JPWO2007040257A1 - 有機無機複合膜が形成された物品およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、帯電防止能や近赤外線吸収能を有する材料を含みながらも、耐摩耗性に優れた有機無機複合膜が形成された物品を提供する。この物品は、基体と、この基体上に形成された有機物および無機酸化物を含む有機無機複合膜とを含み、有機無機複合膜が無機酸化物の少なくとも一部としてシリカを含んでこれを主成分とし、有機物の少なくとも一部としてまたは無機酸化物としてさらに、カーボンナノチューブ、フラーレン、アンチモンスズ酸化物およびインジウムスズ酸化物から選ばれた少なくとも1種、ならびに/または導電性ポリマーを含み、有機無機複合膜の表面に対して実施するJIS R 3212に規定されたテーバー摩耗試験の後に、当該膜が基体から剥離しない。
Description
本発明は、有機無機複合膜が形成された物品およびその製造方法に関し、詳しくは、ゾルゲル法により形成され、かつ有機物に代表される耐熱性の低い材料を含みながらも、耐摩耗性に優れた膜が形成された物品およびその製造方法に関する。
ガラス材料は一般に硬質であり、基体を被覆する膜の形態でも利用される。しかし、ガラス質の膜(シリカ系膜)を得ようとすると、熔融法では高温処理が必要になるため、基体および膜を構成する材料が制限される。
ゾルゲル法は、金属の有機または無機化合物の溶液を出発原料とし、溶液中の化合物の加水分解反応および縮重合反応によって、溶液を金属の酸化物あるいは水酸化物の微粒子が溶解したゾルとし、さらにゲル化させて固化し、このゲルを加熱して酸化物固体を得る方法である。
ゾルゲル法は、低温でのガラス質の膜の製造を可能とする。ゾルゲル法によりシリカ系膜を形成する方法は、例えば特開平11−269657号公報に開示されている。
一般に、ゾルゲル法により形成したシリカ系膜は、熔融法により得たガラス質の膜と比較すると、機械的強度、特に膜の耐摩耗性に劣る。
特開平11−269657号公報には、「シリコンアルコキシドおよびその加水分解物(部分加水分解物を含む)の少なくとも1つがシリカ換算で0.010〜3重量%、酸0.0010〜1.0規定、および水0〜10重量%を含有するアルコール溶液をコーティング液として基体に塗布してシリカ系膜を形成する方法」が開示されている。
この方法により得られたシリカ系膜は、乾布磨耗試験に耐える程度の強度を有し、十分であるとは言えないまでも、ゾルゲル法により得られた膜としては、良好な耐摩耗性を有する。しかし、特開平11−269657号公報が開示する方法により成膜できるシリカ系膜は、実用に耐える外観を確保しようとすると、その膜厚が最大でも250nmに制限される。ゾルゲル法により形成されるシリカ系膜の厚さは、通常、100〜200nm程度である。
コーティング液を複数回に渡って塗布して多層膜を形成することで、シリカ系膜を厚膜化することができる。しかし、各層の界面の密着性が低くなり、シリカ系膜の耐摩耗性が低下する場合がある。また、シリカ系膜の製造プロセスが複雑化するという問題もある。
以上のような事情から、ゾルゲル法により、膜厚が250nmを超える程度に厚く、かつ耐摩耗性に優れたシリカ系膜を得ることは困難であった。
ゾルゲル法により、無機物と有機物とを複合させた有機無機複合膜を形成する技術が提案されている。ゾルゲル法は、低温での成膜を特徴とするため、有機物を含むシリカ系膜の成膜を可能とする。ゾルゲル法による有機無機複合膜は、例えば、特開平3−212451号公報、特開平3−56535号公報、特開2002−338304号公報に開示されている。
ところで、ガラス、樹脂等の基体には、表面の帯電を防止するため、帯電防止材料を含有したハードコート層が形成されることがある。なお、ハードコート層に帯電防止能を発揮させるためには、その表面抵抗率を1014Ω/□以下の範囲に制御することが要求されている。
帯電防止材料としては、一般に、インジウムスズ酸化物(ITO)やアンチモンスズ酸化物(ATO)などの金属酸化物微粒子が用いられている。また、最近では、優れた導電性および熱的安定性を発揮する、カーボンナノチューブやフラーレンがその材料として注目されている。しかし、これらの帯電防止材料は、コーティング液中での凝集傾向が強く、相溶しにくいという問題がある。
ITOやATOを含有するハードコート膜は、近赤外線吸収作用を発揮しうる膜として、特にディスプレイパネルの分野においても注目されている。
特開2005−15615号公報において、ポリエチレンオキサイド水溶液に、親水性の二酸化珪素の微粒子および界面活性剤とともに、ITOやATOなどを添加することにより、コーティング液中でのITOなどの分散性を高める技術が提案されている。しかしながら、この技術によって得られる絶縁膜の耐摩耗性は必ずしも十分でない。
ゾルゲル法によるシリカ系膜の耐摩耗性を向上させるには、シリカ系膜を450℃以上で熱処理することが望ましい。しかし、有機無機複合膜をこの程度の高温で熱処理すると、膜中の有機物が分解したり、ITOのような機能性微粒子の機能が低下したりする。
本発明は、帯電防止能や近赤外線吸収能を有する材料を含みながらも、耐摩耗性に優れた有機無機複合膜が形成された物品を提供することを目的とする。
本発明は、基体と、前記基体の表面に形成された、有機物および無機酸化物を含む有機無機複合膜とを含む、有機無機複合膜が形成された物品であって、前記有機無機複合膜が前記無機酸化物としてシリカを含み、前記有機無機複合膜が前記シリカを主成分とし、前記有機無機複合膜の表面に対して実施するJIS R 3212に規定されたテーバー摩耗試験の後に、前記有機無機複合膜が前記基体から剥離せず、前記有機無機複合膜が、前記有機物の少なくとも一部として、または前記無機酸化物としてさらに、カーボンナノチューブ、フラーレン、アンチモンスズ酸化物およびインジウムスズ酸化物から選ばれた少なくとも1種、ならびに/または導電性ポリマーを含む、有機無機複合膜が形成された物品を提供する。
本明細書において、主成分とは、含有率が最も高い成分をいう。含有率は質量%基準で評価する。JIS R 3212によるテーバー摩耗試験は、市販のテーバー摩耗試験機を用いて実施できる。この試験は、上記JISに規定されているとおり、500g重の荷重を印加しながら行う、回転数1000回の摩耗試験である。
本発明は、その別の側面から、基体と、前記基体の表面に形成された、有機物および無機酸化物を含む有機無機複合膜とを含み、前記有機無機複合膜が前記無機酸化物としてシリカを含み、前記有機無機複合膜が前記シリカを主成分とし、前記有機無機複合膜が、前記有機物の少なくとも一部として、または前記無機酸化物としてさらに、カーボンナノチューブ、フラーレン、アンチモンスズ酸化物およびインジウムスズ酸化物から選ばれた少なくとも1種、ならびに/または導電性ポリマーを含む、有機無機複合膜が形成された物品の製造方法であって、前記基体の表面に前記有機無機複合膜の形成溶液を塗布する塗布工程と、前記基体に塗布された形成溶液から当該形成溶液に含まれる液体成分の少なくとも一部を除去する除去工程と、を含み、前記形成溶液が、シリコンアルコキシド、強酸、水およびアルコールと、カーボンナノチューブ、フラーレン、アンチモンスズ酸化物およびインジウムスズ酸化物から選ばれた少なくとも1種、ならびに/または導電性ポリマーとを含み、前記形成溶液が、前記強酸の少なくとも一部として、もしくは前記強酸とは別の成分として、親水性有機ポリマーおよび/または界面活性剤をさらに含み、前記シリコンアルコキシドの濃度が、当該シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子をSiO2に換算したときのSiO2濃度により表示して3質量%を超え、前記強酸の濃度が、前記強酸からプロトンが完全に解離したと仮定したときのプロトンの質量モル濃度により表示して0.001〜0.1mol/kgの範囲にあり、前記水のモル数が、前記シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子の総モル数の4倍以上であり、前記塗布工程では、雰囲気の相対湿度を40%未満に保持しながら、前記形成溶液を前記基体に塗布し、前記除去工程では、前記基体を300℃以下の温度に保持しながら、前記基体に塗布された形成溶液に含まれる液体成分の少なくとも一部を除去する、有機無機複合膜が形成された物品の製造方法を提供する。
本発明によれば、ゾルゲル法により、膜厚が250nmを超える程度に厚くても、耐摩耗性に優れた、帯電防止能や近赤外線吸収能を発揮する有機無機複合膜を形成できる。本発明による有機無機複合膜は、カーボンナノチューブ、フラーレン、アンチモンスズ酸化物およびインジウムスズ酸化物から選ばれた少なくとも1種、ならびに/または導電性ポリマーを含むにもかかわらず、熔融法により得たガラス板に匹敵する程度に優れた耐摩耗性を有しうる。本発明による有機無機複合膜は、膜の表面抵抗率が1.0×1014Ω/□以下となる、高い帯電防止能を有しうる。また、本発明による有機無機複合膜は、波長1700nmの近赤外線の透過率が30%以下となる、高い近赤外線吸収能を有しうる。
本発明の製造方法によれば、形成溶液の一度の塗布により、例えば膜厚が250nmを超える程度に厚く、耐摩耗性に優れるとともに、高い帯電防止能や近赤外線吸収能を有しうる膜を形成できる。
以下、まずゾルゲルプロセスについて説明する。
シリコンアルコキシドを出発原料とするゾルゲル法の場合、膜のコーティング液(以下、形成溶液と呼ぶ)に含まれるシリコンアルコキシドは、形成溶液中において、水と触媒との存在の下、加水分解反応および脱水縮合反応を経てシロキサン結合を介したオリゴマーとなり、これに伴って形成溶液はゾル状態となる。
ゾル状態となった形成溶液は基体に塗布され、塗布された形成溶液からは、水や、アルコールなどの有機溶媒が揮発する。この乾燥工程において、オリゴマーは濃縮され、縮重合反応が進行して分子量が大きくなり、やがて溶液は流動性を失う。こうして、基体上に半固形状のゲルからなる膜が形成される。ゲル化直後は、シロキサン結合のネットワークの隙間に、有機溶媒や水が満たされた状態にある。ゲルから水や溶媒が揮発すると、シロキサンポリマーが収縮し、縮重合反応がさらに進行して、膜が硬化する。
従来のゾルゲル法では、固化したゲルにおいて、有機溶媒や水が満たされていた隙間は、400℃程度までの熱処理を行っても、完全に埋まることはなく、細孔として残存するため、膜の耐摩耗性は十分に高くはならない。それゆえ、従来は、硬質な膜を得るために、さらに高温、例えば500℃以上での熱処理を必要としていた。
ゾルゲル法によるシリカ系膜の熱処理における、反応と温度との関係についてさらに詳しく述べる。約100〜150℃の熱処理では、形成溶液に含まれている溶媒や水が蒸発する。約250〜400℃の熱処理では、原料に有機材料が含まれていると、その有機材料が分解し、蒸発する。400℃を超える温度で熱処理すると、通常、膜には有機材料が残らない。約500℃以上の熱処理では、ゲル骨格の収縮が起こり、膜が緻密になる。
上述したように、通常のゾルゲル反応では、ゲル化の直後には、形成されたネットワークの隙間に有機溶媒や水が満たされている。この隙間の大きさは、溶液中でのシリコンアルコキシドの重合の形態に依存することが知られている。
重合の形態は、溶液のpHによって大きく変化する。酸性の液中では、シリコンアルコキシドのオリゴマーは直鎖状に成長しやすい。このような液を基体に塗布すると、直鎖状のオリゴマーが折り重なって網目状組織を形成し、得られる膜は比較的隙間の小さい緻密な膜となる。しかし、直鎖状のポリマーが折り重なった状態で固化されるため、ミクロ構造は強固ではなく、隙間から溶媒や水が揮発する際にクラックが入りやすい。
一方、アルカリ性の液中では、球状のオリゴマーが成長しやすい。このような液を基体に塗布すると、球状のオリゴマーが互いにつながった構造を形成し、比較的大きな隙間を有する膜となる。この隙間は、球状のオリゴマーが結合し成長して形成されるため、隙間から溶媒や水が揮発する際にクラックは入りにくい。
本発明者らは、比較的緻密な膜ができる酸性領域で、強酸の濃度、水分量などを適切に調整すると、ある条件下では、厚膜としても緻密でクラックのない膜を形成できるという知見を見出し、さらにこの知見を発展させることにより、本発明を完成した。
シラノールの等電点は2であることが知られている。これは、形成溶液のpHが2であると、液中においてシラノールが最も安定に存在できる、ということを示している。つまり、加水分解されたシリコンアルコキシドが溶液中に多量に存在する場合においても、溶液のpHが2程度であれば、脱水縮重合反応によりオリゴマーが形成される確率が非常に低くなる。この結果、加水分解されたシリコンアルコキシドが、モノマーまたは低重合の状態で、形成溶液中に存在しやすくなる。
pHが2程度の領域では、シリコンアルコキシドは、1分子当たり1個のアルコキシル基が加水分解され、シラノールとなった状態で安定化される。例えば、テトラアルコキシシランには4つのアルコキシル基があるが、そのうちの1つのアルコキシル基が加水分解され、シラノールとなった状態で安定化されるのである。
ゾルゲル溶液に、強酸を添加し、強酸のプロトンが完全に解離したとしたときのプロトンの質量モル濃度(以下、単に「プロトン濃度」と称することがある)で、0.001〜0.2mol/kg程度となるようにすると、溶液のpHは3〜1程度となる。この範囲にpHを調整すると、形成溶液中において、シリコンアルコキシドがモノマーまたは低重合のシラノールとして安定して存在できる。
形成溶液は、水およびアルコールの混合溶媒を含み、必要に応じて他の溶媒を添加することが可能であるが、そのような混合溶媒の場合にも、強酸を用い、かつ強酸からプロトンが完全に解離したと仮定したときのプロトンの質量モル濃度を0.001〜0.2mol/kgとなるようにすることで、pH2前後の液とすることができる。
プロトンの質量モル濃度の計算に当たっては、使用する酸の水中での酸解離指数が、4以上のプロトンを考慮する必要はない。例えば、弱酸である酢酸の水中での酸解離指数は4.8であるから、形成溶液に酢酸を含ませた場合にも、酢酸のプロトンは上記のプロトン濃度には含めない。
また例えば、リン酸の解離段は3段であり、一分子に付き3つのプロトンを解離する可能性がある。しかし、1段目の解離指数は2.15であり強酸とみなせるが、2段目の解離指数は7.2であり、3段目の解離指数はさらに大きい値となる。したがって、強酸からの解離を前提とする上記のプロトン濃度は、リン酸1分子からは、1個のプロトンしか解離しないものとして計算すればよい。1個のプロトンが解離した後のリン酸は強酸ではなく、2段目以降のプロトンの解離を考慮する必要はない。本明細書において、強酸とは、具体的には、水中での酸解離指数が4未満のプロトンを有する酸をいう。
なお、上述のように、プロトン濃度を強酸のプロトンが完全に解離したとしたときの濃度として規定する理由は、有機溶媒と水との混合液中では、強酸の解離度を正確に求めることが困難だからである。
このように形成溶液のpHを1〜3程度に保ち、これを基体表面に塗布して乾燥させると、低重合状態にあるシリコンアルコキシドが密に充填されるため、細孔が小さく、かなり緻密な膜が得られる。
この膜は緻密ではあるが、シリコンアルコキシドの加水分解および縮重合反応が不十分であることに起因して、150℃以下での低温度域での加熱では、ある硬度以上にはならない。そこで、シリコンアルコキシドの加水分解および縮重合反応が、形成溶液の塗布後において容易に進行するように、水を、シリコンアルコキシドに対して過剰に添加することとした。加水分解および縮重合反応が進行しやすい状態とすると、高温に加熱しなくても膜が硬くなる。具体的には、シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子の総モル数に対し、加水分解に必要とされる最大のモル数、すなわち4倍以上のモル数の水を添加しておく。水の添加量の上限は例えば20倍、さらには40倍とすることができる。
形成溶液の乾燥時には、溶媒の揮発と並行して水も蒸発する。これを考慮すると、水のモル数は、シリコン原子の総モル数に対し、4倍を超える程度、例えば5〜20倍とすることが好ましい。
なお、シリコンアルコキシドでは、1つのシリコン原子について最大4つのアルコキシル基が結合しうる。アルコキシル基の数が少ないアルコキシドでは、加水分解に必要な水のモル数は少なくなる。また、4つのアルコキシル基がシリコン原子に結合したテトラアルコキシシランであっても、その重合体(例えば、コルコート製「エチルシリケート40」などとして市販されている)では、加水分解に必要な水の総モル数は、シリコン原子の4倍よりも少ない(重合体のSiのモル数をnとすると(n≧2)、化学量論的に加水分解に必要な水のモル数は、(2n+2)モルとなる)。重合度の高いアルコキシシラン原料を使うほど、加水分解に必要な水のモル数は少なくなる。したがって、現実には、シリコンアルコキシドの加水分解に必要な水のモル数は、シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子の総モル数の4倍を下回ることもあるが、過剰な水の添加がむしろ好ましいことを考慮し、本発明では、シリコン原子の総モル数の4倍以上、好ましくは4倍を超える、さらに好ましくは5倍以上のモル数の水を添加することとした。
化学量論的に加水分解に必要なモル数を超える水を添加すると、乾燥工程における水の蒸発に伴う毛管収縮が大きくなり、シリコンアルコキシドの拡散および濃縮が起こりやすくなり、加水分解および縮重合反応が促進される。溶媒の揮発および水の蒸発に伴って、塗布された液におけるpHが上記の範囲から変動することも、加水分解が促進される要因の一つとなる。こうして、緻密な膜を形成し、かつ加水分解および脱水縮合反応を十分に進行させると、硬質の膜が形成される。その結果、従来よりも低温の熱処理により、耐摩耗性に優れた膜を得ることができる。
この方法を用いると、厚くても耐摩耗性に優れたシリカ系膜を得ることができる。厚い膜を得るためには、シリコンアルコキシドの濃度が比較的高くなるように、例えばシリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子を、SiO2に換算したときのSiO2濃度により表示して3質量%を超えるように、形成溶液を調製するとよい。詳しくは、3質量%を超えて30質量%以下の範囲とすることが望ましい。
形成溶液には、さらに、親水性有機ポリマーおよび/または界面活性剤を添加するとよい。親水性有機ポリマーや界面活性剤は、塗布した形成溶液に含まれる液体成分の蒸発に伴って、生じることのあるクラックの発生を抑制する。また、親水性有機ポリマーや界面活性剤は、液中に生成したシリカ粒子の間に介在し、液体成分の蒸発に伴う膜収縮の影響を緩和する。このように、親水性有機ポリマーや界面活性剤を添加すると、膜の過剰な硬化収縮を抑えることができるため、膜中の応力が緩和されると考えられる。親水性有機ポリマーや界面活性剤は、膜の収縮を抑制し、膜の耐摩耗性を保持する役割を果たすこととなる。
本発明の方法では、従来よりも低温で膜を加熱すれば足りるため、加熱後も親水性有機ポリマーや界面活性剤は膜に残存する。本発明によれば、さらに厚膜化しても、親水性有機ポリマーや界面活性剤が膜中に存在した状態で、耐摩耗性に優れた膜を得ることが可能となる。
親水性有機ポリマーおよび/または界面活性剤は、予め形成溶液に添加しておくとよい。この形成溶液から形成した有機無機複合膜では、有機物と無機物とが分子レベルで複合化していると考えられる。
種々の実験結果を参照すると、親水性有機ポリマーや界面活性剤は、ゾルゲル反応によって形成されるシリカ粒子の成長を抑制し、膜の多孔質化を抑制しているようでもある。
親水性有機ポリマーとしては、ポリオキシアルキレン基(ポリアルキレンオキシド構造)を含むもの、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエーテル系の界面活性剤等を用いることができる。また、ポリビニルピロリドン系、ポリビニルカプロラクタム系の界面活性剤等を用いることもできる。また、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムを用いることもできる。
界面活性剤としては、上記の界面活性剤として機能しうる親水性有機ポリマーを用いてもよいし、例えば、R4NOH、RR'3NOH、R2R'2NOH、RR'R''R'''NOHの構造式で示される、または水酸基(OH)に代えて塩化物基(Cl)を有する構造式で示される、第4級アンモニウム化合物を用いることもできる。膜中にカーボンナノチューブを分散させる場合には、第4級アンモニウム化合物を用いることが特に好ましい。
これらの親水性有機ポリマーや界面活性剤は、単独で、または複数種を組み合わせて用いてもよい。
本発明による有機無機複合膜は、カーボンナノチューブ、フラーレン、アンチモンスズ酸化物およびインジウムスズ酸化物から選ばれた少なくとも1種、ならびに/または導電性ポリマーを含むことにより、表面抵抗率が1.0×1014Ω/□以下となりうる。また、本発明による有機無機複合膜が形成された物品は、有機無機複合膜が、無機酸化物としてさらに、アンチモンスズ酸化物およびインジウムスズ酸化物から選ばれた少なくとも1種を含むことにより、波長1700nmの近赤外線の透過率が30%以下、さらには当該透過率が20%以下となりうる。本発明による有機無機複合膜は、有機物の少なくとも一部としてさらに、カーボンナノチューブならびにフラーレンから選ばれた少なくとも1種および/または導電性ポリマーを含むものであってもよい。本発明による有機無機複合膜が形成された物品は、ディスプレイ用基材として好適である。
カーボンナノチューブやフラーレンとしては、例えばS.Iijima, Nature, 354, 56 (1991)に記載の種々のものを用いることができる。
導電性ポリマーは、例えば、ポリチオフェンおよびその誘導体ならびにポリイソチアナフテンおよびその誘導体を使用できる。ポリチオフェン誘導体としては、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)が例示できる。このように、導電性ポリマーはPEDOTを含むものであってよい。PEDOTのドーパントとしては、パラトルエンスルホン酸が例示できる。PEDOTは不溶性であるため、形成溶液への添加に際し、例えばポリスチレンスルホン酸と共存させることが望ましい。他方、上記のポリチオフェンおよびポリイソチアナフテンに代表される自己ドープ型導電性ポリマーは水溶性である。このように、導電性ポリマーは、親水性有機ポリマーとして機能しうるポリマーであってもよい。導電性ポリマーと共存させる親水性有機ポリマーは、非導電性のポリマーとする。
アンチモンスズ酸化物(ATO)やインジウムスズ酸化物(ITO)としては、体積平均粒径1〜100nmの範囲にあるものが好ましい。粒径が100nmを超えるとレイリー散乱によって光が著しく反射され、膜が白化して透明性が低下する場合がある。また、粒径が1nm未満であると、導電性が低下したり粒子の分散性が低下したりする場合がある。
以上のようなゾルゲル法の改善により、有機物に代表される耐熱性の低い材料を含むにもかかわらず、JIS R 3212に規定されたテーバー摩耗試験を適用しても、基体から剥離しない有機無機複合膜が、クラックが発生することなしに形成された物品が提供される。
有機無機複合膜の膜厚は、250nmを超え5μm以下であり、好ましくは300nmを超え5μm以下であり、より好ましくは800nmを超え5μm以下であり、さらに好ましくは1μmを超え5μm以下であり、特に好ましくは2μmを超え5μm以下である。有機無機複合膜の膜厚は4μm以下であってもよい。
本発明によれば、テーバー摩耗試験の後に測定した、当該テーバー摩耗試験を適用した部分のヘイズ率を4%以下、さらには3%以下、とすることもできる。これは、熔融法により得たガラス質膜に相当する耐摩耗性である。
本発明による有機無機複合膜では、有機物の含有量が、有機無機複合膜の総質量に対して0.1〜60%、好ましくは2〜60%である。本発明による有機無機複合膜はリンを含んでいてもよい。
電子機器等の遠隔操作用端末では、光信号として、波長800〜1200nmの近赤外線が使用されている。プラズマディスプレイパネル(PDP)に代表される電子ディスプレイは、このような波長の近赤外線をディスプレイ表面から放出することがある。この際、遠隔操作用端末からの光信号の読み取りに支障が生じ、電子機器が誤作動する場合がある。本発明による有機無機複合膜が形成された物品では、波長1000nmの近赤外線の透過率が30%以下、さらには当該透過率が20%以下となりうる。このため、本発明の物品を例えばディスプレイ用基材に適用すると、電子機器の誤作動を防止できる。
シリカ系膜に耐摩耗性を付与するために、膜にフッ素樹脂微粒子が添加されることがある。しかし、本発明による有機無機複合膜は、後述する実施例で示すように、フッ素樹脂微粒子を含まないにもかかわらず好適な耐摩耗性を有する。このように、本発明による有機無機複合膜は、フッ素樹脂微粒子を含まない状態にあってもよい。フッ素樹脂微粒子を含まないとは、機能の付与に必要となる添加量に満たない程度の量のフッ素樹脂微粒子が膜中に混入することを排除する趣旨ではない。
本発明の方法では、シリコンアルコキシド、強酸、水、アルコールならびに親水性有機ポリマーおよび/または界面活性剤を含み、さらにカーボンナノチューブ、フラーレン、アンチモンスズ酸化物およびインジウムスズ酸化物から選ばれた少なくとも1種、ならびに/または導電性ポリマーを含む、形成溶液を用いる。親水性有機ポリマーや界面活性剤は、通常、強酸とは別の成分として添加されるが、強酸として機能するポリマー、例えばリン酸エステル基を含むポリマー、を強酸の少なくとも一部として添加してもよい。
シリコンアルコキシドは、テトラアルコキシシランおよびその重合体から選ばれる少なくとも1種が好適である。シリコンアルコキシドおよびその重合体は、その一部または全てのアルコキシル基が加水分解されたものを含んでもよい。なお、詳しくは後述するが、本発明では、3官能シラン(R'Si(OR)3)などの4官能シラン以外のシリコンアルコキシドを用いずとも、耐摩耗性に優れた有機無機複合膜を、クラックの発生を抑制しつつ、膜厚が250nmを超える程度に厚く形成することもできる。
シリコンアルコキシドの濃度は、当該シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子をSiO2に換算したときのSiO2濃度により表示して、3質量%を超えて30質量%以下の範囲にあることが望ましく、3質量%を超えて13質量%未満の範囲にあることが好ましく、3質量%を超えて9質量%以下の範囲にあることがより好ましい。形成溶液におけるシリコンアルコキシドの濃度が高すぎると、基体から剥離するようなクラックが膜中に発生することがある。
親水性有機ポリマーや界面活性剤の総濃度は、シリコンアルコキシドの濃度をSiO2濃度により表示した場合、当該SiO2に対して60質量%以下とすることが好ましく、40質量%以下とすることがより好ましい。残存量が多くなると、加熱硬化後の膜強度が低下してしまう場合があるからである。他方、親水性有機ポリマーや界面活性剤の濃度が低すぎると、硬化時の収縮による膜応力を緩和することができずクラックが発生することがある。それゆえ、親水性有機ポリマーや界面活性剤の総濃度は、上記SiO2に対して0.1質量%以上、特に5質量%以上、とすることが好ましい。
親水性有機ポリマーや界面活性剤は、カーボンナノチューブやATO微粒子等の酸に対する凝集を抑制する分散剤としても機能する。特に、リン酸エステル基およびポリオキシアルキレン基を含むリン酸系界面活性剤は、その分散性に優れている。形成溶液中にこれらの帯電防止材料を均一に分散させるには、カーボンナノチューブ、フラーレン、ATOおよびITOから選ばれた少なくとも1種と、親水性有機ポリマーおよび/または界面活性剤とを含む混合液に、シリコンアルコキシド、水およびアルコールを添加する工程を含んで、形成溶液を調製することが好ましい。
強酸としては、塩酸、硝酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、シュウ酸を例示できる。強酸のうち、揮発性の酸は、加熱時に揮発して硬化後の膜中に残存することがないので、好ましく用いることができる。硬化後の膜中に酸が残ると、無機成分の結合が妨げられ、膜硬度が低下してしまうことがある。
本発明の製造方法に用いるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、1−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコールなどを例示できる。
本発明の方法における塗布工程では、雰囲気の相対湿度を40%未満に保持しながら、有機無機複合膜の形成溶液を樹脂基体上に塗布する。相対湿度が高すぎると、雰囲気中の水分の過剰な吸い込みにより、成膜後のシリカ系膜が緻密な構造体となりにくく、優れた耐摩耗性が得られないことがある。なお、シリカ系膜の耐摩耗性を向上させる観点からは、当該相対湿度を30%以下に制御することが好ましい。塗布工程における雰囲気の相対湿度の下限値は特に限定されないが、形成溶液の取り扱い性(塗布性)を高める観点からは、その相対湿度を、例えば15%以上、さらには20%以上に制御することが好ましい。湿度が上記の範囲となるように制御された雰囲気下で形成溶液を塗布することは、良好な耐摩耗性を実現する上で重要である。
本発明の方法における除去工程では、基体上に塗布された形成溶液の液体成分、例えば水およびアルコール、の少なくとも一部、好ましくは実質的に全部、が除去される。
除去工程は、有機物の分解温度等を鑑み、300℃以下の温度、好ましくは250℃以下の温度で行う。下限温度としては、要求される膜の硬度に応じて、適宜選択すればよい。熱処理温度は、例えば、100℃以上、さらには150℃以上、場合によっては180℃以上であってよい。
除去工程は、室温(25℃)下での風乾工程と、風乾工程に続いて行われる、室温よりも高温かつ300℃以下の雰囲気下、例えば100℃以上300℃以下の雰囲気下での熱処理工程とにより行うとよい。風乾工程は、相対湿度が40%未満、さらには30%以下に制御された雰囲気下で行うことが好ましい。雰囲気の相対湿度を当該範囲に制御すると、膜のクラックの発生をより確実に防止できる。なお、風乾工程における雰囲気の相対湿度の下限値は特に限定されない。例えば15%、さらには20%であってよい。
本発明の方法では、有機無機複合膜の形成溶液中におけるシリコンアルコキシドの加水分解や縮重合状態を、当該形成溶液のpH調整や、親水性有機ポリマーや界面活性剤の添加により制御している。また、乾燥や加熱時に十分な膜収縮力が得られるように水分量を調整しつつ、過剰な膜収縮を抑制するために、親水性有機ポリマーや界面活性剤を添加している。これにより、有機無機複合膜の形成溶液を塗布する塗布工程と、塗布された当該形成溶液に含まれる液体成分の少なくとも一部を除去する除去工程と、をそれぞれ1回ずつ実施することにより、低温度域の熱処理によって、耐摩耗性に優れるとともに、膜厚が250nmを超え5μm以下である程度に厚い有機無機複合膜を形成することができる。
本発明による有機無機複合膜は、上述のように、比較的低温の熱処理で、熔融法により得たガラス板に匹敵する程度に優れた耐摩耗性を有する。この有機無機複合膜を、自動車用あるいは建築用の窓ガラスに適用しても、十分実用に耐える。しかし、厚さが0.1mm以下であるフィルム、特に樹脂フィルムを、有機無機複合膜を形成する基体に用いると、基体自体の強度が十分でなく容易に変形するために、有機無機複合膜の耐摩耗性が低下する。これを考慮し、本発明では、厚さが0.1mmを超える基体を用いることが望ましい。基体の厚さは、0.3mm以上が好ましく、0.4mm以上がより好ましく、0.5mm以上がさらに好ましく、場合によっては2mm以上、さらには3mm以上であってよい。基体厚の上限値は特に限定されないが、例えば20mm、さらには10mmであってよい。
基体は、ガラス基板または樹脂基板を使用できる。ガラス基板を使用すると、有機無機複合膜と基体との密着性の向上が容易となる。樹脂基板の材料としては、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、環状ポリオレフィン、ポリメチルペンテン、ナイロン等の樹脂が例示できる。
本発明による有機無機複合膜は、膜の表面抵抗率が1.0×1014Ω/□以下、場合によっては4.0×1013Ω/□以下となり、帯電防止能に優れる。さらに、可視光領域の波長に相当する厚さ、すなわち800nmを超えた厚さで有機無機複合膜を形成することができるため、当該膜における干渉縞の発生を防止することも容易となる。
本発明により成膜できる有機無機複合膜をマトリクスとして、有機色素、紫外線吸収剤等の機能性材料をさらに導入することもできる。これらの機能性材料として用いうる有機物微粒子は、200〜300℃の温度で分解が始まるものが多い。本発明では、200℃程度の加熱であっても、有機無機複合膜を十分に硬化させることが可能であるため、機能性材料の機能を損なわずに、これらの熱的に不安定な有機物微粒子を有機無機複合膜中に導入することができる。また、本発明の方法では形成溶液中に親水性有機ポリマーや界面活性剤を含有するため、これら有機物微粒子を膜中に均一に分散させることも容易である。なお、ポリエーテル基を有するリン酸系界面活性剤は、特に分散性に優れている。また、本発明では、有機無機複合膜の形成溶液中に、分散剤をさらに添加してもよい。
有機無機複合膜の形成溶液には、有機修飾された金属アルコキシドを、その金属アルコキシドの金属原子のモル数が、有機修飾されていないシリコンアルコキシドのシリコン原子のモル数の10%以下の量となるように、添加してもよい。
Si以外の金属酸化物をシリコン酸化物の質量分率を超えない範囲で添加し、複合酸化物としてもよい。その際に、シリコンアルコキシドの反応性に、影響を与えない方法で添加することが望ましい。
水あるいはアルコールに溶解する金属化合物、特に、単純に電離して溶解するもの、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、コバルト、鉄、ニッケル、銅、アルミニウム、ガリウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、亜鉛などの金属の、塩化物、酸化物、硝酸塩などを必要量添加してもよい。
ボロンに関しては、ホウ酸あるいはホウ素のアルコキシドをアセチルアセトンなどのβ−ジケトンでキレート化して添加することが可能である。
チタン、ジルコニウムに関しては、オキシ塩化物、オキシ硝酸化物、あるいはアルコキシドをβ−ジケトンでキレート化して添加することが可能である。
また、アルミニウムに関しても、アルコキシドをβ−ジケトンでキレート化して添加することが可能である。
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例A1)
ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤(日本ルーブリゾール製ソルスパース41000)0.17gに、テトラエトキシシラン(信越化学製)5.21g、エチルアルコール(片山化学製)17.23g、純水4.86g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.03g、ATO微粒子分散液(ATOを30質量%含むエチルアルコール溶液)2.5g、ポリエチレングリコール200(片山化学製)0.02gを順に添加して、形成溶液を得た。
ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤(日本ルーブリゾール製ソルスパース41000)0.17gに、テトラエトキシシラン(信越化学製)5.21g、エチルアルコール(片山化学製)17.23g、純水4.86g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.03g、ATO微粒子分散液(ATOを30質量%含むエチルアルコール溶液)2.5g、ポリエチレングリコール200(片山化学製)0.02gを順に添加して、形成溶液を得た。
なお、上記「ポリエチレングリコール200」は、その質量平均分子量が200のポリエチレングリコールである。上記「ソルスパース41000」は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルをリン酸でエステル化したモノエステル型の界面活性剤かつ親水性有機ポリマーであり、2つのプロトンが解離する酸として機能する。
形成溶液中のシリコンアルコキシド(シリカ換算)、プロトン濃度、水、ならびに親水性有機ポリマーおよび/または界面活性剤の含有量は、表1に示すとおりである。なお、形成溶液中の水の含有量は、エチルアルコール中に含まれる水分(0.35質量%)を加えて計算している。プロトン濃度は、強酸に含まれるプロトンがすべて解離したとして算出した。水の含有量およびプロトン濃度の計算方法は、以下のすべての実施例、比較例において同一である。
次いで、洗浄したソーダ石灰珪酸塩ガラス基板(300×300mm、厚さ:3.1mm)上に、相対湿度(以下、単に「湿度」という)30%、室温(25℃)下でこの形成溶液をフローコート法にて塗布した。そのまま、室温で約10分程度乾燥した後、予め200℃に昇温したオーブンに投入し12分間加熱し、その後冷却した。得られた膜は、膜厚1000nmのクラックのない透明度の高い膜であった。この有機無機複合膜は、ATO微粒子を4質量%含んでいた。
膜の硬さの評価は、JIS R 3212に準拠した摩耗試験によって行った。すなわち、市販のテーバー摩耗試験機(TABER INDUSTRIES社製5150 ABRASER)を用い、500gの荷重で1000回摩耗を行い、摩耗試験前後のヘイズ率の測定を行った。また、有機無機複合膜の表面抵抗率は、市販の表面抵抗率測定器(三菱化学社製MCP−HT−260 HIRESTA IP)を用いて測定した。膜厚、有機無機複合膜の表面抵抗率、テーバー試験前後のヘイズ率、テーバー試験後の膜剥離の有無、クラックの有無を表2に示す。ヘイズ率は、スガ試験機社製HGM−2DPを用いて測定した。
得られた有機無機複合膜は、表2に示すように、テーバー試験後のヘイズ率は3.5%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。また、有機無機複合膜の表面抵抗率は9.2×1013Ω/□であり、帯電防止性に優れていた。
(実施例A2)
実施例A2は、ATO微粒子に代えてカーボンナノチューブを添加したこと以外は、実施例A1と同様にして調製した形成溶液を用いて、有機無機複合膜を形成した例である。
実施例A2は、ATO微粒子に代えてカーボンナノチューブを添加したこと以外は、実施例A1と同様にして調製した形成溶液を用いて、有機無機複合膜を形成した例である。
ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤(日本ルーブリゾール製ソルスパース41000)0.02gに、カーボンナノチューブ0.03gを添加し、混合後、エチルアルコール(片山化学製)25.98g、純水1.86gを添加し、さらに、テトラエトキシシラン(信越化学製)2.08g、濃硝酸(60質量%、関東化学製)0.03gを順に添加して、形成溶液を得た。この溶液中の種々の組成については、表1に示すとおりである。
次いで、洗浄したソーダ石灰珪酸塩ガラス基板(305×305mm、厚さ:3.1mm)上に、湿度30%、室温下でこの形成溶液をフローコート法にて塗布した。そのまま、室温で約10分程度乾燥した後、予め200℃に昇温したオーブンに投入し12分加熱し、その後冷却した。得られた膜は、膜厚300nmのクラックのない、やや透明度の高い膜であった。この有機無機複合膜は、カーボンナノチューブを0.1質量%含んでいた。
膜の硬さの評価は、実施例A1と同様に行った。表2に示すように、テーバー試験後のヘイズ率は2.5%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。また、有機無機複合膜の表面抵抗率は3.0×1013Ω/□であり、帯電防止性に優れていた。
(実施例A3)
実施例A3は、ATO微粒子に代えてカーボンナノチューブを添加し、ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤に代えて第4級水酸化アンモニウムを添加したこと以外は、実施例A1と同様にして調製した形成溶液を用いて、有機無機複合膜を形成した例である。
実施例A3は、ATO微粒子に代えてカーボンナノチューブを添加し、ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤に代えて第4級水酸化アンモニウムを添加したこと以外は、実施例A1と同様にして調製した形成溶液を用いて、有機無機複合膜を形成した例である。
第4級水酸化アンモニウムとして、コリン(多摩化学工業製、商品名:Choline、化学式:[(CH3)3N+CH2CH2OH]OH-)を4質量%含む水溶液0.15gに、カーボンナノチューブ分散液(エーナ製:カーボンナノチューブを5質量%含むエタノール溶液)0.02gを添加し、混合後、純水1.61g、エチルアルコール(片山化学製)6.47gを添加し、さらに、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.01g、テトラエトキシシラン(信越化学製)1.74gを順に添加して、形成溶液を得た。この溶液中の種々の組成については、表1に示すとおりである。
次いで、洗浄したソーダ石灰珪酸塩ガラス基板(100×100mm、厚さ:3.1mm)上に、湿度30%、室温下でこの形成溶液をフローコート法にて塗布した。そのまま、室温で約10分程度乾燥した後、予め200℃に昇温したオーブンに投入し18分加熱し、その後冷却した。得られた膜は、膜厚500nmのクラックのない透明度の高い膜であった。この有機無機複合膜は、カーボンナノチューブを0.01質量%含んでいた。
膜の硬さの評価は、実施例A1と同様に行った。表2に示すように、テーバー試験後のヘイズ率は1.6%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。また、有機無機複合膜の表面抵抗率は1.3×1013Ω/□であり、帯電防止性に優れていた。
(実施例A4)
実施例A4は、ATO微粒子に代えてフラーレンを添加したこと以外は、実施例A1と同様にして調製した形成溶液を用いて、有機無機複合膜を形成した例である。
実施例A4は、ATO微粒子に代えてフラーレンを添加したこと以外は、実施例A1と同様にして調製した形成溶液を用いて、有機無機複合膜を形成した例である。
ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤(日本ルーブリゾール製ソルスパース41000)0.02gと、フラーレン(MER製C60)0.03gとを混合し、エチルアルコール(片山化学製)25.98g、純水1.86gを添加後、テトラエトキシシラン(信越化学製)2.08g、濃硝酸(60質量%、関東化学製)0.03gを順に添加して、形成溶液を得た。この溶液中の種々の組成については、表1に示すとおりである。
次いで、洗浄したソーダ石灰珪酸塩ガラス基板(305×305mm、厚さ:3.1mm)上に、湿度30%、室温下でこの形成溶液をフローコート法にて塗布した。そのまま、室温で約10分程度乾燥した後、予め200℃に昇温したオーブンに投入し12分加熱し、その後冷却した。得られた膜は、膜厚300nmのクラックのない透明度の高い膜であった。この有機無機複合膜は、フラーレンを0.1質量%含んでいた。
膜の硬さの評価は、実施例A1と同様に行った。表2に示すように、テーバー試験後のヘイズ率は3.9%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。また、有機無機複合膜の表面抵抗率は2.3×1013Ω/□であり、帯電防止性に優れていた。
(実施例A5)
実施例A5は、ATO微粒子に代えてポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)との混合物(PEDOT/PSS)を添加したこと以外は、実施例A1と同様にして調製した形成溶液を用いて、有機無機複合膜を形成した例である。
実施例A5は、ATO微粒子に代えてポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)との混合物(PEDOT/PSS)を添加したこと以外は、実施例A1と同様にして調製した形成溶液を用いて、有機無機複合膜を形成した例である。
ポリエチレングリコールを0.06gと、エチルアルコール(片山化学製)2.87g、純水1.86gを添加後、テトラエトキシシラン(信越化学製)1.74g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.001g、PEDOT/PSS(バイエル製BaytronP HC V4)3.85gを順に添加して、形成溶液を得た。この溶液中の種々の組成については、表1に示すとおりである。
次いで、洗浄したソーダ石灰珪酸塩ガラス基板(100×100mm、厚さ:3.1mm)上に、湿度30%、室温下でこの形成溶液をスピンコート法にて塗布した。塗布後の基板を、70℃に昇温したホットプレート上で5分加熱した後、室温で約10分程度乾燥し、さらに、予め180℃に昇温したオーブンに投入し30分加熱し、その後冷却した。得られた膜は、膜厚1200nmのクラックのない透明度の高い膜であった。この有機無機複合膜は、PEDOTを0.5質量%含んでいた。
膜の硬さの評価は、実施例A1と同様に行った。表2に示すように、テーバー試験後のヘイズ率は3.1%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。また、有機無機複合膜の表面抵抗率は3.8×104Ω/□であり、帯電防止性に優れていた。
(比較例A1)
比較例A1は、ATO微粒子を添加せず、親水性有機ポリマーとしてポリエチレングリコールのみを用いたこと以外は、実施例A1と同様にして調製した形成溶液を用いて、有機無機複合膜の形成を試みた例である。
比較例A1は、ATO微粒子を添加せず、親水性有機ポリマーとしてポリエチレングリコールのみを用いたこと以外は、実施例A1と同様にして調製した形成溶液を用いて、有機無機複合膜の形成を試みた例である。
エチルアルコール(片山化学製)23.70gに、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14g、純水27.16g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.10g、ポリエチレングリコール400(関東化学製)3.90gを添加、撹拌し、形成溶液を得た。この溶液中の種々の組成については、表1に示すとおりである。
なお、上記「ポリエチレングリコール400」は、その質量平均分子量が400のポリエチレングリコールである。
次いで、洗浄したソーダ石灰珪酸塩ガラス基板(100×100mm、厚さ:3.1mm)上に、湿度30%、室温下でこの形成溶液をフローコート法にて塗布した。そのまま、室温で約30分程度乾燥した後、予め200℃に昇温したオーブンに投入し40分加熱し、その後冷却した。
得られた膜は、膜厚2800nmのクラックのない透明度の高い膜であったが、表3に示すように、テーバー試験後に膜の一部が剥離した。さらに膜の表面抵抗率を測定したところ、1×1014Ω/□を超える値を示し、帯電防止性に劣っていた。
(比較例A2)
比較例A2は、ATO微粒子を添加せず、ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤に代えてリン酸を用いたこと以外は、実施例A1と同様にして調製した形成溶液を用いて、膜の形成を試みた例である。
比較例A2は、ATO微粒子を添加せず、ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤に代えてリン酸を用いたこと以外は、実施例A1と同様にして調製した形成溶液を用いて、膜の形成を試みた例である。
エチルアルコール(片山化学製)27.49gに、テトラエトキシシラン(信越化学製)45.14g、純水27.16g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.10g、リン酸(85質量%、関東化学製)0.11gを添加、撹拌し、形成溶液を得た。この溶液中の種々の組成については、表1に示すとおりである。
次いで、洗浄したソーダ石灰珪酸塩ガラス基板(100×100mm、厚さ:3.1mm)上に、湿度30%、室温下でこの形成溶液をフローコート法にて塗布した。そのまま、室温で約30分程度乾燥した後、予め200℃に昇温したオーブンに投入し40分加熱し、その後冷却した。
当該例では、表2で示すように、剥離を伴ったクラックが発生し、膜として成立しなかった。
(実施例B1)
ITO微粒子分散液(三菱マテリアル製:ITOを40質量%含むエチルアルコール溶液)7.5gに、ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤(楠本化成製ディスパロンDA−375)0.15g、テトラエトキシシラン(信越化学製)20.8g、エチルアルコール(片山化学製)55.45g、純水15.8g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.3gを順に添加して、形成溶液を得た。この溶液中の種々の組成については、表3に示すとおりである。
ITO微粒子分散液(三菱マテリアル製:ITOを40質量%含むエチルアルコール溶液)7.5gに、ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤(楠本化成製ディスパロンDA−375)0.15g、テトラエトキシシラン(信越化学製)20.8g、エチルアルコール(片山化学製)55.45g、純水15.8g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.3gを順に添加して、形成溶液を得た。この溶液中の種々の組成については、表3に示すとおりである。
なお、上記「ディスパロンDA−375」は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルをリン酸でエステル化したモノエステル型の界面活性剤であり、2つのプロトンが解離する酸として機能する。本例ならびに後述する実施例B2〜B3および比較例B1〜B2では、波長1000nmおよび1700nmの光線の透過率がそれぞれ21%および46%である基板を用いた。
次いで、洗浄したソーダ石灰珪酸塩ガラス基板(100×100mm、厚さ:2.5mm)上に、湿度30%、室温下でこの形成溶液をフローコート法にて塗布した。そのまま、室温で約3時間程度、風乾した後、予め90℃に昇温したオーブンに投入し30分加熱し、さらに、予め200℃に昇温したオーブンに投入し1時間加熱し、その後冷却した。得られた膜は、膜厚1000nmのクラックのない透明度の高い膜であった。
膜の硬さの評価は、実施例A1と同様に行った。膜厚、テーバー試験前後のヘイズ率、テーバー試験後の膜剥離の有無、クラックの有無、微粒子の含有量、ならびに波長1000nmおよび1700nmの近赤外線の透過率を表4に示す。なお、ブランクとして、熔融ガラス板におけるテーバー試験前後のヘイズ率も表4に示す。
表4に示すように、テーバー試験後のヘイズ率は2.8%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。また、この膜付き物品は、波長1000nmおよび1700nmの近赤外線の透過率がそれぞれ18%および15%であった。
(実施例B2)
実施例B2は、親水性有機ポリマーとして、実施例B1とは別のポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤と、ポリエチレングリコールとを用いた例である。
実施例B2は、親水性有機ポリマーとして、実施例B1とは別のポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤と、ポリエチレングリコールとを用いた例である。
ITO微粒子分散液(三菱マテリアル製、ITOを40質量%含むエチルアルコール溶液)1.88gに、ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤(日本ルーブリゾール製ソルスパース41000)0.23g、ポリエチレングリコール400(片山化学製)0.04g、テトラエトキシシラン(信越化学製)6.25g、エチルアルコール(片山化学製)15.32g、純水5.88g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.03gを順に添加して、形成溶液を得た。この溶液中の種々の組成については、表3に示すとおりである。
次いで、洗浄したソーダ石灰珪酸塩ガラス基板(305×305mm、厚さ:2.5mm)上に、湿度30%、室温下でこの形成溶液をフローコート法にて塗布した。そのまま、室温で約30分程度乾燥した後、予め200℃に昇温したオーブンに投入し14分加熱し、その後冷却した。得られた膜は、膜厚1000nmのクラックのない透明度の高い膜であった。
膜の硬さの評価は、実施例A1と同様に行った。表4に示すように、テーバー試験後のヘイズ率は2.4%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。また、この膜付き物品は、波長1000nmおよび1700nmの近赤外線の透過率がそれぞれ18%および14%であった。
ITO微粒子は、250℃以上の温度に曝されると、酸化が促進されて近赤外線吸収能が低下する場合がある。しかし、実施例B1およびB2では、熱処理温度を200℃以下としているため、ITO微粒子による近赤外線吸収能が維持されることが確認された。
(実施例B3)
実施例B3は、親水性有機ポリマーとして、実施例B1とは別のポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤と、ポリエチレングリコールとを用い、ITO微粒子に代えてATO微粒子を用いた例である。
実施例B3は、親水性有機ポリマーとして、実施例B1とは別のポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤と、ポリエチレングリコールとを用い、ITO微粒子に代えてATO微粒子を用いた例である。
ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤(日本ルーブリゾール製ソルスパース41000)0.89g、エチルアルコール(片山化学製)9.48g、純水5.62g、ポリエチレングリコール200(片山化学製)0.12g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.003g、テトラエトキシシラン(信越化学製)9.38g、ATO微粒子分散液(ATOを30質量%含むエチルアルコール溶液)4.5gを順に添加して、形成溶液を得た。この溶液中の種々の組成については、表3に示すとおりである。
次いで、洗浄したソーダ石灰珪酸塩ガラス基板(300×300mm、厚さ:2.1mm)上に、湿度30%、室温下でこの形成溶液をフローコート法にて塗布した。そのまま、室温で約10分程度乾燥した後、予め200℃に昇温したオーブンに投入し12分間加熱し、その後冷却した。得られた膜は、膜厚2000nmのクラックのない透明度の高い膜であった。
膜の硬さの評価は、実施例A1と同様に行った。表4に示すように、テーバー試験後のヘイズ率は3.5%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。また、この膜付き物品は、波長1000nmおよび1700nmの近赤外線の透過率がそれぞれ19%および23%であった。
(比較例B1)
比較例B1は、比較例A1と同様にして有機無機複合膜の形成を試みた例である。得られた膜は、表4に示すように、テーバー試験後に剥離した。また、この膜付き物品は、波長1700nmの近赤外線の透過率が30%を超えていた。
比較例B1は、比較例A1と同様にして有機無機複合膜の形成を試みた例である。得られた膜は、表4に示すように、テーバー試験後に剥離した。また、この膜付き物品は、波長1700nmの近赤外線の透過率が30%を超えていた。
(比較例B2)
比較例B2は、比較例A2と同様にして有機無機複合膜の形成を試みた例である。当該例では、表4に示すように、剥離を伴ったクラックが発生し、膜として成立しなかった。
比較例B2は、比較例A2と同様にして有機無機複合膜の形成を試みた例である。当該例では、表4に示すように、剥離を伴ったクラックが発生し、膜として成立しなかった。
(実施例B4)
実施例B4は、実施例B2と同様にして調整した形成溶液を用いて、波長1000nmおよび1700nmの光線の透過率がそれぞれ82%および87%である基板上に、有機無機複合膜を形成した例である。
実施例B4は、実施例B2と同様にして調整した形成溶液を用いて、波長1000nmおよび1700nmの光線の透過率がそれぞれ82%および87%である基板上に、有機無機複合膜を形成した例である。
ITO微粒子分散液(三菱マテリアル製、ITOを40質量%含むエチルアルコール溶液)3.38gに、ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤(日本ルーブリゾール製ソルスパース41000)0.49g、ポリエチレングリコール200(片山化学製)0.07g、テトラエトキシシラン(信越化学製)7.29g、エチルアルコール(片山化学製)13.15g、純水5.61g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.02gを順に添加して、形成溶液を得た。この溶液中の種々の組成については、表3に示すとおりである。
次いで、上記の光線透過能を有する、洗浄したソーダ石灰珪酸塩ガラス基板(305×305mm、厚さ:2.5mm)上に、湿度30%、室温下でこの形成溶液をフローコート法にて塗布した。そのまま、室温で約20分程度乾燥した後、予め200℃に昇温したオーブンに投入し18分加熱し、その後冷却した。得られた膜は、膜厚2000nmのクラックのない透明度の高い膜であった。
膜の硬さの評価は、実施例A1と同様に行った。表4に示すように、テーバー試験後のヘイズ率は3.1%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。また、この膜付き物品は、波長1700nmの近赤外線の透過率が19%であった。
(実施例B5)
実施例B5は、実施例B3と同様にして調整した形成溶液を用いて、波長1000nmおよび1700nmの光線の透過率がそれぞれ82%および87%である基板上に、有機無機複合膜を形成した例である。
実施例B5は、実施例B3と同様にして調整した形成溶液を用いて、波長1000nmおよび1700nmの光線の透過率がそれぞれ82%および87%である基板上に、有機無機複合膜を形成した例である。
ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤(日本ルーブリゾール製ソルスパース41000)1.05g、エチルアルコール(片山化学製)7.09g、純水6.26g、ポリエチレングリコール200(片山化学製)0.18g、濃塩酸(35質量%、関東化学製)0.003g、テトラエトキシシラン(信越化学製)10.42g、ATO微粒子分散液(ATOを30質量%含むエチルアルコール溶液)5.00gを順に添加して、形成溶液を得た。この溶液中の種々の組成については、表3に示すとおりである。
次いで、上記の光線透過能を有する、洗浄したソーダ石灰珪酸塩ガラス基板(300×300mm、厚さ:2.5mm)上に、湿度30%、室温下でこの形成溶液をフローコート法にて塗布した。そのまま、室温で約10分程度乾燥した後、予め200℃に昇温したオーブンに投入し18分間加熱し、その後冷却した。得られた膜は、膜厚2200nmのクラックのない透明度の高い膜であった。
膜の硬さの評価は、実施例A1と同様に行った。表4に示すように、テーバー試験後のヘイズ率は3.5%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。また、この膜付き物品は、波長1700nmの近赤外線の透過率が19%であった。
(比較例B3)
比較例B3は、比較例B1における基板を、実施例B4で使用した基板に変更したこと以外は、比較例B1と同様にして有機無機複合膜の形成を試みた例である。得られた膜は、表4に示すように、テーバー試験後に剥離した。また、この膜付き物品は、波長1700nmの近赤外線の透過率が30%を超えていた。
比較例B3は、比較例B1における基板を、実施例B4で使用した基板に変更したこと以外は、比較例B1と同様にして有機無機複合膜の形成を試みた例である。得られた膜は、表4に示すように、テーバー試験後に剥離した。また、この膜付き物品は、波長1700nmの近赤外線の透過率が30%を超えていた。
(実施例C1)
実施例C1は、ATO微粒子をさらに添加したこと以外は実施例A5と同様にして調製した形成溶液を用いて、波長1000nmおよび1700nmの光線の透過率がそれぞれ21%および46%である基板上に、有機無機複合膜を形成した例である。
実施例C1は、ATO微粒子をさらに添加したこと以外は実施例A5と同様にして調製した形成溶液を用いて、波長1000nmおよび1700nmの光線の透過率がそれぞれ21%および46%である基板上に、有機無機複合膜を形成した例である。
ポリエーテルリン酸エステル系界面活性剤(日本ルーブリゾール製ソルスパース41000)0.01g、ポリエチレングリコールを0.02gと、エチルアルコール(片山化学製)1.68g、純水1.30gを添加後、テトラエトキシシラン(信越化学製)0.87g、パラトルエンスルホン酸(関東化学製)0.001g、PEDOT/PSS(バイエル製BaytronP HC V4)0.63g、ATO微粒子分散液(三菱マテリアル製、ITOを30質量%含むエチルアルコール溶液)0.5gを順に添加して、形成溶液を得た。この溶液中の種々の組成については、表5に示すとおりである。
次いで、上記の光線透過能を有する、洗浄したソーダ石灰珪酸塩ガラス基板(100×100mm、厚さ:3.1mm)上に、湿度30%、室温下でこの形成溶液をスピンコート法にて塗布した。塗布後の基板を、70℃に昇温したホットプレート上で5分加熱した後、室温で約5分程度乾燥し、さらに、予め200℃に昇温したオーブンに投入し20分加熱し、その後冷却した。得られた膜は、膜厚1200nmのクラックのない透明度の高い膜であった。この有機無機複合膜は、PEDOTを0.15質量%含んでいた。
膜の硬さの評価は、実施例A1と同様に行った。表6に示すように、テーバー試験後のヘイズ率は3.4%と低く、熔融ガラス板に匹敵する硬度を有していた。また、テーバー試験後の膜剥離やクラックの発生がなかった。また、有機無機複合膜の表面抵抗率は3.4×1010Ω/□であった。また、この膜付き物品は、波長1000nmおよび1700nmの近赤外線の透過率がそれぞれ18%および25%であった。
本発明は、帯電防止能や近赤外線吸収能を有する材料を含みながらも、耐摩耗性に優れた有機無機複合膜が形成された物品を提供するものとして、帯電防止膜や近赤外線吸収膜が形成された物品を利用する各分野において多大な利用価値を有する。
Claims (26)
- 基体と、前記基体の表面に形成された、有機物および無機酸化物を含む有機無機複合膜とを含む、有機無機複合膜が形成された物品であって、
前記有機無機複合膜が前記無機酸化物としてシリカを含み、
前記有機無機複合膜が前記シリカを主成分とし、
前記有機無機複合膜の表面に対して実施するJIS R 3212に規定されたテーバー摩耗試験の後に、前記有機無機複合膜が前記基体から剥離せず、
前記有機無機複合膜が、前記有機物の少なくとも一部として、または前記無機酸化物としてさらに、カーボンナノチューブ、フラーレン、アンチモンスズ酸化物およびインジウムスズ酸化物から選ばれた少なくとも1種、ならびに/または導電性ポリマーを含む、
有機無機複合膜が形成された物品。 - 前記有機無機複合膜が、前記有機物として親水性有機ポリマーおよび/または界面活性剤を含む、請求項1に記載の物品。
- 前記有機無機複合膜が、前記有機物の少なくとも一部としてさらに、カーボンナノチューブおよびフラーレンから選ばれた少なくとも1種、ならびに/または導電性ポリマーを含む、請求項1に記載の物品。
- 前記導電性ポリマーが、ポリエチレンジオキシチオフェンを含む、請求項1に記載の物品。
- 前記親水性有機ポリマーが、ポリオキシアルキレン基を含む、請求項2に記載の物品。
- 前記親水性有機ポリマーが、リン酸エステル基およびポリオキシアルキレン基を含む、請求項2に記載の物品。
- 前記界面活性剤が、第4級アンモニウム化合物を含む、請求項2に記載の物品。
- 前記第4級アンモニウム化合物が水酸化物である、請求項7に記載の物品。
- 前記基体の厚さが0.1mmを超える、請求項1に記載の物品。
- 前記基体がガラス基板または樹脂基板である、請求項1に記載の物品。
- 前記有機無機複合膜が、前記アンチモンスズ酸化物を含み、800nmを超える膜厚を有する、請求項1に記載の物品。
- 前記有機無機複合膜の表面抵抗率が1.0×1014Ω/□以下である、請求項1に記載の物品。
- 前記有機無機複合膜が、前記無機酸化物としてさらに、アンチモンスズ酸化物およびインジウムスズ酸化物から選ばれた少なくとも1種を含み、波長1700nmの近赤外線の透過率が30%以下である、請求項1に記載の物品。
- 波長1700nmの近赤外線の透過率が20%以下である、請求項13に記載の物品。
- 前記有機無機複合膜の膜厚が250nmを超え5μm以下である、請求項1に記載の物品。
- 前記有機無機複合膜の膜厚が300nmを超え5μm以下である、請求項15に記載の物品。
- 前記有機無機複合膜の膜厚が1μm以上5μm以下である、請求項16に記載の物品。
- ディスプレイ用基材である、請求項1に記載の物品。
- 前記有機無機複合膜が、フッ素樹脂微粒子を含まない請求項1に記載の樹脂物品。
- 基体と、前記基体の表面に形成された、有機物および無機酸化物を含む有機無機複合膜とを含み、前記有機無機複合膜が前記無機酸化物としてシリカを含み、前記有機無機複合膜が前記シリカを主成分とし、前記有機無機複合膜が、前記有機物の少なくとも一部として、または前記無機酸化物としてさらに、カーボンナノチューブ、フラーレン、アンチモンスズ酸化物およびインジウムスズ酸化物から選ばれた少なくとも1種、ならびに/または導電性ポリマーを含む、有機無機複合膜が形成された物品の製造方法であって、
前記基体の表面に前記有機無機複合膜の形成溶液を塗布する塗布工程と、
前記基体に塗布された形成溶液から当該形成溶液に含まれる液体成分の少なくとも一部を除去する除去工程と、を含み、
前記形成溶液が、シリコンアルコキシド、強酸、水およびアルコールと、カーボンナノチューブ、フラーレン、アンチモンスズ酸化物およびインジウムスズ酸化物から選ばれた少なくとも1種、ならびに/または導電性ポリマーとを含み、
前記形成溶液が、前記強酸の少なくとも一部として、もしくは前記強酸とは別の成分として、親水性有機ポリマーおよび/または界面活性剤をさらに含み、
前記シリコンアルコキシドの濃度が、当該シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子をSiO2に換算したときのSiO2濃度により表示して3質量%を超え、
前記強酸の濃度が、前記強酸からプロトンが完全に解離したと仮定したときのプロトンの質量モル濃度により表示して0.001〜0.1mol/kgの範囲にあり、
前記水のモル数が、前記シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子の総モル数の4倍以上であり、 前記塗布工程では、雰囲気の相対湿度を40%未満に保持しながら、前記形成溶液を前記基体に塗布し、
前記除去工程では、前記基体を300℃以下の温度に保持しながら、前記基体に塗布された形成溶液に含まれる液体成分の少なくとも一部を除去する、
有機無機複合膜が形成された物品の製造方法。 - 前記除去工程において、前記基体を250℃以下の温度に保持しながら、前記液体成分の少なくとも一部を除去する、請求項20に記載の物品の製造方法。
- 前記水のモル数が、前記シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子の総モル数の40倍以下である、請求項20に記載の物品の製造方法。
- 前記水のモル数が、前記シリコンアルコキシドに含まれるシリコン原子の総モル数の20倍以下である、請求項22に記載の物品の製造方法。
- 前記シリコンアルコキシドの濃度が前記SiO2濃度により表示して30質量%以下である、請求項20に記載の物品の製造方法。
- 前記カーボンナノチューブ、フラーレン、アンチモンスズ酸化物およびインジウムスズ酸化物から選ばれた少なくとも1種、ならびに/または導電性ポリマーと、前記親水性有機ポリマーおよび/または界面活性剤と、を含む混合液に、前記シリコンアルコキシド、水およびアルコールを添加する工程を含むことにより、前記形成溶液の調製を行う、請求項20に記載の物品の製造方法。
- 前記塗布工程と、前記除去工程と、をそれぞれ1回ずつ実施することにより、膜厚が250nmを超え5μm以下である前記有機無機複合膜を形成する、請求項20に記載の物品の製造方法。
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