本発明は、動力伝達装置に関し、特に、一定方向への回転の伝達および遮断の切り替えを素早く行うと共に切り替え時の衝撃を防止することができ、さらに特別な制御を行わなくても、惰性運動時の出力量が減少することを防止できる動力伝達装置に関するものである。
従来、動力源からの動力を伝達する動力伝達装置として、例えば、特許文献1には、入力軸と、入力軸に平行な出力軸と、入力軸および出力軸に配設され互いに常時噛み合って異なる変速比となるように設定された複数の歯車対と、歯車対のそれぞれ一方の歯車に設けられたツーウェイクラッチと、を備えるものが開示されている。
特許文献1に開示される動力伝達装置では、ツーウェイクラッチは、外周面が断面多角形状の内輪と、その内輪の外周面に対向する断面円形状の内周面を有する外輪と、その外輪の内周面と内輪の外周面との間に複数のローラを円周方向に保持する保持器とを備えている。このツーウェイクラッチは、保持器が中立状態にあると、外輪の内周面とローラとの間に隙間が存在するため、内輪と外輪とは自由に相対回転できる(空転して動力は伝達されない)。これに対し、保持器を円周方向に変位させてローラを移動させると、内輪や外輪の回転に伴って、ローラが外輪の内周面と内輪の外周面との間に楔のように噛み込み、内輪と外輪とをロックできる(ロック状態では動力が伝達される)。このように、この動力伝達装置では、該当する歯車対に設けられた保持器を中立状態から円周方向に変位させ、内輪と外輪との間にローラを噛み込ませることによりロックさせ、動力を伝達する状態に切り替えて変速を行う。
しかしながら、特許文献1に開示される動力伝達装置では、動力を伝達しない状態から動力を伝達する状態に切り替えるためには、該当する歯車対に設けられたローラを円周方向に移動させ、さらに内輪や外輪の回転を利用して、外輪の内周面と内輪の外周面との間にローラを楔のように噛み込ませる必要がある。このため、ローラの移動に時間がかかり、切り替えに時間を要するという問題点があった。
また、切り替えに時間を要すると、動力を伝達しない状態から動力が伝達されるまでの間に、外輪または入力軸と内輪または出力軸とが空転する。この結果、ローラが楔のように噛み込むロック時に、衝撃が生じるという問題点があった。
また、加速時にシフトアップ変速を行う場合、内外輪の回転に対して回転を止めるブレーキ力を付加してローラを回転方向に移動させると共に、動力が入力される外輪の回転速度が、出力軸に繋がる内輪の回転速度と同じか又は相対的に速くなると、ローラが外輪の内周面と内輪の外周面との間の正回転方向に噛み込まれる。その結果、内輪と外輪とがロックされ、入力軸から出力軸を駆動する状態となる。次いで、コースト走行(惰性走行)を行うと、動力が入力される外輪の回転速度は、出力軸に繋がる内輪の回転速度より相対的に遅くなるため、正回転方向に噛み込まれたローラが外れ、中立状態を経て、外輪の内周面と内輪の外周面との間の逆回転方向に噛み込まれる。その結果、再び内輪と外輪とがロックされ、出力軸から入力軸を駆動する状態となる。このように、正回転方向に噛み込まれたローラが外れ、中立状態を経て逆回転方向に噛み込まれる切り替え時においても、回転ガタがあるため、衝撃が生ずるという問題点があった。
また、コースト走行(惰性走行)時の抵抗を無くすには、出力軸の制動を抑制するため、ローラが噛み込まれないように中立状態に保つように制御する必要がある。このように、コースト走行時には、ローラを制御しなければ出力軸が制動されるため、惰性走行可能な距離が短くなるという問題点(惰性運動時の出力量が減少するという問題点)があった。
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、一定方向への回転の伝達および遮断の切り替えを素早く行うと共に切り替え時の衝撃を防止することができ、さらに特別な制御を行わなくても、惰性運動時の出力量が減少することを防止できる動力伝達装置を提供することを目的としている。
課題を解決するための手段および発明の効果
請求項1記載の動力伝達装置によれば、第1クラッチは、付勢部材によりスプラグに付勢力が付与され、第1内輪の外周面および第1外輪の内周面に係合面が接するように第1スプラグがセルフロック方向へ傾動することで、第1内輪および第1外輪に第1スプラグが係合する。これにより、第1内輪と第1外輪との一定回転方向への相対回転が規制される。これに対し、荷重付与装置により付勢部材の付勢力に抗して第1スプラグに荷重が付与され、第1スプラグが反セルフロック方向へ傾動することで、第1内輪および第1外輪への第1スプラグの係合が解除され、第1内輪と第1外輪とが相対回転する。
このように、本発明によれば、第1スプラグを傾動させて一定方向への回転の伝達および遮断の切り替えを行うので、従来のように、ローラを円周方向に変位させて切り替えを行う場合と比較して、切り替えに要する時間を短縮でき、切り替えを素早く行うことができるという効果がある。
また、第1スプラグを傾動させて一定方向への回転の伝達および遮断を行うので、従来のように、動力を伝達しない状態から動力を伝達する状態になるまでの間に第1内輪と第1外輪とが空転することもなく、切り替え時の衝撃を防止することができるという効果がある。
さらに、出力軸から入力軸へ動力が伝達される惰性運動時に、第1内輪および第1外輪への第1スプラグの係合が解除されて第1スプラグが反セルフロック方向へ自然に傾動するため、荷重付与装置を作動しなくても、出力軸から入力軸への動力の伝達が遮断される。その結果、荷重付与装置を作動しなくても、惰性運動時に出力軸が制動されることを防ぎ、惰性運動時の出力量が減少することを防止できるという効果がある。
請求項2記載の動力伝達装置によれば、第2歯車対に配設され出力軸から入力される動力を入力軸へ伝達する第2クラッチを備えているので、出力軸から入力軸へ動力が伝達される惰性運動時には、第2クラッチによって出力軸から入力軸へ動力が伝達され、出力軸から入力軸を駆動する状態となり、動力源が出力軸の駆動抵抗となるため出力軸を制動できる。その結果、請求項1の効果に加え、惰性運動時の出力量が減少することを防止するよりも、出力軸の制動を優先できるという効果がある。
請求項3記載の動力伝達装置によれば、第2歯車対の出力軸に配設された歯車の歯数が、第1歯車対の出力軸に配設された歯車の内の最小歯数より小さいので、第2歯車対の変速比が第1歯車対の変速比より小さくなる。これにより、第2クラッチは出力軸から入力軸への動力の伝達を遮断可能に構成しなくても、出力軸が惰性運動をする場合には、第1歯車対と第2歯車対との変速比の関係により、第1クラッチのスプラグを反セルフロック方向に傾動させることができる。このため、第1歯車対と第2歯車対との間に二重噛み合いが起きるのを防止できる。よって、請求項2の効果に加え、動力伝達装置の制御を簡素化できるという効果がある。
また、出力軸に逆動力(出力軸を逆回転させようとする動力)が入力される場合に、第1歯車対および第2歯車対の変速比により回転速度差が生じ、第1歯車対と第2歯車対とを二重噛み合いにできるという効果がある。このため、車両が登坂停止している場合に、サイドブレーキを作動させたり大きな駆動力が得られるように動力源を制御したりすることなく、車両の後退を防止することができる。また、車両が登坂停止した状態から前進する場合は、動力源を駆動するのみで発進できる。
請求項4記載の動力伝達装置によれば、第2クラッチは、出力軸から入力軸への動力の伝達を遮断可能に構成されているので、出力軸から入力軸への動力の伝達を遮断すれば惰性運動時に出力量が減少することを防止できる。その結果、出力軸から入力軸への動力の伝達を遮断しなければ出力軸の制動を行うことができる。以上のように、請求項2又は3の効果に加え、惰性運動時に、出力量または出力軸の制動のいずれを優先するかを選択できるという効果がある。
請求項5記載の動力伝達装置によれば、第2クラッチは、第2内輪と第2外輪とに接する第2スプラグを傾動させて一定方向への回転の伝達および遮断の切り替えを行うので、従来のように、ローラを円周方向に変位させて切り替えを行う場合と比較して、切り替えに要する時間を短縮できる。従って、請求項4の効果に加え、切り替えを素早く行うことができるという効果がある。
また、第2スプラグを傾動させて一定方向への回転の伝達および遮断を行うので、従来のように、動力を伝達しない状態から動力を伝達する状態になるまでの間に第2内輪と第2外輪とが空転することもなく、切り替え時の衝撃を防止できるという効果がある。
また、加速時において第1クラッチがセルフロックされる状態から、コースト時において第2クラッチがセルフロックされる状態に回転ガタなく切り替えることができるため、切り替え時の遊転による衝撃を防止できるという効果がある。
第1実施の形態における動力伝達装置が搭載される車両を模式的に示した模式図である。
動力伝達装置を模式的に示した模式図である。
第1クラッチの断面図である。
図3のIV−IV線における第1クラッチの断面図である。
図4のVで示す部分を拡大して示した第1クラッチの部分拡大断面図である。
(a)は加速走行時(第1速)の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(b)は加速走行時(第2速)の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(c)は加速走行時(第3速)の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図である。
コースト走行時(第3速)の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図である。
(a)は第2実施の形態における動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(b)は第2クラッチの内部構造の一部を模式的に示した模式図である。
(a)は第2実施の形態における動力伝達装置において加速走行時(第3速)の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(b)はコースト走行時(第3速)に出力軸から入力軸に動力を伝達する動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(c)はコースト走行時(第3速)に出力軸から入力軸への動力の伝達を遮断した動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図である。
(a)は第2実施の形態における動力伝達装置において車両が登坂停止している場合の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(b)は車両が登坂停止した状態から前進する場合の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図である。
(a)は第3実施の形態における動力伝達装置が搭載される車両を模式的に示した模式図であり、(b)は動力伝達装置を模式的に示した模式図である。
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施の形態における動力伝達装置1が搭載される車両100を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印F−B,L−Rは、車両100の前後方向、左右方向をそれぞれ示している。
まず、車両100の概略構成について説明する。車両100は、図1に示すように、前輪101(左の前輪101FL及び右の前輪101FR)を駆動するフロントユニット110を備えている。フロントユニット110は、動力源としてのエンジン111及びモータ112と、それらエンジン111及びモータ112の動力を前輪101に伝達する動力伝達装置113とを主に備え、エンジン111及びモータ112の2つの動力を使い分けて前輪101を駆動可能に構成されている。また、このフロントユニット110は、モータ112が発電機としての機能を兼ね備えており、モータ112により発電した電力を回生可能に構成されている。なお、車両100は、エンジン111又はモータ112のいずれか片方で構成されても良い。
次いで、図2を参照して、動力伝達装置1の詳細構成について説明する。図2は、動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図である。なお、図2では、理解を容易とするために、動力を伝達する機能を担う構成のみを図示している。また、以下の実施の形態においては、入力軸2にモータ112の駆動力を伝達する場合について説明するが、モータ112に代えてエンジン111の駆動力を伝達することや、エンジン111及びモータ112の駆動力を伝達することも当然可能である。
動力伝達装置1は、図2に示すように、モータ112の動力が入力される入力軸2と、その入力軸2と平行に配設された出力軸3と、その出力軸3および入力軸2に配設され互いに噛み合って異なる変速比となるように設定された複数の第1歯車対4,5,6とを主に備えて構成されている。本実施の形態では、モータ112と第1歯車対4との間の入力軸2にメインクラッチ7が配設されており、メインクラッチ7を接続することで、モータ112の動力を動力伝達装置1に伝達するように構成されている。また、出力軸2に伝達された動力が動力伝達装置1の外部に出力され、前輪101に伝達されるように構成されている。
第1歯車対4,5,6は、入力軸2に配設され入力軸2から伝達される動力により駆動される駆動歯車4a,5a,6aと、出力軸3に配設され駆動歯車4a,5a,6aにより従動駆動される被動歯車4b,5b,6bとを備えている。ここで、第1歯車対4,5,6は、変速比(被動歯車の歯数÷駆動歯車の歯数)の大きなものから、モータ112に近い順に第1速、第2速、第3速とされ、本実施の形態においては、第1歯車対4が第1速、第1歯車対5が第2速、第1歯車対6が第3速である。なお、後進段については、図示を省略している。後進段の場合は、第1歯車対4,5,6の間にピニオン歯車を挿入すれば良い。
第1歯車対4,5,6を構成する駆動歯車4a,5a,6aは、それぞれ入力軸2と一体に形成されている。一方、駆動歯車4a,5a,6aにそれぞれ対向して噛み合う被動歯車4b,5b,6bは、後述する第1クラッチ10を介して出力軸3にそれぞれ固定されている。第1クラッチ10は、入力軸2から出力軸3へ動力を伝達する一方、出力軸3から入力軸2への動力の伝達を遮断するものであり、入力軸2から出力軸3への動力の伝達を遮断可能に構成されている。
ここで、図3及び図4を参照して、第1クラッチ10の詳細構成について説明する。図3は、第1クラッチ10の断面図であり、図4は、図3のIV−IV線における第1クラッチ10の断面図である。第1クラッチ10は、図3及び図4に示すように、第1内輪11と、その第1内輪11の外周を囲む第1外輪12と、それら第1内輪11と第1外輪12との間に配設される複数の第1スプラグ13と、それら第1スプラグ13を保持する保持器14と、荷重付与装置15とを主に備えて構成されている。
第1内輪11は、動力を伝達する機能を担う部材であり、図3及び図4に示すように、断面円形状の外周面11aを備え、軸心O回りに回転可能に構成されている。また、この第1内輪11は、出力軸3(図2参照)と一体に形成されている。第1外輪12は、第1内輪11と共に動力を伝達する機能を担う部材であり、図3及び図4に示すように、第1内輪11の外周面11aに対向する断面円形状の内周面12aを備え、第1内輪11と同様に軸心O回りに回転可能に構成されている。また、この第1外輪12は、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6b(図2参照)と一体に形成されている。
第1スプラグ13は、第1内輪11と第1外輪12とを係合する機能を担う部材であり、外周面11a及び内周面12aにそれぞれ接する係合面13a,13b(図5参照)を備え、図4に示すように、外周面11a及び内周面12aの対向間において円周方向に等間隔で複数配設されている。また、この第1スプラグ13は、リボンスプリング16(図5参照)により内周面11a及び外周面12aの円周方向に付勢されている。
ここで、図5を参照して、リボンスプリング16について説明する。図5は、図4のVで示す部分を拡大して示した第1クラッチ10の部分拡大断面図である。リボンスプリング16は、第1スプラグ13に付勢力を付与して外周面11a及び内周面12aに係合面13a,13bが接するように第1スプラグ13に図5の矢印S方向(以下「セルフロック方向」と称す)の回転モーメントを発生させる部材であり、図5に示すように、金属材料に波状の曲げ加工を施して形成され、その弾性を利用して第1スプラグ13に付勢力を付与可能に構成されている。但し、このリボンスプリング16は、コイルばねにより構成しても良い。
このリボンスプリング16により第1スプラグ13に付勢力が付与されることで、外周面11a及び内周面12aに係合面13a,13bが接するように第1スプラグ13がセルフロック方向へ傾動する。その結果、図5に示すように、内周面12aと係合面13bとの接点A及び外周面11aと係合面13aとの接点Bに摩擦力が発生すると共に外周面11a及び内周面12aの円周方向における各接点A,Bの位置ずれにより、第1内輪11及び第1外輪12が所定の方向へ回転する場合には、第1内輪11及び第1外輪12に第1スプラグ13が係合する。
即ち、第1外輪12が第1スプラグ13に対して、第1内輪11との相対回転で第1内輪11側から見て、図5の矢印Ro方向(以下「ロック方向」と称す)へ回転する場合には、第1内輪11及び第1外輪12に第1スプラグ13が係合する。これにより、出力軸3は被動歯車4b,5b,6bと共に回転する。一方、第1外輪12が第1スプラグ13に対して、第1内輪11との相対回転で第1内輪11側から見て、図5の反矢印Ro方向(以下「フリー方向」と称す)へ回転する場合には、接点Aに作用する摩擦力により第1スプラグ13がリボンスプリング16の付勢力に抗して反セルフロック方向へ傾動し、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が解除される。その結果、被動歯車4b,5b,6bは出力軸3を空転する。
また、第1内輪11が第1スプラグ13に対して、第1外輪12との相対回転で第1外輪12側から見て、図5の矢印Ri方向(以下「ロック方向」と称す)へ回転する場合には、第1内輪11及び第1外輪12に第1スプラグ13が係合する。その結果、出力軸3は被動歯車4b,5b,6bと共に回転する。一方、第1内輪11が第1スプラグ13に対して、第1外輪12との相対回転で第1外輪12側から見て、図5の反矢印Ri方向(以下「フリー方向」と称す)へ回転する場合には、接点Bに作用する摩擦力により第1スプラグ13がリボンスプリング16の付勢力に抗して反セルフロック方向へ傾動し、被動歯車4b,5b,6bは出力軸3を空転する。
図3及び図4に戻って説明する。保持器14は、第1スプラグ13を外周面11a及び内周面12aの円周方向へ傾動可能に保持する部材であり、図3及び図4に示すように、保持部14aと、荷重伝達部14bとを備えて構成されている。保持部14aは、第1スプラグ13を保持する部位であり、図3及び図4に示すように、軸心O方向に延設され、第1スプラグ13の上端側を保持している。荷重伝達部14bは、荷重付与装置15から荷重が伝達される部位であり、図3に示すように、軸心O方向と交差する方向に延設されている。これにより、荷重伝達部14bを軸心O方向に延設する場合と比較して、保持器14の軸心O方向の寸法を短縮でき、第1クラッチ10の小型化を図ることができる。また、この荷重伝達部14bは、図4に示すように、歯車状に形成され、後述するピニオン15bとの間に構成される歯車機構を介して荷重付与装置15から荷重が伝達されるように構成されている。これにより、荷重付与装置15から保持器14までの荷重の伝達経路中に生じるエネルギー損失を小さくでき、効率良く保持器14に荷重を伝達することができる。
荷重付与装置15は、リボンスプリング16の付勢力に抗して第1スプラグ13に荷重を付与して第1スプラグ13を反セルフロック方向(図5の反矢印S回転方向)へ傾動させるための装置であり、図3及び図4に示すように、アクチュエータ15aと、ピニオン15bとを備えて構成されている。アクチュエータ15aは、第1スプラグ13に付与する荷重を生み出す動力源であり、電動機(交流モータ又は直流モータ)により構成され、電源(図示せず)から供給される電力により駆動可能に構成されている。このように、アクチュエータ15aが電動機により構成されているので、例えば、アクチュエータ15aをシリンダやソレノイド等により構成する場合と比較して、荷重付与装置15の構造を簡素化すると共に小型化を図ることができる。また、荷重付与装置15の構造が複雑な場合には、荷重付与装置15が大型化し第1クラッチ10の大型化を招くところ、荷重付与装置15の構造を簡素化すると共に小型化を図ることができれば、第1クラッチ10の小型化を図ることができる。
ピニオン15bは、アクチュエータ15aの動力を保持器14に伝達するための部材であり、図3に示すように、保持器14の荷重伝達部14bと噛み合う歯車状に形成され、荷重伝達部14bとの間に歯車機構を構成している。このピニオン15bによりアクチュエータ15aの動力が保持器14に伝達されることで、保持器14を介して第1スプラグ13に荷重が付与される。このように、荷重付与装置15は、保持器14を介して第1スプラグ13に荷重を付与するので、複数の第1スプラグ13に一度に荷重を付与することができ、効率良く第1スプラグ13に荷重を付与することができる。
上述したように構成される荷重付与装置15によれば、リボンスプリング16の付勢力に抗して第1スプラグ13に荷重を付与することで、第1スプラグ13を反セルフロック方向へ傾動させて、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除することができる。これにより、モータ112から入力軸2、駆動歯車4a,5a,6a、被動歯車4b,5b,6bと伝達された動力が、第1クラッチ10の第1外輪12に入力されて、第1外輪12が第1スプラグ13に対して、第1内輪11との相対回転で第1内輪11側から見て、ロック方向(図5の矢印Ro方向)へ回転する場合でも、荷重付与装置15により第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除することで、被動歯車4b,5b,6bを空転させて、入力軸2から出力軸3への動力の伝達を遮断することができる。
次いで、図6から図7を参照して、上述したように構成される第1実施の形態における動力伝達装置1の作動状態について説明する。図6から図7は、動力伝達装置1の内部構造の正面視を模式的に示しており、理解を容易とするために、動力の伝達経路を矢印Pで示すと共に、駆動歯車4a,5a,6a、被動歯車4b,5b,6b及び第1クラッチ10の第1外輪12の各回転方向を矢印で示している。また、第1歯車対4,5,6において、第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させて、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を解除した場合を「ON」と表記し、第1クラッチ10の荷重付与装置15を非作動として、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が可能な場合を「OFF」と表記している。
まず、図6を参照して、車両100の前進時における動力伝達装置1の作動状態について説明する。図6(a)は加減速走行時(第1速)の動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図であり、図6(b)は加減速走行時(第2速)の動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図であり、図6(c)は加減速走行時(第3速)の動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図である。
図6に示すように、車両100の前進時には、モータ112(図2参照)が正回転することで入力軸2が正回転し、動力が駆動歯車4a,5a,6aに伝達され、駆動歯車4a,5a,6aと噛み合う被動歯車4b,5b,6bが回転する。入力軸2の回転速度はモータ112の回転速度によって定まる。また、被動歯車4bの回転速度をα1、被動歯車5bの回転速度をα2、被動歯車6bの回転速度をα3とすれば、入力軸2から出力軸3に動力が伝達された場合の回転速度α1,α2,α3は、入力軸2の回転速度によって一義的に定まり、第1歯車対4,5,6の変速比の関係から、α1<α2<α3となる。出力軸3の回転速度は、変速段に応じた回転速度となる。
図6(a)に示すように、第1速走行時は、第2速の被動歯車5b及び第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)させる。その結果、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が強制的に解除される。第1速の被動歯車4bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12がロック方向(図5の矢印Ro方向)へ回転すると、荷重付与装置15が非作動(OFF)のため、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合し、第1外輪12から第1内輪11に向かって動力が伝達される。その結果、第1速の被動歯車4bは出力軸3と共に回転し、出力軸3がα1の回転速度で回転する。この時、第2速及び第3速の被動歯車5b,6bの回転速度は、出力軸3の回転速度α1より速くなる(α1<α2<α3)。その結果、被動歯車5b,6bにおける第1外輪12は、第1内輪11との相対回転で第1内輪11側から見て、ロック方向(図5の矢印Ro方向)へ回転する。しかし、第2速及び第3速における第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動(ON)させているため、被動歯車5b,6bは出力軸3を空転し動力は伝達されない。
次に、第1速走行の状態から、第2速へシフトアップ変速を行うときは、図6(b)に示すように、第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)の作動を停止(OFF)する。その結果、第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10においても、第1速の被動歯車4bの第1クラッチ10と同様に、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合可能な状態となる。
ここで、第2速の被動歯車5bの回転速度α2は、第1速の被動歯車4bの回転速度α1より速いため(α1<α2)、第2速の被動歯車5bの回転速度α2が、出力軸3の回転速度(α1)を超えることになる。よって、第2速の被動歯車5bにおける第1クラッチ10では、第1内輪11との相対回転で第1内輪11側から見て、第1外輪12がロック方向へ回転し、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第1外輪12から第1内輪11に向かって動力が伝達され、第2速の被動歯車5bは出力軸3と共に回転し、出力軸3がα2の回転速度で回転する。
一方、第1速の被動歯車4bの回転速度(α1)は、出力軸3の回転速度(α2)より遅くなる(α1<α2)。このため、第1速の被動歯車4bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12の回転速度が第1内輪11の回転速度よりも遅くなり、相対的に第1内輪11がフリー方向へ回転している状態と等しくなる。よって、第1速の被動歯車4bの第1クラッチ10では、第1スプラグ13は第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。この結果、第1速の被動歯車4bは出力軸3を空転し動力は伝達されない。さらに、第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10は荷重付与装置15を作動(ON)しているので、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が強制的に解除され、第3速の被動歯車6bは出力軸3を空転し動力は伝達されない。このように、第1速走行の状態から、第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10の荷重付与装置15の作動を停止するだけで、第2速へシフトアップ変速を行うことができる。
次に、第2速走行の状態から、第3速へシフトアップ変速を行うときは、図6(c)に示すように、第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)の作動を停止(OFF)する。その結果、第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10においても、第1速および第2速の被動歯車4b,5bの第1クラッチ10と同様に、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合可能な状態となる。
ここで、第3速の被動歯車6bの回転速度(α3)は、第2速の被動歯車5bの回転速度(α2)より速いため(α2<α3)、第3速の被動歯車6bの回転速度(α3)が、出力軸3の回転速度(α2)を超えることになる。よって、第3速の被動歯車6bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12が、第1内輪11との相対回転で第1内輪11側から見て、ロック方向へ回転し、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第1外輪12から第1内輪11に向かって動力が伝達され、第3速の被動歯車6bは出力軸3と共に回転し、出力軸3がα3の回転速度で回転する。
一方、第2速の被動歯車5bの回転速度(α2)は、出力軸3の回転速度(α3)より遅くなる(α2<α3)。このため、第2速の被動歯車5bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12の回転速度が第1内輪11の回転速度よりも遅くなり、相対的に第1内輪11がフリー方向へ回転している状態と等しくなる。よって、第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10では、第1スプラグ13は第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。この結果、第2速の被動歯車5bは出力軸3を空転し動力は伝達されない。
同様に、第1速の被動歯車4bの回転速度(α1)は、出力軸3の回転速度(α3)より遅い(α1<α3)。このため、第1速の被動歯車4bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12の回転速度が第1内輪11の回転速度よりも遅くなり、相対的に第1内輪11がフリー方向へ回転している状態と等しくなる。よって、第1速の被動歯車4bの第1クラッチ10においても、第1スプラグ13は第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。この結果、第1速の被動歯車4bは出力軸3を空転し動力は伝達されない。このように、第2速走行の状態から、第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)の作動を停止するだけで、第3速へシフトアップ変速を行うことができる。
以上のように、車両加速中のシフトアップ変速を行う場合には、高速段側の被動歯車における第1クラッチ10の荷重付与装置15の作動を停止するだけで、低速段側については何も操作することなく変速が可能となる。また、第1クラッチ10は、荷重付与装置15の作動を停止することにより、第1スプラグ13がセルフロック方向へ傾動し、瞬時に第1内輪11と第1外輪12との一定回転方向への相対回転が規制される。よって、切り替えに要する時間を短縮でき、素早い変速が可能となる。また、切り替えに要する時間を短縮できるため、動力を伝達しない状態から動力を伝達する状態になるまでの間に第1内輪11と第1外輪12とが空転することもなく、切り替え時の衝撃を防止することができる。さらに、第1クラッチ10の荷重付与装置15の作動と非作動と切り替えるだけで変速が可能となるため、複雑な噛合機構やシフトフォークなどが不要となり、重量低減や小型化を図ることができる。これにより、限られたスペース内に多数の第1歯車対を収装でき、例えば6速以上の多数段の動力伝達装置1もコンパクト化できる。
なお、車両加速中により強い駆動力を求める場合など、シフトダウン変速を行う場合も、シフトアップ変速の場合と同様に、第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)を用いることで変速が可能である。図6(c)に示す第3速走行の状態から、第2速へシフトダウン変速を行うときは、図6(b)に示すように、第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動(ON)させる。その結果、第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10において、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が解除されるため、第3速の被動歯車6bは出力軸3を空転し動力は伝達されなくなる。一方、第2速の被動歯車5bの回転速度は、第1速の被動歯車4bの回転速度より速いため、第2速の被動歯車5bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12がロック方向へ回転し、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第2速の被動歯車5bが出力軸3と共に回転することとなり、第3速走行の状態から第2速にシフトダウン変速できる。
次に、第2速走行の状態から第1速へシフトダウン変速を行うときは、図6(a)に示すように、第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)させる。その結果、第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10において、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12へのスプラグ13の係合が解除されるため、第2速の被動歯車5bは出力軸3を空転し動力は伝達されなくなる。その結果、第1速の被動歯車4bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12がロック方向へ回転し、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第1速の被動歯車4bが出力軸3と共に回転することとなり、第2速走行の状態から第1速にシフトダウン変速できる。
また、第3速走行の状態から、第2速を飛び越えて第1速へシフトダウン変速を行うことも可能である。この場合は、図6(c)に示す第3速走行の状態から、図6(a)に示すように、第3速の被動歯車6b及び第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)させる。その結果、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が解除されるため、第2速の被動歯車5b及び第3速の被動歯車6bは出力軸3を空転し、動力は伝達されなくなる。これに対し、第1速の被動歯車4bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12がロック方向へ回転し、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第1速の被動歯車4bが出力軸3と共に回転することとなり、第3速走行の状態から第1速にシフトダウン変速できる。
以上のように、シフトダウン変速を行う場合には、走行中の変速段の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させるだけで、低速段側については何も操作することなく変速が可能となる。また、同様の操作により、所定の変速段を飛び越えてシフトダウン変速を行うことも可能である。さらに、第1クラッチ10は、荷重付与装置15を作動させることにより、付勢部材16の付勢力に抗して第1スプラグ13に荷重が付与され、第1スプラグ13が反セルフロック方向へ傾動することで第1内輪11および第1外輪12への第1スプラグ13の係合が解除される。よって、切り替えに要する時間を短縮でき素早い変速が可能となる。
次いで、図7を参照して、アクセルペダルを操作しない車両100のコースト走行時(惰性走行時)における動力伝達装置1の作動状態について説明する。図7はコースト走行時(第3速)の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図である。図6(c)を参照しながら説明した第3速走行の状態において、アクセルペダルを操作しない車両100のコースト走行を行う場合は、図7に示すように、動力が出力軸3から動力伝達装置1に入力される。アクセルペダルを操作していないため、モータ112の回転数は下がり、入力軸2の回転は低下する。その結果、第1速、第2速および第3速の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10の第1内輪11(図5参照)が、第1外輪12との相対回転で第1外輪12側から見て、フリー方向(図5の反矢印Ri方向)へ回転する。このため、第1速、第2速および第3速の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10では、第1スプラグ13が反セルフロック方向へ傾動し、第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。よって、被動歯車4b,5b,6bは出力軸3を空転し入力軸2に動力は伝達されない。
以上のように、コースト走行時には、荷重付与装置15を作動しなくても出力軸3から入力軸2への動力の伝達が遮断される。これは、第1速走行(図6(a)参照)、第2速走行(図6(b)参照)の場合においても同様である。その結果、荷重付与装置15を作動させるという制御を行わなくても、モータ112の内部抵抗やイナーシャが出力軸3の駆動抵抗となることが防止され、出力軸3が制動されることを防止できる。よって、エネルギー損失を抑制して、コースト走行時の走行距離が短くなることを防止できる。
次いで、図8を参照して、第2実施の形態における動力伝達装置20について説明する。図8(a)は動力伝達装置20の内部構造を模式的に示した模式図であり、図8(b)は第2クラッチ22の内部構造の一部を模式的に示した模式図である。以下、第1実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。なお、図8では、理解を容易とするために、動力を伝達する機能を担う構成のみを図示している。
動力伝達装置20は、車両100(図1参照)に搭載される動力伝達装置1に代えて、車両100に搭載されている。また、図8(a)に示すように、モータ112の動力が入力される入力軸2と、その入力軸2に平行に配設された出力軸3と、その出力軸3および入力軸2に配設され互いに噛み合って異なる変速比となるように設定された複数の第1歯車対4,5,6とを備えている。これらの構成は、第1実施の形態において説明したものと同様である。第2実施の形態における動力伝達装置20は、さらに、入力軸2および出力軸3に配設され互いに噛み合う第2歯車対21を備えて構成されている。
第2歯車対21を構成する駆動歯車21aは、第2クラッチ22を介して入力軸2に固定されている。一方、駆動歯車21aに対向して噛み合う被動歯車21bは、出力軸3と一体に形成されている。また、第2歯車対21の被動歯車21bの歯数は、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6bの内の最小歯数(本実施の形態においては被動歯車6bの歯数)より小さくなるように形成されている。このため、入力軸2から出力軸3に動力が伝達された場合、被動歯車4b,5b,6bの回転速度α1,α2,α3及び被動歯車21bの回転速度α4は、入力軸2の回転速度によって一義的に定まり、変速比の関係からα1<α2<α3<α4となる。また、出力軸3の回転速度は変速段に応じた回転速度となる。なお、第1歯車対4,5,6及び第2歯車対21の変速比(被動歯車の歯数÷駆動歯車の歯数)を順にk1,k2,k3,k4とすると、変速比はk1>k2>k3>k4の関係となる。
第2クラッチ22は、出力軸3から入力軸2へ動力を伝達する一方、入力軸2から出力軸3への動力の伝達を遮断するものであり、出力軸3から入力軸2への動力の伝達を遮断可能に構成されている。なお、第2クラッチ22は第1クラッチ10と同様に構成されているため、詳細な説明を省略する。また、第1クラッチ10と同一の部分については同一の符号を用いて以下説明する。
第2クラッチ22は、第2内輪221(図8(b)参照)が入力軸2と一体に形成されており、第2外輪222は第2歯車対21の駆動歯車21aと一体に形成されている。また、第2クラッチ22は、第2外輪222の内周面222aと第2内輪221の外周面221aとに接する第2スプラグ223を備えている。この第2クラッチ22によれば、動力が入力軸2から入力され、第2内輪221が第2スプラグ223に対して、第2外輪222との相対回転で第2外輪222側から見て、図8(b)の反矢印Ri方向(フリー方向)に回転する場合には、第2内輪221及び第2外輪222への第2スプラグ223の係合が解除される。その結果、入力軸2は駆動歯車21aを空転し、入力軸2から出力軸3への動力の伝達が遮断される。また、第2内輪221が第2スプラグ223に対して、第2外輪222との相対回転で第2外輪222側から見て、図8(b)の矢印Ri方向(ロック方向)に回転する場合には、第2内輪221及び第2外輪222へ第2スプラグ223が係合する。その結果、駆動歯車21aは入力軸2と共に回転し、入力軸2から出力軸3へ動力が伝達される。
一方、動力が出力軸3から、被動歯車21bを介して第2クラッチ22に入力されると、第2外輪222が第2スプラグ223に対して図8(b)の矢印Ro方向(ロック方向)に回転し、第2内輪221及び第2外輪222へ第2スプラグ223が係合する。その結果、駆動歯車21aは入力軸2と共に回転し、出力軸3から入力軸2へ動力が伝達される。また、第2外輪222が第2スプラグ223に対して、第2内輪221との相対回転で第2内輪221側から見て、図8(b)の反矢印Ro方向(フリー方向)に回転する場合には、第2内輪221及び第2外輪222への第2スプラグ223の係合が解除される。その結果、入力軸2は駆動歯車21aを空転し、出力軸3から入力軸2への動力の伝達が遮断される。
なお、第2クラッチ22は、第1クラッチ10と同様に荷重付与装置(図示しない)を備えている。第2クラッチ22の荷重付与装置15(図4参照)を作動させることで、リボンスプリング16の付勢力に抗して第2スプラグ223に荷重を付与し、第2スプラグ223を反セルフロック方向へ傾動させて、第2内輪221及び第2外輪222への第2スプラグ223の係合を強制的に解除できる。これにより、出力軸3から被動歯車21b及び駆動歯車21aを介して、第2クラッチ22に伝達された動力が第2外輪222に入力されて、第2外輪222が第2スプラグ223に対してロック方向(図8(b)の矢印Ro方向)へ回転する場合でも、荷重付与装置15により第2内輪221及び第2外輪222への第2スプラグ223の係合を強制的に解除することで、駆動被動歯車21aを空転させて、出力軸3から入力軸2への動力の伝達を遮断することができる。
次いで、図9から図10を参照して、上述したように構成される第2実施の形態における動力伝達装置20の作動状態について説明する。図9から図10は、動力伝達装置20の内部構造の正面視を模式的に示している。ここで、図9および図10では、理解を容易とするために、動力の伝達経路を矢印Pで示すと共に、駆動歯車4a,5a,6a,21a、被動歯車4b,5b,6b,21b及び第1クラッチ10及び第2クラッチ22の外輪12の各回転方向を矢印で示している。また、第1歯車対4,5,6及び第2歯車対21において、第1クラッチ10及び第2クラッチ22の荷重付与装置15(図4参照)を作動させて、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合、第2内輪221及び第2外輪222への第2スプラグ223の係合を解除した場合を「ON」と表記する。第1クラッチ10及び第2クラッチの荷重付与装置15を非作動として、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合、第2内輪221及び第2外輪222への第2スプラグ223の係合が可能な場合を「OFF」と表記している。
まず、図9を参照して、車両100の前進時における動力伝達装置20の作動状態について説明する。図9(a)は加速走行時(第3速)の動力伝達装置20の内部構造を模式的に示した模式図であり、図9(b)はコースト走行時(第3速)に出力軸3から入力軸2に動力を伝達する動力伝達装置20の内部構造を模式的に示した模式図であり、図9(c)はコースト走行時(第3速)に出力軸3から入力軸2への動力の伝達を遮断した動力伝達装置20の内部構造を模式的に示した模式図である。
図9(a)に示すように、加速走行時(第3速)は、第1実施の形態で説明したように、第1速〜第3速の被動歯車4b,5b,6b(被動歯車の回転方向は図9において時計回り)の第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)の作動を停止する(OFF)。第3速の被動歯車6bの回転速度(α3)は、第1速および第2速の被動歯車4b,5bの回転速度(α1,α2)より速いため(α1<α2<α3)、第3速の被動歯車6bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12が第1内輪11との相対回転でロック方向(図5の矢印Ro方向)に回転し、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第1外輪12から第1内輪11に向かって動力が伝達され、第3速の被動歯車6bは出力軸3と共に回転し、出力軸3がα3の回転速度で回転する。
一方で、この場合には、出力軸3から被動歯車21bを介して、駆動歯車21aが回転速度α4で回転する。本実施の形態においては、第2歯車対21の変速比(被動歯車の歯数÷駆動歯車の歯数)k4が、第1歯車対6の変速比k3より小さく設定されているので、第2歯車対21の駆動歯車21aの回転速度(α4=α3・k4=k4/k3・α)は、入力軸2の回転速度(α)より小さくなる。このため、第2クラッチ22では、第2外輪222(図8(b)参照)の回転速度α4が第2内輪221の回転速度αよりも遅くなり、相対的に第2外輪222がフリー方向へ回転している状態と等しくなる。よって、第2クラッチ22では、第2スプラグ223は第2内輪221及び第2外輪222へ係合できない。従って、第2クラッチ22の荷重付与装置15を作動しなくても、動力伝達装置20は、第2歯車対21に影響されることなく、第3速の走行状態(出力軸3の回転速度α3)となる。
なお、第2歯車対21の変速比k4を、第1歯車対6の変速比k3より大きくなるように設定した場合は、駆動歯車21aの回転速度(α4=k4/k3・α)は、入力軸2の回転速度(α)より大きくなる。このため、第2クラッチ22では、第2外輪222の回転速度α4が第2内輪221の回転速度αよりも速くなり、相対的に第2外輪222がロック方向へ回転している状態と等しくなる。この場合には、第2クラッチ22の荷重付与装置15を作動させることにより(ON)、第2スプラグ223を強制的に反セルフロック方向へ傾動させ、第2内輪221及び第2外輪222へ係合できなくする。その結果、上述の場合と同様に、第2歯車対21に影響されることなく、第3速の走行状態(出力軸3の回転速度α3)が得られる。
次に、第3速走行の状態でコースト走行を行う場合は、図9(b)に示すように、動力が出力軸3から入力軸2へと入力される。その結果、出力軸3から第2歯車対21の被動歯車21bを介して駆動歯車21aが駆動される。即ち、第2クラッチ22の第2外輪222(図8(b)参照)に動力が伝達される(回転速度α4)。一方、第2クラッチ22の第2内輪221は入力軸2からの駆動力が無い状態なので、その回転速度は、駆動歯車21aの回転速度α4より遅くなる。その結果、第2クラッチ22の第2外輪222が、第2内輪221との相対回転で第2内輪221側から見て、ロック方向(図8(b)の矢印Ro方向)に回転する。第2クラッチ22の荷重付与装置15を作動させない場合には(OFF)、第2外輪222及び第2内輪221へスプラグ13が係合する。その結果、第2クラッチ22の第2外輪222から第2内輪221に向かって動力が伝達され、第2歯車対21の駆動歯車21aは入力軸2と共に回転する(回転速度α4)。第2歯車対21の変速比がk4であり、第2歯車対21の被動歯車21bの回転速度がα3であるから、第2歯車対21の駆動歯車21aの回転速度α4はk4・α3である。第2歯車対21の駆動歯車21aの回転につれて入力軸2が回転し、第1歯車対4,5,6の駆動歯車4a,5a,6aも回転する(回転速度α4=k4・α3)。
この結果、第1歯車対4,5,6の駆動歯車4a,5a,6aと噛み合う被動歯車4b,5b,6bに動力が伝達され、被動歯車4b,5b,6bは各々の変速比に応じた速度で回転する。被動歯車4bの回転速度β1はk4/k1・α3であり、被動歯車5bの回転速度β2はk4/k2・α3であり、被動歯車6bの回転速度β3はk4/k3・α3である。k1>k2>k3>k4であるから、被動歯車4b,5b,6bの回転速度β1,β2,β3は、いずれもα3より小さくなる。
一方、出力軸3の回転速度はα3であるため、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6bの第1クラッチ10(図5参照)では、第1内輪11がα3の速度で回転する。このため、第1クラッチ10では、第1内輪11の回転速度が第1外輪12の回転速度(β1=k4/k1・α3)よりも速くなり、相対的に第1内輪11がフリー方向(図5の反矢印Ri方向)へ回転している状態と等しくなる。よって、第1クラッチ10では、第1スプラグ13は第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。従って、第2クラッチ22の荷重付与装置15を作動させない場合(OFF)、動力伝達装置20(図8(a)参照)は、第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させなくても、第1歯車対4,5,6に影響されることなく、出力軸3からの動力を入力軸2へ第2歯車対21を介して伝達できる。これにより、車両100のコースト走行時には、出力軸3から入力される動力によりモータ112を発電機として機能させて、モータ112により発電した電力を電源に回生することができる。これにより、省エネルギー化を図ることができる。また、モータ112の内部抵抗やイナーシャが出力軸3の駆動抵抗となるため、出力軸3を制動できる(エンジンブレーキ)。
これに対し、モータ112の内部抵抗やイナーシャが出力軸3の駆動抵抗となるのを防ぐ場合には、図9(c)に示すように、第2クラッチ22の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)させる。出力軸3から動力が動力伝達装置20(図8(a)参照)に入力されると、第2クラッチ22の第2外輪222(図8(b)参照)が、第2内輪221との相対回転で第2内輪221側から見て、ロック方向(図8(b)の矢印Ro方向)に回転するが、第2クラッチ22の荷重付与装置15を作動(ON)させることにより、第2スプラグ223が強制的に反セルフロック方向へ傾動され、第2外輪222及び第2内輪221へ係合できない。よって、駆動歯車21aは入力軸2を空転し入力軸2に動力は伝達されない。
また、第1速、第2速および第3速の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10の第1内輪11(図5参照)は、第1外輪12との相対回転でフリー方向(図5の反矢印Ri方向)へ回転する。このため、第1速、第2速および第3速の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10では、第1スプラグ13が反セルフロック方向へ傾動し、第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。よって、被動歯車4b,5b,6bは出力軸3を空転し、入力軸2に動力は伝達されない。これにより、エネルギー損失を抑制して、コースト走行における走行距離が短くなることを防止できる。
以上のように、コースト走行時に、第2クラッチ22の荷重付与装置15の作動と非作動とを切り替えることにより、エネルギー損失を抑制して走行距離を伸ばすか、或いは出力軸3の制動および電力の回生を図るか、いずれを優先するかを選択できる。
次いで、図10を参照して、車両100の登坂停止時における動力伝達装置20の作動状態について説明する。図10(a)は第2実施の形態における動力伝達装置20において車両100が登坂停止している場合の動力伝達装置20の内部構造を模式的に示した模式図であり、図10(b)は車両100が登坂停止した状態から前進する場合の動力伝達装置20の内部構造を模式的に示した模式図である。
車両100が登坂停止している場合は、車両100は重力により坂を後進しようとするため、前輪101は前進の回転に対して逆回転しようとする。この結果、図10(a)に示すように、前輪101から動力伝達装置20の出力軸3を逆回転させようとする逆動力が入力される。この逆動力により、出力軸3から被動歯車21bを介して、駆動歯車21aは逆回転(図10(a)時計回りに回転)しようとする。これにより、第2歯車対21の第2クラッチ22の第2外輪222(図8(b)参照)は逆回転しようとする。また、第1歯車対4,5,6の第1クラッチ10の第1内輪11(図5参照)も、それぞれ逆回転(図10(a)反時計回りに回転)しようとする。この逆動力による出力軸3の回転速度(回転した場合の仮想値)をγとする。
この逆動力により、第1歯車対4,5,6においては、第1クラッチ10の第1内輪11が、第1外輪12との相対回転でロック方向(図5の矢印Ri方向)に回転しようとするので、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第1クラッチ10の第1内輪11から第1外輪12に向かって動力が伝達され、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6bは出力軸3と共に回転しようとする(回転速度γ)。この結果、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6bと噛み合う駆動歯車4a,5a,6aに動力が伝達される。
ここで、第1歯車対4,5,6及び第2歯車対21の変速比(被動歯車の歯数÷駆動歯車の歯数)は、上述のとおり、順にk1,k2,k3,k4(但し、k1>k2>k3>k4)なので、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6bの回転速度がγのときは、駆動歯車4aの回転速度はk1・γ、駆動歯車5aの回転速度はk2・γ、駆動歯車6aの回転速度はk3・γとなる(駆動歯車4a,5a,6aの回転方向は図10(a)時計回り)。駆動歯車4a,5a,6aの回転により、入力軸2は回転速度k1・γ(或いはk2・γ又はk3・γ)で回転しようとする。この結果、入力軸2に連結する第2歯車対21の第2クラッチ22の第2内輪221(図8(b)参照)は、回転速度k1・γ(或いはk2・γ又はk3・γ)でロック方向(図8(b)の矢印Ri方向)に回転する。一方、駆動歯車21aには、噛み合う被動歯車21bから回転速度k4・γとなる動力が入力されるため、第2クラッチ22の第2外輪222は回転速度k4・γでフリー方向(図8(b)の反矢印Ro方向)に回転する。
ここで、k1>k2>k3>k4のため、第2クラッチ22の第2内輪221の回転速度k1・γ(或いはk2・γ又はk3・γ)は、第2クラッチ22の第2外輪222の回転速度k4・γより速くなる。このため、第2クラッチ22では、第2外輪222の回転速度が第2内輪221の回転速度よりも遅くなり、第2内輪221が、第2外輪222との相対回転で第2外輪222側から見て、ロック方向(図8(b)の矢印Ri方向)へ回転している状態と等しくなる。よって、第2クラッチ22では、第2スプラグ223が第2内輪221及び第2外輪222へ係合し、第2歯車対21の駆動歯車21aは入力軸2と共に回転しようとする。
しかし、上述のように、互いに噛み合う駆動歯車21aと被動歯車21bとの間に回転速度差があるため、第1歯車対4,5,6と第2歯車対21とは二重噛み合いとなる。よって、車両100が登坂停止している場合に、サイドブレーキを作動させたり必要な駆動力が得られたりするようにモータ112を制御しなくとも、車両100の後進を防止できる。
登坂停止した車両100を前進させる場合は、図10(b)に示すように、まず、第2速および第3速の第1歯車対5,6の被動歯車5b,6bにおける第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)させる。この状態においても、第1歯車対4(第1速)の変速比は第2歯車対21の変速比より大きいため、上述のとおり、第1歯車対4と第2歯車対21とを二重噛み合いさせることができ、サイドブレーキを作動させなくても車両100は後進しない。
次いで、モータ112(図8(a)参照)の正回転(前進側)の動力を入力軸2に伝達すると、第2速の被動歯車5b及び第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)しているため、被動歯車5b,6bの第1クラッチ10では、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が解除される。この結果、第2速及び第3速の被動歯車5b,6bは出力軸3を空転し動力は伝達されない。これに対し、第1速の被動歯車4bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12がロック方向(図5の矢印Ro方向)へ回転すると、荷重付与装置15(図4参照)が非作動(OFF)のため、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合し、第1外輪12から第1内輪11に向かって動力が伝達される。その結果、第1速の被動歯車4bは出力軸3と共に回転し、出力軸3が回転する。入力軸2の回転速度をαとすると、出力軸3の回転速度はα/k1となる。
一方で、この場合には、出力軸3から第2歯車対21の被動歯車21bを介して、第2歯車対21の駆動歯車21aに動力が伝達される。その結果、第2歯車対21の駆動歯車21aの回転速度は、k4/k1・αとなる(回転方向は図10(b)反時計回り)。これにより、第2クラッチ22(図8(b)参照)の第2内輪221の回転速度はαとなり、第2クラッチ22の第2外輪222の回転速度はk4/k1・αとなる。k1>k4より、第2クラッチ22では、第2外輪222との相対回転で第2外輪222側から見て、第2内輪221の回転速度が第2外輪222の回転速度より速くなり、相対的に第2内輪221がフリー方向(図8(b)の反矢印Ri方向)へ回転している状態と等しくなる。よって、第2クラッチ22では、第2スプラグ223は第2内輪221及び第2外輪222へ係合できない。従って、第2クラッチ22の荷重付与装置15を作動しなくても、動力伝達装置20は、第2歯車対21に影響されることなく第1速の走行状態(出力軸3の回転速度α/k1)となり、車両100は発進する。以上のように、車両100が登坂停止した状態から前進する場合には、後進しないようにサイドブレーキを作動する等の煩雑な操作を行うことなく、モータ112を駆動するのみで発進することができる。
なお、車両100の発進の際、本実施の形態においては、第2速および第3速の第1歯車対5,6の被動歯車5b,6bにおける第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させ、第1速の第1歯車対4を用いて動力を伝達する場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。第2歯車対21より大きな変速比の第1歯車対(5又は6)を選択して動力伝達可能な状態にすれば、第1速の第1歯車対4を用いる場合と比較してトルクは低下するが、発進は可能である。
次いで、図11を参照して、本発明の第3実施の形態における動力伝達装置について説明する。上記第2実施の形態においては、動力伝達装置が前輪駆動の車両100に搭載され、第2クラッチ22が入力軸2に配設されており、第2クラッチ22の第2外輪222が駆動歯車21aと一体に形成された場合について説明した。これに対し第3実施の形態では、動力伝達装置30は後輪駆動の車両200に搭載されている。さらに、第2クラッチ34が出力軸31,32に配設されており、第2クラッチ34が被動歯車33bと別設されている場合について説明する。
図11(a)は本発明の第3実施の形態における動力伝達装置30が搭載される車両200を模式的に示した模式図であり、図11(b)は第3実施の形態における動力伝達装置30を模式的に示した模式図である。なお、図11(a)の矢印F−B,L−Rは、車両200の前後方向、左右方向をそれぞれ示している。
まず、車両200の概略構成について説明する。車両200は、図11(a)に示すように、後輪102(左の後輪102FL及び右の後輪102FR)を駆動するリアユニット120を備えている。リアユニット120は、動力源としてのエンジン111及びモータ112と、それらエンジン111及びモータ112の動力を後輪102に伝達する動力伝達装置30とを主に備えており、動力伝達装置30の出力軸31に伝達された動力がデファレンシャル装置を介して左右の後輪102に伝達されるよう構成されている。なお、エンジン111及びモータ112の2つの動力を使い分けて後輪102を駆動可能に構成されているが、エンジン111又はモータ112のいずれか片方で構成されている場合もある。エンジン111、モータ112のいずれも動力源とすることが可能である。なお、以下の実施の形態においては、入力軸2にエンジン111の駆動力を伝達する場合について説明するが、エンジン111に代えてモータ112の駆動力を伝達することや、エンジン111及びモータ112の駆動力を伝達することも当然可能である。
次いで、図11(b)を参照して、動力伝達装置30の詳細構成について説明する。図11(b)は、動力伝達装置30の内部構造を模式的に示した模式図である。以下、第2実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。なお、図11(b)では、理解を容易とするために、動力を伝達する機能を担う構成のみを図示している。
動力伝達装置30は、エンジン111の動力が入力される入力軸2と、その入力軸2と平行に配設された出力軸31,32と、その出力軸31及び入力軸2に配設され互いに噛み合って異なる変速比となるように設定された複数の第1歯車対4,5,6と、出力軸32及び入力軸2に配設された第2歯車対33とを主に備えて構成されている。出力軸31,32は、第2クラッチ34を介して同軸に連結されている。また、第1歯車対4,5,6に配設された第1クラッチ10の第1内輪11は、出力軸31と一体に形成されている。以上のように構成された動力伝達装置30は、出力軸31に伝達された動力が動力伝達装置30の外部に出力され、後輪102に伝達されるように構成されている。
第2歯車対33は、入力軸2に配設され入力軸2から伝達される動力により駆動される駆動歯車33aと、出力軸32に配設され駆動歯車33aにより従動駆動される被動歯車33bとを備えている。第2歯車対33の被動歯車33bは、その歯数が、第1歯車対4,5,6の内の最小歯数(本実施の形態においては、第1歯車対6の被動歯車6bの歯数)より小さくなるように構成されている。従って、第2歯車対33の変速比(被動歯車33bの歯数÷駆動歯車33aの歯数。k5とする。)は、第1歯車対4,5,6の変速比(順にk1,k2,k3)の内の最小の変速比(本実施の形態においては、第1歯車対6の変速比k3)より小さい。
第2クラッチ34は、出力軸31,32から入力軸2へ動力を遮断可能に伝達する一方、入力軸2から出力軸31,32への動力の伝達を遮断するように構成されている。なお、第2クラッチ34は第1クラッチ10(図5参照)と同様に構成されているため、詳細な説明を省略する。また、第1クラッチ10と同一の部分については同一の符号を用いて以下説明する。
第2クラッチ34は第2歯車対33の被動歯車33bと別設されている。第2クラッチ34の第2内輪341は出力軸32と一体に形成されているが、第2クラッチ34の第2外輪342は、側端縁が外輪連結部34aと連結されており、外輪連結部34aを介して出力軸31と連結されている。第2内輪341と第2外輪342とに接して第2スプラグ343が配設されている。
以上のように構成された第3実施の形態における動力伝達装置30は、第2実施の形態で説明したように、加速走行時(第3速)においては、第1速〜第3速の被動歯車4b,5b,6bの第1クラッチ10(図5参照)の荷重付与装置15(図4参照)の作動を停止する。これにより、入力軸2の回転速度をαとすれば、第3速の第1歯車対6を介して、出力軸31が回転速度α/k3で回転する。一方で、この場合には、出力軸31と連結する外輪連結部34aも回転速度α/k3で回転し、それに伴い第2クラッチ34の第2外輪342も回転する(回転速度α/k3)。
また、第2歯車対33の被動歯車33bは、駆動歯車33aの回転(回転速度α)に伴い回転速度α/k5で回転する。その結果、被動歯車33bが配設された出力軸32が回転し、出力軸32に連結する第2クラッチ34の第2内輪341も回転する(回転速度α/k5)。k3>k5のため、第2クラッチ34では、第2内輪341の回転速度(α/k5)が第2外輪342の回転速度(α/k3)よりも速くなり、第2外輪342との相対回転で第2外輪342側から見て、第2内輪341がフリー方向(図5に示す反矢印Ri方向)へ回転している状態と等しくなる。よって、第2クラッチ34では、第2スプラグ343は第2内輪341及び第2外輪342へ係合できない。従って、第2クラッチ34の荷重付与装置15を作動しなくても、動力伝達装置30は、第2歯車対33に影響されることなく、第3速の走行状態(出力軸31の回転速度α/k3)となる。
なお、第2歯車対33の変速比k5を、第1歯車対6の変速比k3より大きくなるように設定した場合は、被動歯車33bの回転速度(α/k5)は出力軸31の回転速度(α/k3)より小さくなる。この場合、第2クラッチ34では、第2外輪342の回転速度(α/k3)が第2内輪341の回転速度(α/k5)よりも速くなり、相対的に第2外輪342がロック方向(図5に示す矢印Ro方向)へ回転している状態と等しくなる。この場合には、第2クラッチ34の荷重付与装置15を作動させることにより、第2スプラグ343を強制的に反セルフロック方向へ傾動させ、第2内輪341及び第2外輪342へ係合できなくする。その結果、上述の場合と同様に、動力伝達装置30は第2歯車対33に影響されることなく、第3速の走行状態(出力軸31の回転速度α/k3)が得られる。
次に、第3速走行の状態(出力軸31の回転速度α/k3)でコースト走行を行う場合は、第2実施の形態の場合と同様に、動力が出力軸31から入力される。出力軸31の回転速度はα/k3であるから、外輪連結部34aを介して、動力が第2クラッチ34の第2外輪342に伝達され、その第2外輪342の回転速度はα/k3となる。
一方、第2クラッチ34の第2内輪341は、第2歯車対33を介して入力軸2からの駆動力が無い状態なので、その回転速度は第2外輪342の回転速度α/k3より遅くなる。その結果、第2クラッチ34の第2外輪342が、第2内輪341との相対回転で第2内輪341側から見て、ロック方向(図5の矢印Ro方向)に回転する。第2クラッチ34の荷重付与装置15を非作動(OFF)とする場合には、第2外輪342及び第2内輪341へ第2スプラグ343が係合する。その結果、第2クラッチ34の第2外輪342から第2内輪341に向かって動力が伝達され、第2歯車対33の被動歯車33bは出力軸32と共に回転する(回転速度α/k3)。第2歯車対33の変速比がk5であるから、第2歯車対33の駆動歯車33aの回転速度はα/k3・k5である。第2歯車対33の駆動歯車33aの回転につれて入力軸2が回転し(回転速度α/k3・k5)、第1歯車対4,5,6の駆動歯車4a,5a,6aも回転する(回転速度α/k3・k5)。
この結果、第1歯車対4,5,6の駆動歯車4a,5a,6aと噛み合う被動歯車4b,5b,6bに動力が伝達され、被動歯車4b,5b,6bは各々の変速比に応じた速度で回転する。被動歯車4bの回転速度はα/k3・k5/k1であり、被動歯車5bの回転速度はα/k3・k5/k2であり、被動歯車6bの回転速度はα/k3・k5/k3である。k1>k2>k3>k5であるから、被動歯車4b,5b,6bの回転速度は、いずれも出力軸31の回転速度α/k3より小さくなる。
ここで、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6bの第1クラッチ10(図5参照)では、第1内輪11が、出力軸31と同じα/k3の速度で回転する。一方、上述のとおり、被動歯車4b,5b,6bの回転速度は、いずれも出力軸31の回転速度α/k3より小さいため、各第1クラッチ10の第1外輪12の回転速度も、第1内輪11の回転速度より遅くなる。このため、第1クラッチ10では、第1内輪11の回転速度が第1外輪12の回転速度よりも速くなり、相対的に第1内輪11がフリー方向(図5の反矢印Ri方向)へ回転している状態と等しくなる。よって、第1クラッチ10では、第1スプラグ13は第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。
従って、第2クラッチ34の荷重付与装置15を非作動(OFF)とする場合、動力伝達装置30は、第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させなくても、第1歯車対4,5,6に影響されることなく、動力を出力軸31から第2歯車対33を介して入力軸2へ伝達できる。これにより、車両200のコースト走行時には、出力軸31から入力軸2に動力が入力され、エンジン111が出力軸31の駆動抵抗となるため、出力軸3を制動できる(エンジンブレーキ)。
これに対し、エンジン111が出力軸31の駆動抵抗となるのを防ぐ場合には、第2実施の形態において説明したように、第2クラッチ34の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)させる。これにより、第2クラッチ34の第2スプラグ343が強制的に反セルフロック方向へ傾動され、第2外輪342及び第2内輪341へ係合できなくなる。よって、第2クラッチ34は出力軸32を空転し、入力軸2に動力は伝達されない。また、第1速、第2速および第3速の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10の第1内輪11(図4参照)は、第1外輪12との相対回転でフリー方向(図5の反矢印Ri方向)へ回転する。このため、第1速、第2速および第3速の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10では、第1スプラグ13が反セルフロック方向へ傾動し、第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。よって、被動歯車4b,5b,6bは出力軸31を空転し入力軸2に動力は伝達されない。これにより、エネルギー損失を抑制して、コースト走行における走行距離が短くなることを防止できる。
以上のように、コースト走行時に、荷重付与装置15の作動と非作動とを切り替えることにより、エネルギー損失を抑制して走行距離を伸ばすか、或いは出力軸31の制動を図るか、いずれを優先するかを選択できる。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
上記各実施の形態では、動力伝達装置1,20,30が車両100のフロントユニット110や車両200のリアユニット120に組み込まれる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、他の車両(機関車、旅客車、貨物車および特殊車など)の走行装置、作業装置および工作機械などの動力伝達装置に組み込むことは当然可能である。
上記各実施の形態では、荷重付与装置15(アクチュエータ15a)が電動機(交流電動機または直流電動機)により構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の動力源を採用することは当然可能である。他の動力源としては、例えば、直流電動機、油圧モータ、空気圧シリンダ、油圧シリンダ、交流ソレノイド及び直流ソレノイド等が例示される。
ここで、アクチュエータ15aをソレノイドにより構成する場合には、歯車機構などによりスプラグ13に荷重を付与する場合に限られず、例えば、電磁力を利用してスプラグ13に荷重を付与するように構成しても良い。
上記第2実施の形態では、第2歯車対21が、第1歯車対6の隣に配設された場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、第1歯車対4の隣、第1歯車対4,5の間、第1歯車対5,6の間など、任意の位置に配設することが可能である。
上記各実施の形態では、第1クラッチ10を出力軸3に設けた場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、入力軸2に設けることも当然可能である。また、上記第2実施の形態においては、第2クラッチ22を入力軸2に設けた場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、出力軸3に設けることは当然可能である。
また、上記第3実施の形態においては、第2クラッチ34を出力軸32に設けた場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、入力軸2に設けることは当然可能である。この場合には、入力軸2と同軸に形成された入力軸を別途設け、その入力軸(以下「新入力軸」と称す)に第2歯車対33の駆動歯車33aを配設し、第1歯車対6の駆動歯車6aと並設する。新入力軸と入力軸2とを第2クラッチ34を介して連結する。第2クラッチ34の内輪11を入力軸2と一体に形成し、新入力軸に外輪連結部34aを連結させる。この場合も第3実施の形態における動力伝達装置30と同様に、コースト走行時に、荷重付与装置15の作動と非作動とを切り替えることにより、エネルギー損失を抑制して走行距離を伸ばすか、或いは出力軸31の制動を図るか、いずれを優先するかを選択できる。
上記各実施の形態では、第2クラッチ22,34が、スプラグの係合解除機能付きのスプラグ型ワンウェイクラッチを備えて構成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他のワンウェイクラッチやツーウェイクラッチを用いることは可能である。他のワンウェイクラッチとしては、例えば、スプラグの係合解除機能を有していない通常のスプラグ型ワンウェイクラッチ等が例示される。ツーウェイクラッチとしては、例えば、特開2007−298145号公報に開示されるもの等が例示される。
上記第1実施の形態では説明を省略したが、第1速走行の状態から第2速走行の状態へシフトアップ変速を行った後に、第1速の第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させて第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除しても良い。同様に、第2速走行の状態から第3速走行の状態へシフトアップ変速を行った後に、第2速の第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させて第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除しても良い。同様に、車両100のコースト走行時に、第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させて各第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除しても良い。
上記第2実施の形態では説明を省略したが、車両100の加速走行時(第3速)、第1速および第2速の第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させて第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除しても良い。同様に、車両100のコースト走行時に、第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させて第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除しても良い。これは、第3実施の形態の場合も同様である。
1,20,30 動力伝達装置
2 入力軸
3,31,32 出力軸
4,5,6 第1歯車対
10 第1クラッチ
11 第1内輪
11a 外周面
12 第1外輪
12a 内周面
13 第1スプラグ
13a,13b 係合面
14 保持器
15 荷重付与装置
16 リボンスプリング(付勢部材)
21,33 第2歯車対
22,34 第2クラッチ
221,341 第2内輪
222,342 第2外輪
223,343 第2スプラグ
111 エンジン(動力源)
112 モータ(動力源)
A,B 接点
O 軸心
本発明は、動力伝達装置に関し、特に、一定方向への回転の伝達および遮断の切り替えを素早く行うと共に切り替え時の衝撃を防止することができ、さらに特別な制御を行わなくても、惰性運動時の出力量が減少することを防止できる動力伝達装置に関するものである。
従来、動力源からの動力を伝達する動力伝達装置として、例えば、特許文献1には、入力軸と、入力軸に平行な出力軸と、入力軸および出力軸に配設され互いに常時噛み合って異なる変速比となるように設定された複数の歯車対と、歯車対のそれぞれ一方の歯車に設けられたツーウェイクラッチと、を備えるものが開示されている。
特許文献1に開示される動力伝達装置では、ツーウェイクラッチは、外周面が断面多角形状の内輪と、その内輪の外周面に対向する断面円形状の内周面を有する外輪と、その外輪の内周面と内輪の外周面との間に複数のローラを円周方向に保持する保持器とを備えている。このツーウェイクラッチは、保持器が中立状態にあると、外輪の内周面とローラとの間に隙間が存在するため、内輪と外輪とは自由に相対回転できる(空転して動力は伝達されない)。これに対し、保持器を円周方向に変位させてローラを移動させると、内輪や外輪の回転に伴って、ローラが外輪の内周面と内輪の外周面との間に楔のように噛み込み、内輪と外輪とをロックできる(ロック状態では動力が伝達される)。このように、この動力伝達装置では、該当する歯車対に設けられた保持器を中立状態から円周方向に変位させ、内輪と外輪との間にローラを噛み込ませることによりロックさせ、動力を伝達する状態に切り替えて変速を行う。
しかしながら、特許文献1に開示される動力伝達装置では、動力を伝達しない状態から動力を伝達する状態に切り替えるためには、該当する歯車対に設けられたローラを円周方向に移動させ、さらに内輪や外輪の回転を利用して、外輪の内周面と内輪の外周面との間にローラを楔のように噛み込ませる必要がある。このため、ローラの移動に時間がかかり、切り替えに時間を要するという問題点があった。
また、切り替えに時間を要すると、動力を伝達しない状態から動力が伝達されるまでの間に、外輪または入力軸と内輪または出力軸とが空転する。この結果、ローラが楔のように噛み込むロック時に、衝撃が生じるという問題点があった。
また、加速時にシフトアップ変速を行う場合、内外輪の回転に対して回転を止めるブレーキ力を付加してローラを回転方向に移動させると共に、動力が入力される外輪の回転速度が、出力軸に繋がる内輪の回転速度と同じか又は相対的に速くなると、ローラが外輪の内周面と内輪の外周面との間の正回転方向に噛み込まれる。その結果、内輪と外輪とがロックされ、入力軸から出力軸を駆動する状態となる。次いで、コースト走行(惰性走行)を行うと、動力が入力される外輪の回転速度は、出力軸に繋がる内輪の回転速度より相対的に遅くなるため、正回転方向に噛み込まれたローラが外れ、中立状態を経て、外輪の内周面と内輪の外周面との間の逆回転方向に噛み込まれる。その結果、再び内輪と外輪とがロックされ、出力軸から入力軸を駆動する状態となる。このように、正回転方向に噛み込まれたローラが外れ、中立状態を経て逆回転方向に噛み込まれる切り替え時においても、回転ガタがあるため、衝撃が生ずるという問題点があった。
また、コースト走行(惰性走行)時の抵抗を無くすには、出力軸の制動を抑制するため、ローラが噛み込まれないように中立状態に保つように制御する必要がある。このように、コースト走行時には、ローラを制御しなければ出力軸が制動されるため、惰性走行可能な距離が短くなるという問題点(惰性運動時の出力量が減少するという問題点)があった。
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、一定方向への回転の伝達および遮断の切り替えを素早く行うと共に切り替え時の衝撃を防止することができ、さらに特別な制御を行わなくても、惰性運動時の出力量が減少することを防止できる動力伝達装置を提供することを目的としている。
課題を解決するための手段および発明の効果
請求項1記載の動力伝達装置によれば、ワンウェイクラッチとしての第1クラッチでは、付勢部材によりスプラグに付勢力が付与され、第1内輪の外周面および第1外輪の内周面に係合面が接するように第1スプラグがセルフロック方向へ傾動することで、第1内輪および第1外輪に第1スプラグが係合する。これにより、第1内輪と第1外輪との一定回転方向への相対回転が規制される。これに対し、荷重付与装置により付勢部材の付勢力に抗して第1スプラグに荷重が付与され、第1スプラグが反セルフロック方向へ傾動することで、第1内輪および第1外輪への第1スプラグの係合が解除され、第1内輪と第1外輪とが相対回転する。
このように、本発明によれば、第1スプラグを傾動させて一定方向への回転の伝達および遮断の切り替えを行うので、従来のように、ローラを円周方向に変位させて切り替えを行う場合と比較して、切り替えに要する時間を短縮でき、切り替えを素早く行うことができるという効果がある。
また、第1スプラグを傾動させて一定方向への回転の伝達および遮断を行うので、従来のように、動力を伝達しない状態から動力を伝達する状態になるまでの間に第1内輪と第1外輪とが空転することもなく、切り替え時の衝撃を防止することができるという効果がある。
また、付勢部材の付勢力に抗して電動機により第1スプラグが傾動されるので、荷重付与装置の構造を簡素化できると共に小型化を図ることができる。高速段側の荷重付与装置の電動機を駆動し、低速段側の荷重付与装置を非作動とすることで、低速段側の第1歯車対により入力軸から出力軸へ動力を伝達できる。
さらに、出力軸から入力軸へ動力が伝達される惰性運動時に、第1内輪および第1外輪への第1スプラグの係合が解除されて第1スプラグが反セルフロック方向へ自然に傾動するため、荷重付与装置を作動しなくても、出力軸から入力軸への動力の伝達が遮断される。その結果、荷重付与装置を作動しなくても、惰性運動時に出力軸が制動されることを防ぎ、惰性運動時の出力量が減少することを防止できるという効果がある。
請求項2記載の動力伝達装置によれば、第2歯車対に配設され出力軸から入力される動力を入力軸へ伝達する第2クラッチを備えているので、出力軸から入力軸へ動力が伝達される惰性運動時には、第2クラッチによって出力軸から入力軸へ動力が伝達され、出力軸から入力軸を駆動する状態となり、動力源が出力軸の駆動抵抗となるため出力軸を制動できる。その結果、請求項1の効果に加え、惰性運動時の出力量が減少することを防止するよりも、出力軸の制動を優先できるという効果がある。
請求項3記載の動力伝達装置によれば、第2歯車対の出力軸に配設された歯車の歯数が、第1歯車対の出力軸に配設された歯車の内の最小歯数より小さいので、第2歯車対の変速比が第1歯車対の変速比より小さくなる。これにより、第2クラッチは出力軸から入力軸への動力の伝達を遮断可能に構成しなくても、出力軸が惰性運動をする場合には、第1歯車対と第2歯車対との変速比の関係により、第1クラッチのスプラグを反セルフロック方向に傾動させることができる。このため、第1歯車対と第2歯車対との間に二重噛み合いが起きるのを防止できる。よって、請求項2の効果に加え、動力伝達装置の制御を簡素化できるという効果がある。
また、出力軸に逆動力(出力軸を逆回転させようとする動力)が入力される場合に、第1歯車対および第2歯車対の変速比により回転速度差が生じ、第1歯車対と第2歯車対とを二重噛み合いにできるという効果がある。このため、車両が登坂停止している場合に、サイドブレーキを作動させたり大きな駆動力が得られるように動力源を制御したりすることなく、車両の後退を防止することができる。また、車両が登坂停止した状態から前進する場合は、動力源を駆動するのみで発進できる。
請求項4記載の動力伝達装置によれば、第2クラッチは、出力軸から入力軸への動力の伝達を遮断可能に構成されているので、出力軸から入力軸への動力の伝達を遮断すれば惰性運動時に出力量が減少することを防止できる。その結果、出力軸から入力軸への動力の伝達を遮断しなければ出力軸の制動を行うことができる。以上のように、請求項2又は3の効果に加え、惰性運動時に、出力量または出力軸の制動のいずれを優先するかを選択できるという効果がある。
請求項5記載の動力伝達装置によれば、第2クラッチは、第2内輪と第2外輪とに接する第2スプラグを傾動させて一定方向への回転の伝達および遮断の切り替えを行うので、従来のように、ローラを円周方向に変位させて切り替えを行う場合と比較して、切り替えに要する時間を短縮できる。従って、請求項4の効果に加え、切り替えを素早く行うことができるという効果がある。
また、第2スプラグを傾動させて一定方向への回転の伝達および遮断を行うので、従来のように、動力を伝達しない状態から動力を伝達する状態になるまでの間に第2内輪と第2外輪とが空転することもなく、切り替え時の衝撃を防止できるという効果がある。
また、加速時において第1クラッチがセルフロックされる状態から、コースト時において第2クラッチがセルフロックされる状態に回転ガタなく切り替えることができるため、切り替え時の遊転による衝撃を防止できるという効果がある。
第1実施の形態における動力伝達装置が搭載される車両を模式的に示した模式図である。
動力伝達装置を模式的に示した模式図である。
第1クラッチの断面図である。
図3のIV−IV線における第1クラッチの断面図である。
図4のVで示す部分を拡大して示した第1クラッチの部分拡大断面図である。
(a)は加速走行時(第1速)の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(b)は加速走行時(第2速)の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(c)は加速走行時(第3速)の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図である。
コースト走行時(第3速)の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図である。
(a)は第2実施の形態における動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(b)は第2クラッチの内部構造の一部を模式的に示した模式図である。
(a)は第2実施の形態における動力伝達装置において加速走行時(第3速)の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(b)はコースト走行時(第3速)に出力軸から入力軸に動力を伝達する動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(c)はコースト走行時(第3速)に出力軸から入力軸への動力の伝達を遮断した動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図である。
(a)は第2実施の形態における動力伝達装置において車両が登坂停止している場合の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(b)は車両が登坂停止した状態から前進する場合の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図である。
(a)は第3実施の形態における動力伝達装置が搭載される車両を模式的に示した模式図であり、(b)は動力伝達装置を模式的に示した模式図である。
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施の形態における動力伝達装置1が搭載される車両100を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印F−B,L−Rは、車両100の前後方向、左右方向をそれぞれ示している。
まず、車両100の概略構成について説明する。車両100は、図1に示すように、前輪101(左の前輪101FL及び右の前輪101FR)を駆動するフロントユニット110を備えている。フロントユニット110は、動力源としてのエンジン111及びモータ112と、それらエンジン111及びモータ112の動力を前輪101に伝達する動力伝達装置113とを主に備え、エンジン111及びモータ112の2つの動力を使い分けて前輪101を駆動可能に構成されている。また、このフロントユニット110は、モータ112が発電機としての機能を兼ね備えており、モータ112により発電した電力を回生可能に構成されている。なお、車両100は、エンジン111又はモータ112のいずれか片方で構成されても良い。
次いで、図2を参照して、動力伝達装置1の詳細構成について説明する。図2は、動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図である。なお、図2では、理解を容易とするために、動力を伝達する機能を担う構成のみを図示している。また、以下の実施の形態においては、入力軸2にモータ112の駆動力を伝達する場合について説明するが、モータ112に代えてエンジン111の駆動力を伝達することや、エンジン111及びモータ112の駆動力を伝達することも当然可能である。
動力伝達装置1は、図2に示すように、モータ112の動力が入力される入力軸2と、その入力軸2と平行に配設された出力軸3と、その出力軸3および入力軸2に配設され互いに噛み合って異なる変速比となるように設定された複数の第1歯車対4,5,6とを主に備えて構成されている。本実施の形態では、モータ112と第1歯車対4との間の入力軸2にメインクラッチ7が配設されており、メインクラッチ7を接続することで、モータ112の動力を動力伝達装置1に伝達するように構成されている。また、出力軸2に伝達された動力が動力伝達装置1の外部に出力され、前輪101に伝達されるように構成されている。
第1歯車対4,5,6は、入力軸2に配設され入力軸2から伝達される動力により駆動される駆動歯車4a,5a,6aと、出力軸3に配設され駆動歯車4a,5a,6aにより従動駆動される被動歯車4b,5b,6bとを備えている。ここで、第1歯車対4,5,6は、変速比(被動歯車の歯数÷駆動歯車の歯数)の大きなものから、モータ112に近い順に第1速、第2速、第3速とされ、本実施の形態においては、第1歯車対4が第1速、第1歯車対5が第2速、第1歯車対6が第3速である。なお、後進段については、図示を省略している。後進段の場合は、第1歯車対4,5,6の間にピニオン歯車を挿入すれば良い。
第1歯車対4,5,6を構成する駆動歯車4a,5a,6aは、それぞれ入力軸2と一体に形成されている。一方、駆動歯車4a,5a,6aにそれぞれ対向して噛み合う被動歯車4b,5b,6bは、後述する第1クラッチ10を介して出力軸3にそれぞれ固定されている。第1クラッチ10は、入力軸2から出力軸3へ動力を伝達する一方、出力軸3から入力軸2への動力の伝達を遮断するものであり、入力軸2から出力軸3への動力の伝達を遮断可能に構成されている。
ここで、図3及び図4を参照して、第1クラッチ10の詳細構成について説明する。図3は、第1クラッチ10の断面図であり、図4は、図3のIV−IV線における第1クラッチ10の断面図である。第1クラッチ10は、図3及び図4に示すように、第1内輪11と、その第1内輪11の外周を囲む第1外輪12と、それら第1内輪11と第1外輪12との間に配設される複数の第1スプラグ13と、それら第1スプラグ13を保持する保持器14と、荷重付与装置15とを主に備えて構成されている。
第1内輪11は、動力を伝達する機能を担う部材であり、図3及び図4に示すように、断面円形状の外周面11aを備え、軸心O回りに回転可能に構成されている。また、この第1内輪11は、出力軸3(図2参照)と一体に形成されている。第1外輪12は、第1内輪11と共に動力を伝達する機能を担う部材であり、図3及び図4に示すように、第1内輪11の外周面11aに対向する断面円形状の内周面12aを備え、第1内輪11と同様に軸心O回りに回転可能に構成されている。また、この第1外輪12は、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6b(図2参照)と一体に形成されている。
第1スプラグ13は、第1内輪11と第1外輪12とを係合する機能を担う部材であり、外周面11a及び内周面12aにそれぞれ接する係合面13a,13b(図5参照)を備え、図4に示すように、外周面11a及び内周面12aの対向間において円周方向に等間隔で複数配設されている。また、この第1スプラグ13は、リボンスプリング16(図5参照)により内周面11a及び外周面12aの円周方向に付勢されている。
ここで、図5を参照して、リボンスプリング16について説明する。図5は、図4のVで示す部分を拡大して示した第1クラッチ10の部分拡大断面図である。リボンスプリング16は、第1スプラグ13に付勢力を付与して外周面11a及び内周面12aに係合面13a,13bが接するように第1スプラグ13に図5の矢印S方向(以下「セルフロック方向」と称す)の回転モーメントを発生させる部材であり、図5に示すように、金属材料に波状の曲げ加工を施して形成され、その弾性を利用して第1スプラグ13に付勢力を付与可能に構成されている。但し、このリボンスプリング16は、コイルばねにより構成しても良い。
このリボンスプリング16により第1スプラグ13に付勢力が付与されることで、外周面11a及び内周面12aに係合面13a,13bが接するように第1スプラグ13がセルフロック方向へ傾動する。その結果、図5に示すように、内周面12aと係合面13bとの接点A及び外周面11aと係合面13aとの接点Bに摩擦力が発生すると共に外周面11a及び内周面12aの円周方向における各接点A,Bの位置ずれにより、第1内輪11及び第1外輪12が所定の方向へ回転する場合には、第1内輪11及び第1外輪12に第1スプラグ13が係合する。
即ち、第1外輪12が第1スプラグ13に対して、第1内輪11との相対回転で第1内輪11側から見て、図5の矢印Ro方向(以下「ロック方向」と称す)へ回転する場合には、第1内輪11及び第1外輪12に第1スプラグ13が係合する。これにより、出力軸3は被動歯車4b,5b,6bと共に回転する。一方、第1外輪12が第1スプラグ13に対して、第1内輪11との相対回転で第1内輪11側から見て、図5の反矢印Ro方向(以下「フリー方向」と称す)へ回転する場合には、接点Aに作用する摩擦力により第1スプラグ13がリボンスプリング16の付勢力に抗して反セルフロック方向へ傾動し、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が解除される。その結果、被動歯車4b,5b,6bは出力軸3を空転する。
また、第1内輪11が第1スプラグ13に対して、第1外輪12との相対回転で第1外輪12側から見て、図5の矢印Ri方向(以下「ロック方向」と称す)へ回転する場合には、第1内輪11及び第1外輪12に第1スプラグ13が係合する。その結果、出力軸3は被動歯車4b,5b,6bと共に回転する。一方、第1内輪11が第1スプラグ13に対して、第1外輪12との相対回転で第1外輪12側から見て、図5の反矢印Ri方向(以下「フリー方向」と称す)へ回転する場合には、接点Bに作用する摩擦力により第1スプラグ13がリボンスプリング16の付勢力に抗して反セルフロック方向へ傾動し、被動歯車4b,5b,6bは出力軸3を空転する。
図3及び図4に戻って説明する。保持器14は、第1スプラグ13を外周面11a及び内周面12aの円周方向へ傾動可能に保持する部材であり、図3及び図4に示すように、保持部14aと、荷重伝達部14bとを備えて構成されている。保持部14aは、第1スプラグ13を保持する部位であり、図3及び図4に示すように、軸心O方向に延設され、第1スプラグ13の上端側を保持している。荷重伝達部14bは、荷重付与装置15から荷重が伝達される部位であり、図3に示すように、軸心O方向と交差する方向に延設されている。これにより、荷重伝達部14bを軸心O方向に延設する場合と比較して、保持器14の軸心O方向の寸法を短縮でき、第1クラッチ10の小型化を図ることができる。また、この荷重伝達部14bは、図4に示すように、歯車状に形成され、後述するピニオン15bとの間に構成される歯車機構を介して荷重付与装置15から荷重が伝達されるように構成されている。これにより、荷重付与装置15から保持器14までの荷重の伝達経路中に生じるエネルギー損失を小さくでき、効率良く保持器14に荷重を伝達することができる。
荷重付与装置15は、リボンスプリング16の付勢力に抗して第1スプラグ13に荷重を付与して第1スプラグ13を反セルフロック方向(図5の反矢印S回転方向)へ傾動させるための装置であり、図3及び図4に示すように、アクチュエータ15aと、ピニオン15bとを備えて構成されている。アクチュエータ15aは、第1スプラグ13に付与する荷重を生み出す動力源であり、電動機(交流モータ又は直流モータ)により構成され、電源(図示せず)から供給される電力により駆動可能に構成されている。このように、アクチュエータ15aが電動機により構成されているので、例えば、アクチュエータ15aをシリンダやソレノイド等により構成する場合と比較して、荷重付与装置15の構造を簡素化すると共に小型化を図ることができる。また、荷重付与装置15の構造が複雑な場合には、荷重付与装置15が大型化し第1クラッチ10の大型化を招くところ、荷重付与装置15の構造を簡素化すると共に小型化を図ることができれば、第1クラッチ10の小型化を図ることができる。
ピニオン15bは、アクチュエータ15aの動力を保持器14に伝達するための部材であり、図3に示すように、保持器14の荷重伝達部14bと噛み合う歯車状に形成され、荷重伝達部14bとの間に歯車機構を構成している。このピニオン15bによりアクチュエータ15aの動力が保持器14に伝達されることで、保持器14を介して第1スプラグ13に荷重が付与される。このように、荷重付与装置15は、保持器14を介して第1スプラグ13に荷重を付与するので、複数の第1スプラグ13に一度に荷重を付与することができ、効率良く第1スプラグ13に荷重を付与することができる。
上述したように構成される荷重付与装置15によれば、リボンスプリング16の付勢力に抗して第1スプラグ13に荷重を付与することで、第1スプラグ13を反セルフロック方向へ傾動させて、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除することができる。これにより、モータ112から入力軸2、駆動歯車4a,5a,6a、被動歯車4b,5b,6bと伝達された動力が、第1クラッチ10の第1外輪12に入力されて、第1外輪12が第1スプラグ13に対して、第1内輪11との相対回転で第1内輪11側から見て、ロック方向(図5の矢印Ro方向)へ回転する場合でも、荷重付与装置15により第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除することで、被動歯車4b,5b,6bを空転させて、入力軸2から出力軸3への動力の伝達を遮断することができる。
次いで、図6から図7を参照して、上述したように構成される第1実施の形態における動力伝達装置1の作動状態について説明する。図6から図7は、動力伝達装置1の内部構造の正面視を模式的に示しており、理解を容易とするために、動力の伝達経路を矢印Pで示すと共に、駆動歯車4a,5a,6a、被動歯車4b,5b,6b及び第1クラッチ10の第1外輪12の各回転方向を矢印で示している。また、第1歯車対4,5,6において、第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させて、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を解除した場合を「ON」と表記し、第1クラッチ10の荷重付与装置15を非作動として、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が可能な場合を「OFF」と表記している。
まず、図6を参照して、車両100の前進時における動力伝達装置1の作動状態について説明する。図6(a)は加減速走行時(第1速)の動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図であり、図6(b)は加減速走行時(第2速)の動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図であり、図6(c)は加減速走行時(第3速)の動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図である。
図6に示すように、車両100の前進時には、モータ112(図2参照)が正回転することで入力軸2が正回転し、動力が駆動歯車4a,5a,6aに伝達され、駆動歯車4a,5a,6aと噛み合う被動歯車4b,5b,6bが回転する。入力軸2の回転速度はモータ112の回転速度によって定まる。また、被動歯車4bの回転速度をα1、被動歯車5bの回転速度をα2、被動歯車6bの回転速度をα3とすれば、入力軸2から出力軸3に動力が伝達された場合の回転速度α1,α2,α3は、入力軸2の回転速度によって一義的に定まり、第1歯車対4,5,6の変速比の関係から、α1<α2<α3となる。出力軸3の回転速度は、変速段に応じた回転速度となる。
図6(a)に示すように、第1速走行時は、第2速の被動歯車5b及び第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)させる。その結果、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が強制的に解除される。第1速の被動歯車4bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12がロック方向(図5の矢印Ro方向)へ回転すると、荷重付与装置15が非作動(OFF)のため、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合し、第1外輪12から第1内輪11に向かって動力が伝達される。その結果、第1速の被動歯車4bは出力軸3と共に回転し、出力軸3がα1の回転速度で回転する。この時、第2速及び第3速の被動歯車5b,6bの回転速度は、出力軸3の回転速度α1より速くなる(α1<α2<α3)。その結果、被動歯車5b,6bにおける第1外輪12は、第1内輪11との相対回転で第1内輪11側から見て、ロック方向(図5の矢印Ro方向)へ回転する。しかし、第2速及び第3速における第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動(ON)させているため、被動歯車5b,6bは出力軸3を空転し動力は伝達されない。
次に、第1速走行の状態から、第2速へシフトアップ変速を行うときは、図6(b)に示すように、第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)の作動を停止(OFF)する。その結果、第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10においても、第1速の被動歯車4bの第1クラッチ10と同様に、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合可能な状態となる。
ここで、第2速の被動歯車5bの回転速度α2は、第1速の被動歯車4bの回転速度α1より速いため(α1<α2)、第2速の被動歯車5bの回転速度α2が、出力軸3の回転速度(α1)を超えることになる。よって、第2速の被動歯車5bにおける第1クラッチ10では、第1内輪11との相対回転で第1内輪11側から見て、第1外輪12がロック方向へ回転し、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第1外輪12から第1内輪11に向かって動力が伝達され、第2速の被動歯車5bは出力軸3と共に回転し、出力軸3がα2の回転速度で回転する。
一方、第1速の被動歯車4bの回転速度(α1)は、出力軸3の回転速度(α2)より遅くなる(α1<α2)。このため、第1速の被動歯車4bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12の回転速度が第1内輪11の回転速度よりも遅くなり、相対的に第1内輪11がフリー方向へ回転している状態と等しくなる。よって、第1速の被動歯車4bの第1クラッチ10では、第1スプラグ13は第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。この結果、第1速の被動歯車4bは出力軸3を空転し動力は伝達されない。さらに、第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10は荷重付与装置15を作動(ON)しているので、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が強制的に解除され、第3速の被動歯車6bは出力軸3を空転し動力は伝達されない。このように、第1速走行の状態から、第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10の荷重付与装置15の作動を停止するだけで、第2速へシフトアップ変速を行うことができる。
次に、第2速走行の状態から、第3速へシフトアップ変速を行うときは、図6(c)に示すように、第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)の作動を停止(OFF)する。その結果、第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10においても、第1速および第2速の被動歯車4b,5bの第1クラッチ10と同様に、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合可能な状態となる。
ここで、第3速の被動歯車6bの回転速度(α3)は、第2速の被動歯車5bの回転速度(α2)より速いため(α2<α3)、第3速の被動歯車6bの回転速度(α3)が、出力軸3の回転速度(α2)を超えることになる。よって、第3速の被動歯車6bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12が、第1内輪11との相対回転で第1内輪11側から見て、ロック方向へ回転し、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第1外輪12から第1内輪11に向かって動力が伝達され、第3速の被動歯車6bは出力軸3と共に回転し、出力軸3がα3の回転速度で回転する。
一方、第2速の被動歯車5bの回転速度(α2)は、出力軸3の回転速度(α3)より遅くなる(α2<α3)。このため、第2速の被動歯車5bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12の回転速度が第1内輪11の回転速度よりも遅くなり、相対的に第1内輪11がフリー方向へ回転している状態と等しくなる。よって、第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10では、第1スプラグ13は第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。この結果、第2速の被動歯車5bは出力軸3を空転し動力は伝達されない。
同様に、第1速の被動歯車4bの回転速度(α1)は、出力軸3の回転速度(α3)より遅い(α1<α3)。このため、第1速の被動歯車4bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12の回転速度が第1内輪11の回転速度よりも遅くなり、相対的に第1内輪11がフリー方向へ回転している状態と等しくなる。よって、第1速の被動歯車4bの第1クラッチ10においても、第1スプラグ13は第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。この結果、第1速の被動歯車4bは出力軸3を空転し動力は伝達されない。このように、第2速走行の状態から、第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)の作動を停止するだけで、第3速へシフトアップ変速を行うことができる。
以上のように、車両加速中のシフトアップ変速を行う場合には、高速段側の被動歯車における第1クラッチ10の荷重付与装置15の作動を停止するだけで、低速段側については何も操作することなく変速が可能となる。また、第1クラッチ10は、荷重付与装置15の作動を停止することにより、第1スプラグ13がセルフロック方向へ傾動し、瞬時に第1内輪11と第1外輪12との一定回転方向への相対回転が規制される。よって、切り替えに要する時間を短縮でき、素早い変速が可能となる。また、切り替えに要する時間を短縮できるため、動力を伝達しない状態から動力を伝達する状態になるまでの間に第1内輪11と第1外輪12とが空転することもなく、切り替え時の衝撃を防止することができる。さらに、第1クラッチ10の荷重付与装置15の作動と非作動と切り替えるだけで変速が可能となるため、複雑な噛合機構やシフトフォークなどが不要となり、重量低減や小型化を図ることができる。これにより、限られたスペース内に多数の第1歯車対を収装でき、例えば6速以上の多数段の動力伝達装置1もコンパクト化できる。
なお、車両加速中により強い駆動力を求める場合など、シフトダウン変速を行う場合も、シフトアップ変速の場合と同様に、第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)を用いることで変速が可能である。図6(c)に示す第3速走行の状態から、第2速へシフトダウン変速を行うときは、図6(b)に示すように、第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動(ON)させる。その結果、第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10において、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が解除されるため、第3速の被動歯車6bは出力軸3を空転し動力は伝達されなくなる。一方、第2速の被動歯車5bの回転速度は、第1速の被動歯車4bの回転速度より速いため、第2速の被動歯車5bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12がロック方向へ回転し、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第2速の被動歯車5bが出力軸3と共に回転することとなり、第3速走行の状態から第2速にシフトダウン変速できる。
次に、第2速走行の状態から第1速へシフトダウン変速を行うときは、図6(a)に示すように、第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)させる。その結果、第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10において、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12へのスプラグ13の係合が解除されるため、第2速の被動歯車5bは出力軸3を空転し動力は伝達されなくなる。その結果、第1速の被動歯車4bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12がロック方向へ回転し、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第1速の被動歯車4bが出力軸3と共に回転することとなり、第2速走行の状態から第1速にシフトダウン変速できる。
また、第3速走行の状態から、第2速を飛び越えて第1速へシフトダウン変速を行うことも可能である。この場合は、図6(c)に示す第3速走行の状態から、図6(a)に示すように、第3速の被動歯車6b及び第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)させる。その結果、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が解除されるため、第2速の被動歯車5b及び第3速の被動歯車6bは出力軸3を空転し、動力は伝達されなくなる。これに対し、第1速の被動歯車4bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12がロック方向へ回転し、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第1速の被動歯車4bが出力軸3と共に回転することとなり、第3速走行の状態から第1速にシフトダウン変速できる。
以上のように、シフトダウン変速を行う場合には、走行中の変速段の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させるだけで、低速段側については何も操作することなく変速が可能となる。また、同様の操作により、所定の変速段を飛び越えてシフトダウン変速を行うことも可能である。さらに、第1クラッチ10は、荷重付与装置15を作動させることにより、付勢部材16の付勢力に抗して第1スプラグ13に荷重が付与され、第1スプラグ13が反セルフロック方向へ傾動することで第1内輪11および第1外輪12への第1スプラグ13の係合が解除される。よって、切り替えに要する時間を短縮でき素早い変速が可能となる。
次いで、図7を参照して、アクセルペダルを操作しない車両100のコースト走行時(惰性走行時)における動力伝達装置1の作動状態について説明する。図7はコースト走行時(第3速)の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図である。図6(c)を参照しながら説明した第3速走行の状態において、アクセルペダルを操作しない車両100のコースト走行を行う場合は、図7に示すように、動力が出力軸3から動力伝達装置1に入力される。アクセルペダルを操作していないため、モータ112の回転数は下がり、入力軸2の回転は低下する。その結果、第1速、第2速および第3速の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10の第1内輪11(図5参照)が、第1外輪12との相対回転で第1外輪12側から見て、フリー方向(図5の反矢印Ri方向)へ回転する。このため、第1速、第2速および第3速の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10では、第1スプラグ13が反セルフロック方向へ傾動し、第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。よって、被動歯車4b,5b,6bは出力軸3を空転し入力軸2に動力は伝達されない。
以上のように、コースト走行時には、荷重付与装置15を作動しなくても出力軸3から入力軸2への動力の伝達が遮断される。これは、第1速走行(図6(a)参照)、第2速走行(図6(b)参照)の場合においても同様である。その結果、荷重付与装置15を作動させるという制御を行わなくても、モータ112の内部抵抗やイナーシャが出力軸3の駆動抵抗となることが防止され、出力軸3が制動されることを防止できる。よって、エネルギー損失を抑制して、コースト走行時の走行距離が短くなることを防止できる。
次いで、図8を参照して、第2実施の形態における動力伝達装置20について説明する。図8(a)は動力伝達装置20の内部構造を模式的に示した模式図であり、図8(b)は第2クラッチ22の内部構造の一部を模式的に示した模式図である。以下、第1実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。なお、図8では、理解を容易とするために、動力を伝達する機能を担う構成のみを図示している。
動力伝達装置20は、車両100(図1参照)に搭載される動力伝達装置1に代えて、車両100に搭載されている。また、図8(a)に示すように、モータ112の動力が入力される入力軸2と、その入力軸2に平行に配設された出力軸3と、その出力軸3および入力軸2に配設され互いに噛み合って異なる変速比となるように設定された複数の第1歯車対4,5,6とを備えている。これらの構成は、第1実施の形態において説明したものと同様である。第2実施の形態における動力伝達装置20は、さらに、入力軸2および出力軸3に配設され互いに噛み合う第2歯車対21を備えて構成されている。
第2歯車対21を構成する駆動歯車21aは、第2クラッチ22を介して入力軸2に固定されている。一方、駆動歯車21aに対向して噛み合う被動歯車21bは、出力軸3と一体に形成されている。また、第2歯車対21の被動歯車21bの歯数は、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6bの内の最小歯数(本実施の形態においては被動歯車6bの歯数)より小さくなるように形成されている。このため、入力軸2から出力軸3に動力が伝達された場合、被動歯車4b,5b,6bの回転速度α1,α2,α3及び被動歯車21bの回転速度α4は、入力軸2の回転速度によって一義的に定まり、変速比の関係からα1<α2<α3<α4となる。また、出力軸3の回転速度は変速段に応じた回転速度となる。なお、第1歯車対4,5,6及び第2歯車対21の変速比(被動歯車の歯数÷駆動歯車の歯数)を順にk1,k2,k3,k4とすると、変速比はk1>k2>k3>k4の関係となる。
第2クラッチ22は、出力軸3から入力軸2へ動力を伝達する一方、入力軸2から出力軸3への動力の伝達を遮断するものであり、出力軸3から入力軸2への動力の伝達を遮断可能に構成されている。なお、第2クラッチ22は第1クラッチ10と同様に構成されているため、詳細な説明を省略する。また、第1クラッチ10と同一の部分については同一の符号を用いて以下説明する。
第2クラッチ22は、第2内輪221(図8(b)参照)が入力軸2と一体に形成されており、第2外輪222は第2歯車対21の駆動歯車21aと一体に形成されている。また、第2クラッチ22は、第2外輪222の内周面222aと第2内輪221の外周面221aとに接する第2スプラグ223を備えている。この第2クラッチ22によれば、動力が入力軸2から入力され、第2内輪221が第2スプラグ223に対して、第2外輪222との相対回転で第2外輪222側から見て、図8(b)の反矢印Ri方向(フリー方向)に回転する場合には、第2内輪221及び第2外輪222への第2スプラグ223の係合が解除される。その結果、入力軸2は駆動歯車21aを空転し、入力軸2から出力軸3への動力の伝達が遮断される。また、第2内輪221が第2スプラグ223に対して、第2外輪222との相対回転で第2外輪222側から見て、図8(b)の矢印Ri方向(ロック方向)に回転する場合には、第2内輪221及び第2外輪222へ第2スプラグ223が係合する。その結果、駆動歯車21aは入力軸2と共に回転し、入力軸2から出力軸3へ動力が伝達される。
一方、動力が出力軸3から、被動歯車21bを介して第2クラッチ22に入力されると、第2外輪222が第2スプラグ223に対して図8(b)の矢印Ro方向(ロック方向)に回転し、第2内輪221及び第2外輪222へ第2スプラグ223が係合する。その結果、駆動歯車21aは入力軸2と共に回転し、出力軸3から入力軸2へ動力が伝達される。また、第2外輪222が第2スプラグ223に対して、第2内輪221との相対回転で第2内輪221側から見て、図8(b)の反矢印Ro方向(フリー方向)に回転する場合には、第2内輪221及び第2外輪222への第2スプラグ223の係合が解除される。その結果、入力軸2は駆動歯車21aを空転し、出力軸3から入力軸2への動力の伝達が遮断される。
なお、第2クラッチ22は、第1クラッチ10と同様に荷重付与装置(図示しない)を備えている。第2クラッチ22の荷重付与装置15(図4参照)を作動させることで、リボンスプリング16の付勢力に抗して第2スプラグ223に荷重を付与し、第2スプラグ223を反セルフロック方向へ傾動させて、第2内輪221及び第2外輪222への第2スプラグ223の係合を強制的に解除できる。これにより、出力軸3から被動歯車21b及び駆動歯車21aを介して、第2クラッチ22に伝達された動力が第2外輪222に入力されて、第2外輪222が第2スプラグ223に対してロック方向(図8(b)の矢印Ro方向)へ回転する場合でも、荷重付与装置15により第2内輪221及び第2外輪222への第2スプラグ223の係合を強制的に解除することで、駆動被動歯車21aを空転させて、出力軸3から入力軸2への動力の伝達を遮断することができる。
次いで、図9から図10を参照して、上述したように構成される第2実施の形態における動力伝達装置20の作動状態について説明する。図9から図10は、動力伝達装置20の内部構造の正面視を模式的に示している。ここで、図9および図10では、理解を容易とするために、動力の伝達経路を矢印Pで示すと共に、駆動歯車4a,5a,6a,21a、被動歯車4b,5b,6b,21b及び第1クラッチ10及び第2クラッチ22の外輪12の各回転方向を矢印で示している。また、第1歯車対4,5,6及び第2歯車対21において、第1クラッチ10及び第2クラッチ22の荷重付与装置15(図4参照)を作動させて、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合、第2内輪221及び第2外輪222への第2スプラグ223の係合を解除した場合を「ON」と表記する。第1クラッチ10及び第2クラッチの荷重付与装置15を非作動として、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合、第2内輪221及び第2外輪222への第2スプラグ223の係合が可能な場合を「OFF」と表記している。
まず、図9を参照して、車両100の前進時における動力伝達装置20の作動状態について説明する。図9(a)は加速走行時(第3速)の動力伝達装置20の内部構造を模式的に示した模式図であり、図9(b)はコースト走行時(第3速)に出力軸3から入力軸2に動力を伝達する動力伝達装置20の内部構造を模式的に示した模式図であり、図9(c)はコースト走行時(第3速)に出力軸3から入力軸2への動力の伝達を遮断した動力伝達装置20の内部構造を模式的に示した模式図である。
図9(a)に示すように、加速走行時(第3速)は、第1実施の形態で説明したように、第1速〜第3速の被動歯車4b,5b,6b(被動歯車の回転方向は図9において時計回り)の第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)の作動を停止する(OFF)。第3速の被動歯車6bの回転速度(α3)は、第1速および第2速の被動歯車4b,5bの回転速度(α1,α2)より速いため(α1<α2<α3)、第3速の被動歯車6bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12が第1内輪11との相対回転でロック方向(図5の矢印Ro方向)に回転し、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第1外輪12から第1内輪11に向かって動力が伝達され、第3速の被動歯車6bは出力軸3と共に回転し、出力軸3がα3の回転速度で回転する。
一方で、この場合には、出力軸3から被動歯車21bを介して、駆動歯車21aが回転速度α4で回転する。本実施の形態においては、第2歯車対21の変速比(被動歯車の歯数÷駆動歯車の歯数)k4が、第1歯車対6の変速比k3より小さく設定されているので、第2歯車対21の駆動歯車21aの回転速度(α4=α3・k4=k4/k3・α)は、入力軸2の回転速度(α)より小さくなる。このため、第2クラッチ22では、第2外輪222(図8(b)参照)の回転速度α4が第2内輪221の回転速度αよりも遅くなり、相対的に第2外輪222がフリー方向へ回転している状態と等しくなる。よって、第2クラッチ22では、第2スプラグ223は第2内輪221及び第2外輪222へ係合できない。従って、第2クラッチ22の荷重付与装置15を作動しなくても、動力伝達装置20は、第2歯車対21に影響されることなく、第3速の走行状態(出力軸3の回転速度α3)となる。
なお、第2歯車対21の変速比k4を、第1歯車対6の変速比k3より大きくなるように設定した場合は、駆動歯車21aの回転速度(α4=k4/k3・α)は、入力軸2の回転速度(α)より大きくなる。このため、第2クラッチ22では、第2外輪222の回転速度α4が第2内輪221の回転速度αよりも速くなり、相対的に第2外輪222がロック方向へ回転している状態と等しくなる。この場合には、第2クラッチ22の荷重付与装置15を作動させることにより(ON)、第2スプラグ223を強制的に反セルフロック方向へ傾動させ、第2内輪221及び第2外輪222へ係合できなくする。その結果、上述の場合と同様に、第2歯車対21に影響されることなく、第3速の走行状態(出力軸3の回転速度α3)が得られる。
次に、第3速走行の状態でコースト走行を行う場合は、図9(b)に示すように、動力が出力軸3から入力軸2へと入力される。その結果、出力軸3から第2歯車対21の被動歯車21bを介して駆動歯車21aが駆動される。即ち、第2クラッチ22の第2外輪222(図8(b)参照)に動力が伝達される(回転速度α4)。一方、第2クラッチ22の第2内輪221は入力軸2からの駆動力が無い状態なので、その回転速度は、駆動歯車21aの回転速度α4より遅くなる。その結果、第2クラッチ22の第2外輪222が、第2内輪221との相対回転で第2内輪221側から見て、ロック方向(図8(b)の矢印Ro方向)に回転する。第2クラッチ22の荷重付与装置15を作動させない場合には(OFF)、第2外輪222及び第2内輪221へスプラグ13が係合する。その結果、第2クラッチ22の第2外輪222から第2内輪221に向かって動力が伝達され、第2歯車対21の駆動歯車21aは入力軸2と共に回転する(回転速度α4)。第2歯車対21の変速比がk4であり、第2歯車対21の被動歯車21bの回転速度がα3であるから、第2歯車対21の駆動歯車21aの回転速度α4はk4・α3である。第2歯車対21の駆動歯車21aの回転につれて入力軸2が回転し、第1歯車対4,5,6の駆動歯車4a,5a,6aも回転する(回転速度α4=k4・α3)。
この結果、第1歯車対4,5,6の駆動歯車4a,5a,6aと噛み合う被動歯車4b,5b,6bに動力が伝達され、被動歯車4b,5b,6bは各々の変速比に応じた速度で回転する。被動歯車4bの回転速度β1はk4/k1・α3であり、被動歯車5bの回転速度β2はk4/k2・α3であり、被動歯車6bの回転速度β3はk4/k3・α3である。k1>k2>k3>k4であるから、被動歯車4b,5b,6bの回転速度β1,β2,β3は、いずれもα3より小さくなる。
一方、出力軸3の回転速度はα3であるため、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6bの第1クラッチ10(図5参照)では、第1内輪11がα3の速度で回転する。このため、第1クラッチ10では、第1内輪11の回転速度が第1外輪12の回転速度(β1=k4/k1・α3)よりも速くなり、相対的に第1内輪11がフリー方向(図5の反矢印Ri方向)へ回転している状態と等しくなる。よって、第1クラッチ10では、第1スプラグ13は第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。従って、第2クラッチ22の荷重付与装置15を作動させない場合(OFF)、動力伝達装置20(図8(a)参照)は、第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させなくても、第1歯車対4,5,6に影響されることなく、出力軸3からの動力を入力軸2へ第2歯車対21を介して伝達できる。これにより、車両100のコースト走行時には、出力軸3から入力される動力によりモータ112を発電機として機能させて、モータ112により発電した電力を電源に回生することができる。これにより、省エネルギー化を図ることができる。また、モータ112の内部抵抗やイナーシャが出力軸3の駆動抵抗となるため、出力軸3を制動できる(エンジンブレーキ)。
これに対し、モータ112の内部抵抗やイナーシャが出力軸3の駆動抵抗となるのを防ぐ場合には、図9(c)に示すように、第2クラッチ22の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)させる。出力軸3から動力が動力伝達装置20(図8(a)参照)に入力されると、第2クラッチ22の第2外輪222(図8(b)参照)が、第2内輪221との相対回転で第2内輪221側から見て、ロック方向(図8(b)の矢印Ro方向)に回転するが、第2クラッチ22の荷重付与装置15を作動(ON)させることにより、第2スプラグ223が強制的に反セルフロック方向へ傾動され、第2外輪222及び第2内輪221へ係合できない。よって、駆動歯車21aは入力軸2を空転し入力軸2に動力は伝達されない。
また、第1速、第2速および第3速の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10の第1内輪11(図5参照)は、第1外輪12との相対回転でフリー方向(図5の反矢印Ri方向)へ回転する。このため、第1速、第2速および第3速の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10では、第1スプラグ13が反セルフロック方向へ傾動し、第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。よって、被動歯車4b,5b,6bは出力軸3を空転し、入力軸2に動力は伝達されない。これにより、エネルギー損失を抑制して、コースト走行における走行距離が短くなることを防止できる。
以上のように、コースト走行時に、第2クラッチ22の荷重付与装置15の作動と非作動とを切り替えることにより、エネルギー損失を抑制して走行距離を伸ばすか、或いは出力軸3の制動および電力の回生を図るか、いずれを優先するかを選択できる。
次いで、図10を参照して、車両100の登坂停止時における動力伝達装置20の作動状態について説明する。図10(a)は第2実施の形態における動力伝達装置20において車両100が登坂停止している場合の動力伝達装置20の内部構造を模式的に示した模式図であり、図10(b)は車両100が登坂停止した状態から前進する場合の動力伝達装置20の内部構造を模式的に示した模式図である。
車両100が登坂停止している場合は、車両100は重力により坂を後進しようとするため、前輪101は前進の回転に対して逆回転しようとする。この結果、図10(a)に示すように、前輪101から動力伝達装置20の出力軸3を逆回転させようとする逆動力が入力される。この逆動力により、出力軸3から被動歯車21bを介して、駆動歯車21aは逆回転(図10(a)時計回りに回転)しようとする。これにより、第2歯車対21の第2クラッチ22の第2外輪222(図8(b)参照)は逆回転しようとする。また、第1歯車対4,5,6の第1クラッチ10の第1内輪11(図5参照)も、それぞれ逆回転(図10(a)反時計回りに回転)しようとする。この逆動力による出力軸3の回転速度(回転した場合の仮想値)をγとする。
この逆動力により、第1歯車対4,5,6においては、第1クラッチ10の第1内輪11が、第1外輪12との相対回転でロック方向(図5の矢印Ri方向)に回転しようとするので、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第1クラッチ10の第1内輪11から第1外輪12に向かって動力が伝達され、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6bは出力軸3と共に回転しようとする(回転速度γ)。この結果、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6bと噛み合う駆動歯車4a,5a,6aに動力が伝達される。
ここで、第1歯車対4,5,6及び第2歯車対21の変速比(被動歯車の歯数÷駆動歯車の歯数)は、上述のとおり、順にk1,k2,k3,k4(但し、k1>k2>k3>k4)なので、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6bの回転速度がγのときは、駆動歯車4aの回転速度はk1・γ、駆動歯車5aの回転速度はk2・γ、駆動歯車6aの回転速度はk3・γとなる(駆動歯車4a,5a,6aの回転方向は図10(a)時計回り)。駆動歯車4a,5a,6aの回転により、入力軸2は回転速度k1・γ(或いはk2・γ又はk3・γ)で回転しようとする。この結果、入力軸2に連結する第2歯車対21の第2クラッチ22の第2内輪221(図8(b)参照)は、回転速度k1・γ(或いはk2・γ又はk3・γ)でロック方向(図8(b)の矢印Ri方向)に回転する。一方、駆動歯車21aには、噛み合う被動歯車21bから回転速度k4・γとなる動力が入力されるため、第2クラッチ22の第2外輪222は回転速度k4・γでフリー方向(図8(b)の反矢印Ro方向)に回転する。
ここで、k1>k2>k3>k4のため、第2クラッチ22の第2内輪221の回転速度k1・γ(或いはk2・γ又はk3・γ)は、第2クラッチ22の第2外輪222の回転速度k4・γより速くなる。このため、第2クラッチ22では、第2外輪222の回転速度が第2内輪221の回転速度よりも遅くなり、第2内輪221が、第2外輪222との相対回転で第2外輪222側から見て、ロック方向(図8(b)の矢印Ri方向)へ回転している状態と等しくなる。よって、第2クラッチ22では、第2スプラグ223が第2内輪221及び第2外輪222へ係合し、第2歯車対21の駆動歯車21aは入力軸2と共に回転しようとする。
しかし、上述のように、互いに噛み合う駆動歯車21aと被動歯車21bとの間に回転速度差があるため、第1歯車対4,5,6と第2歯車対21とは二重噛み合いとなる。よって、車両100が登坂停止している場合に、サイドブレーキを作動させたり必要な駆動力が得られたりするようにモータ112を制御しなくとも、車両100の後進を防止できる。
登坂停止した車両100を前進させる場合は、図10(b)に示すように、まず、第2速および第3速の第1歯車対5,6の被動歯車5b,6bにおける第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)させる。この状態においても、第1歯車対4(第1速)の変速比は第2歯車対21の変速比より大きいため、上述のとおり、第1歯車対4と第2歯車対21とを二重噛み合いさせることができ、サイドブレーキを作動させなくても車両100は後進しない。
次いで、モータ112(図8(a)参照)の正回転(前進側)の動力を入力軸2に伝達すると、第2速の被動歯車5b及び第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)しているため、被動歯車5b,6bの第1クラッチ10では、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が解除される。この結果、第2速及び第3速の被動歯車5b,6bは出力軸3を空転し動力は伝達されない。これに対し、第1速の被動歯車4bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12がロック方向(図5の矢印Ro方向)へ回転すると、荷重付与装置15(図4参照)が非作動(OFF)のため、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合し、第1外輪12から第1内輪11に向かって動力が伝達される。その結果、第1速の被動歯車4bは出力軸3と共に回転し、出力軸3が回転する。入力軸2の回転速度をαとすると、出力軸3の回転速度はα/k1となる。
一方で、この場合には、出力軸3から第2歯車対21の被動歯車21bを介して、第2歯車対21の駆動歯車21aに動力が伝達される。その結果、第2歯車対21の駆動歯車21aの回転速度は、k4/k1・αとなる(回転方向は図10(b)反時計回り)。これにより、第2クラッチ22(図8(b)参照)の第2内輪221の回転速度はαとなり、第2クラッチ22の第2外輪222の回転速度はk4/k1・αとなる。k1>k4より、第2クラッチ22では、第2外輪222との相対回転で第2外輪222側から見て、第2内輪221の回転速度が第2外輪222の回転速度より速くなり、相対的に第2内輪221がフリー方向(図8(b)の反矢印Ri方向)へ回転している状態と等しくなる。よって、第2クラッチ22では、第2スプラグ223は第2内輪221及び第2外輪222へ係合できない。従って、第2クラッチ22の荷重付与装置15を作動しなくても、動力伝達装置20は、第2歯車対21に影響されることなく第1速の走行状態(出力軸3の回転速度α/k1)となり、車両100は発進する。以上のように、車両100が登坂停止した状態から前進する場合には、後進しないようにサイドブレーキを作動する等の煩雑な操作を行うことなく、モータ112を駆動するのみで発進することができる。
なお、車両100の発進の際、本実施の形態においては、第2速および第3速の第1歯車対5,6の被動歯車5b,6bにおける第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させ、第1速の第1歯車対4を用いて動力を伝達する場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。第2歯車対21より大きな変速比の第1歯車対(5又は6)を選択して動力伝達可能な状態にすれば、第1速の第1歯車対4を用いる場合と比較してトルクは低下するが、発進は可能である。
次いで、図11を参照して、本発明の第3実施の形態における動力伝達装置について説明する。上記第2実施の形態においては、動力伝達装置が前輪駆動の車両100に搭載され、第2クラッチ22が入力軸2に配設されており、第2クラッチ22の第2外輪222が駆動歯車21aと一体に形成された場合について説明した。これに対し第3実施の形態では、動力伝達装置30は後輪駆動の車両200に搭載されている。さらに、第2クラッチ34が出力軸31,32に配設されており、第2クラッチ34が被動歯車33bと別設されている場合について説明する。
図11(a)は本発明の第3実施の形態における動力伝達装置30が搭載される車両200を模式的に示した模式図であり、図11(b)は第3実施の形態における動力伝達装置30を模式的に示した模式図である。なお、図11(a)の矢印F−B,L−Rは、車両200の前後方向、左右方向をそれぞれ示している。
まず、車両200の概略構成について説明する。車両200は、図11(a)に示すように、後輪102(左の後輪102FL及び右の後輪102FR)を駆動するリアユニット120を備えている。リアユニット120は、動力源としてのエンジン111及びモータ112と、それらエンジン111及びモータ112の動力を後輪102に伝達する動力伝達装置30とを主に備えており、動力伝達装置30の出力軸31に伝達された動力がデファレンシャル装置を介して左右の後輪102に伝達されるよう構成されている。なお、エンジン111及びモータ112の2つの動力を使い分けて後輪102を駆動可能に構成されているが、エンジン111又はモータ112のいずれか片方で構成されている場合もある。エンジン111、モータ112のいずれも動力源とすることが可能である。なお、以下の実施の形態においては、入力軸2にエンジン111の駆動力を伝達する場合について説明するが、エンジン111に代えてモータ112の駆動力を伝達することや、エンジン111及びモータ112の駆動力を伝達することも当然可能である。
次いで、図11(b)を参照して、動力伝達装置30の詳細構成について説明する。図11(b)は、動力伝達装置30の内部構造を模式的に示した模式図である。以下、第2実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。なお、図11(b)では、理解を容易とするために、動力を伝達する機能を担う構成のみを図示している。
動力伝達装置30は、エンジン111の動力が入力される入力軸2と、その入力軸2と平行に配設された出力軸31,32と、その出力軸31及び入力軸2に配設され互いに噛み合って異なる変速比となるように設定された複数の第1歯車対4,5,6と、出力軸32及び入力軸2に配設された第2歯車対33とを主に備えて構成されている。出力軸31,32は、第2クラッチ34を介して同軸に連結されている。また、第1歯車対4,5,6に配設された第1クラッチ10の第1内輪11は、出力軸31と一体に形成されている。以上のように構成された動力伝達装置30は、出力軸31に伝達された動力が動力伝達装置30の外部に出力され、後輪102に伝達されるように構成されている。
第2歯車対33は、入力軸2に配設され入力軸2から伝達される動力により駆動される駆動歯車33aと、出力軸32に配設され駆動歯車33aにより従動駆動される被動歯車33bとを備えている。第2歯車対33の被動歯車33bは、その歯数が、第1歯車対4,5,6の内の最小歯数(本実施の形態においては、第1歯車対6の被動歯車6bの歯数)より小さくなるように構成されている。従って、第2歯車対33の変速比(被動歯車33bの歯数÷駆動歯車33aの歯数。k5とする。)は、第1歯車対4,5,6の変速比(順にk1,k2,k3)の内の最小の変速比(本実施の形態においては、第1歯車対6の変速比k3)より小さい。
第2クラッチ34は、出力軸31,32から入力軸2へ動力を遮断可能に伝達する一方、入力軸2から出力軸31,32への動力の伝達を遮断するように構成されている。なお、第2クラッチ34は第1クラッチ10(図5参照)と同様に構成されているため、詳細な説明を省略する。また、第1クラッチ10と同一の部分については同一の符号を用いて以下説明する。
第2クラッチ34は第2歯車対33の被動歯車33bと別設されている。第2クラッチ34の第2内輪341は出力軸32と一体に形成されているが、第2クラッチ34の第2外輪342は、側端縁が外輪連結部34aと連結されており、外輪連結部34aを介して出力軸31と連結されている。第2内輪341と第2外輪342とに接して第2スプラグ343が配設されている。
以上のように構成された第3実施の形態における動力伝達装置30は、第2実施の形態で説明したように、加速走行時(第3速)においては、第1速〜第3速の被動歯車4b,5b,6bの第1クラッチ10(図5参照)の荷重付与装置15(図4参照)の作動を停止する。これにより、入力軸2の回転速度をαとすれば、第3速の第1歯車対6を介して、出力軸31が回転速度α/k3で回転する。一方で、この場合には、出力軸31と連結する外輪連結部34aも回転速度α/k3で回転し、それに伴い第2クラッチ34の第2外輪342も回転する(回転速度α/k3)。
また、第2歯車対33の被動歯車33bは、駆動歯車33aの回転(回転速度α)に伴い回転速度α/k5で回転する。その結果、被動歯車33bが配設された出力軸32が回転し、出力軸32に連結する第2クラッチ34の第2内輪341も回転する(回転速度α/k5)。k3>k5のため、第2クラッチ34では、第2内輪341の回転速度(α/k5)が第2外輪342の回転速度(α/k3)よりも速くなり、第2外輪342との相対回転で第2外輪342側から見て、第2内輪341がフリー方向(図5に示す反矢印Ri方向)へ回転している状態と等しくなる。よって、第2クラッチ34では、第2スプラグ343は第2内輪341及び第2外輪342へ係合できない。従って、第2クラッチ34の荷重付与装置15を作動しなくても、動力伝達装置30は、第2歯車対33に影響されることなく、第3速の走行状態(出力軸31の回転速度α/k3)となる。
なお、第2歯車対33の変速比k5を、第1歯車対6の変速比k3より大きくなるように設定した場合は、被動歯車33bの回転速度(α/k5)は出力軸31の回転速度(α/k3)より小さくなる。この場合、第2クラッチ34では、第2外輪342の回転速度(α/k3)が第2内輪341の回転速度(α/k5)よりも速くなり、相対的に第2外輪342がロック方向(図5に示す矢印Ro方向)へ回転している状態と等しくなる。この場合には、第2クラッチ34の荷重付与装置15を作動させることにより、第2スプラグ343を強制的に反セルフロック方向へ傾動させ、第2内輪341及び第2外輪342へ係合できなくする。その結果、上述の場合と同様に、動力伝達装置30は第2歯車対33に影響されることなく、第3速の走行状態(出力軸31の回転速度α/k3)が得られる。
次に、第3速走行の状態(出力軸31の回転速度α/k3)でコースト走行を行う場合は、第2実施の形態の場合と同様に、動力が出力軸31から入力される。出力軸31の回転速度はα/k3であるから、外輪連結部34aを介して、動力が第2クラッチ34の第2外輪342に伝達され、その第2外輪342の回転速度はα/k3となる。
一方、第2クラッチ34の第2内輪341は、第2歯車対33を介して入力軸2からの駆動力が無い状態なので、その回転速度は第2外輪342の回転速度α/k3より遅くなる。その結果、第2クラッチ34の第2外輪342が、第2内輪341との相対回転で第2内輪341側から見て、ロック方向(図5の矢印Ro方向)に回転する。第2クラッチ34の荷重付与装置15を非作動(OFF)とする場合には、第2外輪342及び第2内輪341へ第2スプラグ343が係合する。その結果、第2クラッチ34の第2外輪342から第2内輪341に向かって動力が伝達され、第2歯車対33の被動歯車33bは出力軸32と共に回転する(回転速度α/k3)。第2歯車対33の変速比がk5であるから、第2歯車対33の駆動歯車33aの回転速度はα/k3・k5である。第2歯車対33の駆動歯車33aの回転につれて入力軸2が回転し(回転速度α/k3・k5)、第1歯車対4,5,6の駆動歯車4a,5a,6aも回転する(回転速度α/k3・k5)。
この結果、第1歯車対4,5,6の駆動歯車4a,5a,6aと噛み合う被動歯車4b,5b,6bに動力が伝達され、被動歯車4b,5b,6bは各々の変速比に応じた速度で回転する。被動歯車4bの回転速度はα/k3・k5/k1であり、被動歯車5bの回転速度はα/k3・k5/k2であり、被動歯車6bの回転速度はα/k3・k5/k3である。k1>k2>k3>k5であるから、被動歯車4b,5b,6bの回転速度は、いずれも出力軸31の回転速度α/k3より小さくなる。
ここで、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6bの第1クラッチ10(図5参照)では、第1内輪11が、出力軸31と同じα/k3の速度で回転する。一方、上述のとおり、被動歯車4b,5b,6bの回転速度は、いずれも出力軸31の回転速度α/k3より小さいため、各第1クラッチ10の第1外輪12の回転速度も、第1内輪11の回転速度より遅くなる。このため、第1クラッチ10では、第1内輪11の回転速度が第1外輪12の回転速度よりも速くなり、相対的に第1内輪11がフリー方向(図5の反矢印Ri方向)へ回転している状態と等しくなる。よって、第1クラッチ10では、第1スプラグ13は第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。
従って、第2クラッチ34の荷重付与装置15を非作動(OFF)とする場合、動力伝達装置30は、第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させなくても、第1歯車対4,5,6に影響されることなく、動力を出力軸31から第2歯車対33を介して入力軸2へ伝達できる。これにより、車両200のコースト走行時には、出力軸31から入力軸2に動力が入力され、エンジン111が出力軸31の駆動抵抗となるため、出力軸3を制動できる(エンジンブレーキ)。
これに対し、エンジン111が出力軸31の駆動抵抗となるのを防ぐ場合には、第2実施の形態において説明したように、第2クラッチ34の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)させる。これにより、第2クラッチ34の第2スプラグ343が強制的に反セルフロック方向へ傾動され、第2外輪342及び第2内輪341へ係合できなくなる。よって、第2クラッチ34は出力軸32を空転し、入力軸2に動力は伝達されない。また、第1速、第2速および第3速の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10の第1内輪11(図4参照)は、第1外輪12との相対回転でフリー方向(図5の反矢印Ri方向)へ回転する。このため、第1速、第2速および第3速の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10では、第1スプラグ13が反セルフロック方向へ傾動し、第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。よって、被動歯車4b,5b,6bは出力軸31を空転し入力軸2に動力は伝達されない。これにより、エネルギー損失を抑制して、コースト走行における走行距離が短くなることを防止できる。
以上のように、コースト走行時に、荷重付与装置15の作動と非作動とを切り替えることにより、エネルギー損失を抑制して走行距離を伸ばすか、或いは出力軸31の制動を図るか、いずれを優先するかを選択できる。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
上記各実施の形態では、動力伝達装置1,20,30が車両100のフロントユニット110や車両200のリアユニット120に組み込まれる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、他の車両(機関車、旅客車、貨物車および特殊車など)の走行装置、作業装置および工作機械などの動力伝達装置に組み込むことは当然可能である。
上記各実施の形態では、荷重付与装置15(アクチュエータ15a)が電動機(交流電動機または直流電動機)により構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の動力源を採用することは当然可能である。他の動力源としては、例えば、直流電動機、油圧モータ、空気圧シリンダ、油圧シリンダ、交流ソレノイド及び直流ソレノイド等が例示される。
ここで、アクチュエータ15aをソレノイドにより構成する場合には、歯車機構などによりスプラグ13に荷重を付与する場合に限られず、例えば、電磁力を利用してスプラグ13に荷重を付与するように構成しても良い。
上記第2実施の形態では、第2歯車対21が、第1歯車対6の隣に配設された場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、第1歯車対4の隣、第1歯車対4,5の間、第1歯車対5,6の間など、任意の位置に配設することが可能である。
上記各実施の形態では、第1クラッチ10を出力軸3に設けた場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、入力軸2に設けることも当然可能である。また、上記第2実施の形態においては、第2クラッチ22を入力軸2に設けた場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、出力軸3に設けることは当然可能である。
また、上記第3実施の形態においては、第2クラッチ34を出力軸32に設けた場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、入力軸2に設けることは当然可能である。この場合には、入力軸2と同軸に形成された入力軸を別途設け、その入力軸(以下「新入力軸」と称す)に第2歯車対33の駆動歯車33aを配設し、第1歯車対6の駆動歯車6aと並設する。新入力軸と入力軸2とを第2クラッチ34を介して連結する。第2クラッチ34の内輪11を入力軸2と一体に形成し、新入力軸に外輪連結部34aを連結させる。この場合も第3実施の形態における動力伝達装置30と同様に、コースト走行時に、荷重付与装置15の作動と非作動とを切り替えることにより、エネルギー損失を抑制して走行距離を伸ばすか、或いは出力軸31の制動を図るか、いずれを優先するかを選択できる。
上記各実施の形態では、第2クラッチ22,34が、スプラグの係合解除機能付きのスプラグ型ワンウェイクラッチを備えて構成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他のワンウェイクラッチやツーウェイクラッチを用いることは可能である。他のワンウェイクラッチとしては、例えば、スプラグの係合解除機能を有していない通常のスプラグ型ワンウェイクラッチ等が例示される。ツーウェイクラッチとしては、例えば、特開2007−298145号公報に開示されるもの等が例示される。
上記第1実施の形態では説明を省略したが、第1速走行の状態から第2速走行の状態へシフトアップ変速を行った後に、第1速の第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させて第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除しても良い。同様に、第2速走行の状態から第3速走行の状態へシフトアップ変速を行った後に、第2速の第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させて第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除しても良い。同様に、車両100のコースト走行時に、第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させて各第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除しても良い。
上記第2実施の形態では説明を省略したが、車両100の加速走行時(第3速)、第1速および第2速の第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させて第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除しても良い。同様に、車両100のコースト走行時に、第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させて第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除しても良い。これは、第3実施の形態の場合も同様である。
1,20,30 動力伝達装置
2 入力軸
3,31,32 出力軸
4,5,6 第1歯車対
10 第1クラッチ
11 第1内輪
11a 外周面
12 第1外輪
12a 内周面
13 第1スプラグ
13a,13b 係合面
14 保持器
15 荷重付与装置
16 リボンスプリング(付勢部材)
21,33 第2歯車対
22,34 第2クラッチ
221,341 第2内輪
222,342 第2外輪
223,343 第2スプラグ
111 エンジン(動力源)
112 モータ(動力源)
A,B 接点
O 軸心
本発明は、動力伝達装置に関し、特に、一定方向への回転の伝達および遮断の切り替えを素早く行うと共に切り替え時の衝撃を防止することができ、さらに特別な制御を行わなくても、惰性運動時の出力量が減少することを防止できる動力伝達装置に関するものである。
従来、動力源からの動力を伝達する動力伝達装置として、例えば、特許文献1には、入力軸と、入力軸に平行な出力軸と、入力軸および出力軸に配設され互いに常時噛み合って異なる変速比となるように設定された複数の歯車対と、歯車対のそれぞれ一方の歯車に設けられたツーウェイクラッチと、を備えるものが開示されている。
特許文献1に開示される動力伝達装置では、ツーウェイクラッチは、外周面が断面多角形状の内輪と、その内輪の外周面に対向する断面円形状の内周面を有する外輪と、その外輪の内周面と内輪の外周面との間に複数のローラを円周方向に保持する保持器とを備えている。このツーウェイクラッチは、保持器が中立状態にあると、外輪の内周面とローラとの間に隙間が存在するため、内輪と外輪とは自由に相対回転できる(空転して動力は伝達されない)。これに対し、保持器を円周方向に変位させてローラを移動させると、内輪や外輪の回転に伴って、ローラが外輪の内周面と内輪の外周面との間に楔のように噛み込み、内輪と外輪とをロックできる(ロック状態では動力が伝達される)。このように、この動力伝達装置では、該当する歯車対に設けられた保持器を中立状態から円周方向に変位させ、内輪と外輪との間にローラを噛み込ませることによりロックさせ、動力を伝達する状態に切り替えて変速を行う。
しかしながら、特許文献1に開示される動力伝達装置では、動力を伝達しない状態から動力を伝達する状態に切り替えるためには、該当する歯車対に設けられたローラを円周方向に移動させ、さらに内輪や外輪の回転を利用して、外輪の内周面と内輪の外周面との間にローラを楔のように噛み込ませる必要がある。このため、ローラの移動に時間がかかり、切り替えに時間を要するという問題点があった。
また、切り替えに時間を要すると、動力を伝達しない状態から動力が伝達されるまでの間に、外輪または入力軸と内輪または出力軸とが空転する。この結果、ローラが楔のように噛み込むロック時に、衝撃が生じるという問題点があった。
また、加速時にシフトアップ変速を行う場合、内外輪の回転に対して回転を止めるブレーキ力を付加してローラを回転方向に移動させると共に、動力が入力される外輪の回転速度が、出力軸に繋がる内輪の回転速度と同じか又は相対的に速くなると、ローラが外輪の内周面と内輪の外周面との間の正回転方向に噛み込まれる。その結果、内輪と外輪とがロックされ、入力軸から出力軸を駆動する状態となる。次いで、コースト走行(惰性走行)を行うと、動力が入力される外輪の回転速度は、出力軸に繋がる内輪の回転速度より相対的に遅くなるため、正回転方向に噛み込まれたローラが外れ、中立状態を経て、外輪の内周面と内輪の外周面との間の逆回転方向に噛み込まれる。その結果、再び内輪と外輪とがロックされ、出力軸から入力軸を駆動する状態となる。このように、正回転方向に噛み込まれたローラが外れ、中立状態を経て逆回転方向に噛み込まれる切り替え時においても、回転ガタがあるため、衝撃が生ずるという問題点があった。
また、コースト走行(惰性走行)時の抵抗を無くすには、出力軸の制動を抑制するため、ローラが噛み込まれないように中立状態に保つように制御する必要がある。このように、コースト走行時には、ローラを制御しなければ出力軸が制動されるため、惰性走行可能な距離が短くなるという問題点(惰性運動時の出力量が減少するという問題点)があった。
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、一定方向への回転の伝達および遮断の切り替えを素早く行うと共に切り替え時の衝撃を防止することができ、さらに特別な制御を行わなくても、惰性運動時の出力量が減少することを防止できる動力伝達装置を提供することを目的としている。
課題を解決するための手段および発明の効果
請求項1記載の動力伝達装置によれば、ワンウェイクラッチとしての第1クラッチでは、付勢部材によりスプラグに付勢力が付与され、第1内輪の外周面および第1外輪の内周面に係合面が係合可能な状態となるように第1スプラグがセルフロック方向へ傾動することで、第1内輪と第1外輪との相対回転により、第1内輪および第1外輪に第1スプラグが係合する。これにより、第1内輪と第1外輪との一定回転方向への相対回転が規制される。これに対し、荷重付与装置により付勢部材の付勢力に抗して第1内輪の外周面および第1外輪の内周面に第1スプラグの係合面が接する状態で保持器が回転されて第1スプラグに荷重が付与され、第1スプラグが反セルフロック方向へ傾動することで、第1内輪および第1外輪への第1スプラグの係合が解除され、第1内輪と第1外輪とが相対回転する。
このように、本発明によれば、第1内輪の外周面および第1外輪の内周面に第1スプラグの係合面が接する状態で保持器を回転させ第1スプラグを傾動させて一定方向への回転の伝達および遮断の切り替えを行うので、従来のように、ローラを円周方向に変位させて切り替えを行う場合と比較して、切り替えに要する時間を短縮でき、切り替えを素早く行うことができるという効果がある。
また、第1内輪の外周面および第1外輪の内周面に第1スプラグの係合面が接する状態で保持器を回転させ第1スプラグを傾動させて一定方向への回転の伝達および遮断を行うので、従来のように、動力を伝達しない状態から動力を伝達する状態になるまでの間に第1内輪と第1外輪とが空転することもなく、切り替え時の衝撃を防止することができるという効果がある。
また、付勢部材の付勢力に抗して電動機により第1スプラグが傾動されるので、荷重付与装置の構造を簡素化できると共に小型化を図ることができる。高速段側の荷重付与装置の電動機を駆動し、低速段側の荷重付与装置を非作動とすることで、低速段側の第1歯車対により入力軸から出力軸へ動力を伝達できる。
さらに、出力軸から入力軸へ動力が伝達される惰性運動時に、第1内輪および第1外輪への第1スプラグの係合が解除されて第1スプラグが反セルフロック方向へ自然に傾動するため、荷重付与装置を作動しなくても、出力軸から入力軸への動力の伝達が遮断される。その結果、荷重付与装置を作動しなくても、惰性運動時に出力軸が制動されることを防ぎ、惰性運動時の出力量が減少することを防止できるという効果がある。
請求項2記載の動力伝達装置によれば、第2歯車対に配設され出力軸から入力される動力を入力軸へ伝達する第2クラッチを備えているので、出力軸から入力軸へ動力が伝達される惰性運動時には、第2クラッチによって出力軸から入力軸へ動力が伝達され、出力軸から入力軸を駆動する状態となり、動力源が出力軸の駆動抵抗となるため出力軸を制動できる。その結果、請求項1の効果に加え、惰性運動時の出力量が減少することを防止するよりも、出力軸の制動を優先できるという効果がある。
請求項3記載の動力伝達装置によれば、第2歯車対の出力軸に配設された歯車の歯数が、第1歯車対の出力軸に配設された歯車の内の最小歯数より小さいので、第2歯車対の変速比が第1歯車対の変速比より小さくなる。これにより、第2クラッチは出力軸から入力軸への動力の伝達を遮断可能に構成しなくても、出力軸が惰性運動をする場合には、第1歯車対と第2歯車対との変速比の関係により、第1クラッチのスプラグを反セルフロック方向に傾動させることができる。このため、第1歯車対と第2歯車対との間に二重噛み合いが起きるのを防止できる。よって、請求項2の効果に加え、動力伝達装置の制御を簡素化できるという効果がある。
また、出力軸に逆動力(出力軸を逆回転させようとする動力)が入力される場合に、第1歯車対および第2歯車対の変速比により回転速度差が生じ、第1歯車対と第2歯車対とを二重噛み合いにできるという効果がある。このため、車両が登坂停止している場合に、サイドブレーキを作動させたり大きな駆動力が得られるように動力源を制御したりすることなく、車両の後退を防止することができる。また、車両が登坂停止した状態から前進する場合は、動力源を駆動するのみで発進できる。
請求項4記載の動力伝達装置によれば、第2クラッチは、出力軸から入力軸への動力の伝達を遮断可能に構成されているので、出力軸から入力軸への動力の伝達を遮断すれば惰性運動時に出力量が減少することを防止できる。その結果、出力軸から入力軸への動力の伝達を遮断しなければ出力軸の制動を行うことができる。以上のように、請求項2又は3の効果に加え、惰性運動時に、出力量または出力軸の制動のいずれを優先するかを選択できるという効果がある。
請求項5記載の動力伝達装置によれば、第2クラッチは、第2内輪と第2外輪とに接する第2スプラグを傾動させて一定方向への回転の伝達および遮断の切り替えを行うので、従来のように、ローラを円周方向に変位させて切り替えを行う場合と比較して、切り替えに要する時間を短縮できる。従って、請求項4の効果に加え、切り替えを素早く行うことができるという効果がある。
また、第2スプラグを傾動させて一定方向への回転の伝達および遮断を行うので、従来のように、動力を伝達しない状態から動力を伝達する状態になるまでの間に第2内輪と第2外輪とが空転することもなく、切り替え時の衝撃を防止できるという効果がある。
また、加速時において第1クラッチがセルフロックされる状態から、コースト時において第2クラッチがセルフロックされる状態に回転ガタなく切り替えることができるため、切り替え時の遊転による衝撃を防止できるという効果がある。
第1実施の形態における動力伝達装置が搭載される車両を模式的に示した模式図である。
動力伝達装置を模式的に示した模式図である。
第1クラッチの断面図である。
図3のIV−IV線における第1クラッチの断面図である。
図4のVで示す部分を拡大して示した第1クラッチの部分拡大断面図である。
(a)は加速走行時(第1速)の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(b)は加速走行時(第2速)の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(c)は加速走行時(第3速)の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図である。
コースト走行時(第3速)の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図である。
(a)は第2実施の形態における動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(b)は第2クラッチの内部構造の一部を模式的に示した模式図である。
(a)は第2実施の形態における動力伝達装置において加速走行時(第3速)の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(b)はコースト走行時(第3速)に出力軸から入力軸に動力を伝達する動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(c)はコースト走行時(第3速)に出力軸から入力軸への動力の伝達を遮断した動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図である。
(a)は第2実施の形態における動力伝達装置において車両が登坂停止している場合の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図であり、(b)は車両が登坂停止した状態から前進する場合の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図である。
(a)は第3実施の形態における動力伝達装置が搭載される車両を模式的に示した模式図であり、(b)は動力伝達装置を模式的に示した模式図である。
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1実施の形態における動力伝達装置1が搭載される車両100を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印F−B,L−Rは、車両100の前後方向、左右方向をそれぞれ示している。
まず、車両100の概略構成について説明する。車両100は、図1に示すように、前輪101(左の前輪101FL及び右の前輪101FR)を駆動するフロントユニット110を備えている。フロントユニット110は、動力源としてのエンジン111及びモータ112と、それらエンジン111及びモータ112の動力を前輪101に伝達する動力伝達装置113とを主に備え、エンジン111及びモータ112の2つの動力を使い分けて前輪101を駆動可能に構成されている。また、このフロントユニット110は、モータ112が発電機としての機能を兼ね備えており、モータ112により発電した電力を回生可能に構成されている。なお、車両100は、エンジン111又はモータ112のいずれか片方で構成されても良い。
次いで、図2を参照して、動力伝達装置1の詳細構成について説明する。図2は、動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図である。なお、図2では、理解を容易とするために、動力を伝達する機能を担う構成のみを図示している。また、以下の実施の形態においては、入力軸2にモータ112の駆動力を伝達する場合について説明するが、モータ112に代えてエンジン111の駆動力を伝達することや、エンジン111及びモータ112の駆動力を伝達することも当然可能である。
動力伝達装置1は、図2に示すように、モータ112の動力が入力される入力軸2と、その入力軸2と平行に配設された出力軸3と、その出力軸3および入力軸2に配設され互いに噛み合って異なる変速比となるように設定された複数の第1歯車対4,5,6とを主に備えて構成されている。本実施の形態では、モータ112と第1歯車対4との間の入力軸2にメインクラッチ7が配設されており、メインクラッチ7を接続することで、モータ112の動力を動力伝達装置1に伝達するように構成されている。また、出力軸2に伝達された動力が動力伝達装置1の外部に出力され、前輪101に伝達されるように構成されている。
第1歯車対4,5,6は、入力軸2に配設され入力軸2から伝達される動力により駆動される駆動歯車4a,5a,6aと、出力軸3に配設され駆動歯車4a,5a,6aにより従動駆動される被動歯車4b,5b,6bとを備えている。ここで、第1歯車対4,5,6は、変速比(被動歯車の歯数÷駆動歯車の歯数)の大きなものから、モータ112に近い順に第1速、第2速、第3速とされ、本実施の形態においては、第1歯車対4が第1速、第1歯車対5が第2速、第1歯車対6が第3速である。なお、後進段については、図示を省略している。後進段の場合は、第1歯車対4,5,6の間にピニオン歯車を挿入すれば良い。
第1歯車対4,5,6を構成する駆動歯車4a,5a,6aは、それぞれ入力軸2と一体に形成されている。一方、駆動歯車4a,5a,6aにそれぞれ対向して噛み合う被動歯車4b,5b,6bは、後述する第1クラッチ10を介して出力軸3にそれぞれ固定されている。第1クラッチ10は、入力軸2から出力軸3へ動力を伝達する一方、出力軸3から入力軸2への動力の伝達を遮断するものであり、入力軸2から出力軸3への動力の伝達を遮断可能に構成されている。
ここで、図3及び図4を参照して、第1クラッチ10の詳細構成について説明する。図3は、第1クラッチ10の断面図であり、図4は、図3のIV−IV線における第1クラッチ10の断面図である。第1クラッチ10は、図3及び図4に示すように、第1内輪11と、その第1内輪11の外周を囲む第1外輪12と、それら第1内輪11と第1外輪12との間に配設される複数の第1スプラグ13と、それら第1スプラグ13を保持する保持器14と、荷重付与装置15とを主に備えて構成されている。
第1内輪11は、動力を伝達する機能を担う部材であり、図3及び図4に示すように、断面円形状の外周面11aを備え、軸心O回りに回転可能に構成されている。また、この第1内輪11は、出力軸3(図2参照)と一体に形成されている。第1外輪12は、第1内輪11と共に動力を伝達する機能を担う部材であり、図3及び図4に示すように、第1内輪11の外周面11aに対向する断面円形状の内周面12aを備え、第1内輪11と同様に軸心O回りに回転可能に構成されている。また、この第1外輪12は、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6b(図2参照)と一体に形成されている。
第1スプラグ13は、第1内輪11と第1外輪12とを係合する機能を担う部材であり、外周面11a及び内周面12aにそれぞれ接する係合面13a,13b(図5参照)を備え、図4に示すように、外周面11a及び内周面12aの対向間において円周方向に等間隔で複数配設されている。また、この第1スプラグ13は、リボンスプリング16(図5参照)により内周面11a及び外周面12aの円周方向に付勢されている。
ここで、図5を参照して、リボンスプリング16について説明する。図5は、図4のVで示す部分を拡大して示した第1クラッチ10の部分拡大断面図である。リボンスプリング16は、第1スプラグ13に付勢力を付与して外周面11a及び内周面12aに係合面13a,13bが接するように第1スプラグ13に図5の矢印S方向(以下「セルフロック方向」と称す)の回転モーメントを発生させる部材であり、図5に示すように、金属材料に波状の曲げ加工を施して形成され、その弾性を利用して第1スプラグ13に付勢力を付与可能に構成されている。但し、このリボンスプリング16は、コイルばねにより構成しても良い。
このリボンスプリング16により第1スプラグ13に付勢力が付与されることで、外周面11a及び内周面12aに係合面13a,13bが接するように第1スプラグ13がセルフロック方向へ傾動する。その結果、図5に示すように、内周面12aと係合面13bとの接点A及び外周面11aと係合面13aとの接点Bに摩擦力が発生すると共に外周面11a及び内周面12aの円周方向における各接点A,Bの位置ずれにより、第1内輪11及び第1外輪12が所定の方向へ回転する場合には、第1内輪11及び第1外輪12に第1スプラグ13が係合する。
即ち、第1外輪12が第1スプラグ13に対して、第1内輪11との相対回転で第1内輪11側から見て、図5の矢印Ro方向(以下「ロック方向」と称す)へ回転する場合には、第1内輪11及び第1外輪12に第1スプラグ13が係合する。これにより、出力軸3は被動歯車4b,5b,6bと共に回転する。一方、第1外輪12が第1スプラグ13に対して、第1内輪11との相対回転で第1内輪11側から見て、図5の反矢印Ro方向(以下「フリー方向」と称す)へ回転する場合には、接点Aに作用する摩擦力により第1スプラグ13がリボンスプリング16の付勢力に抗して反セルフロック方向へ傾動し、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が解除される。その結果、被動歯車4b,5b,6bは出力軸3を空転する。
また、第1内輪11が第1スプラグ13に対して、第1外輪12との相対回転で第1外輪12側から見て、図5の矢印Ri方向(以下「ロック方向」と称す)へ回転する場合には、第1内輪11及び第1外輪12に第1スプラグ13が係合する。その結果、出力軸3は被動歯車4b,5b,6bと共に回転する。一方、第1内輪11が第1スプラグ13に対して、第1外輪12との相対回転で第1外輪12側から見て、図5の反矢印Ri方向(以下「フリー方向」と称す)へ回転する場合には、接点Bに作用する摩擦力により第1スプラグ13がリボンスプリング16の付勢力に抗して反セルフロック方向へ傾動し、被動歯車4b,5b,6bは出力軸3を空転する。
図3及び図4に戻って説明する。保持器14は、第1スプラグ13を外周面11a及び内周面12aの円周方向へ傾動可能に保持する部材であり、図3及び図4に示すように、保持部14aと、荷重伝達部14bとを備えて構成されている。保持部14aは、第1スプラグ13を保持する部位であり、図3及び図4に示すように、軸心O方向に延設され、第1スプラグ13の上端側を保持している。荷重伝達部14bは、荷重付与装置15から荷重が伝達される部位であり、図3に示すように、軸心O方向と交差する方向に延設されている。これにより、荷重伝達部14bを軸心O方向に延設する場合と比較して、保持器14の軸心O方向の寸法を短縮でき、第1クラッチ10の小型化を図ることができる。また、この荷重伝達部14bは、図4に示すように、歯車状に形成され、後述するピニオン15bとの間に構成される歯車機構を介して荷重付与装置15から荷重が伝達されるように構成されている。これにより、荷重付与装置15から保持器14までの荷重の伝達経路中に生じるエネルギー損失を小さくでき、効率良く保持器14に荷重を伝達することができる。
荷重付与装置15は、リボンスプリング16の付勢力に抗して第1スプラグ13に荷重を付与して第1スプラグ13を反セルフロック方向(図5の反矢印S回転方向)へ傾動させるための装置であり、図3及び図4に示すように、アクチュエータ15aと、ピニオン15bとを備えて構成されている。アクチュエータ15aは、第1スプラグ13に付与する荷重を生み出す動力源であり、電動機(交流モータ又は直流モータ)により構成され、電源(図示せず)から供給される電力により駆動可能に構成されている。このように、アクチュエータ15aが電動機により構成されているので、例えば、アクチュエータ15aをシリンダやソレノイド等により構成する場合と比較して、荷重付与装置15の構造を簡素化すると共に小型化を図ることができる。また、荷重付与装置15の構造が複雑な場合には、荷重付与装置15が大型化し第1クラッチ10の大型化を招くところ、荷重付与装置15の構造を簡素化すると共に小型化を図ることができれば、第1クラッチ10の小型化を図ることができる。
ピニオン15bは、アクチュエータ15aの動力を保持器14に伝達するための部材であり、図3に示すように、保持器14の荷重伝達部14bと噛み合う歯車状に形成され、荷重伝達部14bとの間に歯車機構を構成している。このピニオン15bによりアクチュエータ15aの動力が保持器14に伝達されることで、保持器14を介して第1スプラグ13に荷重が付与される。このように、荷重付与装置15は、保持器14を介して第1スプラグ13に荷重を付与するので、複数の第1スプラグ13に一度に荷重を付与することができ、効率良く第1スプラグ13に荷重を付与することができる。
上述したように構成される荷重付与装置15によれば、リボンスプリング16の付勢力に抗して第1スプラグ13に荷重を付与することで、第1スプラグ13を反セルフロック方向へ傾動させて、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除することができる。これにより、モータ112から入力軸2、駆動歯車4a,5a,6a、被動歯車4b,5b,6bと伝達された動力が、第1クラッチ10の第1外輪12に入力されて、第1外輪12が第1スプラグ13に対して、第1内輪11との相対回転で第1内輪11側から見て、ロック方向(図5の矢印Ro方向)へ回転する場合でも、荷重付与装置15により第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除することで、被動歯車4b,5b,6bを空転させて、入力軸2から出力軸3への動力の伝達を遮断することができる。
次いで、図6から図7を参照して、上述したように構成される第1実施の形態における動力伝達装置1の作動状態について説明する。図6から図7は、動力伝達装置1の内部構造の正面視を模式的に示しており、理解を容易とするために、動力の伝達経路を矢印Pで示すと共に、駆動歯車4a,5a,6a、被動歯車4b,5b,6b及び第1クラッチ10の第1外輪12の各回転方向を矢印で示している。また、第1歯車対4,5,6において、第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させて、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を解除した場合を「ON」と表記し、第1クラッチ10の荷重付与装置15を非作動として、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が可能な場合を「OFF」と表記している。
まず、図6を参照して、車両100の前進時における動力伝達装置1の作動状態について説明する。図6(a)は加減速走行時(第1速)の動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図であり、図6(b)は加減速走行時(第2速)の動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図であり、図6(c)は加減速走行時(第3速)の動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図である。
図6に示すように、車両100の前進時には、モータ112(図2参照)が正回転することで入力軸2が正回転し、動力が駆動歯車4a,5a,6aに伝達され、駆動歯車4a,5a,6aと噛み合う被動歯車4b,5b,6bが回転する。入力軸2の回転速度はモータ112の回転速度によって定まる。また、被動歯車4bの回転速度をα1、被動歯車5bの回転速度をα2、被動歯車6bの回転速度をα3とすれば、入力軸2から出力軸3に動力が伝達された場合の回転速度α1,α2,α3は、入力軸2の回転速度によって一義的に定まり、第1歯車対4,5,6の変速比の関係から、α1<α2<α3となる。出力軸3の回転速度は、変速段に応じた回転速度となる。
図6(a)に示すように、第1速走行時は、第2速の被動歯車5b及び第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)させる。その結果、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が強制的に解除される。第1速の被動歯車4bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12がロック方向(図5の矢印Ro方向)へ回転すると、荷重付与装置15が非作動(OFF)のため、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合し、第1外輪12から第1内輪11に向かって動力が伝達される。その結果、第1速の被動歯車4bは出力軸3と共に回転し、出力軸3がα1の回転速度で回転する。この時、第2速及び第3速の被動歯車5b,6bの回転速度は、出力軸3の回転速度α1より速くなる(α1<α2<α3)。その結果、被動歯車5b,6bにおける第1外輪12は、第1内輪11との相対回転で第1内輪11側から見て、ロック方向(図5の矢印Ro方向)へ回転する。しかし、第2速及び第3速における第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動(ON)させているため、被動歯車5b,6bは出力軸3を空転し動力は伝達されない。
次に、第1速走行の状態から、第2速へシフトアップ変速を行うときは、図6(b)に示すように、第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)の作動を停止(OFF)する。その結果、第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10においても、第1速の被動歯車4bの第1クラッチ10と同様に、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合可能な状態となる。
ここで、第2速の被動歯車5bの回転速度α2は、第1速の被動歯車4bの回転速度α1より速いため(α1<α2)、第2速の被動歯車5bの回転速度α2が、出力軸3の回転速度(α1)を超えることになる。よって、第2速の被動歯車5bにおける第1クラッチ10では、第1内輪11との相対回転で第1内輪11側から見て、第1外輪12がロック方向へ回転し、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第1外輪12から第1内輪11に向かって動力が伝達され、第2速の被動歯車5bは出力軸3と共に回転し、出力軸3がα2の回転速度で回転する。
一方、第1速の被動歯車4bの回転速度(α1)は、出力軸3の回転速度(α2)より遅くなる(α1<α2)。このため、第1速の被動歯車4bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12の回転速度が第1内輪11の回転速度よりも遅くなり、相対的に第1内輪11がフリー方向へ回転している状態と等しくなる。よって、第1速の被動歯車4bの第1クラッチ10では、第1スプラグ13は第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。この結果、第1速の被動歯車4bは出力軸3を空転し動力は伝達されない。さらに、第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10は荷重付与装置15を作動(ON)しているので、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が強制的に解除され、第3速の被動歯車6bは出力軸3を空転し動力は伝達されない。このように、第1速走行の状態から、第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10の荷重付与装置15の作動を停止するだけで、第2速へシフトアップ変速を行うことができる。
次に、第2速走行の状態から、第3速へシフトアップ変速を行うときは、図6(c)に示すように、第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)の作動を停止(OFF)する。その結果、第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10においても、第1速および第2速の被動歯車4b,5bの第1クラッチ10と同様に、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合可能な状態となる。
ここで、第3速の被動歯車6bの回転速度(α3)は、第2速の被動歯車5bの回転速度(α2)より速いため(α2<α3)、第3速の被動歯車6bの回転速度(α3)が、出力軸3の回転速度(α2)を超えることになる。よって、第3速の被動歯車6bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12が、第1内輪11との相対回転で第1内輪11側から見て、ロック方向へ回転し、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第1外輪12から第1内輪11に向かって動力が伝達され、第3速の被動歯車6bは出力軸3と共に回転し、出力軸3がα3の回転速度で回転する。
一方、第2速の被動歯車5bの回転速度(α2)は、出力軸3の回転速度(α3)より遅くなる(α2<α3)。このため、第2速の被動歯車5bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12の回転速度が第1内輪11の回転速度よりも遅くなり、相対的に第1内輪11がフリー方向へ回転している状態と等しくなる。よって、第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10では、第1スプラグ13は第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。この結果、第2速の被動歯車5bは出力軸3を空転し動力は伝達されない。
同様に、第1速の被動歯車4bの回転速度(α1)は、出力軸3の回転速度(α3)より遅い(α1<α3)。このため、第1速の被動歯車4bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12の回転速度が第1内輪11の回転速度よりも遅くなり、相対的に第1内輪11がフリー方向へ回転している状態と等しくなる。よって、第1速の被動歯車4bの第1クラッチ10においても、第1スプラグ13は第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。この結果、第1速の被動歯車4bは出力軸3を空転し動力は伝達されない。このように、第2速走行の状態から、第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)の作動を停止するだけで、第3速へシフトアップ変速を行うことができる。
以上のように、車両加速中のシフトアップ変速を行う場合には、高速段側の被動歯車における第1クラッチ10の荷重付与装置15の作動を停止するだけで、低速段側については何も操作することなく変速が可能となる。また、第1クラッチ10は、荷重付与装置15の作動を停止することにより、第1スプラグ13がセルフロック方向へ傾動し、瞬時に第1内輪11と第1外輪12との一定回転方向への相対回転が規制される。よって、切り替えに要する時間を短縮でき、素早い変速が可能となる。また、切り替えに要する時間を短縮できるため、動力を伝達しない状態から動力を伝達する状態になるまでの間に第1内輪11と第1外輪12とが空転することもなく、切り替え時の衝撃を防止することができる。さらに、第1クラッチ10の荷重付与装置15の作動と非作動と切り替えるだけで変速が可能となるため、複雑な噛合機構やシフトフォークなどが不要となり、重量低減や小型化を図ることができる。これにより、限られたスペース内に多数の第1歯車対を収装でき、例えば6速以上の多数段の動力伝達装置1もコンパクト化できる。
なお、車両加速中により強い駆動力を求める場合など、シフトダウン変速を行う場合も、シフトアップ変速の場合と同様に、第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)を用いることで変速が可能である。図6(c)に示す第3速走行の状態から、第2速へシフトダウン変速を行うときは、図6(b)に示すように、第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動(ON)させる。その結果、第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10において、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が解除されるため、第3速の被動歯車6bは出力軸3を空転し動力は伝達されなくなる。一方、第2速の被動歯車5bの回転速度は、第1速の被動歯車4bの回転速度より速いため、第2速の被動歯車5bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12がロック方向へ回転し、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第2速の被動歯車5bが出力軸3と共に回転することとなり、第3速走行の状態から第2速にシフトダウン変速できる。
次に、第2速走行の状態から第1速へシフトダウン変速を行うときは、図6(a)に示すように、第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)させる。その結果、第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10において、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12へのスプラグ13の係合が解除されるため、第2速の被動歯車5bは出力軸3を空転し動力は伝達されなくなる。その結果、第1速の被動歯車4bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12がロック方向へ回転し、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第1速の被動歯車4bが出力軸3と共に回転することとなり、第2速走行の状態から第1速にシフトダウン変速できる。
また、第3速走行の状態から、第2速を飛び越えて第1速へシフトダウン変速を行うことも可能である。この場合は、図6(c)に示す第3速走行の状態から、図6(a)に示すように、第3速の被動歯車6b及び第2速の被動歯車5bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)させる。その結果、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が解除されるため、第2速の被動歯車5b及び第3速の被動歯車6bは出力軸3を空転し、動力は伝達されなくなる。これに対し、第1速の被動歯車4bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12がロック方向へ回転し、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第1速の被動歯車4bが出力軸3と共に回転することとなり、第3速走行の状態から第1速にシフトダウン変速できる。
以上のように、シフトダウン変速を行う場合には、走行中の変速段の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させるだけで、低速段側については何も操作することなく変速が可能となる。また、同様の操作により、所定の変速段を飛び越えてシフトダウン変速を行うことも可能である。さらに、第1クラッチ10は、荷重付与装置15を作動させることにより、付勢部材16の付勢力に抗して第1スプラグ13に荷重が付与され、第1スプラグ13が反セルフロック方向へ傾動することで第1内輪11および第1外輪12への第1スプラグ13の係合が解除される。よって、切り替えに要する時間を短縮でき素早い変速が可能となる。
次いで、図7を参照して、アクセルペダルを操作しない車両100のコースト走行時(惰性走行時)における動力伝達装置1の作動状態について説明する。図7はコースト走行時(第3速)の動力伝達装置の内部構造を模式的に示した模式図である。図6(c)を参照しながら説明した第3速走行の状態において、アクセルペダルを操作しない車両100のコースト走行を行う場合は、図7に示すように、動力が出力軸3から動力伝達装置1に入力される。アクセルペダルを操作していないため、モータ112の回転数は下がり、入力軸2の回転は低下する。その結果、第1速、第2速および第3速の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10の第1内輪11(図5参照)が、第1外輪12との相対回転で第1外輪12側から見て、フリー方向(図5の反矢印Ri方向)へ回転する。このため、第1速、第2速および第3速の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10では、第1スプラグ13が反セルフロック方向へ傾動し、第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。よって、被動歯車4b,5b,6bは出力軸3を空転し入力軸2に動力は伝達されない。
以上のように、コースト走行時には、荷重付与装置15を作動しなくても出力軸3から入力軸2への動力の伝達が遮断される。これは、第1速走行(図6(a)参照)、第2速走行(図6(b)参照)の場合においても同様である。その結果、荷重付与装置15を作動させるという制御を行わなくても、モータ112の内部抵抗やイナーシャが出力軸3の駆動抵抗となることが防止され、出力軸3が制動されることを防止できる。よって、エネルギー損失を抑制して、コースト走行時の走行距離が短くなることを防止できる。
次いで、図8を参照して、第2実施の形態における動力伝達装置20について説明する。図8(a)は動力伝達装置20の内部構造を模式的に示した模式図であり、図8(b)は第2クラッチ22の内部構造の一部を模式的に示した模式図である。以下、第1実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。なお、図8では、理解を容易とするために、動力を伝達する機能を担う構成のみを図示している。
動力伝達装置20は、車両100(図1参照)に搭載される動力伝達装置1に代えて、車両100に搭載されている。また、図8(a)に示すように、モータ112の動力が入力される入力軸2と、その入力軸2に平行に配設された出力軸3と、その出力軸3および入力軸2に配設され互いに噛み合って異なる変速比となるように設定された複数の第1歯車対4,5,6とを備えている。これらの構成は、第1実施の形態において説明したものと同様である。第2実施の形態における動力伝達装置20は、さらに、入力軸2および出力軸3に配設され互いに噛み合う第2歯車対21を備えて構成されている。
第2歯車対21を構成する駆動歯車21aは、第2クラッチ22を介して入力軸2に固定されている。一方、駆動歯車21aに対向して噛み合う被動歯車21bは、出力軸3と一体に形成されている。また、第2歯車対21の被動歯車21bの歯数は、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6bの内の最小歯数(本実施の形態においては被動歯車6bの歯数)より小さくなるように形成されている。このため、入力軸2から出力軸3に動力が伝達された場合、被動歯車4b,5b,6bの回転速度α1,α2,α3及び被動歯車21bの回転速度α4は、入力軸2の回転速度によって一義的に定まり、変速比の関係からα1<α2<α3<α4となる。また、出力軸3の回転速度は変速段に応じた回転速度となる。なお、第1歯車対4,5,6及び第2歯車対21の変速比(被動歯車の歯数÷駆動歯車の歯数)を順にk1,k2,k3,k4とすると、変速比はk1>k2>k3>k4の関係となる。
第2クラッチ22は、出力軸3から入力軸2へ動力を伝達する一方、入力軸2から出力軸3への動力の伝達を遮断するものであり、出力軸3から入力軸2への動力の伝達を遮断可能に構成されている。なお、第2クラッチ22は第1クラッチ10と同様に構成されているため、詳細な説明を省略する。また、第1クラッチ10と同一の部分については同一の符号を用いて以下説明する。
第2クラッチ22は、第2内輪221(図8(b)参照)が入力軸2と一体に形成されており、第2外輪222は第2歯車対21の駆動歯車21aと一体に形成されている。また、第2クラッチ22は、第2外輪222の内周面222aと第2内輪221の外周面221aとに接する第2スプラグ223を備えている。この第2クラッチ22によれば、動力が入力軸2から入力され、第2内輪221が第2スプラグ223に対して、第2外輪222との相対回転で第2外輪222側から見て、図8(b)の反矢印Ri方向(フリー方向)に回転する場合には、第2内輪221及び第2外輪222への第2スプラグ223の係合が解除される。その結果、入力軸2は駆動歯車21aを空転し、入力軸2から出力軸3への動力の伝達が遮断される。また、第2内輪221が第2スプラグ223に対して、第2外輪222との相対回転で第2外輪222側から見て、図8(b)の矢印Ri方向(ロック方向)に回転する場合には、第2内輪221及び第2外輪222へ第2スプラグ223が係合する。その結果、駆動歯車21aは入力軸2と共に回転し、入力軸2から出力軸3へ動力が伝達される。
一方、動力が出力軸3から、被動歯車21bを介して第2クラッチ22に入力されると、第2外輪222が第2スプラグ223に対して図8(b)の矢印Ro方向(ロック方向)に回転し、第2内輪221及び第2外輪222へ第2スプラグ223が係合する。その結果、駆動歯車21aは入力軸2と共に回転し、出力軸3から入力軸2へ動力が伝達される。また、第2外輪222が第2スプラグ223に対して、第2内輪221との相対回転で第2内輪221側から見て、図8(b)の反矢印Ro方向(フリー方向)に回転する場合には、第2内輪221及び第2外輪222への第2スプラグ223の係合が解除される。その結果、入力軸2は駆動歯車21aを空転し、出力軸3から入力軸2への動力の伝達が遮断される。
なお、第2クラッチ22は、第1クラッチ10と同様に荷重付与装置(図示しない)を備えている。第2クラッチ22の荷重付与装置15(図4参照)を作動させることで、リボンスプリング16の付勢力に抗して第2スプラグ223に荷重を付与し、第2スプラグ223を反セルフロック方向へ傾動させて、第2内輪221及び第2外輪222への第2スプラグ223の係合を強制的に解除できる。これにより、出力軸3から被動歯車21b及び駆動歯車21aを介して、第2クラッチ22に伝達された動力が第2外輪222に入力されて、第2外輪222が第2スプラグ223に対してロック方向(図8(b)の矢印Ro方向)へ回転する場合でも、荷重付与装置15により第2内輪221及び第2外輪222への第2スプラグ223の係合を強制的に解除することで、駆動被動歯車21aを空転させて、出力軸3から入力軸2への動力の伝達を遮断することができる。
次いで、図9から図10を参照して、上述したように構成される第2実施の形態における動力伝達装置20の作動状態について説明する。図9から図10は、動力伝達装置20の内部構造の正面視を模式的に示している。ここで、図9および図10では、理解を容易とするために、動力の伝達経路を矢印Pで示すと共に、駆動歯車4a,5a,6a,21a、被動歯車4b,5b,6b,21b及び第1クラッチ10及び第2クラッチ22の外輪12の各回転方向を矢印で示している。また、第1歯車対4,5,6及び第2歯車対21において、第1クラッチ10及び第2クラッチ22の荷重付与装置15(図4参照)を作動させて、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合、第2内輪221及び第2外輪222への第2スプラグ223の係合を解除した場合を「ON」と表記する。第1クラッチ10及び第2クラッチの荷重付与装置15を非作動として、第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合、第2内輪221及び第2外輪222への第2スプラグ223の係合が可能な場合を「OFF」と表記している。
まず、図9を参照して、車両100の前進時における動力伝達装置20の作動状態について説明する。図9(a)は加速走行時(第3速)の動力伝達装置20の内部構造を模式的に示した模式図であり、図9(b)はコースト走行時(第3速)に出力軸3から入力軸2に動力を伝達する動力伝達装置20の内部構造を模式的に示した模式図であり、図9(c)はコースト走行時(第3速)に出力軸3から入力軸2への動力の伝達を遮断した動力伝達装置20の内部構造を模式的に示した模式図である。
図9(a)に示すように、加速走行時(第3速)は、第1実施の形態で説明したように、第1速〜第3速の被動歯車4b,5b,6b(被動歯車の回転方向は図9において時計回り)の第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)の作動を停止する(OFF)。第3速の被動歯車6bの回転速度(α3)は、第1速および第2速の被動歯車4b,5bの回転速度(α1,α2)より速いため(α1<α2<α3)、第3速の被動歯車6bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12が第1内輪11との相対回転でロック方向(図5の矢印Ro方向)に回転し、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第1外輪12から第1内輪11に向かって動力が伝達され、第3速の被動歯車6bは出力軸3と共に回転し、出力軸3がα3の回転速度で回転する。
一方で、この場合には、出力軸3から被動歯車21bを介して、駆動歯車21aが回転速度α4で回転する。本実施の形態においては、第2歯車対21の変速比(被動歯車の歯数÷駆動歯車の歯数)k4が、第1歯車対6の変速比k3より小さく設定されているので、第2歯車対21の駆動歯車21aの回転速度(α4=α3・k4=k4/k3・α)は、入力軸2の回転速度(α)より小さくなる。このため、第2クラッチ22では、第2外輪222(図8(b)参照)の回転速度α4が第2内輪221の回転速度αよりも遅くなり、相対的に第2外輪222がフリー方向へ回転している状態と等しくなる。よって、第2クラッチ22では、第2スプラグ223は第2内輪221及び第2外輪222へ係合できない。従って、第2クラッチ22の荷重付与装置15を作動しなくても、動力伝達装置20は、第2歯車対21に影響されることなく、第3速の走行状態(出力軸3の回転速度α3)となる。
なお、第2歯車対21の変速比k4を、第1歯車対6の変速比k3より大きくなるように設定した場合は、駆動歯車21aの回転速度(α4=k4/k3・α)は、入力軸2の回転速度(α)より大きくなる。このため、第2クラッチ22では、第2外輪222の回転速度α4が第2内輪221の回転速度αよりも速くなり、相対的に第2外輪222がロック方向へ回転している状態と等しくなる。この場合には、第2クラッチ22の荷重付与装置15を作動させることにより(ON)、第2スプラグ223を強制的に反セルフロック方向へ傾動させ、第2内輪221及び第2外輪222へ係合できなくする。その結果、上述の場合と同様に、第2歯車対21に影響されることなく、第3速の走行状態(出力軸3の回転速度α3)が得られる。
次に、第3速走行の状態でコースト走行を行う場合は、図9(b)に示すように、動力が出力軸3から入力軸2へと入力される。その結果、出力軸3から第2歯車対21の被動歯車21bを介して駆動歯車21aが駆動される。即ち、第2クラッチ22の第2外輪222(図8(b)参照)に動力が伝達される(回転速度α4)。一方、第2クラッチ22の第2内輪221は入力軸2からの駆動力が無い状態なので、その回転速度は、駆動歯車21aの回転速度α4より遅くなる。その結果、第2クラッチ22の第2外輪222が、第2内輪221との相対回転で第2内輪221側から見て、ロック方向(図8(b)の矢印Ro方向)に回転する。第2クラッチ22の荷重付与装置15を作動させない場合には(OFF)、第2外輪222及び第2内輪221へスプラグ13が係合する。その結果、第2クラッチ22の第2外輪222から第2内輪221に向かって動力が伝達され、第2歯車対21の駆動歯車21aは入力軸2と共に回転する(回転速度α4)。第2歯車対21の変速比がk4であり、第2歯車対21の被動歯車21bの回転速度がα3であるから、第2歯車対21の駆動歯車21aの回転速度α4はk4・α3である。第2歯車対21の駆動歯車21aの回転につれて入力軸2が回転し、第1歯車対4,5,6の駆動歯車4a,5a,6aも回転する(回転速度α4=k4・α3)。
この結果、第1歯車対4,5,6の駆動歯車4a,5a,6aと噛み合う被動歯車4b,5b,6bに動力が伝達され、被動歯車4b,5b,6bは各々の変速比に応じた速度で回転する。被動歯車4bの回転速度β1はk4/k1・α3であり、被動歯車5bの回転速度β2はk4/k2・α3であり、被動歯車6bの回転速度β3はk4/k3・α3である。k1>k2>k3>k4であるから、被動歯車4b,5b,6bの回転速度β1,β2,β3は、いずれもα3より小さくなる。
一方、出力軸3の回転速度はα3であるため、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6bの第1クラッチ10(図5参照)では、第1内輪11がα3の速度で回転する。このため、第1クラッチ10では、第1内輪11の回転速度が第1外輪12の回転速度(β1=k4/k1・α3)よりも速くなり、相対的に第1内輪11がフリー方向(図5の反矢印Ri方向)へ回転している状態と等しくなる。よって、第1クラッチ10では、第1スプラグ13は第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。従って、第2クラッチ22の荷重付与装置15を作動させない場合(OFF)、動力伝達装置20(図8(a)参照)は、第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させなくても、第1歯車対4,5,6に影響されることなく、出力軸3からの動力を入力軸2へ第2歯車対21を介して伝達できる。これにより、車両100のコースト走行時には、出力軸3から入力される動力によりモータ112を発電機として機能させて、モータ112により発電した電力を電源に回生することができる。これにより、省エネルギー化を図ることができる。また、モータ112の内部抵抗やイナーシャが出力軸3の駆動抵抗となるため、出力軸3を制動できる(エンジンブレーキ)。
これに対し、モータ112の内部抵抗やイナーシャが出力軸3の駆動抵抗となるのを防ぐ場合には、図9(c)に示すように、第2クラッチ22の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)させる。出力軸3から動力が動力伝達装置20(図8(a)参照)に入力されると、第2クラッチ22の第2外輪222(図8(b)参照)が、第2内輪221との相対回転で第2内輪221側から見て、ロック方向(図8(b)の矢印Ro方向)に回転するが、第2クラッチ22の荷重付与装置15を作動(ON)させることにより、第2スプラグ223が強制的に反セルフロック方向へ傾動され、第2外輪222及び第2内輪221へ係合できない。よって、駆動歯車21aは入力軸2を空転し入力軸2に動力は伝達されない。
また、第1速、第2速および第3速の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10の第1内輪11(図5参照)は、第1外輪12との相対回転でフリー方向(図5の反矢印Ri方向)へ回転する。このため、第1速、第2速および第3速の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10では、第1スプラグ13が反セルフロック方向へ傾動し、第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。よって、被動歯車4b,5b,6bは出力軸3を空転し、入力軸2に動力は伝達されない。これにより、エネルギー損失を抑制して、コースト走行における走行距離が短くなることを防止できる。
以上のように、コースト走行時に、第2クラッチ22の荷重付与装置15の作動と非作動とを切り替えることにより、エネルギー損失を抑制して走行距離を伸ばすか、或いは出力軸3の制動および電力の回生を図るか、いずれを優先するかを選択できる。
次いで、図10を参照して、車両100の登坂停止時における動力伝達装置20の作動状態について説明する。図10(a)は第2実施の形態における動力伝達装置20において車両100が登坂停止している場合の動力伝達装置20の内部構造を模式的に示した模式図であり、図10(b)は車両100が登坂停止した状態から前進する場合の動力伝達装置20の内部構造を模式的に示した模式図である。
車両100が登坂停止している場合は、車両100は重力により坂を後進しようとするため、前輪101は前進の回転に対して逆回転しようとする。この結果、図10(a)に示すように、前輪101から動力伝達装置20の出力軸3を逆回転させようとする逆動力が入力される。この逆動力により、出力軸3から被動歯車21bを介して、駆動歯車21aは逆回転(図10(a)時計回りに回転)しようとする。これにより、第2歯車対21の第2クラッチ22の第2外輪222(図8(b)参照)は逆回転しようとする。また、第1歯車対4,5,6の第1クラッチ10の第1内輪11(図5参照)も、それぞれ逆回転(図10(a)反時計回りに回転)しようとする。この逆動力による出力軸3の回転速度(回転した場合の仮想値)をγとする。
この逆動力により、第1歯車対4,5,6においては、第1クラッチ10の第1内輪11が、第1外輪12との相対回転でロック方向(図5の矢印Ri方向)に回転しようとするので、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合する。その結果、第1クラッチ10の第1内輪11から第1外輪12に向かって動力が伝達され、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6bは出力軸3と共に回転しようとする(回転速度γ)。この結果、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6bと噛み合う駆動歯車4a,5a,6aに動力が伝達される。
ここで、第1歯車対4,5,6及び第2歯車対21の変速比(被動歯車の歯数÷駆動歯車の歯数)は、上述のとおり、順にk1,k2,k3,k4(但し、k1>k2>k3>k4)なので、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6bの回転速度がγのときは、駆動歯車4aの回転速度はk1・γ、駆動歯車5aの回転速度はk2・γ、駆動歯車6aの回転速度はk3・γとなる(駆動歯車4a,5a,6aの回転方向は図10(a)時計回り)。駆動歯車4a,5a,6aの回転により、入力軸2は回転速度k1・γ(或いはk2・γ又はk3・γ)で回転しようとする。この結果、入力軸2に連結する第2歯車対21の第2クラッチ22の第2内輪221(図8(b)参照)は、回転速度k1・γ(或いはk2・γ又はk3・γ)でロック方向(図8(b)の矢印Ri方向)に回転する。一方、駆動歯車21aには、噛み合う被動歯車21bから回転速度k4・γとなる動力が入力されるため、第2クラッチ22の第2外輪222は回転速度k4・γでフリー方向(図8(b)の反矢印Ro方向)に回転する。
ここで、k1>k2>k3>k4のため、第2クラッチ22の第2内輪221の回転速度k1・γ(或いはk2・γ又はk3・γ)は、第2クラッチ22の第2外輪222の回転速度k4・γより速くなる。このため、第2クラッチ22では、第2外輪222の回転速度が第2内輪221の回転速度よりも遅くなり、第2内輪221が、第2外輪222との相対回転で第2外輪222側から見て、ロック方向(図8(b)の矢印Ri方向)へ回転している状態と等しくなる。よって、第2クラッチ22では、第2スプラグ223が第2内輪221及び第2外輪222へ係合し、第2歯車対21の駆動歯車21aは入力軸2と共に回転しようとする。
しかし、上述のように、互いに噛み合う駆動歯車21aと被動歯車21bとの間に回転速度差があるため、第1歯車対4,5,6と第2歯車対21とは二重噛み合いとなる。よって、車両100が登坂停止している場合に、サイドブレーキを作動させたり必要な駆動力が得られたりするようにモータ112を制御しなくとも、車両100の後進を防止できる。
登坂停止した車両100を前進させる場合は、図10(b)に示すように、まず、第2速および第3速の第1歯車対5,6の被動歯車5b,6bにおける第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)させる。この状態においても、第1歯車対4(第1速)の変速比は第2歯車対21の変速比より大きいため、上述のとおり、第1歯車対4と第2歯車対21とを二重噛み合いさせることができ、サイドブレーキを作動させなくても車両100は後進しない。
次いで、モータ112(図8(a)参照)の正回転(前進側)の動力を入力軸2に伝達すると、第2速の被動歯車5b及び第3速の被動歯車6bの第1クラッチ10の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)しているため、被動歯車5b,6bの第1クラッチ10では、第1内輪11(図5参照)及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合が解除される。この結果、第2速及び第3速の被動歯車5b,6bは出力軸3を空転し動力は伝達されない。これに対し、第1速の被動歯車4bにおける第1クラッチ10では、第1外輪12がロック方向(図5の矢印Ro方向)へ回転すると、荷重付与装置15(図4参照)が非作動(OFF)のため、第1内輪11及び第1外輪12へ第1スプラグ13が係合し、第1外輪12から第1内輪11に向かって動力が伝達される。その結果、第1速の被動歯車4bは出力軸3と共に回転し、出力軸3が回転する。入力軸2の回転速度をαとすると、出力軸3の回転速度はα/k1となる。
一方で、この場合には、出力軸3から第2歯車対21の被動歯車21bを介して、第2歯車対21の駆動歯車21aに動力が伝達される。その結果、第2歯車対21の駆動歯車21aの回転速度は、k4/k1・αとなる(回転方向は図10(b)反時計回り)。これにより、第2クラッチ22(図8(b)参照)の第2内輪221の回転速度はαとなり、第2クラッチ22の第2外輪222の回転速度はk4/k1・αとなる。k1>k4より、第2クラッチ22では、第2外輪222との相対回転で第2外輪222側から見て、第2内輪221の回転速度が第2外輪222の回転速度より速くなり、相対的に第2内輪221がフリー方向(図8(b)の反矢印Ri方向)へ回転している状態と等しくなる。よって、第2クラッチ22では、第2スプラグ223は第2内輪221及び第2外輪222へ係合できない。従って、第2クラッチ22の荷重付与装置15を作動しなくても、動力伝達装置20は、第2歯車対21に影響されることなく第1速の走行状態(出力軸3の回転速度α/k1)となり、車両100は発進する。以上のように、車両100が登坂停止した状態から前進する場合には、後進しないようにサイドブレーキを作動する等の煩雑な操作を行うことなく、モータ112を駆動するのみで発進することができる。
なお、車両100の発進の際、本実施の形態においては、第2速および第3速の第1歯車対5,6の被動歯車5b,6bにおける第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させ、第1速の第1歯車対4を用いて動力を伝達する場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。第2歯車対21より大きな変速比の第1歯車対(5又は6)を選択して動力伝達可能な状態にすれば、第1速の第1歯車対4を用いる場合と比較してトルクは低下するが、発進は可能である。
次いで、図11を参照して、本発明の第3実施の形態における動力伝達装置について説明する。上記第2実施の形態においては、動力伝達装置が前輪駆動の車両100に搭載され、第2クラッチ22が入力軸2に配設されており、第2クラッチ22の第2外輪222が駆動歯車21aと一体に形成された場合について説明した。これに対し第3実施の形態では、動力伝達装置30は後輪駆動の車両200に搭載されている。さらに、第2クラッチ34が出力軸31,32に配設されており、第2クラッチ34が被動歯車33bと別設されている場合について説明する。
図11(a)は本発明の第3実施の形態における動力伝達装置30が搭載される車両200を模式的に示した模式図であり、図11(b)は第3実施の形態における動力伝達装置30を模式的に示した模式図である。なお、図11(a)の矢印F−B,L−Rは、車両200の前後方向、左右方向をそれぞれ示している。
まず、車両200の概略構成について説明する。車両200は、図11(a)に示すように、後輪102(左の後輪102FL及び右の後輪102FR)を駆動するリアユニット120を備えている。リアユニット120は、動力源としてのエンジン111及びモータ112と、それらエンジン111及びモータ112の動力を後輪102に伝達する動力伝達装置30とを主に備えており、動力伝達装置30の出力軸31に伝達された動力がデファレンシャル装置を介して左右の後輪102に伝達されるよう構成されている。なお、エンジン111及びモータ112の2つの動力を使い分けて後輪102を駆動可能に構成されているが、エンジン111又はモータ112のいずれか片方で構成されている場合もある。エンジン111、モータ112のいずれも動力源とすることが可能である。なお、以下の実施の形態においては、入力軸2にエンジン111の駆動力を伝達する場合について説明するが、エンジン111に代えてモータ112の駆動力を伝達することや、エンジン111及びモータ112の駆動力を伝達することも当然可能である。
次いで、図11(b)を参照して、動力伝達装置30の詳細構成について説明する。図11(b)は、動力伝達装置30の内部構造を模式的に示した模式図である。以下、第2実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。なお、図11(b)では、理解を容易とするために、動力を伝達する機能を担う構成のみを図示している。
動力伝達装置30は、エンジン111の動力が入力される入力軸2と、その入力軸2と平行に配設された出力軸31,32と、その出力軸31及び入力軸2に配設され互いに噛み合って異なる変速比となるように設定された複数の第1歯車対4,5,6と、出力軸32及び入力軸2に配設された第2歯車対33とを主に備えて構成されている。出力軸31,32は、第2クラッチ34を介して同軸に連結されている。また、第1歯車対4,5,6に配設された第1クラッチ10の第1内輪11は、出力軸31と一体に形成されている。以上のように構成された動力伝達装置30は、出力軸31に伝達された動力が動力伝達装置30の外部に出力され、後輪102に伝達されるように構成されている。
第2歯車対33は、入力軸2に配設され入力軸2から伝達される動力により駆動される駆動歯車33aと、出力軸32に配設され駆動歯車33aにより従動駆動される被動歯車33bとを備えている。第2歯車対33の被動歯車33bは、その歯数が、第1歯車対4,5,6の内の最小歯数(本実施の形態においては、第1歯車対6の被動歯車6bの歯数)より小さくなるように構成されている。従って、第2歯車対33の変速比(被動歯車33bの歯数÷駆動歯車33aの歯数。k5とする。)は、第1歯車対4,5,6の変速比(順にk1,k2,k3)の内の最小の変速比(本実施の形態においては、第1歯車対6の変速比k3)より小さい。
第2クラッチ34は、出力軸31,32から入力軸2へ動力を遮断可能に伝達する一方、入力軸2から出力軸31,32への動力の伝達を遮断するように構成されている。なお、第2クラッチ34は第1クラッチ10(図5参照)と同様に構成されているため、詳細な説明を省略する。また、第1クラッチ10と同一の部分については同一の符号を用いて以下説明する。
第2クラッチ34は第2歯車対33の被動歯車33bと別設されている。第2クラッチ34の第2内輪341は出力軸32と一体に形成されているが、第2クラッチ34の第2外輪342は、側端縁が外輪連結部34aと連結されており、外輪連結部34aを介して出力軸31と連結されている。第2内輪341と第2外輪342とに接して第2スプラグ343が配設されている。
以上のように構成された第3実施の形態における動力伝達装置30は、第2実施の形態で説明したように、加速走行時(第3速)においては、第1速〜第3速の被動歯車4b,5b,6bの第1クラッチ10(図5参照)の荷重付与装置15(図4参照)の作動を停止する。これにより、入力軸2の回転速度をαとすれば、第3速の第1歯車対6を介して、出力軸31が回転速度α/k3で回転する。一方で、この場合には、出力軸31と連結する外輪連結部34aも回転速度α/k3で回転し、それに伴い第2クラッチ34の第2外輪342も回転する(回転速度α/k3)。
また、第2歯車対33の被動歯車33bは、駆動歯車33aの回転(回転速度α)に伴い回転速度α/k5で回転する。その結果、被動歯車33bが配設された出力軸32が回転し、出力軸32に連結する第2クラッチ34の第2内輪341も回転する(回転速度α/k5)。k3>k5のため、第2クラッチ34では、第2内輪341の回転速度(α/k5)が第2外輪342の回転速度(α/k3)よりも速くなり、第2外輪342との相対回転で第2外輪342側から見て、第2内輪341がフリー方向(図5に示す反矢印Ri方向)へ回転している状態と等しくなる。よって、第2クラッチ34では、第2スプラグ343は第2内輪341及び第2外輪342へ係合できない。従って、第2クラッチ34の荷重付与装置15を作動しなくても、動力伝達装置30は、第2歯車対33に影響されることなく、第3速の走行状態(出力軸31の回転速度α/k3)となる。
なお、第2歯車対33の変速比k5を、第1歯車対6の変速比k3より大きくなるように設定した場合は、被動歯車33bの回転速度(α/k5)は出力軸31の回転速度(α/k3)より小さくなる。この場合、第2クラッチ34では、第2外輪342の回転速度(α/k3)が第2内輪341の回転速度(α/k5)よりも速くなり、相対的に第2外輪342がロック方向(図5に示す矢印Ro方向)へ回転している状態と等しくなる。この場合には、第2クラッチ34の荷重付与装置15を作動させることにより、第2スプラグ343を強制的に反セルフロック方向へ傾動させ、第2内輪341及び第2外輪342へ係合できなくする。その結果、上述の場合と同様に、動力伝達装置30は第2歯車対33に影響されることなく、第3速の走行状態(出力軸31の回転速度α/k3)が得られる。
次に、第3速走行の状態(出力軸31の回転速度α/k3)でコースト走行を行う場合は、第2実施の形態の場合と同様に、動力が出力軸31から入力される。出力軸31の回転速度はα/k3であるから、外輪連結部34aを介して、動力が第2クラッチ34の第2外輪342に伝達され、その第2外輪342の回転速度はα/k3となる。
一方、第2クラッチ34の第2内輪341は、第2歯車対33を介して入力軸2からの駆動力が無い状態なので、その回転速度は第2外輪342の回転速度α/k3より遅くなる。その結果、第2クラッチ34の第2外輪342が、第2内輪341との相対回転で第2内輪341側から見て、ロック方向(図5の矢印Ro方向)に回転する。第2クラッチ34の荷重付与装置15を非作動(OFF)とする場合には、第2外輪342及び第2内輪341へ第2スプラグ343が係合する。その結果、第2クラッチ34の第2外輪342から第2内輪341に向かって動力が伝達され、第2歯車対33の被動歯車33bは出力軸32と共に回転する(回転速度α/k3)。第2歯車対33の変速比がk5であるから、第2歯車対33の駆動歯車33aの回転速度はα/k3・k5である。第2歯車対33の駆動歯車33aの回転につれて入力軸2が回転し(回転速度α/k3・k5)、第1歯車対4,5,6の駆動歯車4a,5a,6aも回転する(回転速度α/k3・k5)。
この結果、第1歯車対4,5,6の駆動歯車4a,5a,6aと噛み合う被動歯車4b,5b,6bに動力が伝達され、被動歯車4b,5b,6bは各々の変速比に応じた速度で回転する。被動歯車4bの回転速度はα/k3・k5/k1であり、被動歯車5bの回転速度はα/k3・k5/k2であり、被動歯車6bの回転速度はα/k3・k5/k3である。k1>k2>k3>k5であるから、被動歯車4b,5b,6bの回転速度は、いずれも出力軸31の回転速度α/k3より小さくなる。
ここで、第1歯車対4,5,6の被動歯車4b,5b,6bの第1クラッチ10(図5参照)では、第1内輪11が、出力軸31と同じα/k3の速度で回転する。一方、上述のとおり、被動歯車4b,5b,6bの回転速度は、いずれも出力軸31の回転速度α/k3より小さいため、各第1クラッチ10の第1外輪12の回転速度も、第1内輪11の回転速度より遅くなる。このため、第1クラッチ10では、第1内輪11の回転速度が第1外輪12の回転速度よりも速くなり、相対的に第1内輪11がフリー方向(図5の反矢印Ri方向)へ回転している状態と等しくなる。よって、第1クラッチ10では、第1スプラグ13は第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。
従って、第2クラッチ34の荷重付与装置15を非作動(OFF)とする場合、動力伝達装置30は、第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させなくても、第1歯車対4,5,6に影響されることなく、動力を出力軸31から第2歯車対33を介して入力軸2へ伝達できる。これにより、車両200のコースト走行時には、出力軸31から入力軸2に動力が入力され、エンジン111が出力軸31の駆動抵抗となるため、出力軸3を制動できる(エンジンブレーキ)。
これに対し、エンジン111が出力軸31の駆動抵抗となるのを防ぐ場合には、第2実施の形態において説明したように、第2クラッチ34の荷重付与装置15(図4参照)を作動(ON)させる。これにより、第2クラッチ34の第2スプラグ343が強制的に反セルフロック方向へ傾動され、第2外輪342及び第2内輪341へ係合できなくなる。よって、第2クラッチ34は出力軸32を空転し、入力軸2に動力は伝達されない。また、第1速、第2速および第3速の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10の第1内輪11(図4参照)は、第1外輪12との相対回転でフリー方向(図5の反矢印Ri方向)へ回転する。このため、第1速、第2速および第3速の被動歯車4b,5b,6bにおける第1クラッチ10では、第1スプラグ13が反セルフロック方向へ傾動し、第1内輪11及び第1外輪12へ係合できない。よって、被動歯車4b,5b,6bは出力軸31を空転し入力軸2に動力は伝達されない。これにより、エネルギー損失を抑制して、コースト走行における走行距離が短くなることを防止できる。
以上のように、コースト走行時に、荷重付与装置15の作動と非作動とを切り替えることにより、エネルギー損失を抑制して走行距離を伸ばすか、或いは出力軸31の制動を図るか、いずれを優先するかを選択できる。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
上記各実施の形態では、動力伝達装置1,20,30が車両100のフロントユニット110や車両200のリアユニット120に組み込まれる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、他の車両(機関車、旅客車、貨物車および特殊車など)の走行装置、作業装置および工作機械などの動力伝達装置に組み込むことは当然可能である。
上記各実施の形態では、荷重付与装置15(アクチュエータ15a)が電動機(交流電動機または直流電動機)により構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の動力源を採用することは当然可能である。他の動力源としては、例えば、直流電動機、油圧モータ、空気圧シリンダ、油圧シリンダ、交流ソレノイド及び直流ソレノイド等が例示される。
ここで、アクチュエータ15aをソレノイドにより構成する場合には、歯車機構などによりスプラグ13に荷重を付与する場合に限られず、例えば、電磁力を利用してスプラグ13に荷重を付与するように構成しても良い。
上記第2実施の形態では、第2歯車対21が、第1歯車対6の隣に配設された場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、第1歯車対4の隣、第1歯車対4,5の間、第1歯車対5,6の間など、任意の位置に配設することが可能である。
上記各実施の形態では、第1クラッチ10を出力軸3に設けた場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、入力軸2に設けることも当然可能である。また、上記第2実施の形態においては、第2クラッチ22を入力軸2に設けた場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、出力軸3に設けることは当然可能である。
また、上記第3実施の形態においては、第2クラッチ34を出力軸32に設けた場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、入力軸2に設けることは当然可能である。この場合には、入力軸2と同軸に形成された入力軸を別途設け、その入力軸(以下「新入力軸」と称す)に第2歯車対33の駆動歯車33aを配設し、第1歯車対6の駆動歯車6aと並設する。新入力軸と入力軸2とを第2クラッチ34を介して連結する。第2クラッチ34の内輪11を入力軸2と一体に形成し、新入力軸に外輪連結部34aを連結させる。この場合も第3実施の形態における動力伝達装置30と同様に、コースト走行時に、荷重付与装置15の作動と非作動とを切り替えることにより、エネルギー損失を抑制して走行距離を伸ばすか、或いは出力軸31の制動を図るか、いずれを優先するかを選択できる。
上記各実施の形態では、第2クラッチ22,34が、スプラグの係合解除機能付きのスプラグ型ワンウェイクラッチを備えて構成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他のワンウェイクラッチやツーウェイクラッチを用いることは可能である。他のワンウェイクラッチとしては、例えば、スプラグの係合解除機能を有していない通常のスプラグ型ワンウェイクラッチ等が例示される。ツーウェイクラッチとしては、例えば、特開2007−298145号公報に開示されるもの等が例示される。
上記第1実施の形態では説明を省略したが、第1速走行の状態から第2速走行の状態へシフトアップ変速を行った後に、第1速の第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させて第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除しても良い。同様に、第2速走行の状態から第3速走行の状態へシフトアップ変速を行った後に、第2速の第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させて第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除しても良い。同様に、車両100のコースト走行時に、第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させて各第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除しても良い。
上記第2実施の形態では説明を省略したが、車両100の加速走行時(第3速)、第1速および第2速の第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させて第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除しても良い。同様に、車両100のコースト走行時に、第1クラッチ10の荷重付与装置15を作動させて第1内輪11及び第1外輪12への第1スプラグ13の係合を強制的に解除しても良い。これは、第3実施の形態の場合も同様である。
1,20,30 動力伝達装置
2 入力軸
3,31,32 出力軸
4,5,6 第1歯車対
10 第1クラッチ
11 第1内輪
11a 外周面
12 第1外輪
12a 内周面
13 第1スプラグ
13a,13b 係合面
14 保持器
15 荷重付与装置
15a アクチュエータ(電動機)
16 リボンスプリング(付勢部材)
21,33 第2歯車対
22,34 第2クラッチ
221,341 第2内輪
222,342 第2外輪
223,343 第2スプラグ
111 エンジン(動力源)
112 モータ(動力源)
A,B 接点
O 軸心