JPWO2009072562A1 - 有機酸の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
(1)ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ活性が増強するように改変された有機酸生産能を有する腸内細菌科に属する細菌又は該細菌の処理物を、炭酸イオン、重炭酸イオン、または二酸化炭素ガスを含有する反応液中で有機原料に作用させることによって、有機酸を生成させ、該有機酸を採取することを特徴とする有機酸の製造法であり、かつ該細菌が、エンテロバクター属、パントエア属、エルビニア属、クレブシエラ属、及びラウルテラ属から選択される細菌である方法。
(2)前記細菌が、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼをコードするpckA遺伝子のコピー数を高めること、及び/または、該遺伝子の発現調節配列を改変することにより、該遺伝子の発現が増強するように改変された細菌である、前記方法。
(3)前記pckA遺伝子が下記(a)または(b)に示すDNAである前記方法。
(a)配列番号6、8、10、12、14、16、又は64の塩基配列を含むDNA。
(b)配列番号6、8、10、12、14、16、又は64の塩基配列に相補的な配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(4)前記pckA遺伝子が、配列番号7、9、11、13、15、17、65、又は24に示すアミノ酸配列を有するタンパク質、または配列番号7、9、11、13、15、17、65、又は24において1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする、前記方法。
(5)前記細菌が、さらにアルコールデヒドロゲナーゼ活性、乳酸デヒドロゲナーゼ活性、燐酸アセチルトランスフェラーゼ、α−アセト乳酸デカルボキシラーゼ活性、及びピルビン酸−ギ酸リアーゼ活性から選択される1又は2以上の酵素活性が低下するように改変された細菌である、前記方法。
(6)前記細菌がアルコールデヒドロゲナーゼ活性が低下するように改変された細菌である、前記方法。
(7)前記細菌が、アルコールデヒドロゲナーゼ活性、及び、乳酸デヒドロゲナーゼ活性が低下するように改変された細菌である、前記方法。
(8)前記細菌が、アルコールデヒドロゲナーゼ活性、乳酸デヒドロゲナーゼ活性、及び、燐酸アセチルトランスフェラーゼ活性が低下するように改変された細菌である、前記方法。
(9)前記細菌が、アルコールデヒドロゲナーゼ活性、乳酸デヒドロゲナーゼ活性、燐酸アセチルトランスフェラーゼ活性、及び、α−アセト乳酸デカルボキラーゼ活性が低下するように改変された細菌である、前記方法。
(10)前記細菌が、アルコールデヒドロゲナーゼ活性、乳酸デヒドロゲナーゼ活性、燐酸アセチルトランスフェラーゼ活性、α−アセト乳酸デカルボキラーゼ活性、及び、ピルビン酸−ギ酸リアーゼ活性が低下するように改変された細菌である、前記方法。
(11)前記細菌が、さらに、ピルビン酸カルボキシラーゼ活性が増強するように改変された細菌である、前記方法。
(12)前記有機酸がコハク酸である前記方法。
(13)前記の方法によりコハク酸を製造する工程、及び得られたコハク酸を重合させる工程を含む、コハク酸含有ポリマーの製造方法。
<1>本発明の細菌
本発明の方法に用いられる細菌は、有機酸生産能を有し、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(以下、「PEPCK」と略す)活性が増強するように改変された細菌である。ここで、有機酸生産能とは、本発明の細菌を培地で培養したときに、培地中に有機酸を生成し、回収できる程度に蓄積する能力をいう。例えば、目的とする有機酸を培地中に好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1.0g/L以上、蓄積させることができる細菌をいう。このような細菌は、有機酸生産能を有する親株を、PEPCK活性が増強するように改変することにより得ることができる。また、親株が有機酸生産能を有していない場合、有機酸の生産能を付与し、さらに、PEPCK活性が増強するように改変することによって得ることができる。また、PEPCK活性が増強するように改変された細菌に、有機酸の生産能を付与してもよい。有機酸の生産能を有する細菌は、本来的に有機酸の生産能を有するものであってもよいが、下記のような細菌を、変異法や組換えDNA技術を利用して、有機酸の生産能を有するように改変したものであってもよい。
パントエア・アナナティスAJ13356株(FERM BP-6615)(欧州特許出願公開0952221号)
尚、これらの菌株は、欧州特許出願公開0952221号にはエンテロバクター・アグロメランスとして記載されているが、現在では、上記のとおり、16S rRNAの塩基配列解析などにより、パントエア・アナナティスに再分類されている。
具体的には、下記の菌株が挙げられる。
エルビニア・カロトボーラ ATCC15713株
クレブシエラ・プランティコーラAJ13399株(FERM BP-6600)(欧州特許出願公開0955368号)
クレブシエラ・プランティコーラAJ13410株(FERM BP-6617)(欧州特許出願公開0955368号)
ラウルテラ・プランティコーラ ATCC33531株
尚、AJ13399株及びAJ13410株は、寄託当時はクレブシエラ・プランティコーラとして分類されていたが、現在ではクレブシエラ・プランティコーラはラウルテラ・プランティコーラに分類されている(Int J Syst Evol Microbiol. 2001 May;51(Pt 3):925-32)。
以下、細菌に有機酸生産能を付与する方法、またはこれらの細菌の有機酸生産能を増強する方法について述べる。
以下、具体的に細菌に有機酸生産能を付与する方法と有機酸生産菌について例示する。
コハク酸生産菌としては、酢酸、乳酸、エタノール、2,3-ブタンジオール及び蟻酸の形成能を欠損した株を使用することが出来る。
(iclR)、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(gdh)及び/又はグルタミンシンセターゼ(glnA)、グルタミン酸シンターゼ(gltBD)活性を低下することによっても、コハク酸生産能を高めることが出来る(WO2006/017127、WO2007/007933、特開2005-168401号)。酵素名の後のカッコ内は、遺伝子名である。
コハク酸生産能は、ピルビン酸カルボキシラーゼ、マリックエンザイム、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、フマラーゼ、フマル酸リダクターゼ、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ活性を増強することによっても高めることが出来る(特開平11-196888号、WO99/53035、2001. Biotechnol. Bioeng. 74: 89-95、Millard, C. S., Chao, Y. P., Liao, J. C., Donnelly, M. I. 1996. Appl. Environ. Microbiol. 62: 1808-1810、WO2005/021770、特開2006-320208号、Pil Kim, Maris Laivenieks, Claire Vieille, and J.Gregory Zeikus. 2004. Appl. Environ. Microbiol. 70: 1238-1241)。これらの目的酵素の酵素活性増強は、後述するpckA遺伝子の発現の増強方法を参照にして行うことが出来る。
エンテロバクター・アエロゲネス AJ 110637 (FERM BP-10955)株
エンテロバクター・アエロゲネス VP-1株 (J Biosci Bioeng. 2004;97(4):227-32)
本発明の細菌は、上述したような有機酸生産能を有する細菌をホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)活性が増強するように改変することによって得ることができる。ただし、PEPCK活性が増強するように改変を行った後に、有機酸生産能を付与してもよい。
上記遺伝子ホモログ及び保存的変異に関する記載は、本明細書に記載された他の酵素遺伝子についても同様に適用される。
ここで、「pckA遺伝子の発現が増強するように改変された」とは、親株、あるいは野生株に対して細胞当たりのPEPCK分子の数が増加した場合や、PEPCK分子当たりの活性が上昇した場合などが該当する。なお、比較対象となる野生型とは、例えばエンテロバクター・アエロゲネスではエンテロバクター・アエロゲネスATCC13048などが挙げられる。
(1978))も応用できる。また、電気パルス法(特開平2-207791号)や、接合伝達法(Biotechnology (N Y). 1991 Jan;9(1):84-7)によっても、細菌の形質転換を行うことができる。
なお、発現調節配列の改変は、pckA遺伝子のコピー数を高めることと組み合わせてもよい。
エンテロバクター・アエロゲネスのLDH遺伝子として、エンテロバクター・アエロゲネスAJ 110637 (FERM BP-10955)株のD-LDH遺伝子(ldhA)の塩基配列を配列番号20に、同遺伝子がコードするアミノ酸配列を配列番号48に示す。
マウス[Proc.Natl.Acad.Sci.USA., 90, 1766-1779, (1993)]
ラット[GENE, 165, 331-332, (1995)]
酵母;サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)
[Mol.Gen.Genet., 229, 307-315, (1991)]
シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)
[DDBJ Accession No.; D78170]
バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)
[GENE, 191, 47-50, (1997)]
リゾビウム・エトリ(Rhizobium etli)
[J.Bacteriol., 178, 5960-5970, (1996)]
本発明の細菌のホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC)の活性に関しては、低下または欠損している必要はなく、遺伝子は野生型であってよい。
本発明では、上記のような、有機酸生産能を有し、pckA遺伝子の発現が増強するように改変された細菌を用いて有機酸の製造を行う。具体的には、本発明の細菌又は該細菌の処理物を、炭酸イオン、重炭酸イオン、または二酸化炭素ガスを含有する反応液中で有機原料に作用させることによって、有機酸を生成させ、該有機酸を採取することによって、有機酸を製造することができる。
培養に用いる細菌は、寒天培地等の固体培地で斜面培養したものであっても良いが、予め液体培地で培養(種培養)したものが好ましい。
前記第一の形態では、培地に添加する炭素源は、有機酸生成のための有機原料でもある。
前記第二の形態では、培養後の菌体は、遠心分離、膜分離等によって回収され、反応に用いられる。
<1−1>エシェリヒア・コリ MG1655株のスレオニンオペロンプロモーター断片の取得
エシェリヒア・コリ(エシェリヒア・コリK-12株)のゲノムの全塩基配列(GenBank Accession No. U00096)は既に明らかにされている(Science, 277, 1453-1474 (1997))。本配列を基にスレオニンオペロン(thrLABC)のプロモーター領域のPCR増幅を行った。5'プライマーとしてSalIサイトを有した配列番号1に示す合成オリゴヌクレオチド、配列番号2に示す合成オリゴヌクレオチドを3'側プライマーとして用いて、エシェリヒア・コリ MG1655株(ATCC47076, ATCC700926)のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、スレオニンオペロンプロモーター断片(A)(配列番号3)を得た。
アクチノバチルス・サクシノゲネス130Z株のゲノムの全塩基配列(GenBank Accession No. CP000746)も既に公開されており、PEPCKをコードする遺伝子(遺伝子名pckA)の塩基配列を基にプライマーを設計し、PCR増幅を行った。5'プライマーとして配列番号4に示す合成オリゴヌクレオチド、3'側プライマーとしてSalIサイトを有した配列番号5に示す合成オリゴヌクレオチドを用いて、アクチノバチルス・サクシノゲネス130Z株のゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、pckA遺伝子断片(B)(配列番号6)を得た。
上記、断片(A)と(B)を鋳型にし、SalIサイトを有した配列番号1と配列番号5のプライマーを用いてPCR反応を行い、断片(A)と(B)が結合された遺伝子断片(C)を得た。この遺伝子断片(C)を制限酵素SalIにて処理、精製した産物を、制限酵素SalIで消化したプラスミドベクターpSTV28(宝バイオ社製)に結合して、pckA増幅用プラスミドpSTV28::Pthr::pckAを構築した。
上記で得られたpSTV28::Pthr::pckAおよびpSTV28を用いて、エンテロバクター・アエロゲネスAJ110637 (FERM BP-10955)株(参考例1参照)を電気パルス法により形質転換し、クロラムフェニコール40μg/mlを含むLB寒天培地に塗布し、37℃で約18時間培養した。出現したコロニーを純化し、定法によりプラスミドを抽出し、目的のプラスミドが導入されていることを確認した。得られた株をそれぞれエンテロバクター・アエロゲネス AJ110637 pSTV28::Pthr::pckA、エンテロバクター・アエロゲネス AJ110637 pSTV28と名づけた。
エンテロバクター・アエロゲネス AJ110637 pSTV28::Pthr::pckA、エンテロバクター・アエロゲネス AJ110637 pSTV28を40mg/Lのクロラムフェニコールを含むLBプレートに均一に塗布し、37℃にて16時間培養した。その後、該プレートをアネロパック(三菱ガス化学株式会社製 嫌気性菌簡易培養用 品番A-04)に入れ、嫌気条件下、37℃で16時間培養を行った。得られたプレートの菌体を、0.8%の食塩水で洗浄後、51倍希釈でOD=1.0(600nm)になる様に調製した。この菌体懸濁液100μlと予め炭酸ガスにて置換した生産培地1.3mlを1.5ml容のマイクロチューブに分注し、マイクロチューブシェイカーを用いて31.5℃において24時間培養した。以下に生産培地の組成を示す。
〔A区〕
グルコース 40 g/L(最終濃度)
硫酸マグネシウム・七水和物 1 g/L
〔B区〕
硫酸アンモニウム 1 g/L
燐酸二水素カリウム 1 g/L
硫酸マンガン・五水和物 10 mg/L
硫酸鉄・七水和物 10 mg/L
Yeast Extract 2 g/L
ビオチン 1 mg/L
(KOHにてpH=5.5に調製)
〔C区〕
炭酸カルシウム(日本薬局方) 50 g/L
A区、B区をそれぞれ115℃、10分オートクレーブ滅菌、C区を180℃ 3時間乾熱滅菌した後、放冷し、混合する。
<3−1>エンテロバクター・アエロゲネス AJ110637におけるadhE欠損株の構築
エンテロバクター・アエロゲネス AJ110637は、糖源を含む培地で生育させた場合、著量のエタノールを生成するため、アルコールデヒドロゲナーゼをコードするadhEを欠損させることにより、エタノールの生成を抑えることとした。
上記で得られたエンテロバクター・アエロゲネス AJ110637ΔadhEを、pckA増幅用プラスミドpSTV28::Pthr::pckAおよびpSTV28で形質転換し、クロラムフェニコール40μg/ml及び、テトラサイクリン25μg/mlを含むLB寒天培地に塗布し、37℃で約18時間培養した。出現したコロニーを純化し、定法によりプラスミドを出し、目的のプラスミドが導入されていることを確認した。得られた株をそれぞれエンテロバクター・アエロゲネス AJ110637ΔadhE+pSTV28::Pthr::pckA、エンテロバクター・アエロゲネス AJ110637ΔadhE+pSTV28と名づけた。
エンテロバクター・アエロゲネス AJ110637ΔadhE+pSTV28::Pthr::pckA、エンテロバクター・アエロゲネス AJ110637ΔadhE+pSTV28を用いて、前記と同様の評価系にてコハク酸生産能を比較した。45時間目の結果を表2に示す。
<4−1>エンテロバクター・アエロゲネス AJ110637ΔadhEからの、酢酸、乳酸、2,3-ブタンジオール及び蟻酸合成遺伝子欠損株の構築。
AJ110637ΔadhEは、糖源を含む培地で生育させた場合、培地中に、酢酸、乳酸、2,3-ブタンジオール及び蟻酸を生成する。その為、これらの合成経路を欠損させる事により、更なるコハク酸生成能向上株の構築を行った。
AJ110637ΔadhEからテトラサイクリン耐性遺伝子を除去する為に、RSF-int-xisプラスミドを用いた(参考例4参照)。遺伝子破壊株にRSF-int-xisを電気パルス法で導入し、40μg/mlクロラムフェニコールを含有するLB培地に塗布後30℃で培養し、RSF-int-xis保持株を得た。得られたプラスミド保持株を、40μg/mlクロラムフェニコール及び1mM IPTGを含有するLB培地で純化し、シングルコロニーを複数得た。得られた株を、25μg/mlのテトラサイクリンを加えた培地に塗布し、37℃で一晩培養し生育出来ない事を確認する事で、抗生物質耐性遺伝子が除去された株である事を確認した。次に、得られた株からRSF-int-xisプラスミドを脱落させるため、10%シュークロース及び1mM IPTGを添加したLB培地に塗布し、37℃で一晩培養した。出現したコロニーの中から、クロラムフェニコール耐性を欠失した株を用いて、酢酸、乳酸、2,3-ブタンジオール及び蟻酸の生合成経路欠損を実施した。
乳酸の生成は乳酸デヒドロゲナーゼを欠損させる事により抑制する事が出来る。D-乳酸デヒドロゲナーゼをコードするldhA遺伝子を以下のようにして破壊した。配列番号56と配列番号57で示されるオリゴヌクレオチドを用いて、pMW-attL-Km-attRを鋳型にしてPCRを行い、上記〔実施例3〕と同じ手順で、薬剤耐性遺伝子が欠失したAJ110637ΔadhEからAJ110637ΔadhEΔldhAを構築した。得られた株をES02と命名した。
酢酸の生成は燐酸アセチルトランスフェラーゼを欠損させる事により抑制する事が出来る。燐酸アセチルトランスフェラーゼをコードするpta遺伝子を以下のようにして破壊した。配列番号58と配列番号59で示されるオリゴヌクレオチドを用いて、pMW-attL-Km-attRを鋳型にしてPCRを行い、上記〔実施例3〕と同じ手順で、薬剤耐性遺伝子が欠失したAJ110637ΔadhEΔldhAからAJ110637ΔadhEΔldhAΔptaを構築した。得られた株をES03と命名した。
2,3-ブタンジオールの生成はα-アセト乳酸デカルボキラーゼを欠損させる事により抑制する事が出来る。α-アセト乳酸デカルボキラーゼをコードするα-aldc遺伝子を以下のようにして破壊した。配列番号60と配列番号61で示されるオリゴヌクレオチドを用いて、pMW-attL-Km-attRを鋳型にしてPCRを行い、上記〔実施例3〕と同じ手順で、薬剤耐性遺伝子が欠失したAJ110637ΔadhEΔldhAΔptaからAJ110637ΔadhEΔldhAΔptaΔα-aldcを構築した。得られた株を、ES04と命名した。
蟻酸の生成はピルビン酸−ギ酸リアーゼを欠損させる事により抑制する事が出来る。ピルビン酸−ギ酸リアーゼをコードするpflB遺伝子を以下のようにして破壊した。配列番号62と配列番号63で示されるオリゴヌクレオチドを用いて、pMW-attL-Km-attRを鋳型にしてPCRを行い、上記〔実施例3〕と同じ手順で、薬剤耐性遺伝子が欠失したAJ110637ΔadhEΔldhAΔptaΔα-aldcからAJ110637ΔadhEΔldhAΔptaΔα-aldcΔpflBを構築した。得られた菌株をES05と命名した。
各種欠損株におけるpckA増幅がコハク酸発酵に及ぼす影響
上記で得られたES02、ES03、ES04、ES05それぞれを、pSTV28::Pthr::pckAおよびpSTV28を用いて、電気パルス法により形質転換し、クロラムフェニコール40μg/mlを含むLB寒天培地に塗布し、37℃で約18時間培養した。出現したコロニーを純化し、定法によりプラスミドを抽出し、目的のプラスミドが導入されていることを確認した。得られた株をそれぞれES02/pSTV28、ES02/pSTV28::Pthr::pckA、ES03/pSTV28、ES03/pSTV28::Pthr::pckA、ES04/pSTV28、ES04/pSTV28::Pthr::pckA、ES05/pSTV28、ES05/pSTV28::Pthr::pckA、と名づけた。
〔シード培地〕
Bacto Tryptone 20 g/L(最終濃度)
Yeast Extract 10 g/L
塩化ナトリウム 10 g/L
120℃、10分オートクレーブ
(A区)
グルコース 100 g/L(最終濃度)
(B区)
炭酸カルシウム(日本薬局方) 100 g/L
120℃、10分オートクレーブ滅菌したA区と、180℃ 3時間乾熱滅菌した後、放冷したB区とを混合し使用した。
エンテロバクター・アエロゲネスAJ110637は、2006年3月に神奈川県牧之原市須々木海岸側の土壌から、グリセリンを炭素源とした液体集積培養にて取得した。その後16SrDNAの全長配列を決定したところ、エンテロバクター・アエロゲネスNCTC10006株と99.9%の相同率を示した。また、APIキットによる生理学的試験結果においてもエンテロバクター・アエロゲネスの基準種と同じ結果を得た事により、単離取得株はエンテロバクター・アエロゲネスと同定した。
ヘルパープラスミドRSF-Red-TERの構築スキームを図2に示す。
構築の最初の工程として、RSFsacBPlacMCSベクターをデザインした。そのために、pACYC184プラスミドのcat遺伝子、及びバチルス・サブチリスのsacB遺伝子の構造部分を含むDNA断片を、それぞれ配列番号25、26、27、28のオリゴヌクレオチドを用いて、PCRにより増幅した。これらのオリゴヌクレオチドは各々、さらなるクローニングに必要な、都合のよいBglII、SacI、XbaI、及びBamHI制限酵素部位を5'末端に含んでいる。得られた1.5kbのsacB断片を、先に得たpMW119-PlaclacIベクターのXbaI-BamHI部位にクローニングした。このベクターは、pMW118-PlaclacIベクターについての記載(Skorokhodova,A.Yu et al, Biotekhnologiya (Rus), 5, 3-21 (2004))と同様にして構築した。但し、同ベクターは、pMW218プラスミドの代わりにpMW219からのポリリンカー部位を含んでいる。
pMW118-(λattL-Kmr-λattR)プラスミドの構築
pMW118-(λattL-Kmr-λattR)プラスミドは、pMW118-attL-Tc-attR プラスミドから、テトラサイクリン耐性マーカー遺伝子をpUC4Kプラスミドのカナマイシン耐性遺伝子で置換することによって構築した。そのために、pMW118-attL-Tc-attRプラスミドのEcoRI-HindIII大断片を、pUC4KプラスミドのHindIII-PstI(676bp)及びEcoRI-HindIII(585bp)の2つの断片に連結した。基本となるpMW118-attL-Tc-attRは、以下の4つの断片を連結することによって得た。
1)エシェリヒア・コリW3350(λプロファージを含む)の染色体のattLに相当する領域から、プライマーP1(配列番号35)及びP2(配列番号36)を用いたPCR増幅により得たattL(配列番号37)を持つBglII-EcoRI断片(114bp)。これらのプライマーは、BglII及びEcoRIのための副次的な認識部位を含んでいる。
・pMW118のAatII-EcoRI断片を持つ大断片(2359 bp)。この断片は、pMW118をEcoRIで消化し、DNAポリメラーゼIクレノーフラグメントで処理し、次いでAatIIで消化することによって得た。
・アンピシリン耐性(ApR)の遺伝子blaを持つpUC19のAatII-BglII小断片(1194 bp)。この断片は、pUC19プラスミドの相当する領域をプライマーP5及びP6(配列番号41及び42)を用いてPCR増幅することにより得た。これらのプライマーは、PstI及びAatII及びBglIIのための副次的な認識部位を含んでいる。
・転写ターミネーターter_rrnBのBglII-PstI小断片(363bp)。この断片は、エシェリヒア・コリMG1655染色体の相当する領域をプライマーP7及びP8(配列番号43及び44)を用いてPCR増幅することにより得た。これらのプライマーは、PstI及びBglII及びPstIのための副次的な認識部位を含んでいる。
・pML-MCSプラスミド(Mashko, S.V. et al., Biotekhnologiya (in Russian), 2001, no.5, 3-20)をXbaI及びBamHIで消化し、次いで大断片(3342bp)を、ter_thrLターミネーターを含むXbaI-BamHI断片(68bp)と連結した。このter_thrLターミネーターを含む断片は、エシェリヒア・コリMG1655染色体の相当する領域を、プライマーP9及びP10(配列番号46及び47)を用いたPCRにより得た。こうしてpML-ter_thrLプラスミドを得た。これらのプライマーは、PstI及びXbaI及びBamHIのための副次的な認識部位を含んでいる。
・pML-ter_thrLプラスミドをKpnI及びXbaIで消化し、次いでDNAポリメラーゼIクレノーフラグメントで処理し、テトラサイクリン耐性遺伝子を持つpBR322のEcoRI-Van91I小断片(1317bp)と連結して、pML-Tc-ter_thrLプラスミドを得た。尚、pBR322は、EcoRI及びVan91Iで消化し、次いでDNAポリメラーゼIクレノーフラグメントで処理した。
遺伝子破壊株から、遺伝子の破壊に用いたプラスミドに由来する抗生物質耐性遺伝子を除去するためのプラスミドとして、RSF-int-xisを構築した。RSF-int-xis構築の材料として、pMW-intxis-tsを用いた。pMW-intxis-tsは、λファージのインテグラーゼ(Int)をコードする遺伝子、エクシジョナーゼ(Xis)をコードする遺伝子を搭載し、温度感受性の複製能を有するプラスミドである(WO2007/037460、特開2005-058827)。
配列番号1:スレオニンプロモーター増幅用プライマー
配列番号2:スレオニンプロモーター増幅用プライマー
配列番号3:スレオニンプロモーター遺伝子断片
配列番号4:Actinobacillus succinogenes pckA遺伝子増幅用プライマー
配列番号5:Actinobacillus succinogenes pckA遺伝子増幅用プライマー
配列番号6:Actinobacillus succinogenes ATCC55618株pckA遺伝子配列
配列番号7:Actinobacillus succinogenes ATCC55618株pckAアミノ酸配列
配列番号8:Haemophilus influenzae 86-028NP株 pckA遺伝子配列
配列番号9:Haemophilus influenzae 86-028NP株 pckAアミノ酸配列
配列番号10:Pasteurella multocida subsp. multocida str. PM70株pckA遺伝子
配列番号11:Pasteurella multocida subsp. multocida str. PM70株pckAアミノ酸
配列番号12:Mannheimia succiniciproducens MBEL55E株pckA遺伝子配列
配列番号13:Mannheimia succiniciproducens MBEL55E株pckAアミノ酸配列
配列番号14:Yersinia pseudotuberculosis IP 32953株pckA遺伝子配列
配列番号15:Yersinia pseudotuberculosis IP 32953株 pckAアミノ酸配列
配列番号16:Vibrio cholerae 623-39 pckA遺伝子配列
配列番号17:Vibrio cholerae 623-39 pckAアミノ酸配列
配列番号18:adhE欠損用プライマー
配列番号19:adhE欠損用プライマー
配列番号20: Enterobacter aerogenes AJ110637 ldhA遺伝子配列
配列番号21: Enterobacter aerogenes AJ110637 adhE遺伝子配列
配列番号22:Brevibacterium fluvumのピルビン酸カルボキシラーゼをコードするPC遺伝子の塩基配列
配列番号23:Brevibacterium fluvumのピルビン酸カルボキシラーゼ配列のアミノ酸配列
配列番号24:PEPCKコンセンサス(共通)配列
配列番号25:cat遺伝子増幅用プライマー
配列番号26:cat遺伝子増幅用プライマー
配列番号27:sacB遺伝子増幅用プライマー
配列番号28:sacB遺伝子増幅用プライマー
配列番号29:PlacUV5プロモーターを含むDNA断片増幅用プライマー
配列番号30:PlacUV5プロモーターを含むDNA断片増幅用プライマー
配列番号31:λRedαβγ遺伝子及びtL3を含むDNA断片増幅用プライマー
配列番号32:λRedαβγ遺伝子及びtL3を含むDNA断片増幅用プライマー
配列番号33:PlacUV5プロモーターおよびTrrnBを含むDNA断片増幅用プライマー
配列番号34:PlacUV5プロモーターおよびTrrnBを含むDNA断片増幅用プライマー
配列番号35:attL増幅用プライマー
配列番号36:attL増幅用プライマー
配列番号37:attLの塩基配列
配列番号38:attR増幅用プライマー
配列番号39:attR増幅用プライマー
配列番号40:attRの塩基配列
配列番号41:bla遺伝子を含むDNA断片増幅用プライマー
配列番号42:bla遺伝子を含むDNA断片増幅用プライマー
配列番号43:ter_rrnBを含むDNA断片増幅用プライマー
配列番号44:ter_rrnBを含むDNA断片増幅用プライマー
配列番号45:ter_thrLターミネーターを含むDNA断片の塩基配列
配列番号46:ter_thrLターミネーターを含むDNA断片増幅用プライマー
配列番号47:ter_thrLターミネーターを含むDNA断片増幅用プライマー
配列番号48:Enterobacter aerogenes AJ110637 ldhAアミノ酸配列
配列番号49:Enterobacter aerogenes AJ110637 adhEアミノ酸配列
配列番号50: Enterobacter aerogenes AJ110637 pta遺伝子配列
配列番号51: Enterobacter aerogenes AJ110637 ptaアミノ酸配列
配列番号52: Enterobacter aerogenes AJ110637 α-aldC遺伝子配列
配列番号53: Enterobacter aerogenes AJ110637 α-aldCアミノ酸配列
配列番号54: Enterobacter aerogenes AJ110637 pflB遺伝子配列
配列番号55: Enterobacter aerogenes AJ110637 pflBアミノ酸配列
配列番号56:ldhA欠損用プライマー
配列番号57:ldhA欠損用プライマー
配列番号58:pta欠損用プライマー
配列番号59:pta欠損用プライマー
配列番号60:α-aldc欠損用プライマー
配列番号61:α-aldc欠損用プライマー
配列番号62:pflB欠損用プライマー
配列番号63:pflB欠損用プライマー
配列番号64:Selenomonas ruminantium subsp. lactilytica TH1 pckA遺伝子配列
配列番号65:Selenomonas ruminantium subsp. lactilytica TH1 pckAアミノ酸配列
配列番号66:RSF-int-xis構築用プライマーintxis_f塩基配列
配列番号67:RSF-int-xis構築用プライマーintxis_R塩基配列
Claims (13)
- ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ活性が増強するように改変された有機酸生産能を有する腸内細菌科に属する細菌又は該細菌の処理物を、炭酸イオン、重炭酸イオン、または二酸化炭素ガスを含有する反応液中で有機原料に作用させることによって、有機酸を生成させ、該有機酸を採取することを特徴とする有機酸の製造法であり、かつ該細菌が、エンテロバクター属、パントエア属、エルビニア属、クレブシエラ属、及びラウルテラ属から選択される細菌である方法。
- 前記細菌が、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼをコードするpckA遺伝子のコピー数を高めること、及び/または、該遺伝子の発現調節配列を改変することにより、該遺伝子の発現が増強するように改変された細菌である、請求項1に記載の方法。
- 前記pckA遺伝子が下記(a)または(b)に示すDNAである請求項2に記載の方法。
(a)配列番号6、8、10、12、14、16、又は64の塩基配列を含むDNA。
(b)配列番号6、8、10、12、14、16、又は64の塩基配列に相補的な配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。 - 前記pckA遺伝子が、配列番号7、9、11、13、15、17、65、又は24に示すアミノ酸配列を有するタンパク質、または配列番号7、9、11、13、15、17、65、又は24において1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする、請求項2または3に記載の方法。
- 前記細菌が、さらにアルコールデヒドロゲナーゼ活性、乳酸デヒドロゲナーゼ活性、燐酸アセチルトランスフェラーゼ、α−アセト乳酸デカルボキシラーゼ活性、及びピルビン酸−ギ酸リアーゼ活性から選択される1又は2以上の酵素活性が低下するように改変された細菌である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
- 前記細菌が、アルコールデヒドロゲナーゼ活性が低下するように改変された細菌である、請求項5に記載の方法。
- 前記細菌が、アルコールデヒドロゲナーゼ活性、及び、乳酸デヒドロゲナーゼ活性が低下するように改変された細菌である、請求項5に記載の方法。
- 前記細菌が、アルコールデヒドロゲナーゼ活性、乳酸デヒドロゲナーゼ活性、及び、燐酸アセチルトランスフェラーゼ活性が低下するように改変された細菌である、請求項5に記載の方法。
- 前記細菌が、アルコールデヒドロゲナーゼ活性、乳酸デヒドロゲナーゼ活性、燐酸アセチルトランスフェラーゼ活性、及び、α−アセト乳酸デカルボキラーゼ活性が低下するように改変された細菌である、請求項5に記載の方法。
- 前記細菌が、アルコールデヒドロゲナーゼ活性、乳酸デヒドロゲナーゼ活性、燐酸アセチルトランスフェラーゼ活性、α−アセト乳酸デカルボキラーゼ活性、及び、ピルビン酸−ギ酸リアーゼ活性が低下するように改変された細菌である、請求項5に記載の方法。
- 前記細菌が、さらに、ピルビン酸カルボキシラーゼ活性が増強するように改変された細菌である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
- 前記有機酸がコハク酸である請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
- 請求項12に記載の方法によりコハク酸を製造する工程、及び得られたコハク酸を重合させる工程を含む、コハク酸含有ポリマーの製造方法。
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