基体表面の退色乃至変色の原因の一つである汚染物質は、大気中に浮遊しているカーボン等の無機物質及び/又は油等の有機物質が基体表面に徐々に堆積することによって基体表面に付着していく。
本発明は、静電的な反発作用によって、これらの汚染物質を基体から除去し、又は、これらの汚染物質の基体への付着を回避乃至低減することを特徴とする。
主に屋外の大気中に浮遊している汚染物質、特に油分は、太陽光をはじめとして各種の電磁波により、いわゆる光酸化反応を受け、「酸化」された状態にあるといわれている。
光酸化反応とは、太陽光をはじめとした電磁波の作用により、有機物又は無機物表面の水分(H2O)、酸素(O2)からヒドロキシルラジカル(・OH)や一重項酸素(1O2)が生成される際に当該有機物又は無機物から電子(e−)が引き抜かれて酸化される現象をいう。この酸化により、有機物では分子構造が変化し、劣化と称される変色又は脆化現象がみられ、無機物、特に金属では錆が発生する。これら「酸化」された有機物又は無機物の表面は、電子(e−)の引き抜きにより、正に帯電する。
本発明では、基体表面に正電荷を付与することにより、前記有機物又は無機物を、静電反発力を利用して基体表面から自然に離脱させる。基体表面に正電荷を付与する方法として、本発明では、陽イオン;正電荷を有する導電体又は誘電体;導電体と誘電体又は半導体との複合体;或いは、これらの混合物を使用する。
前記陽イオンとしては、特に限定されるものではないが、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属のイオン;カルシウム等のアルカリ土類金属のイオン、アルミニウム、錫、セシウム、インジウム、セリウム、セレン、クロム、ニッケル、アンチモン、鉄、銅、マンガン、タングステン、ジルコニウム、亜鉛等の金属元素のイオンが好ましく、特に銅イオンが好ましい。更にメチレンバイオレット、ビスマルクブラウン、メチレンブルー、マラカイトグリーン等のカチオン性染料、第4級窒素原子含有基により変性されたシリコーン等のカチオン基を備えた有機分子も使用可能である。イオンの価数も特に限定されるものではなく、例えば、1〜4価の陽イオンが使用可能である。
前記金属イオンの供給源として、金属塩を使用することも可能である。具体的には、塩化アルミニウム、塩化第1及び第2錫、塩化クロム、塩化ニッケル、塩化第1及び第2アンチモン、塩化第1及び第2鉄、塩化セシウム、三塩化インジウム、塩化第1セリウム、四塩化セレン、塩化第2銅、塩化マンガン、四塩化タングステン、オキシ二塩化タングステン、タングステン酸カリウム、オキシ塩化ジルコニウム、塩化亜鉛等の各種の金属塩が挙げられる。また、水酸化インジウム、ケイタングステン酸等の水酸化物又は酸化物、油脂酸化物等の酸化物も使用可能である。
正電荷を有する導電体又は誘電体としては、上記の陽イオン以外の、正電荷が発生した導電体又は誘電体を挙げることができ、例えば、後述する各種の導電体からなる電池の正電極、並びに、摩擦により正に帯電した羊毛、ナイロン等の誘電体が挙げられる。
次に、前記複合体によって正電荷を付与する原理を図1に示す。
図1は図示を省略する基体の表面上又は表面層中に、導電体−誘電体又は半導体−導電体の組み合わせを配列した概念図である。導電体は、内部に自由に移動できる自由電子が高い濃度で存在することによって、表面に正電荷状態を有することができる。なお、導電体として陽イオンを含む導電性物質を使用することも可能である。
一方、導電体に隣接する誘電体又は半導体は、導電体の表面電荷状態の影響により誘電分極される。この結果、導電体に隣接する側には負電荷が、また、非隣接側には正電荷が誘電体又は半導体に発生する。これらの作用により導電体−誘電体又は半導体−導電体の組み合わせの表面は正電荷を帯びることとなり、基体表面に正電荷が付与される。前記複合体のサイズ(複合体を通過する最長軸の長さをいう)は1nmから100μm、好ましくは1nmから10μm、より好ましくは1nmから1μm、より好ましくは1nmから100nmの範囲とすることができる。
本発明において使用される複合体を構成する導電体は耐久性の点から金属が望ましく、アルミニウム、錫、セシウム、インジウム、セリウム、セレン、クロム、ニッケル、アンチモン、鉄、銀、銅、金、マンガン、白金、タングステン、ジルコニウム、亜鉛等の金属が挙げられる。導電体の形状は特に限定されるものではなく、粒子状、薄片状、繊維状等の任意の形状をとることができる。
導電体としては、一部の金属の金属塩も使用可能である。具体的には、塩化アルミニウム、塩化第1及び第2錫、塩化クロム、塩化ニッケル、塩化第1及び第2アンチモン、塩化第1及び第2鉄、硝酸銀、塩化セシウム、三塩化インジウム、塩化第1セリウム、四塩化セレン、塩化第2銅、塩化マンガン、塩化第2白金、四塩化タングステン、オキシ二塩化タングステン、タングステン酸カリウム、塩化第2金、オキシ塩化ジルコニウム、塩化亜鉛等の各種の金属塩が例示できる。また、導電体としては、水酸化インジウム、ケイタングステン酸等をはじめ、上記の金属の水酸化物又は酸化物等も使用可能である。
導電体としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリチオフェンビニロン、ポリイソチアナフテン、ポリアセチレン、ポリアルキルピロール、ポリアルキルチオフェン、ポリ−p−フェニレン、ポリフェニレンビニロン、ポリメトキシフェニレン、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリアントラセン、ポリナフタレン、ポリピレン、ポリアズレン等の導電性高分子も使用可能である。
半導体としては、例えば、C、Si、Ge、Sn、GaAs、Inp、GeN、ZnSe、PbSnTe等があり、半導体酸化金属や光半導体金属、光半導体酸化金属も使用可能である。好ましくは、酸化チタン(TiO2)の他に、ZnO、SrTiOP3、CdS、CdO、CaP、InP、In2O3、CaAs、BaTiO3、K2NbO3、Fe2O3、Ta2O3、WO3、NiO、Cu2O、SiC、SiO2、MoS3、InSb、RuO2、CeO2等が使用されるが、Na等で光触媒能を不活性化したものが望ましい。
誘電体としては、強誘電体であるチタン酸バリウム(PZT)いわゆるSBT、BLTや次に挙げる PZT、PLZT―(Pb、La)(Zr、Ti)O3、SBT、SBTN―SrBi2(Ta、Nb)2O9、BST―(Ba、Sr)TiO3、LSCO―(La、Sr)CoO3、BLT、BIT―(Bi、La)4Ti3O12、BSO―Bi2SiO5等の複合金属が使用可能である。また、撥水性または吸水防止性を有する有機ケイ素化合物であるシラン化合物、シリコネート化合物、シリコーン化合物、シリコーン及びシラン複合物、いわゆる有機変性シリカ化合物、また、有機ポリマー絶縁膜アリレンエーテル系ポリマー、ベンゾシクロブテン、フッ素系ポリマーパリレンN又はF、フッ素化アモルファス炭素、並びに、後述するフッ素系撥水剤又は吸水防止剤等の各種低誘電材料が使用可能である。
導電体と誘電体又は半導体との複合体としては、基体表面に正電荷を付与可能なものであれば、任意の導電体と誘電体又は半導体との組み合わせを使用可能であるが、基体表面のセルフクリーニング化の点では、金属ドープ酸化チタンを使用することが好ましい。前記金属としては、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄及び亜鉛からなる群から選択された金属元素の少なくとも1つが好ましく、酸化チタンとしてはTiO2、TiO3、TiO、TiO3/nH2O等の各種の酸化物、過酸化物が使用可能である。特に、ペルオキソ基を有する過酸化チタンが好ましい。酸化チタンはアモルファス型、アナターゼ型、ブルッカイト型、ルチル型のいずれでもよく、これらが混在していてもよいが、アモルファス型酸化チタンが好ましい。
アモルファス型酸化チタンは光触媒機能を有さない。一方、アナターゼ型、ブルッカイト型及びルチル型の酸化チタンは光触媒機能を有するが、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄又は亜鉛を一定濃度以上に複合させると光触媒機能を喪失する。したがって、前記金属ドープチタン酸化物は光触媒機能を有さないものである。なお、アモルファス型酸化チタンは太陽光による加熱等により経時的にアナターゼ型酸化チタンに変換されるが、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄又は亜鉛と複合させるとアナターゼ型酸化チタンは光触媒機能を失うので、結局のところ、前記金属ドープチタン酸化物は経時的に光触媒機能を示さないものである。
前記金属ドープチタン酸化物の製造方法としては、一般的な二酸化チタン粉末の製造方法である塩酸法又は硫酸法をベースとする製造方法を採用してもよいし、各種の液体分散チタニア溶液の製造方法を採用してもよい。そして、前記金属は、製造段階の如何を問わずチタン酸化物と複合化することができる。
例えば、前記金属ドープチタン酸化物の具体的な製造方法としては、以下の第1〜第3の製造方法、並びに、従来から知られているゾル−ゲル法が挙げられる。
第1の製造方法
まず、四塩化チタン等の四価チタンの化合物とアンモニア等の塩基とを反応させて、水酸化チタンを形成する。次に、この水酸化チタンを酸化剤でペルオキソ化し、超微細粒子のアモルファス型過酸化チタンを形成する。この反応は好ましくは水性媒体中で行なわれる。さらに、任意に加熱処理することによりアナターゼ型過酸化チタンに転移させることも可能である。前記の各工程のいずれかにおいて銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛又はそれらの化合物の少なくともいずれか1つが混合される。
ペルオキソ化用酸化剤は特に限定されるものではなく、チタンのペルオキソ化物、すなわち過酸化チタンが形成できるものであれば各種のものが使用できるが、過酸化水素が好ましい。酸化剤として過酸化水素水を使用する場合は、過酸化水素の濃度は特に制限されることはないが、30〜40%のものが好適である。ペルオキソ化前には水酸化チタンを冷却することが好ましい。その際の冷却温度は1〜5℃が好ましい。
図2に前記第1の製造方法の一例を示す。図示される製造方法では、四塩化チタン水溶液とアンモニア水とを、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛の化合物の少なくとも1つの存在下で混合し、当該金属の水酸化物及びチタンの水酸化物の混合物を生成させる。その際の反応混合液の濃度及び温度については、特に限定されるわけではないが、希薄且つ常温とすることが好ましい。この反応は中和反応であり、反応混合液のpHは最終的に7前後に調整されることが好ましい。
このようにして得られた金属及びチタンの水酸化物は純水で洗浄した後、5℃前後に冷却され、次に、過酸化水素水でペルオキソ化される。これにより、金属がドープされた、アモルファス型のペルオキソ基を有するチタン酸化物微細粒子を含有する水性分散液、すなわち金属ドープチタン酸化物を含有する水性分散液を製造することができる。
第2の製造方法
四塩化チタン等の四価チタンの化合物を酸化剤でペルオキソ化し、これとアンモニア等の塩基とを反応させて超微細粒子のアモルファス型過酸化チタンを形成する。この反応は好ましくは水性媒体中で行なわれる。さらに、任意に加熱処埋することによりアナターゼ型過酸化チタンに転移させることも可能である。前記の各工程のいずれかにおいて銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛又はそれらの化合物の少なくともいずれか1つが混合される。
第3の製造方法
四塩化チタン等の四価チタンの化合物を、酸化剤及び塩基と同時に反応させて、水酸化チタン形成とそのペルオキソ化とを同時に行い、超微細粒子のアモルファス型過酸化チタンを形成する。この反応は好ましくは水性媒体中で行なわれる。さらに、任意に加熱処埋することによりアナターゼ型過酸化チタンに転移させることも可能である。前記の各工程のいずれかにおいて銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛又はそれらの化合物の少なくともいずれか1つが混合される。
なお、第1乃至第3の製造方法において、アモルファス型過酸化チタンと、これを加熱して得られるアナターゼ型過酸化チタンとの混合物を金属ドープチタン酸化物として使用できることは言うまでもない。
ゾル−ゲル法による製造方法
チタンアルコキシドに、水、アルコール等の溶媒、酸又は塩基触媒を混合撹拌し、チタンアルコキシドを加水分解させ、超微粒子のチタン酸化物のゾル溶液を生成する。この加水分解の前後のいずれかに、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛又はそれらの化合物の少なくともいずれか1つが混合される。なお、このようにして得られるチタン酸化物は、ペルオキソ基を有するアモルファス型である。
前記チタンアルコキシドとしては、一般式:Ti(OR´)4(ただし、R´はアルキル基)で表示される化合物、又は前記一般式中の1つ或いは2つのアルコキシド基(OR´)がカルボキシル基或いはβ−ジカルボニル基で置換された化合物、或いは、それらの混合物が好ましい。
前記チタンアルコキシドの具体例としては、Ti(O−isoC3H7)4、Ti(O−nC4H9)4、Ti(O−CH2CH(C2H5)C4H9)4、Ti(O−C17H35)4、Ti(O−isoC3H7)2[CO(CH3)CHCOCH3]2、Ti(O−nC4H9)2[OC2H4N(C2H4OH)2]2、Ti(OH)2[OCH(CH3)COOH]2、Ti(OCH2CH(C2H5)CH(OH)C3H7)4、Ti(O−nC4H9)2(OCOC17H35)等が挙げられる。
四価チタンの化合物
金属ドープチタン酸化物の製造に使用する四価チタンの化合物としては、塩基と反応させた際に、オルトチタン酸(H4TiO4)とも呼称される水酸化チタンを形成できるものであれば各種のチタン化合物が使用でき、例えば四塩化チタン、硫酸チタン、硝酸チタン、燐酸チタン等のチタンの水溶性無機酸塩がある。それ以外にも蓚酸チタン等のチタンの水溶性有機酸塩も使用できる。なお、これらの各種チタン化合物の中では、水溶性に特に優れ、かつ金属ドープチタン酸化物の分散液中にチタン以外の成分が残留しない点で、四塩化チタンが好ましい。
また、四価チタンの化合物の溶液を使用する場合は、当該溶液の濃度は、水酸化チタンのゲルが形成できる範囲であれば特に制限されるものではないが、比較的希薄な溶液が好ましい。具体的には、四価チタンの化合物の溶液濃度は、5〜0.01wt%が好ましく、0.9〜0.3wt%がより好ましい。
塩基
前記四価チタンの化合物と反応させる塩基は、四価チタンの化合物と反応して水酸化チタンを形成できるものであれば、各種のものが使用可能であり、それにはアンモニア、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、苛性カリ等が例示できるが、アンモニアが好ましい。
また、前記の塩基の溶液を使用する場合は、当該溶液の濃度は、水酸化チタンのゲルが形成できる範囲であれば特に制限されるものではないが、比較的希薄な溶液が好ましい。具体的には、塩基溶液の濃度は、10〜0.01wt%が好ましく、1.0〜0.1wt%がより好ましい。特に、塩基溶液としてアンモニア水を使用した場合のアンモニアの濃度は、10〜0.01wt%が好ましく、1.0〜0.1wt%がより好ましい。
金属化合物
銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄又は亜鉛の化合物としては、それぞれ以下のものが例示できる。
Ni化合物:Ni(OH)2、NiCl2
Co化合物:Co(OH)NO3、Co(OH)2、CoSO4、CoCl2
Cu化合物:Cu(OH)2、Cu(NO3)2、CuSO4、CuCl2、
Cu(CH3COO)2
Mn化合物:MnNO3、MnSO4、MnCl2
Fe化合物:Fe(OH)2、Fe(OH)3、FeCl3
Zn化合物:Zn(NO3)2、ZnSO4、ZnCl2
第1乃至第3の製造方法で得られる水性分散液中の過酸化チタン濃度(共存する銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄又は亜鉛を含む合計量)は、0.05〜15wt%が好ましく、0.1〜5wt%がより好ましい。また、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛の配合量については、チタンと金属成分とのモル比で、本発明からは1:1が望ましいが、水性分散液の安定性から1:0.01〜1:0.5が好ましく、1:0.03〜1:0.1がより好ましい。
本発明の対象となる基体は特に限定されるものではなく、各種の無機系基体及び有機系基体、或いは、それらの組み合わせを使用することができる。
無機系基体としては、例えば、透明又は不透明ガラス、金属、金属酸化物、セラミックス、コンクリート、モルタル、石材等の物質からなる基体が挙げられる。また、有機系基体としては、例えば、有機樹脂、木材、紙等の物質からなる基体が挙げられる。有機樹脂をより具体的に例示すると、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ボリカーボネート、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、シリコーン、メラミン樹脂、尿素樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、セルロース、エポキシ変性樹脂等が挙げられる。基体の形状も特に限定されるものではなく、立方体、直方体、球形、シート形、繊維状等の任意の形状をとることができる。なお、基体は多孔質であってもよい。基体としては、吸水性を有する建築・土木用基板や、機器、装置搬送用ボディ、表示画面が好適である。
基体の表面は塗装されていてもよく、塗装材としては、アルキド樹脂、アクリル樹脂、アミノ樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、紫外線硬化樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、含成樹脂エマルジョン等の合成樹脂と着色剤とを含有するいわゆるペンキ塗料を好適に使用することができる。
前記塗装膜の厚みは0.01〜100μmが好ましく、0.1〜50μmがより好ましく、特に、0.5μm〜10μmが好ましい。
また、塗装手段としては、例えば、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、フローコーティング法、スピンコーティング法、ロールコーティング法、刷毛塗り、スポンジ塗り等が適用できる。なお、塗装膜の硬度、基体との密着性等の物理的性能を向上させるために、基体及び塗装膜の許容範囲内で加熱することが望ましい。
本発明では、前記の陽イオン;正電荷を有する導電体又は誘電体;導電体−誘電体又は半導体の複合体からなる群から選択される1種又は2種以上の正電荷物質が、誘電体である撥水剤又は吸水防止剤と共に基体表面に配置される。
本発明に用いる撥水剤又は吸水防止剤としては、シラン系、シリコネート系、シリコーン系、シリコーン及びシラン複合系、フッ素系の撥水剤又は吸水防止剤、或いは、これらの少なくとも2種の混合物が好ましく、特にフッ素系の撥水剤又は吸水防止剤が好ましい。このような材料は、非多孔質の基体表面に適用される場合には撥水剤とよばれ、また、多孔質の基体表面に適用される場合には基体への吸水を防止できることから吸水防止剤とよばれる。
本発明に用いるシラン系、シリコネート系、シリコーン系、並びに、シリコーン及びシラン複合系の撥水剤又は吸水防止剤とは、基体表面に適用した後、撥水剤又は吸水防止剤の化学成分が基体と反応して化学結合を生じることができるか、又は化学成分どうしが架橋することによって、ある程度耐久性に優れた膜を形成できる材料をいう。このような材料は撥水性又は吸水防止性を速やかに発現し、基体に対する撥水性又は吸水防止性が長期にわたり維持され、且つ耐候性に優れるので有利である。なお、前記撥水剤又は吸水防止剤は既述した陽イオンをその化学構造中に有するものでもよい。
シラン系、シリコーン及びシラン複合系、シリコネート系、シリコーン系、並びに、フッ素系の撥水剤又は吸水防止剤は種々のものが知られており、本発明においてはいずれのものを用いることもでき、さらに2種以上を併用することもできる。シラン系、シリコネート系、シリコーン系、並びに、シリコーン及びシラン複合系の撥水剤又は吸水防止剤のなかで、本発明に用いる撥水剤又は吸水防止剤として好ましいものとしては、加水分解性シラン、水、及び界面活性剤からなるシラン系撥水剤又は吸水防止剤、さらにこれに加水分解性シランの加水分解物及び/又は部分加水分解物並びに各種のオルガノポリシロキサンから選択される化合物を含むシリコーン及びシラン複合系撥水剤又は吸水防止剤、並びに、オルガノシリコネートのアルカリ金属塩の水溶液からなるシリコネート系撥水剤又は吸水防止剤が挙げられる。
前記シラン系撥水剤又は吸水防止剤に用いる加水分解性シランとしては各種のものが知られているが、例えば、テトラアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、及びトリアルキルアルコキシシランが挙げられ、これらから選択される1種又は2種以上を用いることができる。前記界面活性剤は特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、及びこれらの混合物を用いることができる。
前記シリコーン及びシラン複合系撥水剤又は吸水防止剤としては、前記加水分解性シラン、界面活性剤、及び、前記加水分解性シランの加水分解物及び/又は部分加水分解物を含んでなるもの、並びに、前記加水分解性シラン、界面活性剤、及び、各種のオルガノポリシロキサンから選択される化合物を含んでなるもの、が挙げられる。前記各種のオルガノポリシロキサンとしては、ケイ素原子に結合したアルコキシ基、アルケノキシ基、アミノ基、アミド基、アセトキシ基、及びケトオキシム基等から選ばれる加水分解性基を有するオルガノポリシロキサンを用いることができる。前記シリコーン及びシラン複合系撥水剤又は吸水防止剤の具体例としては、例えば、ドライシールS(商品名、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)が挙げられる。
前記シリコネート系撥水剤又は吸水防止剤としては、公知のものが使用可能であるが、ナトリウムメチルシリコネート水溶液、ナトリウムプロピルシリコネート水溶液、カリウムメチルシリコネート水溶液、及びカリウムプロピルシリコネート水溶液等のアルキルシリコネートのアルカリ金属塩の水溶液;並びに特開平5−214251号公報に記載されたアルカリ金属アミノオルガノ官能性シリコネート水溶液が挙げられる。このようなシリコネート系撥水剤又は吸水防止剤として市販されているものには、ドライシールC、及びドライシールE(いずれも商品名:東レ・ダウコーニング社製)がある。
また、シリコーン系撥水剤又は吸水防止剤としては、シリコーン水性エマルジョン樹脂組成物等の、水酸基又はアルコキシ基等の加水分解性基を有するシリコーンレジン、ヒドロキシシリル基含有ジオルガノポリシロキサン及び加水分解性基含有シラン又は加水分解性基(但し水酸基を除く)含有オルガノポリシロキサンからなる室温硬化型シリコーンレジン系撥水剤又は吸水防止剤が挙げられる。
また、本発明に用いるフッ素系撥水剤又は吸水防止剤とは、パーフルロロアルキル基含有化合物等の含フッ素化合物又は含フッ素化合物含有組成物である。なお、基体表面への吸着性が高い含フッ素化合物を選択した場合は、基体表面に適用した後、撥水剤又は吸水防止剤の化学成分が基体と反応して化学結合を生じたり、又は化学成分どうしが架橋したりする必要はかならずしもない。
このようなフッ素系撥水剤又は吸水防止剤として用いることができる含フッ素化合物は、分子中にパーフルオロアルキル基を含有する分子量1,000〜20,000のものが好ましく、具体的には、パーフルオロスルホン酸塩、パーフルオロスルホン酸アンモニウム塩、パーフルオロカルボン酸塩、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルアミンオキシド、パーフルオロアルキルリン酸エステル、及びパーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩等が挙げられる。中でも、基体表面への吸着性に優れることから、パーフルオロアルキルリン酸エステル、及びパーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩が好ましい。このような材料としては、サーフロンS−112、及びサーフロンS−121(共に商品名、セイミケミカル株式会社製)等が市販されている。
その他のフッ素系撥水剤又は吸水防止剤としては、フッ素原子を含有するオレフィンの2種以上からなる共重合体、フッ素原子を含有するオレフィンと炭化水素モノマーとの共重合体、及びフッ素原子を含有するオレフィンの2種以上からなる共重合体と熱可塑性アクリル樹脂との混合物からなる群より選ばれた少なくとも1種のフッ素樹脂と界面活性剤からなるフッ素樹脂エマルジョン、並びに硬化剤(特開平5−124880号公報、特開平5−117578号公報、特開平5−179191号公報参照)及び/又は前記シラン系撥水剤又は吸水防止剤からなる組成物が挙げられる(特開2000−121543号公報、特開2003−26461号公報参照)。このフッ素樹脂エマルジョンとしては、市販されているものを使用することができ、ダイキン工業(株)よりゼッフルシリーズとして、旭硝子(株)よりルミフロンシリーズとして購入可能である。前記硬化剤としては、メラミン系硬化剤、アミン系硬化剤、多価イソシアネート系硬化剤、及びブロック多価イソシアネート系硬化剤が好ましく使用される。中でも、常温硬化し現場施工が可能となる点から多価イソシアネート系硬化剤が好ましい。
特に、フッ素系の撥水剤又は吸水防止剤を使用する場合は、基体表面への紫外線照射や太陽光(特に紫外線)等の電磁波の照射を制御することで、基体表面の特性を撥水性から親水性まで変化させることができる。これにより、基体に求められる特性に応じてその保護態様を自在に変更することができるので、水と油の接触角度特性並びに表面正電荷特性の双方を生かして使用する場合にはフッ素系撥水剤又は吸水防止剤の使用が特に好ましい。
本発明の好ましい態様では、前記撥水剤又は吸水防止剤と、陽イオン;正電荷を有する導電体又は誘電体;導電体−誘電体又は半導体の複合体;又はこれらの2種以上の組み合わせである前記正電荷物質とが混合されて、混合物として基体表面上に配置される。前記混合物は、水、アルコール等の水性媒体、アセトン等の有機溶媒といった適切な媒体に、前記撥水剤又は吸水防止剤と、前記正電荷物質とを混合することによって得ることができ、好ましくは、溶液、懸濁液若しくはエマルジョンの形態をとることができる。
前記混合物は、好ましくは塗布されて基体表面上に配置される。基体への塗布方法としては、刷毛塗り、ローラーコート、及びスプレーコート等の公知の方法を用いることができる。基体表面に前記混合物を塗布した後は、乾燥させることが好ましい。一方、例えば、基体の注型成形中に、基体を構成する物質の未硬化液に、当該液より高又は低比重の前記混合物の所定量を混入し、所定時間放置後に当該液を硬化させることによって基体の表層中に前記撥水剤又は吸水防止剤と前記正電荷物質を配置することもできる。これにより、基体表面上及び/又は基体表層中に撥水性又は吸水防止性、並びに、防汚性に優れた層を形成することができ、これによって基体表面の汚染を低減でき、多孔質基体の場合は基体内部への水の侵入を防止することができる。なお、基体が塗装される場合には、塗料中に前記撥水剤又は吸水防止剤と前記正電荷物質を含ませてもよい。
図3は撥水剤又は吸水防止剤と正電荷物質の基体表面上における配置の一態様を示す概念図であり、撥水剤又は吸水防止剤と正電荷物質の混合物からなる層が基体表面に形成される態様を示す。膜の厚みは0.01〜100μmが好ましく、0.1〜50μmがより好ましく、特に、0.5μm〜10μmが好ましい。正電荷物質は膜の表面に露出する必要はなく、全て膜内に存在してよい。また、前記層は連続層である必要はなく、不連続層であってもよい。図示を省略するが、前記層内では、誘電分極により、撥水剤又は吸水防止剤の正電荷物質に接する側には負電荷が発生し、また、正電荷物質から離隔した側の層の表面には正電荷が発生する。この正電荷によって、後述するように基体表面の汚染防止を図ることができる。しかも、撥水剤又は吸水防止剤の作用により層自体に撥水性を付与できるので、当該特性による汚染防止の更なる向上をも図ることができる。
前記混合物には、さらに所望により基体表面の意匠性を高めるための顔料分散体を添加することができる。本発明に用いる顔料は特に限定されず、無機系顔料及び有機系顔料を用いることができ、これらの片方を用いることも又は両者を併用することもできる。
顔料及び/又は染料として有機系顔料及び/又は染料を用いた場合であっても、驚くべきことに、本発明の方法では、該有機系顔料及び/又は染料の褪色は抑制される。特に負電荷を有するものには有効である。
前記顔料分散体は、顔料を均一かつ安定に分散したものであればよく、それ以外に特に制限はない。顔料分散体は、公知の方法に従って、分散機を使用し、分散剤を用いて顔料を水等の液体中に分散したものを用いることができる。
前記顔料のうち、無機顔料としては、金属酸化物系、複合酸化物系、クロム酸塩系、硫化物系、リン酸塩系、及び金属錯塩系の顔料、カーボンブラック、金属粉、示温顔料、蓄光顔料、真珠顔料、塩基性顔料、鉛白等が挙げられる。また有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、アンスラキノン系、キナクリドン系、インジゴ系、ジオキサジン系、ペリレン系、ペリノン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、金属錯塩系、キノフタロン系、及びジケトピロロピロール系顔料、アルカリブルー、アニリンブラック、蛍光顔料等が挙げられる。これらの顔料は単独であるいは二種類以上を併用して用いることができる。
例えば、顔料を水中に分散して水性顔料分散体を得る場合に用いる分散剤としては、ノニオン性分散剤、アニオン性分散剤、両性分散剤、酸価が50〜250の水溶性樹脂性分散剤、及び、酸価が50〜250のエマルジョン樹脂性分散剤が挙げられる。これらの分散剤は単独で、あるいは二種類以上を併用して用いることができる。
前記ノニオン性分散剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、及びポリオキシエチレン脂肪酸エステル等が挙げられる。
前記アニオン分散剤としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルジアリールエーテルジスルホン酸塩、アルキル燐酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル燐酸エステル塩、ポリオキシエチレングリセロール脂肪酸エステル塩、グリセロールボレイド脂肪酸エステル塩、及びトリポリリン酸ソーダ等が挙げられる。中でも、前記トリポリリン酸ソーダと前記その他のアニオン分散剤との混合物を配合することが、水性顔料分散体の安定性向上に有効であるので好ましい。
前記両性分散剤としては、アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド、及びレシチン等が挙げられる。
前記酸価が50〜250の水溶性樹脂性分散剤としては、アクリル樹脂、アクリルスチレン樹脂、及びスチレンマレイン酸樹脂等が挙げられ、酸価が50〜250のエマルジョン樹脂性分散剤としては、アクリルエマルジョン樹脂、及びアクリルスチレンエマルジョン樹脂等が挙げられる。
前記分散剤は、顔料100質量部に対して0.1〜100質量部の範囲で用いることが好ましく、0.1〜60質量部の範囲で用いることが好ましい。
前記顔料分散体には、前記顔料、前記分散剤のほか、水や各種有機溶剤、さらに必要に応じて水溶性溶剤、湿潤剤、増粘剤、消泡剤、及び防腐剤等から選択される材料を一種又は二種以上含有させることができる。
更に、前記混合物には、所望により基体表面に層を形成しやすくするためのバインダー樹脂をさらに添加することもできる。バインダー樹脂は前記混合物に直接配合してもよく、前記水性顔料分散体に予め配合してもよい。このようなバインダー樹脂としては、天然樹脂や各種の合成樹脂系のエマルジョンが例示される。天然樹脂系のバインダー樹脂としては、ロジン、セラック、カゼイン、セルロース誘導体、及び澱粉が例示される。合成樹脂系のエマルジョンとしては、ポリ酢酸ビニル;エチレン・酢酸ビニル共重合体;酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体;酢酸ビニル・アクリル酸共重合体;エチレン・アクリル酸共重合体;ポリビニルアルコール;アクリル樹脂;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステルからなるアクリル酸エステル樹脂;スチレン・アクリル酸エステル共重合体;メタクリル酸エステル樹脂;アクリル酸メタクリル酸共重合体;シリコーン変性アクリル樹脂;エポキシ樹脂;フッ素樹脂;ポリウレタン樹脂、及びこれらの混合物又は共重合体等からなるエマルジョンが例示される。特に得られる塗膜の耐久性が優れることから、アクリル酸エステルのエマルジョンが好ましい。さらにバインダー樹脂の酸価は50未満であることが好ましく、さらに好ましくは30未満であり、特に好ましくは10未満である。
前記混合物には、さらに所望により、レベリング剤、シランカップリング剤等の添加剤を加えることができる。
レベリング剤としてはシリコーンオイルが好ましく、各種のものを使用することができる。なかでも、ポリエーテル変性シリコーンオイルが好ましい。具体的には、分子鎖末端あるいは側鎖に、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド共重合ブロック、ポリエチレンオキサイド−ポリブチレンオキサイド共重合ブロック、ポリプロピレンオキサイド−ポリブチレンオキサイド共重合ブロック等の構造を有するオルガノポリシロキサンが挙げられる。その中でも、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド又はポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイド共重合ブロックがアルキレン基を介してケイ素原子に結合したオルガノポリシロキサンが好ましい。このようなポリエーテル変性シリコーンオイルは公知の方法で製造することができ、例えば、特開平9−165318号公報に記載の方法により製造することができる。このようなポリエーテル変性シリコーンオイルとしては、TSF4445、TSF4446(いずれも商品名)(以上、GE東芝シリコーン株式会社製)、KF−352,KF−353(いずれも商品名)(以上、信越化学工業製)、SH3746(商品名、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)がある。
また、アミノ基、エポキシ基、又はメタクリロキシ基を有するシラン化合物、いわゆるシランカップリング剤を配合することも可能である。このカップリング剤は、前記撥水剤又は吸水防止剤と前記正電荷物質とを含む層の硬度や隣接する層との密着性を向上させることを可能とする。他にも、シリコーンゴム、シリコーンパウダー、及びシリコーンレジン等から選択される材料を前記混合物に配合してもよい。
撥水剤又は吸水防止剤と正電荷物質は他の態様で基体上に配置することもできる。図4は、正電荷物質を基体表面に配置し、正電荷物質の表面に撥水材又は吸水防止剤を非膜形状で配置する態様を示す。絶縁性の撥水剤又は吸水防止剤の膜内で誘電分極により、正電荷物質に接する側には負電荷が発生し、また、正電荷物質から離隔した側の膜の表面には正電荷が発生する。
撥水剤又は吸水防止剤を非膜形状で配置する方法としては、例えば、前記正電荷物質の表面に有機又は無機物質の原子又は原子団をグラフト化等によって化学修飾する方法が挙げられる。前記化学修飾される原子又は原子団としてはフッ素原子を含むものが好ましい。化学修飾用のフッ素化合物としては、例えば、フルオロアルキルアクリレートコポリマーが好ましく、例えば、ダイキン工業(株)よりエフトーン GM−101及びGM−105として市販されている。上記の化学修飾は、前記フッ素化合物の溶液を基体表面に塗布後、乾燥する工程を少なくとも1回行うことによって製造することができる。前記塗布方法としては、刷毛塗り、ローラーコート、スプレーコート等の方法が使用できる。
本発明では、前記撥水剤又は吸水防止剤と前記正電荷物質を含む層上に更に被覆層を形成してもよい。被覆層の厚みは0.01〜100μmが好ましく、0.05〜50μmがより好ましく、特に、0.1〜10μmが好ましい。
被覆層の材質は特に限定されるものではなく、任意の有機又は無機物質を使用することができる。
有機物質としては、撥水性又は親水性の高分子材料が好ましい。撥水性の高分子材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン;ポリアクリレート、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)等のアクリル樹脂;ポリアクリロニトリル;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリハロゲン化ビニル;ポリテトラフルオロエチレン、フルオロエチレン・プロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、フッ化ビニリデン・トリフルオロエチレン共重合体等のフッ素樹脂;ポリエチレンテレフタラート、ポリカーボネート等のポリエステル;フェノール樹脂;ユリア樹脂;メラミン樹脂;ポリイミド樹脂;ナイロン等のポリアミド樹脂;エポキシ樹脂;ポリウレタン等が挙げられる。
撥水性の高分子材料としてはフッ素樹脂が好ましく、特に、強誘電性と撥水性を有するフッ化ビニリデン・トリフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライドのβ型結晶体及びそれを含有するものが好ましい。フッ素樹脂としては市販のものを使用することが可能であり、市販品としては、例えば、NTT−AT株式会社製のHIREC1550等が挙げられる。
更に、フッ素原子を含有するオレフィンの2種以上からなる共重合体、フッ素原子を含有するオレフィンと炭化水素モノマーとの共重合体、及びフッ素原子を含有するオレフィンの2種以上からなる共重合体と熱可塑性アクリル樹脂との混合物からなる群より選ばれた少なくとも1種のフッ素樹脂と界面活性剤からなるフッ素樹脂エマルジョン、並びに硬化剤(特開平5−124880号公報、特開平5−117578号公報、特開平5−179191号公報参照)及び/又は前記シリコーン樹脂系撥水剤からなる組成物(特開2000−121543号公報、特開2003−26461号公報参照)も使用することができる。このフッ素樹脂エマルジョンとしては、市販されているものを使用することができ、ダイキン工業(株)よりゼッフルシリーズとして、旭硝子(株)よりルミフロンシリーズとして購入可能である。前記硬化剤としては、メラミン系硬化剤、アミン系硬化剤、多価イソシアネート系硬化剤、及びブロック多価イソシアネート系硬化剤が好ましく使用される。
親水性の高分子材料としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体等のポリエーテル;ポリビニルアルコール;ポリアクリル酸(アルカリ金属塩、アンモニウム塩等の塩を含む)、ポリメタクリル酸(アルカリ金属塩、アンモニウム塩等の塩を含む)、ポリアクリル酸−ポリメタクリル酸(アルカリ金属塩、アンモニウム塩等の塩を含む)共重合体;ポリアクリルアミド;ポリビニルピロリドン;カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等の親水性セルロース類;多糖類等の天然親水性高分子化合物等が挙げられる。
これらの高分子材料にガラス繊維、炭素繊維、シリカ等の無機系誘電体を配合して複合化したものも使用可能である。また、前記の高分子材料として塗料を使用することも可能である。
前記無機物質としては、撥水性又は親水性の無機化合物からなることが好ましい。
撥水性の無機材料としては、例えば、シラン系撥水剤、フッ素系撥水剤等が挙げられる。特に、フッ素系撥水剤が好ましく、例としては、パーフルロロアルキル基含有化合物等の含フッ素化合物又は含フッ素化合物含有組成物が挙げられる。なお、基体表面への吸着性が高い含フッ素化合物を選択した場合は、基体表面に適用した後、撥水剤又は吸水防止剤の化学成分が基体と反応して化学結合を生じたり、又は化学成分どうしが架橋したりする必要はかならずしもない。
このようなフッ素系撥水剤として用いることができる含フッ素化合物は、分子中にパーフルオロアルキル基を含有する分子量1,000〜20,000のものが好ましく、具体的には、パーフルオロスルホン酸塩、パーフルオロスルホン酸アンモニウム塩、パーフルオロカルボン酸塩、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルアミンオキシド、パーフルオロアルキルリン酸エステル、及びパーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩等が挙げられる。中でも、基体表面への吸着性に優れることから、パーフルオロアルキルリン酸エステル、及びパーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩が好ましい。このような材料としては、サーフロンS−112、及びサーフロンS−121(共に商品名、セイミケミカル株式会社製)等が市販されている。
親水性の無機材料としては、例えば、SiO2や、ケイ素化合物や、光触媒機能を有する酸化チタン等の物質が挙げられる。
光触媒物質は、特定の金属化合物を含んでおり、光励起により当該層表面の有機及び/又は無機化合物を酸化分解する機能を有する。光触媒の原理は、特定の金属化合物が光励起により、空気中の水又は酸素からOH−やO2 −のラジカル種を発生させ、このラジカル種が有機及び/又は無機化合物を酸化還元分解することであると一般的に理解されている。
前記金属化合物としては、代表的な酸化チタン(TiO2)の他、ZnO、SrTiOP3、CdS、CdO、CaP、InP、In2O3、CaAs、BaTiO3、K2NbO3、Fe2O3、Ta2O5、WO3、NiO、Cu2O、SiC、SiO2、MoS3、InSb、RuO2、CeO2等が知られている。
光触媒物質からなる膜は、必要に応じて各種の添加剤と共に、これらの金属化合物の微粒子(2nm〜20nm程度)を含有する水性分散液を、前記撥水剤又は吸水防止剤及び前記正電荷物質を含む層上に塗布、乾燥することによって形成することができる。膜の厚みは、好ましくは0.01μm〜2.0μm、より好ましくは0.1μm〜1.0μmである。光触媒物質膜形成用としては水性分散液の使用が好ましいが、アルコールを溶媒とすることも可能である。
光触媒物質膜形成用水性分散液は、例えば、以下の方法によって製造することができる。なお、水性分散液中の過酸化チタンは乾燥造膜状態では酸化チタンに変化しうる。
第1の製造方法
既述した四価チタン化合物とアンモニア等の塩基とを反応させて、水酸化チタンを形成する。次に、この水酸化チタンを過酸化水素等の酸化剤でペルオキソ化し、超微細粒子のアモルファス型過酸化チタンを形成する。更に加熱処理することによりアナターゼ型過酸化チタンに転移させる。
第2の製造方法
既述した四価チタン化合物を過酸化水素等の酸化剤でペルオキソ化し、次にアンモニア等の塩基と反応させて超微細粒子のアモルファス型過酸化チタンを形成する。更に加熱処理することによりアナターゼ型過酸化チタンに転移させる。
第3の製造方法
既述した四価チタン化合物と過酸化水素等の酸化剤及びアンモニア等の塩基とを反応させ、水酸化チタン形成及びペルオキソ化とを同時に行い、超微細粒子のアモルファス型過酸化チタンを形成する。更に加熱処理することによりアナターゼ型過酸化チタンに転移させる。
光触媒物質膜には光触媒性能が向上する金属(Ag、Pt)を添加してもよい。また、金属塩等の各種物質を、光触媒機能を失活させない程度の範囲で添加することもできる。前記金属塩としては、例えば、アルミニウム、錫、クロム、ニッケル、アンチモン、鉄、銀、セシウム、インジウム、セリウム、セレン、銅、マンガン、カルシウム、白金、タングステン、ジルコニウム、亜鉛等の金属塩があり、それ以外にも一部の金属或いは非金属等については水酸化物又は酸化物も使用可能である。具体的には、塩化アルミニウム、塩化第一及び第二錫、塩化クロム、塩化ニッケル、塩化第一及び第二アンチモン、塩化第一及び第二鉄、硝酸銀、塩化セシウム、三塩化インジウム、塩化第一セリウム、四塩化セレン、塩化第二銅、塩化マンガン、塩化カルシウム、塩化第二白金、四塩化タングステン、オキシ二塩化タングステン、タングステン酸カリウム、塩化第二金、オキシ塩化ジルコニウム、塩化亜鉛等の各種金属塩が例示できる。また、金属塩以外の化合物としては、水酸化インジウム、ケイタングステン酸、シリカゾル、水酸化カルシウム等が例示できる。なお、光触媒物質膜の固着性を向上させるためにアモルファス型過酸化チタンを配合することも可能である。
光触媒物質膜の作用により、基体表面の汚染物質が分解されるので、基体表面の汚染を防止し、基体の化粧性を経時的に維持することができる。なお、光触媒物質膜を直接基体に形成すると、経時的に基体から光触媒物質膜が剥離するおそれがあるが、正電荷物質を介在させることにより、光触媒物質膜を基体と良好に一体化することができる。
このように正電荷物質が絶縁性有機又は無機物質の膜によって被覆されると、絶縁性有機又は無機物質の膜内で誘電分極により、正電荷物質を含む層に接する側には負電荷が発生し、また、正電荷物質を含む層から離隔した側の膜の表面には正電荷が発生する。この正電荷によって、後述するように基体表面の汚染防止を図ることができる。 しかも、絶縁性有機又は無機物質の膜自体の撥水性又は親水性といった化学的特性は維持されるので、当該化学的特性による汚染防止の更なる向上をも図ることができる。
本発明では、撥水剤又は吸水防止剤と正電荷物質とが層を形成する場合に、基体表面と該層との間に中間層が存在してもよい。特に、撥水剤又は吸水防止剤と正電荷物質を含む層が更に有機ケイ素化合物を含有する場合、シラン化合物を含む中間層を予め基体上に形成することが好ましい。この中間層は、Si―O結合を大量に含有する為、前記層の強度や基体との密着性を向上することが可能になる。また、前記中間層は、基体への水分の浸入を防止する機能をも有している。
前記シラン化合物としては、加水分解性シラン、その加水分解物及びこれらの混合物が挙げられる。加水分解性シランとしては各種のアルコキシシランが使用でき、具体的には、テトラアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルアルコキシシランが挙げられる。これらの内、1種類の加水分解性シランを単独で使用してもよく、必要に応じて2種類以上の加水分解性シランを混合して使用してもよい。またこれらのシラン化合物に、各種のオルガノポリシロキサンを配合してもよい。このようなシラン化合物を含有する中間層形成剤としては、ドライシールS(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)がある。
また、中間層形成剤として、メチルシリコーン樹脂及びメチルフェニルシリコーン樹脂等の室温硬化型シリコーン樹脂を使用してもよい。このような室温硬化型シリコーン樹脂としては、AY42−170、SR2510、SR2406、SR2410、SR2405、SR2411(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製)がある。
中間層は無色透明でもよく、或いは、着色された透明、半透明又は不透明でもよい。ここでの着色とは赤、青、緑等の色のみならず白色によるものを含む。着色された中間層を得るには、中間層に無機又は有機顔料或いは染料等の各種の着色剤を配合することが好ましい。
無機顔料としては、カーボンブラック、黒鉛、黄鉛、酸化鉄黄、鉛丹、ベンガラ、群青、酸化クロム緑、酸化鉄等が挙げられる。有機顔料としては、アゾ系有機顔料、フタロシアン系有機顔料、スレン系有機顔料、キノクリドン系有機顔料、ジオキサジン系有機顔料、イソインドリノン系有機顔料、ジケトピロロピロールや各種金属錯体が使用できるが耐光性に優れているものが望ましい。耐光性のある有機顔料としては、例えば、不溶性アゾ系有機顔料であるハンザエロー、トルイジンレッド、フタロシアン系有機顔料であるフタロシアンブルーB、フタロシアングリーン、キナクリドン系有機顔料であるキナクリドン赤等が挙げられる。
染料としては、塩基性染料、直接染料、酸性染料、植物性染料等が挙げられるが、耐光性に優れたものが好ましく、例えば、赤色では、ダイレクトスカーレット、ロクセリン、アゾルビン、橙色では、ダイレクトオレンジRコンク、アシドオレンジ、黄色では、クリソフェニンNS、メタニールエロー、茶色では、ダイレクトブラウンKGG、アシドブラウンR、青色ではダイレクトブルーB、黒色ではダイレクトブラックGX、ニグロシンBHL等が特に好ましい。
中間層がシラン化合物又はシリコーン樹脂からなる場合は、これらのシラン化合物又はシリコーン樹脂と顔料との混合比(重量比)は、1:2〜1:0.05の範囲が好ましく、1:1〜1:0.1の範囲がより好ましい。
なお、中間層には更に分散剤、安定剤、レベリング剤等の添加剤が配合されてもよい。これらの添加剤は中間層の形成を容易とする作用を有する。更に、顔料・染料等の着色剤を配合する場合は、当該着色剤の固着補助用バインダーを添加することも可能である。この場合のバインダーとしては、耐候性に優れたアクリル酸エステルやアクリル酸エステル共重合樹脂を主成分とする各種塗料用バインダーが使用することができ、例えば、ポリゾールAP−3720(昭和高分子株式会社製)、ポリゾールAP−609(昭和高分子株式会社製)等が挙げられる。
中間層は例えば以下のようにして形成することができる。揮発性溶媒中にシラン化合物又はシリコーン樹脂からなる中間層形成剤、並びに、必要に応じて前記着色剤、前記添加剤及び前記バインダーを含む溶液を、前記基体表面に2〜5mm程度の厚みとなるように塗布する。必要に応じて加熱し、揮発性溶媒を蒸発させて中間層を基体上に形成する。着色した中間層は基体と一体化することによって着色化粧性を基体に付与することができる。
前記のようにして形成された中間層の厚みは特に限定されるものではないが、0.01〜1.0μmが好ましく、0.05〜0.3μmがより好ましい。また、着色剤、添加剤、バインダーが添加された場合は、1.0μm〜100μmが好ましく、10μm〜50μmがより好ましい。
基体上での中間層の形成方法としては、公知の任意の方法が使用可能であり、例えば、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、フローコーティング法、スピンコーティング法、ロールコーティング法、刷毛塗り、スポンジ塗り等が可能である。なお、中間層の硬度、基体との密着性等の物理的性能を向上させる為には、基体上での中間層の形成後に、これらを許容範囲内の温度で加熱することが好ましい。
次に、正電荷を帯びる基体表面から汚染物質が除去される機構を図5に示す。
まず、基体表面に正電荷を付与する(図5(1))。
基体表面に汚染物質が堆積し、太陽光等の電磁波の作用により光酸化される。こうして汚染物質にも正電荷が付与される(図5(2))。
基体表面と汚染物質との間に正電荷同士の静電反発が発生し、反発離脱力が汚染物質に発生する。これにより、基体表面への汚染物質の固着力が低減される(図5(3))。
風雨等の物理的な作用により、汚染物質は基体から容易に除去される(図5(4))。これにより、基体はセルフクリーニングされる。
したがって、本発明では、撥水剤又は吸水防止剤による撥水性を生かすと同時に、基体表面に付与される正電荷を利用して、継続的な「防汚・防曇機能」を発揮する製品を得ることが可能となる。この技術は、あらゆる基体に応用できるが、特に、優れた撥水性を有する基体の表面に正電荷を付与することで長期的にその機能を維持することができるので、プラスチック製の基体への応用が好ましい。これにより、「汚れないプラスチック」が可能となる。
また、基体表面の正電荷は、電磁波による基体の酸化劣化を低減することができる。すなわち、基体の酸化劣化とは、基体表面又は基体中において紫外線等の電磁波により、1O2、・OH、等のラジカルが生成され、酸化分解反応を生じさせることが原因であるが、基体の正電荷表面は、これらのラジカルを安定した分子とする。したがって、基体の酸化劣化が防止又は低減されると考えられる。なお、基体が金属製の場合には、同様のプロセスから錆の発生を低減することが可能となる。
本発明は各種のデザイン性並びに高い防水・防汚性能が求められる任意の分野において利用可能であり、ガラス、金属、セラミックス、コンクリート、木材、石材、高分子樹脂カバー、高分子樹脂シート、繊維(衣類、カーテン等)、シーリング剤等又はこれらの組み合わせからなる、建材;空調屋外機;厨房機器;衛生機器;照明器具;自動車;自転車;自動二輪車;航空機;列車;船舶等の屋内外で利用される物品、また、各種機械、電子機器、テレビ等のフェイスパネルに好適に使用される。特に、本発明は吸水性の大きい建材に好ましく、当該建材を使用して建造された家屋、ビルディング、道路、トンネル等の建築物は経時的に高い防水・防汚効果を発揮することができる。
なお、本発明における、撥水剤又は吸水防止剤、及び、正電荷物質の組み合わせは、その組み合わせを含む、基体表面用の汚染防止乃至低減剤として、或いは、保護剤として、単独で市場に流通することができる。
以下具体例に基づき本発明を説明する。
(製造例1)
97%CuCl2・2H2O(塩化第二銅)(日本化学産業(株)製)0.4gを2.5%アンモニア水99.6gに完全に溶解させて銅濃度約800ppmの濃青色の正電荷金属溶液100gを調製した。
(製造例2)
97%CuCl2・2H2O(塩化第二銅)(日本化学産業(株)製)0.8gを純水199.2gに完全に溶解させて銅濃度約800ppmの淡青色の正電荷金属溶液200gを調製した。
(製造例3)
撥水剤(ドライシールS:東レ・ダウコーニング(株)製)と純水とを20:80の重量比で混合して撥水性分散液100gを調製した。
(製造例4)
撥水剤(ドライシールS:東レ・ダウコーニング(株)製)と純水とを40:60の重量比で混合して撥水性分散液100gを調製した。
(製造例5)
製造例2で調製した溶液と製造例3で調製した分散液とを1:1の重量比で混合して正電荷金属含有撥水性分散液100gを調製した。
(製造例6)
製造例2で調製した溶液と製造例4で準備した分散液とを1:1の重量比で混合して正電荷金属含有撥水性分散液100gを調製した。
(製造例7)
製造例5で調製した正電荷金属含有撥水性分散液90gに白色顔料(ポルックスホワイトPC−CRH(住化カラー(株)製))10gを混合し、更に、バインダーとしてポリゾールAP−609L(昭和高分子(株)製)5gを混合して、正電荷含有撥水性白色分散液105gを調製した。
(実施例1)
陶器質タイル(97mm×97mm)の表面に製造例5で調製した正電荷金属含有撥水性分散液を2.0g/100cm2の塗布量でスプレー塗布し、70℃で1時間加熱して評価用基板を得た。
(実施例2)
陶器質タイル(97mm×97mm)の裏面に製造例7で調製した正電荷含有撥水性白色分散液を2.0g/100cm2の塗布量でスプレー塗布し、70℃で1時間加熱して評価用基板を得た。
(比較例1)
陶器質タイル(97mm×97mm)の裏面に光触媒液(B56:サスティナブル・テクノロジー(株)製)を2.0g/100cm2の塗布量でスプレー塗布し、70℃で1時間加熱して評価用基板を得た。
(比較例2)
陶器質タイル(97mm×97mm)の表面に撥水剤(ドライシールS:東レ・ダウコーニング(株)製)の純水10倍希釈液を2.0g/100cm2の塗布量でスプレー塗布し、70℃で1時間加熱して評価用基板を得た。
(評価1)
負電荷を有する染料であるインジコ染料を含む赤インク(パイロット(株)製)をエタノールで希釈して10倍希釈液とし、0.007g/100cm2の塗布量で、実施例1及び2並びに比較例1及び2の各評価用基板表面にスポット塗布した。各基板1〜4を直線上に並べ、20Wのブラックライト(東芝ライテック(株)製)を各基板上に配置し各基板表面に1100μW/cm2の割合で紫外線を照射した。色差計(ミノルタ(株)製、CR−200)を使用して、各評価基板表面上の赤インクの褪色率を経時的に測定した。
赤インクの褪色率(%)は以下の式を用いて計算により求めた。
消色率=100−
√((L2−L0)2+(a2−a0)2+(b2−b0)2))/√((L1−L0)2+(a1−a0)2+(b1−b0)2))×100
L0、a0、b0:赤インク塗布前の基板表面の色データ
L1、a1、b1:赤インク塗布直後の基板表面の色データ
L2、a2、b2:紫外線照射後の基板表面の色データ
得られた褪色率の結果を表1に示す。表1中の褪色率の数値が大きいほど赤インクの褪色が顕著であることを示す。
表1に示した結果から、比較例2は、光触媒作用による基板表面での酸化分解と負電荷発生により赤インクが急速に消失することが分かる。また、比較例1もブラックライトの紫外線による酸化分解による最終的な消色率が大きい。一方、実施例1及び2では、基板表面の正電荷により赤インクの離脱が抑制され、また、紫外線による酸化分解が低減されることが分かる。これにより、表面に正電荷を有する実施例1及び2の方が、同様に正電荷を有する環境中の汚染物質に対しての防汚性に優れることが分かる。
(製造例8)
製造例3で調製した撥水性分散液90gに白色顔料(ポルックスホワイトPC−CRH(住化カラー(株)製))10gを混合し、更に、バインダーとしてポリゾールAP−609L(昭和高分子(株)製)5gを混合して、撥水性白色分散液105gを調製した。この撥水性白色分散液50gと、製造例1の正電荷金属溶液50gを1:1の重量比で混合して正電荷金属含有撥水性白色分散液100gを調製した。
(製造例9)
製造例3で調製した撥水性分散液90gに白色顔料(ポルックスホワイトPC−CRH(住化カラー(株)製))10gを混合し、更に、バインダーとしてポリゾールAP−609L(昭和高分子(株)製)5gを混合して、撥水性白色分散液105gを調製した。この撥水性白色分散液50gと、製造例2の正電荷金属溶液50gを1:1の重量比で混合して正電荷金属含有撥水性白色分散液100gを調製した。
(製造例10)
製造例3で調製した撥水性分散液90gに白色顔料(ポルックスホワイトPC−CRH(住化カラー(株)製))10gを混合し、更に、バインダーとしてポリゾールAP−609L(昭和高分子(株)製)5gを混合して、撥水性白色分散液105gを調製した。
(実施例3)
舗石コンクリートブロック(300mm×300mm×30mm)の裏面に製造例8で準備した正電荷撥水性白色分散液を20g/100cm2の塗布量でスプレー塗布し、常温で乾燥させて、評価用基板を得た。
(実施例4)
舗石コンクリートブロック(300mm×300mm×30mm)の裏面に製造例9で準備した正電荷撥水性白色分散液を20g/100cm2の塗布量でスプレー塗布し、常温で乾燥させて、評価用基板を得た。
(比較例3)
舗石コンクリートブロック(300mm×300mm×30mm)の裏面に製造例10の撥水性白色分散液を20g/100cm2の塗布量でスプレー塗布し、常温で乾燥させて、評価用基板を得た。
(評価2)
実施例3及び4並びに比較例3の各評価用基板について佐賀県において5ヶ月間の曝露試験を行い、各基板の表面の汚染状態を目視観察した。結果を表2に示す。なお、表2中の「撥水性」とは水との接触角が95°であることを示す。
表2に示した結果から、撥水剤を塗布した基板に比較して、撥水剤のみならず正電荷物質をも塗布した基板の方が表面汚染の程度が相対的に小さい。したがって、撥水剤と共に正電荷物質を表面に備える基板が防汚性能に優れることが分かる。
(実施例5)
陶器質タイル(97mm×97mm)の表面に、フッ素系撥水剤(GM−105:ダイキン工業(株)製)と製造例2の正電荷金属溶液を1:1の重量比で混合して得られた混合液を5g/100cm2の塗布量で刷毛塗りし、130℃で30分加熱して、評価用基板を得た。
(比較例4)
陶器質タイル(97mm×97mm)の裏面にフッ素系撥水剤(GM−105:ダイキン工業(株)製)を5g/100cm2の塗布量で刷毛塗りし、130℃で30分加熱して、評価用基板を得た。
(評価3)
実施例3及び比較例4の各評価用基板について佐賀県において曝露試験を行い、各基板の表面の汚染状態を目視観察した。具体的には、各評価用基板を18日間屋外にて太陽光に曝露し、その後、暗所内で2日間放置した。結果を表3に示す。なお、表3中の「強撥水性」とは水との接触角が100°以下であることを示し、「撥水性」とは水との接触角が95°前後であることを示し、「親水性」とは水との接触角が20°以下であることを示す。なお、接触角は手動角度計にて目視計測した。
表3に示すように、比較例4は曝露条件にかかわらず撥水性であるが、実施例5は太陽光曝露により親水性となり、一方、太陽光非曝露時には撥水性となる。したがって、表3に示した結果から、撥水剤と共に正電荷物質を基板表面に配置することにより、基板表面の撥水性・親水性を制御可能であることが分かる。なお、評価3は2回行われたが、2回とも同様の結果であった。