JP3564537B2 - 植物のRan遺伝子変異体、および該変異体を用いた植物の開花時期の促進方法 - Google Patents

植物のRan遺伝子変異体、および該変異体を用いた植物の開花時期の促進方法 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、植物のRan遺伝子変異体、および該変異体を用いた植物の開花時期促進に関する。
【0002】
【従来の技術】
植物において開花を促進することは園芸や農業の分野において重要な意義を有する。植物の開花時期を促進することによって、例えば観賞用植物においては、商品を市場へ提供するまでの期間を短縮させること、イネなどの有用農作物においては収穫までの期間を短縮させることが可能となる。さらに、植物の開花時期を促進することによって、観賞用植物や有用農作物の増産が可能となる。
【0003】
植物の開花時期の促進に関する研究としては、近年分子遺伝学的研究において解析が行われ報告されている。花成時期に関与する遺伝子としては、具体的にはCO、FT、SOC1遺伝子が知られており、特に、FT遺伝子においては、LFY遺伝子を同時に強制発現すると早期に花成が誘導される(「花成を制御する複数の経路を統合する遺伝子」荒木崇、化学と生物、38巻、12号、826−829、2000年発行)。
【0004】
一方、核膜の形成や、有糸分裂の際の微小管の形成や細胞周期の制御など生体内の非常に重要な現象に関与する因子としてRanタンパク質が知られている。Ranタンパク質はsmall GTPase と呼ばれる一群のタンパク質のファミリーに属する。このファミリーのタンパク質には、GTP結合型とGDP結合型の2種類の存在形態があり、その変換のサイクルが生体機能に重要であることが一般に知られている。GTP結合型Ranタンパク質はおもに核内に、GDP結合型Ranタンパク質は主に細胞質に存在し、タンパク質などの生体物質の輸送の方向性を規定していると考えられている。
【0005】
最近、酵母や動物のRanタンパク質の解析から、N末端側に存在するスレオニン残基をアスパラギン残基に置き換えると、GTPに対する親和性が著しく低下することが明らかとなった。しかしながら、この変異の生体に対する影響は解明されていない。特に、この変異体が植物に与える影響に関する報告例は皆無である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、植物のRan遺伝子変異体の植物に与える影響を見出すことにある。さらに、本発明は、植物のRan遺伝子変異体の植物に与える影響を利用して植物を改変することを目的とする。より詳しくは、本発明は、植物のRan遺伝子変異体、および該変異体の植物の開花時期の促進における用途を提供する。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、イネ由来のRan遺伝子について変異体を作製し、該変異体の植物における影響を分子遺伝学研究のモデル植物として知られるシロイナズナを利用して検証した。
【0008】
その結果、驚くべきことに、イネRan遺伝子変異体を導入したシロイナズナでは、その開花時期が促進されることが判明した。この事実は、植物のRan遺伝子変異体を利用して、植物の開花時期を促進できることを意味するとともに、このようなRan遺伝子変異体を利用した植物の改変が種の壁を越えて広く植物に適用できることを意味する。本発明によれば、例えば観賞用植物や有用農作物等の収穫時期を早め、早期に市場へ提供することが可能となる。また、これら植物の増産も可能となる。
【0009】
即ち、本発明は、植物のRan遺伝子変異体、および該Ran遺伝子変異体を利用した植物の開花時期の促進に関し、より具体的には、
〔1〕 植物の開花時期を促進するDNAであって、植物由来のRanタンパク質変異体をコードするDNA。
〔2〕 Ranタンパク質変異体が配列番号:1に記載のイネ由来の野生型Ranタンパク質のアミノ酸配列の27位のスレオニン残基、または他の植物由来のRanタンパク質のアミノ酸配列のそれと対応する部位のアミノ酸残基に変異を有するものである〔1〕に記載のDNA。
〔3〕 変異が、スレオニン残基からアスパラギン残基への置換変異である〔2〕に記載のDNA。
〔4〕 〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
〔5〕 〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAを発現可能に保持する形質転換植物細胞。
〔6〕 〔5〕に記載の形質転換植物細胞を含む形質転換植物体。
〔7〕 〔6〕に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
〔8〕 〔6〕または〔7〕に記載の形質転換植物体の繁殖材料。
〔9〕 〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のDNAを植物に導入することを特徴とする植物の開花時期を促進する方法、を提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、植物のRan遺伝子変異体を利用することにより、植物の開花時期を促進できることを初めて見出した。従って、本発明は、植物の開花時期を促進するDNAであって、植物由来のRanタンパク質変異体をコードするDNAを提供する。
【0011】
本発明のRanタンパク質変異体をコードするDNAの由来としては、植物であれば特に制限はない。本実施例において、単子葉植物であるイネに由来するRan遺伝子変異体が、双子葉植物であるシロイナズナの開花時期を促進した。このことは、種の壁はもちろんのこと、単子葉植物と双子葉植物の壁を越えてRan遺伝子変異体が機能することを意味する。従って、植物の開花時期の促進に用いるRan遺伝子変異体は、単子葉植物であっても双子葉植物であってもよい。例えばイネ、トウモロコシ、コムギ等の単子葉植物由来、あるいはタバコ、シロイナズナ、ダイズ、ワタ、トマト、ジャガイモ、キク、バラ、カーネーション、シクラメン等の双子葉植物を例示することができる。
【0012】
本発明のRanタンパク質変異体をコードするDNAを導入する「植物」としては、特に制限はなく、その開花時期を促進させたい所望の植物を用いることができるが、鑑賞用植物や有用農作物が好適である。有用農作物としては、例えばイネ、トウモロコシ、コムギ等の単子葉植物や、ナタネ、ダイズ、ワタ、トマト、ジャガイモ等の双子葉植物が挙げられる。また、観賞用植物としては、例えばキク、バラ、カーネーション、シクラメン等の花卉植物が挙げられる。
【0013】
本発明の「Ranタンパク質変異体」における変異部位、変異数、および、変異タイプは、植物の開花時期を促進しうる限り制限はない。好ましい変異体は、Ranタンパク質のN末端に存在する生物種間で保存性の高いアミノ酸残基に変異を有する変異体である。このN末端の保存性の高いアミノ酸として、具体的には、イネRanタンパク質のアミノ酸配列において27位のスレオニン、またはイネ以外の植物においては、該27位に対応する部位のアミノ酸残基(通常スレオニン)を例示することができる。このアミノ酸残基に変異を有すると、GTPに対する親和性が著しく低下することが知られている。本発明のRanタンパク質変異体は、好ましくは、GTPに対する親和性が著しく低下しているものである。このGTPに対する親和性の低下が、開花時期の促進に関連することが推察される。イネRanタンパク質のアミノ酸配列(配列番号:2)における、27位のスレオニン残基、もしくはイネ以外の植物において該27位に相当する部位のアミノ酸残基の他のアミノ酸への置換においては、植物の開花時期を促進しうる限り、置換後のアミノ酸残基の種類に特に制限はない。例えばアスパラギン残基への置換が挙げられる。
【0014】
本発明におけるRanタンパク質変異体は、例えば、野生型Ran遺伝子(配列番号:1)を改変することにより取得することができる。Ran遺伝子の改変は、当業者においては、一般的な遺伝子工学技術を用いて行うことができる。例えば、Ran遺伝子配列に基づいて作成した合成オリゴヌクレオチドプローブ、またはオリゴヌクレオチドプライマーを用い、公知の方法でDNAライブラリーから、ハイブリダイゼーションまたはポリメラーゼ・チェイン・リアクション(PCR)によりRan遺伝子をクローニングした後、人工的に変異を導入する方法が挙げられる。ただし、本発明におけるDNAは、このような人工的に作製されたもの以外に、天然に存在するものであってもよい。
【0015】
以下に、植物のcDNAライブラリーから、PCRによって本発明のDNAの一部を合成し、それをプローブとして用いたハイブリダイゼーションによって、Ran遺伝子をクローニングした後、変異を導入する具体的な方法を例示する。
【0016】
(1)mRNAの調製およびcDNAライブラリーの構築
植物の茎葉、根、カルス等の組織、好ましくは茎葉から、常法により全RNAを抽出した後、タンパク質、多糖類、その他の夾雑物を取り除き、さらにオリゴdTセルロースを充填したカラムを用いてPoly(A)RNAを精製することによって、mRNAを得る。
【0017】
次に、mRNAからcDNAを合成し、これをファージベクター、例えばλgtII、λZAPII等に組み込み、組み換えファージを得る。これらを宿主(例えば大腸菌)に感染させることにより、プラークを多数得ることができる。これら一連の操作はcDNAクローニングキットが市販されているのでこれらを使用してもよい。
【0018】
(2)クローニング用プローブの作製およびcDNAライブラリーのスクリーニング
cDNAライブラリーの中から目的とするRanタンパク質をコードするcDNAを単離するために、既知のRan遺伝子で保存されている塩基配列を基に設計したオリゴヌクレオチドを合成し、これをプライマーとして上記で抽出したcDNAを鋳型とし、PCR法によってRanタンパク質の一部をコードするプローブとして使用し、cDNA断片を得る。このようなプライマーは、植物のRan遺伝子の塩基配列、およびアミノ酸配列を基に、化学合成によりプライマーを得ることができる。
【0019】
次に、このプライマーを用いたPCRにより、植物のcDNAを増幅してRanタンパク質の一部をコードするプローブDNAを取得する。得られたプローブDNAを放射標識や蛍光標識により標識し、ハイブリダイゼーションを行う。
【0020】
(3)クローニングされたDNAの塩基配列解析
上記のハイブリダイゼーションで選抜されたプラークからファージを採取し、さらにその中からファージDNAを回収して、ジデオキシ法等により、挿入DNA断片の塩基配列を決定する。その塩基配列中のタンパク質コード領域(オープンリーディングフレーム)から推定されるアミノ酸配列を、既知のアミノ酸配列と比較する。比較を行うための配列整列化方法は、当技術分野において周知である。具体的には、BLASTn(核酸レベル)またはBLASTx(アミノ酸レベル)のプログラムを利用して配列の比較を行い、高い相同性であるかを検討することにより、目的とするRanタンパク質をコードするcDNA断片であることを確認することができる。高い相同性とは、少なくとも50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上の配列の同一性を指す。配列分析プログラムBLASTnまたはBLASTxは、National Center for Biotechnology Information(NCBI、Bethesda、MD)を含むいくつかのソース及びインターネット上から入手可能である。それは、http//www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/でアクセス可能である。BLASTnに基づいて塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 100、wordlength = 12とする。また、BLASTに基づいてBLASTxによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターはたとえば score = 50、wordlength = 3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0021】
(4)DNAの改変
DNA配列の一部分の領域にある塩基配列を改変するための当業者によく知られた方法としては、Kunkel法(Methods in Enzymology, 154巻, 367号)およびオリゴヌクレオチド−ダイレクトデュアルアンバー法等が知られている。具体的には、植物のRanタンパク質をコードするDNAの断片を、pBluescriptSK等のプラスミドベクターの制限酵素切断部位に挿入し、連結してなる組み換えプラスミドベクターを作製する。次に、4種類のプライマーを用いて、後記の実施例において記載した手順によるDNA改変方法により、改変DNAを得ることができる。
【0022】
また本発明は、本発明のRanタンパク質変異体をコードするDNAを有するベクター、該DNAを発現可能に保持する形質転換植物細胞、該形質転換植物細胞を含む形質転換植物体、該形質転換植物体の子孫またはクローンである形質転換植物体、該形質転換植物体の繁殖材料を提供する。
【0023】
本発明のDNAの植物細胞への導入は、当業者においては、公知の方法、例えばアグロバクテリウム法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション法)、パーティクルガン法により実施することができる。
【0024】
上記アグロバクテリウム法を用いる場合、例えばNagelらの方法(Microbiol.Lett.,67,325(1990))が用いられる。この方法によれば、組み換えベクターをアグロバクテリウム細菌中に形質転換して、次いで形質転換されたアグロバクテリウムを、リーフディスク法等の公知の方法により植物細胞に導入する。上記ベクターは、例えば植物体に導入した後、本発明のDNAが植物体中で発現するように、発現プロモーターを含む。一般に、該プロモーターの下流には本発明のDNAが位置し、さらに該DNAの下流にはターミネーターが位置する。この目的に用いられる組み換えベクターは、植物への導入方法、または植物の種類に応じて、当業者によって適宜選択される。上記プロモーターとして、例えばカリフラワーモザイクウイルス由来のCaMV35S、トウモロコシのユビキチンプロモーター(特開平2−79983号公報)等を挙げることができる。また、上記ターミネーターは、カリフラワーモザイクウイルス由来のターミネーター、あるいはノパリン合成酵素遺伝子由来のターミネーター等を例示することができるが、植物体中で機能するプロモーターやターミネーターであれば、これらに限定されない。
【0025】
また、本発明のDNAを導入する植物は、外植片であってもよく、これらの植物から培養細胞を調製し、得られた培養細胞に導入してもよい。本発明の「植物細胞」は、例えば葉、根、茎、花および種子中の胚盤等の植物の細胞、カルス、懸濁培養細胞等が挙げられる。
【0026】
また、本発明のDNAの導入により形質転換した植物細胞を効率的に選択するために、上記組み換えベクターは、適当な選抜マーカー遺伝子を含む、もしくは選抜マーカー遺伝子を含むプラスミドベクターと共に植物細胞へ導入するのが好ましい。この目的に使用する選抜マーカー遺伝子は、例えば、抗生物質ハイグロマイシンに耐性であるハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、カナマイシンまたはゲンタマイシンに耐性であるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ、および除草剤ホスフィノスリシンに耐性であるアセチルトランスフェラーゼ遺伝子等が挙げられる。
【0027】
組み換えベクターを導入した植物細胞は、導入された選抜マーカー遺伝子の種類に従って適当な選抜用薬剤を含む公知の選抜用培地に置床し培養する。これにより形質転換された植物培養細胞を得ることができる。
【0028】
次いで、本発明のDNAを導入した形質転換細胞から植物体を再生する。植物体の再生は植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Tokiら (1995) Plant Physiol. 100:1503−1507参照)。例えば、イネにおいては、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(インド型イネ品種が適している)を再生させる方法(Datta,S.K. (1995) In Gene Transfer To Plants (Potrykus I andSpangenberg Eds.) pp66−74)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(日本型イネ品種が適している)を再生させる方法(Toki et al (1992) Plant Physiol. 100, 1503−1507)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou et al. (1991) Bio/technology, 9: 957−962.)およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei et al. (1994) Plant J. 6: 271−282.)など、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。
【0029】
形質転換細胞から再生させた植物体は、次いで順化用培地で培養する。その後、順化した再生植物体を、通常の栽培条件で栽培すると、数ヶ月の栽培により花形成が認められ成熟して結実して種子を得ることができる。
【0030】
なお、このように再生され、かつ栽培した形質転換植物体中の導入された外来DNAの存在は、公知のPCR法やサザンハイブリダイゼーション法によって、または植物体中のDNAの塩基配列を解析することによって確認することができる。
【0031】
この場合、形質転換植物体からのDNAの抽出は、公知のJ.Sambrookらの方法(Molecular Cloning、第2版、Cold Spring Harbor laboratory Press,1989)に準じて実施することができる。
【0032】
再生させた植物体中に存在する本発明のDNAよりなる外来遺伝子を、PCR法を用いて解析する場合には、上記のように再生植物体から抽出したDNAを鋳型として増幅反応を行う。また、本発明のDNA、あるいは本発明により改変されたDNAの塩基配列に従って適当に選択された塩基配列をもつ合成したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用い、これらを混合させた反応液中おいて増幅反応を行うこともできる。増幅反応においては、DNAの変性、アニーリング、伸張反応を数十回繰り返すと、本発明のDNA配列を含むDNA断片の増幅生成物を得ることができる。増幅生成物を含む反応液を例えばアガロース電気泳動にかけると、増幅された各種のDNA断片が分画されて、そのDNA断片が本発明のDNAに対応することを確認することが可能である。
【0033】
一旦、染色体内に本発明のDNAが導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。本発明には、本発明のDNAが導入された植物細胞、該細胞を含む植物体、該植物体の子孫およびクローン、並びに該植物体、その子孫、およびクローンの繁殖材料が含まれる。
【0034】
このように、変異体を植物に導入して、花形成を制御するには、例えば、本発明のDNAを適当なベクターに挿入して、これを植物細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させる方法等が挙げられる。また、本発明のDNAを適当なベクター(ウイルスベクター)に挿入し、これを植物に感染させる方法等も挙げられる。
【0035】
また本発明は、本発明のDNAを植物に導入することを特徴とする植物の開花時期の促進方法を提供する。本発明においては、本発明のDNAを上記の如く植物に導入することにより、植物の開花時期を促進することができる。本発明の方法で作製した植物は、商品を市場へ提供するまでの期間が短く、増産可能な観賞用植物や有用農作物として園芸や農業の分野において重要な意義を有する。
【0036】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。また、以下の実施例に記載される実験操作の手順は、特に断らない限り、「Molecular Cloning」第2版(J.Sambrookら、Cold SpringHarbor Laboratory Press, 1989年)に記載されている方法に従った。
【0037】
[実施例1]イネRan遺伝子のクローニングと変異体の作製
(1) イネmRNAの調製
イネ(品種:日本晴)の種子を播種した。栽培7日目の幼植物体の茎葉2gを液体窒素で凍結した。凍結した茎葉を乳鉢内で粉砕した。その粉砕物から公知のAGPC法(Acid Guanidinium thiocyanatic phenol−chloroformを使用)(実験医学、Vol. 9 No.15(11月号)1991年、99頁〜102頁)に従い、全RNA約2mgを抽出した。次に、得られた全RNAから、mRNAを、mRNA精製キット(Pharmacia Biotech社製、mRNA Purification Kit)により単離し、イネのmRNAを約30μg得た。
【0038】
(2) イネのcDNAライブラリーの構築
上記(1)で得られたmRNAから、cDNA合成キット(Pharmacia Biotech社製、TimeSaver cDNA Synthesis Kit)によりcDNAを得た。
【0039】
次に、EcoR I切断末端を仔ウシ小腸由来アルカリホスファターゼ処理したλgtIIファージベクター(DNA Cloning Techniques, IRL Press, Oxford, 49巻(1985年)参照;lambda gtII/EcoR I/ClAP−Treated Vector Kit(STRATAGEN社製))に、このcDNAを連結して得られた組み換えファージを、イン−ビトロパッケージング・キット(GigapackII Gold Packaging Extract(STRATAGENE社製))によりラムダファージにパッケイジングした。
【0040】
こうして得られた組み換えファージを大腸菌Y1088(STRATAGENE社製)に感染させて増殖させた。大腸菌の溶菌プラークとして多数の組み換えファージが得られた。プラーク中のファージは、イネ由来の全cDNAを含有する多種多様のファージから成るものであり、イネのcDNAライブラリーとして利用した。
【0041】
(3) PCR用のプライマーの構築
イネRanをコードするcDNA断片をサザンハイブリダイゼーション法によってクローニングするためのDNAプローブを得る必要があった。そこで、該DNAプローブの作製をPCR法により行うため、まずプライマーの設計を行った。そのために、既知のイネRan遺伝子がコードするアミノ酸配列を参考にして、下記の塩基配列を有する2種類のオリゴヌクレオチド(プライマーAおよびプライマーB)を作製した。
プライマーA; 5’− ccgaattcccacacctccgcgtgcctc −3’ (配列番号:5)
プライマーB; 5’− gcggatcccattcttgtacgtcagccga −3’ (配列番号:6)
【0042】
上記のオリゴヌクレオチドの作製は、DNA合成装置(Model 391、アプライドバイオシステムズ社製)を用いてオリゴヌクレオチドを合成し、さらにイオン交換HPLCで精製することにより行った。
【0043】
(4)プローブDNAの作製
次に、上記(3)の2種類の合成オリゴヌクレオチドの各10pmol(最終濃度0.2μM)を第1のプライマーおよび第2のプライマーとして用い、上記(2)で得られた組み換えファージよりなるcDNAライブラリーの1μlを鋳型として用い、これらをPCR法用の増幅反応液(10mMのTris−HCl(pH8.3)、1.5mMのMgCl、50mMのKCl、0.001%ゼラチン、pH8.3;4種のヌクレオチドdNTPの各2.5mMの混合物、およびDNAポリメラーゼ Takara Ex Taq、2.5単位)50μlに加えて、増幅反応を行った。ここで使用される増幅反応液は、PCRキット(PCR Amplification Kit(宝酒造(株)社製)により調製した。
【0044】
PCR法によるDNAの増幅反応は、PCR反応装置(PERKIN ELMER社製、DNA Thermal Cycler 480)を用いて、変性を94℃、30秒間、アニーリングを55℃、1分間、また伸張(extension)を72℃、2分間行う3つの反応操作を35回繰り返すことによって実施した。
【0045】
その結果、イネRan遺伝子に相当するDNA配列のうちの一部分であるDNA断片の増幅生成物が生成できた。これをプローブDNAとして、以下のcDNAライブラリーのクローニングに用いた。
【0046】
(5) イネのcDNAライブラリーからのイネRan遺伝子に相当するDNAを有するファージDNAの選択
上記(2)で作製したイネのcDNAライブラリーである組み換えファージから、上記(4)で作製したプローブDNAにより、イネRan遺伝子に対応するDNA配列を組込まれた組み換えファージをスクリーニングする。この目的のために、上記(2)で得られたイネcDNAライブラリーである組み換えファージのプラークを1.5%寒天培地上に形成させた。それらプラークをナイロン膜(アマシャム社製)ハイボンドNに転写した。こうしてナイロン膜に転写されたファージのプラークに含まれているファージDNAは、アルカリ変性液(1.5M NaCl、2.0M NaOH)および中和液(1.0M Tris−HCl pH5、2.0M NaCl)でそれぞれ10分間処理し、その後にUV照射によりナイロン膜上に固定した。
【0047】
次に、上記(4)で得られたプローブDNAをジゴキシゲニン(DIG)でラベルして得られた標識プローブDNAを、ファージDNAを固定したナイロン膜に対してプラーク・ハイブリダイゼーションさせた。プローブDNAのラベリングはDIG−ELISA DNA Labeling & Detection Kit(ベーリンガー・マンハイム社製)により行った。
【0048】
この場合、ファージDNAの固定されたナイロン膜をハイブリダイゼーション溶液(500mM Na−PiバッファーpH7.2、7% SDS、1mM EDTA)に浸し、さらに65℃、10分間、浸漬処理を行った。次に前記のDIGラベルした標識プローブDNA(10ng/ml)を加え、65℃、15時間にわたりハイブリダイゼーション反応を行った。
【0049】
反応終了後、洗浄液(40mM Na−Piバッファー、pH7.2、1% SDS)で20分間ずつ3回洗浄した。その後、上記のDIG−ELISA Labeling & Detection Kitを用いて、目的の組み換えファージの検出を行った。その結果、X線フィルム上で4個の強いシグナルが検出された。よって、30万個のファージプラークからRan遺伝子が組み込まれていると思われるファージのプラークを4個単離選抜できた。
【0050】
これら4個の組み換えファージから、λDNA単離キット(Lambda DNA Purification Kit(STRATAGENE社製))により、4個のファージプラークそれぞれについて別々にλDNAを単離した。
【0051】
この際のλDNAの単離は次のようにして行った。即ち、各々のファージを大量に増殖させた培養液5mlに、DNaseI(20mg/ml)50μl、RNaseA(2mg/ml)200μlを加え、室温で15分間、放置した。得られたファージ増殖溶液を15000rpm、4℃で10分間遠心分離した。得られた上清に80%DEAE−セルロース 25ml加え、室温で10分間インキュベートした。このようにインキュベートされた混合液を遠心分離し、得られた上清に0.5M EDTA 2ml、Protenase(50mg/ml)770μlを加え、37℃で15分間放置した。さらに、5% CTAB溶液(1% CTAB(Cetyltrimethyl− ammonium bromide)、50mM Tris−HCl pH8.0、10mM EDTA)1.5mlを加えた。得られた混合物を65℃、3分間処理した後、氷中で5分間放置した。こうして得られたそれぞれの反応液に1/10容の3M酢酸ナトリウム、2倍容のエタノールを加え、−20℃で約6時間放置し、その後、この溶液を遠心分離し、沈澱したファージDNAを乾燥させ、5mlの水に溶解して保存した。
【0052】
上記のようにして単離された4種類のファージDNAの各々 5μlを、Hバッファー中で制限酵素EcoRIの10ユニットで消化して、その消化反応液を分析した。その結果、これらファージDNAはいずれも同一のDNA配列であることが確認された。
【0053】
イネのRan遺伝子に相当するDNA配列を含有すると判定されたファージ中の挿入DNA断片は、上記のように選抜された採取ファージのDNAから制限酵素EcoRIで切出すことにより収得された。
【0054】
(6) イネのRan遺伝子に相当するDNA配列を含有するcDNAのクローニング
上記のようにイネのRan遺伝子に相当するDNA配列を含有すると判定されたDNA断片として、ファージから切出して収得されたDNA断片を、プラスミドベクターpBluescript II SK(+)のEcoRI切断部位にDNAリゲーション・キットにより挿入し、連結した後、組み換えプラスミドベクターを構築した。このように構築された組み換えプラスミドベクターの導入により大腸菌XL1−Blue MRF’ (STRATAGENE社製)を形質転換した。
【0055】
具体的には、上記で得られた組み換えファージDNAの10μgを、Hバッファー中で、制限酵素EcoRIの10ユニットで消化して消化反応液を得た。また、プラスミドベクターp Bluescript II SK(+)の10μgを同様にEcoRIで消化して消化反応液を得た。それぞれの消化反応液に1/10容の3M酢酸ナトリウム、2倍容のエタノールを加え、−20℃で約6時間放置し、その後に各々から得られたDNA溶液を遠心分離し、沈殿したDNAを乾燥させ、5μlの水に溶解した。こうして得られたファージ由来のDNAの水溶液とプラスミド由来のDNA水溶液の各々5μlを混合し、得られた混合物をDNAリゲーション・キット(宝酒造(株)製)で処理して、それら2種のDNAを連結させた。得られた連結反応液に10分の1容量の3M酢酸ナトリウム、2倍容のエタノールを加え、−20℃に約6時間放置した。得られた混合液を遠心分離し、沈殿したDNAを乾燥させた。こうして得られた連結ベクターDNAを10μlの水に溶解した。
【0056】
次に、得られた連結ベクターDNAの水溶液10μl (DNA 10ng)と、市販の大腸菌XL1−Blue MRF’コンピテントセル(STRATAGENE社製)100μlとを、1.5ml容チューブに入れ、氷中で30分間、42℃で30秒間、そして再び氷中で2分間インキュベートした。その後に、インキュベートされた混合物に対してSOC液体培地(2% バクト−トリプトン、0.5% バクト−酵母抽出物、10mM NaCl、2.5mM KCl、10mM MgSO、10mM MgCl、20mM グルコースを含有) 900μlを加えてから、37℃で1時間大腸菌を振とう培養した。
【0057】
得られた大腸菌の培養液の100μlを、アンピシリンを50mg/lの濃度、X−gal(5−Bromo−4−Chloro−3−Indolyl−β−D−Galactoside)を20mg/lの濃度、IPTG(Isopropyl−β−D−thiogalactopyranoside)を20mg/lの濃度で添加したLB寒天培地(1% バクト−トリプトン、0.5% バクト−酵母抽出物、0.5% NaCl、0.1% グルコース、pH 7.5、寒天1.5%含有)にプレーティングした。37℃で16時間、大腸菌を培養後、白色に発色してない大腸菌コロニーから、白色に発色している大腸菌コロニーを、前記の連結ベクターDNAで形質転換された大腸菌として分離した。
【0058】
このようにして分離された白色、かつ、アンピシリン耐性である大腸菌コロニー10個を、アンピシリン50mg/lを含む液体培地で増殖させ、さらに増殖された大腸菌から、プラスミド精製キット(QIA filter Plasmid Midi Kit, QIAGEN社製)によりプラスミドを分離、精製した。この精製により、上記で得られた耐性コロニーの形質転換大腸菌から50μg(50μl)のプラスミドを得た。
【0059】
このようにクローニングされて得られた前記のプラスミドは、イネRan遺伝子に相当するDNA配列を内部に含有するDNAである目的の組み換えプラスミドであり、そして約4kbのサイズを有した。
【0060】
(7) クローニングされたDNAのシークエンス解析
上記のクローニングされたDNAである組み換えプラスミド(約4kbのサイズ)を市販の塩基配列決定キットで処理すると、そのDNA断片の全体の塩基配列を決定することができる。そして、そのDNA断片内部に含有されたイネRan遺伝子に該当するDNA配列の塩基配列を判定できる。なお、上記のDNAの塩基配列の決定を行うに当っては、塩基配列決定キット(Autoread Sequencing Kit (Pharmacia Biotech社製)を用いて、変性処理を行った後に自動DNAシーケンサALF DNA Sequencer II(ファルマシア社製)で前記DNAの塩基配列を決定した。
【0061】
(8)改変されたOsRan1 T27Nの作製
以下に、上記で得られたイネRan遺伝子を基にOsRan1 T27Nと命名されたDNA配列(配列番号:3)を含有するDNA断片の製造を例示する。OsRan1 T27Nは、配列番号:2に記載のアミノ酸配列において、27位のスレオニンをコードするコドンACCが、AACに改変された塩基配列からなるDNAに相当する。
【0062】
(i) PCR用のプライマーとしての合成オリゴヌクレオチドの構築
DNA合成装置(Model−391,アプライドバイオシステムズ社製)を利用して、プライマー1、プライマー2、プライマー3、およびプライマー4とを化学合成により構築した。各プライマーの塩基配列は次の通りである。
プライマー1; 5’− gacggcggcacgggcaaaaacacctttgtgaagag −3’ (配列番号:7)
プライマー2; 5’− ctcttcacaaaggtgtttttgcccgtgccgccgtc −3’ (配列番号:8)
プライマー3; 5’− ccgaattcccacacctccgcgtgcctc −3’ (配列番号:5)
プライマー4; 5’− gcggatcccattcttgtacgtcagccga −3’ (配列番号:6)
【0063】
(ii)改変されたDNA断片のPCR法による増幅と回収
改変されたDNA断片をPCR法による増幅反応により収得するために、PCR法の第1回段階として下記の(A)反応と(B)反応とを行った。
【0064】
即ち、その(A)反応では、鋳型として用いられる前記の組み換えプラスミドベクターpOsRan1の5μlと、プライマー1の1μMと、プライマー4の1μMとを、増幅反応液(10mMのTris−HCl(pH8.3)、1mMのMgCl、50mMのKCl, 4種のヌクレオチドdNTPの各0.2mMの混合物、LA Taq DNAポリメラーゼの2.5ユニットを含有)の100μlに加えて、増幅反応を行った。この(A)反応で得られたDNAの増副生成物を、DNA断片−Aと称する。
【0065】
また、(B)反応では、鋳型として用いられる前記ベクターpOsRan1の5μlと、プライマーとして用いられる前記のプライマー2の1μMと、プライマー3の1μMとを、(A)反応で用いたと同じ組成の増幅反応液に加えて、増幅反応を行った。この(B)反応で得られたDNAの増幅生成物をDNA断片−Bと称する。
【0066】
なお、前記の増幅反応は、PCR反応装置(Program Temp Control System PC−700(アステック社製))内で、変性を94℃で30秒間、アニーリングを50℃で30秒間、伸張を72℃で2分間行う3つの反応操作を30回繰り返すことにより実施した。
【0067】
増幅反応の終了後、(A)反応の増幅反応液を低融点アガロース電気泳動により分画し、増幅DNA生成物としての約250bpのDNA断片−Aを含むバンドをアガロースゲルから切出した。また、(B)反応の増幅反応液を低融点アガロース電気泳動にかけて分画し、増幅DNA生成物としての約150bpのDNA断片−Bを含むバンドをアガロースゲルから切出した。
【0068】
これらのゲル切片から、GENCLEAN II Kit(フナコシ社製)により分離してDNA断片−Aの精製品とDNA断片−Bの精製品を得た。
【0069】
次に、PCR法の第2回段階として、前記のプライマー3の1μlおよびプライマー4の1μl、ならびに前記の(A)反応および(B)反応で増幅したDNA断片−Aの1μlとDNA断片−Bの1μlを、増幅反応液(10mMのTris−HCl(pH8.3)、1mMのMgCl、50mMのKCl, dNTPの各0.2mMの混合物、LA Taq DNA ポリメラーゼの2.5ユニットを含有)100μlに加えて、増幅反応を行った。この場合の増幅反応は、変性を94℃、30秒、アニーリングを50℃、30秒、伸張を72℃、2分行う3つの反応操作を30回繰り返して実施した。
【0070】
この増幅反応の終了後、その増幅反応液を低融点アガロース電気泳動により分画し、増幅DNA生成物として360bpのDNA断片−Cを含有するバンドをゲルから切出した。このゲル切片からGENCLEAN II Kit(フナコシ社製)によりDNA断片−Cを分離して且つDNA断片−Cの精製品を得た。
【0071】
(iii)改変OsRan1 T27N配列を含有するDNA断片のクローニング
上記で得られたDNA断片−Cを利用して、目的の改変OsRan1 T27N配列を含有するDNA断片をクローニングにより十分な量で収得する操作を次に行う。
【0072】
まず、上記で得られたDNA断片−Cの10μgを、Hバッファー(宝酒造(株)社製)中で制限酵素XhoIの10ユニットとNcoIの10ユニットで消化した。この消化で得られたDNA断片をDNA断片−Dと称する。他方、プラスミドベクターpOsRan1の10μgをHバッファー中で、XhoIの10ユニットとNcoIの10ユニットで消化した。この消化で得られた約3.6kbpのDNA断片−Eと称する。これらのDNA断片−DとDNA断片−Eとを含む消化反応液にそれぞれに1/10容の3M酢酸ナトリウム、2倍容のエタノールを加え、−20℃に約6時間インキュベートした。その後、インキュベートされた溶液を遠心分離し、沈殿したDNAを乾燥させ、5μlの水に溶解した。
【0073】
こうして得られたDNA断片−Dの水溶液の5μlと、DNA断片−Eの水溶液の5μlとを混合し、次に、得られた混合物(10μl)に含まれるDNAを、DNAリゲーション・キット(宝酒造(株)社製)により連結反応させた。その連結反応液に1/10容の3M酢酸ナトリウム、2倍容のエタノールを加え、−20℃に約6時間インキュベートした。インキュベートされた反応溶液を遠心分離し、沈殿したDNAを乾燥させ、5μlの水に溶解して水溶液にした。
【0074】
この連結させたDNAプラスミドを大腸菌XL1−Blue MRF′(STRATAGENE社製)に導入した。さらに形質転換された大腸菌細胞を液体培地中で培養した。
【0075】
培養された大腸菌細胞から、さらにプラスミドを抽出した。こうして改変OsRan1 T27N配列を含有する組み換えプラスミドがクローニングできた。この改変OsRan1 T27N配列を含有する組み換えプラスミド(pOsRan1−T27Nと命名)を有する大腸菌(Escherichia coli DH5α/pOsRan1−T27Nと命名)を以下の場所に寄託した。
(イ)寄託機関の名称・あて名
名称:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(旧 通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所)
あて名:日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305−8566)
(ロ)寄託日(原寄託日):平成13年4月27日
(ハ)寄託番号 FERM P−18316
【0076】
[実施例2] Ran遺伝子変異体によるシロイナズナの形質転換と形質転換体の評価
(1) 外来遺伝子の導入用の組み換えベクターの作製
選抜マーカーとしてハイグロマイシン耐性遺伝子を含む公知の外来遺伝子導入用組み換えベクターpUB−Hm(Urushibara et al., Breeding Science, 51巻、33−38頁、2001年)のDNA(10μg)を、Mバッファー (宝酒造(株)製)中で制限酵素Sse8387Iの10ユニットで消化した。その消化反応液からDNAを沈殿させ、遠心分離してから乾燥させて約13.6kbのサイズのベクター断片を得た。
【0077】
また、実施例1に記載のOsRan1 T27Nの塩基配列を有するプラスミドの10μgを、Hバッファー (宝酒造(株)社製)中で制限酵素XhoIの10ユニットとBglIIの10ユニットで消化した消化反応液にそれぞれに1/10容の3M酢酸ナトリウム、2倍容のエタノールを加え、−20℃に約6時間インキュベートした後、インキュベートされた溶液を遠心分離し、沈殿したDNAを乾燥させて、約760bpのサイズのDNA断片を得た。上記で得られたそれぞれのDNA断片を5μlの水に溶解して水溶液にした後、DNA Blunting Kit(宝酒造(株)社製)を用いて処理し、それぞれのDNA断片の両端を平滑化した。
【0078】
上記の約13.6kbのサイズのベクター断片を含む水溶液を脱リン酸化処理した後、上記のOsRan1 T27Nの塩基配列を含むDNAと混合し、得られた混合物をDNAリゲーション・キット(宝酒造(株)製)で処理して、DNAの連結反応を行った。こうしてプラスミドベクターpUB−Hmの制限酵素サイトSse8387I切断ベクターに対して、前記の改変されたOsRan1 T27N配列を含むDNA断片を連結してなる環状の組み換えベクターを作製した。この組み換えベクターをpUB−OsRan1T27Nと称する。ベクターpUB−OsRan1T27Nは、トウモロコシのユビキチンプロモーター領域とNOSターミネーター領域との間に、OsRan1 T27N 領域が挿入、連結されてあり、かつハイグロマイシン耐性遺伝子を含有する構造を有し、15.6kbのサイズを有した。
【0079】
(2) シロイヌナズナ植物の調製
シロイヌナズナの種子を70%エタノール溶液に60秒間、ついで有効塩素約2%の次亜塩素酸ナトリウム溶液に10分間浸漬して種子を殺菌処理した。さらに種子を滅菌水で洗浄した。
【0080】
B5培地の無機成分組成にショ糖2%、寒天0.8%を添加してなる培地に、上記で殺菌したシロイヌナズナ種子を置床した。22℃で20日間、10000ルックスの光を1日当たり12時間照明しながらインキュベーター内で栽培した。抽台を開始し、腋芽が見えてきた植物体の花茎を腋芽を残すようにメスで切断したものを遺伝子導入に用いた。
【0081】
(3)アグロバクテリウムの調製
上記(1)で作製した形質転換用ベクターをアグロバクテリウム法によりシロイヌナズナに遺伝子導入するために、上記ベクターをアグロバクテリウム・ツメファシエンス菌に公知の凍結融解法(植物細胞工学、4巻、3号、193〜203頁、1992年)により移行させた。
【0082】
(4)シロイヌナズナ植物体への外来遺伝子の導入の操作
上記のようにして得られた本発明DNA配列を含有する組換えベクターを導入してなる形質転換アグロバクテリウムを用いて、植物体に遺伝子導入操作を行った。
【0083】
アグロバクテリウム培養液を1/2濃度のMS培地の無機塩組成にショ糖5%を添加してなる液体培地に懸濁し菌液を得た。シロイヌナズナの鉢を逆さにして植物を懸濁液に浸け、デシケーターにいれた。真空ポンプで吸引し、圧を40mmHgに調整して、5から10分間おいた後、常圧に戻し、植物を取り出した。余分な菌液を除去した後、植物体をインキュベーター内で栽培する。これらの感染処理された植物体は正常に生育し自殖種子(T1世代)を得る事ができた。
【0084】
次ぎに、MS培地の無機成分組成にショ糖1%、寒天0.8%、ハイグロマイシン20mg/lを添加してなる培地に、上記自殖種子を70%エタノール溶液に1分間、次いで有効塩素約2%の次亜塩素酸ナトリウム溶液に10分間浸漬して種子を殺菌処理し、滅菌水で洗浄したのち、置床した。4℃で5日間、低温処理をした後、22℃で、10000ルックスの光を恒常的に照明しながらインキュベーター内で栽培した。この際、形質転換された種子のみで正常な生育が認められた。生育した植物体は寒天培地から抜き取り、培養土をいれたポットに移植し、前記のインキュベーター内で栽培して、自殖種子(T2世代)を得る事ができた。
【0085】
(5)形質転換植物の遺伝子解析
上記のように得られた植物体が、遺伝子の導入された形質転換体であることを、次の手順により確認した。
【0086】
前項(4)で得た形質転換シロイヌナズナ植物から葉を採取した。その葉50mgを1.5ml容のマイクロチューブに入れ、10mM EDTAを含む20mM Tris−HCl緩衝液(pH 7.5)300μlを添加し、これを磨砕した。磨砕物に20% SDSを20ml加えて、65℃で10分間加温した。得られた混合物に5M酢酸カリウムを100μl加え、氷中に20分間置いた後、17000xgの遠心加速度で20分間遠心分離した。得られた上清にイソプロパノール200μlを加え、転倒攪拌し、これを再び17000xgの遠心加速度で20分間遠心分離した。得られたDNAの沈殿を減圧下で乾燥した。100μlのTE緩衝液にそのDNAを溶解した。
【0087】
上記で得られたDNAの1μgを、Hバッファー(宝酒造(株)社製)中で、制限酵素SalIの10ユニットで消化して消化反応液を得た。消化反応液に1/10容の3M酢酸ナトリウム、2倍容のエタノールを加え、−20℃で約6時間放置し、その後にそれぞれの得られたDNA溶液を遠心分離し、沈殿したDNAを乾燥させ、10μlの水に溶解した。0.8% アガロースゲルを用いて電気泳動を行い、ナイロン膜(アマシャム社製)ハイボンドNに転写し、UV照射により転写されたDNAをナイロン膜上に固定し、以下のようにサザンブロッティング解析を行った。
【0088】
ハイグロマイシン耐性遺伝子のプローブDNAをジゴキシゲニン(DIG)でラベルして得られた標識プローブDNAを、ファージDNAを固定したナイロン膜に対してプラーク・ハイブリダイゼーションさせた。プローブDNAのラベリングはDIG − DNA Labeling & Detection Kit(ベーリンガー・マンハイム社製)により行った。
【0089】
DNAの固定されたナイロン膜をハイブリダイゼーション溶液(500mM Na−Piバッファー、pH7.2、7% SDS、1mM EDTA)に浸し、さらに65℃、10分間、浸漬処理を行った。次に前記のDIGラベルした標識プローブDNA(10ng/ml)を加え、65℃、15時間にわたりハイブリダイゼーション反応を行った。
【0090】
反応終了後、洗浄液(40mM Na−Piバッファー、pH7.2、1% SDS)で20分間ずつ3回洗浄した。その後、上記のDIG−Detection Kitを用いて、目的の組換え DNAの検出を行った。シロイヌナズナ植物から抽出した染色体DNAの中に、導入したDNAが組み込まれていることが確認された。
【0091】
(6) 形質転換シロイヌナズナ植物の開花
上記(4)で得られた、本発明のOsRan1 T27N 配列を含有する組み換えベクターpUB−OsRan1T27Nが導入された形質転換植物体から得た自殖種子T2世代を培養土をいれたポットに播種し、インキュベーター内で22℃、10000ルックスの光を1日当たり12時間照明しながら栽培して開花させた。対照のシロイヌナズナ植物として、通常の種子を用いた。結果を次の表1に示す。
【0092】
【表1】
Figure 0003564537
【0093】
【発明の効果】
本発明により、植物のRan遺伝子変異体を利用した植物の開花時期を促進する方法が提供された。本発明の方法によって植物の開花時期を促進させることにより、商品を市場へ提供するまでの期間を短くし、増産可能な観賞用植物や有用農作物等の作製が可能となった。
【0094】
【配列表】
Figure 0003564537
Figure 0003564537
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Figure 0003564537

Claims (7)

  1. 植物の開花時期を促進する DNA であって、配列番号:1に記載のイネ由来の野生型 Ran タンパク質のアミノ酸配列の27位のスレオニン残基、または他の植物由来の Ran タンパク質のアミノ酸配列のそれと対応する部位のアミノ酸残基に、スレオニン残基からアスパラギン残基への置換変異を有する Ran タンパク質変異体をコードする DNA
  2. 請求項に記載のDNAを含むベクター。
  3. 請求項に記載のDNAを発現可能に保持する形質転換植物細胞。
  4. 請求項に記載の形質転換植物細胞を含む形質転換植物体。
  5. 請求項に記載の形質転換植物体の子孫またはクローンである、形質転換植物体。
  6. 請求項またはに記載の形質転換植物体の繁殖材料。
  7. 請求項に記載のDNAを植物に導入することを特徴とする植物の開花時期を促進する方法。
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