JPWO2007040256A1 - 樹脂物品およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

本発明は、耐摩耗性に優れた有機無機複合膜が形成された樹脂物品を提供する。この樹脂物品は、厚さが0.1mmを超える樹脂基体と、この樹脂基体上に形成された有機物および無機酸化物を含む有機無機複合膜と、を含み、有機無機複合膜が無機酸化物の少なくとも一部としてシリカを含んでこれを主成分とし、有機無機複合膜の表面に対して実施するJIS R 3212に規定されたテーバー摩耗試験の後に、当該膜が基体から剥離しない。この樹脂物品は、樹脂基体上に有機無機複合膜の形成溶液を塗布した後、150℃以下の温度に保持しながら、塗布した形成溶液に含まれる液体成分の少なくとも一部を除去することにより製造できる。

Description

本発明は、樹脂物品およびその製造方法に関し、詳しくは、ゾルゲル法により形成され、かつ有機物を含みながらも、耐摩耗性に優れた膜が形成された樹脂物品およびその製造方法に関する。
樹脂材料は、その優れた透明性、軽量性、易加工性、耐衝撃性から、ガラスの代替品として注目されている。しかし、樹脂材料により形成した基体は、その表面硬度が低いため表面が傷つきやすいという問題がある。それゆえ、一般に、樹脂基体の表面にはハードコート膜が形成されている。
硬度の高いハードコート膜の作製法として、シリカなどの無機酸化物を主成分とした膜を形成する、ゾルゲル法がある。
ガラス材料は一般に硬質であり、基体を被覆する膜の形態でも利用される。しかし、ガラス質の膜(シリカ系膜)を得ようとすると、熔融法では高温処理が必要になるため、基体および膜を構成する材料が制限される。
ゾルゲル法は、金属の有機または無機化合物の溶液を出発原料とし、溶液中の化合物の加水分解反応および縮重合反応によって、溶液を金属の酸化物あるいは水酸化物の微粒子が溶解したゾルとし、さらにゲル化させて固化し、このゲルを加熱して酸化物固体を得る方法である。
ゾルゲル法は、低温でのガラス質の膜の製造を可能とする。ゾルゲル法によりシリカ系膜を形成する方法は、例えば特開平11−269657号公報に開示されている。
一般に、ゾルゲル法により形成したシリカ系膜は、熔融法により得たガラス質の膜と比較すると、機械的強度、特に膜の耐摩耗性に劣る。
特開平11−269657号公報には、「シリコンアルコキシドおよびその加水分解物(部分加水分解物を含む)の少なくとも1つがシリカ換算で0.010〜3重量%、酸0.0010〜1.0規定、および水0〜10重量%を含有するアルコール溶液をコーティング液として基体に塗布してシリカ系膜を形成する方法」が開示されている。
この方法により得られたシリカ系膜は、乾布磨耗試験に耐える程度の強度を有し、十分であるとは言えないまでも、ゾルゲル法により得られた膜としては、良好な耐摩耗性を有する。しかし、特開平11−269657号公報が開示する方法により成膜できるシリカ系膜は、実用に耐える外観を確保しようとすると、その膜厚が最大でも250nmに制限される。ゾルゲル法により形成されるシリカ系膜の厚さは、通常、100〜200nm程度である。
コーティング液を複数回に渡って塗布して多層膜を形成することで、シリカ系膜を厚膜化することができる。しかし、各層の界面の密着性が低くなり、シリカ系膜の耐摩耗性が低下する場合がある。また、シリカ系膜の製造プロセスが複雑化するという問題もある。
以上のような事情から、ゾルゲル法により、膜厚が250nmを超える程度に厚く、かつ耐摩耗性に優れたシリカ系膜を得ることは困難であった。
ゾルゲル法により、無機物と有機物とを複合させた有機無機複合膜を形成する技術が提案されている。ゾルゲル法は、低温での成膜を特徴とするため、有機物を含むシリカ系膜の成膜を可能とする。ゾルゲル法による有機無機複合膜は、例えば、特開平3−212451号公報、特開平3−56535号公報、特開2002−338304号公報に開示されている。
ゾルゲル法によるシリカ系膜の耐摩耗性を向上させるには、シリカ系膜を450℃以上で熱処理することが望ましい。しかし、有機無機複合膜をこの程度の高温で熱処理すると、膜中の有機物が分解してしまう。
また、樹脂基体は耐熱性が低いため、このような450℃以上での加熱処理を行うと、変形したり、樹脂成分が劣化したりする場合がある。
本発明は、耐摩耗性に優れた有機無機複合膜が形成された樹脂物品を提供することを目的とする。
本発明は、樹脂基体と、前記樹脂基体上に形成された有機物および無機酸化物を含む有機無機複合膜と、を含む樹脂物品であって、前記樹脂基体の厚さが0.1mmを超え、前記有機無機複合膜が無機酸化物としてシリカを含み、前記有機無機複合膜が前記シリカを主成分とし、前記有機無機複合膜の表面に対して実施するJIS R 3212に規定されたテーバー磨耗試験の後に、前記有機無機複合膜が前記樹脂基体から剥離しない、樹脂物品を提供する。
本明細書において、主成分とは、含有率が最も高い成分をいう。含有率は質量%基準で評価する。JIS R 3212によるテーバー摩耗試験は、市販のテーバー摩耗試験機を用いて実施できる。この試験は、上記JISに規定されているとおり、500g重の荷重を印加しながら行う、回転数1000回の摩耗試験である。
本発明は、その別の側面から、樹脂基体と、前記樹脂基体上に形成された有機物および無機酸化物を含む有機無機複合膜と、を含み、前記樹脂基体の厚さが0.1mmを超え、前記有機無機複合膜が無機酸化物としてシリカを含み、前記有機無機複合膜が前記シリカを主成分とする、樹脂物品の製造方法であって、前記樹脂基体上に前記有機無機複合膜の形成溶液を塗布する塗布工程と、前記樹脂基体上に塗布された形成溶液から当該形成溶液に含まれる液体成分の少なくとも一部を除去する除去工程と、を含み、前記形成溶液が、シリコンアルコキシド、強酸、水およびアルコールを含み、前記シリコンアルコキシドの濃度が、当該シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子をSiO2に換算したときのSiO2濃度により表示して3質量%を超え、前記形成溶液が、前記強酸の少なくとも一部として、または前記強酸とは別の成分として、前記有機物の少なくとも一部となる親水性有機ポリマーをさらに含み、前記強酸の濃度が、前記強酸からプロトンが完全に解離したと仮定したときのプロトンの質量モル濃度により表示して0.001〜0.2mol/kgの範囲にあり、前記水のモル数が、前記シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子の総モル数の4倍以上であり、前記塗布工程では、雰囲気の相対湿度を40%未満に保持しながら、前記形成溶液を前記樹脂基体上に塗布し、前記除去工程では、前記樹脂基体を150℃以下の温度に保持しながら、前記塗布された形成溶液に含まれる液体成分の少なくとも一部を除去する、樹脂物品の製造方法を提供する。
本発明によれば、ゾルゲル法により、膜厚が250nmを超える程度、場合によっては1μmを超える程度に厚くても、耐摩耗性に優れた有機無機複合膜が形成された樹脂物品を提供できる。
本発明による樹脂物品は、有機無機複合膜が、熔融法により得たガラス板に匹敵する程度に優れた耐摩耗性を有し得る。厚さが0.1mm以下である樹脂フィルムを基体として用いると、基体自体の強度が十分でなく、基体が容易に変形するために、有機無機複合膜の耐摩耗性が低下する。これを考慮し、本発明では、厚さが0.1mmを超える樹脂基体を用いることとした。
以下、まずゾルゲルプロセスについて説明する。
シリコンアルコキシドを出発原料とするゾルゲル法の場合、膜のコーティング液(以下、形成溶液と呼ぶ)に含まれるシリコンアルコキシドは、形成溶液中において、水と触媒との存在の下、加水分解反応および脱水縮合反応を経てシロキサン結合を介したオリゴマーとなり、これに伴って形成溶液はゾル状態となる。
ゾル状態となった形成溶液は基体に塗布され、塗布された形成溶液からは、水や、アルコールなどの有機溶媒が揮発する。この乾燥工程において、オリゴマーは濃縮され、縮重合反応が進行して分子量が大きくなり、やがて溶液は流動性を失う。こうして、基体上に半固形状のゲルからなる膜が形成される。ゲル化直後は、シロキサン結合のネットワークの隙間に、有機溶媒や水が満たされた状態にある。ゲルから水や溶媒が揮発すると、シロキサンポリマーが収縮し、縮重合反応がさらに進行して、膜が硬化する。
従来のゾルゲル法では、固化したゲルにおいて、有機溶媒や水が満たされていた隙間は、400℃程度までの熱処理を行っても、完全に埋まることはなく、細孔として残存するため、膜の耐摩耗性は十分に高くはならない。それゆえ、従来は、硬質な膜を得るために、さらに高温、例えば500℃以上での熱処理を必要としていた。
ゾルゲル法によるシリカ系膜の熱処理における、反応と温度との関係についてさらに詳しく述べる。約100〜150℃の熱処理では、形成溶液に含まれている溶媒や水が蒸発する。約250〜400℃の熱処理では、原料に有機材料が含まれていると、その有機材料が分解し、蒸発する。400℃を超える温度で熱処理すると、通常、膜には有機材料が残らない。約500℃以上の熱処理では、ゲル骨格の収縮が起こり、膜が緻密になる。
上述したように、通常のゾルゲル反応では、ゲル化の直後には、形成されたネットワークの隙間に有機溶媒や水が満たされている。この隙間の大きさは、溶液中でのシリコンアルコキシドの重合の形態に依存することが知られている。
重合の形態は、溶液のpHによって大きく変化する。酸性の液中では、シリコンアルコキシドのオリゴマーは直鎖状に成長しやすい。このような液を基体に塗布すると、直鎖状のオリゴマーが折り重なって網目状組織を形成し、得られる膜は比較的隙間の小さい緻密な膜となる。しかし、直鎖状のポリマーが折り重なった状態で固化されるため、ミクロ構造は強固ではなく、隙間から溶媒や水が揮発する際にクラックが入りやすい。
一方、アルカリ性の液中では、球状のオリゴマーが成長しやすい。このような液を基体に塗布すると、球状のオリゴマーが互いにつながった構造を形成し、比較的大きな隙間を有する膜となる。この隙間は、球状のオリゴマーが結合し成長して形成されるため、隙間から溶媒や水が揮発する際にクラックは入りにくい。
本発明者らは、比較的緻密な膜ができる酸性領域で、強酸の濃度、水分量などを適切に調整すると、ある条件下では、厚膜としても緻密でクラックのない膜を形成できるという知見を見出し、さらにこの知見を発展させることにより、本発明を完成した。
シラノールの等電点は2であることが知られている。これは、形成溶液のpHが2であると、液中においてシラノールが最も安定に存在できる、ということを示している。つまり、加水分解されたシリコンアルコキシドが溶液中に多量に存在する場合においても、溶液のpHが2程度であれば、脱水縮重合反応によりオリゴマーが形成される確率が非常に低くなる。この結果、加水分解されたシリコンアルコキシドが、モノマーまたは低重合の状態で、形成溶液中に存在しやすくなる。
pHが2程度の領域では、シリコンアルコキシドは、1分子当たり1個のアルコキシル基が加水分解され、シラノールとなった状態で安定化される。例えば、テトラアルコキシシランには4つのアルコキシル基があるが、そのうちの1つのアルコキシル基が加水分解され、シラノールとなった状態で安定化されるのである。
ゾルゲル溶液に、強酸を添加し、強酸のプロトンが完全に解離したとしたときのプロトンの質量モル濃度(以下、単に「プロトン濃度」と称することがある)で、0.001〜0.2mol/kg程度となるようにすると、溶液のpHは3〜1程度となる。この範囲にpHを調整すると、形成溶液中において、シリコンアルコキシドがモノマーまたは低重合のシラノールとして安定して存在できる。
形成溶液は、水およびアルコールの混合溶媒を含み、必要に応じて他の溶媒を添加することが可能であるが、そのような混合溶媒の場合にも、強酸を用い、かつ強酸からプロトンが完全に解離したと仮定したときのプロトンの質量モル濃度を0.001〜0.2mol/kgとなるようにすることで、pH2前後の液とすることができる。
プロトンの質量モル濃度の計算に当たっては、使用する酸の水中での酸解離指数が、4以上のプロトンを考慮する必要はない。例えば、弱酸である酢酸の水中での酸解離指数は4.8であるから、形成溶液に酢酸を含ませた場合にも、酢酸のプロトンは上記のプロトン濃度には含めない。
また例えば、リン酸の解離段は3段であり、一分子に付き3つのプロトンを解離する可能性がある。しかし、1段目の解離指数は2.15であり強酸とみなせるが、2段目の解離指数は7.2であり、3段目の解離指数はさらに大きい値となる。したがって、強酸からの解離を前提とする上記のプロトン濃度は、リン酸1分子からは、1個のプロトンしか解離しないものとして計算すればよい。1個のプロトンが解離した後のリン酸は強酸ではなく、2段目以降のプロトンの解離を考慮する必要はない。本明細書において、強酸とは、具体的には、水中での酸解離指数が4未満のプロトンを有する酸をいう。
なお、上述のように、プロトン濃度を強酸のプロトンが完全に解離したとしたときの濃度として規定する理由は、有機溶媒と水との混合液中では、強酸の解離度を正確に求めることが困難だからである。
このように形成溶液のpHを1〜3程度に保ち、これを基体表面に塗布して乾燥させると、低重合状態にあるシリコンアルコキシドが密に充填されるため、細孔が小さく、かなり緻密な膜が得られる。
この膜は緻密ではあるが、シリコンアルコキシドの加水分解および縮重合反応が不十分であることに起因して、150℃以下での低温度域での加熱では、ある硬度以上にはならない。そこで、シリコンアルコキシドの加水分解および縮重合反応が、形成溶液の塗布後において容易に進行するように、水を、シリコンアルコキシドに対して過剰に添加することとした。加水分解および縮重合反応が進行しやすい状態とすると、高温に加熱しなくても膜が硬くなる。具体的には、シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子の総モル数に対し、加水分解に必要とされる最大のモル数、すなわち4倍以上のモル数の水を添加しておく。水の添加量の上限は例えば20倍とすることができる。
形成溶液の乾燥時には、溶媒の揮発と並行して水も蒸発する。これを考慮すると、水のモル数は、シリコン原子の総モル数に対し、4倍を超える程度、例えば5〜20倍とすることが好ましい。
なお、シリコンアルコキシドでは、1つのシリコン原子について最大4つのアルコキシル基が結合しうる。アルコキシル基の数が少ないアルコキシドでは、加水分解に必要な水のモル数は少なくなる。また、4つのアルコキシル基がシリコン原子に結合したテトラアルコキシシランであっても、その重合体(例えば、コルコート製「エチルシリケート40」などとして市販されている)では、加水分解に必要な水の総モル数は、シリコン原子の4倍よりも少ない(重合体のSiのモル数をnとすると(n≧2)、化学量論的に加水分解に必要な水のモル数は、(2n+2)モルとなる)。重合度の高いアルコキシシラン原料を使うほど、加水分解に必要な水のモル数は少なくなる。したがって、現実には、シリコンアルコキシドの加水分解に必要な水のモル数は、シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子の総モル数の4倍を下回ることもあるが、過剰な水の添加がむしろ好ましいことを考慮し、本発明では、シリコン原子の総モル数の4倍以上、好ましくは4倍を超える、さらに好ましくは5倍以上のモル数の水を添加することとした。
化学量論的に加水分解に必要なモル数を超える水を添加すると、乾燥工程における水の蒸発に伴う毛管収縮が大きくなり、シリコンアルコキシドの拡散および濃縮が起こりやすくなり、加水分解および縮重合反応が促進される。溶媒の揮発および水の蒸発に伴って、塗布された液におけるpHが上記の範囲から変動することも、加水分解が促進される要因の一つとなる。こうして、緻密な膜を形成し、かつ加水分解および脱水縮合反応を十分に進行させると、硬質の膜が形成される。その結果、従来よりも低温の熱処理により、耐摩耗性に優れた膜を得ることができる。
この方法を用いると、厚くても耐摩耗性に優れたシリカ系膜を得ることができる。厚い膜を得るためには、シリコンアルコキシドの濃度が比較的高くなるように、例えばシリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子を、SiO2に換算したときのSiO2濃度により表示して3質量%を超えるように、形成溶液を調製するとよい。詳しくは、3質量%を超えて30質量%以下の範囲とすることが望ましい。
形成溶液には、さらに、親水性有機ポリマーを添加するとよい。親水性有機ポリマーは、塗布した形成溶液に含まれる液体成分の蒸発に伴って、生じることのあるクラックの発生を抑制する。また、親水性有機ポリマーは、液中に生成したシリカ粒子の間に介在し、液体成分の蒸発に伴う膜収縮の影響を緩和する。このように、親水性有機ポリマーを添加すると、膜の過剰な硬化収縮を抑えることができるため、膜中の応力が緩和されると考えられる。親水性有機ポリマーは、膜の収縮を抑制し、膜の耐摩耗性を保持する役割を果たすこととなる。
本発明の方法では、従来よりも低温で膜を加熱すれば足りるため、加熱後も親水性有機ポリマーは膜に残存する。本発明によれば、さらに厚膜化しても、親水性有機ポリマーが膜中に存在した状態で、耐摩耗性に優れた膜を得ることが可能となる。
親水性有機ポリマーは、予め形成溶液に添加しておくとよい。この形成溶液から形成した有機無機複合膜では、有機物と無機物とが分子レベルで複合化していると考えられる。
種々の実験結果を参照すると、親水性有機ポリマーは、ゾルゲル反応によって形成されるシリカ粒子の成長を抑制し、膜の多孔質化を抑制しているようでもある。
親水性有機ポリマーとしては、ポリオキシアルキレン基(ポリアルキレンオキシド構造)を含むもの、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエーテル系のポリマーなどを用いることができる。また、ポリビニルピロリドン系、ポリビニルカプロラクタム系のポリマーなどを用いることもできる。これらの親水性有機ポリマーは、単独で、または複数種を組み合わせて用いてもよい。
以上のようなゾルゲル法の改善により、有機物を含むにもかかわらず、JIS R 3212に規定されたテーバー摩耗試験を適用しても、樹脂基体から剥離しない有機無機複合膜が、クラックが発生することなしに形成された樹脂物品、が提供される。
有機無機複合膜の膜厚は、250nmを超え5μm以下であり、好ましくは500nmを超え5μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上5μm以下であり、特に好ましくは2μmを超え5μm以下である。有機無機複合膜の膜厚は4μm以下であってもよい。
本発明によれば、テーバー摩耗試験の後に測定した、当該テーバー摩耗試験を適用した部分のヘイズ率を4%以下、さらには3%以下、とすることもできる。これは、熔融法により得たガラス質膜に相当する耐摩耗性である。
本発明による有機無機複合膜では、有機物の含有量が、有機無機複合膜の総質量に対して0.1〜60%、さらには2〜60%、特には10〜40%であることが好ましい。本発明による有機無機複合膜は、有機物として、親水性有機ポリマーを含むことが好ましい。親水性有機ポリマーはポリオキシアルキレン基(ポリアルキレンオキシド構造)を含むことが好ましい。本発明による有機無機複合膜はリンを含んでいてもよい。
本発明によれば、上記テーバー摩耗試験の後に測定した、当該テーバー摩耗試験を適用した部分のヘイズ率が4%以下、好ましくは3%以下、である有機無機複合膜を形成することも可能である。
シリカ系膜に耐摩耗性を付与するために、膜にフッ素樹脂微粒子が添加されることがある。しかし、本発明による有機無機複合膜は、後述する実施例で示すように、フッ素樹脂微粒子を含まないにもかかわらず好適な耐摩耗性を有する。このように、本発明による有機無機複合膜は、フッ素樹脂微粒子を含まない状態にあってもよい。フッ素樹脂微粒子を含まないとは、機能の付与に必要となる添加量に満たない程度の量のフッ素樹脂微粒子が膜中に混入することを排除する趣旨ではない。
本発明による有機無機複合膜は、フッ素樹脂微粒子を含まず、かつそれ以外の微粒子を含む状態にあってもよい。このような微粒子は特に限定されず、例えば、インジウム錫酸化物微粒子およびアンチモン錫酸化物微粒子に代表される導電性酸化物微粒子が挙げられる。微粒子の添加量は、膜に付加する機能に応じて適宜調整すればよく、例えば導電性酸化物微粒子であれば1質量%以上とするとよい。
本発明の方法では、シリコンアルコキシド、強酸、水およびアルコールを含み、さらに親水性有機ポリマーを含む、形成溶液を用いる。親水性有機ポリマーは、通常、強酸とは別の成分として添加されるが、強酸として機能するポリマー、例えばリン酸エステル基を含むポリマー、を強酸の少なくとも一部として添加してもよい。
シリコンアルコキシドは、テトラアルコキシシランおよびその重合体から選ばれる少なくとも1種が好適である。シリコンアルコキシドおよびその重合体は、その一部または全てのアルコキシル基が加水分解されたものを含んでもよい。なお、詳しくは後述するが、本発明では、3官能シラン(R'Si(OR)3)などの4官能シラン以外のシリコンアルコキシドを用いずとも、耐摩耗性に優れた有機無機複合膜を、クラックの発生を抑制しつつ、膜厚が250nmを超える程度に厚く形成することもできる。
シリコンアルコキシドの濃度は、当該シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子をSiO2に換算したときのSiO2濃度により表示して3質量%を超えて30質量%以下とする。形成溶液におけるシリコンアルコキシドの濃度が高すぎると、膜中にクラックが発生して、膜が基体から剥離してしまうことがある。
親水性有機ポリマーの総濃度は、シリコンアルコキシドの濃度をSiO2濃度により表示した場合、当該SiO2に対して60質量%以下とすることが好ましく、40質量%以下とすることがより好ましい。残存量が多くなると、加熱硬化後の膜強度が低下してしまう場合があるからである。他方、親水性有機ポリマーの濃度が低すぎると、硬化時の収縮による膜応力を緩和することができずクラックが発生することがある。それゆえ、親水性有機ポリマーの総濃度は、上記SiO2に対して0.1質量%以上、特に5質量%以上、とすることが好ましい。
強酸としては、塩酸、硝酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、シュウ酸を例示できる。強酸のうち、揮発性の酸は、加熱時に揮発して硬化後の膜中に残存することがないので、好ましく用いることができる。硬化後の膜中に酸が残ると、無機成分の結合が妨げられ、膜硬度が低下してしまうことがある。
本発明の製造方法に用いるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、1−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコールなどを例示できる。
本発明の方法における塗布工程では、雰囲気の相対湿度を40%未満に保持しながら、有機無機複合膜の形成溶液を樹脂基体上に塗布する。相対湿度が高すぎると、雰囲気中の水分の過剰な吸い込みにより、成膜後のシリカ系膜が緻密な構造体となりにくく、優れた耐摩耗性が得られないことがある。なお、シリカ系膜の耐摩耗性を向上させる観点からは、当該相対湿度を30%以下に制御することが好ましい。塗布工程における雰囲気の相対湿度の下限値は特に限定されないが、形成溶液の取り扱い性(塗布性)を高める観点からは、その相対湿度を、例えば15%以上、さらには20%以上に制御することが好ましい。湿度が上記の範囲となるように制御された雰囲気下で形成溶液を塗布することは、良好な耐摩耗性を実現する上で重要である。
本発明の方法における除去工程では、基体上に塗布された形成溶液の液体成分、例えば水およびアルコール、の少なくとも一部、好ましくは実質的に全部、が除去される。
除去工程は、150℃以下の温度で行う。塗布された形成溶液中の親水性有機ポリマーの分解や、樹脂基体の熱損壊を防止するためである。熱処理の下限温度は、用いる樹脂基体の耐熱性および要求される膜の硬度に応じて適宜選択すればよい。例えば、熱処理温度を100℃以上とする。
除去工程は、室温(25℃)下での風乾工程と、風乾工程に続いて行われる、室温よりも高温かつ150℃以下の雰囲気下、例えば100℃以上150℃以下の雰囲気下での熱処理工程とにより行うとよい。風乾工程は、相対湿度が40%未満、さらには30%以下に制御された雰囲気下で行うことが好ましい。雰囲気の相対湿度を当該範囲に制御すると、膜のクラックの発生をより確実に防止できる。なお、風乾工程における雰囲気の相対湿度の下限値は特に限定されない。例えば15%、さらには20%であってよい。
本発明の方法では、有機無機複合膜の形成溶液中におけるシリコンアルコキシドの加水分解や縮重合状態を、当該形成溶液のpH調整や、親水性有機ポリマーの添加により制御している。また、乾燥や加熱時に十分な膜収縮力が得られるように水分量を調整しつつ、過剰な膜収縮を抑制するため、親水性有機ポリマーを添加している。これにより、有機無機複合膜の形成溶液を塗布する塗布工程と、塗布された当該形成溶液に含まれる液体成分の少なくとも一部を除去する除去工程と、をそれぞれ1回ずつ実施することにより、低温度域の熱処理によって、耐摩耗性に優れるとともに、膜厚が250nmを超え5μm以下である程度に厚い有機無機複合膜を形成することができる。
本発明による有機無機複合膜は、上述のように、比較的低温の熱処理で、熔融法により得たガラス板に匹敵する程度に優れた耐摩耗性を有する。この有機無機複合膜を、自動車用あるいは建築用の窓ガラスに適用しても、十分実用に耐える。しかし、厚さが0.1mm以下であるフィルム、特に樹脂フィルムを、有機無機複合膜を形成する基体に用いると、基体自体の強度が十分でなく容易に変形するために、有機無機複合膜の耐摩耗性が低下する。これを考慮し、本発明では、厚さが0.1mmを超える樹脂基体を用いることとした。基体の厚さは、0.3mm以上が好ましく、0.4mm以上がより好ましく、0.5mm以上がさらに好ましく、場合によっては2mm以上、さらには3mm以上であってよい。基体厚の上限値は特に限定されないが、例えば20mm、さらには10mmであってよい。
樹脂基体の材料としては、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、環状ポリオレフィン、ポリメチルペンテン、ナイロンなどが例示できる。
樹脂基体は、その表面に、プライマー層に代表される、本発明による方法以外の方法で形成された公知の層が形成されたものを使用できる。本明細書では、樹脂基体を構成する樹脂材料と有機無機複合膜との間に、このような層が存在する場合、当該層を、本発明の有機無機複合膜には含めず、樹脂基体の一部として取り扱う。
プライマー層は、樹脂基体の表面に、公知のシランカップリング剤(Y−R−Si−(X)3、Y:ビニル基、エポキシ基、アミノ基など、X:アルコキシ基、アセトキシ基、クロル原子など)を含むプライマー層形成溶液、より詳しくは、アミノ基および/またはエポキシ基を含むシリコンアルコキシド、強酸ならびにアルコールを含み、シリコンアルコキシドの濃度が、当該シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子をRSiO1.5に換算したときのRSiO1.5濃度により表示して0.1質量%を超える、プライマー層形成溶液、を塗布する工程と、塗布されたプライマー層形成溶液に含まれる液体成分の少なくとも一部を除去する工程と、を含んで形成することができる。
有機無機複合膜の形成溶液を塗布する塗布工程では、プライマー層の表面に有機無機複合膜の形成溶液を塗布することが好ましい。詳しくは後述するが、これにより、樹脂物品の完成後に、有機無機複合膜の表面に対して実施する、JIS K 5400の碁盤目テープ法に準じて規定されるテープ剥離試験(その詳細は後述する)により、有機無機複合膜が樹脂基体から剥離しない密着性に優れた膜を、樹脂基体上により確実に形成できる。
テーバー試験に対する有機無機複合膜の優れた耐摩耗性は、後述する実施例で示すように、表面にプライマー層が形成されていない樹脂基体を使用しても得ることができる。
本発明により成膜できる有機無機複合膜をマトリクスとして、例えば有機色素や紫外線吸収剤などの機能性材料を導入することができる。機能性材料として用いうる有機物は、200〜300℃の温度で分解が始まるものが多い。無機物であっても、例えば、酸化物であるITO(インジウム錫酸化物)微粒子は、250℃を超えた範囲での加熱で熱遮蔽能が低下する。本発明では、150℃以下の加熱であっても、有機無機複合膜を十分に硬化させることが可能であるため、導電性微粒子や機能性材料の機能を損なわずに、これらを有機無機複合膜中に導入することができる。また、本発明の方法では形成溶液中に親水性有機ポリマーを含有するため、膜中にITO、ATO(アンチモン錫酸化物)、ZnO(酸化亜鉛)、コロイダルシリカ、およびフッ素樹脂微粒子以外のラテックス微粒子などの微粒子を添加する場合に、分散剤として機能し、当該微粒子を均一に分散させることもできる。なお、本発明において、ポリエーテル基を有するリン酸系界面活性剤は、特に分散性に優れている。また、有機無機複合膜中に含ませる機能性物質に応じて、有機無機複合膜の形成溶液中に、分散剤をさらに添加してもよく、必要に応じて界面活性剤をさらに添加してもよい。
有機無機複合膜の形成溶液には、有機修飾された金属アルコキシドを、その金属アルコキシドの金属原子のモル数が、有機修飾されていないシリコンアルコキシドのシリコン原子のモル数の10%以下の量となるように、添加してもよい。
Si以外の金属酸化物をシリコン酸化物の質量分率を超えない範囲で添加し、複合酸化物としてもよい。その際に、シリコンアルコキシドの反応性に、影響を与えない方法で添加することが望ましい。
水あるいはアルコールに溶解する金属化合物、特に、単純に電離して溶解するもの、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、コバルト、鉄、ニッケル、銅、アルミニウム、ガリウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、亜鉛などの金属の、塩化物、酸化物、硝酸塩などを必要量添加してもよい。
ボロンに関しては、ホウ酸あるいはホウ素のアルコキシドをアセチルアセトンなどのβ−ジケトンでキレート化して添加することが可能である。
チタン、ジルコニウムに関しては、オキシ塩化物、オキシ硝酸化物、あるいはアルコキシドをβ−ジケトンでキレート化して添加することが可能である。
また、アルミニウムに関しても、アルコキシドをβ−ジケトンでキレート化して添加することが可能である。
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例1)
表1に示すように、エチルアルコール(片山化学製)27.69gに、テトラエトキシシラン(信越化学工業製)36.11g、エチルシリケート(コルコート製)6.50g、純水25.70g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.10g、ポリエーテルリン酸エステル系ポリマー(日本ルーブリゾール製ソルスパース41000)3.90gを添加、撹拌し、有機無機複合膜の形成溶液(形成溶液A1)を得た。
Figure 2007040256
なお、ここで用いたエチルシリケート(コルコート製「エチルシリケート40」)とは、平均してn=5の下記の式(1)で代表され、シリカ分(SiO2)として40質量%相当分を含有する無色透明の液体である。さらには、鎖状構造の縮重合体の他に、分岐状または環状構造の縮重合体も含んでいる。エチルシリケート40に代表されるシリコンアルコキシドの重合体は、シリカの供給効率、粘度、比重、保存安定性、製品コストに優れており、使用時の取り扱いも容易である。
(化1)
CH3CH2O-(Si(OCH2CH3)2)n-OCH2CH3 (1)
形成溶液A1中のシリコンアルコキシド(シリカ換算)、プロトン濃度、水および親水性有機ポリマーの含有量は、表2に示すとおりである。なお、形成溶液中の水の含有量は、エチルアルコール中に含まれる水分(0.35質量%)を加えて計算している。プロトン濃度は、塩酸に含まれるプロトンがすべて解離したとして算出した。水の含有量およびプロトン濃度の計算方法は、以下のすべての実施例、比較例において同一である。
Figure 2007040256
次いで、洗浄したポリカーボネート樹脂基板(100×100mm、厚さ:3.0mm)上に、相対湿度(以下、単に「湿度」という)30%、室温下で、形成溶液A1をフローコート法にて塗布した。そのまま、室温で約30分程度乾燥した後、予め110℃に昇温したオーブンに投入し60分加熱し、その後冷却した。得られた膜は、膜厚2700nmの透明度の高い膜であった。膜厚の測定は、測定の簡便化のために、樹脂基板に代えてガラス基板を使用したこと以外は上記と同様にして形成した膜を対象とし、アルファステップ500(TENCOR社製)を用いた触針法により実施した。膜厚の測定は、以下の全ての実施例、比較例において、これと同様に、ガラス基板上に形成した膜を対象として実施した。
膜の硬さの評価は、JIS R 3212に準拠した摩耗試験によって行った。すなわち、市販のテーバー摩耗試験機(TABER INDUSTRIES社製5150 ABRASER)を用い、500gの荷重で1000回摩耗を行い、摩耗試験前後のヘイズ率の測定を行った。膜厚、クラックの有無、テーバー試験前後のヘイズ率、テーバー試験後の膜剥離の有無、およびテープ剥離試験後の膜剥離の有無を表2に示す。なお、ブランクとして、実施例にて使用したポリカーボネート板および熔融ガラス板におけるテーバー試験前後のヘイズ率も表3に示す。ヘイズ率は、スガ試験機社製HGM−2DPを用いて測定した。
Figure 2007040256
表3に示すように、テーバー試験後のヘイズ率は2.0%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していることが分かった。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がないことが分かった。当該樹脂物品は、自動車用あるいは建築用の窓ガラスとしても、十分に実用性を有している。なお、自動車用の窓ガラスでは、テーバー試験後のヘイズ率は4%以下が求められている。
(実施例2)
実施例2は、表1および2に示すように形成溶液A1中の酸濃度を増加させて調製した形成溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして有機無機複合膜を形成した例である。
得られた有機無機複合膜は、表3に示すように、膜厚2700nmの透明度の高い膜であり、テーバー試験後のヘイズ率は2.2%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。
(実施例3)
実施例3は、表1および表2に示すように形成溶液A1中の酸濃度を、実施例2よりもさらに増加させて調製した形成溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして有機無機複合膜を形成した例である。
得られた有機無機複合膜は、表3に示すように、膜厚2700nmの透明度の高い膜であり、テーバー試験後のヘイズ率は1.7%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。
(実施例4)
実施例4は、プライマー層が形成された樹脂基体の表面に有機無機複合膜を形成したこと以外は、実施例1と同様にして有機無機複合膜を形成した例ある。
上記のプライマー層は、以下のようにして形成した。
まず、エチルアルコール(片山化学製)99.50gに、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業製KBE−903)0.40g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.10gを添加、撹拌し、プライマー層形成溶液(形成溶液B4)を得た。この溶液中の3−アミノプロピルトリエトキシシラン(アミノプロピルシルセスキオキサン(RSiO1.5)換算)、プロトン濃度および水の含有量は、それぞれ0.2質量%、0.01mol/kgおよび14.2(対Si量;モル比)である。なお、形成溶液B4においても、水の含有量は、エチルアルコール中に含まれる水分を0.35質量%として加えた上で計算している。
次いで、洗浄したポリカーボネート樹脂基板(100×100mm、厚さ:3.0mm)上に、湿度30%、室温下で形成溶液B4をフローコート法にて塗布した。そのまま、室温で約1分程度乾燥した後、予め110℃に昇温したオーブンに投入し30分加熱し、その後冷却することによりプライマー層を形成した。このようにして、表面にプライマー層が形成された樹脂基体を準備した。
実施例4において形成された有機無機複合膜は、表3に示すように、膜厚2700nmの透明度の高い膜であり、テーバー試験後のヘイズ率は2.3%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。
さらに、JIS K 5400の碁盤目テープ法に準じたテープ剥離試験を実施したところ、有機無機複合膜が樹脂基体から全く剥離しなかった。なお、このテープ剥離試験は次のようにして行った。まず、カッターナイフを用いて有機無機複合膜の表面に5mm間隔で、膜を貫通して樹脂基板に届くように、縦方向の切り込みを入れた後、当該縦方向に直交する横方向にも同様の切り込みを入れ、5mm角で9個の碁盤目を形成したサンプルを作製した。次に、この碁盤目の上に、JIS Z 1522に規定する粘着テープ(ニチバン製LP−24、幅:24mm、厚さ:0.054mm、粘着力:4.01N/10mm)を、接着部分の長さが約50mmとなるように貼り付けた。その後、JIS S 6050に規定する消しゴムを用いて粘着テープの表面を擦りつけることにより、粘着テープをサンプルに密着させた。1〜2分後、この粘着テープを、有機無機複合膜の表面に対して90度の方向に瞬間的に(例えば0.2秒間以内で)引き剥がし、碁盤目状の切り込みの状態を観察し、評価した。
(実施例5)
実施例は、表1および表2に示すように有機ポリマーの濃度を増加させて調製した有機無機複合膜の形成溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして有機無機複合膜を形成した例である。
得られた有機無機複合膜は、表3に示すように、膜厚3000nmの透明度の高い膜であり、テーバー試験後のヘイズ率は3.4%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。さらに、テープ剥離試験後の膜剥離もなかった。
(実施例6)
実施例6は、表1および表2に示すように有機ポリマーの濃度を実施例5よりもさらに増加させて調製した有機無機複合膜の形成溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして有機無機複合膜を形成した例である。
得られた有機無機複合膜は、表3に示すように、膜厚3700nmの透明度の高い膜であり、テーバー試験後のヘイズ率は3.6%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。さらに、テープ剥離試験後の膜剥離もなかった。
(実施例7)
実施例7は、表1および表2に示すように、形成溶液A1に有機蛍光色素(林原生物化学研究所製NKX−1595)を添加し、さらに有機ポリマーの濃度を増加させて調製した有機無機複合膜の形成溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして有機無機複合膜を形成した例である。
得られた有機無機複合膜は、表3に示すように、膜厚2800nmの透明度の高い膜であり、テーバー試験後のヘイズ率は3.0%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。さらに、テープ剥離試験後の膜剥離もなく、市販のブラックライトの照射により黄色に発色した。
(実施例8)
実施例8は、表1および表2に示すように有機成分としてポリエーテルリン酸エステル系ポリマーに代えてベンゾトリアゾール系紫外線吸収ポリマー(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ製TINUVIN 1130)を用い、テトラエトキシシランを用いないで調製した有機無機複合膜の形成溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして有機無機複合膜を形成した例である。
得られた有機無機複合膜は、表3に示すように、膜厚3400nmの透明度の高い膜であり、テーバー試験後のヘイズ率は2.6%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。さらに、テープ剥離試験後の膜剥離もなかった。
(実施例9)
実施例9は、表1および表2に示すように有機成分としてポリエーテルリン酸エステル系ポリマーとともに実施例8で用いたベンゾトリアゾール系紫外線吸収ポリマーを用いて調製した有機無機複合膜の形成溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして有機無機複合膜を形成した例である。
得られた有機無機複合膜は、表3に示すように、膜厚2700nmの透明度の高い膜であり、テーバー試験後のヘイズ率は2.7%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。さらに、テープ剥離試験後の膜剥離もなかった。
(実施例10)
実施例10は、表1および表2に示すように有機成分としてポリエーテルリン酸エステル系ポリマーに代えてポリビニルピロリドンビニルアセテート系ポリマー(東京化成製P0382、ビニルアセテート含有率30%、50%エタノール溶液)を用いて調製した有機無機複合膜の形成溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして有機無機複合膜を形成した例である。
得られた有機無機複合膜は、表3に示すように、膜厚2700nmの透明度の高い膜であり、テーバー試験後のヘイズ率は2.7%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。さらに、テープ剥離試験後の膜剥離もなかった。
(実施例11)
実施例11は、表1および表2に示すように実施例10で用いたものと比べてビニルアセテート含有率の高いポリビニルピロリドンビニルアセテート系ポリマー(BASFジャパン製Luvitec VA64W、ビニルアセテート含有率40%、50%水溶液)を用いて調製した有機無機複合膜の形成溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして有機無機複合膜を形成した例である。
得られた有機無機複合膜は、表3に示すように、膜厚2700nmの透明度の高い膜であり、テーバー試験後のヘイズ率は3.1%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。さらに、テープ剥離試験後の膜剥離もなかった。
(実施例12)
実施例12は、表1および表2に示すように有機成分としてポリエーテルリン酸エステル系ポリマーに代えてポリビニルカプロラクタム系ポリマー(BASFジャパン製Luvicap EG、41%エチレングリコール溶液)を用いて調製した有機無機複合膜の形成溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして有機無機複合膜を形成した例である。
得られた有機無機複合膜は、表3に示すように、膜厚2700nmの透明度の高い膜であり、テーバー試験後のヘイズ率は3.7%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。さらに、テープ剥離試験後の膜剥離もなかった。
(実施例13)
実施例13は、表1および表2に示すように有機成分としてポリエーテルリン酸エステル系ポリマーとともに実施例11で用いたポリビニルピロリドンビニルアセテート系ポリマーを用いて調製した有機無機複合膜の形成溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして有機無機複合膜を形成した例である。
得られた有機無機複合膜は、表3に示すように、膜厚2700nmの透明度の高い膜であり、テーバー試験後のヘイズ率は2.6%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。さらに、テープ剥離試験後の膜剥離もなかった。
(実施例14)
実施例14は、表1および表2に示すように有機成分としてポリエーテルリン酸エステル系ポリマーとともに実施例11で用いたものと比べてビニルアセテート含有率の高いポリビニルピロリドンビニルアセテート系ポリマー(東京化成製P0385、ビニルアセテート含有率70%、50%エタノール溶液)を用いて調製した有機無機複合膜の形成溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして有機無機複合膜を形成した例である。
得られた有機無機複合膜は、表3に示すように、膜厚2700nmの透明度の高い膜であり、テーバー試験後のヘイズ率は2.3%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。さらに、テープ剥離試験後の膜剥離もなかった。
(実施例15)
実施例15は、表1および表2に示すように形成溶液A1の親水性有機ポリマーの濃度を低減し、SiO2成分の一部をITO微粒子に置き換えて調製した有機無機複合膜の形成溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして有機無機複合膜を形成した例である。
得られた有機無機複合膜は、表3に示すように、膜厚2500nmの透明度の高い膜であり、テーバー試験後のヘイズ率は3.4%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。さらに、テープ剥離試験後の膜剥離もなかった。
(実施例16)
実施例16は、表1および表2に示すように形成溶液A1の親水性有機ポリマーの濃度を低減し、SiO2成分の一部をATO微粒子に置き換えて調製した有機無機複合膜の形成溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして有機無機複合膜を形成した例である。
得られた有機無機複合膜は、表3に示すように、膜厚2500nmの透明度の高い膜であり、テーバー試験後のヘイズ率は3.6%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。さらに、テープ剥離試験後の膜剥離もなかった。
(実施例17)
実施例17は、実施例4で用いたものとは異なるシランカップリング剤を用いて調製したプライマー層形成溶液(形成溶液B17)を用いることにより、表面にプライマー層を形成した樹脂基体を使用したこと以外は、実施例4と同様にして有機無機複合膜を形成した例である。
形成溶液B17は、以下のようにして調製した。
エチルアルコール(片山化学製)99.57gに、3−グリシドキシプロピルメチルトリエトキシシラン(信越化学工業製KBE−403)0.33g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.10gを添加、撹拌し、形成溶液B18を得た。この溶液中の3−グリシドキシプロピルメチルトリエトキシシラン(グリシドキシプロピルシリコーン(RSiO1.5)換算)、プロトン濃度および水の含有量は、それぞれ0.2質量%、0.01mol/kgおよび21.5(対Si量;モル比)である。なお、形成溶液B18においても、水の含有量は、エチルアルコール中に含まれる水分を0.35質量%として加えた上で計算している。
実施例17において形成された有機無機複合膜は、表3に示すように、膜厚2700nmの透明度の高い膜であり、テーバー試験後のヘイズ率は2.9%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。さらに、テープ剥離試験後の膜剥離もなかった。
(実施例18)
実施例18は、実施例4で用いたものとは異なるシランカップリング剤を用いて調製したプライマー層形成溶液(形成溶液B18)を用いることにより、表面にプライマー層を形成した樹脂基体を使用したこと以外は、実施例4と同様にして有機無機複合膜を形成した例である。
形成溶液B18は、以下のようにして調製した。
エチルアルコール(片山化学製)99.23gに、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(信越化学工業製KBE−402)0.29g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.10gを添加、撹拌し、形成溶液B19を得た。この溶液中の3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン(グリシドキシプロピルシリコーン(R2SiO)換算)、プロトン濃度および水の含有量は、それぞれ0.2質量%、0.01mol/kgおよび22.4(対Si量;モル比)である。なお、形成溶液B19においても、水の含有量は、エチルアルコール中に含まれる水分を0.35質量%として加えた上で計算している。
実施例18において形成された有機無機複合膜は、表3に示すように、膜厚3000nmの透明度の高い膜であり、テーバー試験後のヘイズ率は2.5%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。さらに、テープ剥離試験後の膜剥離もなかった。
(比較例1)
比較例1は、表1および表2に示すように有機成分を添加せずに調製した有機無機複合膜の形成溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして有機無機複合膜の形成を試みた例である。
当該例では、表3に示すように、剥離を伴ったクラックが発生し、膜として成立しなかった。
(比較例2)
比較例2は、表1および表2に示すように水の含有濃度が低い有機無機複合膜の形成溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして有機無機複合膜の形成を試みた例である。
当該例では、表3に示すように、剥離を伴ったクラックが発生し、膜として成立しなかった。
本発明は、有機物を含みながらも耐摩耗性に優れた有機無機複合膜が形成された樹脂物品を提供するものとして、有機無機複合膜が形成された樹脂基体を利用する各分野において多大な利用価値を有する。

Claims (12)

  1. 樹脂基体と、前記樹脂基体上に形成された有機物および無機酸化物を含む有機無機複合膜と、を含む樹脂物品であって、
    前記樹脂基体の厚さが0.1mmを超え、
    前記有機無機複合膜が無機酸化物としてシリカを含み、
    前記有機無機複合膜が前記シリカを主成分とし、
    前記有機無機複合膜の表面に対して実施するJIS R 3212に規定されたテーバー磨耗試験の後に、前記有機無機複合膜が前記樹脂基体から剥離しない、
    樹脂物品。
  2. 前記有機無機複合膜の膜厚が1μmを超え5μm以下である請求項1に記載の樹脂物品。
  3. 前記有機無機複合膜の膜厚が2μmを超え5μm以下である請求項2に記載の樹脂物品。
  4. 前記テーバー磨耗試験の後に測定した、当該テーバー磨耗試験を適用した部分のヘイズ率が4%以下である請求項1に記載の樹脂物品。
  5. 前記有機無機複合膜が、前記有機物の少なくとも一部として親水性有機ポリマーを含む請求項1に記載の樹脂物品。
  6. 前記有機無機複合膜が、フッ素樹脂微粒子を含まない請求項1に記載の樹脂物品。
  7. 前記有機無機複合膜の表面に対して実施するテープ剥離試験により、前記有機無機複合膜が前記樹脂基体から剥離しない、請求項1に記載の樹脂物品。
    ただし、前記テープ剥離試験は、JIS K 5400の碁盤目テープ法に準じて規定される試験方法であり、前記有機無機複合膜の表面に碁盤目状の切り込みを形成した、前記有機無機複合膜の表面において、JIS Z 1522に規定する粘着テープを用いた引き剥がしにより実施する。
  8. 樹脂基体と、前記樹脂基体上に形成された有機物および無機酸化物を含む有機無機複合膜と、を含み、前記樹脂基体の厚さが0.1mmを超え、前記有機無機複合膜が無機酸化物としてシリカを含み、前記有機無機複合膜が前記シリカを主成分とする、樹脂物品の製造方法であって、
    前記樹脂基体上に前記有機無機複合膜の形成溶液を塗布する塗布工程と、
    前記樹脂基体上に塗布された形成溶液から当該形成溶液に含まれる液体成分の少なくとも一部を除去する除去工程と、を含み、
    前記形成溶液が、シリコンアルコキシド、強酸、水およびアルコールを含み、
    前記シリコンアルコキシドの濃度が、当該シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子をSiO2に換算したときのSiO2濃度により表示して3質量%を超え、

    前記形成溶液が、前記強酸の少なくとも一部として、または前記強酸とは別の成分として、前記有機物の少なくとも一部となる親水性有機ポリマーをさらに含み、 前記強酸の濃度が、前記強酸からプロトンが完全に解離したと仮定したときのプロトンの質量モル濃度により表示して0.001〜0.2mol/kgの範囲にあり、
    前記水のモル数が、前記シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子の総モル数の4倍以上であり、
    前記塗布工程では、雰囲気の相対湿度を40%未満に保持しながら、前記形成溶液を前記樹脂基体上に塗布し、
    前記除去工程では、前記樹脂基体を150℃以下の温度に保持しながら、前記塗布された形成溶液に含まれる液体成分の少なくとも一部を除去する、
    樹脂物品の製造方法。
  9. 前記樹脂基体の表面にプライマー層形成溶液を塗布する工程と、前記樹脂基体の表面に塗布されたプライマー層形成溶液から当該プライマー層形成溶液に含まれる液体成分の少なくとも一部を除去する工程と、を含み、前記プライマー層形成溶液が、アミノ基および/またはエポキシ基を含むシリコンアルコキシド、強酸ならびにアルコールを含み、前記シリコンアルコキシドの濃度が、当該シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子をRSiO1.5に換算したときのRSiO1.5濃度により表示して0.1質量%を超え、前記プライマー層の表面に前記有機無機複合膜の形成溶液を塗布する、請求項8に記載の樹脂物品の製造方法。
  10. 前記シリコンアルコキシドの濃度が前記SiO2濃度により表示して30質量%以下である請求項8に記載の樹脂物品の製造方法。
  11. 前記水のモル数が、前記シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子の総モル数の20倍以下である請求項8に記載の樹脂物品の製造方法。
  12. 前記塗布工程と、前記除去工程と、をそれぞれ1回ずつ実施することにより、膜厚が1μmを超え5μm以下である前記有機無機複合膜を形成する請求項8に記載の樹脂物品の製造方法。
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