JP7039255B2 - シアロ糖鎖の分子量の測定方法 - Google Patents
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Description
そこで本発明は、シアロ糖鎖の分子量を高感度で測定することができる方法を提供することを目的とする。
以下、本発明を示す。
ホスホニウム系縮合剤の存在下、前記シアロ糖鎖と下記式(I)で表される芳香族アミン化合物とを反応させる工程を含むことを特徴とする方法。
Ar-R-NH2 (I)
[式中、Arは置換基を有していてもよい6~18員芳香族環基を示し、Rは単結合またはC1-6アルキレン基を示す。]
Ar-R-NH2 (I)
[式中、Arは置換基を有していてもよい6~18員芳香族環基を示し、Rは単結合またはC1-6アルキレン基を示す。]
シアル酸を含む糖鎖を有する糖タンパク質であるフェチュインの糖鎖を芳香族アミン化合物でアミド化し、分子量を測定した。
(1) 糖鎖試料の調製
PVDFメンブレン上に固定化した10μgのフェチュインを、2UのN-グリコシダーゼFを使って37℃で16時間処理することで、フェチュインからN結合型糖鎖を遊離させた。次いで、凍結乾燥により溶媒を除き、遊離させた糖鎖を乾固させた。
乾燥させた上記糖鎖試料を濃度が10μMとなるようDMSOに溶解させた。10μL(100pmol)の糖鎖試料に対し、芳香族アミン化合物として、アニリン塩酸塩またはベンジルアミン塩酸塩の2M DMSO溶液を10μL加え、混合した。更に、脱水縮合剤として、(7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩(PyAOP)をDMSO/15%N-メチルモルホリン混合溶媒に500mMの濃度で溶解した溶液を20μL加え、室温で撹拌しながら1.5時間反応させた。反応後の溶液に、アセトニトリルを360μL加えて希釈した。
精製用の担体としてSep-Pak NH2(Waters社)100mgを充填した容量1mLのカラムを3mLの0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液で洗浄した後、0.1%TFAを含む90%アセトニトリル溶液5mLでカラムを平衡化した。当該カラムに上記希釈反応溶液をチャージすることで、反応溶液中の糖鎖を担体に吸着させた。次に、0.1%TFAを含む90%アセトニトリル溶液5mLでカラムを洗浄した。最後に、0.1%TFA水溶液1mLにより糖鎖を溶出させ、凍結乾燥することで溶媒を除き乾固させることにより、アミド化糖鎖を得た。
アミド化糖鎖のイオン化強度の比較対象として用いるため、シアル酸含有糖鎖からシアル酸を除去した脱シアロ化糖鎖を調製した。10μLのフェチュイン遊離糖鎖試料(100pmol)に対し、100mM塩酸を10μL添加し、タッピングにより混合した。これを80℃に設定したヒートブロック上で2時間加熱することで、シアル酸とガラクトース間のグリコシド結合を切断した。反応後の溶液に100%アセトニトリルを180μL加えて希釈した。得られた希釈反応溶液から、上記(2)と同様のカラムクロマトグラフィによる精製と凍結乾燥により、脱シアロ化糖鎖を得た。
乾固した上記糖鎖試料を10μLの超純水で覆水し、MALDI測定プレート上に0.5μL滴下した。マトリックス溶液として、1mM NaCl、0.1%TFAおよび20mg/mL 2,5-ジヒドロキシ安息香酸(DHB)を含む50%メタノール溶液を0.5μL加え、10回ピペッティングすることで混合した。乾燥後、0.1μLのエタノールを滴下して、マトリックスと糖鎖試料との共結晶を再結晶化させた。この試料について、MALDI-TOF-MS(「Ultraflextreme」Bruker Daltonics製)を用い、正イオン化モードで質量分析を行った。脱シアロ化糖鎖の分析結果を図1(1)に、ベンジルアミド化糖鎖の分析結果を図1(2)に、フェニルアミド化糖鎖の分析結果を図1(3)に示す。また、表1に、三分岐トリシアロ糖鎖構造に由来するピークのイオン強度を示す。
なお、図の糖鎖中、菱形はシアル酸を示し、丸はヘキソースを示し、三角はデオキシヘキソースを示し、四角はN-アセチルヘキソサミンを示す。より具体的には、灰色の菱形はN-アセチルノイラミン酸を示し、白抜きの菱形(◇)はN-グリコシルノイラミン酸を示し、白抜きの丸(○)はガラクトースを示し、灰色の丸はマンノースを示し、灰色の三角はフコースを示し、黒色の四角(■)はN-アセチルグルコサミンを示す。
上記実施例1(1)と同様にして、フェチュイン遊離糖鎖試料を調製した。10μLのフェチュイン遊離糖鎖試料(100pmol)を、1Mのアセトヒドラジド水溶液25μLと超純水15μLに混合し、HClを用いて混合溶液のpHを3.5に調整した。その後、2Mの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)水溶液を10μL添加し、室温で2時間反応させアミド化を行った。反応後、900μLのアセトニトリルを加えて希釈した。
得られた希釈反応溶液から、上記実施例1(2)と同様のカラムクロマトグラフィによる精製と凍結乾燥により、アセトヒドラジドアミド化シアル酸糖鎖を得た。得られたアミド化シアル酸糖鎖を、上記実施例1(4)と同様にして質量分析に付した。分析結果を図2(1)に示す。また、表1に、三分岐トリシアロ糖鎖構造に由来するピークのイオン強度を示す。
上記実施例1(1)と同様にして、フェチュイン遊離糖鎖試料を調製した。乾燥させた糖鎖試料を10μMの濃度でDMSOに溶解させた。10μL(100pmol)の糖鎖試料溶液に対し、メチルアミン塩酸塩、ジメチルアミンまたはイソプロピルアミンの2M DMSO溶液を10μL加え、混合した。脱水縮合剤として、(7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩(PyAOP)の濃度が500mMとなるようDMSO/15%N-メチルモルホリンに溶解したものを20μL加え、室温で撹拌しながら1.5時間反応させた。反応後の溶液に、100%アセトニトリルを360μL加えて希釈した。
一方、図1に示す質量分析結果の通り、縮合剤としてPyAOPを用い且つ求核剤としてベンジルアミンを反応させたベンジルアミド化糖鎖(図1(2))では、脱シアロ化糖鎖(図1(1))と同等のイオン強度で糖鎖のピークが観測された。また、縮合剤としてPyAOPを用い且つフェニルアミンを求核剤として用いた場合も(図1(3))、糖鎖のイオン強度比は脱シアロ化糖鎖に対して25%以上であった。この結果から、縮合剤としてホスホニウム系縮合剤を用い且つフェニル基などの芳香環を持つ化合物を求核剤として使用することで、従来のアミド化方法よりも高感度にシアロ糖鎖を検出可能であることが明らかにされた。
本実施例では、動物組織切片上の糖タンパク質のシアロ糖鎖に対して、芳香族アミンによるアミド化を実施した。
(1) 組織の固定と包埋
正常マウスと非アルコール性脂肪肝炎(NASH)モデルマウスの肝臓を日本チャールスリバー社から購入し、その一部を切り出し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した後、10%中性緩衝ホルマリンで組織を固定化した。その後、70%エタノール、80%エタノール、90%エタノール、100%エタノールに順次浸漬することにより、組織を脱水した。その後、キシレンで組織を透徹させた後、60℃に加熱して融解したパラフィンに包埋した。
ミクロトーム(ライカバイオシステムズ製)を使用して、パラフィン包埋した組織を5μmの厚さに薄切りし、酸化インジウムスズが表面にコートされた導電性スライドガラス上に張り付けた。張り付けた組織は、60℃に設定したヒートブロック上で1時間加熱することで、導電性スライドガラス上に接着させた。
切片をキシレンに2回、100%エタノールに2回、90%エタノールに2回浸漬することで、脱パラフィンを行った。その後、超純水に浸漬して洗浄した。
洗浄後の切片を98℃に加熱したクエン酸緩衝液(pH6.0)中に入れ、加温することにより、ホルマリンにより架橋された膜タンパク質を脱架橋した。その後、切片を容器ごと加熱器具から取り出し、室温まで徐々に冷却した。冷却後、切片を超純水に5分間浸漬することで洗浄し、デシケーター内で乾燥させた。
乾燥させた組織切片に対し、求核剤として、ベンジルアミン塩酸塩を2Mの濃度でDMSOに溶解した溶液を5mL加え、5分間振とうした。更に、脱水縮合剤として、PyAOPを250mMの濃度でDMSO/15% N-メチルモルホリンに溶解した溶液を5mL加え、室温で撹拌しながら1.5時間反応させた。反応後、エタノールと超純水を使用して切片を洗浄した。
5000UのN-グリコシダーゼFを10mM重炭酸アンモニウム水溶液で希釈し、エアブラシを使用して、組織切片を張り付けた導電性スライドガラス全体に塗布した。37℃の高湿度環境中、16時間インキュベートすることで、N結合型糖鎖を遊離させた後、乾燥させた。
マトリックス溶液として、1mM NaCl、0.1%TFAおよび20mg/mL 2,5-ジヒドロキシ安息香酸(DHB)を含む50%メタノール溶液を、スライドガラス全体に塗布した。乾燥後、得られた試料について、MALDI-TOF-MS(「Ultraflextreme」Bruker Daltonics製)により、正イオン化モードで質量分析を行った。正常マウス由来の組織切片資料の分析結果を図3に、NASHマウス由来の組織切片資料の分析結果を図4に示す。
上記実施例2(1),(2)と同様にして、組織切片を作製した。乾燥させた組織切片に対し、求核剤として1Mアセトヒドラジド水溶液を5mL添加し、HClを用いて反応液のpHを3.5に調整した。その後、2M EDC水溶液を1mL添加し、2時間室温で反応させた。さらに2回、2M EDC水溶液を1mL添加し、室温で2時間反応させることで、切片上のシアロ糖鎖をアミド化させた。アミド化反応後、エタノールと超純水を使用して切片を洗浄した。分析結果を図5に示す。
それに対して、ベンジルアミンを求核剤とし且つPyAOPを縮合剤として用いた実施例2では、シアロ糖鎖に由来するピークは13種検出され、ハイマンノース型糖鎖を含めて正常マウスでは17種、NASHマウスでは18種類の糖鎖を検出することができた。この結果から、ベンジルアミド化により、従来のアミド化方法と比較して切片上に存在するシアロ糖鎖を高感度に検出できることがわかる。
FlexImagingソフトフェア(Bruker Daltonics製)を使って、TIC正規化処理を行った上記実施例2で得られたマススペクトルを各糖鎖の質量数に基づいてフィルタ(誤差範囲:±0.5Da)にかけることで、イメージング画像を作成した。結果を図6に示す。
図6に示す結果の通り、正常マウスの肝臓試料とNASHマウスの肝臓試料とでは、特定の分子量を有する膜タンパク質糖鎖の中に、明らかに分布が異なるものがあり、また、本発明方法によれば、分子量の検出感度の高さから、かかる分布の違いを検出することが可能である。よって本発明方法によれば、生体試料を直接測定に付すことにより、疾患の診断や進行ステージの正確な測定が可能になり得る。
Claims (7)
- シアロ糖鎖の分子量を質量分析により測定する方法であって、
ホスホニウム系縮合剤の存在下、前記シアロ糖鎖と下記式(I)で表される芳香族アミン化合物とを反応させる工程を含むことを特徴とする方法。
Ar-R-NH2 (I)
[式中、Arは置換基を有していてもよい6~18員芳香族環基を示し、Rは単結合またはC1-6アルキレン基を示す。] - 前記シアロ糖鎖が、生体試料の糖タンパク質に結合しているものである請求項1に記載の方法。
- 更に、前記シアロ糖鎖を前記糖タンパク質から切断する工程を含む請求項2に記載の方法。
- 更に、前記生体試料における前記シアロ糖鎖が有する特定の分子量の分布を可視化する工程を含む請求項2または3に記載の方法。
- 前記ホスホニウム系縮合剤としてヘキサフルオロリン酸 (7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムまたはヘキサフルオロリン酸 (ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムを用いる請求項1~4のいずれかに記載の方法。
- 前記Arがベンゼン環である請求項1~5のいずれかに記載の方法。
- 前記Rがメチレンである請求項1~6のいずれかに記載の方法。
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