JP2004317398A - 質量分析法 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は、生体の組織や細胞中に存在する微量の生体分子を質量分析法によって同定することによって、各種疾病等を迅速かつ簡便に診断するための方法を提供することを目的とする。質量分析法において、イオン化が困難とされていた生体分子のイオン化を促進するための方法を提供することを目的とする。
【解決手段】生体分子に結合する能力のある反応基を有し、+1から+6の正の総電荷又は−6から−1の負の総電荷を有する蛍光標識化剤で生体分子を標識することを含む、生体分子の質量分析法を提供する。
【選択図】 なし
【解決手段】生体分子に結合する能力のある反応基を有し、+1から+6の正の総電荷又は−6から−1の負の総電荷を有する蛍光標識化剤で生体分子を標識することを含む、生体分子の質量分析法を提供する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、生物の組織又は細胞に微量に存在する生体分子の構造情報を質量分析法によって検出するための改善された方法に関する。具体的には、本発明は、生体分子に結合する能力のある反応基を有する蛍光標識化剤を使用することによる、質量分析法における生体分子の検出感度を増加させる方法であって、蛍光標識化剤が電荷を有することを特徴とする方法に関する。
【0002】
本発明の方法は、好ましくは、電荷を有する蛍光標識化試薬とマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF MS)を組み合わせた技術を利用することにより行われる。
【0003】
【従来の技術】
生体の高次調節機構において、生体分子の構造と機能との相関関係を調べることは非常に重要である。生体の組織や細胞に微量にしか発現しないような核酸やタンパク質を抽出し、それらの配列情報や三次元構造を迅速かつ簡便に同定することは、分子構造から分子機能を推定しようとするバイオインフォマティックスの分野、又は、発現したタンパク質を網羅的に解析していこうとするプロテオミクスの分野において重要な課題である。
【0004】
高次調節機構を制御する生体分子としは、上述の核酸やタンパク質の他に、複合糖質、例えば、糖鎖、糖質等の重要性が認識されつつある。生体内におけるタンパク質のおおよそ50%以上のタンパク質には糖鎖が結合した形で存在しており、糖鎖が糖タンパク質の構造及び機能を制御する役割を果たしていると言われている。さらに、糖鎖を認識する分子と糖タンパク質の相互作用が様々な生命現象に深く関わっていることもわかってきた。ところが、糖タンパク質においては、1種類のタンパク質であっても、タンパク質に結合する糖鎖構造は一様ではないため、そのタンパク質にどのような糖鎖が結合し、糖鎖がどのように機能しているのか知ることは、こうした糖鎖の不均一性により非常に困難である。
【0005】
最近、タンパク質の分野においては、ハイスループットによる構造解析法が確立しつつあり、糖鎖の分野においても同様に構造解析法が確立しつつある。糖鎖構造解析研究のための手法としては、例えば、糖鎖の遊離法、クロマトグラフィー法、電気泳動法、化学分解法、NMR法、質量分析、酵素消化法、相互作用解析法等が代表されるが、このうち、質量分析法の近年の進歩が目覚しい。しかしながら、質量分析による糖鎖の構造解析には、糖鎖が、タンパク質やペプチドとは異なり、イオン化しにくく、さらには、糖鎖の質量分析から得られる構造情報としては、糖鎖の分子量、及び糖配列、例えば、ヘキソースやN−アセチルヘキソサミンの違いを知ることができるのみであり、糖鎖を構成する分子量が同じである糖残基の種類を同定することはできず、したがって、複雑に枝分かれした糖鎖構造全体を決定することや結合位置を同定することは困難である。そこで、糖鎖の構造解析には、イオン化効率の悪さを補うために多量の試料が必要とされること、そして、糖鎖構造全体を決定するためには、質量分析以外の手法を用いることは必須であった。従って、糖鎖をハイスループットで解析するためには、質量分析においては、測定すべき糖鎖量を1pmolより少なくする必要がある。
【0006】
近年、糖鎖の構造解析においては、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI: Matrix−Assited Laser Desorption/Ionization)と飛行時間型(TOF: Time of Flight)法を組み合わせたMALDI−TOF質量分析が主流となりつつある。MALDIで生体分子を測定する場合には、レーザーエネルギーを吸収し、分子をイオン化するのを補助するマトリックスが必要となる。これまで、糖鎖をイオン化させるために使用されるマトリックスとしては、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、アラビノオキサゾン、β−カルボリン等が知られている。
【0007】
さらに、糖鎖は、UV吸収がなく、蛍光を発しないために、たとえ、上記の質量分析法によって測定したとしても、検出することは困難である。また、糖鎖を標識する場合、未反応の標識試薬を除去する工程が必要であり、こうした工程等による糖鎖試料の喪失を極力減らすために、精製工程等はない方が好ましい。
【0008】
従来、糖鎖を蛍光標識する試薬として、2−アミノピリジン(PA)が知られている。PAを用いて糖鎖を蛍光標識する場合は、ヒドラジン又は酵素による糖鎖の遊離、及び標識化後のPA化糖鎖の精製という煩雑な工程を必要とする。なお、PAは電荷を持たず、PA化糖鎖のMALDI−TOFによる検出では十分な感度が得られない。
【0009】
本発明者らは、糖鎖構造解析用として、UV吸収を有し、糖鎖と結合する能力を有する標識試薬、4−(ビオチンアミド)フェニルアセチルヒドラジド(BPH)を開発した(Shinohara,Y.et al.,1996)。しかしながら、この標識試薬で標識化された糖鎖を用いて質量分析を行う場合においても、1度の質量分析には少なくとも10pmolを必要とした。
【0010】
また、特願平10−517295は、生物学的研究用に開発したシアニン色素(特願2000−504202)を用いて炭水化物を標識し、二次元電気泳動で解析する方法を開示している。
【0011】
【特許文献1】特願2000−504202
【0012】
【特許文献2】特願平10−517295
【0013】
【非特許文献1】Shinohara,Y.et al.,Anal.Chem.,68,2573−2579(1996)
【0014】
【非特許文献2】Naven,T.J.P.and Harvey,D.J.,Rapid Commun.Mass Spectrom.,10,829−834(1996)
【0015】
【非特許文献3】Nonami,H.et al.,J.MassSpectrom.,32,287−296(1997)
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
生体の組織や細胞に存在する微量の核酸、タンパク質、糖鎖等の生体分子を質量分析法によって、迅速かつ簡便に、しかも極力少ない試料で分析することができれば、生体分子の異常に伴う各種疾病等のハイスループットな高感度検出が可能となる。
【0017】
したがって、本発明の目的は、生体分子に結合する能力のある反応基を有し、電荷を有する蛍光標識化剤を使用することによって、質量分析法における生体分子の検出感度を増加させる方法を提供することである。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、電荷を有する蛍光標識化剤によって標識した生体分子は、質量分析によって容易にイオン化され、したがって、生体分子を高感度で検出できることを見出し、本発明の方法を完成させた。
【0019】
具体的は、本発明の方法は、生体分子に結合する能力のある反応基を有し、電荷を有する蛍光標識化剤で標識した生体分子の質量を分析することを含む、生体分子の質量分析法を提供する。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明は、電荷を有する蛍光標識化剤を用いて生体分子を標識し、生体分子を高感度で測定することを目的とする。一般的に、生体分子の測定には、クロマトグラフィー法、電気泳動法、化学分解法、NMR法、質量分析法、酵素消化法、相互作用解析法等が例示されるが、本発明の方法において使用される蛍光標識化剤を用いる限り、これらの方法に限定されない。
【0021】
以下、本発明の説明のために、好ましい実施形態に関して詳述する。
(1)質量分析法
本発明は、生体分子に結合する能力のある反応基を有し、+1から+6の正の総電荷又は−6から−1の負の総電荷を有する蛍光標識化剤で標識した生体分子の質量を分析することを含む、生体分子の質量分析法である。
【0022】
「質量分析法」とは、試料導入部、イオン化部、質量分離部及び検出部を含む気相イオン分光計を用いて、主に試料の質量を測定する分析方法である。具体的には、試料をイオン化部(又は装置)でイオン化し、得られたイオン化分子を質量分離部で質量/電荷(m/z)に従って分離し、検出部で検出する方法である。本願明細書において「質量分析計」というときは、試料、例えば、タンパク質、ペプチド、核酸、糖鎖等の生体分子を上記「質量分析法」よって測定することを可能にした装置をいう。質量分析計は、ターボ分子ポンプ又は油拡散ポンプによって高真空に維持され、イオン化部から発生又は飛行したイオン化分子は、高真空のため、他の気体分子との相互作用により散乱又は断片化されることなくイオン検出部に到達する。検出部に到達したイオンは、増幅された後、電気信号に変換され、スペクトルとしてデータ処理される。尚、「測定」には、分離、検出、増幅、定量、および半定量のいずれもが包含される。
【0023】
生体分子のイオン化法は、特に限定されるものではないが、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、レーザー脱離(LD)法、高速原子衝撃(FAB)法、液体二次イオン質量分析(LSIMS)法、液体イオン化(LI)、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、大気圧化学イオン化(APCI)法が例示される。このうち、LD法はマトリックスを使用しないため、生体分子自身が照射されるレーザー光を吸収し、イオン化され得ることが必要となる。一方、MALDI法では、照射されるレーザー光の波長に則して使用可能なマトリックスを選択する必要がある。したがって、マトリックスがレーザー光を吸収しさえすれば、生体分子自身がレーザー光を吸収する必要がないため、多種類の生体分子をイオン化することができる。
【0024】
本発明によれば、生体分子の質量分析法に使用されるイオン化法は、好ましくは、MALDI法、ESI法、APCI法であり、より好ましくは、MALDI法である。
【0025】
生体分子のイオン化に使用されるマトリックスは、イオン化に使用されるレーザーの種類によって異なり、以下の化合物が例示される。レーザーとして、Nd−YAG第4高周波266nmを使用する場合は、ニコチン酸、2−ピラジンカルボン酸等が挙げられる。パルス窒素レーザー337nmやNd−YAG第3高周波355nmを使用する場合には、シナピン酸(3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシケイ皮酸)(SA)、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(αCHCA)、フェルラ酸(FA)、3−ヒドロキシピコリン酸(HPA)、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、5−メトキシサリチル酸、ジアミノナフタレン、2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸、ジスラノール、2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン(THAP)等が挙げられる。また、CO2 2.94μmを使用する場合には、コハク酸、5−(トリフルオロメチル)ウラシル、グリセリン等が挙げられる。
【0026】
タンパク質、ペプチド、糖ペプチドを分析する場合には、マトリックスとして、ニコチン酸、シナピン酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、5−メトキシサリチル酸、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(α−CHCA)、ジアミノナフタレン、コハク酸、5−(トリフルオロメチル)ウラシル等が好ましい。2,5−ジヒドロキシ安息香酸は、紫外光エネルギーを吸収し、プロトンドナーであり、さらには、極性物質と均一に混和しやすい性質を有しているため、特に好ましい。
【0027】
糖、糖鎖、糖脂質等を分析する場合には、ノルハルマン、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、α−CHCA(又は「CCA」とも言う)、アラビノオキサゾン、THAP等が好ましい。より好ましくは、ノルハルマン、DHB、アラビノオキサゾンである。さらにより好ましくは、ノルハルマン、DHBである。
【0028】
使用可能なレーザーは、パルス窒素レーザー337nmが好ましく、生体分子を急速に加熱するために、生体分子を分解させることなくイオン化することが可能である。このようなパルスイオン化は、熱イオン化の一種であり、分子量が100kDaを超える熱的不安定なタンパク質であっても分解させることなく、脱離イオン化が可能である。
【0029】
MALDI法を用いて生体分子をイオン化する場合には、一般的に、生体分子とマトリックス(溶液)をモル比で1×10−2〜5×10−4:1に混合した後、混合溶液を乾燥させ結晶状態にする。結晶にパルスレーザーを照射することにより、[M]+、[M+H]+、[M+Na]+、[M+K]+等の生体分子由来のイオン種、及びマトリックス由来のイオン種が脱離する。本発明によれば、[M]+のイオン種のみが脱離することが好ましい。通常、イオン化により3種類のイオンが形成されてしまうが、本発明の好ましい蛍光標識化剤を使用すれば、[M]+という1種類のみのイオン種として脱離させるために、感度ならびにスペクトルの複雑さが改善される、という利点が得られる。より具体的には、後述する実施例1の記載に基づいて、試料の調製及び測定を行うことができる。
【0030】
「質量分析部」とは、上記したイオン化部においてイオン化された生体分子のイオンを電磁気的相互作用を利用して、生体分子特有の質量/電荷(m/z)に従って分離する部分(又は装置)をいう。質量分析部には、飛行時間型(TOF)、四重極イオントラップ飛行時間型(QIT−TOF)、四重極型、イオントラップ型、磁場型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型(FT−ICR)が例示されるが、これらに限定されない。本発明に従えば、好ましくは、TOF、QIT−TOF、FT−ICRである。より好ましくは、TOFである。
【0031】
飛行時間型質量分析(Time of Flight Mass Spectrometry:TOFMS)法は、イオン化部から生じたイオン化分子を真空の分析管を通過する間に飛行時間の差によりそれぞれ分離し、質量の小さいものから順次検出器に到達したイオン化分子を検出することを原理とする。さらに、飛行時間型質量分析計には、リニアー型とリフレクター型がある。リニアー型では、発生したイオンが、検出器に到達するまで無電界のため直線飛行する。しかしながら、リニアー型では、飛行途中で中性粒子になったものやメタステーブルイオンも検出できるため高感度ではあるが、イオン発生時の初期エネルギーの分布がそのまま飛行時間に反映されるため分解能が低くなる。一方、リフレクター型では、イオン源から発生したイオンをデフレクターにて偏向させ、さらにリフレクターにてイオン源方向に引き戻すように電圧を加える。このイオン反射電界を付加することにより、イオン発生時のエネルギー分布により同一イオンの飛行時間が分散していた状態が打ち消され収束されるため、リフレクター型は質量分解能が高いことを特徴とする。しかし、リフレクター型では、折り返す前までのメタステーブルイオンは、未分解の安定イオンとの飛行時間が異なり、また、中性粒子は折り返さないため、特に短寿命のイオンの検出感度が低くくなる。寿命の短い高質量イオンについては、リニアー型が適している。リフレクター型では、イオン化部で生じたイオン群から飛行時間によりプレカーサーイオンを選択し、リフレクターの前でPost Source Decay(PSD)により生じたプロダクトイオンを検出することにより、MS/MSが可能である。また、飛行時間型質量分析では、より高いエネルギーを微量の生体分子に照射することによって生ずる断片化したイオン化分子の解析から生体分析の組成情報等が得られるIn Source Decay(ISD)解析が可能である。
【0032】
本発明の方法を用いたPSD解析、及び微量試料の測定に適したISD解析については、それぞれ、後述する実施例4及び5に詳述される。
本発明の方法は、上述した各種イオン化部と質量分析部とのいずれの組み合わせによっても実施することが可能であるが、MALDI法と飛行時間型(TOF)分析法を組み合わせたMALDI−TOF質量分析計において実施することが好ましい。
【0033】
本発明において使用するMALDI−TOF質量分析計としては、EttanMALDI−ToF Pro (アマシャムバイオサイエンス社製)、 Reflex IV(ブルーカー社製)等が例示される。
【0034】
四重極イオントラップ飛行時間型質量分析(Quadrupole Ion Trap−Mass Spectrometry:QIT−TOF MS)法は、TOFの前に組み込んだ四重極イオントラップにおいて、構成する2組の電極間に適当な大きさ及び周波数の高周波信号を加えることによって電極群の中心に収束したイオン化分子に対して、高周波信号の大きさと周波数を変化させることによって特定のm/zを有するイオン化分子を飛行させることを特徴とする。従って、この四重極イオントラップ中で、Collision−Induced Dissociation(CID)を利用したMSnが可能であり、前記PSDに比べてより多くのフラグメントシグナルが得られるため、生体分子の構造解析に重要な手法となる。
【0035】
本発明において使用可能なMALDI−QIT−TOF質量分析計としては、AXIMA−QIT(島津製作所社製)が例示される。
しかしながら、上記のMALDI−TOF質量分析計又はMALDI−QIT−TOF質量分析計を使用し、上述したマトリックスのいずれかを使用したとしても、イオン化が困難である糖鎖、リン酸化ペプチド、糖ペプチド、糖タンパク質等を測定する場合には、マススペクトルの解析において十分な感度が得られないことが多い。そこで、イオン化が困難である生体分子を分離/検出するためには、後述する電荷を有する蛍光標識化剤を用いて、予め生体分子を標識化(又は誘導化)することにより、イオン化効率を上昇させることができる。
【0036】
(2)蛍光標識化剤
本発明の方法に使用する蛍光標識化剤は、生体分子に結合する能力のある反応基を有し、電荷を有することを特徴とする。特に、本発明の方法に使用する蛍光標識化剤は、生体分子に結合する能力のある反応基を有し、+1から+6の正の総電荷、又は−6から−1の負の総電荷を有することを特徴とする。
【0037】
具体的には、本発明の方法に使用する蛍光標識化剤は、基幹構造に、生体分子と結合する能力のある反応基がリンカー分子を介して又は介さずに結合し、蛍光標識化剤全体として正又は負に荷電している。
【0038】
本発明の方法で使用される蛍光標識化剤の基幹構造としては、シアニン、メロシアニン、シュードシアニン、イソシアニン、スチリル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、アクリジン、インドール、ベンズオキサゾール、キノリン、イサト酸無水物、1,8−ナフタルイミド、2,3−ナフタルイミド、5−フェニル−4−ピリジル−2−オキサゾール、クマリン、ビマン(bimane)、6−N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミン、4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−S−インダセン、エチジウムクロリド、プロピジウムジクロリド、フルオレセイン、レゾルフィン、ナイル・ブルーA(Nile Blue)、ローダミン(例えば、ジヒドロテトラメチルローダミン、ジヒドロ−X−ローダミン、テキサスレッド(登録商標)、Alexa Fluor(登録商標))、ベンズイミダゾール、及びピリジン染料類が例示される。蛍光標識化剤の基幹構造としては、好ましくは、シアニン、メロシアニン、スチリルを有する。より好ましくは、シアニンを有する。尚、当業者であれば、慣用技術を用いてこれら基幹構造を有する化合物から誘導体を調製することができる。
【0039】
基幹構造が電荷を有しない場合には、慣用技術を用いて、基幹構造に電荷を有する誘導体を調製することができ、あるいは電荷を有する原子若しくは分子(若しくは基)を例えばリンカー分子として結合させてもよい。具体的には、例えば、基幹構造又はリンカー分子に電荷を有する原子、例えば、窒素、酸素、硫黄、リン、又はこれらの原子の1つ若しくはそれ以上を含む分子(若しくは基)を導入することによって、蛍光標識化剤の総電荷を調節することができる。
【0040】
蛍光標識化剤は、生体分子に結合する能力のある反応基を有し、該蛍光標識化剤で標識した生体分子の質量を分析することができれば、蛍光標識化剤の総電荷は限定されない。
【0041】
蛍光標識化剤の正の総電荷は、好ましくは+1ないし+6、より好ましくは+1ないし+3、さらにより好ましくは+1ないし+2、最も好ましくは+1である。
【0042】
蛍光標識化剤の負の総電荷は、好ましくは−6ないし−1、より好ましくは−3ないし−1、さらにより好ましくは−2ないし−1、最も好ましくは−1である。
【0043】
本明細書において、「生体分子に結合する能力のある反応基」とは、蛍光標識化剤を所期の生体分子に結合させることのできる基である。反応基は、生体分子との結合性を損なわなずに、生体分子の構造及び機能に影響を与えない範囲において、蛍光標識化中の基幹構造に直接結合してもよく、又はリンカー分子を介して基幹構造に結合してもよい。前記反応基は、1個又はそれ以上、1種類又はいくつかの組み合わせによって、基幹構造又はリンカー分子に結合してもよい。
【0044】
本発明の方法に使用する蛍光標識化剤は、生体分子に結合する能力のある反応基を有し、全体として+1から+6の正の総電荷、又は−6から−1の負の総電荷を有することを特徴とする。蛍光標識化剤の基幹構造が電荷を有する場合には、反応基又は反応基+リンカー分子部分は、電荷を有しない、即ち、0でもよい。例えば、蛍光標識化剤の基幹構造がシアニン又はスチリルの場合、基幹構造中の窒素が+1に帯電している。よって、これに結合する反応基又は反応基+リンカー分子部分は電荷が0でもよい。これに対し、基幹構造がメロシアニンの場合、基幹構造中の窒素は帯電していない。よって、これに結合する反応基又は反応基+リンカー分子部分は、+1から+6の正の電荷、又は−6から−1の負の電荷を有する。
【0045】
反応基が基幹構造に直接結合する場合は、基幹構造上の反応基の結合位置は限定されない。好ましくは、基幹構造を構成する炭素、窒素、酸素、硫黄、リンである。より好ましくは、窒素、炭素、酸素である。最も好ましくは、窒素である。
【0046】
反応基がリンカー分子に結合する場合は、反応基の結合位置は限定されない。好ましくは、反応基の結合位置は、少なくとも1個の反応基がリンカー分子の末端に結合する。
【0047】
反応基の好ましい態様は、第一級アミン、第二級アミン、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、ピラゾロン、スルフヒドリル、カルボキシル、ヒドロキシル、チオホスフェート、イミダゾール、アルデヒド、ケトン、イソシアネート、ヒドラジドが例示される。好ましくは、反応基は、ヒドラジド、アミン、ヒドロキシルアミンである。より好ましくは、ヒドラジド、ヒドロキシルアミンである。最も好ましくは、ヒドラジドである。
【0048】
リンカー分子は、基幹構造と反応基とを連結するための分子をいう。リンカー分子は、電荷を有しない基幹構造、例えば、ナフタレン等を使用する場合には、電荷を有する原子又は分子(若しくは基)を導入するすることによって、リンカー分子に電荷を持たせることができる。また、リンカー分子は、蛍光標識化剤の担持する電荷、又は生体分子のイオン化によって生じる電荷を保持することができ、蛍光を消長しない分子であることが好ましい。
【0049】
リンカー分子の好ましい態様は、炭素、窒素、酸素、硫黄、及びリンから選択される1−60個の鎖原子を含むことができ、例えば、
(a) −(CH2)x−;
(b) −((CH2)p−CO−)y−
(c) −((CH2)p−O−(CH2)q)y−;
(d) −((CH2)p−CONH−(CH2)q)y−;又は
(e) −((CH2)p−Ar−(CH2)q)y−
[式中、
xは、1−30、好ましくは、1−10であり;
pは、1−10、好ましくは、1−5であり;
qは、0−10、好ましくは、0−5であり;
yは、1−10、好ましくは、1−5であり;及び
Arは、アリールである]
である。
【0050】
好ましくは、−((CH2)p−CO−)y−(ここで、pは1−5であり、yは1−5である)である。
より好ましくは、−(CH2)5−C(=O)−である。
【0051】
本発明の質量分析法に使用する蛍光標識化剤の好ましい一態様は、以下のシアニン
【0052】
【化5】
【0053】
メロシアニン
【0054】
【化6】
【0055】
スチリル
【0056】
【化7】
【0057】
[ここで、
mは、0、1、2、3、及び4よりなる群から選択される整数であり;
X及びYは、独立して、O、S、C(R8)p(ここで、pは、1又は2であり、R8は、H又はC1−C4アルキルである)から選択され;
基R1ないしR9の少なくとも一つは、0ないし6個の正に帯電した窒素、リン、若しくは硫黄原子、又は0ないし6個の負に帯電した酸素、若しくは硫黄原子を含む反応基を含み;そして
点線は、それぞれ前記シアニン、メロシアニン、及びスチリル染料を形成するのに必要な炭素原子を表す]
から選択される。
【0058】
あるいは、上記化合物中の窒素を含む環は、点線を構成する炭素原子と、窒素及びX又はYが一緒になって、飽和又は不飽和の、五員環又は六員環を形成してもよい。
【0059】
好ましくは、前記基R1ないしR9の少なくとも一つに含まれる、0ないし6個の正に帯電した窒素、リン若しくは硫黄原子、又は0ないし6個の負に帯電した酸素、若しくは硫黄原子を含む反応基が、第一級アミン、第二級アミン、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、ピラゾン、スルフヒドリル、カルボキシル、ヒドロキシル、チオホスフェート、イミダゾール、並びにアルデヒド及びケトンが含まれるカルボニルから選択される。
【0060】
基R1ないしR9に含まれる0ないし6個の正に帯電した窒素、リン、若しくは硫黄原子、又は0ないし6個の負に帯電した酸素若しくは硫黄原子を含む反応基は、基R1ないしR9中の好ましくは1ないし2箇所、より好ましくは1箇所に存在する。
【0061】
好ましくは、基R1及び/又はR2に反応基を有する。
より好ましくは、前記基R1ないしR9の少なくとも一つに含まれる、0ないし6個の正に帯電した窒素、リン若しくは硫黄原子、又は0ないし6個の負に帯電した酸素若しくは硫黄原子を含む反応基が、−(CH2)5−C(=O)−NHNH2である。
【0062】
蛍光標識化剤のより好ましい一態様は、前記基R1ないしR9の、0ないし6個の正に帯電した窒素、リン若しくは硫黄原子、又は0ないし6個の負に帯電した酸素若しくは硫黄原子を含む反応基以外のものは、特に限定されない。
【0063】
好ましくは、基R1ないしR9の、0ないし6個の正に帯電した窒素、リン、若しくは硫黄原子、又は0ないし6個の負に帯電した酸素若しくは硫黄原子を含む反応基以外のものは、独立して、水素、イソチオシアネート、イソシアネート、モノクロロトリアジン、ジクロロトリアジン、モノ−ないしジハロゲン置換ピリジン、モノ−ないしジハロゲン置換ジアジン、マレイミド、アジリジン、スルホニルハリド、酸ハリド、ヒドロキシスクシンイミドエステル、ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル、イミドエステル、ヒドラジン、アジドニトロフェニル、アジド、3−(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド、グリオキサル及びアルデヒドよりなる群から選択される。
【0064】
蛍光標識化剤のさらにより好ましい一態様は、化学式(I)
【0065】
【化8】
【0066】
[式中、
X及びYは、C(CH3)2であり;
nは、1又は2の整数であり;
R1は、−(CH2)5−C(=O)−NHNH2であり:
R2は、−(CH2)mCH3(ここで、mは0から3までの整数)であり;および
R10及びR11は、Hである]
を有するシアニン誘導体である。
【0067】
好ましくは、前記シアニン誘導体は、nが1であり、mが1である。本明細書においては、これにより定義されるシアニン誘導体を「Cy3−ヒドラジド」と称することがある。
【0068】
好ましくは、前記シアニン誘導体は、nが2であり、mが0である。本明細書においては、これにより定義されるシアニン誘導体を「Cy5−ヒドラジド」と称することがある。
【0069】
好ましくは、N−ヒドラジノカルボニルアルキル−シュードシアニンである。より好ましくは、1−エチル−1’−(4−ヒドラジノカルボニルブチル)−2,2’−シアニンである。
【0070】
本発明の質量分析に使用可能な蛍光標識化剤は、特願2002−504202に開示されたシアニン色素を使用することができ、該シアニン色素を製造する場合においては、本明細書に援用することができる。
【0071】
(3)生体分子の蛍光標識化と質量分析
(a)生体分子
本発明の方法によって測定可能である限り、生体分子の起源、製法等は限定されない。即ち、本願明細書において「生体分子」というときは、天然産物、化学合成物の何れでもよい。具体的には、生体分子は、生物学的材料由来であり得て、器官、組織、細胞からの抽出物、例えば、糖、糖鎖、タンパク質、ペプチド、リン酸化ペプチド、核酸、糖タンパク質、糖ペプチド、糖脂質等である。生体分子は、上述した蛍光標識化剤の反応基と相互作用し、該蛍光標識化剤が結合し得る官能基を有することが好ましい。好ましくは、生体分子の官能基は、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、スルフヒドリル基である。より好ましくは、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基である。最も好ましくは、カルボニル基である。
【0072】
本発明の方法によれば、質量分析が可能な生体分子は、イオン化が困難である生体分子、例えば、糖鎖、リン酸化ペプチド、糖ペプチドである。好ましくは、糖鎖である。
【0073】
「糖鎖」には、単糖類、オリゴ糖類や生体中に含有される多糖類の他、糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、糖脂質などの複合糖質から誘導された糖鎖等が含まれる。単糖類には、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、キシロース、グルクロン酸、イズロン酸が含まれる。オリゴ糖は、1種類又はそれより多くの単糖が2ないし10数個連結したものであり、ラクトース、スクロース、キトトリオース、NA2、NGA3が例示される。多糖とは、オリゴ糖を構成する単糖の数がオリゴ糖よりも多いものをいう。ここで、上記のオリゴ糖、多糖を構成する単糖(糖残基)同士は、α又はβグリコシド結合によって連結する。「α」及び「β」は糖環1位のグリコシド結合のアノマーを示し、5位CH2OH又はCH3との位置関係がトランスのものを「α」、シスのものを「β」で示す。構成する糖残基のうち、アノマー炭素が他の糖残基と結合していない糖残基を還元末端といい、アノマー炭素のみで他の糖残基と結合している糖残基を非還元末端という。オリゴ糖中の還元末端は、1つであり、非還元末端は、オリゴ等の分岐によって1ないし複数個存在する。ここで、オリゴ糖の蛍光標識は、還元末端のアノマー炭素の水酸基と蛍光標識化剤の反応基を反応させることによって、オリゴ糖中の特定の位置に蛍光標識化剤を結合させることができる。
【0074】
(b)蛍光標識化
前記蛍光標識化剤を用いれば、生体分子のいずれをも蛍光標識することができ、蛍光標識化は、慣用技術を用いて行うことができる。
【0075】
具体的には、生体分子がタンパク質、ペプチド等のようにアミノ酸から構成されるものであれば、アミノ酸側鎖の水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルフヒドリル基等に、慣用技術を用いて、蛍光標識化剤を結合させることができる。
【0076】
複合糖質を蛍光標識する場合には、糖鎖の還元末端の遊離した水酸基を利用することができる。単糖、オリゴ糖、多糖の場合は、還元末端が遊離の状態であるため、前処理をしなくてよい。これ以外の複合糖質の場合は、ヒドラジン分解−N−アセチル化、アルカリ処理、トリフルオロアセトリシス、オゾノリシス等の化学的手法、グリコペプチダーゼ、エンドグリコシダーゼ、グリコセラミダーゼ等の酵素による処理等の公知の方法によって前処理を行い、還元末端を遊離させればよい。より具体的には、後述する実施例1に記載したように、糖鎖と蛍光標識化剤を混合し、加熱することによって、糖鎖を蛍光標識することができる。本発明によれば、蛍光標識した糖鎖は、精製することなく質量分析を行うことができる。
【0077】
(c)質量分析
本発明によれば、一般的にイオン化が困難であるとされる生体分子、例えば、糖鎖、リン酸化ペプチド、糖ペプチド等の質量分析を行うことができる。生体分子を質量分析によって測定する場合、当該技術分野において周知なように、生体分子は少なくとも10pmol必要である。本発明の方法によれば、これらの生体分子の質量分析を行う場合、生体分子の必要量は、1pmol以下、好ましくは、0.1pmol以下、より好ましくは、0.01pmol以下、さらに好ましくは、1fmol以下、最も好ましくは、0.25fmol以下である。したがって、本発明によれば、生体分子の質量分析の感度増加は、蛍光標識化剤を使用しない従来の手法に比にして、10倍、好ましくは、100倍、より好ましくは、1000倍、さらに好ましくは、10000倍、最も好ましくは、40000倍である。理論に縛られるわけではないが、本発明の質量分析法の感度増加は、生体分子を一定の蛍光標識剤で標識することにより、イオン化率が向上することに因ると考えられる。
【0078】
具体的には、実施例2に示すように、糖鎖をMALDI−TOF MSで解析すると、糖鎖が1fmolあればマススペクトルを得ることができる。蛍光標識化剤を使用しない従来の方法では、糖鎖の質量分析には10pmol必要とされていたので、本発明の方法によれば、糖鎖の質量分析の感度増加は10000倍である。
【0079】
本発明の方法によれば、MALDI−TOF MSを用いた生体分子の解析は、質量情報を得ることに限定されず、PSD(Post Source Decay)解析、ISD(In Source Decay)解析、タンデムマス解析等によって、生体分子の組成情報、配列情報、構造情報等を得ることができる。
【0080】
本明細書において、「PSD解析」とは、TOF質量分析計内を飛行中に断片化した励起分子イオンを検出することによって、生体分子の組成情報が詳細に得られる手法をいう。「断片」とは、当該技術分野において周知なように、生体分子を構成する分子間の結合、例えば、ペプチド結合、グリコシド結合等が、レーザーのエネルギーによって切断され得られた、生体分子の各構成成分、又は構成成分の2個若しくはそれより多くが結合したままの分子単位をいう。PSD解析によって、未知試料又は構成成分が不明な生体分子の組成情報等を得ることができる。具体的に、実施例4には、Cy5標識化ラクト−ネオ−フコペンタオース糖鎖のPSD解析によって、該糖鎖を構成する糖残基の種類及び糖鎖の一次構造情報が得られることを示している。
【0081】
本明細書において、「ISD解析」とは、TOF質量分析において、生体分子をより高いエネルギーのレーザーを照射し、レーザー照射と同時に生体分子が断片化し、発生した励起分子イオンを検出することによって、PSD解析と比べて、より少量の試料から生体分子の組成情報等が得られる手法をいう。具体的に、実施例5には、PSD解析で使用した糖鎖の1/10量で、該糖鎖を構成する糖残基の種類及び糖鎖の一次構造情報が得られることを示している。
【0082】
本発明の方法によれば、生体分子を上述した蛍光標識化剤で標識した後は、未反応の標識化剤を除去する工程を必要とせず、質量分析計に試料を導入し、測定することができる。一方、未反応の蛍光標識化剤を除去し、精製した蛍光標識化した生体分子を用いる場合は、慣用の精製技術、例えば、クロマトグラフィー等によって精製することができる。具体的には、実施例6に示すように、蛍光標識した糖鎖は、ZipTip C18カラム担体(ミリポア社製)に捕獲され、水で容易に分離精製することが可能である。
【0083】
本発明の方法によれば、蛍光標識化剤の蛍光波長及び/又は分子量の異なる2種又はそれより多くの蛍光標識化剤を用いて、質量分析による生体分子のディファレンシャル分析又はイメージングを行うことができる。
【0084】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0085】
実施例1 糖鎖の蛍光標識化
アセトニトリル中の25mM キトトリオースの1μl及び50mM Cy3−ヒドラジドの2μlを小バイアルに30%アセトニトリルの17μlに添加した。混合物をヒートブロック上で90℃1時間加熱した。室温に冷却後、混合物を適宜希釈し、精製せずにMALDI−TOF質量分析計で解析した。
【0086】
実施例2 検出限界の検討
Cy3−ヒドラジドで標識したキトトリオース糖鎖を用いて、測定試料の最小量を求める検討を行った(図1参照)。Cy3標識した糖鎖が、1pmol、200、40、10、4、2、及び1fmolになるように希釈し、MALDI−TOFのレフレクトロンモードで測定した。使用した装置はReflex IV(ブルーカー社)であり、マトリックスはノルハルマンである。調製した最小量の1fmolでは、シグナル/ノイズ(S/N)比は3以上であった(図1最上段)。したがって、標識化糖鎖が1fmolよりもさらに少ない量であっても測定が可能であると考えられる。また、リニアーモードによれば、さらに少ない量で測定することができると考えられる。これより、従来、糖鎖を質量分析し、良好なマススペクトルを検出できるために最低限10pmol必要であったことを考慮すると、本発明の方法によって、質量分析による検出感度は、10000倍増加したといえる。
【0087】
実施例3 検出感度の増加
オボアルブミン由来のN−グリカンをCy3−ヒドラジン又はGirard’s Tで標識し、MALDI−TOF質量分析を行った(図2)。図2aは、対照例として、N−グリカン(10pmol)を標識化せずに、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)をマトリックスとし、Ettan MALDI Pro(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いて測定した。マススペクトルは全く検出できなかった。これに対して、N−グリカンをCy3−ヒドラジンで標識し、α−CHCA(CCA)をマトリックスとして質量分析を行った場合には、オボアルブミン特有のマススペクトルが得られた(図2b)。
【0088】
図3aは、Girard’s Tで標識したN−グリカン(30pmol)をDHBをマトリックスとしてReflex IVを用いて測定した結果である。図3bは、Cy3−ヒドラジドで標識したN−グリカン(400fmol)をDHBをマトリックスとしてReflex IVを用いて測定した結果である。両者を比較すると、Girard’s Tで標識したN−グリカンの質量分析では、マススペクトルが得られるが、S/N比が悪い(図3a)。これに対して、Cy−3ヒドラジド標識したN−グリカンの場合は、使用量がおよそ1/100であるにもかかわらず、S/N比が高いマススペクトルが得られた(図3b)。さらに、ノルハルマンをマトリックスとして使用した場合には、200fmolの使用量で、より良好なマススペクトルが得られた(図3c)。
【0089】
以上より、Cy3−ヒドラジドを用いて糖鎖を標識することによって、S/N比を高くし、検出感度を増加させることができた。
実施例4 質量分析におけるPSD解析
Cy5−ヒドラジドで標識したラクト−ネオ−フコペンタオース(20pmol)を用いてPSD解析を行った(図4参照)。この糖鎖の一次構造は、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glcである。CCAをマトリックスとし、Ettan MALDI Proで測定した。糖鎖は、レーザー照射により、非還元末端から切断され断片化する。糖鎖の還元末端の糖残基を蛍光標識するため、標識された還元末端の糖残基を有する断片のみが、マススペクトルとして検出される。図中の低分子側から、Cy5−ヒドラジド(481.742 m/z)、標識された糖残基(658.5 m/z)がマススペクトルとして検出され、順次、糖残基が1つずつ付加していくマススペクトルが得られる。各スペクトル間は、構成する糖残基に相当し、例えば、Hex(ヘキソース)は、ラクト−ネオ−フコペンタオースの還元末端側から2番目のガラクトース(Gal)に対応している。また、dHex(デオキシヘキソース)は、非還元末端に位置したフコースに対応している。したがって、本発明の方法は、PSD解析に適しており、糖鎖を構成する糖残基の種類、及び一次配列を決定するの上で有効な方法であるといえる。
【0090】
実施例5 質量分析におけるISD解析
Cy5−ヒドラジドで標識したラクト−ネオ−フコペンタオース(2pmol)を用いてISD解析を行った(図5)。CCAをマトリックスとし、Reflex IVで測定した。図中のHexNAc(N−アセチルヘキソサミン)は、糖鎖の還元末端側から3番目のN−アセチルグルコサミンに対応し、4番目のHex(ヘキソース)は、ガラクトース(Gal)に対応する。したがって、本発明の方法は、ISD解析にも適しており、実施例4に記載したPSD検出に比べて、試料の使用量が少なくて済み、PSD解析と同様に糖鎖を構造する糖残基の種類、及び一次配列を決定する上で有効な方法であるといえる。
【0091】
実施例6 標識糖鎖の精製
標識化後に残存する蛍光標識化剤の除去について検討した結果を図6に示す。上述した実施例では、標識化糖鎖を精製することなく質量分析計に共しているが、未反応の蛍光標識化剤を除去し精製した標識化糖鎖を使用する場合においても、本発明の方法が有効である。即ち、実施例1に記載の蛍光標識化方法によって標識した糖鎖(1514 m/z)の反応溶液をZipTip C18カラムに流すと、反応物はカラムに捕獲され、蛍光標識化糖鎖は、50%アセトニトリル(ACN)では溶出されず(図6上段)、水に対して溶出された(図6下段)。したがって、本実施例に従えば、未反応の蛍光標識化剤を除去し、標識化糖鎖を容易に精製することができる。
【0092】
【発明の効果】
本発明により、質量分析による生体分子の分離及び/又は検出の感度を増加させることができた。したがって、微量な生体分子を検出することによる、各種疾患の迅速及び簡便な診断等が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、キトトリオースをCy3−ヒドラジドで標識化後、標識化糖鎖の1pmol、200、40、10、4、2、及び1fmolについてMALDI−TOF質量分析を行った結果を示す。Reflex IVを用い、ノルハルマンをマトリックスとして使用し、レフレクトロンモードでMALDI−TOF質量分析を行った。
【図2】図2は、オボアルブミン由来のN−グリカンを蛍光標識し、蛍光標識化剤及びマトリックスの違いによる検出感度の増加における効果を検討した結果である。パネルa:N−グリカン(10pmol)を標識化せずに、DHBをマトリックスとし、Ettan MALDI Proを用いて測定した。パネルb:N−グリカン(10pmol)をCy3−ヒドラジンで標識し、CCAをマトリックスとして質量分析を行った。
【図3】図3は、オボアルブミン由来のN−グリカンを蛍光標識し、蛍光標識化剤及びマトリックスの違いによる検出感度の増加における効果を検討した結果である。パネルa:Girard’s Tで標識したN−グリカン(30pmol)をDHBをマトリックスとしてReflex IVを用いて測定した。パネルb:Cy3−ヒドラジドで標識したN−グリカン(400fmol)をDHBをマトリックスとしてReflex IVを用いて測定した。パネルc:Cy3−ヒドラジドで標識したN−グリカン(200fmol)をノルハルマンをマトリックスとしてReflex IVを用いて測定した。
【図4】図4は、MALDI−TOFを用いたCy−5標識したラクト−ネオ−フコペンタオース(20pmol)のPSD解析の結果を示す。マトリックスをCCAとし、Ettan MALDI Proを使用した。
【図5】図5は、MALDI−TOFを用いたCy−5標識したラクト−ネオ−フコペンタオース(2pmol)のISD解析の結果を示す。マトリックスをCCAとし、Reflex IVを使用した。
【図6】図6は、標識化後に残存する蛍光標識化剤の除去について検討した結果である。Cy標識した糖鎖(m/z 1514)の反応溶液をZipTip C18カラムに流し、反応物をカラムに捕獲される。その後、蛍光標識化糖鎖は、50%アセトニトリル(ACN)では溶出されず(図6上段)、水に対して溶出された(図6下段)。
【発明の属する技術分野】
本発明は、生物の組織又は細胞に微量に存在する生体分子の構造情報を質量分析法によって検出するための改善された方法に関する。具体的には、本発明は、生体分子に結合する能力のある反応基を有する蛍光標識化剤を使用することによる、質量分析法における生体分子の検出感度を増加させる方法であって、蛍光標識化剤が電荷を有することを特徴とする方法に関する。
【0002】
本発明の方法は、好ましくは、電荷を有する蛍光標識化試薬とマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF MS)を組み合わせた技術を利用することにより行われる。
【0003】
【従来の技術】
生体の高次調節機構において、生体分子の構造と機能との相関関係を調べることは非常に重要である。生体の組織や細胞に微量にしか発現しないような核酸やタンパク質を抽出し、それらの配列情報や三次元構造を迅速かつ簡便に同定することは、分子構造から分子機能を推定しようとするバイオインフォマティックスの分野、又は、発現したタンパク質を網羅的に解析していこうとするプロテオミクスの分野において重要な課題である。
【0004】
高次調節機構を制御する生体分子としは、上述の核酸やタンパク質の他に、複合糖質、例えば、糖鎖、糖質等の重要性が認識されつつある。生体内におけるタンパク質のおおよそ50%以上のタンパク質には糖鎖が結合した形で存在しており、糖鎖が糖タンパク質の構造及び機能を制御する役割を果たしていると言われている。さらに、糖鎖を認識する分子と糖タンパク質の相互作用が様々な生命現象に深く関わっていることもわかってきた。ところが、糖タンパク質においては、1種類のタンパク質であっても、タンパク質に結合する糖鎖構造は一様ではないため、そのタンパク質にどのような糖鎖が結合し、糖鎖がどのように機能しているのか知ることは、こうした糖鎖の不均一性により非常に困難である。
【0005】
最近、タンパク質の分野においては、ハイスループットによる構造解析法が確立しつつあり、糖鎖の分野においても同様に構造解析法が確立しつつある。糖鎖構造解析研究のための手法としては、例えば、糖鎖の遊離法、クロマトグラフィー法、電気泳動法、化学分解法、NMR法、質量分析、酵素消化法、相互作用解析法等が代表されるが、このうち、質量分析法の近年の進歩が目覚しい。しかしながら、質量分析による糖鎖の構造解析には、糖鎖が、タンパク質やペプチドとは異なり、イオン化しにくく、さらには、糖鎖の質量分析から得られる構造情報としては、糖鎖の分子量、及び糖配列、例えば、ヘキソースやN−アセチルヘキソサミンの違いを知ることができるのみであり、糖鎖を構成する分子量が同じである糖残基の種類を同定することはできず、したがって、複雑に枝分かれした糖鎖構造全体を決定することや結合位置を同定することは困難である。そこで、糖鎖の構造解析には、イオン化効率の悪さを補うために多量の試料が必要とされること、そして、糖鎖構造全体を決定するためには、質量分析以外の手法を用いることは必須であった。従って、糖鎖をハイスループットで解析するためには、質量分析においては、測定すべき糖鎖量を1pmolより少なくする必要がある。
【0006】
近年、糖鎖の構造解析においては、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI: Matrix−Assited Laser Desorption/Ionization)と飛行時間型(TOF: Time of Flight)法を組み合わせたMALDI−TOF質量分析が主流となりつつある。MALDIで生体分子を測定する場合には、レーザーエネルギーを吸収し、分子をイオン化するのを補助するマトリックスが必要となる。これまで、糖鎖をイオン化させるために使用されるマトリックスとしては、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、アラビノオキサゾン、β−カルボリン等が知られている。
【0007】
さらに、糖鎖は、UV吸収がなく、蛍光を発しないために、たとえ、上記の質量分析法によって測定したとしても、検出することは困難である。また、糖鎖を標識する場合、未反応の標識試薬を除去する工程が必要であり、こうした工程等による糖鎖試料の喪失を極力減らすために、精製工程等はない方が好ましい。
【0008】
従来、糖鎖を蛍光標識する試薬として、2−アミノピリジン(PA)が知られている。PAを用いて糖鎖を蛍光標識する場合は、ヒドラジン又は酵素による糖鎖の遊離、及び標識化後のPA化糖鎖の精製という煩雑な工程を必要とする。なお、PAは電荷を持たず、PA化糖鎖のMALDI−TOFによる検出では十分な感度が得られない。
【0009】
本発明者らは、糖鎖構造解析用として、UV吸収を有し、糖鎖と結合する能力を有する標識試薬、4−(ビオチンアミド)フェニルアセチルヒドラジド(BPH)を開発した(Shinohara,Y.et al.,1996)。しかしながら、この標識試薬で標識化された糖鎖を用いて質量分析を行う場合においても、1度の質量分析には少なくとも10pmolを必要とした。
【0010】
また、特願平10−517295は、生物学的研究用に開発したシアニン色素(特願2000−504202)を用いて炭水化物を標識し、二次元電気泳動で解析する方法を開示している。
【0011】
【特許文献1】特願2000−504202
【0012】
【特許文献2】特願平10−517295
【0013】
【非特許文献1】Shinohara,Y.et al.,Anal.Chem.,68,2573−2579(1996)
【0014】
【非特許文献2】Naven,T.J.P.and Harvey,D.J.,Rapid Commun.Mass Spectrom.,10,829−834(1996)
【0015】
【非特許文献3】Nonami,H.et al.,J.MassSpectrom.,32,287−296(1997)
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
生体の組織や細胞に存在する微量の核酸、タンパク質、糖鎖等の生体分子を質量分析法によって、迅速かつ簡便に、しかも極力少ない試料で分析することができれば、生体分子の異常に伴う各種疾病等のハイスループットな高感度検出が可能となる。
【0017】
したがって、本発明の目的は、生体分子に結合する能力のある反応基を有し、電荷を有する蛍光標識化剤を使用することによって、質量分析法における生体分子の検出感度を増加させる方法を提供することである。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、電荷を有する蛍光標識化剤によって標識した生体分子は、質量分析によって容易にイオン化され、したがって、生体分子を高感度で検出できることを見出し、本発明の方法を完成させた。
【0019】
具体的は、本発明の方法は、生体分子に結合する能力のある反応基を有し、電荷を有する蛍光標識化剤で標識した生体分子の質量を分析することを含む、生体分子の質量分析法を提供する。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明は、電荷を有する蛍光標識化剤を用いて生体分子を標識し、生体分子を高感度で測定することを目的とする。一般的に、生体分子の測定には、クロマトグラフィー法、電気泳動法、化学分解法、NMR法、質量分析法、酵素消化法、相互作用解析法等が例示されるが、本発明の方法において使用される蛍光標識化剤を用いる限り、これらの方法に限定されない。
【0021】
以下、本発明の説明のために、好ましい実施形態に関して詳述する。
(1)質量分析法
本発明は、生体分子に結合する能力のある反応基を有し、+1から+6の正の総電荷又は−6から−1の負の総電荷を有する蛍光標識化剤で標識した生体分子の質量を分析することを含む、生体分子の質量分析法である。
【0022】
「質量分析法」とは、試料導入部、イオン化部、質量分離部及び検出部を含む気相イオン分光計を用いて、主に試料の質量を測定する分析方法である。具体的には、試料をイオン化部(又は装置)でイオン化し、得られたイオン化分子を質量分離部で質量/電荷(m/z)に従って分離し、検出部で検出する方法である。本願明細書において「質量分析計」というときは、試料、例えば、タンパク質、ペプチド、核酸、糖鎖等の生体分子を上記「質量分析法」よって測定することを可能にした装置をいう。質量分析計は、ターボ分子ポンプ又は油拡散ポンプによって高真空に維持され、イオン化部から発生又は飛行したイオン化分子は、高真空のため、他の気体分子との相互作用により散乱又は断片化されることなくイオン検出部に到達する。検出部に到達したイオンは、増幅された後、電気信号に変換され、スペクトルとしてデータ処理される。尚、「測定」には、分離、検出、増幅、定量、および半定量のいずれもが包含される。
【0023】
生体分子のイオン化法は、特に限定されるものではないが、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、レーザー脱離(LD)法、高速原子衝撃(FAB)法、液体二次イオン質量分析(LSIMS)法、液体イオン化(LI)、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、大気圧化学イオン化(APCI)法が例示される。このうち、LD法はマトリックスを使用しないため、生体分子自身が照射されるレーザー光を吸収し、イオン化され得ることが必要となる。一方、MALDI法では、照射されるレーザー光の波長に則して使用可能なマトリックスを選択する必要がある。したがって、マトリックスがレーザー光を吸収しさえすれば、生体分子自身がレーザー光を吸収する必要がないため、多種類の生体分子をイオン化することができる。
【0024】
本発明によれば、生体分子の質量分析法に使用されるイオン化法は、好ましくは、MALDI法、ESI法、APCI法であり、より好ましくは、MALDI法である。
【0025】
生体分子のイオン化に使用されるマトリックスは、イオン化に使用されるレーザーの種類によって異なり、以下の化合物が例示される。レーザーとして、Nd−YAG第4高周波266nmを使用する場合は、ニコチン酸、2−ピラジンカルボン酸等が挙げられる。パルス窒素レーザー337nmやNd−YAG第3高周波355nmを使用する場合には、シナピン酸(3,5−ジメトキシ−4−ヒドロキシケイ皮酸)(SA)、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(αCHCA)、フェルラ酸(FA)、3−ヒドロキシピコリン酸(HPA)、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)、5−メトキシサリチル酸、ジアミノナフタレン、2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸、ジスラノール、2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン(THAP)等が挙げられる。また、CO2 2.94μmを使用する場合には、コハク酸、5−(トリフルオロメチル)ウラシル、グリセリン等が挙げられる。
【0026】
タンパク質、ペプチド、糖ペプチドを分析する場合には、マトリックスとして、ニコチン酸、シナピン酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、5−メトキシサリチル酸、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(α−CHCA)、ジアミノナフタレン、コハク酸、5−(トリフルオロメチル)ウラシル等が好ましい。2,5−ジヒドロキシ安息香酸は、紫外光エネルギーを吸収し、プロトンドナーであり、さらには、極性物質と均一に混和しやすい性質を有しているため、特に好ましい。
【0027】
糖、糖鎖、糖脂質等を分析する場合には、ノルハルマン、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、α−CHCA(又は「CCA」とも言う)、アラビノオキサゾン、THAP等が好ましい。より好ましくは、ノルハルマン、DHB、アラビノオキサゾンである。さらにより好ましくは、ノルハルマン、DHBである。
【0028】
使用可能なレーザーは、パルス窒素レーザー337nmが好ましく、生体分子を急速に加熱するために、生体分子を分解させることなくイオン化することが可能である。このようなパルスイオン化は、熱イオン化の一種であり、分子量が100kDaを超える熱的不安定なタンパク質であっても分解させることなく、脱離イオン化が可能である。
【0029】
MALDI法を用いて生体分子をイオン化する場合には、一般的に、生体分子とマトリックス(溶液)をモル比で1×10−2〜5×10−4:1に混合した後、混合溶液を乾燥させ結晶状態にする。結晶にパルスレーザーを照射することにより、[M]+、[M+H]+、[M+Na]+、[M+K]+等の生体分子由来のイオン種、及びマトリックス由来のイオン種が脱離する。本発明によれば、[M]+のイオン種のみが脱離することが好ましい。通常、イオン化により3種類のイオンが形成されてしまうが、本発明の好ましい蛍光標識化剤を使用すれば、[M]+という1種類のみのイオン種として脱離させるために、感度ならびにスペクトルの複雑さが改善される、という利点が得られる。より具体的には、後述する実施例1の記載に基づいて、試料の調製及び測定を行うことができる。
【0030】
「質量分析部」とは、上記したイオン化部においてイオン化された生体分子のイオンを電磁気的相互作用を利用して、生体分子特有の質量/電荷(m/z)に従って分離する部分(又は装置)をいう。質量分析部には、飛行時間型(TOF)、四重極イオントラップ飛行時間型(QIT−TOF)、四重極型、イオントラップ型、磁場型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型(FT−ICR)が例示されるが、これらに限定されない。本発明に従えば、好ましくは、TOF、QIT−TOF、FT−ICRである。より好ましくは、TOFである。
【0031】
飛行時間型質量分析(Time of Flight Mass Spectrometry:TOFMS)法は、イオン化部から生じたイオン化分子を真空の分析管を通過する間に飛行時間の差によりそれぞれ分離し、質量の小さいものから順次検出器に到達したイオン化分子を検出することを原理とする。さらに、飛行時間型質量分析計には、リニアー型とリフレクター型がある。リニアー型では、発生したイオンが、検出器に到達するまで無電界のため直線飛行する。しかしながら、リニアー型では、飛行途中で中性粒子になったものやメタステーブルイオンも検出できるため高感度ではあるが、イオン発生時の初期エネルギーの分布がそのまま飛行時間に反映されるため分解能が低くなる。一方、リフレクター型では、イオン源から発生したイオンをデフレクターにて偏向させ、さらにリフレクターにてイオン源方向に引き戻すように電圧を加える。このイオン反射電界を付加することにより、イオン発生時のエネルギー分布により同一イオンの飛行時間が分散していた状態が打ち消され収束されるため、リフレクター型は質量分解能が高いことを特徴とする。しかし、リフレクター型では、折り返す前までのメタステーブルイオンは、未分解の安定イオンとの飛行時間が異なり、また、中性粒子は折り返さないため、特に短寿命のイオンの検出感度が低くくなる。寿命の短い高質量イオンについては、リニアー型が適している。リフレクター型では、イオン化部で生じたイオン群から飛行時間によりプレカーサーイオンを選択し、リフレクターの前でPost Source Decay(PSD)により生じたプロダクトイオンを検出することにより、MS/MSが可能である。また、飛行時間型質量分析では、より高いエネルギーを微量の生体分子に照射することによって生ずる断片化したイオン化分子の解析から生体分析の組成情報等が得られるIn Source Decay(ISD)解析が可能である。
【0032】
本発明の方法を用いたPSD解析、及び微量試料の測定に適したISD解析については、それぞれ、後述する実施例4及び5に詳述される。
本発明の方法は、上述した各種イオン化部と質量分析部とのいずれの組み合わせによっても実施することが可能であるが、MALDI法と飛行時間型(TOF)分析法を組み合わせたMALDI−TOF質量分析計において実施することが好ましい。
【0033】
本発明において使用するMALDI−TOF質量分析計としては、EttanMALDI−ToF Pro (アマシャムバイオサイエンス社製)、 Reflex IV(ブルーカー社製)等が例示される。
【0034】
四重極イオントラップ飛行時間型質量分析(Quadrupole Ion Trap−Mass Spectrometry:QIT−TOF MS)法は、TOFの前に組み込んだ四重極イオントラップにおいて、構成する2組の電極間に適当な大きさ及び周波数の高周波信号を加えることによって電極群の中心に収束したイオン化分子に対して、高周波信号の大きさと周波数を変化させることによって特定のm/zを有するイオン化分子を飛行させることを特徴とする。従って、この四重極イオントラップ中で、Collision−Induced Dissociation(CID)を利用したMSnが可能であり、前記PSDに比べてより多くのフラグメントシグナルが得られるため、生体分子の構造解析に重要な手法となる。
【0035】
本発明において使用可能なMALDI−QIT−TOF質量分析計としては、AXIMA−QIT(島津製作所社製)が例示される。
しかしながら、上記のMALDI−TOF質量分析計又はMALDI−QIT−TOF質量分析計を使用し、上述したマトリックスのいずれかを使用したとしても、イオン化が困難である糖鎖、リン酸化ペプチド、糖ペプチド、糖タンパク質等を測定する場合には、マススペクトルの解析において十分な感度が得られないことが多い。そこで、イオン化が困難である生体分子を分離/検出するためには、後述する電荷を有する蛍光標識化剤を用いて、予め生体分子を標識化(又は誘導化)することにより、イオン化効率を上昇させることができる。
【0036】
(2)蛍光標識化剤
本発明の方法に使用する蛍光標識化剤は、生体分子に結合する能力のある反応基を有し、電荷を有することを特徴とする。特に、本発明の方法に使用する蛍光標識化剤は、生体分子に結合する能力のある反応基を有し、+1から+6の正の総電荷、又は−6から−1の負の総電荷を有することを特徴とする。
【0037】
具体的には、本発明の方法に使用する蛍光標識化剤は、基幹構造に、生体分子と結合する能力のある反応基がリンカー分子を介して又は介さずに結合し、蛍光標識化剤全体として正又は負に荷電している。
【0038】
本発明の方法で使用される蛍光標識化剤の基幹構造としては、シアニン、メロシアニン、シュードシアニン、イソシアニン、スチリル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、アクリジン、インドール、ベンズオキサゾール、キノリン、イサト酸無水物、1,8−ナフタルイミド、2,3−ナフタルイミド、5−フェニル−4−ピリジル−2−オキサゾール、クマリン、ビマン(bimane)、6−N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミン、4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−S−インダセン、エチジウムクロリド、プロピジウムジクロリド、フルオレセイン、レゾルフィン、ナイル・ブルーA(Nile Blue)、ローダミン(例えば、ジヒドロテトラメチルローダミン、ジヒドロ−X−ローダミン、テキサスレッド(登録商標)、Alexa Fluor(登録商標))、ベンズイミダゾール、及びピリジン染料類が例示される。蛍光標識化剤の基幹構造としては、好ましくは、シアニン、メロシアニン、スチリルを有する。より好ましくは、シアニンを有する。尚、当業者であれば、慣用技術を用いてこれら基幹構造を有する化合物から誘導体を調製することができる。
【0039】
基幹構造が電荷を有しない場合には、慣用技術を用いて、基幹構造に電荷を有する誘導体を調製することができ、あるいは電荷を有する原子若しくは分子(若しくは基)を例えばリンカー分子として結合させてもよい。具体的には、例えば、基幹構造又はリンカー分子に電荷を有する原子、例えば、窒素、酸素、硫黄、リン、又はこれらの原子の1つ若しくはそれ以上を含む分子(若しくは基)を導入することによって、蛍光標識化剤の総電荷を調節することができる。
【0040】
蛍光標識化剤は、生体分子に結合する能力のある反応基を有し、該蛍光標識化剤で標識した生体分子の質量を分析することができれば、蛍光標識化剤の総電荷は限定されない。
【0041】
蛍光標識化剤の正の総電荷は、好ましくは+1ないし+6、より好ましくは+1ないし+3、さらにより好ましくは+1ないし+2、最も好ましくは+1である。
【0042】
蛍光標識化剤の負の総電荷は、好ましくは−6ないし−1、より好ましくは−3ないし−1、さらにより好ましくは−2ないし−1、最も好ましくは−1である。
【0043】
本明細書において、「生体分子に結合する能力のある反応基」とは、蛍光標識化剤を所期の生体分子に結合させることのできる基である。反応基は、生体分子との結合性を損なわなずに、生体分子の構造及び機能に影響を与えない範囲において、蛍光標識化中の基幹構造に直接結合してもよく、又はリンカー分子を介して基幹構造に結合してもよい。前記反応基は、1個又はそれ以上、1種類又はいくつかの組み合わせによって、基幹構造又はリンカー分子に結合してもよい。
【0044】
本発明の方法に使用する蛍光標識化剤は、生体分子に結合する能力のある反応基を有し、全体として+1から+6の正の総電荷、又は−6から−1の負の総電荷を有することを特徴とする。蛍光標識化剤の基幹構造が電荷を有する場合には、反応基又は反応基+リンカー分子部分は、電荷を有しない、即ち、0でもよい。例えば、蛍光標識化剤の基幹構造がシアニン又はスチリルの場合、基幹構造中の窒素が+1に帯電している。よって、これに結合する反応基又は反応基+リンカー分子部分は電荷が0でもよい。これに対し、基幹構造がメロシアニンの場合、基幹構造中の窒素は帯電していない。よって、これに結合する反応基又は反応基+リンカー分子部分は、+1から+6の正の電荷、又は−6から−1の負の電荷を有する。
【0045】
反応基が基幹構造に直接結合する場合は、基幹構造上の反応基の結合位置は限定されない。好ましくは、基幹構造を構成する炭素、窒素、酸素、硫黄、リンである。より好ましくは、窒素、炭素、酸素である。最も好ましくは、窒素である。
【0046】
反応基がリンカー分子に結合する場合は、反応基の結合位置は限定されない。好ましくは、反応基の結合位置は、少なくとも1個の反応基がリンカー分子の末端に結合する。
【0047】
反応基の好ましい態様は、第一級アミン、第二級アミン、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、ピラゾロン、スルフヒドリル、カルボキシル、ヒドロキシル、チオホスフェート、イミダゾール、アルデヒド、ケトン、イソシアネート、ヒドラジドが例示される。好ましくは、反応基は、ヒドラジド、アミン、ヒドロキシルアミンである。より好ましくは、ヒドラジド、ヒドロキシルアミンである。最も好ましくは、ヒドラジドである。
【0048】
リンカー分子は、基幹構造と反応基とを連結するための分子をいう。リンカー分子は、電荷を有しない基幹構造、例えば、ナフタレン等を使用する場合には、電荷を有する原子又は分子(若しくは基)を導入するすることによって、リンカー分子に電荷を持たせることができる。また、リンカー分子は、蛍光標識化剤の担持する電荷、又は生体分子のイオン化によって生じる電荷を保持することができ、蛍光を消長しない分子であることが好ましい。
【0049】
リンカー分子の好ましい態様は、炭素、窒素、酸素、硫黄、及びリンから選択される1−60個の鎖原子を含むことができ、例えば、
(a) −(CH2)x−;
(b) −((CH2)p−CO−)y−
(c) −((CH2)p−O−(CH2)q)y−;
(d) −((CH2)p−CONH−(CH2)q)y−;又は
(e) −((CH2)p−Ar−(CH2)q)y−
[式中、
xは、1−30、好ましくは、1−10であり;
pは、1−10、好ましくは、1−5であり;
qは、0−10、好ましくは、0−5であり;
yは、1−10、好ましくは、1−5であり;及び
Arは、アリールである]
である。
【0050】
好ましくは、−((CH2)p−CO−)y−(ここで、pは1−5であり、yは1−5である)である。
より好ましくは、−(CH2)5−C(=O)−である。
【0051】
本発明の質量分析法に使用する蛍光標識化剤の好ましい一態様は、以下のシアニン
【0052】
【化5】
【0053】
メロシアニン
【0054】
【化6】
【0055】
スチリル
【0056】
【化7】
【0057】
[ここで、
mは、0、1、2、3、及び4よりなる群から選択される整数であり;
X及びYは、独立して、O、S、C(R8)p(ここで、pは、1又は2であり、R8は、H又はC1−C4アルキルである)から選択され;
基R1ないしR9の少なくとも一つは、0ないし6個の正に帯電した窒素、リン、若しくは硫黄原子、又は0ないし6個の負に帯電した酸素、若しくは硫黄原子を含む反応基を含み;そして
点線は、それぞれ前記シアニン、メロシアニン、及びスチリル染料を形成するのに必要な炭素原子を表す]
から選択される。
【0058】
あるいは、上記化合物中の窒素を含む環は、点線を構成する炭素原子と、窒素及びX又はYが一緒になって、飽和又は不飽和の、五員環又は六員環を形成してもよい。
【0059】
好ましくは、前記基R1ないしR9の少なくとも一つに含まれる、0ないし6個の正に帯電した窒素、リン若しくは硫黄原子、又は0ないし6個の負に帯電した酸素、若しくは硫黄原子を含む反応基が、第一級アミン、第二級アミン、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、ピラゾン、スルフヒドリル、カルボキシル、ヒドロキシル、チオホスフェート、イミダゾール、並びにアルデヒド及びケトンが含まれるカルボニルから選択される。
【0060】
基R1ないしR9に含まれる0ないし6個の正に帯電した窒素、リン、若しくは硫黄原子、又は0ないし6個の負に帯電した酸素若しくは硫黄原子を含む反応基は、基R1ないしR9中の好ましくは1ないし2箇所、より好ましくは1箇所に存在する。
【0061】
好ましくは、基R1及び/又はR2に反応基を有する。
より好ましくは、前記基R1ないしR9の少なくとも一つに含まれる、0ないし6個の正に帯電した窒素、リン若しくは硫黄原子、又は0ないし6個の負に帯電した酸素若しくは硫黄原子を含む反応基が、−(CH2)5−C(=O)−NHNH2である。
【0062】
蛍光標識化剤のより好ましい一態様は、前記基R1ないしR9の、0ないし6個の正に帯電した窒素、リン若しくは硫黄原子、又は0ないし6個の負に帯電した酸素若しくは硫黄原子を含む反応基以外のものは、特に限定されない。
【0063】
好ましくは、基R1ないしR9の、0ないし6個の正に帯電した窒素、リン、若しくは硫黄原子、又は0ないし6個の負に帯電した酸素若しくは硫黄原子を含む反応基以外のものは、独立して、水素、イソチオシアネート、イソシアネート、モノクロロトリアジン、ジクロロトリアジン、モノ−ないしジハロゲン置換ピリジン、モノ−ないしジハロゲン置換ジアジン、マレイミド、アジリジン、スルホニルハリド、酸ハリド、ヒドロキシスクシンイミドエステル、ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル、イミドエステル、ヒドラジン、アジドニトロフェニル、アジド、3−(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド、グリオキサル及びアルデヒドよりなる群から選択される。
【0064】
蛍光標識化剤のさらにより好ましい一態様は、化学式(I)
【0065】
【化8】
【0066】
[式中、
X及びYは、C(CH3)2であり;
nは、1又は2の整数であり;
R1は、−(CH2)5−C(=O)−NHNH2であり:
R2は、−(CH2)mCH3(ここで、mは0から3までの整数)であり;および
R10及びR11は、Hである]
を有するシアニン誘導体である。
【0067】
好ましくは、前記シアニン誘導体は、nが1であり、mが1である。本明細書においては、これにより定義されるシアニン誘導体を「Cy3−ヒドラジド」と称することがある。
【0068】
好ましくは、前記シアニン誘導体は、nが2であり、mが0である。本明細書においては、これにより定義されるシアニン誘導体を「Cy5−ヒドラジド」と称することがある。
【0069】
好ましくは、N−ヒドラジノカルボニルアルキル−シュードシアニンである。より好ましくは、1−エチル−1’−(4−ヒドラジノカルボニルブチル)−2,2’−シアニンである。
【0070】
本発明の質量分析に使用可能な蛍光標識化剤は、特願2002−504202に開示されたシアニン色素を使用することができ、該シアニン色素を製造する場合においては、本明細書に援用することができる。
【0071】
(3)生体分子の蛍光標識化と質量分析
(a)生体分子
本発明の方法によって測定可能である限り、生体分子の起源、製法等は限定されない。即ち、本願明細書において「生体分子」というときは、天然産物、化学合成物の何れでもよい。具体的には、生体分子は、生物学的材料由来であり得て、器官、組織、細胞からの抽出物、例えば、糖、糖鎖、タンパク質、ペプチド、リン酸化ペプチド、核酸、糖タンパク質、糖ペプチド、糖脂質等である。生体分子は、上述した蛍光標識化剤の反応基と相互作用し、該蛍光標識化剤が結合し得る官能基を有することが好ましい。好ましくは、生体分子の官能基は、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、スルフヒドリル基である。より好ましくは、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基である。最も好ましくは、カルボニル基である。
【0072】
本発明の方法によれば、質量分析が可能な生体分子は、イオン化が困難である生体分子、例えば、糖鎖、リン酸化ペプチド、糖ペプチドである。好ましくは、糖鎖である。
【0073】
「糖鎖」には、単糖類、オリゴ糖類や生体中に含有される多糖類の他、糖タンパク質、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、糖脂質などの複合糖質から誘導された糖鎖等が含まれる。単糖類には、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、キシロース、グルクロン酸、イズロン酸が含まれる。オリゴ糖は、1種類又はそれより多くの単糖が2ないし10数個連結したものであり、ラクトース、スクロース、キトトリオース、NA2、NGA3が例示される。多糖とは、オリゴ糖を構成する単糖の数がオリゴ糖よりも多いものをいう。ここで、上記のオリゴ糖、多糖を構成する単糖(糖残基)同士は、α又はβグリコシド結合によって連結する。「α」及び「β」は糖環1位のグリコシド結合のアノマーを示し、5位CH2OH又はCH3との位置関係がトランスのものを「α」、シスのものを「β」で示す。構成する糖残基のうち、アノマー炭素が他の糖残基と結合していない糖残基を還元末端といい、アノマー炭素のみで他の糖残基と結合している糖残基を非還元末端という。オリゴ糖中の還元末端は、1つであり、非還元末端は、オリゴ等の分岐によって1ないし複数個存在する。ここで、オリゴ糖の蛍光標識は、還元末端のアノマー炭素の水酸基と蛍光標識化剤の反応基を反応させることによって、オリゴ糖中の特定の位置に蛍光標識化剤を結合させることができる。
【0074】
(b)蛍光標識化
前記蛍光標識化剤を用いれば、生体分子のいずれをも蛍光標識することができ、蛍光標識化は、慣用技術を用いて行うことができる。
【0075】
具体的には、生体分子がタンパク質、ペプチド等のようにアミノ酸から構成されるものであれば、アミノ酸側鎖の水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルフヒドリル基等に、慣用技術を用いて、蛍光標識化剤を結合させることができる。
【0076】
複合糖質を蛍光標識する場合には、糖鎖の還元末端の遊離した水酸基を利用することができる。単糖、オリゴ糖、多糖の場合は、還元末端が遊離の状態であるため、前処理をしなくてよい。これ以外の複合糖質の場合は、ヒドラジン分解−N−アセチル化、アルカリ処理、トリフルオロアセトリシス、オゾノリシス等の化学的手法、グリコペプチダーゼ、エンドグリコシダーゼ、グリコセラミダーゼ等の酵素による処理等の公知の方法によって前処理を行い、還元末端を遊離させればよい。より具体的には、後述する実施例1に記載したように、糖鎖と蛍光標識化剤を混合し、加熱することによって、糖鎖を蛍光標識することができる。本発明によれば、蛍光標識した糖鎖は、精製することなく質量分析を行うことができる。
【0077】
(c)質量分析
本発明によれば、一般的にイオン化が困難であるとされる生体分子、例えば、糖鎖、リン酸化ペプチド、糖ペプチド等の質量分析を行うことができる。生体分子を質量分析によって測定する場合、当該技術分野において周知なように、生体分子は少なくとも10pmol必要である。本発明の方法によれば、これらの生体分子の質量分析を行う場合、生体分子の必要量は、1pmol以下、好ましくは、0.1pmol以下、より好ましくは、0.01pmol以下、さらに好ましくは、1fmol以下、最も好ましくは、0.25fmol以下である。したがって、本発明によれば、生体分子の質量分析の感度増加は、蛍光標識化剤を使用しない従来の手法に比にして、10倍、好ましくは、100倍、より好ましくは、1000倍、さらに好ましくは、10000倍、最も好ましくは、40000倍である。理論に縛られるわけではないが、本発明の質量分析法の感度増加は、生体分子を一定の蛍光標識剤で標識することにより、イオン化率が向上することに因ると考えられる。
【0078】
具体的には、実施例2に示すように、糖鎖をMALDI−TOF MSで解析すると、糖鎖が1fmolあればマススペクトルを得ることができる。蛍光標識化剤を使用しない従来の方法では、糖鎖の質量分析には10pmol必要とされていたので、本発明の方法によれば、糖鎖の質量分析の感度増加は10000倍である。
【0079】
本発明の方法によれば、MALDI−TOF MSを用いた生体分子の解析は、質量情報を得ることに限定されず、PSD(Post Source Decay)解析、ISD(In Source Decay)解析、タンデムマス解析等によって、生体分子の組成情報、配列情報、構造情報等を得ることができる。
【0080】
本明細書において、「PSD解析」とは、TOF質量分析計内を飛行中に断片化した励起分子イオンを検出することによって、生体分子の組成情報が詳細に得られる手法をいう。「断片」とは、当該技術分野において周知なように、生体分子を構成する分子間の結合、例えば、ペプチド結合、グリコシド結合等が、レーザーのエネルギーによって切断され得られた、生体分子の各構成成分、又は構成成分の2個若しくはそれより多くが結合したままの分子単位をいう。PSD解析によって、未知試料又は構成成分が不明な生体分子の組成情報等を得ることができる。具体的に、実施例4には、Cy5標識化ラクト−ネオ−フコペンタオース糖鎖のPSD解析によって、該糖鎖を構成する糖残基の種類及び糖鎖の一次構造情報が得られることを示している。
【0081】
本明細書において、「ISD解析」とは、TOF質量分析において、生体分子をより高いエネルギーのレーザーを照射し、レーザー照射と同時に生体分子が断片化し、発生した励起分子イオンを検出することによって、PSD解析と比べて、より少量の試料から生体分子の組成情報等が得られる手法をいう。具体的に、実施例5には、PSD解析で使用した糖鎖の1/10量で、該糖鎖を構成する糖残基の種類及び糖鎖の一次構造情報が得られることを示している。
【0082】
本発明の方法によれば、生体分子を上述した蛍光標識化剤で標識した後は、未反応の標識化剤を除去する工程を必要とせず、質量分析計に試料を導入し、測定することができる。一方、未反応の蛍光標識化剤を除去し、精製した蛍光標識化した生体分子を用いる場合は、慣用の精製技術、例えば、クロマトグラフィー等によって精製することができる。具体的には、実施例6に示すように、蛍光標識した糖鎖は、ZipTip C18カラム担体(ミリポア社製)に捕獲され、水で容易に分離精製することが可能である。
【0083】
本発明の方法によれば、蛍光標識化剤の蛍光波長及び/又は分子量の異なる2種又はそれより多くの蛍光標識化剤を用いて、質量分析による生体分子のディファレンシャル分析又はイメージングを行うことができる。
【0084】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0085】
実施例1 糖鎖の蛍光標識化
アセトニトリル中の25mM キトトリオースの1μl及び50mM Cy3−ヒドラジドの2μlを小バイアルに30%アセトニトリルの17μlに添加した。混合物をヒートブロック上で90℃1時間加熱した。室温に冷却後、混合物を適宜希釈し、精製せずにMALDI−TOF質量分析計で解析した。
【0086】
実施例2 検出限界の検討
Cy3−ヒドラジドで標識したキトトリオース糖鎖を用いて、測定試料の最小量を求める検討を行った(図1参照)。Cy3標識した糖鎖が、1pmol、200、40、10、4、2、及び1fmolになるように希釈し、MALDI−TOFのレフレクトロンモードで測定した。使用した装置はReflex IV(ブルーカー社)であり、マトリックスはノルハルマンである。調製した最小量の1fmolでは、シグナル/ノイズ(S/N)比は3以上であった(図1最上段)。したがって、標識化糖鎖が1fmolよりもさらに少ない量であっても測定が可能であると考えられる。また、リニアーモードによれば、さらに少ない量で測定することができると考えられる。これより、従来、糖鎖を質量分析し、良好なマススペクトルを検出できるために最低限10pmol必要であったことを考慮すると、本発明の方法によって、質量分析による検出感度は、10000倍増加したといえる。
【0087】
実施例3 検出感度の増加
オボアルブミン由来のN−グリカンをCy3−ヒドラジン又はGirard’s Tで標識し、MALDI−TOF質量分析を行った(図2)。図2aは、対照例として、N−グリカン(10pmol)を標識化せずに、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)をマトリックスとし、Ettan MALDI Pro(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いて測定した。マススペクトルは全く検出できなかった。これに対して、N−グリカンをCy3−ヒドラジンで標識し、α−CHCA(CCA)をマトリックスとして質量分析を行った場合には、オボアルブミン特有のマススペクトルが得られた(図2b)。
【0088】
図3aは、Girard’s Tで標識したN−グリカン(30pmol)をDHBをマトリックスとしてReflex IVを用いて測定した結果である。図3bは、Cy3−ヒドラジドで標識したN−グリカン(400fmol)をDHBをマトリックスとしてReflex IVを用いて測定した結果である。両者を比較すると、Girard’s Tで標識したN−グリカンの質量分析では、マススペクトルが得られるが、S/N比が悪い(図3a)。これに対して、Cy−3ヒドラジド標識したN−グリカンの場合は、使用量がおよそ1/100であるにもかかわらず、S/N比が高いマススペクトルが得られた(図3b)。さらに、ノルハルマンをマトリックスとして使用した場合には、200fmolの使用量で、より良好なマススペクトルが得られた(図3c)。
【0089】
以上より、Cy3−ヒドラジドを用いて糖鎖を標識することによって、S/N比を高くし、検出感度を増加させることができた。
実施例4 質量分析におけるPSD解析
Cy5−ヒドラジドで標識したラクト−ネオ−フコペンタオース(20pmol)を用いてPSD解析を行った(図4参照)。この糖鎖の一次構造は、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcβ1−3Galβ1−4Glcである。CCAをマトリックスとし、Ettan MALDI Proで測定した。糖鎖は、レーザー照射により、非還元末端から切断され断片化する。糖鎖の還元末端の糖残基を蛍光標識するため、標識された還元末端の糖残基を有する断片のみが、マススペクトルとして検出される。図中の低分子側から、Cy5−ヒドラジド(481.742 m/z)、標識された糖残基(658.5 m/z)がマススペクトルとして検出され、順次、糖残基が1つずつ付加していくマススペクトルが得られる。各スペクトル間は、構成する糖残基に相当し、例えば、Hex(ヘキソース)は、ラクト−ネオ−フコペンタオースの還元末端側から2番目のガラクトース(Gal)に対応している。また、dHex(デオキシヘキソース)は、非還元末端に位置したフコースに対応している。したがって、本発明の方法は、PSD解析に適しており、糖鎖を構成する糖残基の種類、及び一次配列を決定するの上で有効な方法であるといえる。
【0090】
実施例5 質量分析におけるISD解析
Cy5−ヒドラジドで標識したラクト−ネオ−フコペンタオース(2pmol)を用いてISD解析を行った(図5)。CCAをマトリックスとし、Reflex IVで測定した。図中のHexNAc(N−アセチルヘキソサミン)は、糖鎖の還元末端側から3番目のN−アセチルグルコサミンに対応し、4番目のHex(ヘキソース)は、ガラクトース(Gal)に対応する。したがって、本発明の方法は、ISD解析にも適しており、実施例4に記載したPSD検出に比べて、試料の使用量が少なくて済み、PSD解析と同様に糖鎖を構造する糖残基の種類、及び一次配列を決定する上で有効な方法であるといえる。
【0091】
実施例6 標識糖鎖の精製
標識化後に残存する蛍光標識化剤の除去について検討した結果を図6に示す。上述した実施例では、標識化糖鎖を精製することなく質量分析計に共しているが、未反応の蛍光標識化剤を除去し精製した標識化糖鎖を使用する場合においても、本発明の方法が有効である。即ち、実施例1に記載の蛍光標識化方法によって標識した糖鎖(1514 m/z)の反応溶液をZipTip C18カラムに流すと、反応物はカラムに捕獲され、蛍光標識化糖鎖は、50%アセトニトリル(ACN)では溶出されず(図6上段)、水に対して溶出された(図6下段)。したがって、本実施例に従えば、未反応の蛍光標識化剤を除去し、標識化糖鎖を容易に精製することができる。
【0092】
【発明の効果】
本発明により、質量分析による生体分子の分離及び/又は検出の感度を増加させることができた。したがって、微量な生体分子を検出することによる、各種疾患の迅速及び簡便な診断等が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、キトトリオースをCy3−ヒドラジドで標識化後、標識化糖鎖の1pmol、200、40、10、4、2、及び1fmolについてMALDI−TOF質量分析を行った結果を示す。Reflex IVを用い、ノルハルマンをマトリックスとして使用し、レフレクトロンモードでMALDI−TOF質量分析を行った。
【図2】図2は、オボアルブミン由来のN−グリカンを蛍光標識し、蛍光標識化剤及びマトリックスの違いによる検出感度の増加における効果を検討した結果である。パネルa:N−グリカン(10pmol)を標識化せずに、DHBをマトリックスとし、Ettan MALDI Proを用いて測定した。パネルb:N−グリカン(10pmol)をCy3−ヒドラジンで標識し、CCAをマトリックスとして質量分析を行った。
【図3】図3は、オボアルブミン由来のN−グリカンを蛍光標識し、蛍光標識化剤及びマトリックスの違いによる検出感度の増加における効果を検討した結果である。パネルa:Girard’s Tで標識したN−グリカン(30pmol)をDHBをマトリックスとしてReflex IVを用いて測定した。パネルb:Cy3−ヒドラジドで標識したN−グリカン(400fmol)をDHBをマトリックスとしてReflex IVを用いて測定した。パネルc:Cy3−ヒドラジドで標識したN−グリカン(200fmol)をノルハルマンをマトリックスとしてReflex IVを用いて測定した。
【図4】図4は、MALDI−TOFを用いたCy−5標識したラクト−ネオ−フコペンタオース(20pmol)のPSD解析の結果を示す。マトリックスをCCAとし、Ettan MALDI Proを使用した。
【図5】図5は、MALDI−TOFを用いたCy−5標識したラクト−ネオ−フコペンタオース(2pmol)のISD解析の結果を示す。マトリックスをCCAとし、Reflex IVを使用した。
【図6】図6は、標識化後に残存する蛍光標識化剤の除去について検討した結果である。Cy標識した糖鎖(m/z 1514)の反応溶液をZipTip C18カラムに流し、反応物をカラムに捕獲される。その後、蛍光標識化糖鎖は、50%アセトニトリル(ACN)では溶出されず(図6上段)、水に対して溶出された(図6下段)。
Claims (11)
- 生体分子に結合する能力のある反応基を有し、+1から+6の正の総電荷又は−6から−1の負の総電荷を有する蛍光標識化剤で標識した生体分子の質量を分析することを含む、生体分子の質量分析法。
- 蛍光標識化剤によって蛍光標識された生体分子をマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法によってイオン化させることを含む、請求項1に記載の質量分析法。
- 飛行時間型(TOF)法又は四重極イオントラップ飛行時間型(QIT−TOF)法によってイオンを分離/検出することを含む、請求項2に記載の質量分析法。
- 蛍光標識化剤が、シアニン、メロシアニン、シュードシアニン、イソシアニン、スチリル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、アクリジン、インドール、ベンズオキサゾール、キノリン、イサト酸無水物、1,8−ナフタルイミド、2,3−ナフタルイミド、5−フェニル−4−ピリジル−2−オキサゾール、クマリン、ビマン(bimane)、6−N−(7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミン、4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−S−インダセン、エチジウムクロリド、プロピジウムジクロリド、フルオレセイン、レゾルフィン、ナイル・ブルーA(Nile Blue)、ローダミン、ベンズイミダゾール、及びピリジンから選択される基幹構造を有する、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の質量分析法。
- 蛍光標識化剤が、シアニン、メロシアニン、及びスチリルから選択される基幹構造を有する、請求項4に記載の質量分析法。
- 基R1ないしR9の少なくとも一つに含まれる、0ないし6個の正に帯電した窒素、リン若しくは硫黄原子、又は0ないし6個の負に帯電した酸素若しくは硫黄原子を含む反応基が、第一級アミン、第二級アミン、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、ピラゾン、スルフヒドリル、カルボキシル、ヒドロキシル、チオホスフェート、イミダゾール、並びにアルデヒド及びケトンが含まれるカルボニルから選択される、請求項6に記載の質量分析法。
- 基R1ないしR9の、0ないし6個の正に帯電した窒素、リン若しくは硫黄原子、又は0ないし6個の負に帯電した酸素若しくは硫黄原子を含む反応基以外のものが、独立して、水素、イソチオシアネート、イソシアネート、モノクロロトリアジン、ジクロロトリアジン、モノ−ないしジハロゲン置換ピリジン、モノ−ないしジハロゲン置換ジアジン、マレイミド、アジリジン、スルホニルハリド、酸ハリド、ヒドロキシスクシンイミドエステル、ヒドロキシスルホスクシンイミドエステル、イミドエステル、ヒドラジン、アジドニトロフェニル、アジド、3−(2−ピリジルジチオ)プロピオンアミド、グリオキサル及びアルデヒドよりなる群から選択される、請求項6又は7に記載の質量分析法。
- 基R1ないしR9の、0ないし6個の正に帯電した窒素、リン若しくは硫黄原子、又は0ないし6個の負に帯電した酸素若しくは硫黄原子を含む反応基を有する基が、−(CH2)5−C(=O)−NHNH2である、請求項6ないし8のいずれか1項に記載の質量分析法。
- 生体分子が、糖、糖鎖、タンパク質、ペプチド、リン酸化ペプチド、核酸、糖タンパク質、糖ペプチド、糖脂質から選択される、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の質量分析法。
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