JPWO2008020645A1 - 早生化形質転換植物 - Google Patents

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Abstract

本発明は、植物体を早生化させる活性を有するタンパク質をコードする核酸を発現可能に含む早生化形質転換植物を提供する。

Description

本発明は、早生化形質転換植物、その作製方法及び植物の早生化方法に関する。
従来より、遺伝子の機能を解析するための方法の1つに、T−DNA内に組み込まれた転写エンハンサー配列を利用して、植物遺伝子の転写を活性化した突然変異体を作製し、その転写活性化された遺伝子のクローニングをする、アクティベーションタギング法が用いられている(非特許文献1)。この方法を用いて、側根形成抑制遺伝子が見出されている(特許文献1)。
しかし、アクティベーションタギング法を網羅的な遺伝子機能の解析(ゲノムに存在する遺伝子の機能をまとめて解析すること)に用いるには問題があった。例えば、シロイヌナズナのようなモデル植物では、10Kbのゲノム領域の中に平均2個以上の遺伝子が存在するが、アクティベーションタギング法では、タグ内のアクチベータとしてエンハンサー配列が用いられており、転写活性化可能なゲノム領域は挿入部位前後5Kbにも及ぶため、エンハンサーによる遺伝子活性化の効果が1つの遺伝子に限定されず、複数の遺伝子の転写が活性化され、複合表現型が生じていた(非特許文献2)。
この問題を避けるため、本発明者らは、「Fox hunting system(Full length cDNA over−expression gene hunting system)」と命名した手法を開発した(特許文献2)。Fox hunting systemとは、強発現させる遺伝子ソースとして完全長cDNAライブラリーを用い、これを混合物のまま強発現型のT−DNAベクターを有するアグロバクテリウムを介して植物に遺伝子導入し、得られたT種子を播種し、表現型のスクリーニングを行う方法である。興味深い表現型が現れた場合、その系統に挿入されていた完全長cDNAをPCR及びシーケンスによって調べ、原因遺伝子を同定する。
Fox hunting systemの利点として、例えば、(i)完全長cDNAライブラリーは、遺伝子が機能するときに必要な全アミノ酸情報を含むため、導入する遺伝子が本来有する全機能を発揮することができ、従って通常のcDNAライブラリーに比べ、機能発現の効率がはるかに高いこと、また全てのcDNA断片が本来の開始コドン及び停止コドン情報を備えているため、発現のためのタンパク質融合化などの必要がなく、タンパク質発現効率が高いこと、(ii)何億クローンものライブラリーに感染させても1植物には1〜2クローンしか導入されないので、形質転換植物体には別々のクローンが導入され、cDNAの単離と表現形質の確認は2回程度で少なくてすむこと、(iii)従来のcDNAライブラリーでは、全てのmRNA分子がそのままの量比でcDNA分子に置き換わるため、発現量の多い構造タンパク質遺伝子群や通常は発現量の少ない情報伝達関連遺伝子群などの各cDNA存在比が発現量によって大きく異なっているが、Fox hunting systemのライブラリーでは、遺伝子の発現量にかかわらず全てのクローンが同一の割合で含まれる「標準化」されたライブラリーを使用でき、ゲノムをタギングするときよりも高効率で別種遺伝子の機能検定を行うことができること(但し、シロイヌナズナやイネなど標準化完全長cDNAが整備されつつあるものはそれを利用してもよい。また、構造タンパク質等の発現量の多いタンパク質の機能を解析したい場合は、標準化されていない通常の完全長cDNAライブラリーを利用してもよい。)、(iv)完全長cDNAを含んだ植物集団を一度全て揃えるという「ライン化」をすることなく、ライブラリー内の全ての遺伝子機能検索をひとまとめに行えるので、簡単に目的の変異体を得ることができ、わずかな労力で特定の性質を付与する遺伝子(本来その遺伝子が有している機能であるか否かを問わない)のスクリーニングを行うことができる、などが挙げられる。
植物の早生化については、例えば非特許文献3、4に以下のように報告されている。
少なくともモデル植物シロイヌナズナにおいては、FTと呼ばれる遺伝子が葉において活性化されると、そのmRNAが師部を移動して茎頂に花芽を誘導する。そのため、この遺伝子を異所的に強発現させると花芽を早く誘導させることができる。しかし、その誘導のためには形質転換による遺伝子導入についで、細胞内における遺伝子発現が必要なため、組換体の作成が必要になるのと、当該遺伝子を発現させる時期、すなわち花成を誘導する時期をコントロールすることが困難である。
特開2002−010786号公報 再公表2003/018808号公報 Walden,Rら、Plant Mol Biol,1994,26(5):p.1521−8 Ichikawaら、Plant J,2003,36:p.421−429 Heangら、Science 2005,309,pp1694−1696 Hanzawaら、PNAS 2005,102,pp7748−7753
本発明は、植物早生化遺伝子を見出し、その遺伝子を形質転換した植物を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記Fox hunting systemを用いて、約15,000のシロイヌナズナの形質転換体系統を作製し、その突然変異表現型系統を観察したところ、早生化を示す形態学的変異体を見出し、その変異の原因となる遺伝子を単離することに成功し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
〔1〕 (a)配列番号2、33、35又は37に示すアミノ酸配列を含むタンパク質、
(b)配列番号2、33、35又は37に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ植物体を早生化させる活性を有するタンパク質、又は
(c)配列番号2、33、35又は37に示すアミノ酸に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ植物体を早生化させる活性を有するタンパク質
をコードする核酸を発現可能に含む、早生化形質転換植物。
〔2〕 前記核酸が、
(d)配列番号1、32、34又は36に示す塩基配列を含むDNA、
(e)配列番号1、32、34又は36に示す塩基配列において1若しくは数個のヌクレオチドが欠失、置換もしくは付加された塩基配列を含むDNAであって、かつ植物体を早生化させる活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(f)配列番号1、32、34又は36に示す塩基配列に対して90%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNAであって、かつ植物体を早生化させる活性を有するタンパク質をコードするDNA、又は
(g)配列番号1、32、34又は36に示す塩基配列を含むDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ植物体を早生化させる活性を有するタンパク質をコードするDNA
を含む、〔1〕に記載の形質転換植物。
〔3〕 前記植物が、双子葉植物又は単子葉植物である、〔1〕に記載の形質転換植物。
〔4〕 前記核酸が、植物ゲノムに組み込まれている、〔1〕に記載の形質転換植物。
〔5〕 前記タンパク質が、野生型と比べて植物体のサイズを増加させる活性をさらに有する、〔1〕に記載の形質転換植物。
〔6〕 〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の形質転換植物由来の組織、細胞又は種子。
〔7〕 〔1〕又は〔2〕に定義した核酸を植物の組織又は細胞に導入して植物体を再生することを含む、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の早生化形質転換植物を作製する方法。
〔8〕 前記核酸が、それを含む組換えベクターを用いて導入される、〔7〕に記載の方法。
〔9〕 〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の形質転換植物において、〔1〕又は〔2〕に定義した核酸を過剰発現させて早生化を誘導することを含む、植物の早生化方法。
〔10〕 〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の形質転換植物において、〔1〕又は〔2〕に定義した核酸を過剰発現させて、野生型と比べて植物体のサイズの増加を誘導することを含む、植物のサイズ増加方法。
〔11〕 〔1〕に定義したタンパク質を土壌または植物体に施用して早生化を誘導することを含む、植物の早生化方法。
〔12〕 〔1〕に定義したタンパク質を土壌または植物体に施用して、野生型と比べて植物体のサイズの増加を誘導することを含む、植物のサイズ増加方法。
本明細書中で使用する用語「核酸」は、DNAまたはRNAを指し、例えば遺伝子、cDNA、mRNA及びそれらの化学修飾体を含む。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2006−221061号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
図1(a)は、完全長cDNAを導入したバイナリーベクター構築物を示す。図1(b)は、増幅cDNAの電気泳動像を示す。図1(c)は、RAFL cDNAのサイズ分布を示す。
図2は、シロイヌナズナでの腫瘍遺伝子の高発現表現型又は野生型の表現型を示す。図2(a)は、同じ期間成長させた、iaaM 高発現植物と野生型(WT)植物を比較したものである。図2(b)は、iaaM 高発現植物の写真である。図2(c)は、tms1高発現植物の写真である。
図3(a)〜(d)は、F03024系統の表現型を示す。図3(e)〜(f)は、F01907系統の表現型を示す。図3(g)は、各系統の葉緑素量を示す。図3(h)は、各系統の光合成活性を示す。
図4は、RT−PCRで増幅した遺伝子の電気泳動像を示す。図4(a)において、19及び21はAtPDH1に特異的なPCRフラグメントである。チューブリンは、内部標準遺伝子として使用したβ−チューブリンPCRフラグメントである。レーン1及び2:野生型Columbia植物、レーン3及び4:薄緑色の表現型を示すT世代のF03024植物。図4(b)において、上のバンドはAt3g55240に特異的なPCR断片、下のバンドはローディング調整に使用したAHA1 PCR断片(AHA1:シロイヌナズナ形質膜H+−ATPase)を示す。図4(c)において、上のバンドはRT−PCRで増幅(サイクル数40)したAt3g55240に特異なPCR断片(p01907)であり、下のバンドはRT−PCRで増幅(サイクル数28)で増幅したローディング調整に使用したAHA1(シロイヌナズナ形質膜H+−ATPase)のPCR断片である。
図5(a)は、F01907系統の相対的発現レベルを示す。図5(b)は、F01907系統の相対的葉緑素量を示す。図5(c)は、F01907系統のロゼット葉の数を示す。図5(d)は、F01907系統の表現型を示す。
図6はAT3G55240タンパク質とその類縁(関連)タンパク質のアラインメントを示す。AT3G55240、AT3G28990及びAT5G02580はシロイヌナズナのタンパク質であり、OS01G0837600(旧名称:P0031D11.2)はイネESTのタンパク質である。
図7は、AT3G55240タンパク質とその類縁(関連)タンパク質の系統樹を示す。AT3G55240、AT3G28990及びAT5G02580はシロイヌナズナのタンパク質であり、OS01G0837600(旧名称:P0031D11.2)はイネESTのタンパク質である。
図8は、F01907系統等の葉肉細胞の電子顕微鏡像である。パネル1及び2は、野生型、パネル3及び4は、At1g70070形質転換植物、パネル5及び6は、At3g55240形質転換植物の葉肉細胞の電子顕微鏡像をそれぞれ示す。
図9(a)は、GFPを発現するシロイヌナズナ培養細胞の蛍光顕微鏡像を示す。図9(b)は、キメラN98−GFPタンパク質を発現するシロイヌナズナ培養細胞の蛍光顕微鏡像を示す。
1.植物早生化遺伝子の単離
植物早生化遺伝子は、例えば、シロイヌナズナを用いたFox hunting systemにより取得できる。しかし、以下の手法はシロイヌナズナに限定されず、他の植物(特に被子植物)にも適用可能である。
具体的には、以下の手順で行うことができる。
(1)完全長cDNA及び内部標準遺伝子を含むcDNA混合物の作製
完全長cDNAとは、ある遺伝子から転写されたmRNAと同じ配列(但しU→T)を持つDNA、すなわちmRNAの完全なコピーを意味し、得られたcDNAよりも長いcDNAが存在する場合でも完全長cDNAに含めることができる。
完全長cDNAは、当業者に公知の方法により、目的のmRNAから調製することができる。例えば、シロイヌナズナに由来するmRNAから、Cap−trapper法(Carninci,P.,ら、Genomics,1996.37(3):P.327−36)、Cap−finder法(Zhao,Z.,ら、J.Biotechnol.,1999.73(1):p.35−41)等の手法で調製することができる。また、全ゲノムcDNAの配列決定がされている、独立行政法人理化学研究所(和光市、日本)のシロイヌナズナ完全長cDNAコレクションを用いてもよい。
完全長cDNAをクローニングするためのベクターとしては、例えばSfiIのような、8塩基以上を認識し、かつ挿入DNAの方向を一方向に規定できる制限酵素部位を、cDNA挿入部位の両側に持つものを用いるのが好ましい。
当業者に公知の手法を利用して、前記完全長cDNAを担持する完全長cDNAライブラリーを調製することができる。ライブラリーを調製するためのベクターとして、例えばLambda Zap II、Lambda FLC−1−B、pTAS、pBIGなどが挙げられる。
また、後に表現型をスクリーニングするための内部標準として、例えば細菌由来の腫瘍遺伝子(tms1、iaaM、rolB、tmr等)を用いてもよい。tms1及びiaaMは、それぞれ、シュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)、アグロバクテリウム・チューメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)由来のトリプトファン2−モノオキシゲナーゼをコードする遺伝子であり、高発現するとオーキシンが多量に生産される。rolBは、アグロバクテリウム・リゾゲネシス(Agrobacterium rhyzogenesis)由来のオーキシン感受性に関係する遺伝子である。tmrは、アグロバクテリウム・チューメファシエンス由来のサイトカイニン生合成で働く遺伝子である。これらの腫瘍遺伝子は、多くの植物の形態に劇的な影響を与えることが知られている(Casanovaら、Biotechnol Adv,23,2005,3−39;Romanoら,Plant Mol Biol,27,1995,1071−83;Smartら,Plant Cell,3,1991,647−656)。腫瘍遺伝子は、ライブラリーcDNAの均一性の指標として使用できるが、シロイヌナズナに形質転換後は、これらの腫瘍遺伝子は第二世代において突然変異系統から排除される。これらの腫瘍遺伝子はPCRで増幅できる。
(2)完全長cDNAライブラリーの標準化
背景技術で述べたように、従来のcDNAライブラリーでは、遺伝子の発現量によって各cDNAクローンの存在比が大きく異なる。そこで、遺伝子の発現量にかかわらず全てのクローンが同一の割合で含まれるようにライブラリーを作製する「標準化」を行うことが好ましい。
完全長cDNAを、各クローンにつき等量ずつ混合すれば、標準化完全長cDNA混合物を得ることができる。これを行うには、合成された完全長cDNAの5’末端配列と3’末端配列を決定(シングルパスシーケンス)して、重複の無い(末端部における一部の領域の配列が共通しない)完全長cDNAクローンを選別し、これをデータベース化しておく。
標準化された完全長cDNAライブラリーは、それぞれ互いに異なるcDNAを選別した上で等量ずつ混合したものであり、従来のcDNAライブラリーが有する分子種の不均一性はなく、全体的に均一である。従って、ゲノム遺伝子の多コピー遺伝子群をも考慮すると、ゲノムをタギングするときよりも公平に、すなわち高効率に、別種遺伝子の機能検定を行うことができる。
シロイヌナズナでは全ゲノムの50%以上に相当する標準化完全長cDNAが現在整備されており、本発明においては、これらの整備された標準化完全長cDNAを使用することができる。
(3)発現ベクターへの完全長cDNAのクローニング
得られた完全長cDNA又は標準化完全長cDNAを、アグロバクテリウム・チューメファシエンスによる植物形質転換のためのT−DNA発現ベクターにクローニングすることができる。T−DNAとは、双子葉植物の腫瘍であるクラウンゴールの病原細菌であるアグロバクテリウムの病原性株に見出されるTiプラスミドが有する特定領域であり、この細菌が植物に感染すると、T−DNAが植物細胞に転移し、ゲノムDNA中に組み込まれる。
このT−DNAの内部には、完全長cDNAの発現を調節するための配列が含まれる。発現調節配列としては、植物細胞内で、恒常的に若しくは条件的に発現を引き起こすプロモーター配列と、ターミネーターが連結したカセットを組込むのが好ましい。好ましい恒常発現型プロモーター配列としては、カリフラワーモザイクウイルス(Cauliflower Mosaic Virus)の35Sプロモーター配列(Sanders,P.R.ら、Nucleic Acids Res,1987.15(4):p.1543−58)が挙げられ、誘導型プロモーターとしてはグルココルチコイド誘導型プロモーター配列(Aoyama,T.ら、Plant J,1997.11(3):p.605−12)、エストロゲン誘導型プロモーター配列(Zuo,J ら、Plant J,2000.24(2):p.265−273)などが挙げられる。本発明においては、これらのプロモーターを任意に組み合わせて(連結して)使用することも可能である。プロモーターの組合せは、恒常発現型又は誘導型同士でもよく、両者を組合せたものでもよい。
また、後の植物体選抜のために、例えばハイグロマイシン耐性遺伝子を挿入してもよい。
前述の完全長cDNA又は標準化完全長cDNAをそのプロモーター配列の下流にセンス方向、又はアンチセンス方向になるように、酵素反応により、例えばT4リガーゼを用いて挿入する。これにより、センス鎖を発現させた場合は、当該cDNAをコードする遺伝子の過剰発現がもたらす表現形質の変化を、アンチセンス鎖を発現させた場合は、当該cDNAをコードする遺伝子の過少発現がもたらす表現形質の変化を知ることができる。
(4)完全長cDNAライブラリーの植物への導入
次に、前記完全長cDNA又は標準化完全長cDNA、あるいは腫瘍遺伝子が挿入されたT−DNAの集団(Full−length cDNA over−expressor library;FOX library)を常法によりアグロバクテリウムに導入し、ライブラリーを作製した後、そのライブラリー中のcDNAを、アグロバクテリウムによる感染を介して、植物(例えばシロイヌナズナ)に導入(形質転換)する。
植物へのアグロバクテリウムの感染は、ディッピング法、フローラルディッピング法などを用いることができる。ディッピング法の場合は、植物体の束を、アグロバクテリウムが含まれる液体中に30〜60秒浸漬する。フローラルディッピング法の場合は、直接植物宿主の花芽を浸漬し、鉢をトレイに移し、覆いをして一晩湿度を保つ。翌日覆いを取り、植物をそのまま生育させて種子を収穫する。
(5)表現形質によるスクリーニング
アグロバクテリウムのFOXライブラリーを用いてシロイヌナズナなどの植物を形質転換した形質転換植物(T世代)から得られた種子を、例えばハイグロマイシンを含む培地に播種する。発芽約1週間以内に形質転換植物を選択することができるので、ハイグロマイシン耐性苗を選択するために更に培養する必要はない。選択された植物(T世代)は土壌に移植し、種子を回収する。
(6)表現形質の再確認及び変異形質の原因となる遺伝子の同定
興味のある形質転換植物(例えば、他の形質転換植物と比較して植物体の伸長が早いもの、開花が早いもの等、早生に関係すると思われる形質を有する植物)からゲノムDNAを抽出し、このDNAから、T−DNA中に含まれるプロモーター配列とターミネーター配列の近傍の塩基配列情報をもとにプライマーを設計し、これを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、これらの転写制御領域に挟まれたcDNAを単離する。このcDNAを、再び前記と同様のプロモーター配列とターミネーター配列を持ったT−DNAに挿入し、これを、正常植物に再導入して、表現形質の再確認を行う。そして、cDNAの配列決定を行うことにより、変異形質の原因となる遺伝子を同定することができる。
2.単離同定された早生化遺伝子
前記手法により単離同定された植物早生化遺伝子は、シロイヌナズナのAt3g55240(系統名:F01907)である。また、本発明において、早生化遺伝子には、At3g55240と同等の植物体を早生化させる活性を有するタンパク質をコードする、シロイヌナズナの遺伝子At3g28990、At5g02580、およびイネESTのOs01g0837600(旧名称:P0031D11.2)も含まれる。さらに、これらの遺伝子によりコードされるタンパク質は、野生型と比べて植物体のサイズを増加させる活性を有する。
ここで、本発明において「植物体を早生化させる活性」とは、早生化遺伝子を発現させたときの植物体を、野生型よりも早く成長させる活性を意味する。また、「植物体を早生化させる活性を有する」とは、前記活性が、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質が有する活性と実質的に同等であることをいう。このような早生化活性(又は早生化能力)を有する植物を、本明細書では早生化植物という。
また、本発明において「野生型と比べて植物体のサイズを増加させる活性」とは、対応する野生型植物と比べて、背丈などの植物体のサイズを大きくする活性を意味する。また、「野生型と比べて植物体のサイズを増加させる活性を有する」とは、前記活性が、配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質が有する活性と実質的に同等であることをいう。
At3g55240 の塩基配列を配列番号1、アミノ酸配列を配列番号2に示す。At3g28990 の塩基配列を配列番号32、アミノ酸配列を配列番号33に示す。At5g02580 の塩基配列を配列番号34、アミノ酸配列を配列番号35に示す。Os01g0837600(旧名称:P0031D11.2)の塩基配列を配列番号36、アミノ酸配列を配列番号37に示す。
前記早生化遺伝子は、配列番号2、33、35又は37に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸に欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ植物体を早生化させる活性を有するタンパク質をコードする遺伝子でもよい。ここで「数個」とは、約10、9、8、7、6、5、4、3または2の整数をいう。例えば、配列番号2、33、35又は37に示すアミノ酸配列の1〜10個、1〜8個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失、付加あるいは置換してもよい。
また、前記アミノ酸配列に保存的アミノ酸置換が含まれてもよい。このような置換は、例えば、構造的又は電気的性質の類似するアミノ酸間で起こる。そのようなアミノ酸グループは、(1)酸性アミノ酸:アスパラギン酸、グルタミン酸;(2)塩基性アミノ酸:リジン、アルギニン、ヒスチジン;(3)非極性アミノ酸:アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;(4)非荷電極性アミノ酸:グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシン;及び(5)芳香族アミノ酸:フェニルアラニン、チロシントリプトファンを含む。
あるいは前記早生化遺伝子は、配列番号2、33、35又は37に示すアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ植物体を早生化させる活性を有するタンパク質をコードする遺伝子でもよい。同一性は、70%以上、好ましくは80%以上、85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上である。ここで「%同一性」とは、整列させた2つのアミノ酸配列において、全アミノ酸数に対する同一アミノ酸数のパーセンテージをいう。%同一性は、例えばBLAST、FASTAなどのホモロジー検索プログラムを用いて決定され得る。ホモロジー検索においてアラインメントはギャップを導入してあるいはギャップを導入しないで行うことができる。また、配列のデータベースとして、例えばGenBank、EMBLなどを利用することができる。
前記早生化遺伝子は、配列番号1、32、34又は36に示す塩基配列を含むDNAでもよい。
また前記早生化遺伝子は、配列番号1、32、34又は36に示す塩基配列において1若しくは数個のヌクレオチドが欠失、置換もしくは付加された塩基配列を含むDNAであって、かつ植物体を早生化させる活性を有するタンパク質をコードするDNAでもよい。ここで「数個」とは、約10、9、8、7、6、5、4、3または2の整数をいう。
あるいは、前記早生化遺伝子は、配列番号1、32、34又は36に示す塩基配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、85%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNAであって、かつ植物体を早生化させる活性を有するタンパク質をコードするDNAでもよい。ここで「%同一性」とは、整列させた2つのヌクレオチド配列において、全ヌクレオチド数に対する同一ヌクレオチド数のパーセンテージをいう。%同一性は、例えばBLAST、FASTAなどのホモロジー検索プログラムを用いて決定され得る。ホモロジー検索においてアラインメントはギャップを導入してあるいはギャップを導入しないで行うことができる。また、配列のデータベースとして、例えばGenBank、EMBLなどを利用することができる。
さらにまた、前記早生化遺伝子は、配列番号1、32、34又は36に示す塩基配列を含むDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ植物体を早生化させる活性を有するタンパク質をコードするDNAでもよい。ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、約45℃、5〜6×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)でのハイブリダイゼーション、その後の約50〜約65℃、0.1〜1×SSC、0.1%SDSでの洗浄が挙げられ、或いはそのような条件として、約65〜約70℃、1×SSCでのハイブリダイゼーション、その後の約65〜約70℃、0.3×SSCでの洗浄、を挙げることができる。
上記配列番号2、33、35又は37に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子、上記配列番号2、33、35又は37に示すアミノ酸に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子、上記配列番号1、32、34又は36に示す塩基配列において1若しくは数個のヌクレオチドが欠失、置換もしくは付加された塩基配列を含むDNA、前記配列番号1、32、34又は36に示す塩基配列に対して90%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNA、前記配列番号1、32、34又は36に示す塩基配列を含むDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAは、当該技術分野で公知の手法によって改変することによって作製することができる。遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法又はGapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant−K(TaKaRa社製、京都、日本)やMutant−G(TaKaRa社製))などを用いて、あるいは、TaKaRa社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異が導入され得る。また、変異を導入したプライマーを用いるPCRによる部位特異的変異導入法を用いてもよい(F.M.Ausubelら,Short Protocols In Molecular Biology,1995,third edition,John Wiliey&Sons,Inc.)。
上記早生化遺伝子の塩基配列が一旦確定されると、その後は化学合成によって、又はクローニングされたcDNAを鋳型としたPCRによって、あるいは該塩基配列を有するDNA断片をプローブとしてハイブリダイズさせることによって、早生化遺伝子を得ることができる。
上記早生化遺伝子と相同性の高い遺伝子として、例えば以下のNCBI(National center for biotechnology information)のアクセッションナンバーで特定される遺伝子が挙げられる。このような遺伝子及びその改変体もまた、本発明の早生化形質転換植物を作製するために使用することができる。
イネ:XM_475377.1
トウモロコシ:AY106962.1 GI:21210040
3.組換えベクター及び形質転換植物の作製
(1)組換えベクターの作製
本発明に用いる組換えベクターは、前記早生化遺伝子を適当なベクターに挿入することによって作製できる。早生化遺伝子を植物細胞へ導入し、発現させるためのベクターとしては、pBI系のベクター、pUC系のベクター、pTRA系のベクターが好適に用いられる。pBI系及びpTRA系のベクターは、アグロバクテリウムを介して植物に目的遺伝子を導入することができる。pBI系のバイナリーベクター又は中間ベクター系が好適に用いられ、例えば、pBI121、pBI101、pBI101.2、pBI101.3等が挙げられる。pUC系のベクターは、植物に遺伝子を直接導入することができ、例えば、pUC18、pUC19、pUC9等が挙げられる。また、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメモザイクウイルス(BGMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)等の植物ウイルスベクターも用いることができる。
ベクターに早生化遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
前記早生化遺伝子は、その遺伝子の機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、ベクターには、プロモーター、早生化遺伝子のほか、所望によりターミネーター、エンハンサー、選択マーカー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、5’−UTR配列などを連結することができる。
「プロモーター」としては、植物細胞において機能し、植物の特定の組織内あるいは特定の発育段階において発現を導くことのできるDNAであれば、植物由来のものでなくてもよい。具体例としては、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター、タバコ由来PRタンパク質プロモーター等が挙げられる。
「ターミネーター」は、前記プロモーターにより転写された遺伝子の転写を終結できる配列であればよい。具体例としては、ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Tnos)、カリフラワーモザイクウイルスポリAターミネーター等が挙げられる。
「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ、例えばCaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域が好適である。
「選択マーカー」は、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ビアラホス耐性遺伝子等が挙げられる。
(2)早生化形質転換植物の作製
本発明の早生化形質転換植物は、前記早生化遺伝子又はそれを含む組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。
本発明において「形質転換植物」は、遺伝子操作により作製された形質転換植物およびその後代を含む。また、後代には交雑種も含み、それらは早生化能力を保持するものである。
形質転換植物(トランスジェニック植物)は以下のようにして得ることができる。
本発明における形質転換の対象は、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束等、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子等)を含む)又は植物細胞である。
形質転換に用いられる植物としては、双子葉植物、単子葉植物、例えばアブラナ科、イネ科、ナス科、マメ科等に属する植物(下記参照)が挙げられるが、これらの植物に限定されるものではない。
アブラナ科:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、アブラナ、キャベツ、ハクサイ(Brassica)など。
ナス科:タバコ(Nicotiana tabacum)、ナス、ジャガイモ(Solaneum)、トマト(Lycopersicon)、トウガラシ(Capsicum)など。
バラ科:バラ(Rosa)、イチゴ(Fragaria)、サクラ(Prunus)、リンゴ(Malus)など。
キク科:キク(Chrysanthemum)、ヒマワリ(Helianthus)など。
ナデシコ科:カーネーション(Dianthus caryophyllus)など。
イネ科:トウモロコシ(Zea mays)、イネ(Oryza sativa)、オオムギ(Hordeum)、コムギ(Triticum)など。
ラン科:カトレア(Cattleya)、コチョウラン(Phalaenopsis)など。
ユリ科:チューリップ(Tulipa)など。
マメ科:ダイズ(Glycine max)、エンドウ(Pisum)、ソラマメ(Vicia)、フジ(Wisteria)など。
前記早生化遺伝子又は組換えベクターを植物中に導入する方法としては、アグロバクテリウム法、PEG−リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法等が挙げられる。例えばアグロバクテリウム法を用いる場合は、プロトプラストを用いる場合と組織片を用いる場合がある。プロトプラストを用いる場合は、Tiプラスミドをもつアグロバクテリウムと共存培養する方法、スフェロプラスト化したアグロバクテリウムと融合する方法(スフェロプラスト法)、組織片を用いる場合は、リーフディスクにより対象植物の無菌培養葉片に感染させる方法(リーフディスク法)やカルス(未分化培養細胞)に感染させる等により行うことができる。また、単子葉植物のアグロバクテリウム法による形質転換には、アセトシリンゴンが形質転換率を高めるのに使用できる。
遺伝子が植物に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。例えば、形質転換植物からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRを行った後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応等により増幅産物を確認する方法でもよい。
形質転換の結果得られる腫瘍組織やシュート、毛状根などは、そのまま細胞培養、組織培養又は器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライド等)の投与などにより植物体に再生させることができる。植物体の再生は、一般的には、適当な種類のオーキシンとサイトカイニンを混ぜた培地の上で根を分化させてから、サイトカイニンを多く含む培地に移植させシュートを分化させた後にホルモンを含まない土壌に移植することによって行う。
このようにしてAt3g55240などの上記早生化遺伝子が導入された形質転換植物は、早生の表現型を示す。また、野生型と比べて植物体のサイズを増加させる表現型を示す。さらに、At3g55240の遺伝子が導入されたシロイヌナズナは、薄緑色の表現型も有する。
本明細書において早生とは、生育期間、つまり播種してから、開花・熟成・結実するまでの期間の短いものをいう。
なお、本明細書における「表現型」という用語は、「表現形質」と同義で用いる。これらは、容易に観察または測定できる植物の形態学的特徴を意味する。
早生の表現形質は、早く収穫できるため、台風などの自然環境による被害にさらされる可能性が減るなどの利点がある。また、鑑賞用植物においても出荷までの栽培時期を大きく短縮することができるので生育のためのコストを大幅に減少させることができる。また、野生型と比べて植物体のサイズを増加させる表現形質は、バイオマスを増加させることが可能であり、例えば産業資源として利用される植物に有用な形質である。
本発明はまた、上記のようにして作製された本発明の早生化形質転換植物由来の組織、細胞又は種子も包含する。これらの組織、細胞又は種子もまた、本発明の核酸又は早生化遺伝子を含み、とりわけ種子はその遺伝子型及び形質を後代に子孫伝達することができる。
4.早生化遺伝子によりコードされるタンパク質の生産
上記数種の早生化遺伝子をTargetP V1.0と呼ばれるアルゴリズムで解析すると、N末端部位に膜構造に結合するモチーフがあり、輸送され、後に切り出される可能性のある配列が、配列番号2に示すアミノ酸配列の場合、N末端から34個目のアミノ酸残基にあると予想された。また、配列番号33、35又は37に示すアミノ酸配列においても同様のアミノ酸残基が存在する(図6参照)。このような部分アミノ酸配列を有するタンパク質は、植物を早生化する活性および/または野生型と比べて植物体のサイズを増加させる活性を有すると考えられる。
従って、配列番号2に示すアミノ酸配列の場合、活性部分と思われるアミノ酸は、95(配列番号2の全アミノ酸)−33(N末端から34個目で切断される)=62アミノ酸、すなわち34位のアミノ酸残基〜95位のアミノ酸残基であり、少なくともこの配列を含むペプチドを合成しても活性があるだろう。同様に、配列番号33、35及び37に示すアミノ酸配列の場合、配列番号2の34位〜95位のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を少なくとも含むペプチドを合成しても活性があると考えられる。
早生化遺伝子によりコードされるタンパク質は、前記1.で単離した早生化遺伝子をプラスミドDNA、ファージDNA等の宿主中で複製可能な組換えベクターに連結(挿入)し、該ベクターを、好ましくは大腸菌等の植物宿主以外の宿主に導入して形質転換体を得、該形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。ここで、「培養物」とは、培養上清のほか、培養細胞若しくは培養菌体又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。
前記プラスミドDNAとしては、例えば、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。
植物宿主以外の宿主としては、大腸菌(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母、COS細胞、CHO細胞等の動物細胞、あるいはSf9等の昆虫細胞などを用いることができる。
大腸菌、枯草菌等の細菌を宿主とする場合は、例えばエッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)DH5α、HB101、DH10Bなどが挙げられ、枯草菌としては、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などが用いられるが、これらに限定されるものではない。この場合、プロモーターは、大腸菌等の宿主中で発現できるものであれば特に限定はされず、例えばtrpプロモーター、lacプロモーター、Pプロモーター、Pプロモーターなどの、大腸菌やファージに由来するプロモーターを用いることができる。前記組換えベクターは、該細菌中で自律複製可能であると同時に、上記プロモーター、リボソーム結合配列、前記早生化遺伝子、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。細菌への組換えベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばカルシウムイオンを用いる方法(Cohen,S.N.et al.:Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,69:2110(1972))、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomycescerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichea pastris)などが用いられる。この場合、プロモーターは酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えばgal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーター等を用いることができる。酵母への組換えベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。
動物細胞を宿主とする場合は、サル細胞COS−7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞などが用いられる。この場合、プロモーターとしてSRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター等が用いられ、また、ヒトサイトメガロウイルスの初期遺伝子プロモーター等を用いてもよい。動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。
昆虫細胞を宿主とする場合は、Sf9細胞などが用いられる。この場合、プロモーターとしてポリヘドリンプロモーター、P10プロモーター、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性タンパクプロモーター、バキュロウイルス即時型初期遺伝子1プロモーター、バキュロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモーターが用いられる。昆虫細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。
前記の形質転換体を培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
例えば、大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地は、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が挙げられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物のほか、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー等が挙げられる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が挙げられる。培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、37℃で行う。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)で誘導可能なプロモーターを有する発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはIPTG等を培地に添加することができる。また、インドール酢酸(IAA)で誘導可能なtrpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはIAA等を培地に添加することができる。
例えば、動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、DMEM培地又はこれらの培地に牛胎児血清等を添加した培地等が挙げられる。培養は、通常、5%CO存在下、37℃で1〜30日行う。培養中は必要に応じてカナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
培養後、前記タンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合には、超音波処理、凍結融解の繰り返し、ホモジナイザー処理などを施して菌体又は細胞を破砕することによりタンパク質を採取する。また、前記タンパク質が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中からタンパク質を単離精製することができる。
上記遺伝子組換え技術を使用する以外に、例えば小麦胚芽抽出液、大腸菌抽出液、又はウサギ網状赤血球抽出液中での無細胞タンパク質合成法を用いて本発明のタンパク質又はその活性なペプチドを合成することも可能である(特開平10−80295号公報)。
5.植物の早生化/サイズ増加方法
上記4.のようにして作られるタンパク質又はその活性なペプチドは、植物体または土壌に施用(振りかける、または散布するなど)して植物を早生化および/または野生型と比べて植物体のサイズを増加し得る。特に、ペプチドのうち、切断配列以降の活性部分と思われる配列番号2のアミノ酸配列中の62アミノ酸は、わずか62個のアミノ酸からなる親水性のペプチドであるので、容易に水に溶けることが考えられる。配列番号33、35及び37のアミノ酸配列中の対応するアミノ酸についても同様である。したがって、水に混ぜて茎頂に散布するか、水に溶かして土壌もしくは栽培用水溶液に加えることにより根から吸わせることが効果的と考えられる。
また、上記タンパク質及びペプチドのもう一つのメリットは、このようなペプチド性活性物質は化学物質などとは違い簡単に環境によって分解されるので、局所的な散布などを行うことにより、環境にやさしい生理活性物質であるといえる。
上記タンパク質又はペプチドを有効成分として含む植物早生化誘導剤または植物サイズ増加誘導剤は、上記タンパク質又はペプチドと、農業分野で一般的に使用される担体、添加剤など、その他植物の生育に有用な成分を組み合わせて製造することができる。
上記誘導剤の剤形は、固形製剤、例えばペレット、粒剤、顆粒、粉剤、水和剤、顆粒水和剤などでもよいし、または液体製剤、例えば液剤、乳剤などでもよく、特に限定されない。
上記タンパク質又はペプチドの含量は、対象の植物を早生化および/またはサイズを増加させるのに有効な量であれば特に限定されないが、固形製剤の場合、例えば2〜60重量%、液体製剤の場合、散布濃度で例えば約0.1〜10ppmになるように本発明の有効成分を含有させればよい。
担体は、固形製剤の場合、例えば、カオリンクレー、珪藻土、ベントナイト、ゼオライト、珪酸カルシウム、酸性白土、活性白土、アタパルガスクレーなどの鉱物質担体、硫酸アンモニウム、塩酸アンモニウムなどのアンモニウム塩、リン酸二カリウムなどのリン酸塩、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウムなどの炭酸塩、ブドウ糖、果糖、ショ糖、乳糖、デキストリン等の糖類、尿素、食塩、硫酸ナトリウム、常温で固体のポリエチレングリコール等の水溶性担体が挙げられる。液体製剤の場合、例えば水、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、クエン酸緩衝液などが挙げられる。担体の含量は特に限定されないが、固形製剤の場合、例えば5〜40重量%、液体製剤の場合、例えば80〜99%である。
また添加剤として、分散剤、増量剤、結合剤、滑助剤、界面活性剤、希釈剤などを加えてもよい。
上記誘導剤は公知の方法で製造することができる。例えば粉剤は、上記タンパク質又はペプチド、水、必要に応じて分散剤及び担体などを含有する懸濁液を噴霧乾燥して製造できる。また、例えば液剤は、上記タンパク質又はペプチドを水又は緩衝液に溶解し、添加剤等を適宜添加して製造できる。
本発明によれば、上記形質転換植物において、植物早生化遺伝子を過剰発現させて、早生化および/または野生型と比べて植物体のサイズ増加を誘導することを含む、植物の早生化および/またはサイズ増加方法もまた提供される。
早生化遺伝子を過剰発現させる方法は、例えば、成長期の植物に対し物質投与、環境ストレス付与などがある。
実施例1
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
1.方法
(1)標準化完全長cDNA及びマーカー遺伝子から構成されるcDNA混合物の調製
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana Columbia株)完全長cDNAライブラリーを次の2つのベクターを用いて構築した。ライブラリーRAFL2〜RAFL6(RAFL:RIKEN Arabidopsis full−length cDNA clone)にはベクターLambda Zap II(Stratagene,La Jolla,USA)を、ライブラリーRAFL7〜RAFL11にはベクターLambda FLC−1−B(Stratagene,La Jolla,USA)を用いた。
これらのライブラリーからのクローンをシングルパスシーケンスして(Sekiら,2002,Plant J,31,279−92)、重複しないクローンを選択し、各クローンについて平均最終濃度が14ng/mlの約15,000cDNAから成る完全長cDNA混合物を調製した。
これらのクローンの約3分の1は、ある重複したcDNAを含んでいることがRAFL clone sequencing project(Yamadaら,2003,Science 31 October 2003:Vol.302.no.5646,pp.842−846)からわかっていたので、このクローン混合物は約10,000の重複しない完全長cDNAから成ることになる。
RAFL2及びRAFL3ライブラリー(全部で1,623クローンに対応)におけるSfiIクローニング部位に対する完全長cDNAの向きは、RAFLクローンの残りのSfiIクローニング部位と反対向きであった。表現型スクリーニングのための内部標準とするために、オーキシン合成(tms1,iaaM)(Comaiら,1982,J Bacteriol,149,40−6;Kleeら,1984,Proc Natl Acad Sci USA,81,1728−32)、オーキシン感受性(rolB)(Furnerら,1986,Nature,319,422−427)、及びサイトカイン合成(tmr)(Lichtensteinら,1984,J Nol Appl Genet,2,354−62)に関連する4つの細菌遺伝子をPCRにて増幅し、pBluescript−由来ベクターのSfiI部位にクローニングした。各内部標準プラスミドを別々に完全長cDNA混合物に30ng/mlの濃度で加えた。増幅に用いる内部標準遺伝子のDNA鋳型およびPCRプライマーは以下のとおりである。
(2)標準化完全長cDNAのアグロバクテリウムライブラリーの調製
前記(1)で調製したcDNA混合物をSfiI(Takara Bio)で消化し、アグロバクテリウムバイナリーベクターpBIG2113SFのSfiI部位にT4リガーゼ(New England BioLabs,Beverly,USA)を用いてクローニングした。pBIG2113SFベクターはpBIG2113N(Tajiら,2002,Plant J,29,417−26)を由来とし、完全長cDNAが35Sプロモーターに対してセンス方向に挿入されるように2つのSfiI部位をpBIG2113NのXbaI部位に挿入した。
図1(a)にバイナリーベクターの例を示す。ElはCaMV35Sプロモーターの5’−上流配列(−419から−90)、P35SはCaMV35Sプロモーター(−90から−1)、ΩはTMVの5’−上流配列、NOS−TはTiプラスミドのノパリン合成遺伝子のポリアデニル化シグナル、Hygはハイグロマイシン耐性遺伝子を示す。矢印は、cDNAを回収するのに使用されるGS4プライマーとGS6プライマーの位置を示す。
ライゲーションは、バイナリーベクターに対して6倍モル過剰量のpBluescriptで組み立て、そのライゲーション産物でE.coli DH10B(Invitrogen)をエレクトロポレーション法によって形質転換し、コロニーを混合してプラスミドライブラリーを単離した。
アグロバクテリウムGV3101を、プラスミドライブラリーでエレクトロポレーションによって形質転換し、生じた細菌コロニーを混合してアグロバクテリウムライブラリーを調製した。
(3)形質転換及び植物の生育
形質転換及び植物の生育は、既報(Ichikawaら,2003,Plant J,36,421−429)に記載されている。
短い野生型シロイヌナズナ(Col−0)及び形質転換株をcultivation container system(Arasystem,Gent,Belgium)で長日条件(16時間明期、8時間暗期)下で22℃にて生育させた。野生型植物を、アグロバクテリウムライブラリーを用いてフローラルディッピング法(Cloughら,1998,Plant J,16,735−43)により形質転換した。
ハイグロマイシン耐性T苗を50mg/lハイグロマイシンを含む基本寒天培地(BAM)上で7日間選択し、土壌に移した(Nakazawaら,2003,Biotechniques,34,28−30)。目に見える表現型(例えば、成長率、植物体の色、開花期、稔性の変化等)をスコアし、表現型(FT1P)を示す全ての植物を新しいArasystemトレイに移し、更に観察した。
DNA分析のために、ロゼット葉か花のいずれかを全FT1P植物から採取した。
(4)DNAゲルブロット分析及びハイグロマイシン耐性試験
サザンブロッティングは、既報(Meyerら,1995,Mol Gen Genet,249,265−73)に従って実施した。20系統を無作為に選んで、T植物を前記(3)形質転換及び植物の生育に記載の条件と同様にして、3週間土壌生育させた。1系統につき3つの植物体から葉を採取し、液体窒素内でホモジナイズした。
ゲノムDNAをDNeasy plant mini kit(Qiagen,Tokyo,Japan)を用い、指示書に従って単離した。ハイグロマイシン耐性遺伝子の部分を含むpBIG2113SFから増幅した0.5kb PCR断片を DIG DNA Labeling Mix(F.Hoffmann−La Roche,Basel,Switzerland)を用いて標識した。
DNA鋳型用PCRプライマーとして以下のものを用いた。
ハイブリダイゼーションは、溶液(5×SSC,50%ホルムアミド,0.1%N−ラウロイルサルコシン,0.02%SDS,2%ブロッキング試薬(F.Hoffmann−La Roche,Basel,Switzerland))を用いてプローブ濃度を5ng/ml、44℃にて行い、第2洗浄を0.1XSSC,0.1%SDSの溶液を用いて行う以外は、指示書に従った。
化学発光は、ハイブリダイゼーション膜をDIG Nucleic Acid Detection Kit(F.Hoffmann−La Roche,Basel,Switzerland)にて処理した後、LumiVisionPRO(Aisin)によって検出した。
(5)FT1P植物からの完全長cDNAの増幅とクローニング
ロゼット葉又は花の約200mg(生体量)を採取した。
5つのセラミック粒(CERAMICS YTZ ball,D:2.3mm,Nikkato,Japan)及び300μlの溶解バッファーを植物材料に加え、Shake Master(Shake Master ver.1.0,Bio Medical Science,Tokyo,Japan)を用いてホモジナイズした。ゲノムDNAをWizard Magnetic 96 DNA Plant System(Promega,Tokyo,Japan)を用いて抽出した。ワークステーションシステム(Tecan genesis workstation150,Tecan,Tokyo,Japan)を導入して抽出キットに記載されている抽出プロトコールを実行した。
Gatewayベクターへのクローニングの際にはcDNA PCRに以下のプライマーを用いた。
pBIG2113SFベクターへのクローニングの際には以下のプライマーペアを用いた:
短い断片に対するPCR条件は、94℃30秒変性、62℃30秒アニーリング、72℃120秒伸長とした。長い断片に対するPCR条件は、94℃30秒変性、58℃30秒アニーリング、68℃180秒伸長とした。両ケースとも、反応前にDNAを8分間95℃にて変性した。
(6)PCR断片の発現ベクターへのクローニング及び配列決定
GatewayベクターPCR断片をまずBP clonaseによって指示書に従ってpDONR−207ベクターにクローニングし(Invitrogen,Carlsbad,USA)、挿入した完全長cDNA断片を下記のattL1およびattL2プライマーを用いて配列を決定した。
pBIG2113SFへのクローニングのために、T植物からのPCR断片をSfiIで消化し、ベクターのSfiI部位にクローニングした。得られた構築物を、例えばF01907系統の場合、pF01907とした。挿入した完全長cDNA断片をGS6プライマーを用いて配列を決定した。
(7)RT−PCR
F03024系統のT植物(T−F03024)、F01907系統のT植物(T−F01907)、6つの独立したT−R01907系統及び野生型植物の種を土壌に播き、F03024については約6週間、F01097とR01907については4週間生育させた。
各系統から少なくとも3つの異なる植物体のロゼット葉を採取し、mRNAをDynabeads mRNA DIRECT Kit(Dynal,Oslo,Norway)を用いて指示書に従い抽出した。組織特異性試験のために、発芽後5週齢の野生型コロンビア植物を採取し、対応する組織からmRNAを同様にして単離した。mRNAをRQ1Dnase(Promega,Tokyo,Japan)で37℃にて1時間処理した。cDNAをRT−PCR用のSuperscript first−strand synthesis system for RT−PCR(Invitrogen,Carlsbad,USA)を用いて製造業者の指示に従い合成した。
RT−PCRは、野生型及び個々の系統間のcDNAの割合を調節するためにまず以下のβ−チューブリン特異的プライマー(Takahashiら,2001,Plant Physiol,126,731−41)、またはシロイヌナズナ形質膜H+−ATPase(AHA1)特異的プライマー(Kinoshitaら,2001,Nature,414,656−60)にて行った。
F03024の遺伝子特定プライマーは、3024−N及び3024−C:5’−TCAAAGTCTTGCCACTACTAGTCG−3’ (配列番号31)である。
F01907の遺伝子特定プライマーは、1907N:5’−TGATAGAGAAATGTTTGATCTTCCAT−3’,(配列番号23)及び1907C:5’−TCTTGCTTGTTGGACCGATGCTAAG−3’ (配列番号24)である。
PCRは常に以下の条件:94℃30秒変性、60℃30秒アニーリング、及び72℃120秒伸長にて実施した。
(8)定量的リアルタイムPCRによる遺伝子発現解析
一つのT R01907系統由来のT R01907植物の1か月齢のロゼット葉からRNAをNucleoSpin RNA Plant kit(MACHEREY−NAGEL GmbH,Duren,Germany)を用いて単離した。cDNAをSuperscript first−strand synthesis system(Invitrogen Corp.,Carlsbad,USA)を用い、その指示書に従い合成した。
リアルタイムPCR解析をMX3000P Multiplex Quantitive PCR System(Promega Corp.,Madison,USA)を用いて行った。
SYBR Green Realtime PCR Master Mix(TOYOBO Co.Ltd,Japan)を、増幅断片の検出に用いた。
参照DNAの増幅プライマーとして、ACT2:5’−CTGGATCGGTGGTTCCATTC−3’(配列番号25)と5’−CCTGGACCTGCCTCATCATAC−3’(配列番号26)を用いた。
リアルタイムPCRのための遺伝子特異的プライマーとして、RP−1907−2:5’−CATGCGTCAGGGATAAATCGT−3’(配列番号27)及びLP−1907−2:5’−ACTGTGTGGAAGGAGCTGGA−3’(配列番号28)を用いた。
(9)GFP融合タンパク質の構築と蛍光顕微鏡観察
pF03024Sクローンを用い、以下のプライマーを用いて後述のAtPDH1(F03024系統から回収されたcDNA(Arabidopsis rokaryotic EVH box elicase 1))のN末端の98アミノ酸配列に対応するDNA断片を増幅した。
増幅したDNA断片をpDONR−207ベクターを介してGateway指示書(Invitrogen,Carlsbad,CA USA)に従いpGWB5(Saitoら、1999,Plant Cell Physiol,40,77−87)にクローニングした。
生じた構築物pGWB3024N98は合成緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子(Chiuら、1996,Curr Biol,6,325−30)のN末端と融合した98アミノ酸からなるN末端の領域をCaMV35S転写プロモーターの制御下で過剰発現することができる(キメラN98−GFPタンパク質)。
GFP遺伝子のみを35Sプロモーターによって発現するネガティブな対照構築物として、pSA701(島根大学、Dr.T.Nakagawaから供与)を用いた。
これらのプラスミドを、Helios Gene−Gun system(Bio−Rad,Tokyo,Japan)を用い、標準的なプロトコールに従い、シロイヌナズナCol−0葉のパーティクルボンバードメント法に用いた。
個々の葉を蛍光顕微鏡(BX 60,Olympus,Tokyo,Japan)にて観察した(GFP蛍光についてはU−MNIBA、葉緑素蛍光についてはU−MWIGフィルターをそれぞれ使用)。
(10)電子顕微鏡観察
F03024、F01907、野生型の4週齢植物のロゼット葉を4%グルタルアルデヒドにて固定し、それを20mM カコジル酸ナトリウム、pH7.0で20時間4℃にて緩衝化し、同緩衝液で4時間4℃にて洗浄した。次に、それらを2%四酸化オスミウムの20mM カコジル酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)溶液で20時間4℃にて後固定した。固定した試料をアルコール系で脱水し、Spurrレジン(Taab,Berkshire,UK)に包埋した。超薄切片をULTRACUT UCT ultramicrotome(Leica,Wien,Austria)上でダイヤモンドナイフでカットし、Formvar−被覆グリッドに移した。それらを4%酢酸ウラニルで15分間、クエン酸鉛溶液で室温にて10分間二重染色した。蒸留水で洗浄後、試料をJEM−1200 EX electron microscope(Jeol,Tokyo,Japan)を用い80kVにて観察した。
(11)葉緑素含量測定
葉緑素含量を二つの方法で測定した:
第1法(図3(g))は、既報(Porraら,1989,Biochimica et Biophysica Acta,975,384−394)に記載される色素の直接測定による。短い葉では材料を80%アセトンにてホモジナイズした。アセトン溶液を分光光度計(Ultrospec 3000,Pharmacia Biotech,UK)を用い波長663nm、645nm、720nmにて測定した。
第2法は(図5(b))、2波長ハンディクロロフィルメーター(SPAD−520;Minolta,Tokyo,Japan)を用いた葉面積1ユニットあたりの葉緑素含量の相対値の測定による。
葉緑素測定後、同材料を定量的リアルタイムPCRに用いた。
(12)葉緑素蛍光測定
PSIIの量子収量は次式:
[Pm’=(Fm’−Fs)/Fm’](Genty−パラメーター)
(Fm’およびFs=光照射葉における最大及び定常状態葉緑素蛍光)にて算出することができるので、三週齢植物の葉の葉緑素蛍光をパルス振幅変調(PAM)蛍光光度計(MINI−PAM,Walz,Effeltrich,Germany)を用いて室温にて測定した。結果を少なくとも4つの異なる葉の測定の平均とした。
(13)in silico分析
BLASTサーチをNCBI Blastプログラムを用いて実施した。
細胞内局在性をTargetP V1.0(Emanuelssonら,2000,J Mol Biol,300,1005−16)及びChloroP 1.1(Emanuelssonら,1999,Protein Sci,8,978−84)を用いて予想した。
マルチプルアラインメントをclustalX(Thompsonら,1997,Nucleic Acids Res,25,4876−82)及びGeneDoc(Nicholasら,1997,EMBNEW.NEWS,4,14)によって実施した。
Neighbour−Joining系統樹をCLUSTALXおよびTREEVIEW(Page,1996,Comput Appl Biosci,12,357−8)を使って構築した。
2.結果
(1)約10,000の標準化シロイヌナズナ完全長cDNAを含むアグロバクテリウム発現ライブラリーの構築
シロイヌナズナ完全長cDNAライブラリーを作製するのと同じモル比で約10,000の独立したシロイヌナズナ完全長cDNAを混合した。cDNAは理研のシロイヌナズナ完全長cDNAコレクション由来であり、各cDNAは配列決定されている(Sekiら、2002,Plant J.,31,279−92)。また、内部標準として、形態的表現型及び不稔を誘発することが知られている4つの細菌の腫瘍遺伝子を混合した。この内部標準は、ライブラリーのcDNA発現量の指標として使用できるが、シロイヌナズナに形質転換後は、腫瘍遺伝子は第2世代で突然変異系統から排除される。tms1(Kleeら、1984,Proc Natl Acad Sci U S A,81,1728−32)、iaaM(Comaiら、1982,J Bacteriol,149,40−6)、rolB(Furnerら、1986,Nature,319,422−427)及びtmr(Lichtensteinら、1984,J Mol Appl Genet,2,354−62)を使用した。これらの腫瘍遺伝子は多くの植物の形態に劇的影響を持つことが知られている。これら4つの腫瘍遺伝子を、個々の完全長cDNAに対してモル比で約2倍量を添加すると、約7,500のcDNAクローン毎に1つ、各腫瘍遺伝子が出現すると予測される。
アグロバクテリウムライブラリー(FOXアグロバクテリウムライブラリー)を作製後、T−DNA特異的プライマーを設計し、ランダムに選択したアグロバクテリウムコロニーから単離したDNAで、PCRを行った。34のアグロバクテリウムコロニーから得られたPCR断片を増幅し、電気泳動を行ったところ、20コロニーが単鎖cDNA構築物を含み、11コロニーが2つの異なるcDNA構築物を含み、1コロニーが3つの異なるcDNA構築物を含み、2コロニーが空のベクターを含んでいた(図1(b))。図1(b)のレーン1,2,5,6,7,9,10,13,15,17,19及び22で、複数のバンドが増幅されたことが示された(レーンMはLambda/HindIIIマーカー)。
また、これらの45の増幅されたcDNA断片の平均サイズは1.4Kbであり、0.3Kb〜3.0Kbの範囲内であった。45のcDNA断片を配列決定したところ、すべてのcDNAが互いに独立していた(データは示さず)。
(2)シロイヌナズナFOX系統の作製
シロイヌナズナFOX系統を作製するために、FOXアグロバクテリウムライブラリーを使用して、シロイヌナズナColumbia−0(Col−0)生態型を形質転換した。フローラルディッピング法後、T植物から得られた種子を集め、ハイグロマイシン含有BAMプレート上で選択した(Nakazawaら、2003,Biotechniques,34,28−30)。プレートにより発芽1週間以内に形質転換植物が選択されるので、ハイグロマイシン耐性苗を選択するために更に培養をする必要がない。ハイグロマイシン耐性T苗を、土壌に移植し、15,000を超えるシロイヌナズナ稔性FOX系統を作製した。導入遺伝子の存在を確認するため、24のランダムに選択された植物を、プローブとしてハイグロマイシン遺伝子を用いたマーカー遺伝子の存在についてサザン法で分析した。全ての系統がハイグロマイシン耐性遺伝子を含んでおり、シロイヌナズナFOX系統に平均2.6のT−DNAが挿入されていた(データは示さず)。
(3)シロイヌナズナFOX系統の完全長cDNAのサイズ分布及び配列の相違
完全長cDNAが発現ベクターに組み込まれ、そのサイズ分布が平均1.4Kbで、0.3〜3Kbの範囲内であったため、このサイズ分布がシロイヌナズナFOX系統に反映されているかを調べた。
FOX系統で組み込まれたcDNAのサイズ分布とばらつきを調べるため、T−DNA特異的プライマーを使って、ランダムに選択したFOX植物から単離したゲノムDNAでPCRを行った。106の系統でのサイズ分布は、0.3Kb〜4.2Kbの範囲内で、平均1.4Kbであった。図1(c)に、Lamdbaベクターにおいて277のランダムに選択されたRAFL cDNA(白のバー)と比較した、シロイヌナズナFOX植物から増幅された106のRAFL cDNA断片のサイズ分布を示す。分布パターンの類似性をはっきりさせるため、Lambdaベクターから得られた値を2で割り、グラフにプロットした。
これらの系統から増幅されたPCR断片の平均数は、1植物当たり1.2であった。またDNAゲルブロット分析を行ったところ、1系統当たり平均2.6のT−DNAが挿入されていた。しかし、FOX植物からは平均1.2のPCR断片しか回収されなかった。この低いPCR断片回収率は、集団内に空のベクターが存在することよって部分的には説明できるが、主に、T−DNAタンデムまたは逆位反復などの2重のT−DNAの組み込みが生じたことによると考えられる(De Buckら,1999,Plant J,20,295−304;De Neveら,1997,Plant J,11,15−29;Krizkovaら,1998,Plant J,16,673−80)。
cDNAの分布の平均サイズと範囲は、FOXアグロバクテリウムライブラリーで観察されるものと非常に似ており、また277のランダムに選択されたシロイヌナズナ完全長cDNAで観察されるものとも類似していた(図1(c))。
また、40のPCR断片を配列決定したところ、これらは異なる完全長cDNA由来であり、内部標準としてcDNA混合物に添加した細菌腫瘍遺伝子とも同一ではなかった(表1)。
(4)シロイヌナズナFOX系統の表現型のモニタリング
15,547のTFOX系統を作製する過程で、表現型(成長率、植物の色、開花期、稔性等)をモニターし、表現型が変化した1,487系統を集めた。
これらの見かけ上の形態的突然変異体系統と、シロイヌナズナのアクチベーションタグ系統に現れた形態的突然変異体と比較したところ、様々なカテゴリーでの突然変異体の出現頻度の高低はほとんど同じであったが、Fox系統の方が全般的に高い効率で変異が現れた(データは示さず)。これはFox系統の効率性を示しており、主に、強力なCaMVプロモーターとノパリン合成(NOS)ターミネーターの制御下で、完全長cDNAが適切に発現することによると考えられる。
世代の突然変異表現型の遺伝率を確認するため、T世代で現れた117の薄緑色の突然変異系統(表2)を生育し、T世代の突然変異の表現型を探した。
これらの表現型をモニターするために、各20苗ずつ生育した。20苗から優性がはっきりと確立されるのは難しいにもかかわらず、60系統が薄緑色の表現型を示した(即ち、表2でT表現型率が50%以上示した系統の数が60)。また、40の形態的突然変異体についても調べ、元の突然変異体の表現型を示す7系統を見出した。これはT世代の導入遺伝子の抑制によるものか、TFOX植物のうち誤って突然変異体と同定されたものと考えられる。特に矮小化及び葉形の突然変異体は選択プレートから移動した後、環境ストレスにより生じたものと考えられる。
(5)腫瘍遺伝子により生じる形態
内部標準として4つの腫瘍遺伝子tms1、iaaM、rolB及びtmrを、完全長cDNAライブラリーと混合した。iaaM及びtms1は、それぞれP.syringae及びA.tumefaciens由来のトリプトファン2−モノオキシゲナーゼをコードし、これらの遺伝子が高発現してオーキシン応答が増強される(Comaiら,1982,J Bacteriol,149,40−6)。rolBは、Agrobacterium rhyzogenesis由来であり、オーキシンに対する感受性に関係している。tmrは、Agrobacterium tumefaciens由来の腫瘍遺伝子であり、サイトカイニンの生合成に機能する。各腫瘍遺伝子を、完全長cDNAと比較して2倍のモル等量の割合で完全長cDNAと混合した。
完全長cDNAの発現量と分布をモニターするため、シロイヌナズナFOX系統における腫瘍遺伝子の出現を調べた。まず、腫瘍遺伝子によって生じた突然変異について形質転換植物の形態をモニターした。実際に形態的表現型を有していたのは以下の2つの遺伝子だけであった。tms1及びiaaMのいずれの場合でもオーキシン応答が増強されるので、これらの遺伝子を含む植物では、頂芽優性と矮性の表現型が促進されていた(図2)。これらの形態的な特徴は、他の形態的突然変異と非常にはっきりと容易に区別される。図2(a)は、同じ期間成長させた、iaaM高発現植物と野生型(WT)植物を比較したものである。図2(b)は、iaaM高発現植物の写真である。図2(c)は、tms1高発現植物の写真である。
tmrの高発現は、植物苗を致死させたが、rolBの高発現は、はっきりとした表現型を示さなかった。15,547のシロイヌナズナFOX系統のうち、13のtmr1及びiaaMの高発現突然変異体が存在した。見かけ上のこれらの突然変異体は、理論値(15,000のうち4)と比較して高かった。これは、細菌培養における、形質転換されたアグロバクテリアの増殖の差に依存している可能性があると考えられる。前記腫瘍遺伝子の利点の1つは、突然変異体は不稔なので、rolB以外は、次の世代に持ち越されないことである。
(6)植物早生化遺伝子による突然変異体の特徴
世代で薄緑色の表現型を示した前記59系統のうち、2つの系統を代表として選択した(F03024系統(成長の遅い系統)、F01907系統(早生化遺伝子が高発現している早生化系統))。F03024植物体は薄緑色及び成長の遅い表現型を示し(図3(a)、F03024系統のT世代の表現型)、薄緑色の表現型は、自家受粉後T世代において半優性であった(図3(b)、一部薄緑色の表現型を示すT世代のF03024系統植物、図3(c)、左:T世代の薄緑色の茎を示すF03024植物、右:T世代のF03024系統の野生型分離個体)。また、F01907は薄緑色の突然変異体として単離され、その表現型はT世代において優性であった(図3(e)、T世代のF01907の表現型)。図3(g)にこれらの系統の葉緑素量の比較を示す(図3(g)において、X軸1:野生型植物、2:F01907系統のT植物、3:F03024系統のT植物、Y軸:相対的葉緑素量)。
T−DNAプライマーセットを用いたゲノムPCRにより、導入された完全長cDNAを回収した。F03024及びF01907植物体から、それぞれ、3.0Kb及び0.8KbのcDNA断片を回収した。挿入された完全長cDNA断片を増幅するためプライマーを設計した。回収したcDNA断片をアグロバクテリウムTiプラスミドベクターにもどしてクローニングし、再構築されたプラスミドを使って、シロイヌナズナ(Col−0)植物体を形質転換した。
土壌で成長させた後、F03024から回収されたcDNAを使って作製された48の形質転換植物のうち、32が、元のF03024植物体に見られた薄緑色で成長の遅い表現型を示した(図3(d)、左:形質転換していない野生型植物、右:同じ期間成長させた、薄緑色の表現型を示す後述のAtPDH1遺伝子で形質転換された野生型植物)。F03024から回収されたcDNAを配列決定し、NCBI(National center for biotechnology information)のデータベースで調べたところ、At1g70070であり(理研(理化学研究所)シロイヌナズナ完全長cDNA番号AF387007)、DEVH boxヘリカーゼをコードするものであった。At1g70070はF03024で高発現していた(図4(a))。DEVH boxヘリカーゼはDEAD及びDEAH box RNAヘリカーゼを含む遺伝子ファミリーのメンバーである。F03024から回収されたcDNAをAtPDH1(Arabidopsis rokaryotic EVH box elicase 1)と命名した。タバコDEAD boxヘリカーゼ(VDL)は葉緑体をターゲットとし、葉緑体発達を調節するという報告がある(Wang et al.,2000)。AtPDH1は、原核生物のDEAD boxヘリカーゼで構成される小クレードに属する、N末端領域に推定上の葉緑体ターゲットシグナルを有する。グリーン蛍光タンパク質(GFP)にN末端の98アミノ酸を融合することによりこのタンパク質の細胞内局在を試験し、葉緑体に位置することがわかった(図9(a)、(b))。AtPDH1高発現植物体の薄緑色の葉の葉緑体構造と光合成活性を試験すると、光合成活性は有意に減少し(図3(h))、これは、葉緑体の内膜構造の不十分な発達によるものである(図8)。
F01907から回収されたcDNAを含む51の形質転換植物のうち、47が、元のF01907の表現型を再現し、長日光条件下で薄緑色と早咲きの表現型を示した(図3(f)、左:形質転換していない野生型植物、右:同じ期間成長させた、薄緑色で背の高い表現型を示すT世代のAt3g55240形質転換植物)。cDNAを配列決定し、NCBIのデータベースで調べたところ、機能が知られていないAt3g55240であった。
F01907植物体は、薄緑色の表現型を示しただけでなく、野生型植物体よりも速い植物発育を示し、かつ大きく成長した(図3(e)、図3(f))。このような植物の発育は、弱い光条件下で成長した野生型の発育を想起させたので、この表現型をPEL(seudo−tiolation in ight)とした。PEL表現型は、機能が未知である遺伝子のAt3g55240の高発現によって生じる(図4(b)、上のバンドはAt3g55240に特異的なPCR断片、下のバンドはローディング調整に使用したAHA1 PCR断片(AHA1:シロイヌナズナ形質膜H+−ATPase)、レーン1:野生型コロンビア植物、レーン2−7:薄緑色の表現型を示したT−R01907植物、レーン8:薄緑色の表現型を示したT−F01907植物)。F03024植物体とは対照的に、これらのPEL植物体は、正常な光合成活性及び正常な葉緑体構造を有する(図3(h)、レーン1−4:At1g70070の4つの独立した形質転換植物、レーン5−7:At3g55240の3つの独立した形質転換植物、Y軸:野生型に対して表される相対的光合成活性、X軸:個々の植物;図8、野生型(1及び2)、At1g70070形質転換植物(3及び4)及びAt3g55240形質転換植物(5及び6)の葉肉細胞の電子顕微鏡観察。矢印はplastgrobuleの凝集を示す。1、3、5のバーは、1μmを示す。2、4、6のバーは200nmを示す。)。At3g55240の遺伝子は小さいタンパク質(95アミノ酸)をコードし、比較的長い3’−UTR(330bp)を有していた。哺乳動物の遺伝子には存在せず、シロイヌナズナ由来で2つ、またイネ及びマメ由来でこの小さいタンパク質と相同性を示す遺伝子があるので、これらはいずれも植物に特異的な遺伝子であることがわかった。図6に、AT3G55240タンパク質とその類縁(関連)タンパク質のアラインメントを示す。AT3G55240、AT3G28990及びAT5G02580はシロイヌナズナのタンパク質であり、OS01G0837600(旧名称:P0031D11.2)はイネESTのタンパク質である。図6中の数は、各タンパク質のアミノ酸の位置を示す。図7にAT3G55240タンパク質とその類縁(関連)タンパク質の系統樹を示す。AT3G55240、AT3G28990及びAT5G02580はシロイヌナズナのタンパク質であり、OS01G0837600(旧名称:P0031D11.2)はイネESTのタンパク質である。これらの遺伝子を細胞内局在性予測プログラムTargetP V1.0にかけると、遺伝子はすべて、N末端の膜貫通領域及び近接した切断部位を有する分泌タンパク質に特有の特性を示した。しかしながら、タンパク質の機能は報告されていない。At3g55240のノックアウト系統は、公開されているリソースセンターでは見つからなかったので、該遺伝子に対応するRNAi構築物を作製し、野生型シロイヌナズナ植物体に形質転換した。形質転換植物のほとんどは発育の非常に初期の段階で枯れ、残った形質転換植物のうちどれにも標的化遺伝子の転写レベルの減少は見られなかった。従って、At3g55240遺伝子群のノックアウト表現型は致死性と考えられる。
(7)導入遺伝子及び突然変異の表現型の発現レベル
FOX系統は、個々のシロイヌナズナ完全長cDNAの異所性発現によって作製されることから、導入遺伝子の発現レベルと突然変異体の表現型との相関を調べた。
幾つかの再形質転換植物のAt3g55240の発現レベルを調べた。発現レベルは、野生型と比較して、1.0E+3倍〜1.0E+8倍以上異なっていた(図5(a)、リアルタイムPCRにより評価したAt3g55240遺伝子の相対的発現レベルを示す)。これらの突然変異体の葉緑体量及びとう立ちする時期(とう立ち前の葉の数)を調べた(図5(b)、葉の相対的葉緑体量、図5(c)、とう立ち前のロゼット葉の数を示す)。At3g55240の発現レベルと、葉緑体量及びとう立ちの時期との間で逆の相間が見られた(図5(a)〜(c))。図5(a)〜(c)において、X軸の系統番号は、T世代のAt3g55240の再形質転換植物の番号であり、19、21及び22の系統番号の植物はハイグロマイシン感受性を示す野生型分離個体である。図5(d)は、それぞれの系統番号のT植物体の写真である。
これらの結果から、突然変異体の形態は導入遺伝子の影響であり、表現型は導入遺伝子の発現レベルに応じて変化することが示された。興味深いことに、この遺伝子の転写は野生型植物体ではロゼット型の葉で選択的に発現された(図4(c)、上のバンドはRT−PCRで増幅(サイクル数40)したAt3g55240に特異なPCR断片(p01907)であり、下のバンドはRT−PCRで増幅(サイクル数28)したローディング調整に使用したAHA1(シロイヌナズナ形質膜H+−ATPase)のPCR断片である。レーン1:葉、レーン2:茎、レーン3:根、レーン4:花弁、レーン5:種子)。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
本発明により、植物早生化遺伝子を各種植物に形質転換して植物を早生化することが可能となり、これによって作物等の収穫時期を早めることができる、或いは、この遺伝子産物の全体或いは一部をペプチド合成などによって人工合成し、土壌または植物体に水分とともに添加することによって花成を促すことができる、などの利点が付与される。また、前記遺伝子による形質転換植物は、野生型に比べ植物体のサイズが増加されるので、例えば産業資源として利用される場合に有用である。
本発明の早生化形質転換植物は、農業・園芸分野等で応用できる。
[配列表]

Claims (12)

  1. (a)配列番号2、33、35又は37に示すアミノ酸配列を含むタンパク質、
    (b)配列番号2、33、35又は37に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ植物体を早生化させる活性を有するタンパク質、又は
    (c)配列番号2、33、35又は37に示すアミノ酸に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、かつ植物体を早生化させる活性を有するタンパク質
    をコードする核酸を発現可能に含む、早生化形質転換植物。
  2. 前記核酸が、
    (d)配列番号1、32、34又は36に示す塩基配列を含むDNA、
    (e)配列番号1、32、34又は36に示す塩基配列において1若しくは数個のヌクレオチドが欠失、置換もしくは付加された塩基配列を含むDNAであって、かつ植物体を早生化させる活性を有するタンパク質をコードするDNA、
    (f)配列番号1、32、34又は36に示す塩基配列に対して90%以上の同一性を有する塩基配列を含むDNAであって、かつ植物体を早生化させる活性を有するタンパク質をコードするDNA、又は
    (g)配列番号1、32、34又は36に示す塩基配列を含むDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ植物体を早生化させる活性を有するタンパク質をコードするDNA
    を含む、請求項1に記載の形質転換植物。
  3. 前記植物が、双子葉植物又は単子葉植物である、請求項1に記載の形質転換植物。
  4. 前記核酸が、植物ゲノムに組み込まれている、請求項1に記載の形質転換植物。
  5. 前記タンパク質が、野生型と比べて植物体のサイズを増加させる活性をさらに有する、請求項1に記載の形質転換植物。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の形質転換植物由来の組織、細胞又は種子。
  7. 請求項1又は2に定義した核酸を植物の組織又は細胞に導入して植物体を再生することを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の早生化形質転換植物を作製する方法。
  8. 前記核酸が、それを含む組換えベクターを用いて導入される、請求項7に記載の方法。
  9. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の形質転換植物において、請求項1又は2に定義した核酸を過剰発現させて早生化を誘導することを含む、植物の早生化方法。
  10. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の形質転換植物において、請求項1又は2に定義した核酸を過剰発現させて、野生型と比べて植物体のサイズの増加を誘導することを含む、植物のサイズ増加方法。
  11. 請求項1に定義したタンパク質を土壌または植物体に施用して早生化を誘導することを含む、植物の早生化方法。
  12. 請求項1に定義したタンパク質を土壌または植物体に施用して、野生型と比べて植物体のサイズの増加を誘導することを含む、植物のサイズ増加方法。
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