JPWO2005085148A1 - 赤外波長域で蛍光を発するガラス組成物、およびこれを用いた信号光の増幅方法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、広い波長範囲において発光機能や光増幅機能を示すガラス組成物を提供する。このガラス組成物は、ビスマス酸化物、酸化アルミニウム、およびガラス網目形成体を含み、ガラス網目形成体の主成分が二酸化ゲルマニウムであり、ビスマス酸化物に含まれるビスマスが発光種として機能し、励起光の照射により赤外波長域で蛍光を発する。このガラス組成物は、さらに1価または2価の金属の酸化物を含んでいてもよい。
Description
本発明は、発光体または光増幅媒体として機能しうるガラス組成物に関する。
Nd、Er、Prなどの希土類元素が添加され、赤外域で蛍光を発するガラスが知られている。このガラスを用いたレーザ発光や光増幅は、1990年代を中心に研究された。このガラスの発光は希土類イオンにおける4f電子の輻射遷移によって生じる。4f電子は外殻電子により遮蔽されているため、発光が得られる波長域は狭い。このため、増幅できる光の波長やレーザ発振が可能な波長の範囲が制限される。
これを考慮し、特開平11−317561号公報および特開2001−213636号公報は、多量(例えば20モル%以上)のBi2O3と発光元素としてのErとを含み、利用できる波長範囲が80nm以上であるガラス組成物を開示している。しかし、発光種がErであるため、波長範囲の拡張は100nm程度が限度である。また、ガラス組成物の屈折率が約2と高いため、光通信で用いられる石英ガラス製光ファイバと接続すると界面での反射による問題が生じやすい。
特開平6−296058号公報、特開2000−53442号公報および特開2000−302477号公報は、発光元素としてCrまたはNiを含有し、発光の波長幅が広いガラス組成物を開示している。Crを発光元素とするガラス組成物における主成分はAl2O3であり、ガラス網目形成体は少量(20モル%以下)に制限されている。このため、このガラス組成物は融解時や成形時に失透しやすい。Niを発光元素とするガラス組成物には、Ni+イオン、Ni2+イオンを含む微細結晶、6配位構造をとるNiイオンの少なくとも1つを含有させることが必要であり、同時に金属Niの微粒子が析出する。このため、このガラス組成物も失透しやすい。
特開平11−29334号公報は、Biをドープした石英ガラスを開示している。このガラス組成物では、Biがゼオライト中にクラスタ化されており、発光の波長幅が広がっている。しかし、この石英ガラスでは、Biがクラスタ化して互いに極めて近接しているため、近接するBi間で失活が起こりやすく、光増幅の効率が低い。この石英ガラスはゾルゲル法を用いて作製されるため、乾燥時の収縮や焼結時のクラックの発生が大型のガラスまたは光ファイバの量産に際して問題となる。
特開2002−252397号公報は、Bi2O3−Al2O3−SiO2系の石英ガラスを用いた光ファイバ増幅器を開示している。これを用いれば、0.8μm帯の半導体レーザを励起光源として1.3μm帯の光増幅を行うことができる。この増幅器は、石英ガラス系の光ファイバとの整合性に優れている。しかし、この石英ガラスは1750℃以上で熔融する必要があって屈伏点も1000℃以上に達する。このため、光ファイバの製造は容易ではなく、製造したとしても透過率が低くなる。
本発明の目的は、赤外波長域、特に光通信に用いられる広い波長範囲において、発光機能や光増幅機能を示す新たなガラス組成物を提供することにある。
本発明によるガラス組成物は、ビスマス酸化物、酸化アルミニウム、およびガラス網目形成体を含み、ガラス網目形成体の主成分が二酸化ゲルマニウムであり、ビスマス酸化物に含まれるビスマスが発光種として機能し、励起光の照射により赤外波長域で蛍光を発することを特徴とする。
本明細書において、主成分とは、含有率が最も高い成分をいう。
本発明によれば、赤外域の広い波長範囲で蛍光を発し、石英ガラスよりも低温で熔融するガラス組成物を提供できる。
以下、組成を示す%はすべてモル%である。
本発明のガラス組成物は、ビスマス酸化物、酸化アルミニウム(Al2O3)、およびガラス網目形成体を必須成分として含有する。Al2O3は、ガラス網目形成体として分類するにはガラス網目形成能が不足している。代表的なガラス網目形成体は酸化シリコンであるが、本発明では、二酸化ゲルマニウム(GeO2)がガラス網目形成体の主成分となる。このガラス組成物は、750℃以下の屈伏点を有しうる。
本発明のガラス組成物は、400nmから1100nm、好ましくは400nmから900nmの波長範囲、に光吸収ピークを有することが好ましい。光吸収ピークは、例えば、400nmから550nm、650nmから750nm、750nmから850nmの波長範囲から選ばれる少なくとも一つ、好ましくは2以上に存在することが好ましい。
本発明のガラス組成物に400nmから1100nm、より具体的には400nmから850nmの波長範囲、にある励起光が照射されたときに、発せられる蛍光の強度が最大となる波長は、例えば900nmから1600nm、好ましくは1000nmから1600nm、より好ましくは1000nmから1400nmの範囲にある。本発明によれば、この蛍光の波長に対する半値幅を、少なくとも150nm、さらには少なくとも320nm、例えば150nm以上400nm以下にまで広げることができる。この広い半値全幅には、少なくとも発光種がビスマスの陽イオンであることが寄与している。本発明のガラス組成物は、励起光の照射により、波長範囲900nmから1600nmの少なくとも一部で増幅利得を提供する光増幅媒体とすることもできる。
本発明のガラス組成物は、1価または2価の金属の酸化物をさらに含むことが好ましい。この酸化物はガラス化を容易にする。2価の金属の酸化物は、MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOから選ばれる少なくとも1種が好適である。1価の金属の酸化物は、Li2O、Na2OおよびK2Oから選ばれる少なくとも1種が好適である。MgOおよびLi2Oは好ましい成分であり、ガラス組成物はこの2つの酸化物の少なくとも一方を含有することが好ましい。1価または2価の金属の酸化物の含有率は3〜40%が適当である。
本発明のガラス組成物において、Bi2O3に換算したビスマス酸化物の含有率は0.01〜15%、特に0.01〜5%が好ましい。酸化アルミニウムの含有率は0.5〜33%が好ましく、二酸化ゲルマニウムの含有率は40〜85%が好ましい。
本発明のガラス組成物の好ましい組成を以下に例示する。GeO2:40〜85%、Al2O3:0.5〜33%、Li2O:0〜30%、Na2O:0〜30%、K2O:0〜30%、MgO:0〜40%、CaO:0〜30%、SrO:0〜30%、BaO:0〜30%、ZnO:0〜25%、TiO2:0〜10%、ZrO2:0〜5%、SiO2:0〜20%で示される成分を含み、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO+Li2O+Na2O+K2O(MO+R2O)が3〜40%の範囲にあり、かつ、0.01〜15%のBi2O3に換算したビスマス酸化物を含む。
ビスマスの還元防止のために、ガラスの原材料の一部を硫酸塩または硝酸塩としてもよい。ビスマス酸化物の原料またはビスマス酸化物は、硫酸塩および硝酸塩から選ばれる少なくとも一方とともに熔融することが好ましい。硫酸塩および硝酸塩の量は、三酸化ビスマスに対するモル比で1/20以上とするとよい。
以下、本発明のガラス組成物の具体的な実施形態についての特性の評価方法を説明する。
(光透過スペクトル)
試料ガラスを切断し、20mm×30mm×厚さ3mmの平行平板になるように表面を鏡面研磨し、板状試料を作製した。市販の分光光度計を用い、板状試料の光透過スペクトルを波長290〜2500nmの範囲で測定した。この光透過スペクトルの波長400〜550nm、650〜750nmのそれぞれの範囲に光吸収ピークが現れているかどうかも確認した。
試料ガラスを切断し、20mm×30mm×厚さ3mmの平行平板になるように表面を鏡面研磨し、板状試料を作製した。市販の分光光度計を用い、板状試料の光透過スペクトルを波長290〜2500nmの範囲で測定した。この光透過スペクトルの波長400〜550nm、650〜750nmのそれぞれの範囲に光吸収ピークが現れているかどうかも確認した。
光吸収スペクトルの半値幅は、以下のようにして求めた。まず、光透過スペクトルをモル吸光係数に換算して(即ちビスマス酸化物をBi2O3に換算し、このBi2O3を1%含み、光路長が1cmであるときの吸光係数に換算して)、光吸収スペクトルを作成した。この光吸収スペクトルにおけるピークの両側のテールに共通接線を引いてそれをベースラインとした。このベースラインと平行でかつピークに接するように引いたトップラインを引き、さらに、このトップラインとベースラインとを2分割するこれらラインに平行なミドルラインを引いた。そして、このミドルラインとスペクトルとの2つの交点の波長差を半値幅(半値全幅)とした。
(蛍光スペクトル)
蛍光スペクトルは上記と同じ板状試料を用い、市販の分光蛍光光度計により測定した。所定の波長を有する各励起光について、蛍光の発光の波長は800nm〜1600nmの範囲について測定した。なお、測定時の試料温度は室温とした。
蛍光スペクトルは上記と同じ板状試料を用い、市販の分光蛍光光度計により測定した。所定の波長を有する各励起光について、蛍光の発光の波長は800nm〜1600nmの範囲について測定した。なお、測定時の試料温度は室温とした。
測定された蛍光スペクトルに現れた発光ピーク波長、および発光強度がピーク値の半分以上になる波長幅(発光半値幅)、および発光ピーク波長における発光強度を求めた。発光強度は任意単位であるが、試料形状および測定時の試料の設置位置を同一としているため、その比較は可能である。発光半値幅は、光吸収ピークの半値幅と同様の方法で求めた。
(蛍光寿命)
蛍光寿命も上記と同じ板状試料を用いて分光蛍光光度計により測定した。所定波長のパルス光によって励起したときの発光の時間的減衰を測定した。この測定は励起波長に応じた所定波長、例えば励起励起波長500nmに対しては1140nm、波長700nmに対しては1120nm、励起波長833nmに対しては1250nm、で行った。こうして得た減衰曲線に対し、指数関数をフィッティングすることにより、蛍光寿命を算出した。
蛍光寿命も上記と同じ板状試料を用いて分光蛍光光度計により測定した。所定波長のパルス光によって励起したときの発光の時間的減衰を測定した。この測定は励起波長に応じた所定波長、例えば励起励起波長500nmに対しては1140nm、波長700nmに対しては1120nm、励起波長833nmに対しては1250nm、で行った。こうして得た減衰曲線に対し、指数関数をフィッティングすることにより、蛍光寿命を算出した。
(光増幅特性)
図1に示す測定装置を用いて光増幅特性を測定した。光増幅のエネルギー源となる励起光の波長は532nm、増幅すべき信号光の波長は1064nmおよび1314nmの2種類とした。この装置では、励起光と信号光とが試料ガラス中で空間的に重なり、試料ガラスを透過した信号光が増幅される。
図1に示す測定装置を用いて光増幅特性を測定した。光増幅のエネルギー源となる励起光の波長は532nm、増幅すべき信号光の波長は1064nmおよび1314nmの2種類とした。この装置では、励起光と信号光とが試料ガラス中で空間的に重なり、試料ガラスを透過した信号光が増幅される。
波長532nmの励起光20の光源26には、半導体レーザ(LD)励起Nd−YAG緑色レーザからの連続光を用いた。励起光20は、焦点距離300mmの凸レンズ52で集光し、試料ガラス10の厚み方向中央部に、焦点位置62がくるようにレンズ52の位置などを調整した。
一方、信号光30は、波長が1064nmの場合には、励起光源26とは別の半導体レーザ励起Nd−YAGレーザ36を光源とし、パルス幅数nsのパルス光とした。波長が1314nmの場合、信号光30は、その波長の半導体レーザ36からの連続光とした。信号光30は、励起光20とは逆方向から試料ガラス10に入射させ、焦点距離500mmまたは1000mmの凸レンズ54で集光して、試料ガラス10の厚み方向中央部に、焦点位置62がくるようにレンズ54の位置などを調整した。レンズ52とレンズ54との焦点距離の組み合わせは、信号光ビームの通過する空間が、励起光ビームの通過する空間内に、十分含まれるように選択した。
信号光30と励起光20の合波・分波は、波長選択性反射鏡72,74を用いて行った。これらの反射鏡72,74は、励起光20は通過するが信号光30は反射するように構成した。
信号光の波長が1064nmの場合は、信号光の反射鏡として、通常の透明な板ガラスを用いた。透明な板ガラスの場合、表面で数%の反射が生じる。光源(Nd−YAGレーザ)36から出た波長1064nmの信号光30は、反射鏡74で一部が反射され、試料ガラス10中に入射され、これを透過した信号光32、すなわち増幅された信号光32は反射鏡72でその一部が反射され、レンズ56で平行光に変換され、分散プリズム78で励起光成分が除去され、光検出系80に導かれる。
2枚の反射鏡72,74における波長1064nmの光の反射率は高くはないが、信号光30はパルス光であり、その尖頭値が非常に大きいため(レーザの出射位置でメガワットクラス)、測定は容易である。なお、励起光20は、反射鏡72をほとんど損失なく通過して、試料ガラス10に達する。試料ガラスでの光増幅に寄与しなかった励起光22は、反射鏡74に達するが、この反射鏡での反射量はわずかであるので、信号光源36に悪影響を与えることはない。
信号光の波長が1064nmの場合における、光検出系80の詳細を図2に示す。遮光カバー88で覆った光検出系80に導かれた信号光32を、可視光カットフィルタ82を通し、さらに波長1064nmの光のみ通過する干渉フィルタ84を通して、信号光成分以外の光を除去する。信号光は、光検出器86で光信号強度に対応した電気信号に変換され、信号ケーブル92を通じて、オシロスコープ90上に表示される。光検出器86としては、例えばSi系フォトダイオードを用いればよい。
信号光の波長が1314nmの場合は、反射鏡72,74として、波長1314nmに対して高反射率をもつ誘電体多層膜ミラーを用いた。波長1314nmの信号光源(LD)36から出射された信号光30は、反射鏡74で反射され、試料ガラス10中に入射される。増幅された信号光32は、反射鏡72で反射されて光検出系80に導かれる。励起光20は、反射鏡72をほとんど損失なく通過して、試料ガラス10に達する。光増幅に寄与しなかった励起光22は、反射鏡74に達し、わずかに反射される。この反射光が信号光源36に入射するのを防ぐため、波長532nmに対して高反射率をもつように構成した誘電体多層膜ミラー(図示しない)を挿入した。
信号光波長が1314nmの場合における、光検出系80の詳細を図3に示す。光検出系80に導かれた信号光32は、焦点距離の長い(例えば1000mm)のレンズ58でピンホール83付近に集光される。ピンホールを通すことで信号光以外の方向に進む成分、すなわちASE(Amplified Spontaneous Emission)光および散乱光成分を除去できる。さらに、分光プリズム55を通過させることにより、波長532nmの励起光成分を除去し、信号光成分のみを光検出器86に入射させる。光信号は、それに対応した電気信号に変換され、信号ケーブル92を通じて、オシロスコープ上に表示される。光検出器86としては、例えばGe系フォトダイオードを使用すればよい。
図1に示した光学系では、励起光20の進行方向と信号光30の進行方向とが逆向きであるが、これに限らず、例えば両方の光の進行方向を一致させてもよい。試料ガラスの形状を、ブロック状ではなくファイバ状としてもよい。
上述の光学系を用いた光増幅の測定は、以下のようにして行った。
試料ガラス10を両面が互いに平行となるように鏡面研磨し、ブロック状試料とした。試料ガラスの厚みは、励起光の波長、例えば波長523nmにおいて、透過率が約95%になる厚みとした。この試料ガラスを図1に示した位置にセットし、信号光30と励起光20とが、試料ガラス10の内部でよく重なるように調整を行った。
その後、まず、信号光30を試料ガラス10に照射し、試料ガラス10を透過してきた信号光32の強度をオシロスコープ90で測定した。次に、信号光30の照射を続けたまま、励起光20を試料ガラス10に照射し、同様に信号光32の強度をオシロスコープ90で測定した。信号光だけを照射したときの透過信号光の強度と、信号光と励起光とを同時に照射したときの透過信号光の強度とを比較することにより、光増幅現象を確認できる。
なお、試料ガラスの形状がファイバ状である場合(本発明のガラス組成物を含む光ファイバを用いる場合)の光増幅特性は、図4に示した測定装置を用いて評価できる。光増幅のエネルギー源となる励起光21の波長は例えば808nm、増幅すべき信号光30の波長は例えば1314nmとするとよい。この装置では、励起光21と信号光30とが試料ファイバコアへの入り口部分となる光ファイバ端14付近で空間的に重なり、試料ファイバ12を透過してきた信号光34が増幅される。
波長808nmの励起光、および波長1314nmの信号光の光源28,38にはいずれも半導体レーザからの連続光を用いればよい。信号光と励起光の合波は、信号光30は通過するが励起光21は反射するように構成した波長選択反射鏡76を用いて行うとよい。
光ファイバ12から出射した光34はレンズ57を用いて光検出器87に導かれる。光路の途中に、信号光を透過し励起光を遮断するフィルタ81を挿入し、検出器87では信号光のみを検出し、その信号をオシロスコープ90で観察する。
上述の光学系を用いた光増幅の測定に際しては、試料光ファイバは断面が鏡面になるように切断し、上記の測定装置にセットし、信号光と励起光とが光ファイバのコアに十分に入射するように調整する。
その後、まず信号光30を試料光ファイバ12の端面14に照射し、試料光ファイバ12を透過してきた信号光34の強度をオシロスコープ90で測定する。次いで、信号光30の照射を続けたまま、励起光21を試料光ファイバ12に照射し、信号光34の強度をオシロスコープ90で測定する。信号光だけを照射したときの透過信号光の強度と、信号光と励起光とを同時に照射したときの透過信号光の強度とを比較することにより、光増幅現象を確認できる。
図4に示した光学系では、励起光の進行方向と信号光の進行方向とを一致させたが、これに限らず、例えば両方の光の進行方向を逆方向としてもよい。波長選択反射鏡では、信号光を反射させ、励起光を透過させてもよく、反射鏡以外の手段によって信号光および励起光を光ファイバに入射させてもよい。
図1および図4、特に図4に示した装置は、評価装置の例示であるとともに、本発明の光増幅装置の構成例でもある。光増幅装置は、図示した構成に限らず、例えば信号光の光源に代えて信号入力用光ファイバを、光検出器に代えて信号出力用光ファイバを、それぞれ配置してもよい。また、励起光と信号光との合波・分波を、ファイバカプラを用いて行ってもよい。このような光増幅装置を用いれば、本発明のガラス組成物に励起光と信号光とを入射させ、この信号光を増幅する信号光の増幅方法を実施できる。
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
(実施例)
表1に示した各組成となるように、通常用いられる原料である二酸化ゲルマニウム、アルミナ、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、チタニア、ジルコニア、酸化亜鉛、シリカ、三酸化ビスマス(Bi2O3)などを秤量して原材料バッチを調合した。
表1に示した各組成となるように、通常用いられる原料である二酸化ゲルマニウム、アルミナ、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、チタニア、ジルコニア、酸化亜鉛、シリカ、三酸化ビスマス(Bi2O3)などを秤量して原材料バッチを調合した。
三酸化ビスマスの不要な還元の防止とガラスの清澄とを目的として、MgO原料の一部として、試薬として市販されている硫酸マグネシウム(MgSO4)を用いた。また、Na2Oを含む組成では、Na2O原料の一部として硫酸ナトリウム(ボウ硝Na2SO4)を用いた。これら硫酸塩の量は、三酸化ビスマスに対するモル比で1/20以上とした。
調合したバッチをアルミナルツボに投入して1400℃の電気炉中で4時間保持し、その後、鉄板上に流し出して冷却した。このガラスを600℃の電気炉中で30分保持した後、炉の電源を切り、室温まで放冷して試料ガラス(サンプル1〜7)とした。
これら試料ガラスについて測定した特性を表1に示す。試料ガラスは、いずれも目視観察において赤色ないし赤褐色を示した。いずれの試料ガラスの光透過スペクトルにも波長400nm〜550nmおよび650〜750nmの範囲に光吸収ピークが存在した。図5にサンプル1、2の光透過スペクトルを示す。
いずれの試料ガラスからも赤外域での蛍光が観測された。図7にサンプル1の蛍光スペクトルを示す。波長500nm、700nm、833nmの各波長の光照射による励起によって波長900〜1600nmに及ぶ広い発光が得られていることが確認できる。サンプル1を含め、いずれの試料ガラスからも150μm以上の発光半値幅が得られた。また、いずれの試料ガラスからも150μs以上の発光寿命(蛍光寿命)が得られた。
いずれの試料ガラスにおいても、波長532nmの励起光により、波長1064nmおよび1314nmの信号光が増幅することが確認できた。表1に示したように、蛍光スペクトルにおいて発光が最大となる波長は、すべての試料ガラスについて、1064nmと1314nmとの間の波長域にある。このような試料ガラスによれば上記波長域の少なくとも一部において光増幅が可能であり、この光増幅は、試料ガラスの広い波長範囲での発光を考慮すると少なくとも250nmの範囲で行うことができる。
(参照例)
実施例と同様の方法により、表2に示した各組成となるようにガラス原料を調合し、試料ガラスを作製した。ただし、サンプル11では調合したバッチをアルミナルツボに投入して1750℃の電気炉中で4時間保持し、サンプル14では調合したバッチをアルミナルツボに入れて1450℃で4時間保持し、その後、鉄板上に流し出して冷却した。このガラスを600℃の電気炉中で30分保持した後、炉の電源を切り、室温まで放冷して試料ガラス(サンプル11〜14)を得た。
実施例と同様の方法により、表2に示した各組成となるようにガラス原料を調合し、試料ガラスを作製した。ただし、サンプル11では調合したバッチをアルミナルツボに投入して1750℃の電気炉中で4時間保持し、サンプル14では調合したバッチをアルミナルツボに入れて1450℃で4時間保持し、その後、鉄板上に流し出して冷却した。このガラスを600℃の電気炉中で30分保持した後、炉の電源を切り、室温まで放冷して試料ガラス(サンプル11〜14)を得た。
これらの試料ガラスを用い、実施例と同様に特性を測定した。結果を表2に示す。
サンプル11では、ルツボからガラス融液を流し出すことができなかったため、ルツボのまま冷却し、試料ガラスを切り出した。この試料ガラスは赤色に着色していたが、泡や脈理が非常に多く、波長1000〜1600nmの範囲では光透過率が30%程度しか得られなかった。サンプル12は、白色不透明の固化物が得られたが、この固化物は、ごく一部しか融解していなかった。サンプル13は、融液が失透していた。サンプル14は、一般的なソーダライムガラス組成を有するが、波長400〜850nmの波長の光を照射しても赤外域での発光は観察されなかった。
以下、実施例、参照例の結果を参照しつつ、組成限定の理由を説明する。
ビスマス酸化物は、本発明のガラス組成物が発光ないし光増幅を発するための必須成分である。ビスマス酸化物は、三酸化ビスマス(Bi2O3)または五酸化ビスマス(Bi2O5)が好ましい。ビスマス酸化物の含有率が少なすぎると、ビスマス酸化物による赤外域における発光強度が弱くなりすぎてしまう。一方、含有率が高すぎると、光透過スペクトルの450〜550nmの波長範囲に光吸収ピークが現れにくくなり、赤外域での発光強度が低下する。ビスマス酸化物の含有量(Bi2O3換算)は、0.01〜5%、さらには0.01〜3%、特に0.1〜3%が好ましい。
ガラス網目形成体の主成分はGeO2である。GeO2の含有率が高くなるに従ってガラス組成物はより強く発光するが、同時にガラス融液の粘度が高くなり、90%を超えるとガラス組成物の製造が困難になる。一方、GeO2の含有率が低くすぎるとガラス組成物の赤外域の発光強度が低下し、さらには失透が生じやすくなる。したがって、GeO2の含有率は、40〜85%が好ましく、45〜85%がより好ましく、55〜80%が特に好ましい。
Al2O3は、ビスマス酸化物がガラス組成物において赤外発光を呈するために必須の成分である。 その含有率が0.5%未満の場合は、この効果が現れない。一方、Al2O3の含有率が高くなるに従ってガラス組成物の発光強度は強くなるが、含有率が33%を超えるとガラス原材料の溶解性が悪化し、完全に熔解したとしても失透しやすくなる。したがって、Al2O3の含有率は.0.5〜33%、さらには5〜30%が好ましく、より好ましい下限は10%、上限についてはより好ましくは20%、さらに好ましくは15%である。
2価金属酸化物MO(MO=MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO)および1価金属酸化物R2O(R2O=Li2O+Na2O+K2O)は、組成物のガラス化のために添加することが好ましい。この観点からは、MO+R2Oを少なくとも3%添加するとよい。MO+R2Oの含有率の増加に従ってガラスの均質化は容易になる、一方、MO+R2Oの含有率が40%を超えると失透が極めて生じやすくなる。したがって、MO+R2Oの含有量は3〜40%、さらには5〜35%が好ましく、10〜30%が特に好ましい。
MOおよびR2Oの原料の一部として、硫酸塩(MSO4;R2SO4)、硝酸塩(M(NO3)2;RNO3)などの酸化性の高い塩を用いるとよい。熔融中に酸化性の高い化合物が生じ、ビスマスの還元を抑制できるからである。還元性を抑制すると、白金または白金系合金製のルツボなどの熔融容器の侵食も抑制できる。硫酸塩および硝酸塩の量は、モル比で表示して、ビスマス酸化物の1/20以上が好ましい。
MgOは重要なガラス網目修飾体である。MgOは、原材料バッチの熔解性を高める。しかし、MgOの含有率が高すぎるとガラス組成物が濃褐色を示し、400〜550nmの波長範囲の光吸収ピークが弱くなり、それとともに発光強度が急激に低下する。MgOの含有率が高すぎるとガラス融液の粘度が低下し過ぎて失透が生じやすくなる。MgOの含有率は、0〜40%、さらには0.5〜35%、特に0.5〜30%が好ましく、0.5〜15%が最も好ましい。
CaOは、MgOと同様に原材料バッチの熔解性を高め、ガラスの耐失透性を高める特性ではMgOよりも優れている。しかし、MgOと同様、CaOの含有率が高すぎると、ガラスは濃褐色を示し、発光強度が低下する。このため、CaOの含有率は、0〜30%、さらには0〜20%が好ましく、0〜18%がより好ましく、0〜10%が特に好ましい。
SrOは、MgO、CaOと同様、原材料バッチの熔解性を高める。SrOは、少量(例えば0.1%以上)であってもガラスの耐失透性を大幅に改善する。しかし、SrOは、ビスマスによる発光の強度を急激に低下させる作用が強いため、その含有率は0〜30%が好ましく、0〜15%がより好ましく、0〜5%が特に好ましく、0〜1%が最も好ましい。
BaOも、MgO、CaOと同様、原材料バッチの熔解性を高める。BaOは、他の2価金属の酸化物よりも屈折率を高める効果が高い。屈折率が高くなるとガラス表面の光沢も強くなるため、赤色ないし赤褐色の発色も強まる。このため、BaOは例えば0.1%以上の範囲で添加するとよい。しかし、BaOは、発光強度を急激に低下させる作用が強いため、その含有率は0〜30%が好ましく、0〜15%がより好ましく、0〜5%が特に好ましく、0〜1%が最も好ましい。
ZnOもまた原材料バッチの熔解性を高める。ZnOはCaO、SrO、BaOと比較して、ガラスを赤色ないし赤褐色に発色させる効果が高い。ZnOは、MgOと比較して、ガラスの屈折率を高める作用にも優れている。これを考慮して少量(例えば0.1%以上)のZnOを添加してもよい。しかし、MgOと同様、ZnOの含有率が高すぎると、ガラスは濃褐色を示し、発光強度が低下する。ZnOの含有率が高すぎると、ガラスが分相して乳濁し、透明なガラスが得られなくもなる。したがって、ZnOの含有率は、0〜25%、さらには0〜15%が好ましく、0〜10%がより好ましい。
Li2Oは重要なガラス網目修飾体である。Li2Oは、熔解温度を低下させて熔解性を高め、ガラスの屈折率を高める。Li2Oの適量の添加は光吸収を高めて発光強度を高めるため、Li2Oは0.1%以上添加するとよい。しかし、MgOと同様、Li2Oの含有率が高すぎると、ガラスは濃褐色を示し、発光強度が低下する。Li2Oの含有率がさらに高くなると、ガラス融液の粘度が低下して失透が生じやすくなる。Li2Oの含有率は、0〜30%が好ましく、0〜15%がより好ましく、0〜10%が最も好ましい。
Na2Oは、熔融温度とともに液相温度を低下させ、ガラスの失透を抑制する。しかし、Na2Oは、ガラスを濃褐色として発光を弱める作用が強い。したがって、Na2Oの含有率は、0〜30%が好ましく、0〜15%がより好ましく、0〜5%が特に好ましい。
K2Oは、液相温度を低下させ、ガラスの失透を抑制する。しかし、K2Oは、少量でもガラスの赤外域での発光を弱める。したがって、K2Oの含有率は、0〜30%が好ましく、0〜15%がより好ましく、0〜2%が特に好ましい。
TiO2は、ガラスの屈折率を高め、発光を助ける。BaOは発光強度を低下させる作用が強いが、TiO2は逆に発光強度を高める効果を有する。しかし、TiO2にはガラスを乳濁させる作用がある。したがって、TiO2の含有率は、0〜10%が好ましく、0〜5%がより好ましい。
ZrO2は、TiO2と同様、ガラスの屈折率を高め、赤外発光を助ける。 しかし、ZrO2は、ガラスの結晶化を促し、ガラスの密度を高める作用を有する。したがって、失透および密度の上昇を避けるため、ZrO2の含有率は、0〜5%が好ましく、0〜3%がより好ましい。
本発明のガラス組成物は、複数種のガラス網目形成体を含んでいてもよく、例えばSiO2を含有していても構わない。SiO2の添加は失透の抑制に効果がある。しかし、SiO2の含有率が高すぎると、ガラス融液の粘性が極度に高くなり、組成物の均質化を妨げる。SiO2の含有率は0〜20%が好ましく、0〜10%がより好ましい。
本発明のガラス組成物は、上記の成分以外に、屈折率の制御、温度粘性特性の制御、失透の抑制などを目的として、Y2O3、La2O3、Ta2O5、Ga2O3、Nb2O5およびIn2O3を、好ましくは合計で5%以下となるように、含んでいてもよい。
さらに、本発明のガラス組成物は、熔解時の清澄、ビスマスの還元防止などを目的として、As2O3、Sb2O3、SO3、SnO2、Fe2O3、ClおよびFを、好ましくは合計で1%以下となるように、含んでいてもよい。
なお、ガラスの原材料には、微量の不純物として上記以外の成分が混入することもある。しかし、これら不純物の合計の含有率が1%未満であれば、ガラス組成物の物性に及ぶ影響は小さく、実質上問題とならない。
本発明のガラス組成物は、発光機能、光増幅機能の発揮に、Nd、Er、Pr、Ni、Crを必要とせず、これら元素を実質的に含まなくてもよい。ここで、実質的に含まないとは、ガラス中で最も安定な酸化物に換算したときの含有率が1%未満、好ましくは0.1%未満であることをいう。
本発明のガラス組成物は、光通信で主に用いられている波長領域の一つである1310nm帯、およびNd−YAGレーザの発振波長である1064nmにおいて用いることができる。本発明によれば、これまで適切な光増幅材料が報告されていなかった1100〜1300nmの波長範囲で動作する新たな光増幅媒体を提供できる。本発明のガラス組成物は、少なくともその好ましい形態において、900nmから1600nmにわたる広い蛍光スペクトルを提供できる。これを利用すれば、この広い波長範囲内で動作する光増幅装置を提供できる。
Claims (18)
- ビスマス酸化物、酸化アルミニウム、およびガラス網目形成体を含み、前記ガラス網目形成体の主成分が二酸化ゲルマニウムであり、前記ビスマス酸化物に含まれるビスマスが発光種として機能し、励起光の照射により赤外波長域で蛍光を発するガラス組成物。
- 400nmから1100nmの波長範囲に光吸収ピークを有する請求項1に記載のガラス組成物。
- 400nmから1100nmの波長範囲にある励起光が照射されたときに発せられる蛍光の強度が最大となる波長が900nmから1600nmの範囲にある請求項1に記載のガラス組成物。
- 前記蛍光の波長に対する半値幅が少なくとも150nmである請求項1に記載のガラス組成物。
- 前記蛍光の波長に対する半値幅が少なくとも320nmである請求項4に記載のガラス組成物。
- 励起光の照射により、900nmから1600nmの波長範囲の少なくとも一部で信号光の増幅利得を提供する請求項1に記載のガラス組成物。
- 1価または2価の金属の酸化物をさらに含む請求項1に記載のガラス組成物。
- 前記2価の金属の酸化物が、MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOから選ばれる少なくとも1種である請求項7に記載のガラス組成物。
- 前記1価の金属の酸化物が、Li2O、Na2OおよびK2Oから選ばれる少なくとも1種である請求項7に記載のガラス組成物。
- 1価または2価の金属の酸化物を3〜40モル%の範囲で含む請求項7に記載のガラス組成物。
- Bi2O3に換算したビスマス酸化物を0.01〜15モル%の範囲で含む請求項1に記載のガラス組成物。
- Bi2O3に換算したビスマス酸化物を0.01〜5モル%の範囲で含む請求項11に記載のガラス組成物。
- 酸化アルミニウムを0.5〜33モル%の範囲で含む請求項1に記載のガラス組成物。
- 二酸化ゲルマニウムを40〜85モル%の範囲で含む請求項1に記載のガラス組成物。
- モル%により表示して、
GeO2 40〜85
Al2O3 0.5〜33
Li2O 0〜30
Na2O 0〜30
K2O 0〜30
MgO 0〜40
CaO 0〜30
SrO 0〜30
BaO 0〜30
ZnO 0〜25
TiO2 0〜10
ZrO2 0〜 5
SiO2 0〜20
で示される成分を含み、
MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO+Li2O+Na2O+K2Oが3〜40モル%の範囲にあり、かつ、
0.01〜15モル%のBi2O3に換算したビスマス酸化物を含む請求項10に記載のガラス組成物。 - 請求項1に記載のガラス組成物を含む光ファイバ。
- 請求項1に記載のガラス組成物を含む光増幅装置。
- 請求項1に記載のガラス組成物に励起光と信号光とを入射させ、前記信号光を増幅する信号光の増幅方法。
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