JPWO2005010528A1 - 非特異的物質の除去方法 - Google Patents

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Abstract

ステアリン酸等の疎水性物質を固定化してなる固相担体、及び当該疎水性物質を固定化してなる固相担体を用いて試料を処理することを含む、リガンド固定化固相担体に非特異的に吸着する物質を試料から除去する方法により、リガンド分子とターゲット分子との特異的な相互作用を解析することができ、また当該特異的な相互作用を用いてターゲット分子を同定・選別する過程において、ターゲット分子を含み得る試料を、疎水性物質固定化固相担体で前処理することにより、試料中に存在するリガンド分子に非特異的な物質を除去あるいは低減化することができる。

Description

本発明は、固相担体を用いた分子間相互作用における基盤技術に関する。より詳しくは、リガンドを固相担体に固定化し、当該固相上での分子間相互作用を活用し、当該相互作用を測定、解析する過程において、解析等の障害となる非特異的な相互作用を低減化する技術に関する。
近年、特異的分子間相互作用を基盤とした手法を用い、ある特定の分子に特異的な相互作用を有する分子を探索する試みが盛んに行われている。この中で、注目に値する生理活性を示す医薬品のような低分子化合物を適当な固相担体に固定化しターゲットを探索する方法が注目を集めている。このいわゆるアフィニティー樹脂と呼ばれる手法を用いたターゲット探索研究は着目する生理活性を示す低分子化合物のターゲットを効率的に同定することが可能であることから多くの研究が行われ、具体的な成果もいくつか報告されている。これらの研究例としては、1)1989年のシュライバー教授による免疫抑制剤FK506の結合タンパク質FKBP(FK506 binding proteins)の発見(FK506の細胞内結合タンパク質としてのFKBP12の発見、例えば「ネイチャー(Nature)」,(英国),1989年10月26日,第341巻,p.758−760参照)や、2)抗癌剤Trapoxinのターゲットタンパク質としてのHDAC発見(例えば「サイエンス(Science)」,(米国),1996年4月19日,第272巻,p.408−411参照)、3)半田等によるE3330のターゲットタンパクとしてのRef−1の発見(例えば「ネイチャー バイオテクノロジー(Nature Biotechnology)」,(英国),2000年8月,第18巻,第8号,p.877−881参照)が有名である。
また、診断薬の領域においても、出来るだけ病気早期に病巣の存在を非侵襲的に確認できれば治療の効果がアップすることから、例えば特定の癌に特異的に発現する微量タンパク質等のマーカーと呼ばれる物質を、採取した患者の血液等から同定する研究も盛んに行われている。
しかし、これまでに上記手法において、1)アフィニティー樹脂を用いたターゲット探索においてはアフィニティー樹脂に結合したタンパク質をSDSゲル等で解析する際に特異的タンパク質を覆い隠すような非特異的タンパク質が存在し、特異的タンパク質の検出が困難になる、あるいは2)BIACORE等を用いた解析においては、大きな非特異的タンパク吸着に起因するピークの存在による特異的タンパク結合によるピーク判別が困難になる等、固定化したリガンド分子に特異的な分子間相互作用を有するタンパク質(いわゆるターゲットタンパク質)以外の非特異的タンパク質の存在が問題となってきた。一般に、ターゲットとなるタンパク質が生体内に多量に存在するという場合は少ない。従って、リガンドと特異的な相互作用ではなく固定化に用いた担体やリガンドと非常に弱く相互作用するようなタンパク質(非特異的タンパク質)が、材料となるターゲットタンパク質混合物(試料)に多量に含有していると、結果としてリガンド分子に特異的なタンパク質の発見の大きな妨げとなる。また、血液中に多量に存在することにより他のタンパク質から得られる情報を妨害するタンパク質(例えばアルブミン)の存在も診断等の領域で問題と考えられてきた。これらの妨害タンパク質の例として、前者の例としてはラット脳から調製するライゼートにおけるチューブリンやアクチンのような構造タンパク質、後者の例としては血漿中のアルブミン等が知られている。
上記ターゲット探索あるいは診断等におけるマーカーの発見等の手法において、妨害となる非特異的タンパク質を、研究開始前に、人為的に除去乃至低減化しておくことが可能になればこれらの手法の適応は一段と増すと考えられる。
これまで、これらの問題を克服するためには抗体を用いた免疫沈降法(immuno−precipitation(IP))や抗体をカラムに固定化する方法(例えばエル.エフ.スチールら(L.F.Steel,et al.),「モレキュラー アンド セルラー プロテオミクス(Molecular & Cellular Proteomics)」,(米国),2003年5月16日,「ヒト血清サンプルからのアルブミンの効率的且つ特異的な除去(Efficient and specific removal of albumin from human serum samples)参照」等が用いられてきたが、不要なタンパク質を固化して除くという従来の手法では、多くの重要な化合物(タンパク質)が沈殿した塊に巻き込まれ、目的物をロスすることやその費用等が問題となり、その解決が望まれてきた。このような非特異的タンパク質を吸着除去することを目的としたカラム(例えばブルー色素(ブルー色素が有するイオン的、疎水的、芳香族や立体構造的に特異的な結合部位に基づいて非特異的タンパク質を吸着する)やDEAE(酸性タンパク質等が吸着する)を固定化した固相担体が充填されている)の利用が報告されている。しかしながら、その吸着対象となる物質は広範囲にわたり、目的であるターゲット分子をも同時に吸着し、除去されてしまうことが懸念されていた。
本発明は、ターゲット探索あるいは診断等におけるマーカーの発見等の手法において、妨害となる非特異的タンパク質を、試料中から、研究開始前に、人為的に除去乃至は低減化する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究する過程において、上記非特異的タンパク質の吸着の主な要因が構造的特徴に基づかない疎水相互作用によるものであることを見出した(WO2004/025297)。かかる知見をもとにさらに検討を重ねた結果、構造的特徴が少なく、且つ疎水性の高い、例えばステアリン酸等の物質を固定化した固相担体で試料(生体成分混合物)を事前に処理することによって、試料中の非特異的なタンパク質の多くを除去することに成功し、その後の研究が促進できることを見出して本発明を完成するに至った。
即ち本発明は下記の通りである。
〔1〕疎水性物質を固定化してなる固相担体。
〔2〕疎水性物質のLOGPがCLOGPとして算出した場合、4以上である、上記〔1〕記載の固相担体。
〔3〕疎水性物質のLOGPがCLOGPとして算出した場合、6以上である、上記〔2〕記載の固相担体。
〔4〕疎水性物質のLOGPがCLOGPとして算出した場合、20以下である、上記〔2〕又は〔3〕記載の固相担体。
〔5〕疎水性物質が下記一般式(I)又は(II)で表される化合物である、上記〔2〕又は〔3〕記載の固相担体;
−COOH (I) R−SOH (II)
(式中、R及びRは同一又は異なって置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、あるいは置換又は無置換のアルキニル基である)。
〔6〕疎水性物質が、ウンデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、アラキドン酸、リノレン酸、オレイン酸、ステアリン酸、9−(ナフタレン−1−イル)−ノナン酸、ドデカンスルフォン酸、オクタデカンスルフォン酸及びヘキサデカンスルフォン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、上記〔1〕記載の固相担体。
〔7〕疎水性物質が、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、アラキドン酸、リノレン酸、オレイン酸、ステアリン酸、オクタデカンスルフォン酸及びヘキサデカンスルフォン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、上記〔6〕記載の固相担体。
〔8〕疎水性物質が、ステアリン酸又はオクタデカンスルフォン酸である、上記〔6〕記載の固相担体。
〔9〕疎水性物質を固定化してなる固相担体で試料を処理することを含む、リガンド及び/又はリガンド固定化固相担体に非特異的に結合する物質を試料から除去する方法。
〔10〕試料が生体試料である、上記〔9〕記載の方法。
〔11〕生体試料が血液由来である、上記〔10〕記載の方法。
〔12〕リガンド及び/又はリガンド固定化固相担体に非特異的に結合する物質がアルブミンである、上記〔9〕記載の方法。
〔13〕疎水性物質を固定化してなる固相担体が、上記〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の固相担体である、上記〔9〕〜〔12〕のいずれか1項に記載の方法。
〔14〕リガンド及び/又はリガンド固定化固相担体への非特異的な結合が、分子間の疎水的相互作用に基づくものである、上記〔9〕〜〔12〕のいずれか1項に記載の方法。
〔15〕上記〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の固相担体で試料を処理し、試料中のアルブミンを該固相担体に吸着させることを含む、アルブミンの精製方法。
〔16〕試料が生体試料である、上記〔15〕記載の方法。
〔17〕生体試料が血液由来である、上記〔16〕記載の方法。
図1は、ステアリン酸固定化樹脂での前処理によりFK506非特異的物質を吸着除去し得ることを示すグラフである。試料としてはラット脳溶解液を用いた。ステアリン酸固定化樹脂での前処理を行わなかった場合、100μlのステアリン酸固定化樹脂で試料をあらかじめ処理した場合、200μlのステアリン酸固定化樹脂で試料をあらかじめ処理した場合の結果をそれぞれ示す。
図2は、種々の化合物を固定化した樹脂に対する非特異的物質の吸着の程度を調べた結果を示す電気泳動写真である。
図3は、ステアリン酸固定化樹脂とCB−F3GA固定化樹脂とにおける、非特異的物質の吸着の程度を調べた結果を示す電気泳動写真である。試料としてはDHFR発現大腸菌lysateを用いた。
図4は、ステアリン酸固定化樹脂における、ヒト血漿中からのアルブミン除去、及びステアリン酸固定化樹脂に吸着したアルブミンの程度を調べた結果を示す電気泳動写真である。
発明の詳細な説明
本発明は、固相担体に固定化されたリガンドと当該リガンドに対して特異的な相互作用を有する分子(即ちターゲット分子)との相互作用を解析する上で、問題となっていた、リガンド及び/又はリガンド固定化固相担体への非特異的な結合を抑制あるいは低減化する技術、より詳細には、所望するターゲット分子をロスすることなく、あるいは変性させることなく、リガンド固定化固相担体に非特異的に吸着する物質(以下、非特異的物質ともいう)を除去乃至は低減化し得る技術を提供する。本明細書中、リガンドならびにターゲット分子という用語は、互いに特異的な分子間相互作用を有する組み合わせを意図するものであって、当該組み合わせのうち、片方をリガンドとして固相に固定化すれば他方がターゲット分子となり、すなわちどちらを固相に固定化するかによって、それらの呼称は変更され得る。リガンドに特異的な相互作用を有するターゲット分子は1種類とは限らず、また同様にターゲット分子に特異的な相互作用を有するリガンドも1種類とは限らない。
「特異的な相互作用」とは、「鍵と鍵穴の関係」に例えられる(参考図書:「薬物受容体」高柳一成編、南山堂)、特定のリガンド(特定のターゲット分子)のみを特異的に認識して結合するような特性を発揮する作用であり、アゴニストあるいはアンタゴニストに対する特異的受容体、基質に対する酵素、そして例えばFK506(リガンド)に対するFK506結合タンパク質(ターゲット分子)や、ステロイドホルモンに対するステロイドホルモン受容体(例=dexamethasoneとglucocorticoid receptor)、抗癌剤trapoxinに対するHDAC等の関係が「特異的な相互作用」に該当する。一方、「非特異的な相互作用」とは、それによる結合の対象が広範にわたり且つ特定分子に限定されず、反応条件によって種々変化するような状況を生じる作用をいい、本発明においては、リガンド固定化固相担体上のリガンドや固相担体表面に、結合・吸着するような不特定の分子との間の作用を意味する。「非特異的な相互作用」は、「特異的な相互作用」に基づくリガンドとターゲット分子の結合の障害となるか、あるいは混同されることにより「特異的な相互作用」による結合を見落としてしまう危険性がある。
「非特異的な結合」とは、このように、非特異的な相互作用に基づく結合・吸着を意味する。本発明において、「非特異的な結合」は好ましくは、分子間の非特異的な疎水的な相互作用に基づくものである。非特異的な相互作用によってリガンド固定化固相担体に結合する「非特異的物質」としてはタンパク質、ペプチド、核酸、脂肪酸、糖質等が挙げられる。
本発明者らは、疎水的相互作用によるタンパク質等の非特異的な結合に注目し、疎水性物質を固定化した固相担体(便宜上、疎水性物質固定化固相担体ともいい、リガンドが固定化された固相担体とは明確に区別する)に非特異的物質を結合させて試料中から当該物質を除去する方法を確立した。
本発明において、「疎水性物質」とは、固相担体に固定化された場合、非特異的物質と結合するような疎水性傾向にある物質である。疎水性の程度は、一般的に疎水性パラメーターによって表すことができるが、本発明においては「疎水性物質」の疎水性は、分配係数、具体的にはLOGPによって規定することができる。LOGPの算出には、簡便には、CLOGP(化合物の疎水性パラメーターを計算機によって見積もるソフトによって得られる予測値;例えばCorwin/Leo’s program(CLOGP,Daylight Chemical Information System Co.,Ltd)を使用して計算できる)等が利用されるが、疎水性のパラメーターはCLOGPに限定されるものではない。CLOGPが大きい程、疎水性が高いことを意味する。非特異的物質の除去という目的の達成に鑑みると、本発明の疎水性物質のLOGPは、CLOGPとして算出した場合4以上、好ましくは6以上である。4未満では十分な非特異的物質の除去効果が得られない。また、LOGPが大きい程疎水性が高く、かかる高い疎水性を有する物質は好適に本発明の目的を達成し得るが、CLOGPとして算出した場合20程度を超えてもその効果に顕著な上昇が見られず、また合成の容易性という観点から通常CLOGPは20以下である。また、問題となるのは固相担体上での疎水的相互作用に基づく非特異的相互作用であるから、「疎水性物質」の疎水性の程度は、より厳密には固相担体に固定化された状態、すなわち疎水性物質固定化固相担体全体の疎水性として定義されてもよい。
本発明において使用し得る疎水性物質としては、上記の性質を有するものであれば特に限定されないが、例えば上記の性質(即ちLOGPをCLOGPとして算出した場合、4以上、好ましくは6以上)を有するものであって、且つ下記式(I)又は(II)で表される一連の化合物である。
−COOH (I) R−SOH (II)
(式中、R及びRは同一又は異なって置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、あるいは置換又は無置換のアルキニル基である)
及びRにおける「置換又は無置換のアルキル基」としては置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミド基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいカルボニル基、ハロゲン原子(例えば塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子、フッ素原子)、水酸基及びアミノ基からなる群より選択される1乃至2以上の置換基で置換された炭素数10〜99のアルキル基又は無置換の炭素数10〜99のアルキル基を意図し、デカニル、ウンデカニル、ドデカニル、トリデカニル、テトラデカニル、ペンタデカニル、ヘキサデカニル、ヘプタデカニル、オクタデカニル、2−フェニルエチル、N−フェニルカルバモイルプロピル、8−ナフチルオクチル等が挙げられる。好ましくは炭素数10以上、より好ましくは炭素数15以上であり、好ましい例として、ペンタデカニル、ヘプタデカニルが挙げられる。
「置換基を有していてもよいアリール基」における「置換基」としては、炭素数10〜99のアルキル基(上述と同義)、炭素数6〜10のアリール基(例えばフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル等)、炭素数7〜30のアラルキル基(例えば、ベンジル、フェネチル等)、ハロゲン原子(例えば塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子、フッ素原子)、水酸基、アミノ基、炭素数1〜30のアルコキシ基(例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ等が挙げられる)、カルボキシル基等が挙げられる。「置換基を有していてもよいアリール基」における「アリール基」としては、例えばフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル等の炭素数6〜10のアリール基が挙げられる。
「置換基を有していてもよいアルコキシ基」における「置換基」としては、炭素数6〜10のアリール基(例えばフェニル、1−ナフチル、2−ナフチル等)、ハロゲン原子(例えば塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子、フッ素原子)、水酸基、アミノ基、カルボキシル基等が挙げられる。「置換基を有していてもよいアルコキシ基」における「アルコキシ基」としては、例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ等の炭素数1〜30のアルコキシ基が挙げられる。
「置換基を有していてもよいアミド基」における「置換基」としては、炭素数1〜30のアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル等が挙げられる)、炭素数7〜30のアラルキル基(例えば、ベンジル、フェネチル等)、ハロゲン原子(例えば塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子、フッ素原子)、水酸基、アミノ基、炭素数1〜30のアルコキシ基(例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ等が挙げられる)、カルボキシル基等が挙げられる。
「置換基を有していてもよいシクロアルキル基」における「置換基」としては、炭素数1〜30のアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル等が挙げられる)、炭素数7〜30のアラルキル基(例えば、ベンジル、フェネチル等)、ハロゲン原子(例えば塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子、フッ素原子)、水酸基、アミノ基、炭素数1〜30のアルコキシ基(例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ等が挙げられる)、カルボキシル基等が挙げられる。「置換基を有していてもよいシクロアルキル基」における「シクロアルキル基」としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル等の炭素数3〜30のシクロアルキル基が挙げられる。
「置換基を有していてもよいヘテロアリール基」における「置換基」としては、炭素数1〜30のアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル等が挙げられる)、炭素数7〜30のアラルキル基(例えば、ベンジル、フェネチル等)、ハロゲン原子(例えば塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子、フッ素原子)、水酸基、アミノ基、炭素数1〜30のアルコキシ基(例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ等が挙げられる)、カルボキシル基等が挙げられる。「置換基を有していてもよいヘテロアリール基」における「ヘテロアリール基」としては、チアゾリル、アミノチアゾリル、フラニル、チオフェニル、ピロリル、インドリル等が挙げられる。
「置換基を有していてもよいカルボニル基」における「置換基」としては、炭素数1〜30のアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル等が挙げられる)、炭素数7〜30のアラルキル基(例えば、ベンジル、フェネチル等)、ハロゲン原子(例えば塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子、フッ素原子)、水酸基、アミノ基、炭素数1〜30のアルコキシ基(例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ等が挙げられる)、カルボキシル基等が挙げられる。
及びRにおける「置換又は無置換のアルケニル基」としては置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミド基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいカルボニル基、ハロゲン原子(例えば塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子、フッ素原子)、水酸基及びアミノ基からなる群より選択される1乃至2以上の置換基で置換された炭素数2〜30のアルケニル基又は無置換の炭素数2〜30のアルケニル基を意図する。「炭素数2〜30のアルケニル基」としては、ビニル、アリル、1−プロペニル、イソプロペニル、2−ブテニル、3−ブテニル、2−ヘキセニル、8、11−ヘプタデカジエニル、4、7、10、13−ノナデカテトラエニル、8、11、14−ヘプタデカトリエニル、8−ヘプタデカエニル等が挙げられる。「炭素数2〜30のアルケニル基」の置換基は、上記「炭素数1〜99のアルキル基」の置換基として述べた各置換基と同義である。
及びRにおける「置換又は無置換のアルキニル基」としては置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアミド基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基、置換基を有していてもよいカルボニル基、ハロゲン原子(例えば塩素原子、ヨウ素原子、臭素原子、フッ素原子)、水酸基及びアミノ基からなる群より選択される1乃至2以上の置換基で置換された炭素数2〜30のアルキニル基又は無置換の炭素数2〜30のアルキニル基を意図する。「炭素数2〜30のアルキニル基」としては、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、3−ブチニル、1−ペンチニル、2−ペンチニル、3−ペンチニル、4−ペンチニル、1−ヘキシニル、2−ヘキシニル、3−ヘキシニル、4−ヘキシニル、5−ヘキシニル等が挙げられる。好ましくは、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニルである。「炭素数2〜30のアルキニル基」の置換基は、上記「炭素数1〜99のアルキル基」の置換基として述べた各置換基と同義である。
疎水性物質としては好ましくは構造的特徴が少ない化合物、具体的にはウンデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、アラキドン酸、リノレン酸、オレイン酸、ステアリン酸、9−(ナフタレン−1−イル)−ノナン酸、オクタデカンスルフォン酸及びヘキサデカンスルフォン酸等が挙げられる。特に好ましくはステアリン酸あるいはパルミチン酸である。固定化に用いる疎水性物質は1種類であってもよいし、2種類以上の混合物であってもよい。
上記「疎水性物質」は、公知の物質であれば、商業的に入手可能か、あるいは各種文献に準じて調製することができる。また、新規な物質についても、当分野で通常実施される有機合成における各種の反応を利用することによって適宜調製することが可能である。例えば、アルキル化、アリール化、アルコキシ化、アミド化、シクロアルキル化、ヘテロアリール化、カルボニル化等の反応が用いられる。当然のことながら、必要に応じて2以上の反応を組み合わせて実施しても良い。
「疎水性物質」を固定化する固相担体は、当分野で通常使用されるものが好適に使用できるが、その使用目的、即ち、分子間の特異的な相互作用の解析に先立つ非特異的物質の除去に好適な固相担体が選択される。材質としては、例えば、樹脂(ポリスチレン、メタクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド等)、ガラス、金属(金、銀、鉄、シリコン等)等が用いられる。これらの固相担体は、いかなる形状のものであってもよく、また上記した材質の種類や、その後に実施する分子間の特異的な相互作用の解析の為に行われる方法に応じて適宜決定される。例えば板状、ビーズ状、薄膜状、糸状、コイル状等が挙げられるが、樹脂からなるビーズであればカラムに充填することによりその後の操作を簡便にし、また金属の薄膜やガラスプレートもまた好適である。
本発明において疎水性物質を固定化する為に使用する固相担体は、上述の如く、その材質や形状に特に制限はないが、当然のことながら、疎水性物質が固定化されないような、あるいは疎水性物質が固定化されるものの疎水性物質固定化固相担体全体としての疎水性が低下するようなものは、使用する為には、余分な工程を経る必要があって操作が煩雑になったり、あるいは使用に耐えなかったりする場合があるので、本発明を実施する上で好ましくない。
固相担体への疎水性物質の固定化は、通常当分野で実施される公知の方法及びそれらを適宜組み合わせた方法によって実施され、例えばアミド結合や、シッフ塩基形成、C−C結合、エステル結合、水素結合、疎水相互作用等の共有結合あるいは非共有結合による固定化が挙げられる。いずれも当分野で公知の材料ならびに反応により実施される。個々の結合は、通常当分野で実施される反応を利用して実施される。簡便且つ確実な手段としてアミド結合形成反応を利用する方法が挙げられる。本反応は、例えば「ペプチド合成の基礎と実験」(ISBN 4−621−02962−2、丸善、昭和60年初版)に従って実施できる。各反応に用いられる試薬や溶媒については当分野で通常用いられるものが利用でき、採用する結合反応によって適宜選択される。疎水性物質が固相担体に固定化されたか否かは、反応前後の固相担体表面上のアミノ基の定量(例えばニンヒドリン試験)によって測定される反応率から確認することができる。
本発明において「リガンド固定化固相担体」とは、その上でリガンドとターゲット分子の特異的な相互作用が生じるものであって、ターゲット分子の選別等に好適に使用される。
本発明においてリガンドあるいは、リガンド固定化固相担体に固定化されるリガンドは特に限定されず、公知の化合物であっても今後開発される新規な化合物であってもよい。また、低分子化合物であっても高分子化合物であってもかまわない。ここで低分子化合物とは分子量1000未満程度の化合物であって、例えば医薬品として通常使用し得る有機化合物及びその誘導体や無機化合物が挙げられ、有機合成法等を駆使して製造される化合物やその誘導体、天然由来の化合物やその誘導体、プロモーター等の小さな核酸分子や各種の金属等であり、望ましくは医薬品として使用し得る有機化合物及びその誘導体、核酸分子をいう。また、高分子化合物としては分子量1000以上程度の化合物であって、タンパク質、ポリ核酸類、多糖類、及びこれらを組み合わせたものなどが挙げられ、望ましくはタンパク質である。これらの低分子化合物あるいは高分子化合物は、公知のものであれば商業的に入手可能であるか、各報告文献に従って採取、製造、精製等の工程を経て得ることができる。これらは、天然由来であっても、また遺伝子工学的に調製されるものであってもよく、また半合成等によっても得ることができる。
本発明は、リガンド及び/又はリガンド固定化固相担体に非特異的に吸着する、非特異的物質を試料から除去する方法を提供するものであって、当該非特異的物質は、例えば、樹脂(ポリスチレン、メタクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド等)、ガラス、金属(金、銀、鉄、シリコン等)等の任意の材質の固相担体に非特異的に吸着し得る。また、同様に、例えば板状、ビーズ状、薄膜状、糸状、コイル状等のいかなる形状のものにも非特異的に吸着し得る。
リガンドを固定化する為の固相担体は、疎水性物質を固定化するための固相担体と同じ材質、同じ形状であってもよく、また異なる材質、異なる形状であってもよい。当然のことながら同じ材質、異なる形状であってもよいし、異なる材質、同じ形状であってもよい。
本発明において、試料は、非特異的物質及び特異的物質を含み得る、好ましくはこれらの物質を含む液状組成物である。全て特異的物質から構成される試料は、本発明の非特異的物質の除去という目的を鑑みるに使用するには好ましくない。また、全て非特異的物質から構成される試料も、本発明の非特異的物質の除去という目的を鑑みるに使用するには好ましくない。
試料は、全て公知化合物から構成されるものであっても、一部新規な化合物を含むものであっても、さらには全て新規な化合物から構成されるものであってもよい。例えば大腸菌等によって遺伝子工学的に調製されたタンパク質の混合物等であり、あるいは細胞や組織の抽出物(lysate)である。また全て新規な化合物から構成されるものとしては、まだその機能や構造が知られていない新規なタンパク質や新しく合成された化合物等の混合物が挙げられる。試料が混合物の場合、特に公知化合物を含む場合には、任意にこれらの化合物の試料中の含有量を所望の値に設定しておくこともできる。また、細胞や組織からの抽出の際に界面活性剤を使用する場合があるが、リガンドとの反応性を最適にする為、あるいは本発明の固相担体による非特異的吸着の抑制という効果を最大限に利用する為にはあらかじめ透析等の処理により試料中から不都合な影響を及ぼす可能性のある界面活性剤を排除してもよい。
本発明において、特にその効果を発揮する試料としては血液由来の試料が挙げられる。血液由来の試料としては、例えば、全血、血漿、血清ならびにそれらの希釈物等が含まれる。かかる試料中には主としてアルブミンがリガンド及び/又はリガンド固定化固相担体に非特異的に結合する物質として含まれる。
さらに、本発明の固相担体が有する、特にアルブミンを顕著に吸着する能力は、本発明の固相担体を試料中のアルブミンを濃縮あるいは精製する目的で利用することを可能とする。
本発明の疎水性物質固定化固相担体、あるいは非特異的物質の除去方法は、リガンド固定化固相担体を用いて、当該リガンドに特異的な相互作用を有するターゲット分子をスクリーニングする方法に利用できる。また、本発明の疎水性物質固定化固相担体あるいは非特異的物質の除去方法により、非特異的物質が除去乃至低減化された試料を解析する方法に利用でき、また当該解析によって試料中に含まれ得るターゲット分子をスクリーニングする方法にも利用できる。解析方法としては、具体的には電気泳動法、免疫学的反応を用いたイムノブロッティングや免疫沈降法、クロマトグラフィー、マススペクトラム、アミノ酸シーケンス、NMR(低分子のときに特に)等の公知の手法により、またこれらの方法の組み合わせ等が挙げられる。リガンド及び/又はリガンド固定化固相担体に非特異的に結合する物質の除去を目的とするので、本願発明の疎水性物質固定化固相担体に固定化される疎水性物質の種類は、リガンドが有する特徴に応じて適宜変更され設定されるのが好ましい。
該スクリーニング方法は以下の工程を少なくとも含む。尚、本スクリーニング方法における、試料、リガンド及びターゲット分子やリガンド固定化固相担体、疎水性物質固定化固相担体の定義は上記した通りである。
(1)ターゲット分子を含むか又は含まない試料を、疎水性物質固定化固相担体と接触させる工程
試料の形状は、次工程あるいは実施目的にどのような原理や手段、方法を用いるかによって適宜変更し得る。例えば疎水性物質固定化固相担体としてビーズ樹脂を充填したカラムを用いる場合には液状とするのが好ましい。試料と疎水性物質固定化固相担体とを接触させる方法は、試料内の非特異的物質が疎水性物質固定化固相担体に吸着除去されれば特に限定されず、使用する固相担体や次工程でどのような原理や手段、方法を用いるかによって適宜変更し得る。例えば疎水性物質固定化固相担体としてビーズ樹脂を充填したカラムを用いる場合には、液状にした試料をカラムに添加しカラム内を通すことにより簡便に実施される(カラム法)。また、簡便には当該ビーズ樹脂と試料とを一定時間混合することによって実施できる(バッチ法)。カラムへのアプライ量、流速、溶出処理、混合時間等はアフィニティークロマトグラフィーで通常行なわれている条件に基づいて、非特異的物質の吸着除去に最適な条件設定が行なわれる。
リガンド固定化固相担体を用いる場合には例えば以下のような工程を含む。
(2)上記(1)の工程により得られた、疎水性物質固定化固相担体と接触させた後の試料をリガンド固定化固相担体に接触させる工程
本工程は、前工程により得られた試料、即ち、非特異的物質が除去された試料をリガンド固定化固相担体に接触させる工程である。該試料とリガンド固定化固相担体とを接触させる方法は、ターゲット分子が試料中に存在する場合にリガンド固定化固相担体上で特異的相互作用によって結合することができれば特に限定されず、使用する固相担体や次工程でどのような原理や手段、方法を用いるかによって適宜変更し得る。例えばリガンド固定化固相担体としてビーズ樹脂を充填したカラムを用いる場合には、液状にした試料をカラムに添加しカラム内を通すことにより簡便に実施される(カラム法)。また、簡便には当該ビーズ樹脂と試料とを一定時間混合することによって実施できる(バッチ法)。カラムへのアプライ量、流速、溶出処理、混合時間等はアフィニティークロマトグラフィーで通常行なわれている条件に基づいて、特異的物質の結合に最適な条件設定が行われる。
(3)リガンドに特異的な相互作用を示したか、又は示さなかった分子を同定し、解析する工程。
かかる工程は、使用する固相担体や固定化したリガンドの種類等によって適宜変更し得るが、通常当分野で実施されている低分子化合物あるいは高分子化合物を同定する為の各種方法により行う。また、今後開発されるであろう方法によっても実施可能であろう。例えばリガンド固定化固相担体としてリガンドが固定化されたビーズ樹脂を充填してなるカラムを用いた場合、工程(1)であらかじめ非特異的物質を除去した試料の添加により〔工程(2)〕、リガンドにターゲット分子を結合させる。結合したターゲット分子を緩衝液の極性を変える、あるいは過剰のリガンドをさらに加える等の処理によってリガンドから解離させ、その後同定したり、あるいは固相上のリガンドと結合した状態でそのまま界面活性剤等によって抽出して同定したりすることもできる。同定方法としては具体的には電気泳動法、免疫学的反応を用いたイムノブロッティングや免疫沈降法、クロマトグラフィー、マススペクトラム、アミノ酸シーケンス、NMR(低分子のときに特に)等の公知の手法により、またこれらの方法を組み合わせて実施する。リガンドに結合しない分子を同定する工程も上記リガンドに結合する分子を同定する方法に準じて行うことができるが、カラムの素通り画分に含まれる分子を同定の対象とするので、同定工程に入る前に予め濃縮や粗精製等の処理を行うことが好ましい。得られたデータならびに既存の報告をもとに各分子を同定し、リガンドのターゲット分子であるか否かを判断する。
また、本工程は自動化されていてもよい。例えば2次元電気泳動で得られた種々の分子のデータを直接読み取り、既存のデータベースに基づいて分子の同定を行うことも可能である。
リガンド固定化固相担体を用いず、上記(1)の工程で得られた疎水性物質固定化固相担体との接触後の試料をそのまま解析することも可能である。例えば以下のような工程を含む。
(3’)上記(1)の工程で得られた疎水性物質固定化固相担体との接触後の試料について電気泳動法、免疫学的反応を用いたイムノブロッティングや免疫沈降法、クロマトグラフィー、マススペクトラム、アミノ酸シーケンス、NMR(低分子のときに特に)等の公知の手法により、またこれらの方法を組み合わせて解析を行う。得られたデータならびに既存の報告をもとにターゲット分子の存在を検定することも可能である。また、本工程は自動化されていてもよい。例えば2次元電気泳動で得られた種々の分子のデータを直接読み取り、既存のデータベースに基づいて分子の同定を行うことも可能である。
以下、実施例及び実験例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によりなんら限定されるものではない。また、用いる各化合物や試薬等は特に言及しない限り、商業的に入手可能であるか、また既知の報告等に基づいて調製することができる。
(CLOGPの測定方法)
Daylight社のClogP計算ソフトを用いて算出した。
[実施例1]
(1)疎水性物質固定化固相担体の作成
全タンパク質から、非特異的物質を除去する疎水性物質固定化固相担体の合成は、疎水性物質のカルボン酸あるいは対応するスルフォン酸の酸クロライド体を樹脂のアミノ基に反応させることにより行った。なお、ここで使用したカルボン酸及びスルフォン酸のCLOGP値を表1にまとめて示す。
Figure 2005010528
(1−1)酢酸固定化樹脂の作成
TOYOパール樹脂(TSKgel AF−amino−650M(商品名)、東ソー株式会社製)にカルボン酸を固定化した。酢酸(n=0)の固定化はTOYOパール樹脂1000μlに20%無水酢酸−ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を5.0ml加え、室温で4時間撹拌した。反応終了後、樹脂をDMFで十分に洗浄した。
(1−2)疎水性物質のカルボン酸の固定化樹脂の作成
またその他のカルボン酸の固定化は、1000μlのTOYOパール樹脂(アミノ基量100μmol)のアミノ基量に対して4当量のカルボン酸、4.8当量のベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−ピロリジノ−ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(PyBOP)、9.6当量のジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を樹脂に対して5倍容量(v/v)のDMF/ジクロロメタンの混合溶媒(1:1)に溶解し、樹脂と混合した。反応は室温で12時間撹拌を続けることにより行った。反応終了後、樹脂をジクロロメタン及びDMFで順次洗浄し、最後にピペリジンで洗浄した後、溶媒を20%のエタノール溶液に置換して保存した。
(1−3)スルフォン酸タイプの固定化樹脂の作成
スルフォン酸型飽和脂肪酸の固定化樹脂の作成は、1000μlの樹脂(アミノ基量100μmol)のアミノ基量に対して4当量のスルフォン酸に対応する酸クロライド、20当量のトリエチルアミンを、樹脂に対して5倍容量(v/v)のDMFに溶解し、樹脂と混合し行った。反応は室温で12時間撹拌を続けることにより行った。反応終了後、樹脂をDMFで洗浄した後、溶媒を20%のエタノール溶液に置換して保存した。
(2)リガンド固定化固相担体の作成(FK506固定化樹脂の合成)
樹脂は官能基としてアミノ基が導入されたアフィニティー樹脂(TOYOPEARL AF−amino−650M(商品名)、東ソー株式会社製)を使用した。100μlの樹脂(アミノ基量 10μmol)のアミノ基に対して4当量のカルボン酸が導入されたFK506、4.8当量のジメチルアミノプロピル−エチル−カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)(WSCI)、4.8当量の1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)を樹脂に対して5倍容量のDMF溶液に溶解し、樹脂と混合した。反応は室温で12時間撹拌することによって行い、反応終了後はDMFで樹脂を洗浄し、20%のエタノール溶液に置換して保存した。
(3)ステアリン酸固定化樹脂による全タンパク質の精製とFK506固定化樹脂によるFKBP12の選択的な結合
ステアリン酸固定化樹脂によって疎水性の非特異的な吸着タンパク質を除去する為、試料(全タンパク質)としてラットの脳溶解液を使用した。0.25Mのシュクロース緩衝液(25mM Tris−HCl,pH7.4)で脳溶解液を5mg/mlに調整し、この全タンパク質溶液1000μlに対して、ステアリン酸固定化樹脂をそれぞれ100μl及び200μlの量で混合し、4℃で5時間撹拌した。その後、遠心操作により樹脂と精製された脳溶解液を分離した。
次にFK506固定化樹脂を用いて、精製されたラットの脳溶解液からFKBP12を選択的に得る実験を行った。精製された脳溶解液1000μlに対して10μlのFK506固定化樹脂を混合し、4℃で12時間撹拌した。その後、遠心操作により溶解液と樹脂を分離し、樹脂に結合したタンパク質を取り出すためにサンプルバッファー(含2−メルカプトエタノール、SDS−PAGE用(商品名)、ナカライ社製)を20μl添加し、25℃で10分間撹拌した。その後、遠心によりサンプルバッファーを分離し、SDS−PAGEにより得られたタンパク質を確認した。
結果を図1に示す。
ステアリン酸固定化樹脂で先立って試料を処理することにより、非特異的なタンパク質(NBP:on−specific inding rotein)のFK506固定化樹脂への結合が抑制されていることがわかる。図中、NBP56は分子量56kDaのNBPを、NBP49は分子量49kDaのNBPをそれぞれ示す。また、ステアリン酸固定化樹脂で処理しても、FK506特異的タンパク質(FKBP12)のFK506固定化樹脂への結合には殆ど影響はなかった。即ち、ステアリン酸固定化樹脂による前処理が非特異的物質の除去に有用であることが確認された。
実験例1
上記で調製した各化合物が固定化されたTOYOパール樹脂の各々10μlと、ラットの脳溶解液(実施例1(3)で調製したものと同じもの)1000μlとを混合し、4℃で12時間撹拌した。その後、遠心操作により溶解液と樹脂を分離し、樹脂に結合したタンパク質を取り出すためにサンプルバッファー(含2−メルカプトエタノール、SDS−PAGE用(商品名)、ナカライ社製)を20μl添加し、25℃で10分間撹拌した。その後、遠心によりサンプルバッファーを分離し、SDS−PAGEにより、得られた各樹脂に結合したタンパク質を確認した。結果の一部を図2に示す。尚、分子量マーカーは、インビトロゲンのMark12TM MW standardを用いた。
レーン6〜9について、顕著なタンパク質の吸着が認められた。レーン6(ウンデカン酸:CLOGP4.04)で、タンパク質の吸着の程度が急激に増加していること、また、レーン8(パルミチン酸:CLOGP6.33)でよりいっそうその程度が増していることからCLOGP4以上、好ましくはCLOGP6以上を有する疎水性物質を固定化した固相担体を用いることで、疎水的相互作用によって非特異的にリガンド及び/又はリガンド固定化固相担体に結合する物質を除去し得ることがわかった。
実験例2
既存の方法の代表例としてアルブミン等の不要タンパク質の除去のための前処理用カラムのリガンド分子として市販されている色素チバクローンブルーF3GA(CB−F3GA)を選択し、これを実施例1に記載のステアリン酸固定化カラムと同様にTOYOパール(TSKgel AF−amino−650M(商品名)、東ソー株式会社製)に固定化し対照カラムとした。
(1)CB−F3GA固定化樹脂の合成
本樹脂の合成は以下の手順によって行った。つまり、1000μlの樹脂(アミノ基量 100μmol)、CB−F3GA(シグマ社、 Cibacrone Blue 3GA, cat.NO=C−9534,232.3mg,300μmol)、及びDMF(5000μl)の混合物を室温で12時間撹拌後、樹脂をDMFで5回洗浄することによって得た。
(2)ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)を発現させた大腸菌のlysateの調製
ヒトDHFR発現ベクターはGATEWAYシステム(Invitrogen社)を利用して作製した。まず、ヒトDHFR遺伝子をコードするMGCクローン(MGC ID 857, Invitrogen社)よりプラスミドを抽出し、これを鋳型にした2段階のPCR反応により、ヒトDHFRエントリー・ベクターを作製した。このエントリー・ベクターからclonaseを用いた組換え(LR反応)により、N末にHisタグを有するヒトDHFR発現ベクターを構築し、宿主大腸菌株BL21 star(DE3)pLysSに形質転換した。宿主大腸菌は前培養を経て、SB培地で本培養を開始した。培養開始後3時間後にイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)を最終濃度が0.1mMになるように添加し、DHFRを発現誘導させた。20℃、130rpmで一晩培養した。培養終了後、集菌し、超音波でホモジネート処理をしてDHFR発現大腸菌lysateとした。
(3)ステアリン酸固定化カラムとCB−F3GA固定化カラムの比較実験
(2)で調製したDHFR発現大腸菌lysateを用い以下の手順でステアリン酸固定化樹脂(実施例1で調製)とCB−F3GA固定化樹脂(本実施例(1)で調製)を比較した。結果を図3に示す。緩衝液A(20mMリン酸緩衝液 pH7.1,0.5%Tween20)で4.5倍に希釈したDHFR発現lysateに緩衝液Aで溶媒置換しておいたステアリン酸固定化樹脂及びCB−F3GA固定化樹脂をそれぞれ250μl加え、4℃で3時間撹拌した。その後、それぞれの樹脂を10μlずつ分注し、1000μlの緩衝液Aで5回洗浄した。洗浄後、樹脂に吸着しているタンパク質を緩衝液B(1.4M NaCl,20mMリン酸緩衝液 pH7.1)、緩衝液C(8Mウレア水溶液)、緩衝液D(SDS sample buffer)の3種類の溶液でこの順に溶出させた。つまり、まず先に分注したそれぞれの樹脂10μlに対して20μlの緩衝液Bを加え、25℃で10分間加温撹拌し、反応終了後に遠心分離を行い、その上澄みをサンプルB−C18(図3のレーン5,ステアリン酸固定化樹脂からの溶出液)及びサンプルB−F3GA(図3のレーン2,CB−F3GA固定化樹脂からの溶出液)として得た。次に、それぞれの樹脂を1000μlの緩衝液Bで3回洗浄した後、20μlの緩衝液C(8Mウレア水溶液)を加え25℃で10分間加温撹拌し、反応終了後に遠心分離を行い、その上澄みをサンプルC−C18(図3のレーン6,ステアリン酸固定化樹脂からの溶出液)及びサンプルC−F3GA(図3のレーン3,CB−F3GA固定化樹脂からの溶出液)として得た。
(4)結果
図3に見られるように、アルブミン等の不要タンパク質の除去のための前処理用カラムのリガンド分子として市販されているCB−F3GA固定化樹脂とDHFR発現大腸菌lysateを混合することにより、DHFRタンパクが樹脂に多量に結合することが明らかとなった。一方、ステアリン酸固定化樹脂には今回の検討条件においてはDHFRタンパク質の樹脂への吸着は認められなかった。これらのことは良く知られているようにCB−F3GAがその構造的特徴からも推測される通り((1)Bio−Radカタログ2002/23版p54−55,(2)N.garg et al.,″Dye−Affinity Techniques for Bioprocessing:Recent Developments″,J.Molecular Recognition,9,259−274(1996))、広範なタンパク質と強く相互作用することと一致する。つまり、例えば血漿タンパク質から不要なアルブミンを削減しようとCB−F3GA固定化樹脂を用いて前処理を行う場合、同時にターゲットとするタンパク質(本実験例ではDHFR)も除かれている可能性が懸念される。一方、ステアリン酸はその構造的単純性からCB−F3GAほど広範なタンパク質と強く相互作用することは考えにくく、かつ前処理として除去対象とされることが多いアルブミン、チューブリン、アクチン等とは充分に相互作用することから、前処理用の物質としての好条件を備えていると推測される。
実験例3
ステアリン酸固定化樹脂によるヒト血漿中のアルブミンの吸着
ステアリン酸固定化樹脂に対するアルブミンの吸着能を評価する為に、ヒト血漿タンパクをステアリン酸固定化樹脂で精製し、樹脂に吸着したタンパクを電気泳動により確認した。実験は、血漿1.0mlを0.1mlのステアリン酸固定化樹脂と混合し、4℃で2時間撹拌した。その後、遠心により樹脂を分離し、上清をSDS−PAGEにより確認した。また、樹脂に吸着したタンパクは、樹脂10μlに対し20μlのSDSサンプルバッファーで25℃、10分間撹拌することにより溶出させた。溶出したタンパクをSDS−PAGEにより確認した。結果を図4に示す。
図4に見られるように、ステアリン酸固定化樹脂は、ヒト血漿タンパクから特にアルブミンを多く除去していることが確認された。
リガンド分子とターゲット分子との特異的相互作用を解析し、また当該特異的相互作用を用いてターゲット分子を同定・選別する過程において、ターゲット分子を含み得る試料を、疎水性物質を固定化した固相担体で前処理することにより、試料中に存在するリガンド分子に非特異的な物質を除去あるいは低減化することができる。従って、より正確な分子間の特異的相互作用の解析、ならびにターゲット分子の同定が可能となる。ひいては、ターゲット分子の精製度を上げることもできる。
本出願は、日本で出願された特願2003−202647を基礎としておりそれらの内容は本明細書に全て包含されるものである。

Claims (17)

  1. 疎水性物質を固定化してなる固相担体。
  2. 疎水性物質のLOGPがCLOGPとして算出した場合、4以上である、請求項1記載の固相担体。
  3. 疎水性物質のLOGPがCLOGPとして算出した場合、6以上である、請求項2記載の固相担体。
  4. 疎水性物質のLOGPがCLOGPとして算出した場合、20以下である、請求項2又は3記載の固相担体。
  5. 疎水性物質が下記一般式(I)又は(II)で表される化合物である、請求項2又は3記載の固相担体;
    −COOH (I) R−SOH (II)
    (式中、R及びRは同一又は異なって置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアルケニル基、あるいは置換又は無置換のアルキニル基である)。
  6. 疎水性物質が、ウンデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、アラキドン酸、リノレン酸、オレイン酸、ステアリン酸、9−(ナフタレン−1−イル)−ノナン酸、ドデカンスルフォン酸、オクタデカンスルフォン酸及びヘキサデカンスルフォン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1記載の固相担体。
  7. 疎水性物質が、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、アラキドン酸、リノレン酸、オレイン酸、ステアリン酸、オクタデカンスルフォン酸及びヘキサデカンスルフォン酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項6記載の固相担体。
  8. 疎水性物質が、ステアリン酸又はオクタデカンスルフォン酸である、請求項6記載の固相担体。
  9. 疎水性物質を固定化してなる固相担体で試料を処理することを含む、リガンド及び/又はリガンド固定化固相担体に非特異的に結合する物質を試料から除去する方法。
  10. 試料が生体試料である、請求項9記載の方法。
  11. 生体試料が血液由来である、請求項10記載の方法。
  12. リガンド及び/又はリガンド固定化固相担体に非特異的に結合する物質がアルブミンである、請求項9記載の方法。
  13. 疎水性物質を固定化してなる固相担体が、請求項1〜8のいずれか1項に記載の固相担体である、請求項9〜12のいずれか1項に記載の方法。
  14. リガンド及び/又はリガンド固定化固相担体への非特異的な結合が、分子間の疎水的相互作用に基づくものである、請求項9〜12のいずれか1項に記載の方法。
  15. 請求項1〜8のいずれか1項に記載の固相担体で試料を処理し、試料中のアルブミンを該固相担体に吸着させることを含む、アルブミンの精製方法。
  16. 試料が生体試料である、請求項15記載の方法。
  17. 生体試料が血液由来である、請求項16記載の方法。
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