JP4035621B2 - 誘導加速装置及び荷電粒子ビームの加速方法 - Google Patents

誘導加速装置及び荷電粒子ビームの加速方法 Download PDF

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Description

本発明は、誘導加速セルを用いたシンクロトロンにおいて、誘導加速セルから印加される誘導電圧の発生タイミングを制御し、荷電粒子ビームの加速を可能にする誘導加速装置、及び荷電粒子ビームの加速方法に関する。
荷電粒子とは、元素の周期表のある種の元素が一定の正または負の電価状態にあるイオンおよび電子に始まる「電荷を持った粒子」の総称をいう。さらに、荷電粒子には化合物、タンパク質などの構成分子数の大きな粒子も含む。
シンクロトロンには、高周波シンクロトロン、誘導加速セルを用いたシンクロトロンがある。高周波シンクロトロンは、入射装置により真空ダクト内に入射した陽子などの荷電粒子に、荷電粒子ビームが周回する設計軌道の強収束を保証する偏向電磁石の磁場励磁パターンに同期した高周波加速電圧を高周波加速空洞によって印加し、荷電粒子を真空ダクト中の周回する設計軌道を周回させる円形加速器である。
高周波シンクロトロンでは、入射された荷電粒子が数個のバンチとして高周波シンクロトロンの設計軌道を周回する。バンチは、高周波加速空洞に到達すると、磁場励磁パターンに同期した高周波加速電圧を印加されることにより、所定のエネルギーレベルまで加速される。
ここで、バンチとは、荷電粒子が位相安定性を受け、設計軌道を周回する荷電粒子群のことをいう。
偏向電磁石の磁場励磁パターンの傾き(時間的変化率)から計算された加速に必要な電圧を高周波加速電圧としてバンチに印加する。高周波加速電圧は、バンチの加速に必要な電圧を与える機能と、バンチが進行軸方向に拡散することを防止する閉じ込め機能を併せ持っている。
高周波シンクロトロンでバンチを加速する場合には、この二つの機能が必ず必要である。特に閉じ込め機能を位相安定性と呼ぶことがある。ここで位相安定性とは、高周波加速電圧によって進行軸方向への収束力を受けて、個々の荷電粒子がバンチ化し、そのバンチの中を荷電粒子の進行軸方向に往きつ戻りつしながら高周波シンクロトロンの中を周回することをいう。なお、この二つの働きをもつ高周波加速電圧の時間帯は限られている。
一方、誘導加速セルを用いたシンクロトロンは、高周波シンクロトロンと加速原理が異なり誘導加速セルによって誘導電圧を荷電粒子ビームに印加して加速する円形加速器である。図16に誘導加速セルによる荷電粒子の加速原理を示す。
図16は、従来の機能の異なる誘導加速セルから印加させる誘導電圧による荷電粒子ビームの加速原理を示す図である。誘導加速セルには、機能により区別され、荷電粒子ビームを進行軸方向に閉じ込めるための誘導加速セル(以下、閉込用誘導加速セルという。)と、荷電粒子ビームを進行軸方向に加速するための誘導電圧を印加する誘導加速セル(以下、加速用誘導加速セルという。)がある。
なお、閉込用誘導加速セルに代えて、バンチ3を進行軸方向に閉じ込めるために高周波加速空洞を用いることもある。従って、従来の誘導電圧を用いる荷電粒子ビームの加速では、必ず加速と閉じ込めの2の機能を必要としていた。
図16(A)は、閉込用誘導加速セルによるバンチ3の閉じ込めの様子を示している。閉込用誘導加速セルによってバンチ3に印加する誘導電圧をバリアー電圧17という。
特に、バンチ頭部3dに印加するバンチ3の進行軸方向と逆向きのバリアー電圧17を負のバリアー電圧17aといい、その電圧値を負のバリアー電圧値17cという。また、バンチ尾部3eに印加するバンチ3の進行軸方向と同一方向のバリアー電圧17を正のバリアー電圧17bといい、その電圧値を正のバリアー電圧値17dという。
このバリアー電圧17によって、従来の高周波と同様にバンチ3に位相安定性を与えるものである。なお、横軸tは、加速用誘導加速セル内の時間的変化であり、縦軸vは、印加されるバリアー電圧値(図16(B)においては、加速用の誘導電圧値)である。
図16(B)は、加速用誘導加速セルによるバンチ3の加速の様子を示している。加速用誘導加速セルによってバンチ3に印加する誘導電圧を加速用の誘導電圧18という。特に、バンチ頭部3dからバンチ尾部3eに至るバンチ3の全体に印加するバンチ3の進行軸方向の加速に必要な加速用の誘導電圧18のことを加速電圧18aといい、その電圧値を加速電圧値という。なお、加速電圧18aが印加される時間を印加時間18eという。
また、加速用誘導加速セルにバンチ3が存在しない時間に、加速電圧18aと異極の加速用の誘導電圧18をリセット電圧18bといい、その電圧値をリセット電圧値18dという。このリセット電圧18bは、加速用誘導加速セルの磁気的飽和を回避するためのものである。
これらバリアー電圧17、及び加速用の誘導電圧18によって、陽子を加速することができると考えられ、実証されつつある。
Phys.Rev.Lett.Vol.94,No.144801−4(2005).
さらに、誘導加速セルを使用することにより、従来の高周波シンクロトロンで加速していたビーム長に比べて数倍から10倍の時間幅を持つ、1マイクロ秒もの長さをしたバンチ3(スーパーバンチ)を加速することも可能になると考えられている。
日本物理学会誌 vol.59,No.9(2004)p601−p610
図17は、シンクロトロン振動を示す図である。高周波シンクロトロンにおける荷電粒子の進行軸方向の閉じ込めとその加速方式では、バンチ3を閉じ込めることができる位相空間領域の、特に進行軸方向(時間軸方向)が原理的に制限されることが知られている。
具体的には高周波36が負の電圧になる時間領域ではバンチ3は減速され、電圧勾配の極性が異なる時間領域では荷電粒子は進行軸方向に発散し、閉じ込められない。すなわち、概ね点線矢印の間を示す加速領域36aでしかバンチ3の加速に使用することができない。
加速領域36aでは、バンチ中心3cに常に一定の電圧である中心加速電圧3fを印加するように高周波36の位相を移動制御することから、バンチ頭部3dに位置する荷電粒子は、バンチ中心3cよりエネルギーが大きく、より速く高周波加速空洞に到達するため、バンチ中心3cが受ける中心加速電圧3fより小さい頭部加速電圧3gを受け減速する。
一方、バンチ尾部3eに位置する荷電粒子は、バンチ中心3cよりエネルギーが小さく、遅く高周波加速空洞に到達するため、バンチ中心3cが受ける中心加速電圧3fより大きい尾部加速電圧3hを受け加速する。加速中、荷電粒子はこの過程を繰り返す。
これが位相安定性といわれ、共鳴加速、強収束とともに、荷電粒子のシンクロトロン加速を可能にする3大原理の内の1つの機能である。
このバンチ3が位相安定性を受けて、バンチ3を構成する荷電粒子がバンチ中心3cを点対称に加速方向の前後に回転することをシンクロトロン振動3iといい、そのときの荷電粒子の回転周波数をシンクロトロン振動周波数という。
ここで閉じ込めとは、バンチ3を構成する荷電粒子が、必ず運動エネルギーのばらつきを持っているために必要となる機能である。運動エネルギーのばらつきは、バンチ3が設計軌道を1周した後、同じ位置へ到達する時間の違いをもたらす。この時間差は閉じ込めを行わない限り、周回を重ねるごとに大きくなり、荷電粒子は設計軌道の全体にわたって拡散してしまう。
バンチ3の両端に正および負の誘導電圧が印加されるようにすると、エネルギーが不足して周回が遅れた粒子には正の誘導電圧によってエネルギーが与えられてエネルギー過剰な状態になり、エネルギーが過剰で周回が早まった荷電粒子には負の誘導電圧によってエネルギーが失われエネルギー不足な状態になる。
これにより、周回が遅れた粒子は周回が早まり、逆に周回が速い粒子は周回が遅れ、結果としてバンチ3を進行軸方向のある領域に局在させることができる。この一連の働きをバンチ3の閉じ込めと呼ぶ。
従って、閉込用誘導加速セルの機能は、従来の高周波加速空洞の閉じ込めの機能だけを分離したものと等価である。
閉込用とは、入射装置より誘導加速セルを用いたシンクロトロンに入射された荷電粒子ビームを、誘導加速セルによる所定の極性の異なる誘導電圧よって別の誘導加速セルで誘導加速できるように一定の長さのバンチ3まで縮めたり、その他種々の長さのバンチ3に変える機能と、加速中のバンチ3に位相安定性を持たせる機能を有しているとの意味である。
加速用とは、バンチ3を形成後に、バンチ3全体に加速用の誘導電圧18を与える機能を有しているとの意味である。
従来の高周波シンクロトロンにおいて、バンチ3は高周波シンクロトロンを構成する装置から設計段階では予想できない高周波を受ける現象が知られている。この現象を外乱と呼ぶ。この外乱は、シンクロトロンを構成する各装置が発する電磁波であり、設置状態により、加速毎に常に決まった高周波周波数としてバンチ3に与えられる。
たまたま、バンチ3のシンクロトロン振動3iの周波数と外乱の周波数が一致もしくは整数倍になると、シンクロトロン振動3iに共鳴を誘起し、荷電粒子が理想的エネルギーからずれ、バンチ3が進行軸方向に拡散し、高周波36の加速領域36aの時間幅を超え、損失してしまう。同様に、荷電粒子ビームの加速に加速用誘導加速セルを用いた場合には、加速電圧18aの印加時間18eの長さを超え、損失してしまう。
例えば、バンチ頭部3dの荷電粒子は、加速方向と逆向きの高周波加速電圧を受け、シンクロトロンの磁場励磁パターンに同期できなくなり、真空ダクト壁面に衝突して、消失する。
荷電粒子の加速において、粒子の損出は加速効率が低下する問題だけでなく、如何なる荷電粒子であっても、高エネルギー状態であるから、真空ダクト壁面に衝突した付近を少なからず放射化する重大な問題を伴う。
そこで、従来の荷電粒子の加速において、外乱による荷電粒子の損失を防止するため、高周波の振幅を変更することができる振幅変動装置によって、シンクロトロン振動周波数を制御し、外乱の周波数との同調を避けていた。
従って、荷電粒子ビームを誘導電圧で加速するためには、シンクロトロン振動周波数を制御しなければ、現実的に稼働させることはできない。
図18は、従来の誘導電圧によるスーパーバンチの生成過程の一例を示した図である。スーパーバンチ3mを構築するために、複数回に渡りバンチ3を真空ダクトに入射し、複数のバンチ3を結合する必要がある。
図18(A)において、複数のバンチ3を入射後、加速前に順次バンチ3を結合した時間的に長いバンチ3oに、さらにバンチ3を結合する方法について説明する。なお、スーパーバンチ3mの構築は、複数のバンチ3を入射後、各々のバンチ3をバリアー電圧17で閉じ込め、加速前に行う。
バンチ3oのバンチ頭部3dとバンチ尾部3eに、それぞれ負のバリアー電圧17aと正のバリアー電圧17bを印加して閉じ込めを毎周回行う。このときバリアー電圧17の発生タイミングは一定である。
バンチ3oに結合するバンチ3は、閉込用誘導加速セルとは別に移動用の誘導加速セルで負及び正のバリアー電圧17a、17bを印加し、閉じ込めながらバンチ3oに接近させる。接近させるためには、移動用のバリアー電圧17gの発生タイミングを徐々に早めていく。
結果的に閉じ込めだけに用いられるバリアー電圧17と、移動用に用いられるバリアー電圧17gの発生間隔(以下、バリアー電圧発生間隔17hという。)が短くなり、バンチ3は周回を重ねる毎にバンチ3oに接近(図中の白抜き矢印方向)する。
最終的に、バンチ3oの正のバリアー電圧の発生タイミングをバンチ3のバンチ尾部3eに相当する位置に発生させ、バンチ3oとバンチ3とを一体に結合する。これによりスーパーバンチ3mが構築されると考えられていた(図18(B))。
このようにしてなるスーパーバンチ3mを、負のバリアー電圧17a及び正のバリアー電圧17bからなるバリアー電圧17で閉じ込め、また、閉込用誘導加速セルとは別の加速用誘導加速セルから印加される加速用の誘導電圧18で加速することができると考えられている。
しかしながら、従来の誘導電圧による荷電粒子ビームの加速では、誘導電圧の機能ごとに、誘導加速セル及びそれにより印加される誘導電圧の発生タイミングを制御する装置の組み合わせを必要としていた。たとえば、加速用の誘導加速セル、閉込用の誘導加速セル、移動用の誘導加速セル、シンクロトロン振動周波周制御用の誘導加速セル、荷電粒子ビーム軌道制御用の誘導加速セル、及び各々その誘導電圧を制御する装置の組み合わせである。
従って、各々の誘導電圧を制御する必要があることから、その制御が複雑であった。また、各々の機能を担う誘導加速セル及びそれにより印加される誘導電圧の発生タイミングを制御する装置の組み合わせを用意する必要があることから、加速器の建設コストが高くなる点問題であった。
そこで、本発明は、第1にシンクロトロンにおいて、荷電粒子ビームの加速を制御する誘導加速セル及びそれにより印加される誘導電圧の発生タイミングを制御する装置である一組の誘導加速装置を提供することを目的とするものである。
第2に、前記誘導加速装置を用いて、誘導電圧の発生タイミングを制御し、同一形状の単一形状の誘導電圧によって、荷電粒子ビームの加速方法を提供することを目的とするものである。
第3に、前記誘導加速装置を用いて、任意の荷電粒子を一台の加速器で誘導加速セルを用いたシンクロトロンを構成する偏向電磁石の磁場強度が許す任意のエネルギーレベル(以下、任意のエネルギーレベルという。)に加速することができる加速器を提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決するために、第1に、シンクロトロン1の誘導加速装置において、荷電粒子ビームを進行軸方向に閉じ込めるバリアー電圧及び加速用の誘導電圧として機能する同一の矩形の正及び負の誘導電圧8を印加する誘導加速セル6と、前記誘導加速セル6に伝送線5aを介してパルス電圧6fを与え、駆動するスイッチング電源5bと、前記スイッチング電源5bに電力を供給するDC充電器5cと、前記スイッチング電源5bのオン及びオフを制御するゲート信号パターン13aを生成するパターン生成器13、及び前記ゲート信号パターン13aの基になるゲート親信号12aのオン及びオフを制御するデジタル信号処理装置12からなるインテリジェント制御装置7から構成され、前記誘導電圧の発生タイミングを制御することを特徴とする誘導加速装置の構成とし、
前記誘導加速装置5を、複数とし、同一周回で、複数個の誘導加速セル6から到着したバンチ3に誘導電圧を印加し荷電粒子ビームが受ける誘導電圧値を変更させ、又は複数個の誘導加速セル6から印加される誘導電圧の印加タイミングをずらし荷電粒子ビームが受ける印加時間18eを変更させ、
前記デジタル信号処理装置12が、磁場励磁パターン15、24を基に計算される理想的な可変遅延時間パターン14aに対応する必要な可変遅延時間パターン14bを格納し、前記必要な可変遅延時間パターン14bに基づき可変遅延時間シグナル20aを生成する可変遅延時間計算機20と、荷電粒子ビームが周回する設計軌道2にあるバンチモニター9からのバンチ3の通過シグナル9a、前記可変遅延時間計算機20からの可変遅延時間シグナル20aを受けて、可変遅延時間14に相当するパルス21aを生成する可変遅延時間発生器21と、磁場励磁パターン15、24を基に計算される理想的な加速電圧値パターン18fに対応する等価的な加速電圧値パターン18jを格納し、前記可変遅延時間発生器21からの可変遅延時間14に相当するパルス21aを受けて、誘導電圧8のオンオフを制御するパルス22aを生成する誘導電圧演算機22と、前記誘導電圧演算機22からのパルス22aを受けて、パターン生成器13に適したパルスであるゲート親信号12aを生成し、可変遅延時間14の経過後に出力するゲート親信号出力器23からなり、
前記可変遅延時間計算機20が、シンクロトロン1を構成する偏向電磁石4からの磁場強度であるビーム偏向磁場強度シグナル4b、及び設計軌道2上の荷電粒子ビームの周回周波数を基に可変遅延時間14をリアルタイムで計算し、前記可変遅延時間14に基づき可変遅延時間シグナル20aを生成することを特徴とする誘導電圧8の発生タイミングを制御する誘導加速装置5の構成とした。
第2に、シンクロトロン1の荷電粒子ビームの加速方法において、一組の誘導加速装置5から印加される同一の矩形の正の誘導電圧8a及び同一の矩形の負の誘導電圧8bからなる誘導電圧8の発生タイミングを制御し、一定時間におけるバンチ3の周回回数である制御単位15cにおいて、バンチ3の周回毎に誘導電圧8を印加することなく間欠的に、加速用の誘導電圧18を理想的な加速電圧値パターン18fに対応する等価的な加速電圧値パターン18jとして印加し、かつ加速用の誘導電圧18を印加しない時間帯に荷電粒子ビームを閉じ込めるバリアー電圧17及びシンクロトロン振動周波数を制御する誘導電圧を印加することにより、荷電粒子ビームを進行軸方向3aに閉じ込めるバリアー電圧17及び加速する加速用の誘導電圧18としての機能を時間的に分離することを特徴とする荷電粒子ビームの加速方法とした。
第3に、荷電粒子を発生するイオン源30と前記荷電粒子を一定のエネルギーレベルに加速する前段加速器31と前記前段加速器31で加速された荷電粒子ビームを設計軌道2が中にある環状の真空ダクト2aに入射する入射機器32からなる入射装置29と、前記設計軌道2の曲線部に設けられた前記荷電粒子ビーム(バンチ3)の設計軌道2を保証する偏向電磁石4と前記設計軌道2の直線部に設けられた前記荷電粒子ビームの強収束を保証する収束電磁石28と前記真空ダクト2aの中に設けられた荷電粒子ビームの通過を感知するバンチモニター9と前記真空ダクト2aに接続された荷電粒子ビームの加速制御を行う誘導加速装置5とからなる誘導加速シンクロトロン27と、前記誘導加速シンクロトロン27で所定のエネルギーレベルまで加速した荷電粒子ビームをビーム利用ライン35に出射する出射機器34と輸送管34aからなる出射装置33から構成される加速器26において、前記誘導加速装置5が、誘導電圧8を印加する誘導加速セル6と、前記誘導加速セル6に伝送線5aを介してパルス電圧6fを与え、駆動するスイッチング電源5bと、前記スイッチング電源5bに電力を供給するDC充電器5cと、前記スイッチング電源5bのオン及びオフを制御するゲート信号パターン13aを生成するパターン生成器13、及び前記ゲート信号パターン13aの基になるゲート親信号12aのオン及びオフを制御するデジタル信号処理装置12からなるインテリジェント制御装置7から構成され、
前記誘導加速装置5を、複数とし、同一周回で、複数個の誘導加速セル6から到着したバンチ3に誘導電圧を印加し荷電粒子ビームが受ける誘導電圧値を変更させ、又は複数個の誘導加速セル6から印加される誘導電圧の印加タイミングをずらし荷電粒子ビームが受ける印加時間18eを変更させ、
前記デジタル信号処理装置12が、磁場励磁パターン15、24を基に計算される理想的な可変遅延時間パターン14aに対応する必要な可変遅延時間パターン14bを格納し、前記必要な可変遅延時間パターン14bに基づき可変遅延時間シグナル20aを生成する可変遅延時間計算機20と、荷電粒子ビームが周回する設計軌道2にあるバンチモニター9からのバンチ3の通過情報である通過シグナル9a、前記可変遅延時間計算機20からの可変遅延時間シグナル20aを受けて、可変遅延時間14に相当するパルス21aを生成する可変遅延時間発生器21と、磁場励磁パターン15,24を基に計算される理想的な加速電圧値パターン18fに対応する等価的な加速電圧値パターン18jを格納し、前記可変遅延時間発生器21からの可変遅延時間14に相当するパルス21aを受けて、誘導電圧8のオンオフを制御するパルス22aを生成する誘導電圧演算機22と、前記誘導電圧演算機22からのパルス22aを受けて、パターン生成器13に適したパルスであるゲート親信号12aを生成し、可変遅延時間14の経過後に出力するゲート親信号出力器23とからなる誘導電圧8の発生タイミングを制御し、
前記前段加速器31が、静電加速器、線形誘導加速器、又は小サイクロトロンである、任意の荷電粒子ビームを任意のエネルギーレベルに加速することを特徴とする加速器26の構成とした。
又は、前記可変遅延時間計算機20が、シンクロトロン1を構成する偏向電磁石4からの磁場強度であるビーム偏向磁場強度シグナル4b、及び設計軌道2上の荷電粒子ビームの周回周波数を基に可変遅延時間14をリアルタイムで計算し、前記可変遅延時間14に基づき可変遅延時間シグナル20aを生成することを特徴する。
又は、前記誘導電圧演算機22が、シンクロトロン1を構成する偏向電磁石4からの磁場強度であるビーム偏向磁場強度シグナル4bを基に加速電圧値18cをリアルタイムで計算し、前記可変遅延時間発生器21からの可変遅延時間14に相当するパルス21aを受けて、加速用の誘導電圧18のオンオフを制御するパルス22aを生成することを特徴とする。
本発明は、以上の構成であるから以下の効果が得られる。第1に、1組の誘導加速装置5で、正の誘導電圧8a及び負の誘導電圧8bの発生タイミングを制御し、荷電粒子ビームに自在のタイミングで誘導電圧8を印加することができることから、荷電粒子ビームを偏向電磁石4による磁場励磁パターン15、24に同期させること、また充分加速電圧18aの印加時間18e内に荷電粒子ビームを閉じ込めること、シンクロトロン振動周波数を制御すること、さらに、ビーム軌道を制御することもでき、原理的に取り得る全ての荷電状態の任意の荷電粒子ビームを任意のエネルギーレベルに加速することができる。
第2に、誘導電圧8の発生タイミングを制御することにより、一組の誘導加速装置5で印加するバリアー電圧17として機能する誘導電圧8の発生間隔8eを短くすることで、スーパーバンチ3mを構築することが可能になる。
第3に、一組の誘導加速装置5で多機能の誘導電圧8を制御することから、荷電粒子ビームの加速制御の自由度が大幅に増す。
第4に、一組の誘導加速装置5で荷電粒子ビームを加速制御をすることから、加速器の建築費用か低く抑えられる。従って、医療に用いられる任意の荷電粒子ビームを低価格で提供することができる。従来の高周波シンクロトロンに一組の誘導加速装置5を置き換えるだけでよい。
シンクロトロン1において、一組の誘導加速装置5から印加される正の誘導電圧8a及び負の誘導電圧8bからなる誘導電圧8の発生タイミングを制御し、かつ間欠的に印加することにより、荷電粒子ビームを進行軸方向3aに閉じ込めるバリアー電圧17及び加速する加速用の誘導電圧18としての機能を時間的に分離することを特徴とする荷電粒子ビームの加速方法によって実現した。
以下に、添付図面に基づいて、本発明である誘導加速装置及びその制御方法について詳細に説明する。
図1は、本発明である誘導加速装置を含む誘導加速セルを用いたシンクロトロンの概略図である。
本発明である誘導加速装置5を利用した誘導加速セル6を用いたシンクロトロン1は、真空ダクト内にある入射されたバンチ3が周回する設計軌道2を保証する偏向電磁石4、強収束を保証する収束電磁石、加速中の荷電粒子ビームの種々の情報を感知するバンチモニター9、速度モニター10、位置モニター11などの装置によりなる。
正の電荷を持つ荷電粒子について、誘導加速装置5は、バンチ3が周回する設計軌道2が中にある真空ダクトに接続された、バンチ頭部3dに印加するバンチ3の進行軸方向3aと逆向きの負のバリアー電圧17a、バンチ尾部3eに印加するバンチ3の進行軸方向3aと同一方向の正のバリアー電圧17b、進行軸方向3aに加速する加速電圧18a、誘導加速セル6の磁気的飽和を回避する加速電圧18aと異極のリセット電圧18bとして機能する異なる機能の誘導電圧8を印加する誘導加速セル6と、前記誘導加速セル6に伝送線5aを介してパルス電圧6fを与える高繰り返し動作可能なスイッチング電源5bと、前記スイッチング電源5bに電力を供給するDC充電器5cと、前記スイッチング電源5bのオン及びオフの動作をフィードバック制御するインテリジェント制御装置7、及び前記誘導加速セル6より印加された誘導電圧値を知るための誘導電圧モニター5dからなる。
なお、本発明では、正のバリアー電圧17b又は加速電圧18aのように進行軸方向3aと同一の方向の誘導電圧8を正の誘導電圧8aという。また負のバリアー電圧17a又はリセット電圧18bのように進行軸方向3aと逆向きの誘導電圧8を負の誘導電圧8bという。ただし、負の電荷を持つ荷電粒子を加速する場合は、誘導電圧8の正負符号を逆にする。
本発明であるインテリジェント制御装置7は、スイッチング電源5bのオン及びオフの動作を制御するゲート信号パターン13aを生成するパターン生成器13、及び前記パターン生成器13によるゲート信号パターン13aの生成のもと信号であるゲート親信号12aを計算するデジタル信号処理装置12からなる。
ゲート信号パターン13aとは、誘導加速セル6より印加される誘導電圧8を制御するパターンである。誘導電圧8を印加する際に、誘導電圧8の印加時間と発生タイミングを決定する信号と、正の誘導電圧8a及び負の誘導電圧8bの間の休止時間を決定するための信号である。従って、ゲート信号パターン13aは加速するバンチ3の長さにあわせて調節が可能である。
パターン生成器13は、ゲート親信号12aをスイッチング電源5bの電流路のオン及びオフの組み合わせへと変換する装置である。
スイッチング電源5bは、一般に複数の電流路を持ち、その各枝路を通過する電流を調整し、電流の方向を制御することで負荷(ここでは誘導加速セル6)に正と負の電圧を発生させる。
誘導加速セル6は、従来の閉込用及び加速用誘導加速セルと同一である。しかし、従来の閉込用及び加速用誘導加速セルが、異なる機能の誘導電圧を印加するために、各々異なる誘導電圧の発生タイミングを制御する装置を必要としていたのに対して、本発明を構成する誘導加速セル6は、バンチ3を閉じ込めるバリアー電圧17と加速する加速用の誘導電圧18を1つのインテリジェント制御装置7で、同一の矩形の誘導電圧8の発生タイミングが制御される点相違する。
図2は、真空ダクトに連結している誘導加速セルの断面模式図である。ここで、誘導加速セル6とは、これまで作られてきた線形誘導加速器用の誘導加速セルと原理的には同じ構造である。
誘導加速セル6は、内筒6a、及び外筒6bからなる2重構造で、外筒6bの内に磁性体6cが挿入されてインダクタンスを作る。バンチ3が周回する真空ダクト2aと接続された内筒6aの一部がセラミックなどの絶縁体6dでできている。
磁性体6cを取り囲む1次側の電気回路にスイッチング電源5bに接続されたDC充電器5cからパルス電圧6fを印加すると、1次側導体には1次電流6g(コア電流)が流れる。この1次電流6gは1次側導体の周りに磁束を発生させ、1次側導体に囲まれた磁性体6cが励磁される。
これによりトロイダル形状の磁性体6cを貫く磁束密度が時間的に増加する。このとき絶縁体6dを挟んで、導体の内筒6aの両端部6hである2次側の絶縁部にファラデーの誘導法則にしたがって誘導電場が発生する。この誘導電場が電場6eとなる。
この電場6eが生じる部分を加速ギャップ6iという。従って、誘導加速セル6は1対1のトランスであるといえる。なお、誘導加速セル6は使用により発熱することから、外筒6bの内部には冷却用のオイルなどを循環させることがあり、絶縁体でできたシール6jを必要とする。
誘導加速セル6の1次側の電気回路にパルス電圧6fを発生させるスイッチング電源5bを接続し、スイッチング電源5bを外部からオン及びオフすることで、加速電場の発生を自由に制御することができる。
図3は、誘導加速装置を構成するスイッチング電圧と誘導加速セルの等価回路図である。前記等価回路は、DC充電器5cから常時給電を受けるスイッチング電源5bが、伝送線5aを経由して誘導加速セル6に繋がったものとして表すことができる。
誘導加速セル6は誘導成分L、容量成分C、抵抗成分Rの並列回路で示す。並列回路の両端電圧がバンチ3が感じる誘導電圧8である。
図3の回路状態は、第1スイッチ5g、及び第4スイッチ5jがゲート信号パターン13aによりオンになっており、バンクコンデンサー5fに充電された電圧が誘導加速セル6に印加され、加速ギャップ6iに加速電圧18aとして機能する正の誘導電圧8aが生じている状態である。
なお、加速ギャップ6iにバンチ3を閉じ込めるための正のバリアー電圧17bとして機能する正の誘導電圧8aも同様にして印加される。ただし、発生タイミング、及び加速電圧18aがバンチ3全体に印加されるのに対して、正のバリアー電圧17bはバンチ尾部3eに印加させる点が異なる。
この後は、第1スイッチ5g、及び第4スイッチ5jがゲート信号パターン13aによりオフになる。このときは誘導電圧8がオフの状態である。
次に、第2スイッチ5h、及び第3スイッチ5iがゲート信号パターン13aによりオンになり、リセット電圧18bとして機能する負の誘導電圧8bが生じる。ただし、発生タイミングは、バンチ3が存在しない時間帯に限られる。
なお、加速ギャップ6iにバンチ3を閉じ込めるための先の正の誘導電圧8aと逆向きの負のバリアー電圧17aとして機能する負の誘導電圧8bも同様にして印加されるとともに、正の誘導電圧8aを発生させる時に生じた誘導加速セル6の磁性体6cの磁気的飽和をリセットする。
同様に、オンになっていた第1スイッチ5g、及び第4スイッチ5jがゲート信号パターン13aによりオフになる。このときも誘導電圧8がオフの状態である。
再び、第1スイッチ5g、及び第4スイッチ5jがゲート信号パターン13aによりオンになる。このような一連のスイッチング動作をゲート信号パターン13aにより繰り返すことで、バンチ3を閉じ込めること、移動すること、荷電粒子ビームの軌道を制御すること、及びシンクロトロン振動周波数を制御し、荷電粒子ビームを加速することが可能となる。
ゲート信号パターン13aは、スイッチング電源5bの駆動を制御する信号であり、バンチモニター9からのバンチ3の通過シグナル9aを基に、デジタル信号処理装置12及びパターン生成器13からなるインテリジェント制御装置7でデジタル制御される。
なお、バンチ3に印加された誘導電圧8は、回路中の電流値とマッチング抵抗5kとの積から計算された値と等価である。従って、誘導電圧モニター5dである電流計で、電流値を測定することで印加した誘導電圧8の電圧値を知ることができる。
従って、誘導電圧モニター5dで得られる誘導電圧8の電圧値を誘導電圧シグナル5eとして、デジタル信号処理装置12にフィードバックし、次のゲート親信号12aの生成に利用することもできる。
一組の誘導加速装置5によって制御される誘導電圧8によって、荷電粒子ビームを加速するためには、上述のシンクロトロン振動周波数を制御すること、誘導電圧8の発生タイミングをバンチ3通過に合わせる制御をすること、磁場励磁パターンに同期した加速電圧値18cを印加することが必要である。
シンクロトロン振動周波数制御は、位相安定性を付与することとは別にバリアー電圧17として機能する正及び負の誘導電圧8a、8bをバンチ3に印加することにより実現できる。
誘導電圧8の発生タイミングを制御するためには、バンチ3の通過に同期させることが必要である。
さらに、加速中の荷電粒子ビームは、加速時間の経過とともに、単位時間当たりに設計軌道2を周回する回数(周回周波数(fREV))が変化する。例えば、高エネルギー加速器研究機構(以下、KEKという。)の12GeV陽子高周波シンクロトロン(以下、12GeVPSという。)において陽子ビームを加速する場合、陽子ビームの周回周波数は、667kHzから882kHzまで変化する。
また、誘導加速セル6を用いたシンクロトロン1を含む加速器は広い敷地に設置させるため、加速器を構成する各装置間を接続する信号線のケーブルを長く引き回す必要がある。その信号線を伝播する信号の速度は有限の値を持っている。
従って、加速器の構成を改変した場合、信号が各装置を通過する時間が、改変する前と同じである保証がない。そのため、誘導加速セル6を用いたシンクロトロン1を含む加速器では構成要素の改変の都度、印加時間8c、8dのタイミングを設定しなおさなければならない。
そこで、可変遅延時間を利用することとした。以下、可変遅延時間について説明する。図4は、可変時間についての説明図である。可変遅延時間14とは、誘導電圧8の発生タイミングをバンチ3の設計軌道2での位置によって制御するため、デジタル信号処理装置12を用いて、バンチモニター9の通過シグナル9aの発生から誘導電圧8を印加するまでの間を調整する時間のことである。
荷電粒子ビームの加速段階では、負のバリアー電圧17aとして機能する負の誘導電圧8bはバンチ頭部3dに、正のバリアー電圧17bとして機能する正の誘導電圧8aはバンチ尾部3eに、加速電圧18aとして機能する正の誘導電圧8aはバンチ3全体に、リセット電圧18bとして機能する負の誘導電圧8bは、バンチ3が誘導加速セル6に存在しない時間に印加されるように制御する。
具体的には、デジタル信号処理装置12の内部で、バンチモニター9からの通過シグナル9aを受けてから、ゲート親信号12aの発生までの時間を制御する。
可変遅延時間14であるΔtは、バンチ3が設計軌道2のいずれかに置かれたバンチモニター9から、誘導加速セル6に到達するまでの移動時間3bをt、バンチモニター9からデジタル信号処理装置12までの通過シグナル9aの伝達時間をt、及びデジタル信号処理装置12から出力されたゲート親信号12aを基に誘導加速セル6で誘導電圧8を印加するまで要する伝達時間をtとすると次式(1)で求められる。
Δt=t−(t+t)・・・式(1)
例えば、ある加速段階でバンチ3が、バンチモニター9から誘導加速セル6までの移動時間3b(t)が1マイクロ秒、通過シグナル9aの伝達時間tが0.2マイクロ秒、ゲート親信号12aが発生してから誘導電圧8が発生するまでに要する伝達時間tが0.3マイクロ秒であるならば、可変遅延時間14は、0.5マイクロ秒となる。
Δtは、加速の経過とともに変化する。バンチ3の加速に伴ってtが加速の経過とともに変化するためである。従って、バンチ3の存在位置によって誘導電圧8を発生タイミングを制御し、印加するためには、Δtをバンチ3の周回毎に計算する必要がある。一方t及びtは、一端誘導加速セル6を用いたシンクロトロン1を構成する各装置を設置すれば、一定の値である。
は、バンチ3の周回周波数(fREV(t))、及びバンチモニター9から誘導加速セル6までのバンチ3が移動する設計軌道2の長さ(L)から求めることができる。また、実測してもよい。
ここで、tをバンチ3の周回周波数(fREV(t))から求める方法を示す。Cをバンチ3が周回する設計軌道2の全長とすると、tは次式(2)によってリアルタイムで計算することができる。
=L/(fREV(t)・C)[秒]・・・式(2)
REV(t)は次式(3)によって求められる。
REV(t)=β(t)・c/C[Hz]・・・式(3)
ここで、β(t)は相対論的粒子速度、cは光速(c=2.998×10[m/s])である。β(t)は次式(4)によって求められる。
β(t)=√(1−(1/(γ(t)))[無次元]・・・式(4)
ここで、γ(t)は相対理論係数である。γ(t)は次式(5)によって求められる。
γ(t)=1+ΔT(t)/E[無次元]・・・式(5)
ここで、ΔT(t)は加速電圧18aによって与えられるエネルギーの増加分、Eは荷電粒子の静止質量である。ΔT(t)は次式(6)によって求められる。
ΔT=ρ・C・e・ΔB(t)[eV]・・・式(6)
ここで、ρは偏向電磁石4の極率半径、Cはバンチ3が周回する設計軌道2の全長、eは荷電粒子が持つ電荷量、ΔB(t)は加速開始からのビーム偏向磁場強度の増加分である。
なお、荷電粒子の静止質量(E)、荷電粒子の電荷量(e)は、荷電粒子の種類によって異なる。
従って、可変遅延時間14は、バンチモニター9から誘導加速セル6の距離(L)、バンチ3が周回する設計軌道2の全長(C)が定まれば、バンチ3の周回周波数によって、一意に定まる。さらに、バンチ3の周回周波数も、磁場励磁パターンによって、一意に定まる。
また、荷電粒子の種類、誘導加速セル6を用いたシンクロトロン1の設定が定まれば、ある加速時点での必要な可変遅延時間14も一意に定まる。従って、バンチ3が、磁場励磁パターンに従って、理想的な加速をするとすれば、予め上記定義式に従って可変遅延時間14を計算しておくこともできる。
上述の一連の可変遅延時間14(Δt)を求める式を定義式といい、可変遅延時間14(Δt)をリアルタイムに求める時は、定義式を後述するデジタル信号処理装置12の可変遅延時間計算機20に与える。
上述のようにして与えられた可変遅延時間14は、後述のデジタルデーターである可変遅延時間シグナル20aとして、可変遅延時間発生器21に出力される。
図5は、加速エネルギーレベルと可変遅延時間との関係を示す図である。図4のグラフは、陽子ビームのエネルギーレベルと可変遅延時間14の出力時間の関係を示している。なお、図4のデーターは、KEKの12GeVPSに陽子ビームを入射したときの値である。
横軸MeVは陽子ビームのエネルギーレベルであり、単位はメガボルトである。1MeVは100万電子ボルトで、1.602×10−13ジュールに相当する。
縦軸Δt(μs)は、バンチ3がバンチモニター9を通過した時間を0として、誘導加速セル6に発生させる加速電圧18aを制御するゲート信号パターン13aの出力タイミングの遅れ(可変遅延時間14)であり、単位はマイクロ秒である。可変遅延時間14は、バンチモニター9からの通過シグナル9aを受けて、前述のようにデジタル信号処理装置12によって制御される。
陽子ビームのエネルギーレベルは、陽子ビームの周回速度によって一意に定まる。また、陽子ビームの周回速度は、シンクロトロン1の磁場励磁パターンに同期している。従って、可変遅延時間14は、リアルタイムで計算しなくとも、周回速度、或いは磁場励磁パターンから予め計算しておくことも可能である。
図4のグラフは、理想的な可変遅延時間パターン14aと、理想的な可変遅延時間パターン14aに対応する必要な可変遅延時間パターン14bである。
理想的な可変遅延時間パターン14aとは、バンチ3の周回速度の変化に合わせて、加速電圧18aを印加するために、陽子ビームのバンチ3の周回毎に調節されたとしたならば、バンチ3がバンチモニター9を通過した時間から、デジタル信号処理装置12がゲート親信号12aを出力するまでに要する、エネルギーレベルの変化に対応した可変遅延時間14のことをいう。
必要な可変遅延時間パターン14bとは、理想的な可変遅延時間パターン14aと同様に、加速電圧18aをバンチ3に印加することができる、エネルギーレベルの変化に対応した可変遅延時間14のことをいう。
可変遅延時間14は、理想的には、バンチ3の周回毎に計算、制御することが望ましいが、可変遅延時間発生器21の可変遅延時間14に対応したパルス21aの現在の技術で実現できる最高の制御精度が±0.01μ秒であること、バンチ3の周回毎に可変遅延時間14を計算、制御しなくとも、荷電粒子を損失することなく十分効率的な加速を行うことができることから、階段状の可変遅延時間14である必要な可変遅延時間パターン14bを与えればよい。
従って、可変遅延時間14は、一定時間の時間単位で制御することとなる。この単位のことを、制御時間単位14cという。ここでは、0.1μsである。
図4(A)のグラフから、エネルギーレベルの低い入射16aの直後の陽子ビームは、KEKの12GeVPSでの加速においては、約1.0μsの長さの可変遅延時間14を必要とする。
さらに、陽子ビームは加速時間とともに、エネルギーレベルが増加し、それに伴って、可変遅延時間14も短くなる。特に、約4500MeV以上から加速終了の付近では、可変遅延時間14はほぼ0に近くなる。
従って、誘導加速セル6を用いたシンクロトロン1において、本発明である誘導加速装置5を用いることで、任意の荷電粒子の周回周波数に対しても、後述の可変遅延時間計算機20磁場励磁パターンから計算される等価的な加速電圧値パターン18jを、選択した荷電粒子に対応した磁場励磁パターンに書き換えること、又は磁場励磁パターンから計算される理想的な可変遅延時間パターン14aに対応した必要な可変遅延時間パターン14bに書き換えることで、容易に任意の荷電粒子を任意のエネルギーレベルに加速することができることなる。
図6は、遅い繰り返しと加速電圧の関係を示す図である。なお、図5はKEKの12GeVPSによる陽子ビームを加速する場合の磁場励磁パターン15である。
横軸tは誘導加速セル6を用いたシンクロトロン1に荷電粒子ビームが入射16aされた時間を基準にした運転時間である。第1縦軸Bは誘導加速セル6を用いたシンクロトロン1を構成する偏向電磁石4の磁場強度である。第2縦軸vは加速電圧値18cである。
遅い繰り返しとは、荷電粒子が前段加速器から入射16aされた時間を基準に、加速時間16cを経て、出射16bし、さらに次回の入射16aができるまでの時間である1周期16が約数秒程度の遅い繰り返しのシンクロトロン1の磁場励磁パターン15による加速のことをいう。
この磁場励磁パターン15は、荷電粒子ビームが入射16aされた直後から、磁場強度を徐々に高め、出射16bの時点で最大磁場励磁状態になる。特に、荷電粒子ビームの入射16aの直後から、磁場強度は指数関数的に増加する。この時間帯の磁場励磁パターン15を非線形励磁領域15aという。その後、加速終了16dまでは、一次関数的な増加になる。この時間帯の磁場励磁パターン15を線形励磁領域15bという。
従って、荷電粒子ビームを誘導加速セル6を用いたシンクロトロン1によって加速するためには、この磁場励磁パターン15に同期して、加速電圧18aとして機能する正の誘導電圧8aを発生させることが必要である。
そのときのシンクロトロン1の磁場励磁パターン15に同期する理想的な加速電圧値18c(Vacc)は、次式(7)に示す関係がある。
Vacc∝dB/dt・・・式(7)
これによって、求められる理想的な加速電圧値18cを理想的な加速電圧値パターン18fという。また理想的な加速電圧値パターン18fと反対符号のリセット電圧値18dを、理想的なリセット電圧値パターン18gという。
すなわち、ある時間での必要な加速電圧値18cは、当該時間での磁場励磁パターン15の時間変化率と比例関係にある。よって、非線形励磁領域15aでは、磁場強度が二次関数的に増加していることから、必要となる加速電圧値18iは、加速時間16cの時間変化の一次に比例して変化することとなる。
一方、線形励磁領域15bでの理想的な加速電圧値18hは、加速時間16cの変化に関係なく一定である。
なお、加速電圧18aは上述したように、連続して印加し続けることはできないので、加速電圧18aを印加した次回は、リセット電圧18bが必要である。
従って、加速電圧18aをこの非線形励磁領域15aの磁場励磁パターン15に同期させるためには、加速電圧値18cを時間変化とともに増加させることが必要である。しかし、誘導加速セル6自体は、誘導電圧値の調整機構をもっていないため加速電圧値18cは、一定の値でしか得られない。
一方、誘導加速セル6で発生させるバンクコンデンサー5fの充電電圧を制御することにより加速電圧値18cを変化することも考えられるが、バンクコンデンサー5fは本来、出力変動に伴う充電電圧の変動を制御する目的で装荷されているものであるため、現実的にはバンクコンデンサー5fの充電電圧を変化させる方法は、加速電圧値18cを速やかに制御する目的には使用できない。
そこで、図7に示すパルス密度を採用し、誘導加速装置5を用いて、加速電圧18aの発生タイミングを非線形励磁領域15aの磁場励磁パターン15に同期させることとした。
図7は、パルス密度変化による加速電圧の制御方法を示す図である。図7(A)は、図6の加速時間16cの一部を拡大した図である。また、記号t、BおよびVの意味は、図6と同じである。
図7(B)は、図7(A)における線形励磁領域15bでの一定のバンチ3の周回回数における加速用の誘導電圧18のパルス密度19を示したものである。図7(C)は、図7(A)における非線形励磁領域15aでのパルス密度19を示したものである。
加速用の誘導電圧18の発生タイミング群をパルス密度19という。このようなパルス密度19をある周回数ごとにまとめて制御するバンチ3の周回数を、ここでは、制御単位15cという。
大きく変化する磁場励磁パターン15に同期させ、陽子ビームを加速するためには、まず、前提として線形励磁領域15bで必要な加速電圧値18hを印加できる誘導加速セル6によって、陽子ビームの周回ごとに一定電圧値である加速電圧18aを印加できることが必要である。
例えば、線形励磁領域15bで式(7)の関係から必要な加速電圧値18hが4.7kVであるとすると、4.7kV以上の加速電圧18aを印加できる誘導加速セル6が必要である。そのときのパルス密度19を図7(B)に示す。
図6(B)は、図6(A)の線形励磁領域15bでの必要な加速電圧値18hが4.7kVであるから、4.7kVの加速電圧18aをバンチ3の周回ごとに印加するとともに、リセット電圧18bを印加するように調整することを示している。
次に、非線形励磁領域15aに同期するため理想的な加速電圧値パターン18fをバンチ3に与えることが必要になる。それには一定値の加速電圧18aしか印加できない誘導加速セル6であっても、加速電圧18aの印加回数を制御単位15cにおいて調整することで、理想的な加速電圧値パターン18fと等価な加速電圧値18cを与えることが可能になる。
すなわち、制御単位15cにおける加速電圧18aの印加回数を0から、バンチ3の周回ごとに印加するよう、段階的に増加させることで、理想的な加速電圧値パターン18fと一定時間においては、等価な加速電圧値18cを与えることができる。この等価な加速電圧値18cの集まりを等価的な加速電圧値パターン18jという。
例えば、非線形励磁領域15aでの必要な加速電圧値18iの最大値が4.7kV、加速電圧18aの制御単位15cが10周回であるとすると、加速電圧値18iを0kV〜4.7kVまで、0.47kV間隔で段階的に調整することができる。その結果、非線形励磁領域15aでの等価的な加速電圧値パターン18jは10段階に分割できることとなる。そのときのパルス密度19を図7(C)に示す。
図7(c)は、非線形励磁領域15aにおいて、等価的な加速電圧値18iが0.97kVである場合のパルス密度19の制御方法の一例を示したものである。制御単位15cのバンチ3の周回回数を10とすると、10周回の内の任意の2周回に4.7kVの一定値の加速電圧18aを印加する。
具体的には図7(C)の実線で示した加速電圧18a、リセット電圧18bを発生させればよい。その方法は、点線で示した加速用の誘導電圧18k、リセット電圧18lの印加をリアルタイムで停止することで可能である。
このような加速電圧18aの発生タイミングの制御を行うことにより、等価的な加速電圧値18iである0.97kVを印加したことになる。なお、加速電圧18aの次には、リセット電圧18bが必要なのは当然である。
また、0.47kVよりさらに小さい加速電圧値18iが要求される場合には、バンチ3の周回数に対する加速電圧18aの印加回数の比を調整すればよい。例えば、加速電圧値18iとして0.093kvを必要とする場合は、バンチ3の100周回ごとに2回加速電圧18aを印加すればよい。
ここで、非線形励磁領域15aが0.1秒間あるとすると、制御単位15cを10と設定した場合の各段階の時間は、0.01秒となる。
すなわち、パルス密度19の制御による加速電圧値18cの調整は、バンチモニター9からの通過シグナル9aを基に、デジタル信号処理装置12、パターン生成器13からなるインテリジェント制御装置7でゲート信号パターン13aの生成を停止する制御を行うことで可能である。
なお、制御単位15cの間にバンチ3に印加された加速電圧値(Vave)は、誘導加速セル6によって印加される一定値の加速電圧値18c(V)、及び制御単位15cの加速電圧18aの印加回数(Non)と加速電圧18aがオフの回数(Noff)から、次式(8)によって求められる。
Vave=V・Non/(Non+Noff)・・・式(8)
つまり、本発明である誘導加速装置5を用いて、上述のような方法によって、制御単位15cのパルス密度19を調整し、ほぼ一定の電圧値(V)の加速電圧18aしか印加することができない誘導加速セル6であっても、理想的な加速電圧値パターン18fに対応する等価的な加速電圧値パターン18jを与えることで、大きく変動する非線形励磁領域15aを含む遅い繰り返しの磁場励磁パターン15に同期して、加速電圧18aを荷電粒子ビームに印加することが可能となる。
上述のパルス密度19は、等価的な加速電圧値パターン18jとして、後述の誘導電圧演算機22に予め与えることも、誘導電圧演算機22でリアルタイム計算することができる。
なお、連続して印加する加速電圧18aと加速電圧18aを印加する時間(以下、パルス間隔19aという。)を徐々に短くすることで、バンチ3の周回時間の短縮に対応することができる。
図8は、過剰な値の誘導電圧を間欠的に印加する線形励磁領域での加速方法の一例を示す図である。横軸tは、誘導加速セル6内の時間的変化であり、縦軸vは、誘導電圧8の電圧値である。vは、誘導加速セル6から印加される誘導電圧値である。
先の図7(A)に示すパルス密度19では、加速用の誘導電圧18のみの印加しかできず、他の機能を有した誘導電圧8を印加することができない。
そこで、線形励磁領域15bでも過剰の誘導電圧値を印加できる誘導加速セル6を用いて、線形励磁領域15bにおいても、バンチ3の周回毎に加速用の誘導電圧18を印加することなく、間欠的に加速用の誘導電圧18を印加する。ここでは、線形励磁領域15bのある連続した、バンチ3の10周回を制御単位15cとする、加速用の誘導電圧18の印加方法を示した。
従来の加速用誘導加速セルによる加速であれば、必要的な加速電圧値18cを毎周回印加すれば良いが、本発明である荷電粒子ビームの加速方法においては、バリアー電圧17も加速用の誘導電圧18を印加する誘導加速セル6から印加しなければならないため、バリアー電圧17を印加する時間を確保する必要がある。
そのため、線形励磁領域15bにおいても、過剰な加速電圧値18cの加速電圧18aを用いることで、バリアー電圧17を印加する時間を確保する。なお、バリアー電圧17もバンチ3の周回毎に印加する必要がないことも、鋭意研究の結果みいだしたものである。
また、バリアー電圧17の印加回数は、バンチ3を構成する荷電粒子の拡散度合い、加速エネルギーレベルにより異なる。
線形励磁領域15bでの加速電圧値18hに対して、約5倍の加速電圧値18cを印加することができる誘導加速セル6から10周回の内2回のみ加速電圧18a及びリセット電圧18bを印加している。点線で示した加速用の誘導電圧18k、リセット電圧18lの印加を中止する。
これによる制御単位15cである10周回において、平均的にバンチ3が受けた加速電圧値18cは、ほぼ線形励磁領域15bにおいて必要的な加速電圧18aと等価になる。
その結果、線形励磁領域15bでも、過剰な加速電圧値18cを印加することができる誘導加速セル6を用いることで、バンチ3の周回毎に加速用の誘導電圧18を印加する必要がなく、他の機能を有する誘導電圧8を印加する時間を確保することができる。
図9はデジタル信号処理装置の構成図である。デジタル信号処理装置12は、可変遅延時間計算機20、可変遅延時間発生器21、誘導電圧演算機22及びゲート親信号出力器23からなる。
可変遅延時間計算機20は、可変遅延時間14を決定する装置である。可変遅延時間計算機20には、荷電粒子の種類に関する情報、磁場励磁パターン15、24を基に計算される可変遅延時間14の定義式が与えられている。上述した可変遅延時間14を計算する一連の式(1)〜式(6)、または必要な可変遅延時間パターン14bである。
荷電粒子の種類に関する情報とは、加速する荷電粒子の質量と電価数である。荷電粒子が誘導電圧8から得るエネルギーは電価数に比例し、これによって得られる荷電粒子の速度は荷電粒子の質量に依存する。可変遅延時間14の変化は荷電粒子の速度に依存するため、これらの情報を予め与えておく。
可変遅延時間発生器21は、ある周波数を基準とするカウンターで、バンチモニター9からの通過シグナル9aをデジタル信号処理装置12内に一定時間保持したのち通過させる装置である。例えば、1kHzのカウンターであれば、カウンターの数値1000は、1秒と等価である。すなわち、可変遅延時間発生器21に、可変遅延時間14に相当する数値を入力することで、可変遅延時間14の長さの制御を行うことができる。
具体的には、可変遅延時間発生器21は、可変遅延時間計算機20によって出力された可変遅延時間14に相当する数値である可変遅延時間シグナル20aを基に、ゲート親信号12aの発生を可変遅延時間14に相当する時間の間停止する制御を行う。
その結果、誘導電圧8の発生タイミングをバンチ3が誘導加速セル6に到達した時間、またバンチ3が誘導加速セル6に存在しない時間に合わせること、更には任意の時間を選択することもできることとなる。
例えば、可変遅延時間計算機20によって、150という数値の可変遅延時間シグナル20aを上記1kHzのカウンターである可変遅延時間発生器21に出力した場合、可変遅延時間発生器21は、0.15秒の間パルス21aの発生を遅らせる制御を行う。
可変遅延時間発生器21は、バンチモニター9からの通過シグナル9a、及び可変遅延時間計算機20からの可変遅延時間シグナル20aを受けて、バンチモニター9を通過したバンチ3毎に、次回の誘導電圧8を発生させるタイミングを計算して、誘導電圧演算機22に可変遅延時間14の情報であるパルス21aを出力する。
ここで、通過シグナル9aとは、バンチ3がバンチモニター9を通過した瞬間にあわせて発生するパルスである。前記パルスはそれを伝送する媒体あるいはケーブルの種類によって、適切な強度を持つ電圧型、電流型、光型などがある。前記通過シグナル9aを得るためのバンチモニター9は、従来から高周波シンクロトロンに使用されている荷電粒子の通過を感知するモニターでよい。
また、前記通過シグナル9aは、デジタル信号処理装置12にバンチ3の通過タイミングを時間情報として与えるために用いられる。バンチ3の通過により、発生したパルスの立ち上がり部によって、設計軌道2でのバンチ3の進行軸方向3aでの位置が求められる。すなわち、通過シグナル9aは、可変遅延時間14の開始時間の基準である。
誘導電圧演算機22は、誘導電圧8の種類、及び誘導電圧8を発生(オン)させるか、発生させない(オフ)か決定する装置である。
例えば、ある瞬間に必要な負のバリアー電圧値17c(正のバリアー電圧値17d)が−0.5kV(0.5kV)である場合、1=パルス22aを発生させる、0=パルス22aを発生させないと定義する。
−1.0kV(1.0kV)の一定値の負のバリアー電圧17a(正のバリアー電圧17b)を用いて、バンチ3が10周回する間に周回毎に負のバリアー電圧17a(または正のバリアー電圧17b)を印加する、印加しないを、[1、0、・・・、1]と表す。
そして、1が5回、0が5回とすると、バンチ3が10周回の間に受けた平均的な負のバリアー電圧値(正のバリアー電圧値)は−0.5kV(0.5kV)となる。このようにして、誘導電圧演算機22が誘導電圧8をデジタル制御する。
例えば、等価的なバリアー電圧値パターンとは、1秒間に負のバリアー電圧値17c(正のバリアー電圧値17d)を0Vから−1kV(1kV)まで変化させ、0.1秒間隔で制御する場合、等価的なバリアー電圧値パターンは、加速開始から0.1秒間は0kV、0.1〜0.2秒間は−0.1kV(0.1kV)、0.2〜0.3秒間は−0.2kV(0.2kV)・・・0.9〜1.0秒間は−1.0kV(1.0kV)とする等のデーターテーブルである。
制御単位がn周であるとき、その間に加速電圧18aをm回荷電粒子ビームに与えた場合、荷電粒子ビームが制御単位15cの内に受ける等価的な加速電圧値は、誘導加速セル6の出力する加速電圧値18cのm/n倍になる。
なお、mはnより必ず小さくなることは明らかである。この条件は荷電粒子ビームの軌道が変化する速さに比べて、制御単位15cが十分短い場合に成り立つ。この制御単位15cは、制御単位15cを短くすることで電圧精度が下がり適切な電圧を与えられなくなる下限、及び制御単位15cを長くすることで軌道の変化に反応できなくなる上限の範囲内において、任意に選択することができる。
また、ある時間に必要な誘導電圧8の電圧値は、バンチ3の周回毎に、リアルタイムで計算することも可能である。ある時間に必要な誘導電圧8の電圧値をリアルタイムで計算する場合は、誘導加速セル6を用いたシンクロトロン1を構成する偏向電磁石4からその時の磁場強度をビーム偏向磁場強度シグナル4bとして受け取り、予め計算する場合と同様な演算式により計算すればよい。
上述のようにして与えられた加速中のある時間に必要な誘導電圧8の電圧値を基にして決定された、ゲート親信号12aの発生を制御するパルス22aをゲート親信号出力器23に出力する。
ゲート親信号出力器23は、デジタル信号処理装置12を通過した可変遅延時間14とバリアー電圧17のオンオフの両方の情報を含んだパルス22aをパターン生成器13に伝達するためのパルス、すなわちゲート親信号12aを発生させる装置である。
ゲート親信号出力器23から出力されるゲート親信号12aであるパルスの立ち上がりが、バリアー電圧17の発生タイミングとして用いられる。また、ゲート親信号出力器23は、誘導電圧演算機22から出力されるパルス22aを、パターン生成器13に伝送する媒体あるいはケーブルの種類によって、適切なパルス強度を持つ電圧型、電流型、光型などに変換する役割を持っている。
ゲート親信号12aは、通過シグナル9aと同様に、バンチ3の通過を基に、適切な誘導電圧8を発生させるために可変遅延時間14を経過した瞬間にゲート親信号出力器23から出力される矩形の電圧パルスである。パターン生成器13はゲート親信号12aであるパルスの立ち上がりを認識することで動作を開始する。
上述のようにしてなるデジタル信号処理装置12は、バンチ3が周回する設計軌道2にあるバンチモニター9からの通過シグナル9aを基に、スイッチング電源5bの駆動を制御するゲート信号パターン13aの基となるゲート親信号12aをパターン生成器13に出力する。つまりデジタル信号処理装置12が誘導電圧8のオン及びオフを制御しているといえる。
リアルタイムで可変遅延時間14、誘導電圧8の電圧値、印加時間を計算することにより、何ら設定を変更することなく、誘導加速セル6を用いたシンクロトロン1の磁場励磁パターン15に対応して、バンチ3の周回周波数に同期した誘導電圧8を印加することが可能となる。
また、可変遅延時間14を予め計算する場合には、可変遅延時間計算機20の中の理想的な可変遅延時間パターン14aに対応する必要な可変遅延時間パターン14b、誘導電圧演算機22の中の等価的な加速電圧値パターン18jを、選択した荷電粒子、磁場励磁パターンに則した計算結果に書き換えるだけで、バンチ3の通過と誘導電圧8の発生タイミングを常に合わせることができる。
図10は、速い繰り返しと加速電圧の関係を示す図である。シンクロトロン1の運転方式には、速い繰り返し方式と、遅い繰り返し方式がある。何れも荷電粒子ビームを加速する過程において時間的に変動する磁場励磁パターン15、24をもつ。
上述のように、一定値である加速電圧18aを用いて、遅い繰り返しの磁場励磁パターン15に同期して、任意の荷電粒子を任意のエネルギーレベルまで加速できることを説明したが、本発明である誘導加速装置5及びその制御方法によれば、速い繰り返しの磁場励磁パターン24であっても、加速用の誘導電圧18を同期させることができる。
ここで、速い繰り返しとは、荷電粒子を前段加速器からの入射16aから開始し、加速時間16cを経て、出射16bし、さらに次回の入射16aができるまでの時間である1周期25が約数十ミリ秒程度の速い繰り返しの磁場励磁パターン24による加速のことをいう。
図10の第1縦軸Bは、誘導加速セル6を用いたシンクロトロン1の磁場強度で、第2縦軸vは加速用の誘導電圧18の電圧値である。第1横軸tは、磁場励磁パターン24の時間的変化であり、第2横軸t(v)は、加速用の誘導電圧18の発生時間であり、ともに荷電粒子ビームが誘導加速セル6を用いたシンクロトロン1に入射16aした時間を基準としている。
速い繰り返しの磁場励磁パターン24は、サインカーブの振幅を描くが、この磁場励磁パターン24に同期する加速用の誘導電圧18の電圧値は、遅い繰り返しの磁場励磁パターン15から求める方法と同様に、前述の式(7)により計算される。
式(7)により計算された加速電圧値18cの集まりが、理想的な加速電圧値パターン24aである。理想的な加速電圧値パターン24aは、磁場励磁パターン24のある時間での磁場変化の時間微分に比例するため、理論的にはコサインカーブ形の加速電圧値18cの変化が求められる。
当然に、理想的な加速電圧値パターン24aと逆向きの理想的なリセット電圧値パターン24cと等価的なリセット電圧18bを、荷電粒子ビームの存在しない時間帯に発生させなければならない。
この磁場励磁パターン24に同期し加速電圧18aを印加させるためには、遅い繰り返しの磁場励磁パターン15の場合に比べ要求される加速電圧値18cは、時間とともに著しく増減する。
しかし、本発明による誘導加速装置5及びその制御方法によれば、等価的な加速電圧値パターン24bを用いて、複雑な加速電圧値18cの変化を伴う速い繰り返しの磁場励磁パターン24に同期して、加速電圧18aを高速、かつ正確に制御することができる。
従って、あらゆる磁場励磁パターンにおいても、本発明である誘導加速装置5及びその制御方法を用いて、任意の荷電粒子を任意のエネルギーレベルに加速することができるといえる。
図11は、本発明である荷電粒子ビームの加速方法の一例(シミュレーション)を示す図である。1万個の荷電粒子(陽子)を40MeVから500MeVまでのエネルギーレベルに加速したときの加速挙動である。シミュレーションには、以下の条件を採用した。
12GeVPSの前段にある小型のシンクロトロン(500MeVブースターシンクロトロン)を仮定し、その真空ダクト2aの周長を使用した。本発明である誘導加速装置5を構成するデジタル信号処理装置12について、可変遅延時間14は予め設定されておりバンチ3が誘導加速セル6を通過する瞬間に誘導電圧8を与えられるものと仮定した。
誘導電圧演算機22には、予め誘導電圧8の発生パターン(間欠的な印加)を格納し、「磁場励磁パターンから決められる理想的な荷電粒子ビームのエネルギー」と「間欠的に誘導電圧8で加速した場合の荷電粒子ビームのエネルギー」とのずれが小さくなるように、不要な加速用の誘導電圧18として機能する正の誘導電圧8aを中止する方法を採用した。
誘導電圧8の印加時間8c、8dは52nsec、負の誘導電圧8b及び正の誘導電圧8aの電圧振幅は12kV、負の誘導電圧8b及び正の誘導電圧8aの発生間隔8eは15nsecに固定した。
矩形の誘導電圧8の形状は、時間で変化させず、加速中同一の形状とした。なお、スイッチング電源5bに関する動作周波数の制限(1MHz以下であること)から、負の誘導電圧8b及び正の誘導電圧8aの対を発生させた後は、少なくとも1μsec休ませなければ、次の負の誘導電圧8b及び正の誘導電圧8aの対を発生させることができないこととした。
また、磁場励磁パターンは、500MeVブースターシンクロトロンにおいて、0.5kV/周回である一定の加速電圧値18cを必要とする遅い繰り返しの磁場励磁パターン15の線形励磁領域15bを仮定した。このとき荷電粒子の周回周波数は、2MHzから6MHzと、スイッチング電源5bに関する動作周波数1MHzよりも高速で、かつ急激に変化する。
図11(A)から(H)の横軸Δt(nsec)は、設計粒子を0としたとき、設計粒子からの荷電粒子のズレ(時間)である。時間の単位は、ナノ秒である。従って、図(A)から(H)は、加速中のバンチ3の設計粒子に対するばらつきの程度を示している。
第1縦軸V(kV)は、誘導電圧8の電圧値である。第2縦軸Δp/p(%)は、運動量偏差であり、荷電粒子のエネルギーのズレである。図11各図は、入射16a直後の0周回(図11(A))から60万周回(図11(H))までの周回の一部を示したものである。周回数は、横軸Δt(nsec)の下に記載した。
図11(A)は、前段加速器によって、40MeVまで加速された荷電粒子が真空ダクト2aに入射16aされ、設計軌道2を周回し、バンチ3を形成している様子を表している。
図11(B)は、1周回目のバンチ3の様子である。設計軌道2を周回するバンチ3に初めて、負の誘導電圧8bがバンチ頭部3dに、正の誘導電圧8aがバンチ尾部3eに印加されていることから、負及び正のバリアー電圧17a、17bとして機能し、バンチ3を閉じ込めていることが分かる。
図11(C)は、3周回目のバンチ3の様子である。点線で示した正の誘導電圧8f、負の誘導電圧8gを印加すべきタイミングであるが、その印加を中止した。3周回目は、上述の設定された誘導電圧8の発生タイミングであるが、荷電粒子ビームのエネルギーレベルが、磁場励磁パターン24から計算される必要な加速電圧値18iに対して過剰であるため中止した。このような正及び負の誘導電圧8a、8bの印加を中止することは、実際にはデジタル信号処理装置12を構成する誘導電圧演算機22で判断される。
図11(D)は、11周回目のバンチ3の様子である。正及び負の誘導電圧8a、8bの何れも印加されていない。バリアー電圧17として機能する正及び負の誘導電圧8a、8bが印加されなくとも、その印加されない時間が許容範囲内である為、バンチ3は拡散することがなく、閉じ込められている。また、加速電圧18aとして機能する正の誘導電圧8aが印加されなくとも、その印加されない時間が許容範囲内である為、磁場励磁パターン24に同期している。従って、間欠的に誘導電圧8を印加することでも荷電粒子ビームを加速することができることが分かる。
図11(E)は、12周回目のバンチ3の様子である。ここでは正の誘導電圧8aがバンチ中心3cを中心に全体に印加されていることから加速電圧18aとして機能している。従って負の誘導電圧8bは、リセット電圧18bとして機能している。
図11(F)は、500周回目のバンチ3の様子である。点線で示した正の誘導電圧8f、負の誘導電圧8gの印加を中止した。500周回目は正及び負の誘導電圧8a、8bの発生タイミングであるが、図11(C)と同じく印加が中止されている。なお、図11(A)において縦長のバンチ3が、図11(F)では横長に変形していることから、その過程において間欠的な誘導電圧8の印加でもシンクロトロン振動3iが確認できる。なお、この変形は、断熱減衰によるものが大きいが、また荷電粒子の閉じ込め領域からのわずかな漏出の影響がある。
図11(G)は50万周回目、図11(H)は60万周回目のバンチ3の様子である。ともに、設計粒子に近い軌道に密集したバンチ3として、加速されていることが分かる。
間欠的にバンチ3に誘導電圧8を印加する本発明による荷電粒子ビームの加速方法によっても、バンチ3の閉じ込め、磁場励磁パターン24に同期した加速、シンクロトロン振動周波数の制御、ビーム軌道の制御が可能であるから、荷電粒子ビームを任意のエネルギーレベルに加速することができるといえる。
ここで、ビーム軌道制御とは、誘導電圧8の発生タイミングを制御することにより、荷電粒子ビームを設計軌道2に維持することをいう。
シンクロトロン1はシンクロトロン1を構成する偏向電磁石4による磁場強度によって、バンチ3を設計軌道2上に維持している。なお、荷電粒子ビームの軌道は、真空ダクト2aの中心ではなく、シンクロトロン1を構成する偏向電磁石4の配置によって定められた、真空ダクト2aの中心より外側、又は内側を周回する設計軌道2である。
偏向電磁石4による磁場強度がないと、バンチ3は、荷電粒子ビームがもつ遠心力により、真空ダクト2aの壁面に衝突して失われる。この磁場強度は、加速時間16cとともに変化する。その変化が磁場励磁パターン15、24である。
一旦加速する荷電粒子の種類、加速エネルギーレベル、シンクロトロン1の周長を決定すると、荷電粒子ビームの周回周波数バンド幅が一意に定まる。従って、高周波加速電圧と同様に、この磁場励磁パターン15、24に同期して進行軸方向3aに加速するよう荷電粒子ビームに加速用の誘導電圧18として機能する誘導電圧8を印加しなければならない。
しかし、バンチ3に印加する誘導電圧8の電圧値は一定ではなく、多少の増減がある。これは、バンクコンデンサー5fの充電電圧が理想値からズレることなど種々の要因に由来する。
その結果、磁場励磁パターン15、24に同期するため理想的な加速電圧値18cより、実際に印加された加速電圧値18cが過小であった場合は、バンチ3は設計軌道2から内側にズレることとなる。一方、理想的な加速電圧値18cより、実際に印加された加速電圧値18cが過剰であった場合は、荷電粒子ビームが設計軌道2から外側にズレる。
荷電粒子ビームを設計軌道2に修正する方法としては、加速電圧値18cの大きさを変更することが考えられる。しかし、加速電圧値18cを発生する誘導加速装置5は、誘導加速セル6が必要とする数十kWの安定した出力電力を得るために、パルス電圧6fの振幅を定めるスイッチング電源5bの高圧充電部には大きなバンクコンデンサー5f(静電容量)を装荷しなければならない。
このバンクコンデンサー5fの充電圧はパルス電圧6fの出力安定を目的とするため、高速に変化できない。このため現実的にはパルス電圧6fの振幅を高速に制御させることができない。
従って、使用するDC充電器5c、バンクコンデンサー5fが定まれば、出力電圧は一意に定まるため、電圧値を大きく、短時間で変化させることはできない。このためパルス電圧6fの振幅を変化させる方法では、誘導電圧8を磁場励磁パターン15、24に同期させることができない。
上述した誘導電圧8の電圧値の誤差を解消しなければ、誘導加速セル6を用いたシンクロトロン1においては、一端必要な加速電圧値18cよりも高い、加速電圧値18cを荷電粒子ビームが受けてしまうと、荷電粒子ビームのもつ遠心力によって、設計軌道2の外側にズレてしまい、荷電粒子ビームを加速することができない。
そこで、上記問題を解決するため、制御単位15cにおいて、パルス密度19をリアルタイムで補正して、補正したパルス密度19に基づき、加速電圧18aとして機能する正の誘導電圧8aを荷電粒子ビームに印加することで、荷電粒子ビームの軌道のズレを修正する。
具体的に、遅い繰り返しのシンクロトロン1において、図9に示すデジタル信号処理装置を用いた荷電粒子ビームの軌道制御方法について説明する。なお、可変遅延時間14については、予め必要な可変遅延時間パターン14bを求めて、可変遅延時間計算機20に格納する。
可変遅延時間計算機20が必要な可変遅延時間パターン14bに基づき可変遅延時間14に相当する可変遅延時間シグナル20aを生成し、可変遅延時間発生器21が荷電粒子ビームが周回する設計軌道2にあるバンチモニター9からのバンチ3の通過シグナル9a、前記可変遅延時間計算機20からの可変遅延時間シグナル20aを受けて、可変遅延時間14に相当するパルス21aを生成する。
磁場励磁パターン15を基に計算される理想的な加速電圧値パターン18fに対応する等価的な加速電圧値パターン18jを格納した、加速用の誘導電圧18として機能する誘導電圧8のオンオフを制御するパルス22aを生成する誘導電圧演算機22が、前記可変遅延時間発生器21からの可変遅延時間14に相当するパルス21a、及び設計軌道2にある荷電粒子ビームの設計軌道2からのズレを感知する位置モニター11からの位置シグナル11aを受けて、制御単位15cのパルス密度19から過剰な加速用の誘導電圧18の印加を停止する。
誘導電圧演算機22で求められた誘導電圧8のオンオフの情報であるパルス22a受けて、ゲート親信号出力器23がパターン生成器13に適したパルスであるゲート親信号12aを生成する。
このようにデジタル信号処理装置12により求められたゲート親信号12aを、パターン生成器13により、スイッチング電源5bの電流路のオンおよびオフの組み合わせであるゲート信号パターン13aへと変換する。このようにして、誘導電圧8のオンオフを制御することで、過剰な誘導電圧8の印加を中止する。
過剰な誘導電圧8を中止するために、バンチ3の通過を知るためのバンチモニター9、バンチ3の加速速度をリアルタイムで測定するための速度モニター10、荷電粒子ビームが設計軌道2からどれだけ水平方向の内側、または外側にズレているかを検出する位置モニター11などを利用する。
偏向電磁石4は鉄心、あるいは空芯に導体をコイル状に巻きつけた構造をしており、導体に電流を流すことで荷電粒子ビームの進行軸と垂直な磁場強度を発生させる。偏向電磁石4に発生している磁場強度は導体に流れる電流と比例関係にあるため、この比例係数をあらかじめ求めておき、電流量を測定して換算することで磁場強度を求めることができる。
速度モニター10は、バンチ3の周回速度に応じた電圧値あるいは電流値、あるいはデジタル値を発生させる装置である。速度モニター10はバンチモニター9のように荷電粒子ビームが通過した際に発生する電圧パルスあるいは電流パルスを、コンデンサーに蓄積して電圧値に変換するアナログ構造のものと、電圧パルスの数自体をデジタル回路で計数するデジタル構造のものが存在する。
位置モニター11は、バンチ3の設計軌道2に対するズレに比例した電圧値を出力する装置である。位置モニター11は、例えば、進行軸方向3aに対して斜めのスリットを持つ2枚の導体によって構成されており、バンチ3の通過に伴い導体表面に電荷が誘起される。誘起される電荷の量はバンチ3と導体間の位置に依存する為、2枚の導体に誘起されるそれぞれの電荷の量はバンチ3の位置に依存して異なり、結果として2枚の導体に誘起される電圧値に差が生じることを利用する。
例えば、バンチ3が位置モニター11の中心を通過した場合、誘起される電圧は等しいため、二つの導体に発生した電圧を差分した出力電圧値は0であり、設計軌道2の外側を通過した場合には中心からのズレに比例した正の電圧値、同様に内側を通過した場合には負の電圧値を出力する。
従って、偏向電磁石4、バンチモニター9、速度モニター10、位置モニター11は、高周波シンクロトロンの加速において用いられるものを利用することができる。
加速用の誘導電圧18の発生タイミングの制御に使用される具体的シグナルは、偏向電磁石4から荷電粒子ビームが前段加速器から入射された瞬間に偏向電磁石4(加速器の制御装置を介して)から出力されるサイクルシグナル4a、さらにリアルタイムの磁場励磁パターンであるビーム偏向磁場強度シグナル4b、バンチモニター9から荷電粒子ビームが該バンチモニター9を通過した情報である通過シグナル9a、バンチ3の周回速度である速度シグナル10a、及び位置モニター11から周回する荷電粒子ビームが設計軌道2からどれだけズレているかを示す情報である位置シグナル11aなどである。
可変遅延時間14は、荷電粒子の種類、磁場励磁パターンが予め定まっているときは、予め計算し、必要な可変遅延時間パターン14bとして与えることができる。
しかし、予め計算しておく場合は、荷電粒子ビームが設計軌道2から内側または外側に外れた場合には、荷電粒子ビームの軌道の修正ができない。そこで、予め可変遅延時間14を計算した場合は、誘導電圧演算機22で加速用の誘導電圧18として機能する正の誘導電圧8aの修正を行うこととなる。
また、荷電粒子ビームの周回速度を測定する速度モニター10を使用し、リアルタイムで荷電粒子ビームの周回速度である速度シグナル10aを可変遅延時間計算機20に入力すれば、上述の式(1)、及び式(2)に従って、荷電粒子の種類に関する情報を与えることなく、リアルタイムで可変遅延時間14を計算することもできる。
リアルタイムで可変遅延時間14を計算することにより、誘導加速装置5を構成するDC充電器5c、バンクコンデンサー5f等に起因して、印加する加速電圧値18cが所定の設定値から変動した場合、何らかの外乱によって、バンチ3の周回速度に突発的な変化が起こった場合であっても、誘導電圧8の発生タイミングを補正することで、荷電粒子ビームの軌道を修正することが可能となる。
なお、可変遅延時間計算機20には、偏向電磁石4(加速器の制御装置を介して)からサイクルシグナル4aが入力される。サイクルシグナル4aとは、荷電粒子ビームがシンクロトロン1に入射される際に偏向電磁石4(加速器の制御装置を介して)から発生するパルス電圧であり、加速開始の情報である。通常、シンクロトロン1は、荷電粒子ビームの入射16a、加速、出射16bを何度も繰り返す。
従って、予め可変遅延時間14を開始している場合には、可変遅延時間計算機20は、加速の開始であるサイクルシグナル4aを得て、予め計算された可変遅延時間14に基づいて、可変遅延時間シグナル20aを可変遅延時間発生器21に出力する。
上述のように、誘導電圧8の電圧値が一定でないこと、また加速中の突発的なトラブルにより、荷電粒子ビームが設計軌道2よりズレた場合に軌道を修正するために、誘導電圧8の発生の停止、すなわちパルス密度19の変更を行う必要がある。
誘導電圧演算機22で荷電粒子ビームの軌道を修正するためには、予め、修正のための基礎データーとして、どれだけの加速電圧値18cを荷電粒子ビームに与えると、どれだけ荷電粒子ビームの軌道が設計軌道2から外側へ移動するかの情報を加速電圧演算機16に与えておく必要がある。
次に、誘導電圧演算機22は、設計軌道2にある位置モニター11から、加速中のある時点において、荷電粒子ビームがどれだけ設計軌道2からズレているかを位置シグナル11aとして受け、荷電粒子ビームの軌道を修正するための計算をバンチ3の周回毎にリアルタイムで行う。
荷電粒子ビームの軌道を制御単位の周回数nで修正するために必要な1周当たりの加速電圧は、現在の軌道半径をρ、その時間微分をρ’、磁場強度をB、その時間微分をB’、及びシンクロトロンの全長をCとすると、次式(9)によって近似的に求められる。
V=C×(B’×ρ+B×ρ’)・・・式(9)
このVは、制御単位15cにおける誘導加速セル6で印加される平均的な加速電圧値である。なお、式(9)の右辺を現代制御理論などから求められた、数値計算式によって表される任意の式に拡張することができることは当然である。
V=(m/n)Vacc(m<n)・・・式(10)
ここで、Vaccは、上述の式(7)によって求められる、理想的な加速電圧値である。
ρ’およびB’は、1周当たりのバンチ3の周回時間をt、制御単位内の軌道半径をΔρ、及び制御単位15c位内の磁場強度の変化をΔB、tを周回数nだけ足し合わせた量をΣtとすると、次式(11)、式(12)によって求められる。
ρ’=Δρ/(Σt)・・・式(11)
B’=ΔB/(Σt)・・・式(12)
なお、これらのρ’、B’は、リアルタイムで誘導電圧8を制御する場合は、誘導電圧演算機22で計算する。
1周当たりのバンチ3の周回時間tは、速度モニター10などから得られた周回速度をv、及びシンクロトロンの全長をCとすると、次式(13)で求められる。
t=C/v・・・式(13)
このtは、バンチ3の周回毎に異なる値をとる。
これらの過程より求められた加速電圧値の計算結果に基づいて、必要な誘導電圧8を印加する、又は、過剰な加速電圧値に相当する加速用の誘導電圧18として機能する正の誘導電圧8aの印加を停止する。なお、正の誘導電圧8aの印加を停止するとは、次回に予定されていた加速電圧18aとして機能する正の誘導電圧8aの発生自体を行わないことをいう。
荷電粒子ビームの軌道が設計軌道2から外側にズレるのは、荷電粒子ビームに印加された加速電圧値18cが、その瞬間に必要な加速電圧値18cより過剰であるため、偏向電磁石4の磁場励磁パターンと同期がとれないことによる。
従って、予め、又はリアルタイムで磁場励磁パターン15から計算される等価的な加速電圧値パターン18jと、位置シグナル11aによってえられる軌道のズレから、過剰な加速電圧値を計算し、予め与えられている等価的な加速電圧値パターン18jから過剰な加速電圧値を減じたパルス密度に修正する。
パルス密度19を修正するとは、予め与えられていた、その瞬間に必要な加速電圧値18c、及び制御単位15cにおけるパルス密度19から、過剰分の加速電圧値に相当する加速電圧18aとして機能するの正の誘導電圧8aの印加を停止することをいう。
なお、予め与えられる等価的な加速電圧値パターン18jとは別に、例えば、少しでも荷電粒子ビームが設計軌道2から外側に外れた場合は、「大きく修正する」、「緩やかに修正する」などの荷電粒子ビームの軌道修正用のパルス密度19などを予め与え、適宜必要なパルス密度19を選択する方法で、荷電粒子ビームの軌道を制御することも可能である。
他に、上述した、等価的な加速電圧値パターン18jのある時間の制御単位15cのパルス密度19を、誘導電圧演算機22に格納した別のパルス密度19に置換することでも荷電粒子ビームの軌道を設計軌道2に維持することができる。
また、リアルタイムで、可変遅延時間14、誘導電圧8のオンおよびオフを制御する場合においては、バンチ3の周回毎に誘導電圧8を制御することにより、結果的に荷電粒子ビームの軌道を設計軌道2に位置させることができる。
上述のような制御法を採用することにより、加速器の大きさによって異なる荷電粒子ビームの軌道変動の様子に対しても適切な軌道制御が可能になる。
なお、磁場励磁パターン15、或いは等価的な加速電圧値パターン18j、修正用の基礎データー、修正用のパルス密度19は書き換え可能なデーターとして、選択した荷電粒子の種類、磁場励磁パターンによって変更できる。
これらデーターを書き換えるだけで、本発明である誘導加速装置5を、任意の荷電粒子を任意のエネルギーレベルに加速することにも利用することができる。
又は、荷電粒子ビームの軌道を制御するためには、ある時間に必要な加速電圧値18cは、バンチ3の周回毎にリアルタイムで計算することが必要である。ある時間に必要な加速電圧値18cをリアルタイムで計算する場合は、誘導加速セル6を用いたシンクロトロン1を構成する偏向電磁石4(加速器の制御装置を介して)からその時の磁場強度をビーム偏向磁場強度シグナル4bとして受け取り、予め計算する場合と同様な演算式により計算すればよい。
なお、図9の電流計である誘導電圧モニター5dで得られる誘導電圧8の電圧値である誘導電圧シグナル5eをデジタル信号処理装置12の誘導電圧演算機22にフィードバックすることでも、理想的な加速電圧値パターン18fに対応する等価的な加速電圧値パターン18jを計算することもできる。
また、位置モニター11と誘導電圧モニター5dとを併用することで、より精度よく荷電粒子ビームの軌道のズレを知ることができるため、荷電粒子ビームの軌道制御をより精度よく行うことができる。
従って、誘導電圧演算機22は、バンチモニター9から送られてくる通過シグナル9aを用いて、単にバンチ3の周回ごとに加速電圧18aを毎回出力するのではなく、リアルタイムで荷電粒子ビームの軌道修正に必要な加速電圧値を測定し、誘導電圧演算機22に予め与えられた等価的な加速電圧値パターン18jに基づくパルス密度19を修正するためにパルス22aを間欠出力する機能を持つものである。
従って、本発明である誘導加速装置5を用いて、可変遅延時間14、加速用の誘導電圧18として機能する誘導電圧8のパルス密度19を制御することで、ほぼ一定の電圧値(V)の加速電圧81aしか印加することができない誘導加速セル6であっても、あらゆる磁場励磁パターンに対しても、荷電粒子ビームが設計軌道2を外れることなく、設計軌道2に維持させることが可能である。
また、本発明である誘導加速装置5で誘導電圧8の発生タイミングをリアルタイムで制御することにより、パルス密度をリアルタイムで修正し、あらゆるシンクロトロンの運転方式、すなわち、あらゆる磁場励磁パターンに同期させて、荷電粒子ビームの軌道のズレを修正し、基の設計軌道2に位置させることができる。
加えて、荷電粒子ビームを、設計軌道2に対して、内側、又は外側の任意の軌道を周回させることもできる。
図12は、図11の加速シミュレーションのときの誘導電圧の発生パターンの一部を示す図である。横軸は(T)は、100周回までのバンチ3の周回数であり、縦軸のacc.は加速用の誘導電圧18の発生、con.はバリアー電圧が発生したこと、offは誘導電圧8が発生しなかったことを意味する。
点線で示した加速用の誘導電圧18kは、誘導電圧演算機22に発生するタイミングとして、誘導電圧演算機22にプログラムされていたが、荷電粒子ビームのエネルギーレベルが、磁場励磁パターン24から求められる等価的な加速電圧値パターン24bより過剰であるために、その発生を中止した加速用の誘導電圧18である。
磁場励磁パターンが与えられれば、あるタイミングt=tでの設計粒子のエネルギーが与えられるので、加速開始からt=tまでに間欠的に与えた加速電圧値18cの総和に電荷eを掛けたものと比較することで、過剰である否か判断する。
図12に示した誘導電圧8の発生パターンから分かるように、バンチ3の100周回の内、誘導電圧8の印加回数は加速用の誘導電圧18として6回、バリアー電圧17としてが22回である。従って、一組の誘導加速装置5から同一形状の多機能の誘導電圧8をバンチ3の周回毎に印加することなく間欠的に印加することでも、荷電粒子ビームを加速することができることが分かる。
なお、誘導電圧8が印加されていないバンチ3の周回もあることから、そのタイミングでシンクロトロン振動周波数を制御するバリアー電圧17として機能する誘導電圧8、ビーム軌道制御する加速用の誘導電圧18として機能する誘導電圧8を印加することが可能であることも分かる。
図13は、本発明である荷電粒子ビームの加速方法によってスーパーバンチを構築する方法(シミュレーション)を示した図である。
図13(A)から(I)の順に3つのバンチ3、3j、3lを結合させて、スーパーバンチ3mが形成される。なお、turnは、図11(A)から(F)までは、バンチ3に初めて誘導電圧8が印加する周回を0turnとしたときのバンチの周回数であり、図11(F)から(H)では、2つのバンチ3、3jが結合したバンチ3kに、さらに3つめのバンチ3lを結合する場合において、バンチ3kに初めて誘導電圧8を印加する周回のときを0turnとしたときのバンチ3の周回数である。
横軸time[nsec]は、真空ダクト2aに入射16aされたバンチ3に印加する負のバリアー電圧17aとして機能する負の誘導電圧8bが初めて印加される時間を0としたときの誘導電圧8の発生時間である。また、荷電粒子の位相空間の存在位置も表す。
第1縦軸Δp/p[%]は、運動量偏差であり、荷電粒子のエネルギーのズレである。第2縦軸Vstep[V]は誘導電圧8の電圧値である。
シミュレーション条件は、次のようにした。パルス振幅は5.8kv、印加時間8c、8dは250nsec、正及び負の誘導電圧8a、8bの発生間隔8eは80nsecとした。なお、シミュレーションの入射16aしたバンチ3、3j、3lは、Δp/p(%)を0.1%とした。また、結合させるバンチ3を閉じこめている正及び負の誘導電圧8a、8bの発生時間は、100turn毎に10nsecの割合で、結合させるバンチ側に移動させる。
図13(A)は、真空ダクト2aに入射16aされたバンチ3、3jの内、正の誘導電圧8aと負の誘導電圧8bによって、バンチ3を閉じ込めている様子である。すなわち、ここで印加されて誘導電圧8は、バリアー電圧17として機能している。
図13(B)は、310turn目の様子である。正の誘導電圧8aと負の誘導電圧8bによって、バンチ3jを閉じ込めている。すなわち、ここで印加された誘導電圧8は、バンチ3jにバリアー電圧17として機能している。
また、バンチ3、3jはバリアー電圧17を受けることから、シンクロトロン振動3iが起きていることも分かる。バンチ3については、負の誘導電圧のみバリアー電圧17として機能することから、バンチ3の右側ではシンクロトロン振動3iが起きており、バンチ3の左側ではわずかに、荷電粒子が拡散していることも確認できる。
図13(C)は、1302turn目の様子である。バンチ3とバンチ3jが接近し、一部統合されてきている。ここでの正及び負の誘導電圧8a、8bは、バンチ3に対して、バリアー電圧17として機能している。正の誘導電圧8aは、一部バンチ3jのバンチ頭部3dに影響(加速)を与えているものの、バンチ3jを構成する荷電粒子が極端に消失することはない。
図13(D)及び(E)は、それぞれ、3130turn、5947turn目の様子である。図13(D)及び(E)では、徐々にバンチ3jがバンチ3に近づき、結合しバンチ3kを形成している様子が分かる。ここで、バリアー電圧17、加速用の誘導電圧18、シンクロトロン振動周波数制御にも用いられることのない、つまり機能のない正及び負の誘導電圧8h、8iが印加されることになる。
図13(D)においては、正の誘導電圧8aは、バンチ3kに対しては、正のバリアー電圧17bとしての機能を有する。しかし、負の誘導電圧8iは2つのバンチ3と3jが結合し、新たに構築されたバンチ3kのバンチ中心3cに進行軸方向3aと逆向きの誘導電圧8として印加されている。
従って、機能のない誘導電圧8であり、不要である。しかし、正及び負の誘導電圧8a、8bは、交互に印加しなければ上述したように磁性体6cが電気的に飽和し、誘導電圧8を印加できなくなる。
そこで、このような不要な正及び負の誘導電圧8a、8bが近い周回数で対で印加され電圧を打ち消し合うことにより、荷電粒子ビームへの不要な正及び負の誘導電圧8a、8bの影響を低減することができる。なお、図13(E)においても負の誘導電圧8iは不要である。
また、図13(B)と(D)の正及び負の誘導電圧8a、8bの発生間隔8eを比較すると、(D)は(B)から約2800周回後のバンチ3の周回の様子であるから、約2800周回/100周回×10nsec=約280nsec早まって発生していることが分かる。
図13(F)は、2つのバンチ3、3jが結合し、新たに構築されたバンチ3kにさらに別のバンチ3lを結合させる場合の最初の段階(0turn)を示している。なお、正及び負の誘導電圧8a、8bの発生間隔8eは、図13(A)と同じく80nsecに戻す。
ここでは、バンチ3kに印加された負の誘導電圧8bは、負のバリアー電圧17aとして機能している。また、正の誘導電圧8aは、機能のない正の誘導電圧8hとしてバンチ3kのバンチ中心3cに印加されている。同様に165turn目である図13(G)における負の誘導電圧8iも不要である。これらの機能のない正及び負の誘導電圧8h、8iは、近い周回数で印加されることから、対として打ち消し合う。
図13(H)は、330turn目の様子であり、新たに結合する3番目のバンチ3lに正及び負の誘導電圧8a、8bが印加される。この誘導電圧8は、バンチ3lの閉じ込め機能を発揮していることから、バリアー電圧17として機能している。ここでも、シンクロトロン振動3iが見て取れる。
図13(I)は、形成されたスーパーバンチ3mの粒子密度分布3nを表す。横軸time[nsec]は、誘導加速セル6によってバンチ頭部3dに印加される負の誘導電圧8bの発生時間を0として表した荷電粒子が存在する時間幅である。ここでもシンクロトロン振動3iが起きていることが見て取れる。
第1縦軸Δp/p[%]は、運動量偏差であり、荷電粒子のエネルギーのズレである。第2縦軸densityは、荷電粒子の粒子密度分布3nであり、単位は相対的比率である。
ここでバンチ頭部3dに負のバリアー電圧17aと同じ機能を有する負の誘導電圧8b、バンチ尾部3eに正のバリアー電圧17aと同じ機能を有する正の誘導電圧8aを印加することにより、スーパーバンチ3mを閉じ込める。これにより、スーパーバンチ3mを閉じ込めること、また、シンクロトロン振動周波数制御を可能にする。
このように、本発明である一組の誘導加速装置5を用いて、間欠的に誘導電圧8を与えることにより、複数のバンチ3を結合して、スーパーバンチ3mを構築することも可能である。また、正及び負の誘導電圧8a、8bの発生間隔8eをスーパーバンチ3mの長さに調整することで、閉じ込めることが可能であり、スーパーバンチ3mの長さ全体に印加することが可能な印加時間18eを確保することでスーパーバンチ3mとして任意のエネルギーレベルに加速することが可能である。
スーパーバンチ3mの全体に加速電圧18aを印加する装置、方法について、次に図14を参照して具体的に説明する。
図14は、複数の誘導加速セルを用いて、誘導電圧値を変更する一例を示す図である。一般に負および正のバリアー電圧17a、17bは短い印加時間で相対的に高圧、加速電圧18aは長い印加時間で相対的には低圧、リセット電圧18bは、加速電圧18aとエネルギー的に等価になるような印加時間と電圧値が要求される。
複数の誘導加速セル6を用いることで、上記要求を容易に満足させることができる。そこで、以下に3連の誘導加速セル6を用いたときの運転パターンについて説明する。この方法によれば、荷電粒子の選択、到達エネルギーレベルの選択の自由度を増すことできる。
図14(A)は、3連の誘導加速セル6によって与えられるバリアー電圧17の大きさと、印加時間を示している。横軸tがバリアー電圧17の印加時間であり、縦軸V(t)がバリアー電圧17の電圧値を意味する。
図14(A)の(1)、(2)及び(3)はそれぞれ第1誘導加速セル6、第2誘導加速セル6及び第3誘導加速セル6から印加されたバリアー電圧17を表す。また(4)は3連の誘導加速セル6によって、バンチ3に印加された合計の負及び正のバリアー電圧値17e、17fを示している。
同じ周回数で3連の誘導加速セル6に到達したバンチ3に(1)から(3)の順に、先ず負のバリアー電圧17aをバンチ頭部3dに印加する。このときバンチ3は高速であるため、ほぼ同時に(1)から(3)の負のバリアー電圧17aを印加すればよい。
同様に正のバリアー電圧17bをバンチ尾部3eに印加する。従って、バンチ頭部3d、バンチ尾部3eには、(4)に示す合計の負及び正のバリアー電圧値17e、17fと等しい電圧値がバンチ3に印加されたこととなる。
このように誘導加速セル6を連ね、同じ周回数で各々の誘導加速セル6の誘導電圧発生タイミングをずらすことで、各々の誘導加速セル6により印加される負及び正のバリアー電圧値17c、17dが低くとも、高いバリアー電圧値17e、17fを得ることができることになる。すなわち、実効的に必要なバリアー電圧17(バリアー電圧17として機能する正及び負の誘導電圧8a、8b)の電圧値を容易に変更し得ることができる。ただし、誘導加速セル6と同じ数の誘導加速装置5を必要とする。
なお、同一周回ではなく、別周回で間欠的に与えると、バリアー電圧値は周回数を用いた平均値となるので、誘導加速セル6により印加される負及び正のバリアー電圧値17c、17dよりも低い値となる。この場合一組の誘導加速装置5でも、実効的に必要なバリアー電圧17の電圧値を容易に変更し得る。複数の誘導加速セル6を必要としないことから経済的である。
図14(B)は、3連の誘導加速セル6によって与えられる加速用の誘導電圧18の大きさと、印加時間18eを示している。横軸tが加速用の誘導電圧18の印加時間18eであり、縦軸V(t)が加速用の誘導電圧18の電圧値を意味する。
図14(B)の(1)、(2)及び(3)はそれぞれ第1誘導加速セル6、第2誘導加速セル6及び第3誘導加速セル6から印加された加速用の誘導電圧18を表す。また(4)は3連の誘導加速セル6によって、バンチ3に印加された加速電圧18aの合計の印加時間18m及び合計のリセット電圧値18nを示している。
同じ周回数で3連の誘導加速セル6に到達したバンチ3に同じ周回数で(1)から(3)の順に、先ず一定の加速電圧値18cである加速電圧18aを印加する。このとき(1)から(3)のように印加時間をずらすことでバンチ3の全体に加速電圧18aを印加することができる。
従って、バンチ3の全体に(4)に示す合計の印加時間18mと等しい印加時間を確保することができる。
また、3連の誘導加速セル6にバンチ3が存在しない時間帯に誘導加速セル6の磁気的飽和を回避するためリセット電圧18bを印加する。合計のリセット電圧値18nは、実効的にリセット電圧18bの3倍と高電圧となるが、各々の誘導加速セル6にかかる電圧は実質的にはリセット電圧18bでありリセット電圧18bよりも少ないので、1台の誘導加速セル6で加速電圧18aとリセット電圧値18nを与えるよりも放電による破壊の恐れは少ない。
なお、一組の誘導加速装置5を用いても、加速電圧18aもバリアー電圧17と同様に、同一周回でなく、別周回で間欠的に与えると、一組の誘導加速装置5で実効的に必要な加速電圧18a(加速電圧18aとして機能する正の誘導電圧8a)の印加時間を確保することができる。複数の誘導加速セルを必要としないことから経済的である。リセット電圧18b(リセット電圧18bとして機能する負の誘導電圧8b)についても同じである。
理論的には、このリセット電圧18bを印加する時間帯以外は、加速電圧18aを印加する時間として利用することができるため、任意の荷電粒子ビームをスーパーバンチ3mとして加速することが可能である。
このように誘導加速セル6を連ねることで、1つの誘導加速セル6では短い印加時間18eしか加速電圧18aを印加できなくても、長い印加時間18mを確保することが可能になる。つまり、低圧の誘導電圧8しか発生することができない誘導加速セル6であっても、閉じ込めと加速の二つの機能を充分発揮することができる。ゆえに、誘導加速セル6を用いた加速器の製造コストが低く抑えられる。
図15は、本発明である誘導加速装置を含む加速器の全体構成図である。なお、本発明である加速器26は、バンチ3の加速を制御する誘導加速装置5以外の装置は、従来の高周波シンクロトロン複合体一式で使用されていた装置を用いることができる。
加速器26は、入射装置29、誘導加速シンクロトロン27、及び出射装置33からなる。入射装置29は、誘導加速シンクロトロン27の上流にあるイオン源30、前段加速器31、入射機器32及びそれぞれの装置を連結し、荷電粒子ビームの連絡通路である輸送管30a、31aからなる。
イオン源30は、電子サイクロトロン共鳴加熱機構を利用したECRイオン源やレーザー駆動イオン源などがある。
前段加速器31は、電圧可変の静電加速器や線形誘導加速器などが汎用である。また、利用する荷電粒子種が決まっている場合は小サイクロトロン等も使用可能である。
入射機器32は、高周波シンクロトロン複合体一式で使用されていた機器が利用される。特に本発明である加速器26において特別な装置、方法は必要ない。
以上の構成よりなる入射装置29は、イオン源30で発生した荷電粒子を前段加速器31で一定のエネルギーレベルまで加速し、入射機器32で前記誘導加速シンクロトロン27に入射するものである。
誘導加速シンクロトロン27は、荷電粒子ビームの設計軌道2が中にある環状の真空ダクト2aと、設計軌道2の曲線部に設けられ荷電粒子ビームの円軌道を保持する偏向電磁石4と、設計軌道2の直線部に設けられバンチ3の拡散を防止する収束電磁石28と、真空ダクト2aの中に設けられバンチ3の通過を感知するバンチモニター9と、真空ダクト2aの中に設けられバンチ3の重心位置を感知する位置モニター11と、真空ダクト2aに接続されたバンチ3を進行軸方向3aに閉じ込め、加速するための誘導電圧8の発生タイミングを制御する誘導加速装置5から構成される。
誘導加速装置5は図1に、デジタル信号処理装置12は図9に示した構成であり、誘導電圧8の発生タイミングを制御し、荷電粒子ビームの閉じ込め、加速、バンチ3の移動を行う。閉じ込めによって、バンチ3に位相安定性を与え、バンチ3のシンクロトロン振動周波数を制御する。さらに加速電圧18aを印加することにより、荷電粒子ビームの周回軌道を任意に制御することができる。
また、バンチ3を移動することができることから、複数のバンチ3を結合して、スーパーバンチ3mを構築、加速することが可能である。
出射装置33は、誘導加速シンクロトロン27で所定のエネルギーレベルまで達した荷電粒子ビームを利用する実験装置35bなどが設置された施設35aに連結する輸送管34aとビーム利用ライン35に取り出す出射機器34からなる。なお、実験装置35bには、治療に用いられる医療設備等も含まれる。
出射機器34は、速い取り出しができるキッカー電磁石、又はベータートロン共鳴等を利用した遅い取り出しを行う装置などがあり、荷電粒子ビームの種類、用途に応じて選択することができる。
上記構成によりなる本発明である加速器26は1台であらゆる荷電粒子を任意のエネルギーレベルに加速することができるようになった。
本発明を含む誘導加速セルを用いたシンクロトロンの概略図である。 真空ダクトに連結している誘導加速セルの断面模式図である。 誘導加速装置を構成するスイッチング電圧と誘導加速セルの等価回路図である。 可変遅延時間についての説明図である。 加速エネルギーレベルと可変遅延時間との関係を示す図である。 遅い繰り返しと加速電圧の関係を示す図である。 パルス密度変化による加速電圧の制御方法を示す図である。 過剰な値の誘導電圧を間欠的に印加する線形励磁領域での加速方法の一例を示す図である。 デジタル信号処理装置の構成図である。 速い繰り返しと加速電圧の関係を示す図である。 本発明である荷電粒子ビームの加速方法の一例(シミュレーション)を示す図である。 図11のシミュレーションのときの誘導電圧の発生パターンを示す図である。 本発明である荷電粒子ビームの加速方法によってスーパーバンチを構築する方法(シミュレーション)を示した図である。 複数の誘導加速セルを用いて、誘導電圧値を変更する一例を示す図である。 本発明である誘導加速装置を含む加速器の全体構成図である。 従来の機能の異なる誘導加速セルから印加させる誘導電圧による荷電粒子ビームの加速原理を示す図である。 シンクロトロン振動を示す図である。 従来の誘導電圧によるスーパーバンチの生成過程の一例を示した図である。
符号の説明
1 シンクロトロン
2 設計軌道
2a 真空ダクト
3 バンチ
3a 進行軸方向
3b 移動時間
3c バンチ中心
3d バンチ頭部
3e バンチ尾部
3f 中心加速電圧
3g 頭部加速電圧
3h 尾部加速電圧
3i シンクロトロン振動
3j バンチ
3k バンチ
3l バンチ
3m スーパーバンチ
3n 粒子密度分布
3o バンチ
4 偏向電磁石
4a サイクルシグナル
4b ビーム偏向磁場強度シグナル
5 誘導加速装置
5a 伝送線
5b スイッチング電源
5c DC充電器
5d 誘導電圧モニター
5e 誘導電圧シグナル
5f バンクコンデンサー
5g 第1スイッチ
5h 第2スイッチ
5i 第3スイッチ
5j 第4スイッチ
5k マッチング抵抗
6 誘導加速セル
6a 内筒
6b 外筒
6c 磁性体
6d 絶縁体
6e 電場
6f パルス電圧
6g 1次電流
6h 端部
6i 加速ギャップ
7 インテリジェント制御装置
8 誘導電圧
8a 正の誘導電圧
8b 負の誘導電圧
8c 印加時間
8d 印加時間
8e 発生間隔
8f 正の誘導電圧
8g 負の誘導電圧
8h 正の誘導電圧
8i 負の誘導電圧
9 バンチモニター
9a 通過シグナル
10 速度モニター
10a 速度シグナル
11 位置モニター
11a 位置シグナル
12 デジタル信号処理装置
12a ゲート親信号
13 パターン生成器
13a ゲート信号パターン
14 可変遅延時間
14a 理想的な可変遅延時間パターン
14b 必要な可変遅延時間パターン
14c 制御時間単位
15 磁場励磁パターン
15a 非線形励磁領域
15b 線形励磁領域
15c 制御単位
16 1周期
16a 入射
16b 出射
16c 加速時間
16d 加速終了
17 バリアー電圧
17a 負のバリアー電圧
17b 正のバリアー電圧
17c 負のバリアー電圧値
17d 正のバリアー電圧値
17e 負のバリアー電圧値
17f 正のバリアー電圧値
17g バリアー電圧
17h バリアー電圧発生間隔
18 加速用の誘導電圧
18a 加速電圧
18b リセット電圧
18c 加速電圧値
18d リセット電圧値
18e 印加時間
18f 理想的な加速電圧値パターン
18g 理想的なリセット電圧値パターン
18h 加速電圧値
18i 加速電圧値
18j 等価的な加速電圧値パターン
18k 加速用の誘導電圧
18l リセット電圧
18m 印加時間
18n リセット電圧値
19 パルス密度
19a パルス間隔
20 可変遅延時間計算機
20a 可変遅延時間シグナル
21 可変遅延時間発生器
21a パルス
22 誘導電圧演算機
22a パルス
23 ゲート親信号出力器
24 磁場励磁パターン
24a 理想的な加速電圧値パターン
24b 等価的な加速電圧値パターン
24c 理想的なリセット電圧値パターン
25 1周期
26 加速器
27 誘導加速シンクロトロン
28 収束電磁石
29 入射装置
30 イオン源
30a 輸送管
31 前段加速器
31a 輸送管
32 入射機器
33 出射装置
34 出射機器
34a 輸送管
35 ビーム利用ライン
35a 施設
35b 実験装置
36 高周波
36a 加速領域

Claims (9)

  1. シンクロトロンの誘導加速装置において、荷電粒子ビームを進行軸方向に閉じ込めるバリアー電圧及び加速する加速用の誘導電圧を印加する1台の誘導加速セルと、前記誘導加速セルに伝送線を介してパルス電圧を与え、駆動するスイッチング電源と、前記スイッチング電源に電力を供給するDC充電器と、前記スイッチング電源のオン及びオフを制御するゲート信号パターンを生成するパターン生成器、及び前記ゲート信号パターンの基になるゲート親信号のオン及びオフを制御するデジタル信号処理装置からなるインテリジェント制御装置から構成され、前記誘導電圧の発生タイミングを制御することを特徴とする誘導加速装置。
  2. 前記デジタル信号処理装置が、磁場励磁パターンを基に計算される理想的な可変遅延時間パターンに対応する必要な可変遅延時間パターンを格納し、前記必要な可変遅延時間パターンに基づき可変遅延時間シグナルを生成する可変遅延時間計算機と、荷電粒子ビームが周回する設計軌道にあるバンチモニターからの荷電粒子ビームの通過シグナル、前記可変遅延時間計算機からの可変遅延時間シグナルを受けて、可変遅延時間に相当するパルスを生成する可変遅延時間発生器と、磁場励磁パターンを基に計算される理想的な加速電圧値パターンに対応する等価的な加速電圧値パターンを格納し、前記可変遅延時間発生器からの可変遅延時間に相当するパルスを受けて、誘導電圧のオンオフを制御するパルスを生成する誘導電圧演算機と、前記誘導電圧演算機からのパルスを受けて、パターン生成器に適したパルスであるゲート親信号を生成し、可変遅延時間の経過後に出力するゲート親信号出力器とからなり、誘導電圧の発生タイミングを制御することを特徴とする請求項1に記載の誘導加速装置。
  3. 前記可変遅延時間計算機が、シンクロトロンを構成する偏向電磁石からの磁場強度であるビーム偏向磁場強度シグナル、及び設計軌道上の荷電粒子ビームの周回周波数を基に可変遅延時間をリアルタイムで計算し、前記可変遅延時間に基づき可変遅延時間シグナルを生成することを特徴とする請求項2に記載の誘導加速装置。
  4. 前記誘導電圧演算機が、シンクロトロンを構成する偏向電磁石からの磁場強度であるビーム偏向磁場強度シグナルを基に加速電圧値をリアルタイムで計算し、前記可変遅延時間発生器からの可変遅延時間に相当するパルスを受けて、加速用の誘導電圧のオンオフを制御するパルスを生成することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の誘導加速装置。
  5. シンクロトロンの荷電粒子ビームの加速方法において、一組の誘導加速装置から印加される同一の矩形の正の誘導電圧及び同一の矩形の負の誘導電圧からなる誘導電圧の発生タイミングを制御し、一定時間における荷電粒子ビームの周回回数である制御単位において、荷電粒子ビームの周回毎に誘導電圧を印加することなく間欠的に、加速用の誘導電圧を理想的な加速電圧値パターンに対応する等価的な加速電圧値パターンとして印加し、かつ加速用の誘導電圧を印加しない時間帯に荷電粒子ビームを閉じ込めるバリアー電圧及びシンクロトロン振動周波数を制御する誘導電圧を印加することを特徴とする荷電粒子ビームの加速方法。
  6. 請求項1〜4に記載の誘導加速装置を、複数とし、同一周回で、複数個の誘導加速セルから到着した荷電粒子ビームに誘導電圧を印加し荷電粒子ビームが受ける誘導電圧値を変更させ、又は複数個の誘導加速セルから印加される誘導電圧の印加タイミングをずらし荷電粒子ビームが受ける印加時間を変更させることを特徴とする誘導加速装置。
  7. 請求項1〜4に記載の誘導加速装置を、複数とし、同一周回で、複数個の誘導加速セルから到着した荷電粒子ビームに誘導電圧を印加し荷電粒子ビームが受ける誘導電圧値を変更させ、又は複数個の誘導加速セルから印加される誘導電圧の印加タイミングをずらし荷電粒子ビームが受ける印加時間を変更させることを特徴とする荷電粒子ビームの加速方法。
  8. 荷電粒子を発生するイオン源と前記荷電粒子を一定のエネルギーレベルに加速する前段加速器と前記前段加速器で加速された荷電粒子ビームを設計軌道が中にある環状の真空ダクトに入射する入射機器からなる入射装置と、前記設計軌道の曲線部に設けられた前記荷電粒子ビームの設計軌道を保証する偏向電磁石と前記設計軌道の直線部に設けられた前記荷電粒子ビームの強収束を保証する収束電磁石と前記真空ダクトの中に設けられた荷電粒子ビームの通過を感知するバンチモニターと前記真空ダクトに接続された荷電粒子ビームの加速制御を行う誘導加速装置とからなる誘導加速シンクロトロンと、前記誘導加速シンクロトロンで所定のエネルギーレベルまで加速した荷電粒子ビームをビーム利用ラインに出射する出射機器からなる出射装置から構成される加速器において、前記誘導加速装置として、請求項1乃至請求項4、又は請求項6の何れかに記載の誘導加速装置を用いたことを特徴とする任意の荷電粒子ビームを加速する加速器。
  9. 請求項8において、前段加速器が、静電加速器、線形誘導加速器、又は小サイクロトロンであることを特徴とする請求項8に記載の加速器。
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