JPWO2007034962A1 - 不斉構造を有する組成物およびその製造方法 - Google Patents

不斉構造を有する組成物およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、側鎖に芳香環を有するアキラル高分子と光学活性なドーパント分子とを混合することにより得られる、不斉構造を有する組成物およびその製造方法。煩雑な不斉アニオン重合法を用いずに簡便に得ることのできる、キラル識別能力と加溶媒分解耐性が高い組成物、および該組成物の簡便な製造方法を開示する。

Description

本発明は不斉構造を有する組成物に関し、特に、側鎖に芳香環を有するアキラル高分子と光学活性なドーパント分子とを混合してなる、クロマトグラフィー用固定相、偏光吸収・発光材料、光電変換材料、電荷輸送材料、電荷蓄積材料等として有用な組成物、及びその製造方法に関する。
らせん構造を有するポリジベンゾフルベン誘導体がキラル識別能を示すことは既に開示されている(特許文献1)。しかしながら、開示された上記ポリマーのキラル識別能は低く、クロマトグラフィー用固定相として用いるのに満足することのできるものではなかった。また、キラル識別機能を有するらせん状光学活性ポリメタクリル酸エステルも既に知られている(特許文献2)。しかしながらこの場合には、開示されたポリマーを合成するために複雑な手順を要する不斉アニオン重合法が必要であり、さらに、開示されたポリマーはメタノールにより加溶媒分解し易く、クロマトグラフィー用固定相としての耐久性が不十分であった。また何れの文献にも、キラリティを持たない高分子とキラルな分子とからなる組成物が不斉構造を有することについては、記載はもとより示唆もされていない。
WO03/102039号公報 特開平06−87929号公報
本発明者等は、キラル識別能力と加溶媒分解耐性に優れたキラル固定相用材料について鋭意検討する中で、キラル識別能力は高いが耐溶媒性に問題のあるらせん状ポリメタクリル酸エステルと、耐溶媒性は高いがキラル識別能力は低いポリジベンゾフルベン誘導体とを混合することにより、両者の長所を併せ持つ組成物を得ることができることを見いだし、本発明に到達した。
従って本発明の第1の目的は、煩雑な不斉アニオン重合法を用いることなく簡便に調製することができると共に、キラル識別能力と加溶媒分解耐性に優れた、クロマトグラフィー用固定相等として好適な組成物を提供することにある。
本発明の第2の目的は、キラル識別能力と加溶媒分解耐性に優れたキラル固定相用組成物の簡便な調製方法を提供することにある。
本発明の上記の諸目的は、(A)側鎖に芳香環を有するアキラル高分子と、(B)光学活性なドーパント分子とを混合してなることを特徴とする、不斉構造を有する組成物によって達成された。
本発明の組成物は、煩雑な不斉アニオン重合プロセスを用いず、キラリティを持たないポリマーとキラルドーパントを混合するだけで、キラリティを有する組成物とすることができるので、キラリティが必要とされるクロマトグラフィー用固定相、偏光吸収・発光材料、光電変換材料、電荷輸送材料、電荷蓄積材料等として極めて有用である。また、本発明の組成物を担体に担持させた本発明の充填剤は、高いキラル識別機能を有すると共に加溶媒分解耐性に優れ、超臨界流体クロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィー用キラル固定相等として好適である。
図1は、(−)−スパルテイン(Sp)、(−)−メントール、(+)−2,3−ジメトキシ−1,4−ビス(ジメチルアミノ)ブタン(DDB)、および(+)−α−ピネンをキラルドーパントとして調製した、キラルなポリ(nPeDBF)組成物のUVスペクトルおよびCDスペクルである。 図2は、キラルドーパントの添加量と[θ]290の強度の関係を示すグラフである。 重合度が5.8のポリ(nPeDBF)に5mol%の(−)−Spをドーパントとして添加することにより調製した組成物の、CDスペクトル(上段)およびUVスペクトル(下段)である。図中の点線はTHF溶液からキャストしたフィルム、破線はヘキサン溶液からキャストしたフィルム、実線はSp無しのフィルムである。 重合度が27.9のポリ(nPeDBF)に、5mol%の(−)−Spをドーパントとして添加することにより調製した組成物の、CDスペクトル(上段)およびUVスペクトル(下段)である。図中、点線はTHF溶液からキャストしたフィルム、破線はヘキサン溶液からキャストしたフィルム、実線はSp無しのフィルムである。 種々の添加量で、(+)−ポリ(TrMA)をキラルドーパントとして調製したポリ(nPeDBF)組成物の、ドーパントのスペクトルを差し引いた、UVスペクトルおよびCDスペクトルである。 290nmにおけるCDスペクトル強度(G)に対する(+)−ポリ(TrMA)の添加量依存性を示すグラフである。 ドーパントをポリマーと等モル量用いたときの、らせんポリマーのCDスペクトルおよびUVスペクトルのドーパント依存性を表わす。 (+)−ポリ(TrMA)をキラルドーパントとして調製した、キラルポリ(nPeDBF)組成物を固定相とし、溶離液としてメタノールを流速0.2mL/分で使用した、キラルHPLCカラムによるtrans−スチルベンオキシドのキラル分離を示す図である。 (−)−Sp溶液中におけるポリ(nPeDBF)の、室温で測定したCDスペクトルおよびUVスペクトル(濃度=7.55mmol/L、0.1mm石英セルを使用)。 (+)−DDB溶液中におけるポリ(nPeDBF)の、室温で測定したCDスペクトルおよびUVスペクトル(濃度=10.9mmol/L、0.1mm石英セルを使用)。 (+)−PMP溶液中におけるポリ(nPeDBF)の、室温で測定したCDスペクトルおよびUVスペクトル(濃度=7.68mmol/L、0.1mm石英セルを使用)。 THF中、室温で測定したポリ(nPeDBF)のCDスペクトルおよびUVスペクトル(濃度=7.68mmol/L、0.1mm石英セルを使用)。 室温で測定した、10mol%(−)−スパルテインを含むポリ(nPeDBF)膜(点線)のCDスペクトル(上段)およびUVスペクトル(下段)、並びに、(−)−スパルテインを除去した後(実線)のCDスペクトル(上段)およびUVスペクトル(下段)である。 (−)−スパルテインを含むポリ(nPeDBF)膜(点線)の溶液換算の濃度は11.42mmol/Lであり、(−)−スパルテインを除去した後のポリ(nPeDBF)膜(実線)の溶液換算の濃度は8.15mmol/L(0.1−mmセルに入った標準THF溶液試料を基準にして計算)である。 室温で測定した、50mol%(+)−ポリ(TrMA)を含むポリ(nPeDBF)膜(点線)のCDスペクトル(上段)およびUVスペクトル(下段)、並びに、(+)−ポリ(TrMA)を除去した後(実線)のCDスペクトル(上段)およびUVスペクトル(下段)。 (+)−ポリ(TrMA)を含むポリ(nPeDBF)膜(点線)の溶液換算の濃度は5.28mmol/Lであり、(+)−ポリ(TrMA)を除去した後のポリ(nPeDBF)膜(実線)の溶液換算の濃度は3.97mmol/L(0.1−mmセルに入った標準THF溶液試料を基準にして計算)である。
本発明で使用するアキラル高分子としては、アキラルな性質を有する公知の高分子の中から適宜選択した、少なくとも一種を使用することができる。ここで、「アキラル」とは、対称面、対称心あるいは回映軸を有するために、そのものの鏡像が何らかの対称操作によってそれ自身と重なり合うため、鏡像異性体(光学対掌体)を有さないもの、或いは、鏡像異性体を有するものであっても左右異性体の等量混合物であって光学活性を示さないものを意味する。
本発明においては、アキラルな高分子として、下記の構造式1で表わされる、ジベンゾフルベン誘導体を含む重合性エキソメチレン基を有する1,1−芳香族環状置換エチレンモノマーの重合体を使用することが好ましい。
構造式1
Figure 2007034962
但し、式中のArは芳香環、R及びRは水素原子又は有機基、R及びRは水素原子、ヘテロ原子又は有機基、nは2以上の整数であり、−X−は−(CH−、芳香族基、ビニル基、ヘテロ原子、又はヘテロ原子を含む基であり、qは0以上の整数である。
尚、RおよびRはそれぞれ2−4個導入されていても良く、R及びRの各々は、それぞれ同じであっても異なっていても良い。
前記ジベンゾフルベン誘導体を含む重合性エキソメチレン基を有する1,1−芳香族環状置換エチレンモノマーの重合体としては、下記構造式2で表わされる高分子が特に好ましい。
構造式2
Figure 2007034962
但し、R、R、nは前記構造式1のものと同じであり、R−R10は構造式1のR及びRと同じである。
構造式1における芳香環を含む官能基は、CおよびHからなり(この場合のXは単結合)、フェニル基やナフチル基等の1つもしくは複数のベンゼン環をArとして有する官能基、フルオレンのような環状炭化水素基に芳香環がついた構造を持つ官能基、もしくは、これらの芳香環に置換基を導入した官能基である。また、C、H、Xからなる芳香環を含む官能基は、上記C、Hからなる芳香環や環状炭化水素基の代りにC、H及びヘテロ原子からなる芳香環が導入されている場合である。ヘテロ原子は、直接環を形成する原子として入っていても、環と共役系を形成するように、環の置換基等として導入されていても良い。本発明においては、上記C、Hからなる芳香環とC、H及びヘテロ原子からなる芳香環が同時に含まれていても良い。本発明において特に好ましい芳香環はフルオレン環である。
本発明の高分子化合物を得るための重合性単量体としては、CとH又はC、H、Xからなる、重合性置換基を有しない芳香環を含む重合性単量体の少なくとも1種が必要であり、必要に応じて、上記重合性置換基を有しない芳香環を含まない重合性単量体を併用しても良い。CとH又はC、H、Xからなる芳香環を含む重合性単量体としては、下記一般式(1)で表される重合性単量体を使用することが好ましい。
Figure 2007034962
但し、R及びRは、水素原子又は有機基である。この場合の有機基は、アルキル基、重合性置換基を有しない芳香族基、−CN、エステル基の群から選択される基であることが好ましく、これらは同一であっても異なっていても良い。R、R、R、Rは水素原子、ヘテロ原子又は有機基である。該有機基としては、例えば、アルキル基、−OR、重合性置換基を有しない芳香族基、−NRR’、−SR
Figure 2007034962
の群のなかから選択された基であり、上記R及びRはH又は炭素数1〜50のアルキル基である。R〜Rは同一であっても異なっても良いが、全てが同時に水素原子とはならないことが好ましい。
また、Xは、なし(両端の原子が直結している単結合)、−CH−、
−CH−CH−、−CH=CH−、−CO−、−S−、−O−、
−Si(R)(R’)−、−NR−、及び−N(COR)−から選択される何れかであることが好ましい。R及びR’はH又は炭素数1〜50のアルキル基である。また、点線部分の・・・Ar・・・及び・・・Ar・・・は芳香族性を示す環状部分であり、ヘテロ原子Xを含むヘテロ環であっても良い。また、・・・Ar・・・と・・・Ar・・・は同一であっても異なっていても良い。上記Xの例としては、N、O、S、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、Sb、Bi、Se、Teを挙げることができるが、本発明においてはN、O、Si、Geが好ましく、特にN又はOであることが好ましい。
本発明においては、上記重合性単量体の中でも、特に、下記の各式で表されるものが好ましい。
Figure 2007034962
、R、R、Rは置換基であり、例えば、水素原子、アルキル基、−OR、重合性置換基を有しない芳香族基、−NRR’、−SRである。R〜Rの全てが同時に水素原子とはならないことが好ましい。但し、R及びR2は、水素原子、直鎖アルキル基、重合性置換基を有しない芳香族基、−CN、又はエステル基であり、nは0、1、又は2である。
Figure 2007034962
但し、R及びRは、水素原子、アルキル基、重合性置換基を有しない芳香族基、−CN、又はエステル基である。
、R、R、Rは置換基であって、例えば水素原子、アルキル基、−OR、重合性置換基を有しない芳香族基、−NRR’、−SRであり、R〜Rの全てが同時に水素原子とはならないことが好ましい。
また、Xは、−S−、−O−、−Si(R)(R’)−又は−NR−であり、R及びR’はH又は炭素数1〜50のアルキル基である。
Figure 2007034962
但し、R及びRは、水素原子、直鎖アルキル基、重合性置換基を有しない芳香族基、−CN、又はエステル基である。
、R、R、Rは置換基であって、例えば水素原子、アルキル基、−OR、重合性置換基を有しない芳香族基、−NRR’、−SRであり、R〜Rの全てが同時に水素原子となることはない。R及びR’はH又は炭素数1〜50のアルキル基である。
これらの中でも、特に下記ジベンゾフルベンが好ましい。
Figure 2007034962
、R、R、Rは置換基であって、例えば水素原子、アルキル基、−OR、重合性置換基を有しない芳香族基、−NRR’、−SR
Figure 2007034962
が挙げられる。尚、R及びR’はH又は炭素数1〜50のアルキル基である。
必須成分である、CとH又はC、H、Xからなる芳香環を含む重合性単量体は公知の方法によって得ることが出来る。
また、R及びRに官能基を導入する方法、R、R、R、Rにカルボニル基を導入する方法、及びアルキル基を導入する方法は公知である。
とRの好ましい組み合わせとしては、エステル基とエステル基、シアノ基とシアノ基、芳香族基と芳香族基、アルキル基とアルキル基等が挙げられる。アルキル基としては、特に直鎖アルキル基が好ましい。
各Xに対応する単量体は、例えばXが−CH−の場合にはジヒドロアントラセンを出発原料とするというように、各Xに対応する出発原料を適宜選択すれば良い。
このようにして得られた重合性単量体の重合方法としては、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合など、公知の重合方法を用いることができる。
本発明で使用する光学活性なドーパントは、公知の化合物の中から適宜選択することができるが、特に、中心不斉、らせん不斉、軸不斉、又は面不斉を持つ光学活性な化合物から成る群から選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。特に前記したアキラルな高分子と錯化合物を形成することのできるものが好ましい。また、このドーパントは高分子化合物であっても良い。
本発明の組成物は、前記アキラルな高分子化合物とドーパント分子をそれぞれ溶媒に溶解し、得られた溶液を混合することによって容易に得ることができる。即ち、溶液のままで光学活性を示させることも可能であるが、通常は、混合溶液をフィルムなどの支持体上に、或いは担体表面に塗布し、溶媒を除去することによって層状の組成物を得る。上記溶媒の除去に際しては、溶媒雰囲気下でゆっくりと溶媒を除去することが好ましく、その後更に真空乾燥器中で除去することが好ましい。
アキラル高分子と光学活性のドーパント分子の混合に際しては、これらの両者を溶解する溶媒を使用することが通常であるが、相溶性の良い溶媒同士であれば異なった溶媒を使用しても良い。また、アキラル高分子と光学活性のドーパント分子を溶解前に混合し、後から両者を溶解する溶媒を加えて両者を同時に溶解させても良いが、光学活性のドーパント分子を溶解した溶液にアキラル高分子を加えて該高分子を溶解することが、高分子の溶解時に光学活性のドーパント分子が高分子と直ちに作用して安定化し、例えば錯体を形成し易いので好ましい。
このようにして得られた溶液組成物が組成物として光学活性を有している場合には、前記したように溶媒を蒸発させて、光学活性を有する固相の組成物を得られることは当然であるが、光学活性がはっきりしない液状の組成物であっても、溶媒を蒸発させるにつれて光学活性を示すようになることが多い。組成物が示す光学活性の程度は、アキラル高分子と光学活性な分子の組み合わせに依存する。
本発明で使用することのできる光学活性な分子の例としては、例えば、光学活性なスパルテイン、光学活性なメントール、光学活性なピネン、光学活性な2,3−ジメトキシ−1,4−ビス(ジメチルアミノ)ブタン、光学活性なポリメタクリル酸トリフェニルメチル、および光学活性なポリメタクリル酸1−フェニルベンゾスベリルを挙げることができる。本発明においては、これらの中でも特に、光学活性なスパルテイン、光学活性なメントールおよび光学活性なポリメタクリル酸トリフェニルメチルを使用することが好ましい。
本発明の組成物を担体表面に形成させることにより、容易に本発明の光学異性体分離用クロマト充填剤を得ることができる。担体表面に本発明の組成物を被覆するには、本発明の組成物の溶液を担体表面に噴霧したのち溶媒を蒸発除去するか、溶液中に担体を分散させた後溶媒を蒸発除去させても良い。上記担体としては公知のものを適宜使用することができるが、特にシリカを使用することが好ましい。また、シート等の支持体表面に本発明の組成物を溶解した溶液を塗布し、溶媒を蒸発させて得た、不斉構造を有する本発明のフィルムは、保存や移動が容易であるので、本発明のクロマト充填剤の原料などとして便利である。
以下、本発明を実施例によって更に詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
1.アキラル高分子の合成
<ポリnPeDBFの合成>
下記の合成スキーム1に従い、THF中、−78℃、窒素雰囲気下でn−BuLiを開始剤とする2,7−ジ−n−ペンチルジベンゾフルベン(nPeDBF)のアニオン重合を行った。
スキーム1:
Figure 2007034962
少量の塩酸を含むメタノールで反応を停止させ、THF溶液からメタノールへの再沈操作を3回繰り返した。次いでヘキサンとTHFを用いて分別し、それぞれ真空乾燥することにより、ポリ(nPeDBF)ポリマーを得た。表1に重合条件と結果を示した。
(表1)
nPeDBFのTHF中−78℃でのアニオン重合(n−BuLi開始)a)
Figure 2007034962
<低分子キラルドーパントとして(−)−スパルテインを用いた、本発明のキラルポリマー組成物の調製>
(A)THF溶液からのキャストフィルムの調製:
ポリスチレン換算分子量が約4220(絶対分子量が約7600)の、上記で得られたポリ(nPeDBF)2.5mg(7.8×10−3mmol)を、1mLのメスフラスコに量り取り、別途調製した0.938mmol/Lの(−)−スパルテイン(Sp)のTHF溶液0.5mL(0.469×10−3mmol)を加えて前記ポリ(nPeDBF)を溶解し、総容量1mLの溶液を調製した。この溶液の3滴分(約0.1mL)を石英板に塗布し、THF蒸気雰囲気下でゆっくり溶媒を蒸発させて本発明のフィルムを調製した。
(B)ヘキサン溶液からのキャストフィルムの調製:
ポリスチレン換算分子量が4220のポリ(nPeDBF)0.7mg(2.198×10−3mmol)をガラス製バイアルに量り取った。次いで、別途調製した0.001131mol/Lの(−)−スパルテインのヘキサン溶液0.1mL(0.1131×10−3mmol)を加え、スペクトル測定グレードのヘキサン(0.15mL)を加えて前記ポリ(nPeDBF)を溶解し、さらにスペクトル測定グレードのヘキサン(0.15ml)を加えて希釈し、試料溶液を調製した。得られた溶液の3滴分(約0.1mL)を石英板に塗布し、ヘキサン蒸気の雰囲気下でゆっくり溶媒を蒸発させることにより、本発明のフィルムを調製した。
前記した、ポリスチレン換算分子量が4220のポリ(nPeDBF)2.3mg(7.2×10−3mmol)を1mLのメスフラスコに量り取り、これにスペクトル測定グレードのTHFを加えて、総容量1mLの溶液を調製した。
一方、フルオレニルリチウム−(+)−2−(1−ピロリジニルメチル)ピロリジン錯体を開始剤とし、−78℃のトルエン中で、[M]/[I]=30の条件で不斉アニオン重合することにより、光学活性ポリメタクリル酸トリフェニルメチル((+)−ポリ(TrMA))を合成した。得られたポリマーのポリスチレン換算分子量(SEC)は26,400(Mw/Mn1.05)であった。このポリマーの12.7mg(4.03×10−2mmol)を5mLのメスフラスコに量り取り、スペクトル測定グレードのTHFを加えて、総容量5mLの溶液を調製した。
調製した上記各溶液から、所定の容量をマイクロシリンジを用いて採取し、ガラスバイアル中で混合し、得られた混合溶液の3滴分(約0.1mL)を石英板に塗布し、THF蒸気雰囲気下でゆっくり溶媒を蒸発させることにより、本発明のフィルムを調製した。
実施例1と同様にして、ポリ(nPeDBF)(M(RALS)5630;Mn3200(ポリスチレン換算);M/M=1.20)に対して、(−)−Sp、(−)−メントール、(+)−2,3−ジメトキシ−1,4−ビス(ジメチルアミノ)ブタン(DDB)および(+)−α−ピネンの何れかを、前記ポリマーの5mol%に相当する量を添加して、各フィルムを調製した。得られた各キャストフィルムのUV吸収およびCD(円偏光二色性)吸収スペクトルを、図1に示した。
フィルム試料のCDスペクトルの吸収強度(モル楕円率)は、フィルム試料のUVスペクトルの吸収強度を、濃度が既知のポリ(nPeDBF)のTHF試料溶液の290nmの吸光度と比較することにより算出した、フィルム中のポリマー濃度を用いて計算した。また図2は、キラルドーパントの添加量と[θ]290の強度の関係を示すグラフである。
5mol%の(−)−Spをドーパントとした際の、キラルポリ(nPeDBF)組成物のCDスペクトル強度に対する、ポリ(nPeDBF)の分子量依存性を調べた。重合度が5.8のポリ(nPeDBF)を用いて調製した組成物には、図3から明らかなように、有意なCDスペクトル吸収は見られないのに対し、重合度が27.9のポリ(nPeDBF)を用いて調製した組成物には強いCD吸収が見られた(図4)。
フルオレニルリチウム−(+)−2,3−ジメトキシ−1,4−ビス(ジメチルアミノ)ブタン錯体(DDB−FlLi錯体)を開始剤として、−78℃のトルエン中、[M]/[I]=20の条件下で不斉アニオン重合を行い、ポリスチレン換算分子量(トリチルエステルのままSEC測定)が43,410(DP=72、M/M=1.14(PMMAに変換してSEC測定);イソタクチシチー(mm)>99%)の、一方向巻きらせん型ポリメタクリル酸トリフェニルメチル((+)−ポリ(TrMA))を合成した。
得られたポリマーをキラルドーパントとして用い、ドーパントの添加量を変えて試料を調製した。5種類のキラルポリ(nPeDBF)組成物のCDスペクトルを図5に示した。また、ドーパント添加量とCDスペクトル強度の関係は、図6に示した通りである。
DDB−FlLi錯体を開始剤とし、[M]o/[I]o=20の条件下、−78℃のトルエン中で不斉アニオン重合を行い、一方向巻きのらせん型ポリ(メタクリル酸1−フェニルジベンゾスベリル)(ポリ(PDBSMA))を合成した。得られたポリマーのDPは39、M/Mは1.12(PMMA変換してSECで決定した)、イソタクチシチー(mm)は99%以上、[α]365は+1418であった。
得られたポリマーに、ペルアセチル1−α−シクロデキストリンまたはコレステロールをドーパントとして添加し、ポリマーとドーパントのモル比が1:1となるように調製した各キラルポリマー組成物を得た。得られた各組成物のCDスペクトルは図7に示した通りである。
フルオレニルリチウム−(+)−2−(1−ピロリジニルメチル)ピロリジン錯体を開始剤とし、−78℃のトルエン中、[M]/[I]=30の条件下で不斉アニオン重合を行い、(+)−ポリ(TrMA)をキラルドーパントとして合成した。得られたポリマーの分子量Mw(多角度光散乱検出器付きSEC)は100,300、Mw/Mnは1.50であった。このポリマー152.12mg(0.463mmol)とポリ(n−PeDBF)(SECポリスチレン換算分子量Mnは4220)146.95mg(0.461mmol)をTHF(5mL)に溶解し、モノマー単位のモル比で(+)−ポリ(TrMA)/ポリ(nPeDBF)=1.00の溶液を調製した。
この溶液を、ジクロロジフェニルシランで表面処理した、粒径が7μm、孔径が1000Åのシリカゲルに塗布・乾燥し、前記シリカゲル表面に(+)−ポリ(TrMA)/ポリ(nPeDBF)からなる組成物を被覆した。ポリマーの被覆量は24.9質量%であり、その内、(+)−ポリ(TrMA)が12.7質量%でポリ(nPeDBF)が12.2質量%であった。次いで、被覆されたシリカを更に真空乾燥した後、HPLCカラムの固定相用充填剤として、ステンレス製カラム(φ2.1×250mmで充填剤質量は531.2mg)中にスラリー法によって充填し、キラルHPLCカラムを作製した。アセトニトリルを溶離液とし、アセトンに対して測定した理論段数は約1,600段であった。
メタノールを溶離液として用いた場合の、4種のラセミ体に対する不斉識別能を、(+)−ポリ(TrMA)のみを用いて調製した固定相に対する結果と比較して、表2に示した。使用したカラムは、φ2.1×250mmのサイズであり、担体としては、粒径が7μmで孔径1000Åのジクロロジフェニルシラン処理済シリカゲルを使用した。該シリカのカラム中への充填剤質量は531.2mgであり、使用した(+)−ポリ(TrMA)の分子量Mnは24,500、Mw/Mnは1.16、ポリマー被覆量は22.5質量%であった。表2から明らかなように、本発明の組成物を被覆することにより、不斉識別能が向上することが実証された。尚、trans−スチルベンオキシドの分割例を図8に示した。
(表2)
メタノールを溶離液として用いたラセミ体の分割
Figure 2007034962
フルオレニルリチウム−(+)−2−(1−ピロリジニルメチル)ピロリジン錯体を開始剤とし、−78℃のトルエン中、[M]/[I]=20の条件で不斉アニオン重合を行い、(+)−ポリ(TrMA)を合成した。得られたポリマーのMwは(多角度光散乱検出器付きSEC)496,100であり、Mw/Mnは1.95であった。ガラス製バイアル中に、上記ポリマー5.96mg(0.018mmol))と、n−BuLiを開始剤とし、−78℃のTHF中、[M]/[I]=15の条件でアニオン重合させて調製した、SECポリスチレン換算分子量(Mn)が4220のポリ(nPeDBF)5.86mg(0.018mmol))を量りとった。次いで、重クロロホルムを0.6mLおよび重メタノールを0.06mL加えてポリマーを溶解し、得られた溶液をNMRチューブに移した。このサンプルの500MHz H NMRスペクトルを60℃で測定し、(+)−ポリ(TrMA)成分の分解率を測定した。
尚、分解率は次のようにして算出した。先ず、ポリ(nPeDBF)のn−ペンチル基のうち、芳香環に直結するメチレン基のプロトン(1.8〜2.0ppm:4プロトン分)の強度に基づいてポリ(nPeDBF)の芳香族領域プロトンの強度を算出した。この強度を、観測されたすべての芳香族プロトン吸収強度から差し引き、その残りを、(+)−ポリ(TrMA)またはその分解生成物の芳香族プロトンの強度とした。そのうち、分解生成物であるトリフェニルメタノールおよびメチルエーテル体におけるフェニル基のパラ位のプロトンと、それ以外のプロトンの強度比から、分解生成物の収率(分解率)を算出した。比較のため、同じ条件で(+)−ポリ(TrMA)のみの分解についても検討した。表3に各反応時間での分解率を示した。
(表3)
キラルpoly(nPeDBF)組成物中の(+)−ポリ(TrMA)成分の分解
Figure 2007034962
表3から明らかなように、本発明の組成物とすることにより、耐溶媒性が向上することが実証された。
液状キラルドーパントを溶媒として用い、ポリ(nPeDBF)が溶けた溶液中におけるらせんの形成を、CDスペクトルにより確認した。
(A) [ポリ(nPeDBF)の(−)−Sp溶液の調製]
ポリ(nPeDBF)2.31mg(7.55×10−3mmol)を1mLのメスフラスコに量りとり、これに水素化カルシウムから減圧蒸留した(−)−Spを標線まで入れて、ポリ(nPeDBF)の(−)−Sp溶液を調製した。(−)−Spの添加量は0.990g(4.23mmol)であった。なお測定は、0.1mmの丸型石英セルを用い、室温で行った。
(B)[その他のキラル化合物を用いた場合の溶液調製]
ポリ(nPeDBF)の約0.9mgをサンプル瓶に量りとり、これに、(+)−DDBと(+)−PMP(水素化カルシウムから減圧蒸留したものを使用)を0.4mL加えることにより試料溶液を調製した。測定は、0.1mmの丸型石英セルを用い、室温で行った。サンプルの濃度は、別途調製したポリ(nPeDBF)のTHF溶液で測定した315nmのモル吸光係数から見積もった。
得られた溶液のCDスペクトルを図9〜図11に示した(溶媒の吸収を補正した差スペクトル)。図12はキラル化合物を添加せずにTHF中で測定した参照データである。いずれの場合も明瞭な誘起CDが観測された。(−)−Spおよび(+)−DDBを用いた場合と(+)−PMPの場合とでは、CDスペクトルの形状が鏡像関係であった。
ドーバント分子を除去してもキラル構造が維持される例
1. ポリ(nPeDBF)/(−)−Spフィルムからのドーパント種の除去
10mol%(−)−スパルテインを含むポリ(nPeDBF)のキャスト膜を、メタノール中に室温で25時間浸漬したところ、(−)−スパルテインは全て除去された。このことは、フィルムを溶かしてCDCl溶液とし、H NMRで確認した。(−)−スパルテインの除去前および除去後で、フィルムのCDスペクトルには大きな違いは見られず(図13)、(−)−スパルテインを除去してもpoly(nPeDBF)のキラル構造が保持されることが判明した。
2.ポリ(nPeDBF)/(+)−ポリ(TrMA)ブレンド試料からのドーパント種の除去
50mol%の(+)−ポリ(TrMA)を含むポリ(nPeDBF)のキャスト膜を、1Nの塩酸メタノール溶液中に室温で5時間浸漬したところ、(+)−ポリ(TrMA)は全て除去された。このことは、フィルムを溶解してCDCl溶液とし、H NMRによって確認した。(+)−ポリ(TrMA)の除去前と除去後ではフィルムのCDスペクトルに大きな違いは見られなかった(図14)。このことから、(+)−ポリ(TrMA)を除去してもポリ(nPeDBF)のキラル構造が保持されることが判明した。
本発明の組成物は、煩雑な不斉アニオン重合法を用いることなく簡便に調製することができる上、その組成物の層を担体等の表面に形成させれば、キラル識別能力と加溶媒分解耐性に優れた、クロマトグラフィー用固定相等を容易に提供することができるので、本発明は産業上極めて有用である。

Claims (13)

  1. (A)側鎖に芳香環を有するアキラル高分子と、(B)光学活性なドーパント分子とを混合してなることを特徴とする、不斉構造を有する組成物。
  2. 前記アキラル高分子が、下記の構造式1で表わされる、ジベンゾフルベン誘導体を含む重合性エキソメチレン基を有する1,1−芳香族環状置換エチレンモノマーの重合体である、請求項1に記載された不斉構造を有する組成物。
    構造式1
    Figure 2007034962
    但し、式中のArは芳香環、R及びRは水素原子又は有機基、R及びRは水素原子、ヘテロ原子又は有機基、nは2以上の整数であり、−X−は−(CH−、芳香族基、ビニル基、ヘテロ原子、又はヘテロ原子を含む基であり、qは0以上の整数である。
    尚、R、Rはそれぞれ2−4個導入されていても良く、R及びRの各々は、それぞれ同じであっても異なっていても良い。
  3. 前記ジベンゾフルベン誘導体を含む重合性エキソメチレン基を有する1,1−芳香族環状置換エチレンモノマーの重合体が、下記構造式2で表わされる、請求項2に記載された組成物。
    構造式2
    Figure 2007034962
    但し、R、R、nは前記構造式1のものと同じであり、R−R10は構造式1のR及びRと同じである。
  4. 前記ドーパント分子が、中心性不斉、らせん不斉、軸不斉、及び面不斉を持つ光学活性な化合物から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項1に記載された不斉構造を有する組成物。
  5. 側鎖に芳香環を有するアキラル高分子、および光学活性なドーパント分子とを、両者を溶解する溶媒に溶解混合したのち、得られた溶液を支持体上に塗布・乾燥することを特徴とする、不斉構造を有するフィルムの製造方法。
  6. 前記光学活性なドーパント分子を先に溶解し、この溶液中に側鎖に芳香環を有するアキラル高分子を溶解させる、請求項5に記載された不斉構造を有するフィルムの製造方法。
  7. 前記アキラル高分子が、下記の構造式1で表わされる、ジベンゾフルベン誘導体を含む重合性エキソメチレン基を有する1,1−芳香族環状置換エチレンモノマーの重合体である、請求項5に記載された不斉構造を有するフィルムの製造方法。
    構造式1
    Figure 2007034962
    但し、式中のArは芳香環、R及びRは水素原子又は有機基、R及びRは水素原子、ヘテロ原子又は有機基、nは2以上の整数であり、−X−は−(CH−、芳香族基、ビニル基、ヘテロ原子、又はヘテロ原子を含む基であり、qは0以上の整数である。
    尚、R、Rはそれぞれ2−4個導入されていても良く、R及びRの各々は、それぞれ同じであっても異なっていても良い。
  8. 前記ジベンゾフルベン誘導体を含む重合性エキソメチレン基を有する1,1−芳香族環状置換エチレンモノマーの重合体が、下記構造式2で表わされる、請求項5に記載された不斉構造を有するフィルムの製造方法。
    構造式2
    Figure 2007034962
    但し、R、R、nは前記構造式1のものと同じであり、R−R10は構造式1のR及びRと同じである。
  9. 前記ドーパント分子が、中心性不斉、らせん不斉、軸不斉、及び面不斉を持つ光学活性な化合物から選択される少なくとも1種の化合物である、請求項5に記載された不斉構造を有するフィルムの製造方法。
  10. 請求項1〜4の何れかに記載された組成物を均一に溶解して成る溶液を、担体上に塗布したのち乾燥してなることを特徴とする、光学異性体分離用クロマト充填剤。
  11. 前記乾燥が、前記溶液に使用された溶媒の蒸気の存在下で徐々になされる、請求項10に記載された光学異性体分離用クロマト充填剤。
  12. 前記乾燥の後、更に真空乾燥されて得られる、請求項11に記載された光学異性体分離用クロマト充填剤。
  13. 前記請求項5または6の何れかの製造方法によって得られたフィルムを均一に溶解して成る溶液を、担体上に塗布したのち乾燥することを特徴とする、光学異性体分離用クロマト充填剤の製造方法。
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