JPWO2009051240A1 - 鉛フリーはんだ - Google Patents

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真行 濱田
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順庸 瀧川
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Abstract

鉛フリーはんだとして、Sn−3Ag−0.5Cu組成のはんだが、有力視されているが、斯かる組成のはんだは、高温環境に曝されるとAg3Sn粒子の粗大化が起こるので、強度信頼性に課題がある。本発明の鉛フリーはんだは、Ag含有量の低減により強度信頼性の向上を図り、且つ、Ag含有量の低減による強度低下をZnの添加によって補償したものであり、Ag0.01から1.5質量%と、Cu0.01から1.0質量%と、Zn0.1から1.0質量%と、残部がSnからなる鉛フリーはんだである。

Description

本発明はSn−Ag−Cu系の鉛フリーはんだであって、Agの含有量が少ない鉛フリーはんだに関する。
電子機器を初めとし、金属同士の接合には、はんだは大変有用なろう材として知られている。従来はSn−Pbの共晶はんだが用いられており、すぐれた特性を有していた。しかし、Pbを含有するはんだが用いられた製品は、廃棄された後、pHの高い酸性雨が接触すると、Pbが溶出するために環境汚染につながるとされている。
そこで、世界的な規模で、Pbのない鉛フリーはんだの使用が推奨されており、一部の地域では電気製品には鉛を使用できない法規制が成立している地域すらある。
それに伴い、鉛フリーはんだの開発も世界的な規模で行われてきた。例えば、Sn−3Ag−3Bi系、Sn−3.5Ag−2.5Bi−2.5In系、Sn−58Bi系、Sn−9Zn系といった合金系である。しかし、これらの合金系はんだは、それぞれ、延性、コスト、高温強度、耐酸化性といった項目で実用上課題が残る。
このように実用に耐えうるために、はんだは多くの評価項目をクリアしなければならない。現在、このような評価項目を総合的に考慮した場合、鉛フリーはんだとして標準と考えられつつあるのは、Sn−3Ag−0.5Cu系のはんだである。
しかし、Sn−3Ag−0.5Cu系のはんだにも問題点はある。特に、熱疲労特性など信頼性に多くの解決すべき点があるため、自動車搭載用と半導体パッケージ用では用いられていない。
Sn−3Ag−0.5Cu系のはんだの信頼性の問題を引き起こす原因は、以下のように考えられている。Sn−3Ag−0.5Cu系のはんだにおいては、Agの固溶量は使用限界温度である125℃でも0.01質量%以下であり、AgSnが分散した分散強化型合金であるといえる。
Sn−3Ag−0.5Cu系はんだの強度は、この分散した1μm以下の微細なAgSn粒子により達成されている。しかし、分散したAgSn粒子が粗大化するとクリープ強度と熱疲労特性に悪影響を及ぼす。
自動車搭載用や半導体パッケージ用のはんだは高温環境に曝される場合が多い。高温状態では、原子の拡散速度が上昇しAgSn粒子の粗大化が起こりやすい環境であるといえる。もし、粗大なAgSn粒子が形成されてしまうと、粗大な粒子の部分から優先的に亀裂が発生・伝播し破断する。これがSn−3Ag−0.5Cu系のはんだにおける信頼性の問題の原因であると考えられる。
この問題を解決し、高信頼性を得るには、AgSn粒子の粗大化を抑制する必要がある。その対策の1つとしては、はんだ中のAgの含有量を低減させることである。
Agの低減は、はんだのコストを下げることにもつながり、望ましい方向である。しかし、AgSnの微細粒子も同時に低減するため強度自体の低下にも繋がる。そこで、減少したAgの代わりに、強度を向上させる元素の添加が考えられる。これはSn−Ag−Cu−X(Xは添加元素)系の4元系のはんだである。
4元系のはんだについては、いくつかの報告がされている。例えば特許文献1は、はんだ接合後の固化の際にウイスカの発生を抑制するため、擬似防食部としてZnを用いたはんだが開示されている。このバリエーションの中で、Sn−Ag−Cu−Zn系のはんだの開示がある。
特許文献2では、Sn−Ag−Cu系のはんだでは、接合部に金属間化合物が層状に形成されるので、落下衝撃時の強度が弱いという課題を解決するために、Mg、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの中より選ばれた1つの元素を4番目の元素として含む4元系のはんだについて開示がある。さらに、Sn−Ag−CuにMg,Y、Laの3種を加えた6元系のはんだに対しては、7番目の元素として、Ni、Fe、Al、Sb、Bi、P、Zn、In、Pt、Pdから選ばれたはんだが開示されている。
特許文献3には、Sn−Zn系のはんだの引張強度を向上させるためにAgとCuを添加した組成を検討し報告している。この中でSn−Zn−Ag−Cu組成のはんだが開示されている。
特開2006−289493号公報 特開2005−254298号公報 特開平09−94687号公報
特許文献1や2では、Agの比率が1.0質量%から3.0質量%であり、Agの含有量としてはまだ多く、開示されている組成で、AgSn粒子が粗大化すると強度の低下は免れない。
また、特許文献3では、基本的にSn−Zn系のはんだの機械的強度を向上させるものであるので、Znは7から9質量%含有されたものである。ZnはSnに対し1質量%より多く含有させると耐酸化性が劣化する。すなわち、ここで提案された発明も、Sn−Ag−Cu系のはんだにおいて、Agの含有量を減らしつつ、強度および信頼性を担保するという課題を可決するものではない。
本発明はこのような課題を解決するために想到されたものであり、特にその課題解決のために、第一原理計算から予測された積層欠陥エネルギーに基づく強度予測を行った。はんだ合金の強度向上にはAgSn粒子などの第二相粒子による強化方法と固溶原子による強化方法が考えられる。しかし、第二相粒子による強化法は高温での環境下では粒子が粗大化する危険性があり、信頼性を担保するという課題を解決するには適さない。それゆえ、はんだ合金の強度および信頼性を担保するという課題には固溶原子による強化方法を利用することが望ましい。発明者らは固溶原子による強化の原因について調査を重ねた結果、固溶合金のはんだの強度は固溶原子の種類と濃度によって決定される積層欠陥エネルギーが大きく関与することを突き止めた。そこで多くのSn−X(Xは添加元素)固溶2元合金の積層欠陥エネルギーを第一原理計算により算出し、強度を予測した。その結果、固溶原子による強化方法を用いた際に最も強度向上に効果がある添加元素はZnであることを突き止めた。
Snに対するZnの最大固溶量は0.4質量%であり、固溶原子による強化は固溶したZn原子のみが有効であるので、Znは7から9質量%よりずっと少ない量の添加で強度を担保できる。さらに、鋭意研究を重ねた結果、Agの含有量を減らしつつ、強度および信頼性を担保するSn−Ag−Cu−Znの4元合金を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、質量比率で0.01から1.5質量%、好ましくは1.1質量%、より好ましくは1.0質量%のAgと、Cu0.01から1.0質量%と、Zn0.1から1.0質量%と、残部がSnからなる鉛フリーはんだを提供するものである。
本発明は、Sn−Ag−Cu系のはんだにおいて、Agの含有量を0.01から1.0質量%と低減しているため、AgSnの粗大化による強度信頼性の低下を回避している。さらに、Ag自体が減少することによる強度の低下については、Znを含有させて補償させている。すなわち、本発明のSn−Ag−Cu−Zn系のはんだは、Sn−3Ag−0.5Cu組成のはんだの強度を保ちつつ、Agを減らすことで信頼性の優れたはんだを得ることができる。
比較例2で「高温放置500時間後」の条件の場合の組織写真である。 実施例3で「高温放置500時間後」の条件の場合の組織写真である。 実施例3で「高温放置無し」の条件でのリード−はんだ界面の断面写真である。 実施例3で「1000時間後」の条件でのリード−はんだ界面の断面写真である。
本発明のはんだは、Sn−Ag−Cu系の組成を基本とするはんだであり、Agの含有量がSn−3Ag−0.5Cuの組成と比較して低い。本発明のはんだでは、Agの含有量は、0.01から1.5質量%、好ましくは1.1質量%、より好ましくは1.0質量%の範囲である。すでに述べたように、本発明は、Sn−3Ag−0.5Cu系のはんだの信頼性を確保するために、Agの含有量を減らすという技術的思想に基づいている。
しかし、Agを完全になくしてしまうと、AgSnの微粒子の存在に基づく強度が得られない。しかも、Agが全く存在しない組成の場合は、はんだの表面状態から光沢が消えてしまう。はんだを用いた製品の場合、接着できているか否かの検査にはんだの表面光沢で判断する場合が多い。従って、Agを完全になくしてしまうことは好ましくない。本発明者は、鋭意検討の結果、Agは0.01質量%以上存在すれば表面光沢を得ることができることを見出した。
また、Agを1.5質量%より多く含有させると、伸びが劣化する。これは信頼性の低下に繋がるものである。
次にCuについては、0.01から1.0質量%を含有する。Cuの含有量が1.0質量%を超えて存在すると、はんだの融点が上昇してしまい、はんだ付けの際に実装部品に熱ダメージを与えてしまうという問題が発生する。
また、Cuの含有量が0.01質量%より低くなると、はんだ付けの対象である電子回路の銅線のCuがはんだ中に拡散してしまう。これは銅喰われと呼ばれる現象であり、銅線が数十μm程度の細い銅線の場合では、はんだ付け時に銅線が消失してしまう場合もあり、接合不良の発生に繋がる。
Znは、Agの含有量を低減させた際の強度低下を補償するために含ませる元素である。Znについては、Agの低減による強度低下を補償するために、少なくとも0.1質量%は必要である。一方、Znの含有量が多くなると、すでに説明したように耐酸化性が劣化するほか、ぬれ性も劣化してしまい、実装部品の接合強度が低下してしまう。
また、本発明のSn−Ag−Cu−Zn系のはんだは、Mg、Al、P、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Ge、Mo、In、Au、Biからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素が更に含まれていてもよい。
さらに、このうちInとBiを総量で3質量%まで含有させることで、はんだの融点を下げることができる。一方、これより多く含ませると、はんだが脆くなってしまう。
また、P、Ga、Geより選ばれた少なくとも1種類の元素を0.5質量%まで含有させてもよい。これらの元素ははんだが溶融する温度域において、はんだの主構成成分であるSnよりも酸化物生成自由エネルギーが小さい元素である。そのため、溶融温度域ではSnよりも優先的に酸化することで、Snの酸化を抑制し、はんだの表面の光沢を向上させる効果がある。一方、これらの元素をこれ以上含有させると、濡れ性の悪化とはんだ付け後の表面のざらつきを招く。
また、Fe、Co、Auから選ばれた少なくとも1種類の元素を0.5質量%まで含有させてもよい。これらの元素の添加は、はんだごてのこて先喰われを低減させるのに効果がある。しかし、これ以上の量の添加は、濡れ性の低下と、融点の上昇の原因となるので、好ましくない。
また、Mg、Al、Ti、Mn、Ni、Moから選ばれた少なくとも1種類の元素を1.0質量%まで含有させてもよい。これらの元素の添加は、強度の向上に効果がある。一方、これらの元素はSnに対して固溶しないもしくは固溶量が極めて少ないため、これ以上の量の添加は、組織中の析出物
量の増加をまねき伸びが著しく減少する。
次に、本発明のSn−Ag−Cu−Zn系のはんだについて、実際の実施例について詳細な説明を行う。なお、実施例についての、それぞれの評価項目について、評価項目と判断基準は以下のようである。
本発明のSn−Ag−Cu−Zn系の実施例とそれに対する比較例の組成および各評価項目に関する評価結果を表1〜表5に示す。以下これらの表に基づいて実施結果を説明する。
Figure 2009051240

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<はんだ鋳造>
はんだ鋳造用の鋳鉄製釜をガスバーナーで加熱しSnを溶解させる。溶解したSnに表1に示す組成をねらい、Ag、Cu、Znの順に合金元素を添加する。添加後は一定時間の間撹拌し、内径30mm高さ110mmの鋳鉄製鋳型を用いて水冷鋳造し、各組成のはんだ合金を製造した。Sn、Ag、Cu、Znの組成によって実施例1乃至11と比較例1乃至8のサンプルとした。仕込み組成を表1に示す。
<組成分析>
はんだをドリルで削り、細かく切ったはんだを秤量し、酸で分解させる。はんだが完全に分解したら、メスフラスコに移し、標線まで水で薄め分析用試料とした。作成した分析用試料は、誘導結合プラズマ分析(ICP)を用いてCuとZnとAgの組成分析を行った。ただしAgの組成が0.5%を超える場合のみ、Agの含有量はチオシアン酸カリウム滴定法(JIS Z 3910に準拠)により測定した。まず分析用試料を硝酸で分解し酸化窒素を除去した後、硫酸第アンモニウム鉄(III)を指示薬として加えた。その後0.03mol/Lチオシアン酸カリウム標準溶液で滴定を行ない、溶液が微赤褐色を呈した点を終点とした。分析用試料のはかり取り量と滴定に使用したチオシアン酸カリウム標準溶液量からAgの含有量を算出した。組成分析結果は表1に示す。
<広がり率測定>
広がり率はJIS Z 3198−3に準じて測定した。鋳鉄製釜から鋳造した表1の全てのサンプルのはんだについて厚さ1.2mmに圧延した後、φ8mmのペレット状に打ち抜ぬき、アルコールで洗浄した30×30×0.3mmのCu板に置き、さらに液体フラックスを1滴滴下させて試験片とした。ただし、ペレットは電子天秤で測定した質量とアルキメデス法により測定した比重から、あらかじめ体積を算出しておいた。試験片を270℃に設定したソルダバスに浮かせて20秒間加熱することで試験片のはんだを溶融させた後、水平に保ちながら引き上げ、冷却した。あらかじめ測定しておいた体積とマイクロメータで測定した凝固後の試験片のはんだの高さから広がり率を算出した。広がり率は一般的に70%を下回ると、実際のはんだ付け作業の際にぬれの悪さを実感することが多いと言われている。そこで広がり率が70%以上で合格(表1での○)、70%未満の場合を不合格(表1での×)とした。
外観:
外観試験では、広がり率測定試験後の銅板上に残されたはんだの表面光沢を同一作業者の目視により判定した。はんだ付けの品質検査では表面光沢が判断基準のひとつにされており、はんだ表面に発生した「しわ」や「引け巣」により表面光沢が失われるのは好ましくない。そこで、はんだ表面の状態を下記の3種に分類した。
(1)合格であり特に良好(表1での○):凝固収縮による大きな引け巣はなく、金属光沢があり、品質検査での判定が容易。
(2)合格(表1での△):凝固収縮による大きな引け巣はない。金属光沢は少ないが、品質検査での判定は可能。
(3)不合格(表1での×):凝固収縮による大きな引け巣があり、品質検査での判定が不可能。
<高温と室温での強度と伸び>
鋳鉄製釜から鋳造した表1のすべてのサンプルについて比較例6以外のはんだを熱間押出により直径12mmロッドに成形し、150〜180℃数時間の金属組織の均質化を目的とした熱処理を行った後に、旋盤にて平行部直径が4mmで平行部長さが12mmの丸棒引張試験片に加工した。均熱性が保てるよう3分割炉が付属された引張試験機にて、歪み速度が一定になるようコンピュータで制御しつつ、試験温度125℃(高温)および試験温度25℃(室温)、歪み速度1×10−3(1/sec)の条件において引張試験を行った。引張試験機に取り付けたロードセルより測定した荷重から、試験片に負荷された応力を算出し、歪み量が真ひずみで0.1となったときの応力を強度とした。引張試験前にマイクロメータにてあらかじめ測定した試験片長さと、読み取り顕微鏡にて測定した破断後の試験片長さから、変形量を算出した。
さらに平行部でのみ変形が起こったものとして、得られた変形量から伸びを算出した。なお、引張試験は2回ずつおこない、その平均値を強度と伸びの値とした。高温での強度と伸びは、既存合金Sn−3.0Ag−0.5Cuよりも明らかに劣っていると判断できる数値をそれぞれ強度で15MPaと伸びで50%とし、それ以上のものを合格(表2での○)とした。室温での強度と伸びは、既存合金Sn−3.0Ag−0.5Cuよりも明らかに劣っていると判断できる数値をそれぞれ強度で30MPaと伸びで50%とし、それ以上のものを合格(表2での○)とした。
<融点>
鋳鉄製釜から鋳造した表1のすべてのサンプルのはんだについて、ドリルで削りだした数gの切粉をアルミ製のパンに装填し示差熱分析装置により吸熱ピークと発熱ピークを分析し固相線温度と液相線温度を測定した。液相線温度は、完全溶融したときの温度であり、はんだ付けの対象となる部品の耐熱上極めて重要な要素であり、部品の耐熱上230℃未満が好ましい。そこで、液相線温度が230℃未満を合格(表2での○)とした。
<高温放置後の高温での強度と伸び>
上記の、<高温と室温での強度と伸び>で説明したのと同じ方法で作製した丸棒引張試験片について、恒温器を用いて高温放置を行った。高温放置は125℃において200時間、500時間、1000時間経過後にそれぞれ丸棒引張試験片を恒温器からとりだした。高温放置後の丸棒引張試験片は<高温と室温での強度と伸び>で説明したのと同じ方法で試験温度125℃(高温)、歪み速度1×10−3(1/sec)の条件において引張試験を行い強度と伸びを測定した。なお、引張試験は2回ずつおこない、その平均値を強度と伸びの値とした。高温放置後の高温での強度と伸びは、既存合金Sn−3.0Ag−0.5Cuよりも明らかに劣っていると判断できる数値をそれぞれ強度で12MPaと伸びで50%とし、それ以上のものを合格(表3での○)とした。
<高温放置後の組織>
上記の高温と室温での強度と伸びで説明したのと同じ方法で作製した丸棒引張試験片について、恒温器を用いて高温放置を行った。高温放置は125℃において200時間、500時間、1000時間経過後にそれぞれ走査電子顕微鏡による組織観察を行った。図1に比較例2の高温放置500時間後、図2に実施例3の高温放置500時間後の組織写真をそれぞれ示す。図中の矢印は20μmである。図1を参照して、比較例2では、高温放置前には観察されなかった粗大化した第2相粒子が確認された。一方、図2を参照して、実施例3では高温放置後も粗大化した第2相粒子は確認されなかった。これはたの実施例1、2、4、5、6においても同じであった。従って実施例1乃至6は、高温環境における組織安定性が比較例2よりも優れていると判断できる。
<基板実装>
鋳鉄製釜から鋳造したサンプルについて熱間押出によりロッドに成形した後に数十μmの粉末に加工し、さらにフラックスと混合することでソルダペーストに加工した。得られたソルダペーストを用いて四辺型ICパッケージをプリント基板に実装した。実装に用いた四辺型ICパッケージは1辺に0.5mmピッチで25本のリードがあり、リードの材質は銅で表面にスズめっきを施されている。基板材質はガラスエポキシであり、はんだが接合されるランドの材質は表面めっきが施されていない銅である。実装にはソルダペーストを印刷、四辺型ICパッケージを搭載した後にリフロー炉を用いてはんだを溶融させた。
<ボイド観察>
上記の基板実装で説明した方法で実装後の基板について、透過型のX線検査装置を用いて四辺型ICパッケージのリード部分に発生しているボイドを観察した。ボイドは不ぬれのために残った気泡、フラックスの分解ガスなどの原因によるもので数十μmのボイドが形成される。ボイドは発生した位置により信頼性に影響を与えることが知られており、特に信頼性に悪影響を与える場所は、リード下部であるとされる。リード下部にボイドが存在するかどうかを、X線検査装置で画像撮影し、その画像からリード下部に存在するボイド数をカウントした。比較例1から6及び実施例2についてカウントしたところ全てにおいてボイド数は0(ゼロ)であった。リード下部にボイドがないことを確認できたため、判定はすべて合格(表5での○)とした。
<ぬれ上がり率測定>
上記の基板実装で説明した方法で実装後の基板について、リード先端断面を250倍の実体顕微鏡で観察、撮影し、銅リード先端断面に対して、はんだが覆っている部分の割合でぬれ上がり率を決定した。具体的にはリード先端断面写真において茶色に見えた部分を銅のリードと判断し、銀色に見えた部分をはんだ部分であると判断して、はんだ部分の面積率から測定した。ぬれ上がり率は、既存合金Sn−3.0Ag−0.5Cuよりも明らかに劣っていると判断できる数値を55%とし、それ以上のものを合格(表5での○)とした。結果を表5に示す。
<プル強度測定>
上記の<基板実装>で説明した方法で実装後の基板は恒温器を用いて高温放置を行った。高温放置は125℃において200時間、500時間、1000時間経過後にそれぞれ基板を恒温器から取り出した。高温放置前(放置時間0時間)および高温放置後の基板を用いて、JIS Z 3198−6による鉛フリーはんだ試験方法に準拠してはんだ継手45度プル試験を行い、プル強度を測定した。プル強度は四辺型ICパッケージのリード部分を先端がフック形状に加工された金属棒で基板に対して45度の方向に引っ張り、破断に至るまでにかかった最大の荷重をプル強度とした。プル試験はプル速度を10mm/minで、各基板で8本ずつ実施し、8本の平均値をプル強度の値とした。プル強度は、既存合金Sn−3.0Ag−0.5Cuよりも明らかに劣っていると判断できる数値を6N(ニュートン)とし、それ以上のものを合格(表4での○)とした。
<破断形態測定>
上記プル強度測定で説明した方法でプル試験を行った後の破断形態を評価した。破断形態としてリード自体が破断した形態をAとする。リードとはんだの界面で破断した形態をBとする。はんだ自体が破断した形態をCとする。はんだとランドの界面で破断した形態をDとする。ランドとガラスエポキシの基板の界面で破断した形態をEとする。破断形態測定では、接合部分において最も耐久性が無い部分が破断する。破断形態がAのときは、はんだ接合によって形成された接合部よりも、リード部分の耐久性が低いことがわかる。同様に破断形態がBのときは、はんだ付け時に形成された部品とはんだ界面、Cのときは、はんだ合金、Dのときは、はんだ付け時に形成されたはんだとランド界面、Eのときは、ランドと基板の接着力がそれぞれ最も耐久性がないということになる。したがって、破断形態がC以外のときは、接合部に存在するはんだ合金は、耐久性を有していると判断できるので、破断形態にCを含まないものを合格(表4での○)とした。
<実装後の組織観察>
上記の基板実装で説明した方法で実装後の基板は恒温器を用いて高温放置を行ったあと、実施例1から6と比較例2について実装後のプリント基板と部品のリード界面について走査電子顕微鏡による組織観察をおこなった。実装直後の組織観察では、はんだ付け時に形成されたと考えられる金属間化合物層がリード−はんだ間およびはんだ−ランド間に観察された。いずれの合金においても、金属間化合物層の厚みが10μm以下となっていたことから、はんだ付けは良好に完了していることが確認できた。また、125℃において200時間、500時間、1000時間経過後のプリント基板についても同様に組織観察を行ったところ、実施例1から6は比較例2よりも、金属間化合物層の成長が少ないことが明らかになった。
図3および図4には、実施例3のはんだの場合の金属間化合物層の成長を例示する。図3は、はんだづけ直後のリードとはんだ間の断面の走査電子顕微鏡写真であり、図4は、1000時間後の断面写真である。写真の矢印は10μmである。符号10はリード部分であり、符号12ははんだ部分である。リード部10とはんだ部12の間に存在するのが金属間化合物層(符号14)である。写真ではリード10とはんだ12の中間の色合いで見える。金属間化合物層について、図3と図4を比較してみると、ほとんど変化していない。
実施例1とから実施例11を参照すると、外観、広がり率、融点、室温強度、室温伸び、高温強度、高温伸び、高温放置後の高温強度、高温放置後の高温伸び、プル強度、高温放置後のプル強度、プル試験時の破断形態測定、ボイド観察、ぬれ上がり率といった評価項目で、上記の判定基準をパスすることができる。この間のAg、Cu、Znの組成範囲は、Agが0.01質量%から1.0質量%であり、Cuが0.01質量%から1.0質量%であり、Znが0.1質量%から1.0質量%であった。これは本発明のはんだの組成範囲であり、本発明の鉛フリーはんだが良好な特性を有することを示している。
比較例7は、Agが3.0質量%含まれているSn−Ag−Cuで標準とされる組成にZnが0.4質量%含まれる場合である。この場合は伸びの評価項目でバツの評価となった。したがって、Sn−Ag−Cuに単にZnを入れたのではバランスが崩れてしまうことがわかる。
比較例3は、Sn−Ag−Cuの標準組成からAgの量を1.0質量%に減少させた場合であり、AgSn粒子の粗大化を抑制する効果があると考えられる。しかし、室温強度と高温強度が低下してしまった。
比較例6は、Agの割合を0.01質量%とさらに少なくした場合で、CuをSn−Ag−Cuの標準比率(0.5質量%)より大きくした(2.0質量%)場合を示す。Znを0.01質量%含有させているものの、液相融点が高くなってしまった。
比較例5は、Sn−Ag−Cuの標準組成から、Agの含有量を0.3質量%に減少させ、Agを減少させた際に生じた室温強度と高温強度の低下(比較例2参照)をZnで補償する趣旨の組成である。しかし、Znが1.5質量%と多かったために、広がり率が低下してしまった。比較例5は、AgとCuについては、本発明の規定範囲に含まれるが、Znが多い場合である。これから分かるようにAgを減少させた補償としてZnを添加させるといっても、1.0質量%を超える範囲では、多すぎるといえる。
比較例4は、Sn−Ag−Cuの標準組成からAgの含有量を0.3質量%に減少させ、Cuの含有量を0.7質量%に増やした場合を示す。基本的にAgを低下させているので、比較例3同様、室温強度と高温強度が低下した。
比較例7は、Agの含有量を0.005質量%とさらに低下させ、CuとZnをそれぞれ0.1質量%含有させたものである。この場合は、高温強度が低下するとともに、外観も不良となった。これより実施例1乃至6で示される範囲のように、Agは少なくとも0.01質量%以上は必要である。
比較例8は、Ag,Cu、Znを全く含まないSnだけの場合である。この場合は外観、広がり率、高温強度、融点など、多くの点で実用に耐えない。
以上のように本発明は、Sn−Ag−Cu−Znの4元系の組成を有し、Agを0.01から1.0質量%、Cuを0.01から1.0質量%、Znを0.1から1.0質量%、残部がSnからなる鉛フリーはんだであり、Sn−Ag−Cu系のはんだと比較してAgの割合を少なくして、熱疲労を起こりにくくした。一方、Znを所定量含有させることで高温強度や伸びが低下しないように担保することができた。
本発明は鉛フリーはんだに利用することができる。


Claims (8)

  1. Ag0.01から1.5質量%と、Cu0.01から1.0質量%と、Zn0.1から1.0質量%と、残部がSnからなる鉛フリーはんだ。
  2. Ag0.01から1.1質量%と、Cu0.01から1.0質量%と、Zn0.1から1.0質量%と、残部がSnからなる鉛フリーはんだ。
  3. Ag0.01から1.0質量%と、Cu0.01から1.0質量%と、Zn0.1から1.0質量%と、残部がSnからなる鉛フリーはんだ。
  4. Mg、Al、P、Ti、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Ge、Mo、In、Au、Biからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素が更に含まれる請求項1乃至3のいずれかの請求項に記載された鉛フリーはんだ。
  5. In、Biのいずれか若しくは両方の元素が総量で3.0質量%以下含まれる請求項4記載の鉛フリーはんだ。
  6. P、Ga、Geからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素が総量で0.5質量%以下含まれる請求項4または5のいずれかの請求項に記載された鉛フリーはんだ。
  7. Mg、Al、Ti、Mn、Ni、Moからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素が総量で0.5質量%以下含まれる請求項4乃至6のいずれかの請求項に記載された鉛フリーはんだ。
  8. Fe、Co、Auからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素が総量で1.0質量%以下含まれる請求項4乃至7のいずれかの請求項に記載された鉛フリーはんだ。
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