ムギネ酸鉄錯体選択的トランスポーター遺伝子
技術分野
[0001] 本発明は、土壌からのムギネ酸鉄錯体の取り込みを担うォォムギのトランスポータ 一タンパク質、前記タンパク質をコードする遺伝子、前記遺伝子を含むベクター、なら びに前記ベクターを使ったトランスジエニック植物に関する。
背景技術
[0002] 地球の土壌面積のうち、主食である穀物やいも類を生産できる農地は約 10%にす ぎず、残りの約 90%は植物の生育に必須元素を質的又は量的に欠 ヽて 、るために 植物の生育が阻害される不良土壌であるといわれている。特に鉄は、植物の光合成 の律速因子であり、鉄分を質的又は量的に欠いている土壌に生育した植物は鉄欠 乏クロロシスが発現し枯死する。不良土壌のうち約 30%はアルカリ性土壌であり、こ の条件下では鉄が植物の根から吸収されにく 、3価の水不溶体鉄となって 、て、土 壌に鉄が豊富にあっても植物の健全な生育に必要な鉄の量は満たされない。
イネ科植物は鉄欠乏に陥ると、ファイトシデロフォア(phytosiderophore ;鉄キレー ター)であるムギネ酸を土壌に分泌する。ムギネ酸は、アルカリ性土壌における 3価の 鉄と錯体を形成し、イネ科植物のトランスポーターが根カゝらムギネ酸鉄錯体として鉄 分を吸収すると考えられている。イネ科植物の該機能を明らかにするために種々の 研究がなされ、ファイトシデロフォアに関与する遺伝子の分離及び該遺伝子を導入し たトランスジエニック植物が種々提案されて!ヽる。例えばイネ科植物のムギネ酸を介し た鉄獲得機構に深く関与しイネ科植物の鉄吸収を改善する 36kDaタンパク質及び そのタンパク質をコードする遺伝子が明らかにされた (特許文献 1参照)。該 36kDaタ ンパク質は、ムギネ酸合成に関与する酵素群の遺伝子としての機能を持つことが明ら かにされている。
また、イネにデォキシムギネ酸カもムギネ酸に生合成する酵素の遺伝子 IDS3を導 入して、ムギネ酸分泌を可能にしたり(非特許文献 1参照)、同じくムギネ酸生合成経 路中の酵素である-コチアナミン'アミノ基転移酵素 (NAAT)をコードする遺伝子を
導入して、鉄欠乏耐性が改善されたイネを製造して!/、る (特許文献 2参照)。
また、土カもキレート鉄の取り込みを媒介する膜タンパク質をコードするトウモロコシ のイェローストライプ 1遺伝子(ySl遺伝子)がクローン化され、イェローストライプ 1タ ンパク質 (YS1タンパク質)が単離された。さらに YS1タンパク質を発現する遺伝子で 形質転換された酵母や卵母細胞は、金属を非選択的に、すなわち鉄以外に重金属 を含む他の金属、例えば銅、亜鉛、鉛、コバルト又はニッケル等の取り込みも媒介で きることが明かにされた (特許文献 3、非特許文献 2参照)。また、 YS1タンパク質は、 植物細胞内の鉄輸送に関与している-コチアナミン鉄錯体を輸送することが報告さ れて 、る (非特許文献 3、 4参照)。
上記 YS1タンパク質をコードする遺伝子と約 70〜80%の高いホモロジ一を有する 遺伝子が、イネから 14個、シロイヌナズナから 8個見つかっている。このうち、イネの O sYSL2 (非特許文献 5参照)、シロイヌナズナの AtYSL2 (例えば特許文献 3、非特 許文献 6参照)は、ムギネ酸鉄錯体を輸送せず、ニコチアナミン鉄錯体のみを輸送し 、植物内部の鉄の輸送に関与していることが報告されている。しかし、ニコチアナミン 鉄錯体として鉄の吸収及び吸収後の茎葉部への鉄の移行は、ムギネ酸鉄錯体と比 ベて低 、ことが知られて 、る (特許文献 4参照)。
ムギネ酸鉄錯体は、固有のトランスポーターを介して植物体に取り込まれると考えら れている力 ムギネ酸鉄錯体を選択的に取り込むトランスポータータンパク質やそれ をコードする遺伝子にっ 、ては未だ知られて 、な 、。
特許文献 1:特開 2001— 17181号公報
特許文献 2:特開 2001— 17012号公報
特許文献 3:特表 2005 - 501502公報
特許文献 4:特開 2001— 316192号公報
非特許文献 1 :コバヤシ 'ティー(Kobayashi, T. )他 5名、プランタ(Planta)、 2001年、 第 212卷、 p. 864-871
非特許文献 2 :キユリ一'シー(Curie, C)ら,ネイチヤー(Nature)、 2001年、第 49卷、 p. 346
非特許文献 3:シヤーフ ·ジ一'ジエイ(Schaaf GJ)ら,ジャーナル ·バイオロジカル ·ケ
ミス卜リー(J. Biol. Chem)、 2004年、第 279卷、 p. 9091— 9096
非特許文献 4:ロバーツ'エル'エー(Roberts LA)ら,プラント'フィジオロジー(Plant
Physiolo.;)、 2004年、第 135卷、 p. 112—120
非特許文献 5 :コィケ 'エス(Koike S)ら,ザ'プラント 'ジャーナル(Plant J. ) , 2004 年、第 39卷、 p. 415-424
非特許文献 6:ディ 'ドナト'アール ·ジエイ ·ジエイ (DiDonato R-J-J)ら,ザ ·プラント · ジャーナル(Plant J. )、 2004年、第 39卷、 p. 403—414
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0003] 本発明は、好ましくは鉄欠乏ォォムギ(Hordeum vulgare L. )の根からムギネ 酸鉄錯体を選択的に土壌から植物体内に取り込み、輸送する遺伝子をクローン化し 、ムギネ酸存在下該遺伝子を導入した鉄欠乏状態 (アルカリ土壌)で栽培が可能なト ランスジヱニック植物を創製することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0004] イネ科植物に見られる鉄獲得機構は、植物体内でムギネ酸類を合成し、これを土 壌中に放出して生成するムギネ酸鉄錯体を植物体内に取り込むことによる。イネ科植 物の中でも、特にォォムギはムギネ酸の分泌量が最も多ぐアルカリ耐性がそれに対 応して最も強いと考えられる。故に、ォォムギ以外の植物に、土壌力もムギネ酸鉄錯 体を植物体内に取り込むトランスポーター遺伝子を導入すれば、ォォムギと同様に、 アルカリ土壌でも旺盛に生育するォォムギ以外の植物が開発できる。
本発明者らは、鉄欠乏状態で育てたォォムギ (Hordeum vulgare L. )の根から RNAを抽出して (Invitrogen社製)、トランスポーター遺伝子の単離を試みた。ォォ ムギのデータベース(DDBJ)でトウモロコシイェロー 1 (ZmYSl)遺伝子との相同性 を検索することによって行い、 60%以上相同性がある数種の ESTを見いだし、これら ESTの配列を利用してプライマーを作製し、前記ォォムギカゝら抽出した RNAと共に 5'—、 3'— RACE (System of rapid Amplification of cDNA Ends) (Invi trogen、 Roche社製)を行い、全長 2430bpのォォムギのトランスポーター遺伝子を 単離した。本発明者らはさらに研究を進め、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
[1] ムギネ酸鉄錯体を選択的に取り込むトランスポータータンパク質をコードする D NAを含む遺伝子、
[2] 以下の(a)〜(d)の 、ずれかであることを特徴とする上記 [1]に記載の遺伝子;
(a)配列表の配列番号 2で示されるアミノ酸配列力 なるトランスポータータンパク質 をコードする DNAを含む遺伝子;
(b)前記 (a)のアミノ酸配列にお 、て 1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは 付加されたアミノ酸配列カゝらなり、かつムギネ酸鉄錯体を選択的に取り込む活性を有 するトランスポータータンパク質をコードする DNAを含む遺伝子;
(c)前記 (a)のアミノ酸配列と少なくとも 60%以上の相同性を有するアミノ酸配列から なり、かつムギネ酸鉄錯体を選択的に取り込む活性を有するトランスポータータンパ ク質をコードする DNAを含む遺伝子;
(d)前記(a)の DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダィズし、かつムギネ酸鉄 錯体を選択的に取り込む活性を有するトランスポータータンパク質をコードする DNA を含む遺伝子、
[3] 上記 [1]又は [2]に記載の遺伝子を含むことを特徴とするベクター、
[4] 上記 [3]に記載のベクターを含むことを特徴とする宿主細胞、
[5] 上記 [1]又は [2]に記載の遺伝子が導入されていることを特徴とするトランスジ エニック植物、
[6] 上記 [3]に記載のベクターが導入されて 、ることを特徴とするトランスジエニック 植物
[7] 上記 [2]に記載の遺伝子が発現される条件下で、上記 [4]に記載の宿主細胞 を培養することを特徴とする、ムギネ酸鉄錯体を選択的に取り込む活性を有するトラ ンスポータータンパク質を製造する方法、
[8] 上記 [7]に記載の方法によって製造されるムギネ酸鉄錯体を選択的に取り込む 活性を有するトランスポータータンパク質、
[9] ムギネ酸鉄錯体を選択的に取り込む活性を有する、以下の(a)〜(c)のいずれ かであるタンパク質;
(a)配列表の配列番号 2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;
(b)前記 (a)のアミノ酸配列にお 、て 1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは 付加されたアミノ酸配列カゝらなり、かつムギネ酸鉄錯体を選択的に取り込む活性を有 するタンパク質;
(c)前記 (a)のアミノ酸配列と少なくとも 60%以上の相同性を有するアミノ酸配列から なり、かつムギネ酸鉄錯体を選択的に取り込む活性を有するタンパク質、
[10] 上記 [1]に記載の DNAの RNA転写物、
[11] 植物が、イネ科植物、クヮ科植物、マメ科植物、バラ科植物、ツバキ科植物、 ァカネ科植物、ブナ科植物、ミカン科植物及びナス科植物カゝらなる群カゝら選択される いずれかの科に属するものであることを特徴とする上記 [6]に記載のトランスジェ-ッ ク植物、及び
[12] 上記 [1]又は [2]の遺伝子を植物体内で発現させることを特徴とする、植物体 にムギネ酸鉄錯体を選択的に取り込む活性を付与する方法、
に関する。
発明の効果
本発明はイネ科植物の中でも、好ましくは最も鉄欠乏耐性に強い、つまりアルカリ 土壌下でも 3価の鉄イオンを体内に摂取できるォォムギカゝら同定したムギネ酸鉄錯体 を選択的に取り込むトランスポーター遺伝子 HvYSl (Hordeum Vulgare Yellow
Stripel)とそのトランスポータータンパク質を提供するものである。このトランスポー ター遺伝子とムギネ酸鉄錯体摂取メカニズムを利用することにより、従来生育不能で あったアルカリ土壌でも生育できるトランスジエニック植物(例えば、穀物等)が開発で きる。係るトランスジエニック植物は、 2価鉄不含の例えば 3価鉄を含むアルカリ土壌 において生育できるので、従来農地として不適切であった不良土壌、特にアルカリ土 壌であっても農地として利用可能となる。このことは、穀物等の食糧野菜の作付け面 積を拡大できることになり、人口増加による食糧不足を補足し得る。
また、発明の遺伝子を牧草等に導入することにより、牧草地を拡大することができ、 酪農における放牧地拡大に利用できる。
また、本発明のトランスジヱニック植物は、ムギネ酸鉄錯体を選択的に取り込む機能
を有するため、非選択的に金属を植物体内に取り込むトランスポーター遺伝子が導 入された植物のように、鉄以外の金属、例えば人体等に有害な重金属等を取り込む 危険性が少なぐ食糧として安全な作物を生産できる。
さらに、本発明のトランスジエニック植物は、アルカリ土壌中で栽培しても光合成に 必要な鉄が吸収されるため、生長が速いという特徴を持つ。このため、本発明のトラ ンスポーター遺伝子をォォムギ以外の植物に導入することにより植物の生産能を高 めることが可能となる。
本発明のトランスポーター遺伝子を導入し、形質転換した細菌、酵母、動物細胞又 は植物細胞等は、トランスポーター機構を解明するための細胞として利用できる。さら に本発明のトランスポーター遺伝子又はその部分塩基配列は、他のトランスポーター 遺伝子のプローブとして利用し得る。
図面の簡単な説明
[図 1]図 1は、ォォムギの HvYS 1の cDNAから決定されたアミノ酸配列を示す図であ る。ボックスは、トウモロコシの ZmYSlとの相同性を表し、ローマ数字は、 SOSUIプ ログラム力も推定される ZmYSlの膜貫通領域(12個)を示す。
[図 2]図 2は、ォォムギの糸且織における HvYSlの発現を示す図である。
[図 3]図 3は、実施例 3の結果を示す図である。 HvYSlは、 HvYSl発現 DDY4株を 、 ZmYSlは、 ZmYSl発現 DDY4株を、 VECは、ベクターのみ導入した DDY4株 を示す。 Fe(ni)— citrateは、クェン酸鉄(ΠΙ)錯体を、 Fe (III)— MAは、ムギネ酸 鉄 (III)錯体を、 Fe (ll)—NAは、ニコチアナミン鉄 (II)錯体を示す。
[図 4]図 4は、アフリカッメガエルの HvYSl発現卵母細胞における、種々のムギネ酸 金属錯体、及び-コチアナミン鉄 (II)錯体に対する電気生理反応性を示す図である 。縦軸はムギネ酸鉄錯体の電位変化を 100%としたときの、他の金属錯体の電位変 化の%を示す。
[図 5]図 5は、鉄欠乏ォォムギの根における HvYSlの局在を示す図である。図中 a及 び bは、根の縦断面を、 c及び dは、根の横断面を示す。 a及び cはセンスプローブ(ネ ガティブコントロール)を、 b及び dは、アンチセンスプローブを各々ハイブリダィゼーシ ヨンした結果を示す。スケール; 100 μ m。
[図 6]図 6は、プラスミド Mac— HvYSl—mas—pBinPlusの模式図を示す。
[図 7]図 7は、トランスジエニック植物における RT—PCRでの HvYSlの発現を示す 図である。図中 1、 2、 3は、 HvYSl発現トランスジエニック植物を示し、 4及び 5は、 H vYSlを導入していない通常の植物(ネガティブコントロール)を示し、 Mは分子量マ 一力一を示す。
発明を実施するための最良の形態
[0008] 「ムギネ酸鉄錯体」とは、ムギネ酸類が鉄イオン、とりわけ 3価の鉄イオンと配位結合 して形成するキレートイ匕合物をいう。ムギネ酸類としては、例えばムギネ酸、 2'—デォ キシムギネ酸、 3—ヒドロキシムギネ酸、 3—ェピヒドロキシムギネ酸、アベニン酸、ディ ステイコン酸,ェピヒドロキシデォキシムギネ酸又はアベニン酸等が挙げられる。 「ムギネ酸鉄錯体を選択的に取り込む」とは、ムギネ酸鉄錯体のみを細胞外力ゝら細胞 内に移送、輸送することをいい、ムギネ酸類と鉄以外の金属から形成される錯体化合 物や、ムギネ酸アナログの例えばニコチアナミンが鉄イオンと配位して形成するキレ 一ト錯体化合物等を移送、輸送しないことをいう。
[0009] 「トランスポータータンパク質」とは、物質の細胞膜を介した輸送を担う細胞膜上に 存在するタンパク質をいうが、本明細書においては、ムギネ酸鉄錯体の細胞膜輸送 を担うタンパク質を意味する。特にムギネ酸鉄錯体を選択的に取り込む活性を有する タンパク質が好ましい。
ムギネ酸鉄錯体を選択的に取り込む活性を有するタンパク質としては、例えば配列 番号 2で示されるアミノ酸配列力 なるタンパク質等が挙げられる。配列番号 2で示さ れるアミノ酸配列からなるタンパク質にお 、て 1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置 換若しくは付加されたアミノ酸配列カゝらなるタンパク質であっても、該タンパク質がム ギネ酸鉄錯体を選択的に取り込む活性を有する機能を有する限り、本発明に係るタ ンパク質に含まれる。なお、前記数個とは好ましくは 20個以下、さらに好ましくは 10 個以下、より好ましくは 5個以下を意味する。ここで、アミノ酸配列について、「1若しく は複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加」とは、遺伝子工学的手法、部位特異 的突然変異誘発法等の周知の技術的方法により生じうる、又は天然に生じうる程度 の数が、欠失、置換若しくは付加」等されていることを意味する。
[0010] さらに、上記アミノ酸配列と少なくとも 60%以上の相同性を有するタンパク質、好ま しくは 70%以上の相同性を有するタンパク質、より好ましくは 80%以上の相同性を有 するタンパク質、さらに好ましくは 90%以上の相同性を有するタンパク質、特に好まし くは 95%以上の相同性を有するタンパク質であって、かつムギネ酸鉄錯体を選択的 に取り込む活性を有する機能を有する限り、本発明に係るタンパク質に含まれる。上 記アミノ酸配列について「相同」とは、蛋白質の一次構造を比較し、配列間において 各々の配列を構成するアミノ酸残基の一致の程度の意味である。
[0011] 「遺伝子」とは、 DNAの機能単位を意味し、タンパク質の特定の情報を有する。本 明細書におけるトランスポータータンパク質をコードする DNAを含む遺伝子 (本明細 書において、トランスポーター遺伝子と略記することもある。)は、ムギネ酸鉄錯体を選 択的に取り込む活性を有するトランスポータータンパク質の情報を有する。したがつ てトランスポーター遺伝子は、該トランスポータータンパク質をコードする DNA配列 及び Z又はそれらの発現に必要な調節配列を含むが、これらに限定されない。トラン スポーター遺伝子は、例えば他のタンパク質のための認識配列等を形成する非発現
DNAセグメントを含むこともできる。
[0012] RNA転写物としては、トランスポータータンパク質をコードする DNAの一次転写物 、並びに転写後プロセシングにより前駆体 RNA鎖切断、 3'末端形成、 RNAスプライ シング又は RNAエディティングなどの過程をへて機能を持つ成熟した mRNA、 tRN A及び rRNAが挙げられる。
[0013] 本発明のトランスポーター遺伝子は、例えば、まずトランスポータータンパク質をコ ードする mRNAの供給源カゝら mRNAを抽出し、逆転写酵素を用いて cDNAを調製 する。次いで、例えば 3,—RACE (Rapid Amplification of cDNA Ends)、5 ,—RACE及び Z又は 5 ' Z3'—RACEを行ない、 目的のトランスポーター遺伝子を 得る。 3, -RACE, 5,一 RACE又は 5' /3'—RACEで用いるプライマーは、公知 のキレート鉄の取り込みを媒介する膜タンパク質をコードする遺伝子を基にォォムギ のデータベースのホモロジ一検索を行い、公知の前記遺伝子と約 60%以上の相同 性を示す ESTをォォムギの遺伝子配列から選択し、次いで、得られた ESTを基に設 計するのが好ましい。
[0014] トランスポータータンパク質をコードする mRNAの供給源としては、例えば水耕栽 培したイネ科の植物、例えばォォムギ、コムギ、ライムギ、ェンバタ、トウモロコシ、ソル ガム又はイネ、好ましくはォォムギの根を用いることができる。さらに、本発明のトラン スポーター遺伝子は鉄欠乏環境下に発現する遺伝子であるため、鉄イオンフリーあ るいはアルカリ性条件下で鉄イオンを 3価の水不溶性とした環境下に曝露させたイネ 科 (好ましくはォォムギ)の根を好適に用いることができる。また、イネ科 (好ましくはォ ォムギ)の種子を GM培地又はムラシゲ 'スターグ培地(以下、 MS培地という。)等の 固体培地に播種し、無菌条件下で生育させたイネ科 (好ましくはォォムギ)の根を用 V、てもよ 、。またカルスや無菌条件下で育てたイネ科 (好ましくはォォムギ)の培養細 胞等でもよぐ目的とする遺伝子の mRNAを含んでいる細胞であればその種類は問 わない。
[0015] mRNAの供給源から mRNAの抽出は、公知の方法で行なうことができる。例えば 水耕栽培で生育させたォォムギの植物体を鉄欠乏条件下に曝露後、根を採取する 。採取した根を液体窒素で凍結する。凍結した根を乳鉢等で摩砕後、得られた摩砕 物から、ダリオキサール法、グァニジンチオシァネート一塩化セシウム法、塩化リチウ ム—尿素法、プロティナーゼ Kーデォキシリボヌクレアーゼ法、 AGPC法 (Acid gua nidinium— Phenol— Chloroform法)等を用いて mRNAを抽出することができるが 、市販の RNA抽出キットを用いて抽出することもできる。該市販の RNA抽出キットと しては、 RNA isolation Kit (Stratagene社製)、アイソジェン(株式会社-ツボン ジーン製)、トライゾール(Invitrogen社製)、コンサート植物用 RNA抽出試薬(Invit rogen社製)等が挙げられる。抽出方法はキットのマニュアルに準じて行うのがよい。 mRNA抽出後にカラム [例えば RNeasy (QIAGEN社製)等)などにより mRNAの精 製を行ってもよい。
[0016] 上記 3,—RACEは、市販のキット、例えば 3,—RACE (System of Rapid Am plification of cDNA Ends ; Invitrogen社製)、 3 ' RACE System for Rapi d Amplification of cDNA Ends (Life Technologies社製)又は 3,—full R ACE core set (タカラバイオ株式会社製)等を用いることにより行なうことができる。 上記 5,—RACEは、市販のキット、例えば 5,— RACE (Invitrogen社製)、 CapFi
shing Full -Length cDNA Premix Kit (フナコシ株式会社製)又は 5,—full RACE core set (タカラバイオ株式会社製)等を用いることにより行なうことができ る。 5,/3,一 RACEとしては、 5,/3,Race kit, 2nd generation (Roche社製)等 を用いることにより行なうことができる。
[0017] 上記 3' -RACE, 5,一RACE又は 5' Z3'—RACEで用いるプライマーとしては、 公知のキレート鉄の取り込みを媒介する膜タンパク質をコードする遺伝子が有する部 分塩基配列と相同性が約 90%以上、好ましくは 95%以上、さらに好ましくは 98%以 上である約 15〜25bp程度の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドが好ましい。 3' - RACEのプライマーとしては、例えば配列番号 4、 5、 6又は 7で示される塩基配列か らなるオリゴヌクレオチド等が挙げられる。 5'— RACEのプライマーとしては、例えば 配列番号 8、 9、 10、 11又は 12で示される塩基配列力もなるオリゴヌクレオチド等が 挙げられる。 5 ' Z3'— RACEのプライマーとしては、例えば配列番号 14又は 15で 示される塩基配列力 なるオリゴヌクレオチド等が挙げられる。
[0018] 上記公知のキレート鉄の取り込みを媒介する膜タンパク質をコードする公知の遺伝 子は、例えばジーンバンクに登録ナンバー(Accession Number) AF186234とし て登録されているトウモロコシのイェローストライプ 1遺伝子 (配列表の配列番号 3)等 を好ましく用いることができる。
[0019] 上記 ESTとしては、ォォムギについての DDBJに Accession No. AF472629, BJ470821, BJ448359又は BQ765689として登録されて!ヽる酉己歹 IJ等力挙げ、られる 。なお、 ESTは、相補 DNA (cDNA)クローンの 3'末端又は 5'末端力も配列決定さ れた、通例 300〜400ヌクレオチド長の遺伝子断片である。
[0020] 上記ホモロジ一検索は、例えば BLASTや FASTA等の解析ソフトを用いて、 Gen Bankや DDBJのデータベースに対して行うことができる。検出対象である ESTは保 存性の高 、領域や機能を有して 、ると予想されて 、る領域のアミノ酸配列にぉ 、て、 特に高 、相同性を有して 、る遺伝子であり、タンパク質の機能に必須とされて 、るァ ミノ酸を保存して 、る配列であることが好ま 、。
[0021] PCRは、公知の方法により行なうことができる。 PCR産物は、ベクターに挿入し、宿 主に導入して増幅することができる。
[0022] 得られる遺伝子は、公知の方法により全塩基配列の決定を行うことができる。塩基 配列の決定法としては、マキサム ギルバートの化学修飾法又は M13ファージを用
V、るジデォキシヌクレオチド鎖終結法等を挙げることができる力 通常は自動塩基配 列決定機(例えばパーキンエルマ一ジャパン社製自動 DNAシーケンサ ABI PRIS MTM 310 geneticAnalyzer等)を用いて行われ得る。
[0023] こうして、トランスポータータンパク質をコードする DNA (配列表の配列番号 1の第 1 69〜2202番目の塩基配列)を含む遺伝子として、例えば配列表の配列番号 1で示 される塩基配列力 なる遺伝子を単離できる。
また、前記 DNAには、前記トランスポータータンパク質をコードする DNAと相補的 な塩基配列力 なる DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダィズし、かつムギネ 酸鉄錯体を選択的に取り込む活性を有するトランスポータータンパク質をコードする DNAも包含される。「ストリンジェントな条件下でハイブリダィズする DNA」とは、例え ば、配列番号 1に示されるアミノ酸配列力もなるトランスポータータンパク質をコードす る DNAの部分配列をプローブとして、コロニ^ ~ ·ハイブリダィゼーシヨン法、プラーク' ハイブリダィゼーシヨン法、あるいはサザンブロットハイブリダィゼーシヨン法等を用い ることにより得られる DNAを意味する。なお、ここでいう「ストリンジヱントな条件」とは、 例えば、少なくとも配列番号 1で示される塩基配列と約 50%以上、好ましくは約 60% 以上、より好ましくは約 80%以上の相同性を有する DNA同士がハイブリダィズし、そ れより相同性が低い DNA同士がハイブリダィズしない条件、あるいは、約 0. 1〜2倍 程度の濃度の SSC溶液(1倍濃度の SSC溶液の組成は、 150mM塩化ナトリウム、 1 5mMクェン酸ナトリウムよりなる。 )、温度約 65°C程度でのハイブリダィズする条件を いう。
なお、「DNA」とは、デォキシリボ核酸のことをいう。 DNAの単位はヌクレオチドと呼 ばれ、塩基、糖 (D デォキシリボース)、リン酸でできている。塩基には、アデニン (A )、グァニン (G)、シトシン (C)、チミン (T)の 4種類があり、この 4種類の並び方で、遺 伝情報が規定されている。
[0024] 塩基配列が確定されると、その後は化学合成によって、又は本遺伝子の cDNAな
V、しゲノム DNAを铸型とした PCRによって、ある 、は該塩基配列を有する DNA断片
をプローブとしてハイブリダィズさせることにより、本発明のトランスポーター遺伝子を 得ることができる。
[0025] また、本発明のトランスポーター遺伝子は配列番号 2で示されるアミノ酸配列力 な るタンパク質をコードする DNAを含む遺伝子である。ただし、配列番号 2で示される アミノ酸配列において 1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたァ ミノ酸配列力もなるタンパク質であっても、該タンパク質がムギネ酸鉄錯体を選択的に 取り込む活性を有する機能を有する限り、これをコードする遺伝子も本発明のトランス ポーター遺伝子に含まれる。なお、前記「数個」及び「1若しくは複数個のアミノ酸が 欠失、置換若しくは付加」とは、上記タンパク質において記載した意味と同様である。 なお、本発明のトランスポーター遺伝子に変異を導入するには、 Kunkel法や Gappe d duplex法等の公知の方法又はこれに準ずる方法により、例えば部位特異的突然 変異誘発法を利用した変異導入用キット [例えば Mutant— K (タカラバイオ株式会 社製)や Mutant— G (タカラバイオ株式会社製)等]を用いて、あるいは、タカラバィ ォ株式会社の LA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキット等を用いて行うこと ができる。
[0026] さらに、上記アミノ酸配列と少なくとも 60%以上の相同性を有するタンパク質、好ま しくは 70%以上の相同性を有するタンパク質、より好ましくは 80%以上の相同性を有 するタンパク質、さらに好ましくは 90%以上の相同性を有するタンパク質、特に好まし くは 95%以上の相同性を有するタンパク質であって、かつムギネ酸鉄錯体を選択的 に取り込む活性を有する機能を有する限り、これをコードする遺伝子も本発明のトラ ンスポーター遺伝子に含まれる。上記アミノ酸配列について「相同」とは、上記タンパ ク質において記載した意味と同様である。
[0027] 本発明に係るトランスポータータンパク質のムギネ酸鉄錯体を選択的に取り込む活 性能は、例えば発芽酵母サッカロミセス ·セレピシェ (Saccharomyces cerevisiae) 二重変異体 fet3fet4 (DDY4株)に、本発明のトランスポーター遺伝子を導入して形 質転換し、形質転換された酵母を、ムギネ酸鉄 (III)錯体を添加した培地で培養する ことにより確かめることができる。 DDY4株は、 2価鉄の取込み系に欠損を持ち、鉄制 限培地では生育することができず(Eide, Dら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 19
96年,第 93卷, p. 5624— 5628)、かつ、ムギネ酸 (III)鉄錯体を利用して生育する こと力 Sできな ヽ(Loulergue, C. Gene, 1998年,第 225卷, p. 47— 57)酵母であ るので、ムギネ酸鉄錯体を選択的に取り込む活性能を有する酵母はムギネ酸鉄 [III] 錯体を添加した培地で生育し、該活性能を有さな 、酵母は生育できな ヽ。
[0028] また、ムギネ酸鉄錯体を選択的に取り込む活性能は、アフリカッメガエル卵母細胞 等で細胞膜電位変化等の観察を行うことにより、確かめることができる。細胞膜電位 変化の測定は、ムギネ酸鉄錯体を含有する溶液を本発明のトランスポーター遺伝子 を導入した卵母細胞に添加し、該卵母細胞膜に発現したトランスポータータンパク質 を介して取り込まれるムギネ酸鉄錯体に伴っておこる卵母細胞の細胞膜電位変化を 膜電位固定法等により、細胞膜内外の電位を電極で直接測定等することにより行うこ とが可能である。
[0029] 本発明に係るトランスポータータンパク質は、本発明のトランスポーター遺伝子をべ クタ一に導入し、該ベクターにより形質転換した宿主を誘導条件下で培養し、この宿 主力 精製して得ることができる。
[0030] 「ベクター」とは、遺伝子を細胞内へ導入する働きを持つ物質を指し、プラスミド、ゥ ィルスベクターや、人工的な非ウィルスベクター等が含まれる。非ウィルスベクターと しては、例えばリボソーム、ポリリジンィ匕合物等が挙げられる力 これらに限定されな い。
[0031] 本発明に係るベクターは、基礎となるベクター(以下の説明では、便宜上、基礎べク ターと称する)のマルチクローユングサイトに、本発明のトランスポーター遺伝子、プロ モーター及びターミネータ一等を組み込んで構築すればよい。ここで、上記基礎べク ターとしては、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えばプラスミド DNA、ファージ DNA等が挙げられる。プラスミド DNAとしては、例えば pBR322、 p BR325、 pUC118又は pUC119等の大腸菌宿主用プラスミド、例えば pUBl lO又 は pTP5等の枯草菌宿主用プラスミド、例えば pFL61 (ATCC社製)、 ΥΕρ13、 ΥΕρ 24又は YCp50等の酵母宿主用プラスミド、例えば pUC系 [pUC18、 pUC19、 PSR -01, PSA— 01、 PSR— 02, PSR— 03 (クミアイ化学工業株式会社製)等]プラス ミド又は PBI221等の植物細胞宿主用プラスミド、或いは例えば pWTT23132 (DN
AP社製)等のバイナリーベクター等が挙げられ、ファージ DNAとしては λファージ等 が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウィルス等の動物ウィルス、バキ ュロウィルス等の昆虫ウィルスベクターを用いることもできる。
特に、本発明のトランスポーター遺伝子を導入したトランスジエニック植物を作製す る場合には、植物に形質転換することが可能な植物細胞宿主用ベクターであれば特 に限定されない。
[0032] プロモーターとしては、宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。例 えば宿主が大腸菌である場合は、 trpプロモーター、 lacプロモーター、 Pプロモータ
L
一、 Pプロモーター等の大腸菌由来のプロモーター、宿主が枯草菌である場合は、
R
SPOlプロモーター、 SP02プロモーター、 penPプロモーター等、宿主が酵母であ る場合は、 pFL61 (ATCC社製)、 PH05プロモーター、 PGKプロモーター、 GAP プロモーター、 ADHプロモーター等が好ましい。また、宿主が植物である場合は、力 リフラワーモザイクウィルスの 35S RNAプロモーター、 rd29A遺伝子プロモーター 又は rbcSプロモーター等の植物由来のプロモーター、或いはカリフラワーモザイクゥ ィルスの 35Sプロモーターのェンハンサー配列をァグロバタテリゥム由来のマンノピン 合成酵素プロモーター配列の 5'側に付加した mac— 1プロモーター等のような構成 的プロモーター等が好ましい。さらに、 tacプロモーター等のように、人為的に設計改 変されたプロモーターを用いてもよい。なかでも mac— 1プロモーターが好ましい。前 記 mac— 1プロモーターを用い構築されたベクターが植物ゲノム中に挿入された場 合、該プロモーターの下流に連結された遺伝子 (HvYSl)が植物体のほとんど全て の器官で、 V、ずれの成長段階にぉ 、ても高レベルで発現し得る。
[0033] ターミネータ一としては、宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。
特に、宿主が植物である場合は、例えば rrnプロモーター、 psbAターミネータ一、 35 Sターミネータ一、 rpsl6ターミネータ一、 CaMV35Sターミネータ一、 ORF25polyA 転写ターミネータ一、 PsbAターミネータ一等が挙げられる。
[0034] また、本発明に係るベクターには、遺伝子組換え体を識別するための遺伝子を有 することが好ましい。遺伝子組換え体を識別するための遺伝子としては、特に限定さ れず、自体公知のものを用いてよい。該遺伝子としては、例えば、各種の薬剤耐性遺
伝子又は宿主の栄養要求性を相補する遺伝子等が挙げられる。より具体的には、例 えば、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子 (G418耐性)、クロラムフエ 二コール耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、スぺクチノマイシン耐性遺伝子、 U
RA3遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子又は除草剤クロルスルフロン耐性遺伝子等 が挙げられる。また、該遺伝子の上流及び下流には、該遺伝子を認識するためのプ 口モーター及びターミネータ一を有することが好まし 、。
[0035] 本発明に係るベクターには、さらに他の遺伝子、例えばムギネ酸類の生合成酵素 をコードする遺伝子等を導入し得る。本発明のトランスポーター遺伝子に加えムギネ 酸類の生合成酵素をコードする遺伝子がベクターに導入され、該ベクターで形質転 換される植物は、ムギネ酸鉄錯体を選択的に取り込む機能に加え、ムギネ酸類を植 物体自身で生合成し土壌に分泌し得るので、ムギネ酸類を含まな ヽアルカリ土壌に お!ヽてもムギネ酸鉄錯体を取り込むことができ得る。ムギネ酸類の生合成酵素をコー ドする遺伝子としては、例えば特開 2001— 17181号公報に記載の 36kDaタンパク 質をコードする遺伝子や、特開 2001— 17012号公報に記載の-コチアナミン'アミ ノ基転移酵素をコードする遺伝子等が挙げられるが、これらに限定されない。なお、 前記他の遺伝子には、前記他の遺伝子とストリンジヱントな条件下でハイブリダィズし 、かつムギネ酸類を生合成するタンパク質をコードする DNAを含む遺伝子も包含さ れる。ストリンジェントな条件は上記と同様である。
[0036] 本発明に係るベクターの作製方法については、特に限定されるものではなぐ上記 基礎ベクターに、上述した各 DNAセグメント(プロモーター、ターミネータ一、本発明 のトランスポーター遺伝子、薬剤耐性遺伝子等)を所定の順序となるように導入すれ ばよい。
[0037] 宿主へのベクターの導入方法は、特に限定されず、例えばカルシウムイオンを用い る方法 [Cohen, S.N. et al. : Proc. Natl. Acad. Sci. , USA,第 69卷、 p. 2110— 21 14 (1972年)]、エレクト口ポレーシヨン法 [Becker, D.M. et al. , Methods. Enzymol . ,第 194卷、 p. 182— 187 (1990年)]、スフエロプラスト法 [Hinnen, A. et al. : Pr oc. Natl. Acad. Sci. , USA,第 75卷、 p. 1929— 1933 (1978年)]、酢酸ジチウム法 [Itoh, H. , J. Bacteriol. ,第 153卷、 p. 163— 168 (1983年)]等が挙げられる。こ
れらの他にもマイクロインジェクション、マイクロプロジェクタィル 'ボンバードメント(粒 子加速法又はバイオリスティック 'ボンバードメントとも呼ばれる)、ウィルスによる形質 転換、及びァグロバタテリゥムによる形質転換、パーティクルガン法 (Svab, Z. , Hajdu kiewicz, P. , and Maliga, P. , Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1990年,第 87卷, p. 8 526— 8530)や PEG法(Golds, T. , Maliga, P. , and Koop, H.-U. , Bio/Technol . , 1993年,第 11卷, p. 95— 97)等、様々な方法が挙げられるが、これらに限定さ れない。
[0038] 本発明に係るベクターが導入された宿主を増殖させる方法についても特に限定さ れるものではなく、宿主に応じた公知の方法を用いることが好ま 、。
[0039] 宿主細胞力も本発明に係るトランスポータータンパク質の分離、精製は、自体公知 の分離、精製法を適切に組み合わせて行なうことができる。これらの公知の分離、精 製法としては、塩析ゃ溶媒沈澱法等の溶解度を利用する方法、透析法、限外濾過法 、ゲル濾過法、及び SDS—ポリアクリルアミドゲル電気泳動法等の主として分子量の 差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー等の荷電の差を利用する方法、ァ フィニティークロマトグラフィー等の特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体ク 口マトグラフィ一等の疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法等の等電点の 差を利用する方法等が挙げられる。
[0040] なお、上記の遺伝子工学又は生物工学の操作については、市販の実験書、例え ば、 1982年発行のモレキュラ^ ~ ·クロー-ング(Molecular Cloning)コールド'スプリ ング.ハーバ^ ~ ·ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、 1989年発行のモ レキユラ^ ~ ·クロー-ング第 2版(Molecular Cloning, 2nd ed. )コールド 'スプリング 'ハーバ■ _ ·ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)等に記載された方法に 従って容易に行うことができる。
[0041] 本発明のトランスポーター遺伝子を発現又は過剰発現させるトランスジエニック植物 は、上記遺伝子操作法を使って作出することができる。本発明にかかるトランスジェ- ック植物は、本発明のトランスポーター遺伝子の発現によりトランスポータータンパク 質を生産するものであるが、このトランスポーター遺伝子は特に根の表皮細胞に発現 することが好ましい。根の表面に本発明のトランスポーター遺伝子が発現することによ
り、土壌中のムギネ酸鉄錯体の取り込みが容易となる。トランスジエニック植物におけ る該遺伝子の発現は、組織学的染色により確認できる。組織学的染色は、公知の方 法により行なうことができる。
[0042] 本発明のトランスジエニック植物は、 2価鉄不含の例えばアルカリ土壌において 3価 鉄やムギネ酸鉄錯体を含有する土壌において栽培できる。また、本発明のトランスジ エニック植物は、光合成に必要な鉄が吸収されるため、生長が速いという特徴を持ち 、植物の生産性を向上できる。
[0043] 本発明のトランスポーター遺伝子を使って形質転換される好ましい植物としては、 単子葉植物又は双子葉植物が好ましい。より具体的には、例えばイネ科植物 (例え ば、コメ、ォォムギ、コムギ、ェンバタ、ライムギ、トウモロコシ、ァヮ、ヒェ、コゥリヤン、 牧草類)、クヮ科植物(例えば、クヮ、ホップ、コゥゾ、ゴムノキ、アサ等)、マメ科植物( 例えば、ダイズ、ァズキ、ラッカセィ、インゲンマメ、ソラマメ等)、ノ ラ科植物(例えば、 イチゴ、ウメ、バラ等)、ツバキ科植物(例えば、チヤノキ等)、ァカネ科植物(例えば、 コーヒーノキ、クチナシ等)、ブナ科植物(例えば、ナラ、ブナ、カシヮ等)、ミカン科植 物(例えば、ダイダイ、ュズ、ゥンシユウミカン、サンショウ等)又はナス科植物(例えば 、ナス、トマト、トウガラシ、ジャガイモ、タバコ、チョウセンアサガオ、ホォズキ、ペチュ 二了、カリブラコア、ユーレンベルギア等)などが挙げられる力 これらに限定されない
[0044] 以下に、実施例をあげ本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定さ れるものではない。なお、%は特に記載しない場合は容量%を示す。また、本明細書 において、略語は以下を示す。
a :アデニン
c :シトシン
g :グァニン
t :チアミン
PBS : Phosphate buffer saline (リン酸緩衝食塩水)
PCR: Polymerase Chain Reaction (ポリメラーゼ連鎖反応)
RACE : Rapid Amplification of cDNA Ends
EST: Expressed Sequence Tag (発現配列タグ)
RT—PCR: reverse transcription— polymerase chain reaction
SOSUI :膜タンパク質の二次構造推定システム
Fe (III) ·クェン酸:クェン酸—鉄錯体(タエン酸鉄アンモ-ゥム錯体)
Fe (III) · MA:ムギネ酸鉄錯体 (ムギネ酸鉄 (III)錯体)
Fe (ll) ·ΝΑ:ニコチアナミン鉄錯体
Tris:トリス(ヒドロキシメチル)ァミノメタン
EDTA:エチレンジァミン四酢酸
HEPES: 2 [4— (2—ヒドロキシェチル) 1—ピペラジ -ル]エタンスルホン酸 MASコ ~~ト: Matsunami Adhesive Slideglass
DIG :ジゴキシゲニン
実施例 1
HvYSl cDNAのクローニング
(1) Total RNAの抽出
ォォムギ(品種 Morex)を播種後、 lZ5Hoagland培養液 (以下、栽培用培養液と いう。)にて培養した。 16日目の苗に鉄欠乏処理 (鉄イオンフリーの栽培用培養液で 栽培)を 4日間行った。その根を採取し、コンサート植物用 RNA抽出試薬 (Invitroge n社製)を用 、て Total RNAを抽出した。
(2) 3' -RACE
Total RNA 1 gを逆転写酵素で cDNAとした。次いで得られた cDNAを用い て 3'—RACE (System of Rapid Amplification of cDNA Ends ; Invitrog en社製)を行った。 3,一 RACEに用いたプライマーは、ォォムギのデータベース(D DBJ)で ZmYSlを検索配列として、 60%以上相同性力ある 4種類 (AF472629, BJ 470821, BJ448359, BQ765689)の ESTを検出し、このうち BJ470821の配列 内から表 1の塩基配列を選択し、合成したオリゴヌクレオチドを使用した。
[表 1]
プライマー 塩基配列 配列表
3 ' R ACE-G S P 5 ' -CATTGCCGGCCTTGTTGCTG 配列番号 4
3 ' R ACE-Ne s t G S P 5 ' -CGGCCTTGTTGCTGGCACC 配列番号 5
[0046] 3,一 RACEで得られた cDN Aを 1 % (w/v)ァガロースゲル電気泳動に力 4ナ、ゲル からの精製を、 Qiagen GIA quick gel Extraction kit (Qiagen社製)を用い て行った。精製された cDNAを TOPO TA cloning versionR (Invitrogen社製) の pCRII—TOPO vector (4. Okb)〖こ挿入し、大腸菌 TOP 10に形質転換した。 C olony PCRを行い、予想される長さの産物をパーキンエルマ一ジャパン社製自動 D NAシーケンサ ABI PRISMTM 310 genetic Analyzerで塩基配列を決定した 。シーケンサ用プライマーとしては、表 2のプライマーを使用した。
(3) 5' -RACE
また、 3'—RACEと同様に、 Total RNA 1 μ gを逆転写酵素で cDNAとした。次 いで得られた cDNAを用いて 5,—RACE (Invitrogen社製)を行った。 5, -RACE に用いたプライマーは、上記(2)で検出した ESTのうち、 AF472629の配列内力ら 表 3の塩基配列を選択し、合成したオリゴヌクレオチドを使用した。
[表 3]
[0048] 5,ーRACEで得られたcDNAをl.2% (w/v)ァガロースゲル電気泳動に力 4ナ、 ゲルからの遺伝子の抽出、大腸菌への形質変換は上記(2)の 3'— RACEで得られ た cDNAと同様に行なった。シークェンスも同様に行 ヽ5 '側の配列を途中まで決定 した。
5'末端が高次構造をとつているために、さらに mRNAの逆転写酵素の温度が高い (55°C) , 5' /3'Race kit, 2nd generation (Roche社製)のキットを使って、 5,— RACEと同様に操作し、 5'末端までの配列を決定した。 5 ' Z3'— RACEに用いた プライマーは、 AF472629の配列内力ゝら表 4の塩基配列を選択し、合成したオリゴヌ クレオチドを使用した。
[表 4]
[0049] (4)塩基配列の確定
5' /3' Raceで決定した配列の、 5, RACEで決定した塩基配列とのつなぎ目部分 を確定するため、上記( 1)で得られた Total RNAから逆転写酵素で得た cDNAを 用いて PCRを行った。該 PCRには、 AF472629の配列内力 表 5の塩基配列を選 択し、合成したフォワードプライマー(配列表の配列番号 14)及び BJ470821の配列 内から表 5の塩基配列を選択し、合成したリバースプライマー (配列表の配列番号 15 )を用いた。
[0050] 得られた PCR産物の cDNAを上記(2)と同様に、ァガロースゲル電気泳動、ゲル からの遺伝子の抽出、大腸菌への形質変換を行ない、全塩基配列を決定した。 全塩基配列が決定したので、もう一度全長の塩基配列を、上記(1)で得たォォムギ の根の Total RNAから逆転写酵素で得た cDNAと表 6及び表 7のプライマーを用 いて PCRを行った。
[表 7]
[0051] PCRで得られた cDNAを 1. 2% (w/v)ァガロースゲル電気泳動にかけ、ゲルから の抽出、大腸菌への形質変換は上記 (2)と同様に行なった。この形質変換した大腸 菌をアンピシリン 50 μ gZmLを添カ卩した LB (Luria— Bertani)培地で 37°Cの下、終 夜培養し、この培養液から VIOGENE社製の Mini— M plasmid DNA Extract ion systemで DNAを抽出した。この塩基配列を決定し、全配列を確定し (配列番 号 1)、 HvYSl (Hordeum Vulgare Yellow Stripel, DDBJ Accession No . AB214183)と命名した。
塩基配列決定のためのシーケンスプライマーとして、表 8のプライマーを用いた。
[表 8]
[0052] この cDNAの配列から、 HvYS 1タンパク質のアミノ酸配列(配列番号 2)を決定した 。タンパク質は 678アミノ酸長で、トウモロコシの ZmYSlタンパク質と約 73%の相同 性があり、特に SOSUIプログラム力 予想される ZmYS 1の 12個の膜貫通領域では 高 、相同性を示して 、る (図 1参照)。
実施例 2
[0053] ォォムギ組織における遺伝子の発現量の比較
ォォムギ(Morex)を播種後、 1週間 20 Mムギネ酸鉄錯体を添カ卩した栽培用培 養液にて前培養した。その後、鉄フリー栽培用培養液又は 20 Mムギネ酸鉄錯体 添加栽培用培養液にて 6日間培養したォォムギの根カゝら RNAをそれぞれ抽出した。 そこから表 9のプライマーを用いて、 real time !^丁ー?0^ (26サィクル)(八81 pri sm 7000 sequence detection system; Applied Bio systems)を行つた。
コントローノレとして GAPDH、glyceraldehyde— 3— phosphate dehydrogenase )遺伝子を用いた。 HvYS lはムギネ酸鉄錯体が豊富にあるときにはほとんど発現し ていないが、鉄欠乏状態では、根に選択的に発現量が増えることがわ力つた(図 2参 照)。
実施例 3
[0054] 形質転換酵母における HvYSlの機能
発芽酵母サッカロミセス ·セレビシェ (Saccharomyces cerevisiae)二重変異体 f e t3fet4 (DDY4株)は、 2価鉄の取り込みを担う 2種類の遺伝子 [fet3 (3価鉄を 2価 鉄に転換して取り込む遺伝子)及び fet4 (2価鉄をそのまま取り込む遺伝子) ]を欠損 するので、鉄制限培地では生育することができず(Eide, Dら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1996年,第 93卷, p. 5624— 5628)、ムギネ酸と錯ィ匕した鉄(Fe (III) · ΜΑ) を利用して生育することができない(Loulergue, C. Gene, 1998年,第 225卷, p. 47 — 57)。鉄輸送における HvYSlの機能を調べるために、本発明者らは、 HvYS l c DNAを導入した DDY4株を用いて該遺伝子の発現した DDY4株力 唯一の鉄源と して Fe (III) · MAを含む培地で生育できるかどうかを調べた。
[0055] DDY4株と DY1457 (野生型)株に 3つのプラスミド、すなわち(1)発現ベクター pF L61 (ATCC社製)の Notlサイトにクローユングした HvYSl cDNAを挿入したプラ スミド、(2)同じく pFL61ベクターにクローユングした ZmYSl cDNA (Curie, Cら, N ature, 2001年,第 49卷, p. 346— 349)を挿入したプラスミ、及び対照として(3)前
記!、ずれの遺伝子をも挿入して 、な 、pFL61ベクターを個別に導入した。
次に、本発明者らは、 HvYSlに基質選択性があるとすれば、その基質選択性を決 定するために、 3つの異なる鉄源、すなわち Fe (III) 'タエン酸又は Fe (III) ·ΜΑ、 Fe ( II) ·ΝΑを培地中に混入して、培養試験を行なった。酵母は、 50 M Fe (lll) 'タエ ン酸、 Fe (III) ·ΜΑ、又は ΙΟ Μ Fe (II) ·ΝΑ及びブランクとして 10 Μ FeCl , FeClを添カ卩した最少培地一 Uraで培養した。また 10 M Fe (lll) ·ΜΑ添
2 3
加培地に 2価鉄の強力なキレート剤である BPDSも 10 Μ添カ卩して、酵母の生育を 阻害する力も調べた。 Fe (m) ·ΜΑは von Wiren, Nら, Biochem. Biophys. Acta, 19 98年,第 1371卷, p. 143— 155に従って調製した。ニコチアナミンは長谷川香料 社力も購入し、 Schaaf Gら、 J. Biol. Chem. , 2004年,第 279卷, p. 9091— 9096 に従って Fe (II) 'ニコチアナミンを調製した。培養は 30°Cで 4日間行なった。 3つの酵 母培養物希釈液(波長 600nmでの光学密度(OD)が 0. 2、 0. 02及び 0. 002であ るもの)をプレート上にスポットした。
FeCl , FeCl、 Fe (III) 'タエン酸を唯一の鉄源として供給した場合、 HvYSl発現
2 3
DDY4株は、生育しなかった。 10 M Fe (III) · MAが存在する場合、 HvYSl発現 DDY4株は ZmYSl発現 DDY4株と同様に生育した。鉄を Fe (III) · MAキレートとし て供給した場合、 HvYSl発現 DDY4株は生育できる力 鉄を Fe (m) 'クェン酸とし て供給した場合は、該遺伝子発現 DDY4株は生育できないか、生育が強く抑制され ること力ら、 HvYSlタンパク質は Fe (III) · MAに選択的な鉄トランスポーターをコード することが示唆された。この点を明らかにするために、 Fe (lll) ·ΜΑ添加培地力 残 留 Fe (II)が全て除去されるように、強力な Fe (II)キレート剤である BPDSを、 Fe (lll) •MA添カ卩培地に添カ卩した。 BPDSの存在下に Fe (m) · MA添カ卩培地においても Hv YS1発現 DDY4株は生育した。このことは、 HvYSlタンパク質がファイトシデロフォ ァ結合型 Fe (III)のトランスポータータンパク質であることを強く示唆している。また、ト ゥモロコシのトランスポーターである ZmYSlが Fe (III) ·ΜΑの他に、植物全部に存 在する Fe (II) ·ΝΑを輸送するのに対し、 HvYSl発現 DDY4株では Fe (II) ·ΝΑの 取り込みが認められないか、生育が強く抑制された。このことは、 HvYSlタンパク質 が根に存在し、土壌力も Fe (III) ·ΜΑを取り込むことに選択的に働いていることを示
すものである(図 3参照)。
実施例 4
[0057] アフリカッメガエルの形質転換卵母細胞における電気生理活性における HvYSlの 作用
pSP64Poly (A)ベクター(Promega社製)の Xbalと BamHIのサイトに HvYS 1 c DNAを挿入し、これを用いて Ambion社の mMESSAGE mMACHINE Kitで c RNAを作製した。
アフリカッメガエル (浜松生物教材から購入)の腹部を切開し、卵母細胞 (Xenopus Oocytes)を摘出した。そして、 Collagenase typeIA(Sigma社製)を 2mg/mL とした OR— 2溶液(82. 5mM NaCl, 2mM KC1、 ImM MgCl、 5mM HEPE
2
S)が入った遠沈管に卵母細胞を移し、室温で約 2時間インキュベートした後、 OR— 2溶液で 3回、さらに ND— 96溶液(96mM NaCl, 2mM KC1、 ImM MgCl、 1
2
. 8mM CaCl , 5mM HEPES)で 3回洗浄した。 CRNA50 /Z g/mL, 50nLをデ
2
ジタル式マイクロディスペンサー(Drummond SCIENTIFIC)で、アフリカッメガエ ルの卵母細胞に注入した。卵母細胞は ND— 96溶液中、 17°Cで 48〜72時間培養 した。
[0058] 次に、本発明者らは、 HvYSlタンパク質に基質選択性があるとすれば、その基質 選択性を決定するために、 Fe (lll) · MA以外の基質として銅、亜鉛、ニッケル、マン ガン、コバルトのムギネ酸錯体も鉄同様に作製した。 HvYSlを発現させた卵母細胞 を ND— 96溶液で充たしたチャンバ一にセットし、各々基質 5mMを 10 μ L力けて( 最終濃度 50 μ Μ)電気生理活性を測定した。卵母細胞に 2本の 3Μ KC1を充たし た微小電極(内部抵抗 0. 5— 2Μ Ω )を差し込み、実験槽の電位を OmVに固定した モードで、 Axoclamp - 2型二電極電位固定アンプ(ァクソン社製)を用いて電位固 定した。電流は 1kHzのローパスフィルター(— 3dB, 8ポールベッセル型フィルター /サイバー アンプ、ァクソン社製)を通し、デジデータ 1200型インターフェース(ァ クソン社製)を用いて 10kHzでサンプリングし、デジタル化して保存した。電位のプロ グラム、記録及び保存したデータの解析は、 ORIGIN 6. 1 software (Microcal Software)を用いた。固定電位 60mVで測定した。
Fe (lll) · MA以外の種々のムギネ酸金属錯体、及び-コチアナミン鉄 (II)錯体に 比べて、ムギネ酸鉄 (III)錯体は圧倒的に強い電位の変化が認められた。ニコチアナ ミン鉄 (II)錯体の反応は実施例 3の酵母の研究結果と一致した(図 4)。
実施例 5
[0059] ォォムギの根における HvYS 1の発現部位
操作はすべて RNase freeで行った。実施例 1で作製した鉄欠乏状態のォォムギ の根を 4%パラフオルムアルデヒド ZPBS中に入れ、根が沈むまで減圧、常圧を 15 分おきに繰り返し、 4°Cで 1昼夜インキュベートした。 PBSで 30分 2回洗浄後、 30%、 40%、 50%、 60%エタノール水溶液で、順次 30分 2回インキュベートし、 70%ェタノ ール水溶液にして、 4°Cで 1昼夜インキュベートした。翌日、 85%、 95%、エタノール 水溶液、 100%エタノールまで同様に脱水し、 25%、 50%、 75%キシレン Zェタノ ール溶液、 100%キシレンまで移して、 100%キシレンにパラフィンチップ(Paraplas t Plus, Tyco社製)を入れて、 42°Cで 1昼夜インキュベートした。その後、パラフィン を 1日 2回交換して、 3日間 60°Cでインキュベートし、組織をパラフィン中に包埋した。 回転式ミクロトーム (池本理ィ匕学工業社製)を用いて 5 μ mの連続切片を作製し、 MA Sコートのスライドグラス (マツナミ)に貼り付けて— 20°Cで保存した。
cRNAプローブは HvYS 1 cDNAをプラスミドベクター pBluescript KS ( + )の X bal、 Hindlllサイトに導入し、 Roche社製の DIG (ジゴキシゲニン) RNA Labeling kitで作成した。センスは Hindlll制限酵素でベクターを直線にして T7ポリメラーゼ で、アンチセンスのプローブは Xbal制限酵素でベクターを直線にして T3ポリメラーゼ で各々作成した。その後 150bpにアルカリ処理(42mM NaHCO , 63mM Na C
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O溶液中 60°C 56分)で断片化して、エタノール沈殿後 DEPC処理水に溶解した。
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[0060] in situハイブリダィゼーシヨン(hybridization)は Cindy Lincoln & David J ackson' s Protocolに基づいて行った。パラフィン切片を貼り付けたスライドを 10 分乾燥し、キシレン 10分 2回、 1000/0エタノーノレ、 90%, 80%, 70%、 500/0エタノー ル水溶液で 2分、 PBS5分 2回処理した。プロティナーゼ K処理(1 μ g/mL プロテ イナーゼ K (Sigma社製)、 lOOmM Tris— HCl (pH7. 4)、 50mM EDTA)を 37 。Cで 30分行い、 PBS2分洗浄後、 4%PFAZPBSで 20分固定し、 PBS2分 2回、 0.
2N HC1で 10分、 PBS2分 2回、グリシン 2mg/mL PBS溶液 15分 2回、 PBS3 分 2回、そしてァセチル化を行った。 2 X SSC (150mM NaCl、 15mMクェン酸ナト リウム、 pH7. 4)で 2分 2回洗浄後、再び上記と同様に脱水して、 100%エタノールま で脱水し、デシケーター内で 1時間乾燥した。その後プローブをカ卩えたノヽイブリダィ ゼーシヨン溶液 [50%脱イオンホルムアミド、 10mM Tris-HCl (pH7. 4)、 5mM EDTA, IX Denhat' s溶液、 10% (wZv)デキストラン硫酸、 20 /z gZmL 酵母 tRNA、0. 3M NaCl, 0. 3M DTT (ジチオスレィトール)]を切片にかけ、パラフィ ルムを力ぶせて、 50。C、 16時間インキュベートした。 0. 2 X SSC 55。Cで 60分 2回 洗浄し、 RNase処理(RNaseA 20 μ g/mL, 0. 5M NaCl, lOmM Tris— HC1 (pH7. 4)、 ImM EDTA)を 37。C、 30分行った。 0. 2 X SSC 55。Cで 30分 2回洗 浄後、 PBS室温 5分処理し、 DIGの発色を行った。緩衝液 1 [0. 15M NaCl, 100 mM Tris— HCl (pH7. 4) ] 10分 2回、緩衝液 2 [15% (wZv)ブロッキング試薬 (R oche社製) Z緩衝液 1]45分、緩衝液 1 5分処理後、 anti— DIG抗体 (Roche社製 ) 750倍希釈を室温で 1時間反応させた。緩衝液 1、 5分 2回、緩衝液 3 [0. 1M Na CI, lOOmM Tris— HCl (pH9. 5)、 50mM MgSO ] 10分後、ナカライのアル力
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リフォスファターゼ用 NBTZBCIP溶液キットでー晚発色させた。緩衝液 4[10mM Tris— HCl (pH8. 0)、 ImM EDTA] 10分で発色を停止し、蒸留水で洗浄後、タリ スタルマウント(コスモバイオ)で封入後、光学顕微鏡(Eclipse E400,ニコン社製) で検鏡した。その結果を図 5に示したが、鉄欠乏アンチセンス HvYSl導入トランスジ エニックォォムギの根の表皮細胞部分に発色が認められ、 HvYS 1が強く発現して 、 ることが分力つた(図 5)。
実施例 6
[0061] HvYSlを導入したトランスジエニック植物の作成
本実施例において、分子生物学的手法は特に断らない限り、 WO96Z25500ある いは Molecular Cloning (Sambrook et al. , (1989) , Cold Spring Harbo ur Laboratory Press)に記載されている方法に従った。
[0062] (HvYSl発現ベクターの構築)
PCGP1394 (Tanaka et al. , 1995, Plant Cell Physiol, 36 : 1023— 1031
に記載)を Hindlllと SacIIで消化して得られる約 1. 3kbの DNA断片と、 pCGP139 4を Pstlで消化後ブランティングキット (TaKaRa社製)を用いて平滑末端ィ匕し、さらに SacIIで消化して得られる約 2kbの DNA断片と、 pBinPLUS (van Engelen et a 1. , 1995, Trangenic Research, 4, 288— 290)を Saclで消ィ匕後同様に平滑末 端化しさらに Hindlllで消化した約 12kbの DNA断片の 3種の DNA断片をライゲー シヨンして得られるプラスミドを PSPB185とした。
HvYSlは TOPO— TAクロー-ングキット(Invitrogen社製)を用い、 PERU -TO POのベクターに表 10のプライマーで増幅した PCR産物をサブクローユングした。
[表 10]
表 10のフォワードプライマーは、 HvYSl翻訳領域 5'末端に制限酵素サイトとして Xbal配列(GCTCTAGA)を付カ卩したものであり、リバースプライマーは、 HvYSl翻 訳領域 3'末端に制限酵素サイトとして Hindlll配列(CCCAAGCTT)を付加したも のである。
[0064] この HvYSlを含有するプラスミド(サブクローユングされた PERII—TOPOベクタ 一)を、まず Hindlllで消化し、突出する末端をブランティングキット (TaKaRa社製) を用 、て平滑末端化し、さらに Xbalで消化して約 2kbの HvYS 1を含有する DNA断 片を取り出した。別途、増幅した PSPB185を Kpnlで消化し、末端を同様に平滑末 端化し、さらに Xbalで消化して約 14kbの DNA断片を得た。次いで、前記 HvYSlを 含有する DNA断片と約 14kbの DNA断片をライゲーシヨンして連結し、図 6に示す プラスミド Mac— HvYSl— mas— pBinPlusを作製した。このプラスミドは、植物にお いて、 HvYSlを Macプロモーター(Comai et al. , 1990, Plant Mol Biol, 15, 3 73 - 381)により構成的に発現させることを目的として!/、る。
[0065] (ペチュニアの形質転換)
引き続いて、公知の方法(Plant J., 5, 81, 1994)に基づいて、 Mac— HvYSl—m as— pBinPms 用 ヽて/'グロノヽクァリウム (AgroDacterium tumefaciens strain
AglO)を形質転換した。次いで、該形質転換されたァグロパクテリゥムをペチュ- ァ(Petunia hybrida品種サフィ-ァパープルミニ(サントリーフラワーズ社製))に感 染させ、 HvYS 1の翻訳領域遺伝子をペチュニアに導入した。
すべての植物を 16時間照射(60 E.冷白色蛍光灯)のもとで 23 ± 2°Cに保持し た。根が 2〜3cmの長さに達した時、トランスジエニックペチュニア植物を、 15cmの 培養ポット中のオートクレーブ殺菌された Debco 51410/2ポットミックスに移植し た。 4週間後、植物を同じポットミックスを用いる 15cmのポットに再移植し、そして 14 時間照射(300 μ Ε.ハロゲンィ匕水銀灯)のもとで 23°Cにて保持した。
[0066] (導入された HvYSlの RT— PCR法による検出)
得られたトランスジエニックペチュニアの葉を磨砕し、 RNeasy Plant Mini Kit (QIAGEN社製)により、 Total RNAを抽出した。抽出した RNA 1 gから Invitr ogen社の Superscript™ II RTの酵素を用いた First Strand cDNA Synth esis Kitにより cDN Aを作製した。 HvYS 1の有無を確認するため、トランスジェ-ッ クペチュニア力 抽出した Total RNA力 作成した cDNAを铸型として、表 11のフ ォワードプライマー(配列表の配列番号 26)及びリバースプライマー(配列表の配列 番号 27)を用いて PCRを行った。前記フォワードプライマーは HvYS 1の塩基配列( 配列表の配列番号 1)力も第 889番目から第 910番目の内部配列を合成した。リバ一 スプライマーは、同塩基配列の第 1644番目力も第 1621番目の内部配列を合成し た。コントロール遺伝子として GAPDH (グリセロアルデハイド 3リン酸デヒドロゲナー ゼ)遺伝子を用 、た。 GAPDH遺伝子のプライマーは表 12のフォワードプライマーと リバースプライマーを使用した。
[0067] [表 11]
[0068] [表 12]
コントロール G A P D Hのプライマ一
[0069] PCR産物を 1. 2 (w/v) %ァガロースゲル電気泳動で検出した。 (図 7)
HvYS 1を導入したトランスジエニック植物(図 7の 1〜 3)では PCR産物の量の違!ヽ はあるが、 HvYSl由来の PCR産物として予想される 755bpにバンドが検出され、 H vYSl遺伝子がペチュニアに導入されていることを確認した。 HvYSl遺伝子を導入 していない通常のペチュニア(図 7の 4、 5 :コントロール)においては GAPDHの PCR 産物(約 lOOObp)は検出された力 HvYSl由来の PCR産物は検出されな力つた。 産業上の利用可能性
[0070] 発明の遺伝子を導入した植物は、従来不可能であった、アルカリ土壌での成育が 可能となるので、アルカリ土壌における植物の生産が可能となる。