JPWO2006106997A1 - 生体試料の解析法及び疾患マーカーの検索法 - Google Patents
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Abstract
Description
核酸、タンパク質、糖鎖などの生体高分子は、多段階MS測定(MSn測定)を行うことによって解析される。多段階MS測定とは、一段目のMS測定で生成した親イオンをプリカーサーイオンに選んで二段目のMS測定を行い、それにより生じたプロダクトイオンからプリカーサーイオンを選んでさらに三段目のMS測定を行う、というように、繰り返しMS測定を行うことをいう。この多段階MS測定によってより詳細な構造情報が得られるが、多段階MS測定を行うためにはプリカーサーイオンが十分に発生することが必要である。
一方、SUGAHARA,D et al.,ANALYTICAL SCIENCE,19,pp.167−169(2003)には、オリゴ糖を蛍光標識し、FP法やELISA法により測定することが記載されている。
また、Brown,C.W,et al.,Analytical Chemistry,Vol.54,No.9,pp.1472(1982)や飯田康夫ら,BUNSEKI KAGAKU,Vol.32,pp.401(1983)には、吸光光度法に関する定量方法が記載されている。
さらに一方、Niclas G.Karlsson et al.,Rapid Communications in Mass Spectrometry,18,pp.2282−2292(2004)には、LC−nano−ESI−MS(ネガティブモード測定)により、中性糖のMS2スペクトルの構造特異性が上がったことが報告されている。
一般に中性糖鎖などの中性分子はポジティブイオンが安定であるため、MS/MS解析には[M+Na]+や[M+H]+をプリカーサーイオンとして解析を行う。しかし、例えば疾患マーカーとして注目されているフコース含有糖鎖をポジティブモードで解析すると、フコースが優先的に脱落したイオンが多く生成する。そして、同じ組成を有する構造異性体間では、同じ組成の(すなわち同じ質量数の)プロダクトイオンがイオン強度のみを異にして生成するために、それらプロダクトイオンを識別することが困難である。このため、正確な構造の同定や、疾患マーカーの検索を行うことができない。
非標識中性糖鎖を、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)によりネガティブイオンを生成させてMS/MSで測定することは公知である。しかしながら、一般にESIでは多価イオンが生成するため解析が複雑になることや、非標識で感度が低いことから、診断に応用するには実用的でない。
一方、ノルハルマンなど特殊なマトリクスを使用したり、或いはHClやH2SO4などの酸性物質を過剰に添加したりすることによって、比較的単純な構造の非標識オリゴ糖について、MALDI質量分析装置によるネガティブイオン測定が試みられてきた。しかし、親イオンとなる[M−H]−、[M+Cl]−、或いは[M+HSO4]−の生成量が少なく、むしろ一部が切断されたイオン種が多く生成されるため感度が低いことや、マトリクスピークと重なってしまうことなどが原因となり、満足な結果は得られなかった。
本発明の目的は、マトリクスに酸性物質を添加せずにネガティブイオンを生成させ、質量分析装置による測定の感度を向上させるとともに、構造特異的なイオンを再現性良く生成させることによって、簡便、迅速に構造情報を得る方法を提供することである。
さらに、本発明の目的は、ネガティブイオンを安定に生成させ、質量分析装置による測定の感度を向上させるとともに、構造特異的なイオンを再現性良く生成させることによって、簡便、迅速に疾患マーカーを検索する方法及び生体分子を含む試料を解析する方法を提供することである。また、本発明の目的は、疾患マーカーを用いて特定の疾患を診断する方法を提供することである。
発明の概要
本発明者らは、糖鎖を標識することによって、マトリクスに酸性物質を添加せずに、容易にネガティブイオンを生成、安定化させ、質量分析装置による測定の感度を向上させることを見いだした。さらに、このようにして生じたネガティブイオンが、MSn解析によって再現性よく構造特異的なイオンを生成させることも見いだし、高感度で、簡便、迅速に構造情報を得る方法を完成させた。
本発明は、まず、以下の<1>〜<19>の発明を含む。
以下の<1>〜<16>の発明は、糖鎖の解析方法に関する。
<1>
糖鎖を含む試料を用意し、
前記糖鎖を、標識化合物を用いて標識を行い、標識糖鎖を得て、
前記標識糖鎖を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブイオンを測定することによって、前記糖鎖の解析を行うことを含む、糖鎖の質量分析方法。
<2>
互いに構造異性体の関係にある糖鎖(A、B、C、…)を含む試料を用意し、
前記糖鎖(A、B、C、…)を、標識化合物を用いて標識を行い、標識糖鎖(A′、B′、C′、…)を得て、
前記標識糖鎖(A′、B′、C′、…)を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブイオンを測定することによって、前記標識糖鎖(A′、B′、C′、…)からそれぞれ特異的に生じるイオン(a、b、c、…)を検出することによって、前記糖鎖(A、B、C、…)を互いに識別することを含む、糖鎖の質量分析方法。
ここで、イオンa、イオンb、イオンc、…はそれぞれ、対応する標識糖鎖から1種又は複数種生じうる。
<3>
前記イオン(a、b、c、…)についてそれぞれ構造解析を行うことによって、前記糖鎖(A、B、C、…)の全体構造又は部分構造をそれぞれ同定する、<2>に記載の質量分析方法。
<4>
複数種の糖鎖の構造異性体がそれぞれ既知混合比で含まれる試料を用意し、
前記複数種の糖鎖の構造異性体を、標識化合物を用いて標識を行い、複数種の標識された構造異性体を得て、
前記複数種の標識された構造異性体を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブイオンを測定し、前記複数種の標識された構造異性体それぞれから特異的に生じるイオンを検出することによって、前記複数種の糖鎖の構造異性体の解析を行うことを含む、糖鎖の質量分析方法。
<5>
前記検出された特異的に生じるイオンについて構造解析を行うことによって、前記複数の糖鎖の構造異性体それぞれの全体構造又は部分構造を同定し、及び/又は、
前記検出された特異的に生じるイオンを、前記複数種の構造異性体の定量のためのイオンとして決定し、前記決定されたイオンのイオン強度と前記既知混合比との関係を見出す、<4>に記載の糖鎖の質量分析方法。
<6>
前記複数種の糖鎖の構造異性体が未知混合比で含まれる試料を用意し、
前記複数の構造異性体を、標識化合物を用いて標識を行い、複数種の標識された構造異性体を得て、
前記複数種の標識された構造異性体を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブイオンを測定し、前記複数種の標識された構造異性体それぞれから特異的に生じるイオンを検出することによって、前記複数種の糖鎖の構造異性体の解析を行うことを含み、
前記検出された特異的に生じるイオンについて構造解析を行うことによって、前記複数の糖鎖の構造異性体それぞれの全体構造又は部分構造を同定し、及び/又は、
前記検出された特異的に生じるイオンのイオン強度から、<5>に記載の方法によって見出された関係に基づいて、前記未知混合比を算出する、糖鎖の質量分析方法。
なお、上記<1>〜<6>の発明においては、糖鎖は既知構造のものであっても未知構造のものであっても良い。以下の<7>〜<9>の発明は、糖鎖が未知構造である場合の具体的な構造の同定法の形態を示したものである。
<7>
(1)構造未知の一種又は複数種の糖鎖を含む試料を用意し、
前記構造未知の糖鎖を、標識化合物を用いて標識を行い、構造未知の標識糖鎖を得て、
前記構造未知の標識糖鎖を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブイオンを測定し、
(2)別途、構造既知の一種又は複数種の糖鎖を含む試料を用意し、
前記構造既知の糖鎖を、標識化合物を用いて標識を行い、構造既知の標識糖鎖を得て、
前記構造既知の標識糖鎖を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブイオンを測定し、
(3)前記(1)で得られた、前記構造未知の標識糖鎖のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報と、前記(2)で得られた、前記構造既知の標識糖鎖のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報との比較を行うことによって、前記構造未知の糖鎖の解析を行うことを含む、糖鎖の質量分析方法。
<8>
前記(3)において、前記構造未知の標識糖鎖のマススペクトルのピーク全体及び/又は前記マススペクトルから得られる情報の全体と、前記構造既知の標識糖鎖のマススペクトルのピーク全体及び/又は前記マススペクトルから得られる情報の全体とが一致することを確認することにより、前記構造未知の糖鎖は、前記構造既知の糖鎖と同じ構造を有すると決定する、<7>に記載の糖鎖の質量分析方法。
<9>
前記(3)において、前記構造未知の標識糖鎖のマススペクトルの特定のピーク及び/又は前記マススペクトルから得られる特定の情報と、前記構造既知の標識糖鎖のマススペクトルの特定のピーク及び/又は前記マススペクトルから得られる特定の情報とが一致することを確認することにより、前記構造未知の糖鎖は、前記構造既知の糖鎖と同じ構造を部分構造として有すると決定する、<7>に記載の糖鎖の質量分析方法。
以下の<10>〜<13>は、標識化合物について記載する。
<10>
前記標識化合物が、芳香族の基本骨格を有する化合物である、<1>〜<9>のいずれかに記載の糖鎖の質量分析方法。
<11>
前記芳香族が、ピレン、ベンゼン、及びピリジンからなる群から選ばれる、<10>に記載の糖鎖の質量分析方法。
<12>
前記標識化合物が、芳香族アミン及び芳香族カルボン酸ヒドラジドからなる群から選ばれる、<1>〜<11>のいずれかに記載の糖鎖の質量分析方法。
<13>
前記標識化合物が、ピレンブタン酸ヒドラジド、アミノピレン、2−アミノピリジン、2−アミノベンゼン、アミノ安息香酸、及びアミノ安息香酸エステルからなる群から選ばれる、<1>〜<12>のいずれかに記載の糖鎖の質量分析方法。
以下の<14>〜<16>は、糖鎖について記載する。
<14>
前記糖鎖が、フコース及び/又は酸性糖を中性化処理して生ぜしめた糖を有する糖鎖である、<1>〜<13>のいずれかに記載の糖鎖の質量分析方法。
<15>
前記糖鎖が、フコース及び/又は酸性糖を有する糖鎖であり、前記標識糖鎖は、前記標識処理と、前記酸性糖の中性化処理とを行うことによって得る、<1>〜<13>のいずれかに記載の糖鎖の質量分析方法。
<16>
前記酸性糖が、シアル酸、硫酸基含有糖、及びリン酸基含有糖からなる群から選ばれる、<14>又は<15>に記載の糖鎖の質量分析方法。
以下の<17>〜<19>の発明は、上記の<1>〜<16>の方法によって得られるデータに関する。
<17>
糖鎖を、標識化合物を用いて標識を行い、標識糖鎖を得て、
前記標識糖鎖を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブイオンを測定することによって得られたマススペクトル。
<18>
<17>に記載のマススペクトルから得られる糖鎖の情報であって、糖鎖の特定の構造異性体から特異的に生じるイオン種の情報及び前記特定の構造異性体の構造情報を含む情報。
<19>
<17>に記載のマススペクトル及び/又は<18>に記載の情報を含むデータ集。
上記<1>〜<19>に記載の本発明によると、マトリクスに酸性物質を添加せずに糖鎖を標識することによって、ネガティブイオンを生成させ、質量分析装置による測定の感度を向上させるとともに、構造特異的なイオンを再現性良く生成させることによって、簡便、迅速に構造情報を得る方法を提供することができる。また、上記<1>〜<19>に記載の本発明によると、構造異性体を有しうる糖鎖が関連する疾患の診断に有用に用いることができる方法を提供することができる。
さらに、本発明者らは、生体分子を標識することによって、容易にネガティブイオンを生成、安定化させ、質量分析装置による測定の感度の感度を向上させることを見いだした。さらに、このようにして生じたネガティブイオンが、MSn解析によって再現性よく構造特異的なイオンを生成させることも見いだし、高感度で、簡便、迅速に疾患マーカーを検索する方法及び生体分子を含む試料を解析する方法を完成させた。
本発明は、さらに以下の<20>〜<32>の発明を含む。
以下の<20>〜<27>は、疾患マーカーの検索法に関する。
<20>
(1)特定の疾患の罹患者に由来する、生体分子Xを含む試料を用意し、
前記生体分子Xを、標識化合物を用いて標識し、標識された生体分子X′を得て、
前記標識された生体分子X′をMALDI質量分析装置によりネガティブイオン測定し、
(2)別途、前記特定の疾患の非罹患者に由来する、生体分子Yを含む試料を用意し、
前記生体分子Yを、標識化合物を用いて標識し、標識された生体分子Y′を得て、
前記標識された生体分子Y′をMALDI質量分析装置によりネガティブイオン測定し、
(3)前記(1)で得られた前記標識された生体分子X′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報と、前記(2)で得られた前記標識された生体分子Y′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報とを比較し、互いに異なるマススペクトルピーク及び/又は情報を見出すことによって、前記特定の疾患の発現に関わる構造の存在を確認する、疾患マーカーの検索法。
<21>
前記見出された異なるマススペクトルピーク又は情報のうち、
質量/電荷において異なり、且つ、前記標識された生体分子X′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報に含まれて、前記標識された生体分子Y′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報には含まれないもの、又は、
同一の質量/電荷であってイオン強度において異なり、且つ、前記標識された生体分子X′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報に、前記標識された生体分子Y′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報よりも強いイオン強度で検出されているものから、前記特定の疾患の発現に関わる構造を解析し、
前記特定の疾患の発現に関わる構造又は前記生体分子Xの構造を疾患マーカーの構造として決定する、<20>に記載の疾患マーカーの検索法。
<22>
前記生体分子が糖鎖である、<20>又は<21>に記載の疾患マーカーの検索法。
<23>
前記特定の疾患が癌であり、前記生体分子がフコース及び/又はシアル酸含有糖鎖又は血液型抗原である、<20>〜<22>のいずれかに記載の疾患マーカーの検索法。
<24>
前記特定の疾患が自己免疫疾患に起因し且つ血液型と相関を示す疾患であり、前記生体分子がフコース及び/又はシアル酸含有糖鎖又は血液型抗原である、<20>〜<22>のいずれかに記載の疾患マーカーの検索法。
<25>
前記特の疾患が心臓疾患又は高コレステロール血症であり、前記生体分子がフコース及び/又はシアル酸含有糖鎖又は血液型抗原である、<20>〜<22>のいずれかに記載の疾患マーカーの検索法。
<26>
前記標識化合物が、ピレン誘導体、ベンゼン誘導体、及びピリジン誘導体からなる群から選ばれる、<20>〜<25>のいずれかに記載の疾患マーカーの検索法。
<27>
前記標識化合物が、ピレンブタン酸ヒドラジド、アミノピレン、2−アミノピリジン、2−アミノベンゼン、アミノ安息香酸、及びアミノ安息香酸エステルからなる群から選ばれる、<20>〜<26>のいずれかに記載の疾患マーカーの検索法。
以下の<28>〜<30>は、生体分子を含む試料の解析法に関する。
このうち、<28>及び<29>は、質量分析を用いた試料の解析法に関する。
<28>
被験者に由来する、生体分子Zを含む試料を用意し、
前記生体分子Zを、標識化合物を用いて標識し、標識された生体分子Z′を得て、
前記標識された生体分子Z′をMALDI質量分析装置によりネガティブイオン測定し、
疾患マーカーのマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報を指標として、得られた前記標識された生体分子Z′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報から、前記被験者における特定の疾患の発現の有無又は前記発現の程度を判断する、生体分子を含む試料の解析法。
<29>
(1)被験者に由来する、生体分子Zを含む試料を用意し、
前記生体分子Zを、標識化合物を用いて標識し、標識された生体分子Z′を得て、
前記標識された生体分子Z′をMALDI質量分析装置によりネガティブイオン測定し、
(2)別途、疾患マーカーを用意し、
前記疾患マーカーを、標識化合物を用いて標識し、標識された疾患マーカーを得て、
前記標識された生体分子Z′をMALDI質量分析装置によりネガティブイオン測定し、
(3)前記(1)で得られた前記標識された生体分子Z′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報と、前記(2)で得られた疾患マーカーのマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報とを比較し、前記被験者における特定の疾患の発現の有無又は前記発現の程度を判断する、生体分子を含む試料の解析法。
上記<28>及び<29>の生体分子を含む試料の解析法における疾患マーカーとしては、上記<20>〜<27>のいずれかに記載の方法によって見出された疾患マーカー、又は下記<31>又は<32>に記載の疾患マーカーを用いることができる。
<30>
被験者に由来する、生体分子を含む試料を用意し、<20>〜<27>のいずれかに記載の方法によって見出された疾患マーカーを用いて、前記被験者における特定の疾患の発現の有無又は前記発現の程度を判断する、生体分子を含む試料の解析法。
上記<30>の生体分子を含む試料の解析法における疾患マーカーとしては、下記<31>又は<32>に記載の疾患マーカーを用いることができる。
以下の<31>及び<32>は、疾患マーカーに関する。
<31>
<20>〜<27>のいずれかに記載の方法によって見出された疾患マーカーであって、フコース及び/又はシアル酸を含む糖鎖構造を有するマーカー。
<32>
<20>〜<27>のいずれかに記載の方法によって見出された疾患マーカーであって、血液型抗原糖鎖構造を有する疾患マーカー。
さらに本発明は、以下の<33>〜<35>の、疾患の診断法に関する発明も含む。
このうち、<33>及び<34>は、質量分析を用いた疾患の診断法に関する。
<33>
被験者に由来する、生体分子Zを含む試料を用意し、
前記生体分子Zを、標識化合物を用いて標識し、標識された生体分子Z′を得て、
前記標識された生体分子Z′をMALDI質量分析装置によりネガティブイオン測定し、
疾患マーカーのマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報を指標として、得られた前記標識された生体分子Z′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報から、前記被験者における特定の疾患の発現の有無又は前記発現の程度を判断することによって、前記特定の疾患の罹患の有無、進行度、及び/又は前記特定の疾患に対する治療成果の程度を診断する、疾患の診断法。
<34>
(1)被験者に由来する、生体分子Zを含む試料を用意し、
前記生体分子Zを、標識化合物を用いて標識し、標識された生体分子Z′を得て、
前記標識された生体分子Z′をMALDI質量分析装置によりネガティブイオン測定し、
(2)別途、疾患マーカーを用意し、
前記疾患マーカーを、標識化合物を用いて標識し、標識された疾患マーカーを得て、
前記標識された生体分子Z′をMALDI質量分析装置によりネガティブイオン測定し、
(3)前記(1)で得られた前記標識された生体分子Z′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報と、前記(2)で得られた疾患マーカーのマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報とを比較し、前記被験者における特定の疾患の発現の有無又は前記発現の程度を判断することによって、前記特定の疾患の罹患の有無、進行度、及び/又は前記特定の疾患に対する治療成果の程度を診断する、疾患の診断法。
上記<33>及び<34>の診断法における疾患マーカーとしては、上記<20>〜<27>のいずれかに記載の方法によって見出された疾患マーカー、又は上記<31>又は<32>に記載の疾患マーカーを用いることができる。
<35>
被験者に由来する、生体分子を含む試料を用意し、<20>〜<27>のいずれかに記載の方法によって見出された疾患マーカーを用いて、前記被験者における特定の疾患の発現の有無又は前記発現の程度を判断することによって、前記特定の疾患の罹患の有無、進行度、及び/又は前記特定の疾患に対する治療成果の程度を診断する、疾患の診断法。
上記<35>の生体分子を含む試料の解析法における疾患マーカーとしては、上記<31>又は<32>に記載の疾患マーカーを用いることができる。
上記<20>〜<35>に記載の本発明によると、生体分子を標識することによって、容易にネガティブイオンを生成、安定化させ、質量分析装置による測定の感度の感度を向上させるとともに、構造特異的なイオンを再現性良く生成させることによって、簡便、迅速に疾患マーカーを検索する方法及び生体分子を含む試料を解析する方法を提供することができる。また、本発明により得られた疾患マーカーを用いて特定の疾患を診断する方法を提供することができる。
図2は、ピレン標識MFLNH−IのネガティブイオンMS2スペクトル(a)、ピレン標識MFLNH−IIのネガティブイオンMS2スペクトル(b)、及び、ピレン標識MFLNH−IIIのネガティブイオンMS2スペクトル(c)である。
図3は、ピレン標識MFLNH−IのポジティブイオンMS2スペクトル(a)、ピレン標識MFLNH−IIのポジティブイオンMS2スペクトル(b)、及び、ピレン標識MFLNH−IIIのポジティブイオンMS2スペクトル(c)である。
図4は、ピレン標識MFLNH−IIのネガティブイオンMS3スペクトル(a)、及び、ピレン標識MFLNH−IIIのネガティブイオンMS3スペクトル(b)である。
図5は、アミド化シアル酸を含有するピレン標識糖鎖のネガティブイオンMS2スペクトル(a)、及び、非アミド化シアル酸を含有するピレン標識糖鎖のネガティブイオンMS2スペクトル(b)である。
図6は、ピレン標識MFLNH−Iとピレン標識MFLNH−IIIとを10:0の割合で含む試料のネガティブイオンMS2スペクトル(a)、8:2の割合で含む混合試料のネガティブイオンMS2スペクトル(b)、及び、6:4の割合で含む混合試料のネガティブイオンMS2スペクトル(c)である。
図7は、ピレン標識MFLNH−Iとピレン標識MFLNH−IIIとを4:6の割合で含む試料のネガティブイオンMS2スペクトル(d)、2:8の割合で含む混合試料のネガティブイオンMS2スペクトル(e)、及び、0:10の割合で含む混合試料のネガティブイオンMS2スペクトル(f)である。
まず、上記<1>〜<19>の本発明について、以下に説明する。
本発明では、糖鎖を含む試料を用意し、糖鎖を標識化合物で標識し、標識糖鎖を質量分析によりネガティブイオン測定する。より詳しくは、本発明では、中性糖鎖を標識して標識糖鎖を得て、標識糖鎖を質量分析装置でネガティブイオン測定する場合;酸性糖鎖を中性化処理して得た中性糖鎖を用意し、中性糖鎖を標識して標識糖鎖を得て、標識糖鎖をネガティブイオン測定する場合;及び、酸性糖鎖を標識し、その後、糖鎖中の酸性糖を中性化処理して標識糖鎖を得て、標識糖鎖をネガティブイオン測定する場合を含む。
以下、本発明について詳述する。
<糖鎖を含む試料の用意>
本発明において糖鎖と記載するときは、主として糖鎖(オリゴ糖、多糖)をいうが、便宜上、単糖も含めた糖類全般をいうものとする。また、中性糖鎖とは、電荷を持たない糖鎖をいう。
本発明の糖鎖は、天然に存在する糖鎖でも、化学的或いは酵素学的手法により調製された糖鎖でも良く、その構造については既知及び未知を問わない。従って、「糖鎖を含有する試料」の具体例としては、生体由来試料(例えば細胞、組織、分泌液、体液など)から糖鎖が含まれる画分を調製した試料や、化学合成や酵素合成などによって得られた構造既知の標品を含有する試料などが挙げられる。
化学的或いは酵素学的手法により調製された糖鎖としては、複合糖質から遊離させて得られたもの、酸性糖鎖を中性化して得られたものなどが含まれる。
上記複合糖質としては、糖タンパク質や糖脂質などが挙げられる。質量分析したい試料にこのような複合糖質が含まれている場合は、予め糖鎖部分を複合糖質から化学的手法又は酵素学的手法を用いて遊離させる処理を行うことによって、本発明の試料を調製する。
上記の糖鎖を遊離する処理によって酸性糖鎖を生じる場合など、質量分析したい試料に酸性糖鎖が含まれている場合は、糖鎖中の酸性糖残基に対して中性化処理を行う。酸性糖残基の中性化処理は、標識の前の段階で行っても良いし、標識の後、質量分析の前に行っても良い。上記酸性糖鎖としては、シアル酸、硫酸基含有糖、リン酸基含有糖などの酸性糖を構成糖として含むものなどが挙げられる。酸性糖鎖の中性化の方法としては、シアル酸、硫酸基、リン酸基などの修飾又は遊離を、化学的又は酵素学的に行う方法などが挙げられる。
解析すべき糖鎖の具体例としては、Asnに結合したN−結合型糖鎖母核構造(高マンノース型、ハイブリッド型、複合型)やThr/Serに結合したO−結合型糖鎖母核構造、およびそれらの母核構造に、さらに糖鎖が直鎖状にあるいは分岐して伸長した糖鎖などが挙げられる。
また、生物活性を持つ糖鎖は、上記母核構造から伸長した側鎖部分として、Galβ1−3GlcNAc、Galβ1−4GlcNAc、GlcNAcβ1−6(GlcNAcβ1−3)Gal、GalNAcβ1−4Gal、GlcNAcα1−4Gal、GalNAcβ1−4GlcNAc、Galα1−3Gal、GalNAcα1−3Gal、Fucα1−2Gal、Fucα1−3GlcNAc、Fucα1−4GlcNAc、Fucα1−6GlcNAcなどの糖鎖、及びこれらが組み合わされた糖鎖などを有する。
特に、本発明の実用的な例においては、特定の疾患に関連する糖鎖が解析対象となる。
特定の疾患に関連する糖鎖として、フコースを含有する糖鎖、フコース及び/又は上記の酸性糖(特にシアル酸)を含む糖鎖などが挙げられる。フコースを含有する糖鎖は、そのまま本発明の標識及び質量分析の工程に供される。酸性糖を含む糖鎖は、上述のように、標識の前に中性化処理を行い、本発明の標識及び質量分析の工程に供されるか、又は、標識の後に酸性糖残基の中性化処理を行い、質量分析の工程に供される。
特定の疾患に関連する糖鎖としては、具体的には、ABO式血液型抗原やLewis式血液型抗原がある。Lewis式血液型抗原には、シアル酸が結合したものがある。これら糖鎖抗原は様々な生物活性や疾患に関与している。これらの糖鎖(フコース及び/又はシアル酸を含む糖鎖、又は血液型抗原糖鎖)は血球表面だけでなく上皮組織や分泌液中の糖鎖、糖脂質、糖タンパク質などにも発現し、炎症性疾患、自己免疫性疾患、アレルギー性疾患、ウイルス性疾患、癌性疾患、感染性疾患、心臓疾患、高コレステロール血症等と重要な関係にある。
例えば、コレラ菌、サルモネラ菌、ヘリコバクターピロリ菌、カンピロバクター菌、インフルエンザウイルス、ノーウォークウイルス、リノウイルス、エコウイルスなどの感染症で、血液型との相関が報告されている。ここに挙げた例を含め、多くの病原性微生物と、フコース及び/又はシアル酸を含む糖鎖や血液型抗原糖鎖との直接の相互作用が確認されている。
大腸癌、胃癌、膀胱癌、肺癌、乳癌、肝癌、膵癌などの癌でも、フコース及び/又はシアル酸を含む抗原や血液型抗原の発現変化が認められている。その発現変化は前癌状態から起こり、病気の進行や治療と密接に関連し、病態と高い相関がある。
また、心臓疾患のリスクも血液型と相関する。血中コレステロールやLDL値、血圧が血液型と相関することや、血液凝固因子の活性が血液型抗原によって影響することが要因であるとされる。
さらに、特定疾患が自己免疫疾患に起因しており且つ血液型と相関があるとされている疾患の例として、小児脂肪症、インスリン非依存型糖尿病、グレーブス病、硬直性脊椎症などが挙げられる。
特定の疾患に関連する糖鎖であるがフコースを含有しない糖鎖としては、GalNAcβ1−4GlcNAcが挙げられる。この糖鎖は、下垂体ホルモンに見いだされ、血中クリアランスの調節を担っていることや、乳癌でこの構造の存在量が低下することが報告されている。一方、GlcNAcα1−4Galを含む糖鎖はピロリ菌の増殖阻害活性があることが示されている。
そのほかにも、発生や分化の特定の段階でフコース及び/又はシアル酸を含む様々な抗原が発現することが明らかになっており、細胞の機能発現に重要であると思われる。
<標識化合物を用いた糖鎖の標識>
本発明において「標識化合物」とは、自身が糖鎖に結合することによって、質量分析測定において糖鎖からネガティブイオンを発生させることができる化合物である。標識化合物は、糖鎖と共有結合できる反応基と、光を吸収あるいは蛍光を発する分子骨格とを有する。
具体的には、芳香族の基本骨格を有する化合物が標識化合物として挙げられる。芳香族の基本骨格としては特に限定されず、例えばピレン、ベンゼン、ピリジンなどが挙げられる。より具体的には、芳香族アミン、芳香族カルボン酸ヒドラジドなどの芳香族化合物誘導体が標識化合物として挙げられる。例えば、ピレンブタン酸ヒドラジド(pyrenebutanoic acid hydrazide(PBH))、アミノピレン、2−アミノピリジン、2−アミノベンゼン、アミノ安息香酸およびアミノ安息香酸のエステル体などが挙げられる。これら標識化合物のうちでも、本発明においては、好ましくは、2−アミノピリジンまたはPBH、最も好ましくは、PBHを用いる。
標識の方法としては特に限定されず、例えば従来から行われてきたピリジルアミノ化法などの標識法を適用又は適宜応用することができる。
例えば上に挙げた標識化合物のうち、PBH以外については、乾固した糖鎖に対して標識化合物を酸の存在下で反応させ、その後、還元剤を用いて還元することによって行うことができる。試薬、溶媒、反応温度、反応時間などの条件は特に限定されず、当業者が適宜決定することができる。従って、反応条件の例としては、上記酸として塩酸や酢酸など;還元剤としてNaBH3CN、NaBH4など;溶媒してメタノールなどを用いることができ、反応温度として約80〜90℃;反応時間として、糖鎖と標識化合物との反応で約10〜60分、還元反応で約10〜60分とすることができる。このように還元を行うことは、糖鎖の標識が安定し、後に記載する質量分析において親イオンのイオン強度が大きくなるので、多段階MS測定の感度という観点から好ましい。
上に例示した標識化合物のうちPBHを用いる場合については、上記還元剤は必ずしも必要とはしない。
還元を用いない場合は、乾固した糖鎖に対して標識化合物を酸の存在下で反応させ、その後、中和を行い、標識糖鎖を抽出することができる。この場合の具体的な方法の一例は、D.SUGAHARA,J.AMANO,and T.IRIMURA,ANALYTICALSCIENCE,19,167−169(2003)に記載されている。
還元剤を用いる場合は、前記中和を行った後、還元剤溶液を加え、室温〜40℃で10〜60分程度反応させることができる。この場合、新たに還元剤溶液を加え、同様に反応を行うとより好ましい。
以上のようにして、標識糖鎖を得る。
<質量分析による測定及び糖鎖の解析>
得られた標識糖鎖をマトリクス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析装置によりネガティブモードで測定する。
マトリクスとしては、α−シアノ−4−ヒドロキシケイヒ酸、ノルハルマン、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)などが使用される。
本発明においては、好ましくは、マトリクスとしてDHBAを使用し、四重極イオントラップ(QIT)及び飛行時間型(TOF)を組み合わせたMALDI−QIT−TOF型質量分析装置を用いて測定が行われる。
質量分析装置を用いた測定法としては、PSD測定、ISD測定、MSn測定(多段階MS測定;タンデムマス測定を含む)などの方法が用いられる。
なお、本明細書においては、質量分析装置によって行われる測定の1回目をMS測定とし、MS測定において得られたスペクトルのイオンピークから特定のイオン(分子量関連イオンなど)を選択し、選択された特定のイオンをプリカーサーイオンとして2回目の測定を行うことをMS2測定(MS/MS測定)とし、MS2測定(MS/MS測定)を行うことによる解析をMS2解析(MS/MS解析;タンデムマス解析)と表記する。同様に、MSn−1測定において得られたスペクトルのイオンピークから特定のイオンを選択し、選択された特定のイオンをプリカーサーイオンとしてn回目の測定を行うことをMSn測定とし、MSn測定を行うことによる解析をMSn解析と表記する。
糖鎖の解析は、測定されたマススペクトルのネガティブイオンの質量数及び相対強度に基づいて行う。本発明において、糖鎖の解析には、構造解析及び定量解析を含む。構造解析には、検出されたイオン種の帰属;糖鎖の特定の構造異性体から特異的に生じるイオン種の検出及び帰属(構造異性体の識別);特定の糖の結合位置の同定;糖鎖の部分構造の同定;糖鎖の全体構造の同定などが含まれる。定量解析には、特定の糖鎖の定量を行うことができるイオン種、又は糖鎖の特定の構造異性体から特異的に生じるイオン種の検出、及び、当該イオン種のイオン強度と試料中における相対量との関係の導出;特定の糖鎖又は糖鎖の特定の構造異性体の定量を行うことなどが含まれる。
糖鎖には、分子量が同じで且つ単糖組成が同じである構造異性体が複数存在し得る。上述した特定の疾患に関連する糖鎖なども、構造異性体が存在しうる糖鎖である。例えば糖鎖にフコースが1個結合している場合、フコースの1個の結合位置(すなわち、糖鎖中の、フコースが結合している糖残基の位置)につき少なくとも4種類の結合様式(すなわち、1−2、1−3、1−4、及び1−6グルコシド結合)の可能性がある。このように結合様式と結合位置との組み合わせを考慮すると、かなりの数の構造異性体が候補になる。もし、結合しているフコースの数が2個になれば、さらにその組み合わせは増えることになる。
本発明は、特に、糖鎖がこのような構造異性体を有しうる場合に有用に用いることができる。なお、本発明において複数の構造異性体を解析対象とする場合、それぞれの構造異性体は別々の独立した試料中に含まれていても良いし、複数の構造異性体が同じ試料中に含まれていても良い。いずれの場合も、以下に記載するように、互いの構造異性体を識別するとともにそれら構造異性体の解析を行うことが可能である。
例えば、前記糖鎖として、互いに構造異性体の関係にある糖鎖(A、B、C、…)を解析対象とする場合、以下のように構造解析を行うことができる。
前述と同様に、前記の標識化合物を用いて標識を行うことによって、糖鎖(A、B、C、…)から標識糖鎖(A′、B′、C′、…)をそれぞれ得る。
前述と同様に、質量分析装置でネガティブイオンを測定する。
ネガティブイオンのMS測定を行うことによって、それぞれの構造異性体から同一の(m/z)値を有する分子イオンが生じる。さらにその分子イオンをプリカーサーイオンとしてMS/MS(又はMS3以上の多段階MS)測定すると、それぞれの構造異性体について特異的なイオン(a、b、c、…)が検出される。ここで、特異的なイオンは、1種の構造異性体から1種又は複数種生じうる。すなわち、標識された糖鎖A′からは1種又は複数種のプロダクトイオンaが生じ、標識された糖鎖B′からは1種又は複数種のプロダクトイオンbが、標識された糖鎖C′からは1種又は複数種のプロダクトイオンcが、というように、それぞれの標識された糖鎖から特異的にプロダクトイオンが生じる。
このようなプロダクトイオンを検出することによって、構造異性体(A、B、C、…)は互いに識別が可能になる。
より具体的に、前記糖鎖として、互いに構造異性体の関係にある糖鎖Aと糖鎖Bとの2種の糖鎖を解析対象とする場合、以下のように構造解析を行うことができる。
前述と同様に、前記の標識化合物を用いて標識を行うことによって、糖鎖Aからは標識された糖鎖A′を、糖鎖Bからは標識された糖鎖B′を得る。
前述と同様に、質量分析装置でネガティブイオンを測定する。
ネガティブイオンのMS測定を行うことによって、それぞれの構造異性体からは同一の(m/z)値を有する分子イオンが生じる。この分子イオンをプリカーサーイオンとしてMS/MS(又はMS3以上の多段階MS)測定すると、それぞれの構造異性体について特異的なイオンが検出される。標識された糖鎖A′からは1種又は複数種のプロダクトイオンaが生じ、標識された糖鎖B′からは1種又は複数種のプロダクトイオンbが生じるとすれば、プロダクトイオンaとbとの関係は以下のようになる。すなわち、標識された糖鎖A′からはプロダクトイオンbの少なくとも1つは生じず、標識された糖鎖B′からはプロダクトイオンaの少なくとも1つは生じず;なお且つ、プロダクトイオンaとプロダクトイオンbとは質量数の組み合わせが異なる。このように、ネガティブイオンは微細な構造の差異を反映して生じる。このため、従来は質量分析では不可能であった構造異性体の識別を簡単に行うことが可能となる。
なお、本発明においてMSn解析を用いる場合は、通常、MS2解析によってこの特異的なイオンを検出することができるが、場合により、MS3解析或いはさらなるMSn解析を行うことによって、新たに特異的なイオンが検出されることもある。このように、より多くの特異的なイオンを検出することによって、より詳細な情報を得ることも好ましい。
そして、構造異性体を識別するとともに、検出されたイオンの情報から構造異性体の構造の一部又は全体を同定することができる。特に、構造異性体から特異的に生じたイオンを解析することは、糖鎖の中で、抗原の決定基となる構造や機能発現に鍵となる構造などの最小構造といった、重要な部分構造の決定に寄与することがある。もちろん、このような特異的なイオンについてだけでなく、構造異性体に共通して検出されるイオンの解析などをあわせて行い、構造異性体の全体構造を同定することも可能である。
以下に、試料に複数種の糖鎖が含まれている場合についてより詳しく説明する。
多くの場合、生体試料は多様な糖鎖の混合物である。試料中に含まれている複数の糖鎖が、互いに分子量が異なる糖鎖である場合は、容易に解析を行うことが可能である。たとえば、複数種のフコース含有糖鎖が試料中に含まれている場合で、ある糖鎖にはフコースが1残基結合しており、他の糖鎖にはフコースが2残基結合しているとする。このように、フコース結合数が互いに異なる糖鎖は、分子量が互いに異なるため、質量分析により容易に識別、同定及び定量することが可能である。
しかし、すでに述べたように、糖鎖には、分子量が同じで且つ単糖組成が同じである構造異性体が複数存在し得る。本発明は、特に、試料に含まれている複数種の糖鎖が互いに構造異性体の関係にあるときに有用に用いられる。本発明の方法において、測定試料中の他の分子の存在は、特定の構造異性体から特定のプロダクトイオンが特異的に生じる現象に影響を与えるものではない。すなわち、個々の構造異性体について独立して特異的にイオン化が起こる。従って、この場合も、上述した方法に基づいて解析を行えばよい。すなわち、特定の構造異性体から特異的に生じるプロダクトイオンを検出すれば、構造異性体の同定とともに定量が可能である。
例えば、以下の方法で解析を行うことができる。なお、以下に記載する解析方法の例では定量方法について記載しているが、特定の構造異性体から特異的に生じるプロダクトイオンの情報を主に用いることによって、糖鎖の全体構造又は部分構造の同定ができることは上述の通りである。
複数種の糖鎖の構造異性体がそれぞれ既知混合比で含まれる試料を用意する。
前述と同様に、複数数の糖鎖を、前記の標識化合物を用いて標識を行い、複数種の標識された構造異性体を得る。
前述と同様に、質量分析装置でネガティブイオンを測定する。
質量分析測定によって、複数種の標識された構造異性体それぞれについて特異的なイオンを検出する。本発明によって得られる、構造異性体について特異的なイオンによって、複数種の構造異性体の識別が可能になる。
なお、上述したように、本発明においてMSn解析を用いる場合は、通常、MS2解析によって特異的なイオンを検出することができるが、場合により、MS3解析或いはさらなるMSn解析を行うことによって、より多くの特異的なイオンを検出してより詳細な情報を得ることも好ましい。
すでに述べたように、本発明においては、測定試料中の他の分子の存在は、特定の構造異性体から特定のプロダクトイオンが特異的に生じる現象に影響を与えるものではない。従って、検出された特異的なイオンはそれぞれ、試料中に含まれていた構造異性体の混合比を反映したイオン強度比で検出される。このことに基づいて、構造異性体から特異的に生じるイオンを、構造異性体の定量のためのイオンとして用いることができる。
従って、定量解析においては、具体的には、構造異性体から特異的に生じたイオンを構造異性体の定量のためのイオンとして決定し、試料中に含まれていた複数の構造異性体の既知混合比に基づいて、定量のためのイオンのイオン強度と既知混合比との関係を見出すことができる。例えば、試料中における構造異性体Xと構造異性体Yとが前記の既知混合比と同じ比で含まれていれば、構造異性体Xから生じた特定のイオンxと構造異性体Yから生じた特定のイオンyとの強度比は常に同じであり;試料中における構造異性体Xの、構造異性体Yに対する相対量が変化すれば、イオンxの、イオンyに対する相対イオン強度は、相対混合量の変化した倍率に比例して変化する、という関係を見出すことができる。
このように、定量のためのイオンの決定及びそのイオン強度と構造異性体の試料中存在比との関係を見出すことにより得られた当該イオンの情報は、複数の構造異性体が試料中に未知混合比で存在する場合の定量解析に有用に用いられる。例えば、以下のようにして未知混合比を算出することができる。
複数種の糖鎖の構造異性体が未知混合比で含まれる試料を用意する。
前述と同様に、複数の構造異性体を、標識化合物を用いて標識を行い、複数種の標識された構造異性体を得る。
前述と同様に、質量分析装置でネガティブイオンを測定する。
複数種の標識された構造異性体それぞれについて特異的なイオンを検出する。これにより検出されたイオンと前記定量のためのイオンとで質量数が同じもの同士を比較して、前述の方法によって見出された、定量のためのイオンのイオン強度と試料中混合比との関係に基づいて、検出されたイオンのイオン強度から未知混合比を算出する。
以上のようにして、複数の糖鎖の構造異性体について定量を行うことができる。
なお、本発明における未知構造の糖鎖について構造の同定を行う場合は、例えば、前記未知構造の糖鎖について本発明の方法に従って質量分析結果を得て、この質量分析結果と既知構造の糖鎖の質量分析結果とを比較することで行うことができる。以下に、このようにして構造の同定を行う形態の例を示すが、ここに示す形態には、すでに述べたような、複数種の糖鎖の構造異性体を解析対象にする場合も含まれる。
(1)構造未知の糖鎖を含む試料を用意する。
前記構造未知の糖鎖を、標識化合物を用いて標識し、構造未知の標識糖鎖を得る。
前記構造未知の標識糖鎖を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブモードで測定する。
(2)別途、構造既知の糖鎖を含む試料を用意する。
前記構造既知の糖鎖を、標識化合物を用いて標識し、構造既知の標識糖鎖を得る。
前記構造既知の標識糖鎖を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブモードで測定する。
(3)前記(1)で得られた、前記構造未知の標識糖鎖のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報と、前記(2)で得られた、前記構造既知の標識糖鎖のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報との比較を行う。
ここで、マススペクトルから得られる情報には、プロダクトイオンそのものの構造情報、そのプロダクトイオンを生じるフラグメンテーションが起こったプリカーサーイオン上の位置、及び遊離した中性分子に関する推定情報、これらの情報の組み合わせにより導き出される情報などが含まれる。
前記(3)の工程において、前記構造未知の標識糖鎖のマススペクトルのピーク全体及び/又は前記マススペクトルから得られる情報の全体と、前記構造既知の標識糖鎖のマススペクトルのピーク全体及び/又は前記マススペクトルから得られる情報の全体とが一致すれば、前記構造未知の糖鎖は、前記構造既知の糖鎖と同じ構造を有すると決定することができる。
なお、マススペクトルの全体という場合は、比較の対象となるピークが、少なくとも、主要なピーク(すなわちある程度のイオン強度で検出されたピーク)及び/又は糖鎖の全体構造解析に不可欠なピークを含んでいれば良い。また、マススペクトルから得られる情報の全体という場合は、比較の対象となる情報が、少なくとも、糖鎖の全体構造に不可欠な情報を含んでいれば良い。
また、一致という場合は、生成したイオンの質量数やイオン強度を比較する場合は、質量分析装置の測定範囲内の誤差が許容される。また、糖鎖配列や糖鎖上の位置など、構造に関する情報を比較する場合は、完全一致が求められる。
上述の方法では、糖鎖全体の構造を決定することができる。しかしながら、構造未知の糖鎖は極めて多種多様な構造をとる一方で、標準物質として入手できる構造既知の糖鎖の種類は限られている。また、糖鎖の全体構造を明らかにしなくても、糖鎖の中で、抗原の決定基となる構造や機能発現に鍵となる構造などの最小構造を決定するだけで良い場合もある。このような部分構造を決定することは重要である。本発明においては、次のようにして、部分構造を決定することができる。
すなわち、前記(3)の工程において、前記構造未知の標識糖鎖のマススペクトルの特定のピーク及び/又は前記マススペクトルから得られる特定の情報と、前記構造既知の標識糖鎖のマススペクトルの特定のピーク及び/又は前記マススペクトルから得られる特定の情報とが一致すれば、前記構造未知の糖鎖と前記構造既知の糖鎖とは、その構造の特定の部分で共通構造を有すると決定することができる。
例えば、前記(3)の工程において、前記構造未知の標識糖鎖のマススペクトルの一部のピーク及び/又は前記マススペクトルから得られる情報の一部と、前記構造既知の標識糖鎖のマススペクトルのピーク全体及び/又は前記マススペクトルから得られる情報の全体とが一致すれば、前記構造未知の糖鎖は、前記構造既知の糖鎖と同じ構造を部分構造として有すると決定することができる。
以下に、本発明の方法によって得られるデータについて述べる。
本発明の方法によって得られたマススペクトル(すなわち、糖鎖を標識し、得られた標識糖鎖を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブイオンを測定することによって得られたマススペクトル)からは、糖鎖に関する重要な情報が得られる。たとえば、構造異性体から特異的に生じるプロダクトイオンを含むプロダクトイオンの構造情報、そのプロダクトイオンを生じるフラグメンテーションが起こったプリカーサーイオン上の位置、遊離した中性分子に関する推定情報、これらの情報の組み合わせにより導き出される構造情報・定量的情報などである。このような重要な情報を含むマススペクトルは、糖鎖に関するデータとして活用することができる。
例えば、さまざまな既知構造の糖鎖に関し、本発明の方法を用いてさまざまなマススペクトルを得て、得られたマススペクトル及び/又はマススペクトルから得られる情報をデータ集として保存しておくことができる。さらに、このようなデータ集には、本発明の方法によって構造が明らかになったもののマススペクトル及び/又はマススペクトルから得られる情報も含ませることができる。
データ集に収められたデータは、例えば上述したように、未知構造の糖鎖の質量分析結果を、既知構造の糖鎖の質量分析結果と比較することによって未知構造を決定する場合に、比較対照のための既知構造の糖鎖の構造データとして用いることができる。
以下に、本発明の効果について記載する。
まず、質量分析において、ネガティブイオンの安定な発生が可能になるため、多段階MS測定が可能となる程度に十分な量のプリカーサーイオンの発生と、感度の高い質量分析とが可能になる。さらに、標識糖鎖のネガティブイオンでは、フコースや中性化後のシアル酸などのαグリコシド結合が安定であるため、これらの糖鎖が脱離したプロダクトイオンの生成量が相対的に少なくなることによって、これらの結合位置に関する情報を得ることができる。
また、標識糖鎖のネガティブイオンは、微細な構造を反映して生成するので、複雑で多種類の異性体構造体の識別に威力を発揮する。構造異性体の識別が可能であるということは、糖鎖中の特定の位置に特定の結合で付加しているという重要な情報を入手できることである。
従って、本明細書中に述べたような特定の疾患に関連する糖鎖について本発明の方法を適用すれば、さまざまな疾患の診断に用いることができる。例えば本発明の方法を用いてフコース含有糖鎖の解析を行う場合に、フコースの結合位置を明らかにすることは、そのフコース含有糖鎖が関連する疾患の診断に十分有用に用いられるといえる。また、構造が明らかなフコース含有糖鎖から得られる情報を基にして、構造未知の糖鎖に特定のフコース結合が含まれるかどうかを明らかにすることができるため、新しい簡便な診断法として用いることも可能になる。
さらに特筆すべき点は、本発明を適用すれば、試料中に複数種の糖鎖の構造異性体が含まれていても、構造特異的なイオンの検出によって構造異性体の同定および定量が可能になる点である。疾患の診断において必要となるのは、構造異性体の有無ではなく、どの構造異性体がどれだけ存在するかを明確にすることであるが、従来、糖鎖異性体の分離操作も極めて複雑で専門的技術を要する。特に微量な生体試料を用いる診断では、複雑で時間のかかる分離操作は不適である。したがって、本発明の方法は、構造異性体を混合物のまま、高い感度で同定および定量できるため、疾患の診断への実用性が高いといえる。
[疾患マーカーの検索法及び当該方法によって見出された疾患マーカー、生体試料の解析法、及び疾患の診断法]
次に、上記<20>〜<35>に記載の本発明について、以下に説明する。
本発明は、生体分子を含む試料を用意し、前記生体分子を標識化合物で標識し、得られた標識生体分子を質量分析により測定するという基本工程を含む。例えば、生体分子が糖鎖である場合、糖鎖を含む試料を用意し、糖鎖を標識化合物で標識し、標識糖鎖を質量分析によりネガティブイオン測定する。より詳しくは、中性糖鎖を標識して標識糖鎖を得て、標識糖鎖を質量分析装置でネガティブイオン測定する場合;酸性糖鎖を中性化処理して得た中性糖鎖を用意し、中性糖鎖を標識して標識糖鎖を得て、標識糖鎖をネガティブイオン測定する場合;及び、酸性糖鎖を標識し、その後、糖鎖中の酸性糖を中性化処理して標識糖鎖を得て、標識糖鎖をネガティブイオン測定する場合を含む。
そして、本発明の疾患マーカー検索法及び生体分子を含む試料の質量分析法は、この基本工程を応用することにより行われる。
まず、本発明の基本工程について、以下に詳述する。
<生体分子を含む試料の用意>
本発明において「生体分子」とは、糖鎖、タンパク質・ペプチド、糖鎖などの修飾を有するタンパク質・ペプチド、核酸、糖脂質などをいう。これら生体分子は、天然に存在するものでも、化学的或いは酵素学的手法により調製されたものでも良く、その構造については既知及び未知を問わない。従って、「生体分子を含有する試料」の具体例としては、生体由来試料(例えば細胞、組織、分泌液、体液など)から生体分子が含まれる画分を調製した試料や、化学合成や酵素合成などによって得られた構造既知の標品を含有する試料などが挙げられる。
これらの生体分子は、時と場によって発現量が制御されて正しく機能する。また、その分子の一部の構造が欠損したり変化したりするだけでも機能不全に陥る。従って、これら生体分子の構造変化の解明によって、疾患の予防、診断および治療が可能になる。特に、糖タンパク質においては、健常時と同じペプチド鎖を有していても、疾患時の糖鎖構造が異なることが報告されている。さらに、病態の進行の度合い、急性疾患か慢性疾患か、良性疾患か悪性疾患か、あるいは疾患に対する治療経過によって、糖鎖変化が異なることも報告されている。そこで、タンパク質の発現の有無だけでなく、その糖鎖構造変化を加味することで、より正確な病態情報が得られる。
例えば、生体分子が糖鎖である場合、生体分子を含む試料の用意については、上記<1>〜<19>の発明を説明した[糖鎖の解析方法、及び当該方法によって得られるデータ]の<糖鎖を含む試料の用意>に述べたとおりである。
<標識化合物を用いた生体分子の標識>
本発明において「標識化合物」とは、自身が生体分子に結合することによって、質量分析測定において生体分子からネガティブイオンを発生させることができる化合物である。標識化合物は、生体分子と共有結合できる反応基と、光を吸収あるいは蛍光を発する分子骨格とを有する。
標識の方法としては特に限定されず、従来から行われてきた方法を適宜用いることによって、標識された生体分子を得ることができる。
例えば、生体分子が糖鎖である場合、標識化合物及び標識法については、上記<1>〜<19>の発明を説明した[糖鎖の解析方法、及び当該方法によって得られるデータ]の<標識化合物を用いた糖鎖の標識>に述べたとおりである。
<質量分析による測定及び生体分子の解析>
得られた標識生体分子をマトリクス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)質量分析装置によりネガティブモードで測定する。
マトリクスとしては、α−シアノ−4−ヒドロキシケイヒ酸、ノルハルマン、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)などが使用される。
本発明においては、好ましくは、マトリクスとしてDHBAを使用し、四重極イオントラップ(QIT)及び飛行時間型(TOF)を組み合わせたMALDI−QIT−TOF型質量分析装置を用いて測定が行われる。
質量分析装置を用いた測定法としては、PSD測定、ISD測定、MSn測定(多段階MS測定;タンデムマス測定を含む)などの方法が用いられる。
生体分子の解析は、測定されたマススペクトルのネガティブイオンの質量数及び相対強度に基づいて行う。本基本工程において、生体分子の解析には、構造解析及び定量解析を含む。構造解析を行うことにより、例えば特定疾患に関わる生体分子の構造を知ることができるため、疾患マーカーの検索が可能になる。また、定量解析を行うことにより、例えば特定疾患に関わる生体分子の存在量を知ることができるため、特定の疾患の発現の有無又は発現の程度、すなわち特定の疾患の有無、進行度、特定の疾患に対する治療成果の程度などを診断することが可能になる。
例えば生体分子として糖鎖の場合、より具体的には、構造解析には、検出されたイオン種の帰属;糖鎖の特定の構造異性体から特異的に生じるイオン種の検出及び帰属(構造異性体の識別);特定の糖の結合位置の同定;糖鎖の部分構造の同定;糖鎖の全体構造の同定などが含まれる。定量解析には、特定の糖鎖の定量を行うことができるイオン種、又は糖鎖の特定の構造異性体から特異的に生じるイオン種の検出、及び、当該イオン種のイオン強度と試料中における相対量との関係の導出;特定の糖鎖又は糖鎖の特定の構造異性体の定量を行うことなどが含まれる。
以下に、生体分子が糖鎖である場合を例に挙げて生体分子の解析法を説明する。その他の生体分子についても以下の糖鎖の解析法と同様に、構造解析及び定量解析を行うことが可能である。
糖鎖には、分子量が同じで且つ単糖組成が同じである構造異性体が複数存在し得る。上述した特定の疾患に関連する糖鎖なども、構造異性体が存在しうる糖鎖である。例えば糖鎖にフコースが1個結合している場合、フコースの1個の結合位置(すなわち、糖鎖中の、フコースが結合している糖残基の位置)につき少なくとも4種類の結合様式(すなわち、1−2、1−3、1−4、及び1−6グルコシド結合)の可能性がある。このように結合様式と結合位置との組み合わせを考慮すると、かなりの数の構造異性体が候補になる。もし、結合しているフコースの数が2個になれば、さらにその組み合わせは増えることになる。
本基本工程は、特に、糖鎖がこのような構造異性体を有しうる場合に有用に用いることができる。なお、本基本工程において複数の構造異性体を解析対象とする場合、それぞれの構造異性体は別々の独立した試料中に含まれていても良いし、複数の構造異性体が同じ試料中に含まれていても良い。いずれの場合も、以下に記載するように、互いの構造異性体を識別するとともにそれら構造異性体の解析を行うことが可能である。
例えば、前記糖鎖として、互いに構造異性体の関係にある糖鎖(A、B、C、…)を解析対象とする場合、以下のように構造解析を行うことができる。
前述と同様に、前記の標識化合物を用いて標識を行うことによって、糖鎖(A、B、C、…)から標識糖鎖(A′、B′、C′、…)をそれぞれ得る。
前述と同様に、質量分析装置でネガティブイオンを測定する。
ネガティブイオンのMS測定を行うことによって、それぞれの構造異性体から同一の(m/z)値を有する分子イオンが生じる。さらにその分子イオンをプリカーサーイオンとしてMS/MS(又はMS3以上の多段階MS)測定すると、それぞれの構造異性体について特異的なイオン(a、b、c、…)が検出される。ここで、特異的なイオンは、1種の構造異性体から1種又は複数種生じうる。すなわち、標識された糖鎖A′からは1種又は複数種のプロダクトイオンaが生じ、標識された糖鎖B′からは1種又は複数種のプロダクトイオンbが、標識された糖鎖C′からは1種又は複数種のプロダクトイオンcが、というように、それぞれの標識された糖鎖から特異的にプロダクトイオンが生じる。
このようなプロダクトイオンを検出することによって、構造異性体(A、B、C、…)は互いに識別が可能になる
より具体的に、前記糖鎖として、互いに構造異性体の関係にある糖鎖Aと糖鎖Bとの2種の糖鎖を解析対象とする場合、以下のように構造解析を行うことができる。
前述と同様に、前記の標識化合物を用いて標識を行うことによって、糖鎖Aからは標識された糖鎖A′を、糖鎖Bからは標識された糖鎖B′を得る。
前述と同様に、質量分析装置でネガティブイオンを測定する。
ネガティブイオンのMS測定を行うことによって、それぞれの構造異性体からは同一の(m/z)値を有する分子イオンが生じる。この分子イオンをプリカーサーイオンとしてMS/MS(又はMS3以上の多段階MS)測定すると、それぞれの構造異性体について特異的なイオンが検出される。標識された糖鎖A′からは1種又は複数種のプロダクトイオンaが生じ、標識された糖鎖B′からは1種又は複数種のプロダクトイオンbが生じるとすれば、プロダクトイオンaとbとの関係は以下のようになる。すなわち、標識された糖鎖A′からはプロダクトイオンbの少なくとも1つは生じず、標識された糖鎖B′からはプロダクトイオンaの少なくとも1つは生じず;なお且つ、プロダクトイオンaとプロダクトイオンbとは質量数の組み合わせが異なる。このように、ネガティブイオンは微細な構造の差異を反映して生じる。このため、従来は質量分析では不可能であった構造異性体の識別を簡単に行うことが可能となる。
なお、本基本工程においてMSn解析を用いる場合は、通常、MS2解析によってこの特異的なイオンを検出することができるが、場合により、MS3解析或いはさらなるMSn解析を行うことによって、新たに特異的なイオンが検出されることもある。このように、より多くの特異的なイオンを検出することによって、より詳細な情報を得ることも好ましい。
そして、構造異性体を識別するとともに、検出されたイオンの情報から構造異性体の構造の一部又は全体を同定することができる。特に、構造異性体から特異的に生じたイオンを解析することは、糖鎖の中で、抗原の決定基となる構造や機能発現に鍵となる構造などの最小構造といった、重要な部分構造の決定に寄与することがある。もちろん、このような特異的なイオンについてだけでなく、構造異性体に共通して検出されるイオンの解析などをあわせて行い、構造異性体の全体構造を同定することも可能である。
以下に、試料に複数種の糖鎖が含まれている場合についてより詳しく説明する。
多くの場合、生体試料は多様な糖鎖の混合物である。試料中に含まれている複数の糖鎖が、互いに分子量が異なる糖鎖である場合は、容易に解析を行うことが可能である。たとえば、複数種のフコース含有糖鎖が試料中に含まれている場合で、ある糖鎖にはフコースが1残基結合しており、他の糖鎖にはフコースが2残基結合しているとする。このように、フコース結合数が互いに異なる糖鎖は、分子量が互いに異なるため、質量分析により容易に識別、同定及び定量することが可能である。
しかし、すでに述べたように、糖鎖には、分子量が同じで且つ単糖組成が同じである構造異性体が複数存在し得る。本基本工程は、特に、試料に含まれている複数種の糖鎖が互いに構造異性体の関係にあるときに有用に用いられる。本基本工程において、測定試料中の他の分子の存在は、特定の構造異性体から特定のプロダクトイオンが特異的に生じる現象に影響を与えるものではない。すなわち、個々の構造異性体について独立して特異的にイオン化が起こる。従って、この場合も、上述した方法に基づいて解析を行えばよい。すなわち、特定の構造異性体から特異的に生じるプロダクトイオンを検出すれば、構造異性体の同定とともに定量が可能である。
例えば、以下の方法で解析を行うことができる。なお、以下に記載する解析方法の例では定量方法について記載しているが、特定の構造異性体から特異的に生じるプロダクトイオンの情報を主に用いることによって、糖鎖の全体構造又は部分構造の同定ができることは上述の通りである。
複数種の糖鎖の構造異性体がそれぞれ既知混合比で含まれる試料を用意する。
前述と同様に、複数数の糖鎖を、前記の標識化合物を用いて標識を行い、複数種の標識された構造異性体を得る。
前述と同様に、質量分析装置でネガティブイオンを測定する。
質量分析測定によって、複数種の標識された構造異性体それぞれについて特異的なイオンを検出する。本基本工程によって得られる、構造異性体について特異的なイオンによって、複数種の構造異性体の識別が可能になる。
なお、上述したように、本基本工程においてMSn解析を用いる場合は、通常、MS2解析によって特異的なイオンを検出することができるが、場合により、MS3解析或いはさらなるMSn解析を行うことによって、より多くの特異的なイオンを検出してより詳細な情報を得ることも好ましい。
すでに述べたように、本基本工程においては、測定試料中の他の分子の存在は、特定の構造異性体から特定のプロダクトイオンが特異的に生じる現象に影響を与えるものではない。従って、検出された特異的なイオンはそれぞれ、試料中に含まれていた構造異性体の混合比を反映したイオン強度比で検出される。このことに基づいて、構造異性体から特異的に生じるイオンを、構造異性体の定量のためのイオンとして用いることができる。
従って、定量解析においては、具体的には、構造異性体から特異的に生じたイオンを構造異性体の定量のためのイオンとして決定し、試料中に含まれていた複数の構造異性体の既知混合比に基づいて、定量のためのイオンのイオン強度と既知混合比との関係を見出すことができる。例えば、試料中における構造異性体Xと構造異性体Yとが前記の既知混合比と同じ比で含まれていれば、構造異性体Xから生じた特定のイオンxと構造異性体Yから生じた特定のイオンyとの強度比は常に同じであり;試料中における構造異性体Xの、構造異性体Yに対する相対量が変化すれば、イオンxの、イオンyに対する相対イオン強度は、相対混合量の変化した倍率に比例して変化する、という関係を見出すことができる。
このように、定量のためのイオンの決定及びそのイオン強度と構造異性体の試料中存在比との関係を見出すことにより得られた当該イオンの情報は、複数の構造異性体が試料中に未知混合比で存在する場合の定量解析に有用に用いられる。例えば、以下のようにして未知混合比を算出することができる。
複数種の糖鎖の構造異性体が未知混合比で含まれる試料を用意する。
前述と同様に、複数の構造異性体を、標識化合物を用いて標識を行い、複数種の標識された構造異性体を得る。
前述と同様に、質量分析装置でネガティブイオンを測定する。
複数種の標識された構造異性体それぞれについて特異的なイオンを検出する。これにより検出されたイオンと前記定量のためのイオンとで質量数が同じもの同士を比較して、前述の方法によって見出された、定量のためのイオンのイオン強度と試料中混合比との関係に基づいて、検出されたイオンのイオン強度から未知混合比を算出する。
以上のようにして、複数の糖鎖の構造異性体について定量を行うことができる。
なお、本基本工程における未知構造の糖鎖について構造の同定を行う場合は、例えば、前記未知構造の糖鎖について本基本工程に従って質量分析結果を得て、この質量分析結果と既知構造の糖鎖の質量分析結果とを比較することで行うことができる。以下に、このようにして構造の同定を行う形態の例を示すが、ここに示す形態には、すでに述べたような、複数種の糖鎖の構造異性体を解析対象にする場合も含まれる。
(1)構造未知の糖鎖を含む試料を用意する。
前記構造未知の糖鎖を、標識化合物を用いて標識し、構造未知の標識糖鎖を得る。
前記構造未知の標識糖鎖を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブモードで測定する。
(2)別途、構造既知の糖鎖を含む試料を用意する。
前記構造既知の糖鎖を、標識化合物を用いて標識し、構造既知の標識糖鎖を得る。
前記構造既知の標識糖鎖を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブモードで測定する。
(3)前記(1)で得られた、前記構造未知の標識糖鎖のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報と、前記(2)で得られた、前記構造既知の標識糖鎖のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報との比較を行う。
ここで、マススペクトルから得られる情報には、プロダクトイオンそのものの構造情報、そのプロダクトイオンを生じるフラグメンテーションが起こったプリカーサーイオン上の位置、及び遊離した中性分子に関する推定情報、これらの情報の組み合わせにより導き出される情報などが含まれる。
前記(3)の工程において、前記構造未知の標識糖鎖のマススペクトルのピーク全体及び/又は前記マススペクトルから得られる情報の全体と、前記構造既知の標識糖鎖のマススペクトルのピーク全体及び/又は前記マススペクトルから得られる情報の全体とが一致すれば、前記構造未知の糖鎖は、前記構造既知の糖鎖と同じ構造を有すると決定することができる。
なお、マススペクトルの全体という場合は、比較の対象となるピークが、少なくとも、主要なピーク(すなわちある程度のイオン強度で検出されたピーク)及び/又は糖鎖の全体構造解析に不可欠なピークを含んでいれば良い。また、マススペクトルから得られる情報の全体という場合は、比較の対象となる情報が、少なくとも、糖鎖の全体構造に不可欠な情報を含んでいれば良い。
また、一致という場合は、生成したイオンの質量数やイオン強度を比較する場合は、質量分析装置の測定範囲内の誤差が許容される。また、糖鎖配列や糖鎖上の位置など、構造に関する情報を比較する場合は、完全一致が求められる。
上述の方法では、糖鎖全体の構造を決定することができる。しかしながら、構造未知の糖鎖は極めて多種多様な構造をとる一方で、標準物質として入手できる構造既知の糖鎖の種類は限られている。また、糖鎖の全体構造を明らかにしなくても、糖鎖の中で、抗原の決定基となる構造や機能発現に鍵となる構造などの最小構造を決定するだけで良い場合もある。このような部分構造を決定することは重要である。本基本工程においては、次のようにして、部分構造を決定することができる。
すなわち、前記(3)の工程において、前記構造未知の標識糖鎖のマススペクトルの特定のピーク及び/又は前記マススペクトルから得られる特定の情報と、前記構造既知の標識糖鎖のマススペクトルの特定のピーク及び/又は前記マススペクトルから得られる特定の情報とが一致すれば、前記構造未知の糖鎖と前記構造既知の糖鎖とは、その構造の特定の部分で共通構造を有すると決定することができる。
例えば、前記(3)の工程において、前記構造未知の標識糖鎖のマススペクトルの一部のピーク及び/又は前記マススペクトルから得られる情報の一部と、前記構造既知の標識糖鎖のマススペクトルのピーク全体及び/又は前記マススペクトルから得られる情報の全体とが一致すれば、前記構造未知の糖鎖は、前記構造既知の糖鎖と同じ構造を部分構造として有すると決定することができる。
ここで、本基本工程によって得られるデータについて述べる。
本基本工程によって得られたマススペクトル(例えば、糖鎖を標識し、得られた標識糖鎖を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブイオンを測定することによって得られたマススペクトル)からは、糖鎖に関する重要な情報が得られる。例えば、構造異性体から特異的に生じるプロダクトイオンを含むプロダクトイオンの構造情報、そのプロダクトイオンを生じるフラグメンテーションが起こったプリカーサーイオン上の位置、遊離した中性分子に関する推定情報、これらの情報の組み合わせにより導き出される構造情報・定量的情報などである。このような重要な情報を含むマススペクトルは、糖鎖に関するデータとして活用することができる。
例えば、さまざまな既知構造の糖鎖に関し、本基本工程を用いてさまざまなマススペクトルを得て、得られたマススペクトル及び/又はマススペクトルから得られる情報をデータ集として保存しておくことができる。さらに、このようなデータ集には、本基本工程によって構造が明らかになったもののマススペクトル及び/又はマススペクトルから得られる情報も含ませることができる。
データ集に収められたデータは、例えば上述したように、未知構造の糖鎖の質量分析結果を、既知構造の糖鎖の質量分析結果と比較することによって未知構造を決定する場合に、比較対照のための既知構造の糖鎖の構造データとして用いることができる。
以下に、本基本工程の効果について記載する。
まず、質量分析において、ネガティブイオンの安定な発生が可能になるため、多段階MS測定が可能となる程度に十分な量のプリカーサーイオンの発生と、感度の高い質量分析とが可能にする。さらに、標識糖鎖のネガティブイオンでは、フコースや中性化後のシアル酸などのαグリコシド結合が安定であるため、これらの糖鎖が脱離したプロダクトイオンの生成量が相対的に少なくなることによって、これらの結合位置に関する情報を得ることができる。
特に、解析する生体分子が糖鎖である場合、標識糖鎖のネガティブイオンが、微細な構造を反映して生成するので、複雑で多種類の異性体構造体の識別に威力を発揮する。構造異性体の識別が可能であるということは、糖鎖中の特定の位置に特定の結合で付加しているという重要な情報を入手できることである。
従って、本明細書中に述べたような特定の疾患に関連する生体分子について本基本工程に記載の方法を応用することで、さまざまな疾患に関連するマーカーの検索や、さまざまな疾患の診断を行うことが可能になる。例えば本基本工程を用いてフコース含有糖鎖の解析を行い、フコースの結合位置を明らかにすることができるため、そのフコース含有糖鎖が関連する疾患のマーカーを見出すことができる。また、疾患マーカーの情報を基にして、構造未知の糖鎖に特定のフコース結合が含まれるかどうかを明らかにすることができるため、簡単に疾患の診断を行うことができる。
さらに特筆すべき点は、本基本工程を用いれば、試料中に複数種の糖鎖の構造異性体が含まれていても、構造特異的なイオンの検出によって構造異性体の同定および定量が可能になる点である。疾患の診断において必要となるのは、構造異性体の有無ではなく、どの構造異性体がどれだけ存在するかを明確にすることであるが、従来、糖鎖異性体の分離操作は極めて複雑で専門的技術を要する。特に微量な生体試料を用いる診断では、複雑で時間のかかる分離操作は不適である。従って、本基本工程を応用する本発明の方法は、構造異性体を混合物のまま、高い感度で同定および定量できるため、疾患の発現の差による微小な変化を捉えることができる。また、生体試料量を減らすことができるため、被験者の負担も減少する。このように、本発明の方法は、大変実用性の高い方法といえる。
以下、本発明の疾患マーカーの検索及び生体分子を含む試料の質量分析について詳しく述べる。これまで述べてきた基本工程により、生体分子の解析(構造解析及び定量解析)を行うことができるが、この基本工程を、以下のように応用することによって、疾患マーカーの検索及び生体分子を含む試料の質量分析(特定の疾患の発現の有無又は程度の判断すなわち前記特定の疾患の有無、進行度、及び/又は前記特定の疾患に対する治療成果の程度の診断)を行うことが可能になる。
上述の生体分子の解析法を適用した疾患マーカーの検索法を述べる。
(1)特定の疾患の罹患者に由来する、生体分子Xを含む試料を用意する。このとき、前記罹患者から採取した生体試料をそのまま用いても良いし、すでに基本工程で述べたように、そのような生体試料から、化学的又は酵素学的手法を用いて生体分子Xを得るための適当な処理を行うことにより調製した試料を用いても良い。また、ここでは、特定の疾患の罹患者に由来する生体分子を生体分子Xと記載しており、生体分子Xには、前記罹患者に由来する複数の生体分子を含んでいる場合もある。
生体分子Xを、標識化合物を用いて標識を行い、標識された生体分子X′を得る。標識化合物及び標識法については、すでに基本工程で述べた通りである。
標識された生体分子X′をMALDI質量分析装置によりネガティブイオンを測定する。測定に用いる装置及びマトリックス、及び測定法については、すでに基本工程で述べたとおりである。
(2)別途、前記特定の疾患の非罹患者に由来する、生体分子Yを含む試料を用意する。このときも、前記非罹患者から採取した生体試料をそのまま用いても良いし、すでに基本工程で述べたように、そのような生体試料から、化学的又は酵素学的手法を用いて生体分子Yを得るための適当な処理を行うことにより調製した試料を用いても良い。また生体分子Yには、前記非罹患者に由来する複数の生体分子を含んでいる場合もある。
なお、生体分子Yを含む試料は、生体分子Xを含む試料に対応する試料であることが好ましい。例えば、前記罹患者の体と前記非罹患者の体とにおける同一の部位から採取された試料であり、必要に応じ同様の処理を行うことによって調製された試料であることが好ましい。
前記生体分子Yを、生体分子Xの場合と同様に標識化合物を用いて標識を行い、標識された生体分子Y′を得る。
前記標識された生体分子Y′を、生体分子X′の場合と同様にMALDI質量分析装置によりネガティブイオンを測定する。
(3)前記(1)で得られた標識された生体分子X′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報と、前記(2)で得られた標識された生体分子Y′のマススペクトル及び/又はそれから得られる情報とを比較する。
マススペクトルから得られる情報には、すでに基本工程で述べたとおり、プロダクトイオンそのものの構造情報、そのプロダクトイオンを生じるフラグメンテーションが起こったプリカーサーイオン上の位置、及び遊離した中性分子に関する推定情報、これらの情報の組み合わせにより導き出される情報などが含まれる。
前記(3)の工程において、双方のマスススペクトル及び/又はマススペクトルから得られる情報が互いに異なるとき、すなわち特定のマススペクトル及び/又は特定の情報において互いに異なるとき、特定の疾患の発現に関わる構造が存在することが確認できる。
ここで、マススペクトルピーク及び/又は情報が双方の試料で互いに異なるとは、質量/電荷において異なることと、同一質量/電荷であってイオン強度において異なることとの両方を含む。
そして、質量/電荷において異なるマススペクトルピーク及び/又は情報のうち、標識生体分子X′のマススペクトル及び/又はマススペクトルから得られる情報に含まれて、標識生体分子Y′のマススペクトル及び/又はマススペクトルから得られる情報には含まれないものは、特定の疾患の発現に関わる構造を教示する。
また、イオン強度において異なるマススペクトルピーク及び/又は情報のうち、標識生体分子X′のマススペクトル及び/又はマススペクトルから得られる情報において、標識生体分子Y′のマススペクトル及び/又はマススペクトルから得られる情報よりも強く検出されているものに含まれるものも、特定の疾患の発現に関わる構造を教示する。この場合、標識生体分子X′のマススペクトル及び/又はマススペクトルから得られる情報において著しく強く検出されていることが好ましいが、このときのイオン強度の程度に関わる判断は、当業者が適宜行うことができる。
このようなマススペクトル及び/又はマススペクトルから得られる情報から、疾患の発現に関わる構造を解析することによって、疾患マーカーを見出すことができる。具体的には、そのようにして解析された、特定の疾患の発現に関わる構造、又はその構造を有する生体分子Xの構造を、疾患マーカーの構造として決定することができる。
本発明の方法によって得られる疾患マーカーは、例えば以下に述べるような、生体分子を含む試料の解析に有用に用いることができる。本発明の疾患マーカーは、糖鎖を例とした生体分子の説明において詳述したような、さまざまな疾患の診断に用いることができる。従って、本発明の疾患マーカーには、前記のさまざまな疾患に関連する糖鎖が含まれる。このような糖鎖としては、フコース及び/又はシアル酸を有する糖鎖、血液型抗原糖鎖などが挙げられる。具体的には、ABO式血液型抗原糖鎖やLewis式血液型抗原糖鎖などが挙げられる。
このようにして見出された疾患マーカーを用いて生体分子を含む試料の解析を行うと、特定の疾患に関して罹患しているか否かが不明の被験者、又は特定の疾患に関する罹患の程度が不明の被験者について、特定の疾患の発現の有無又は発現の程度を判断することができる。すでに述べたように、生体分子は時と場によって発現量が制御されて正しく機能し、その分子の一部の構造が欠損したり変化したりすると機能不全に陥り、疾患を発現させる。従って、このように疾患マーカーによって特定の疾患の発現の有無又は発現の程度を判断することができるということは、特定の疾患の罹患の有無、進行度、或いは特定の疾患に対する治療の成果を診断することができるということである。
以下、生体分子を含む試料の解析法を以下に述べる。本発明の生体分子を含む試料の解析においては、質量分析法によって解析しても良いし、質量分析以外の方法によって解析しても良い。
すなわち、本発明の生体分子を含む試料の解析法では、被験者に由来する、生体分子を含む試料を用意し、疾患マーカーを用いて、前記被験者における特定の疾患の発現の有無又は前記発現の程度を判断する。
以下、質量分析法を用いて生体分子の解析を行う場合について述べる。以下の質量分析法を用いた生体分子を含む試料の解析法における疾患マーカーとしては、上述した本発明の疾患マーカーの検索方法により見出された疾患マーカーを利用することができるとともに、本発明の方法以外の方法により見出された疾患マーカーを利用することもできる。
被験者に由来する、生体分子Zを含む試料を用意する。ここで、被験者については、以下の者が含まれる。すなわち、特定の疾患に関して罹患しているか否かが不明である者;特定疾患の罹患者であって、病態の進行程度が不明である者;特定疾患の罹患者であり且つ特定疾患に対する治療を受けている罹患者であって、治療成果の程度が不明である者などが含まれる。また、生体分子Zには、前記被験者に由来する複数の生体分子を含んでいる場合もある。
生体分子Zを、標識化合物を用いて標識を行い、標識された生体分子Z′を得る。
標識された生体分子Z′をMALDI質量分析装置によりネガティブイオンを測定する。
疾患マーカーのマススペクトル及び/又はそれから得られる情報を、特定疾患の発現の有無及び/又は発現の程度の指標として、標識された生体分子Z′のマススペクトル及び/又はそれから得られる情報について検討する。例えば、生体分子Z′のマススペクトル及び/又はそれから得られる情報に、疾患マーカーのマススペクトルピーク及び/又はその情報と同じものが含まれているか否かで、特定疾患の発現の有無を判断することができる。また、生体分子Z′のマススペクトル及び/又はそれから得られる情報に、疾患マーカーのマススペクトルピーク及び/又はその情報と同じものが含まれている場合は、イオン強度から、特定疾患の発現の程度を判断することもできる。
特定疾患の発現の有無又は程度を判断する際、すでに取得された疾患マーカーについてのマススペクトル及び/又はそれから得られる情報を用い、それに基づいて判断しても良いし、以下のように、被験者由来の試料に対する標識・測定の操作と平行して疾患マーカーに対しても標識・測定を行い、得られたマススペクトル及び/又はそれから得られる情報を比較することにより判断しても良い。以下に示した方法において、各工程の詳細はすでに述べたとおりである。
(1)被験者に由来する、生体分子Zを含む試料を用意する。
生体分子Zを、標識化合物を用いて標識を行い、標識された生体分子Z′を得る。
標識された生体分子Z′をMALDI質量分析装置によりネガティブイオンを測定する。
(2)別途、疾患マーカーを用意する。
疾患マーカーを、標識化合物を用いて標識を行い、標識された疾患マーカーを得る。
標識された生体分子Z′をMALDI質量分析装置によりネガティブイオンを測定する。
(3)前記(1)で得られた前記標識された生体分子Z′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報と、前記(2)で得られた疾患マーカーのマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報とを比較し、前記被験者における前記特定の疾患の発現の有無又は前記発現の程度を判断する。
質量分析以外の方法(例えば、組織染色法、免疫学的測定法など)によって生体分子の解析を行う場合は、本発明の疾患マーカーの検索法によって見出された疾患マーカーを用いる以外は、公知の方法を用いて解析を行うと良い。
[実施例1]
本実施例1では、lacto−N−fucopentaose IIIについて質量分析を行った。
(糖鎖の標識)
中性糖であるlacto−N−fucopentaose III(式(i))の標識を行った。標識には、D.SUGAHARA,J.AMANO,and T.IRIMURA,ANALYTICAL SCIENCE,19,167−169(2003)の方法を改良した以下の方法を用いた。
中性糖1nmolをねじふた付きガラス反応管に加え乾固した。この反応管に、PBH(Molecular Probes)500nmolをメタノール20microLに溶解した溶液と、メタノールで希釈した酢酸(メタノール:酢酸=1:8(v/v))2microLとを加え、ふたを完全に閉めた。反応管中の反応液をよく撹拌した後、80℃で20分間加熱し、1M NaOHを加えることにより中和した。さらに、反応管に1.7M NaBH4溶液を30microL加えて40℃で30分間反応させ、さらに1.7M NaBH4溶液を10microL加えて40℃で30分間反応させた。反応管に純水400microL及びクロロホルム400microLを加えてよく振り、その後静置した。下層のクロロホルムを捨て、新しいクロロホルム400microLを加えて、再度同様の抽出を行った。上層を取り乾固させて、乾固した反応生成物を得た。Sep−pak C18カートリッジを、メタノール、続いて純水で洗浄し、乾固した反応生成物を純水に溶解して、カートリッジに通した。純水でカートリッジを洗浄し、次に、アセトニトリル−純水(アセトニトリル:純水=6:4(v/v))で溶出し、目的のピレン標識糖を含む溶出液を得た。溶出液を乾固し、ピレン標識糖を得た。得られたピレン標識は、遮光して−30℃に保存した。
(質量分析)
測定試料として、得られたピレン標識糖を、1pmol/microLになるように純水に溶解した。
別途、もう1つの測定試料として市販アミノピリジン標識糖(タカラバイオ)を用意した。このアミノピリジン標識糖も、同様に1pmol/microLになるように純水に溶解した。
ピレン標識糖溶液0.4microL(ピレン標識糖400fmol)と、アミノピリジン標識糖溶液0.4microL(アミノピリジン標識糖400fmol)とをそれぞれMALDIターゲットプレートに塗布した。
マトリクスとしてはDHBAを用いた。DHBAは、12.5mg/mLになるようにアセトニトリルの40v/v%純水溶液に溶解し、その0.5microLをプレート上のそれぞれの標識糖溶液と混合し、その後乾固した。
得られたMALDIターゲットプレートをMALDI−QIT−TOF質量分析装置、AXIMA−QIT(Shimadzu/Kratos)に導入し、ネガティブモードでMS測定した。
このとき得られたマススペクトルを図1に示す。図1(a)は、ピレン標識糖のMSスペクトル、図1(b)は、アミノピリジン標識糖のMSスペクトルを示す。両スペクトルとも、横軸に(質量/電荷)(m/z)、縦軸にイオンの相対強度を表す(以下、本明細書で説明する全てのマススペクトルにおいて同じ。)また図1においては、ピレン標識糖の分子イオン[M−H]−のイオン強度を100として、全てのピークが表わされている。
これらのスペクトルが示すように、図1(a)では分子イオンm/z1138[M−H]−、図1(b)では分子イオンm/z930[M−H]−のみが強く検出され、分解されたイオンはほとんど検出されなかった。すなわち、より詳細な構造情報を得るためのMS/MS測定に用いるためのプリカーサーイオンが十分に発生したことが示された。
また、これらのスペクトルのうちピレン標識糖の図1(a)を例にとると、測定結果のS/N比から、検出限界として10fmol程度まで検出可能であることが想定できる。これに対して、非標識糖鎖の従来の検出限界は10pmolであるから、従来の1/1000量でも検出が可能になったといえる。
このように、従来のようにマトリクスに酸性物質を添加することを行うことなくネガティブ分子イオン[M−H]−を検出することができ、且つ非標識糖鎖の従来の検出限界の1/1000量でも検出が可能になったのは、ピレン標識化によって、高効率なイオン化であり且つ安定なイオンを生ぜしめるイオン化が実現したためであると思われる。
また、市販の濃縮プレートを使用することによって、さらに10〜20倍感度が向上するので、微量な生体試料の解析に十分応用できるといえる。
[実施例2]
本実施例2では、monofucosyl lacto−N−hexaoseの構造異性体3種について、質量分析を行った。
monofucosyl lacto−N−hexaoseの構造異性体MFLNH−I(式(ii))、MFLNH−II、(式(iii))及びMFLNH−III(式(iv))をそれぞれ、実施例1と同様に、ピレン標識、及びMALDI−QIT−TOF質量分析装置を用いたネガティブモードでのMS測定及びMS/MS測定を行った。
MS測定の結果、いずれのスペクトルにおいても、唯一の親イオンとしてm/z1503[M−H]−が強く検出され、一方、分解されたイオンはほとんど検出されなかった(データ示さず)。
MS測定で検出されたイオンm/z1503をプリカーサーイオンとして行った、MS/MS測定によって得られたマススペクトルを、図2に示す。図2(a)はピレン標識MFLNH−IのMS/MSスペクトル、図2(b)はピレン標識MFLNH−IIのMS/MSスペクトル、図2(c)はピレン標識MFLNH−IIIのMS/MSスペクトルを示す。
これらのスペクトルが示すように、MS/MSスペクトルにおいてはそれぞれまったく異なるピークパターンを示した。図2(a)〜(c)で検出された主なイオンのm/z値を、表1に示した。表1中、+はそのイオンが10%以上のイオン強度で検出されたことを示し、±はそのイオンが10%未満のイオン強度で検出されたことを示す。表1が示すように、例えばm/z1177のプロダクトイオンはピレン標識MFLNH−Iのみから、m/z1138のプロダクトイオンはピレン標識MFLNH−IIIのみから検出されている。このように、他の異性体からは生成しない、それぞれの異性体に対して特有のイオン種が観察された。
後述の比較例1で述べるが、本実施例のようにネガティブイオン測定ではなくポジティブイオン測定を行うと、フコースが遊離したプロダクトイオンが主として検出される。仮に、本実施例2のネガティブイオン測定でこのようなフコース遊離したプロダクトイオン種が生成するとすれば、そのイオン種はm/z1357に検出されるはずである。しかしながら、本実施例2ではそのようなイオン種は全く検出されなかった。
このように、ネガティブイオンの測定を行うと、それぞれの異性体に特有のイオン種が観察されることから、ネガティブイオンを測定すれば異性体構造が容易に判別・同定できることが判明した。
例えば、表1が示すように、ピレン標識MFLNH−I及びピレン標識MFLNH−IIからプロダクトイオンm/z424が、ピレン標識MFLNH−IIIからプロダクトイオンm/z570が生じた。これらのプロダクトイオンは、ガラクトースの6位に側鎖が結合した際に生じるものであることを確認した。
さらに、ピレン標識MFLNH−I及びピレン標識MFLNH−IIから生じたプロダクトイオンm/z424と、ピレン標識MFLNH−IIIから生じたプロダクトイオンm/z570との差は、フコース残基1個に相当することがわかる。すなわち、m/z424のプロダクトイオンはフコース残基を有さず、m/z570のプロダクトイオンはフコース残基を一個有する。従って、m/z424のプロダクトイオンを生じたプリカーサーイオンの6側鎖にはフコース残基が結合しておらず、m/z570のプロダクトイオンを生じたプリカーサーイオンの6側鎖にはフコース残基が1個結合していたことがわかった。
ピレン標識MFLNH−Iのみから生じたm/z1177のプロダクトイオンは、プリカーサーイオンとのm/z差から、Fuc−Galを失うことにより生成したイオンであることがわかる。すなわち、このようなプロダクトイオンを生じたプリカーサーイオンが、Fucα1−2Gal結合を有していることがわかる。したがって、ピレン標識MFLNH−Iとピレン標識MFLNH−IIとの判別も容易に行うことができる。
従って、異性体から特異的に生じるプロダクトイオンの識別、及びプリカーサーイオンとプロダクトイオンとのm/z差の算出を行うことによって、糖鎖構造の同定を行うことが見出された。
[比較例1]
本比較例1では、ポジティブイオンでMS測定及びMS/MS測定を行った以外は、実施例2と同様の操作を行った。
MS測定の結果、いずれのスペクトルにおいても、親イオンとしてm/z1528[M+Na]+が検出された。
MS測定で検出されたイオンm/z1528をプリカーサーイオンとして行った、MS/MS測定によって得られたマススペクトルを、図3に示す。図3(a)はピレン標識MFLNH−IのMS/MSスペクトル、図3(b)はピレン標識MFLNH−IIのMS/MSスペクトル、図3(c)はピレン標識MFLNH−IIIのMS/MSスペクトルを示す。
図3が示すように、得られたMS/MSスペクトル3種全てにおいて、フコースが遊離した共通構造を有するプロダクトイオン種m/z1381が顕著に検出された。これは、ポジティブイオンではフコース結合が極めて不安定であることを表している。また、3種の異性体からそれぞれ生じたその他のプロダクトイオンについても、相対強度が異なる以外はほとんど同じものが検出された。このため、3種の異性体の識別は困難であることが判明した。
[実施例3]
本実施例3では、monofucosyl lacto−N−hexaoseの構造異性体2種について、さらに詳細な質量分析を行った。
MFLNH−II及びMFLNH−IIIを用い、実施例2と同じ方法でMS/MS測定までの操作をそれぞれ行った。得られたMS/MSスペクトルにおいて最も高いイオン強度で且つ共通して得られたプロダクトイオンm/z992をプリカーサーイオンとして、MS3測定をそれぞれ行った。得られたマススペクトルを、図4に示す。図4(a)はピレン標識MFLNH−IIのMS3スペクトル、図4(b)はピレン標識MFLNH−IIIのMS3スペクトルを示す。
図4(a)が示すように、ピレン標識MFLNH−IIに由来するプロダクトイオンとしてm/z388、424、447などが検出され、一方図、4(b)が示すように、ピレン標識MFLNH−IIIに由来するプロダクトイオンとしてm/z447、627、812などが検出された。これらスペクトルから一見して明らかなように、顕著に現れるプロダクトイオンの組み合わせは両異性体間で異なり、容易に識別可能である。MS/MS測定で検出されたm/z992のイオンは、異性体に共通に検出されるが、質量数が同じであることを除いては、プリカーサーイオンにおける異なる位置でフラグメンテーションが起こることにより生じた、異なる構造を有するイオンであることが示された。このことから、ネガティブイオンは微細な構造の差異を反映して生じることがより明確に示された。
[実施例4]
実施例4では、下記のシアル酸含有糖鎖(v)について質量分析を行った。
糖鎖の標識は、上記実施例1と同様の方法によって行い、ピレン標識糖を得た。得られたピレン標識糖に対し、次の中性化処理を行った。すなわち、ピレン標識糖の10pmol/μl水溶液1μlを、1MのNH4Cl水溶液12.5μlに添加し、1Mの4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド水溶液7.5μlを加え、50℃で24時間反応を行った。この中性化処理により、シアル酸の水酸基をアミド化してカルバモイル基に変換した。中性化処理された糖鎖に対し、上記実施例1と同様の操作を行うことによって、MSプレート上に質量分析用試料を調製し、質量分析装置を用いネガティブモードでMS測定を行った。[M−H]−イオンとして、m/z2505.9が検出された。さらに、m/z2505.9をプリカーサイオンとして選択し、MS/MS測定を行うと、図5の(a)に示すように、アミド化シアル酸を含む、C系列イオン(m/z672.1)、B系列イオン(m/z816.4)、A系列イオン(m/z876.4)など、構造同定に重要なイオンが得られた。このように、シアル酸を含む糖鎖を中性化処理後ネガティブMS/MS測定を行うことの有用性が示された。
[比較例2]
比較例2では、シアル酸含有糖鎖(v)について、中性化処理を行わなかったことを除いては実施例4と同様の操作を行った。MS測定の結果、[M−H]−イオンとして、m/z2507.9が検出された。さらに、m/z2507.9をプリカーサイオンとして選択し、MS/MS測定を行うと、図5の(b)に示すように、シアル酸が一分子遊離したイオンが主に生成したのみで、有用な構造情報を得るようなマススペクトルは観察されなかった。
[実施例5]
本実施例5では、monofucosyl lacto−N−hexaoseの構造異性体2種(MFLNH−I及びMFLNH−III)のうち少なくとも一方を含む混合物の質量分析を行った。
MFLNH−Iは、血液型H抗原構造を有し、癌細胞由来の前立腺癌抗原PSAのフコース結合を含む。MFLNH−IIIは、ルイスX抗原構造を有し、卵巣癌患者由来糖タンパク質であるハプトグロビンやCA125に発現しているフコース結合を含む。
MFLNH−IとMFLNH−IIIとについて、それぞれ実施例1に記載の方法によりピレン標識を行い、ピレン標識MFLNH−Iとピレン標識MFLNH−IIIとを得た。測定サンプルは、ピレン標識MFLNH−Iとピレン標識MFLNH−IIIとを、10:0、82、6:4、4:6、2:8、0:10のそれぞれの割合で含むように調製した試料とした。
ここで、ある特定疾患がルイスX糖鎖構造の発現を伴い、病態の進行や悪性度とその発現量が相関すると仮定する。そして、特定疾患に罹患していない被験者由来試料(ルイスX発現20%)、特定疾患を発症した被験者由来試料(ルイスX発現40%)、及び、特定疾患に罹患し病態が進行している被験者由来試料(ルイスX発現80%)の3種の試料を想定する。このようにルイスX糖鎖構造に着目すると、たとえば、上記調製したピレン標識MFLNH−Iとピレン標識MFLNH−IIIとの8:2、6:4及び2:8の混合試料は、それぞれ、これら想定したルイスX抗原の発現状態の異なる被験者試料に相当する。
一方、ある特定疾患が血液型H抗原構造の発現を伴い、病態の進行や悪性度とその発現量が相関すると仮定する。そして、特定疾患に罹患し病態が進行している被験者由来試料(血液型H発現80%)、特定疾患を発症した被験者由来試料(血液型H発現60%)、及び、特定疾患に罹患していない被験者由来試料(血液型H発現20%)の3種の試料を想定する。このように血液型H抗原構造に着目すると、たとえば、上記調製したピレン標識MFLNH−Iとピレン標識MFLNH−IIIとの8:2、6:4及び2:8の混合試料は、それぞれ、これら想定した血液型H抗原の発現状態の異なる被験者試料に相当する、ともいえる。
この6種の測定サンプルについて、実施例1と同じ方法によりMS/MS測定(プリカーサーイオン:m/z1503)を行った。
得られたマススペクトルを、図6及び図7に示す。図6(a)は、ピレン標識MFLNH−Iのみを含む試料のMS/MSスペクトル、図6(b)は、ピレン標識MFLNH−Iとピレン標識MFLNH−IIIとを8:2の混合比で含む混合試料のMS/MSスペクトル、図6(c)は、ピレン標識MFLNH−Iとピレン標識MFLNH−IIIとを6:4の混合比で含む混合試料のMS/MSスペクトル、図7(d)は、ピレン標識MFLNH−Iとピレン標識MFLNH−IIIとを4:6の混合比で含む混合試料のMS/MSスペクトル、図7(e)は、ピレン標識MFLNH−Iとピレン標識MFLNH−IIIとを2:8の混合比で含む混合試料のMS/MSスペクトル、図7(f)は、ピレン標識MFLNH−IIIのみを含む試料のMS/MSスペクトルである。
図6(a)〜(c)及び図7(d)〜(f)が示すように、混合試料の混合比が変わることによって、特定のイオンについてイオン強度が変化している。プロダクトイオンm/z1177、508、424(図中、下向き矢印でマーク)などは、ピレン標識MFLNH−Iの存在比が減少するに従ってイオン強度が小さくなっており、ルイスX糖鎖構造に着目した場合は、特定疾患の病態進行と逆相関すると判定できる。また、プロダクトイオンm/z1275、1138、764、570(図中、上向き矢印でマーク)などは、ピレン標識MFLNH−IIIの存在比が増加するに従ってイオン強度が大きくなっており、ルイスX糖鎖構造に着目した場合は、特定疾患の病態進行と相関すると判定できる。
一方、この結果の確認のために、前述の実施例2で得られたマススペクトルのうち、ピレン標識MFLNH−I単独試料とピレン標識MFLNH−III単独試料とのマススペクトル(図2(a)及び(c))についてより精しく検証すると、18種のイオンの有無に違いが認められた。すなわち、ピレン標識MFLNH−Iにあってピレン標識MFLNH−IIIに見いだされないイオンは、m/z1177、1087、932、508、424、382であった。一方、ピレン標識MFLNH−IIIにあってピレン標識MFLNH−Iに見いだされないイオンは、m/z1343、1305、1275、1138、1117、794、764、672、654、600、570、364であった。
従って、図6及び7においてピレン標識MFLNH−IIIの存在比が増加するに従ってイオン強度が上昇したイオンは、ピレン標識MFLNH−IIIから生じたものであり、ピレン標識MFLNH−Iの存在比が減少するに従ってイオン強度が減少したイオンは、ピレン標識MFLNH−Iから生じたものであることが確認できる。
また、このように、イオン強度と混合物中の存在比との間で相関性を示すのは、測定試料中の他の分子の存在が、特定の構造異性体から特定のプロダクトイオンが特異的に生じる現象に影響を与えるものではないことを示す。個々の構造異性体について独立して特異的にイオン化が起こるということから、たとえ測定試料が構造異性体の混合物であっても、特定の構造異性体から特異的に生じるプロダクトイオンを検出すれば、構造異性体の同定が可能である。例えば生物学的に重要な抗原構造を含むサンプル間において、それぞれ異なったプロダクトイオンを得ることが可能であることが見出される。そして、そのようなプロダクトイオンを得ることによって、特定疾患のマーカーとなる分子が試料に存在すると決定できる。
さらに、特異的に生じるプロダクトイオンとその強度とから、構造異性体について分離定量が可能である。例えば、上記生物学的に重要な抗原構造を含むサンプル間において、それぞれ異なったプロダクトイオンを検出することは、特定疾患の病態進行や治療経過の指標となりうると同時に、それらの構造情報を解析することによりマーカー分子の同定が可能となる。さらに、そのような特異的に生じるイオン種とその強度とから、構造異性体についての分離定量、すなわち疾患の発現の程度の判断が可能となる。
なお、測定結果から各構造異性体の存在量を推定する具体的な方法としては、Brown,C.W,et al.Anal.Chem.,Vol.54,No.9,pp1472(1982)や、飯田康夫ら、BUNSEKI KAGAKU、Vol.32,pp401(1983)に記載の方法を準じて行うことが可能である。すなわち、これら文献は吸光光度法に関する定量方法を記載したものであるが、これら文献の記載において、波長を質量数に、吸光度をイオン強度に置き換えることによって、当該方法はそのまま質量分析に適用することができる。この方法を用いると、N個の成分に対しても適応できる(すなわち、2以上の構造異性体を含む混合試料についても適応できる)。
以上のことから、ルイスX抗原が発現する肺癌や卵巣癌患者から実際に採取した試料と、非癌患者から実際に採取した試料とについて、それぞれ同様に標識及びネガティブイオン測定を行っても、図6及び7のように双方の質量分析結果において異なるプロダクトイオンが検出され、疾患マーカーの情報が得られることがわかる。
また、特定疾患の罹患状態について不明な被験者について、同様の標識及びネガティブイオン測定を行っても、疾患マーカーの情報を元に、上述の分離定量などを行うことによって、疾患の情報(疾患の罹患又は非罹患、疾患の進行程度、或いは治療成果の程度などに関する情報)が得られることがわかる。
なお、比較例1ですでに示したように、ピレン標識MFLNH−I及びピレン標識MFLNH−IIIのポジティブイオンの測定結果によると、両者のスペクトルで同じプロダクトイオンが検出されている。より詳しく検証すると、検出された20種のイオン全てが共通であった。従って、本実施例のような試料についてポジティブイオンを測定しても、イオン強度と混合物中の存在比との間で相関性を示すプロダクトイオンは生成しない。従ってこの場合は、マーカー探索は困難である。
上記実施例においては、本発明の具体的な形態について示したが、本発明は、これらに限定されることなく他のいろいろな形態で実施することができる。そのため、上記実施例はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
Claims (32)
- 糖鎖を含む試料を用意し、
前記糖鎖を、標識化合物を用いて標識を行い、標識糖鎖を得て、
前記標識糖鎖を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブイオンを測定することによって、前記糖鎖の解析を行うことを含む、糖鎖の質量分析方法。 - 互いに構造異性体の関係にある糖鎖(A、B、C、…)を含む試料を用意し、
前記糖鎖(A、B、C、…)を、標識化合物を用いて標識を行い、標識糖鎖(A′、B′、C′、…)を得て、
前記標識糖鎖(A′、B′、C′、…)を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブイオンを測定することによって、前記標識糖鎖(A′、B′、C′、…)からそれぞれ特異的に生じるイオン(a、b、c、…)を検出することによって、前記糖鎖(A、B、C、…)を互いに識別することを含む、糖鎖の質量分析方法。 - 前記イオン(a、b、c、…)についてそれぞれ構造解析を行うことによって、前記糖鎖(A、B、C、…)の全体構造又は部分構造をそれぞれ同定する、請求の範囲第2項に記載の質量分析方法。
- 複数種の糖鎖の構造異性体がそれぞれ既知混合比で含まれる試料を用意し、
前記複数種の糖鎖の構造異性体を、標識化合物を用いて標識を行い、複数種の標識された構造異性体を得て、
前記複数種の標識された構造異性体を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブイオンを測定し、前記複数種の標識された構造異性体それぞれから特異的に生じるイオンを検出することによって、前記複数種の糖鎖の構造異性体の解析を行うことを含む、糖鎖の質量分析方法。 - 前記検出された特異的に生じるイオンについて構造解析を行うことによって、前記複数の糖鎖の構造異性体それぞれの全体構造又は部分構造を同定し、及び/又は、
前記検出された特異的に生じるイオンを、前記複数種の構造異性体の定量のためのイオンとして決定し、前記決定されたイオンのイオン強度と前記既知混合比との関係を見出す、請求の範囲第4項に記載の糖鎖の質量分析方法。 - 前記複数種の糖鎖の構造異性体が未知混合比で含まれる試料を用意し、
前記複数の構造異性体を、標識化合物を用いて標識を行い、複数種の標識された構造異性体を得て、
前記複数種の標識された構造異性体を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブイオンを測定し、前記複数種の標識された構造異性体それぞれから特異的に生じるイオンを検出することによって、前記複数種の糖鎖の構造異性体の解析を行うことを含み、
前記検出された特異的に生じるイオンについて構造解析を行うことによって、前記複数の糖鎖の構造異性体それぞれの全体構造又は部分構造を同定し、及び/又は、
前記検出された特異的に生じるイオンのイオン強度から、請求の範囲第5項に記載の方法によって見出された関係に基づいて、前記未知混合比を算出する、糖鎖の質量分析方法。 - (1)構造未知の1種又は複数種の糖鎖を含む試料を用意し、
前記構造未知の糖鎖を、標識化合物を用いて標識を行い、構造未知の標識糖鎖を得て、
前記構造未知の標識糖鎖を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブイオンを測定し、
(2)別途、構造既知の1種又は複数種の糖鎖を含む試料を用意し、
前記構造既知の糖鎖を、標識化合物を用いて標識を行い、構造既知の標識糖鎖を得て、
前記構造既知の標識糖鎖を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブイオンを測定し、
(3)前記(1)で得られた、前記構造未知の標識糖鎖のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報と、前記(2)で得られた、前記構造既知の標識糖鎖のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報との比較を行うことによって、前記構造未知の糖鎖の解析を行うことを含む、糖鎖の質量分析方法。 - 前記(3)において、前記構造未知の標識糖鎖のマススペクトルのピーク全体及び/又は前記マススペクトルから得られる情報の全体と、前記構造既知の標識糖鎖のマススペクトルのピーク全体及び/又は前記マススペクトルから得られる情報の全体とが一致することを確認することにより、前記構造未知の糖鎖は、前記構造既知の糖鎖と同じ構造を有すると決定する、請求の範囲第7項に記載の糖鎖の質量分析方法。
- 前記(3)において、前記構造未知の標識糖鎖のマススペクトルの特定のピーク及び/又は前記マススペクトルから得られる特定の情報と、前記構造既知の標識糖鎖のマススペクトルの特定のピーク及び/又は前記マススペクトルから得られる特定の情報とが一致することを確認することにより、前記構造未知の糖鎖は、前記構造既知の糖鎖と同じ構造を部分構造として有すると決定する、請求の範囲第7項に記載の糖鎖の質量分析方法。
- 前記標識化合物が、芳香族の基本骨格を有する化合物である、請求の範囲第1項に記載の糖鎖の質量分析方法。
- 前記芳香族が、ピレン、ベンゼン、及びピリジンからなる群から選ばれる、請求の範囲第10項に記載の糖鎖の質量分析方法。
- 前記標識化合物が、芳香族アミン及び芳香族カルボン酸ヒドラジドからなる群から選ばれる、請求の範囲第1項に記載の糖鎖の質量分析方法。
- 前記標識化合物が、ピレンブタン酸ヒドラジド、アミノピレン、2−アミノピリジン、2−アミノベンゼン、アミノ安息香酸、及びアミノ安息香酸エステルからなる群から選ばれる、請求の範囲第1項に記載の糖鎖の質量分析方法。
- 前記糖鎖が、フコース及び/又は酸性糖を中性化処理して生ぜしめた糖を有する糖鎖である、請求の範囲第1項に記載の糖鎖の質量分析方法。
- 前記糖鎖が、フコース及び/又は酸性糖を有する糖鎖であり、前記標識糖鎖は、前記標識処理と、前記酸性糖の中性化処理とを行うことによって得る、請求の範囲第1項に記載の糖鎖の質量分析方法。
- 前記酸性糖が、シアル酸、硫酸基含有糖、及びリン酸基含有糖からなる群から選ばれる、請求の範囲第14又は15項に記載の糖鎖の質量分析方法。
- 糖鎖を、標識化合物を用いて標識を行い、標識糖鎖を得て、
前記標識糖鎖を、MALDI質量分析装置を用いてネガティブイオンを測定することによって得られたマススペクトル。 - 請求の範囲第17項に記載のマススペクトルから得られる糖鎖の情報であって、糖鎖の特定の構造異性体から特異的に生じるイオン種の情報及び前記特定の構造異性体の構造情報を含む情報。
- 請求の範囲第17項に記載のマススペクトル及び/又は請求の範囲第18項に記載の情報を含むデータ集。
- (1)特定の疾患の罹患者に由来する、生体分子Xを含む試料を用意し、
前記生体分子Xを、標識化合物を用いて標識し、標識された生体分子X′を得て、
前記標識された生体分子X′をMALDI質量分析装置によりネガティブイオン測定し、
(2)別途、前記特定の疾患の非罹患者に由来する、生体分子Yを含む試料を用意し、
前記生体分子Yを、標識化合物を用いて標識し、標識された生体分子Y′を得て、
前記標識された生体分子Y′をMALDI質量分析装置によりネガティブイオン測定し、
(3)前記(1)で得られた前記標識された生体分子X′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報と、前記(2)で得られた前記標識された生体分子Y′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報とを比較し、互いに異なるマススペクトルピーク及び/又は情報を見出すことによって、前記特定の疾患の発現に関わる構造の存在を確認する、疾患マーカーの検索法。 - 前記見出された異なるマススペクトルピーク又は情報のうち、
質量/電荷において異なり、且つ、前記標識された生体分子X′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報に含まれて、前記標識された生体分子Y′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報には含まれないもの、又は、
同一の質量/電荷であってイオン強度において異なり、且つ、前記標識された生体分子X′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報に、前記標識された生体分子Y′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報よりも強いイオン強度で検出されているものから、前記特定の疾患の発現に関わる構造を解析し、
前記特定の疾患の発現に関わる構造又は前記生体分子Xの構造を疾患マーカーの構造として決定する、請求の範囲第20項に記載の疾患マーカーの検索法。 - 前記生体分子が糖鎖である、請求の範囲第20項に記載の疾患マーカーの検索法。
- 前記特定の疾患が癌であり、前記生体分子がフコース及び/又はシアル酸含有糖鎖又は血液型抗原である、請求の範囲第20項に記載の疾患マーカーの検索法。
- 前記特定の疾患が自己免疫疾患に起因し且つ血液型と相関を示す疾患であり、前記生体分子がフコース及び/又はシアル酸含有糖鎖又は血液型抗原である、請求の範囲第20項に記載の疾患マーカーの検索法。
- 前記特定の疾患が心臓疾患又は高コレステロール血症であり、前記生体分子がフコース及び/又はシアル酸含有糖鎖又は血液型抗原である、請求の範囲第20項に記載の疾患マーカーの検索法。
- 前記標識化合物が、ピレン誘導体、ベンゼン誘導体、及びピリジン誘導体からなる群から選ばれる、請求の範囲第20項に記載の疾患マーカーの検索法。
- 前記標識化合物が、ピレンブタン酸ヒドラジド、アミノピレン、2−アミノピリジン、2−アミノベンゼン、アミノ安息香酸、及びアミノ安息香酸エステルからなる群から選ばれる、請求の範囲第20項に記載の疾患マーカーの検索法。
- 被験者に由来する、生体分子Zを含む試料を用意し、
前記生体分子Zを、標識化合物を用いて標識し、標識された生体分子Z′を得て、
前記標識された生体分子Z′をMALDI質量分析装置によりネガティブイオン測定し、
疾患マーカーのマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報を指標として、得られた前記標識された生体分子Z′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報から、前記被験者における特定の疾患の発現の有無又は前記発現の程度を判断する、生体分子を含む試料の解析法。 - (1)被験者に由来する、生体分子Zを含む試料を用意し、
前記生体分子Zを、標識化合物を用いて標識し、標識された生体分子Z′を得て、
前記標識された生体分子Z′をMALDI質量分析装置によりネガティブイオン測定し、
(2)別途、疾患マーカーを用意し、
前記疾患マーカーを、標識化合物を用いて標識し、標識された疾患マーカーを得て、
前記標識された生体分子Z′をMALDI質量分析装置によりネガティブイオン測定し、
(3)前記(1)で得られた前記標識された生体分子Z′のマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報と、前記(2)で得られた疾患マーカーのマススペクトル及び/又は前記マススペクトルから得られる情報とを比較し、前記被験者における特定の疾患の発現の有無又は前記発現の程度を判断する、生体分子を含む試料の解析法。 - 被験者に由来する、生体分子を含む試料を用意し、請求の範囲第20〜27項のいずれか1項に記載の方法によって見出された疾患マーカーを用いて、前記被験者における特定の疾患の発現の有無又は前記発現の程度を判断する、生体分子を含む試料の解析法。
- 請求の範囲第20〜27項のいずれか1項に記載の方法によって見出された疾患マーカーであって、フコース及び/又はシアル酸を含む糖鎖構造を有するマーカー。
- 請求の範囲第20〜27項のいずれか1項に記載の方法によって見出された疾患マーカーであって、血液型抗原糖鎖構造を有する疾患マーカー。
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