JPWO2007010922A1 - リチウムイオン二次電池用負極、その製造方法、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池 - Google Patents
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Abstract
Description
特許文献1において、酸化リチウム層は、固相内の酸化還元反応により形成されるため、電池を構成した後に固液界面に生成される酸化被膜と比較して薄い。このため、このような酸化リチウム層では、不可逆容量を十分に低減させることは困難である。
また、特許文献1の負極活物質層は、複雑な酸化還元反応により形成されるために、負極に含まれる酸素量をコントロールすることは困難である。シリコンと反応する酸素量が変化すると、不可逆容量も大きく変化する。さらに、所望とする酸素量が不明確であるので、その酸素量に対して必要なリチウムの量も不明確である。
また、酸化物とリチウムとからなる第二の層を形成する場合においても、酸素量に対して必要とされるリチウムの量が不明確である。
前記活物質層は、一般式:LiaSiOx
(式中、0.5≦a−x≦1.1、0.2≦x≦1.2である。)
で表される活物質を含み、シリコンと酸素とリチウムとを含む活物質が、シリコンと酸素とを含む活物質前駆体を含む層にリチウムを蒸着させて、活物質前駆体とリチウムとを反応させることにより得られるリチウムイオン二次電池用負極に関する。活物質層は、その全体に存在する亀裂を有する。集電体片面あたりの活物質前駆体を含む層の厚さTは、0.5μm≦T≦30μmであることが好ましい。活物質層の厚さは、0.5〜50μmであることが好ましい。
図1の負極は、負極集電体12と、負極集電体12の上に担持された負極活物質層11とを備える。負極活物質層11は、シリコンと酸素とリチウムとを含む負極活物質を含む。負極活物質層は結着剤を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
負極活物質層が亀裂を有していることにより、活物質層と電解質との界面の面積を増大し、電池反応の抵抗を低減させることができる。
すなわち、酸素のモル比xが大きくなると、初回充放電時の効率が下がり、不可逆容量が増大し、電池容量が低下する。そこで、電池容量の低下を回避するために、活物質におけるリチウムのモル比aを増やす必要がある。しかし、モル比aが大きすぎると、正極活物質の種類によっては、充電容量が減少するため、電池容量が減少する。よって、活物質におけるリチウムのモル比aと酸素のモル比xは、上記のような関係を満たす必要がある。
これらの酸化リチウムまたは炭酸リチウムは、電池を組み立てた後に、活物質層と電解質との界面における被膜として機能する。つまり、これらの酸化リチウムまたは炭酸リチウムは、充放電時に電解質の構成成分に由来する被膜が活物質層の表面に生成されることを抑制する効果を有する。
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、例えば、集電体上に活物質前駆体層を形成し、その活物質前駆体層上にリチウムを蒸着させることにより作製することができる。
活物質前駆体層は、例えば、集電体を真空チャンバー内の所定の範囲を連続的に移動させる間に、シリコンの単体を蒸発源として用いるスパッタリング法または蒸着法により、前記シリコンの単体を構成するシリコン原子を、酸素雰囲気を通過させて、前記集電体上に供給する工程を含有する方法によって作製することができる。
蒸発した原子が集電体以外の他の部位に蒸着しないように、蒸発した原子を遮蔽するための遮蔽板28が、ターゲット25とキャン23との間に設けられている。
シリコン原子が通過する領域の酸素濃度は、酸素ガスの流量、真空チャンバー内の減圧速度等をコントロールすることによって調節することができる。このため、活物質前駆体層における酸素のモル比xを変えることができる。活物質前駆体層に含まれる酸素のモル比xは、0.2≦x≦1.2となるように調節される。
なお、活物質前駆体層の形成は、集電体を移動させながら行ってもよいし、集電体が静止した状態で行ってもよい。集電体が静止した状態で活物質前駆体層を形成する場合、まず、集電体の所定の領域に、活物質前駆体層を形成する。その形成が終了したのち、集電体を移動させて、集電体の別の領域に、活物質前駆体層を形成する。このような操作を繰り返して行うことにより、活物質前駆体層を集電体上に形成することができる。
集電体片面あたりの活物質層の厚さは、0.5μm〜50μmであることが好ましい。なお、前記活物質層の厚さは、放電状態での負極活物質層の厚さである。
図3に、活物質前駆体層を作製するために用いられるスパッタ装置の概略図を示す。図3において、図2と同じ構成要素には、同じ番号を付している。また、図2の蒸着装置と同様に、集電体上への活物質層の形成は、真空チャンバー(図示せず)内で行われる。
活物質前駆体層の厚さは、上記と同様に、集電体の移動速度および/またはシリコン原子の堆積速度を変化させることによって変更することができる。なお、上記と同様に、活物質前駆体層は、必ずしも集電体を移動させながら形成する必要はない。
図4に、リチウムを蒸着するために用いられる蒸着装置の概略図を示す。図4において、図2と同じ構成要素には、同じ番号を付している。また、図2の蒸着装置と同様に、リチウムの蒸着は、真空チャンバー(図示せず)内で行われる。
また、リチウムの蒸着量は、集電体の移動速度や、リチウム原子の堆積速度を変化させることによって、変更することができる。
この場合にも、集電体を必ずしも移動させながら、リチウムを堆積させる必要はない。
不活性ガスは、例えば、配管43を用いて、不活性ガスをリチウムターゲット42の近傍に、一定流量で供給される。これにより、リチウムの酸化を防止することができるとともに、不活性ガスをターゲット42と極板41との間に供給することができる。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガスが挙げられる。
(電池1−1)
(i)正極の作製
平均粒径5μmのコバルト酸リチウム(LiCoO2)を100重量部と、導電剤であるアセチレンブラックを3重量部とを混合した。得られた混合物に、結着剤であるポリフッ化ビリニデン(PVdF)のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液を加えて、混合し、ペースト状正極合剤を得た。PVdFのNMP溶液は、PVdFの添加量が4重量部となるように混合した。
この正極合剤を、アルミニウム箔からなる集電体シートの両面に塗着し、乾燥後、圧延して、正極を得た。
負極の作製方法は、後述する。
作製した正極および負極を用いて、図5に示されるような、17500サイズの円筒型電池を作製した。
正極51、負極52、および正極と負極との間に配置されたセパレータ53を、渦巻状に捲回して、極板群を作製した。極板群は、ニッケルメッキした鉄製電池ケース58内に収容した。
アルミニウム製正極リード54の一端を正極51に接続し、正極リード54の他端を正極端子60に接続した。なお、正極端子60は、樹脂製封口板59の中央に取り付けた導電性部材に接合されており、その導電性部材の裏面に正極リード54の他端を接続した。
ニッケル製負極リード55の一端を負極52に接続し、負極リード55の他端を電池ケース58の底部に接続した。
極板群の上部には上部絶縁板56を、下部には下部絶縁板57をそれぞれ配置した。
最後に、封口板59により、電池ケース58の開口部を密封して、電池を完成した。
負極集電体として、幅10cm、厚さ35μm、長さ50mの電解銅箔(古河サーキットフォイル(株)製)を用いた。電解銅箔の表面粗さRaは、1.5μmであった。
酸素雰囲気を構成するガスとしては、純度99.7%の酸素ガス(日本酸素(株)製)を用いた。酸素ガスは、ノズル29から流量60sccmで放出した。なお、ノズル29は、酸素ボンベからマスフローコントローラーを経由して真空チャンバー内に導入された配管に接続した。酸素ガスを導入した真空チャンバー内部の圧力は、1.5×10−4torrとした。
ターゲット25には、純度99.9999%のシリコン単結晶(信越化学工業(株)製)を用いた。
シリコン単結晶を蒸発させ、蒸発したシリコン原子を、酸素雰囲気を通して、集電体上に堆積させて、活物質前駆体層を形成した。
なお、シリコン単結晶のターゲット25に照射される電子ビームの加速電圧を−8kVとし、電子ビームのエミッションを300mAに設定した。
ターゲットには、純度99.97%のリチウム(本荘ケミカル(株)製)を用いた。不活性ガスとしてアルゴンガスを用い、そのアルゴンガスを配管43を通して、流量20sccmで放出した。アルゴンガスを導入した真空チャンバー内部の圧力は、2×10−4torrとした。
最後に、得られた負極板を、所定の大きさに切断して、負極を得た。この得られた負極を負極1とした。
この活物質前駆体層の表面にリチウムを蒸着させて、活物質前駆体とリチウムを反応させると、得られる活物質層の表面において、図7に示すとおり、ブロッコリー状の単位がそれぞれ膨張し、その表面に亀裂が生じる。このように、リチウムは薄膜として存在するのではなく、活物質前駆体との固相反応により、LiaSiOxで表されるような負極活物質が生成される。
リチウムと反応したのちの、前記単位(活物質粒子)の直径の平均の大きさは、1〜30μmであることが好ましい。
同定の結果、銅のみが検出された。また、得られたチャートにおいて、2θが10°から35°にかけて明確なピークが見られなかった。このことから、負極活物質は非晶質であると考えられる。
負極1において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、13μmであった。
次に、シリコンと酸素とを含む活物質前駆体が、粉末である場合について示す。
活物質前駆体粉末(住友チタニウム(株)製のSiO1.1)を75重量部と、導電剤であるアセチレンブラック(AB)を15重量部と、結着剤であるスチレンブタジエンラバー(SBR)の水分散液とを混合して、ペースト状負極合剤を得た。なお、SBRの水分散液は、添加されるSBRの量が10重量部であるように混合した。
この負極合剤を、銅箔からなる集電体シートの両面に塗着し、乾燥した。その後、集電体片面あたりの活物質前駆体を含む合剤層の厚さが30μmとなるように圧延して、極板を得た。
次いで、得られた極板を、毎分4cmの速度で走行させながら、合剤層上にリチウムを蒸着した。こうして、負極板を得た。得られた負極板を所定の大きさに切断して、負極2を得た。
得られた負極2を用いて、電池1−1と同様にして、電池1−2を作製した。正極において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、電池1−1の正極活物質層の0.7倍とした。
負極2において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、33μmであった。なお、この場合、活物質層の厚さは、活物質前駆体を含む合剤層の厚さと比較して、10%程度しか厚くなっていなかった。これは、活物質層に含まれるアセチレンブラックにより、活物質層の膨張が多少緩和されていること、SiOの粉末を用いているため、粉末間の隙間が膨張を緩和していること等が原因として考えられる。
また、合剤層にリチウムを蒸着させた場合でも、リチウムの拡散経路が形成されるとともに、活物質層の全体には亀裂が生じる。
比較として、以下に示す方法で、シリコンと酸素とリチウムとを含む活物質を含む層を集電体上に形成した。
図2に示す蒸着装置を改良し、リチウムターゲットとそれを加熱するためのヒーターをシリコンターゲット25の近傍に設置した装置(図示せず)を用いた。さらに、シリコンの代わりに一酸化シリコン((株)高純度化学研究所製)をターゲットとして用いた。一酸化シリコンに照射する電子ビームの加速電圧を−8kV、エミッションを30mA、リチウムターゲットを加熱するヒーターの出力を40Wに設定し、一酸化シリコンとリチウムを同時に蒸着して、負極3を作製した。このとき、酸素は導入しなかった。ここで、負極3を上記と同様にして分析した結果、負極活物質の組成はLi1.8SiOであった。
また、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、18μmとした。
得られた負極を用いて、電池1−1と同様にして、比較電池1を作製した。
(初回充電時間、初回充放電効率、および初期容量)
電池1−1を、周囲温度25℃において、40mAの電流で、電池電圧が4.2Vになるまで充電した。このときの充電時間(初回充電時間)を測定した。
20分間休止した後、充電後の電池を、40mAの電流で、電池電圧が2.5Vに低下するまで放電した。
このような充放電サイクルを2回繰り返した。
1サイクル目の充電容量に対する1サイクル目の放電容量の割合を百分率値として求めた値を、初回充放電効率とした。2サイクル目の放電容量を初期容量とした。得られた結果を、表1に示す。
電池1−1と同様にして、初回充電時間、初回充放電効率、および初期容量を求めた。得られた結果を表1に示す。
比較電池1は、放電容量、初回充放電効率が電池1−1と同等であった。しかし、比較電池1では、電池1−1と同じ電流値では充電が完了せず、初回充電に多大の時間を要した。これは、初回充電時の反応抵抗が高いためであると考えられる。
また、電池1−2のように、負極活物質が粉末であっても、リチウムを蒸着することによって、電池1−1に負極と同様に、負極活物質にリチウムの拡散経路が形成されると推定される。
次に、酸素のモル比xとリチウムのモル比aの有効な範囲を調べた。この実験は、図2に示されるような蒸着装置を用い、真空チャンバー内に導入する酸素ガスの流量を変化させて、活物質前駆体層における酸素比率を変化させた。
酸素ガスの流量を5sccmに設定したこと以外、電池1−1の場合と同様にして、集電体の両面上に活物質前駆体層を形成し、極板を得た。活物質前駆体層の厚さは10μmとした。なお、本実施例で作製した他の電池の活物質前駆体層の厚さも、10μmとした。酸素ガスを導入した真空チャンバー内の圧力は、8×10−5torrとした。
次いで、得られた極板を、毎分9.7cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着させたこと以外、電池1−1と同様にして、電池2−1を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、12μmであった。なお、正極において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、電池1−1の正極活物質層の厚さの1.2倍とした。
酸素ガスの流量を20sccmに設定したこと以外、電池1−1と同様にして、集電体の両面上に活物質前駆体層を形成し、極板を得た。ここで、酸素ガスを導入した真空チャンバー内の圧力は、1.2×10−4torrとした。
次いで、得られた極板を、毎分8.3cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着させたこと以外、電池1−1と同様にして、電池2−2を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、13μmであった。なお、正極において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、電池1−1の正極活物質層の厚さの1.1倍とした。
酸素ガスの流量を40sccmに設定したこと以外、電池1−1と同様にして、集電体の両面上に活物質前駆体層を形成し、極板を得た。酸素ガスを導入した真空チャンバー内の圧力は、1.4×10−4torrとした。
次いで、得られた極板を、毎分7.1cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着させたこと以外、電池1−1と同様にして、電池2−3を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、14μmであった。
酸素ガスの流量を100sccmに設定したこと以外、電池1−1と同様にして、集電体の両面上に活物質前駆体層を形成し、極板を得た。ここで、酸素ガスを導入した真空チャンバー内の圧力は、2.0×10−4torrとした。
次いで、得られた極板を、毎分3.9cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着させたこと以外、電池1−1と同様にして、電池2−4を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、14μmであった。なお、正極において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、電池1−1の正極活物質層の厚さの0.8倍とした。得られた電池を電池2−4とした。
電子ビームのエミッションを280mAに設定し、酸素ガスの流量を100sccmに設定し、集電体の走行速度を毎分4cmに設定したこと以外、電池1−1と同様にして、活物質前駆体層を集電体の両面に形成し、極板を得た。酸素ガスを導入した真空チャンバー内の圧力は、2.0×10−4torrとした。
次いで、得られた極板を、毎分3.8cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着したこと以外、電池1−1と同様にして、電池2−5を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、13μmであった。なお、正極において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、電池1−1の正極活物質層の厚さの0.6倍とした。
酸素ガスの流量を40sccmに設定したこと以外、電池1−1と同様にして、活物質前駆体層を集電体の両面に形成し、極板を得た。ここで、酸素ガスを導入した真空チャンバー内の圧力は、1.4×10−4torrとした。
次いで、得られた極板を、毎分4.3cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着したこと以外、電池1−1と同様にして、電池2−6を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、15μmであった。
電子ビームのエミッションを260mAに設定し、酸素ガスの流量を100sccmに設定し、集電体の走行速度を毎分3cmに設定したこと以外、電池1−1と同様にして、活物質前駆体層を集電体の両面に形成し、極板を得た。ここで、酸素ガスを導入した真空チャンバー内の圧力は、2.0×10−4torrとした。
次いで、得られた極板を、毎分4.1cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着したこと以外、電池1−1と同様にして、比較電池2−7を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、11μmであった。なお、正極において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、電池1−1の正極活物質層の厚さの0.4倍とした。
酸素ガスの流量を40sccmに設定したこと以外、電池1−1と同様にして、活物質前駆体層を集電体の両面に形成し、極板を得た。ここで、酸素ガスを導入した真空チャンバー内の圧力は、1.4×10−4torrとした。
次いで、得られた極板を、毎分9.1cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着したこと以外、電池1−1と同様にして、比較電池2−8を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、11μmであった。
酸素ガスの流量を40sccmに設定したこと以外、電池1−1と同様にして、活物質前駆体層を集電体の両面に形成し、極板を得た。ここで、酸素ガスを導入した真空チャンバー内の圧力は、1.4×10−4torrとした。
次いで、得られた極板を、毎分3.8cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着したこと以外、電池1−1と同様にして、比較電池2−9を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、16μmであった。
(初回充放電効率および初期容量)
電池2−1〜2−9について、上記電池1−1と同様にして、初回充放電効率および初期容量を求めた。結果を表3に示す。
これらの電池の容量維持率を以下のようして測定した。
周囲温度25℃において、40mAの電流で、電池電圧が4.2Vになるまで充電した。20分間休止した後、充電後の電池を、40mAの電流で、電池電圧が2.5Vに低下するまで放電した。この充放電サイクルを100回繰り返した。初期容量に対する100サイクル目の放電容量の比を百分率値として表した値を容量維持率とした。結果を表3に示す。
一方、電池2−8の結果から、リチウムのモル比aと酸素のモル比xとの差a−xが0.5より小さい場合には、初回充放電効率がやや低下していた。これは、不可逆容量に対してリチウムの補填量が少ないためと推定される。
また、電池2−9の結果から、差a−xが1.1より大きい場合、放電容量が減少した。これは、負極に含まれるリチウム量が多すぎて、正極から充電できる容量が減少したためと推定される。
一方で、酸素のモル比xが高くなるにつれて、初期容量が低下する傾向にあった。また、電池2−7〜2−9の結果から、酸素のモル比xが1.2よりも大きい場合は、初期容量が大幅に低下することがわかった。
また、実施例2で検討したリチウムのモル比aと酸素のモル比xとの関係を、図9にプロットした。図9において、網掛け領域が、モル比aとモル比xの好ましい領域である。
本実施例では、リチウムを蒸着するときの活物質前駆体層の温度を検討した。
まず、図2に示されるような蒸着装置を用い、活物質前駆体層を集電体上に形成した。その後、図4に示されるような蒸着装置を用い、キャンを種々の温度に加熱することにより、活物質前駆体層を加熱した。活物質前駆体層を加熱した状態で、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着して、負極を作製した。このような負極を用いて電池を作製し、その特性を調べることにより、加熱の最適温度を調べた。
キャンの温度を20℃に設定したこと以外は、電池1−1と同様にして、電池3−1を作製した。
キャンの温度を50℃に設定したこと以外は、電池1−1と同様にして、電池3−2を作製した。
キャンの温度を200℃に設定したこと以外は、電池1−1と同様にして、電池3−3を作製した。
キャンの温度を300℃に設定したこと以外は、電池1−1と同様にして、電池3−4を作製した。
ここで、上記電池3−1〜4において用いられている負極活物質を作製するとき、その組成がLi1.4SiO0.6となるように、酸素の流量、シリコンを蒸発させるときのエネルギー、リチウムを蒸発されるときのエネルギー等を調節した。
電池3−1〜4の負極の表面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、リチウムの残渣の量を確認した。結果を表4に示す。
電池3−1〜4の初回充放電効率および初期容量を、電池1−1と同様にして測定した。結果を表4に示す。
なお、活物質前駆体層にリチウムを蒸着したのちに、リチウムを蒸着した活物質前駆体層を加熱する場合でも、加熱温度は、上記と同様に、50〜200℃であることが望ましい。
次に、図2および図4に示されるような蒸着装置を用い、集電体の走行速度を変えて、種々の厚さの活物質前駆体層を形成し、その活物質前駆体層の厚さの有効範囲を調べた。
集電体の走行速度を毎分100cmに設定し、集電体片面あたりの活物質前駆体層の厚さを0.5μmとしたこと以外、電池1−1と同様にして、集電体の両面に活物質前駆体層を形成し、極板を得た。
次いで、得られた極板を、毎分100cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着したこと以外、電池1−1と同様にして、電池4−1を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、0.7μmであった。なお、正極において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、電池1−1の正極活物質層の厚さの1/8倍となるようにした。
集電体の走行速度を毎分2.5cmに設定し、集電体片面あたりの活物質前駆体層の厚さを20μmとしたこと以外、電池1−1と同様にして、活物質前駆体層を集電体の両面に形成し、極板を得た。
次いで、得られた極板を、毎分2.5cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着したこと以外、電池1−1と同様にして、電池4−2を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、27μmであった。なお、正極において、集電体片面当たりの活物質層の厚さは、電池1−1の正極活物質層の厚さの1.2倍となるようにした。
集電体の走行速度を毎分1.7cmに設定して、集電体の片面あたりの活物質前駆体層の厚さを30μmとしたこと以外、電池1−1と同様にして、活物質前駆体層を集電体の両面に形成し、極板を得た。
次いで、得られた極板を、毎分1.7cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着したこと以外、電池1−1と同様にして、電池4−3を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、40μmであった。なお、正極において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、電池1−1の正極活物質層の厚さの1.5倍となるようにした。
集電体の走行速度を毎分1.4cmに設定し、集電体片面あたりの活物質前駆体層の厚さを35μmとしたこと以外、電池1−1と同様にして、活物質前駆体層を集電体の両面に形成し、極板を得た。
次いで、得られた極板を、毎分1.4cmの走行速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着したこと以外、電池1−1と同様にして、電池4−4を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、47μmであった。なお、正極において、集電体片面あたりの厚さは、電池1−1の正極活物質層の厚さの2倍となるようにした。
(初回充放電効率および初期容量)
電池4−1〜4の初回充放電効率および初期容量を、上記電池1−1と同様にして測定した。結果を表5に示す。
電池4−1〜4の容量維持率を上記と同様にして測定した。結果を表5に示す。
なお、表5には、集電体片面あたりの活物質層の厚さも示す。
しかし、特に、電池を薄型にする場合には、有効である。
本実施例では、活物質前駆体層を形成する手段としてスパッタ装置を用いた。
活物質前駆体層を、スパッタ装置((株)アルバック製)の真空チャンバー(図示せず)内に、集電体巻きだし装置、キャン、巻き取り装置等を設けた、図3に示されるようなスパッタ装置を用いて作製した。
この場合にも、活物質前駆体層は、基本的には、上記で説明したようにして作製した。
スパッタガスとして、純度99.999%のアルゴンガス(日本酸素(株)製)を用いた。アルゴン流量は100sccmに設定した。
ターゲット32として、純度99.9999%のシリコン単結晶(信越化学工業(株)製)を用いた。ターゲット32をスパッタするときの、高周波電源31の出力を2kWに設定した。
ここで、アルゴンおよび酸素を導入した真空チャンバー内の圧力は1torrとした。なお、酸素ガスの分圧は、酸素ガスとアルゴンガスの流量のバランスから、0.01torr程度であると推定された。
負極活物質の組成は、上記と同様にして測定したところ、Li1.4SiO0.6であった。
また、電解質として、液体の電解質を用いた。液体の電解質の代わりに、固体電解質やゲル状の電解質を用いても、同様の効果が得られる。なお、ゲル状の電解質は、一般に、液体の電解質とそれを保持するホストポリマーから構成することができる。
特許文献1において、酸化リチウム層は、固相内の酸化還元反応により形成されるため、電池を構成した後に固液界面に生成される酸化被膜と比較して薄い。このため、このような酸化リチウム層では、不可逆容量を十分に低減させることは困難である。
また、特許文献1の負極活物質層は、複雑な酸化還元反応により形成されるために、負極に含まれる酸素量をコントロールすることは困難である。シリコンと反応する酸素量が変化すると、不可逆容量も大きく変化する。さらに、所望とする酸素量が不明確であるので、その酸素量に対して必要なリチウムの量も不明確である。
また、酸化物とリチウムとからなる第二の層を形成する場合においても、酸素量に対して必要とされるリチウムの量が不明確である。
前記活物質層は、一般式:LiaSiOx
(式中、0.5≦a−x≦1.1、0.2≦x≦1.2である。)
で表される活物質を含み、シリコンと酸素とリチウムとを含む活物質が、シリコンと酸素とを含む活物質前駆体を含む層にリチウムを蒸着させて、活物質前駆体とリチウムとを反応させることにより得られるリチウムイオン二次電池用負極に関する。活物質層は、その全体に存在する亀裂を有する。集電体片面あたりの活物質前駆体を含む層の厚さTは、0.5μm≦T≦30μmであることが好ましい。活物質層の厚さは、0.5〜50μmであることが好ましい。
図1の負極は、負極集電体12と、負極集電体12の上に担持された負極活物質層11とを備える。負極活物質層11は、シリコンと酸素とリチウムとを含む負極活物質を含む。負極活物質層は結着剤を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
負極活物質層が亀裂を有していることにより、活物質層と電解質との界面の面積を増大し、電池反応の抵抗を低減させることができる。
すなわち、酸素のモル比xが大きくなると、初回充放電時の効率が下がり、不可逆容量が増大し、電池容量が低下する。そこで、電池容量の低下を回避するために、活物質におけるリチウムのモル比aを増やす必要がある。しかし、モル比aが大きすぎると、正極活物質の種類によっては、充電容量が減少するため、電池容量が減少する。よって、活物質におけるリチウムのモル比aと酸素のモル比xは、上記のような関係を満たす必要がある。
これらの酸化リチウムまたは炭酸リチウムは、電池を組み立てた後に、活物質層と電解質との界面における被膜として機能する。つまり、これらの酸化リチウムまたは炭酸リチウムは、充放電時に電解質の構成成分に由来する被膜が活物質層の表面に生成されることを抑制する効果を有する。
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、例えば、集電体上に活物質前駆体層を形成し、その活物質前駆体層上にリチウムを蒸着させることにより作製することができる。
活物質前駆体層は、例えば、集電体を真空チャンバー内の所定の範囲を連続的に移動させる間に、シリコンの単体を蒸発源として用いるスパッタリング法または蒸着法により、前記シリコンの単体を構成するシリコン原子を、酸素雰囲気を通過させて、前記集電体上に供給する工程を含有する方法によって作製することができる。
蒸発した原子が集電体以外の他の部位に蒸着しないように、蒸発した原子を遮蔽するための遮蔽板28が、ターゲット25とキャン23との間に設けられている。
シリコン原子が通過する領域の酸素濃度は、酸素ガスの流量、真空チャンバー内の減圧速度等をコントロールすることによって調節することができる。このため、活物質前駆体層における酸素のモル比xを変えることができる。活物質前駆体層に含まれる酸素のモル比xは、0.2≦x≦1.2となるように調節される。
なお、活物質前駆体層の形成は、集電体を移動させながら行ってもよいし、集電体が静止した状態で行ってもよい。集電体が静止した状態で活物質前駆体層を形成する場合、まず、集電体の所定の領域に、活物質前駆体層を形成する。その形成が終了したのち、集電体を移動させて、集電体の別の領域に、活物質前駆体層を形成する。このような操作を繰り返して行うことにより、活物質前駆体層を集電体上に形成することができる。
集電体片面あたりの活物質層の厚さは、0.5μm〜50μmであることが好ましい。なお、前記活物質層の厚さは、放電状態での負極活物質層の厚さである。
図3に、活物質前駆体層を作製するために用いられるスパッタ装置の概略図を示す。図3において、図2と同じ構成要素には、同じ番号を付している。また、図2の蒸着装置と同様に、集電体上への活物質層の形成は、真空チャンバー(図示せず)内で行われる。
活物質前駆体層の厚さは、上記と同様に、集電体の移動速度および/またはシリコン原子の堆積速度を変化させることによって変更することができる。なお、上記と同様に、活物質前駆体層は、必ずしも集電体を移動させながら形成する必要はない。
図4に、リチウムを蒸着するために用いられる蒸着装置の概略図を示す。図4において、図2と同じ構成要素には、同じ番号を付している。また、図2の蒸着装置と同様に、リチウムの蒸着は、真空チャンバー(図示せず)内で行われる。
また、リチウムの蒸着量は、集電体の移動速度や、リチウム原子の堆積速度を変化させることによって、変更することができる。
この場合にも、集電体を必ずしも移動させながら、リチウムを堆積させる必要はない。
不活性ガスは、例えば、配管43を用いて、不活性ガスをリチウムターゲット42の近傍に、一定流量で供給される。これにより、リチウムの酸化を防止することができるとともに、不活性ガスをターゲット42と極板41との間に供給することができる。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガスが挙げられる。
(電池1−1)
(i)正極の作製
平均粒径5μmのコバルト酸リチウム(LiCoO2)を100重量部と、導電剤であるアセチレンブラックを3重量部とを混合した。得られた混合物に、結着剤であるポリフッ化ビリニデン(PVdF)のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液を加えて、混合し、ペースト状正極合剤を得た。PVdFのNMP溶液は、PVdFの添加量が4重量部となるように混合した。
この正極合剤を、アルミニウム箔からなる集電体シートの両面に塗着し、乾燥後、圧延して、正極を得た。
負極の作製方法は、後述する。
作製した正極および負極を用いて、図5に示されるような、17500サイズの円筒型電池を作製した。
正極51、負極52、および正極と負極との間に配置されたセパレータ53を、渦巻状に捲回して、極板群を作製した。極板群は、ニッケルメッキした鉄製電池ケース58内に収容した。
アルミニウム製正極リード54の一端を正極51に接続し、正極リード54の他端を正極端子60に接続した。なお、正極端子60は、樹脂製封口板59の中央に取り付けた導電性部材に接合されており、その導電性部材の裏面に正極リード54の他端を接続した。
ニッケル製負極リード55の一端を負極52に接続し、負極リード55の他端を電池ケース58の底部に接続した。
極板群の上部には上部絶縁板56を、下部には下部絶縁板57をそれぞれ配置した。
最後に、封口板59により、電池ケース58の開口部を密封して、電池を完成した。
負極集電体として、幅10cm、厚さ35μm、長さ50mの電解銅箔(古河サーキットフォイル(株)製)を用いた。電解銅箔の表面粗さRaは、1.5μmであった。
酸素雰囲気を構成するガスとしては、純度99.7%の酸素ガス(日本酸素(株)製)を用いた。酸素ガスは、ノズル29から流量60sccmで放出した。なお、ノズル29は、酸素ボンベからマスフローコントローラーを経由して真空チャンバー内に導入された配管に接続した。酸素ガスを導入した真空チャンバー内部の圧力は、1.5×10-4torrとした。
ターゲット25には、純度99.9999%のシリコン単結晶(信越化学工業(株)製)を用いた。
シリコン単結晶を蒸発させ、蒸発したシリコン原子を、酸素雰囲気を通して、集電体上に堆積させて、活物質前駆体層を形成した。
なお、シリコン単結晶のターゲット25に照射される電子ビームの加速電圧を−8kVとし、電子ビームのエミッションを300mAに設定した。
ターゲットには、純度99.97%のリチウム(本荘ケミカル(株)製)を用いた。不活性ガスとしてアルゴンガスを用い、そのアルゴンガスを配管43を通して、流量20sccmで放出した。アルゴンガスを導入した真空チャンバー内部の圧力は、2×10-4torrとした。
最後に、得られた負極板を、所定の大きさに切断して、負極を得た。この得られた負極を負極1とした。
この活物質前駆体層の表面にリチウムを蒸着させて、活物質前駆体とリチウムを反応させると、得られる活物質層の表面において、図7に示すとおり、ブロッコリー状の単位がそれぞれ膨張し、その表面に亀裂が生じる。このように、リチウムは薄膜として存在するのではなく、活物質前駆体との固相反応により、LiaSiOxで表されるような負極活物質が生成される。
リチウムと反応したのちの、前記単位(活物質粒子)の直径の平均の大きさは、1〜30μmであることが好ましい。
同定の結果、銅のみが検出された。また、得られたチャートにおいて、2θが10°から35°にかけて明確なピークが見られなかった。このことから、負極活物質は非晶質であると考えられる。
負極1において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、13μmであった。
次に、シリコンと酸素とを含む活物質前駆体が、粉末である場合について示す。
活物質前駆体粉末(住友チタニウム(株)製のSiO1.1)を75重量部と、導電剤であるアセチレンブラック(AB)を15重量部と、結着剤であるスチレンブタジエンラバー(SBR)の水分散液とを混合して、ペースト状負極合剤を得た。なお、SBRの水分散液は、添加されるSBRの量が10重量部であるように混合した。
この負極合剤を、銅箔からなる集電体シートの両面に塗着し、乾燥した。その後、集電体片面あたりの活物質前駆体を含む合剤層の厚さが30μmとなるように圧延して、極板を得た。
次いで、得られた極板を、毎分4cmの速度で走行させながら、合剤層上にリチウムを蒸着した。こうして、負極板を得た。得られた負極板を所定の大きさに切断して、負極2を得た。
得られた負極2を用いて、電池1−1と同様にして、電池1−2を作製した。正極において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、電池1−1の正極活物質層の0.7倍とした。
負極2において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、33μmであった。なお、この場合、活物質層の厚さは、活物質前駆体を含む合剤層の厚さと比較して、10%程度しか厚くなっていなかった。これは、活物質層に含まれるアセチレンブラックにより、活物質層の膨張が多少緩和されていること、SiOの粉末を用いているため、粉末間の隙間が膨張を緩和していること等が原因として考えられる。
また、合剤層にリチウムを蒸着させた場合でも、リチウムの拡散経路が形成されるとともに、活物質層の全体には亀裂が生じる。
比較として、以下に示す方法で、シリコンと酸素とリチウムとを含む活物質を含む層を集電体上に形成した。
図2に示す蒸着装置を改良し、リチウムターゲットとそれを加熱するためのヒーターをシリコンターゲット25の近傍に設置した装置(図示せず)を用いた。さらに、シリコンの代わりに一酸化シリコン((株)高純度化学研究所製)をターゲットとして用いた。一酸化シリコンに照射する電子ビームの加速電圧を−8kV、エミッションを30mA、リチウムターゲットを加熱するヒーターの出力を40Wに設定し、一酸化シリコンとリチウムを同時に蒸着して、負極3を作製した。このとき、酸素は導入しなかった。ここで、負極3を上記と同様にして分析した結果、負極活物質の組成はLi1.8SiOであった。
また、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、18μmとした。
得られた負極を用いて、電池1−1と同様にして、比較電池1を作製した。
(初回充電時間、初回充放電効率、および初期容量)
電池1−1を、周囲温度25℃において、40mAの電流で、電池電圧が4.2Vになるまで充電した。このときの充電時間(初回充電時間)を測定した。
20分間休止した後、充電後の電池を、40mAの電流で、電池電圧が2.5Vに低下するまで放電した。
このような充放電サイクルを2回繰り返した。
1サイクル目の充電容量に対する1サイクル目の放電容量の割合を百分率値として求めた値を、初回充放電効率とした。2サイクル目の放電容量を初期容量とした。得られた結果を、表1に示す。
電池1−1と同様にして、初回充電時間、初回充放電効率、および初期容量を求めた。得られた結果を表1に示す。
比較電池1は、放電容量、初回充放電効率が電池1−1と同等であった。しかし、比較電池1では、電池1−1と同じ電流値では充電が完了せず、初回充電に多大の時間を要した。これは、初回充電時の反応抵抗が高いためであると考えられる。
また、電池1−2のように、負極活物質が粉末であっても、リチウムを蒸着することによって、電池1−1に負極と同様に、負極活物質にリチウムの拡散経路が形成されると推定される。
次に、酸素のモル比xとリチウムのモル比aの有効な範囲を調べた。この実験は、図2に示されるような蒸着装置を用い、真空チャンバー内に導入する酸素ガスの流量を変化させて、活物質前駆体層における酸素比率を変化させた。
酸素ガスの流量を5sccmに設定したこと以外、電池1−1の場合と同様にして、集電体の両面上に活物質前駆体層を形成し、極板を得た。活物質前駆体層の厚さは10μmとした。なお、本実施例で作製した他の電池の活物質前駆体層の厚さも、10μmとした。酸素ガスを導入した真空チャンバー内の圧力は、8×10-5torrとした。
次いで、得られた極板を、毎分9.7cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着させたこと以外、電池1−1と同様にして、電池2−1を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、12μmであった。なお、正極において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、電池1−1の正極活物質層の厚さの1.2倍とした。
酸素ガスの流量を20sccmに設定したこと以外、電池1−1と同様にして、集電体の両面上に活物質前駆体層を形成し、極板を得た。ここで、酸素ガスを導入した真空チャンバー内の圧力は、1.2×10-4torrとした。
次いで、得られた極板を、毎分8.3cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着させたこと以外、電池1−1と同様にして、電池2−2を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、13μmであった。なお、正極において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、電池1−1の正極活物質層の厚さの1.1倍とした。
酸素ガスの流量を40sccmに設定したこと以外、電池1−1と同様にして、集電体の両面上に活物質前駆体層を形成し、極板を得た。酸素ガスを導入した真空チャンバー内の圧力は、1.4×10-4torrとした。
次いで、得られた極板を、毎分7.1cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着させたこと以外、電池1−1と同様にして、電池2−3を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、14μmであった。
酸素ガスの流量を100sccmに設定したこと以外、電池1−1と同様にして、集電体の両面上に活物質前駆体層を形成し、極板を得た。ここで、酸素ガスを導入した真空チャンバー内の圧力は、2.0×10-4torrとした。
次いで、得られた極板を、毎分3.9cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着させたこと以外、電池1−1と同様にして、電池2−4を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、14μmであった。なお、正極において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、電池1−1の正極活物質層の厚さの0.8倍とした。得られた電池を電池2−4とした。
電子ビームのエミッションを280mAに設定し、酸素ガスの流量を100sccmに設定し、集電体の走行速度を毎分4cmに設定したこと以外、電池1−1と同様にして、活物質前駆体層を集電体の両面に形成し、極板を得た。酸素ガスを導入した真空チャンバー内の圧力は、2.0×10-4torrとした。
次いで、得られた極板を、毎分3.8cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着したこと以外、電池1−1と同様にして、電池2−5を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、13μmであった。なお、正極において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、電池1−1の正極活物質層の厚さの0.6倍とした。
酸素ガスの流量を40sccmに設定したこと以外、電池1−1と同様にして、活物質前駆体層を集電体の両面に形成し、極板を得た。ここで、酸素ガスを導入した真空チャンバー内の圧力は、1.4×10-4torrとした。
次いで、得られた極板を、毎分4.3cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着したこと以外、電池1−1と同様にして、電池2−6を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、15μmであった。
電子ビームのエミッションを260mAに設定し、酸素ガスの流量を100sccmに設定し、集電体の走行速度を毎分3cmに設定したこと以外、電池1−1と同様にして、活物質前駆体層を集電体の両面に形成し、極板を得た。ここで、酸素ガスを導入した真空チャンバー内の圧力は、2.0×10-4torrとした。
次いで、得られた極板を、毎分4.1cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着したこと以外、電池1−1と同様にして、比較電池2−7を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、11μmであった。なお、正極において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、電池1−1の正極活物質層の厚さの0.4倍とした。
酸素ガスの流量を40sccmに設定したこと以外、電池1−1と同様にして、活物質前駆体層を集電体の両面に形成し、極板を得た。ここで、酸素ガスを導入した真空チャンバー内の圧力は、1.4×10-4torrとした。
次いで、得られた極板を、毎分9.1cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着したこと以外、電池1−1と同様にして、比較電池2−8を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、11μmであった。
酸素ガスの流量を40sccmに設定したこと以外、電池1−1と同様にして、活物質前駆体層を集電体の両面に形成し、極板を得た。ここで、酸素ガスを導入した真空チャンバー内の圧力は、1.4×10-4torrとした。
次いで、得られた極板を、毎分3.8cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着したこと以外、電池1−1と同様にして、比較電池2−9を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、16μmであった。
(初回充放電効率および初期容量)
電池2−1〜2−9について、上記電池1−1と同様にして、初回充放電効率および初期容量を求めた。結果を表3に示す。
これらの電池の容量維持率を以下のようして測定した。
周囲温度25℃において、40mAの電流で、電池電圧が4.2Vになるまで充電した。20分間休止した後、充電後の電池を、40mAの電流で、電池電圧が2.5Vに低下するまで放電した。この充放電サイクルを100回繰り返した。初期容量に対する100サイクル目の放電容量の比を百分率値として表した値を容量維持率とした。結果を表3に示す。
一方、電池2−8の結果から、リチウムのモル比aと酸素のモル比xとの差a−xが0.5より小さい場合には、初回充放電効率がやや低下していた。これは、不可逆容量に対してリチウムの補填量が少ないためと推定される。
また、電池2−9の結果から、差a−xが1.1より大きい場合、放電容量が減少した。これは、負極に含まれるリチウム量が多すぎて、正極から充電できる容量が減少したためと推定される。
一方で、酸素のモル比xが高くなるにつれて、初期容量が低下する傾向にあった。また、電池2−7〜2−9の結果から、酸素のモル比xが1.2よりも大きい場合は、初期容量が大幅に低下することがわかった。
また、実施例2で検討したリチウムのモル比aと酸素のモル比xとの関係を、図9にプロットした。図9において、網掛け領域が、モル比aとモル比xの好ましい領域である。
本実施例では、リチウムを蒸着するときの活物質前駆体層の温度を検討した。
まず、図2に示されるような蒸着装置を用い、活物質前駆体層を集電体上に形成した。その後、図4に示されるような蒸着装置を用い、キャンを種々の温度に加熱することにより、活物質前駆体層を加熱した。活物質前駆体層を加熱した状態で、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着して、負極を作製した。このような負極を用いて電池を作製し、その特性を調べることにより、加熱の最適温度を調べた。
キャンの温度を20℃に設定したこと以外は、電池1−1と同様にして、電池3−1を作製した。
キャンの温度を50℃に設定したこと以外は、電池1−1と同様にして、電池3−2を作製した。
キャンの温度を200℃に設定したこと以外は、電池1−1と同様にして、電池3−3を作製した。
キャンの温度を300℃に設定したこと以外は、電池1−1と同様にして、電池3−4を作製した。
ここで、上記電池3−1〜4において用いられている負極活物質を作製するとき、その組成がLi1.4SiO0.6となるように、酸素の流量、シリコンを蒸発させるときのエネルギー、リチウムを蒸発されるときのエネルギー等を調節した。
電池3−1〜4の負極の表面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、リチウムの残渣の量を確認した。結果を表4に示す。
電池3−1〜4の初回充放電効率および初期容量を、電池1−1と同様にして測定した。結果を表4に示す。
なお、活物質前駆体層にリチウムを蒸着したのちに、リチウムを蒸着した活物質前駆体層を加熱する場合でも、加熱温度は、上記と同様に、50〜200℃であることが望ましい。
次に、図2および図4に示されるような蒸着装置を用い、集電体の走行速度を変えて、種々の厚さの活物質前駆体層を形成し、その活物質前駆体層の厚さの有効範囲を調べた。
集電体の走行速度を毎分100cmに設定し、集電体片面あたりの活物質前駆体層の厚さを0.5μmとしたこと以外、電池1−1と同様にして、集電体の両面に活物質前駆体層を形成し、極板を得た。
次いで、得られた極板を、毎分100cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着したこと以外、電池1−1と同様にして、電池4−1を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、0.7μmであった。なお、正極において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、電池1−1の正極活物質層の厚さの1/8倍となるようにした。
集電体の走行速度を毎分2.5cmに設定し、集電体片面あたりの活物質前駆体層の厚さを20μmとしたこと以外、電池1−1と同様にして、活物質前駆体層を集電体の両面に形成し、極板を得た。
次いで、得られた極板を、毎分2.5cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着したこと以外、電池1−1と同様にして、電池4−2を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、27μmであった。なお、正極において、集電体片面当たりの活物質層の厚さは、電池1−1の正極活物質層の厚さの1.2倍となるようにした。
集電体の走行速度を毎分1.7cmに設定して、集電体の片面あたりの活物質前駆体層の厚さを30μmとしたこと以外、電池1−1と同様にして、活物質前駆体層を集電体の両面に形成し、極板を得た。
次いで、得られた極板を、毎分1.7cmの速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着したこと以外、電池1−1と同様にして、電池4−3を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、40μmであった。なお、正極において、集電体片面あたりの活物質層の厚さは、電池1−1の正極活物質層の厚さの1.5倍となるようにした。
集電体の走行速度を毎分1.4cmに設定し、集電体片面あたりの活物質前駆体層の厚さを35μmとしたこと以外、電池1−1と同様にして、活物質前駆体層を集電体の両面に形成し、極板を得た。
次いで、得られた極板を、毎分1.4cmの走行速度で走行させながら、活物質前駆体層上にリチウムを蒸着したこと以外、電池1−1と同様にして、電池4−4を作製した。負極集電体片面あたりの活物質層の厚さは、47μmであった。なお、正極において、集電体片面あたりの厚さは、電池1−1の正極活物質層の厚さの2倍となるようにした。
(初回充放電効率および初期容量)
電池4−1〜4の初回充放電効率および初期容量を、上記電池1−1と同様にして測定した。結果を表5に示す。
電池4−1〜4の容量維持率を上記と同様にして測定した。結果を表5に示す。
なお、表5には、集電体片面あたりの活物質層の厚さも示す。
しかし、特に、電池を薄型にする場合には、有効である。
本実施例では、活物質前駆体層を形成する手段としてスパッタ装置を用いた。
活物質前駆体層を、スパッタ装置((株)アルバック製)の真空チャンバー(図示せず)内に、集電体巻きだし装置、キャン、巻き取り装置等を設けた、図3に示されるようなスパッタ装置を用いて作製した。
この場合にも、活物質前駆体層は、基本的には、上記で説明したようにして作製した。
スパッタガスとして、純度99.999%のアルゴンガス(日本酸素(株)製)を用いた。アルゴン流量は100sccmに設定した。
ターゲット32として、純度99.9999%のシリコン単結晶(信越化学工業(株)製)を用いた。ターゲット32をスパッタするときの、高周波電源31の出力を2kWに設定した。
ここで、アルゴンおよび酸素を導入した真空チャンバー内の圧力は1torrとした。なお、酸素ガスの分圧は、酸素ガスとアルゴンガスの流量のバランスから、0.01torr程度であると推定された。
負極活物質の組成は、上記と同様にして測定したところ、Li1.4SiO0.6であった。
また、電解質として、液体の電解質を用いた。液体の電解質の代わりに、固体電解質やゲル状の電解質を用いても、同様の効果が得られる。なお、ゲル状の電解質は、一般に、液体の電解質とそれを保持するホストポリマーから構成することができる。
Claims (12)
- 集電体と、前記集電体上に担持された活物質層とを具備し、
前記活物質層は、一般式:LiaSiOx
(式中、0.5≦a−x≦1.1、0.2≦x≦1.2である)
で表される活物質を含み、
前記活物質が、シリコンと酸素とを含む活物質前駆体を含む層にリチウムを蒸着させて、前記活物質前駆体と前記リチウムとを反応させることにより得られるリチウムイオン二次電池用負極。 - 前記活物質層が、その全体に亀裂を有する請求項1記載のリチウムイオン二次電池用負極。
- 前記活物質層の表面に酸化リチウムまたは炭酸リチウムが存在する請求項1記載のリチウムイオン二次電池用負極。
- 前記活物質前駆体を含む層の厚さTが、0.5μm≦T≦30μmである請求項1記載のリチウムイオン二次電池用負極。
- 前記活物質層の厚さが、0.5μm〜50μmである請求項1記載のリチウムイオン二次電池用負極。
- 集電体上に、シリコンと酸素とを含む活物質前駆体を含む層を形成する工程(A)、および
前記活物質前駆体を含む層にリチウムを蒸着させて、前記活物質前駆体を含む層とリチウムとを反応させる工程(B)
を含むリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。 - 前記工程(B)において、前記活物質前駆体を含む層にリチウムを蒸着させながら、前記活物質前駆体を含む層を50℃〜200℃に加熱して、前記活物質前駆体とリチウムとを反応させる請求項6記載のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
- 前記工程(B)において、前記活物質前駆体を含む層にリチウムを蒸着させた後に、前記リチウムを蒸着させた活物質前駆体を含む層を50℃〜200℃に加熱して、前記活物質前駆体とリチウムとを反応させる請求項6記載のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
- 前記リチウムの蒸着が、蒸着法またはスパッタ法を用いて行われる請求項6記載のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
- 前記工程(B)において、不活性ガスからなる雰囲気中で、リチウムを、前記活物質前駆体を含む層に蒸着させる請求項6記載のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
- 正極、請求項1記載の負極、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータ、および電解質を具備するリチウムイオン二次電池。
- 集電体と、前記集電体上に担持された活物質層とを具備し、
前記活物質層は、一般式:LiaSiOx
(式中、0.5≦a−x≦1.1、0.2≦x≦1.2である)
で表される、シリコンと酸素とリチウムとを含む活物質を含み、
前記活物質層が、その全体に亀裂を有するリチウムイオン二次電池用負極。
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