JPWO2005100278A1 - 複層ガラスおよびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

鉛等の有害成分を含有しない封着材を用いて低温でガラス板同士が接合された複層ガラスおよび該複層ガラスの製造方法の提供。一対のガラス板を、両ガラス板の間に間隙部を有するように対向配置させて、該両ガラス板の周縁部を封着材を用いて接合させてなる複層ガラスであって、前記封着材は、硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂および耐火物フィラーを含有する封着剤組成物からなり、前記封着材組成物におけるメチルフェニルシリコーン樹脂と耐火物フィラーの合計に対する耐火物フィラーの量が10〜80質量%であり、前記メチルフェニルシリコーン樹脂は、メチル基に対するフェニル基のモル比が0.1〜1.2であることを特徴とする複層ガラス。

Description

本発明は、複層ガラスおよびその製造方法に関する。
複層ガラスは、一対のガラス板を両者の間に間隙部を設けて対向配置して、その両ガラス板の周縁部同士を、スペーサを介して、またはスペーサを介することなしに、封着材を用いて接合させて形成される。該間隙部は、減圧状態に保持された真空層、または乾燥空気やアルゴンガス等の希ガスで満たされた空気層をなしており、単層ガラスに比べて、断熱性および遮音性に優れることを特徴とする。また、該間隙部が真空層、または乾燥空気やアルゴン等の希ガスで満たされた空気層をなすことにより、防露性能にも優れている。
複層ガラスの製造では、ガラス板同士の接合に使用する封着材として、低融点ガラスが広く用いられている。すなわち、ペースト状の低融点ガラスをガラス板の周縁部に塗布して、ガラス板を対向させて配置した後、480℃以上に加熱して低融点ガラスを溶融状態にし、その後常温にまで冷却して固化させることによって、ガラス板同士を接合させている(特許文献1〜3参照)。しかしながら、封着材として低融点ガラスを使用した複層ガラスは、特許文献1に記載されているように、風圧が加わりガラス板に湾曲方向の力が作用すると、接合部にクラックが生じやすいという欠点があった。クラックが発生すると、ガラス板同士の接合部の気密性が低下する。また、低融点ガラスは脆性破壊しやすいため、発生したクラックが成長して接合部の強度が損なわれる。
複層ガラスにおいて、強度向上のために強化ガラスを使用することが望ましい場合もある。しかしながら、強化ガラスを用いて複層ガラスを製造する場合、封着材として低融点ガラスを使用することは好ましくない。
強化ガラスは、ガラス板の表面を熱処理または化学変性することにより、ガラスの厚み方向に残留応力を発生させて、ガラス板の表面に圧縮応力層を形成することで強度を高めたものである。封着材として低融点ガラスを用いて複層ガラスを製造する場合、強化ガラスは480℃以上の高温に晒されることになる。このような高温に晒された場合、圧縮応力層内の残留応力が喪失または減少し、強化ガラスの強度が損なわれるおそれがある。
また、封着材に使用される低融点ガラスは、通常鉛を含んでいるが、環境保護の要請から、および近年高まる資源再利用の要請から、鉛のような有害物質を含まない封着材を用いて複層ガラスを製造することが望ましい。
封着材として、低融点ガラスではなく、例えばインジウム、鉛、錫、亜鉛、インジウムなどの低融点金属を主成分とする金属ハンダを用いた複層ガラスが特許文献4で提案されている。しかしながら、このような金属ハンダは、低融点ガラスに比べて接着性に劣る。さらに、上記例示した金属ハンダの成分中、鉛は環境保護上使用しないことが好ましい。また、インジウムは高価な材料であり、複層ガラスの製造コスト増につながるので好ましくない。
また、ガラス板同士の接合に樹脂を使用した複層ガラスが特許文献5に開示されている。特許文献5に開示の複層ガラスでは、ポリイソブチレンのような熱可塑性樹脂をガラス板に塗布し、対向するガラス板を積層した後、熱可塑性樹脂を硬化させて樹脂製スペーサを形成し、該樹脂製スペーサの外側にポリサルファイド等の熱可塑性樹脂からなる樹脂系シール材を充填して製造される。しかし、このような樹脂製スペーサは、耐久性が短いことが特許文献6に記載されている。また、樹脂製スペーサとガラス板との界面を封止する目的で使用されている樹脂系シール材も、耐久性、すなわち長期の気密性に劣る。
一方、特許文献6に記載の複層ガラスは、形状保持のためにアルミニウム合金を用いて押し出し成形される金属製の一次スペーサを使用し、該一次スペーサの側面とガラス板の主表面とがなす境界面にブチルゴムの一次シールが施工され、さらに一次スペーサのガラス板端縁側がシリコーン系またはポリスルフィド系のシール材により二次シールされている。したがって、特許文献6に記載の複層ガラスでは、一次スペーサとガラス板との境界面をブチルゴムでシールしているため気密性に劣り、間隙部が減圧状態に保持された真空複層ガラスには使用することができない。
また、間隙部が減圧状態に保持された真空複層ガラスでは、特許文献1〜3に記載されているように、ガラス板に加わる大気圧荷重を支えるために、ガラス板間、具体的にはガラス板間の間隙部に相当する部分に、金属製またはガラス製等のスペーサが複数設置されている。しかしながら、このようなスペーサはガラス板に接合されておらず、ガラス板に加わる大気圧荷重を利用して、単にガラス板間に挟持することにより固定されていた。そのため、複層ガラスの製造段階において、間隙部の減圧操作を実施する前や、減圧操作を実施している途中のように、ガラス板に十分な大気圧荷重が加わっていない状態ではスペーサの位置ずれを生じるおそれがあった。また、間隙部の減圧操作が完了した製品段階においても、ガラス板に加わる大気圧荷重がスペーサを挟持するには不十分である場合間隙部からスペーサが脱落するおそれもある。
特開2003−20259号公報 特開2003−137612号公報 特開2003−192400号公報 特開2003−89537号公報 特開2003−212612号公報 特開2003−201152号公報
すなわち、本発明は、鉛等の有害成分を含有しない封着材を用いて低温でガラス板同士が接合された複層ガラスおよび該複層ガラスの製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、前記の目的を達成すべくなされたものである。すなわち、本発明は、一対のガラス板を、両ガラス板の間に間隙部を有するように対向配置させて、該両ガラス板の周縁部を封着材を用いて接合させてなる複層ガラスであって、
前記封着材は、硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂および耐火物フィラーを含有する封着剤組成物からなり、
前記封着材組成物におけるメチルフェニルシリコーン樹脂と耐火物フィラーの合計に対する耐火物フィラーの量が10〜80質量%であり、
前記メチルフェニルシリコーン樹脂は、メチル基に対するフェニル基のモル比が0.1〜1.2であることを特徴とする複層ガラスを提供する。
本発明の複層ガラスにおいて、前記メチルフェニルシリコーン樹脂は(2官能ケイ素単位と3官能ケイ素単位の合計)に対する2官能ケイ素単位のモル比が0.05〜0.55であることが好ましい。
本発明の複層ガラスにおいて、前記耐火物フィラーは、平均粒径0.1〜20μmの球状シリカであることが好ましい。
また、本発明の複層ガラスは、前記間隙部が減圧状態に保持されており、前記一対のガラス板間に圧力保持部材が配置された、いわゆる真空複層ガラスであることが好ましい。
前記圧力保持部材は、前記硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂および耐火物フィラーを含有する封着材組成物を用いて、前記一対のガラス板のうち少なくとも一方に接合されていることが好ましい。
また、前記圧力保持部材は、硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂および耐火物フィラーを含有する組成物から形成され、
前記組成物におけるメチルフェニルシリコーン樹脂と耐火物フィラーの合計に対する耐火物フィラーの量が10〜80質量%であり、
前記メチルフェニルシリコーン樹脂は、メチル基に対するフェニル基のモル比が0.1〜1.2であることが好ましい。
また、本発明は、一対のガラス板のうち少なくとも一方の周縁部に封着材組成物を塗布した後、両ガラス板を前記封着材組成物を介して対向配置させて、前記封着材組成物を加熱硬化させることにより両ガラス板を接合させてなる複層ガラスの製造方法であって、
前記封着剤組成物は、硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂および耐火物フィラーを含有しており、
前記封着材組成物におけるメチルフェニルシリコーン樹脂と耐火物フィラーの合計に対する耐火物フィラーの量が10〜80質量%であり、
前記メチルフェニルシリコーン樹脂は、メチル基に対するフェニル基のモル比が0.1〜1.2であることを特徴とする複層ガラスの製造方法を提供する。
本発明の複層ガラスは、封着材として硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂と、耐火物フィラーと、を含有する本発明の封着剤組成物を用いてガラス板同士が接合されているため、従来の低融点ガラスを封着材として用いた場合(480℃以上)に比べて、はるかに低い温度(130℃〜250℃)でガラス板同士が接合されている。このため、複層ガラスを構成するガラス板に強化ガラスを使用することができる。これは、間隙部が減圧状態に保持された真空複層ガラスにおいて特に好ましい。
本発明の複層ガラスは、ガラス板同士の接合に使用する本発明の封着材が機械的強度、特に脆性破壊に対する強度に優れており、封着材として低融点ガラスを用いた場合に従来問題であった接合部におけるクラックの発生のおそれがない。このため、本発明の複層ガラスは、ガラス板同士の接合部の気密性に優れている。また、本発明の複層ガラスは、クラックのおそれがないため、ガラス板同士の接合部の強度に優れており、かつ接合部の長期的な信頼性に優れている。
また、本発明の複層ガラスは、ガラス板同士の接合に樹脂系材料を使用した従来の複層ガラスに比べて、接合部の気密性、特に接合部の長期的な気密性に優れている。これは間隙部が減圧状態にされた真空複層ガラスにおいて特に好ましい。
圧力保持部材が本発明の封着材組成物を用いて、複層ガラスを構成する一対のガラス板のうち、少なくとも一方に接合された本発明の複層ガラスは、従来の真空複層ガラスにおいて問題であった製造段階での圧力保持部材の位置ずれ、製品段階での圧力保持部材の脱落のおそれが解消されている。
間隙部に配置される圧力保持部材が、硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂と、耐火物フィラーと、を含有する本発明の組成物を用いて形成される本発明の複層ガラスは、金属材料またはガラス材料を用いて圧力保持部材を形成するのに比べて、圧力保持部材の材料が成形性に優れているため、圧力保持部材を形成する際の手間が少なくてすみ、かつ形成される圧力保持部材が形状面における自由度が高い。
また、形成された圧力保持部材は、複層ガラスを構成する一対のガラス板のうち、少なくとも一方に接合することができるため、従来の真空複層ガラスにおいて問題であった、製造段階での圧力保持部材の位置ずれ、製品段階での圧力保持部材の脱落のおそれが解消されている。
本発明の複層ガラスの製造方法は、ガラス板同士の封着に硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂と、耐火物フィラーと、を含有する本発明の封着剤組成物を使用することにより、従来の低融点ガラスで封着するのに比べて、封着温度が大幅に低温化されている。これにより、消費エネルギーや作業時間が減り、省エネやコスト低減となる。
図1は、本発明の複層ガラスの1実施形態の斜視図であり、上部のガラス板は一部取り去られた状態で示されている。 図2は、図1に示す複層ガラスの側部断面図である。 図3は、図1と同様の図であるが、上部のガラス板には孔が形成されており、該孔には排気管が挿入された状態で示されている。また、該排気管の開口部を封止する蓋体が示されている。 図4は、図3と同様の図であるが、上部のガラス板に形成された孔が排気穴をなしている。 図5(a)、(b)は、リーク評価に使用した試験サンプルを構成するガラス板の平面図である。 図6は、リーク評価に使用した試験サンプルの部分断面図である。 図7は、ガラスに対する接着性評価に使用したサンプルの斜視図である。
符号の説明
1:複層ガラス
2,3:ガラス板
4:封着剤組成物
6:圧力保持部材
8:孔(排気穴)
10:間隙部
12:排気管
14:蓋体
20,30:ガラス板
21:孔
50、51:ソーダ石灰ガラス板
以下、図面を用いて本発明をさらに説明する。図1は、本発明の複層ガラスの1実施形態の斜視図であり、上部のガラス板が一部取り去られた状態で示されている。図2は、図1の複層ガラス1の側部断面図である。図1および図2に示す複層ガラス1では、一対のガラス板2,3が両者の間に間隙部10を有するように対向配置されている。ガラス板2,3同士は、その周縁部において封着材4を用いて接合されている。図1および図2に示す複層ガラス1は、間隙部10が減圧状態に保持されたいわゆる真空複層ガラスである。そのため、両ガラス板2,3間、より具体的には、両ガラス板2,3間の間隙部10に当たる部分には、円柱状の圧力保持部材6が間隔を開けて複数配置されている。該圧力保持部材6は、間隙部10の厚さを規定するとともに、両ガラス板2,3に加わる大気圧荷重を支える作用をする。
本発明の複層ガラス1は、図示した構成において、ガラス板2,3同士の接合に、以下に述べる特定の封着材組成物(以下、「本発明の封着材組成物」という。)を用いることを特徴とする。より具体的には、本発明の封着材組成物から得られた硬化物または後述する封着材組成物の成形体から得られた硬化物を用いて、ガラス板2,3同士が接合されている。
一般に硬化性のシリコーン樹脂は、2官能ケイ素モノマー(R2Si−X2)と3官能ケイ素モノマー(RSi−X3)から製造され、場合により1官能ケイ素モノマー(R3Si−X)や4官能ケイ素モノマー(Si−X4)が併用されることがある。ここで、Rは結合末端が炭素原子である有機基を示す。なお、本発明の封着材組成物においては、硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂は、Rが炭素数1〜4のアルキル基または炭素数6〜12の1価の芳香族炭化水素であることが好ましく、メチル基、エチル基またはフェニル基であることがより好ましい。Xは、水酸基、またはアルコキシ基、塩素原子などの加水分解可能な基である。本発明の封着材組成物において、硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂は、Xが水酸基であることが好ましい。硬化性シリコーン樹脂は、これらのモノマーを部分的に加水分解共縮合して得られる共重合体であり、Xが加水分解されて生成したシラノール基を有する。この硬化性シリコーン系樹脂は、そのシラノール基によりさらに縮合が可能であり(硬化可能であり)、硬化させることにより最終的に実質的にシラノール基を有しない硬化物となる。硬化物は2官能ケイ素単位(R2SiO)と3官能ケイ素単位(RSiO3/2)からなり、場合によって1官能ケイ素単位(R3SiO1/2)や4官能性のケイ素単位(SiO2)を有する。硬化性シリコーン樹脂における各ケイ素単位は、これら硬化物の各ケイ素単位とともに、Xが加水分解されて生成し、シリコーン樹脂の硬化性に寄与するシラノール基を含んだ各ケイ素単位をも意味する。例えば、シラノール基を有する2官能ケイ素単位は(R2Si(OH)−)で表され、シラノール基を有する3官能ケイ素単位は(RSi(OH)2−)や(RSi(OH)=)で表される。また、硬化性シリコーン樹脂における各ケイ素単位のモル比は原料である各ケイ素モノマーのモル比に等しいと考えられる。
硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂は、FT−IRから求めた、Si−O/Si−Rの値が11.0〜15.2であるのが好ましい。すなわち、Si−Oのピーク面積(1250〜950cm-1の範囲内に現れるピーク)(a)を、メチル基由来のピーク面積(1330〜1250cm-1の範囲内に現れるピーク)(b)と、該メチル基由来のピーク面積(b)およびH−NMRから求めたフェニル基のモル数/メチル基のモル数の値(c)の積と、の和で除した値である。
(a)/[(b)+(c)×(b)]=11.0〜15.2
一般的に硬化性のシリコーン樹脂のSiに結合するアルキル基が長鎖となるに従って耐熱性が低下する。またフェニル基に代表される芳香族炭化水素基は、機械的耐熱性は最も短いアルキル基であるメチル基と同等あるいはそれ以上であり、その質量比が増えるに従って樹脂の被膜が固くなる一方、熱可塑性を帯びてくる。したがって、樹脂中のRの全数に対するフェニル基の数の比により、該樹脂の耐熱性、曲げ性等の機械的強度を調整することができる。本発明の封着材組成物における硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂としては、H−NMRから求めたフェニル基モル数/メチル基モル数の値が0.1〜1.2である、より好ましくは、0.3〜0.9である。別の言い方をすると、樹脂中のRの全数に対するフェニル基の数の比が0.1〜0.5である、より好ましくは0.2〜0.5であるメチルフェニルシリコーン樹脂が好適である。また、FT−IRから求めたフェニル基由来のピーク高さ(3074cm-1)/メチル基由来のピーク高さ(2996cm-1)が0.1〜1.2のメチルフェニルシリコーン樹脂も好ましい。
本発明の封着剤組成物において、硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂は、(2官能ケイ素単位と3官能ケイ素単位の合計)に対する2官能ケイ素単位のモル比(単に、2官能ケイ素単位のモル比ともいう)が0.05〜0.55である。ここで硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂とは、上記有機基Rとしてメチル基とフェニル基の両者を含む硬化性のシリコーン樹脂である。硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂は、例えば、ジクロロジメチルシランとトリクロロフェニルシランとを加水分解共縮合させる方法、ジクロロジフェニルシランとトリクロロメチルシランとを加水分解共縮合させる方法などによって製造される。硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂の2官能ケイ素単位のモル比は、0.2〜0.4であることがより好ましい。また、この硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂は実質的に2官能ケイ素単位と3官能ケイ素単位のみからなるものが好ましい。このような硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂は、250℃以上の高温に長時間保持しても、容易に分解、変色することがなく、耐熱性にも優れる。
なお、上記した2官能ケイ素単位のモル比は、Si−NMRから求めたものである。
硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂には、ジメチルシリコーン樹脂などの硬化性のジアルキルシリコーン樹脂、エチルフェニルシリコーン樹脂などのメチルフェニルシリコーン樹脂以外の硬化性のアルキルフェニルシリコーン樹脂を少量配合して、物性調整することができる。しかし通常は硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂以外のこれら硬化性のシリコーン樹脂は使用しないことが好ましい。また、硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂を、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂などで変性して使用することもできる。しかし変性する樹脂の量は少ないものが好ましく、硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂としては実質的に変性されていない硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂が好ましい。
硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂は、通常溶剤に溶解した溶液(ワニス)で輸送、保管などの取り扱いを受ける。本発明の封着材組成物は、このワニスを用い、これと耐火物フィラーとを混合して製造することができる。このようにして製造されたものは流動性を有するペースト状の封着材組成物となる。また、ワニスから、予め溶剤を除去した後、溶剤がない硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂と耐火物フィラーとを混合することで固体状の封着材組成物とすることもできる。さらに、ワニスと耐火物フィラーとを混合した後、溶剤を除去して固体状の封着材組成物とすることもできる。さらにまた、固体状の封着材組成物に溶媒を混合することで、ペースト状の封着材組成物とすることもできる。
硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂のワニス化に用いる溶剤は特に限定されるものではなく、硬化性メチルフェニルシリコーン樹脂を溶解する溶剤であればいずれでもよい。例えば、芳香族炭化水素系溶媒であるキシレン、トルエン、ベンゼン、沸点100℃以下の溶媒であるメチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、1−プロパノール、2−プロパノール、アリルアルコールなどを用いることができる。後述するように、封着材組成物を溶媒に溶解させたペースト状の状態で使用する場合には、封着材組成物を塗布した後、加熱して溶媒を揮発させて除去することが容易であることから後者がより好ましい。ワニスにおける溶剤の使用量は5〜50質量%であるのが好ましい。5質量%未満では硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂の溶解作用が不充分で耐火物フィラーと均質に混合することが困難となりやすい。50質量%を超えると耐火物フィラーと混合した場合、溶剤が耐火物フィラーと相分離を起こしやすく、また耐火物フィラーを混合した後、溶剤を除去する場合に、多大なエネルギーを要する。
硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂は、封着材組成物中で部分的に重合させたメチルフェニルシリコーン樹脂(単に、部分重合メチルフェニルシリコーン樹脂ともいう)として存在させることができる。部分重合メチルフェニルシリコーン樹脂は、原料の硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂の脱水縮合反応がある程度進行しているので、原料のメチルフェニルシリコーン樹脂に比較して、ガラス板同士を接合させる際に水分の発生が少ない。したがって部分重合メチルフェニルシリコーン樹脂を含む封着材組成物は、ガラス板同士を接合させる際に、原料のメチルフェニルシリコーン樹脂に比較して気泡発生のおそれがより少なくなり、気密性を向上させることができる。また、部分重合メチルフェニルシリコーン樹脂は、原料のメチルフェニルシリコーン樹脂に比較して高粘度液体ないし溶融粘度の高い固体であり、本発明の封着材組成物を成形体とする場合に適した性質を有する。例えば、ガラス板の周縁部に封着材組成物の成形体を配置して、ガラス板同士を接合させる際に、メチルフェニルシリコーン樹脂が流動して所定部位からはみ出すおそれが少なくなる。
なお、部分重合メチルフェニルシリコーン樹脂は、その原料である硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂の硬化が部分的に進んだ状態にある硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂である。本発明における硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂とは、部分重合メチルフェニルシリコーン樹脂の原料である硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂を意味するとともに、この部分重合メチルフェニルシリコーン樹脂をも意味する。以下、本発明の封着材組成物の製造段階で、特に硬化性メチルフェニルシリコーン樹脂の部分的な重合を行ったものを部分重合メチルフェニルシリコーン樹脂という。
硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂の部分的な重合は、通常、原料のメチルフェニルシリコーン樹脂の加熱による硬化反応が完全に終了しない程度で停止することにより行われる。例えば、通常の硬化反応の場合よりも低温で加熱する、通常の硬化に必要な時間よりも短時間加熱する、などの方法で原料のメチルフェニルシリコーン樹脂を部分的に硬化して得られる。硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂の部分的な重合を行うには、例えば120℃〜180℃の温度で重合を行い、メチルフェニルシリコーン樹脂の粘度を目安に、硬化反応が完全に進行しない程度で反応を停止する。例えば、温度180℃で重合を実施する場合、メチルフェニルシリコーン樹脂の粘度が5000cP〜60,000cPになった時点で加熱を終了すればよい。原料のメチルフェニルシリコーン樹脂の部分的な重合は、耐火物フィラーの存在する組成物中で、またはその組成物製造の過程で行うことができる。
硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂の脱水縮合による硬化は、通常加熱のみで進行し、該樹脂のシラノール基同士の脱水縮合反応と、該樹脂のシラノール基と耐火物フィラー表面のシラノール基の脱水縮合反応により溶剤に不溶の硬化物が形成される。例えば、ガラス板の周縁部に塗布された封着材組成物は、140℃以上、好ましくは180℃から300℃の温度で1〜120分間加熱するのみで該樹脂が硬化し、不溶化して、封着材となる。したがって、従来の低融点ガラスを用いた封着では、ガラスの軟化温度以上の温度である400〜550℃まで加熱する必要があったのに対して、はるかに低い温度でガラス板2,3同士の接合を行うことができる。
なお、封着材組成物に溶剤が含まれている場合は、加熱の初期に揮発除去され、有機物などの非耐熱性物質が存在する場合は、硬化の際に揮発除去または分解除去される。但し、安定した硬化を行うためには、溶剤の揮発除去は、封着材組成物を硬化させる前に、より低い温度で実施することが好ましい。このような溶剤の揮発除去は、溶媒の種類にもよるが、たとえば100〜140℃の温度で30〜60分実施する。
硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂の硬化温度を下げるために硬化触媒を用いてもよく、触媒として亜鉛、コバルト、錫、鉄、ジルコニウムなどの有機金属塩や、第4級アンモニウム塩、アルミニウム、チタンなどのキレート類、各種のアミン類もしくはその塩類などが例示される。
封着材組成物に含有される耐火物フィラーは、耐熱性の無機質粉末であり、具体的には、シリカ、アルミナ、ムライト、ジルコン、コーディエライト、β−ユークリプタイト、β−スポジュメン、β−石英固溶体、フォルステライト、チタン酸ビスマス、チタン酸バリウムなどである。もちろん、これらを併用することもできる。
耐火物フィラーの平均粒径は0.1〜130μmが好ましく、0.1〜90μmがより好ましく、0.1〜20μmがさらに好ましく、0.1〜10μmが特に好ましい。平均粒径が前記上限を超えると、メチルフェニルシリコーン樹脂の硬化後に、耐火物フィラーとシリコーン樹脂との界面にクラックが発生し、間隙部10へガスがリークして、所望の減圧状態が維持できなくなるおそれがある。平均粒径が前記下限未満であると、粉末の凝集が生じ、硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂中に均質に分散されない。また、増粘が生じるため、耐火物フィラーの配合量が制限されるという問題を有する。
耐火物フィラーは、シリカ、特に球状シリカであるのが好ましい。球状シリカの平均粒径は0.1〜130μmであるのが好ましく、0.1〜90μmであるのがより好ましく、0.1〜20μmであるのがさらに好ましく、0.1〜10μmであるのがさらに好ましい。球状シリカの平均粒径が0.1〜20μmであると、塗布作業性の良好な封着材組成物が得られる。平均粒径が前記範囲未満の場合、粒子同士が凝集して分散性が下がり、均一な組成物が得られず、前記範囲を超えると粒子の沈殿が生じるため分散性が劣るようになり、やはり均一な組成物が得られない。また、増粘が生じるため、耐火物フィラーの配合量が制限されるという問題を有する。
本発明の封着材組成物における耐火物フィラーの配合量は、硬化性メチルフェニルシリコーン樹脂と耐火物フィラーの合計量に対して10〜80質量%である。10質量%未満の場合には、充分な耐熱性が発現することができない。80質量%を超える場合は、メチルフェニルシリコーン樹脂との分散性、親和性が悪くなり、結果として封着材(硬化物)にクラックが発生し、間隙部10へガスがリークして所望の減圧状態が維持できなくなる。また、接着強度の低下が起こる。好ましい耐火物フィラーの量は30〜70質量%である。
平均粒径が0.1〜20μmの球状シリカを含有する場合の封着材組成物における該球状シリカの配合量は、硬化性メチルフェニルシリコーン樹脂および耐火物フィラーの合計に対して10〜80質量%であり、30〜70質量%であるのが好ましい。10質量%未満であると耐熱性、耐光性が劣るようになり、80質量%を超えると封着材にクラックが発生して間隙部10内へガスがリークして、所望の減圧状態が維持できなくなる。また、接着強度の低下が生じる。
本発明の封着材組成物は、上記平均粒径が130μm以下の耐火物フィラー以外に、より粒径が大きく(130μm超)かつ粒径分布が狭い球状粒子をスペーサ材として少量配合することもできる。このような粒径が大きい耐火物フィラーを使用する場合、粒径が150〜500μmの球状粒子が好ましく、具体例としては、球状シリカ、ガラスビーズ、セラミックビーズなどが挙げられる。ガラスビーズとしては、ソーダ石灰ガラス(Na2O−CaO−SiO2系)製、低アルカリガラス(CaO−B23−Al23−SiO2系)製、高屈折率ガラス(BaO−SiO2−TiO2系、BaO−CaO−TiO2系)製、硬質ガラス(Na2O−B23−SiO2系)製のものが挙げられる。また、セラミックビーズとしては、アルミナ製、SiC製、窒化ケイ素製、ジルコニア製のものが挙げられる。
その配合量は硬化性メチルフェニルシリコーン樹脂および耐火物フィラーの合計に対して0.1〜15質量%(ただし、全耐火物フィラーに対して50質量%以下)が好ましく、1〜5質量%が特に好ましい。
本発明の封着材組成物には、硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂と耐火物フィラー以外の他の成分を含有させてもよい。このような他の成分としては、例えば、前記溶剤などの最終的に封着材として機能する成分以外の成分、または、封着材に残る成分、例えば、封着材着色顔料である。これら成分の封着材組成物中の含有量は、特に限定されないが、本発明の封着材組成物やそれから得られる封着材組成物の成形体の特性を阻害しない量である。前者の成分は、溶剤を除いて、封着材組成物に対して20質量%以下が好ましい。溶剤の量は、封着材組成物を、液状で使用する、固体状で使用する、などの使用法、その他に応じて任意であるが、通常は封着材組成物に対して50質量%以下が好ましい。
具体的な他の成分およびその好適量(ただし、溶剤を除く封着材組成物に対する量)としては、例えば、以下のものがある。前記メチルフェニルシリコーン樹脂の硬化促進のためのアミン系硬化剤などを5質量%以下、封着材の機械的耐熱性をさらに高める目的や着色の目的で顔料などを15質量%以下、封着材組成物のポットライフ向上、耐火物フィラーやメチルフェニルシリコーン樹脂の分散性、および封着性向上などの目的で、松やに、ロジン、ロジン誘導体などの粘着性付与剤を5質量%以下配合することができる。
本発明の封着材組成物は、前記硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂と耐火物フィラーとを混合して均一な組成物とすることにより得られる。硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂の溶液(ワニス)を使用し、硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂と溶剤と耐火物フィラーとを含んだペースト状の組成物として使用することもできる。また、ワニスと耐火物フィラーとを加熱、撹拌下で混合した後、溶剤を揮発させて除去し、実質的に溶剤を含まない固体状の組成物とすることもできる。固体状の組成物とする場合、溶剤を揮発させて除去する温度は、使用する溶媒の種類にもよるが、100〜180℃であり、好ましくは100〜140℃である。本発明の封着材組成物は、取扱性に優れることから、溶媒を含んだ、好ましくは溶媒を10〜30質量%含んだ、ペースト状の状態で使用することが好ましい。固体の状態で使用する場合、その形状は特に限定されず、シート状、ワイヤー状、スティック状などの形状に成形されていてもよい。
上記封着材組成物を製造する際に硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂を部分的に重合して部分重合メチルフェニルシリコーン樹脂とすることができる。硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂の部分的な重合は、耐火物フィラーを混合する前に行ってもよく、耐火物フィラーを混合した後に行ってもよい。またワニスを使用する場合は、溶剤が存在する状態で行ってもよく、溶剤を除去した後に行ってもよい。通常は、上記のようにワニスと耐火物フィラーとを加熱、撹拌下に混合してその状態で溶剤を除去し、引き続きその状態でさらに温度を上昇させてメチルフェニルシリコーン樹脂の部分的な重合を行うことが好ましい。メチルフェニルシリコーン樹脂の部分的な重合は、硬化反応が完全に進行する前に反応を停止させるため、メチルフェニルシリコーン樹脂を含有する組成物の粘度を目安にしながら120〜180℃の温度で実施する。180℃で部分的な重合を実施する場合、例えば、組成物の粘度が5000cP〜60,000cPになった時点で加熱を終了すればよい。
部分重合メチルフェニルシリコーン樹脂を含む本発明の封着材組成物は、シート状、ワイヤー状、スティック状などの形状に成形された成形体として使用してもよい。例えば、上記のように加熱して部分重合メチルフェニルシリコーン樹脂とした封着材組成物は、粘土状の組成物となり、加熱状態のこの粘土状組成物を鋳型に鋳込んで成形することができる。具体的には、フッ素樹脂などで作製した鋳型を用いて、シート状、ワイヤー状、スティック状などの所望の様々な形状の成形体に成形することができる。得られたシート状、ワイヤー状、スティック状などの形状をした封着材組成物の成形体は、その形状のままガラス板同士の接合に適用できる。
一方、部分重合メチルフェニルシリコーン樹脂を含む本発明の封着材組成物は、上記した好適な溶媒に溶解されたペースト状の状態で使用してもよく、取扱性に優れることからむしろ好ましい。ペースト状の状態で使用する場合、溶媒の配合量は上記した通りである。
なお、いずれの場合であっても、接合部分における本発明の封着材組成物の層厚は、100μm〜1mmであることが好ましく、より好ましくは150μm〜500μmである。
図示した複層ガラスの他の構成要素については、公知のものから広く選択することができる。
ガラス板2,3の種類は特に限定されないが、安価であることからソーダ石灰ガラス、特にフロート法で成形されるソーダ石灰ガラスが最も一般的である。但し、ガラス板2,3は、必要に応じて所望の特性を付与したものであってもよい。具体的には、たとえば、加熱処理または化学変性によりガラス表面に圧縮応力層を形成した強化ガラス、ソーダ石灰ガラス成分に、コバルト、鉄、セレン、ニッケルなどの微量金属を加えた熱線吸収ガラス、ガラス中に含まれる不純物を減少させてより均一な可視光域における分光特性を持つようにした高透過ガラス、ロールアウト法により成形され表面に独特の型模様を有し、遮蔽性・意匠性が付与された型板ガラス、表面に細かな凹凸を設けることで反射が抑制された低反射ガラス、フロート法で成形されたガラス表面をすり加工して遮蔽性・意匠性が付与されたすりガラス、ガラス表面にTiO2膜・TiN膜等を形成した熱線反射ガラス、フッ素をドープした酸化スズのような透明導電性酸化物膜、酸化物/銀/酸化物のような多層膜を形成して長波長の熱放射を反射する特性を付与したLow−Eガラス、ガラス中に金網または金属線が封入された網入りガラス、線入りガラス等であってもよい。また、ガラス組成についても、ホウケイ酸ガラス、アルカリバリウムガラス、シリカガラス、リチウムアルミナケイ酸ガラス、ホウ酸塩ガラスであってもよい。
上記したように、本発明の複層ガラスは、封着材として低融点ガラスを使用した場合に比べて、はるかに低温でガラス板同士を接合することができることを特徴とする。この特徴は、例示した各種特性を有するガラスの中でも、ガラス表面に圧縮応力層を形成した強化ガラスを使用する際に特に好ましい。
強化ガラスでは、軟化温度付近まで加熱したガラスを常温まで急冷することにより、ガラスの厚み方向に残留応力を発生させることで、ガラス表面に圧縮応力層を形成する。また、化学変性により圧縮応力層を形成する場合も、徐冷点以下またはそれ以上の温度に加熱した状態でガラス表面のアルカリイオンをイオン交換する方法、熱処理によってガラス表面に低膨張の微結晶を析出させる方法、ガラスを高温で亜硫酸ガスと水分を含んだ雰囲気にさらして表面のNa+を抜き出し、表面をシリカリッチな低膨張性のガラスとする方法で実施され、いずれも熱処理を伴う。
封着材として低融点ガラスを用いる従来の複層ガラスでは、ガラス板同士を接合する際に400〜550℃まで加熱することを要する。強化ガラスをこのような高温まで加熱すると、圧縮応力層中の残留応力が喪失または減少し、強化ガラスの強度が損なわれるおそれがあった。
本発明の複層ガラスでは、140℃以上、好ましくは180℃から300℃というはるかに低い温度でガラス板同士を接合することができるため、加熱による圧縮応力層中の残留応力の喪失または減少が解消される。このため複層ガラスを構成するガラス板として、強化ガラスを使用することができる。
ガラス板2,3の厚みは、使用するガラスの種類、ガラス板に要求される機械的強度等に応じて適宜選択することができるが、一般的には2.6mm〜4.2mm程度である。
ガラス板2,3間に配置される圧力保持部材6は、ガラス板2,3に加わる大気圧荷重を支えることができるものである限り、公知の材料、具体的には例えば、鉄、銅、アルミニウム、タングステン、ニッケル、クロム、チタンなどの金属材料、炭素鋼、クロム鋼、ニッケル鋼、ニッケルクロム鋼、マンガン鋼、クロムマンガン鋼、クロムモリブデン鋼、ケイ素鋼、真鍮、ハンダ、ジュラルミンなどの合金材料であってもよく、またはセラミックスやガラスなどの無機材料であってもよい。
圧力保持部材6の形状は、外力により変形し難いものであればよく、図1および図2に示すような円柱状に限定されない。他の形状としては、例えば角柱状や球状等であってもよい。また、上記した粒径130μm超、好ましくは粒径150〜500μmの耐火物フィラーを圧力保持部材6として使用してもよい。
また、圧力保持部材6は、ガラス板2,3間に点在して配置されるものに限定されず、板状の圧力保持部材6をガラス板2,3の長手方向または長手方向に対して垂直方向に延びるように複数本配置してもよい。
なお、圧力保持部材6の高さは、複層ガラス1の間隙部10の厚みに応じて適宜選択され、具体的には100μm〜1mmであることが好ましく、より好ましくは150μm〜500μmである。
圧力保持部材6は、本発明の封着材組成物を用いてガラス板2,3のうち、少なくとも一方に接合されていることが好ましい。従来の真空複層ガラスにおいては、圧力保持部材(スペーサ)をガラス板に接合せずに、ガラス板に加わる大気圧荷重を利用して、単にガラス板間に挟持することで圧力保持部材を固定していたため、複層ガラスの製造段階での圧力保持部材の位置ずれ、製品段階での圧力保持部材の脱落のおそれがあった。本発明の複層ガラス1では、ガラス板2,3のうち、少なくとも一方の表面に圧力保持部材6を接合することでこれらの問題が解消されている。
本発明の封着材組成物は、ガラス板2,3と、上記した圧力保持部材6の公知の材料との接合に使用した際に接合強度に優れている。また、本発明の封着材組成物は140℃以上、好ましくは180℃から300℃という低温でガラス板2,3のうち、少なくとも一方に圧力保持部材6を接合することができるため、複層ガラスを構成するガラス板として、強化ガラスを使用することができる。
一対のガラス板2,3のうち、どちらのガラス板に圧力保持部材6を接合するかは特に限定されず、複層ガラスの製造段階における作業性を考慮して適宜選択すればよい。また、圧力保持部材6をガラス板2,3の両方に接合させてもよい。
圧力保持部材6は、本発明の封着材組成物を用いて形成してもよい。本発明の封着材組成物を用いて形成した圧力保持部材6は、そのまま一対のガラス板2,3のうち、少なくとも一方に接合することができる。本発明の封着材組成物を用いて形成された圧力保持部材6は、140℃以上、好ましくは180℃から300℃という低温で一対のガラス板2,3のうち、少なくとも一方に接合することができるため、複層ガラスを構成するガラス板として、強化ガラスを使用することができる。
また、本発明の封着材組成物は、成形性に優れるので、圧力保持部材6を形成する際に形状上の自由度が高い。
但し、間隙部10の真空度が高く、ガラス板2,3に加わる大気圧荷重を用いて圧力保持部材6を挟持することで、圧力保持部材6を適切に固定できるのであれば、従来と同様に圧力保持部材6をガラス板2,3の表面に接合せずに、ガラス板2,3間に挟持したのでもよい。
本発明の複層ガラスは、図1および図2に示すようないわゆる真空複層ガラスに限定されない。すなわち、本発明の複層ガラスは、間隙部を有するように対向配置された一対のガラス板同士を本発明の封着材組成物を用いて接合してなる複層ガラスを広く含む。
したがって、特開2003−201152号に記載されている複層ガラスのように、スペーサが複層ガラスの端部に存在するものであってもよい。この場合、ガラス板とスペーサとの接合面を本発明の封着材組成物を介して接合する。スペーサとしては、金属製、ガラス製、樹脂製等、従来公知のものを広く使用することができる。
また、本発明の複層ガラスは、ガラス板間の間隙部が減圧状態に保持されたいわゆる真空複層ガラスに限定されず、特開2003−201152号に記載されている複層ガラスのように、間隙部に空気層が形成されているものであってもよい。
但し、ガラス板同士を低温で接合することができるため、複層ガラスを構成するガラス板として強化ガラスを使用可能であり、接合部が長期の気密性に優れることから、本発明の複層ガラスは、いわゆる真空複層ガラスであることが特に好ましい。
いわゆる真空複層ガラスは、間隙部に空気層が形成された複層ガラスに比べて断熱性に優れているため、所望の断熱性を得るのに必要な間隙部の厚さが少なくてすむ。これにより、複層ガラスの厚さを薄くすることができる。
以下、本発明の複層ガラスの製造方法について、図1および図2に示すようないわゆる真空複層ガラスを製造する場合を例に説明する。
図1および図2に示す複層ガラス1を製造する場合、まず初めにガラス板3上の所定の位置に圧力保持部材6を配置する。
本発明の封着材組成物を用いて圧力保持部材6を形成する場合、ガラス板3上の所定の位置に所定の形状になるように本発明の封着材組成物を塗布する。具体的には、例えば、溶媒を含んだペースト状の封着材組成物(部分重合メチルフェニルシリコーン樹脂を含んだ組成物も含む。)を使用する場合、刷毛、スプレー、ディスペンサなどで、ガラス板3上の所定の位置に所定の形状(例えば、円柱状)となるように封着材組成物を塗布する。一方、シート状等の封着材組成物の成形体(部分重合メチルフェニルシリコーン樹脂を含んだ成形体も含む。)を使用する場合、所定の形状(例えば、円柱状)をした成形体を180〜200℃に加熱されたガラス板3上の所定の位置に配置する。本発明の封着材組成物の塗布は、他の方法を用いて実施してもよく、例えばスプレー方式、スクリーン印刷方式、スピンコート方式等により実施してもよい。
次に、本発明の封着材組成物を加熱硬化させて圧力保持部材を形成する。但し、溶媒を含んだペースト状の封着材組成物を使用する場合は、封着材組成物の塗布後、120℃で1〜60分加熱して溶媒を揮発させて除去する。その後、ペースト状の封着材組成物または封着材組成物の成形体のどちらの場合も、180〜200℃で数分間乾燥させてから、所定の温度条件、例えば140℃以上、好ましくは180℃から300℃の温度で1〜120分間加熱して、封着材組成物を加熱硬化させる。
また、圧力保持部材6として、本発明の封着材組成物を用いて形成されたものではなく、金属材料等を用いて予め所定の形状に加工したものを使用する場合、ガラス板3上の所定の位置に圧力保持部材6を配置する。ここで、好ましくは圧力保持部材6は、本発明の封着材組成物を用いてガラス板3の所定の位置に接合される。
本発明の封着材組成物を用いて、ガラス板3に圧力保持部材6を接合する場合、まずガラス板3および圧力保持部材6の接合面のうち、少なくとも一方に本発明の封着材組成物を塗布する。ここで、接合面とは、圧力保持部材6をガラス板3に接合する際に、互いに当接するガラス板3および圧力保持部材6の面をいう。
ガラス板3および圧力保持部材6の接合面のうち、少なくとも一方に本発明の封着材組成物を塗布する場合、具体的には、例えば、溶媒を含んだペースト状の封着材組成物(部分重合メチルフェニルシリコーン樹脂を含んだ組成物も含む。)を使用する場合、刷毛、スプレー、ディスペンサなどで、該接合面に封着材組成物を塗布する。一方、シート状等の封着材組成物の成形体(部分重合メチルフェニルシリコーン樹脂を含んだ成形体も含む。)を使用する場合、塗布する対象(ガラス板3または圧力保持部材6)を180〜200℃に加熱した状態で、該接合面に封着材組成物の成形体を配置する。本発明の封着材組成物の塗布は、他の方法を用いて実施してもよく、例えばスプレー方式、スクリーン印刷方式、スピンコート方式等により実施してもよい。
次に、塗布された封着材組成物を覆うように、ガラス板3上の所定の位置に圧力保持部材6を載置する。その後圧力保持部材6を上方から加圧しながら、所定の温度条件、例えば140℃以上、好ましくは180℃から300℃の温度で1〜120分間加熱する。これにより、封着材組成物が加熱硬化して、圧力保持部材6がガラス板3に接合される。但し、溶媒を含んだペースト状の封着材組成物を使用する場合は、封着材組成物の塗布後、120℃で1〜60分加熱して溶媒を揮発させて除去することが好ましい。その後、ペースト状の封着材組成物または封着材組成物の成形体のどちらの場合も、180〜200℃で数分間乾燥させてから、180〜200℃に加熱した状態で、塗布された封着材組成物を覆うように、ガラス板3上に圧力保持部材6を載置することが好ましい。
但し、製造後の複層ガラス1が、間隙部10の真空度が高く、ガラス板2,3に加わる大気圧荷重を用いて圧力保持部材6を挟持することのみで、圧力保持部材6を固定できるのであれば、圧力保持部材6はガラス板3に接合することなく、該ガラス板3上の所定の位置に配置したのでもよい。
次に、ガラス板2,3のうち、少なくとも一方の周縁部に沿って本発明の封着材組成物を塗布する。溶媒を含んだペースト状の封着材組成物(部分重合メチルフェニルシリコーン樹脂を含んだ組成物も含む。)を使用する場合、刷毛、スプレー、ディスペンサなどで、ガラス板2,3の周縁部に封着材組成物を塗布することができる。一方、シート状等の封着材組成物の成形体(部分重合メチルフェニルシリコーン樹脂を含んだ成形体も含む。)を使用する場合、その形状のまま180〜200℃に加熱されたガラス板2,3の周縁部に該成形体を配置する。本発明の封着材組成物の塗布は、他の方法を用いて実施してもよく、例えばスプレー方式、スクリーン印刷方式、スピンコート方式等により実施してもよい。
次に、本発明の封着材組成物を覆うようにガラス板2,3同士を積層させて、封着材組成物を加熱硬化させる。但し、溶媒を含んだペースト状の封着材組成物を使用する場合は、封着材組成物の塗布後、120℃で1〜60分加熱して溶媒を揮発させて除去する。その後、ペースト状の封着材組成物または封着材組成物の成形体のどちらの場合も、180〜200℃で数分間乾燥させてから、180〜200℃に加熱した状態で、本発明の封着材組成物を覆うように、ガラス板2,3同士を積層させる。続いて、ガラス板2を上方から加圧しながら、所定の温度条件、例えば140℃以上、好ましくは180℃から300℃の温度で1〜120分間加熱して、封着材組成物を加熱硬化させる。これにより、ガラス板2,3同士が接合される。
従来の低融点ガラスを用いてガラス板同士を接合させる場合、低融点ガラスの軟化温度以上の温度である400〜550℃まで加熱する必要があったのに対して、本発明の封着用組成物を用いることにより、接合温度が大幅に低温化されている。
なお、ガラス板3上に圧力保持部材6を配置する手順、およびガラス板2,3の周縁部に本発明の封着材組成物を塗布する手順の順序は、上記した順序に限定されず、ガラス板2,3の周縁部に本発明の封着材組成物を塗布する手順を先に実施してもよく、または両者を並行して実施してもよい。
図1および2に示す複層ガラス1は、いわゆる真空複層ガラスであるので、間隙部10が減圧状態に保持されていることが必要である。間隙部10が減圧状態に保持されたいわゆる真空複層ガラスを得る方法としては、(1)ガラス板2,3の接合を真空チャンバ内で行う方法、(2)ガラス板2,3を接合して複層ガラス1を組み立てた後、間隙部10を真空排気する方法がある。
上記(1)の方法では、ガラス板2,3同士の接合を、所定の真空度に保たれた真空チャンバ内で行うことにより、ガラス板2,3同士を接合した時点で、間隙部が所定の真空度に保持されたいわゆる真空複層ガラス1を得ることができる。この場合、本発明の封着材組成物を加熱硬化させて、ガラス板2,3同士を接合する段階を真空チャンバ内で実施すればよく、複層ガラスの製造工程全体を真空チャンバ内で実施することは必ずしも必要ではない。
図3は、上記(2)の方法を説明するための図であり、封着材組成物を用いてガラス板2,3同士を接合した後の複層ガラス1の斜視図である。図3に示す複層ガラス1では、ガラス板2上に直径3mm程度の孔8が形成されており、該孔8にはガラス製の排気管12が挿入されている。該排気管12は、真空ポンプ(図示していない)に接続されて、間隙部10を所定の真空度まで真空排気するのに使用される。排気管12は、好ましくは本発明の封着材組成物を用いて、孔8の内壁に接合されている。このようにして、間隙部10を所定の真空度、例えば、1.0×10-2Torr以下まで真空排気される。間隙部10が所定の真空度まで真空排気されたら、排気管12の先端部を切断し、排気管12の開口部を蓋体14と本発明の封着材組成物を用いて封止する。蓋体14の材料としては、十分な強度を有し、排気管12の開口部を気密に封止できるものである限り特に制限されず、ガラス、金属、セラミックス等を使用することができる。但し、排気管12は、蓋体14を使用せずに溶融して封止してもよい。
本発明の封着材組成物は、排気管12またはガラス板2を構成するガラスと、上記した蓋体の材料との接合に好適である。すなわち、本発明の封着材組成物は、これらの材料同士を低温で接着することができ、接着強度が強く、接合部の気密保持性に優れる。
図4は、図3と同様の図であるが、ガラス板2上に形成された孔8には、排気管12は挿入されていない。図4に示す複層ガラス1では、排気穴をなす該孔8に真空ポンプを直接接続して間隙部10を所定の真空度まで真空排気する。この場合、間隙部10が所定の真空度まで真空排気されたら、蓋体14と本発明の封着材組成物を用いて孔8を気密に封止する。蓋体14を使用せずに本発明の封着材組成物のみで孔8を気密に封止してもよい。
[封着材組成物の特性評価]
本実施例では、まず本発明の封着材組成物を作製して、特性評価を実施した。
(例1)
撹拌機付き容器に、表1に示す特性[2官能ケイ素単位のモル比(=2官能ケイ素単位/(2官能ケイ素単位と3官能ケイ素単位の合計))、フェニル基のモル数/メチル基のモル数、を有する硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂を含むワニス40質量部(溶剤を除く質量)、平均粒径1μmの球状シリカ60質量部を入れて、120〜140℃で加熱し攪拌して、溶剤を除去した。次いで、150〜180℃まで段階的に加熱して、180℃における組成物の粘度が20,000cpになるまで硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂を部分的に重合させた。粘度の測定には、B型粘度計を用いた。
次に、得られた固体状の封着剤組成物と、溶媒(酢酸エチル)とを表1の比率に従って混合してペースト状の封着剤組成物を得た。
表1中、2官能ケイ素単位のモル比は、Si−NMRおよびFT−IRによって測定した。フェニル基のモル比は、H−NMRおよびFT−IRによって測定した。
得られた封着材組成物について以下に示す評価を実施した。結果を表1に示す。
塗布性評価
得られたペースト状の封着材組成物を、ディスペンサを用いてソーダライムガラス基板上に塗布した際の塗布性を以下の評価基準に基づき評価した。なお、後述する例5のように封着材組成物が成形体である場合、180℃に加熱したガラス基板上に成形体を載置した際に、成形体が流動化して均一に広がったか否かで判断した。
○ :封着材組成物の流動性がよく、均一に塗布することができた。
× :封着材組成物の流動性が劣り、均一に塗布することができなかった。
硬化性評価
ペースト状の封着材組成物をディスペンサを用いてアルミニウムカップに厚さ100μm〜200μmになるように塗布し、120℃で1時間加熱して溶媒を揮発させて除去した後、200℃で5分間乾燥させてから、200℃で1時間、250℃で1時間加熱して封着材組成物を加熱硬化させて試験サンプルを得た。該サンプルを300℃まで加熱した際の質量減少を示差熱天秤(TG−DTA、マック・サイエンス社製)を用いて測定した。測定は、乾燥空気中で実施し、昇温速度10℃/minであった。硬化性評価の評価基準は以下の通りである。
○ :300℃まで加熱した際の質量減少が1%以下。
× :300℃まで加熱した際の質量減少が1%超。
なお、後述する例5のように、封着材組成物が成形体である場合、180℃に加熱したアルミニウムカップ上に封着材組成物を厚さ100μm〜200μmになるように塗布し、180℃で10分間乾燥させてから、200℃で1時間、250℃で1時間加熱硬化させて試験サンプルを得た。
リーク性評価
リーク性評価は以下に示す手順で実施した。図5(a),(b)は、リーク性評価に使用した試験サンプルを構成するガラス板を示した平面図である。図5(a)に示すガラス板20は、寸法が100×100×5mmであり、中央に直径5mmの孔21が設けられている。図5(b)に示すガラス板30は、寸法が100×100×5mmであり、孔は形成されていない。ガラス板20、30はソーダ石灰ガラス製である。
ガラス板30の外縁部に沿ってペースト状の封着材組成物4を、ディスペンサを用いて幅15mmで塗布した。120℃で1時間加熱して溶媒を揮発させて除去した後、さらに180℃で10分乾燥させてから、180℃に加熱した状態で図6に示すように、ガラス板20,30同士を封着材組成物4を介して積層させた。この状態で、ガラス板20を上方から加圧しながら、200℃で1時間、250℃で1時間加熱硬化して、リーク性評価用の試験サンプルを作製し、リークの有無を測定した。
後述する例5のように、封着材組成物が成形体である場合、ガラス板30を180℃に加熱した状態で、ガラス板30の外縁部に沿って封着材組成物を載置し、180℃で5分間乾燥させてから、180℃に加熱した状態で、図6に示すようにガラス板20,30同士を封着材組成物4を介して積層させた。この状態で、ガラス板20を上方から加圧しながら、200℃で1時間、250℃で1時間加熱硬化して、リーク性評価用の試験サンプルを作製した。
なお、リーク性評価では、封着材組成物4の厚さが100μm、200μmおよび400μmの3種類の試験サンプルを作成した。
リークの有無の測定は、ULVACヘリウムリークディテクターHELIOTを用いたフード法により行った。最初にバックグラウンド値が1〜9×10-11Pa・m3/sになるまで試験片内を排気した後、フード内にヘリウムガスを導入し、10分間ヘリウムガスのリーク速度を測定し、ヘリウムガスのリーク速度の最大値を記録してリークの有無を確認した。以上の評価結果を表1に示した。表1から明らかなように、封着材組成物4の厚さが異なる3種類の試験サンプルのいずれにおいても、リークは認められなかった。
ガラスへの接着性評価
図7に示すように、ソーダ石灰ガラス板(10mm×100mm×6mm)50、51の端部(10mm×3mm)を、封着材組成物4を用いて張り合わせて、ガラスへの接着性評価用のサンプルを作成した。なお、ペースト状封着材組成物の塗布、乾燥および加熱硬化、および成形体の封着材組成物の載置、乾燥および加熱硬化は、リーク性評価のところに記載したのと同様の手順で実施した。接着性の評価では、テンシロン(オリエンテック社製)を用いて、JIS K6850と同様の手順で引っ張り試験を行い封着部の接着強度を測定した。引っ張り速度は5mm/minで行った。
(例2)平均粒径3μmの球状フィラーを使用した点以外は、例1と同様に封着材組成物を作成し、得られた封着材組成物の評価を実施した。結果を表1に示した。
(例3)平均粒径5μmの球状フィラーを使用する点以外は、例1と同様に封着材組成物を作成し、得られる封着材組成物の評価を実施する。結果を表1に示す。
(例4)平均粒径10μmの球状フィラーを使用した点以外は、例1と同様に封着材組成物を作成し、得られる封着材組成物の評価を実施する。結果を表1に示す。
(例5)例1と同様に、作成した封着材組成物を用いて評価を実施する。但し、例5では、例1の手順で封着材組成物を部分的に重合させ、フッ素樹脂製鋳型に鋳込んで所望の形状に成形し、封着材組成物の成形体として使用する。
(例6)表1に示すように、硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂15質量部と、粒径1μmの球状シリカ85質量部と、を配合したこと以外は例5と同様に実施した。結果を表1に示す。この組成物はフィラー含有量85質量部と多いため流動性に劣り、塗布性に劣っていた。またガラスに対する接着強度が弱く、リーク性評価およびガラスへの接着評価を行う前に剥がれてしまい、これらの評価を実施することができなかった。
(例7)硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂として、3官能ケイ素モノマーのみから作成したものを使用したこと以外は、例5と同様に実施した。結果を表1に示す。この組成物はガラスに対する接着強度が弱く、リーク性評価およびガラスへの接着性評価を行う前に剥がれてしまい、これらの評価を実施することができなかった。
(例8〜9)例8,9では、本発明の封着剤組成物の代わりに、従来の低融点ガラス封着材(例8:DT430、旭テクノグラス社製、例9:ガラスフリットに溶媒とバインダを添加してペースト状にしたもの)を使用して、例1と同様に評価を実施する。但し、例8,9では、ガラスの接着性評価は実施しない。なお、封着温度は、例8では430℃であり、例9では520℃である。表1に結果を示す。
Figure 2005100278
Figure 2005100278
(実施例1)
本実施例では、ガラス板同士を真空チャンバ内で接合させて、図1および図2に示すようないわゆる真空複層ガラスを作製した、本実施例で使用したガラス板2,3(ソーダ石灰ガラス製)の寸法は以下の通りである。
ガラス板2:306mm×306mm×3mm
ガラス板3:300mm×300mm×3mm
ここでガラス板2,3の寸法が異なるのは、真空チャンバ内で上方に配置するガラス板2には、ホットプレートへの固定代を設けたためである。
ガラス板3上に、例1で得られた溶媒を含んだペースト状の封着材組成物をディスペンサを用いて塗布し、直径500μm、高さ200μmの円柱状の圧力保持部材6を相互の間隔が20mmになるように複数形成した。具体的には、例1で得られた溶媒を含んだペースト状の封着材組成物を、ディスペンサを用いて直径500μm、高さ200μmの円柱状のなすようにガラス板3上に間隔20mmとなるように複数塗布し、120℃で1時間加熱して溶媒を揮発させて除去した後、さらに180℃で10分乾燥させてから、200℃で30分間、250℃で30分間加熱して、封着材組成物を加熱硬化させて圧力保持部材6を形成した。
次に、例1で得られた溶媒を含んだペースト状の封着材組成物を、ディスペンサを用いてガラス板3の周縁部に沿って塗布し、幅約3mm、厚さ200μmの封着材組成物層を形成した。ガラス板3を120℃で1時間加熱して溶媒を揮発させて除去した後、ガラス板2,3を、真空チャンバ内に配置されたホットプレートの上板、下板に各々固定してから、真空チャンバ内部を真空度1.0×10-2Torr以下まで減圧した。この状態で180℃で10分乾燥させてから、封着材組成物層を覆うように、ガラス板2および3を積層させて、ガラス板2を上方から加圧しながら、200℃で1時間、230℃で1時間加熱して、封着材組成物層を加熱硬化させることでガラス板2,3同士を接合させて、間隙部10が真空度1.0×10-2Torr以下の減圧状態に保持されたいわゆる真空複層ガラス1を作製した。
(実施例2)
本実施例では、真空チャンバを使用せずに、大気圧下でガラス板2,3同士を接合させる。つぎに、図4に示すように、排気穴8を用いて間隙部10を所望の真空度まで真空排気していわゆる真空複層ガラス1を製造する。本実施例で使用するガラス板2,3(ソーダ石灰ガラス製)の寸法は以下の通りである。
ガラス板2:300mm×300mm×3mm
ガラス板3:300mm×300mm×3mm
ガラス板2には、直径3mmの孔8が形成されている。
実施例1と同様に、例1で得られた溶媒を含んだペースト状の封着材組成物をディスペンサを用いて直径500μm、高さ200μmの円柱状のなすようにガラス板3上に間隔20mmとなるように複数塗布し、120℃で1時間加熱して溶媒を揮発させて除去する。さらに180℃で10分乾燥させてから、200℃で30分間、250℃で30分間加熱して、封着材組成物を加熱硬化させて円柱状の圧力保持部材6を複数形成する。
次に、例1で得られた溶媒を含んだペースト状の封着材組成物をディスペンサを用いてガラス板3の周縁部に沿って塗布し、幅約3mm、厚さ200μmの封着材組成物層を形成する。ガラス板3を120℃で1時間加熱して溶媒を揮発させて除去する。つぎに、ガラス板2,3を各々ホットプレートの上板、下板に固定する。この状態で180℃で10分乾燥させてから、封着材組成物層を覆うようにガラス板2および3を積層させて、ガラス板2を上方から加圧しながら、200℃で1時間、250℃で1時間加熱して、封着材組成物層を加熱硬化させることでガラス板2,3同士を接合させる。但し、本実施例では、これらの工程を全て真空チャンバ内ではなく、大気圧下で実施する。
次に、排気穴8に真空ポンプを接続して、間隙部10が真空度1.0×10-2Torr以下になるまで真空排気する。その後、排気穴8を覆うように例1で得られた溶媒を含んだペースト状の封着材組成物を塗布して、該封着材組成物を加熱硬化させることで排気穴8を封止して間隙部10が真空度1.0×10-2Torr以下に保持されたいわゆる真空複層ガラス1を作製する。
(実施例3)
本実施例では、圧力保持部材6として、予め直径500μm、高さ200μmの円柱状に加工したステンレス鋼(SUS304)製の圧力保持部材を使用した点を除いて、実施例1と同様に実施して、間隙部10が真空度1.0×10-2Torr以下に保持されたいわゆる真空複層ガラス1を作製する。
本実施例では、ディスペンサを用いてガラス板3およびステンレス鋼製の圧力保持部材6の接合面に各々例1で得られた溶媒を含んだペースト状の封着材組成物を塗布し、120℃で1時間加熱して溶媒を揮発させて除去する。さらに180℃で10分乾燥させてから、塗布された封着材組成物を覆うように、ガラス3上の所定の位置に圧力保持部材6を配置する。この状態で圧力保持部材6を上方から加圧しながら200℃で30分間、250℃で30分間加熱して、封着材組成物を加熱硬化させることでガラス板3にステンレス鋼製の圧力保持部材6を接合させる。
その後の手順、すなわちガラス板3の周縁部への封着材組成物層の形成、真空チャンバ内でのガラス板2,3の接合については実施例1と同様に実施する。
(実施例4)
本実施例では、圧力保持部材6として、φ200μmの球状のガラスビーズ(ソーダ石灰ガラス製)を圧力保持部材として使用する点を除いて、実施例2と同様に実施して、間隙部10が真空度1.0×10-2Torr以下に保持されたいわゆる真空複層ガラス1を作製する。
本実施例において、ガラス板3にガラス製の圧力保持部材6を接合する手順は、実施例3と同様に実施する。残りの手順、すなわちガラス板2,3を本発明の封着材組成物を用いて接合する手順および排気穴8を用いて間隙部10が真空度1.0×10-2Torr以下になるまで真空排気して、該排気穴8を本発明の封着材組成物を用いて封止する手順については実施例2と同様に実施する。

なお、2004年4月16日に出願された日本特許出願2004−121399号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。

Claims (7)

  1. 一対のガラス板を、両ガラス板の間に間隙部を有するように対向配置させて、該両ガラス板の周縁部を封着材を用いて接合させてなる複層ガラスであって、
    前記封着材は、硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂および耐火物フィラーを含有する封着剤組成物からなり、
    前記封着材組成物におけるメチルフェニルシリコーン樹脂と耐火物フィラーの合計に対する耐火物フィラーの量が10〜80質量%であり、
    前記メチルフェニルシリコーン樹脂は、メチル基に対するフェニル基のモル比が0.1〜1.2であることを特徴とする複層ガラス。
  2. 前記メチルフェニルシリコーン樹脂は、(2官能ケイ素単位と3官能ケイ素単位の合計)に対する2官能ケイ素単位のモル比が0.05〜0.55であることを特徴とする請求項1に記載の複層ガラス。
  3. 前記耐火物フィラーは、平均粒径0.1〜20μmの球状シリカである請求項1または2に記載の複層ガラス。
  4. 前記間隙部は、減圧状態に保持されており、前記一対のガラス板間には圧力保持部材が配置されている請求項1ないし3のいずれかに記載の複層ガラス。
  5. 前記圧力保持部材は、前記硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂および耐火物フィラーを含有する封着材組成物を用いて、前記一対のガラス板のうち少なくとも一方に接合されている請求項4に記載の複層ガラス。
  6. 前記圧力保持部材は、硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂および耐火物フィラーを含有する組成物から形成され、
    前記組成物におけるメチルフェニルシリコーン樹脂と耐火物フィラーの合計に対する耐火物フィラーの量が10〜80質量%であり、
    前記メチルフェニルシリコーン樹脂は、メチル基に対するフェニル基のモル比が0.1〜1.2であることを特徴とする請求項4に記載の複層ガラス。
  7. 一対のガラス板のうち少なくとも一方の周縁部に封着材組成物を塗布した後、両ガラス板を前記封着材組成物を介して対向配置させ、前記封着材組成物を加熱硬化させることにより両ガラス板を接合してなる複層ガラスの製造方法であって、
    前記封着剤組成物は、硬化性のメチルフェニルシリコーン樹脂および耐火物フィラーを含有しており、
    前記封着材組成物におけるメチルフェニルシリコーン樹脂と耐火物フィラーの合計に対する耐火物フィラーの量が10〜80質量%であり、
    前記メチルフェニルシリコーン樹脂は、メチル基に対するフェニル基のモル比が0.1〜1.2であることを特徴とする複層ガラスの製造方法。
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