き回す必要がある。そして信号線を伝播する信号の速度は有限の値を持っている。
従って、円形加速器の構成を改変した場合、信号が各装置を通過する時間が、改変する前と同じである保証がない。そのため、誘導加速セルを用いたシンクロトロン1を含む円形加速器では構成要素の改変の都度、印加時間のタイミングを設定しなおさなければならない。
そこで、上記問題を解決するため、デジタル信号処理装置12を用いて、バンチモニター9の通過シグナル9aの発生から加速電圧8aを印加するまでの時間を調整することとした。具体的には、デジタル信号処理装置12の内部で、バンチモニター9からの通過シグナル9aを受けてから、ゲート親信号12aの発生までの可変遅延時間18を制御することとした。
上述の条件下でも荷電粒子ビームが加速用誘導加速セル7を通過するタイミングに合わせ、加速電圧8aを印加しなければならない。可変遅延時間発生器15を使用することにより、バンチ3の通過に合わせて加速電圧8aを印加することが可能となる。
可変遅延時間18であるΔtは、バンチ3が設計軌道2のいずれかに置かれたバンチモニター9から、加速用誘導加速セル7に到達するまでの移動時間3eをt0、バンチモニター9からデジタル信号処理装置12までの通過シグナル9aの伝達時間9bをt1、及びデジタル信号処理装置12から出力されたゲート親信号12aを基に加速用誘導加速セル7で加速電圧8aを印加するまでに要する伝達時間9cをt2とすると次式(6)で求められる。
Δt=t0−(t1+t2)・・・式(6)
例えば、ある加速時間でのバンチ3の移動時間3eが1マイクロ秒であるとし、通過シグナル9aの伝達時間9bが0.2マイクロ秒、ゲート親信号12aが発生してから、加速電圧8aが発生するまでに要する伝達時間9cが0.3マイクロ秒であるならば、可変遅延時間18は、0.5マイクロ秒となる。
Δtは、加速の経過とともに変化する。荷電粒子ビームの加速に伴ってt0が加速の経過とともに変化するためである。従って、加速電圧8aを荷電粒子ビームに印加するためには、Δtをバンチ3の周回ごとに計算する必要がある。一方、t1およびt2は、一端誘導加速セルを用いたシンクロトロン1を構成する各装置を設置すれば、一定の値である。
t0は、荷電粒子ビームの周回周波数(fREV(t))、及びバンチモニター9から加速用誘導加速セル7までの荷電粒子ビームが周回する設計軌道2の長さ(L)から求めることができる。また、実測してもよい。
ここで、t0を荷電粒子ビームの周回周波数(fREV(t))から求める方法を示す。荷電粒子ビームが周回する設計軌道2の全長をC0とすると、t0は次式(7)によってリアルタイムで計算することができる。
t0=L/(fREV(t)・C0)[秒]・・・式(7)
fREV(t)は次式(8)によって求められる。
fREV(t)=β(t)・c/C0[Hz]・・・式(8)
ここで、β(t)は相対論的粒子速度、cは光速(c=2.998×108[m/s])である。β(t)は次式(9)によって求められる。
β(t)=√(1−(1/(γ(t)2))[無次元]・・・式(9)
ここで、γ(t)は相対論係数である。γ(t)は次式(10)によって求められる。
γ(t)=1+ΔT(t)/E0[無次元]・・・式(10)
ここで、ΔT(t)は加速電圧8aによって与えられるエネルギーの増加分、E0は荷電粒子の静止質量である。ΔT(t)は次式(11)によって求められる。
ΔT(t)=ρ・C0・e・ΔB(t)[eV]・・・式(11)
ここで、eは荷電粒子が持つ電荷量、ΔB(t)は加速開始開始からの磁場強度3aの増加分である。
荷電粒子の静止質量(E0)、荷電粒子の電荷量(e)は、荷電粒子の種類によって異なる。
上述の一連の可変遅延時間18であるΔtを求める式を定義式という。可変遅延時間18をリアルタイムに求める時は、定義式をデジタル処理装置8dの可変遅延時間計算機14に格納する。
従って、可変遅延時間18は、バンチモニター9から加速用誘導加速セル7の距離(L)、荷電粒子ビームが周回する設計軌道2の長さ(C0)が定まれば、荷電粒子ビームの周回周波数によって、一意に定まる。さらに、荷電粒子ビームの周回周波数も、磁場励磁パターンによって、一意に定まる。
また、荷電粒子の種類、誘導加速セルを用いたシンクロトロンの設定が定まれば、ある加速時点での必要な可変遅延時間18も一意に定まる。従って、バンチ3が、磁場励磁パターンにしたがって理想的な加速をするとすれば、予め可変遅延時間18を計算しておくこともできる。
図4は加速エネルギーレベルと可変遅延時間の関係を示す図である。図4(A)は、陽子ビームのエネルギーレベルと可変遅延時間18の出力時間の関係を示している。なお、KEKの12GeVPSに本発明である荷電粒子ビームの軌道制御装置6を組み込み、誘導加速セルを用いたシンクロトロン1に陽子ビームを入射19cしたときの値である。
横軸MeVは陽子ビームのエネルギーレベルであり、単位はメガ電子ボルトである。1MeVは、1.602×10−13ジュールに相当する。
縦軸Δt(μs)は、バンチ3がバンチモニター9を通過した時間を0として、加速用誘導加速セル7に発生させる加速電圧8aを制御するゲート信号パターン13aの出力タイミングの遅れ(可変遅延時間18)であり、単位はマイクロ秒である。可変遅延時間18は、バンチモニター9からの通過シグナル9aを受けて、前述のようにデジタル信号処理装置12によって計算される。
陽子ビームのエネルギーレベルは、周回速度3cによって一意に定まる。また、陽子ビームの周回速度3cは、シンクロトロン1の磁場励磁パターンに同期している。従って、可変遅延時間18は、リアルタイムで計算しなくとも、周回速度3c、或いは磁場励磁パターンから予め計算しておくことも可能である。
図4(A)のグラフは、理想的な可変遅延時間パターン18aと、理想的な可変遅延時間パターン18aに対応する必要な可変遅延時間パターン18bである。
理想的な可変遅延時間パターン18aとは、陽子ビームの周回スピードの変化に合わせて、加速電圧8aを印加するために、陽子ビームのバンチ3の周回毎に調節されたとしたならば、バンチ3がバンチモニター9を通過した時間から、デジタル信号処理装置12がゲート親信号12aを出力するまでに要する、エネルギーレベルの変化に対応した可変遅延時間18のことをいう。
必要な可変遅延時間パターン18bとは、エネルギーレベルの変化に対応した可変遅延時間18のことをいう。必要な可変遅延時間パターン18bは、理想的には、荷電粒子ビームの周回ごとに、可変遅延時間18を制御することが望ましいが、可変遅延時間発生器15の可変遅延時間18に対応したパルス15aの制御精度が±0.01μ秒であること、バンチ3の周回ごとに可変遅延時間18を計算制御しなくとも、荷電粒子を損失することなく十分効率的な加速を行うことができることから、理想的な可変遅延時間パターン18aと同様に、加速電圧8aを荷電粒子ビームに印加することができる。
従って、可変遅延時間18は、一定時間の時間単位で制御することとなる。この単位のことを、制御時間単位18cという。ここでは、0.1μsである。
図4(A)のグラフから、エネルギーレベルの低い入射19cの直後の陽子ビームは、KEKの12GeVPSでの加速においては、約1.0μsの長さの可変遅延時間18を必要とする。さらに、陽子ビームは加速時間とともに、エネルギーレベルが増加し、それに伴って、可変遅延時間18も短くなる。特に、約4500MeV以上から加速終了の付近では、可変遅延時間18はほぼ0に近くなる。
図4(B)は加速時間とともに、デジタル信号処理装置12で計算され、出力されるゲート親信号12aの可変遅延時間18が短くなっている様子を示している。横軸Δt(μs)は可変遅延時間18であり、単位はマイクロ秒である。図4(A)の縦軸に対応する。
例えば、入射19cの直後に1μsの可変遅延時間18を要する陽子ビームは、2000MeV付近のエネルギーレベルの時間帯では、0.2μsの可変遅延時間18でよい。
バンチモニター9より得られる通過シグナル9aを基に、デジタル信号処理装置12によって、ゲート親信号12aの可変遅延時間18を制御することで、入射19cの直後の低いエネルギーレベルから、加速後半の高いエネルギーレベルまで、バンチ3の周回周波数に合わせ得て加速電圧8aを印加することが可能であることを意味する。
従って、誘導加速セルを用いたシンクロトロン1において、本発明である荷電粒子ビームの軌道制御装置6を用いることで、任意の荷電粒子の周回周波数に対しても、可変遅延時間計算機14の磁場励磁パターンから計算される等価的な加速電圧値パターン8dを、選択した荷電粒子に対応した磁場励磁パターンに書き換えること、又は磁場励磁パターンから計算される理想的な可変遅延時間パターン18aに対応した必要な可変遅延時間パターン18bに書き換えることで、任意の荷電粒子を任意のエネルギーレベルに加速することができることなる。
図5は、遅い繰り返しと理想的な加速電圧値、及び等価的な加速電圧値の関係を示す図である。なお、図5はKEKの12GeVPSによる陽子ビームを加速する場合の磁場励磁パターン19である。
横軸tは誘導加速セルを用いたシンクロトロン1に荷電粒子ビームが入射19cされた時間を基準にした運転時間である。第1縦軸Bは誘導加速セルを用いたシンクロトロン1を構成する偏向電磁石4の磁場強度3aである。第2縦軸vは加速電圧値8iである。
遅い繰り返しとは、荷電粒子が前段加速器から入射19cされた時間を基準に、加速を経て、出射し、さらに次回の入射19cができるまでの時間である1周期が約数秒程度の遅い繰り返しのシンクロトロン1の磁場励磁パターン19による加速のことをいう。
この磁場励磁パターン19は、荷電粒子ビームが入射19cされた直後から、磁場強度3aを徐々に高め、出射の時点で最大磁場励磁状態になる。特に、荷電粒子ビームの入射19cの直後から、磁場強度3aは指数関数的に増加する。この時間帯の磁場励磁パターン19を非線形励磁領域19aという。その後、加速終了までは、一次関数的な増加になる。この時間帯の磁場励磁パターン19を線形励磁領域19bという。
従って、荷電粒子ビームを誘導加速セルを用いたシンクロトロン1によって加速するためには、この磁場励磁パターン19に同期して、加速電圧8aを発生させることが必要である。そのときのシンクロトロン1の磁場励磁パターン19に同期する理想的な加速電圧値(Vacc)は、次式(12)に示す関係がある。
Vacc∝dB/dt・・・式(12)
すなわち、ある時間での必要な加速電圧値8iは、当該時間での磁場励磁パターン19の時間変化率と比例関係にある。
よって、非線形励磁領域19aでは、磁場強度3aが二次関数的に増加していることから、必要となる誘導電圧値は、加速時間の時間変化の一次に比例して変化することとなる。
一方、線形励磁領域19bでの理想的な加速電圧値8kは、加速時間の変化に関係なく一定である。先の非特許文献2の内容は、この線形励磁領域19bおいて、一定電圧値の加速電圧8aを一定間隔で印加するによって、陽子が加速できることを実証したものである。また、加速電圧8aは上述したように、印加し続けることはできないので、加速電圧8aを印加した次回は、リセット電圧8bが必要である。
従って、加速電圧8aをこの非線形励磁領域19aの磁場励磁パターン19に同期するためには、加速電圧値8jを時間変化とともに増加させることが必要である。
しかし、加速用誘導加速セル7自体は、誘導電圧調整機構をもっていないため加速電圧値8iは、一定の値でしか得られない。一方、加速用誘導加速セル7で発生させるバンクコンデンサー24の充電電圧を制御することにより加速電圧値8iを変化することも考えられるが、バンクコンデンサー24は本来、出力変動に伴う充電電圧の変動を制御する目的で装荷されているものであるため、現実的にはバンクコンデンサー24の充電電圧を変化させる方法は、加速電圧値8iを速やかに制御する目的にには使用できない。
そこで、図6に示すパルス密度を採用し、荷電粒子ビームの軌道制御装置6を用いて、加速電圧8aの発生タイミングを非線形励磁領域19aの磁場励磁パターン19に同期させることとした。
制御単位における加速電圧8aの印加回数を0から、バンチ3の周回毎に印加するよう、段階的に増加させることで、理想的な加速電圧値パターン8cと制御単位においては、等価な加速電圧値8iを与えることができる。この等価な加速電圧値8iの集まりを等価的な加速電圧値パターン8dという。
例えば、4.7kVの加速電圧8aの制御単位を10周回と設定すると、加速電圧値8iは0kVから4.7kVまで0.47kV間隔で段階的に調整することができる。その結果、非線形励磁領域19aでの等価的な加速電圧値パターン8dを10段階の加速電圧値8iに分割できることとなる。
さらに小さい加速電圧値8iが要求される場合には、バンチ3の周回数に対する加速電圧8aの印加回数の比を調整すればよい。例えば、加速電圧値8iとして0.093kvを必要とする場合は、バンチ3の100周回毎に2回加速電圧8aを印加すればよい。
非線形励磁領域19aが0.1秒間あるとすると、制御単位を10と設定した場合の各段階の時間は、0.01秒となる。
パルス密度変化によって加速電圧8aの発生タイミングで制御することで、一定値の加速電圧8aでも、理想的な加速電圧値パターン8cに対応する等価的な加速電圧値パターン8dによって、一定時間19dでは、理想的な加速電圧値パターン8cを与えたことになる。
なお、大きく変化するシンクロトロン1の磁場励磁パターン19に同期させ、荷電粒子ビームを加速するためには、まず、前提として線形励磁領域19bで必要な加速圧値9kを印加できる加速用誘導加速セル7によって、陽子ビームのバンチ3の周回毎に一定電圧値である加速電圧8aを印加することが必要である。
図6はパルス密度変化による加速電圧値の制御方法を示した図である。記号tおよびvの意味は、図5と同じである。
図6に示す加速用の誘導電圧8の発生タイミング群をパルス密度20という。このようなパルス密度20をある周回数ごとにまとめて制御するバンチ3の周回数を、ここでは、制御単位21という。
t1は、非線形励磁領域19aの制御単位21が10周回であるときの制御単位21に要する時間を意味する。t2は、線形励磁領域19bの制御単位21が10周回であるときの制御単位21に要する時間を意味する。
パルス密度20は、等価的な加速電圧値パターン8dとして、上述したように、加速電圧演算機16に予め与えることも、加速電圧演算機16でリアルタイム計算することができる。
V 1 は、t1の間にバンチ3に印加された平均的な加速電圧値8hである。V 1 の値は、t1の間、すなわちバンチ3が10回、加速用誘導加速セル7を通過する時間の内の7回の通過に対して、一定電圧値V 0 の加速電圧8aを印加したとき、V 1 =7/10・V 0 =0.7V 0 として計算できる。
点線で示した加速電圧8fは、バンチ3が加速用誘導加速セル7に到達しても、加速電圧8aを印加されないことを意味する。同様に点線で示したリセット電圧8gも印加されないことを意味する。
このようにパルス密度20を荷電粒子ビームの軌道制御装置6で制御することで、一定電圧値の加速電圧8aのみしか印加できない加速用誘導加速セル7によっても、理想的な加速電圧値パターン8cに対応する等価的な加速電圧値パターン8dを与えることで、大きく変動する非線形励磁領域19aの磁場励磁パターン19に同期することが可能になった。
当然に、線形励磁領域19bで要求される一定値である理想的な加速電圧値8kにも同期することが可能である。その場合の、平均的な加速電圧値8hであるV 2 は、加速用誘導加速セル7を通過するバンチ3に対して、毎周回、一定電圧V 0 の加速電圧8aを印加する。すなわちV 2 =10/10・V 0 =V 0 である。
従って、前記制御単位21に荷電粒子ビームに印加された加速電圧値(Vave)は、加速用誘導加速セル7によって印加される一定値の加速電圧値(V0)、及び前記制御単位21の加速電圧8aの印加回数(Non)と停止した加速電圧8fの回数(Noff)から、次式(13)によって計算できる。
Vave=V0・Non/(Non+Noff)・・・式(13)
なお、連続して印加する加速電圧8aと加速電圧8aを印加する時間(以下、パルス間隔20aという。)を徐々に短くすることで、バンチ3の周回時間の短縮に対応することができる。
図7は加速電圧発生の停止による荷電粒子ビームの軌道制御方法を示す図である。図7は図5における線形励磁領域19bの制御単位21(10周回)に実際に印加された加速電圧8aのパルス密度20bである。横軸Tは荷電粒子ビームの周回数を示す。縦軸vは加速電圧値8iである。
線形励磁領域19bでの理想的な加速電圧値8kは、時間変化に関係なく一定である。従って、理想的な加速電圧値8kを印加できる加速用誘導加速セル7によって、バンチ3の周回毎に一定電圧値である加速電圧8aを印加すればよいこととなる。
しかし、例えば、式(12)により計算される線形励磁領域19bでの理想的な加速電圧値8kが時間変化に関係なく一定であったとしても、一定電圧の加速電圧値8iを印加することはできない。
印加する実際の加速電圧値8iは、ある程度の幅で高くなったり、低くなったり加速電圧の設定値8eからズレる。これは、バンクコンデンサー24の充電電圧が理想値からズレることに由来する。
従って、加速電圧演算機16に予め計算した等価的な加速電圧値パターン8dを格納し、等価的な加速電圧値パターン8dに基づく、パルス密度20bにより加速電圧8aを印加したとしても、いずれ荷電粒子ビームは設計軌道2からズレることとなる。
例えば、実際に印加した加速電圧値8iが、理想的な加速電圧値8k(一定時間19dにおける等価的な加速電圧値)より低い場合には、荷電粒子ビームは、設計軌道2より内側2bの軌道を周回し、いずれ偏向電磁石4の磁場励磁パターン19と同期することができず、真空ダクト壁面に衝突し、消失してしまう。
一方、実際に印加した加速電圧値8iが、理想的な加速電圧値8k(一定時間19dにおける等価的な加速電圧値)より高い場合には、荷電粒子ビームは、設計軌道2より外側2cの軌道を周回し、いずれ偏向電磁石4の磁場励磁パターン19と同期することができず、真空ダクト壁面に衝突して、同じく消失してしまう。
そこで、誘導加速セルを用いたシンクロトロン1で、荷電粒子ビームの損失を低減し、効率的な加速を繰り返すために、予め計算した等価的な加速電圧値パターン8dに基づくパルス密度20を修正することで、荷電粒子ビームを設計軌道2に維持することを可能にした。
パルス密度20の修正は、第1に制御単位21当たり、予め計算した等価的な加速電圧値パターン8dに対して、過剰分に相当する点線で示した加速電圧8lの発生を停止することによって可能である。
具体的には、加速電圧演算機16が、位置モニター11から、荷電粒子ビームがどれだけ外側2cにズレているかの情報である位置シグナル11aを受けて、予め加速電圧演算機16に格納された等価的な加速電圧値パターン8dに基づくパルス密度20の過剰分の加速電圧値に相当するパルス16aの発生を停止する方法である。
他に、上述した、等価的な加速電圧値パターン8dのある時間の制御単位21のパルス密度20を、加速電圧演算機16に格納した別のパルス密度20に置換することでも荷電粒子ビームの軌道を設計軌道2に維持することができる。
また、リアルタイムで、可変遅延時間18、加速電圧8aのオンおよびオフを制御する場合においては、バンチ3の周回毎に加速電圧8aを制御することにより、結果的に荷電粒子ビームの軌道は設計軌道2に位置することができる。
なお、非線形励磁領域19aにおいても、線形励磁領域19bと同様に荷電粒子ビームの軌道制御が必要であるが、ビーム偏向磁場強度シグナル4bの値から、式(1)によって加速用の誘導電圧8の値が自動的に計算される。
従って、外側2cにズレた荷電粒子ビームは、過剰分に相当する加速電圧8lの発生を停止することで、設計軌道2に維持させることが可能であるから、加速電圧の設定値8eは、理想的な加速電圧値パターン8cに対応する等価的な加速電圧値パターン8dより、高い加速電圧値8iを得られるように設定することが望ましい。
その結果、実際の加速電圧値8iは、理想的な加速電圧値パターン8cより大きくなる。そこで、磁場励磁パターン19に同期させるためには、一定の制御単位21において、加速電圧8aの発生を上述した方法により停止し、パルス密度20を修正すればよい。
本発明である荷電粒子ビームの軌道制御装置6を用いて、上述のように制御単位21のパルス密度20を修正することによって、ほぼ一定の電圧値(V0)の加速電圧8aしか印加することができない加速用誘導加速セル7であっても、遅い繰り返しのシンクロトロン1の磁場励磁パターン19に同期して、加速電圧8aを陽子ビームに印加することが可能である。
さらに、過剰な加速電圧値を受け、設計軌道2から外側2cにズレた荷電粒子ビームは、本発明である荷電粒子ビームの軌道制御装置6により、リアルタイムでパルス密度を修正することで、外側2cにズレた荷電粒子ビームを、基の設計軌道2に位置させることができることとなった。
また、この荷電粒子ビームの軌道制御装置6及びその制御方法によれば、速い繰り返しのシンクロトロン1の磁場励磁パターンであっても、制御単位21当たりのパルス密度20を修正して、一定電圧値の加速電圧8aを印加することで、速い繰り返しのシンクロトロン1の磁場励磁パターンに同期して、加速電圧8aを荷電粒子ビームに印加することが可能となる。
さらに、外側2cにズレた荷電粒子ビームの軌道を基の設計軌道2に位置させることもできることとなる。
速い繰り返しとは、荷電粒子ビームを前段加速器からの入射から開始し、加速を経て、出射し、さらに次回の入射ができるまでの時間である1周期が約数十ミリ秒程度の速い繰り返しのシンクロトロン1の磁場励磁パターンによる加速のことをいう。
速い繰り返しの磁場励磁パターンに同期させるためには、遅い繰り返しのシンクロトロン1の磁場励磁パターン19に比べ、要求される理想的な加速電圧値パターンは時間とともに著しく増減する。
しかし、本発明による荷電粒子ビームの軌道制御装置6及びその制御方法を用いることで、荷電粒子ビームの軌道を基の設計軌道2に位置させることができる。
従って、本発明である荷電粒子ビームの軌道制御装置6及びその制御方法を用いて、可変遅延時間18、誘導電圧のパルス密度20を制御することで、あらゆる磁場励磁パターンに対しても、荷電粒子ビームが設計軌道2を外れることなく、設計軌道2に維持させることが可能になった。