JPWO2006046780A1 - アントシアニンの3’位への芳香族アシル基転移酵素をコードする遺伝子を用いたアントシアニン色素の安定化ならびに青色化方法 - Google Patents
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Abstract
Description
また、本発明は、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いて、アントシアニンをより青くかつ安定に改変する方法に関するものであり、アントシアニン色素の改変や安定化、ひいては花色の改変ならびに安定化に利用できる。
花の色は主として2つのタイプの色素、すなわちフラボノイドおよびカロチノイドに由来する。フラボノイドは黄色から赤ないしは青色の広範囲の花色に主に寄与し、一方カロチノイドはオレンジ又は黄色の色調に主に寄与する。フラボノイドの中でも花色に主たる寄与をするのは、アントシアニンと総称される一群の化合物である。アントシアニンの発色団は、アントシアニジンであり、主要なアントシアニジンとしてペラルゴニジン、シアニジン、デルフィニジンが知られている。植物には多様なアントシアニンが存在することが知られており、その多様性が花の色の多様性の一因となっている。数百種のアントシアニンの構造がすでに決定されており、ほとんどのアントシアニンの3位の水酸基は糖により修飾されている(Harbone,in The Flavonoids:565,1986)。
アントシアニンの生合成経路は3位の配糖化物の生合成までは、ほとんどの顕花植物で共通であり(Holton et al.,Plant Cell 7:1071,1995)、その後、種および品種特異的に配糖化、アシル化、メチル化など様々な修飾を受ける。このような品種における修飾形態の違いがアントシアニンの多様性すなわち多彩な花色の一因となっている。一般的にアントシアニンを修飾する芳香族アシル基が多いほどアントシアニンは安定化し、青色化する(Harbone,in The Flavonoids:565,1986;斎藤規夫、蛋白質核酸酵素47:202,2002)。さらに花の色は、これらアントシアニンと金属の錯体形成、フラボノールやフラボンなどのフラボノイド化合物のコピグメント効果、アントシアニンが局在する液胞のpHなどによって影響される(Forkmann,Plant Breeding 106:1,1991)。
アントシアニジンを含むフラボノイドの生合成は詳細に研究されている。アントシアニンの合成に関与する酵素の遺伝子はすべてクローニングされ、これらの転写因子の遺伝子も得られている。したがってこれらの遺伝子の発現を人為的に改変することにより花で蓄積するフラボノイドの構造と量を改変し、花色を変えることができる。分子生物学的手法と植物への遺伝子導入により、アントシアニンの構造を改変し、花の色を変えた例が報告されている(Forkmann G & Martens S(2001).Curr Opin.Biotechnolgy,12:155−160Tanaka Y & Mason J(2003)In:Singh RP & Jaiwal PK(ed.)Plant genetic engineering.pp 361−385.SCI tech publishing,Houston)。
花の色を青くする方法の1つとしてアントシアニンのB環の水酸基数を増加させることが考えられる。アントシアニンの3’位を水酸化する反応を触媒する酵素(フラボノイド3’−水酸化酵素:F3’H)とアントシアニンの3’位と5’位を水酸化する反応を触媒する酵素(フラボノイド3’,5’−水酸化酵素:F3’5’H)は、花色を変える上で重要である。概してペラルゴニジン(B環の水酸基が1個)はオレンジから赤、シアニジン(B環の水酸基が2個)は赤から紅色、デルフィニジン(B環の水酸基が3個)は紫から青の花に含まれることが多い。紫から青の品種のない植物種はデルフィニジンを作る能力を欠く場合が多く、その代表例として、バラ、キク、カーネーションが挙げられる。
これらの植物について、紫から青の品種をバイオテクノロジーにより作出することは以前から注目されている。実際にデルフィニジンを生産するために必須のF3’5’H遺伝子を発現させることにより、花色を青紫色にしたカーネーション(Tanaka Y & Mason J(2003)In:Singh RP & Jaiwal PK(ed.)Plant genetic engineering.pp 361−385.SCI tech publishing,Houston)が作製され、花弁でデルフィニジンを生産することは可能となったが、未だ花の色は十分な青色とはなっていない。すなわち、花の色を真に青くするためには、F3’5’H遺伝子を導入するだけでは不十分であり、さらに工夫をする必要があると考えられる。
実際に青い花に含まれるアントシアニンは糖を介して芳香族アシル基で修飾されていることが多い(Honda & Saito Heterocycles56:633(2002))。そこで、花の色をより青くする方法のひとつとして、カフェオイル基、クマロイル基、シナポイル基などの芳香族アシル基によりアントシアニンを修飾することが考えられる(Tanaka & Mason(2003)In:Singh RP & Jaiwal PK(ed.)Plant genetic engineering.pp 361−385.SCI tech publishing,Houston)。
一般に、アントシアニンは配糖化によってやや赤くなり、糖を介した芳香族アシル基の付加によってアントシアニンの色は青くなる(Forkmann,Plant Breeding 106:1,1991)。また、アントシアニンは中性溶液中では不安定な化合物であるが、糖やアシル基によって修飾されることで安定性が向上する(Forkmann,Plant Breeding 106:1,1991)。アサガオ(Pharbitis nil)由来のアントシアニンを用いた実験により、アシル化されたアントシアニンのうち、グルコースを介して芳香族アシル基、たとえばクマル酸やカフェ酸が結合したアントシアニンはその吸収極大が長波長側に移動することが観察された(Dangle et al.Phytochemistry 34:1119,1993)。
芳香族アシル基の結合したアントシアニンにはツユクサ(Commelina communis)由来のアオバニン(Goto and Kondo,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.30:17,1991)を始め、自然界からの数多くの分離例が報告されている(Honda & Saito Heterocycles 56:633(2002))。例えば、青い花のアントシアニンはシネラリン(サイネリア由来)、ゲンチオデルフィン(リンドウ由来)、ヘブンリーブルーアントシアニン(アサガオ由来)、テルナチン(チョウマメ由来)、ロベリニン(ロベリア由来)等に代表されるように、複数の芳香族アシル基を有している。
シネラリア(Senecio cruentus)由来のシネラリン(Goto et al.,Tetrahedron 25:6021,1984)は1個の脂肪族アシル基と3個の芳香族アシル基を有するが、これら芳香族アシル基が中性水溶液中での色素の安定化に寄与していることが報告されている(Goto et al.Tetrahedron 25:6021,1984)。また、リンドウ花弁の主要色素であるゲンチオデルフィン(DEL 3G−5CafG−3’CafG)は、デルフィニジン3位配糖化物を基本骨格とし、5位と3’位の水酸基にグルコース1分子とカフェ酸1分子からなる側鎖を有する。これら5位ならびに3’位の糖−アシル基側鎖により、サンドイッチ様の分子内スタッキングが起こり、水溶液中で色素が安定化されることが報告されている(Yoshida et al.Tetrahedron 48:4313,1992)。さらに、2つの糖−芳香族アシル基側鎖のうち、5位よりも3’位の糖−芳香族アシル基が色素の安定化、青色化に大きく寄与していることが確かめられた(Yoshida et al.Phytochemistry 54:85,2000)。
芳香族アシル基転移反応は1980年にナデシコ科の植物であるSilene(Kamsteeg et al.,Biochem.Physiol.Pflanzen 175:403,1980)で初めて示され、Matthiolaの可溶化酵素画分にも同様の芳香族アシル基転移酵素活性が見い出された(Teusch et al.,Phytochemistry 26:991,1986)。その後、リンドウからアントシアニンの5位の糖にカフェ酸やクマル酸などの芳香族アシル基を転移するアントシアニン5位芳香族アシル基転移酵素(以下5AT)が単離され(Fujiwara et al.,Eur.J.Biochem.249,45,1997)、精製された酵素の内部アミノ酸配列の情報をもとに、リンドウの5ATをコードするcDNAが単離された(Fujiwara et al.,Plant J.,16,421,1998)。
この遺伝子を元にトレニア(WO2005/017147)からホモログが単離されており、さらにこれらの酵素間において保存されたアミノ酸配列をもとにアントシアニンの3位の糖に芳香族アシル基を転移する酵素(3AT)をコードするシソのcDNAが単離された(Yonekura−Sakakibara et al.,Plant Cell Physiol 41:495,2000)。シソ3AT遺伝子をもちいて同じくシソ科のラベンダーから3AT遺伝子がクローニングされている(WO96/25500)。
ペチュニアからアントシアニジン3ルチノシドにアシル基を転移する酵素遺伝子も得られている(特表2003−528603)。また、シソ3AT遺伝子あるいはトレニア5AT遺伝子をバラに導入したところ、花弁において3位または5位に芳香族アシル基が付加したアントシアニンが生成したが、花色を有意に青色に変えるには至らず、吸収極大値が長波長に1−2nm程度シフトしていたのみであった。
この原因としては、吉田らの報告(Yoshida et al.Tetrahedron48:4313,1992)にあるように3位、5位などのA環またはC環のアシル化だけでは充分な効果がなく、3’位のアシル化がアントシアニンの青色化、安定化のために必要であること、さらに望ましくは3’位を含む複数の位置のアシル化が必要であると考えられた。実際に、3’位の糖に芳香族アシル基が付加しているアントシアニンがあることから、3’位の糖に芳香族アシル基を転移する反応を触媒する酵素(3’AT)が存在するであろうことが推察される。しかしながら、これまでのところ3’ATの反応が測定されたことはなく、また3’ATの酵素あるいは3’ATをコードする遺伝子がクローニングされたこともない。
これまで報告されているアシル基転移酵素は全てアントシアニンの3位または5位に作用するものであり、反応の位置特異性は高いことが報告されている(Fujiwara et al.Plant J.,16,421,1998,Yonekura−Sakakibara et al.,Plant Cell Physiol.41,495,2000)。よって、既知の芳香族アシル基転移酵素を用いて3’位のアシル化を行うことはできないと考えられた。また、これまでのところ、アントシアニンの複数の位置に芳香族アシル基を転移する活性を有する芳香族アシル基転移酵素についても報告がない。よって、従来の技術レベルでは、たとえば、遺伝子組換え植物を作製し、アントシアニンの3’位、さらには3’位を含む複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移することは不可能であった。すなわち、アントシアニンの3’位、さらには3’位を含む複数の位置の糖に芳香族アシル基を付加する手法によってアントシアニンをより青く、安定化し、ひいては花の色をより青く、安定にすることは困難であった。
以上のように、アントシアニンの安定化、青色化のために、3’位への芳香族アシル基転移を行うことは非常に有効な手段である。そのためには、これまでに報告のないアントシアニンの3’位への芳香族アシル基転移酵素または本酵素をコードする遺伝子が必須である。発明者らは、リンドウから単離されたアントシアニン5位芳香族アシル基転移酵素の酵素学的性質を詳細に調べることによって、リンドウの5位芳香族アシル基転移酵素が3’位アシル基転移活性をもコードしていることを明らかにした。すなわち、本酵素は、単一の酵素でありながらアントシアニンの5位ならびに3’位の2箇所の糖にそれぞれ芳香族アシル基転移反応を触媒するものであることを明らかにした。
よって、本発明はアントシアニンの3’位へ芳香族アシル基を付加することによってアントシアニンをより青く安定にする方法を提供する。また当該芳香族アシル基転移酵素をコードする遺伝子を植物に導入し、発現させることで、花色をより安定に青くする方法を提供する。
従って、本発明は、(1)アントシアニンの3’位の糖に芳香族アシル基を転移する酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いるアントシアニンの3’位のアシル化方法を提供する。
(2)本発明はまた、アントシアニンの3’位の糖に芳香族アシル基を転移する酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いるアントシアニンの安定化方法を提供する。
(3)本発明はまた、アントシアニンの3’位の糖に芳香族アシル基を転移する酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いるアントシアニンの青色化の方法を提供する。
(4)本発明は更に、アントシアニンの3’位への芳香族アシル基転移酵素をコードする遺伝子を植物で発現し、当該植物体内において目的色素をアシル化する方法を提供する。
(5)本発明は更に、アントシアニンの3’位への芳香族アシル基転移酵素をコードする遺伝子を、植物に導入し、当該植物体内において目的色素がアシル化されることによる、当該色素を安定化する方法を提供する。
(6)本発明はまた、アントシアニンの3’位への芳香族アシル基転移酵素をコードする遺伝子を、植物に導入し、当該植物体内において目的色素がアシル化されることによる、当該色素を青色化する方法を提供する。
(7)本発明は更に、上記(4)〜(6)のいずれかに記載された方法によって得られた植物体、当該植物体の栄養増殖体または種子、または当該植物体と同一の性質を有する当該植物体の子孫となる植物体、当該植物体の栄養増殖体または種子を提供する。
(8)本発明はまた、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を付加する方法を提供する。
(9)本発明は更に、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの安定化方法を提供する。
(10)本発明はまた、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの青色化の方法を提供する。
(11)本発明は更に、前記複数の位置のひとつが、アントシアニンの3’位の糖である上記(8)〜(10)のいずれかに記載の方法を提供する。
(12)本発明はまた、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を植物で発現し、当該植物体内において目的色素をアシル化する方法を提供する。
(13)本発明はまた、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を、植物に導入し、当該植物体内において目的色素がアシル化されることによる、当該色素を安定化する方法を提供する。
(14)本発明は更に、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を、植物に導入し、当該植物体内において目的色素がアシル化されることによる、当該色素を青色化する方法を提供する。
(15)本発明はまた、前記複数の位置のひとつが、アントシアニンの3’位の糖である上記(12)〜(14)のいずれかに記載の方法を提供する。
(16)本発明は更に、上記(12)〜(15)のいずれかに記載された方法によって得られた植物体、当該植物体の栄養増殖体または種子、もしくは当該植物体と同一の性質を有する当該植物体の子孫となる植物体、当該植物体の栄養増殖体または種子を提供する。
(17)本発明はまた、配列番号;4または6に記載のアミノ酸配列を有しアントシアニンの3’位の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子、または当該アミノ酸配列に対して70%以上の配列の同一性を有し、且つアントシアニンの3’位の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子、または配列番号:3または5に記載のヌクレオチド配列に対し70%以上の同一性を有し、且つアントシアニンの3’位の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子を提供する。
(18)本発明はまた、配列番号:4または6に記載のアミノ酸配列を有しアントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子、または当該アミノ酸配列に対して70%以上の配列の同一性を有し、且つアントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子、または配列番号:3または5に記載のヌクレオチドは配列に対し70%以上の同一性を有し、且つアントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子を提供する。
(19)本発明はまた、前記複数の位置のひとつが、アントシアニンの3’位の糖である上記(18)に記載の遺伝子を提供する。
(20)本発明はまた、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子を含んでなるベクターを提供する。
(21)本発明はまた、上記(20)に記載のベクターにより形質転換された宿主を提供する。
(22)本発明はまた、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子によってコードされる蛋白質を提供する。
(23)本発明はさらに、上記(21)に記載の宿主を培養し、又は生育させ、そして該宿主からフラボノイドの3’位に糖を転移する活性を有する蛋白質を採取することを特徴とする該蛋白質の製造方法を提供する。
(24)本発明はまた、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子が導入された植物もしくはこれと同じ性質を有するその子孫又はそれらの組織を提供する。
(25)本発明はさらに、上記(24)に記載の植物の切花又はこれと同じ性質を有するその子孫の切花を提供する。
(26)本発明はまた、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの3’位のアシル化方法を提供する。
(27)本発明はまた、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの安定化方法を提供する。
(28)本発明はまた、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの青色化の方法を提供する。
(29)本発明はさらに、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子を植物で発現し、当該植物体内において目的色素をアシル化する方法を提供する。
(30)本発明はまた、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子を、植物に導入し、当該植物体内において目的色素がアシル化されることによる、当該色素の安定化方法を提供する。
(31)本発明はまた、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子を、植物に導入し、当該植物体内において目的色素がアシル化されることによる、当該色素の青色化の方法を提供する。
(32)本発明はさらに、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を付加する方法を提供する。
(33)本発明はさらに、前記複数の位置のひとつが、アントシアニンの3’位の糖である上記32に記載の方法を提供する。
図2は、本発明に関連するアントシアニン系化合物の構造式、名称及び略号を示す。
図3は、50μMのDEL 3G−5G−3′Gを基質として使用した場合の反応生成物の経時変化を示すグラフである。図中、triGはDEL 3G−5G−3′Gを、5CafはDEL 3G−5CafG−3′Gを、3′CafはDEL 3G−5G−3′CafGを、そして5,3′CafはGentiodelphin(DEL 3G−5CafG−3′CafG)を示す。
図4は、100μMのDEL 3G−5G−3′Gを基質として使用した場合の反応生成物の経時変化を示すグラフである。図中、triGはDEL 3G−5G−3′Gを、5CafはDEL 3G−5CafG−3′Gを、3′CafはDEL 3G−5G−3′CafGを、そして5,3′CafはGentiodelphin(DEL 3G−5CafG−3′CafG)を示す。
図5は、200μMのDEL 3G−5G−3′Gを基質として使用した場合の反応生成物の経時変化を示すグラフである。図中、triGはDEL 3G−5G−3′Gを、5CafはDEL 3G−5CafG−3′Gを、3′CafはDEL 3G−5G−3′CafGを、そして5,3′CafはGentiodelphin(DEL 3G−5CafG−3′CafG)を示す。
図6は、リンドウ花弁より部分精製したタンパク質のSDS−PAGE及びウエスタンブロットの結果を示す。左はSDS−PAGEの結果を示し、右はGAT4抗体を用いたウエスタンブロットの結果を示す。図中、Mは分子量マーカーであり、レーン1は40〜70%硫安沈澱画分の結果であり、そしてレーン2はDyematrixカラム後の活性画分の結果である。
図7は、Medio搾汁液を用いた花色シュミレーションの結果を示す。
本発明はまた、リンドウ由来のアントシアニンの3’位への芳香族アシル基転移酵素のアミノ酸配列、配列番号:4または6に記載のアミノ酸配列に対して、70%以上、好ましくは90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、且つアントシアニンの3’位の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子も、本発明に属する。
またリンドウ由来の3’位の糖への芳香族アシル基転移酵素をコードするDNAに対し、5xSSC、50℃といった比較的温和な条件下でハイブリダイズし、かつ3’位への芳香族アシル基転移活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を利用した場合も本発明に属する。さらにリンドウ由来の3’位への芳香族アシル基転移酵素をコードするDNAに対し、ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ3’位への芳香族アシル基転移活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を利用した場合も本発明に属する。
ここでいうストリンジェントな条件とは例えば、2xSSC、65℃であるが、ハイブリダイゼーションの条件はプローブに用いるDNAの長さおよび塩基組成によって異なるから、この条件に限定されるものではない。このようなハイブリダイゼーションによって選択される遺伝子としては天然由来のもの、例えば、3’位に芳香族アシル基が付加したアントシアニンを含有する植物、例えばチョウマメやロベリア、サイネリア由来の遺伝子が挙げられるが植物由来に限定されるものではない。すなわち、アントシアニンの3’位への芳香族アシル基転移活性を有する酵素をコードする遺伝子であれば、いずれも利用可能である。またハイブリダイゼーションによって選択される遺伝子はcDNAであってもよく、ゲノムDNAであってもよい。
またロベリアやチョウマメなど、3’位に芳香族アシル基が付加したアントシアニンを含有する植物から、当該リンドウの酵素の精製法をそのまま又は一部を改変して、3’位への芳香族アシル基転移酵素を精製することができる。さらに、精製した酵素のアミノ酸配列を決定することにより、当該酵素をコードする遺伝子をクローニングすることができる。
改変されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAは、公知の部位特定変異誘発法やPCR法を用いて合成することができる。例えばアミノ酸配列を改変したいDNA断片をcDNAまたはゲノムDNAの制限酵素処理によって得、これを鋳型にして、所望のアミノ酸配列の改変に対応したプライマーを用い、部位特異的変異誘発またはPCR法を実施し、所望のアミノ酸配列の改変に対応したDNA断片を得ることができる。その後、この改変を導入したDNA断片を目的とする酵素の他の部分をコードするDNA断片と連結すればよい。
あるいはまた、短縮されたアミノ酸配列からなる酵素をコードするDNAを得るには、例えば目的とするアミノ酸配列より長いアミノ酸配列、例えば全長アミノ酸配列をコードするDNAを所望の制限酵素により切断し、その結果得られたDNA断片が目的とするアミノ酸配列の全体をコードしていない場合は、不足部分のアミノ酸配列に対応するDNA断片を合成し、連結すればよい。このようにして得られた遺伝子を大腸菌又は酵母での遺伝子発現系を用いて発現させ、当該大腸菌又は酵母の抽出液中の3’位への芳香族アシル基転移酵素活性を測定することにより、得られた遺伝子が芳香族アシル基転移酵素をコードすることを確認することができる。また、目的のアミノ酸配列をコードするDNAを合成することもできる。
本発明はまた、芳香族アシル基転移酵素遺伝子を含む組換えベクター、特に発現ベクター、及び当該ベクターによって形質転換された宿主細胞から抽出した芳香族アシル基転移酵素を用いた場合も該当する。宿主としては、原核生物または真核生物を用いることができる。原核生物としては細菌、例えばエシェリヒア(Escherichia)属に属する細菌、例えば大腸菌(Escherichia coli)、バシルス(Bacillus)属微生物、例えばバシルス・スブシルス(Bacillus subtilis)など従来公知の宿主細胞を用いることができる。真核細胞としては、例えば真核微生物、好ましくは酵母または糸状菌が使用できる。
酵母としては例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロミセス(Saccharomyces)属酵母が挙げられ、また糸状菌としては、例えばアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等のアスペルギルス(Aspergillus)属微生物、及びペニシリウム(Penicillium)属微生物等が挙げられる。さらに動物細胞または植物細胞も宿主細胞として使用でき、動物細胞としては、マウス、ハムスター、サル、ヒト等の細胞系が使用される。さらに昆虫細胞、例えばカイコ細胞、またはカイコの成虫それ自体も宿主として使用される。
発現ベクターとしてはそれらを導入すべき宿主の生物種に依存したプロモーターおよびターミネーター等の発現制御領域、及び複製起点等を含有する。細菌用、特に大腸菌における発現ベクターのプロモーターとしては、従来公知のプロモーター、例えばtrcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーター等が使用できる。また、酵母用プロモーターとしては、例えばグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター、PH05プロモーター等が使用され、糸状菌用プロモーターとしては例えばアミラーゼ、trpC等のプロモーターが使用できるが、これらのプロモーターに限定されるものではない。また動物細胞用プロモーターとしてはウイルス性プロモーター、例えばSV40アーリープロモーター、SV40レートプロモーター等が使用される。
発現ベクターの作製は制限酵素、リガーゼ等を用いて常法に従って行うことができる。また、発現ベクターによる宿主細胞の形質転換も従来公知の方法に従って行うことができる。植物の発現ベクターとしては、例えばアグロバクテリウムを用いる場合にはpBI121などのバイナリーベクターを、パーティクルガンを用いる場合にはpUC19などの大腸菌ベクターを用いることができる。さらに、当該発現ベクターで形質転換された植物細胞を、例えば抗生物質耐性遺伝子などのマーカー遺伝子を用いて選抜し、適切な植物ホルモン等の条件を用いて再分化させ、形質転換された植物体を得ることができる。
このようにして形質転換された宿主細胞又は形質転換植物体を培養又は栽培し、培養物等から常法に従って、例えば、濾過、遠心分離、細胞の破砕、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等により回収、精製したアントシアニンの3’位への芳香族アシル基転移酵素を利用した場合も本発明に属する。
現在の技術水準をもってすれば、植物に遺伝子を導入し、その遺伝子を構成的あるいは組織特異的に発現させることは可能であるし、またアンチセンス法やコサプレッション法などによって目的の遺伝子の発現を抑制することも可能である。形質転換可能な植物の例としては、バラ、キク、カーネーション、金魚草、シクラメン、ラン、トルコギキョウ、フリージア、ガーベラ、グラジオラス、カスミソウ、カランコエ、ユリ、ペラルゴニウム、ゼラニウム、ペチュニア、トレニア、チューリップ、イネ、オオムギ、小麦、ナタネ、ポテト、トマト、ポプラ、バナナ、ユーカリ、サツマイモ、タイズ、アルファルファ、ルーピン、トウモロコシ、カリフラワーなどがあげられるがこれらに限定されるものではない。
従って、本発明で提供するアントシアニンの3’位の芳香族アシル化方法で用いるのは、リンドウ由来のアシル基転移酵素ならびに本酵素をコードするリンドウのcDNAや遺伝子、さらに本cDNAや遺伝子を大腸菌などの宿主で発現させて得られる組換え体酵素に限定されるものではなく、広く他の生物から得られるアントシアニンの3’位への芳香族アシル基転移酵素、その酵素をコードするcDNAや遺伝子、さらにこれらcDNAや遺伝子を大腸菌などの宿主で発現させて得られる組み換え体酵素で代用した場合も可能である。
また、本明細書においてはアントシアニンを含むフラボノイドのアシル基転移反応において、アシル基の供与体としてp−クマロイル−CoA又はカフェオイル−CoA等のCoAエステルを挙げたが、p−クマロイル、フェルロイル又はシナポイル−1−O−グルコースといったハイドロキシシンナモイル−1−O−グルコースも芳香族アシル基の供与体としての利用が可能であるので(Glassgen and Seitz,Planta 186:582,1992)、本発明に係る酵素を用いた利用が可能である。
実施例1. リンドウ由来のアシル基転移酵素cDNAの大腸菌における発現と組み換え体タンパク質の精製
リンドウ由来のアシル基転移酵素cDNAの大腸菌発現用コンストラクト pGeAT102(Fujiwara et al.,Plant J.,16,421,1998に記載)からNcoI/HindIII切断によってアシル基転移酵素のコード領域および3’非翻訳領域を含むフラグメントを大腸菌発現ベクターpQE60(QIAGEN社)のNcoI/HindIIIにサブクローニングし、大腸菌発現用コンストラクトpQE8を得た。
pQE8を導入した大腸菌JM109株をSB培地を用いて37℃でOD600nm=0.8まで培養したのち、培養温度を15℃に下げて更に1時間培養し、IPTG最終濃度0.1Mとなるよう添加して、リンドウアシル基転移酵素遺伝子の発現を誘導した。15℃、1時間培養し、集菌したものを超音波破壊し、以下の精製に用いた。破壊した菌体をDE52(Whatman)にかけ、150mM NaClを含む25mM Tris−HCl(pH7.5)による素通り画分を回収した。さらに硫安塩析により40〜60%の硫安飽和画分を回収し、少量の20mM Tris−HCl(pH7.5)に溶解し、20mM Tris−HCl(pH7.5)により平衡化したSephadexG−25(Pharmacia社)を用いて、脱塩した。
これをDEAE−TOYOPEAL(TOSOH社)に負荷したのち、20mM Tris−HCl(pH7.5)から0.5M NaClを含む20mM Tris−HCl(pH7.5)に至る直線濃度勾配により溶出したところ、約120〜240mM NaClの溶出画分にデルフィニジン3,5−ジグルコシド(DEL 3G−5G)に対する5位芳香族アシル基転移酵素活性が見られた。活性画分を20mM Tris−HCl(pH7.5)緩衝液に対して透析した後、Blue Sepharose(Pharmacia社)に負荷した。Blue Sepharose素通り画分には活性はなく、吸着した活性画分を1M NaClを含む20mM Tris−HCl(pH7.5)を用いて溶出した。
続いて本画分をPhenyl Sepharose(Pharmacia社)に吸着させ、40%飽和硫安を含む20mM Tris−HCl(pH7.5)から20mM Tris−HCl(pH7.5)への直線濃度勾配で溶出した。活性画分は0%硫安で溶出された。これを20mM Tris−HCl(pH7.5)に対して透析したのち、DyematrixカラムOrange A(Amicon社)に吸着させ、0.3M NaClと0.5mM DTTを含む10mM Tris−HCl(pH7.5)を用いて溶出した。活性は素通り画分にはなく、吸着画分にのみ活性がみられ、これをセントリコン−10(Amicon社)によって濃縮した。
実施例2. 組換えアシル基転移酵素の活性測定
図1及び図2で示す3種類のデルフィニジン誘導体、デルフィニジン3,5,3’−トリグルコシド(DEL 3G−5G−3’G)、デルフィニジン3−グルコシル−5−カフェオイルグルコシル−3’−グルコシド(DEL 3G−5CafG−3’G)、デルフィニジン3−グルコシル−5−グルコシル−3’−カフェオイルグルコシド(DEL 3G−5G−3’CafG)を基質とし、実施例1で得られた組み換え酵素を用いて、その酵素活性を測定した。全量50μlの反応液中、100mM カリウムリン酸バッファー(pH8.5)、0.2mMカフェオイル−CoA、250mM上記の各基質、酵素液5μlを含み、30℃、15分反応を行った。0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)を含む90%アセトニトリル水溶液を反応液を等量添加し、反応を停止した。
また、反応生成物の経時変化を調べるために、25倍に希釈した酵素液5μl、基質として50μM、100μMまたは200μMのDEL 3G−5G−3’Gを用い、2.5、5、10、20分後に反応を止め、生成物を分析した。反応生成物の分析はDE−41カラム(4.6x250mm、Shodex社)を用いた逆層液体高速クロマトグラフィー(HPLC)によって行った。サンプルの溶出は、0.5%TFAを含む20−50%直線濃度勾配のアセトニトリル水溶液で0.6ml/min、15分、その後50%のアセトニトリル水溶液で0.6ml/min、10分行い、SPD−M10A(島津製作所製)を用いて250−600nmの波長で検出した。既知試料のHPLC溶出時間ならびに吸収スペクトルと生成物のものとを比較し、生成物の構造の同定を行った。
上記3種の化合物を基質とした反応の結果、組み換えアシル基転移酵素はいずれの基質とも反応した。250mMのDEL 3G−5CafG−3’Gを基質とすると94.1%がDEL 3G−5CafG−3’CafGに変換された。一方、250mMのDEL 3G−5G−3’CafGを基質とすると95.2%がDEL 3G−5CafG−3’CafGに変換された。また250mMのDEL 3G−5G−3’Gを基質とすると、7.2%が5位のみ芳香族アシル基が付加したDEL 3G−5CafG−3’G、58.7%がDEL 3G−5CafG−3’CafGに変換され、3’位のみに芳香族アシル基が付加したDEL 3G−5G−3’CafGは痕跡量(1%以下)であった。
希釈した酵素液を用い、DEL 3G−5G−3’Gを基質として反応の経時変化を測定した結果、反応時間の経過に伴いDEL 3G−5CafG−3’GとDEL 3G−5CafG−3’CafGの生成量が増加した。DEL 3G−5G−3’CafGの生成量は他の2つに比べて非常に少なく、基質量を増加し、反応時間を長くすることでわずかに検出される程度であった(図3、図4及び図5)。このことは、希釈していない酵素液をDEL 3G−5G−3’Gに反応させた結果と一致する。
以上の結果から、リンドウ由来のアシル基転移酵素遺伝子を大腸菌で発現させて得られた組み換えタンパク質は、アントシアニンの5位と3’位両方の糖に芳香族アシル基を転移する活性をもつことが明らかとなった。すなわち、以前の報告(Fujiwara et al.,PlantJ.,16,421,1998)では本酵素はアントシアニンの5位にのみ特異的に芳香族アシル基を転移するとされていたが、本発明によって本酵素は3’位と5位の両方の糖に芳香族アシル基を転移することが明らかになった。さらにDEL 3G−5G−3’Gを基質とした場合の反応生成物から、5位グルコースへの芳香族アシル基付加が先行し、その後3’位グルコースへの芳香族アシル基付加が起こる可能性が高いと考えられる。
実施例3. リンドウ由来の芳香族アシル基転移酵素の精製
リンドウ由来の芳香族アシル基転移酵素cDNAを大腸菌で発現させて得られる酵素が、アントシアニンの5位ならびに3’位のグルコースへの芳香族アシル基転移活性を持つことが明らかとなったが(実施例2)、リンドウ花弁に存在する天然の酵素についても、単一の酵素が5位芳香族アシル基転移酵素活性と3’位芳香族アシル基転移酵素活性を有することを確認するため、リンドウ花弁から本酵素の精製を行った。一連の精製において、実施例2記載と同様にして、各カラムクロマトグラフィーの溶出画分それぞれにDEL 3G−5Gを基質とした5位アシル基転移酵素活性とDEL 3G−5G−3’Gを基質とした5位、3’位アシル基転移酵素活性を測定した。
リンドウの5位芳香族アシル基転移酵素を精製したFujiwaraらの報告(Fujiwara et al.,Eur.J.Biochem.249,45,1997)に従い、リンドウ花弁約100gの破砕抽出物から硫安40−70%飽和の塩析画分を得た。これを10μM p−アミノフェニルメタンスルフォニルフロライド(APMSF)、1mM DTTを含む20mM Tris−HCl(pH7.0)(以下Trisバッファーと記載)で平衡化したセファデックスG−25(ファルマシア社)によって脱塩したのち、Trisバッファーで平衡化したMONO Q(ファルマシア社)に負荷した。Trisバッファーで未吸着画分を洗浄したのち、0〜0.5M NaClを含むTrisバッファーを流速5ml/min、20min流して吸着画分を溶出した。芳香族アシル基転移活性は0.2〜0.42M NaClで溶出される画分に存在した。
これをHiTrap Blue(ファルマシア社)に負荷し、Trisバッファーで充分に洗浄したのち、0.9M NaClを含むTrisバッファーで吸着画分を溶出した。活性は吸着画分に存在した。その後、活性画分をDEAE−Sepharose(ファルマシア社)に負荷した。Trisバッファーで充分洗浄したのち、吸着画分を0〜0.5M NaClを含むTrisバッファーを0.5ml/min、60min流して溶出した。活性は0.22〜0.3mM NaClを含むTrisバッファーで溶出される画分に見られた。その後、活性画分をセントリコン30(Amicon社)で濃縮した後、DyematrixカラムRed(Amicon社)にかけた。Trisバッファーで未吸着画分を洗浄した後、吸着した画分を1.5M KClを含むTrisバッファーによって溶出した。これをSDS−PAGEによる解析に供したところ、アシル基転移酵素の推定分子量52kDa付近には、ほぼ単一のバンドしか検出されなかった。
一連の精製において、各カラムクロマトグラフィーの溶出画分についてDEL 3G−5Gを基質とした5位アシル基転移酵素活性と、DEL 3G−5G−3’Gを基質とした5位、3’位アシル基転移酵素活性を測定したところ、両活性が最も強い活性を示すフラクションは完全に一致していた。DyematrixカラムRedに吸着した活性画分を用いて実施例2と同じ3種類の基質、DEL 3G−5G−3’G、DEL 3G−5CafG−3’G、DEL 3G−5G−3’CafGに対する活性を測定したところ、いずれの基質とも反応し実施例2と同様の反応特性を示した。
DyematrixカラムRedに吸着した活性画分をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離したのち、公知の方法(Towbin et al.Proc.Natl.Acad.Sci,76,4350,1979)に基づき、分離後の蛋白質をニトロセルロースメンブレンHybond−ECL(Amersham社)に転写した後、リンドウのアントシアニン5位アシル基転移酵素に対する特異的抗体(Fujiwara et al.,Eur.J.Biochem.249,45,1997)を用いてウェスタン法により検出したところ明瞭な1本のバンドが観察された(図6)。
以上の結果から、リンドウ花弁に存在するアントシアニン3’位芳香族アシル基転移活性とアントシアニン5位芳香族アシル基転移活性が単一の蛋白質に由来することが明らかとなった。
実施例4. リンドウのアシル基転移酵素によるアントシアニンの安定化、青色化
DEL 3G−5G−3’G、DEL 3G−5CafG−3’G、DEL 3G−5G−3’CafG、DEL 3G−5CafG−3’CafGに関する相対的な安定性についてはすでに報告がある。すなわち、pH6.5の水溶液においてDEL 3G−5CafG−3’CafGが最も安定で退色し難く、続いてDEL 3G−5G−3’CafG、DEL 3G−5CafG−3’G、DEL 3G−5G−3’Gの順に安定である(Yoshida et al.,Phytochemistry 54,85,2000)。また、吸収極大はDEL 3G−5CafG−3’CafGが最も長波長であり、以下DEL 3G−5G−3’CafG、DEL 3G−5CafG−3’G、DEL 3G−5G−3’Gであった。すなわち、見た目に最も青く映えるのはDEL 3G−5CafG−3’CafGであり、続いてDEL 3G−5G−3’CafGであることが示されている(Yoshida et al.,Phytochemistry 54,85,2000)。
リンドウ由来のアントシアニン5,3’位芳香族アシル基転移酵素遺伝子をバラに導入し、バラ花弁においてDEL 3G−5CafG−3’CafGが生成した場合の花色を推察するため、バラ(品種Medeo)花弁の搾汁液中における精製色素の発色を調べた。精製色素としては、DEL 3G−5CafG−3’CafGおよび比較対照としてDEL 3G−5G、シアニジン3,5−ジグルコシド(CYA 3G−5G)、ペラルゴニジン3,5−ジグルコシド(PEL 3G−5G)、マルビジン3,5−ジグルコシド(MAL 3G−5G)を用いた。−80℃で1時間以上凍結したMedeo花弁約20gを、家庭用ニンニク搾り機を用いて搾り、1000rpmで1min遠心して花弁残渣を除いた上清を搾汁液とした。
搾汁液1mlに上記精製色素の50mM DMSO溶液を20μl添加し、10分間静置した後、分光測色計UV−2500PC(島津製作所製)で380−780nmの吸収スペクトルおよび透過スペクトルを測定した。透過スペクトルからCIE L*a*b*表色系(JISZ8729)に換算した。イギリス王立園芸協会カラーチャート(RHSCC)番号は、上記の機器測定により得られた色彩値(CIE L*a*b*表色系)をもとに、色彩分類システムVersion2.1.1(株式会社日本総合研究所、日本;特開2002−016935)を用いて近似色の照合をおこなった。このシステムを用いることにより客観的に近似のRHSCC番号を選択できる。搾汁液に加えた色素の最終濃度は、バラ花弁液胞中の平均的アントシアニン濃度を近似するものである。ただし、3G−5CafG−3’CafGについては吸光度が高すぎたため4倍希釈で測定した。なお、Medeoはバラ園芸種の平均的な花弁pH(pH4.38)を示す品種である。
図7に示すように、上記5種の精製色素の中でDEL 3G−5CafG−3’CafGはバラ花弁搾中液中において、最も大きい極大吸収スペクトルを示した。透過スペクトルから換算したL*a*b*値をもとにRHSCC(英国王立園芸協会カーラーチャート)を用いて近似色を求めると89Aとなり、図7にも示されるように5種の精製色素中、最も青い色を呈した。
この結果から、例えばバラ花弁において、アントシアニン5,3’位芳香族アシル基転移酵素遺伝子を、F3’5’H遺伝子(WO2004/020637)ならびに3’位糖転移酵素遺伝子(WO01/92509)とともに発現させることによって、バラ花弁においてDEL 3G−5CafG−3’CafGを生成し、その結果、青い色を呈するバラの花を作出することが可能であると考えられる。同様に、カーネーション、キク、ペチュニア、バーベナ、ニーレンベルギア、ユリなどでも青い花の品種を作製できる。
実施例5. リンドウ近縁種からアントシアニンの5,3’位芳香族アシル基転移酵素ホモログの単離
リンドウ属(Gentiana)には、リンドウだけでなくガビザンリンドウやヤクシマリンドウなど種々の近縁種が存在する。これらから、PCRにより5,3’位芳香族アシル基転移酵素ホモログの取得を試みた。
リンドウから得られた5,3’位芳香族アシル基転移酵素遺伝子にはイントロンを含まないことが判っていたので、近縁種の葉より抽出したゲノムDNAを鋳型として、5,3’位芳香族アシル基転移酵素遺伝子に特異的なプライマーを用いてPCRを行った。ゲノムDNAの抽出にはQIAGEN社のDNeasyを用い、製造元推奨の方法に従い行なった。5,3’位芳香族アシル基転移酵素遺伝子に特異的なプライマーGAT4−Met−FおよびGAT4−Bは以下のような配列を有し、これらをプライマーとしてPCRを行なうことにより、コード領域全体を含む全長のcDNAが増幅される。PCRの反応条件は下記のようである。
プライマーの配列
GAT4−Met−F TCA TTA TGG AGC AAA TCC AAA(配列番号:1)
GAT4−B CAT GTC AGG TGT GAG GTT CAA C(配列番号:2)
PCR条件
変性反応 94℃ 5分、1サイクル
増幅反応 94℃ 1分、55℃ 1分30秒、72℃ 3分を30サイクル
伸長反応 72℃ 7分、1サイクル
このPCRによって、ヤクシマリンドウ、Ochroleuca、Wutariensisの3種において、期待される1.5kb程度のバンドが増幅された。これらを回収し、pCRII−TOPO(Invitrogen)にクローニングし、塩基配列を決定した。各種から得られた増幅断片のヌクレオチド配列及び対応するアミノ酸配列を配列表に示す。
ヤクシマリンドウ 配列番号:3および4
Ochroleuca及びWutariensis配列番号:5および6
OchroleucaとWutariensisから得られたフラグメントは同一のアミノ酸配列をコードしていた。最初にリンドウから得られた5,3’位芳香族アシル基転移酵素との同一性はヤクシマリンドウ由来のものは95%、Ochroleuca由来のものとWutariensis由来のものは各々90%であった。この同一性の高さから、これらはアントシアニンの5,3’位芳香族アシル基転移酵素のホモログであると考えられる。
実施例6. リンドウのアントシアニンの5,3’位芳香族アシル基転移酵素のニーレンベルギアにおける発現
リンドウの5,3’位芳香族アシル基転移酵素遺伝子を、同じくリンドウ由来の3’位糖転移酵素遺伝子、パンジー由来のF3’5’H遺伝子と共にニーレンベルギアに導入した。これにより得られる形質転換体においては、まずリンドウの3’位糖転移酵素の作用によりDEL 3G−5Gの3’位が配糖化されDEL 3G−5G−3’Gが生成し、これにリンドウのアントシアニンの5,3’位芳香族アシル基転移酵素が作用して最終産物であるゲンチオデルフィン(DEL 3G−5CafG−3’CafG)が生成することが期待される。
発現用コンストラクトpSPB1536は植物発現用バイナリーベクター(van Engelen FA et al.(1995)Transgenic Res 4:288−290)のHindIIIとEcoRIサイトに3’位糖転移酵素発現カセット、PacIサイトにパンジー由来のF3’5’Hの発現カセット、AscIサイトに5,3’位芳香族アシル基転移酵素の発現カセットを導入することにより作製した。何れの発現カセットもカリフラワーモザイクウイルス由来の35Sプロモーターによって制御され、それぞれの構造遺伝子の下流にアグロバクテリウム由来のノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター配列を有する。ニーレンベルギアへの遺伝子導入は田中らの報告(Tanaka et al.(2005)Plant Cell Tiss.Org.Cult.80:1−24)に記載のようにして行なった。
得られたニーレンベルギア形質転換体における3つの導入遺伝子(リンドウの5,3’位芳香族アシル基転移酵素遺伝子、リンドウの3’位糖転移酵素遺伝子、パンジーのF3’5’H遺伝子)の発現をRT−PCRにて確認した。これら3つの遺伝子についても転写産物が確認された系統について、水谷らの報告(Fukuchi−Mizutani et al.(2003)Plant Physiol 132:1652−1663)にあるようにして花弁の色素分析を行なったが、いずれの系統においても期待される最終産物であるゲンチオデルフィンは検出されなかった。
一方、3つの導入遺伝子の転写産物が確認された形質転換体の花弁から藤原らの報告(Fujiwara et al.(1997)Eur J Biochem 249:45−51)にあるのと同様にして粗酵素液を抽出した。これを酵素液として用い、実施例2と同様にしてDEL 3G−5G−3’Gを基質として、in vitroにおける5,3’位芳香族アシル基転移酵素活性を測定したところ、ゲンチオデルフィンの生成が確認された。一方、コントロールとして用いた非組換え体ニーレンベルギア由来の粗酵素を用いた場合は、ゲンチオデルフィンは検出されなかった。この結果から、組換え体ニーレンベルギアは5,3’位芳香族アシル基転移酵素の活性、すなわち基質として用いたDEL 3G−5G−3’Gの5位および3’位に芳香族アシル基を転移する活性を有することが明らかとなった。
しかし、同ニーレンベルギア形質転換体の粗酵素液を用い、水谷らの報告(Fukuchi−Mizutani et al.(2003)Plant Physiol 132:1652−1663)にあるのと同様にしてin vitroにおける3’位糖転移酵素の活性も測定したが、3’位糖転移酵素活性は検出されなかった。以上の結果から、形質転換体ニーレンベルギアの細胞内において5,3’位芳香族アシル基転移酵素は活性を有するタンパク質が存在していることが確認された。しかしながら、期待されるゲンチオデルフィンが形質転換体の花弁において検出されなかったのは、5,3’位芳香族アシル基転移酵素が作用する前段階で機能すべき3’位糖転移酵素のタンパク質がニーレンベルギアの細胞内で合成されなかったか、あるいは合成されても機能しなかったためと考えられる。
発明の効果
以上のように、本発明においてはリンドウ由来の芳香族アシル基転移酵素遺伝子を大腸菌で発現させて得られる組み換え芳香族アシル基転移酵素がデルフィニジン配糖体の5位の糖だけではなく、3’位の糖にも芳香族アシル基を転移する活性を併せ持つことを明らかにした。さらにリンドウ花弁から精製した天然のアントシアニン5位芳香族アシル基転移酵素が3’位の糖にも芳香族アシル基を転移する活性を併せ持つこと、すなわち、これまでのアントシアニン芳香族アシル基転移酵素とは異なり、単一の酵素がアントシアニンの5位と3’位両方の糖に芳香族アシル基を転移することを明らかにした。さらに、この遺伝子を異種植物で発現させ、5,3’位芳香族アシル基転移酵素活性を得ることができた。
アントシアニンの安定化と青色化には5位の芳香族アシル基よりも3’位の芳香族アシル基の寄与が大きく、より望ましくは3’位を含む複数位置の糖−アシル側鎖を有することが望ましいと考えられている。よって、本発明に記載したように、5位と3’位両方に芳香族アシル基を転移する5位、3’位芳香族アシル基転移酵素を用いて、アントシアニン配糖体の5位と3’位両方の芳香族アシル化を行うことで、より安定な青色味を増したアントシアニンを作出することが可能である。さらに、本酵素をコードする遺伝子を、その他必要なアントシアニン合成系あるいはアントシアニン修飾遺伝子とともに植物体で発現させることによって、アントシアニンを主とする花色をより安定に、またより青くすることが可能である。
【発明の名称】 アントシアニンの3’位への芳香族アシル基転移酵素をコードする遺伝子を用いたアントシアニン色素の安定化ならびに青色化方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、アントシアニンの3'位に芳香族アシル基を転移する酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いて、アントシアニンをより青くかつ安定に改変する方法に関するものであり、アントシアニン色素の改変や安定化、ひいては花色の改変ならびに安定化に利用できる。さらに具体的には、リンドウ(Gentiana triflora var. japonica)をはじめとした植物由来のアントシアニンの3'位への芳香族アシル基転移酵素または当該酵素をコ−ドするcDNAを利用し、花の色を青く、かつ安定化する方法に関するものである。
また、本発明は、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いて、アントシアニンをより青くかつ安定に改変する方法に関するものであり、アントシアニン色素の改変や安定化、ひいては花色の改変ならびに安定化に利用できる。
【背景技術】
【0002】
花産業は新規かつ種々の品種を開発することに努力している。新規品種育成のための有効な方法の一つとして花の色を変えることがあり、古典的な育種方法を用いて、ほとんどの商業的品種について様々な花色を呈する品種が作出されている。しかしながら、従来の育種による方法では種ごとで遺伝子プールが制限されていることから、単一の種が広範囲にわたる花色品種を有することは稀である。
【0003】
花の色は主として2つのタイプの色素、すなわちフラボノイドおよびカロチノイドに由来する。フラボノイドは黄色から赤ないしは青色の広範囲の花色に主に寄与し、一方カロチノイドはオレンジ又は黄色の色調に主に寄与する。フラボノイドの中でも花色に主たる寄与をするのは、アントシアニンと総称される一群の化合物である。アントシアニンの発色団は、アントシアニジンであり、主要なアントシアニジンとしてペラルゴニジン、シアニジン、デルフィニジンが知られている。植物には多様なアントシアニンが存在することが知られており、その多様性が花の色の多様性の一因となっている。数百種のアントシアニンの構造がすでに決定されており、ほとんどのアントシアニンの3位の水酸基は糖により修飾されている(Harbone, in The Flavonoids: 565, 1986)。
【0004】
アントシアニンの生合成経路は3位の配糖化物の生合成までは、ほとんどの顕花植物で共通であり(Holton et al., Plant Cell 7: 1071, 1995)、その後、種および品種特異的に配糖化、アシル化、メチル化など様々な修飾を受ける。このような品種における修飾形態の違いがアントシアニンの多様性すなわち多彩な花色の一因となっている。一般的にアントシアニンを修飾する芳香族アシル基が多いほどアントシアニンは安定化し、青色化する(Harbone, in The Flavonoids: 565, 1986; 斎藤規夫、蛋白質核酸酵素47:202, 2002)。さらに花の色は、これらアントシアニンと金属の錯体形成、フラボノールやフラボンなどのフラボノイド化合物のコピグメント効果、アントシアニンが局在する液胞のpHなどによって影響される (Forkmann, Plant Breeding 106:1, 1991)。
【0005】
アントシアニジンを含むフラボノイドの生合成は詳細に研究されている。アントシアニンの合成に関与する酵素の遺伝子はすべてクローニングされ、これらの転写因子の遺伝子も得られている。したがってこれらの遺伝子の発現を人為的に改変することにより花で蓄積するフラボノイドの構造と量を改変し、花色を変えることができる。分子生物学的手法と植物への遺伝子導入により、アントシアニンの構造を改変し、花の色を変えた例が報告されている(Forkmann G & Martens S (2001). Curr Opin. Biotechnolgy, 12: 155-160 Tanaka Y & Mason J (2003) In: Singh RP & Jaiwal PK (ed.) Plant genetic engineering. pp 361-385. SCI tech publishing, Houston)。
【0006】
花の色を青くする方法の1つとしてアントシアニンのB環の水酸基数を増加させることが考えられる。アントシアニンの3'位を水酸化する反応を触媒する酵素(フラボノイド3'-水酸化酵素:F3'H)とアントシアニンの3'位と5'位を水酸化する反応を触媒する酵素(フラボノイド3',5'-水酸化酵素:F3'5'H)は、花色を変える上で重要である。概してペラルゴニジン(B環の水酸基が1個)はオレンジから赤、シアニジン(B環の水酸基が2個)は赤から紅色、デルフィニジン(B環の水酸基が3個)は紫から青の花に含まれることが多い。紫から青の品種のない植物種はデルフィニジンを作る能力を欠く場合が多く、その代表例として、バラ、キク、カーネーションが挙げられる。
【0007】
これらの植物について、紫から青の品種をバイオテクノロジーにより作出することは以前から注目されている。実際にデルフィニジンを生産するために必須のF3'5'H遺伝子を発現させることにより、花色を青紫色にしたカーネーション(Tanaka Y & Mason J (2003) In: Singh RP & Jaiwal PK (ed.) Plant genetic engineering. pp 361-385. SCI tech publishing, Houston)が作製され、花弁でデルフィニジンを生産することは可能となったが、未だ花の色は十分な青色とはなっていない。すなわち、花の色を真に青くするためには、F3'5'H遺伝子を導入するだけでは不十分であり、さらに工夫をする必要があると考えられる。
【0008】
実際に青い花に含まれるアントシアニンは糖を介して芳香族アシル基で修飾されていることが多い(Honda & Saito Heterocycles 56: 633 (2002))。そこで、花の色をより青くする方法のひとつとして、カフェオイル基、クマロイル基、シナポイル基などの芳香族アシル基によりアントシアニンを修飾することが考えられる(Tanaka & Mason (2003) In: Singh RP & Jaiwal PK (ed.) Plant genetic engineering. pp 361-385. SCI tech publishing, Houston)。
【0009】
一般に、アントシアニンは配糖化によってやや赤くなり、糖を介した芳香族アシル基の付加によってアントシアニンの色は青くなる(Forkmann, Plant Breeding 106:1, 1991)。また、アントシアニンは中性溶液中では不安定な化合物であるが、糖やアシル基によって修飾されることで安定性が向上する(Forkmann, Plant Breeding 106:1, 1991)。アサガオ(Pharbitis nil)由来のアントシアニンを用いた実験により、アシル化されたアントシアニンのうち、グルコースを介して芳香族アシル基、たとえばクマル酸やカフェ酸が結合したアントシアニンはその吸収極大が長波長側に移動することが観察された(Dangle et al. Phytochemistry 34:1119, 1993)。
【0010】
芳香族アシル基の結合したアントシアニンにはツユクサ(Commelina communis)由来のアオバニン(Goto and Kondo, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 30: 17, 1991)を始め、自然界からの数多くの分離例が報告されている(Honda & Saito Heterocycles 56: 633 (2002))。例えば、青い花のアントシアニンはシネラリン(サイネリア由来)、ゲンチオデルフィン(リンドウ由来)、ヘブンリーブルーアントシアニン(アサガオ由来)、テルナチン(チョウマメ由来)、ロベリニン(ロベリア由来)等に代表されるように、複数の芳香族アシル基を有している。
【0011】
シネラリア(Senecio cruentus)由来のシネラリン (Goto et al., Tetrahedron 25: 6021, 1984)は1個の脂肪族アシル基と3個の芳香族アシル基を有するが、これら芳香族アシル基が中性水溶液中での色素の安定化に寄与していることが報告されている(Goto et al. Tetrahedron 25: 6021, 1984)。また、リンドウ花弁の主要色素であるゲンチオデルフィン(DEL 3G-5CafG-3'CafG)は、デルフィニジン3位配糖化物を基本骨格とし、5位と3’位の水酸基にグルコース1分子とカフェ酸1分子からなる側鎖を有する。これら5位ならびに3'位の糖−アシル基側鎖により、サンドイッチ様の分子内スタッキングが起こり、水溶液中で色素が安定化されることが報告されている(Yoshida et al. Tetrahedron 48:4313, 1992)。さらに、2つの糖−芳香族アシル基側鎖のうち、5位よりも3'位の糖−芳香族アシル基が色素の安定化、青色化に大きく寄与していることが確かめられた(Yoshida et al. Phytochemistry 54:85, 2000)。
【0012】
芳香族アシル基転移反応は 1980 年にナデシコ科の植物であるSilene (Kamsteeg et al., Biochem. Physiol. Pflanzen 175: 403, 1980)で初めて示され、Matthiola の可溶化酵素画分にも同様の芳香族アシル基転移酵素活性が見い出された(Teusch et al., Phytochemistry 26: 991, 1986)。その後、リンドウからアントシアニンの5位の糖にカフェ酸やクマル酸などの芳香族アシル基を転移するアントシアニン5位芳香族アシル基転移酵素(以下5AT)が単離され(Fujiwara et al., Eur. J. Biochem. 249, 45, 1997)、精製された酵素の内部アミノ酸配列の情報をもとに、リンドウの5ATをコードするcDNAが単離された(Fujiwara et al., Plant J., 16, 421, 1998)。
【0013】
この遺伝子を元にトレニア(WO2005/017147)からホモログが単離されており、さらにこれらの酵素間において保存されたアミノ酸配列をもとにアントシアニンの3位の糖に芳香族アシル基を転移する酵素(3AT)をコードするシソのcDNAが単離された(Yonekura-Sakakibara et al., Plant Cell Physiol 41: 495, 2000)。シソ3AT遺伝子をもちいて同じくシソ科のラベンダーから3AT遺伝子がクローニングされている(WO96/25500)。
【0014】
ペチュニアからアントシアニジン3ルチノシドにアシル基を転移する酵素遺伝子も得られている(特表2003-528603)。また、シソ3AT遺伝子あるいはトレニア5AT遺伝子をバラに導入したところ、花弁において3位または5位に芳香族アシル基が付加したアントシアニンが生成したが、花色を有意に青色に変えるには至らず、吸収極大値が長波長に1-2nm程度シフトしていたのみであった。
【0015】
この原因としては、吉田らの報告(Yoshida et al. Tetrahedron 48:4313, 1992)にあるように3位、5位などのA環またはC環のアシル化だけでは充分な効果がなく、3'位のアシル化がアントシアニンの青色化、安定化のために必要であること、さらに望ましくは3'位を含む複数の位置のアシル化が必要であると考えられた。実際に、3'位の糖に芳香族アシル基が付加しているアントシアニンがあることから、3'位の糖に芳香族アシル基を転移する反応を触媒する酵素(3'AT)が存在するであろうことが推察される。しかしながら、これまでのところ3'ATの反応が測定されたことはなく、また3'ATの酵素あるいは3'ATをコードする遺伝子がクローニングされたこともない。
【0016】
これまで報告されているアシル基転移酵素は全てアントシアニンの3位または5位に作用するものであり、反応の位置特異性は高いことが報告されている(Fujiwara et al. Plant J., 16, 421, 1998, Yonekura-Sakakibara et al., Plant Cell Physiol. 41, 495, 2000)。よって、既知の芳香族アシル基転移酵素を用いて3’位のアシル化を行うことはできないと考えられた。また、これまでのところ、アントシアニンの複数の位置に芳香族アシル基を転移する活性を有する芳香族アシル基転移酵素についても報告がない。よって、従来の技術レベルでは、たとえば、遺伝子組換え植物を作製し、アントシアニンの3'位、さらには3’位を含む複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移することは不可能であった。すなわち、アントシアニンの3'位、さらには3'位を含む複数の位置の糖に芳香族アシル基を付加する手法によってアントシアニンをより青く、安定化し、ひいては花の色をより青く、安定にすることは困難であった。
【0017】
【特許文献1】WO96/25500
【特許文献2】WO2005/017147
【特許文献3】特表2003-528603
【0018】
【非特許文献1】Harbone, in The Flavonoids: 565, 1986
【非特許文献2】Holton et al., Plant Cell 7: 1071, 1995
【非特許文献3】Harbone, in The Flavonoids: 565, 1986
【非特許文献4】斎藤規夫、蛋白質核酸酵素47:202, 2002
【非特許文献5】Forkmann, Plant Breeding 106:1, 1991
【非特許文献6】Forkmann G & Martens S (2001). Curr Opin. Biotechnolgy, 12: 155-160
【非特許文献7】Tanaka Y & Mason J (2003) In: Singh RP & Jaiwal PK (ed.) Plant genetic engineering. pp 361-385. SCI tech publishing, Houston
【非特許文献8】Honda & Saito Heterocycles 56: 633 (2002)
【0019】
【非特許文献9】Forkmann, Plant Breeding 106:1, 1991
【非特許文献10】Dangle et al. Phytochemistry 34:1119, 1993
【非特許文献11】Goto et al., Tetrahedron 25: 6021, 1984
【非特許文献12】Yoshida et al. Tetrahedron 48:4313, 1992
【非特許文献13】Yoshida et al. Phytochemistry 54:85, 2000
【非特許文献14】Goto and Kondo, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 30: 17, 1991
【非特許文献15】Kamsteeg et al., Biochem. Physiol. Pflanzen 175: 403, 1980
【非特許文献16】Teusch et al., Phytochemistry 26: 991, 1986
【非特許文献17】Fujiwara et al., Eur. J. Biochem. 249, 45, 1997
【非特許文献18】Fujiwara et al., Plant J., 16, 421, 1998
【非特許文献19】Yonekura-Sakakibara et al., Plant Cell Physiol 41: 495, 2000
【発明の開示】
【0020】
前述のYoshidaらの報告にあるように、アントシアニンの安定化と青色化には、アントシアニンの芳香族アシル基が寄与し、特に5位の糖-アシル基側鎖よりも3'位の糖-アシル基側鎖の寄与が大きい。さらに3'位を含めた複数位置の糖-アシル基側鎖よってアントシアニンはより青く安定になると考えられる。よって、アントシアニンの3'位、あるいは3'位を含めた複数の糖の位置へ芳香族アシル基を転移する酵素あるいは当該酵素をコードする遺伝子を用いれば、人為的にアントシアニンを修飾し、アントシアニンをより安定な化合物へと改変し、またそのアントシアニンに一層の青味を付加することができると考えられる。
【0021】
以上のように、アントシアニンの安定化、青色化のために、3'位への芳香族アシル基転移を行うことは非常に有効な手段である。そのためには、これまでに報告のないアントシアニンの3'位への芳香族アシル基転移酵素または本酵素をコードする遺伝子が必須である。発明者らは、リンドウから単離されたアントシアニン5位芳香族アシル基転移酵素の酵素学的性質を詳細に調べることによって、リンドウの5位芳香族アシル基転移酵素が3'位アシル基転移活性をもコードしていることを明らかにした。すなわち、本酵素は、単一の酵素でありながらアントシアニンの5位ならびに3'位の2箇所の糖にそれぞれ芳香族アシル基転移反応を触媒するものであることを明らかにした。
【0022】
よって、本発明はアントシアニンの3'位へ芳香族アシル基を付加することによってアントシアニンをより青く安定にする方法を提供する。また当該芳香族アシル基転移酵素をコードする遺伝子を植物に導入し、発現させることで、花色をより安定に青くする方法を提供する。
従って、本発明は、(1)アントシアニンの3'位の糖に芳香族アシル基を転移する酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いるアントシアニンの3'位のアシル化方法を提供する。
【0023】
(2)本発明はまた、アントシアニンの3'位の糖に芳香族アシル基を転移する酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いるアントシアニンの安定化方法を提供する。
(3)本発明はまた、アントシアニンの3'位の糖に芳香族アシル基を転移する酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いるアントシアニンの青色化の方法を提供する。
(4)本発明は更に、アントシアニンの3'位への芳香族アシル基転移酵素をコードする遺伝子を植物で発現し、当該植物体内において目的色素をアシル化する方法を提供する。
【0024】
(5)本発明は更に、アントシアニンの3'位への芳香族アシル基転移酵素をコードする遺伝子を、植物に導入し、当該植物体内において目的色素がアシル化されることによる、当該色素を安定化する方法を提供する。
(6)本発明はまた、アントシアニンの3'位への芳香族アシル基転移酵素をコードする遺伝子を、植物に導入し、当該植物体内において目的色素がアシル化されることによる、当該色素を青色化する方法を提供する。
【0025】
(7)本発明は更に、上記(4)〜(6)のいずれかに記載された方法によって得られた植物体、当該植物体の栄養増殖体または種子、または当該植物体と同一の性質を有する当該植物体の子孫となる植物体、当該植物体の栄養増殖体または種子を提供する。
(8)本発明はまた、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を付加する方法を提供する。
【0026】
(9)本発明は更に、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの安定化方法を提供する。
(10)本発明はまた、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの青色化の方法を提供する。
【0027】
(11)本発明は更に、前記複数の位置のひとつが、アントシアニンの3’位の糖である上記(8)〜(10)のいずれかに記載の方法を提供する。
(12)本発明はまた、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を植物で発現し、当該植物体内において目的色素をアシル化する方法を提供する。
(13)本発明はまた、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を、植物に導入し、当該植物体内において目的色素がアシル化されることによる、当該色素を安定化する方法を提供する。
【0028】
(14)本発明は更に、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を、植物に導入し、当該植物体内において目的色素がアシル化されることによる、当該色素を青色化する方法を提供する。
(15)本発明はまた、前記複数の位置のひとつが、アントシアニンの3'位の糖である上記(12)〜(14)のいずれかに記載の方法を提供する。
(16)本発明は更に、上記(12)〜(15)のいずれかに記載された方法によって得られた植物体、当該植物体の栄養増殖体または種子、もしくは当該植物体と同一の性質を有する当該植物体の子孫となる植物体、当該植物体の栄養増殖体または種子を提供する。
【0029】
(17)本発明はまた、配列番号:4または6に記載のアミノ酸配列を有しアントシアニンの3'位の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子、または当該アミノ酸配列に対して70%以上の配列の同一性を有し、且つアントシアニンの3'位の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子、または配列番号:3または5に記載のヌクレオチド配列に対し70%以上の同一性を有し、且つアントシアニンの3’位の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子を提供する。
【0030】
(18)本発明はまた、配列番号:4または6に記載のアミノ酸配列を有しアントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子、または当該アミノ酸配列に対して70%以上の配列の同一性を有し、且つアントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子、または配列番号:3または5に記載のヌクレオチドは配列に対し70%以上の同一性を有し、且つアントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子を提供する。
【0031】
(19)本発明はまた、前記複数の位置のひとつが、アントシアニンの3’位の糖である上記(18)に記載の遺伝子を提供する。
(20)本発明はまた、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子を含んでなるベクターを提供する。
(21)本発明はまた、上記(20)に記載のベクターにより形質転換された宿主を提供する。
(22)本発明はまた、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子によってコードされる蛋白質を提供する。
【0032】
(23)本発明はさらに、上記(21)に記載の宿主を培養し、又は生育させ、そして該宿主からフラボノイドの3'位に糖を転移する活性を有する蛋白質を採取することを特徴とする該蛋白質の製造方法を提供する。
(24)本発明はまた、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子が導入された植物もしくはこれと同じ性質を有するその子孫又はそれらの組織を提供する。
(25)本発明はさらに、上記(24)に記載の植物の切花又はこれと同じ性質を有するその子孫の切花を提供する。
【0033】
(26)本発明はまた、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの3'位のアシル化方法を提供する。
(27)本発明はまた、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの安定化方法を提供する。
(28)本発明はまた、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの青色化の方法を提供する。
【0034】
(29)本発明はさらに、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子を植物で発現し、当該植物体内において目的色素をアシル化する方法を提供する。
(30)本発明はまた、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子を、植物に導入し、当該植物体内において目的色素がアシル化されることによる、当該色素の安定化方法を提供する。
【0035】
(31)本発明はまた、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子を、植物に導入し、当該植物体内において目的色素がアシル化されることによる、当該色素の青色化の方法を提供する。
(32)本発明はさらに、上記(17)〜(19)のいずれかに記載の遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を付加する方法を提供する。
(33)本発明はさらに、前記複数の位置のひとつが、アントシアニンの3’位の糖である上記32に記載の方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本明細書においてはリンドウ由来のアントシアニンの3'位への芳香族アシル基転移酵素あるいは当該酵素をコードする遺伝子を用いた方法について述べているが、用いる遺伝子または該遺伝子によりコードされるタンパク質としてはこれに限定されるものではない。複数個のアミノ酸の付加、欠失または他のアミノ酸との置換によって修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質も、元のタンパク質と同等の酵素活性を維持することが知られている。従って本発明は3'位の糖への芳香族アシル基転移活性を保持している限り、リンドウの当該酵素のアミノ酸配列に1個または複数個のアミノ酸の付加、欠失および/または他のアミノ酸との置換によって修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質および当該タンパク質をコードする遺伝子を用いた場合も本発明に属する。
【0037】
本発明はまた、リンドウ由来のアントシアニンの3'位への芳香族アシル基転移酵素のアミノ酸配列、配列番号:4または6に記載のアミノ酸配列に対して、70%以上、好ましくは90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、且つアントシアニンの3'位の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子も、本発明に属する。
【0038】
またリンドウ由来の3'位の糖への芳香族アシル基転移酵素をコードするDNAに対し、5xSSC、50℃といった比較的温和な条件下でハイブリダイズし、かつ3'位への芳香族アシル基転移活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を利用した場合も本発明に属する。さらにリンドウ由来の3'位への芳香族アシル基転移酵素をコードするDNAに対し、ストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ3'位への芳香族アシル基転移活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を利用した場合も本発明に属する。
【0039】
ここでいうストリンジェントな条件とは例えば、2xSSC、65℃であるが、ハイブリダイゼーションの条件はプローブに用いるDNAの長さおよび塩基組成によって異なるから、この条件に限定されるものではない。このようなハイブリダイゼーションによって選択される遺伝子としては天然由来のもの、例えば、3'位に芳香族アシル基が付加したアントシアニンを含有する植物、例えばチョウマメやロベリア、サイネリア由来の遺伝子が挙げられるが植物由来に限定されるものではない。すなわち、アントシアニンの3'位への芳香族アシル基転移活性を有する酵素をコードする遺伝子であれば、いずれも利用可能である。またハイブリダイゼーションによって選択される遺伝子はcDNAであってもよく、ゲノムDNAであってもよい。
【0040】
またロベリアやチョウマメなど、3'位に芳香族アシル基が付加したアントシアニンを含有する植物から、当該リンドウの酵素の精製法をそのまま又は一部を改変して、3'位への芳香族アシル基転移酵素を精製することができる。さらに、精製した酵素のアミノ酸配列を決定することにより、当該酵素をコードする遺伝子をクローニングすることができる。
【0041】
改変されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNAは、公知の部位特定変異誘発法やPCR法を用いて合成することができる。例えばアミノ酸配列を改変したいDNA断片をcDNAまたはゲノムDNAの制限酵素処理によって得、これを鋳型にして、所望のアミノ酸配列の改変に対応したプライマーを用い、部位特異的変異誘発またはPCR法を実施し、所望のアミノ酸配列の改変に対応したDNA断片を得ることができる。その後、この改変を導入したDNA断片を目的とする酵素の他の部分をコードするDNA断片と連結すればよい。
【0042】
あるいはまた、短縮されたアミノ酸配列からなる酵素をコードするDNAを得るには、例えば目的とするアミノ酸配列より長いアミノ酸配列、例えば全長アミノ酸配列をコードするDNAを所望の制限酵素により切断し、その結果得られたDNA断片が目的とするアミノ酸配列の全体をコードしていない場合は、不足部分のアミノ酸配列に対応するDNA断片を合成し、連結すればよい。このようにして得られた遺伝子を大腸菌又は酵母での遺伝子発現系を用いて発現させ、当該大腸菌又は酵母の抽出液中の3'位への芳香族アシル基転移酵素活性を測定することにより、得られた遺伝子が芳香族アシル基転移酵素をコードすることを確認することができる。また、目的のアミノ酸配列をコードするDNAを合成することもできる。
【0043】
本発明はまた、芳香族アシル基転移酵素遺伝子を含む組換えベクター、特に発現ベクター、及び当該ベクターによって形質転換された宿主細胞から抽出した芳香族アシル基転移酵素を用いた場合も該当する。宿主としては、原核生物または真核生物を用いることができる。原核生物としては細菌、例えばエシェリヒア(Escherichia)属に属する細菌、例えば大腸菌(Escherichia coli)、バシルス(Bacillus)属微生物、例えばバシルス・スブシルス(Bacillus subtilis)など従来公知の宿主細胞を用いることができる。真核細胞としては、例えば真核微生物、好ましくは酵母または糸状菌が使用できる。
【0044】
酵母としては例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロミセス(Saccharomyces)属酵母が挙げられ、また糸状菌としては、例えばアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等のアスペルギルス(Aspergillus)属微生物、及びペニシリウム(Penicillium)属微生物等が挙げられる。さらに動物細胞または植物細胞も宿主細胞として使用でき、動物細胞としては、マウス、ハムスター、サル、ヒト等の細胞系が使用される。さらに昆虫細胞、例えばカイコ細胞、またはカイコの成虫それ自体も宿主として使用される。
【0045】
発現ベクターとしてはそれらを導入すべき宿主の生物種に依存したプロモーターおよびターミネーター等の発現制御領域、及び複製起点等を含有する。細菌用、特に大腸菌における発現ベクターのプロモーターとしては、従来公知のプロモーター、例えばtrcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーター等が使用できる。また、酵母用プロモーターとしては、例えばグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター、PH05プロモーター等が使用され、糸状菌用プロモーターとしては例えばアミラーゼ、trpC等のプロモーターが使用できるが、これらのプロモーターに限定されるものではない。また動物細胞用プロモーターとしてはウイルス性プロモーター、例えばSV40アーリープロモーター、SV40レートプロモーター等が使用される。
【0046】
発現ベクターの作製は制限酵素、リガーゼ等を用いて常法に従って行うことができる。また、発現ベクターによる宿主細胞の形質転換も従来公知の方法に従って行うことができる。植物の発現ベクターとしては、例えばアグロバクテリウムを用いる場合にはpBI121などのバイナリーベクターを、パーティクルガンを用いる場合にはpUC19などの大腸菌ベクターを用いることができる。さらに、当該発現ベクターで形質転換された植物細胞を、例えば抗生物質耐性遺伝子などのマーカー遺伝子を用いて選抜し、適切な植物ホルモン等の条件を用いて再分化させ、形質転換された植物体を得ることができる。
【0047】
このようにして形質転換された宿主細胞又は形質転換植物体を培養又は栽培し、培養物等から常法に従って、例えば、濾過、遠心分離、細胞の破砕、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等により回収、精製したアントシアニンの3’位への芳香族アシル基転移酵素を利用した場合も本発明に属する。
【0048】
現在の技術水準をもってすれば、植物に遺伝子を導入し、その遺伝子を構成的あるいは組織特異的に発現させることは可能であるし、またアンチセンス法やコサプレッション法などによって目的の遺伝子の発現を抑制することも可能である。形質転換可能な植物の例としては、バラ、キク、カーネーション、金魚草、シクラメン、ラン、トルコギキョウ、フリージア、ガーベラ、グラジオラス、カスミソウ、カランコエ、ユリ、ペラルゴニウム、ゼラニウム、ペチュニア、トレニア、チューリップ、イネ、オオムギ、小麦、ナタネ、ポテト、トマト、ポプラ、バナナ、ユーカリ、サツマイモ、タイズ、アルファルファ、ルーピン、トウモロコシ、カリフラワーなどがあげられるがこれらに限定されるものではない。
【0049】
従って、本発明で提供するアントシアニンの3'位の芳香族アシル化方法で用いるのは、リンドウ由来のアシル基転移酵素ならびに本酵素をコードするリンドウのcDNAや遺伝子、さらに本cDNAや遺伝子を大腸菌などの宿主で発現させて得られる組換え体酵素に限定されるものではなく、広く他の生物から得られるアントシアニンの3'位への芳香族アシル基転移酵素、その酵素をコードするcDNAや遺伝子、さらにこれらcDNAや遺伝子を大腸菌などの宿主で発現させて得られる組み換え体酵素で代用した場合も可能である。
【0050】
また、本明細書においてはアントシアニンを含むフラボノイドのアシル基転移反応において、アシル基の供与体としてp−クマロイル−CoA又はカフェオイル−CoA等のCoAエステルを挙げたが、p−クマロイル、フェルロイル又はシナポイル−1−O−グルコースといったハイドロキシシンナモイル−1−O−グルコースも芳香族アシル基の供与体としての利用が可能であるので(Glassgen and Seitz, Planta 186: 582, 1992)、本発明に係る酵素を用いた利用が可能である。
【実施例】
【0051】
以下に本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。実験の手順は特に記述しない限りSambrookらのMolecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)、PCT-JP96-00348、Fujiwaraらの報告(1997、1998)に従った。
実施例1. リンドウ由来のアシル基転移酵素cDNAの大腸菌における発現と組み換え体タンパク質の精製
リンドウ由来のアシル基転移酵素cDNAの大腸菌発現用コンストラクト pGeAT102(Fujiwara et al., Plant J., 16, 421, 1998に記載)からNcoI/HindIII切断によってアシル基転移酵素のコード領域および3'非翻訳領域を含むフラグメントを大腸菌発現ベクターpQE60(QIAGEN社)のNcoI/HindIIIにサブクローニングし、大腸菌発現用コンストラクトpQE8を得た。
【0052】
pQE8を導入した大腸菌JM109株をSB培地を用いて37℃でOD600nm=0.8まで培養したのち、培養温度を15℃に下げて更に1時間培養し、IPTG最終濃度0.1Mとなるよう添加して、リンドウアシル基転移酵素遺伝子の発現を誘導した。15℃、1時間培養し、集菌したものを超音波破壊し、以下の精製に用いた。破壊した菌体をDE52(Whatman)にかけ、150mM NaClを含む25mM Tris-HCl(pH 7.5)による素通り画分を回収した。さらに硫安塩析により40〜60%の硫安飽和画分を回収し、少量の20mM Tris-HCl(pH 7.5)に溶解し、20mM Tris-HCl(pH 7.5)により平衡化したSephadexG-25(Pharmacia社)を用いて、脱塩した。
【0053】
これをDEAE-TOYOPEAL(TOSOH社)に負荷したのち、20mM Tris-HCl(pH7.5)から0.5 M NaClを含む20mM Tris-HCl(pH7.5)に至る直線濃度勾配により溶出したところ、約120〜240 mM NaClの溶出画分にデルフィニジン3, 5-ジグルコシド(DEL 3G-5G)に対する5位芳香族アシル基転移酵素活性が見られた。活性画分を20mM Tris-HCl(pH7.5)緩衝液に対して透析した後、Blue Sepharose(Pharmacia社)に負荷した。Blue Sepharose素通り画分には活性はなく、吸着した活性画分を1M NaClを含む20mM Tris-HCl(pH7.5)を用いて溶出した。
【0054】
続いて本画分をPhenyl Sepharose(Pharmacia社)に吸着させ、40%飽和硫安を含む20mM Tris-HCl(pH7.5)から20mM Tris-HCl(pH7.5)への直線濃度勾配で溶出した。活性画分は0%硫安で溶出された。これを20mM Tris-HCl(pH7.5)に対して透析したのち、DyematrixカラムOrange A(Amicon社)に吸着させ、0.3M NaClと0.5 mM DTTを含む10mM Tris-HCl(pH7.5)を用いて溶出した。活性は素通り画分にはなく、吸着画分にのみ活性がみられ、これをセントリコン−10(Amicon社)によって濃縮した。
【0055】
実施例2. 組換えアシル基転移酵素の活性測定
図1及び図2で示す3種類のデルフィニジン誘導体、デルフィニジン3, 5, 3'-トリグルコシド(DEL 3G-5G-3'G)、デルフィニジン 3-グルコシル-5-カフェオイルグルコシル-3’-グルコシド(DEL 3G-5CafG-3'G)、デルフィニジン 3-グルコシル-5-グルコシル-3’-カフェオイルグルコシド(DEL 3G-5G-3'CafG)を基質とし、実施例1で得られた組み換え酵素を用いて、その酵素活性を測定した。全量50 μlの反応液中、100 mM カリウムリン酸バッファー(pH8.5)、0.2 mM カフェオイル−CoA、250 mM 上記の各基質、酵素液5 μl を含み、30℃、15分反応を行った。0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)を含む90%アセトニトリル水溶液を反応液を等量添加し、反応を停止した。
【0056】
また、反応生成物の経時変化を調べるために、25倍に希釈した酵素液5 μl、基質として50 μM、100 μM または200μMのDEL 3G-5G-3’G を用い、2.5、5、10、20 分後に反応を止め、生成物を分析した。反応生成物の分析はDE-41カラム(4.6 x 250mm、Shodex社)を用いた逆層液体高速クロマトグラフィー(HPLC)によって行った。サンプルの溶出は、0.5% TFAを含む20−50%直線濃度勾配のアセトニトリル水溶液 で0.6 ml/min、15分、その後50%のアセトニトリル水溶液で0.6 ml/min、10分行い、SPD-M10A (島津製作所製)を用いて250-600nmの波長で検出した。既知試料のHPLC溶出時間ならびに吸収スペクトルと生成物のものとを比較し、生成物の構造の同定を行った。
【0057】
上記3種の化合物を基質とした反応の結果、組み換えアシル基転移酵素はいずれの基質とも反応した。250 mM のDEL 3G-5CafG-3'Gを基質とすると94.1%がDEL 3G-5CafG-3’CafGに変換された。一方、250 mM のDEL 3G-5G-3'CafGを基質とすると95.2%がDEL 3G-5CafG-3’CafGに変換された。また250 mM のDEL 3G-5G-3'Gを基質とすると、7.2 %が5位のみ芳香族アシル基が付加したDEL 3G-5CafG-3'G、58.7%がDEL 3G-5CafG-3'CafGに変換され、3'位のみに芳香族アシル基が付加したDEL 3G-5G-3'CafGは痕跡量(1%以下)であった。
【0058】
希釈した酵素液を用い、DEL 3G-5G-3'Gを基質として反応の経時変化を測定した結果、反応時間の経過に伴いDEL 3G-5CafG-3'GとDEL 3G-5CafG-3'CafGの生成量が増加した。DEL 3G-5G-3'CafGの生成量は他の2つに比べて非常に少なく、基質量を増加し、反応時間を長くすることでわずかに検出される程度であった(図3、図4及び図5)。このことは、希釈していない酵素液をDEL 3G-5G-3'Gに反応させた結果と一致する。
【0059】
以上の結果から、リンドウ由来のアシル基転移酵素遺伝子を大腸菌で発現させて得られた組み換えタンパク質は、アントシアニンの5位と3'位両方の糖に芳香族アシル基を転移する活性をもつことが明らかとなった。すなわち、以前の報告(Fujiwara et al., Plant J., 16, 421, 1998)では本酵素はアントシアニンの5位にのみ特異的に芳香族アシル基を転移するとされていたが、本発明によって本酵素は3'位と5位の両方の糖に芳香族アシル基を転移することが明らかになった。さらにDEL 3G-5G-3'Gを基質とした場合の反応生成物から、5位グルコースへの芳香族アシル基付加が先行し、その後3'位グルコースへの芳香族アシル基付加が起こる可能性が高いと考えられる。
【0060】
実施例3. リンドウ由来の芳香族アシル基転移酵素の精製
リンドウ由来の芳香族アシル基転移酵素cDNAを大腸菌で発現させて得られる酵素が、アントシアニンの5位ならびに3'位のグルコースへの芳香族アシル基転移活性を持つことが明らかとなったが(実施例2)、リンドウ花弁に存在する天然の酵素についても、単一の酵素が5位芳香族アシル基転移酵素活性と3'位芳香族アシル基転移酵素活性を有することを確認するため、リンドウ花弁から本酵素の精製を行った。一連の精製において、実施例2記載と同様にして、各カラムクロマトグラフィーの溶出画分それぞれにDEL 3G-5Gを基質とした5位アシル基転移酵素活性とDEL 3G-5G-3’Gを基質とした5位、3'位アシル基転移酵素活性を測定した。
【0061】
リンドウの5位芳香族アシル基転移酵素を精製したFujiwaraらの報告(Fujiwara et al., Eur. J. Biochem. 249, 45, 1997)に従い、リンドウ花弁約100gの破砕抽出物から硫安40-70%飽和の塩析画分を得た。これを10μM p-アミノフェニルメタンスルフォニルフロライド(APMSF)、1 mM DTTを含む20mM Tris-HCl(pH 7.0) (以下Trisバッファーと記載)で平衡化したセファデックスG-25(ファルマシア社)によって脱塩したのち、 Trisバッファーで平衡化したMONO Q (ファルマシア社)に負荷した。Trisバッファーで未吸着画分を洗浄したのち、0〜0.5 M NaClを含むTrisバッファーを流速5 ml/min、20 min流して吸着画分を溶出した。芳香族アシル基転移活性は0.2〜0.42 M NaClで溶出される画分に存在した。
【0062】
これをHiTrap Blue(ファルマシア社)に負荷し、Trisバッファーで充分に洗浄したのち、0.9 M NaClを含むTrisバッファーで吸着画分を溶出した。活性は吸着画分に存在した。その後、活性画分をDEAE-Sepharose(ファルマシア社)に負荷した。Trisバッファーで充分洗浄したのち、吸着画分を0〜0.5 M NaClを含むTrisバッファーを0.5 ml/min、60 min流して溶出した。活性は0.22〜0.3 mM NaClを含むTrisバッファーで溶出される画分に見られた。その後、活性画分をセントリコン30(Amicon社)で濃縮した後、Dyematrix カラム Red(Amicon社)にかけた。Trisバッファーで未吸着画分を洗浄した後、吸着した画分を1.5 M KClを含むTrisバッファーによって溶出した。これをSDS-PAGEによる解析に供したところ、アシル基転移酵素の推定分子量52kDa付近には、ほぼ単一のバンドしか検出されなかった。
【0063】
一連の精製において、各カラムクロマトグラフィーの溶出画分についてDEL 3G-5Gを基質とした5位アシル基転移酵素活性と、DEL 3G-5G-3’Gを基質とした5位、3'位アシル基転移酵素活性を測定したところ、両活性が最も強い活性を示すフラクションは完全に一致していた。Dyematrix カラム Redに吸着した活性画分を用いて実施例2と同じ3種類の基質、DEL 3G-5G-3'G、DEL 3G-5CafG-3'G、DEL 3G−5G−3'CafGに対する活性を測定したところ、いずれの基質とも反応し実施例2と同様の反応特性を示した。
【0064】
Dyematrix カラム Redに吸着した活性画分をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離したのち、公知の方法(Towbin et al. Proc. Natl. Acad. Sci, 76, 4350, 1979)に基づき、分離後の蛋白質をニトロセルロースメンブレンHybond-ECL(Amersham社)に転写した後、リンドウのアントシアニン5位アシル基転移酵素に対する特異的抗体(Fujiwara et al., Eur. J. Biochem. 249, 45, 1997)を用いてウェスタン法により検出したところ明瞭な1本のバンドが観察された(図6)。
【0065】
以上の結果から、リンドウ花弁に存在するアントシアニン3'位芳香族アシル基転移活性とアントシアニン5位芳香族アシル基転移活性が単一の蛋白質に由来することが明らかとなった。
【0066】
実施例4. リンドウのアシル基転移酵素によるアントシアニンの安定化、青色化
DEL 3G-5G-3'G、DEL 3G-5CafG-3'G、DEL 3G-5G-3'CafG、DEL 3G-5CafG-3'CafG に関する相対的な安定性についてはすでに報告がある。すなわち、pH6.5の水溶液においてDEL 3G-5CafG-3'CafG が最も安定で退色し難く、続いてDEL 3G-5G-3'CafG 、DEL 3G-5CafG-3'G 、DEL 3G-5G-3'Gの順に安定である(Yoshida et al., Phytochemistry 54, 85, 2000)。また、吸収極大はDEL 3G-5CafG-3'CafG が最も長波長であり、以下DEL 3G-5G-3'CafG 、DEL 3G-5CafG-3'G 、DEL 3G-5G-3’Gであった。すなわち、見た目に最も青く映えるのはDEL 3G-5CafG-3'CafGであり、続いてDEL 3G-5G-3'CafGであることが示されている(Yoshida et al., Phytochemistry 54, 85, 2000)。
【0067】
リンドウ由来のアントシアニン5,3'位芳香族アシル基転移酵素遺伝子をバラに導入し、バラ花弁においてDEL 3G-5CafG-3'CafGが生成した場合の花色を推察するため、バラ(品種Medeo)花弁の搾汁液中における精製色素の発色を調べた。精製色素としては、DEL 3G-5CafG-3'CafGおよび比較対照としてDEL 3G-5G、シアニジン 3,5-ジグルコシド(CYA 3G-5G)、ペラルゴニジン 3,5-ジグルコシド(PEL 3G-5G)、マルビジン3,5-ジグルコシド(MAL 3G-5G)を用いた。-80℃で1時間以上凍結したMedeo花弁約20 gを、家庭用ニンニク搾り機を用いて搾り、1000 rpmで1 min 遠心して花弁残渣を除いた上清を搾汁液とした。
【0068】
搾汁液1mlに上記精製色素の50 mM DMSO溶液を20μl添加し、10分間静置した後、分光測色計UV-2500PC(島津製作所製)で380-780 nmの吸収スペクトルおよび透過スペクトルを測定した。透過スペクトルからCIE L*a*b*表色系(JISZ8729)に換算した。イギリス王立園芸協会カラーチャート(RHSCC)番号は、上記の機器測定により得られた色彩値(CIE L*a*b*表色系)をもとに、色彩分類システム Version2.1.1(株式会社日本総合研究所、日本;特開2002-016935)を用いて近似色の照合をおこなった。このシステムを用いることにより客観的に近似のRHSCC番号を選択できる。搾汁液に加えた色素の最終濃度は、バラ花弁液胞中の平均的アントシアニン濃度を近似するものである。ただし、3G-5CafG-3’CafGについては吸光度が高すぎたため4倍希釈で測定した。なお、Medeoはバラ園芸種の平均的な花弁pH(pH 4.38)を示す品種である。
【0069】
図7に示すように、上記5種の精製色素の中でDEL 3G-5CafG-3'CafGはバラ花弁搾中液中において、最も大きい極大吸収スペクトルを示した。透過スペクトルから換算したL*a*b*値をもとにRHSCC(英国王立園芸協会カーラーチャート)を用いて近似色を求めると89Aとなり、図7にも示されるように5種の精製色素中、最も青い色を呈した。
【0070】
この結果から、例えばバラ花弁において、アントシアニン5,3'位芳香族アシル基転移酵素遺伝子を、F3'5'H遺伝子(WO2004/020637)ならびに3'位糖転移酵素遺伝子(WO01/92509)とともに発現させることによって、バラ花弁においてDEL 3G-5CafG-3'CafGを生成し、その結果、青い色を呈するバラの花を作出することが可能であると考えられる。同様に、カーネーション、キク、ペチュニア、バーベナ、ニーレンベルギア、ユリなどでも青い花の品種を作製できる。
【0071】
実施例5. リンドウ近縁種からアントシアニンの5,3'位芳香族アシル基転移酵素ホモログの単離
リンドウ属(Gentiana)には、リンドウだけでなくガビザンリンドウやヤクシマリンドウなど種々の近縁種が存在する。これらから、PCRにより5,3’位芳香族アシル基転移酵素ホモログの取得を試みた。
【0072】
リンドウから得られた5,3'位芳香族アシル基転移酵素遺伝子にはイントロンを含まないことが判っていたので、近縁種の葉より抽出したゲノムDNAを鋳型として、5,3'位芳香族アシル基転移酵素遺伝子に特異的なプライマーを用いてPCRを行った。ゲノムDNAの抽出にはQIAGEN社のDNeasyを用い、製造元推奨の方法に従い行なった。5,3'位芳香族アシル基転移酵素遺伝子に特異的なプライマーGAT4-Met-FおよびGAT4-Bは以下のような配列を有し、これらをプライマーとしてPCRを行なうことにより、コード領域全体を含む全長のcDNAが増幅される。PCRの反応条件は下記のようである。
【0073】
プライマーの配列
GAT4-Met-F TCA TTA TGG AGC AAA TCC AAA (配列番号:1)
GAT4-B CAT GTC AGG TGT GAG GTT CAA C (配列番号:2)
PCR条件
変性反応 94℃ 5分、1サイクル
増幅反応 94℃ 1分、55℃ 1分30秒、72℃ 3分を30サイクル
伸長反応 72℃ 7分、1サイクル
【0074】
このPCRによって、ヤクシマリンドウ、Ochroleuca、Wutariensisの3種において、期待される1.5kb程度のバンドが増幅された。これらを回収し、pCRII-TOPO(Invitrogen)にクローニングし、塩基配列を決定した。各種から得られた増幅断片のヌクレオチド配列及び対応するアミノ酸配列を配列表に示す。
ヤクシマリンドウ 配列番号:3および4
Ochroleuca及びWutariensis配列番号:5および6
【0075】
OchroleucaとWutariensisから得られたフラグメントは同一のアミノ酸配列をコードしていた。最初にリンドウから得られた5,3'位芳香族アシル基転移酵素との同一性はヤクシマリンドウ由来のものは95%、Ochroleuca由来のものとWutariensis由来のものは各々90%であった。この同一性の高さから、これらはアントシアニンの5,3'位芳香族アシル基転移酵素のホモログであると考えられる。
【0076】
実施例6. リンドウのアントシアニンの5,3'位芳香族アシル基転移酵素のニーレンベルギアにおける発現
リンドウの5,3'位芳香族アシル基転移酵素遺伝子を、同じくリンドウ由来の3’位糖転移酵素遺伝子、パンジー由来のF3'5'H遺伝子と共にニーレンベルギアに導入した。これにより得られる形質転換体においては、まずリンドウの3'位糖転移酵素の作用によりDEL 3G-5Gの3’位が配糖化されDEL 3G-5G-3'Gが生成し、これにリンドウのアントシアニンの5,3'位芳香族アシル基転移酵素が作用して最終産物であるゲンチオデルフィン(DEL 3G-5CafG-3'CafG)が生成することが期待される。
【0077】
発現用コンストラクトpSPB1536は植物発現用バイナリーベクター(van Engelen FA et al. (1995) Transgenic Res 4:288-290)のHindIIIとEcoRIサイトに3'位糖転移酵素発現カセット、PacIサイトにパンジー由来のF3'5'Hの発現カセット、AscIサイトに5,3’位芳香族アシル基転移酵素の発現カセットを導入することにより作製した。何れの発現カセットもカリフラワーモザイクウイルス由来の35Sプロモーターによって制御され、それぞれの構造遺伝子の下流にアグロバクテリウム由来のノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター配列を有する。ニーレンベルギアへの遺伝子導入は田中らの報告(Tanaka et al. (2005) Plant Cell Tiss. Org. Cult. 80:1-24)に記載のようにして行なった。
【0078】
得られたニーレンベルギア形質転換体における3つの導入遺伝子(リンドウの5,3'位芳香族アシル基転移酵素遺伝子、リンドウの3'位糖転移酵素遺伝子、パンジーのF3'5'H遺伝子)の発現をRT-PCRにて確認した。これら3つの遺伝子についても転写産物が確認された系統について、水谷らの報告(Fukuchi-Mizutani et al. (2003) Plant Physiol 132:1652-1663)にあるようにして花弁の色素分析を行なったが、いずれの系統においても期待される最終産物であるゲンチオデルフィンは検出されなかった。
【0079】
一方、3つの導入遺伝子の転写産物が確認された形質転換体の花弁から藤原らの報告(Fujiwara et al. (1997) Eur J Biochem 249:45-51)にあるのと同様にして粗酵素液を抽出した。これを酵素液として用い、実施例2と同様にしてDEL 3G-5G-3’Gを基質として、in vitroにおける5,3’位芳香族アシル基転移酵素活性を測定したところ、ゲンチオデルフィンの生成が確認された。一方、コントロールとして用いた非組換え体ニーレンベルギア由来の粗酵素を用いた場合は、ゲンチオデルフィンは検出されなかった。この結果から、組換え体ニーレンベルギアは5,3'位芳香族アシル基転移酵素の活性、すなわち基質として用いたDEL 3G-5G-3'Gの5位および3'位に芳香族アシル基を転移する活性を有することが明らかとなった。
【0080】
しかし、同ニーレンベルギア形質転換体の粗酵素液を用い、水谷らの報告(Fukuchi-Mizutani et al. (2003) Plant Physiol 132:1652-1663)にあるのと同様にしてin vitroにおける3’位糖転移酵素の活性も測定したが、3'位糖転移酵素活性は検出されなかった。以上の結果から、形質転換体ニーレンベルギアの細胞内において5,3'位芳香族アシル基転移酵素は活性を有するタンパク質が存在していることが確認された。しかしながら、期待されるゲンチオデルフィンが形質転換体の花弁において検出されなかったのは、5,3'位芳香族アシル基転移酵素が作用する前段階で機能すべき3'位糖転移酵素のタンパク質がニーレンベルギアの細胞内で合成されなかったか、あるいは合成されても機能しなかったためと考えられる。
【0081】
発明の効果
以上のように、本発明においてはリンドウ由来の芳香族アシル基転移酵素遺伝子を大腸菌で発現させて得られる組み換え芳香族アシル基転移酵素がデルフィニジン配糖体の5位の糖だけではなく、3'位の糖にも芳香族アシル基を転移する活性を併せ持つことを明らかにした。さらにリンドウ花弁から精製した天然のアントシアニン5位芳香族アシル基転移酵素が3’位の糖にも芳香族アシル基を転移する活性を併せ持つこと、すなわち、これまでのアントシアニン芳香族アシル基転移酵素とは異なり、単一の酵素がアントシアニンの5位と3'位両方の糖に芳香族アシル基を転移することを明らかにした。さらに、この遺伝子を異種植物で発現させ、5,3'位芳香族アシル基転移酵素活性を得ることができた。
【0082】
アントシアニンの安定化と青色化には5位の芳香族アシル基よりも3’位の芳香族アシル基の寄与が大きく、より望ましくは3'位を含む複数位置の糖-アシル側鎖を有することが望ましいと考えられている。よって、本発明に記載したように、5位と3'位両方に芳香族アシル基を転移する5位、3'位芳香族アシル基転移酵素を用いて、アントシアニン配糖体の5位と3'位両方の芳香族アシル化を行うことで、より安定な青色味を増したアントシアニンを作出することが可能である。さらに、本酵素をコードする遺伝子を、その他必要なアントシアニン合成系あるいはアントシアニン修飾遺伝子とともに植物体で発現させることによって、アントシアニンを主とする花色をより安定に、またより青くすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明に関連するアントシアニン系化合物の構造式、名称及び略号を示す。
【図2】図2は、本発明に関連するアントシアニン系化合物の構造式、名称及び略号を示す。
【図3】図3は、50μMのDEL 3G-5G-3'Gを基質として使用した場合の反応生成物の経時変化を示すグラフである。図中、triGはDEL 3G-5G-3'Gを、5CafはDEL 3G-5CafG-3'Gを、3'CafはDEL 3G-5G-3'CafGを、そして5,3'CafはGentiodelphin(DEL 3G-5CafG-3'CafG)を示す。
【図4】図4は、100μMのDEL 3G-5G-3'Gを基質として使用した場合の反応生成物の経時変化を示すグラフである。図中、triGはDEL 3G-5G-3'Gを、5CafはDEL 3G-5CafG-3'Gを、3'CafはDEL 3G-5G-3'CafGを、そして5,3'CafはGentiodelphin(DEL 3G-5CafG-3'CafG)を示す。
【図5】図5は、200μMのDEL 3G-5G-3'Gを基質として使用した場合の反応生成物の経時変化を示すグラフである。図中、triGはDEL 3G-5G-3'Gを、5CafはDEL 3G-5CafG-3'Gを、3'CafはDEL 3G-5G-3'CafGを、そして5,3'CafはGentiodelphin(DEL 3G-5CafG-3'CafG)を示す。
【図6】図6は、リンドウ花弁より部分精製したタンパク質のSDS-PAGE及びウエスタンブロットの結果を示す。左はSDS-PAGEの結果を示し、右はGAT4抗体を用いたウエスタンブロットの結果を示す。図中、Mは分子量マーカーであり、レーン1は40〜70%硫安沈澱画分の結果であり、そしてレーン2はDyematrixカラム後の活性画分の結果である。
【図7】図7は、Medio搾汁液を用いた花色シュミレーションの結果を示す。
Claims (33)
- アントシアニンの3’位の糖に芳香族アシル基を転移する酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いるアントシアニンの3’位のアシル化方法。
- アントシアニンの3’位の糖に芳香族アシル基を転移する酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いるアントシアニンの安定化方法。
- アントシアニンの3’位の糖に芳香族アシル基を転移する酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いるアントシアニンの青色化の方法。
- アントシアニンの3’位への芳香族アシル基転移酵素をコードする遺伝子を植物で発現し、当該植物体内において目的色素をアシル化する方法。
- アントシアニンの3’位への芳香族アシル基転移酵素をコードする遺伝子を、植物に導入し、当該植物体内において目的色素がアシル化されることによる、当該色素の安定化方法。
- アントシアニンの3’位への芳香族アシル基転移酵素をコードする遺伝子を、植物に導入し、当該植物体内において目的色素がアシル化されることによる、当該色素の青色化の方法。
- 請求項4〜6のいずれか1項に記載された方法によって得られた植物体、当該植物体の栄養増殖体または種子、または当該植物体と同一の性質を有する当該植物体の子孫となる植物体、当該植物体の栄養増殖体または種子。
- アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を付加する方法。
- アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの安定化方法。
- アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの青色化の方法。
- 前記複数の位置のひとつが、アントシアニンの3’位の糖である請求項8〜10のいずれか1項に記載の方法。
- アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を植物で発現し、当該植物体内において目的色素をアシル化する方法。
- アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を、植物に導入し、当該植物体内において目的色素がアシル化されることによる、当該色素の安定化方法。
- アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する単一の酵素または当該酵素をコードする遺伝子を、植物に導入し、当該植物体内において目的色素がアシル化されることによる、当該色素の青色化の方法。
- 前記複数の位置のひとつが、アントシアニンの3’位の糖である請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
- 請求項12〜15のいずれか1項に記載された方法によって得られた植物体、当該植物体の栄養増殖体または種子、もしくは当該植物体と同一の性質を有する当該植物体の子孫となる植物体、当該植物体の栄養増殖体または種子。
- 配列番号:4または6に記載のアミノ酸配列を有しアントシアニンの3’位の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子、または当該アミノ酸配列に対して70%以上の配列の同一性を有し、且つアントシアニンの3’位の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子、または配列番号:3または5に記載のヌクレオチド配列に対し70%以上の同一性を有し、且つアントシアニンの3’位の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子。
- 配列番号:4または6に記載のアミノ酸配列を有しアントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子、または当該アミノ酸配列に対して70%以上の配列の同一性を有し、且つアントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子、または配列番号:3または5に記載のヌクレオチドは配列に対し70%以上の同一性を有し、且つアントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を転移する活性を有する蛋白質をコードする遺伝子。
- 前記複数の位置のひとつが、アントシアニンの3’位の糖である請求項18に記載の遺伝子。
- 請求項17〜19のいずれか1項に記載の遺伝子を含んでなるベクター。
- 請求項20に記載のベクターにより形質転換された宿主。
- 請求項17〜19のいずれか1項に記載の遺伝子によってコードされる蛋白質。
- 請求項21に記載の宿主を培養し、又は生育させ、そして該宿主からフラボノイドの3’位に糖を転移する活性を有する蛋白質を採取することを特徴とする該蛋白質の製造方法。
- 請求項17〜19のいずれか1項に記載の遺伝子が導入された植物もしくはこれと同じ性質を有するその子孫又はそれらの組織。
- 請求項24に記載の植物の切花又はこれと同じ性質を有するその子孫の切花。
- 請求項17〜19のいずれか1項記載の遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの3’位のアシル化方法。
- 請求項17〜19のいずれか1項記載の遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの安定化方法。
- 請求項17〜19のいずれか1項記載の遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの青色化の方法。
- 請求項17〜19のいずれか1項記載の遺伝子を植物で発現し、当該植物体内において目的色素をアシル化する方法。
- 請求項17〜19のいずれか1項記載の遺伝子を、植物に導入し、当該植物体内において目的色素がアシル化されることによる、当該色素の安定化方法。
- 請求項17〜19のいずれか1項記載の遺伝子を、植物に導入し、当該植物体内において目的色素がアシル化されることによる、当該色素の青色化の方法。
- 請求項17〜19のいずれか1項記載の遺伝子を用いることを特徴とする、アントシアニンの複数の位置の糖に芳香族アシル基を付加する方法。
- 前記複数の位置のひとつが、アントシアニンの3’位の糖である請求項32記載の方法。
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