JPWO2004094800A1 - 内燃機関の空燃比制御装置 - Google Patents
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Abstract
Description
ところで近年には、酸素貯蔵能力を備える三元触媒が実用されている。この種の三元触媒は、空燃比が理論空燃比よりもリーンで排気中の酸素濃度が高いときには、余剰分の酸素を吸蔵し、空燃比が理論空燃比よりもリッチで排気中の酸素濃度が低いときには、吸蔵された酸素を放出して不足分の酸素を補う。これにより、空燃比が一時的に理論空燃比からずれたときにも、触媒の排気浄化性能は好適に維持されるようになっている。ただし、触媒に吸蔵可能な酸素の量には限界があるため、酸素吸蔵や酸素放出が常時可能となるように、触媒の酸素吸蔵量を一定の範囲内(例えば最大貯蔵量の半分程度)に常時保持しておく必要がある。
そこで従来、例えば特許文献1に見られるように、PI制御、或いはPID制御による空燃比フィードバックを行う内燃機関の空燃比制御装置が提案されている。こうした空燃比制御装置では、目標空燃比に対する空燃比の偏差を検出し、その偏差に対して積分動作するように空燃比を制御している。例えばPI制御の場合、下式(1)にて求められた空燃比補正量にて空燃比の補正を行うようにしている。
空燃比補正量=空燃比偏差×比例ゲイン+空燃比偏差の積分値×積分ゲイン…(1)
ここで上式(1)の右辺第1項(空燃比偏差×比例ゲイン)は比例項であり、これにより理論空燃比に対する空燃比のずれ分の補償が行われる。また上式(1)の右辺第2項(空燃比偏差の時間積分値×積分ゲイン)は積分項であり、これにより空燃比の定常偏差の補償が行われる。すなわち積分項によっては、三元触媒に新たに吸蔵される酸素量の積算値と同触媒から放出される酸素量の積算値とが等しくなるように空燃比が補正される。そのため、こうした空燃比の積分補正を行うことで、三元触媒に吸蔵中の酸素量の安定保持を図ることができる。
ところがそうした空燃比の積分補正での積分項の値は、そのときの吸入空気量や空燃比の値に関係なく、それまでの空燃比の推移に応じて決まってしまう。そのため、下記のような不適切な空燃比補正が行われる虞がある。
理論空燃比に対して空燃比がより大きくずれ易い内燃機関の高空気量運転時には、上記積分項の絶対値が比較的大きくなることがある。この状態で減速が行われて吸入空気量が大幅に低減されると、その直後には高負荷運転中に絶対値の大きくなった積分項がそのまま適用されてしまうため、減速直後に空燃比が過補正されることがある。
また内燃機関が低負荷且つリーン空燃比で運転されていても、それまで空燃比が理論空燃比よりもリッチな状態が長く継続していれば、積分項による補正は、空燃比を更にリーンとする側に行われるため、空燃比が過剰にリーンとなり、失火の発生を招くこともある。
ここで積分ゲインを小さく設定して積分項の絶対値が相対的に小さくなるようにすれば、そうした積分項による不適切な空燃比補正をある程度に抑えることはできる。しかしながらそうして積分ゲインを小さく設定すれば、空燃比フィードバックの収束性が悪化してしまい、排気エミッションの悪化等の不具合を招いてしまうことになる。
発明の概要
本発明の目的は、空燃比の積分補正を行う場合であれ、積分項による不適切な空燃比補正を好適に抑制することのできる内燃機関の空燃比制御装置を提供することにある。
上記の目的を達成するため、本発明は、目標空燃比と実空燃比との偏差の積分値に積分ゲインを乗算して求められた積分項による空燃比の積分補正を行う内燃機関の空燃比制御装置において、現状の吸入空気量及び空燃比に基づいて前記積分項の上限値及び下限値を設定するようにしている。
こうした本発明では、現状の吸入空気量及び空燃比に応じて設定された上限値及び下限値にて、積分項の設定範囲が制限される。そのため、現状の吸入空気量及び空燃比に対して不適切に空燃比が補正されてしまうような過大或いは過小な値に積分項が設定されることを防止することができる。
例えば現状の吸入空気量が小さいときほど、上限値と下限値との間隔が小さくなるように、或いはそれら上限値及び下限値の絶対値が小さくされるように、それら上限値及び下限値の設定を行えば、目標空燃比に対する空燃比のずれ幅が大きくなり易い高空気量運転時の空燃比フィードバックの収束性を好適に確保しつつも、低空気量運転時の過補正を抑制することができる。
また現状の空燃比がリーンなときほど、積分項によるリーン側への空燃比の補正が制限されるように上限値及び下限値の設定を行えば、積分項による補正の結果、空燃比が過剰にリーンとなることが防止される。
なお、こうして上限値及び下限値を設定して積分項の設定範囲を制限してしまうと、目標空燃比に対する空燃比のずれが著しく大きいときに、空燃比を十分に補正することができずに、目標空燃比への空燃比の収束性が悪化することがある。そうした場合には、実空燃比が目標空燃比よりもリーンな状態が継続されるほど、積分項に基づく空燃比のリーン側へのより大きい補正が許容されるように、或いは実空燃比が目標空燃比よりもリッチな状態が継続されるほど、積分項に基づく空燃比のリッチ側へのより大きい補正が許容されるように、上限値及び下限値の設定を行うことで、目標空燃比への空燃比フィードバックの収束性を確保することができる。
ところで空燃比フィードバック制御を行う内燃機関の多くでは、実空燃比と目標空燃比との偏差の推移からそれらの定常偏差を算出し、その算出された定常偏差を空燃比学習値として記憶する空燃比学習制御が行われている。こうした学習制御を行う場合、上記積分項による空燃比の積分補正が行われていると、空燃比が目標空燃比へと単純に収束されるとは限らないことから、学習の遅れや学習精度の低下を招く虞がある。
そうした場合、空燃比学習制御での定常偏差の算出が完了するまでは、その算出の完了後に比して、上限値と下限値との間隔が小さくなるように、或いは上限値及び下限値の絶対値が小さくされるように、上限値及び下限値の設定を行うことが望ましい。このように上限値及び下限値の設定を行えば、空燃比学習値の学習が完了されるまでは、空燃比に対する積分補正が相対的に小さく留められる。そのため、積分補正を行いつつも、空燃比学習値の学習速度や学習精度を好適に保持することができる。
図2は、空燃比と空燃比センサ出力電圧との関係を示す特性図。
図3は、空燃比と酸素センサ出力電圧との関係を示す特性図。
図4は、上記実施形態の空燃比フィードバック制御手順を示すフローチャート。
図5は、上記実施形態の空燃比学習制御手順を示すフローチャート。
図6は、上記実施形態の補正率ガード制御手順を示すフローチャート。
図7は、上記実施形態の補正率ガードマップ。
図8は、上記実施形態による空燃比フィードバック制御態様を示すタイムチャート。
図9は、実施形態による空燃比フィードバック制御態様を示すタイムチャート。
図10は、補正率ガードを行わない場合の空燃比フィードバック制御態様を示すタイムチャート。
図1は、本実施の形態に係る空燃比制御装置を備えた自動車用の内燃機関1の概略構成図である。内燃機関1は、吸気通路2、燃焼室3及び排気通路4を備えている。
内燃機関1の吸気通路2は、サージタンク6、その上流に設けられたスロットルバルブ5を備えている。スロットルバルブ5は、アクセルペダルの踏み込み操作に応じて開度変更され、吸気通路2を通じて燃焼室3に吸入される空気の流量、すなわち吸入空気量egaを調整する。
また吸気通路2は、吸気量センサ7、スロットルポジションセンサ8及び吸気温センサ9を備えている。吸気量センサ7は、スロットルバルブ5の上流側に配置され、上記吸入空気量egaを検出する。スロットルポジションセンサ8は、スロットルバルブ5の開度を検出する開度センサと、スロットルバルブ5の全閉時にオンとなるアイドルスイッチとを備える。また吸気温センサ9は、内燃機関1に吸入される空気の温度(吸気温)THAを検出する。
更に吸気通路2には、燃料噴射弁10が設けられている。燃料噴射弁10は、燃料タンクから圧送された燃料を吸気通路2内に噴射する。この噴射された燃料は、吸気通路2内の空気と混合されて、燃焼室3内に供給される。
内燃機関1の排気通路4は、三元触媒20、空燃比センサ11及び酸素センサ12を備えている。空燃比センサ11は、排気通路4の上記三元触媒20の上流側に設けられ、酸素センサ12は、同排気通路4の上記三元触媒20の下流側に設けられている。
三元触媒20は、その周囲の排気の酸素濃度が、理論空燃比近傍の空燃比で燃焼が行われたときの濃度であるときに、排気中の一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)及び窒素酸化物(NOx)の浄化性能を最大限に発揮する。本実施形態の三元触媒20は、酸素貯蔵能力を有しており、周囲の排気の酸素濃度が高すぎるときには、過剰分の酸素を吸着し、同排気の酸素濃度が低すぎるときには、不足分の酸素を放出する。こうして三元触媒20は、高い排気浄化性能が常に維持されるように、その周囲の酸素濃度を自律的に調整する。
空燃比センサ11は、図2に示すように排気の酸素濃度にほぼ比例した電圧を出力する。そのため、空燃比センサ11の出力電圧からは、現状の空燃比の値を検出することができる。一方、酸素センサ12の出力電圧は、図3に示すように、空燃比が理論空燃比よりもリーンであるか、リッチであるかによって大きく変化する。そのため、酸素センサ12の出力電圧からは、現状の空燃比が理論空燃比よりもリッチかリーンかを検出することができる。
内燃機関1の各気筒の燃焼室3には、点火プラグ14が設けられている。各気筒の点火プラグ14には、イグナイタ及び点火コイルによって、必要な時期に点火電圧が印加されるようになっている。
また内燃機関1は、そのシリンダブロック1a内を循環する冷却水によって冷却されている。シリンダブロック1aに設けられた水温センサ17は、その冷却水の温度を検出する。
上述した各センサ、すなわちスロットルポジションセンサ8、吸気量センサ7、吸気温センサ9、水温センサ17、空燃比センサ11及び酸素センサ12は、電子制御装置30(以下、ECU30と記載する)に接続されている。ECU30は、CPU、ROM、RAM及びバックアップRAM等を内蔵したマイクロコンピュータを中心に構成される。ECU30には、上記のようなセンサに加え、燃料噴射弁10や上記イグナイタ等が接続されてもいる。
ECU30は、入力された各センサの出力に基づいて、燃料噴射制御や空燃比制御等の内燃機関1の各種制御を実行する。以下、本実施形態での空燃比制御の詳細を説明する。
上記のような酸素貯蔵能力を備える本実施形態の三元触媒20では、その排気浄化性能を有効に発揮させるには、十分な酸素が吸蔵され、且つ十分な酸素吸蔵余力が残された状態を維持しておく必要がある。例えば三元触媒20に吸蔵されている酸素量がその最大酸素貯蔵量の半分程度となった状態が維持されていれば、酸素の吸蔵及び放出のいずれについても必要に応じて随時行うことができ、十分な排気浄化性能を常に確保しておくことができる。
そこで本実施形態のECU30は、三元触媒20の排気浄化性能を安定して維持するために、酸素貯蔵量を一定にするように空燃比フィードバック制御を行っている。具体的にはECU30は、目標空燃比である理論空燃比と現状の空燃比(実空燃比)との偏差を空燃比センサ11の出力電圧に基づき検出し、その偏差に対して比例・積分動作(PI動作)するように空燃比フィードバック制御を、すなわち空燃比のPI制御を行っている。
こうした空燃比のPI制御は、空燃比偏差に比例ゲインを乗算して求められる比例項と、その空燃比偏差の積分値に積分ゲインを乗算して求められる積分項とからなる空燃比補正量にて空燃比を補正することで行うことができる(上式(1)参照)。ところが上述したように、こうしたPI制御では、現状の吸入空気量や空燃比とは関係なく、積分項の値が決まってしまうため、状況によっては不適切な空燃比補正がなされる虞がある。
そこで本実施形態では、ECU30は、そうした空燃比のPI制御に際して、現状の吸入空気量egaや実空燃比eabyfに応じて上記積分項の上限値及び下限値を設定し、積分項の値の設定範囲を制限するようにしている。これによりECU30は、現状の吸入空気量egaや実空燃比eabyfに対して、不適切に空燃比が補正されてしまうような過大或いは過小な値に積分項が設定されることを防止するようにしている。
次に、本実施形態での上記空燃比フィードバック制御の詳細を、図4のフローチャートを参照して説明する。ECU30は、同図4に示されるルーチンを、所定のクランク角毎の定角割込処理として実行する。
本処理が開始されるとECU30は、まずステップ102において、吸気量センサ7によって検出された吸入空気量egaを理論空燃比tabyf(=14.6)にて除算して、基本噴射量efcbを算出する。
次にECU30は、ステップ104において、空燃比フィードバックの実行条件が成立しているか否かを判定する。ECU30は、例えば以下の条件(1)〜(5)のすべてが成立しているときに空燃比フィードバックの実行条件が成立していると判定する。
(1)冷却水温度が所定温度以上であること。
(2)内燃機関始動中でないこと。
(3)始動時増量等燃料増量中でないこと。
(4)空燃比センサ11の出力が1回以上反転していること。
(5)燃料カット中でないこと。
ECU30は、上記条件(1)〜(5)のいずれか1つ以上が不成立で、空燃比フィードバックの実行条件が不成立であると判定すると(ステップ104:NO)、処理をステップ116に進める。そしてECU30は、このステップ116において、フィードバック補正量edfiの値を0に設定した後、処理をステップ114に進める。
一方、ECU30は、上記ステップ104において、条件(1)〜(5)のすべてが成立しており、空燃比フィードバックの実行条件が成立していると判定すると(ステップ104:YES)、処理をステップ106に進める。そしてECU30は、以下のステップ106〜112の処理を通じてフィードバック補正量edfiiの値を設定した後、処理をステップ114に進める。
ステップ106では、ECU30は、上記吸気量センサ7により検出された実際の吸入空気量egaと上記空燃比センサ12により検出された実空燃比eabyfとに基づいて、実際に燃焼された燃料量(=ega/eabyf)を算出する。そしてECU30は、上記ステップ102において算出された基本噴射量efcbからこの実際に燃焼された燃料量を減算することで、燃料偏差edfcを算出する。更にECU30は、このステップ106において前回の燃料偏差積算値esdfcに燃料偏差edfcを加算することで燃料偏差積算値esdfcを算出する。
次のステップ108では、ECU30は、上記燃料偏差edfcに比例ゲインGnFBPを乗算して比例項edfipを算出する。更にECU30は、上記燃料偏差積算値esdfcに積分ゲインGnFBIを乗算して仮の積分項t_edfiiを算出する。
続くステップ110においてECU30は、上記ステップ108で算出した仮の積分項t_edfiiに対して、下限補正率(efafki−t_gddficl)及び上限補正率(efafki+t_gddficr)にてガード処理を行って積分項edfiiを算出する。すなわちECU30は、上記仮の積分項t_edfiiの値が下限補正率未満であれば、積分項edfiiの値をその下限補正率に設定し、同仮の積分項t_edfiiの値が上限補正率を超えていれば、積分項edfiiの値をその上限補正率に設定する。またECU30は、仮の積分項t_edfiiの値が上記下限補正率以上、且つ上記上限補正率以下であれば、仮の積分項t_edfiiの値をそのまま積分項edfiiの値に設定する。なおここでの上限補正率及び下限補正率は、後述する補正量ガード制御処理においてそれぞれ設定されている。
更にECU30は、続くステップ112において、その算出された積分項edfiiと上記ステップ108にて算出された比例項edfipとを加算したものを、フィードバック補正量edfiの値として設定する。
ECU30は、このステップ112又は上記ステップ116でフィードバック補正量edfiの値を設定した後、ステップ114において基本噴射量efcbにフィードバック補正量edfiを加算して、最終噴射量を算出する。そしてECU30は、その最終噴射量に係数kinj及び空燃比学習値kgを乗算して、燃料噴射に際してのインジェクタ10への通電時間etauを算出する。ここで係数kinjは、インジェクタ10の燃料噴射率(単位時間当りの燃料噴射量)の逆数で、燃圧等に基づき求められている。また空燃比学習値kgは、次に説明する空燃比学習制御にてその値が求められる。
次に、上記空燃比学習値kgを算出するための空燃比学習制御について、図5のフローチャートを参照して説明する。ECU30は、同図5に示されるルーチンを、所定のクランク角毎の定角割込処理として実行する。なお本処理においてECU30は、機関負荷に応じて区分けされた領域毎に空燃比学習値kgを個別に算出するようにしている。
本処理が開始されると、ECU30は、まずステップ120において、空燃比学習の実行条件が成立しているかが判定される。この実行条件としては、例えば(1)冷却水温度が所定温度以上であること、(2)パージ処理の実行中でないこと、(3)負荷領域が所定の領域であること、(4)燃料カット中でないこと、等が挙げられる。ここでECU30は、実行条件が成立していると判定すると(YES)、処理をステップ122に進め、不成立であると判定すると(NO)、本処理をそのまま一旦終了する。
ステップ122においてECU30は、実空燃比eabyfが、目標空燃比である理論空燃比近傍(例えば14.4≦eabyf<14.8)となっているか否かを判定する。ここでECU30は、実空燃比eabyfが理論空燃比近傍に収束されていれば(YES)、処理をステップ124に進め、そうでなければ(NO)、そのまま本処理を一旦終了する。
ステップ124においてECU30は、空燃比フィードバックが安定しているか否かを判定する。ここでの判定は、例えば、基本噴射量efcbに対するフィードバック補正量edfiの比率を示すフィードバック補正率efafに基づいて行われる。そしてECU30は、上記フィードバック補正率efafの絶対値が2%未満であれば、空燃比フィードバックが安定していると判定し、フィードバック補正率efafの絶対値が2%以上であれば、空燃比フィードバックが安定していないと判定する。ここでECU30は、空燃比フィードバックが安定していると判定されると(YES)、処理をステップ126に進め、そうでなければ(NO)、処理をステップ130に進める。
ECU30は、ステップ130に処理が移行すると、上記フィードバック補正率efafの絶対値が小さくなるように、当該負荷領域での空燃比学習値kgの値を更新する。そしてその更新後、ECU30は、本処理を一旦終了する。
一方、ECU30は、ステップ126に処理が移行すると、上記空燃比フィードバックの安定した状態が所定時間以上継続しているか否かを判定する。ここで空燃比フィードバックの安定した状態が所定時間以上継続していると判定されると(YES)、ECU30は処理をステップ128に進め、そうでなければ(NO)、ECU30は本処理をそのまま一旦終了する。
ステップ128において、ECU30は、該当負荷領域での空燃比学習が一旦完了されたと判定し、その空燃比学習値kgの値、及び学習が完了した旨の履歴をバックアップRAM内に記録して、本処理を一旦終了する。ここで記録された学習が完了した旨の履歴は、バッテリクリア等により、バックアップRAMに記録されたデータが消去されるまで保持される。
次に、上記空燃比フィードバック制御での積分項edfiiの算出に際してその値をガードする下限補正率及び上限補正率を算出するための補正量ガード制御処理について、図6のフローチャートを参照して説明する。ECU30は、同図5に示されるルーチンを、所定のクランク角毎の定角割込処理として実行する。
本処理が開始されると、ECU30は、まずステップ140において、空燃比フィードバックの実行条件が成立しているか否かを判定する。ここでの判定は、図4に示した上記空燃比フィードバック制御処理のステップ104と同様に行われる。ECU30は、ここで上記実行条件が成立していると判定すると(YES)、処理をステップ142に進める。またECU30は、上記実行条件が不成立であると(NO)、処理をステップ156に進め、そのステップ156において基準補正率efafkiを0に設定した後、本ルーチンの処理を一旦終了する。
一方、ステップ142においてECU30は、実空燃比eabyfが、理論空燃比よりもリッチ、理論空燃比よりもリーン、ストイキ(理論空燃比)のいずれであるかを判定する。ここでECU30は、実空燃比eabyfが理論空燃比よりもリッチであると判定すると、処理をステップ144に進め、そのステップ144において基準補正率efafkiの値から補正率偏差Δkiを減算した後、処理をステップ148に移行する。またECU30は、上記ステップ142において実空燃比eabyfが理論空燃比よりもリーンであると判定すると、処理をステップ146に進め、そのステップ146において基準補正率efakiの値に補正率偏差Δkiを加算した後、処理をステップ148に移行する。更にECU30は、上記ステップ142において実空燃比eabyfが理論空燃比であると判定したときには、基準補正率efafkiの値を操作せずそのまま処理をステップ148に移行する。
ここで補正率偏差Δkiの値は、吸入空気量egaに応じて設定される。具体的には吸入空気量egaが大きいときほど、補正率偏差Δkiは大きい値に設定される。したがって基準補主率efafkiは、吸入空気量egaが大きいときほど、大きく変更される。
基準補正率efafkiは、積分項edfiiの上限値及び下限値の設定に際して基準となる燃料噴射補正率で、その値は上記のように、それ迄の実空燃比eabyfの推移に応じて決定される。すなわち基準補正率efafkiの値は、実空燃比eabyfが理論空燃比よりもリッチな状態が継続すると燃料噴射量を減量補正する側に徐々に変化され、実空燃比eabyfが理論空燃比よりもリーンな状態が継続すると燃料噴射量を増量補正する側に徐々に変化される。
ステップ148においてECU30は、実空燃比eabyf及び吸入空気量egaに基づいて減量ガード値t_gddficl及び増量ガード値t_gddficrを、図7に示されるマップを参照して算出する。図7に示されるように、減量ガード値t_gddficl及び増量ガード値t_gddficrは吸入空気量が少ないほど零に近づくように設定されるようになっている。
次にECU30は、ステップ150において、現負荷領域についての空燃比学習の学習履歴があるか否かを判定する。ここでECU30は、空燃比学習の学習履歴がないと判定すると(NO)、ステップ152の処理を行った後、処理をステップ154に進める。またECU30は、ここで空燃比学習の学習履歴があると判定すると(YES)、処理をそのままステップ154に進める。
ステップ152においてECU30は、上記増量ガード値t_gddficr及び減量ガード値t_gddficlを、図7に鎖線で示されるように、吸入空気量及び空燃比の値に関係なく、零に近い一定の値に変更する。
ステップ154においてECU30は、上記基準補正率efafkiに増量ガード値t_gddficrを加算したものを積分項edfiiの補正率換算値の上限値(上限補正率)として設定し、上記基準補正率efafkiから減量ガード値t_gddficlを減算したものを積分項edfiiの補正率換算値の下限値(下限補正率)として設定する。そしてその後、ECU30は本ルーチンの処理を一旦終了する。なお上記積分項edfiiの補正率換算値とは、積分項edfiiを基本噴射量efcbで除した値を示している。
以上説明した補正量ガード制御処理によれば、積分項edfii(厳密にはその補正率換算値)の上限値及び下限値が、各々基準補正率efafkiと増量ガード値t_gddficr又は減量ガード値t_gddficlに基づき設定される。ここで上記増量ガード値t_gddficr及び減量ガード値t_gddficlは、現状の吸入空気量ega及び実空燃比eabyfに基づいてそれぞれ設定されている。したがって本実施形態では、吸入空気量ega及び実空燃比eabyfに応じて設定された上限値及び下限値にて、積分項edfiiの設定範囲を制限している。そしてそうした制限により、現状の吸入空気量ega及び実空燃比eabyfに対して不適切に空燃比が補正されてしまうような過大或いは過小な値に積分項edfiiが設定されることを防止するようにしている。
具体的には、現状の吸入空気量egaが小さいときほど、積分項edfiiの上限値と下限値との間隔が小さくなるように、或いはその上限値及び下限値の絶対値が小さくされるように、上記増量ガード値t_gddficr及び減量ガード値t_gddficlが設定されている。そのため、目標空燃比に対する空燃比のずれ幅が大きくなり易い高空気量運転時の空燃比フィードバックの収束性を好適に確保しつつも、低空気量運転時の過補正を抑制することができる。
また上記増量ガード値t_gddficr及び減量ガード値t_gddficlの値は、実空燃比eabyfがリーンなときほど、その値が小さく、すなわち積分項edfiiによるリーン側への空燃比補正が制限されるように設定されている。そしてこれにより、積分項edfiiによる補正の結果、空燃比が過剰にリーンとなることを防止するようにしている。
なお、単に上記のように上限値及び下限値を設定して積分項edfiiの設定範囲を制限してしまうと、目標空燃比に対する実空燃比eabyfのずれが著しく大きいとき等に、十分な空燃比補正を行えず、目標空燃比への空燃比の収束性が悪化することがある。その点、本実施形態では、上記の如く基準補正率efafkiを実空燃比eabyfに応じて増減させることで、図8に示すように積分項edfiiの上限値及び下限値を、実空燃比eabyfが目標空燃比よりもリーンな状態が継続されるほど大きく、実空燃比eabyfが目標空燃比よりもリッチな状態が継続されるほど小さくするようにしている。そしてこれにより、目標空燃比への空燃比フィードバックの収束性を確保するようにしている。
一方、上記実施形態では、空燃比フィードバック制御での理論空燃比に対する実空燃比eabyfの偏差の推移からそれらの定常偏差を算出し、その算出された定常偏差を空燃比学習値kgとして記憶する空燃比学習制御が行われている。上記積分項edfiiによる空燃比の積分補正が行われていると、それまでの実空燃比eabyfの推移によっては空燃比が目標空燃比へと単純に収束されないことがあり、学習制御中に積分補正がなされると学習の遅れや学習精度の低下を招く虞がある。
その点、本実施形態では、空燃比学習制御での定常偏差の算出、すなわち空燃比学習値kgの算出が完了するまでは、積分項edfiiの上限値と下限値との間隔が小さくなるように、或いはその上限値及び下限値の絶対値が小さくされるように、上記増量ガード値t_gddficr及び減量ガード値t_gddficlが設定されている。そのため、空燃比学習値kgの学習が完了されるまでは、空燃比に対する積分補正を相対的に小さく留め、空燃比学習値kgの学習速度や学習精度を好適に保持するようにしている。
図9に、本実施形態での空燃比学習値kgの学習が行われたときの実空燃比eabyf及びフィードバック補正率efaf(フィードバック補正量edfiを基本噴射量efcbで除した値)の推移例を示す。上記のように本実施形態では、空燃比学習値kgの学習が完了されるまでは、上記上限値及び下限稙の設定によって積分項edfiiが零近傍の小さい値に保持されており、空燃比フィードバックでの積分補正は殆ど行われずに、主に比例補正のみが行われる。そのため、同図に示すように実空燃比eabyfは速やかに理論空燃比近傍に収束されるようになり、空燃比学習を早期に完了することができる。
一方、図10には、上記上限値及び下限値による積分項edfiiの設定範囲の制限を行わずに同様の空燃比学習値kgの学習を行ったときの実空燃比eabyf及びフィードバック補正率efafの推移例を示す。この場合には、設定範囲の制限を受けることなく空燃比の積分補正が行われるため、同図に示すように理論空燃比への収束性が悪化して実空燃比eabyfが安定しないため、学習時間の長期化や学習精度の悪化を招いてしまうようになる。
以上説明した本実施形態は、次のように変更してもよい。
・補正量ガード制御処理の上記ステップ152での空燃比学習の履歴無しの場合の増量ガード値t_gddficr及び減量ガード値t_gddficlの設定において、それらの値を零に設定する(クリア)ようにしてもよい。この場合、積分項edfiiの値は基準補正率efafkiに固定され、空燃比の積分補正が更に制限されるため、積分補正の影響による空燃比学習値kgの学習時間の長期化や学習精度の悪化を一層低減することができる。
・空燃比学習制御を行わない場合など、空燃比の積分補正が学習時間や学習精度に与える悪影響を無視できる場合には、補正量ガード制御処理の上記ステップ150及びステップ152の処理を省略しても良い。
・上記実施形態では、実空燃比eabyfの推移に応じて基準補正率efafkiを増減させていたが、この基準補正率efafkiを固定値(例えば0)としても良い。この場合にも、吸入空気量ega及び実空燃比eabyfに応じた積分項edfiiの設定範囲の制限は行われるため、積分補正によって、現状の吸入空気量ega及び実空燃比eabyfに対して不適切な空燃比補正が行われることを防止することはできる。
・図4のステップ112でのフィードバック補正量edfiの算出に際し、燃料偏差の微分値に微分ゲインを乗算して算出された微分項を同フィードバック補正量edfiを加算することで、空燃比を更に微分動作させるように、即ち空燃比をPID制御するようにしても良い。
・本発明は、図1に例示したような、吸気ポートに燃料噴射を行うポート噴射式の内燃機関に限らず、気筒内に直接燃料を噴射する筒内噴射式の内燃機関等、任意の内燃機関に適用することができる。
Claims (8)
- 目標空燃比と実空燃比との偏差の積分値に積分ゲインを乗算して求められた積分項による空燃比の積分補正を行う内燃機関の空燃比制御装置において、現状の吸入空気量及び空燃比に基づいて前記積分項の上限値及び下限値を設定することを特徴とする。
- 前記現状の吸入空気量が小さいときほど、前記上限値と前記下限値との間隔が小さくなるようにそれら上限値及び下限値の設定を行う請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
- 前記現状の吸入空気量が小さいときほど、前記上限値及び下限値の絶対値が小さくされるようにそれら上限値及び下限値の設定を行う請求項1に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
- 前記現状の空燃比がリーンなときほど、前記積分項によるリーン側への空燃比の補正が制限されるように前記上限値及び下限値の設定を行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
- 前記実空燃比が前記目標空燃比よりもリーンな状態が継続されるほど、前記積分項に基づく空燃比のリーン側へのより大きい補正が許容されるように、前記上限値及び下限値の設定を行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
- 前記実空燃比が前記目標空燃比よりもリッチな状態が継続されるほど、前記積分項に基づく空燃比のリッチ側へのより大きい補正が許容されるように、前記上限値及び下限値の設定を行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
- 前記実空燃比と前記目標空燃比との偏差の推移からそれらの定常偏差を算出し、その算出された定常偏差を学習値として記憶する空燃比学習制御を行うとともに、前記定常偏差の算出が完了するまでは、その算出の完了後に比して、前記上限値と前記下限値との間隔が小さくなるようにそれら上限値及び下限値の設定を行う請求項1〜6のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
- 前記実空燃比と前記目標空燃比との偏差の推移からそれらの定常偏差を算出し、その算出された定常偏差を学習値として記憶する空燃比学習制御を行うとともに、前記定常偏差の算出が完了するまでは、その算出の完了後に比して、前記上限値及び下限値の絶対値が小さくされるようにそれら上限値及び下限値の設定を行う請求項1〜6のいずれか1項に記載の内燃機関の空燃比制御装置。
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