JPWO2003093389A1 - 易氷雪剥離性の表面構造 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は、易氷雪剥離性に優れた表面特性を付与し得る物品の表面構造に関する。
背景技術
屋外に設置される各種器具、装置、建造物やそれらの部品などは、冬期に着氷や着雪が生じ、本来の機能が低下したり、破損が生じたり、場合によっては負傷の原因になることもある。そうした着氷や着雪を防止するため、従来、各種の表面処理がなされている。
たとえば、表面に微細な凹凸を形成する方法、着氷(雪)防止剤を表面に散布する方法、着氷(雪)防止層を表面に設ける方法などが知られている。
これらのうち着氷(雪)防止層を表面に設ける方法は、主として表面の撥水性を大きくする(対水接触角を大きくする)ことで着氷(雪)を防止する方向で検討され実施されている。たとえば特開平8−3477号公報には、分子量500〜20000の末端フッ素化されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末を非フッ素系樹脂中に混入させた撥水性水性塗料を用いて着雪を防止することが記載されている。また特開平8−3479号公報には、分子量500〜20000の末端フッ素化されたPTFE粉末を液状樹脂(たとえばフッ素樹脂やシリコーン系樹脂、ポリエステル樹脂)中に配合した着雪防止塗料を用いて着雪を防止することが記載されている。
しかしながら、PTFE粉末を樹脂中に均一に分散させることは困難であり、表面に撥水性の小さい部分が残ってしまい、着雪防止効果が損なわれることがあった。
また、着氷(雪)防止剤などによっても着氷(雪)が生ずることがある。そのような場合、容易に着氷(雪)した氷や雪が除去できれば機能の回復を迅速に行なうことができ、被害を最小限に止めることができる。
しかし、着氷(雪)防止を課題とした開発は種々行なわれていたが、除氷や除雪を容易に行なうことを課題とする開発は未だ充分とはいえない。
除氷や除雪は、通常、振動や衝撃などの機械的エネルギーまたは加熱などの熱エネルギーを外部から加えて行なっている。しかし、機械的エネルギーを加える方法では物品の表面に氷や雪が残ってしまい、その後の着氷や着雪を容易にしてしまう。熱エネルギーを加える方法は物品の表面に氷や雪が残ることは少ないが、表面に接する全ての氷や雪を解かすには多大なエネルギーが必要になるほか温度も高くなり、熱に敏感な装置などには適用できない。
本発明の目的は、物品の表面に着氷(雪)した氷または雪が容易に自重によって表面から離脱(剥離)可能な表面構造を提供することを目的とする。
発明の開示
すなわち本発明は、つぎの特性(1)を満たす自由表面を有する物品の易氷雪剥離性の表面構造に関する。
(1)温度が空気の露点以下に維持されている物品の自由表面に形成される氷の結晶が綿状に繋がっている。
また本発明は、つぎの特性(2)を満たす自由表面を有する物品の易氷雪剥離性の表面構造にも関する。
(2)物品の自由表面に着氷または着雪した氷または雪の結晶が、氷もしくは雪および/または物品に熱エネルギーまたは機械的エネルギーが加わることにより自重で自由表面から剥離する。
これらの表面構造においては、物品の自由表面が表面特性の異なる少なくとも2種類の表面部分を含むものが好ましく、またさらに、少なくとも1種類の表面部分が撥水性であることが好ましい。
本発明はまた、表面特性の異なる2種類の表面部分(A)および表面部分(B)を含む自由表面を有する物品の表面構造であって、該自由表面がつぎの特性(3)および(4)で定義される表面特性を満たす物品の易氷雪剥離性の表面構造にも関する。
(3)前記物品の自由表面全体に氷結または着雪させたのちに該自由表面を加熱した場合、表面部分(A)と接した氷または雪の界面部分の融解が表面部分(B)と接した氷または雪の界面部分の融解に先じて生じる。
(4)前記物品の自由表面全体に氷結または着雪させたのちに該自由表面を加熱した場合、表面部分(A)上の氷または雪の結晶の少なくとも一部と表面部分(B)上の氷または雪の結晶の少なくとも一部とが連なって自重により自由表面から剥離する。
本発明が対象とする物品としては特に限定されず、基材と被覆層とからなる積層体であり前記自由表面が該被覆層の自由表面であるような物品でも、単一の成形品であり前記自由表面が該成形品の自由表面であるような物品でもよい。
物品が積層体の場合、被覆層が被覆組成物を塗工して得られる層であっても、被覆層がフィルムまたはシートを積層して得られる層であってもよい。
物品が成形品である場合、フィルムまたはシートであっても、成形品が輪郭を有する製品であってもよい。
易氷雪剥離性の表面は種々の方法により形成でき、たとえば基材に被覆組成物を塗工することにより形成してもよいし、物品の自由表面を物理的または化学的に加工して形成してもよい。
本発明において「易氷雪剥離性」とは、物品の表面に着氷または着雪した氷または雪が、自重により表面から剥離(離脱)する性質をいう。その結果、氷または雪が剥離した後の物品表面には氷や雪はほとんど残存せず、さらにそれらが融解した水滴もほとんど残存しない。この点で表面に氷または雪が残存する従来の除氷および除雪と異なる。その現象は、後述する図面に示す写真により明確に把握できるであろう。
除氷(雪)と着氷(雪)が繰り返される場合、除氷(雪)後の物品の表面に氷(雪)や水滴が残存すると、つぎの着氷(雪)時に氷結や着雪の核になり、次第に除氷(雪)が困難になる。本発明の表面構造では、こうした除氷(雪)後に物品の表面に氷(雪)や水滴の残存がほとんどなく、易氷雪剥離効果を長期に持続させることができる。
発明を実施するための最良の形態
まず、本発明の表面構造の上記(1)〜(2)について説明する。
特性(1):
「温度が空気の露点以下に維持されている物品の自由表面に形成される氷の結晶が綿状に繋がっている。」
この特性は、表面に形成される氷が綿状に連なった形態をとることによって、氷と物品の表面との接触を最小限とする性質である。
通常、冷却された平面に氷が形成される場合、氷は表面に沿って2次元的に成長していき、最終的には表面を氷の膜で覆う形態となる(冬期に路上に駐車している自動車の窓に張り付いた氷など)。このように表面に面的に密着した氷の膜を取り除くことは容易ではない。
本発明の表面構造によれば、物品の表面に形成される氷を物品の表面に面的に密着した膜状ではなく、物品の表面に最初に形成された氷の結晶から3次元的につぎの結晶が針状に繋がっていき、全体として綿状の氷の層が形成される。この綿状の氷の層は、物品の表面とは最小限の面積で接している(たとえば点接触している)。なお、氷の層が綿状であることは、顕微鏡による観察で容易に確認できる。
その結果、物品の表面と綿状の氷との結合力が最小限に抑えられ、氷は物品の表面に残存することなく容易に剥離することができる。
本発明の表面構造によれば、綿状の氷の層は、空気中の水分量(湿度)に拘わらず、物品の表面が空気の露点以下に維持されているときに生ずる。冷却速度は冬期に屋外に放置したときの徐冷から、冷凍機などによる急冷であってもよい。
実験的には、表面温度−7±1℃に維持された物品の自由表面に平行に相対湿度87±3%で温度7±0.2℃の空気を風速1m/秒で流したとき、物品の自由表面に形成される氷の結晶が綿状に繋がっていればよい。
特性(2):
「物品の自由表面に着氷または着雪した氷の結晶が、氷もしくは雪および/または物品に熱エネルギーまたは機械的エネルギーが加わることにより自重で自由表面から剥離する。」
この特性は、氷が物品の表面から除かれるときに、氷が実質的に物品の表面に残存することなく、しかも自重により剥離(離脱)する性質である。この特性により、それ以降の着氷や着雪の核になる氷が物品の表面に残存せず、着氷(雪)を繰返し効果的かつ長期間防止することができる。
かかる特性を有する表面構造の一例としては、特性(1)を満たす構造のものが好ましくあげられる。
加えるエネルギーは熱エネルギーでも機械的エネルギー(風力エネルギーや振動エネルギー、衝撃エネルギー)でもよいが、物品に与える破損や障害の危険性が少ない点および物品の表面からの氷の剥離状態が良好な点から熱エネルギーが好ましく、またエネルギーコストや維持管理が容易な点から風力エネルギーも好ましい。もちろん併用してもよい。熱エネルギーを加える方法としては、物品を加熱または加温する方法や外部から熱線を照射する方法などの積極的にエネルギーを加える方法でも、太陽光に曝露する方法などの自然エネルギーを利用する方法でもよい。機械的エネルギーにおいても自然エネルギーである風力エネルギーは有用である。
特性(1)または(2)を満たす物品の自由表面は、表面特性が異なる少なくとも2種類の表面部分を有していることが望ましい。表面特性が異なる表面とすることにより着氷(雪)状態を不均一にでき、特性(1)および(2)の達成が容易になる。
また、少なくとも1種類の表面部分を撥水性とすることが好ましい。撥水性表面部分では着氷(雪)を遅らせることができるとともに、着氷(雪)後にも物品の表面と氷(雪)との結合力を小さくすることができる。
本発明の表面構造の別の形態は、前記特性(3)と(4)を満たす表面部分(A)と(B)を有する。これらの特性について説明する。なお以下、着氷の場合を主として説明するが、着雪の場合も同様である。
特性(3):
「物品の自由表面全体に氷結させたのちに該自由表面を加熱した場合、表面部分(A)と接した氷の界面部分の融解が表面部分(B)と接した氷の界面部分の融解に先じて生じる。」
特性(4):
「物品の自由表面全体に氷結させたのちに該自由表面を加熱した場合、表面部分(A)上の氷の結晶の少なくとも一部と表面部分(B)上の氷の結晶の少なくとも一部とが連なって自重により自由表面から剥離する。」
特性(3)は、表面部分(A)と氷との密着結合関係をまず解くことにより、氷全体の離脱を容易にするための特性である。従来は着氷した界面全体の氷を表面特性に関係なく融解しようとしていたため、界面面積の大きい部分で融解が生じなければ氷の離脱現象は生じなかったが、本発明によれば表面部分(A)のみの融解で氷全体の離脱が生ずる状態となる。
氷の離脱をさらに容易にするためには、表面部分(B)が氷(水)に対して結合しにくい特性、たとえば撥水性または粗い表面などを有していることが好ましい。この場合、表面部分(A)の界面で氷の融解が生ずれば表面部分(B)の融解の有無に関係なく特性(4)が生じ得る。
特性(4)は、表面部分(B)上の氷が必ずしも融解しなくても物品の自由表面から剥離することを示す特性である。この場合の特徴は、表面部分(A)から先に離脱した氷の結晶と一体に表面部分(B)の氷の結晶が剥離する点にある。通常は、剥離する前に表面部分(B)上の氷も融解してしまう。
これらの特性(3)および(4)を満たす表面構造をとるとき、着氷箇所に少ない熱エネルギーを加えるだけで容易に氷を除去できる。
自由表面は表面部分(A)および(B)以外の表面部分を有していてもよいが、自由表面の上記特性(3)および(4)を損なうものであってはならない。
加熱は物品に加えてもよい(すなわち物品側を暖める)し、着氷表面を外部から加熱してもよい(たとえば熱線照射や太陽光)。いずれの加熱方法によっても時間の長短はあるが、本発明の表面構造を有する物品では着氷の剥離が生ずる。
表面部分(A)と表面部分(B)の面積割合や平面形状、配置、表面部分の立体形状などは、上記特性(3)と(4)を満たす限り限定されないが、つぎのようなものが好ましい。
(A)/(B)の面積割合:
1/99〜99/1の広い範囲で選択できるが、エネルギー面から表面部分(A)の割合が少ない方が望ましい。
表面部分の平面形状と配置:
どのような形状や配置でもよい。限定されない例としては、(A)と(B)とが縞状に並んだもの;(A)と(B)とが海島状に配置されているもの;(A)が(B)中に点状または水玉状に分散しているもの(またはその逆);(A)が(B)上に格子状に配置されているもの(またはその逆);(A)が(B)上にリング状に配置されているもの(またはその逆)など。
表面部分の立体形状:
特に限定されず、平面状でも突起状でも異形でもよい。また、一方が他方表面より高いテラス状(角台状または円台状など)であってもよい。
表面部分(A)と(B)に上記表面特性を付与する方法としては、表面を形成する材質を選定する方法、表面粗さを選定する方法、表面加工を部分的に加える方法、表面処理を部分的に施す方法などがあり、物品の目的、使用場所、サイズなどにより、1つまたは2つ以上の方法を組合わせて付与すればよい。
つぎに本発明の表面構造の形成方法について説明する。
形成方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。たとえば、(1)塗装による方法、(2)各種成形(モールディング)による方法、(3)各種化学的表面加工による方法、(4)各種物理的表面加工による方法、(5)積層体などの複合体とする方法などがあげられる。
(1)塗装による方法:
つぎの表面処理用組成物を物品に塗装し、本発明の特定の自由表面を形成する。
使用する表面処理用組成物としては、たとえば、
(a)撥水性のバインダー樹脂、
(b)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子、
(c)分散剤、
(d)低熱容量の粒子、および
(e)溶媒
とからなる表面処理用組成物が好ましい。
この表面処理用組成物で形成された塗膜の自由表面において、表面部分(A)は低熱容量の粒子(d)が形成し、表面部分(B)は撥水性バインダー樹脂(a)とPTFE粒子(b)が形成しているものと推定される。
撥水性バインダー樹脂(a)としては、撥水性であって、かつPTFE粒子(b)と低熱容量粒子(d)を均一な分散状態で保持できるものであればよい。また、撥水性の程度としては対水接触角が大きい方が望ましく、表面部分(B)の対水接触角を140度以上とするものが好ましい。ただ、樹脂(a)の単独塗膜表面の対水接触角が140度以上である必要はないが、100度以上であるのが、目的とする撥水性を処理された表面に付与しやすい点から好ましい。上限は理論上180度である。
そうしたバインダー樹脂(a)としては、たとえばフッ素樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂などがあげられるが、PTFE粒子の分散性などが優れる点からフッ素樹脂が好ましい。
フッ素樹脂としては、従来公知のフッ素樹脂の中から選択できるが、耐候性、塗料化、溶剤溶解性などに有利なことから、テトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)を主体とする共重合体が好ましい。
これらのフッ素樹脂としては、たとえば特開昭57−34107号公報、特開昭62−7767号公報、特開昭62−174213号公報、特開平2−265979号公報、特開平2−298645号公報、特開平4−279612号公報などに記載の含フッ素共重合体が好ましくあげられ、特に特開平4−279612号公報記載の
式(I):
(式中、Xはフッ素原子、塩素原子、水素原子またはトリフルオロメチル基である)で表わされるフルオロオレフィン構造単位(1)、
(2)式(II):
(式中、Rは炭素数1〜8のアルキル基である)で表わされるβ−メチル置換α−オレフィン構造単位(2)、
(3)化学的硬化性反応性基を有する単量体に基づく構造単位(3)、
(4)エステル基を側鎖に有する単量体に基づく構造単位(4)、および
(5)他の共重合可能な単量体に基づく構造単位(5)
からなり、構造単位(1)が20〜60モル%、構造単位(2)が5〜25モル%、構造単位(3)が1〜45モル%、構造単位(4)が1〜45モル%および構造単位(5)が0〜45モル%(ただし、構造単位(1)+(2)の合計が40〜90モル%である)含まれてなる数平均分子量1000〜500000の含フッ素共重合体が有用である。
化学的硬化性反応性基を有する単量体に基づく構造単位(3)の代表例としては、硬化反応性基が水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、シリル基などであるビニル単量体などがあげられる。
硬化反応性基が水酸基であるビニル単量体としては、たとえばヒドロキシアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエステルなどをあげることができる。
カルボキシル基含有ビニル単量体としては、たとえばクロトン酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、ビニル酢酸、またはこれらに由来する単量体をあげることができる。
エポキシ基含有ビニル単量体としては、たとえば特開平2−232250号公報、特開平2−232251号公報などに記載されているものがあげられ、たとえばつぎの式で示されるエポキシビニルまたはエポキシビニルエーテルなどが例示できる。
これらの具体例としては、たとえばつぎの単量体があげられる。
シリル基含有ビニル単量体としては、たとえば特開昭61−141713号公報に記載されたものがあげられ、たとえばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルトリス(γ−メトキシ)シラン、トリメトキシシリルエチルビニルエーテル、トリエトキシシリルエチルビニルエーテル、トリメトキシシリルブチルビニルエーテル、トリエトキシシリルブチルビニルエーテル、トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル、トリエトキシシリルプロピルビニルエーテル、ビニルトリイソプロペニルオキシシラン、ビニルメチルジイソプロペニルオキシシラン、トリイソプロペニルオキシシリルエチルビニルエーテル、トリイソプロペニルオキシシリルプロピルビニルエーテル、トリイソプロペニルオキシシリルブチルビニルエーテル、ビニルトリス(ジメチルイミノオキシ)シラン、ビニルトリス(メチルエチルイミノオキシ)シラン、ビニルメチルビス(メチルジメチルイミノオキシ)シラン、ビニルジメチル(ジメチルイミノオキシ)シラン、トリス(ジメチルイミノオキシ)シリルエチルビニルエーテル、メチルビス(ジメチルイミノオキシ)シリルエチルビニルエーテル、トリス(ジメチルイミノオキシ)シリルブチルビニルエーテル、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロペニルオキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリス(ジメチルイミノオキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリス(ジメチルイミノオキシ)シラン、アリルトリメトキシシランなどがあげられる。
具体例としては、CTFE/イソブチレン(IB)/HBVE/プロピオン酸ビニル(VPi)共重合体、CTFE/IB/ヒドロキシエチルアリルエーテル(HEAE)/VAc共重合体、TFE/IB/HBVE/VPi共重合体、CTFE/IB/HBVE/ベオバ9(シェル化学社製。商品名)共重合体、TFE/IB/HBVE/VBz共重合体、CTFE/IB/HBVE/マレイン酸ジエチル(DEM)共重合体、TFE/IB/HBVE/ベオバ9/マレイン酸ジブチル(DBM)共重合体、CTFE/IB/HBVE/フマル酸ジエチル(DEF)共重合体、CTFE/IB/ヒドロキシエチルビニルエーテル(HEVE)/フマル酸ジブチル(DBF)共重合体、HFP/IB/HBVE/VBz共重合体、TFE/2−メチル−1−ペンテン(MP)/HBVE/VPi共重合体、TFE/IB/HBVE/VPi/CH2=CH(CF2)pCF3(p=1〜5)共重合体、TFE/IB/HBVE/VPi/VBz共重合体、CTFE/IB/HBVE/VAc共重合体、TFE/IB/HBVE/t−ブチル安息香酸ビニル(VtBz)共重合体、TFE/IB/HBVE/VPi/DEM共重合体、CTFE/IB/HBVE/VBz/DEF共重合体、CTFE/IB/HBVE/VPi/CH2=CH(CF2)pCF3(p=1〜5)共重合体、CTFE/MP/HEVE/VPi共重合体、TFE/IB/HBVE/VPi/ビニル酢酸(VAA)共重合体、TFE/IB/HEVE/VAc/VAA共重合体、TFE/IB/HBVE/VPi/VBz/クロトン酸(CA)共重合体、TFE/IB/HBVE/ベオバ9/CA共重合体、TFE/IB/HBVE/ベオバ9/VBz/CA共重合体、TFE/IB/HBVE/ベオバ10/VtBz/CA共重合体、TFE/TB/HBVE/VtBz/CA共重合体、TFE/IB/HBVE/DEM/CA共重合体、TFE/IB/HBVE/DFM/CA共重合体、TFE/MP/HBVE/VPi/VAA共重合体などがあげられる。
以上のフッ素樹脂の市販の商品としては、たとえばゼッフル(ダイキン工業(株)製、ルミフロン(旭硝子(株)製)、フルオネート(大日本インキ(株)製)、セフラルコート(セントラル硝子(株)製)などがあげられる。
PTFE粒子(b)としては、重量平均分子量が500以上で500,000以下のものが好ましい。通常PTFEは重量平均分子量が100万〜1000万のものであるが、この範囲のPTFEは剪断力が加わるとフィブリル化するので、本発明で用いるPTFEは上記の範囲の分子量のPTFEを使用することが好ましい。好ましい重量平均分子量は600以上、特に5,000以上であり、また500,000以下、好ましくは200,000以下、さらに好ましくは12,000以下である。
また、平均粒子径としては、0.05μm以上で10μm以下の範囲のものが好ましい。平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.2μm以上であり、また好ましくは7μm以下、さらには5μm以下である。
さらにPTFEはテトラフルオロエチレン(TFE)の単独重合体であってもよいし、公知の変性剤で変性されている変性PTFEであってもよい。
また、PTFE粒子は重合開始剤などに起因して分子末端に不安定基が存在するが、そうした末端基を完全にフッ素化して安定化したPTFE粒子が好ましい。特に好ましいPTFE粒子は、末端基が完全にフッ素化された重量平均分子量500〜20,000で平均粒子径が2〜10μmのものである。
PTFE粒子(b)の市販品としては、たとえばダイキン工業(株)製のルブロン、セントラル硝子(株)製のセフラルルーブなどがあげられる。
分散剤(c)はPTFE粒子(b)を撥水性バインダー(a)中に均一に分散させる作用を有する。ここで使用する分散剤は、たとえば溶媒を使用する場合にPTFE粒子(b)を溶媒に分散させる作用だけでは足らず、塗膜中で撥水性バインダー樹脂に均一にPTFE粒子(b)を分散させる作用をもつことが必要である。したがって、好適な分散剤は、PTFE粒子(b)および撥水性バインダー樹脂(a)の種類、さらには溶媒(e)の種類を考慮して選択する。
撥水性バインダー(a)としてフッ素樹脂を選択し、後述する溶媒(e)として有機溶媒を選択する場合、分散剤としては、フルオロアルキル基を有するビニルモノマーから誘導された繰返し単位を含む重合体(c1)が好ましい。さらに好ましくは、フルオロアルキル基を有するビニルモノマーと非フッ素系ビニルモノマーとの共重合体があげられる。
フルオロアルキル基を有するビニルモノマーは、フルオロアルキル基含有(メタ)アクリレートであってもよく、さらにフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレートは、つぎの一般式で表わされるものであってもよい。
(式中、Rfは炭素数1〜21のフルオロアルキル基、B1は水素またはメチル基、A1は2価の有機基である。)
フルオロアルキル基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば以下のものが例示できる。
(式中、Rfは炭素数1〜21のフルオロアルキル基、R1は水素または炭素数1〜10のアルキル基、R2は炭素数1〜10のアルキレン基、R3は水素またはメチル基、Arは置換基を有することもあるアリーレン基、nは1〜10の整数である。)
限定されないフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレートの具体例をつぎに示す。
上記のフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレートは2種以上を混合して用いることももちろん可能である。
非フッ素系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリレートエステルが挙げられる。(メタ)アクリレートエステルは、(メタ)アクリル酸と、脂肪族アルコール、例えば、一価アルコールまたは多価アルコール(例えば、2価アルコール)とのエステルであってもよい。
非フッ素系モノマーとしては、例えば以下のものを例示できる。
2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、アルコキシポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートグリシジルメタクリレート、ヒドロキシプロピルモノメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、グリセロールモノメタクリレート、β−アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、β−メタクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、メタクリル酸ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、グルコシルエチルメタクリレート、メタクリルアミド、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレート、2−メタクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート等の(メタ)アクリレート類;スチレン、p−イソプロピルスチレン等のスチレン類;(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の(メタ)アクリルアミド類;ビニルアルキルエーテル等のビニルエーテル類。
さらに、エチレン、ブタジエン、酢酸ビニル、クロロプレン、塩化ビニルなどのハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、アクリロニトリル、ビニルアルキルケトン、無水マレイン酸、N−ビニルカルバゾール、ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
また、非フッ素系モノマーは、ケイ素系モノマー(例えば、(メタ)アクリロイル基含有アルキルシラン、(メタ)アクリロイル基含有アルコキシシラン、(メタ)アクリロイル基含有ポリシロキサン)であってよい。
重合体(c1)は、ラジカル重合法で製造できる。
重合体(c1)の重量平均分子量は比較的小さいものであり、3,000以上、さらには5,000以上、特に7,000以上であり、また30,000以下、さらには20,000以下、特に15,000以下であることが好ましい。
低熱容量の粒子(d)の熱容量としては、モル熱容量で7Ca/JK−1mol−1以下が好ましい。下限は通常6Ca/JK−1mol−1である。
かかる低熱容量粒子(d)としては、特に炭素の単体であるカーボンブラック、とりわけ結晶性のカーボンブラックが好ましい。
低熱容量粒子(d)の平均粒子径としては、分散性の点から2μm以上、12μm以下が好ましい。
溶媒(e)は、表面処理用組成物の各成分の均一な混合を容易にし、塗膜の形成を容易にし、さらに各種成分を撥水性バインダー樹脂(a)中に均一分散させる観点から有用である。したがって、溶媒(e)は他の成分(a)、(b)、(c)および(d)を考慮して選択される。
溶媒(e)としては水などの無機溶媒系でもよいが、上記観点から有機溶媒系が好ましい。有機溶媒系としては単一の溶媒でも2種以上の混合溶媒系でもよい。2種以上使用する場合は、極性有機溶媒と非極性有機溶媒を含むことが他の各成分をより一層均一に分散させ得る点から望ましい。
極性有機溶媒としては、たとえば酢酸ブチル、酢酸エチル、アセトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコールモノアルキルエーテルなどがあげられる。
非極性有機溶媒としては、たとえばトルエン、キシレン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンのほか、石油スピリッツであるターペンなどがあげられる。
特に酢酸ブチルと石油系溶剤(トルエン、キシレン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ターペンなど)とを混合使用することにより、得られる塗膜の滑水性を調節できる。混合割合は組み合わせる溶剤の種類によって異なり任意であるが、同じ重量か酢酸ブチルが多い方が滑水性が良好な点から好ましい。
本発明の表面処理用組成物における好ましい配合割合は、撥水性のバインダー樹脂(a)100重量部に対して(以下、特に断らない限り同じ)、PTFE粒子(b)は100重量部以上で200重量部以下であり、分散剤(c)は5重量部以上で30重量部以下である。低熱容量の粒子(d)は25重量部以上で200重量部以下、また溶媒(e)は400重量部以上で2000重量部以下とすることが好ましい。
ソーラーパネルカバーなど屋外で寒暖、日照の差により着氷と除氷が繰り返される用途の場合、塗膜の強度を高め長期に亘って滑落性を維持することが望まれる。そのためには、樹脂を架橋することが望ましい。架橋は、架橋剤を用いずに高エネルギー線などを照射しても達成できるが、バインダー樹脂(a)として化学的硬化性反応性基を有する樹脂を使用し、かつ架橋剤(f)を配合することが好ましい。
化学的硬化性反応性基を有するバインダー樹脂としては、前記の化学的硬化性反応性基を有するフッ素樹脂のほか、化学的硬化性反応性基を有するシリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
架橋剤としては、硬化反応性基を有する樹脂の硬化反応性基と反応して樹脂を硬化させるものであればよく、たとえばイソシアネート化合物、アミノ樹脂、酸無水物、ポリシラン化合物、ポリエポキシ化合物、イソシアネート基含有シラン化合物などが通常用いられる。
イソシアネート化合物としては、たとえば2,4−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、n−ペンタン−1,4−ジイソシアネート、これらの三量体、これらのアダクト体やビュレット体、これらの重合体で2個以上のイソシアネート基を有するもの、そのほかブロック化されたイソシアネート類などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
アミノ樹脂としては、たとえば尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、グリコールウリル樹のほか、メラミンをメチロール化したメチロール化メラミン樹脂、メチロール化メラミンをメタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類でエーテル化したアルキルエーテル化メラミン樹脂などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
酸無水物としては、たとえば無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水メリット酸などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
ポリシラン化合物としては、ケイ素原子に直接結合した加水分解性基およびSiOH基から選ばれる2個以上の基を有する化合物またはそれらの縮合物であり、たとえば特開平2−232250号公報、特開平2−232251号公報などに記載されている化合物が使用できる。具体例としては、たとえばジメチルジメトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジイソプロピルジプロポキシシラン、ジフェニルジブトキシシラン、ジフェニルエトキシシラン、ジエチルジシラノール、ジヘキシルジシラノール、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリブトキシシラン、ヘキシルトリアセトキシシラン、メチルトリシラノール、フェニルトリシラノール、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラアセトキシシラン、ジイソプロポキシジバレロキシシラン、テトラシラノールなどがあげられる。
ポリエポキシ化合物やイソシアネート基含有シラン化合物としては、たとえば特開平2−232250号公報、特開平2−232251号公報などに記載されている化合物が使用できる。好適な具体例としては、たとえばつぎの化合物が例示できる。
架橋剤(f)の配合量は、硬化反応性基含有バインダー樹脂中の硬化反応性基1当量に対して、0.1当量以上、好ましくは0.5当量以上、また5当量以下、好ましくは1.5当量以下である。
本発明において、硬化促進剤を使用することもできる。硬化促進剤としては、たとえば有機スズ化合物、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルとアミン化合物との反応生成物、アミン系化合物、オクチル酸鉛などがあげられる。硬化促進剤は単独でも2種以上併用してもよい。
硬化促進剤の配合量は、バインダー樹脂100重量部に対して、1.0×10−6重量部以上、好ましくは5.0×10−5重量部以上、また1.0×10−2重量部以下、好ましくは1.0×10−3重量部以下である。
かかる表面処理組成物は、塗膜を形成できる形態であれば種々の形態に調製できるが、塗膜の形成が容易な点から溶媒型塗料に調製するのが好ましく、塗装性や分散性の点から固形分濃度を5〜40重量%、特に15〜30重量%とするのが好ましい。また、本発明の目的を損なわない限り、顔料、他の樹脂類、流動調整剤、色分かれ防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの各種添加剤を配合してもよい。
溶媒型塗料としての表面処理用組成物の調製は、溶剤(e)に各成分を投入し、充分攪拌して行なう。攪拌方法としては特に限定されないが、超音波攪拌法や強制攪拌法などがPTFE粒子(b)や低熱容量粒子(d)などの粒子成分を容易に均一に分散できる点から好ましい。
塗装方法としては特に限定されず、たとえばディップコート法、バーコート法、ロールコート法、スプレー法などの方法が採用できる。塗布後、室温で乾燥するか、必要に応じて加熱乾燥させて硬化被膜を形成する。
塗膜の膜厚は適用部分によって適宜選定すればよいが、通常10μm以上、さらには30μm以上、また0.2mm以下、さらには0.1mm以下が好ましい。
塗布する基材は特に限定されず、着氷(雪)が問題となる器具、装置、設備、部品などによって決まる。たとえばアルミニウム、ステンレススチール、銅、各種合金、セラミックスなどがあげられる。
かくして得られる塗膜は、物品に表面部分(A)と(B)を与え、易氷雪剥離性を有するものである。
さらにこの塗膜は、物品の自由表面の滑落角(4μリットル水滴)を10度以下、さらに好ましくは5度以下にすることができ、また、塗膜表面の対水接触角を140度以上、さらには145度以上、特に150度以上にし、撥水性表面に形成された微小な水滴も容易に滑落し、着氷(雪)の核を形成させず、着氷(雪)を防止する効果を向上させるものである。
本発明の表面構造を採用する物品としては、着氷や着雪により損害が生じたり機能が低下したり、人に傷害を及ぼす恐れのある器具、装置、設備、建造物、それらの部分などがあげられる。
具体的には、つぎの物品に適用するときに優れた効果を発揮する。
屋外電気通信機器関係:
パラボラアンテナなどの各種アンテナ;通信用鉄塔;通信ケーブル;電線;送電用鉄塔
輸送車両関係:
船舶や列車などのデッキ;各種車両の乗降ステップ;パンタグラフ、トロリー線などの車両の外部突起物;航空機の翼;各種車両の外装
建造物関係:
屋根瓦、タイルなどのエクステリア類
その他:
ソーラーパネルカバー等
つぎに本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
実施例1
撥水性バインダー樹脂(a)としてダイキン工業(株)製のゼッフルGK−510を4.0g、PTFE粒子(b)としてセントラル硝子(株)製のセフラルルーブ(商品名。平均粒子径5〜10μmの変性PTFE。重量平均分子量1500〜20000)を4.0g、分散剤(c)としてダイキン工業(株)製のユニダインTG−656を4.0g、低熱容量粒子(d)としてカーボンブラック(シグマ・アルドリッチ製。平均粒子径2〜12μm)を2.0g用い、酢酸ブチル20gとヘプタン20gの混合溶媒に投入し、超音波攪拌により攪拌混合して表面処理用組成物を調製した。
得られた表面処理用組成物をアルミニウム板(JIS H4000のA1200系。100mm×100mm)上にスプレー法で塗装し、室温で1日間放置して硬化させた後、塗膜表面を洗浄ぜすに乾燥して試験用の塗板(塗膜の膜厚20〜30μm)を作製した。
この塗板について対水接触角および滑落角(4μリットル)を調べた。
(対水接触角測定)
JIS R3257に準じ、協和界面科学(株)製の接触角計(CA−VP、商品名)により、温度15〜20℃、相対湿度50〜70%で測定したところ、152.1度であった。
(滑落角測定法)
塗板を協和界面科学(株)製の接触角計(CA−VP、商品名)に水平に固定し、温度15〜20℃で相対湿度50〜70%の環境下に水平に載置された試料板上に蒸留水を4μリットル滴下して水滴を形成し、ついで試料板を角度0.1度ずつ傾斜させていき、水滴が転がり始めたときの試料板の角度(滑落角)を測定したところ、4.6度であった。
つぎに着氷(フロスト)−除氷(デフロスト)試験をつぎの要領で行なった。
(フロスト運転)
風洞内に試料板を鉛直に固定し、試料板の表面温度を−7±2℃に維持する。この風洞内に相対湿度87±3%の湿気を含んだ空気(温度7±0.2℃)を試料板の自由表面に平行に風速1m/秒で流し、試料板表面に強制的に着氷させる。フロスト運転は20分間続ける。
(デフロスト運転)
フロスト運転後直ちに試料表面温度を5℃に加熱しデフロスト運転を開始する。空気はフロスト運転時と同じものを同じ条件で流す。デフロスト運転は2分間続ける。
フロスト運転とデフロスト運転を1サイクルとし、これを連続して2サイクル行なう。
上記で得られた試料板についてフロスト−デフロスト試験を行なったところ、第1サイクルのフロスト運転開始から10分後に着氷が始まった。その状態をCCDカメラ(ELMO社製のCN401。商品名)で撮影した写真を図1(全体)および図2(拡大。倍率1.2倍。以下同様)に示す。また、フロスト運転終了時の着氷状態のCCD写真を図3(全体)および図4(拡大)に示す。形成された氷は綿状(針状結晶の集合体)であった。
第1サイクルのデフロスト開始後直後から着氷している氷が剥離し始めた。図5に全体写真を、図6に拡大写真を示す。2分後には完全に氷が試料表面から剥がれ落ちてしまった。また、デフロスト運転終了後の試料板表面には肉眼で観察できる水滴は認められなかった(全体写真の図7および拡大写真の図8参照)。
引き続く第2サイクルの運転開始6分後に着氷が始まった。第2サイクルのフロスト運転(20分間)終了後の試料板表面のCCD写真を図9(全体)および図10(拡大)に示す。ついで行なった第2サイクルのデフロスト運転ではデフロスト運転開始直後から氷が剥離し始め(全体写真の図11)、30秒後にはほぼ完全に剥離した(全体写真の図12)。第2サイクルのデフロスト終了時の写真(全体写真の図13および拡大写真の図14)に示すように、第2サイクル後にも試料板表面には肉眼で観察できる水滴は認められなかった。
比較例1
実施例1において、低熱容量粒子(d)を配合しなかったほかは同様にして調製した表面処理用組成物を用いて試料板を作製し、同様にしてフロスト→デフロスト試験(2サイクル)を行なった。
その結果、第1サイクルのフロスト運転開始から約5分後から着氷が始まり、10分後にはほぼ全面が氷結した(全体写真の図15および拡大写真の図16)。また、フロスト運転終了時の着氷状態のCCD写真を図17(全体)および図18(拡大)に示す。
第1サイクルのデフロスト開始直後から着氷している氷が融解し始め(全体写真の図19および拡大写真の図20)、2分後には完全に氷が融けた。また、デフロスト運転終了後の試料板表面には肉眼で観察できる大小の水滴が多数認められた(全体写真の図21および拡大写真の図22)。
引き続き行なった第2サイクルの運転開始6分後に着氷が始まり、大きな水滴も氷結した。第2サイクルのフロスト運転(20分間)終了後の試料板表面のCCD写真を図23(全体)および図24(拡大)に示す。水滴が氷結していることがわかる。ついで行なった第2サイクルのデフロスト運転ではデフロスト運転開始直後から氷が融解し始め(全体写真の図25)、1分後にはほぼ完全に融けたが、図26(全体)に示すようにさらに多くの大小の水滴が表面に残存していた。第2サイクルのデフロスト終了時の写真を図27(全体)および図28(拡大)として示す。
実施例2
化学的硬化性反応性基を含有するバインダー樹脂(ゼッフルGK−510)を4.0g、PTFE粒子(セフラルルーブ)を4.0g、分散剤(c)としてユニダインTG−656を4.0g、カーボンブラック粒子(シグマ・アルドリッチ社製)を2.0g、架橋剤(f)として旭化成(株)製のデュラネート24A−100(イソシアネート系架橋剤。商品名)を0.073g用い、酢酸ブチル/ヘプタン混合溶媒40g(1/1重量比)に投入し、超音波攪拌法により攪拌混合して表面処理用組成物を調製した。
得られた表面処理用組成物をアルミニウム板(JISH4000のA1200系。100mm×100mm)上にスプレー法で塗装し、室温で24時間放置して硬化させた後、塗膜表面を洗浄せずに乾燥して試験用の塗板(塗膜の膜厚20μm)を作製した。
この塗板について、対水接触角および滑落角(4μリットル)を実施例1と同様にして調べたところ、対水接触角=157.9度および滑落角(4μリットル)=3.5度であった。
さらに鉛筆硬度をJIS K5600−5−4(1999)に従って調べたところ、3Bであった。なお、参考までに測定した実施例1で得た塗膜の鉛筆硬度は5Bであった。
また、実施例1と同様にしてフロスト−デフロスト試験に供したところ、第2サイクルのデフロスト運転開始直後から氷が剥離し始め(全体写真の図29)、30秒後にはほぼ完全に剥離し、第2サイクル後にも試料板表面には肉眼で観察できる水滴は認められなかった。
産業上の利用可能性
本発明の表面構造によれば、少ないエネルギーで表面に着氷(雪)した氷または雪が容易に自重によって剥離可能な物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1で形成した本発明の表面構造を有する試料板表面に着氷する状況を説明するための写真であり、フロスト−デフロスト試験の第1サイクルにおけるフロスト開始10分後のCCD写真(全体)である。
図2は、図1の拡大(1.2倍)写真である。
図3は、実施例1で形成した本発明の表面構造を有する試料板表面に着氷する状況を説明するための写真であり、フロスト−デフロスト試験の第1サイクルにおけるフロスト運転終了時のCCD写真(全体)である。
図4は、図3の拡大(1.2倍)写真である。
図5は、実施例1で形成した本発明の表面構造を有する試料板表面から着氷が剥離する状況を説明するための写真であり、フロスト−デフロスト試験の第1サイクルにおけるデフロスト開始直後のCCD写真(全体)である。
図6は、図5の拡大(1.2倍)写真である。
図7は、実施例1で形成した本発明の表面構造を有する試料板表面から着氷が剥離する状況を説明するための写真であり、フロスト−デフロスト試験の第1サイクルにおけるデフロスト運転終了時のCCD写真(全体)である。
図8は、図7の拡大(1.2倍)写真である。
図9は、実施例1で形成した本発明の表面構造を有する試料板表面に着氷する状況を説明するための写真であり、フロスト−デフロスト試験の第2サイクルにおけるフロスト終了時のCCD写真(全体)である。
図10は、図9の拡大(1.2倍)写真である。
図11は、実施例1で形成した本発明の表面構造を有する試料板表面から着氷が剥離する状況を説明するための写真であり、フロスト−デフロスト試験の第2サイクルにおけるデフロスト開始直後のCCD写真(全体)である。
図12は、実施例1で形成した本発明の表面構造を有する試料板表面から着氷が剥離する状況を説明するための写真であり、フロスト−デフロスト試験の第2サイクルにおけるデフロスト開始30秒後のCCD写真(全体)である。
図13は、実施例1で形成した本発明の表面構造を有する試料板表面から着氷が剥離する状況を説明するための写真であり、フロスト−デフロスト試験の第2サイクルにおけるデフロスト運転終了時のCCD写真(全体)である。
図14は、図13の拡大(1.2倍)写真である。
図15は、比較例1で形成した比較用の表面構造を有する試料板表面に着氷する状況を説明するための写真であり、フロスト−デフロスト試験の第1サイクルにおけるフロスト開始10分後のCCD写真(全体)である。
図16は、図15の拡大(1.2倍)写真である。
図17は、比較例1で形成した比較用の表面構造を有する試料板表面に着氷する状況を説明するための写真であり、フロスト−デフロスト試験の第1サイクルにおけるフロスト運転終了時のCCD写真(全体)である。
図18は、図17の拡大(1.2倍)写真である。
図19は、比較例1で形成した比較用の表面構造を有する試料板表面で着氷が融ける状況を説明するための写真であり、フロスト−デフロスト試験の第1サイクルにおけるデフロスト開始直後のCCD写真(全体)である。
図20は、図19の拡大(1.2倍)写真である。
図21は、比較例1で形成した比較用の表面構造を有する試料板表面で着氷が融ける状況を説明するための写真であり、フロスト−デフロスト試験の第1サイクルにおけるデフロスト運転終了時のCCD写真(全体)である。
図22は、図21の拡大(1.2倍)写真である。
図23は、比較例1で形成した比較用の表面構造を有する試料板表面に着氷する状況を説明するための写真であり、フロスト−デフロスト試験の第2サイクルにおけるフロスト終了時のCCD写真(全体)である。
図24は、図23の拡大(1.2倍)写真である。
図25は、比較例1で形成した比較用の表面構造を有する試料板表面で着氷が融ける状況を説明するための写真であり、フロスト−デフロスト試験の第2サイクルにおけるデフロスト開始直後のCCD写真(全体)である。
図26は、比較例1で形成した比較用の表面構造を有する試料板表面で着氷が融ける状況を説明するための写真であり、フロスト−デフロスト試験の第2サイクルにおけるデフロスト開始1分後のCCD写真(全体)である。
図27は、比較例1で形成した比較用の表面構造を有する試料板表面で着氷が融ける状況を説明するための写真であり、フロスト−デフロスト試験の第2サイクルにおけるデフロスト運転終了時のCCD写真(全体)である。
図28は、図27の拡大(1.2倍)写真である。
図29は、実施例2で形成した本発明の表面構造を有する試料板表面から着氷が融ける状況を説明するための写真であり、フロスト−デフロスト試験の第2サイクルにおけるデフロスト開始直後のCCD写真(全体)である。
Claims (13)
- つぎの特性(1)を満たす自由表面を有する物品の易氷雪剥離性の表面構造。
(1)温度が空気の露点以下に維持されている物品の自由表面に形成される氷の結晶が綿状に繋がっている。 - つぎの特性(2)を満たす自由表面を有する物品の易氷雪剥離性の表面構造。
(2)物品の自由表面に着氷または着雪した氷または雪の結晶が、氷もしくは雪および/または物品に熱エネルギーまたは機械的エネルギーが加わることにより自重で自由表面から剥離する。 - 物品の自由表面が、表面特性の異なる少なくとも2種類の表面部分を含む請求の範囲第1項または第2項記載の表面構造。
- 少なくとも1種類の表面部分が撥水性である請求の範囲第3項記載の表面構造。
- 表面特性の異なる2種類の表面部分(A)および表面部分(B)を含む自由表面を有する物品の表面構造であって、該自由表面がつぎの特性(3)および(4)で定義される表面特性を満たす物品の易氷雪剥離性の表面構造。
(3)前記物品の自由表面全体に氷結または着雪させたのちに該自由表面を加熱した場合、表面部分(A)と接した氷または雪の界面部分の融解が表面部分(B)と接した氷または雪の界面部分の融解に先じて生じる。
(4)前記物品の自由表面全体に氷結または着雪させたのちに該自由表面を加熱した場合、表面部分(A)上の氷または雪の結晶の少なくとも一部と表面部分(B)上の氷または雪の結晶の少なくとも一部とが連なって自重により自由表面から剥離する。 - 物品が基材と被覆層とからなる積層体であり、前記自由表面が該被覆層の自由表面である請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の表面構造。
- 物品が単一の成形品であり、前記自由表面が該成形品の自由表面である請求の範囲第1項〜第5項のいずれかに記載の表面構造。
- 被覆層が被覆組成物を塗工して得られる層である請求の範囲第6項記載の表面構造。
- 被覆層がフィルムまたはシートを積層して得られる層である請求の範囲第6項記載の表面構造。
- 成形品がフィルムまたはシートである請求の範囲第7項記載の表面構造。
- 成形品が輪郭を有する製品である請求の範囲第7項記載の表面構造。
- 易氷雪剥離性の表面が、基材に被覆組成物を塗工することにより得られる請求の範囲第5項、第6項または第8項記載の表面構造。
- 易氷雪剥離性の表面が、物品の自由表面を物理的または化学的に加工して得られる請求の範囲第1項〜第11項のいずれかに記載の表面構造。
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