明 細 書
イネの鉄などの金属錯体の吸収や輸送に関与するトランスポーター、その 遺伝子
技術分野
[0001] 本発明は、イネの金属錯体の吸収や輸送に関与しているトランスポーター、及びそ れをコードする遺伝子、並びにそれを含有するベクター、及びその遺伝子による形質 転換体に関する。イネは土壌中から鉄やマンガンなどの金属元素を吸収し、これを体 内に輸送して鉄などの金属元素を補給している。本発明は、イネの生育に必須の成 分である鉄などの金属元素の吸収や輸送に関与しているトランスポーターに関するも のである。より詳細には、本発明は、イネの鉄やマンガンなどの金属錯体の吸収ゃ輸 送に関与しているトランスポーター OsYSLl— 18、及びそれをコードする遺伝子、並 びにそれを含有するベクター、及びその遺伝子による形質転換体に関する。
また、本発明は、 OsYSL2による植物における鉄錯体及び/又はマンガン錯体の 体内輸送を調整する方法に関する。
背景技術
[0002] 鉄は地殻上で 4番目に存在量が多い元素であり、植物のみならず全ての生物にと つて必須な栄養素の一つである。しかし、好気的条件下の土壌では多くの鉄は不溶 態の 3価鉄 Fe(OH)3となる。特に塩類集積土壌、土壌がアルカリ性となる母材が石 灰岩質の土壌では、土壌中の pHが高ぐ Fe(OH)3の溶解度は著しく下がる。植物 は不溶態の鉄 Fe(OH)3を吸収することができないため、このような土壌で生育する 植物には深刻な鉄欠乏の症状が顕われる。世界の耕地面積のうち約 3分の 1は潜在 的な鉄欠乏発生土壌といわれている。このため植物の鉄吸収や体内での輸送、分配 、代謝のメカニズムを解明し、鉄欠乏に耐性を持つ植物^ |IJり出すことは、昨今問題 になっている食料問題の解決にとって非常に重要な課題である。
[0003] 高等植物は不溶態の 3価鉄を利用するための機構を進化的に獲得してきた。植物 におけるこのような鉄獲得機構は 2つに大別でき、ストラテジ一一 I (Strategy-I)、及び ストラテジ一— II (Strategy-Il)と呼ばれている。ストラテジ一一 Iはイネ科以外の植物に
見られ、次のような特徴を持っている。まず根圏にキレート化合物を分泌し、不溶態 の 3価鉄を可溶化する。この 3価鉄を根の細胞膜上の 3価鉄還元酵素 (FR02)で 2 価鉄に還元し、 2価鉄トランスポーター (IRT1)を介して 2価鉄を吸収する。また、 3価 鉄の溶解度を上げ、 3価鉄還元酵素の活性を高めるためにプロトンを放出し根圏の p Hを下げている。一方、ストラテジ一- IIはイネ科植物に見られ、ムギネ酸類という化合 物に特徴を持っている。イネ科植物は根カゝらムギネ酸類を分泌し、ムギネ酸類は根 圏の不溶態 3価鉄をキレートし、可溶化する。植物はこの可溶ィ匕した「ムギネ酸類 3 価鉄」錯体を根の「ムギネ酸類 3価鉄」トランスポーターを介して吸収することにより 鉄を獲得している。
[0004] このような「ムギネ酸類 3価鉄」トランスポーターのひとつ力 キューリ一ら(非特許 文献 1参照)によってトウモロコシ力 初めて単離され、「鉄 ムギネ酸類」錯体のトラン スポーターをコードする遺伝子 YS1と命名された。
また、ムギネ酸類を鉄獲得に利用するのはストラテジ一一 IIに属するイネ科植物のみ であるが、ムギネ酸類を体内で合成しな 、ストラテジ一一 Iの植物に属するシロイヌナ ズナのゲノム上にも、 8つもの YS1様の遺伝子 (AtYSL)が存在することが報告され てきた。ストラテジ一一 Iの植物は、ムギネ酸類を体内で合成しないのであるから「ムギ ネ酸類- 3価鉄」トランスポーターは必要ないはずである。ストラテジ一一 Iの植物にこの ようなトランスポーターが存在することは、 YS1様のトランスポーターが「ムギネ酸類 3価鉄」複合体のみを輸送するものではなく、「鉄 -二コチアナミン」錯体をも輸送する トランスポーターであると推測されている。即ち、ストラテジ一一 Iの植物であるシロイヌ ナズナの YS1様の遺伝子 (AtYSL)は、植物体内での鉄輸送に関与していると考え られている「鉄一二コチアナミン」錯体を輸送するトランスポーターをコードしているもの と推測されている。
[0005] 本発明者らは、潜在的な鉄欠乏発生土壌においても生育可能な鉄吸収機構が強 化された植物、とりわけ穀物植物を創製するために、植物の鉄吸収や体内での輸送 、分配、代謝のメカニズムを解明する研究、特に鉄吸収に必要なムギネ酸の合成に 関与する酵素群の解明を行ってきた (特許文献 1一 4参照)。このような鉄欠乏に耐性 を持つ植物、特にイネを創り出すことは、世界の食料問題の解決にとって非常に重
要な課題である。
これまでの研究にぉ ヽて、ムギネ酸類の合成酵素をコードする各種の遺伝子を本 発明者らはクローユングしてきた。このような遺伝子を用いることにより、潜在的な鉄 欠乏発生土壌における不溶態の鉄 Fe(OH)3を植物が吸収可能な「ムギネ酸類 3価 鉄」複合体に転換することが可能となった。例えば、最近の研究では、大麦の-コチ アナミンアミノ転位酵素 (NAAT)の遺伝子を導入した形質転 ネは、低 Feのアル力 リ土壌での生育において野生型よりも許容性があることが示されている(非特許文献 2参照)。し力しながら、ムギネ酸類の分泌が増強されて土中に可溶ィ匕した「ムギネ酸 類- 3価鉄」複合体が生成しても、当該複合体を植物が吸収するためには、「ムギネ酸 類 3価鉄」トランスポーターが必須のものとなる。
このように、鉄欠乏土壌におけるイネの生育を改善するためには、土中におけるム ギネ酸類の分泌を改善させるだけでなぐそれを吸収し、植物体の必要な箇所に輸 送するための吸収輸送機構の改善が同時に必要となる。イネにおける鉄などの金属 成分の吸収や輸送のための「ムギネ酸類 3価鉄」トランスポーターは未だ見出され ておらず、イネにおける「ムギネ酸類 3価鉄」トランスポーターをコードする遺伝子の 解明が求められていた。
[0006] 特許文献 1 :W099Z57249号
特許文献 2:W099Z48356号
特許文献 3 : WOOl ZO 1762号
特許文献 4: WO02/0777240^- 非特許文献 1 : Curie C, et al., Nature, 409,346-349 (2001)
非特許文献 2 : Takahashi, M., et al, Nature biotechnology, 19, 466-469 (2001). 発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0007] 本発明は、イネにおける鉄などの金属錯体の吸収や輸送に関与するトランスポータ 一及びその遺伝子を提供するものである。より具体的には、例えば、「ムギネ酸類- 3 価鉄」トランスポーター及びそれをコードする遺伝子、並びに「鉄 ニコチアナミン」錯 体などの「金属 ニコチアナミン」錯体トランスポーター及びそれをコードする遺伝子
などの金属錯体の吸収や輸送に関与するトランスポーター及びその遺伝子を提供す るものである。また、本発明は、これらの遺伝子を含有するベクター、形質転換体を提 供するものである。
課題を解決するための手段
[0008] 本発明者らは、鉄などの金属元素の吸収や輸送が強化された潜在的な鉄欠乏発 生土壌にぉ 、ても生育可能なイネ^ iij出するために、鉄の吸収や輸送に関与して ヽ る各種の酵素類のクローユングを行ってきた。これまでの研究により、イネが鉄を吸収 し輸送するためのメカニズムを解明することができてきた力 イネの細胞が鉄を取り込 むためのトランスポーターについては未だ解明されていなかった。トランスポーターは 細胞や細胞内オルガネラが各種の栄養分や成分を内部に取り込むために必須のタ ンパク質であり、鉄吸収や輸送が強化された潜在的な鉄欠乏発生土壌においても生 育可能なイネ^ iij出するためには、各種の酵素類と共に必須のタンパク質となる。こ のために、本発明者らは、イネのトランスポーターのクローユングを試み、イネには鉄 などの金属元素の錯体の吸収や輸送に関与する 18種のトランスポーターが存在して いることを見出した。
さらに、本発明者らは、この中の OsYSL2が植物における鉄及びマンガンの-コチ アナミン錯体の輸送に関与しているトランスポーターであることを見出した。
[0009] 即ち、本発明は、イネの鉄などの金属錯体の吸収や輸送に関与するトランスポータ 一に関する。より詳細には、本発明は、配列表の配列番号 1一 18のいずれかに記載 のアミノ酸配列、又はその一部のアミノ酸が欠失若しくは置換され、及び Z又は他の アミノ酸が付加されることにより配列番号 1一 18のいずれかに示されるアミノ酸配列と 80%以上の相同性を有しているアミノ酸配列を有し、かつイネの鉄やマンガンなどの 金属錯体の吸収や輸送に関与する機能を有するイネのトランスポーターに関する。 また、本発明は、前記した本発明のイネ由来のトランスポーターをコードし得る塩基 配列を有する遺伝子、より詳細には、配列表の配列番号 19一 36のいずれかに示さ れる塩基配列、又はストリンジェントな条件でこれとハイブリダィズ可能な塩基配列を 有する遺伝子に関する。
また、本発明は、前記した本発明の遺伝子を含有してなるベクター、及び当該遺伝
子を含有する遺伝子により形質転換された形質転換細胞に関する。
さらに、本発明は、配列表の配列番号 2に記載のアミノ酸配列、又はその一部のァ ミノ酸が欠失若しくは置換され、及び Z又は他のアミノ酸が付加されることにより配列 番号 2に示されるアミノ酸配列と 80%以上の相同性を有しているアミノ酸配列をコー ドする遺伝子を導入することからなる、植物における鉄錯体及び Z又はマンガン錯体 の体内輸送を調整する方法に関する。
[0010] 本発明者らは、トウモロコシの YS1遺伝子 (非特許文献 1参照)との相同性に基づ V、てイネの遺伝子(OsYSL)を検索した。このためのイネの遺伝子(OsYSL)として、 ンャホ二カ植のイネとして Oryza sativaし ssp. japonica (cv. ipponoare) (uolf et al., 2002)を、またインディ力種のイネとして Oryza sativa L. ssp. indica (cv. 91-11) (Yu et al., 2002)の 2つのイネゲノムデータベースを用いて、これらに対してブラスト(Blast)検 索 (Atlschul et al., 1990)を行った。以下、ジャポニカ種のデータベースをシンジェンタ のデータベース (http:〃 portal.tmri.org/rice/)と呼び、インディ力種のデータベースを 中国のデータベース (http://btn.genomics.org.cn/rice/)と呼ぶことにする。
検索では、シンジェンタのデータベースを主に参考にした。し力し、このデータべ一 スはシロイヌナズナのものほど完成されておらず、各コンテイダがばらばらの状態での 開示されており、そのため検索で得られた YS 1に相同性が高 、コンテイダも OsYSL の全長を含んでいない場合が多力つた。また、塩基解読の精度もそれほど高くなぐ 不明の塩基も数多くあった。そこで、中国のデータベースを検索することで得られた インディ力種の OsYSLの塩基配列も参考にした。これらの配列を基に、ばらばらにな つていたジャポニカ種の OsYSLについても断片をつなぎ合わせ、推測される全長を 同定した。
その結果、イネのゲノム中に 18個の YS 1に相同性の高 、遺伝子が存在することを 見出した。これらの 18種の遺伝子を、それぞれ OsYSLl— OsYSL18と命名した。 そして、これらの遺伝子力イネの鉄輸送にかかわるトランスポーターの遺伝子である 力どうかを検討した。
[0011] ブラスト(Blast)検索により見いだされた遺伝子はゲノムの配列であり、イントロンを含 むために、ェキソンを予測し、それらをつなぎ合わせて推測されるタンパク質のァミノ
酸配列を決定しなければならない。しかし、キューリ一ら (非特許文献 1参照)は YS1 のゲノム配列を明らかにしておらず、 YS1の cDNAは 7つのェキソンから成り立って いることだけが報告されている。したがって、キューリ一らのこの報告のみ力もェキソン 領域を予測することはできな 、ので、シロイヌナズナの YSL遺伝子のひとつである At YSL3のゲノム配列と YS1の cDNA配列を比べることにより、 AtYSL3のイントロン及 びェキソンの位置を決定することにした。シロイヌナズナのゲノム配列は明らかになつ て!、るので、このゲノム配列及び AtYSL3の配列に基づ!/、て AtYSL3のイントロンと ェキソンの位置を決定した。この結果を図 1に示す。図 1 (A)は AtYSL3のゲノム配 列を示している。灰色の部分がェキソン領域を示しており、白色の部分がイントロンを 示している。図 1の(B)は AtYSL3の推測される mRNAの構造を模式的に示したも のである。白三角印はイントロンを示し、その上の数字はその大きさを示している。こ のシロイヌナズナの At YSL3のゲノム構造に基づいて OsYSLのイントロン及びェキ ソンを予測した。
ゲノム配列から予測される OsYSLの ORFがコードするタンパク質のアミノ酸配列を 、図 1に示すトウモロコシの YS1から予測し、 SOSUIプログラム(Hirokawa T., et al, Bioinformatics, 14, 378-379 (1998))で各 OsYSLタンパク質の膜貫通領域を予測し た。この結果、予測される膜貫通領域が 7個から 16個存在することが予想され、いず れも膜に存在するタンパク質である可能性が高力、いことがわ力つた。
[0012] 得られた全ての OsYSLは、最後のェキソンが 800塩基以上であったので、その一 部をノーザン解析のプローブとして用いることとし、その断片を増幅するようなプライ マー対を設計した。これらのプライマーの配列を次の表 1に示す。
[0013] 表 1:各 OsYSLを特異的に増幅するプライマーの対の配列
OsYSLl forward : 5し ACCACGTCGCCGTCTGCTACGCGGT- 3'
reverse : 5'— TACAAGCTGATGATGAGTACTCCAG— 3'
OsYSL2 forward : 5し TCTGCTGGCTTCTTTGCATTTTCTG- 3'
reverse : 5し ACCATGTCGAACTCAGCATCCAGGA- 3'
OsYSL3 forward : 5し TTCCAGTCCACAACGAAGCCCAACG- 3'
reverse : 5'— CGATCATAGTCCATTTTCTACTGGT— 3'
OsYSL4 forward: 5し GCCATCTGCATCATCGGCATGGGAG- 3 ' reverse : 5 -CTTGATCTCAACATCGATCGGTCAT-3' OsYSL5 forward: 5し ATCGGCATCGAAGGCTTTGCGGCGC- 3'
reverse : 5' -GATCATCGTCTCATACAGAAGCTGA-3' OsYSL6 forward: 5し ATCTC AAC AGC AACTGTGCC AATGA- 3 '
reverse : 5' -TCCAAATAAACAACGGATTTTGCGC-3' OsYSL7 forward: 5し AGGAGTGGCGCATCCGGCGCTACAT- 3'
reverse : 5' -AAGGCGTCCAACTTGACATTGTCAC-3' OsYSL8 forward: 5し CATCGCCATCTGCGCCCTCAAGGAG- 3 '
reverse : 5' -GCTTGAGCTTGAAGTGGATGGATGG-3 ' OsYSL9 forward: 5し ATTATTGCTC AGGCC ATTGGAACTG— 3 '
reverse : 5' -TCCTGTAGTAGATGGAACTGCCATG-3' OsYSLlO forward:: 5し TGATGATCGGGATCGTGTCGACGGC- 3'
reverse : 5' -GGTCCCAAAAGATGTTGGTGGTCCG-3' OsYSLl 1 forward:: 5 -TCCTTTAATATCGGTGCAAGTGATG-3'
reverse : 5' - AC ACTTTTAGACC AGCTATGACTAC- 3 ' OsYSL12 forward:: 5し GCCGACATCGGCGTGAGCGGCACCG- 3'
reverse : 5' -GGCGATGATTTCAGGCTGATCACAT-3 ' OsYSL13 forward:: 5し GCCGTCTTCCGGAGCATAGCGATAC- 3'
reverse : 5' -TCTTCATCAGAATCGTTGTTGCAAC-3 ' OsYSL14 forward:: 5し AGCAATATTGGCACAAGCGGCACCG— 3'
reverse : 5' - AGATCAATTGATCACGATGGCACGA- 3' OsYSLl 5 forward:: 5し GCGTTCGCCGTGCTCACGAACGTGG- 3'
reverse : 5' -ATCCTCCACCCATGAAATTAAACAC-3' OsYSLl 6 forward:: 5し ACCGACATGAACATGGGGTACAACT— 3'
reverse : 5' - TCTATACGTCTGCATTGACGCTGTA- 3' 一つのェキソン内でプライマー対を設計したことにより、ゲノム DNAを铸型にした P CRをしても、 cDNAを铸型にした場合と同じ断片を増幅できるようにした。 OsYSLl
、 OsYSL8、 OsYSL16の PCRには KOD— plus— (TOYOBO)、その他の遺伝子 の PCRには Ex Taq (TaKaRa)を DNAポリメラーゼとして用いた。 OsYSLlの増幅 の際、反応液に DMSOを終り濃度 5% (vZv)になるようにカ卩えた。 KOD-plus-で 増幅された断片は pCR4Blunt— TOPO (Invitrogen)に、その他の断片は pCR4— T OPO (Invitrogen)にクローユングした。クローユングの方法はキットに付属のプロトコ ールに従った。塩基配列を確認し、クローニングされた断片が目的のものであること を確かめた。
[0015] 得られたベクターを铸型として断片を増幅し、 32Pによる標識をしてプローブして用 いたノーザン解析を行った。試料として、イネの第五葉目が展開した時に鉄欠乏処理 を開始し、 10日間鉄を除いた水耕液で栽培することで行った。コントロール条件のィ ネはそれまでと同じ濃度の鉄を加えた水耕液で栽培した。処理後 10日目にコント口 ール区、及び鉄欠乏区ともにサンプリングを行い、鉄欠乏による OsYSLの発現の変 化を調べた。
結果を図 2に図面に変わる写真で示す。図 2の上から OsYSL2、 OsYSL6、 OsYS L13、 OsYSL14、 OsYSL15、及び OsYSL16をそれぞれ示す。各 OsYSLの左側 は根からのサンプルによるものであり、右側は葉からのサンプルによるものである。各 サンプルの左側はコントロール条件 (鉄十分条件)で栽培したものであり、右側は鉄 欠乏条件で栽培したものである。
[0016] イネに鉄を充分与えたコントロール条件 (以下、鉄十分条件とも言う。 )と、鉄を与え な ヽ鉄欠乏条件で水耕栽培し、 OsYSL遺伝子の発現様式をノーザン解析によって 明らかにした。ノーザン解析で転写産物が検出できたものについてのみ、図 2に示し ている。 OsYSL15と OsYSL16は根特異的に発現していた。 OsYSL15はコント口 ール条件では根においてもほとんど発現していな力つた力 鉄欠乏処理によって発 現が強く誘導された。一方、 OsYSL16は根においてコントロール条件でも微弱に発 現し、鉄欠乏条件で僅かに発現が誘導された。 OsYSL2は鉄欠乏条件の葉でのみ 、発現が観察された。 OsYSL6は葉、根のどちらでもコントロール条件で発現してい て、鉄欠乏処理により発現が抑制された。 OsYSLl 3は葉でも根でもコントロール条 件で発現していた。葉における発現は鉄欠乏処理によって抑制されたが、根におけ
る発現に変化は無力つた。一方、 OsYSL14は葉、根のどちらでもコントロール条件 で発現しており、鉄欠乏処理による発現の変化は観察されな力つた。その他の遺伝 子に関しては今回の栽培条件では発現は観察されな力つた。
一方、ォォムギでは根における「鉄 ムギネ酸類」錯体の吸収活性は鉄欠乏誘導的 で、ォォムギの根の細胞膜には鉄欠乏処理により誘導されるタンパク質がある (Mihashi and Mori, 1989)。イネでも同様の応答が起きていると仮定すれば、「鉄ーム ギネ酸類」錯体の吸収トランスポーターは特に根で鉄欠乏によって発現が誘導される と考えられる。
本発明の OsYSL15と OsYSL16は、前記したように根特異的に発現し、鉄欠乏条 件で発現が誘導されることがノーザン解析によって明ら力となった(図 2参照)。
[0017] ブラスト検索で得られた OsYSLl— 18の翻訳領域のアミノ酸配列と、トウモロコシの YS1のアミノ酸配列とを比較した。結果を図 3—図 5に示す。各行の最上段は YS1の アミノ酸配列を示す。各行の最下段はこれらの相同性を示し、 *印は全てで保存され ているアミノ酸であることを示し、 '印は高度に保存されているアミノ酸であることを示 す。
また、本発明の 18個の OsYSLである OsYSLl— 18の塩基配列の比較を、図 6— 図 14に示す。各行の最下段はこれらの相同性を示し、 *印は全てで保存されている 塩基であることを示し、 ·印は高度に保存されている塩基であることを示す。
これらの OsYSLl— 18のアミノ酸配列を配列番号 1一 18に示し、その塩基配列を 配列表の配列番号 19一 36にそれぞれ示す。
また、これらの OsYSLl— 18の遺伝子が存在する染色体の番号 (Chr. )、アミノ酸 長(Length)、及び DDBJにおいて OsYSLl— 18の遺伝子が存在する Contigをま とめて次の表 2に示す。
[0018] [表 2]
番号 アミノ酸長 Contig
OsYSLl 1 682aa AP002855
OsYSL2 2 674aa AP004868
OsYSL3 5 658aa AC104274
OsYSL4 5 686aa AC121362
OsYSL5 4 723aa OSJN00243
OsYSL6 4 678aa OSJN00243
OsYSL7 2 683aa AP004121
OsYSL8 2 694aa AP004121
OsYSL9 4 684aa ' OSJN00112
OsYSLlO 4 687aa OSJN00002
OsYSLll 4 712aa OSJN00221
OsYSL12 4 701aa OSJN00221
OsYSL13 4 ,724aa OSJN00211
OsYSL14 2 727aa AP004192
OsYSL15 2 672aa AP004868
OsYSL16 4 675aa OSJN00112
OsYSL17 8 636aa AP004556
OsYSL18 1 679aa AP003734
トウモロコシの YS1、ロイヌナズナの YSL (AtYSL)、及び本発明のイネの OsYSL のアミノ酸配列に基づいて分子系統榭を作製した。結果を図 15に示す。図 15では、 トウモロコシの YS1を赤色、シロイヌナズナの AtYSLl— 8を緑色、そして本発明のィ ネの OsYSLl— 18を青色で示している。この系統樹から明らかなようにこれらのトラ ンスポーターは大きく 5種類に分類される。 YS1や AtYSL3と同様な位置に分類され
る OsYSL2 ( * )、 15 ( * )、 16 ( * )、及び 9からなる第 1群、 AtYSL4と同様な位置 に分類される OsYSL6 ( * )、及び 5からなる第 2群、 AtYSL7と同様な位置に分類さ れる OsYSLlOからなる第 3群、 OsYSL13 ( * )、 14 ( * )、 11、及び 12のイネのトラ ンスポーターのみ力らなる第 4群、同様に OsYSLl、 3、 4、 7、 8、 17、及び 18のィ才ヽ のトランスポーターのみ力もなる第 5群となる。各 OsYSLの後に付した(* )印は前記 したノーザン解析により発現が確認されたものを示している。
[0020] これらのトランスポーターの中では、 OsYSL15と OsYSL16が YS1に最も近く位置 した(図 15参照)。これらの結果から、 OsYSL15と OsYSL16は「鉄—ムギネ酸類」錯 体の吸収トランスポーターであると考えられる。これは、酵母を用いたインビトロ(in vitro)系で、 OsYSL15および OsYSL16が「鉄 ムギネ酸類」錯体のトランスポータ 一であることを確認することができる。具体的には、本発明者らが開発した酵母の鉄 吸収変異株 frtlfet3frel (Bughio et al. 2002)を用いる。この酵母に OsYSL15または OsYSL 16を過剰発現させ、鉄源として「鉄 ムギネ酸類」錯体のみを与えた培地で 生育できるかどうかを判定することにより、これらのタンパク質力 ^鉄 ムギネ酸類」錯 体のトランスポーターであることを確認することができる。
さらに、アフリカッメガエル卵母細胞で OsYSL遺伝子を発現させ、「鉄 ムギネ酸類 」、「鉄一二コチアナミン」錯体を輸送するかどうかを確かめることにより、これらのタンパ ク質が「鉄 ムギネ酸類」、「鉄 -コチアナミン」錯体のトランスポーターであることを ½認することができる。
また、 OsYSL15と OsYSL16の各プロモーター領域 1. 5kbに GUSレポーター遺 伝子をつないだ、それぞれのコンストラクトでイネを形質転換して、形質転換植物の T 1種子を用いてこれらの遺伝子の発現の組織局在を観察することができる。
[0021] OsYSL15と OsYSL16と同じ第 1群に属する OsYSL2は、鉄欠乏条件の葉での み発現していた(図 2参照)。この結果力もだけでは OsYSL2が「鉄 ムギネ酸類」錯 体または「鉄 -コチアナミン」錯体の 、ずれのトランスポーターとして機能して 、るの かどうかを推測できないが、鉄などの金属のトランスポーターであることは確かであつ た。
本発明者らは、 OsYSL2の機能についてさらに検証し、そして、 OsYSL2が「鉄
ムギネ酸類」錯体または「鉄一二コチアナミン」錯体の、、ずれのトランスポーターとして 機能して 、るのかをさらに検証した。
[0022] OsYSL2の発現を GFP法にてタマネギの表皮細胞で調べた。結果を図 16に図面 に代わるカラー写真で示す。図 16aは OsYSL2と GFPの融合タンパク質の場合の結 果を示し、図 16bは GFPタンパク質単独の場合の結果を示す。この結果、 GFP単独 では、細胞の原形質と核の両方に局在している力 S (図 16b参照)、 OsYSL2と GFPの 融合タンパク質の場合には原形質膜に局在して存在することを観察することができた (図 16a参照)。このことから OsYSL2は、膜貫通領域を保持するとともに原形質膜に 局在するトランスポーターであることが確認された。
OsYSL2の発現は、先のノーザンブロット解析ではイネに鉄を十分与えたコント口 ール条件と鉄を与えない鉄欠乏条件の根では共に検出できな力つた力 GUSレポ 一ター遺伝子を結合させた分析では、コントロール条件下のイネの根中心部で検出 され、鉄欠乏条件下では発現が増加していることを観察することができた。結果を図 17に図面に代わるカラー写真で示す。図 17aは鉄十分条件での結果を示し、図 17b は鉄欠乏条件での結果を示す。図 17a及び bの右下の写真はそれぞれ中心柱の中 の篩部の細胞の倍率を上げて撮影した結果を示して 、る。 、ずれも青色部分が発現 を示している。しかし、鉄欠乏条件下の根の表皮および皮層においても OsYSL2が 検出されていないことは、 OsYSL2が土からの「鉄 ムギネ酸」錯体のトランスポータ 一ではな!/、ことを示して!/、る。
[0023] 次にイネの葉における OsYSL2の発現につ!、て GUSレポーター遺伝子を結合さ せた分析を行った。結果を図 18及び図 19に図面に代わるカラー写真で示す。図 18 aは、葉鞘の維管束での GUS発現を示し、図 18bは葉鞘の維管束の部分を拡大して 示している。この結果、 OsYSL2の発現は篩部と、伴細胞(図 18bの矢印)の中で明 瞭に観察された。図 19aは鉄十分条件での葉における GUSに発現 (青色)を示し、 図 19bは鉄欠乏条件での GUSの発現 (青色)を示す。この結果、鉄十分条件の葉で は、 GUS染色は伴細胞を含む篩部での局在が観察されるが、鉄欠乏条件の葉では 、すべての組織が伴細胞(図 19の各矢印)と共に明確な強いプロモーター活性を示 していることが観察された。このように、鉄を十分与えたコントロール条件下 (鉄十分
条件)では、イネの葉鞘と葉の維管束の篩部細胞に OsYSL2の発現を観察すること ができ(図 19a参照)、また鉄欠乏条件下では、イネの葉鞘と葉の維管束のすべての 細胞で OsYSL2の強 、発現を観察することができた(図 19b参照)。
[0024] さらに、同様にしてイネの生殖成長における OsYSL2の発現を調べた。結果を図 2 0に図面に代わる写真で示す。図 20は、花と種子における維管束での GUSの発現 を調べた結果を示し、図 20aは開花の前の結果を示し、図 20bは受精後の結果を示 し、図 20cは受精後 5日目の結果を示し、図 20dは受精後 8日目の結果を示し、図 20 eは受精後 20日目の結果を示し、図 20fは受精後の 30日目の結果をそれぞれ示す 。この結果、 GUSの発現は、開花前の花粉粒ではまったくなぐ雄しベのャクの中央 領域では少し、小穂維管束では活発であることが観察することができた(図 20a参照) 。花の受精後は、維管束での OsYSL2発現が強くなり、特にモミの上部では顕著で あることが観察できた(図 20b参照)。開花の 5日後には、成長している子房に OsYS L2の強い発現が観察でき(図 20c参照)、 8日後にはたんぱく質とミネラルの蓄積さ れる胚と胚乳の外皮に強い発現を観察することができた(図 20d参照)。 20日後には 、子房は十分成長し、成熟した胚と胚乳の辺縁層に OsYSL2発現を観察でき(図 20 e参照)、 30日後にも同じような発現を観察することができた(図 20f参照)。このことは 、 RT - PCR解析でも種子の成長初期に OsYSL2の転写物が増加し、前述の事象を 検証することができた (図 21参照)。
[0025] アフリカッメガエル卵母細胞に OsYS2遺伝子を発現させ、「鉄 ムギネ酸類」、「鉄 -ニコチアナミン」などの「金属-ニコチアナミン」錯体を輸送するかどうかを調べた結 果、 OsYS2タンパク質が「鉄 ムギネ酸類」のトランスポーターではなぐ「鉄一二コチ アナミン」、「マンガン ニコチアナミン」錯体のトランスポーターであることが明らかに なった。また、関連する化合物の基質誘導性内向電流を測定すると、 OsYSL2は「 鉄一二コチアナミン」錯体および「マンガン一二コチアナミン」錯体のトランスポーターと して活性であるが、「鉄ーデォキシムギネ酸」錯体および「マンガンーデォキシムギネ酸 」錯体のトランスポーターとしてまったく活性がないことが確認できた(図 19aおよび 19 b参照)。し力し、 OsYSL2は「マンガン -コチアナミン」錯体のトランスポーターとし て活性を持つにもかかわらず、マンガン欠乏条件下でのイネの根および葉ではノー
ザン解析で OsYSL2発現の増加を確認することができな力 た。また、「亜鉛 ニコ チアナミン」錯体、「銅-ニコチアナミン」錯体およびの他の金属キレート錯体では、 O SYSL2の輸送活性を確認することができな力つた。
[0026] OsYSL2の更なる特徴は、染色体 2 (chromosome2)の下腕部分に存在して 、るこ とである。 ZmYSlとのアミノ酸配列比較にて 7つのェキソンがあることと、 14の膜貫通 領域(図 22aおよび図 22b参照)を含む 674のアミノ酸力もなることである。
イネでは、鉄欠乏によりクロ口シスを呈した葉でイネの-コチアナミン合成酵素(Os NAS)の 1種である OsNASl、及び OsNAS2の発現が強く誘導されており (Inoue H.,et al, Plant J., 36,366-381)、 OsNASl、 OsNAS2によって合成されたニコチア ナミンが鉄欠乏条件の葉で発現した OsYSL2と何らかの相互作用を持っている可能 性も考えられる。また、ショルツ (Scholz (1989))は、ニコチアナミンが新根や新葉への 鉄の再分配に関与し、再分配が篩管を経て行われていることを示唆している。鉄欠 乏条件では古!、葉力 新 、葉へ鉄が OsYSL2を介して再転流して 、るの力もしれ ない。
[0027] 第 2群に属する OsYSL6と、第 4群に属する OsYSL13はコントロール条件の葉で 発現し、鉄欠乏処理によって発現が抑制された(図 2参照)。シロイヌナズナの AtYS Lのうちの一つは同様にコントロール条件の葉で発現し、鉄欠乏処理によって発現が 抑制されたことが報告されている (Jean ML., et al., Udineltaly, pl28 (2002》。さらに、 この遺伝子は鉄過剰処理により葉での発現が誘導され、この遺伝子を破壊した変異 株は過剰の鉄に感受性を示すことも報告されている (Jean et al, 2002)。
これらの知見からすれば、本発明の OsYSL6、 OsYSL13のどちら力 または双方 1S 過剰の鉄に対する耐性に関与しているの力もしれない。過剰の鉄を何らかの細 胞内のオルガネラに隔離するためのトランスポーターとして機能しているの力もしれな いことが予想される。このことは鉄過剰処理したイネを栽培し、ノーザン解析により確 認することができる。また、 OsYSL6や OsYSL13が恒常的に土壌からの「鉄 ムギネ 酸類」錯体の吸収を行っていることも考えられる。イネマイクロアレイ解析の結果、 Os YSL13は、亜鉛欠乏により葉で発現が誘導されることが明かになった。このことから OsYSL13は「亜鉛一二コチアナミン」トランスポーターとして機能していることも考えら
れる。いずれにしても、レポーター遺伝子を用いた発現の組織特異性の解析や、イン ビトロ (in vitro)でのトランスポーター活性の確認を行うことにより、機能や組織内の分 布などについてのさらなる知見を得ることができる。
[0028] 第 4群の OsYSL14は葉、根のどちらでも発現しており、鉄欠乏処理による発現の 変化は見られなかった(図 2参照)。このことは、鉄以外の金属元素の輸送に関連して いる可能性がある。植物体内で合成される-コチアナミンは、鉄だけでなぐマンガン 、亜鉛、コバルト、ニッケル、銅などの遷移金属元素と比較的安定なキレートを形成す ることがしられており、これらの遷移金属元素が鉄と同様に-コチアナミンと錯体を形 成して輸送されるのであれば、本発明の OsYSL14は鉄以外の金属元素とニコチア ナミンとの錯体の輸送に関与して 、る可能性がある。
[0029] 前記したノーザン解析の結果においては、上記以外の 12個の OsYSLの発現は観 察されなかった。し力し、これらの 12個の OsYSLも、発現が確認された 6個の OsYS Lと同様にゲノムデータベースの検索によって見出された遺伝子なので、これらは発 現していない擬似遺伝子の可能性もある。また、これらの遺伝子は他の金属元素欠 乏ストレスや、過剰ストレス、または生育段階によって発現が制御されていて、今回の 栽培条件では発現していな力つたの力もしれない。実際、今回発現が確認できなか つた OsYSL4、 OsYSL8、 OsYSL10、及び OsYSL12は、イネゲノムプロジェクトに よる完全長 cDNAライブラリ一中に見出された。これらの 4種類の cDNAクローンは 花カゝら抽出した mRNAをもとに作った cDNAライブラリーから見出されるものである。 これらの遺伝子は生殖段階にぉ 、て特異的に発現して 、るの力もしれな!、。
さらに、農業生物資源研究所遺伝子機能研究チームによって作成されている Tosl 7によるイネの遺伝子破壊系統の中に、 OsYSL12が破壊された変異株 (NE7024) が見出された。この変異株は半分が不稔形質を示していた。したがって、 18個の Os YSLのうちのいくつか、特に OsYSL12が生殖段階で「金属一二コチアナミン」錯体の 輸送に関与して 、る可能性は高 、。
[0030] OsNASlと同様にプロモーター領域を j8—グルクロ-ダーゼ(GUS)遺伝子につな いだコンストラクトを作成し、形質転 ネを作出することにより、さらに詳細な発現の 変化を観察したり、発現している組織を特定したりすることが出来る。その形質転換
体を用いて様々な金属元素の欠乏、過剰処理を行うことで鉄やその他の金属元素の 植物体内での輸送や移行に関する知見が得られる。
例えば、 OsYSL2、 OsYSL6、 OsYSL9、 OsYSL13、 OsYSL14、 OsYSL15、 及び OsYSL16の各プロモーター領域 1. 5 Kbに GUSレポーター遺伝子をつない で、それぞれのコンストラクトを用いて、常法によりイネを形質転換対を作製して、様 々な金属元素の欠乏、過剰処理を行うことで鉄やその他の金属元素の植物体内で の輸送や移行に関する知見をえることができる。
今回ノーザン解析で発現が認められた OsYSLに関しては cDNAライブラリーのス クリーニングを行 、、得られたクローンがコードする OsYSLが「鉄 ムギネ酸類」また は「鉄一二コチアナミン」のトランスポート活性を有するかどうか確認しなければならな い。
また、井上ら (2001)が行った鉄欠乏イネへの鉄分の葉面散布の実験では、鉄を- コチアナミンとの錯体として与えた場合にはクロ口シスを回復した力 ムギネ酸類の一 種であるデォキシムギネ酸との錯体で与えた場合や、塩ィ匕第二鉄として与えた場合 にはクロ口シスの回復は見られなかった。このことは、イネの葉で発現している OsYS Lが、葉面力も与えられた「鉄-ニコチアナミン」錯体の吸収に関与していることを予測 させる。「鉄ーデォキシムギネ酸」錯体を与えた場合にクロ口シスを回復しなかったこと は興味深ぐ OsYSLは輸送する基質を厳しく選択している可能性がある。酵母の鉄 吸収変異株 frtlfet3frel(Bughio et al, 2002)を用いて相補実験を行えば、これらの O sYSLが「鉄 -コチアナミン」錯体と「鉄ーデォキシムギネ酸」錯体を選択して 、るの 力どうかが明らかになるだろう。
ニコチアナミンは鉄以外の遷移金属元素もキレートし、特に銅は-コチアナミンとの 錯体で導管内を輸送されている (Pich and Scholz, 1996)。また、亜鉛、マンガンなどの 金属元素の篩管を通じた輸送に-コチアナミンが関与して 、ると示唆されて 、る (Stphan and Scholz, Physiol. Plantarum, 88, 522-529 (1993))。銅や亜 マンガンな どの金属元素を吸収できない酵母の変異株(それぞれ ctrl (Dancis et al, 1994)、 zrtlzrt2 (Zao and Eide, 1996)、 smfl (Supek F., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 93, 5105-5110 (1996))を用いて、相補実験を行うことにより OsYSLが鉄以外の金属
元素の輸送に関与しているかどうかの知見を得ることができる。また、アフリカッメガエ ル卵母細胞に 18個の OsYSL遺伝子を発現させ、「鉄 ムギネ酸類」、「鉄 ニコチア ナミン」、「金属一二コチアナミン」錯体を輸送するかどうかを確かめることにより、これら のタンパク質が「鉄-ムギネ酸類」、「鉄-ニコチアナミン」、「金属-ニコチアナミン」錯 体のどの種類のトランスポーターであるかを確認することができる。
[0032] このために、本発明者らは、アフリカッメガエル卵母細胞を使用して OsYSL2の輸 送活性と基質特異性を調べた。 OsYSL2を卵母細胞で発現させ、各種の基質で誘 発される 60mVの電流を測定した。この結果を図 23にグラフで示す。図 23aは、各種 の基質にっ 、ての電流( μ Α)を測定した結果を示し、図 23bは鉄とマンガンのニコ チアナミン (NA)と 2'—デォキシムギネ酸 (DMA)錯体につ 、ての基質添加後の電 流 A)の変化を示す。この結果、驚いたことに、 OsYSL2は Fe (II)— NAと Μη(Π) NAを輸送した力 DMA錯体はいずれも輸送しないことがわかった。これによつて 、 OsYSL2は、イネの金属 DMA錯体ではなぐ金属 NA錯体の輸送のための機 能を有することが判明した。また、 OsYSL2が鉄の他に Mn(II)— NAを輸送する機能 を有することから、マンガンの欠乏が OsYSL2の発現を引き起こすかどうかをノーザ ンブロット解析で検討した力 OsYSL2の転写は Mnマンガン欠乏イネの根でも葉で も増加しな力つた (ここでは、データは示さない。 ) o
以上のことから、本発明の OsYSL2が、穀物植物におけるミネラル栄養素の篩部の 輸送と移動にかかわる Feの制御下における金属 NAのトランスポーターであること が確証された。
[0033] 本発明の 18個の OsYSLは、全て細胞膜に存在すると予測された。しかし、鉄欠乏 処理によって発現が抑制された OsYSL6や OsYSL13がイネの鉄過剰に対する耐 性に関与しているとすれば、 OsYSL6や OsYSL13は細胞膜に存在するよりも、液 胞膜に存在する可能性が高い。ピッチら(Pich A., et al. Planta, 213, 967-976 (2001) )は、鉄過剰処理したトマトの液胞中の-コチアナミン濃度が増加したと報告している 。液胞は葉緑体におけるフェリチンと共に鉄の貯蔵に関与していると考えられており、 ピッチら(Pich et al.(2001))は細胞質に存在する過剰な鉄は-コチアナミンとともに液 胞に輸送されて 、ることを示唆して 、る。この機構に本発明の OsYSL6や OsYSLl
3が関与しているものと考えられる。このような細胞内での局在は、 sGFPなどとの融 合タンパク質を用いて確認することができる。
[0034] 本発明のイネの鉄やマンガンなどの金属錯体の吸収や輸送に関与するトランスポ 一ター(OsYSL)は、配列表の配列番号 1一 18に示されるアミノ酸配列を有するイネ 由来のものに限定されるものではなぐイネにおける鉄やマンガンなどの金属錯体の 吸収や輸送に関与するトランスポーターとしての機能を有するものであれば、その一 部のアミノ酸が欠失し、若しくはその一部のアミノ酸が他のアミノ酸で置換され、及び Z又は他のアミノ酸のいくつかが付加されたものであってもよいが、配列番号 1一 18 に示されるアミノ酸配列と少なくとも 80%以上、好ましくは 85%以上又は 90%以上や 95%以上の相同性を有しているアミノ酸配列を有するタンパク質が包含される。 本発明のイネのトランスポーターにおける金属元素としては、鉄、マンガン、亜鉛、 銅、コバルト、ニッケルなどの-コチアナミンと安定な錯体を形成する金属元素であり 、好ましい金属元素としては鉄、マンガン、亜鉛、銅などが挙げられ、これらの金属元 素の 1種又は 2種以上の吸収や輸送に関与するものである。本発明のイネのトランス ポーターにおける好ましい金属元素としては、例えば、鉄、鉄とマンガン、鉄と亜鉛な どが挙げられる。
また、本発明の遺伝子は、前記した本発明のイネの鉄やマンガンなどの金属錯体 の吸収や輸送に関与するトランスポーター(OsYSL)をコードするものである。本発 明の遺伝子としては、 DNAでも RNAでもよい。好ましい本発明の遺伝子としては、 配列表の配列番号 19一 36に示される塩基配列を有するものが挙げられる力 これ に限定されるものではなく、これとストリンジェントな条件下でハイブリダィズ可能な配 列も包含される。
[0035] また、本発明は前記した本発明の遺伝子の一部の配列からなるオリゴヌクレオチド を提供するものである。本発明のオリゴヌクレオチドは、前記した本発明の遺伝子の 一部の配列からなるものであり、好ましくは 10— 150塩基、 10— 100塩基、 10— 50 塩基、また 15— 150塩基、 15— 100塩基、 15— 50塩基程度、より好ましくは 15— 3 0塩基程度の長さを有するものである。本発明のオリゴヌクレオチドは、本発明の遺伝 子を増幅させる際のプライマーや、本発明の遺伝子を検出や同定する際のプローブ
などとして有用なものである。
[0036] 本発明は、前記した本発明の遺伝子を含有してなるベクターを提供するものでもあ る。本発明のベクターは、前記した本発明の遺伝子をコードする塩基配列を含有す るものである。本発明のベクターは、必要により任意のプロモーターを付カ卩してもよい し、既に用意されて 、るプロモーター領域の下流側に本発明の遺伝子を有するもの であってもよい。また、本発明のベクターは、本発明の遺伝子を含有しているもので あれば、如何なる用途に使用されるものであってもよぐ例えば、発現用のベクターで あってもょ 、し、クローユング用のベクターであってもよ!/、。
また、本発明は、本発明の遺伝子、又は本発明の遺伝子を含有する遺伝子が導入 された形質転換体を提供する。導入される遺伝子は本発明の遺伝子が単独で導入 されてもよいし、本発明の遺伝子に、さらに必要なプロモーター領域やシグナル領域 などを付加した遺伝子として、導入することもできる。遺伝子の導入方法としては、プ ラスミドゃファージなどを用いる公知の導入手段を採用できる。
本発明の形質転換体の宿主細胞としては、特に制限は無く動物細胞や植物細胞 などを任意に選定することができる。本発明のイネの鉄やマンガンなどの金属錯体の 吸収や輸送に関与するトランスポーター (OsYSL)を製造する場合には、大腸菌など を宿主細胞とすることができるし、また本発明の遺伝子を用いて他の植物を形質転換 する場合にはイネやトウモロコシ、トマト、シロイヌナズナなどの植物細胞を宿主細胞 とすることができる。
[0037] また、本発明は、 OsYSL2が、植物体内における鉄錯体及び Z又はマンガン錯体 、好ましくはニコチアナミン錯体の輸送に関与しているトランスポーターであることを明 らかにしたものである。鉄などの金属成分は植物の発育や成長に必要なだけでなぐ 植物を食糧としている人間の栄養補給の点からも重要である。特に、本発明の OsYS L2は植物の生殖成長における鉄分やマンガン成分の輸送に大きく関与しており、鉄 分やマンガン成分の強化された植物体の製造に有用となる。
本発明の OsYSL2は、植物における鉄錯体及び/又はマンガン錯体の体内輸送 に関与しており、これを用いて植物の体内における鉄錯体及び Z又はマンガン錯体 の輸送や蓄積を調節することが可能であり、本発明は当該 OsYSL2を用いた植物に
おける鉄錯体及び Z又はマンガン錯体の体内輸送の調整方法を提供するものであ る。
本発明の調整方法としては、本発明の OsYSL2、例えば、配列表の配列番号 2に 記載のアミノ酸配列、又はその一部のアミノ酸が欠失若しくは置換され、及び Z又は 他のアミノ酸が付加されることにより配列番号 2に示されるアミノ酸配列と 80%以上の 相同性を有して 、るアミノ酸配列をコードする遺伝子、好ましくは配列表の配列番号 20に示される塩基配列を有する遺伝子を植物に導入する方法が挙げられる。植物と しては、鉄成分やマンガン成分の輸送が行える植物であれば特に制限はないが、本 発明の OsYSL2がイネ由来であることから、イネ科植物が好ましいがこれに限定され るものではない。
本発明のこの方法により、鉄分が強化された植物、例えば、野菜や果実などを製造 することも可能となり、本発明の OsYSL2は鉄分などの金属成分の強化された植物 の製造に極めて有用である。
発明の効果
本発明は、鉄やマンガンなどの金属錯体の吸収や輸送が強化された潜在的に鉄 などの金属元素欠乏発生土壌においても生育可能なイネを創出するために必須とな るイネの鉄やマンガンなどの金属錯体の吸収や輸送に関与する、「鉄 ムギネ酸類」 錯体トランスポーター及びそれをコードする遺伝子、「鉄一二コチアナミン」錯体トラン スポーター及びそれをコードする遺伝子、並びに「マンガンなどの金属 ニコチアナミ ン」錯体トランスポーター及びそれをコードする遺伝子を提供するものである。本発明 のトランスポーターは、イネの細胞又は細胞内のオルガネラが「三価鉄 ムギネ酸類」 、「二価鉄-ニコチアナミン」錯体となっている鉄や、「金属-ニコチアナミン」錯体とな つている金属錯体を内部に取り込むために必須の膜輸送体であるトランスポーターを 提供するものであり、鉄やマンガンなどの金属元素の吸収や輸送が強化された潜在 的鉄及び金属元素欠乏発生土壌においても生育可能なイネを創出するために必須 となるタンパク質であり遺伝子である。さらにイネ種子に鉄及び金属元素を集積させ 栄養価の高い米を作出するためにも必須である。本発明のトランスポーターが有する それぞれの機能に着目して、イネを生育させる土壌に応じたトランスポーターを有す
る新規なイネを創出することが可能となり、イネの耕作範囲を拡大することが可能とな るため、世界の食糧問題の解決の糸口となる。さらに鉄および金属元素を種子可食 部に集積させ、栄養価の高い米を作出することが可能になり、ヒトの鉄欠乏性貧血、 金属元素欠乏症の解消に寄与することが可能となる。
図面の簡単な説明
[図 1]図 1は、シロイヌナズナのトランスポーターの予想されるゲノム構造を模式的に 示したものである。
[図 2]図 2は、本発明のイネのトランスポーターの発現をノーザン解析によって確認し た結果を示す図面に変わるカラー写真である。
[図 3]図 3は、本発明のイネの 18個のトランスポーターとトウモロコシの YS1とのアミノ 酸配列を比較した 3枚の図面の 1枚目である。
[図 4]図 4は、本発明のイネの 18個のトランスポーターとトウモロコシの YS1とのアミノ 酸配列を比較した 3枚の図面の 2枚目である。
[図 5]図 5は、本発明のイネの 18個のトランスポーターとトウモロコシの YS1とのアミノ 酸配列を比較した 3枚の図面の 3枚目である。
[図 6]図 6は、本発明のイネの 18個のトランスポーターの塩基配列を比較した 9枚の 図面の 1枚目である。
[図 7]図 7は、本発明のイネの 18個のトランスポーターの塩基配列を比較した 9枚の 図面の 2枚目である。
[図 8]図 8は、本発明のイネの 18個のトランスポーターの塩基配列を比較した 9枚の 図面の 3枚目である。
[図 9]図 9は、本発明のイネの 18個のトランスポーターの塩基配列を比較した 9枚の 図面の 4枚目である。
[図 10]図 10は、本発明のイネの 18個のトランスポーターの塩基配列を比較した 9枚 の図面の 5枚目である。
[図 11]図 11は、本発明のイネの 18個のトランスポーターの塩基配列を比較した 9枚 の図面の 6枚目である。
[図 12]図 12は、本発明のイネの 18個のトランスポーターの塩基配列を比較した 9枚
の図面の 7枚目である。
[図 13]図 13は、本発明のイネの 18個のトランスポーターの塩基配列を比較した 9枚 の図面の 8枚目である。
[図 14]図 14は、本発明のイネの 18個のトランスポーターの塩基配列を比較した 9枚 の図面の 9枚目である。
[図 15]図 15は、本発明のイネのトランスポーター(OsYSL)、トウモロコシのトランスポ 一ター(YS1)、及びシロイヌナズナのトランスポーター(AtYSL)の YSLファミリーの 分子系統榭を示したものである。
[図 16]図 16は、本発明の OsYSL2と GFPの融合タンパク質をタマネギの表皮細胞 で発現させた結果を示す図面に代わるカラー写真である。図 16aは OsYSL2— GFP 融合タンパク質の場合を示し、図 16bは GFPタンパク質単独の場合を示す。
[図 17]図 17は、イネの根における本発明の OsYSL2のプロモーターの発現をレポ一 ター遺伝子 GUSにより解析した結果を示す図面に代わるカラー写真である。 GUSの 発現を青色で示している。図 17aは鉄十分条件の場合を示し、図 17bは鉄欠乏条件 の場合を示す。各図の挿入は中心柱の中の篩部細胞の拡大写真である。
[図 18]図 18は、イネの葉鞘の維管束における本発明の OsYSL2のプロモーターの 発現をレポーター遺伝子 GUSにより解析した結果を示す図面に代わるカラー写真で ある。 GUSの発現を青色で示している。図 18bはその拡大写真であり、矢印は伴細 胞での発現を示している。
[図 19]図 19は、イネの葉における本発明の OsYSL2のプロモーターの発現をレポ一 ター遺伝子 GUSにより解析した結果を示す図面に代わるカラー写真である。 GUSの 発現を青色で示している。図 19aは鉄十分条件の場合を示し、図 19bは鉄欠乏条件 の場合を示す。各図における矢印は、伴細胞での強い発現を示している。
[図 20]図 20は、イネの花と種子における維管束での本発明の OsYSL2のプロモータ 一の発現をレポーター遺伝子 GUSにより解析した結果を示す図面に代わるカラー写 真である。 GUSの発現を青色で示している。図 20aは開花の前の場合を示し、図 20 bは受精後の結果を示し、図 20cは受精後 5日目の結果を示し、図 20dは受精後 8日 目の結果を示し、図 20eは受精後 20日目の結果を示し、図 20fは受精後の 30日目
の結果をそれぞれ示す。
[図 21]図 21aは、本発明のイネのトランスポーター OsYSL2のアミノ酸配列を ZmYS 1と比較したものである。図 21bは、本発明のイネのトランスポーター OsYSL2のアミ ノ酸配列を模式的に記載したものである。丸印が個々のアミノ酸を示している。
[図 22]図 22は、本発明のイネのトランスポーター OsYSL2の RT— PCR解析の結果 を示す図面に代わる写真である。
[図 23]図 23は、本発明のイネのトランスポーター OsYSL2による金属キレート錯体の 基質による誘発電流を測定した結果を示すグラフである。
[0040] 以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によ り何ら限定されるものではない。
実施例 1
[0041] イネゲノムデータベースを利用したイネのトランスポーター(OsYSL)の探索
イネの鉄及び他の金属錯体の吸収や輸送に関与するトランスポーターを見出すた めに、ジャポニカ種のイネのゲノムデーターベースである、 Oryza sativa L. ssp.
japonica (cv. Nipponbare (uolf et al., 2002)(http:/ノ portal. tmri.org/rice/)を用いて、 トウモロコシのトランスポーターである YS1と高い相同性をもつタンパク質をコードす るイネの遺伝子(OsYSL)をブラスト(Blast)検索 (Atlschul et al., 1990)した。
しかし、このデータベースは完成されたものではなぐ各コンテイダがばらばらの状 態での開示であり、そのため検索で得られた YS 1に相同性が高いコンテイダも OsYS Lの全長を含んでいない場合が多力つた。また、塩基解読の精度もそれほど高くなく 、不明の塩基も数多くあった。
そこで、本発明者らは、インディ力種のイネについてのゲノムデーターベースである Oryza sativa L. ssp. indica (cv. 91-11) (Yu et al.,
2002)(http:〃 btn.genomics.org.cn/rice/)を検索することで得られたインディ力種の Os YSLの塩基配列も参考にした。これらの配列を基に、ばらばらになっていたジャポ二 力種の OsYSLについても断片をつなぎ合わせ、推測される全長を同定した。この結 果、合計 18個の OsYSLが見出された。これらのトランスポーターをそれぞれ OsYSL 1一 18と命名した。
この配列に基づ 、て、シロイヌナズナのトランスポーターである AtYSL3のゲノム配 列から、イネにおけるこれらの配列を決定した。決定されたそれぞれのアミノ酸配列を 配列表の配列番号 1一 18にそれぞれ示す。また、その塩基配列を配列表の配列番 号 19一 36にそれぞれ示す。
決定されたアミノ酸配列とトウモロコシの YS 1とのアミノ酸の比較を図 3— 5に順次示 す。また、これらの OsYSLl— 18の塩基配列の比較を図 6— 14に順次示す。
このようにして得られた OsYSLl— 18は、予測されたアミノ酸配列がトウモロコシの YS1と高い相同性を示したこと(図 3— 5参照)、そのうちのいくつかはイネゲノムプロ ジェタトによる完全長 cDNAライブラリーに一致する cDNAが発見されたことから、本 発明の推測は極めて精度の高いものであると考えられた。これらのタンパク質は全て 7個から 16個の膜貫通領域を持つと推測され、 YS1と同様に膜タンパク質である可 能性が高いことも明らかとなった。
実施例 2
試料用のイネの調製
試料用のイネは、次に示す組成を有する水耕液で栽培した。
Ca(N03)2-4H20 2000 μ Μ
MgS04-7H20 500
Fe(lll) -EDTA lOO^M
K2S04 700 μ M
KC1 100 μ M
KH2P04 100 μ M
H3B03 lO^M
MnS04-5H20 0. 5 Μ
ZnS04-7H20 0. 5 Μ
CuS04-5H20 0. 2μΜ
(ΝΗ4)6Μο7024·4Η20 0. Ol^M
イネの第五葉目が展開した時に鉄欠乏処理を開始し、 10日間鉄を除いた水耕液 で栽培することで鉄欠乏処理を行った。コントロール条件のイネはそれまでと同じ濃
度の鉄を加えた水耕液で栽培した。処理後 10日目にコントロール区、鉄欠乏区とも にサンプリングを行った。
実施例 3
[0043] ノーザン解析用のプローブの調製
前記表 1に示すプライマー対を設計し、ゲノム DNAを铸型にして PCRを行った。 O sYSLl、 OsYSL8、 OsYSL16の PCRには KOD— plus— (TOYOBO)を、その他 の遺伝子の PCRには ExTaq (TaKaRa)を DNAポリメラーゼとして用いた。 OsYSL 1の増幅の際、反応液に DMSOを終濃度 5% (vZv)になるように加えた。 KOD-pl us—で増幅された断片は pCR4Blunt— TOPO (Invitrogen)に、その他の断片は pC R4— TOPO (Invitrogen)にクローユングした。クローユングの方法はキットに付属のプ ロトコールに従った。塩基配列を確認し、クローニングされた断片が目的のものである ことを確認した。
得られた断片を通常の方法により32 Pで標識ィ匕した。
実施例 4
[0044] ノーザン解析
実施例 2で栽培したイネをサンプリングして、根と葉の部分について、実施例 3で調 製したプローブを用いてノーザン解析を行った。
結果を図 2に示す。
実施例 5
[0045] OsYSL2— sGFPを含むプラスミドの構築とその発現
カリフラワーモザイクウィルス 35Sプロモータ一— sGFP (S65T) NOS3,の構造を 有するプラスミド PUC18は、丹羽博士 (静岡県立大学)力も提供された。このプラスミド は、 35Sプロモーターの 3,側に Sailと Ncolサイトを持っている。この Ncolサイト「CC ATGG」は、 sGFPの開始コドンを含んでいる。そして、この Ncolと Sailサイトの間に ァニールドオリゴマー (5'TCGAGATATCGGTACCAGATCTGAGCTCGAGGTCGA と 5'CTAGTCGACCTCGAGCTCAGATCTGGTACCGATATC)を挿入し、新し!/、Ec oR Vサイト(GATATC)を導入した。導入された EcoR Vサイトに、 5'末端に attR 1サイト、クロラムフエ-コール耐性遺伝子、 ccdBの遺伝子、及び attR2サイトカセット
を含む 1579bpのマルチサイトゲートウェイスリー断片 (Invitrogen)を挿入した。そし て、この修飾ベクターは、 pDEST35S— sGFPと命名され、デエステイネーシヨンべク ター(destination vector)として使用された。
一方、 OsYSL2の ORFを、 '5し CACCATGGAAGCCGCCGCTCCCGAGATAGと 3'- GCTTCCGGGAGTGAACTTCAGCAGの 2つのプライマーを用いて増幅した。 Os YSL2のコード配列を含む増幅された断片は、 pENTR/D— TOPO (Invitrogen)に サブクロー-ングされた。 OsYSL2のコード配列を含むこの pENTR/D— TOPOェ ントリーベクターは、 pENTR— OsYSL2と命名され、前記のデエステイネーシヨンべク ター(destination vector)とこのエントリーベクターの間のサブセキユエント LRリコンビ ネーシヨン反応(Invitrogen)〖こより、 35S— OsYSL2—sGFPをコードする遺伝子を含 む発現クローンを得た。
[0046] たまねぎ表皮細胞に、水野らの方法(Mizuno,D.,et al., Plant Physiol. 132,
1989-1997 (2003))パーティクルガン法(Biolistic PDS- 1000/He(BioRad))により前記 で製造したベクターを導入した。
また、同様に GFPのみを有するベクターを導入した。
遺伝子が導入され、可視化された結果を図 16に示す。
実施例 6
[0047] OsYSL2のプロモーターの 13ーグルクロ-ダーゼ(GUS)分析
OsYSL2の推定されるプロモーター領域(翻訳開始コドンからの— 1500—— lbp) を含むゲノム配列を、ゲノム DNAからの PCR法により増幅した。得られたイネのトラン スポーター OsYSL2のプロモーター領域 1. 5Kbに GUSレポーター遺伝子を結合さ せて、これをイネに導入した。イネへの形質転換及び GUS染色は井上らの方法( Inoue,H.,et al., Plant J. 36, 366-381 (2003))に準じて行った。
結果を、図 17—図 20にそれぞれ示す。
実施例 7
[0048] RT— PCR解析
イネの開花前、開花 5日後および開花 8日後の試料を処理して、 RT— PCR解析を 行った。その結果を図 22に図面に代わる写真で示す。図 22の左側のレーンは開花
前の場合を示し、中央のレーンは開花 5日後の場合を示し、右側のレーンは開花 8日 後の場合を示す。
実施例 8
[0049] アフリカッメガエル卵母細胞における OsYSL2の基質輸送能
OsYSL2を EcoRIと Xbalとで消化して、 OsYSL2の 2022bpの断片を得た。これ を、 pGEM—3zf (t)ベクターの EcoRI、 Xbalサイトに挿入した。得られたプラスミド pG EMYSL2Tを Xbalで消化して鎖状とした。キャップ付きの相補 RNA(cRNA)を、 MEGAscript SP6キット (TX、 Ambion、オースチン、米国)を用いてインビトロで合成し た。
卵母細胞は、ィガラシらの方法(Igarashi,Y.,ET al., Plant Cell Physiol. 41, 750-756 (2000) )により調製した。これに、前記で得た OsYSL2 cRNAの 10ngを注入した。 注入された卵母細胞は、 2日間の ND溶液で培養され、 pH7. 5で電気的測定に供 せられた。卵母細胞の膜の電流は、 TEV— 200システム (MN、 Dagan、ミネアポリス、 米国)を有する自動化された日立システムを使用する、 2—マイクロボルテージクランプ 法により測定した。卵母細胞は、— 60mVに固定され、そして、金属キレートの複合体 (10 /z L、 5mM)の添カ卩に対応した定常電流が得られた。電流は、 Mac Labシステム (NSW, Adinstruments、シドニーオーストラリア)で絶え間なくモニターして、分析した。 OsYSL2遺伝子が注入された独立している 6つの卵母細胞を、電流を測定するのに 使用した。また、コントロールとして 6つの独立している水注入の卵母細胞を用いた。 この結果を図 23に示す。
産業上の利用可能性
[0050] 本発明のトランスポーター及びその遺伝子は、鉄などの金属錯体の吸収や輸送が 強化された潜在的な鉄などの金属元素欠乏発生土壌においても生育可能なイネを 創出するために必須となるイネの金属錯体の吸収や輸送に関与するものである。ま た、地球上には鉄などの金属元素欠乏発生土壌が広大に存在し、このような土壌に おいても生育できるイネなどの穀物植物を創出することは、世界の食糧問題を解決 する上で極めて有効な方法である。また、鉄などの金属元素のミネラル含量の高い 米を作出することは、ヒトの鉄欠乏性貧血、金属元素欠乏症を解消するために有効
である.
本発明は、イネの「鉄 ムギネ酸類」錯体トランスポーター及びそれをコードする遺 伝子、「鉄一二コチアナミン」錯体トランスポーター及びそれをコードする遺伝子、並び に「金属一二コチアナミン」錯体トランスポーター及びそれをコードする遺伝子を提供 するものであり、潜在的な鉄などの金属元素欠乏発生土壌においても生育可能なィ ネ^ iij出するため、さらに鉄および金属元素を種子可食部に集積させた栄養価の高 い米を作出するために不可欠の、鉄などの金属錯体の吸収や輸送に関与するタン パク質及びその遺伝子を提供するものであり、産業上極めて有用なものである 配列表フリーテキスト
配列番号 1 OsYSLlのアミノ酸配列
配列番号 2 OsYSL2のアミノ酸配列
配列番号 3 OsYSL3のアミノ酸配列
配列番号 4 OsYSL4のアミノ酸配列
配列番号 5 OsYSL5のアミノ酸配列
配列番号 6 OsYSL6のアミノ酸配列
配列番号 7 OsYSL7のアミノ酸配列
配列番号 8 OsYSL8のアミノ酸配列
配列番号 9 OsYSL9のアミノ酸配列
配列番号 10 OsYSLlOのアミノ酸配列
配列番号 11 OsYSLl 1のアミノ酸配列
配列番号 12 OsYSLl 2のアミノ酸配列
配列番号 13 OsYSLl 3のアミノ酸配列
配列番号 14 OsYSL14のアミノ酸配列
配列番号 15 OsYSLl 5のアミノ酸配列
配列番号 16 OsYSLl 6のアミノ酸配列
配列番号 17 OsYSLl 7のアミノ酸配列
配列番号 18 OsYSLl 8のアミノ酸配列
配列番号 19 OsYSLlの塩基配列
配列番号 20 OsYSL2の塩基配列 配列番号 21 OsYSL3の塩基配列 配列番号 22 OsYSL4の塩基配列 配列番号 23 OsYSL5の塩基配列 配列番号 24 OsYSL6の塩基配列 配列番号 25 OsYSL7の塩基配列 配列番号 26 OsYSL8の塩基配列 配列番号 27 OsYSL9の塩基配列 配列番号 28 OsYSLlOの塩基配列 配列番号 29 OsYSLl lの塩基配列 配列番号 30 OsYSL12の塩基配列 配列番号 31 OsYSL13の塩基配列 配列番号 32 OsYSL14の塩基配列 配列番号 33 OsYSL15の塩基配列 配列番号 34 OsYSL16の塩基配列 配列番号 35 OsYSL17の塩基配列 配列番号 36 OsYSL18の塩基配列