以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1から図9を参照して、第1実施の形態について説明する。図1は、本発明の第1実施の形態における動力伝達装置1が搭載される車両100の内部構造を模式的に示した模式図である。車両100は、図1に示すように、前輪101(左の前輪101FL及び右の前輪101FR)と、後輪102(左の後輪102BL及び右の後輪102BR)と、動力源としてのエンジン103及びモータ104と、エンジン103及びモータ104の動力を後輪102に伝達する伝達装置110とを主に備え、エンジン103及びモータ104の動力により後輪102を駆動可能に構成されている。伝達装置110は、エンジン103及びモータ104の動力を切換え可能に構成される動力伝達装置1と、その動力伝達装置1から入力された動力を所定の変速比で出力する変速装置111(図2参照)とを主に備えて構成されている。
次いで、図2から図7を参照して、動力伝達装置1の詳細構成について説明する。図2は伝達装置110の内部構造を模式的に示した模式図であり、図3は伝達装置110の一部を断面図として示した軸方向断面図である。図4は図3のIVb−IVb線における動力伝達装置1(第1クラッチ10)の断面図であり、図5(a)は第1スプラグ11が反ロック方向へ傾動される第1クラッチ10の模式図であり、図5(b)は第1スプラグ11がロック方向へ傾動される第1クラッチ10の模式図である。図6は図3のVa−Va線における動力伝達装置1(第2クラッチ20)の断面図であり、図7は動力伝達装置1の一部の分解立体図である。なお、図6においては、図の簡略化のために、第2クラッチ20に並設される第1クラッチ(図6紙面奥側)の図示を省略している。
図2に示すように、動力伝達装置1は、内輪2と、その内輪2の外周を囲む外輪3と、その外輪3及び内輪2の動力の伝達を切換える第1クラッチ10及び第2クラッチ20とを備えて構成されている。
内輪2は、エンジン103及びモータ104からの駆動力を後輪102に伝達するための第1部材としての機能を担う部材であり、図3、図4及び図6に示すように、断面円形状の外周面2a(所定面)を備え、軸心O回りに回転可能に構成されている。なお、本実施の形態における内輪2は、略円柱状に形成され、図3に示すように、ボールベアリングB1を介して伝達装置110の外郭をなすケース110aに支持されている。エンジン103及びモータ104からの駆動力は、主クラッチ113(図2参照)を介して入力軸112から内輪2に入力される。
外輪3は、内輪2と共に駆動力を後輪102(図2参照)に伝達するための第2部材としての機能を担う部材であり、図4及び図6に示すように、内輪2の外周面2aに対向する断面円形状の内周面3a(対向面)を備え、内輪2と同様に軸心O回りに回転可能に構成されている。なお、本実施の形態における外輪3は、略円環状に形成され、図3に示すように、ローラーベアリングB2を介して内輪2に支持されている。外輪3は出力軸114(図2参照)に連結されており、外輪3の回転が変速装置111に伝達される。
図2に示すように、変速装置111は複数の歯車対から構成され、本実施の形態では、ドグクラッチ式の自動制御式マニュアルトランスミッション(AMT)の一部として構成されている。変速装置111に伝達された動力は、デファレンシャル装置115を介して後輪102(駆動輪)に伝達されるよう構成されている。
動力伝達装置1の第1クラッチ10は、内輪2から外輪3へ動力を遮断可能に伝達する一方、外輪3から内輪2へ動力の伝達を遮断する装置であり、図2及び図3に示すように、内輪2及び外輪3に係合する第1係合子としての第1スプラグ11を備えて構成されている。第2クラッチ20は、外輪3から内輪2へ動力を伝達する一方、内輪2から外輪3へ動力の伝達を遮断する装置であり、図2及び図3に示すように、内輪2及び外輪3に係合する第2係合子としての第2スプラグ21を備えて構成されている。
まず、第1クラッチ10について説明する。第1スプラグ11は、内輪2と外輪3との相対回転を規制するための機能を担う部材であり、図4に示すように、内輪2の外周面2a及び外輪3の内周面3aにそれぞれ接する係合面11a,11bを備え、外周面2a及び内周面3aの対向間において円周方向に等間隔で複数配設されている。また、第1スプラグ11は、2つの係合面11a,11bを連絡する2つの側面11c(図7参照)に溝部11dが各々形成されている。溝部11dは、後述する第1付勢部材12が装着される部位である。
保持器30は、第1スプラグ11及び第2スプラグ21を外周面2a及び内周面3aの円周方向へ傾動可能に保持する部材であり、図3及び図4に示すように、軸心O方向に環状に延設された保持部31と、その保持部31から軸心O方向と交差する方向に延設された荷重伝達部32とを備えて構成されている。
保持部31は、第1スプラグ11及び第2スプラグ21を保持する部位であり、図3及び図4に示すように、内輪2の外周面2aの周りに配設されている。また、図7に示すように、保持部31は円周方向に亘って等間隔に形成された孔部31aを複数備えている。内輪2側に位置する第1スプラグ11の部位(係合面11a側)が孔部31aに挿入され、第1スプラグ11の2つの係合面11a,11bを連絡する2つの前後面11eと孔部31aとの間には適当な大きさの遊間が形成される。これにより、第1スプラグ11は保持部31によって、円周方向に大きく傾動可能に外周面2aと内周面3aとの対向間に保持される。
荷重伝達部32は、後述する荷重付与装置40から荷重が伝達される部位であり、図3及び図4に示すように、軸心O方向と交差する方向に延設されている。これにより、荷重伝達部32を軸心O方向に延設する場合と比較して、保持器30の軸心O方向の寸法を短縮でき、動力伝達装置1の小型化を図ることができる。
また、この荷重伝達部32は、図4に示すように、歯車状に形成され、後述するピニオン42との間に構成される歯車機構を介して、荷重付与装置40から荷重が伝達されるように構成されている。これにより、荷重付与装置40から保持器30までの荷重の伝達経路中に生じるエネルギー損失を小さくでき、効率良く保持器30に荷重を伝達することができる。
第1付勢部材12は、図4に示すように、環状のコイルスプリングにより形成されており、拡径する方向に付勢力を作用させる部材である。ここで、図5を参照して、付勢部材12により付勢される第1スプラグ11について説明する。なお、外輪3は、図5の矢印T方向(反時計回り)に回転しているものとする。
図5(a)に示すように、第1付勢部材12は第1スプラグ11の溝部11dに装着されており、拡径する方向に付勢力を作用させることで、第1スプラグ11の係合面11bと外輪3の内周面3aとに生じる摩擦力を利用して、第1スプラグ11を矢印S方向へ傾動させる。これにより、第1スプラグ11の係合面11aを図5の反矢印Li方向(以下「反ロック方向」と称す)へ傾動させる。その結果、図5に示すように、外周面2aと係合面11aとに隙間が生じる。これにより、内輪2及び外輪3は相対回転が可能となり、外輪3から内輪2への動力の伝達は遮断される。また、外周面2aと係合面11aとに隙間が生ずることから、外周面2aと第1スプラグ11の係合面11aとの摩擦をなくすことができ、摩擦によるエネルギー損失を抑制できる。
また、第1スプラグ11の2つの係合面11a,11bを連絡する2つの前後面11e(図7参照)と、保持部31に形成された孔部31aとの間には適当な大きさの遊間が形成されているので、図5(a)に示すように、第1スプラグ11は反ロック方向に大きく傾動されることで互いに当接する。互いに当接する位置まで第1スプラグ11を傾かせると、第1スプラグ11は互いに拘束し合う。これにより、外周面2aと係合面11aとの隙間を十分に確保できる。その結果、内輪2と外輪3とが相対回転をするときに、外周面2aと係合面11aとが接触して、意図せずに第1スプラグ11が外周面2a及び内周面3aに係合して内輪2及び外輪3の相対回転が規制されてしまうことを防止できる。
また、第1付勢部材12により反ロック方向に付勢された第1スプラグ11を互いに当接する位置まで傾かせると互いに拘束し合い、互いに当接する角度以上に第1スプラグ11が傾倒してしまうことが防止される。その角度を、保持部31(保持器30)によって第1スプラグ11を移動可能な範囲に設定することで、保持器30の位置を規制する部材等を採用することなく、保持器30によって第1スプラグ11を移動可能にできる。その結果、部品点数を削減でき装置構成を簡素化できる。
また、第1スプラグ11の2つの係合面11a,11bを連絡する2つの側面11c(図7参照)に溝部11dが各々形成され、第1付勢部材12が、これら溝部11dに装着されるので、第1付勢部材12の付勢力によって、第1スプラグ11をバランス良く反ロック方向へ傾動させることが可能である。
上述の第1クラッチ10によれば、内輪2及び外輪3へ第1スプラグ11を係合させるには、第1付勢部材12の付勢力に抗して第1スプラグ11に外力を付与する必要がある。そこで、第1クラッチ10には、荷重付与装置40(図2から図4参照)が設けられている。
荷重付与装置40は、第1付勢部材12の付勢力に抗して第1スプラグ11に荷重を付与して、第1スプラグ11を図5の矢印Li方向(以下「ロック方向」と称す)へ傾動させるための装置であり、図2から図4に示すように、アクチュエータ41と、ピニオン42とを備えて構成されている。アクチュエータ41は、第1スプラグ11に付与する荷重を生み出す動力源であり、電動機(交流モータ又は直流モータ)により構成され、電源(図示せず)から供給される電力により駆動可能に構成されている。
このように、荷重付与装置40(アクチュエータ41)は、電動機により構成されているので、例えば、荷重付与装置40(アクチュエータ41)をシリンダやソレノイド等により構成する場合と比較して、荷重付与装置40の構造を簡素化すると共に荷重付与装置40の小型化を図ることができ、ひいては動力伝達装置1の小型化を図ることができる。
また、第1クラッチ10が回転を伝達している状態では、保持器30が内輪2及び外輪3の回転に伴い軸心O回りに回転するので、荷重付与装置40が保持器30の回転抵抗となるが、荷重付与装置40(アクチュエータ41)を電動機により構成することで、保持器30の回転抵抗を小さくでき、内輪2及び外輪3を高速回転させることができる。一方、第1スプラグ11が公転しない状態では保持器30も回転しないので、荷重付与装置40(アクチュエータ41)を電動機により構成することで、小さい駆動エネルギーで第1スプラグ11に荷重を付与することができる。
ピニオン42は、アクチュエータ41の動力を保持器30に伝達するための部材であり、図4に示すように、保持器30の荷重伝達部32と噛み合う歯車状に形成され、荷重伝達部32との間に歯車機構が構成されている。このピニオン42によりアクチュエータ41の動力が保持器30に伝達されることで、保持器30を介して第1スプラグ11に荷重が付与される。このように、荷重付与装置40は、保持器30を介して第1スプラグ11に荷重を付与するので、複数の第1スプラグ11に一度に荷重を付与することができ、効率良く第1スプラグ11に荷重を付与することができる。
以上のように構成される荷重付与装置40によれば、図5(b)に示すように、第1付勢部材12の付勢力に抗して保持器30を介して、第1スプラグ11にロック方向(図5矢印Li方向)の荷重Rを付与することで、第1スプラグ11の係合面11bを内周面3aに転動させて第1スプラグ11をロック方向へ傾動させることができる。その結果、外周面2a及び内周面3aに第1スプラグ11の係合面11a,11bが接することで、内周面3aと係合面11bとの接点および外周面2aと係合面11aとの接点に摩擦力が発生すると共に、外周面2a及び内周面3aの円周方向における各接点の位置ずれにより、内輪2及び外輪3に第1スプラグ11が係合して内輪2と外輪3との相対回転が規制される。これにより、外輪3から内輪2に動力が伝達され、外輪3の回転(図5矢印T方向)に伴い内輪2が回転する。
内輪2及び外輪3に第1スプラグ11が係合して内輪2と外輪3との相対回転が規制されるとき、内輪2との相対回転で内輪2側からみて、外輪3が図5の矢印Lo方向(以下「ロック方向」と称す)に回転するときは、荷重付与装置40による荷重の付与を停止しても、外輪3の相対回転によって第1スプラグ11はロック方向に傾動され、内輪2及び外輪3と第1スプラグ11との係合は維持される。また、外輪3との相対回転で外輪3側からみて、内輪2がロック方向(図5矢印Li方向)に回転するときも、荷重付与装置40による荷重の付与を停止しても、内輪2の相対回転によって第1スプラグ11はロック方向に傾動され、内輪2及び外輪3と第1スプラグ11との係合は維持される。
これに対し、内輪2及び外輪3に第1スプラグ11が係合して内輪2と外輪3との相対回転が規制されるときに、内輪2との相対回転で内輪2側からみて、外輪3が図5の反矢印Lo方向(以下「反ロック方向」と称す)に回転するときは、荷重付与装置40を停止するか荷重付与装置40が付与する荷重を小さくすることで、第1付勢部材12の付勢力(図5(a)矢印S方向)により、第1スプラグ11は反ロック方向に傾動する。これにより、内輪2及び外輪3と第1スプラグ11との係合が解除され、外輪3から内輪2への動力の伝達が遮断される。また、外輪3との相対回転で外輪3側からみて、内輪2が反ロック方向(図5反矢印Li方向)に回転するときも、荷重付与装置40を停止するか荷重付与装置40が付与する荷重を小さくすることで、第1付勢部材12の付勢力(図5(a)矢印S方向)により、第1スプラグ11は反ロック方向に傾動する。これにより、内輪2及び外輪3と第1スプラグ11との係合が解除され、外輪3から内輪2への動力の伝達が遮断される。
以上のように構成される第1クラッチ10によれば、動力伝達装置40により第1スプラグ11に荷重が付与されることで、内輪2及び外輪3に第1スプラグ11が係合して内輪2と外輪3との一定回転方向への相対回転が規制される。これに対し、動力伝達装置40による荷重の付与が解除されると、第1付勢部材12により第1スプラグ11に付勢力が付与されているので、内輪2及び外輪3への第1スプラグ11の係合が解除され、内輪2と外輪3とを両回転方向に相対回転させることが可能となる。これにより、一定方向への回転の伝達および遮断の切り替えを行うことができる。
次いで、図8を参照して、第1スプラグ11に作用する付勢力および荷重の関係について説明する。図8は反ロック方向へ傾動された第1スプラグ11の模式図である。図8に示すように、内輪2及び外輪3との係合が解除されている第1スプラグ11は、第1付勢部材12によって付与される付勢力(荷重P)により、当接面11bと内周面3aとの接点Aの回りに、反ロック方向(図8時計回り)へ傾動される回転モーメントが生じる。また、第1スプラグ11が内輪2及び外輪3に係合して内輪2及び外輪3の回転に伴い軸心O回りに公転すると、第1スプラグ11に遠心力Kが働く。これらに伴い、接点Aに押付け荷重が作用する。その反力として、第1スプラグ11に対して、接点Aにおいて内周面3aの法線方向へ反力FAが作用する。これに対して、第1スプラグ11をロック方向へ傾動させるために、保持部31は、第1スプラグ11と接する接点Cにロック方向(図8矢印Li方向)の荷重Rを付与する。
ここで、第1スプラグ11に作用する接点A回りの回転モーメントMAを考えると、第1スプラグ11には荷重P、荷重R及び遠心力Kが作用するので、回転モーメントMAは、以下の式(1)で表される。
MA=Lp・P+Lk・K−Lr・R …式(1)
但し、式(1)において、Lpは接点Aから荷重Pの作用点(溝部11d)までの水平距離であり、Lkは接点Aから遠心力Kの作用点(第1スプラグ11の重心G)までの水平距離であり、Lrは接点Aから荷重Rの作用点(接点C)までの垂直距離である。なお、回転モーメントMAは接点A回りの時計回りを正とする。また、荷重P,K及びRは、厳密にいえば、荷重の水平成分および垂直成分による誤差を考慮する必要があるが、その誤差は荷重P,K及びRの大きさに比べて著しく小さいため、荷重P及びKは垂直方向に作用し、荷重Rは水平方向に作用するものとする。
ここで、第1スプラグ11の係合面11aを外周面2aに係合させるためには、第1スプラグ11の係合面11bが内周面3aを滑らずに、第1スプラグ11が図8の反時計回りに傾動されることが必要である。即ちMA<0であることが必要である。また、図8に示す状態では、内輪2及び外輪3と第1スプラグ11との係合が解除されているので、外輪3や内輪2は軸心O回りに回転できるが、外輪3や内輪2の駆動力では第1スプラグ11は軸心O回りに公転できない。従って、第1スプラグ11に遠心力Kは作用しない(K=0)。以上のことから、第1スプラグ11の係合面11aを外周面2aに係合させる必要条件は、式(2)にMA<0,K=0を代入して、以下の式(2)で表される。
R>Lp/Lr・P …式(2)
ここで、Lp<Lrであるとすれば、Lp/Lr<1である。よって、式(2)より、荷重R<Pとなる。従って、荷重付与装置40(図3参照)は、第1付勢部材12の付勢力(荷重P)よりも大きな荷重を第1スプラグ11に付与しなくとも、外輪3及び内輪2へ第1スプラグ11を係合させることができる。これにより、荷重付与装置40を小型化できると共に、小さな荷重を付与すれば済むので、エネルギー損失を抑制できる。ひいては動力伝達装置1を小型化できる。
また、図8において、接点Aにおける法線と垂直方向とのなす角をαとすると、内周面3aから第1スプラグ11に作用する反力FAの水平方向の分力成分の大きさはFA・sinαであり、その向きはロック方向(図8矢印Lo方向)と同じ向きである。また、接点Aにおける摩擦係数をμとすると、摩擦の大きさはμ・FA・cosαであり、その向きはロック方向(図8矢印Lo方向)と同じ向きである。
以上のように、内周面3aが係合面11bと接する接点Aにおいて内周面3aから第1スプラグ11に作用する反力FAは、荷重付与装置40により保持部31を介して第1スプラグ11に作用する荷重Rの荷重方向(水平方向であり図8左右方向)の分力成分の向きが、ロック方向と同じ向きである。従って、荷重付与装置40によって第1スプラグ11に荷重Rが付与されると、内周面3aの上を係合面11bが滑ることが防止され、第1スプラグ11をロック方向へ確実に傾動させることができる。これにより、荷重付与装置40から荷重が付与されることで、第1スプラグ11の2つの係合面11a,11bを外周面2a及び内周面3aに確実に係合させることができる。
以上説明したように第1クラッチ10によれば、荷重付与装置40によって一定方向への回転の伝達および遮断の切り替えを必要に応じて行うことができる。さらに、第1スプラグ11が傾動可能な程度の間隔を保持器30で確保することにより、外周面2a及び内周面3aの対向間に複数の第1スプラグ11を小さな間隔で配設することができる。これにより、第1クラッチ10(動力伝達装置1)は、小型であっても伝達トルク容量を大きくすることができる。
図3に戻って、第2クラッチ20について説明する。第2スプラグ21は、内輪2と外輪3との相対回転を規制するための機能を担う部材であり、外周面2a及び内周面3aにそれぞれ接する係合面21a,21b(図3及び図6参照)を備え、図6に示すように、外周面2a及び内周面3aの対向間において円周方向に等間隔で複数配設されている。また、第2スプラグ21は、図7に示すように、係合面21bから係合面21aに向けて側面21c間に溝部21dが形成されている。溝部21dは、後述する第2付勢部材22が装着される部位である。
図7に示すように、保持部31は、円周方向に亘って等間隔に形成された孔部31bが孔部31aに並設されている。内輪2側に位置する第2スプラグ21の部位(係合面21a側)が孔部31bに挿入されることで、第2スプラグ21は傾動可能に第1スプラグ11と共に保持器30に保持される。なお、第1スプラグ11及び第2スプラグ21は、図4及び図6に示すように、回転ロック方向が逆方向になるように保持器30に並設されている。
第2付勢部材22は、図6に示すように、環状のコイルスプリングにより形成されており、縮径する方向に付勢力を作用させる部材である。第2付勢部材22は、第2スプラグ21の溝部21dに装着されており、縮径する方向に付勢力を作用させることで、第2スプラグ21の係合面21bと外輪3の内周面3aとが接すると共に、係合面21aと内輪2の外周面2aとが接するように、第2スプラグ21をロック方向へ傾動させる。これにより、内輪2及び外輪3と第2スプラグ21とを係合可能にできる。
また、第2スプラグ21は第1スプラグ11と共に保持器30に保持されているので、荷重付与装置40によって、第1スプラグ11と共に荷重を付与することができる。これにより、第2付勢部材21の付勢力に抗して、保持器30を介して第2スプラグ21に外力を付与することで、第2スプラグ21を反ロック方向へ傾動させることができる。これにより、動力の伝達を遮断することができる。
また、第1スプラグ11及び第2スプラグ21が単一の保持器30に保持されており、単一の荷重付与装置40を用いて保持器30を介して第1スプラグ11及び第2スプラグ21に荷重を付与するので、複数の第1スプラグ11及び第2スプラグ21に効率良く荷重を付与できる。さらに、第1スプラグ11と第2スプラグ21とを別個の保持器で保持する場合と比較して、部品点数を減らし装置構成を簡素化すると共に、切換機構や制御を簡略化できる。
次いで、図9及び図10を参照して、上述したように構成される動力伝達装置1の動作について説明する。図9及び図10では、理解を容易とするために、動力の伝達経路を矢印Pで示すと共に、内輪2及び外輪3の回転方向および回転速度を、矢印Tの向き及び大きさで示している。また、荷重付与装置40(図2参照)を作動させて保持部31(保持器30)に付与する荷重の向きを矢印Rで示している。また、第1付勢部材12及び第2付勢部材22によって第1スプラグ11及び第2スプラグ21が付勢される方向を矢印Sで示している。さらに、第1スプラグ11又は第2スプラグ21に対して、外輪3との相対回転で外輪3側からみた内輪2のロック方向の回転を矢印Liで示し、内輪2との相対回転で内輪2側からみた外輪3のロック方向の回転を矢印Loで示している。なお、図12、図14及び図15においても同様に図示している。
まず、通常走行のときの動力伝達装置1の動作について説明し、次いで変速装置111(図2参照)をシフトアップするときの動力伝達装置1の動作について説明する。図9(a)は通常走行のときの動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図であり、図9(b)はシフトアップのときの動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図である。通常走行においては、主クラッチ113(図2参照)を接続した状態で、動力伝達装置1の荷重付与装置40を非作動とする。これにより、図9(a)に示すように、第1クラッチ10では、第1スプラグ11が反ロック方向へ傾動され、外周面2aと係合面11aとに隙間が生じ、第2クラッチ20では第2スプラグ21がロック方向へ傾動される。
この状態で入力軸112から内輪2に動力が伝達される。内輪2の回転方向は第2スプラグ20のロック方向(図9反時計回り)であるとすると、外輪3との相対回転で外輪3側から見て、内輪2の回転は、第1スプラグ11では反ロック方向(反矢印Li方向)であり、第2スプラグ21ではロック方向(矢印Li方向)である。これらの結果、内輪2に伝達された動力は、第2スプラグ21を介して外輪3に伝達される。外輪3に伝達された動力は出力軸114を介して後輪102(図2参照)を駆動する。
次に、シフトアップを行うときは、変速装置111(図2参照)における変速ショックを低減させるため、入力軸112(内輪2)の回転速度を遅くすることが望ましい。動力伝達装置1においては、主クラッチ113(図2参照)を接続したまま、周知の手段を用いて入力軸112の回転速度を低下させることが可能である。即ち、図9(b)に示すように、内輪2の回転速度を外輪3の回転速度より遅くした場合、外輪3の回転方向は、内輪2との相対回転で内輪2側から見て、第1スプラグ11ではロック方向(矢印Lo方向)であり、第2スプラグ21では反ロック方向(反矢印Lo方向)である。しかしながら、第1スプラグ11は反ロック方向に傾動されているので、第1スプラグ11を介して動力の伝達が行われない。従って、出力軸114の回転速度に影響を与えることなく、入力軸112の回転速度を遅くすることができる。これにより、主クラッチ113(図2参照)を接続したまま一連の操作を行うことができるため、変速操作時間を短縮できる。
これと同様に、アクセルペダルを開放した惰性走行を行う場合も、図9(b)に示すように、出力軸114の回転速度がエンジン103(図2参照)等のイナーシャの影響を受けて低下することを防止できる。これにより、エンジンブレーキによって車両100(図1参照)が減速されることなく、快適な惰性走行を行うことができる。
これに対し、エンジンブレーキを適用することも可能である。図10(a)を参照して、コースト走行のときの動力伝達装置1の動作について説明し、次いで変速装置111(図2参照)をシフトダウンするときの動力伝達装置1の動作について説明する。図10(a)はコースト走行のときの動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図であり、図10(b)はシフトダウンのときの動力伝達装置1の内部構造を模式的に示した模式図である。アクセルペダル(図示せず)が開放されエンジンブレーキを適用するコースト走行においては、主クラッチ113(図2参照)を接続した状態で、動力伝達装置1の荷重付与装置40を作動して、図10(a)に示すように、保持部31を矢印R方向に回動する。これにより、第1クラッチ10では、第1スプラグ11がロック方向へ傾動され、外周面2a及び内周面3aと係合面11a,11bとが係合可能となり、第2クラッチ20では、第2スプラグ21が反ロック方向へ傾動される。
コースト走行においては、入力軸112から内輪2への動力の入力はない一方、回転している後輪102(図2参照)から出力軸114を介して外輪3へ動力が入力される。外輪3の回転方向は、図9と同様に図10反時計回りであるから、図10(a)に示すように、外輪3の回転は、内輪2との相対回転で内輪2側から見て、第1スプラグ11ではロック方向(矢印Lo方向)であり、第2スプラグ21では反ロック方向(反矢印Lo方向)である。これらの結果、外輪3に伝達された動力は、第1スプラグ11を介して内輪2に伝達される。内輪2に伝達された動力は入力軸112を介してエンジン103(図2参照)等に伝達される。その結果、エンジン103等のイナーシャにより出力軸112の回転速度が低下し、ひいては後輪102(図2参照)の回転速度も低下する。即ちエンジンブレーキが適用される。
なお、第1スプラグ11及び第2スプラグ21は単一の保持器30に保持されているので、荷重付与装置40の作動によって保持部31が矢印R方向に回動されると、図10(a)に示すように、第1スプラグ11がロック方向へ傾動される一方で、第2スプラグ21が反ロック方向へ傾動される。しかし、第2クラッチ20では、動力が入力される外輪3の回転方向は反ロック方向(反矢印Lo方向)なので、荷重付与装置40の作動・非作動に関わらず、第2クラッチ20は動力を伝達できない。
次に、シフトダウンを行うときは、変速装置111(図2参照)における変速ショックを低減させるため、入力軸112(内輪2)の回転速度を速くすることが望ましい。動力伝達装置1においては、主クラッチ113(図2参照)を接続したまま、周知の手段を用いて入力軸112の回転速度を速くすることが可能である。即ち、図10(b)に示すように、内輪2の回転速度を外輪3の回転速度より速くした場合、内輪2の回転は、外輪3との相対回転で外輪3側から見て、第1スプラグ11では反ロック方向(反矢印Li方向)であり、第2スプラグ21ではロック方向(矢印Li方向)である。しかしながら、荷重付与装置40の作動により、第2スプラグ21は反ロック方向(反矢印S方向)に傾動されているため、第2スプラグ21を介して動力の伝達が行われない。従って、出力軸114の回転速度に影響を与えることなく、入力軸112の回転速度を上げることができる。これにより、主クラッチ113(図2参照)を接続したまま一連の操作を行うことができるため、変速操作時間を短縮できる。
なお、第1スプラグ11及び第2スプラグ21は単一の保持器30に保持されているので、荷重付与装置40の作動によって保持部31が矢印R方向に回動されると、図10(b)に示すように、第2スプラグ21が反ロック方向(反矢印S方向)へ傾動される一方で、第1スプラグ11がロック方向(反矢印S方向)へ傾動される。しかし、第1クラッチ11では、内輪2の回転方向は、外輪3との相対回転で外輪3側からみて反ロック方向(反矢印Li方向)なので、荷重付与装置40を作動しても第1クラッチ10は動力を伝達できない。
さらに、本実施の形態における動力伝達装置1について、図16に示す比較例における動力伝達装置501と対比して説明する。まず、比較例における動力伝達装置501について説明する。図16(a)は、動力が外輪503に入力されて内輪502から出力される動力伝達装置501の内部構造を模式的に示した模式図であり、図16(b)は、内輪502に動力が入力されて外輪503から出力される動力伝達装置501の内部構造を模式的に示した模式図である。なお、図16では、理解を容易とするために動力の伝達経路を矢印Pで示している。
図16に示すように、動力伝達装置501は、回転可能に構成される内輪502(軸)と、その内輪502の外周面502aに対向する内周面503aを有し内輪502と同軸に回転可能に構成される外輪503と、その外輪503と内輪502とに係合可能に構成される第1スプラグ504及びその第1スプラグ504とロック方向が逆方向の第2スプラグ505と、それら第1スプラグ504及び第2スプラグ505をそれぞれ保持する第1保持器506及び第2保持器507とを備えるものである。第1スプラグ504及び第2スプラグ505は、外輪503及び内輪502に対して軸方向に並設されると共に、互いに逆方向となるロック方向(図16矢印S方向)にばね部材(図示せず)でそれぞれ付勢されている。なお、第1保持器506及び第2保持器507からレバー(図示せず)がそれぞれ延設されており、そのレバーを別々に操作することで第1保持器506及び第2保持器507を円周方向に回動させて、第1スプラグ504又は第2スプラグ505をそれぞれフリー状態(動力を伝達できない状態)に傾動させることができる。
以上のように構成される動力伝達装置501では、外輪503が、第1スプラグ504又は第2スプラグ505に対して、内輪502との相対回転で内輪502側から見てロック方向(図16矢印Lo方向)へ回転する場合には、第1スプラグ504又は第2スプラグ505が回転ロック方向へ傾動し、内輪502及び外輪503に第1スプラグ504又は第2スプラグ505が係合する。これにより、外輪503から内輪502に動力が伝達される。
一方、外輪503が、第1スプラグ504又は第2スプラグ505に対して、内輪502との相対回転で内輪502側から見て反ロック方向(図16反矢印Lo方向)へ回転する場合には、内輪502及び外輪503に第1スプラグ504又は第2スプラグ505が係合せず、外輪503は空転する。これにより、外輪503から内輪502への動力の伝達が遮断される。
また、内輪502が、第1スプラグ504又は第2スプラグ505に対して、外輪503との相対回転で外輪503側から見てロック方向(図16矢印Li方向)へ回転する場合には、第1スプラグ504又は第2スプラグ505がロック方向(図16矢印S方向)へ傾動し、内輪502及び外輪503に第1スプラグ504又は第2スプラグ505が係合する。これにより、内輪502から外輪503に動力が伝達される。
一方、内輪502が、第1スプラグ504又は第2スプラグ505に対して、外輪503との相対回転で外輪503側から見て反ロック方向(図16反矢印Li方向)へ回転する場合には、内輪502及び外輪503に第1スプラグ504又は第2スプラグ505が係合せず、内輪502は空転する。これにより、内輪502から外輪503への動力の伝達が遮断される。
さらに、内輪502及び外輪503に第1スプラグ504又は第2スプラグ505が係合可能な状態であっても、レバー(図示せず)を操作することで、第1保持器506及び第2保持器507を円周方向に回動させて、第1スプラグ504又は第2スプラグ505をフリー状態(動力を伝達できない状態)にすることができる。このようにレバーを操作することで、動力の伝達を強制的に遮断できる。
動力伝達装置501は以上のように構成されているので、図16(a)に示すように、動力が外輪503に入力されて外輪503が回転する場合(回転方向は図16の反時計回り)、外輪503の回転は、第1スプラグ504に対しては反ロック方向(図16反矢印Lo方向)であり、第2スプラグ505に対してはロック方向(図16矢印Lo方向)である。この場合は第2スプラグ505が内輪502及び外輪503に係合し、動力が外輪503から内輪502に伝達される。
また、図16(b)に示すように、動力が内輪502に入力されて内輪502が回転する場合(回転方向は図16の反時計回り)、内輪502の回転は、第1スプラグ504に対してはロック方向(図16矢印Li方向)であり、第2スプラグ505に対しては反ロック方向(図16反矢印Li方向)である。この場合は第1スプラグ505が内輪502及び外輪503に係合し、動力が外輪503から内輪502に伝達される。
しかしながら、比較例における動力伝達装置501では、図16(a)に示すように第2スプラグ505が内輪502及び外輪503に係合するときは、内輪502及び外輪503に係合した第2スプラグ505によって内輪502及び外輪503に弾性変形が生じ、内輪502及び外輪503の間隔がわずかに広がる。ここで、第1スプラグ504はロック方向(図16矢印S方向)に付勢されているので、内輪502及び外輪503の間隔が広がると、第1スプラグ504は、内輪502及び外輪503の間(図16(a)に二点鎖線で示す位置)に楔のように噛み込まれる。
その後、図16(b)に示すように第1スプラグ504が内輪502及び外輪503に係合するときは、内輪502及び外輪503に噛み込まれた第1スプラグ504によって内輪502及び外輪503に弾性変形が生じ、内輪502及び外輪503の間隔がわずかに広がる。ここで、第2スプラグ505もロック方向(図16矢印L方向)に付勢されているので、内輪502及び外輪503の間隔が広がると、第2スプラグ505も、内輪502及び外輪503の間(図16(b)に二点鎖線で示す位置)に楔のように噛み込まれる。
以上のように、第1スプラグ504又は第2スプラグ505のいずれかが内輪502及び外輪503の間に噛み込まれてしまうと、第1スプラグ504及び第2スプラグ505はロック方向に付勢されているので、ロック方向に次第に深く噛み込まれていく。ついには噛み込みを解除することができなくなり、動力の伝達方向を切換えることができなくなると共に、レバーの操作によって第1スプラグ504や第2スプラグ505をフリー状態(動力を伝達できない状態)にすることもできなくなる。このように、第1スプラグ504及び第2スプラグ505が内輪502及び外輪503の間に噛み込まれて、動力の伝達方向の切換えや動力の伝達の遮断ができなくなるという問題点があった。
これに対し、本実施の形態における動力伝達装置40によれば、図9に示すように、第2付勢部材22により第2スプラグ21はロック方向(矢印S方向)へ付勢されているので、この付勢力によって第2スプラグ21は内輪2及び外輪3に係合可能である。第2スプラグ21が内輪2及び外輪3に係合して第2スプラグ21を介して動力が伝達されるときは、内輪2及び外輪3に係合する第2スプラグ21によって内輪2及び外輪3に弾性変形が生じ、内輪2の外周面2a及び外輪3の内周面3aの間隔がわずかに広げられる可能性がある。しかしながら、第1スプラグ11は反ロック方向(矢印S方向)へ傾動されているので、第2スプラグ21を介して動力が伝達される間に、第1スプラグ11が内輪2及び外輪3に噛み込まれることを防止できる。
一方、荷重付与装置40により第1スプラグ11を付勢力に抗してロック方向(図9反矢印S方向)に傾動させることで、第1スプラグ11を内輪2及び外輪3に係合可能にできる。その結果、第1スプラグ11が内輪2及び外輪3に係合して第1スプラグ11を介して動力が伝達されるときは、第1スプラグ11によって内輪2及び外輪3に弾性変形が生じ、内輪2の外周面2a及び外輪3の内周面3aの間隔がわずかに広げられる可能性がある。この場合、第2スプラグ21はロック方向(矢印S方向)へ付勢されているので、第2スプラグ21は内輪2及び外輪3に噛み込まれる可能性がある。第2スプラグ21が内輪2及び外輪3に噛み込まれた場合は、第2スプラグ21を介して動力が伝達されるときに、内輪2及び外輪3に噛み込まれた第2スプラグ21によって内輪2の外周面2a及び外輪3の内周面3aの間隔が広げられる。しかしながら、第1スプラグ11は第1付勢部材12によって反ロック方向(矢印S方向)へ傾動されているので、第2スプラグ21によって内輪2の外周面2a及び外輪3の内周面3aの間隔がわずかに広げられると、第1スプラグ11は噛み込まれる方向と逆方向に傾動する。これにより、第1スプラグ11が内輪2及び外輪3に噛み込まれることを防止できる。以上より、第1スプラグ11及び第2スプラグ21が内輪2及び外輪3に噛み込まれることを防ぎ、動力の伝達方向の切換えができなくなることを防止できる。
また、第1スプラグ11及び第2スプラグ21が内輪2及び外輪3に噛み込まれることを防ぐことで、第1付勢部材12により第1スプラグ11を反ロック方向(矢印S方向)へ傾動させる一方、荷重付与装置40により第1スプラグ11をロック方向(反矢印S方向)へ傾動させることができる。その結果、荷重付与装置40の作動または非作動の切換えにより、第1クラッチ10による動力の伝達を遮断できる。
また、第1付勢部材12は、外周面2aと第1スプラグ11の係合面11aとに隙間が形成されるように第1スプラグ11を付勢するので、外周面2aと係合面11aとの摩擦をなくすことができ、摩擦によるエネルギー損失を抑制できる。また、隙間を形成することで、第1スプラグ11をより噛み込まれ難くすることができる。
さらに、荷重付与装置40により第2スプラグ21を必要に応じて反ロック方向(反矢印S方向)へ傾動させることができるので、第2クラッチ20による動力の伝達を遮断でき、動力の切換えの自在性を向上できる。
次いで、図11及び図12を参照して、第2実施の形態について説明する。図11は、第2実施の形態における動力伝達装置201が搭載される車両の内部構造を模式的に示した模式図であり、図12(a)は通常走行のときの動力伝達装置201の内部構造を模式的に示した模式図であり、図12(b)はコースト走行のときの動力伝達装置201の内部構造を模式的に示した模式図である。第1実施の形態では、後輪102を駆動輪とする車両100の動力伝達経路に動力伝達装置1が配設され、エンジン103等の駆動力が動力伝達装置1の内輪2に入力される場合について説明した。これに対し第2実施の形態では、前輪101を駆動輪とする車両の動力伝達経路に動力伝達装置201が配設され、エンジン103等の駆動力が外輪3に入力される場合について説明する。また、第1実施の形態では、第1スプラグ11の係合面11aと内輪2の外周面2aとに隙間が形成される場合について説明したが、第2実施の形態では、第1スプラグ11の係合面11bと外輪3の内周面3aとに隙間が形成される場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。
図11に示すように、第2実施の形態における動力伝達装置201は、入力軸112と変速装置121との間の動力伝達経路に配設されている。変速装置121は、ドグクラッチ式の自動制御式マニュアルトランスミッション(AMT)の一部として構成され、エンジン103及びモータ104の動力が、入力軸112及び主クラッチ113を介して入力され、デファレンシャル装置124を介して前輪101(駆動輪)に伝達されるよう構成されている。
第1クラッチ210及び第2クラッチ220を構成する第1スプラグ11及び第2スプラグ21は、内輪2及び外輪3の対向間に配設され、図11に示すように、保持部231によって外輪3側に位置する部位が保持されている。保持部231は軸心方向に延設されており、荷重伝達部232が保持部231から軸心方向と交差する方向に延設されている。荷重付与装置40は、保持部231と荷重伝達部232とを備える保持器230を介して、第1スプラグ11及び第2スプラグ21に荷重を付与するように構成されている。
また、図12(a)に示すように、荷重付与装置40が非作動の状態において、第1スプラグ11は、第1付勢部材(図示せず)により反ロック方向(矢印S方向)へ傾動されると共に、第1スプラグ11の係合面11bと外輪3の内周面3aとには隙間が形成されている。一方、第2スプラグ21は、荷重付与装置40が非作動の状態において、第2付勢部材(図示せず)によりロック方向(矢印S方向)へ傾動されると共に、内輪2の外周面2a及び外輪3の内周面3aと第2スプラグ21の係合面21a,21bとが接触している。
次いで、図12を参照して、上述したように構成される動力伝達装置201の動作について説明する。まず、通常走行のときの動力伝達装置201の動作について説明し、次いでコースト走行のときの動力伝達装置201の動作について説明する。通常走行においては、主クラッチ113(図11参照)を接続した状態で、動力伝達装置201の荷重付与装置40を非作動とする。これにより、図12(a)に示すように、第1クラッチ210では第1スプラグ11が反ロック方向(矢印S方向)へ傾動され、第2クラッチ220では第2スプラグ21がロック方向へ傾動される。
この状態で入力軸112から外輪3に動力が伝達される。外輪3の回転方向は第2スプラグ21のロック方向(図12反時計回りの矢印T方向)であるとすると、外輪3の回転は、内輪2との相対回転で内輪2側から見て、第1スプラグ11では反ロック方向(反矢印Lo方向)であり、第2スプラグ21ではロック方向(矢印Lo方向)である。これらの結果、外輪3に伝達された動力は、第2スプラグ21を介して内輪2に伝達される。なお、第1スプラグ11は反ロック方向(矢印S方向)に傾動されているので、内輪2及び外輪3に噛み込まれることを防止できる。
図12(b)に示すコースト走行においては、主クラッチ113(図11参照)を接続した状態で、動力伝達装置201の荷重付与装置40を作動して、保持部231に矢印R方向の荷重を付与する。これにより、第1クラッチ210では第1スプラグ11がロック方向(反矢印S方向)へ傾動され、外周面2a及び内周面3aと係合面11a,11bとが接触し係合可能となり、第2クラッチ220では第2スプラグ21が反ロック方向(反矢印S方向)へ傾動される。
この状態でアクセルペダル(図示せず)が開放され、回転している前輪101(図11参照)から出力軸114を介して内輪2へ動力が入力されると、内輪2の回転方向は図12反時計回りであるから、図12(b)に示すように、内輪2の回転は、外輪3との相対回転で外輪3側から見て、第1スプラグ11ではロック方向(矢印Li方向)であり、第2スプラグ21では反ロック方向(反矢印Li方向)である。これらの結果、内輪2に伝達された動力は、第1スプラグ11を介して外輪3及び入力軸112に伝達される。このときに第2スプラグ21は、荷重付与装置40によって反ロック方向(反矢印S方向)に傾動されているので、内輪2及び外輪3に噛み込まれることを防止できる。以上のように動力伝達装置201によれば、第1スプラグ11及び第2スプラグ21が内輪2及び外輪3に噛み込まれることを防ぎ、動力の伝達方向の切換えができなくなることを防止できる。
次いで、図13から図15を参照して、第3実施の形態について説明する。図13は、第3実施の形態における動力伝達装置301が搭載される車両の内部構造を模式的に示した模式図であり、図14(a)は通常走行(前進)のときの動力伝達装置301の内部構造を模式的に示した模式図であり、図14(b)は通常走行(前進)において入力軸122の回転数を低下させたときの動力伝達装置301の内部構造を模式的に示した模式図であり、図15(a)は後進のときの動力伝達装置301の内部構造を模式的に示した模式図であり、図15(b)は後進において入力軸122の回転数を低下させたときの動力伝達装置301の内部構造を模式的に示した模式図である。
第1実施の形態では、後輪102を駆動輪とする車両100の動力伝達経路に動力伝達装置1が配設され、エンジン103等の駆動力が動力伝達装置1の内輪2に入力される場合について説明した。これに対し第3実施の形態では、前輪101を駆動輪とする車両の動力伝達経路に動力伝達装置301が配設され、エンジン103等の駆動力が外輪3に入力される場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については同一の符号を付して、その説明を省略する。
図13に示すように、第3実施の形態における動力伝達装置301は、変速装置121と前輪101との間の動力伝達経路に配設されている。変速装置121は、ドグクラッチ式の自動制御式マニュアルトランスミッション(AMT)の一部として構成され、エンジン103及びモータ104の動力が、入力軸112及び主クラッチ113を介して入力され、入力軸122を介して動力伝達装置301に動力が出力される。動力伝達装置301から出力される動力は、出力軸123に配設されたデファレンシャル装置124を介して前輪101(駆動輪)に伝達されるよう構成されている。
第1クラッチ310及び第2クラッチ320を構成する第1スプラグ11及び第2スプラグ21は、内輪2及び外輪3の対向間に配設され、図13に示すように、保持部331によって内輪2側に位置する部位が保持されている。保持部331は軸心方向に延設されており、荷重伝達部332が保持部331から軸心方向と交差する方向に延設されている。荷重付与装置40は、保持部331と荷重伝達部332とを備える保持器330を介して、第1スプラグ11及び第2スプラグ21に荷重を付与するように構成されている。
また、図14(a)に示すように、第1スプラグ11は、第1付勢部材(図示せず)により反ロック方向(矢印S方向)へ付勢されると共に、反ロック方向(矢印S方向)へ傾動された状態では、第1スプラグ11の係合面11aと内輪2の外周面2aとには隙間が形成されるように構成されている。一方、図15(a)に示すように、第2スプラグ21は、第2付勢部材(図示せず)により反ロック方向(矢印S方向)へ付勢されると共に、反ロック方向(矢印S方向)へ傾動された状態では、第2スプラグ21の係合面21aと内輪2の外周面2aとには隙間が形成されるように構成されている。なお、図14及び図15に示すように、第1スプラグ11のロック方向は、第2スプラグ21のロック方向と逆方向に設定されている。
次いで、図14及び図15を参照して、上述したように構成される動力伝達装置301の動作について説明する。まず、図14を参照して、通常走行(前進)のときの動力伝達装置301の動作について説明する。通常走行(前進)においては、動力伝達装置301の荷重付与装置40を作動させ、保持部331に矢印R方向(図14反時計回り)の荷重を付与する。これにより、図14(a)に示すように、第1クラッチ310では、第1スプラグ11が第1付勢部材(図示せず)により反ロック方向(矢印S方向)へ傾動され、第2クラッチ320では、保持部331により第2スプラグ21がロック方向(反矢印S方向)へ傾動される。本実施の形態では、第1スプラグ11の係合面11aと内輪2の外周面2aとに隙間が形成される。
入力軸122から外輪3に動力が伝達され、外輪3の回転方向は第2スプラグ21のロック方向(図14反時計回りの図14(a)矢印T方向)であるとする。この外輪3の回転は、内輪2との相対回転で内輪2側から見て、第1スプラグ11では反ロック方向(反矢印Lo方向)であり、第2スプラグ21ではロック方向(矢印Lo方向)である。これらの結果、外輪3に伝達された動力は、第2スプラグ21を介して内輪2に伝達される。なお、第1スプラグ11は反ロック方向(矢印S方向)に傾動されているので、内輪2及び外輪3に噛み込まれることを防止できる。
この状態でアクセルペダル(図示せず)が開放される等により入力軸122の回転数が低下すると、外輪3の回転数が内輪2の回転数に比べて低下する。これにより、図14(b)に示すように、内輪2の回転(図14(b)矢印T方向)は、外輪3との相対回転で外輪3側から見て、第1スプラグ11ではロック方向(矢印Li方向)であり、第2スプラグ21では反ロック方向(反矢印Li方向)である。しかしながら、荷重付与装置40の作動により保持部331に矢印R方向の荷重が付与され、第1スプラグ11が反ロック方向(矢印S方向)に傾動されているので、第1スプラグ11は内輪2及び外輪3に係合できない。これにより、入力軸122から出力軸123への動力の伝達が遮断される。
次に図15を参照して、後進のときの動力伝達装置301の動作について説明する。後進のときは、動力伝達装置301の荷重付与装置40を作動させ、保持部331に矢印R方向(図15時計回り)の荷重を付与する。これにより、図15(a)に示すように、第1クラッチ310では、保持部331により第1スプラグ11がロック方向(反矢印S方向)へ傾動され、第2クラッチ320では、第2付勢部材(図示せず)により第2スプラグ21が反ロック方向(矢印S方向)へ傾動される。本実施の形態では、第2スプラグ21の係合面21aと内輪2の外周面2aとに隙間が形成される。
後進のときは、入力軸122の回転方向は前進時(図14参照)とは逆方向(図15反時計回りの矢印T方向)に切り替えられるから、外輪3の回転は、内輪2との相対回転で内輪2側から見て、第1スプラグ11ではロック方向(矢印Lo方向)であり、第2スプラグ21では反ロック方向(反矢印Lo方向)である。これらの結果、外輪3に伝達された動力は、第1スプラグ11を介して内輪2に伝達される。なお、第2スプラグ21は反ロック方向(矢印S方向)に傾動されているので、内輪2及び外輪3に噛み込まれることを防止できる。
この状態でアクセルペダル(図示せず)が開放される等により入力軸122の回転数が低下すると、外輪3の回転数が内輪2の回転数に比べて低下する。これにより、図15(b)に示すように、内輪2の回転(図15(b)矢印T方向)は、外輪3との相対回転で外輪3側から見て、第1スプラグ11では反ロック方向(反矢印Li方向)であり、第2スプラグ21ではロック方向(矢印Li方向)である。しかしながら、荷重付与装置40の作動により保持部331に矢印R方向の荷重が付与され、第2スプラグ21が反ロック方向(矢印S方向)に傾動されているので、第2スプラグ21は内輪2及び外輪3に係合できない。これにより、入力軸122から出力軸123への動力の伝達が遮断される。
なお、動力伝達方向が前進(図14参照)から後進(図15参照)へ切り替わるときは、外輪3の回転方向(矢印T方向)が図14時計回りから逆方向の図14反時計回りに切り替わる。外輪3の回転方向が図14反時計回りになると、外輪3の回転は、内輪2との相対回転で内輪2側から見て、第1スプラグ11ではロック方向(矢印Lo方向)である。第1スプラグ11の係合面11a,11bが内輪2の外周面2a及び外輪3の内周面3aに接触している場合には、外輪3の回転がロック方向(矢印Lo方向)になると、第1スプラグ11の係合面11a,11bが内輪2の外周面2a及び外輪3の内周面3aに係合することがある。このときに第2スプラグ21の係合面21a,21bが内輪2の外周面2a及び外輪3の内周面3aに係合していると、第1スプラグ11及び第2スプラグ21が二重噛み合いとなる。
しかしながら、図14(a)に示すように、第2スプラグ21を介して外輪3から内輪2へ動力が伝達されているときは、第1付勢部材(図示せず)により第1スプラグ11の係合面11aと内輪2の外周面2aとに隙間が形成される。これにより、第1スプラグ11が内輪2及び外輪3に噛み込まれることが防止され、二重噛み合いが防止される。
同様に、動力伝達方向が後進(図15参照)から前進(図14参照)へ切り替わるときは、外輪3の回転方向(矢印T方向)が図15反時計回りから逆方向の図15時計回りに切り替わる。外輪3の回転方向が図15時計回りになると、外輪3の回転は、内輪2との相対回転で内輪2側から見て、第2スプラグ21ではロック方向(矢印Lo方向)である。第2スプラグ21の係合面21a,21bが内輪2の外周面2a及び外輪3の内周面3aに接触している場合には、外輪3の回転がロック方向(矢印Lo方向)になると、第2スプラグ21の係合面21a,21bが内輪2の外周面2a及び外輪3の内周面3aに係合することがある。このときに第1スプラグ11の係合面11a,11bが内輪2の外周面2a及び外輪3の内周面3aに係合していると、第1スプラグ11及び第2スプラグ21が二重噛み合いとなる。
しかしながら、図15(a)に示すように、第1スプラグ11を介して外輪3から内輪2へ動力が伝達されているときは、第2付勢部材(図示せず)により第2スプラグ21の係合面21aと内輪2の外周面2aとに隙間が形成される。これにより、第2スプラグ21が内輪2及び外輪3に噛み込まれることが防止され、二重噛み合いが防止される。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施の形態で挙げた数値や形状は一例であり、他の数値や形状を採用することは当然可能である。
また、上記実施の形態では、動力伝達装置1,201,301が車両100に組み込まれる場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、他の車両(機関車、旅客車、貨物車および特殊車など)の走行装置、作業装置および工作機械などの動力伝達装置に組み込むことは当然可能である。
上記実施の形態では、第1スプラグ11及び第2スプラグ21により第1係合子および第2係合子が構成されている場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。第1係合子および第2係合子をローラやボール等のコロとすることが可能である。この場合は、そのコロを付勢部材で付勢すると共に保持器で保持する。内輪2及び外輪3の外周面2a及び内周面3a(第1部材および第2部材の所定面および対向面)の一方に円筒面を形成し、他方にカム面を形成する。それら円筒面とカム面との間でコロが係合する楔状空間を形成する。上記実施の形態と同様に、荷重付与装置で保持器を介してコロ(第1係合子および第2係合子)に荷重を付与することにより、コロの円筒面とカム面との間の係合と解除とを切り換えることができる。これにより、上記実施の形態と同様の作用が得られる。
上記第1実施の形態では、アクチュエータ41が電動機(交流電動機または直流電動機)により構成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の動力源を採用することは当然可能である。他の動力源としては、例えば、油圧モータ、空気圧シリンダ、油圧シリンダ、交流ソレノイド及び直流ソレノイド等が例示される。
ここで、アクチュエータ11をソレノイドにより構成する場合には、歯車機構などにより第1スプラグ11及び第2スプラグ21に荷重を付与する場合に限られず、例えば、電磁力を利用して第1スプラグ11及び第2スプラグ21に荷重を付与するように構成しても良い。
上記各実施の形態では、第1付勢部材12、第2付勢部材22がコイルスプリングにより構成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の付勢部材を採用することは当然可能である。他の付勢部材としては、例えば、金属材料に波状の曲げ加工を施して形成され、その弾性を利用して付勢力としての荷重を第1スプラグ11及び第2スプラグ21に付与可能に構成されるリボンスプリングが挙げられる。
上記各実施の形態では、第1スプリング11が2本の第1付勢部材12の付勢力で付勢される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、第2スプラグ12のように、1本の付勢部材を用いて付勢されるようにすることも当然可能である。
上記各実施の形態では、反ロック方向に傾動された第1スプラグ11が互いに当接して互いを拘束する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、第1スプラグ11の形状によっては、例えば、反ロック方向に傾動された第1スプラグ11を保持部31,231,331に当接させ、それ以上の傾動を規制するようにすることも当然可能である。この場合も同様の作用が得られる。
上記各実施の形態では、反ロック方向へ傾動された第1スプラグ11の係合面11aと、内輪2の外周面2a又は外輪3の内周面3aとの間に隙間が形成される場合や、反ロック方向へ傾動された第2スプラグ21(図15参照)の係合面21aと、内輪2の外周面2aとの間に隙間が形成される場合について説明したが、必ずしも隙間は必要ではない。第1付勢部材12や第2付勢部材22によって第1スプラグ11や第2スプラグ21を反ロック方向へ傾動させることで、内輪2と外輪3との間に第1スプラグ11や第2スプラグ21が噛み込まれないようにすることが可能だからである。
<その他>
<手段>
技術的思想1記載動力伝達装置は、軸心回りに回転可能に構成される第1部材と、その第1部材の所定面と対向する対向面を有し前記軸心回りに回転可能に構成される第2部材と、その第2部材または前記第1部材の一方から前記第2部材または前記第1部材の他方へ動力を遮断可能に伝達する一方、前記第2部材または前記第1部材の他方から前記第2部材または前記第1部材の一方へ動力の伝達を遮断する第1クラッチと、前記第2部材または前記第1部材の他方から前記第2部材または前記第1部材の一方へ動力を伝達する一方、前記第2部材または前記第1部材の一方から前記第2部材または前記第1部材の他方へ動力の伝達を遮断する第2クラッチとを備え、前記第1クラッチは、前記所定面および前記対向面にそれぞれ接する係合面を有し、それら係合面が前記所定面および前記対向面に係合可能に構成されると共に、前記所定面および前記対向面の対向間において円周方向に複数配設される第1係合子と、前記第1係合子に付勢力を付与して前記第1係合子を前記円周方向の反ロック方向へ付勢する第1付勢部材とを備え、前記第2クラッチは、前記所定面および前記対向面にそれぞれ接する係合面を有し、それら係合面が前記所定面および前記対向面に係合可能に構成されると共に、前記所定面および前記対向面の対向間において円周方向に複数配設される第2係合子と、前記第2係合子に付勢力を付与して前記第2係合子を前記円周方向へ付勢する第2付勢部材とを備え、前記第1クラッチ及び前記第2クラッチは、前記第1係合子および前記第2係合子を前記所定面および前記対向面の円周方向へ移動可能に保持する保持器と、その保持器に荷重を付与して前記所定面および前記対向面に前記第1係合子の係合面がそれぞれ接するように前記円周方向の前記反ロック方向とは逆方向のロック方向へ前記第1係合子を移動させる荷重付与装置とを備え、その荷重付与装置により前記第1付勢部材の付勢力に抗して前記第1係合子に荷重が付与され前記第1係合子が前記ロック方向へ移動されることで、前記所定面および前記対向面と前記第2係合子の係合面との係合が解除された状態で、前記所定面および前記対向面に前記第1係合子の係合面がそれぞれ係合して前記第1部材と前記第2部材との相対回転が規制されることを特徴とする動力伝達装置。
技術的思想2記載の動力伝達装置は、請求項1記載の動力伝達装置において、前記第1部材または前記第2部材の一方は、断面円形状の外周面を有し軸心回りに回転可能に構成される内輪を備え、前記第1部材または前記第2部材の他方は、前記内輪の前記外周面に対向する断面円形状の内周面を有し前記軸心回りに回転可能に構成される外輪を備えて構成され、前記第1係合子および前記第2係合子は、前記外周面および前記内周面にそれぞれ接する2つの係合面を有し、それら係合面が前記外周面および前記内周面に係合可能なスプラグにより構成されている。
技術的思想3記載の動力伝達装置は、請求項2記載の動力伝達装置において、前記第1付勢部材は、前記外周面または前記内周面の一方と前記係合面の一方とに隙間が形成されるように前記第1係合子を付勢する。
技術的思想4記載の動力伝達装置は、請求項2又は3に記載の動力伝達装置において、前記外周面または前記内周面の他方が前記第1係合子の係合面の他方と接する接点において前記外周面または前記内周面の他方から前記第1係合子に作用する反力は、前記荷重付与装置により前記第1係合子に作用する荷重方向の分力成分の向きが、前記第1係合子のロック方向と同じ向きである。
技術的思想5記載の動力伝達装置は、請求項2から4のいずれかに記載の動力伝達装置において、前記第1係合子は、前記外周面および前記内周面の対向間に等間隔に配設され、前記反ロック方向へ傾動されることで互いに当接する。
技術的思想6記載の動力伝達装置は、請求項1から5のいずれかに記載の動力伝達装置において、前記荷重付与装置は、電動機により構成されている。
<効果>
技術的思想1記載の動力伝達装置によれば、第1クラッチにより第2部材または第1部材の一方から第2部材または第1部材の他方へ動力を遮断可能に伝達する一方、第2部材または第1部材の他方から第2部材または第1部材の一方へ動力の伝達が遮断され、第2クラッチにより第2部材または第1部材の他方から第2部材または第1部材の一方へ動力を伝達する一方、第2部材または第1部材の一方から第2部材または第1部材の他方へ動力の伝達が遮断される。それら第1クラッチ及び第2クラッチの保持器により第1係合子および第2係合子が所定面および対向面の円周方向へ移動可能に保持され、保持器に保持された第1係合子は、第1付勢部材により円周方向の反ロック方向へ付勢される。また、第1係合子は、荷重付与装置により荷重が付与されロック方向へ移動されることで、所定面および対向面に係合面がそれぞれ係合する。このとき、第2係合子の係合面と所定面および対向面との係合は解除された状態であるから、第1部材と第2部材との相対回転は第1係合子によって規制される。即ち、第1係合子は空転状態からロック状態に切り換えられ、第1係合子を介して第1部材から第2部材へ回転が伝達される。
このように第1係合子および第2係合子を保持器が一括して保持しているので、クラッチ毎に保持器を設ける必要がなく、部品点数を減らすことができる効果がある。また、第1係合子の空転状態からロック状態への切換えを、荷重伝達装置により一つの保持器に荷重を付与することで一括して行うことができるので、装置構成を簡素化すると共に、切換機構や制御を簡略化できる効果がある。
技術的思想2記載の動力伝達装置によれば、第1部材または第2部材の一方は、断面円形状の外周面を有し軸心回りに回転可能に構成される内輪を備え、第1部材または第2部材の他方は、内輪の外周面に対向する断面円形状の内周面を有し軸心回りに回転可能に構成される外輪を備えて構成されているので、外周面および内周面の断面形状を円形状に簡素化できる効果がある。また、第1係合子および第2係合子は、係合面が外周面および内周面に係合可能なスプラグにより構成されているので、スプラグ(第1係合子および第2係合子)を移動(傾動)させて一定方向への回転の伝達および遮断の切換えを行うことができる。
ここで、第2係合子が内輪および外輪に係合して第2係合子を介して動力が伝達されるときは、内輪および外輪に係合する第2係合子によって内輪および外輪に弾性変形が生じ、内輪および外輪の間隔がわずかに広げられる可能性がある。しかしながら、第1係合子は反ロック方向へ付勢されているので、第1係合子が内輪および外輪に噛み込まれることを防止できる。
一方、荷重付与装置により第1係合子をロック方向に移動(傾動)させることで、第1係合子を内輪および外輪に係合可能にできる。その結果、第1係合子が内輪および外輪に係合して第1係合子を介して動力が伝達されるときは、内輪および外輪に係合する第1係合子によって内輪および外輪に弾性変形が生じ、内輪および外輪の間隔がわずかに広げられる可能性がある。この場合、第2係合子が第2付勢部材により反ロック方向へ付勢されているときは、第2係合子が内輪および外輪に噛み込まれることが防止される。
しかし、第2係合子が第2付勢部材によりロック方向へ付勢されているときは、第2係合子は内輪および外輪に噛み込まれる可能性がある。第2係合子が内輪および外輪に噛み込まれると、第2係合子を介して動力が伝達されるときに、内輪および外輪に噛み込まれた第2係合子によって内輪および外輪の間隔が広げられる。この間隔が、第1係合子が係合したときの内輪および外輪の間隔と同等以上になると、第1スプラグは反ロック方向へ付勢されているので、第1係合子は噛み込まれる方向と逆方向に移動(傾動)する。これにより第1係合子が内輪および外輪に噛み込まれることを防止できる。以上より、技術的思想1の効果に加え、第1係合子および第2係合子が内輪および外輪に噛み込まれることを防ぎ、動力の伝達方向の切換えができなくなることを防止できる効果がある。
技術的思想3記載の動力伝達装置によれば、第1付勢部材は、外周面または内周面の一方と係合面の一方とに隙間が形成されるように第1係合子を付勢するので、外周面または内周面と第1スプラグの係合面との摩擦をなくすことができる。これにより、技術的思想2の効果に加え、摩擦によるエネルギー損失を抑制できる効果がある。
技術的思想4記載の動力伝達装置によれば、外周面または内周面の他方が係合面の他方と接する接点において外周面または内周面の他方から第1係合子に作用する反力は、荷重付与装置により第1係合子に作用する荷重方向の分力成分の向きが第1係合子のロック方向と同じ向きであるので、荷重付与装置によって第1係合子に荷重が付与されると、外周面または内周面の上を係合面が滑ることが防止され、そこを中心に第1係合子を確実に移動(傾動)させることができる。これにより、技術的思想2又は3の効果に加え、荷重付与装置から荷重が付与されることで、第1係合子の2つの係合面を外周面および内周面に確実に係合させることができ、動力を確実に伝達できる効果がある。
技術的思想5記載の動力伝達装置によれば、第1係合子は、外周面および内周面の対向間に等間隔に配設され、反ロック方向へ傾動されることで互いに当接するので、互いに当接する位置まで第1係合子を傾かせると互いに拘束し合う。互いに拘束し合うまで第1係合子を傾けることで、外周面または内周面の一方と係合面の一方との隙間を十分に確保できる。その結果、技術的思想2から4のいずれかの効果に加え、内輪と外輪とが相対回転をするときに、外周面または内周面の一方と係合面の一方とが接触して、意図せずに第1係合子が係合して相対回転が規制されてしまうことを防止できる効果がある。
さらに、反ロック方向に付勢された第1係合子を互いに当接する位置まで傾かせると互いに拘束し合うので、所定の角度以上に第1係合子が傾倒してしまうことが防止される。その所定の角度を、第1係合子が保持器によって移動可能な範囲に設定することで、保持器の位置を規制する部材等を採用することなく、保持器によって第1係合子を移動可能にでき、部品点数を削減でき装置構成を簡素化できる効果がある。
技術的思想6記載の動力伝達装置によれば、荷重付与装置は電動機により構成されているので、技術的思想1から5のいずれかの効果に加え、荷重付与装置をシリンダやソレノイド等により構成する場合と比較して、荷重付与装置の構造を簡素化すると共に荷重付与装置の小型化を図ることができ、ひいては動力伝達装置の小型化を図ることができる効果がある。
また、荷重付与装置が保持器を介して第1係合子に荷重を付与する構成の場合には、動力伝達装置が回転を伝達している状態では、保持器が内輪および外輪の回転に伴い軸心回りに回転するので、荷重付与装置が保持器の回転抵抗となるが、荷重付与装置を電動機により構成することで、保持器の回転抵抗を小さくでき、内輪および外輪を高速回転させることができる。一方、動力伝達装置が回転を遮断している状態では保持器は回転しないので、駆動エネルギーの小さな電動機で第1係合子に荷重を付与することができ、エネルギー損失を抑制できると共に、動力伝達装置の小型化を図ることができる効果がある。