本発明は、例えば、パワーアシスト台車、電動車いす、電動の買い物カートなどの、操作者の操作に基づいて動作する電動車両及びその制御方法に関するものである。
操作者の操作に基づいて動作する電動車両には、障害物を回避する機能を有するパワーアシスト付きの電動車両がある。この電動車両は、搭載された障害物センサからの情報に基づき算出した動作で障害物を回避する。この電動車両において、操作者の操作に基づく動作と、障害物を回避するための動作とを足し合わせることにより、自動で障害物回避動作を行いながら、操作者の操作に基づく動作を行う電動車両が提案されている。
例えば、パワーアシスト付きの電動車両として特許文献1に記載されたパワーアシスト台車がある。このパワーアシスト台車205の駆動の制御は、障害物204と反対方向に作用する仮想斥力202に基づいて行われる。この仮想斥力202の大きさは、搭載された障害物センサにより検出した障害物204までの距離に反比例する大きさである。図23に示すように、このパワーアシスト台車205は、操作力201と仮想斥力202との合力203に基づいて、パワーアシスト台車205の駆動力を制御するものである。
ここで、操作力201は、操作者206がパワーアシスト台車の操作部205aに加えた力であり、仮想斥力202は、障害物204と反対方向に作用する力である。これにより、自動で障害物回避動作を行いながら、操作者206が加えた操作力201に基づくパワーアシスト台車205の動作を行うことができる。
しかしながら、例えば、図24に示すように、操作者206が操作部205aに対し操作力201を加えていない時に、障害物204がパワーアシスト台車205に近寄ってくる場合がある。このような場合には、障害物204との距離に応じて生成された仮想斥力202により、障害物回避動作が自動で行われてしまう。そのため、操作者206が動作させようとする意思がない場合でも、パワーアシスト台車205が勝手に動作してしまう可能性がある。
また、図25に示すように、操作者206が操作部205aに対し前方に操作力201を加えている時に、斜め前方から障害物204がパワーアシスト台車205に近寄ってくる場合がある。このような場合には、障害物204との距離に応じた仮想斥力202が斜め後方に生成される。この場合、操作力201や仮想斥力202の大きさにもよるが、それらの合力203の方向が、操作者206が動作させようとした方向とは異なり、意図した方向とは異なる方向に動作してしまう可能性がある。
以上のように、従来のパワーアシスト付きの電動車両では、操作者が操作していない場合でも電動車両が動作したり、操作者の意図とは大きく異なる方向や大きさで電動車両が動作したりする可能性がある。この場合、操作者が認識できている障害物であれば、操作した方向とは異なる方向への動作であっても問題ない。だが、例えば、搬送している荷物が大きく、近づいてきた障害物が見えない場合や、操作者が別の方向を見ており近づいてきた障害物が認識できていない場合には、その動作が把握できない。そのため、安全性に課題が生じる可能性がある。
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、操作者の操作に基づいたアシスト動作を行う電動車両およびその制御方法を提供することを目的とする。これにより、操作者が操作していない場合に電動車両が動作することや、操作者の意図とは大きく異なる方向や大きさで電動車両が動作することが発生しない。
上述したような課題を解決するために、本発明の電動車両は、操作者が電動車両に加えた操作力を計測する操作力計測部と、前記電動車両に対する障害物の位置ベクトルを計測する障害物計測部と、前記位置ベクトルの大きさに反比例する大きさであり、かつ、前記位置ベクトルの方向と反対方向の仮想斥力を算出する仮想斥力算出部と、前記電動車両を動作させるためのアシスト力を、前記操作力と前記仮想斥力の合力に基づいて算出し、算出するアシスト力の大きさの上限値Xを前記操作力に基づいて算出し、前記アシスト力が前記上限値Xを超えている場合、前記上限値X以下の大きさのアシスト力を出力するアシスト力算出部とを備えることを特徴とする。
また、上述したよう課題を解決するために、本発明の別の様態の電動車両は、操作者が電動車両に加えた操作量の大きさ及び方向を計測する操作量計測部と、前記電動車両に対する障害物の位置ベクトルを計測する障害物計測部と、前記操作量計測部が計測した操作量の大きさ及び方向に基づく前記電動車両の目標操作速度を算出する目標操作速度算出部と、前記障害物計測部が計測した前記位置ベクトルに基づいて、前記電動車両を前記障害物から遠ざけるための障害物回避速度を算出する障害物回避速度算出部と、前記電動車両を動作させるためのアシスト動作速度を、前記目標操作速度と前記障害物回避速度の合成速度に基づいて算出し、算出するアシスト動作速度の大きさの上限値Yを前記目標操作速度に基づいて算出し、前記アシスト動作速度が前記上限値Yを超えている場合、前記上限値Y以下の大きさのアシスト動作速度を出力するアシスト動作速度算出部とをことを特徴とする。
以上説明したように、本発明によれば、操作者の操作に基づいた動作を行う電動車両およびその制御方法を提供することができる。それにより、操作者が操作していない場合に電動車両が動作することや、操作者の意図とは大きく異なる方向や大きさで電動車両が動作することが発生しない。
図1は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1の斜視図である。
図2は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1を下方から見た図である。
図3は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1のシステム構成を示すブロック図である。
図A4は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1の前半のフローチャートである。
図4Bは、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1の後半のフローチャートである。
図5は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1のアシスト力の上限値(1)を示す図である。
図6は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1のアシスト力の上限値(2)を示す図である。
図7は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1のアシスト力の上限値(3)を示す図である。
図8は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1のアシスト力の上限値(4)を示す図である。
図9は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1のアシスト力の上限値(5)を示す図である。
図10は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1のアシスト力の上限値(6)を示す図である。
図11は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1のアシスト力の上限値(7)を示す図である。
図12は、実施の形態2における電動車いす101の斜視図である。
図13は、実施の形態2における電動車いす101を下から見た図である。
図14は、実施の形態2における電動車いす101のシステム構成を示すブロック図である。
図15Aは、実施の形態2における電動車いす101の前半のフローチャートである。
図15Bは、実施の形態2における電動車いす101の後半のフローチャートである。
図16は、実施の形態2における電動車いす101のアシスト力の上限値(1)を示す図である。
図17は、実施の形態2における電動車いす101のアシスト力の上限値(2)を示す図である。
図18は、実施の形態2における電動車いす101のアシスト力の上限値(3)を示す図である。
図19は、実施の形態2における電動車いす101のアシスト力の上限値(4)を示す図である。
図20は、実施の形態2における電動車いす101のアシスト力の上限値(5)を示す図である。
図21は、実施の形態2における電動車いす101のアシスト力の上限値(6)を示す図である。
図22は、実施の形態2における電動車いす101のアシスト力の上限値(7)を示す図である。
図23は、従来技術によるパワーアシスト台車を示す図である。
図24は、従来技術の課題(1)を示す図である。
図25は、従来技術の課題(2)を示す図である。
図26は、実施の形態1の適用例であるパワーアシストカートの斜視図である。
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を例示的に説明したものであって、当業者が想到できる範囲において適宜変更可能であり、本発明は、以下に記載する実施の形態に限定されるものではない。また、以下の説明において、同じ構成には同じ符号を付して説明を省略している。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるパワーアシスト台車1の斜視図、図2は、同実施の形態1におけるパワーアシスト台車1を下方から見た図である。
なお、理解を容易にするために、パワーアシスト台車1に固定され、パワーアシスト台車1の運動と共に動く台車座標系Σrを設定している(図1参照)。台車座標系Σrは、互いに直交する三つのXr軸、Yr軸およびZr軸を有する座標系であり、台車座標系ΣrのXr軸とYr軸から構成される平面は地面に対して平行な水平面とし、Xr軸がパワーアシスト台車1の前方を向いているものとする。
一方、電動車両であるパワーアシスト台車1の位置を示す座標系として基準座標系Σ0を設定している。基準座標系Σ0は、互いに直交する三つのX0軸、Y0軸およびZ0軸を有する座標系であり、基準座標系Σ0のX0軸とY0軸から構成される平面は、パワーアシスト台車1が走行する地面に設定している。以上の台車座標系Σrと基準座標系Σ0により、パワーアシスト台車1の位置及び姿勢が定義される。
パワーアシスト台車1は、物品(図示略)を載置する荷台2を備えている。台車座標系Σrの原点は、荷台2の中央(後述する4輪の車輪5の中心)に設定されているものとする。
荷台2の上側の後部領域には、パイプ状の部材により門型に構成されたハンドル3が設けられており、その中央部には、操作者(図示略)がハンドル3に加えた操作力の大きさ及び方向(台車座標系Σrにおける)を計測する操作力計測部4が設けられている。以下、および、請求の範囲において「操作力」の語は、力(大きさと方向からなるベクトルである)とモーメントの両方を含む意味で用いている。
操作力計測部4は、操作者がハンドル3に加えた操作力を計測することができるものであればよく、一般に市販されている3軸力センサを用いることができる。なお、操作力計測部4で計測される操作力は、台車座標系ΣrのXr軸方向及びYr軸方向の力、および、Zr軸回りのモーメントを含む。
また、パワーアシスト台車1は、荷台2の下側の四隅それぞれに、パワーアシスト台車1を走行させる車輪5を備えている。また、パワーアシスト台車1は、四つの車輪5を独立して駆動させる車輪駆動部6と、四つの車輪駆動部6を制御するコントローラ7が設けられている。パワーアシスト台車1の具体的な制御則は、このコントローラ7によって実現される。
車輪5は、パワーアシスト台車1を全方向に移動可能なものが好ましく、本実施の形態1では、一般に市販されている全方向移動車輪であるオムニホイールが4個採用されている。また、車輪5の配置や数も任意であり、本実施の形態の場合、図2に示すような車輪構成及び車輪配置としている。
なお、一般に市販されている中空タイヤ2個を用いた独立2輪駆動型の車輪構成をとってもよい。この場合には、パワーアシスト台車1を安定して支えるために、補助輪として、一般に市販されているキャスタを複数個用いることが望ましい。
車輪駆動部6は、減速機6a、電動モータ6b、電動モータ6bの回転角度を計測するエンコーダ6c、電動モータ6bを駆動するためのサーボドライバ6dから構成されている。本実施の形態1では、電動モータ6bはコントローラ7からの指令された速度で動作するように速度制御されている。
またパワーアシスト台車1は、荷台2の下側面に、パワーアシスト台車1から障害物までの距離と方向を計測する障害物計測部8を備えている。障害物計測部8の出力情報は、台車座標系Σrを基準とする情報である。障害物計測部8は、例えば水平方向における90度の範囲や180度の範囲内にある障害物の位置(方向)と距離との情報を取得できる測定装置である。本実施の形態1では、障害物計測部8として、一般に市販されている光走査型のレーザー測域センサ8aが採用されており、荷台2の角四隅に設けられている。本実施の形態1では、このレーザー測域センサ8aの検出範囲を周囲270度としているため、荷台2の角四隅に設けることにより、パワーアシスト台車1の全方向に存在する障害物までの距離及び方向を計測することができる。
ここで、図3はパワーアシスト台車1のシステム構成を示すブロック図である。
図3に示すように、パワーアシスト台車1は、操作力計測部4、障害物計測部8、仮想斥力算出部9、アシスト力算出部10、アシスト動作算出部11、駆動制御部12、車輪駆動部6、車輪5を機能部として備えている。
前述のとおり、操作力計測部4は、操作者13がパワーアシスト台車1のハンドル3に加えた操作力の大きさ及び方向を計測する装置である。
また、前述のとおり、障害物計測部8は、パワーアシスト台車1から障害物14までの距離及び方向(パワーアシスト台車1に対する障害物14の位置ベクトル)を計測する装置である。
仮想斥力算出部9は、障害物計測部8が計測した障害物14までの距離に反比例する大きさであり、かつ、パワーアシスト台車1から障害物14に向かう方向(位置ベクトルの方向)と反対方向に作用する仮想斥力を算出する処理部である。この仮想斥力は、パワーアシスト台車1に作用させることにより、障害物14との衝突を回避させるための情報である。
アシスト力算出部10は、操作力計測部4が計測した操作力と、仮想斥力算出部9が算出した仮想斥力との合力から、パワーアシスト台車1を制御するためのアシスト力を算出し、アシスト動作算出部11に出力する処理部である。この時、仮想斥力及びアシスト力は、台車座標系Σrを基準とする情報である。
アシスト動作算出部11は、アシスト力算出部10が算出したアシスト力に基づき、パワーアシスト台車1のアシスト動作速度を生成し、駆動制御部12に対し出力する処理部である。
駆動制御部12は、アシスト動作算出部11が算出したアシスト動作速度を、車輪5の指令回転速度に変換し、車輪駆動部6に対し指令を行う処理部である。
車輪駆動部6は、駆動制御部12が生成した指令回転速度となるように車輪の回転を制御する装置である。
以上の構成により、操作者13の操作に基づいた動作を行うパワーアシスト台車1を実現することができる。
なお、仮想斥力算出部9と、アシスト力算出部10と、アシスト動作算出部11と、駆動制御部12とは、コントローラ7に備えられる演算素子などとプログラムにより実現されるものである。
次に、このような構成において、図4に示すフローチャートに従って、具体的な制御則を用いた実施例について説明する。
はじめに、操作力計測部4は、(式1)に基づき操作者がハンドル3に加えた操作力の大きさ及び方向を計測する(ステップS1)。
ただし、fx opeは、台車座標系ΣrのXr軸方向の力、fy opeは、台車座標系ΣrのYr軸方向の力、nope∈Rは、台車座標系ΣrのZr軸回りで定義されたモーメントである。また、操作力が作用していない場合は、操作力はゼロとして算出する。
次に、障害物計測部8は、パワーアシスト台車1から障害物までの距離及び方向(位置ベクトル)を計測する(ステップS2)。
次に、仮想斥力算出部9は、パワーアシスト台車1を障害物から遠ざけるための仮想斥力を算出する。
まず、仮想斥力算出部9は、障害物までの距離に応じた斥力ポテンシャルUobj(X)∈Rを(式2)に基づいて生成する(ステップS3)。
ただし、X=[x y θ]T∈R3は、パワーアシスト台車1の現在位置を表すベクトル、η∈Rは正の重み係数、ρ(X)∈RはXから障害物への最近接距離を表し、ρ0(X)∈Rは正の定数である。斥力ポテンシャルUobj(X)はゼロ以上であり、パワーアシスト台車1が障害物領域に近づくほど無限大に近くなり、パワーアシスト台車1から障害物への距離がρ0以上のときゼロとなる。
ここで、パワーアシスト台車1に作用させる仮想斥力をFobj T∈R3とおくと、仮想斥力Fobjは、(式2)で算出した斥力ポテンシャルを用いて、(式3)のように求めることができる(ステップS4)。
ただし、∇Uobj(X)は、パワーアシスト台車1の現在位置XにおけるUobj(X)のこう配ベクトルを意味する。(式2)、(式3)から、パワーアシスト台車1の現在位置Xにおける仮想斥力は(式4)のように表すことができる。
生成された仮想斥力は、障害物14までの距離に反比例する大きさであり、かつ、障害物14の方向(位置ベクトルの方向)と反対向きに作用する仮想的な力である。この仮想斥力により、パワーアシスト台車1を障害物14から遠ざけることができる。
いま、操作力Fopeと仮想斥力Fobjの合力をFsum=[fx sum fy sum nsum]T∈R3とおくと、操作力Fopeと仮想斥力Fobjの合力Fsumは(式5)で表される。
ここで、アシスト力をFa=[fx a fy a na]Tとおくと、従来提案されている技術では、この合力Fsumをアシスト力Faと設定し、このアシスト力Fa(=Fope+Fobj)に基づいて、パワーアシスト台車1を動作させている。しかしながら、前述のとおり、従来の技術では、仮想斥力の大きさや方向によっては、操作者が操作していなくても勝手に動いたり、操作者が動作させようとした方向や大きさとは大きく異なる方向や大きさの動作が行われる可能性がある。このように、従来の技術では、安全性に課題が生じる可能性がある。そこで、この課題を解決するために、本発明では、アシスト力算出部10は、操作者13がパワーアシスト台車1に加えた操作力Fopeに基づいて、アシスト力Faの大きさを決定する。具体的には、アシスト力算出部10は、(式6)に従って、アシスト力Faを算出する(ステップS7)。
ただし、Flim(θope sum)∈Rは、アシスト力Faの上限値Xであり、操作力Fopeの方向と合力Fsum(=操作力Fope+仮想斥力Fobj)の方向とのなす角θope sum∈Rに基づいて定義される値である(ステップS5)。
本実施の形態1では、アシスト力Faの上限値XであるFlim(θope sum)の一実施例として、図5〜図8に示すような曲線を設定する(ステップS6)。図5〜図8に示すように、アシスト力Faの上限値XであるFlim(θope sum)は、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲A(θ+ A>θope sum>−θ+ A)にある場合には、操作力Fopeの大きさと等しく設定される。しかしながら、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲B(θ+ B>θope sum≧θ+ A or −θ− A>θope sum>−θ− B)にある場合には、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumの絶対値|θope sum|が大きくなるに従い、操作力Fopeの大きさから徐々に小さくなるように設定する。さらに、操作力Fopeの方向と合力の方向Fsumのなす角θope sumが所定の角度範囲C(θope sum≧θ+ B or −θ− B>θope sum)にある場合には、アシスト力Faの上限値XであるFlim(θope sum)がゼロになるように設定する。
図5は、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲A(θ+ A>θope sum>−θ− A)にあり、かつ、合力Fsumの大きさがアシスト力Faの上限値Xよりも小さい場合のアシスト力Faの決定例を示すものである。
図6は、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲A(θ+ A>θope sum>−θ− A)にあり、かつ、合力Fsumの大きさがアシスト力Faの上限値Xよりも大きい場合のアシスト力Faの決定例を示すものである。
図7は、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲B(θ+ B>θope sum≧θ+ A or −θ− A≧θope sum>−θ− B)にあり、かつ、合力Fsumの大きさがアシスト力Faの上限値Xであるよりも大きい場合のアシスト力Faの決定例を示すものである。
図8は、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲C(θope sum≧θ+ B or −θ− B≧θope sum)にある場合のアシスト力Faの決定例を示すものである。
これらを具体的に数式で表すと、(式7)のように定義できる。
ただし、k1(θope sum)∈R は、アシスト力Faの上限値の大きさを変更するための変数であり、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumに基づいて定義される値(0<k1(θope sum)<1)である。
なお、本実施の形態1では、角度範囲A〜Cを定義するθ+ A、θ− A、θ+ B、θ− Bの具体的な値として、θ+ A=θ− A=30°、θ+ B=θ− B=60°の場合を考える。この場合、アシスト力Faの上限値XであるFlim(θope sum)は、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが比較的小さい場合(30°>θope sum>−30°)には、操作力Fopeの大きさと等しく設定される。しかしながら、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが比較的大きい場合(60°>θope sum≧30° or −30°≧θope sum>−60°)には、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumの絶対値|θope sum|が大きくなるに従い、操作力Fopeの大きさから徐々に小さくなるように設定される。さらに、操作力Fopeの方向と合力の方向Fsumとのなす角θope sumが非常に大きい場合(θope sum≧60° or −60°≧θope sum)には、アシスト力Faの上限値XであるFlim(θope sum)がゼロになるように設定される。
このようにアシスト力Faの上限値Xを設定することにより、以下のような効果を得ることができる。
まず、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲A(30°>θope sum>−30°)にある場合、すなわち、操作者13が行った操作の方向(=操作力Fopeの方向)と、実際に動作する方向(=合力Fsumの方向)がほぼ一致している場合には、操作者13が想定した大きさ(=操作者13が加えた操作力Fopeの大きさ)のアシスト力Faが生成される。これにより、操作者13の意図どおりの動作が実現できる。 しかしながら、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲B(60°>θope sum≧30° or −30°≧θope sum>−60°)にある場合、すなわち、操作者13が行った操作の方向(=操作力Fopeの方向)と、実際に動作する方向(=合力Fsumの方向)が所定の角度範囲B(60°>θope sum≧30° or −30°≧θope sum>−60°)内でずれている場合には、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumの絶対値|θope sum|が大きくなるに従い、操作力Fopeの大きさから徐々に小さくなるように設定される。これにより、操作者13が意図した方向(=操作力Fopeの方向)と実際に動作する方向(=合力Fsumの方向)がずれる程、アシスト力の制限が大きくなる、すなわち、意図しない動作が生成されにくくなり、安全性を高めることができる。
さらに、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲C(θope sum≧60° or −60°≧θope sum)にある場合、すなわち、操作者13が意図した方向(=操作力Fopeの方向)と実際に動作する方向(=合力Fsumの方向)が大きくずれている場合には、アシスト力はゼロとして生成される(すなわち、動作しない)。
これにより、操作者13の意図から大きくずれた方向への動作は生成されないため、意図しない方向への動作を禁止でき、安全性を高めることができる。
また、パワーアシスト台車1に設定した基準の方向と、操作力Fopeの方向とのなす角をθref ope∈Rとおき、なす角θref opeに基づいてアシスト力Faの上限値Xを変えることにより、より安全性の高い操作を実現することができる。例えば、パワーアシスト台車1に大きな荷物を搭載している場合について考えると、後方は視認性が良いが、前方は視認性が悪いため、主に後方に動作させて(引っ張って)使用することになる。この場合、台車座標系ΣrのXr軸の負の方向に基準の方向を設定する。そして、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeに基づいて、アシスト力Faの上限値を修正する。具体的には、(式8)に基づいて、アシスト力Faの上限値を設定する。
ただし、k2(θref ope)∈Rは、アシスト力Faの上限値Xの大きさを変更するための変数であり、設定した基準の方向と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeに基づいて定義される値(0<k2(θref ope)<1)である。
本実施の形態1では、図9(a)〜(c)に示すように、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が大きくなるに従い、k2(θref ope)=1から小さくなり、所定の角度範囲D(|θref ope|≧θc)よりも大きい場合、k2(θref ope)=0になるように設定する。
図9(a)は、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeがゼロの場合のアシスト力Faの上限値の設定例を示す。
図9(b)は、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が所定の角度範囲D(|θref ope|≧θC)内にある場合のアシスト力Faの上限値の設定例を示す。
図9(c)は、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が所定の角度範囲D(|θref ope|≧θc)よりも大きい場合のアシスト力Faの上限値の設定例を示す。
なお、本実施の形態1では、角度範囲Dを定義するθCの具体的な値として、θC=45°の場合を考える。この場合、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が大きくなるに従い、k2(θref ope)=1から小さくなり、所定の角度範囲D(|θref ope|≧45°)よりも大きい場合、k2(θref ope)=0になるように設定する。
このようにアシスト力Faの上限値を設定することにより、操作者13が設定した操作が容易な方向(あるいは、視認性が良く安全に動作できる方向)(|θref ope|<45°)には動かし易く、操作が困難な方向(あるいは、視認性が悪く安全に動作できない方向)(|θref ope|≧45°)には動かし難くすることができる。その結果、より安全性の高い電動車両(パワーアシスト台車1)を構成することができる。
なお、上述の基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)は、複数設定してもよい。例えば、操作が容易な方向(あるいは、視認性が良く安全に動作できる方向)が2つあれば、その2つの方向を基準の方向として設定してもよい。また、例えば、独立2輪駆動型の車輪構成の場合には、車軸と垂直方向の2方向(前進方向と後退方向)に基準の方向を設定する。この場合、設定した2方向(前進方向と後退方向)が機構的に操作しやすい方向であるため、その方向のアシスト動作は大きく、その方向と異なる方向のアシスト動作は小さく設定することができ、より簡単に制御系を構成することができる。
また、図10(a)〜(c)に示すように、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が大きくなるに従い、θ+ A、θ− A、θ+ B、θ− Bを小さくしてもよい(ただし、k2(θref ope)=1)。
図10(a)は、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeがゼロの場合のアシスト力Faの上限値の設定例を示すものである。
図10(b)は、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|がある角度(ゼロでない角度)を有する場合のアシスト力Faの上限値の設定例を示すものである。
図10(c)は、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が、図10(b)よりも大きい場合のアシスト力Faの上限値の設定例を示すものである。このようにアシスト力Faの上限値を設定することによっても、操作者13が設定した操作が容易な方向(あるいは、視認性が良く安全に動作できる方向)には動かし易く、操作が困難な方向(あるいは、視認性が悪く安全に動作できない方向)には動かし難くすることができる。その結果、より安全性の高い電動車両(パワーアシスト台車1)を構成することができる。
また、操作力Fopeとして、力だけでなく同時にモーメントが作用している場合には、作用しているモーメントの大きさ及び方向に基づき、θ+ A、θ− A、θ+ B、θ− Bを変更してもよい。例えば、図11に示すように、操作力Fopeとして、力だけでなく反時計回りにモーメントが作用している場合には、モーメントが作用していない場合のθ+ A、θ+ Bの値の2〜3倍の大きさを上限値として、モーメントの大きさに比例して、θ+ A、θ+ Bの値を大きく設定する。反対に、操作力Fopeとして、力だけでなく時計回りにモーメントが作用している場合には、モーメントが作用していない場合のθ− A、θ− Bの値の2〜3倍の大きさを上限値として、モーメントの大きさに比例して、θ− A、θ− Bの値を大きく設定する。このように設定することにより、操作力Fopeとして、力だけでなく同時にモーメントが作用している場合には、モーメントが作用している方向に、より動作し易くすることができ、操作性を向上させることができる。
以上より、操作者13が操作していなくても勝手にアシスト力が生成されることや、操作者13が操作した方向や大きさとは全く異なる方向や大きさのアシスト力が生成されることを防止できる。その結果、安全性の高い電動車両(パワーアシスト台車1)を構成することができる。
次に、アシスト動作算出部11は、アシスト力算出部10で算出したアシスト力Faに基づくインピーダンス制御を行う(ステップS8)。具体的には、(式9)の見かけの質量特性、(式10)の見かけの粘性特性から構成される(式11)に示すインピーダンス特性に基づき、パワーアシスト台車1のアシスト動作を生成する。
ただし、Vaはパワーアシスト台車1のアシスト動作速度、Vd aはアシスト動作加速度である。(式11)は(式12)のように変形できる。
ただし、L[ ]はラプラス変換を表し、L−1[ ]はラプラス逆変換を表す。従って、アシスト動作算出部11では、アシスト力算出部10で算出した(式13)のアシスト力を入力として、(式12)に従って、パワーアシスト台車1のアシスト動作速度Vaを算出する。
次に、駆動制御部12では、アシスト動作算出部11が算出したパワーアシスト台車1のアシスト動作速度を車輪5の指令回転速度に変換する(ステップS9)。ここで、車輪5の指令回転速度を(式14)とおくと、図2に示す車輪構成及び車輪配置の場合、パワーアシスト台車1のアシスト動作速度Vaと、車輪5の指令回転速度Ωaの間には、(式15)の関係式が成り立つ。
ただし、図2に示すように、Lw∈Rは左右の車輪5間の距離の半分であり、Ld∈Rは前後の車輪5間の距離の半分である。また、r∈Rは車輪5の半径である。(式15)は(式16)のように変形できる。
従って、駆動制御部12は、アシスト動作算出部11が算出したパワーアシスト台車1のアシスト動作速度Vaを入力として、(式16)から、車輪5の指令回転速度Ωaを算出することができる。車輪駆動部6では、駆動制御部12が算出した車輪5の指令回転速度に、車輪5が追従するように速度制御を行うことにより、車輪5を駆動させて、パワーアシスト台車1を動作させることができる(ステップS10)。
以上より、操作者13がハンドル3に加えた操作力Fopeに基づくパワーアシスト台車1の動作を実現できる。なお、本実施の形態1では、図1に示すようなパワーアシスト台車1を用いて説明したが、本発明は、この構成に限るものではない。本実施の形態1は、図26に示すようなパワーアシストカート15や、買い物カートなど、様々な操作型の電動車両に適用することができる。
(実施の形態2)
以下、本発明の他の実施の形態に係る電動車両である電動車いすを説明する。
図12は、本発明の実施の形態2における電動車いす101の斜視図、図13は、本実施の形態2における電動車いす101を下方から見た図である。
なお、電動車いす101に固定され、電動車いす101の運動と共に動く座標系を電動車いす座標系Σw(互いに直交する三つのXw軸、Yw軸およびZw軸を有する座標系)としている(図11参照)。電動車いす座標系ΣwのXw軸とYw軸から構成される平面は地面に対して平行な水平面とし、Xw軸が電動車いす101の前方を向いているものとする。電動車いす101の現在位置は、図13に設定されている基準座標系Σ0に対する電動車いす座標系Σwの位置ベクトル及び姿勢として定義される。これらの図において、電動車いす101は、操作者(図示略)が搭乗する座面部102、操作者の左右の腕を置く右側アームレスト103a、左側アームレスト103bを備えている。なお、電動車いす座標系Σwの原点は座面部102の中央(後述する4輪の車輪105の中心)に設定している。
右側アームレスト103には、操作量計測部104が設けられている。操作量計測部104は、操作者が電動車いす101に対し、動作指示を行うためのジョイスティック104aを備えている。操作量計測部104は、ジョイスティック104aの操作量、つまり操作者がジョイスティック104aを傾けた量、および、方向から、操作者が行った動作指示の大きさ及び方向(電動車いす座標系ΣwのXw軸方向、Yw軸方向の並進動作指示及びZw軸回りの回転動作指示)を計測することができる装置である。
座面部102の下側には、電動車いす101を走行させる車輪105と、車輪105を駆動させる車輪駆動部106、電動車いす101の制御系を構成するコントローラ107が設けられている。電動車いす101の具体的な制御則は、このコントローラ107によって実現される。
本実施の形態2では、車輪105として、一般に市販されている全方向移動車輪であるオムニホイールを4個用い、図13に示すような車輪構成及び車輪配置とする。なお、説明は省略するが、一般に市販されている中空タイヤ2個を用いた独立2輪駆動型の車輪構成をとってもよい。この場合には、パワーアシスト台車1を安定して支えるために、補助輪として、一般に市販されているキャスタを複数個用いることが望ましい。
また、車輪駆動部106は、減速機106a、電動モータ106b、電動モータの回転角度を計測するエンコーダ106c、電動モータ106bを駆動するためのサーボドライバ106dから構成されている。本実施の形態2では、電動モータ106bは指令された速度で動作するように速度制御されているものとする。
また、座面部102の側面には、電動車いす101から障害物14までの距離と方向を計測する障害物計測部108が設けられている。この障害物計測部108の出力情報は、電動車いす座標系Σwを基準とする情報である。本実施の形態2では、障害物計測部108として、一般に市販されているレーザー測域センサ108aを、座面部102の角四隅に設けている。このレーザー測域センサ108aは、検出範囲が周囲270度であるため、座面部102の角四隅に設けることにより、電動車いす101の全方向に存在する障害物までの距離及び方向を計測することができる。
ここで、図14は電動車いす101のシステム構成を示すブロック図である。
図14に示すように、電動車いす101は、操作量計測部104、目標操作速度算出部110、障害物計測部108、障害物回避速度算出部109、アシスト動作速度算出部111、駆動制御部112、車輪駆動部106、車輪105を備えている。
前述のとおり、操作量計測部104は、操作者がジョイスティック104aに対して行った操作量の大きさ及び方向を計測する装置である。
そして、目標操作速度算出部110は、操作量計測部104で計測した操作量(電動車いす座標系ΣwのXw軸方向、Yw軸方向、Zw軸回りの操作量)に基づき、目標操作速度(電動車いす座標系ΣwのXw軸方向、Yw軸方向の目標操作並進速度及びZw軸回りの目標操作回転速度)を算出する処理部である。
また、前述のとおり、障害物計測部108は、電動車いす101と障害物14までの距離と方向を計測する装置である。
そして、障害物回避速度算出部109は、障害物計測部108が計測した障害物14までの距離及び方向に基づいて、電動車いす101を障害物14から遠ざけるための障害物回避速度を算出する処理部である。この障害物回避速度に基づいて、電動車いす101を動作させることにより、障害物14との衝突を回避させることができる。
また、アシスト動作速度算出部111は、目標操作速度算出部110が算出した目標操作速度と、障害物回避速度算出部109が算出した障害物回避速度の合成速度から、電動車いす101に対するアシスト動作速度を算出し、駆動制御部112に出力する処理部である。
駆動制御部112は、アシスト動作速度算出部111が算出したアシスト動作速度を、各車輪105の指令回転速度に変換し、車輪駆動部106に出力する処理部である。
この時、目標操作速度及び障害物回避速度は、電動車いす座標系Σwを基準とした情報である。
また、車輪駆動部106は、駆動制御部112で変換された指令回転速度となるように車輪105を制御する処理部である。
以上の構成により、操作者の操作に基づいた動作を行う電動車いす101を実現することができる。
次に、このような構成において、図15に示すフローチャートに従って、具体的な制御則を用いた実施例について説明する。
はじめに、操作量計測部104が、操作者がジョイスティック104aに対して行った操作の大きさ及び方向を計測する(ステップS101)。いま、操作者がジョイスティック104aに対して行った操作量をΔXjoy =[Δxjoy Δyjoy Δθjoy]∈R3とおく。ただし、Δxjoy、Δyjoy、Δθjoy ∈Rはそれぞれ、電動車いす座標系ΣwのXw軸方向、Yw軸方向、Zw軸回りに行われた操作量である。目標操作速度算出部110では、操作量計測部104で計測した操作量ΔXjoyに比例した大きさを有する(式17)の目標操作速度Vope(電動車いす座標系ΣwのXw軸方向、Yw軸方向の目標操作並進速度及びZw軸回りの目標操作回転速度)を、(式18)に従って算出する(ステップS102)。
ただし、(式19)のKjoyは、目標操作速度算出定数であり、正の値を有する。また、操作が行われていない場合は、目標操作速度はゼロとして算出する。
次に、障害物計測部8は、電動車いす101から障害物14までの距離及び方向を計測する(ステップS103)。
次に、障害物回避速度算出部109は、電動車いす101を障害物14から遠ざけるための障害物回避速度を算出する。まず、障害物14までの距離に応じた斥力ポテンシャルUobj(X)∈Rを(式2)に基づいて生成する(ステップS104)。
ただし、X=[x y θ]T∈R3は、電動車いす101の現在位置を表すベクトル、η∈Rは正の重み係数、ρ(X)∈RはXから障害物14への最近接距離を表し、ρ0∈Rは正の定数である。斥力ポテンシャルUobj(X)はゼロ以上であり、電動車いす101が障害物領域に近づくほど無限大に近くなり、電動車いす101から障害物14への距離がρ0以上のときゼロとなる。
ここで、電動車いす101に指令する障害物回避速度を(式21)とおくと、障害物回避速度Vobjは、(式20)で算出した斥力ポテンシャルを用いて、(式22)のように求めることができる(ステップS105)。
ただし、∇Uobj(X)は、電動車いす101の現在位置XにおけるUobj(X)のこう配ベクトルを意味する。(式20)、(式22)から、電動車いす101の現在位置Xにおける障害物回避速度は(式23)のように表すことができる。
生成した障害物回避速度は、障害物14までの距離に反比例する大きさであり、かつ、障害物14の方向と反対向きに指令する仮想的な速度である。電動車いす101を障害物回避速度に従って動作させることにより、障害物14を回避することができる。
いま、目標操作速度Vopeと障害物回避速度Vobjの合成速度を(式24)とおくと、目標操作速度Vopeと障害物回避速度Vobjの合成速度Vsumは(式25)で表される。
ここで、従来提案されている技術では、この合成速度Vsumをアシスト動作速度Vaと設定し、このアシスト動作速度Va(=Vope+Vobj)に基づいて、電動車いす101を動作させていた。しかしながら、従来提案されている技術では、前述のとおり、障害物回避速度の大きさや方向によっては、操作者が操作せずとも勝手に動作する可能性、あるいは、操作者が動作させようとした方向や大きさとは大きく異なる方向や大きさの動作が行われる可能性があり、安全性に課題が生じる可能性があった。
そこで、この課題を解決するために、本実施の形態2では、アシスト動作速度算出部111において、目標操作速度Vopeに基づいて、アシスト動作速度Vaの大きさを決定する。ここで、目標操作速度は、目標操作速度Vopeは、操作者が電動車いす101に加えた操作量の大きさに比例して生成された速度である。具体的には、アシスト動作速度算出部は、(式25)に従って、アシスト動作速度Vaを算出する(ステップS108)。
ただし、Vlim(θope sum)∈Rは、アシスト動作速度Vaの上限値Yであり、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsum(=目標操作速度Vope+障害物回避速度Vobj)の方向とのなす角θope sum∈Rに基づいて定義される値である(ステップS106)。
本実施の形態2では、アシスト動作速度Vaの上限値YであるVlim(θope sum)の一実施例として、図16〜図22に示すような曲線を設定する(ステップS107)。図16〜図22に示すように、アシスト動作速度Vaの上限値YであるVlim(θope sum)は、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲A(θ− A>θope sum≧−θ+ A )にある場合には、目標操作速度Vopeの大きさと等しく設定される。しかしながら、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角が所定の角度範囲B(θ + B>θope sum≧θ+ A or −θ− A≧θope sum>−θ+ B)にある場合には、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumの絶対値|θope sum|が大きくなるに従い、目標操作速度Vopeの大きさから徐々に小さくなるように設定する。さらに、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲C(θope sum≧θ+ B or −θ− B≧θope sum)にある場合には、アシスト動作速度Vaの上限値YであるVlim(θope sum)がゼロになるように設定する。
図16は、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲A(θ− A>θope sum≧−θ+ A)にあり、かつ、合成速度Vsumの大きさがアシスト動作速度Vaの上限値Yよりも小さい場合のアシスト動作速度Vaの決定例を示すものである。
図17は、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲A(θ− A>θope sum≧−θ+ A)にあり、かつ、合成速度Vsumの大きさがアシスト動作速度Vaの上限値Yよりも大きい場合のアシスト動作速度Vaの決定例を示すものである。
図18は、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角が所定の角度範囲B(θ+ B>θope sum≧θ+ A or −θ− A>θope sum≧−θ− B)にあり、かつ、合成速度Vsumの大きさがアシスト動作速度Vaの上限値Yよりも大きい場合のアシスト力Faの決定例を示すものである。
図19は、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲C(θope sum≧θ+ B or −θ− B≧θope sum)にある場合のアシスト力Faの決定例を示すものである。
これらを、具体的に数式で表すと、(式27)のように定義できる。
ただし、k1(θope sum)∈Rは、アシスト動作速度Vaの大きさを変更するための変数であり、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumに基づいて定義される値(0<k1(θope sum)<1)である。
なお、本実施の形態2では、角度範囲A〜Cを定義するθ+ A、θ− A、θ+ B、θ− Bの具体的な値として、θ+ A=θ− A=30°、θ+ B=θ− B=60°の場合を考える。この場合、アシスト動作速度Vaの上限値YであるVlim(θope sum)は、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲A(30°>θope sum>−30°)にある場合には、目標操作速度Vopeの大きさと等しく設定される。しかしながら、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角が所定の角度範囲B(60°>θope sum≧30° or −30°≧θope sum>−60°)にある場合には、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumの絶対値|θope sum|が大きくなるに従い、目標操作速度Vopeの大きさから徐々に小さくなるように設定される。さらに、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲C(θope sum≧30° or −30°≧θope sum)にある場合には、アシスト動作速度Vaの上限値YであるVlim(θope sum)がゼロになるように設定される。
このようにアシスト動作速度Vaの上限値Yを設定することにより、以下のような効果を得ることができる。
まず、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲A(θ− A>θope sum≧−θ+ A)にある場合、すなわち、操作者が行った操作の方向(=目標操作速度Vopeの方向)と、実際に動作する方向(=合成速度Vsumの方向)がほぼ一致している場合には、操作者が想定した大きさ(=目標操作速度Vopeの大きさ)のアシスト動作速度Vaが生成される。これにより、操作者の意図どおりの動作が実現できる。
しかしながら、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲B(θ+ B>θope sum≧θ+ A or −θ− A≧θope sum>−θ− B)にある場合、すなわち、操作者が行った操作の方向(=目標操作速度Vopeの方向)と、実際に動作する方向(=合成速度Vsumの方向)が所定の角度範囲B(θ+ B>θope sum≧θ+ A or −θ− A≧θope sum>−θ− B)内でずれている場合には、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumの絶対値|θope sum|が大きくなるに従い、目標操作速度Vopeの大きさから徐々に小さくなるように設定される。これにより、操作者が意図した方向(=目標操作速度Vopeの方向)と実際に動作する方向(=合成速度Vsumの方向)がずれる程、アシスト動作速度Vaの制限が大きくなる、すなわち、意図しない動作が生成されにくくなり、安全性を高めることができる。
さらに、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲C(θope sum≧θ+ B or −θ− B≧θope sum)にある場合、すなわち、操作者が意図した方向(=目標操作速度Vopeの方向)と実際に動作する方向(=合成速度Vsumの方向)が大きくずれている場合には、アシスト動作速度Vaはゼロとして生成される(すなわち、動作しない)。これにより、操作者の意図から大きくずれた方向への動作は生成されないため、意図しない方向への動作を禁止でき、安全性を高めることができる。
また、電動車いす101に設定した基準の方向と、目標操作速度Vopeの方向とのなす角をθref ope∈Rとおくと、さらに、なす角θref opeに基づいてアシスト動作速度Vaの上限値Yを変えることにより、より安全性の高い操作を実現することができる。例えば、電動車いす101では、前方は視認性がよいが、後方は視認性が悪いため、主に前方に動作させて使用する。そこで、電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向に基準の方向を設定する。そして、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeに基づいて、アシスト動作速度Vaの上限値Yを修正する。具体的には、(式28)に基づいて、アシスト動作速度Vaの上限値Yを設定する。
ただし、k2(θref ope)∈Rは、アシスト動作速度Vaの上限値Yの大きさを変更するための変数であり、設定した基準の方向と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeに基づいて定義される値(0<k2(θref ope)<1)である。本実施の形態2では、図20(a)〜(c)に示すように、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が大きくなるに従い、k2(θref ope)=1から小さくなり、所定の角度範囲D(|θref ope|≧θC)よりも大きい場合、k2(θref ope)=0になるように設定する。 図20(a)は、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeがゼロの場合のアシスト動作速度Vaの上限値Yの設定例を示すものである。
図20(b)は、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が所定の角度範囲D(|θref ope|≧θC)内にある場合のアシスト動作速度Vaの上限値Yの設定例を示すものである。
図20(c)は、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が所定の角度範囲D(|θref ope|≧θC)よりも大きい場合のアシスト動作速度Vaの上限値Yの設定例を示すものである。
なお、本実施の形態2では、角度範囲Dを定義するθCの具体的な値として、θC=45°の場合を考える。この場合、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が大きくなるに従い、k2(θref ope)=1から小さくなり、所定の角度範囲D(|θref ope|≧45°)よりも大きい場合、k2(θref ope)=0になるように設定する。
このようにアシスト動作速度Vaの上限値Yを設定することにより、操作者が設定した操作が容易な方向(あるいは、視認性が良く安全に動作できる方向)(|θref ope|<45°)には動かし易く、操作が困難な方向(あるいは、視認性が悪く安全に動作できない方向)(|θref ope|≧45°)には動かし難くすることができる。その結果、より安全性の高い電動車両を構成することができる。
また、図21(a)〜(c)に示すように、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が大きくなるに従い、θ+ A、θ− A、θ+ B、θ− Bを小さくしてもよい(ただし、k2(θref ope)=1)。
図21(a)は、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeがゼロの場合のアシスト動作速度Vaの上限値Yの設定例を示すものである。
図21(b)は、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|がある角度(ゼロでない角度)を有する場合のアシスト動作速度Vaの上限値Yの設定例を示すものである。
図21(c)は、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が、図21(b)よりも大きい場合のアシスト動作速度Vaの上限値Yの設定例を示すものである。
このようにアシスト力Faの上限値Yを設定することによっても、操作者が設定した操作が容易な方向(あるいは、視認性が良く安全に動作できる方向)には動かし易く、操作が困難な方向(あるいは、視認性が悪く安全に動作できない方向)には動かし難くすることができる。その結果、より安全性の高い電動車両(電動車いす101)を構成することができる。
なお、上述の基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)は、複数設定してもよい。例えば、操作が容易な方向(あるいは、視認性が良く安全に動作できる方向)が2つあれば、その2つの方向を基準の方向として設定してもよい。また、例えば、独立2輪駆動型の車輪構成の場合には、車軸と垂直方向の2方向(前進方向と後退方向)に基準の方向を設定する。この場合、設定した2方向(前進方向と後退方向)が機構的に操作しやすい方向であるため、その方向のアシスト動作は大きく、その方向と異なる方向のアシスト動作は小さく設定することができ、より簡単に制御系を構成することができる。
また、目標操作速度Vopeとして、目標並進速度だけでなく同時に目標回転速度が作用している場合には、目標回転速度の大きさ及び方向に基づき、θ+ A、θ− A、θ+ B、θ− Bを変更してもよい。例えば、図22に示すように、目標操作速度Vopeとして、目標並進速度だけでなく反時計回りに目標回転速度が作用している場合には、目標回転速度の大きさに比例して、θ+ A、θ+ Bの値を大きく設定する。反対に、目標操作速度Vopeとして、目標並進速度だけでなく時計回りに目標回転速度が作用している場合には、目標回転速度の大きさに比例して、θ− A、θ− Bの値を大きく設定する。このように設定することにより、目標操作速度Vopeとして、目標並進速度だけでなく目標回転速度が作用している場合には、目標回転速度が作用している方向により動作し易くすることができ、操作性を向上させることができる。
以上より、操作者が操作していなくても勝手にアシスト動作速度が生成されることや、操作者が操作した方向や大きさとは全く異なる方向や大きさのアシスト動作速度が生成されることを防止できる。その結果、安全性の高い電動車両(電動車いす101)を構成することができる。
次に、駆動制御部112では、アシスト動作速度算出部111が算出した電動車いす101のアシスト動作速度Vaを各車輪の指令回転速度に変換する(ステップS109)。
ここで、車輪105の指令回転速度をΩaとおくと、図13に示す車輪構成及び車輪配置の場合、電動車いす101のアシスト動作速度Vaと、車輪の指令回転速度Ωaの間には、(式29)の関係式が成り立つ。
ただし、図13に示すように、Lw∈Rは左右の車輪105間の距離の半分であり、Ld∈Rは前後の車輪105間の距離の半分である。また、r∈Rは車輪105の半径である。(式29)は(式30)のように変形できる。
従って、駆動制御部112では、アシスト動作速度算出部111が算出した電動車いす101のアシスト動作速度Vaを入力として、(式30)から車輪105の指令回転速度Ωaを算出することができる。車輪駆動部106では、駆動制御部112が算出した車輪105の指令回転速度に、車輪105が追従するように速度制御を行うことにより、車輪105を駆動させて、電動車いす101を動作させることができる(ステップS110)。
以上より、操作者がジョイスティック104aに対し行った操作に基づく電動車いす101の動作を実現できる。
なお、本願発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて実現される別の実施の形態を本願発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本願発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本願発明に含まれる。
以上述べたように、本発明によれば、操作者が操作していないのに勝手に電動車両が動作することや、操作者が動作させようとした方向や大きさとは大きく異なる方向や大きさで電動車両がアシストされたりすることがなく、安全性の高い操作を実現することができる。そのため、パワーアシスト台車や電動車いす、買い物カートなどの操作者の操作に基づいて動作する電動車両として有用である。
1 パワーアシスト台車
2 荷台
3 ハンドル
4 操作力計測部
4a 力センサ(3軸)
5 車輪
6 車輪駆動部
6a 減速機
6b 電動モータ
6c エンコーダ
6d サーボドライバ
7 コントローラ
8 障害物計測部
8a レーザー測域センサ
9 仮想斥力算出部
10 アシスト力算出部
11 アシスト動作算出部
12 駆動制御部
13 操作者
14 障害物
15 パワーアシストカート
101 電動車いす
102 座面部
103a 右側アームレスト
103b 左側アームレスト
104 操作量計測部
104a ジョイスティック
105 車輪
106 車輪駆動部
106a 減速機
106b 電動モータ
106c エンコーダ
106d サーボドライバ
107 コントローラ
108 障害物計測部
108a レーザー測域センサ
109 障害物回避速度算出部
110 目標操作速度算出部
111 アシスト動作速度算出部
112 駆動制御部
201 操作力
202 仮想斥力
203 合力
204 障害物
205 パワーアシスト台車
205a 操作部
206 操作者
本発明は、例えば、パワーアシスト台車、電動車いす、電動の買い物カートなどの、操作者の操作に基づいて動作する電動車両及びその制御方法に関するものである。
操作者の操作に基づいて動作する電動車両には、障害物を回避する機能を有するパワーアシスト付きの電動車両がある。この電動車両は、搭載された障害物センサからの情報に基づき算出した動作で障害物を回避する。この電動車両において、操作者の操作に基づく動作と、障害物を回避するための動作とを足し合わせることにより、自動で障害物回避動作を行いながら、操作者の操作に基づく動作を行う電動車両が提案されている。
例えば、パワーアシスト付きの電動車両として特許文献1に記載されたパワーアシスト台車がある。このパワーアシスト台車205の駆動の制御は、障害物204と反対方向に作用する仮想斥力202に基づいて行われる。この仮想斥力202の大きさは、搭載された障害物センサにより検出した障害物204までの距離に反比例する大きさである。図23に示すように、このパワーアシスト台車205は、操作力201と仮想斥力202との合力203に基づいて、パワーアシスト台車205の駆動力を制御するものである。
ここで、操作力201は、操作者206がパワーアシスト台車の操作部205aに加えた力であり、仮想斥力202は、障害物204と反対方向に作用する力である。これにより、自動で障害物回避動作を行いながら、操作者206が加えた操作力201に基づくパワーアシスト台車205の動作を行うことができる。
しかしながら、例えば、図24に示すように、操作者206が操作部205aに対し操作力201を加えていない時に、障害物204がパワーアシスト台車205に近寄ってくる場合がある。このような場合には、障害物204との距離に応じて生成された仮想斥力202により、障害物回避動作が自動で行われてしまう。そのため、操作者206が動作させようとする意思がない場合でも、パワーアシスト台車205が勝手に動作してしまう可能性がある。
また、図25に示すように、操作者206が操作部205aに対し前方に操作力201を加えている時に、斜め前方から障害物204がパワーアシスト台車205に近寄ってくる場合がある。このような場合には、障害物204との距離に応じた仮想斥力202が斜め後方に生成される。この場合、操作力201や仮想斥力202の大きさにもよるが、それらの合力203の方向が、操作者206が動作させようとした方向とは異なり、意図した方向とは異なる方向に動作してしまう可能性がある。
以上のように、従来のパワーアシスト付きの電動車両では、操作者が操作していない場合でも電動車両が動作したり、操作者の意図とは大きく異なる方向や大きさで電動車両が動作したりする可能性がある。この場合、操作者が認識できている障害物であれば、操作した方向とは異なる方向への動作であっても問題ない。だが、例えば、搬送している荷物が大きく、近づいてきた障害物が見えない場合や、操作者が別の方向を見ており近づいてきた障害物が認識できていない場合には、その動作が把握できない。そのため、安全性に課題が生じる可能性がある。
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、操作者の操作に基づいたアシスト動作を行う電動車両およびその制御方法を提供することを目的とする。これにより、操作者が操作していない場合に電動車両が動作することや、操作者の意図とは大きく異なる方向や大きさで電動車両が動作することが発生しない。
上述したような課題を解決するために、本発明の電動車両は、操作者が電動車両に加えた操作力を計測する操作力計測部と、前記電動車両に対する障害物の位置ベクトルを計測する障害物計測部と、前記位置ベクトルの大きさに反比例する大きさであり、かつ、前記位置ベクトルの方向と反対方向の仮想斥力を算出する仮想斥力算出部と、前記電動車両を動作させるためのアシスト力を、前記操作力と前記仮想斥力の合力に基づいて算出し、算出するアシスト力の大きさの上限値Xを前記操作力に基づいて算出し、前記アシスト力が前記上限値Xを超えている場合、前記上限値X以下の大きさのアシスト力を出力するアシスト力算出部とを備えることを特徴とする。
また、上述したよう課題を解決するために、本発明の別の様態の電動車両は、操作者が電動車両に加えた操作量の大きさ及び方向を計測する操作量計測部と、前記電動車両に対する障害物の位置ベクトルを計測する障害物計測部と、前記操作量計測部が計測した操作量の大きさ及び方向に基づく前記電動車両の目標操作速度を算出する目標操作速度算出部と、前記障害物計測部が計測した前記位置ベクトルに基づいて、前記電動車両を前記障害物から遠ざけるための障害物回避速度を算出する障害物回避速度算出部と、前記電動車両を動作させるためのアシスト動作速度を、前記目標操作速度と前記障害物回避速度の合成速度に基づいて算出し、算出するアシスト動作速度の大きさの上限値Yを前記目標操作速度に基づいて算出し、前記アシスト動作速度が前記上限値Yを超えている場合、前記上限値Y以下の大きさのアシスト動作速度を出力するアシスト動作速度算出部とを備えることを特徴とする。
以上説明したように、本発明によれば、操作者の操作に基づいた動作を行う電動車両およびその制御方法を提供することができる。それにより、操作者が操作していない場合に電動車両が動作することや、操作者の意図とは大きく異なる方向や大きさで電動車両が動作することが発生しない。
図1は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1の斜視図である。
図2は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1を下方から見た図である。
図3は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1のシステム構成を示すブロック図である。
図A4は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1の前半のフローチャートである。
図4Bは、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1の後半のフローチャートである。
図5は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1のアシスト力の上限値(1)を示す図である。
図6は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1のアシスト力の上限値(2)を示す図である。
図7は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1のアシスト力の上限値(3)を示す図である。
図8は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1のアシスト力の上限値(4)を示す図である。
図9は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1のアシスト力の上限値(5)を示す図である。
図10は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1のアシスト力の上限値(6)を示す図である。
図11は、実施の形態1におけるパワーアシスト台車1のアシスト力の上限値(7)を示す図である。
図12は、実施の形態2における電動車いす101の斜視図である。
図13は、実施の形態2における電動車いす101を下から見た図である。
図14は、実施の形態2における電動車いす101のシステム構成を示すブロック図である。
図15Aは、実施の形態2における電動車いす101の前半のフローチャートである。
図15Bは、実施の形態2における電動車いす101の後半のフローチャートである。
図16は、実施の形態2における電動車いす101のアシスト力の上限値(1)を示す図である。
図17は、実施の形態2における電動車いす101のアシスト力の上限値(2)を示す図である。
図18は、実施の形態2における電動車いす101のアシスト力の上限値(3)を示す図である。
図19は、実施の形態2における電動車いす101のアシスト力の上限値(4)を示す図である。
図20は、実施の形態2における電動車いす101のアシスト力の上限値(5)を示す図である。
図21は、実施の形態2における電動車いす101のアシスト力の上限値(6)を示す図である。
図22は、実施の形態2における電動車いす101のアシスト力の上限値(7)を示す図である。
図23は、従来技術によるパワーアシスト台車を示す図である。
図24は、従来技術の課題(1)を示す図である。
図25は、従来技術の課題(2)を示す図である。
図26は、実施の形態1の適用例であるパワーアシストカートの斜視図である。
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を例示的に説明したものであって、当業者が想到できる範囲において適宜変更可能であり、本発明は、以下に記載する実施の形態に限定されるものではない。また、以下の説明において、同じ構成には同じ符号を付して説明を省略している。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるパワーアシスト台車1の斜視図、図2は、同実施の形態1におけるパワーアシスト台車1を下方から見た図である。
なお、理解を容易にするために、パワーアシスト台車1に固定され、パワーアシスト台車1の運動と共に動く台車座標系Σrを設定している(図1参照)。台車座標系Σrは、互いに直交する三つのXr軸、Yr軸およびZr軸を有する座標系であり、台車座標系ΣrのXr軸とYr軸から構成される平面は地面に対して平行な水平面とし、Xr軸がパワーアシスト台車1の前方を向いているものとする。
一方、電動車両であるパワーアシスト台車1の位置を示す座標系として基準座標系Σ0を設定している。基準座標系Σ0は、互いに直交する三つのX0軸、Y0軸およびZ0軸を有する座標系であり、基準座標系Σ0のX0軸とY0軸から構成される平面は、パワーアシスト台車1が走行する地面に設定している。以上の台車座標系Σrと基準座標系Σ0により、パワーアシスト台車1の位置及び姿勢が定義される。
パワーアシスト台車1は、物品(図示略)を載置する荷台2を備えている。台車座標系Σrの原点は、荷台2の中央(後述する4輪の車輪5の中心)に設定されているものとする。
荷台2の上側の後部領域には、パイプ状の部材により門型に構成されたハンドル3が設けられており、その中央部には、操作者(図示略)がハンドル3に加えた操作力の大きさ及び方向(台車座標系Σrにおける)を計測する操作力計測部4が設けられている。以下、および、請求の範囲において「操作力」の語は、力(大きさと方向からなるベクトルである)とモーメントの両方を含む意味で用いている。
操作力計測部4は、操作者がハンドル3に加えた操作力を計測することができるものであればよく、一般に市販されている3軸力センサを用いることができる。なお、操作力計測部4で計測される操作力は、台車座標系ΣrのXr軸方向及びYr軸方向の力、および、Zr軸回りのモーメントを含む。
また、パワーアシスト台車1は、荷台2の下側の四隅それぞれに、パワーアシスト台車1を走行させる車輪5を備えている。また、パワーアシスト台車1は、四つの車輪5を独立して駆動させる車輪駆動部6と、四つの車輪駆動部6を制御するコントローラ7が設けられている。パワーアシスト台車1の具体的な制御則は、このコントローラ7によって実現される。
車輪5は、パワーアシスト台車1を全方向に移動可能なものが好ましく、本実施の形態1では、一般に市販されている全方向移動車輪であるオムニホイールが4個採用されている。また、車輪5の配置や数も任意であり、本実施の形態の場合、図2に示すような車輪構成及び車輪配置としている。
なお、一般に市販されている中空タイヤ2個を用いた独立2輪駆動型の車輪構成をとってもよい。この場合には、パワーアシスト台車1を安定して支えるために、補助輪として、一般に市販されているキャスタを複数個用いることが望ましい。
車輪駆動部6は、減速機6a、電動モータ6b、電動モータ6bの回転角度を計測するエンコーダ6c、電動モータ6bを駆動するためのサーボドライバ6dから構成されている。本実施の形態1では、電動モータ6bはコントローラ7からの指令された速度で動作するように速度制御されている。
またパワーアシスト台車1は、荷台2の下側面に、パワーアシスト台車1から障害物までの距離と方向を計測する障害物計測部8を備えている。障害物計測部8の出力情報は、台車座標系Σrを基準とする情報である。障害物計測部8は、例えば水平方向における90度の範囲や180度の範囲内にある障害物の位置(方向)と距離との情報を取得できる測定装置である。本実施の形態1では、障害物計測部8として、一般に市販されている光走査型のレーザー測域センサ8aが採用されており、荷台2の角四隅に設けられている。本実施の形態1では、このレーザー測域センサ8aの検出範囲を周囲270度としているため、荷台2の角四隅に設けることにより、パワーアシスト台車1の全方向に存在する障害物までの距離及び方向を計測することができる。
ここで、図3はパワーアシスト台車1のシステム構成を示すブロック図である。
図3に示すように、パワーアシスト台車1は、操作力計測部4、障害物計測部8、仮想斥力算出部9、アシスト力算出部10、アシスト動作算出部11、駆動制御部12、車輪駆動部6、車輪5を機能部として備えている。
前述のとおり、操作力計測部4は、操作者13がパワーアシスト台車1のハンドル3に加えた操作力の大きさ及び方向を計測する装置である。
また、前述のとおり、障害物計測部8は、パワーアシスト台車1から障害物14までの距離及び方向(パワーアシスト台車1に対する障害物14の位置ベクトル)を計測する装置である。
仮想斥力算出部9は、障害物計測部8が計測した障害物14までの距離に反比例する大きさであり、かつ、パワーアシスト台車1から障害物14に向かう方向(位置ベクトルの方向)と反対方向に作用する仮想斥力を算出する処理部である。この仮想斥力は、パワーアシスト台車1に作用させることにより、障害物14との衝突を回避させるための情報である。
アシスト力算出部10は、操作力計測部4が計測した操作力と、仮想斥力算出部9が算出した仮想斥力との合力から、パワーアシスト台車1を制御するためのアシスト力を算出し、アシスト動作算出部11に出力する処理部である。この時、仮想斥力及びアシスト力は、台車座標系Σrを基準とする情報である。
アシスト動作算出部11は、アシスト力算出部10が算出したアシスト力に基づき、パワーアシスト台車1のアシスト動作速度を生成し、駆動制御部12に対し出力する処理部である。
駆動制御部12は、アシスト動作算出部11が算出したアシスト動作速度を、車輪5の指令回転速度に変換し、車輪駆動部6に対し指令を行う処理部である。
車輪駆動部6は、駆動制御部12が生成した指令回転速度となるように車輪の回転を制御する装置である。
以上の構成により、操作者13の操作に基づいた動作を行うパワーアシスト台車1を実現することができる。
なお、仮想斥力算出部9と、アシスト力算出部10と、アシスト動作算出部11と、駆動制御部12とは、コントローラ7に備えられる演算素子などとプログラムにより実現されるものである。
次に、このような構成において、図4に示すフローチャートに従って、具体的な制御則を用いた実施例について説明する。
はじめに、操作力計測部4は、(式1)に基づき操作者がハンドル3に加えた操作力の大きさ及び方向を計測する(ステップS1)。
ただし、fx opeは、台車座標系ΣrのXr軸方向の力、fy opeは、台車座標系ΣrのYr軸方向の力、nope∈Rは、台車座標系ΣrのZr軸回りで定義されたモーメントである。また、操作力が作用していない場合は、操作力はゼロとして算出する。
次に、障害物計測部8は、パワーアシスト台車1から障害物までの距離及び方向(位置ベクトル)を計測する(ステップS2)。
次に、仮想斥力算出部9は、パワーアシスト台車1を障害物から遠ざけるための仮想斥力を算出する。
まず、仮想斥力算出部9は、障害物までの距離に応じた斥力ポテンシャルUobj(X)∈Rを(式2)に基づいて生成する(ステップS3)。
ただし、X=[x y θ]T∈R3は、パワーアシスト台車1の現在位置を表すベクトル、η∈Rは正の重み係数、ρ(X)∈RはXから障害物への最近接距離を表し、ρ0(X)∈Rは正の定数である。斥力ポテンシャルUobj(X)はゼロ以上であり、パワーアシスト台車1が障害物領域に近づくほど無限大に近くなり、パワーアシスト台車1から障害物への距離がρ0以上のときゼロとなる。
ここで、パワーアシスト台車1に作用させる仮想斥力をFobj T∈R3とおくと、仮想斥力Fobjは、(式2)で算出した斥力ポテンシャルを用いて、(式3)のように求めることができる(ステップS4)。
ただし、∇Uobj(X)は、パワーアシスト台車1の現在位置XにおけるUobj(X)のこう配ベクトルを意味する。(式2)、(式3)から、パワーアシスト台車1の現在位置Xにおける仮想斥力は(式4)のように表すことができる。
生成された仮想斥力は、障害物14までの距離に反比例する大きさであり、かつ、障害物14の方向(位置ベクトルの方向)と反対向きに作用する仮想的な力である。この仮想斥力により、パワーアシスト台車1を障害物14から遠ざけることができる。
いま、操作力Fopeと仮想斥力Fobjの合力をFsum=[fx sum fy sum nsum]T∈R3とおくと、操作力Fopeと仮想斥力Fobjの合力Fsumは(式5)で表される。
ここで、アシスト力をFa=[fx a fy a na]Tとおくと、従来提案されている技術では、この合力Fsumをアシスト力Faと設定し、このアシスト力Fa(=Fope+Fobj)に基づいて、パワーアシスト台車1を動作させている。しかしながら、前述のとおり、従来の技術では、仮想斥力の大きさや方向によっては、操作者が操作していなくても勝手に動いたり、操作者が動作させようとした方向や大きさとは大きく異なる方向や大きさの動作が行われる可能性がある。このように、従来の技術では、安全性に課題が生じる可能性がある。そこで、この課題を解決するために、本発明では、アシスト力算出部10は、操作者13がパワーアシスト台車1に加えた操作力Fopeに基づいて、アシスト力Faの大きさを決定する。具体的には、アシスト力算出部10は、(式6)に従って、アシスト力Faを算出する(ステップS7)。
ただし、Flim(θope sum)∈Rは、アシスト力Faの上限値Xであり、操作力Fopeの方向と合力Fsum(=操作力Fope+仮想斥力Fobj)の方向とのなす角θope sum∈Rに基づいて定義される値である(ステップS5)。
本実施の形態1では、アシスト力Faの上限値XであるFlim(θope sum)の一実施例として、図5〜図8に示すような曲線を設定する(ステップS6)。図5〜図8に示すように、アシスト力Faの上限値XであるFlim(θope sum)は、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲A(θ+ A>θope sum>−θ+ A)にある場合には、操作力Fopeの大きさと等しく設定される。しかしながら、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲B(θ+ B>θope sum≧θ+ A or −θ− A>θope sum>−θ− B)にある場合には、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumの絶対値|θope sum|が大きくなるに従い、操作力Fopeの大きさから徐々に小さくなるように設定する。さらに、操作力Fopeの方向と合力の方向Fsumのなす角θope sumが所定の角度範囲C(θope sum≧θ+ B or −θ− B>θope sum)にある場合には、アシスト力Faの上限値XであるFlim(θope sum)がゼロになるように設定する。
図5は、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲A(θ+ A>θope sum>−θ− A)にあり、かつ、合力Fsumの大きさがアシスト力Faの上限値Xよりも小さい場合のアシスト力Faの決定例を示すものである。
図6は、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲A(θ+ A>θope sum>−θ− A)にあり、かつ、合力Fsumの大きさがアシスト力Faの上限値Xよりも大きい場合のアシスト力Faの決定例を示すものである。
図7は、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲B(θ+ B>θope sum≧θ+ A or −θ− A≧θope sum>−θ− B)にあり、かつ、合力Fsumの大きさがアシスト力Faの上限値Xであるよりも大きい場合のアシスト力Faの決定例を示すものである。
図8は、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲C(θope sum≧θ+ B or −θ− B≧θope sum)にある場合のアシスト力Faの決定例を示すものである。
これらを具体的に数式で表すと、(式7)のように定義できる。
ただし、k1(θope sum)∈R は、アシスト力Faの上限値の大きさを変更するための変数であり、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumに基づいて定義される値(0<k1(θope sum)<1)である。
なお、本実施の形態1では、角度範囲A〜Cを定義するθ+ A、θ− A、θ+ B、θ− Bの具体的な値として、θ+ A=θ− A=30°、θ+ B=θ− B=60°の場合を考える。この場合、アシスト力Faの上限値XであるFlim(θope sum)は、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが比較的小さい場合(30°>θope sum>−30°)には、操作力Fopeの大きさと等しく設定される。しかしながら、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが比較的大きい場合(60°>θope sum≧30° or −30°≧θope sum>−60°)には、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumの絶対値|θope sum|が大きくなるに従い、操作力Fopeの大きさから徐々に小さくなるように設定される。さらに、操作力Fopeの方向と合力の方向Fsumとのなす角θope sumが非常に大きい場合(θope sum≧60° or −60°≧θope sum)には、アシスト力Faの上限値XであるFlim(θope sum)がゼロになるように設定される。
このようにアシスト力Faの上限値Xを設定することにより、以下のような効果を得ることができる。
まず、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲A(30°>θope sum>−30°)にある場合、すなわち、操作者13が行った操作の方向(=操作力Fopeの方向)と、実際に動作する方向(=合力Fsumの方向)がほぼ一致している場合には、操作者13が想定した大きさ(=操作者13が加えた操作力Fopeの大きさ)のアシスト力Faが生成される。これにより、操作者13の意図どおりの動作が実現できる。 しかしながら、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲B(60°>θope sum≧30° or −30°≧θope sum>−60°)にある場合、すなわち、操作者13が行った操作の方向(=操作力Fopeの方向)と、実際に動作する方向(=合力Fsumの方向)が所定の角度範囲B(60°>θope sum≧30° or −30°≧θope sum>−60°)内でずれている場合には、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumの絶対値|θope sum|が大きくなるに従い、操作力Fopeの大きさから徐々に小さくなるように設定される。これにより、操作者13が意図した方向(=操作力Fopeの方向)と実際に動作する方向(=合力Fsumの方向)がずれる程、アシスト力の制限が大きくなる、すなわち、意図しない動作が生成されにくくなり、安全性を高めることができる。
さらに、操作力Fopeの方向と合力Fsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲C(θope sum≧60° or −60°≧θope sum)にある場合、すなわち、操作者13が意図した方向(=操作力Fopeの方向)と実際に動作する方向(=合力Fsumの方向)が大きくずれている場合には、アシスト力はゼロとして生成される(すなわち、動作しない)。
これにより、操作者13の意図から大きくずれた方向への動作は生成されないため、意図しない方向への動作を禁止でき、安全性を高めることができる。
また、パワーアシスト台車1に設定した基準の方向と、操作力Fopeの方向とのなす角をθref ope∈Rとおき、なす角θref opeに基づいてアシスト力Faの上限値Xを変えることにより、より安全性の高い操作を実現することができる。例えば、パワーアシスト台車1に大きな荷物を搭載している場合について考えると、後方は視認性が良いが、前方は視認性が悪いため、主に後方に動作させて(引っ張って)使用することになる。この場合、台車座標系ΣrのXr軸の負の方向に基準の方向を設定する。そして、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeに基づいて、アシスト力Faの上限値を修正する。具体的には、(式8)に基づいて、アシスト力Faの上限値を設定する。
ただし、k2(θref ope)∈Rは、アシスト力Faの上限値Xの大きさを変更するための変数であり、設定した基準の方向と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeに基づいて定義される値(0<k2(θref ope)<1)である。
本実施の形態1では、図9(a)〜(c)に示すように、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が大きくなるに従い、k2(θref ope)=1から小さくなり、所定の角度範囲D(|θref ope|≧θc)よりも大きい場合、k2(θref ope)=0になるように設定する。
図9(a)は、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeがゼロの場合のアシスト力Faの上限値の設定例を示す。
図9(b)は、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が所定の角度範囲D(|θref ope|≧θC)内にある場合のアシスト力Faの上限値の設定例を示す。
図9(c)は、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が所定の角度範囲D(|θref ope|≧θc)よりも大きい場合のアシスト力Faの上限値の設定例を示す。
なお、本実施の形態1では、角度範囲Dを定義するθCの具体的な値として、θC=45°の場合を考える。この場合、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が大きくなるに従い、k2(θref ope)=1から小さくなり、所定の角度範囲D(|θref ope|≧45°)よりも大きい場合、k2(θref ope)=0になるように設定する。
このようにアシスト力Faの上限値を設定することにより、操作者13が設定した操作が容易な方向(あるいは、視認性が良く安全に動作できる方向)(|θref ope|<45°)には動かし易く、操作が困難な方向(あるいは、視認性が悪く安全に動作できない方向)(|θref ope|≧45°)には動かし難くすることができる。その結果、より安全性の高い電動車両(パワーアシスト台車1)を構成することができる。
なお、上述の基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)は、複数設定してもよい。例えば、操作が容易な方向(あるいは、視認性が良く安全に動作できる方向)が2つあれば、その2つの方向を基準の方向として設定してもよい。また、例えば、独立2輪駆動型の車輪構成の場合には、車軸と垂直方向の2方向(前進方向と後退方向)に基準の方向を設定する。この場合、設定した2方向(前進方向と後退方向)が機構的に操作しやすい方向であるため、その方向のアシスト動作は大きく、その方向と異なる方向のアシスト動作は小さく設定することができ、より簡単に制御系を構成することができる。
また、図10(a)〜(c)に示すように、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が大きくなるに従い、θ+ A、θ− A、θ+ B、θ− Bを小さくしてもよい(ただし、k2(θref ope)=1)。
図10(a)は、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeがゼロの場合のアシスト力Faの上限値の設定例を示すものである。
図10(b)は、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|がある角度(ゼロでない角度)を有する場合のアシスト力Faの上限値の設定例を示すものである。
図10(c)は、基準の方向(=台車座標系ΣrのXr軸の正の方向)と操作力Fopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が、図10(b)よりも大きい場合のアシスト力Faの上限値の設定例を示すものである。このようにアシスト力Faの上限値を設定することによっても、操作者13が設定した操作が容易な方向(あるいは、視認性が良く安全に動作できる方向)には動かし易く、操作が困難な方向(あるいは、視認性が悪く安全に動作できない方向)には動かし難くすることができる。その結果、より安全性の高い電動車両(パワーアシスト台車1)を構成することができる。
また、操作力Fopeとして、力だけでなく同時にモーメントが作用している場合には、作用しているモーメントの大きさ及び方向に基づき、θ+ A、θ− A、θ+ B、θ− Bを変更してもよい。例えば、図11に示すように、操作力Fopeとして、力だけでなく反時計回りにモーメントが作用している場合には、モーメントが作用していない場合のθ+ A、θ+ Bの値の2〜3倍の大きさを上限値として、モーメントの大きさに比例して、θ+ A、θ+ Bの値を大きく設定する。反対に、操作力Fopeとして、力だけでなく時計回りにモーメントが作用している場合には、モーメントが作用していない場合のθ− A、θ− Bの値の2〜3倍の大きさを上限値として、モーメントの大きさに比例して、θ− A、θ− Bの値を大きく設定する。このように設定することにより、操作力Fopeとして、力だけでなく同時にモーメントが作用している場合には、モーメントが作用している方向に、より動作し易くすることができ、操作性を向上させることができる。
以上より、操作者13が操作していなくても勝手にアシスト力が生成されることや、操作者13が操作した方向や大きさとは全く異なる方向や大きさのアシスト力が生成されることを防止できる。その結果、安全性の高い電動車両(パワーアシスト台車1)を構成することができる。
次に、アシスト動作算出部11は、アシスト力算出部10で算出したアシスト力Faに基づくインピーダンス制御を行う(ステップS8)。具体的には、(式9)の見かけの質量特性、(式10)の見かけの粘性特性から構成される(式11)に示すインピーダンス特性に基づき、パワーアシスト台車1のアシスト動作を生成する。
ただし、Vaはパワーアシスト台車1のアシスト動作速度、Vd aはアシスト動作加速度である。(式11)は(式12)のように変形できる。
ただし、L[ ]はラプラス変換を表し、L−1[ ]はラプラス逆変換を表す。従って、アシスト動作算出部11では、アシスト力算出部10で算出した(式13)のアシスト力を入力として、(式12)に従って、パワーアシスト台車1のアシスト動作速度Vaを算出する。
次に、駆動制御部12では、アシスト動作算出部11が算出したパワーアシスト台車1のアシスト動作速度を車輪5の指令回転速度に変換する(ステップS9)。ここで、車輪5の指令回転速度を(式14)とおくと、図2に示す車輪構成及び車輪配置の場合、パワーアシスト台車1のアシスト動作速度Vaと、車輪5の指令回転速度Ωaの間には、(式15)の関係式が成り立つ。
ただし、図2に示すように、Lw∈Rは左右の車輪5間の距離の半分であり、Ld∈Rは前後の車輪5間の距離の半分である。また、r∈Rは車輪5の半径である。(式15)は(式16)のように変形できる。
従って、駆動制御部12は、アシスト動作算出部11が算出したパワーアシスト台車1のアシスト動作速度Vaを入力として、(式16)から、車輪5の指令回転速度Ωaを算出することができる。車輪駆動部6では、駆動制御部12が算出した車輪5の指令回転速度に、車輪5が追従するように速度制御を行うことにより、車輪5を駆動させて、パワーアシスト台車1を動作させることができる(ステップS10)。
以上より、操作者13がハンドル3に加えた操作力Fopeに基づくパワーアシスト台車1の動作を実現できる。なお、本実施の形態1では、図1に示すようなパワーアシスト台車1を用いて説明したが、本発明は、この構成に限るものではない。本実施の形態1は、図26に示すようなパワーアシストカート15や、買い物カートなど、様々な操作型の電動車両に適用することができる。
(実施の形態2)
以下、本発明の他の実施の形態に係る電動車両である電動車いすを説明する。
図12は、本発明の実施の形態2における電動車いす101の斜視図、図13は、本実施の形態2における電動車いす101を下方から見た図である。
なお、電動車いす101に固定され、電動車いす101の運動と共に動く座標系を電動車いす座標系Σw(互いに直交する三つのXw軸、Yw軸およびZw軸を有する座標系)としている(図11参照)。電動車いす座標系ΣwのXw軸とYw軸から構成される平面は地面に対して平行な水平面とし、Xw軸が電動車いす101の前方を向いているものとする。電動車いす101の現在位置は、図13に設定されている基準座標系Σ0に対する電動車いす座標系Σwの位置ベクトル及び姿勢として定義される。これらの図において、電動車いす101は、操作者(図示略)が搭乗する座面部102、操作者の左右の腕を置く右側アームレスト103a、左側アームレスト103bを備えている。なお、電動車いす座標系Σwの原点は座面部102の中央(後述する4輪の車輪105の中心)に設定している。
右側アームレスト103には、操作量計測部104が設けられている。操作量計測部104は、操作者が電動車いす101に対し、動作指示を行うためのジョイスティック104aを備えている。操作量計測部104は、ジョイスティック104aの操作量、つまり操作者がジョイスティック104aを傾けた量、および、方向から、操作者が行った動作指示の大きさ及び方向(電動車いす座標系ΣwのXw軸方向、Yw軸方向の並進動作指示及びZw軸回りの回転動作指示)を計測することができる装置である。
座面部102の下側には、電動車いす101を走行させる車輪105と、車輪105を駆動させる車輪駆動部106、電動車いす101の制御系を構成するコントローラ107が設けられている。電動車いす101の具体的な制御則は、このコントローラ107によって実現される。
本実施の形態2では、車輪105として、一般に市販されている全方向移動車輪であるオムニホイールを4個用い、図13に示すような車輪構成及び車輪配置とする。なお、説明は省略するが、一般に市販されている中空タイヤ2個を用いた独立2輪駆動型の車輪構成をとってもよい。この場合には、パワーアシスト台車1を安定して支えるために、補助輪として、一般に市販されているキャスタを複数個用いることが望ましい。
また、車輪駆動部106は、減速機106a、電動モータ106b、電動モータの回転角度を計測するエンコーダ106c、電動モータ106bを駆動するためのサーボドライバ106dから構成されている。本実施の形態2では、電動モータ106bは指令された速度で動作するように速度制御されているものとする。
また、座面部102の側面には、電動車いす101から障害物14までの距離と方向を計測する障害物計測部108が設けられている。この障害物計測部108の出力情報は、電動車いす座標系Σwを基準とする情報である。本実施の形態2では、障害物計測部108として、一般に市販されているレーザー測域センサ108aを、座面部102の角四隅に設けている。このレーザー測域センサ108aは、検出範囲が周囲270度であるため、座面部102の角四隅に設けることにより、電動車いす101の全方向に存在する障害物までの距離及び方向を計測することができる。
ここで、図14は電動車いす101のシステム構成を示すブロック図である。
図14に示すように、電動車いす101は、操作量計測部104、目標操作速度算出部110、障害物計測部108、障害物回避速度算出部109、アシスト動作速度算出部111、駆動制御部112、車輪駆動部106、車輪105を備えている。
前述のとおり、操作量計測部104は、操作者がジョイスティック104aに対して行った操作量の大きさ及び方向を計測する装置である。
そして、目標操作速度算出部110は、操作量計測部104で計測した操作量(電動車いす座標系ΣwのXw軸方向、Yw軸方向、Zw軸回りの操作量)に基づき、目標操作速度(電動車いす座標系ΣwのXw軸方向、Yw軸方向の目標操作並進速度及びZw軸回りの目標操作回転速度)を算出する処理部である。
また、前述のとおり、障害物計測部108は、電動車いす101と障害物14までの距離と方向を計測する装置である。
そして、障害物回避速度算出部109は、障害物計測部108が計測した障害物14までの距離及び方向に基づいて、電動車いす101を障害物14から遠ざけるための障害物回避速度を算出する処理部である。この障害物回避速度に基づいて、電動車いす101を動作させることにより、障害物14との衝突を回避させることができる。
また、アシスト動作速度算出部111は、目標操作速度算出部110が算出した目標操作速度と、障害物回避速度算出部109が算出した障害物回避速度の合成速度から、電動車いす101に対するアシスト動作速度を算出し、駆動制御部112に出力する処理部である。
駆動制御部112は、アシスト動作速度算出部111が算出したアシスト動作速度を、各車輪105の指令回転速度に変換し、車輪駆動部106に出力する処理部である。
この時、目標操作速度及び障害物回避速度は、電動車いす座標系Σwを基準とした情報である。
また、車輪駆動部106は、駆動制御部112で変換された指令回転速度となるように車輪105を制御する処理部である。
以上の構成により、操作者の操作に基づいた動作を行う電動車いす101を実現することができる。
次に、このような構成において、図15に示すフローチャートに従って、具体的な制御則を用いた実施例について説明する。
はじめに、操作量計測部104が、操作者がジョイスティック104aに対して行った操作の大きさ及び方向を計測する(ステップS101)。いま、操作者がジョイスティック104aに対して行った操作量をΔXjoy =[Δxjoy Δyjoy Δθjoy]∈R3とおく。ただし、Δxjoy、Δyjoy、Δθjoy ∈Rはそれぞれ、電動車いす座標系ΣwのXw軸方向、Yw軸方向、Zw軸回りに行われた操作量である。目標操作速度算出部110では、操作量計測部104で計測した操作量ΔXjoyに比例した大きさを有する(式17)の目標操作速度Vope(電動車いす座標系ΣwのXw軸方向、Yw軸方向の目標操作並進速度及びZw軸回りの目標操作回転速度)を、(式18)に従って算出する(ステップS102)。
ただし、(式19)のKjoyは、目標操作速度算出定数であり、正の値を有する。また、操作が行われていない場合は、目標操作速度はゼロとして算出する。
次に、障害物計測部8は、電動車いす101から障害物14までの距離及び方向を計測する(ステップS103)。
次に、障害物回避速度算出部109は、電動車いす101を障害物14から遠ざけるための障害物回避速度を算出する。まず、障害物14までの距離に応じた斥力ポテンシャルUobj(X)∈Rを(式2)に基づいて生成する(ステップS104)。
ただし、X=[x y θ]T∈R3は、電動車いす101の現在位置を表すベクトル、η∈Rは正の重み係数、ρ(X)∈RはXから障害物14への最近接距離を表し、ρ0∈Rは正の定数である。斥力ポテンシャルUobj(X)はゼロ以上であり、電動車いす101が障害物領域に近づくほど無限大に近くなり、電動車いす101から障害物14への距離がρ0以上のときゼロとなる。
ここで、電動車いす101に指令する障害物回避速度を(式21)とおくと、障害物回避速度Vobjは、(式20)で算出した斥力ポテンシャルを用いて、(式22)のように求めることができる(ステップS105)。
ただし、∇Uobj(X)は、電動車いす101の現在位置XにおけるUobj(X)のこう配ベクトルを意味する。(式20)、(式22)から、電動車いす101の現在位置Xにおける障害物回避速度は(式23)のように表すことができる。
生成した障害物回避速度は、障害物14までの距離に反比例する大きさであり、かつ、障害物14の方向と反対向きに指令する仮想的な速度である。電動車いす101を障害物回避速度に従って動作させることにより、障害物14を回避することができる。
いま、目標操作速度Vopeと障害物回避速度Vobjの合成速度を(式24)とおくと、目標操作速度Vopeと障害物回避速度Vobjの合成速度Vsumは(式25)で表される。
ここで、従来提案されている技術では、この合成速度Vsumをアシスト動作速度Vaと設定し、このアシスト動作速度Va(=Vope+Vobj)に基づいて、電動車いす101を動作させていた。しかしながら、従来提案されている技術では、前述のとおり、障害物回避速度の大きさや方向によっては、操作者が操作せずとも勝手に動作する可能性、あるいは、操作者が動作させようとした方向や大きさとは大きく異なる方向や大きさの動作が行われる可能性があり、安全性に課題が生じる可能性があった。
そこで、この課題を解決するために、本実施の形態2では、アシスト動作速度算出部111において、目標操作速度Vopeに基づいて、アシスト動作速度Vaの大きさを決定する。ここで、目標操作速度は、目標操作速度Vopeは、操作者が電動車いす101に加えた操作量の大きさに比例して生成された速度である。具体的には、アシスト動作速度算出部は、(式25)に従って、アシスト動作速度Vaを算出する(ステップS108)。
ただし、Vlim(θope sum)∈Rは、アシスト動作速度Vaの上限値Yであり、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsum(=目標操作速度Vope+障害物回避速度Vobj)の方向とのなす角θope sum∈Rに基づいて定義される値である(ステップS106)。
本実施の形態2では、アシスト動作速度Vaの上限値YであるVlim(θope sum)の一実施例として、図16〜図22に示すような曲線を設定する(ステップS107)。図16〜図22に示すように、アシスト動作速度Vaの上限値YであるVlim(θope sum)は、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲A(θ− A>θope sum≧−θ+ A )にある場合には、目標操作速度Vopeの大きさと等しく設定される。しかしながら、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角が所定の角度範囲B(θ + B>θope sum≧θ+ A or −θ− A≧θope sum>−θ+ B)にある場合には、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumの絶対値|θope sum|が大きくなるに従い、目標操作速度Vopeの大きさから徐々に小さくなるように設定する。さらに、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲C(θope sum≧θ+ B or −θ− B≧θope sum)にある場合には、アシスト動作速度Vaの上限値YであるVlim(θope sum)がゼロになるように設定する。
図16は、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲A(θ− A>θope sum≧−θ+ A)にあり、かつ、合成速度Vsumの大きさがアシスト動作速度Vaの上限値Yよりも小さい場合のアシスト動作速度Vaの決定例を示すものである。
図17は、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲A(θ− A>θope sum≧−θ+ A)にあり、かつ、合成速度Vsumの大きさがアシスト動作速度Vaの上限値Yよりも大きい場合のアシスト動作速度Vaの決定例を示すものである。
図18は、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角が所定の角度範囲B(θ+ B>θope sum≧θ+ A or −θ− A>θope sum≧−θ− B)にあり、かつ、合成速度Vsumの大きさがアシスト動作速度Vaの上限値Yよりも大きい場合のアシスト力Faの決定例を示すものである。
図19は、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲C(θope sum≧θ+ B or −θ− B≧θope sum)にある場合のアシスト力Faの決定例を示すものである。
これらを、具体的に数式で表すと、(式27)のように定義できる。
ただし、k1(θope sum)∈Rは、アシスト動作速度Vaの大きさを変更するための変数であり、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumに基づいて定義される値(0<k1(θope sum)<1)である。
なお、本実施の形態2では、角度範囲A〜Cを定義するθ+ A、θ− A、θ+ B、θ− Bの具体的な値として、θ+ A=θ− A=30°、θ+ B=θ− B=60°の場合を考える。この場合、アシスト動作速度Vaの上限値YであるVlim(θope sum)は、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲A(30°>θope sum>−30°)にある場合には、目標操作速度Vopeの大きさと等しく設定される。しかしながら、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角が所定の角度範囲B(60°>θope sum≧30° or −30°≧θope sum>−60°)にある場合には、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumの絶対値|θope sum|が大きくなるに従い、目標操作速度Vopeの大きさから徐々に小さくなるように設定される。さらに、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲C(θope sum≧30° or −30°≧θope sum)にある場合には、アシスト動作速度Vaの上限値YであるVlim(θope sum)がゼロになるように設定される。
このようにアシスト動作速度Vaの上限値Yを設定することにより、以下のような効果を得ることができる。
まず、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲A(θ− A>θope sum≧−θ+ A)にある場合、すなわち、操作者が行った操作の方向(=目標操作速度Vopeの方向)と、実際に動作する方向(=合成速度Vsumの方向)がほぼ一致している場合には、操作者が想定した大きさ(=目標操作速度Vopeの大きさ)のアシスト動作速度Vaが生成される。これにより、操作者の意図どおりの動作が実現できる。
しかしながら、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲B(θ+ B>θope sum≧θ+ A or −θ− A≧θope sum>−θ− B)にある場合、すなわち、操作者が行った操作の方向(=目標操作速度Vopeの方向)と、実際に動作する方向(=合成速度Vsumの方向)が所定の角度範囲B(θ+ B>θope sum≧θ+ A or −θ− A≧θope sum>−θ− B)内でずれている場合には、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumの絶対値|θope sum|が大きくなるに従い、目標操作速度Vopeの大きさから徐々に小さくなるように設定される。これにより、操作者が意図した方向(=目標操作速度Vopeの方向)と実際に動作する方向(=合成速度Vsumの方向)がずれる程、アシスト動作速度Vaの制限が大きくなる、すなわち、意図しない動作が生成されにくくなり、安全性を高めることができる。
さらに、目標操作速度Vopeの方向と合成速度Vsumの方向とのなす角θope sumが所定の角度範囲C(θope sum≧θ+ B or −θ− B≧θope sum)にある場合、すなわち、操作者が意図した方向(=目標操作速度Vopeの方向)と実際に動作する方向(=合成速度Vsumの方向)が大きくずれている場合には、アシスト動作速度Vaはゼロとして生成される(すなわち、動作しない)。これにより、操作者の意図から大きくずれた方向への動作は生成されないため、意図しない方向への動作を禁止でき、安全性を高めることができる。
また、電動車いす101に設定した基準の方向と、目標操作速度Vopeの方向とのなす角をθref ope∈Rとおくと、さらに、なす角θref opeに基づいてアシスト動作速度Vaの上限値Yを変えることにより、より安全性の高い操作を実現することができる。例えば、電動車いす101では、前方は視認性がよいが、後方は視認性が悪いため、主に前方に動作させて使用する。そこで、電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向に基準の方向を設定する。そして、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeに基づいて、アシスト動作速度Vaの上限値Yを修正する。具体的には、(式28)に基づいて、アシスト動作速度Vaの上限値Yを設定する。
ただし、k2(θref ope)∈Rは、アシスト動作速度Vaの上限値Yの大きさを変更するための変数であり、設定した基準の方向と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeに基づいて定義される値(0<k2(θref ope)<1)である。本実施の形態2では、図20(a)〜(c)に示すように、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が大きくなるに従い、k2(θref ope)=1から小さくなり、所定の角度範囲D(|θref ope|≧θC)よりも大きい場合、k2(θref ope)=0になるように設定する。 図20(a)は、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeがゼロの場合のアシスト動作速度Vaの上限値Yの設定例を示すものである。
図20(b)は、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が所定の角度範囲D(|θref ope|≧θC)内にある場合のアシスト動作速度Vaの上限値Yの設定例を示すものである。
図20(c)は、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が所定の角度範囲D(|θref ope|≧θC)よりも大きい場合のアシスト動作速度Vaの上限値Yの設定例を示すものである。
なお、本実施の形態2では、角度範囲Dを定義するθCの具体的な値として、θC=45°の場合を考える。この場合、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が大きくなるに従い、k2(θref ope)=1から小さくなり、所定の角度範囲D(|θref ope|≧45°)よりも大きい場合、k2(θref ope)=0になるように設定する。
このようにアシスト動作速度Vaの上限値Yを設定することにより、操作者が設定した操作が容易な方向(あるいは、視認性が良く安全に動作できる方向)(|θref ope|<45°)には動かし易く、操作が困難な方向(あるいは、視認性が悪く安全に動作できない方向)(|θref ope|≧45°)には動かし難くすることができる。その結果、より安全性の高い電動車両を構成することができる。
また、図21(a)〜(c)に示すように、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が大きくなるに従い、θ+ A、θ− A、θ+ B、θ− Bを小さくしてもよい(ただし、k2(θref ope)=1)。
図21(a)は、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeがゼロの場合のアシスト動作速度Vaの上限値Yの設定例を示すものである。
図21(b)は、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|がある角度(ゼロでない角度)を有する場合のアシスト動作速度Vaの上限値Yの設定例を示すものである。
図21(c)は、基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)と目標操作速度Vopeの方向とのなす角θref opeの絶対値|θref ope|が、図21(b)よりも大きい場合のアシスト動作速度Vaの上限値Yの設定例を示すものである。
このようにアシスト力Faの上限値Yを設定することによっても、操作者が設定した操作が容易な方向(あるいは、視認性が良く安全に動作できる方向)には動かし易く、操作が困難な方向(あるいは、視認性が悪く安全に動作できない方向)には動かし難くすることができる。その結果、より安全性の高い電動車両(電動車いす101)を構成することができる。
なお、上述の基準の方向(=電動車いす座標系ΣwのXw軸の正の方向)は、複数設定してもよい。例えば、操作が容易な方向(あるいは、視認性が良く安全に動作できる方向)が2つあれば、その2つの方向を基準の方向として設定してもよい。また、例えば、独立2輪駆動型の車輪構成の場合には、車軸と垂直方向の2方向(前進方向と後退方向)に基準の方向を設定する。この場合、設定した2方向(前進方向と後退方向)が機構的に操作しやすい方向であるため、その方向のアシスト動作は大きく、その方向と異なる方向のアシスト動作は小さく設定することができ、より簡単に制御系を構成することができる。
また、目標操作速度Vopeとして、目標並進速度だけでなく同時に目標回転速度が作用している場合には、目標回転速度の大きさ及び方向に基づき、θ+ A、θ− A、θ+ B、θ− Bを変更してもよい。例えば、図22に示すように、目標操作速度Vopeとして、目標並進速度だけでなく反時計回りに目標回転速度が作用している場合には、目標回転速度の大きさに比例して、θ+ A、θ+ Bの値を大きく設定する。反対に、目標操作速度Vopeとして、目標並進速度だけでなく時計回りに目標回転速度が作用している場合には、目標回転速度の大きさに比例して、θ− A、θ− Bの値を大きく設定する。このように設定することにより、目標操作速度Vopeとして、目標並進速度だけでなく目標回転速度が作用している場合には、目標回転速度が作用している方向により動作し易くすることができ、操作性を向上させることができる。
以上より、操作者が操作していなくても勝手にアシスト動作速度が生成されることや、操作者が操作した方向や大きさとは全く異なる方向や大きさのアシスト動作速度が生成されることを防止できる。その結果、安全性の高い電動車両(電動車いす101)を構成することができる。
次に、駆動制御部112では、アシスト動作速度算出部111が算出した電動車いす101のアシスト動作速度Vaを各車輪の指令回転速度に変換する(ステップS109)。
ここで、車輪105の指令回転速度をΩaとおくと、図13に示す車輪構成及び車輪配置の場合、電動車いす101のアシスト動作速度Vaと、車輪の指令回転速度Ωaの間には、(式29)の関係式が成り立つ。
ただし、図13に示すように、Lw∈Rは左右の車輪105間の距離の半分であり、Ld∈Rは前後の車輪105間の距離の半分である。また、r∈Rは車輪105の半径である。(式29)は(式30)のように変形できる。
従って、駆動制御部112では、アシスト動作速度算出部111が算出した電動車いす101のアシスト動作速度Vaを入力として、(式30)から車輪105の指令回転速度Ωaを算出することができる。車輪駆動部106では、駆動制御部112が算出した車輪105の指令回転速度に、車輪105が追従するように速度制御を行うことにより、車輪105を駆動させて、電動車いす101を動作させることができる(ステップS110)。
以上より、操作者がジョイスティック104aに対し行った操作に基づく電動車いす101の動作を実現できる。
なお、本願発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて実現される別の実施の形態を本願発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本願発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本願発明に含まれる。
以上述べたように、本発明によれば、操作者が操作していないのに勝手に電動車両が動作することや、操作者が動作させようとした方向や大きさとは大きく異なる方向や大きさで電動車両がアシストされたりすることがなく、安全性の高い操作を実現することができる。そのため、パワーアシスト台車や電動車いす、買い物カートなどの操作者の操作に基づいて動作する電動車両として有用である。
1 パワーアシスト台車
2 荷台
3 ハンドル
4 操作力計測部
4a 力センサ(3軸)
5 車輪
6 車輪駆動部
6a 減速機
6b 電動モータ
6c エンコーダ
6d サーボドライバ
7 コントローラ
8 障害物計測部
8a レーザー測域センサ
9 仮想斥力算出部
10 アシスト力算出部
11 アシスト動作算出部
12 駆動制御部
13 操作者
14 障害物
15 パワーアシストカート
101 電動車いす
102 座面部
103a 右側アームレスト
103b 左側アームレスト
104 操作量計測部
104a ジョイスティック
105 車輪
106 車輪駆動部
106a 減速機
106b 電動モータ
106c エンコーダ
106d サーボドライバ
107 コントローラ
108 障害物計測部
108a レーザー測域センサ
109 障害物回避速度算出部
110 目標操作速度算出部
111 アシスト動作速度算出部
112 駆動制御部
201 操作力
202 仮想斥力
203 合力
204 障害物
205 パワーアシスト台車
205a 操作部
206 操作者