本発明は、耐熱水性、耐熱性、ガスバリア性、広い温度範囲でのヒートシール性、熱収縮性および柔軟性に優れた成形品に関する。また、かかる成形品を製造する方法に関する。
エチレン−ビニルアルコール系共重合体(以下EVOHと略記することがある)は酸素透過量が他のプラスチックに比べて非常に小さく、また溶融成形性も良好であるため、食品包装材料として幅広く使用されている。また、最近では、耐薬品性に優れることや各種薬品の透過量が小さいことから、自動車の燃料タンクや農薬の容器などの、食品容器以外の用途にも使用されている。しかしながら、EVOHを用いた包装材料をレトルト滅菌処理を行なう用途に用いると、白化、変形、ガスバリア性の低下などの問題があった。
このようなレトルト滅菌処理においても外形変化及び物性変化を引き起こさないよう、耐熱水性をはじめとした物性の改善のためにEVOHに架橋を施すという技術に関して、従来から種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1にはエポキシ基及びアリル基を有する化合物をEVOHに配合後、光あるいは熱により架橋するとの記載があるが、特許文献1の実施例の熱水溶断温度を見るとその効果は小さく、ほとんど架橋できていない。これはエポキシ基がほとんどEVOHと反応していないことが原因と考えられる。また、当該化合物を製造する際には、エポキシ基及びアリル基を有する化合物を多量に配合する必要があるため、これが残存し、特に食品包装容器に使用する場合、衛生上問題となることが懸念される。
特許文献2及び特許文献3にはEVOHに多官能アリル系化合物、多官能(メタ)アクリル系化合物、多価アルコール及び金属酸化物から選ばれる少なくとも一種の架橋剤及び架橋助剤を添加し、電子線を照射し、架橋するという記載があるが、これも添加剤が残存することによる衛生上の問題が懸念される。また、架橋剤が溶融混練の段階でEVOHと反応することによりゲル化し、樹脂製造時の工業的な長期運転には問題があった。
特許文献4にはEVOHにアリルエーテル基を2つ以上有する化合物を添加し、電子線を照射し、架橋するという記載があるが、これも添加剤が残存することにより、衛生上問題であると考えられる。
特許文献5には架橋剤としてトリアリルシアヌレート及びトリアリルイソシアヌレートを使用し、これらをEVOHと溶融混練した後に電子線照射しEVOHを架橋する方法が記載されているが、トリアリルシアヌレート及びトリアリルイソシアヌレートが残存し、特に食品包装容器に使用する場合、衛生上の問題が懸念される。また、トリアリルシアヌレート及びトリアリルイソシアヌレートが溶融混練の段階でEVOHと反応することによりゲル化し、長期運転には問題があった。
特許文献6には、EVOHフィルムを水と接触させて含水状態にして電子線を照射することにより架橋する方法が記載されている。しかし、この方法の場合、フィルムを長時間水中に浸漬させる必要があり、高速生産が困難であるという問題があった。
一方、EVOHの有する柔軟性は必ずしも充分ではなく、特に柔軟性と耐屈曲性が同時に求められる用途においては、その使用においてなお改良の余地がある。
また、EVOHはヒートシール温度が低密度ポリエチレンなどのように低くないため、EVOHを多層フィルムからなる包装材料の最内層に用いようとすると、製袋性に劣り、外層フィルムの熱変形により外観を損ね商品イメージを低下させる、ヒートシール強度が低密度ポリエチレン程には大きくない、といった問題が生じる。
したがって、包装材料として用いられる多層フィルムの最外層として二軸延伸ポリプロピレン、二軸延伸ポリアミド、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートもしくは二軸延伸EVOHなどのフィルムが、中間層として二軸延伸もしくは無延伸のEVOHなどのフィルムが、また最内層として低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、直鎖状低密度ポリエチレンもしくは無延伸ポリプロピレンなどから構成される多層フィルムが採用されることが多かった。用途によっては上記多層フィルムを蓋材とし、最外層に無延伸ポリプロピレン、無延伸ポリアミド、無延伸ポリ塩化ビニル、無延伸ポリエチレンテレフタレートもしくは無延伸ポリスチレンなどのフィルムまたはシートを、中間層に無延伸EVOHなどのフィルムを、また最内層に低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、直鎖状低密度ポリエチレン、アイオノマー、無延伸ポリ塩化ビニル、無延伸ポリスチレン、無延伸ポリエチレンテレフタレートもしくは無延伸ポリプロピレンなどのフィルムまたはシートを複合し、深絞り成型された容器を底材とする多層包装材料が採用されていた。
しかしながら、これらの多層フィルムからなる包装材料は、ガスバリア性は優れてはいるものの高価であり、一般包装材料としては使いづらいという問題点がある。また、上述の最内層として使用される樹脂は一般に融点が低く、高温でヒートシールを行なうと当該部分が溶解して層として断裂してしまい、シール強度が低下するとともに外観を損ねる傾向にある。このため、かかる包装材料は高温でのヒートシールの高速化に限界があり、内容物を高温で充填するスピードが制約されるという問題点がある。また、最内層がポリオレフィンである場合には、内容物、例えば食品、ジュースなどの飲料水中のフレーバーの非吸着性が十分でなかった。したがって、ガスバリア性の良好なEVOHを、そのヒートシール温度をより低温側及びより高温側に改良して広い温度範囲でのヒートシール性を向上させ、多層フィルムの最内層として使用可能にすることは、フィルムのいたずらな多層化を低減し、包装材料の製造コスト低下の観点からも重要である。
特許文献1〜6では、それぞれの架橋しているEVOHにおいて、その柔軟性や低温でのヒートシール性が未架橋のEVOHと比べて改善されるかどうかについては、何ら触れられていない。
特許文献7には、EVOHに特定のエポキシ化合物を反応させて変性することにより、ガスバリア性をなるべく保ちながら柔軟性を改善することが記載されている。しかし、変性により融点が大きく低下する問題点を有し、このままでは耐熱性が要求される用途に使用することが困難であった。また、特許文献8には、特許文献7に記載された変性EVOHと未変性のEVOHとからなる樹脂組成物が記載されている。
また、EVOHをシュリンクフィルム(熱収縮性フィルム)として使用する場合、優れた延伸性と熱収縮性が求められるが、通常のEVOHでは延伸性は高くない。かかる観点から、特許文献7では、EVOHに特定のエポキシ化合物を反応させて変性することにより、得られた変性EVOHを成形してなるフィルムの延伸性の向上を達成している。しかしながら、かかる変性EVOHはその融点が大きく低下するため、それからなるフィルムを熱水中で熱収縮させるとフィルムの白化や溶解が起こり、熱収縮条件が制限されるという問題点がある。一方、一般的に、フィルムに予め架橋処理を施すと、形状記憶効果が生まれ、延伸後の熱収縮性は向上する傾向にある。しかし、架橋処理を行なうと、一般的にフィルムの延伸性は低下することから、結果として熱収縮性も低下してしまうという問題点がある。
特開昭63−8448号公報
特開平5−271498号公報
特開平9−157421号公報
特開平9−234833号公報
特開昭62−252409号公報
特開昭56−49734号公報
WO02/092643号
WO03/072653号
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、有害な架橋剤をほとんど含有せず、耐熱水性、耐熱性、ガスバリア性、柔軟性、広い温度範囲でのヒートシール性および熱収縮性に優れた成形品を提供することを目的とするものである。また、そのような成形品を製造するための、好適な製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明によれば、上記の目的は、未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A−1)(以下、未変性のEVOH(A−1)と称する)を二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)で変性して得られた、二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)による変性量が未変性のEVOH(A−1)のモノマー単位に対して0.1〜10モル%である変性エチレン−ビニルアルコール系共重合体(C−1)(以下、変性EVOH(C−1)と称する)、および下記構造単位(I)を0.3〜40モル%含有する変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C−2)(以下、変性EVOH(C−2)と称する)を含有する樹脂組成物からなり、該樹脂組成物の少なくとも一部が架橋されており、かつ、そのゲル分率が3質量%以上であることを特徴とする成形品を提供することによって達成される。
(式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜10のシクロアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を表す。)
本発明の好適な実施態様としては、二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)がアリルグリシジルエーテルである。変性EVOH(C−2)が、未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(A−2)(以下、未変性のEVOH(A−2)と称する)を二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)で変性して得られたものであることが好ましく、二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)がエポキシプロパンであることが特に好ましい。前記樹脂組成物が、さらに未変性のエチレン−ビニルアルコール系共重合体(D)(以下、未変性のEVOH(D)と称する)を含有することも好ましい。本発明の好適な実施態様はフィルム又はシートである。また、前記樹脂組成物からなる層を含む多層構造体も好適な実施態様であり、中でもシュリンクフィルムが好適である。
また、本発明によれば、上記の目的は、未変性のEVOH(A−1)を二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)で変性し、二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)による変性量が未変性のEVOH(A−1)のモノマー単位に対して0.1〜10モル%である変性EVOH(C−1)を製造し、未変性のEVOH(A−2)を二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)で変性し、二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)による変性量が未変性のEVOH(A−2)のモノマー単位に対して0.3〜40モル%である変性EVOH(C−2)を製造し、変性EVOH(C−1)と変性EVOH(C−2)を混合して樹脂組成物を製造し、該樹脂組成物を成形してから該樹脂組成物の少なくとも一部を架橋させて、そのゲル分率を3質量%以上にすることを特徴とする成形品の製造方法を提供することによって達成される。
本発明の成形品の製造方法における好適な実施態様は、前記樹脂組成物を製造する際、さらに未変性のEVOH(D)を含有させることである。
また、上記製造方法において、電子線、X線、γ線、紫外線および可視光線からなる群から選択される少なくとも1種を照射するか、加熱することにより前記樹脂組成物の少なくとも一部を架橋させることが、本発明の好適な実施態様である。
本発明の、変性EVOH(C−1)及び変性EVOH(C−2)を含有する樹脂組成物
からなる成形品は、耐熱水性、耐熱性、ガスバリア性、柔軟性、広い温度範囲でのヒートシール性および熱収縮性に優れる。したがって、これらの特性を要求される成形品、例えば酸素による劣化を受けやすい製品の包装容器などとして好適に使用することができる。
本発明で使用する変性EVOH(C−1)は、未変性のEVOH(A−1)の水酸基に、二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)を反応させたものである。好適には、後述するとおり、未変性のEVOH(A−1)と二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)との反応を、押出機内で行わせることによって得られる。
二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)は分子中にエポキシ基を1個及び二重結合1個又は複数個有するものが好ましい。すなわち、一価エポキシ化合物であることが好ましい。また、分子量は500以下であることが好ましい。エポキシ基を複数個有するものは変性の際に架橋する問題がある。また、上記二重結合の種類としては特に好適には1置換オレフィンであるビニル基であり、次に好適には2置換オレフィンであるビニレン基あるいはビニリデン基である。次に好適には3置換オレフィンである。4置換オレフィンは反応性に乏しいため、本発明の目的には適していない。
また、二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)として、過剰に添加したものを容易に除去できるものが好ましい。その除去方法としては、押出機のベントから揮発させて除去することが現実的である。したがって、沸点が250℃以下であることが好適であり、200℃以下であることがより好適である。また、二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)の炭素数が4〜10であることが好ましい。このような二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)の具体例としては、1,2−エポキシ−3−ブテン、1,2−エポキシ−4−ペンテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン、アリルグリシジルエーテル、メタアリルグリシジルエーテル、エチレングリコールアリルグリシジルエーテルなどが挙げられ、特に好ましくはアリルグリシジルエーテルが挙げられる。また、押出機のベントから水洗除去することも可能であり、この場合、二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)が水に可溶であることも好ましい。
二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)による変性EVOH(C−1)の変性量としては、未変性のEVOH(A−1)のモノマー単位に対して0.1〜10モル%の範囲であり、より好適には0.3〜5モル%の範囲であり、さらに好適には0.5〜3モル%の範囲である。変性量が0.1モル%以下の場合、変性の効果が小さく、また、10モル%を超える場合、ガスバリア性及び熱安定性が低下するという欠点がある。
変性EVOH(C−1)の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜100g/10分であり、好適には0.3〜30g/10分、さらに好適には0.5〜20g/10分である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で示す。
本発明で使用する変性EVOH(C−2)は、構造単位(I)を0.3〜40モル%含有する変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C−2)である。
(式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜10のシクロアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を表す。)
R1、R2、R3及びR4がそれぞれ独立して表す炭素数1〜10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などが挙げられ、炭素数3〜10のシクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられ、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。これらの基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子などが挙げられる。
より好適な実施態様では、前記R1及びR2がともに水素原子である。さらに好適な実施態様では、前記R1及びR2がともに水素原子であり、前記R3及びR4のうち、一方が炭素数1〜10のアルキル基であって、かつ他方が水素原子である。ガスバリア性を特に重視する観点からは、前記R3及びR4のうち、一方がメチル基又はエチル基であり、他方が水素原子であることがより好ましい。
また、ガスバリア性の観点からは、前記R3及びR4のうち、一方が(CH2)iOHで表される置換基(ただし、i=1〜8の整数)であり、他方が水素原子であることも好ましい。ガスバリア性を特に重視する場合は、前記の(CH2)iOHで表される置換基において、i=1〜4の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。
上記の変性EVOH(C−2)を製造する方法は特に限定されないが、好ましくは、未変性のEVOH(A−2)と二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)とを反応させることにより、変性EVOH(C−2)を得る。好適には、未変性のEVOH(A−2)と二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)との反応を、押出機内で行わせることによって得られる。
二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)は分子中にエポキシ基を1個有するものが好ましい。すなわち、一価エポキシ化合物であることが好ましい。また、分子量は500以下であることが好ましい。エポキシ基を複数個有するものは変性の際に架橋する問題がある。二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)の具体例としては、エポキシエタン(エチレンオキシド)、エポキシプロパン(プロピレンオキシド)、1,2−エポキシブタン、グリシドールなどが挙げられる。これらの中でも、エポキシプロパンが特に好ましい。
変性EVOH(C−2)に含まれる上述の構造単位(I)の量は0.3〜40モル%の範囲内であることが必要である。構造単位(I)の量の下限は、0.5モル%以上であることが好ましく、1モル%以上であることがより好ましく、2モル%以上であることがさらに好ましい。一方、構造単位(I)の量の上限は、35モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましく、25モル%以下であることがさらに好ましい。含まれる構造単位(I)の量が上記の範囲内にあることで、ガスバリア性、透明性、延伸性、熱成形性、柔軟性及び耐屈曲性に優れた変性EVOH(C−2)を得ることができ、多層構造体としたときに層間接着性、特に耐衝撃剥離性にも優れる。
変性EVOH(C−2)のエチレン含有量は5〜55モル%であることが好ましい。変性EVOH(C−2)が、良好な延伸性、層間接着性、熱成形性、柔軟性及び耐屈曲性を得る観点からは、変性EVOH(C−2)のエチレン含有量の下限はより好適には10モル%以上であり、さらに好適には20モル%以上であり、特に好適には25モル%以上であり、さらに好適には31モル%以上である。一方、変性EVOH(C−2)のガスバリア性の観点からは、変性EVOH(C−2)のエチレン含有量の上限はより好適には50モル%以下であり、さらに好適には45モル%以下である。エチレン含有量が5モル%未満の場合は溶融成形性が悪化するおそれがあり、55モル%を超えるとガスバリア性が不足するおそれがある。
変性EVOH(C−2)の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜30g/10分であり、より好適には0.3〜25g/10分、さらに好適には0.5〜20g/10分である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
本発明で用いる未変性のEVOH(A−1)および未変性のEVOH(A−2)のエチレン含有量は5〜55モル%であることが好ましく、より好適には20〜55モル%、さらに好適には25〜50モル%である。エチレン含有量が5モル%より小さい場合は耐水性に劣り、60モル%より大きい場合はガスバリア性に劣る。得られる変性EVOH(C−1)及び変性EVOH(C−2)のエチレン含有量は、それぞれ原料となる未変性のEVOH(A−1)及び未変性のEVOH(A−2)のエチレン含有量と同じである。
未変性のEVOH(A−1)および未変性のEVOH(A−2)のケン化度は90モル%以上が好ましく、好適には98モル%以上、さらに好適には99モル%以上である。ケン化度が90モル%より小さい場合はガスバリア性及び熱安定性に劣る。
後述する通り、本発明の変性EVOH(C−1)及び変性EVOH(C−2)は、好適には未変性のEVOH(A−1)と二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)との反応、及び未変性のEVOH(A−2)と二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)との反応を、押出機内で行わせることによって得られるが、その際に、EVOHは加熱条件下に晒される。この時に、未変性のEVOH(A−1)および未変性のEVOH(A−2)が過剰にアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を含有していると、得られる変性EVOH(C−1)及び変性EVOH(C−2)に着色が生じるおそれがある。また、変性EVOH(C−1)及び変性EVOH(C−2)の粘度低下などの問題が生じ、成形性が低下するおそれがある。また、後述のように触媒を使用する場合には、触媒を失活させるため、それらの添加量はできるだけ少ないことが好ましい。
上記の問題を回避するためには、未変性のEVOH(A−1)および未変性のEVOH(A−2)が含有するアルカリ金属塩が金属元素換算値で50ppm以下であることが好ましい。より好ましい実施態様では、未変性のEVOH(A−1)および未変性のEVOH(A−2)が含有するアルカリ金属塩が金属元素換算値で30ppm以下であり、さらに好ましくは20ppm以下である。また、同様な観点から、未変性のEVOH(A−1)および未変性のEVOH(A−2)が含有するアルカリ土類金属塩が金属元素換算値で20ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、5ppm以下であることがさらに好ましく、未変性のEVOH(A−1)および未変性のEVOH(A−2)にアルカリ土類金属塩が実質的に含まれていないことが最も好ましい。
本発明で使用する未変性のEVOH(A−1)および未変性のEVOH(A−2)の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜100g/10分であり、好適には0.3〜30g/10分、さらに好適には0.5〜20g/10分である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で示す。
未変性のEVOH(A−1)と二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)との反応、及び未変性のEVOH(A−2)と二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)との反応の条件は特に制限されないが、WO02/092643号(特許文献7)に記載の方法と同様に、押出機中で、未変性のEVOH(A−1)と二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)、または未変性のEVOH(A−2)と二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)を反応させることが好ましい。このとき、触媒を添加することが好ましく、その場合、反応後に失活剤としてカルボン酸塩を添加することが好ましい。押出機内で溶融状態の未変性のEVOH(A−1)に対して二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)を添加すること、または押出機内で溶融状態の未変性のEVOH(A−2)に対して二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)を添加することが、二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)、二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)の揮散を防止できるとともに、反応量を制御しやすく、好ましい。過剰に添加した二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)、二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)は押出機のベントから除去可能である。さらに、得られたペレットを温水で洗浄することにより、残存する二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)、二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)の除去が可能であると同時に、残存触媒も除去可能である。
使用される触媒は、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含むものであることが好ましい。触媒に使用される金属イオンとして最も重要なことは適度のルイス酸性を有することであり、この点から周期律表第3〜12族に属する金属のイオンが使用される。これらの中でも、周期律表第3族又は第12族に属する金属のイオンが適度なルイス酸性を有していて好適であり、亜鉛、イットリウム及びガドリニウムのイオンがより好適なものとして挙げられる。中でも、亜鉛のイオンを含む触媒が、触媒活性が極めて高く、かつ得られる変性EVOH(C−1)および変性EVOH(C−2)の熱安定性が優れ、最適である。
周期律表第3〜12族に属する金属のイオンの添加量は、未変性のEVOH(A−1)または未変性のEVOH(A−2)の質量に対する金属イオンのモル数で0.1〜20μmol/gであることが好適である。多すぎる場合には、溶融混練中に未変性のEVOH(A−1)または未変性のEVOH(A−2)がゲル化するおそれがあり、より好適には10μmol/g以下である。一方、少なすぎる場合には、触媒の添加効果が十分に奏されないおそれがあり、より好適には0.5μmol/g以上である。なお、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンの好適な添加量は、使用する金属の種類や後述のアニオンの種類によっても変動するので、それらの点も考慮した上で、適宜調整される。
周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含む触媒のアニオン種は特に限定されないが、その共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンを含むことが好ましい。共役酸が強酸であるアニオンは、通常求核性が低いのでエポキシ化合物と反応しにくく、求核反応によってアニオン種が消費されて、触媒活性が失われることを防止できるからである。また、そのようなアニオンを対イオンに有することで、触媒のルイス酸性が向上して触媒活性が向上するからである。
共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンとしては、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオンなどのスルホン酸イオン;塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオン;過塩素酸イオン;テトラフルオロボレートイオン(BF4 −)、ヘキサフルオロホスフェートイオン(PF6 −)、ヘキサフルオロアルシネートイオン(AsF6 −)、ヘキサフルオロアンチモネートイオンなどの4個以上のフッ素原子を持つアニオン;テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオンなどのテトラフェニルボレート誘導体イオン;テトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート、ビス(ウンデカハイドライド−7,8−ジカルバウンデカボレート)コバルト(III)イオン、ビス(ウンデカハイドライド−7,8−ジカルバウンデカボレート)鉄(III)イオンなどのカルボラン誘導体イオンなどが例示される。これらの中でも、スルホン酸イオンが好ましく、トリフルオロメタンスルホン酸イオンが最適である。
上述のように、使用される触媒はその共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンを含むものであることが好適であるが、触媒中の全てのアニオン種が同一のアニオン種である必要はない。むしろ、その共役酸が弱酸であるアニオンを同時に含有するものであることが好ましい。
共役酸が弱酸であるアニオンの例としては、アルキルアニオン、アリールアニオン、アルコキシド、アリールオキシアニオン、カルボキシレート並びにアセチルアセトナート及びその誘導体が例示される。中でもアルコキシド、カルボキシレート並びにアセチルアセトナート及びその誘導体が好適に使用される。
触媒中の金属イオンのモル数に対する、共役酸が硫酸と同等以上の強酸であるアニオンのモル数は、0.2〜1.5倍であることが好ましい。上記モル比が0.2倍未満である場合には触媒活性が不十分となるおそれがあり、より好適には0.3倍以上であり、さらに好適には0.4倍以上である。一方、上記モル比が1.5倍を超えると未変性のEVOH(A−1)または未変性のEVOH(A−2)がゲル化するおそれがあり、より好適には1.2倍以下である。前記モル比は最適には1倍である。なお、原料の未変性のEVOH(A−1)または未変性のEVOH(A−2)が酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩を含む場合には、それと中和されて消費される分だけ、共役酸が硫酸と同等以上の強酸であるアニオンのモル数を増やしておくことができる。
触媒の調製方法は特に限定されないが、好適な方法として、周期律表第3〜12族に属する金属の化合物を溶媒に溶解又は分散させ、得られた溶液又は懸濁液に、共役酸が硫酸と同等以上のスルホン酸などの強酸を添加する方法が挙げられる。原料として用いる周期律表第3〜12族に属する金属の化合物としては、アルキル金属、アリール金属、金属アルコキシド、金属アリールオキシド、金属カルボキシレート、金属アセチルアセトナートなどが挙げられる。ここで、かかる金属化合物の溶液又は懸濁液に、強酸を加える際には、少量ずつ添加することが好ましい。こうして得られた触媒を含有する溶液は押出機に直接導入することができる。
前記した金属化合物を溶解又は分散させる溶媒としては有機溶媒、特にエーテル系溶媒が好ましい。押出機内の温度でも反応しにくく、金属化合物の溶解性も良好だからである。エーテル系溶媒の例としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。溶媒としては、金属化合物の溶解性に優れ、沸点が比較的低くて押出機のベントでほぼ完全に除去可能なものが好ましい。その観点から、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン及びテトラヒドロフランが特に好ましい。
また、上述の触媒の調製方法において、添加する強酸の代わりに強酸のエステル、例えばスルホン酸エステルなどを用いても良い。強酸のエステルは、通常強酸そのものより反応性が低いために、常温では金属化合物と反応しないことがあるが、200℃前後に保った高温の押出機内に投入することにより、押出機内において活性を有する触媒を生成することができる。
触媒の調製方法としては、以下に説明する別法も採用可能である。まず、水溶性の前記金属化合物と、共役酸が硫酸と同等以上のスルホン酸などの強酸とを、水溶液中で混合して触媒水溶液を調製する。なおこのとき、当該水溶液が適量のアルコールを含んでいても構わない。得られた触媒水溶液を未変性のEVOH(A−1)または未変性のEVOH(A−2)と接触させた後、乾燥することによって触媒が配合された未変性のEVOH(A−1)または未変性のEVOH(A−2)を得ることができる。具体的には、未変性のEVOH(A−1)または未変性のEVOH(A−2)のペレット、特に多孔質の含水ペレットを前記触媒水溶液に浸漬する方法が好適なものとして挙げられる。この場合には、このようにして得られた乾燥ペレットを押出機に導入することができる。
使用される触媒失活剤は、触媒のルイス酸としての働きを低下させるものであればよく、その種類は特に限定されない。好適にはアルカリ金属塩が使用される。その共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンを含む触媒を失活させるには、当該アニオンの共役酸よりも弱い酸のアニオンのアルカリ金属塩を使用することが必要である。こうすることによって、触媒を構成する周期律表第3〜12族に属する金属のイオンの対イオンが弱い酸のアニオンに交換され、結果として触媒のルイス酸性が低下するからである。触媒失活剤に使用されるアルカリ金属塩のカチオン種は特に限定されず、ナトリウム塩、カリウム塩及びリチウム塩が好適なものとして例示される。またアニオン種も特に限定されず、カルボン酸塩、リン酸塩及びホスホン酸塩が好適なものとして例示される。
触媒失活剤として、例えば酢酸ナトリウムやリン酸一水素二カリウムのような塩を使用しても熱安定性はかなり改善されるが、用途によっては未だ不十分である場合がある。この原因は、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンにルイス酸としての働きがある程度残存しているため、変性EVOHの分解及びゲル化に対して触媒として働くためであると考えられる。この点をさらに改善する方法として、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンに強く配位するキレート化剤を添加することが好ましい。このようなキレート化剤は当該金属のイオンに強く配位できる結果、そのルイス酸性をほぼ完全に失わせることができ、熱安定性に優れた変性EVOH(C−1)および変性EVOH(C−2)を得ることができる。また、当該キレート化剤がアルカリ金属塩であることによって、前述のように触媒に含まれるアニオンの共役酸である強酸を中和することもできる。
触媒失活剤として使用されるキレート化剤として、好適なものとしては、オキシカルボン酸塩、アミノカルボン酸塩、アミノホスホン酸塩などが挙げられる。具体的には、オキシカルボン酸塩としては、クエン酸二ナトリウム、酒石酸二ナトリウム、リンゴ酸二ナトリウムなどが例示される。アミノカルボン酸塩としては、ニトリロ三酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸三ナトリウム、1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン二酢酸一ナトリウム、N−(ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸一ナトリウムなどが例示される。アミノホスホン酸塩としては、ニトリロトリスメチレンホスホン酸六ナトリウム、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)八ナトリウムなどが例示される。中でもポリアミノポリカルボン酸が好適であり、性能やコストの面からエチレンジアミン四酢酸のアルカリ金属塩が最適である。
触媒失活剤の添加量は特に限定されず、触媒に含まれる金属イオンの種類や、キレート剤の配位座の数などにより適宜調整されるが、触媒に含まれる金属イオンのモル数に対する触媒失活剤のモル数の比が0.2〜10となるようにすることが好適である。比が0.2未満の場合には、触媒が十分に失活されないおそれがあり、より好適には0.5以上、さらに好適には1以上である。一方、比が10を超える場合には、得られる変性EVOHが着色するおそれがあるとともに、製造コストが上昇するおそれがあり、より好適には5以下であり、さらに好適には3以下である。
触媒失活剤を押出機へ導入する方法は特に限定されないが、均一に分散させるためには、溶融状態の変性EVOH(C−1)または変性EVOH(C−2)に対して、触媒失活剤の溶液として導入することが好ましい。触媒失活剤の溶解性や、周辺環境への影響などを考慮すれば、水溶液として添加することが好ましい。
触媒失活剤の押出機への添加位置は、未変性のEVOH(A−1)と二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)、または未変性のEVOH(A−2)と二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)とを、触媒の存在下に溶融混練した後であればよい。しかしながら、未変性のEVOH(A−1)と二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)、または未変性のEVOH(A−2)と二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)とを、触媒の存在下に溶融混練し、未反応の、二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)または二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)を除去した後に、触媒失活剤を添加することが好ましい。前述のように、触媒失活剤を水溶液として添加する場合には、未反応の、二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)または二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)を除去する前に触媒失活剤を添加したのでは、ベントなどで除去して回収使用する、二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)または二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)の中に水が混入することになり、分離操作に手間がかかるからである。なお、触媒失活剤の水溶液を添加した後で、ベントなどによって水分を除去することも好ましい。
変性EVOH(C−1)および変性EVOH(C−2)の製造方法において、触媒失活剤を使用する場合の好適な製造プロセスとしては、
(1)未変性のEVOH(A−1)または未変性のEVOH(A−2)の溶融工程;(2)二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)または二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)と触媒の混合物の添加工程;(3)未反応の、二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)または二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)の除去工程;(4)触媒失活剤水溶液の添加工程;(5)水分の減圧除去工程;の各工程からなるものが例示される。
反応を円滑に行う観点からは、系内から水分及び酸素を除去することが好適である。このため、押出機内へ二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)または二重結合を有さないエポキシ化合物(B−2)を添加するより前に、ベントなどを用いて水分及び酸素を除去しても良い。
本発明の成形品は、樹脂成分として変性EVOH(C−1)および変性EVOH(C−2)を含有する。この際、変性EVOH(C−1)および変性EVOH(C−2)の合計質量を100質量%とすると、変性EVOH(C−1)は1〜99質量%、変性EVOH(C−2)は1〜99質量%の割合であることが好ましい。
樹脂組成物中の二重結合を所望の範囲にして耐熱水性に優れた成形品を得るためには、変性EVOH(C−1)が5質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。したがって、変性EVOH(C−2)は95質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましく、80質量%以下であることが特に好ましい。
変性EVOH(C−1)および変性EVOH(C−2)を含有する樹脂組成物における、二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)による変性量は、未変性のEVOH(A−1)のモノマー単位と未変性のEVOH(A−2)のモノマー単位の合計量に対して、好適には0.1〜10モル%の範囲であり、より好適には0.3〜5モル%の範囲であり、さらに好適には0.4〜3モル%の範囲である。
また、変性EVOH(C−1)および変性EVOH(C−2)に、さらに未変性のEVOH(D)を配合してもかまわない。一般に変性EVOH(C−1)および変性EVOH(C−2)の製造コストは、未変性のEVOH(D)よりも高いので、二重結合濃度の高い変性EVOH(C−1)と未変性のEVOH(D)とを混合して所望の二重結合濃度を有する樹脂組成物を製造することが経済的である。また、柔軟性に優れた変性EVOH(C−2)と未変性のEVOH(D)とを混合して所望の柔軟性を有する樹脂組成物を製造することも経済的である。前述のような方法によって押出機内で反応させることによって、変性量の大きい変性EVOH(C−1)および変性EVOH(C−2)を容易に製造できるから、このような樹脂組成物が容易に得られる。また、樹脂組成物の二重結合濃度を、用途に応じて調整することも容易である。未変性のEVOH(D)としては、既に説明した未変性のEVOH(A−1)および未変性のEVOH(A−2)と同様のものを使用することができる。
この場合、変性EVOH(C−1)、変性EVOH(C−2)および未変性のEVOH(D)の合計質量を100質量%とすると、変性EVOH(C−1)1〜98質量%、変性EVOH(C−2)1〜98質量%、未変性のEVOH(D)は1〜98質量%の割合で含有されることが好ましい。
樹脂組成物中の二重結合を所望の範囲にして耐熱水性に優れた成形品を得るためには、変性EVOH(C−1)が5質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。したがって、変性EVOH(C−2)及び未変性のEVOH(D)は、いずれも94質量%以下であることがより好ましく、84質量%以下であることがさらに好ましく、79質量%以下であることが特に好ましい。
変性EVOH(C−1)、変性EVOH(C−2)および未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物における、二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)による変性量は、未変性のEVOH(A−1)のモノマー単位と未変性のEVOH(A−2)のモノマー単位と未変性のEVOH(D)のモノマー単位の合計量に対して、好適には0.1〜10モル%の範囲であり、より好適には0.3〜5モル%の範囲であり、さらに好適には0.4〜3モル%の範囲である。
変性EVOH(C−1)、変性EVOH(C−2)および未変性のEVOH(D)を配する方法は特に限定されない。溶融混練して配合しても構わないし、溶液中で配合しても構わない。生産性の観点からは溶融混練することが好ましく、例えば変性EVOH(C−1)、変性EVOH(C−2)および未変性のEVOH(D)のペレットを用いて溶融混練することが好適な態様である。
本発明の成形品には必要に応じて各種添加剤を配合することもできる。このような添加剤の例としては、増感剤、硬化剤、硬化促進剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤または充填剤を挙げることができ、これらを本発明の作用効果が阻害されない範囲で配合することができる。添加剤の具体例としては次のようなものが挙げられる。
増感剤:ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンジルジフェニルジスルフィド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスブチロニトリル、ジベンジル、ジアセチル、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、ベンゾフェノン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントンなど。
硬化剤:メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサンパーオキサイド、クメンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエートなど。
硬化促進剤:2−エチルヘキサン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキサン酸マンガン、ナフテン酸マンガンなどの金属石鹸や、メチルアニリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、メチル−p−トルイジン、ジメチル−p−トルイジン、メチル−2−ヒドロキシエチルアニリン、ジ−2−ヒドロキシエチル−p−トルイジンなどのアミン又はその塩酸、酢酸、硫酸、リン酸などの塩。
酸化防止剤:2,5−ジブチル−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピロネート、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)など。
可塑剤:フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステルなど。
紫外線吸収剤:エチレン−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)5−クロロトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、(2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなど。
帯電防止剤:ペンタエリスリトールモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化オレイン酸、ポリエチレンオキシド、カーボワックスなど。
着色剤:カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、アゾ系顔料、酸化チタン、ベンガラなど。
充填剤:グラスファイバー、マイカ、セライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、モンモリロナイトなど。
上記の目的に応じて必要により添加剤を添加した、変性EVOH(C−1)および変性EVOH(C−2)を含有する樹脂組成物を溶融成形によりフィルム、シートなどの成形品とする場合と、他のプラスチック又は金属などを基材とするフィルム、シートなどの成形品の表面に溶液コーティングして被覆剤として使用する方法がある。このような場合の条件について次に述べる。
本発明の成形品を得るための成形方法は特に限定されず、溶融成形することもできるし、溶液を乾燥させることによって成形品を得ても良い。溶融成形する場合、各成分をそのまま押出機に供給して、溶融混練してそのまま成形してもよい。また各成分を溶融混練して一旦ペレット化してから、成形してもよく、適宜好適な手段が採用される。
溶融成形における成形温度は、各成分の融点などにより異なるが、溶融樹脂温度を約120℃〜250℃とすることが望ましい。
溶融成形法としては射出成形法、圧縮成形法、押出成形法など任意の成形法が採用できる。このうち押出成形法としてはT−ダイ法、中空成形法、パイプ押出法、線状押出法、異型ダイ成形法、インフレーション法などが挙げられる。成形物の形状は任意であり、ペレットはもとよりフィルム、シート、テープ、ボトル、パイプ、フィラメント、異型断面押出物などが挙げられる。また、上記押出成形方法により得られた押出成形品を、一軸又は二軸延伸、若しくは熱成形などの二次加工に供することも可能である。
本発明の成形品の好適な実施態様は、多層構造体からなる成形品である。具体的には、本発明の樹脂組成物からなる層と該樹脂組成物以外の樹脂(F)からなる層とを有する多層構造体からなる成形品である。
このような多層構造体からなる成形品の製造方法は特に限定されず、溶融成形してもよいし、接着剤などを用いてラミネートしてもよいし、溶液をコーティングしてもよい。溶融成形する場合には、共押出成形、共射出成形、押出コーティングなどが採用される。
樹脂(F)としては、熱可塑性樹脂であることが好適であり、例えばポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、アクリル樹脂及びポリビニルエステルからなる群から選択される少なくとも1種が例示される。ポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−α−オレフィン(炭素数3〜20のα−オレフィン)共重合体、アイオノマー、ポリプロピレン、プロピレン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリメチルペンテンなどのオレフィンの単独もしくは共重合体、又はこれらオレフィンの単独又は共重合体を不飽和カルボン酸又はその無水物あるいはエステルでグラフト変性したものなどが例示される。樹脂(F)がエラストマーであることも好ましい。
多層構造体の層構成は本発明の成形品(好ましくはフィルムまたはシート)からなる層をC(C1,C2,・・・)、樹脂(F)層をF(F1,F2,・・・)、必要に応じて設けられる接着剤層をAdとする時、フィルム、シート、ボトル状であればC/Fの2層構造のみならず、C/F/C、F/C/F、F1/F2/C、F/C/F/C/F、C2/C1/F/C1/C2、C/Ad/F、C/Ad/F/C、F/Ad/C/Ad/F、F/Ad/C/Ad/C/Ad/Fなど、任意の構成が可能であり、フィラメント状であればC,Fがバイメタル型、芯(C)−鞘(F)型、芯(F)−鞘(C)型あるいは偏心芯鞘型など任意の組み合わせが可能である。また、両樹脂の密着性を向上させる樹脂を配合したりすることもある。
本発明の成形品は、それを構成する樹脂組成物の少なくとも一部が架橋されているものであり、前述のようにして得られた成形品を構成する樹脂組成物の少なくとも一部を架橋させることにより製造することができる。上記した架橋前の成形物は、空気中長時間放置することにより架橋させることが可能であるが、通常、該架橋前の成形物に電子線、X線、γ線、紫外線及び可視光線からなる群より選ばれる少なくとも1種を照射するか、加熱を行なうことにより、架橋を行うことが望ましい。
電子線、X線又はγ線を用いる場合、吸収線量が1kGy以上であることが好ましい。より好適には1kGy〜1MGyであり、さらに好適には5kGy〜500kGyであり、特に好適には10kGy〜200kGyである。吸収線量が1MGyより大きい場合EVOHの分解が生じることに伴い、強度の大幅低下、着色などの問題が生じるため好ましくない。また吸収線量が1kGyより小さい場合ゲル分率が向上せず、耐熱水性などの目的の性能が得られない。
本発明の成形品がポリオレフィン樹脂層を有する多層構造体からなるシュリンクフィルム(熱収縮性フィルム)である場合、延伸前に電子線による架橋が行われると、変性EVOH樹脂組成物のみならずポリオレフィン樹脂も架橋される。しかる後に延伸を行うと延伸成形性、熱収縮特性、機械強度などがより改善されるので好適である。通常、フィルムに予め架橋処理を施すと延伸性は低下し、結果として熱収縮性も低下するが、本発明の多層構造体からなるシュリンクフィルムでは、柔軟性に優れたEVOH(C−2)の効果により、延伸性に優れる。さらに上述の架橋の効果により熱収縮性も向上するといった相乗効果が発揮される。
また、本発明の成形品が多層構造体であり、内容物を充填後、加熱滅菌処理を行うことを特徴とする場合、前述のとおり耐熱水性の改善により、白化、変形、ガスバリア性の低下が発生し難くなる。該多層構造体が食品包装材として使用される場合、その用途としては、蓋材、パウチ、真空包装、スキンパック、深絞り包装、ロケット包装などが好適であるが、さらに、フィルム包装以外にカップあるいはトレー型の容器としても優れた性能を発揮する。また、ボトル形状あるいはチューブ状となすこともできる。
前記した多層構造体に、内容物を充填後、加熱滅菌処理、特にボイル滅菌処理またはレトルト滅菌処理することにより、保存性の優れた包装体を得ることができる。レトルト滅菌処理は回収式、置換式、蒸気式、シャワー式、スプレー式など各種の方法が採用される。レトルト滅菌処理を実施した直後は本発明の包装材でも白色不透明になる場合があるが、包装材の表面水を除去した後、しばらく放置することで透明化する。より確実に透明化させ、かつガスバリア性の回復を望む場合には、40〜150℃、1〜120分間乾燥することが好適である。また他の加熱滅菌法としては熱間充填法などもあげられる。
このようにして得られたフィルム、シート、テープ、ボトル、パイプ、フィラメント、異型断面押出物などの成形品の、水−フェノール混合溶媒の不溶解率、すなわちゲル分率が3質量%以上であることが重要である。この不溶解率が3質量%未満の場合、本発明の目的である耐熱水性及び耐熱性などの効果が小さくなる。不溶解率は、好適には5質量%、さらに好適には10質量%、特に好適には20質量%以上である。ここで、水−フェノール混合溶媒の不溶解率とは水(15質量%)−フェノール(85質量%)の混合溶剤100質量部に成形品を1質量部入れ、60℃、12時間加熱溶解した後、濾過し、濾液を蒸発乾固して算出される。なお、濾過では、溶解した未架橋のEVOHが実質的に100%透過する濾過器材(濾紙、濾布、メンブレン)が使用される。なお、本発明の成形品中にフィラーが含まれる場合、ゲル分率は上記溶媒の不溶分を500℃、1時間加熱した後に残る残渣の重量を減じて算出する。成形品が多層構造体である場合、変性EVOH(C−1)と変性EVOH(C−2)を含有する樹脂組成物の層、あるいは変性EVOH(C−1)、変性EVOH(C−2)および未変性のEVOH(D)を含有する樹脂組成物層のゲル分率が、上記範囲となる。
また、本発明の成形品をヒートシール層として使用する場合、融点の低い変性EVOH(C−2)の効果により低温でのヒートシール性は著しく向上する。また、前記したとおり架橋処理が施されていることから、融点以上でも融解や白化等がおこらないため、高温でのヒートシールも可能となり、その結果高温での高速な内容物充填及び包装が可能となる。実用的なヒートシール強度を示し、その外観に問題のないヒートシール可能な温度範囲(ヒートシールウィンドウ)は、本発明の成形品においては70℃〜220℃の範囲にあることが好ましい。かかる温度が70℃より低い場合、フィルムやシートなどの成形品の製造や保管の際に融着が起こる場合がある。また、220℃より高い場合は、多層構造体として使用する際に他の素材の外観が損なわれる場合がある。なお、ここでいうヒートシールウィンドウは、後述の実施例に記載の方法で測定した。
本発明の成形品の用途は多岐に亘る。例えば、押出成形品、熱成形品、異形成形品、押出ブロー成形品、射出成形品、フィルム又はシート(特に延伸フィルム又は熱収縮性フィルム)、壁紙又は化粧板、パイプ又はホース、フレキシブル包装材、容器(特にレトルト包装容器)などが好適なものとして例示される。成形品が多層構造体である場合には、共押出フィルム又は共押出シート、シュリンクフィルム(熱収縮性フィルム)、多層パイプ(特に燃料パイプ又は温水循環用パイプ)、多層ホース(特に燃料ホース)、多層容器(特に共押出ブロー成形容器、共射出成形容器、レトルト包装容器)などが好適なものとして例示される。
以下に本発明を実施例などの例によって具体的に説明するが、本発明はそれにより何ら限定されない。以下の実施例および比較例における分析および評価は次のようにして行った。
〔1〕EVOHのエチレン含有量、変性EVOH(C−1)および変性EVOH(C−2)の変性度
測定に用いる試料を粉砕し、アセトンにより低分子量成分を抽出した後、120℃、12時間で乾燥させた。上記試料をDMSO−d6を溶媒として1H−NMR測定(日本電子社製「JNM−GX−500型」を使用)を行い、得られたスペクトルの内、二重結合を有するエポキシ化合物(B−1)が反応した変性EVOH(C−1)の二重結合のメチン位のピーク(5.9ppm)又は二重結合のメチレン位のピーク(5.2ppm)とEVOHのモノマー単位に相当するエチレン部分のピーク(1.4ppm)との面積比より算出した。また、変性EVOH(C−2)の製造において、本実施例ではエポキシ化合物(B−2)としてエポキシプロパン(以下、EPと略称することがある)を使用したが、その変性量は、EPの開環反応により生じたメチル基のピーク(1.0〜1.1ppm)と上記したEVOHのエチレン部分のピークとの面積比により算出した。
〔2〕EVOHおよび変性EVOHのメルトフローレート(MFR)
メルトインデクサL260(テクノ・セブン社製)を用い、荷重2.16kg、温度190℃で樹脂の流出速度(g/10分)を測定した。
〔3〕最低ヒートシール温度
各実施例および比較例で得られた単層フィルムあるいは多層フィルムを長さ100mm×幅17mmに切断し、安田精機製「YAAヒートシーラー」を用いてプレス圧1kgf/cm2、プレス時間1秒の条件で、シール温度を変化させてヒートシールを行った。このフィルムを幅15mmに切断し、島津製作所製「オートグラフ」を用いて23℃、50%RHの条件下、引張速度250mm/分にてT型剥離強度を測定した。剥離強度を温度に対してプロットし、400gf/15mmとなる温度を最低ヒートシール温度とした。
〔4〕ヒートシールウィンドウ
各実施例および比較例で得られた単層フィルムを長さ100mm×幅17mmに切断し、安田精機製「YAAヒートシーラー」を用いてプレス圧1kgf/cm2、プレス時間0.5秒および1秒の条件で、シール温度を変化させてヒートシールを行った。このフィルムを幅15mmに切断し、島津製作所製「オートグラフ」を用いて、23℃、50%RHの条件下、引張速度250mm/分にてT型剥離強度を測定した。シール後の外観が良好であり、400gf/15mm以上の接着強度を示す温度をヒートシールウィンドウとした。
〔5〕耐熱性
各実施例および比較例で得られたフィルムを一辺50mmの正方形にカットし、200℃の乾燥機内で10分間処理した後のフィルムの様子を目視で次のように評価した。
A・・・・フィルムが融解せず、形状変化が少ない。
B・・・・フィルムは融解しないが、形状変化が大きい。
C・・・・フィルムが融解し、形状を残さない。
〔6〕屈曲性(柔軟性)
各実施例および比較例で得られたフィルムを210mm×297mmにカットし、23℃、50%RHに調湿した。調湿されたフィルムを用い、同一雰囲気下で、直径3.5インチの円筒状にして、ゲルボフレックステスター(理学工業(株)製)に両端を固定し、初期間隔7インチ、最大屈曲時の間隔1インチ、ストロークの最初の3.5インチで440度の角度のひねりを加え、その後の2.5インチは直線水平動である動作の繰り返し往復動を50回屈曲させたときに発生したピンホール数を測定し、屈曲性の指標とした。ピンホール数が少ないほど屈曲性に優れ、柔軟性に優れることを示す。
〔7〕レトルト適性(単層フィルムでの評価)
各実施例および比較例で得られた、電子線を照射させた後のフィルムまたは電子線を照射しなかったフィルムを、120℃、90分間レトルト滅菌処理し、その直後のフィルムの様子を目視して次のように評価した。
A・・・・フィルムの溶解がない。
B・・・・わずかにフィルムが溶解する。
C・・・・フィルムが溶解し、形状を残さない。
〔8〕レトルト適性(多層フィルムでの評価)
各実施例および比較例で得られた多層フィルムより、その3辺をヒートシールした袋を作成し、水を入れた後、残りの1辺をヒートシールして密閉して、水を封入したパウチを得た。このパウチを120℃、90分間レトルト滅菌処理し、その直後の多層フィルムの様子を目視して次のように評価した。
A・・・・フィルムの白化および層間剥離がない。
B・・・・フィルムの白化または層間剥離が見られる。
〔9〕延伸性
各実施例および比較例で得られた単層フィルムをパンタグラフ式二軸延伸機にかけ80℃で延伸倍率3×3倍で同時二軸延伸を行い、次のように評価した。
A・・・・フィルムにムラ、破れはみられず外観が良好。
B・・・・フィルムにムラあるいは破れが見られる。
〔10〕熱収縮性
上記の〔9〕の方法で得られた延伸フィルムを90℃の水中に浸漬し、熱収縮性を次のように評価した。
A・・・・フィルムにムラ、破れはみられず外観が良好であり、収縮率が大きい。
B・・・・フィルムにムラあるいは破れがわずかに見られ、収縮率が小さい。
C・・・・フィルムに著しいムラあるいは破れが見られる。
(合成例1)アリルグリシジルエーテル(AGE)変性EVOHの合成(変性EVOH(C−1)の合成)
亜鉛アセチルアセトナート一水和物28質量部を1,2−ジメトキシエタン957質量部と混合し、混合液を得た。得られた前記混合液に攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸15質量部を添加し、触媒溶液を得た。
東芝機械社製TEM−35BS押出機(37mmφ、L/D=52.5)を使用し、スクリュー、3つのベント及び3つの圧入口を設置した。樹脂フィード口を水冷し、スクリュー回転部分の温度を200℃に設定し、スクリュー回転数300rpmで運転した。樹脂フィード口からEVOH(エチレン含有量32モル%、ケン化度99モル%以上、MFR6.0g/10分、カリウム含有量8ppm、リン酸根含有量20ppm)を20.0kg/hrで入れ、第1圧入口からアリルグリシジルエーテル(AGE)を1.76kg/hr、上記触媒溶液を0.2kg/hrの割合で添加した。第2圧入口から酢酸ナトリウム0.82%水溶液を0.3kg/hrの割合で添加した。第1ベントから過剰のAGEを減圧で除去し、第3圧入口から水を1kg/hrの割合で添加し、第2及び第3のベントから減圧で水及びAGEを除去した。これによりAGE変性量1.0モル%、MFR2.0g/10分、融点171℃の変性EVOH(以下、これを(C−1−1)と称する)を得た。得られた結果を表1に示す。
(合成例2)アリルグリシジルエーテル(AGE)変性EVOHの合成(変性EVOH(C−1)の合成)
亜鉛アセチルアセトナート一水和物28質量部を1,2−ジメトキシエタン957質量部と混合し、混合液を得た。得られた前記混合液に攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸15質量部を添加し、触媒溶液を得た。
東芝機械社製TEM−35BS押出機(37mmφ、L/D=52.5)を使用し、スクリュー、3つのベント及び3つの圧入口を設置した。樹脂フィード口を水冷し、スクリュー回転部分の温度を200℃に設定し、スクリュー回転数300rpmで運転した。樹脂フィード口からEVOH(エチレン含有量32モル%、ケン化度99モル%以上、MFR6.0g/10分、カリウム含有量8ppm、リン酸根含有量20ppm)を20.0kg/hrで入れ、第1圧入口からAGEを2.93kg/hr、上記触媒溶液を0.5kg/hrの割合で添加した。第2圧入口から酢酸ナトリウム0.82%水溶液を0.6kg/hrの割合で添加した。第1ベントから過剰のAGEを減圧で除去し、第3圧入口から水を1kg/hrの割合で添加し、第2及び第3のベントから減圧で水及びAGEを除去した。これによりAGE変性量1.7モル%、MFR2.0g/10分、融点166℃の変性EVOH(以下、これを(C−1−2)と称する)を得た。得られた結果を表1に示す。
(合成例3)エポキシプロパン(EP)変性EVOHの合成(変性EVOH(C−2)の合成)
亜鉛アセチルアセトナート一水和物28質量部を1,2−ジメトキシエタン957質量部と混合し、混合液を得た。得られた前記混合液に攪拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸15質量部を添加し、触媒溶液を得た。
東芝機械社製TEM−35BS押出機(37mmφ、L/D=52.5)を使用し、スクリュー、3つのベント及び2つの圧入口を設置した。樹脂フィード口を水冷し、スクリュー回転部分の温度を200℃に設定し、スクリュー回転数300rpmで運転した。樹脂フィード口からEVOH(エチレン含有量32モル%、ケン化度99モル%以上、MFR6.0g/10分、カリウム含有量8ppm、リン酸根含有量20ppm)を15.0kg/hrで入れ、第1ベントを内圧60mmHgに減圧し、第1圧入口からエポキシプロパン(EP)が2.0kg/hrの割合で、また上記触媒溶液が0.22kg/hrの割合で添加されるように、両者を混合してから添加した(添加時の圧力:3MPa)。第2ベントから、未反応のEPを常圧で除去した後、触媒失活剤として、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム三水和物8.2質量%水溶液を、第2圧入口から0.11kg/hrの割合で添加した。第3ベントを内圧20mmHgに減圧し、水分を除去して、EP変性EVOH(以下、(C−2−1)と称する)を得た。得られた(C−2−1)のMFRは7.0g/10分(190℃、2160g荷重下)であり、融点は133℃であった。(C−2−1)のエチレン含有量は32モル%であり、EP変性量は8.0モル%であった。得られた結果を表1に示す。
(実施例1)
(1)合成例2で得られた変性EVOH((C−1−2))50質量部、合成例3で得られた変性EVOH((C−2−1))50質量部をドライブレンドし、30mmφ二軸押出機((株)日本製鋼所製TEX−30SS−30CRW−2V)を用い、シリンダー内を窒素パージしながら溶融混練し、ペレタイザーを用いてペレット化した。
(2)上記のペレットを20φ一軸押出機を用いて、220℃にてコートハンガーより溶融押出を行い、厚さ20μmのフィルムを得た。この単層フィルムに、窒素雰囲気下で100kGy(加速電圧200kV)の電子線を照射してフィルムを架橋させた。このとき、水とフェノールの質量比(水/フェノール)が15/85である混合溶媒を用いて、60℃、12時間加熱溶解試験を行った際の該フィルムの不溶解分の含量、すなわちゲル分率は78%であった。該電子線照射後のフィルムの20℃、85%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、9cc・20μm/m2・day・atmであった。また、得られたフィルムの耐熱性を評価したところ、フィルムの融解がなく形状変化がほとんどなく、良好な耐熱性を示し、最低ヒートシール温度は110℃であった。また、得られたフィルムを、120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理した結果、フィルムの溶解はなく、形態は良好であった。
(3)得られたフィルムを210mm×297mmにカットし、23℃、50%RHに調湿した。調湿されたフィルムを用い、ゲルボテスターで50回屈曲させたときに発生したピンホール数は1個であった。
(4)上記で得られた電子線照射後のフィルム(以下、これをEと称する)を中間層とし、その片側の面に延伸ポリアミドフィルム「エムブレムONBC」(商品名、ユニチカ株式会社、厚み15μm;以下単にONと略称する)、および反対側の面に無延伸ポリプロピレン「RXC−18#60」(商品名、東セロ株式会社製、厚み60μm;以下単にCPPと略称する)を、それぞれアンカーコート用接着剤(タケラックA385(商品名、株式会社武田薬品工業):タケネートA50(商品名、株式会社武田薬品工業):酢酸エチル=24:4:53(質量比);以下単にAdと略称する)を介してラミネートし、ON/Ad/E/Ad/CPPの層構成からなる多層フィルムを得た。該多層フィルムより三辺をヒートシールした袋を作成し、水を入れた後残りの一辺をヒートシールし密閉し、水を封入したパウチを得た。このパウチを120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理したところ、中間層と内外層の剥離は確認されず、中間層の透明性は保たれていた。
(5)65φ押出機により上記(1)で得られたペレット(以下、これを(C−3−1)と称する)、また50φ押出機により「エバール」C109B(商品名、株式会社クラレ製、エチレン含有量35モル%、ケン化度99モル%以上、MFR9.0g/10分;以下、これをGと称する)を、アンカーコート用接着剤(AD335AE(商品名、東洋モートン株式会社):CAT10(商品名、東洋モートン株式会社):メチルエチルケトン:トルエン=36:2:16:16(質量比);以下単にAdと略称する)を塗布したポリエチレンテレフタレートフィルム「E5102」(商品名、東洋紡績株式会社製、厚み16μm;以下単にPETと略称する)上に共押出コーティングすることにより、PET/Ad/G(5μm)/(C−3−1)(8μm)の層構成からなる多層フィルムを得た。この多層フィルムに、(C−3−1)層から、窒素雰囲気下100kGy(加速電圧150kV)の電子線を照射してフィルム中の変性EVOH(C−3−1)層を架橋させた。得られた多層フィルムの最低ヒートシール温度を測定したところ110℃であった。結果を表2にまとめて示す。
(実施例2)
(1)合成例2で得られた変性EVOH((C−1−2))25質量部、合成例3で得られた変性EVOH((C−2−1))75質量部をドライブレンドし、実施例1(1)と同様にペレット化した。
(2)上記のペレットを20φ一軸押出機を用いて、220℃にてコートハンガーより溶融押出を行い、厚さ20μmのフィルムを得た。この単層フィルムに、窒素雰囲気下で100kGy(加速電圧200kV)の電子線を照射してフィルムを架橋させた。このとき、実施例1(2)と同様にして測定したゲル分率は55%であった。該電子線照射後のフィルムの20℃、85%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、12cc・20μm/m2・day・atmであった。また、得られたフィルムの耐熱性を評価したところ、フィルムの融解がなく形状変化がほとんどなく、良好な耐熱性を示し、最低ヒートシール温度は100℃であった。また、得られたフィルムを、120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理した結果、フィルムの溶解はなく、形態は良好であった。
(3)得られたフィルムを用い、実施例1(3)と同様にしてピンホール数を測定したところ、1個であった。
(4)上記で得られた電子線照射後のフィルムを中間層とし、実施例1(4)と同様にして多層フィルムを得た。該多層フィルムより実施例1(4)と同様にして水を封入したパウチを得、このパウチを120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理したところ、中間層と内外層の剥離は確認されず、中間層の透明性は保たれていた。
(5)上記(1)で得られたペレットを用い、実施例1(5)と同様にして多層フィルムを得たのち、100kGyの電子線を照射した。得られた多層フィルムの最低ヒートシール温度を測定したところ100℃であった。結果を表2にまとめて示す。
(実施例3)
(1)合成例2で得られた変性EVOH((C−1−2))25質量部、合成例3で得られた変性EVOH((C−2−1))50質量部、および未変性EVOHとして「エバール」F171B(商品名、株式会社クラレ製、エチレン含有量32モル%、ケン化度99モル%以上、MFR1.6g/10分)をドライブレンドし、実施例1(1)と同様にペレット化した。
(2)上記のペレットを20φ一軸押出機を用いて、220℃にてコートハンガーより溶融押出を行い、厚さ20μmのフィルムを得た。この単層フィルムに、窒素雰囲気下で100kGy(加速電圧200kV)の電子線を照射してフィルムを架橋させた。このとき、実施例1(2)と同様にして測定したゲル分率は58%であった。該電子線照射後のフィルムの20℃、85%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、8cc・20μm/m2・day・atmであった。また、得られたフィルムの耐熱性を評価したところ、フィルムの融解がなく形状変化がほとんどなく、良好な耐熱性を示し、最低ヒートシール温度は110℃であった。また、得られたフィルムを、120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理した結果、フィルムの溶解はなく、形態は良好であった。
(3)得られたフィルムを用い、実施例1(3)と同様にしてピンホール数を測定したところ、1個であった。
(4)上記で得られた電子線照射後のフィルムを中間層とし、実施例1(4)と同様にして多層フィルムを得た。該多層フィルムより実施例1(4)と同様にして水を封入したパウチを得、このパウチを120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理したところ、中間層と内外層の剥離は確認されず、中間層の透明性は保たれていた。
(5)上記(1)で得られたペレットを用い、実施例1(5)と同様にして多層フィルムを得たのち、100kGyの電子線を照射した。得られた多層フィルムの最低ヒートシール温度を測定したところ110℃であった。結果を表2にまとめて示す。
(実施例4)
(1)合成例1で得られた変性EVOH((C−1−1))50質量部、合成例3で得られた変性EVOH((C−2−1))50質量部をドライブレンドし、実施例1(1)と同様にペレット化した。
(2)上記のペレットを20φ一軸押出機を用いて、220℃にてコートハンガーより溶融押出を行い、厚さ20μmのフィルムを得た。この単層フィルムに、窒素雰囲気下で100kGy(加速電圧200kV)の電子線を照射してフィルムを架橋させた。このとき実施例1(2)と同様にして測定したゲル分率は59%であった。該電子線照射後のフィルムの20℃、85%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、8cc・20μm/m2・day・atmであった。また、得られたフィルムの耐熱性を評価したところ、フィルムの融解がなく形状変化がほとんどなく、良好な耐熱性を示し、最低ヒートシール温度は110℃であった。また、得られたフィルムを、120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理した結果、フィルムの溶解はなく、形態は良好であった。
(3)得られたフィルムを用い、実施例1(3)と同様にしてピンホール数を測定したところ、1個であった。
(4)上記で得られた電子線照射後のフィルムを中間層とし、実施例1(4)と同様にして多層フィルムを得た。該多層フィルムより実施例1(4)と同様にして水を封入したパウチを得、このパウチを120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理したところ、中間層と内外層の剥離は確認されず、中間層の透明性は保たれていた。
(5)上記(1)で得られたペレットを用い、実施例1(5)と同様にして多層フィルムを得たのち、100kGyの電子線を照射した。得られた多層フィルムの最低ヒートシール温度を測定したところ110℃であった。結果を表2にまとめて示す。
(実施例5)
(1)合成例2で得られた変性EVOH((C−1−2))50質量部、合成例3で得られた変性EVOH((C−2−1))50質量部をドライブレンドし、実施例1(1)と同様にペレット化した。
(2)上記のペレットを20φ一軸押出機を用いて、220℃にてコートハンガーより溶融押出を行い、厚さ20μmのフィルムを得た。この単層フィルムに、窒素雰囲気下で30kGy(加速電圧200kV)の電子線を照射してフィルムを架橋させた。このとき、実施例1(2)と同様にして測定したゲル分率は43%であった。該電子線照射後のフィルムの20℃、85%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、10cc・20μm/m2・day・atmであった。また、得られたフィルムの耐熱性を評価したところ、フィルムの融解がなく形状変化がほとんどなく、良好な耐熱性を示し、最低ヒートシール温度は110℃であった。また、得られたフィルムを、120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理した結果、フィルムの溶解はなく、形態は良好であった。
(3)得られたフィルムを用い、実施例1(3)と同様にしてピンホール数を測定したところ、1個であった。
(4)上記で得られた電子線照射後のフィルムを中間層とし、実施例1(4)と同様にして多層フィルムを得た。該多層フィルムより実施例1(4)と同様にして水を封入したパウチを得、このパウチを120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理したところ、中間層と内外層の剥離は確認されず、中間層の透明性は保たれていた。
(5)上記(1)で得られたペレットを用い、実施例1(5)と同様にして多層フィルムを得たのち、30kGyの電子線を照射した。得られた多層フィルムの最低ヒートシール温度を測定したところ110℃であった。結果を表2にまとめて示す。
(実施例6)
(1)実施例5(1)と同様にペレット化し、ペレットを得た。
(2)上記のペレットを20φ一軸押出機を用いて、220℃にてコートハンガーより溶融押出を行い、厚さ20μmのフィルムを得た。この単層フィルムに、窒素雰囲気下で10kGy(加速電圧200kV)の電子線を照射してフィルムを架橋させた。このとき、実施例1(2)と同様にして測定したゲル分率は21%であった。該電子線照射後のフィルムの20℃、85%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、10cc・20μm/m2・day・atmであった。また、得られたフィルムの耐熱性を評価したところ、フィルムの融解がないが形状変化が大きいという耐熱性を示し、最低ヒートシール温度は110℃であった。また、得られたフィルムを、120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理した結果、フィルムの溶解はなく、形態は良好であった。
(3)得られたフィルムを用い、実施例1(3)と同様にしてピンホール数を測定したところ、1個であった。
(4)上記で得られた電子線を照射後のフィルムを中間層とし、実施例1(4)と同様にして多層フィルムを得た。該多層フィルムより実施例1(4)と同様にして水を封入したパウチを得、このパウチを120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理したところ、中間層と内外層の剥離は確認されず、中間層の透明性は保たれていた。
(5)上記(1)で得られたペレットを用い、実施例1(5)と同様にして多層フィルムを得たのち、10kGyの電子線を照射した。得られた多層フィルムの最低ヒートシール温度を測定したところ110℃であった。結果を表2にまとめて示す。
(比較例1)
(1)合成例2で得られた変性EVOH((C−1−2))50質量部、合成例3で得られた変性EVOH((C−2−1))50質量部をドライブレンドし、実施例1(1)と同様にペレット化した。
(2)上記のペレットを20φ一軸押出機を用いて、220℃にてコートハンガーより溶融押出を行い、厚さ20μmのフィルムを得た。この単層フィルムに電子線を照射せずに、実施例1(2)と同様にして測定したゲル分率は0%であった。該電子線未照射のフィルムの20℃、85%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、11cc・20μm/m2・day・atmであった。また、得られたフィルムの耐熱性を評価したところ、フィルムが融解し形状を残さなかった。最低ヒートシール温度は110℃であった。また、得られたフィルムを、120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理した結果、フィルムが溶解し、形状を残さなかった。
(3)得られたフィルムを用い、実施例1(3)と同様にしてピンホール数を測定したところ、0個であった。
(4)上記で得られた電子線を照射していないフィルムを中間層とし、実施例1(4)と同様にして多層フィルムを得た。該多層フィルムより実施例1(4)と同様にして水を封入したパウチを得、このパウチを120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理したところ、中間層と内外層の剥離はが確認され、中間層の白化が見られた。
(5)上記(1)で得られたペレットを用い、実施例1(5)と同様にして多層フィルムを得た。電子線を照射せずに得られた多層フィルムの最低ヒートシール温度を測定したところ110℃であった。結果を表2にまとめて示す。
(比較例2)
(1)合成例2で得られた変性EVOH((C−1−2))50質量部、および未変性EVOHとして「エバール」F171B(商品名、株式会社クラレ製)50質量部をドライブレンドし、実施例1(1)と同様にペレット化した。
(2)上記のペレットを20φ一軸押出機を用いて、220℃にてコートハンガーより溶融押出を行い、厚さ20μmのフィルムを得た。この単層フィルムに、窒素雰囲気下で100kGy(加速電圧200kV)の電子線を照射してフィルムを架橋させた。このとき、実施例1(2)と同様にして測定したゲル分率は79%であった。該電子線照射後のフィルムの20℃、85%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、5cc・20μm/m2・day・atmであった。また、得られたフィルムの耐熱性を評価したところ、フィルムの融解がなく形状変化がほとんどなく、良好な耐熱性を示し、最低ヒートシール温度は150℃であった。また、得られたフィルムを、120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理した結果、フィルムの溶解はなく、形態は良好であった。
(3)得られたフィルムを用い、実施例1(3)と同様にしてピンホール数を測定したところ、18個であった。
(4)上記で得られた電子線照射後のフィルムを中間層とし、実施例1(4)と同様にして多層フィルムを得た。該多層フィルムより実施例1(4)と同様にして水を封入したパウチを得、このパウチを120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理したところ、中間層と内外層の剥離は確認されず、中間層の透明性は保たれていた。
(5)上記(1)で得られたペレットを用い、実施例1(5)と同様にして多層フィルムを得たのち、100kGyの電子線を照射した。得られた多層フィルムの最低ヒートシール温度を測定したところ150℃であった。結果を表2にまとめて示す。
(比較例3)
(1)合成例3で得られた変性EVOH((C−2−1))100質量部を、実施例1(1)と同様にペレット化した。
(2)上記のペレットを20φ一軸押出機を用いて、220℃にてコートハンガーより溶融押出を行い、厚さ20μmのフィルムを得た。この単層フィルムに電子線を照射せずに、実施例1(2)と同様にして測定したゲル分率は0%であった。該電子線未照射のフィルムの20℃、85%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、13cc・20μm/m2・day・atmであった。また、得られたフィルムの耐熱性を評価したところ、フィルムが融解し形状を残さなかった。最低ヒートシール温度は90℃であった。また、得られたフィルムを、120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理した結果、フィルムが溶解し、形状を残さなかった。
(3)得られたフィルムを用い、実施例1(3)と同様にしてピンホール数を測定したところ、0個であった。
(4)上記で得られた電子線を照射していないフィルムを中間層とし、実施例1(4)と同様にして多層フィルムを得た。該多層フィルムより実施例1(4)と同様にして水を封入したパウチを得、このパウチを120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理したところ、中間層と内外層の剥離はが確認され、中間層の白化が見られた。
(5)上記(1)で得られたペレットを用い、実施例1(5)と同様にして多層フィルムを得た。電子線を照射せずに得られた多層フィルムの最低ヒートシール温度を測定したところ90℃であった。結果を表2にまとめて示す。
(比較例4)
(1)未変性EVOHとして「エバール」F171B(商品名、株式会社クラレ製)100質量部を、実施例1(1)と同様にペレット化した。
(2)上記のペレットを20φ一軸押出機を用いて、220℃にてコートハンガーより溶融押出を行い、厚さ20μmのフィルムを得た。この単層フィルムに電子線を照射せずに、実施例1(2)と同様にして測定したゲル分率は0%であった。該電子線未照射のフィルムの20℃、85%RH下での酸素透過量(OTR)を測定した結果、3cc・20μm/m2・day・atmであった。また、得られたフィルムの耐熱性を評価したところ、フィルムが融解し形状を残さなかった。最低ヒートシール温度は140℃であった。また、得られたフィルムを、120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理した結果、フィルムが溶解し、形状を残さなかった。
(3)得られたフィルムを用い、実施例1(3)と同様にしてピンホール数を測定したところ、7個であった。
(4)上記で得られた電子線を照射していないフィルムを中間層とし、実施例1(4)と同様にして多層フィルムを得た。該多層フィルムより実施例1(4)と同様にして水を封入したパウチを得、このパウチを120℃、90分間の条件でレトルト滅菌処理したところ、中間層と内外層の剥離が確認され、中間層の白化が見られた。
(5)上記(1)で得られたペレットを用い、実施例1(5)と同様にして多層フィルムを得た。電子線を照射せずに得られた多層フィルムの最低ヒートシール温度を測定したところ140℃であった。結果を表2にまとめて示す。
(実施例7)
実施例2で得られた電子線照射後のフィルムを用い、ヒートシールウィンドウを測定したところ、プレス時間0.5秒、1秒のいずれの場合も100℃〜220℃であった。結果を表3にまとめて示す。
(比較例5)
比較例2で得られた電子線照射後のフィルムを用いた以外は、実施例7と同様にしてヒートシールウィンドウを測定した。結果を表3にまとめて示す。
(比較例6)
比較例3で得られた単層フィルムを用いた以外は、実施例7と同様にしてヒートシールウィンドウを測定した。結果を表3にまとめて示す。
(比較例7)
比較例4で得られた単層フィルムを用いた以外は、実施例7と同様にしてヒートシールウィンドウを評価した。結果を表3にまとめて示す。
(実施例8)
実施例2で得られたペレットを20φ一軸押出機を用いて、220℃にてコートハンガーより溶融押出を行い、厚さ150μmのフィルムを得た。この単層フィルムに、窒素雰囲気下で100kGy(加速電圧250kV)の電子線を照射してフィルムを架橋させた。該フィルムの延伸性を評価したところ、フィルムにムラ、破れはみられず外観は良好であった。このようにして得られた延伸フィルムを用い、熱収縮性評価を行ったところ、収縮率は大きく、またフィルムにムラ、破れは確認されず外観は良好であった。結果を表4にまとめて示す。
(比較例8)
比較例2で得られたペレットを用いた以外は、実施例8と同様にして延伸性を評価したところ、フィルムにムラおよび破れが発生したため、良好な延伸フィルムを得ることができなかった。したがって熱収縮性の評価は行なわなかった。結果を表4にまとめて示す。
(比較例9)
比較例3で得られたペレットを20φ一軸押出機を用いて、220℃にてコートハンガーより溶融押出を行い、厚さ150μmのフィルムを得た。この単層フィルムに電子線を照射せずに、実施例8と同様にして延伸性、熱収縮性を評価した。結果を表4にまとめて示す。
(比較例10)
比較例4で得られたペレットを用いた以外は、比較例9と同様にして延伸性を評価したところ、フィルムにムラおよび破れが発生したため、良好な延伸フィルムを得ることができなかった。したがって熱収縮性の評価は行なわなかった。結果を表4にまとめて示す。