JPWO2003062427A1 - インスリン抵抗性改善薬のスクリーニング法 - Google Patents
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Abstract
インスリン抵抗性改善薬をスクリーニングするのに有用なツールとなるリガンド依存的にPPARと相互作用する蛋白質をスクリーニングする方法を開示する。前記方法により、主作用リガンド依存性PPAR結合分子ECHLP、主作用リガンド選択的PPARγ作用因子FLJ13111及び副作用リガンド依存性PPAR結合分子AOP2を得た。PPAR相互作用ECHLP、PPAR相互作用FLJ13111及びPPAR相互作用AOP2を用いることにより、主作用を選択的にもたらして副作用を引き起こさないインスリン抵抗性改善薬のスクリーニング系を構築しこれを開示する。また、前記スクリーニング方法により得ることができる、PPARの主作用促進剤、PPARの主作用特異的アゴニスト、PPARの主作用を促進するPPAR相互作用ECHLP阻害剤、PPARγの副作用を抑制する物質、PPARγの副作用を抑制するPPAR相互作用AOP2阻害剤、PPARの主作用を促進するPPAR相互作用FLJ13111活性化剤、又はFLJ13111発現亢進剤を有効成分とするインスリン抵抗性改善用医薬組成物の製造方法を開示する。
Description
技術分野
本発明は、リガンド依存的にPPARと相互作用する蛋白質をスクリーニングする方法、該蛋白質を利用したインスリン抵抗性改善薬のスクリーニング方法に関する。
背景技術
インスリン抵抗性改善薬として効果が認められているチアゾリジン誘導体はペルオキシソーム増殖剤応答性受容体ガンマ(peroxisome proliferator activated receptor:PPARγ)のアゴニストとして作用することが示されている(非特許文献1参照)。チアゾリジン誘導体のPPARγとの親和性は生体内の血糖降下作用と相関することから、該化合物群のインスリン抵抗性改善作用はPPARγを介した作用であると考えられている(非特許文献2参照)。このためPPARγのアゴニストの検出方法はインスリン抵抗性糖尿病治療薬をスクリーニングする有効な手法であると考えられてきた。
糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンの作用不足から引き起こされるが主に2つのタイプが存在する。1型糖尿病と呼ばれるものは膵臓のβ細胞が破壊されて発病し、治療にはインスリンを必要とする。一方で2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)は遺伝的な要素に過食や運動不足、ストレスなど、身体に負担となる生活習慣が加わり発病する。日本人の糖尿病では1型はごくわずかで2型が大部分を占めており、2型糖尿病患者ではインスリンによる糖代謝促進が起こりにくいインスリン抵抗性が生じている。そのため糖尿病の治療薬には単純な血糖降下剤のみでなく、インスリン抵抗性改善により糖代謝を促進する2型糖尿病の治療を対象とした研究が進められてきた。
PPARは核内受容体スーパーファミリーに属し、リガンドの結合によって活性化される転写促進因子として標的遺伝子上流にある応答配列に結合し、その転写を誘導することが知られている(非特許文献3参照)。
PPARには3つのサブタイプの存在が知られており、PPARα、PPARβ、PPARγと称する(非特許文献4−5参照)。更に、種々の化合物について、PPARのサブタイプの活性化やその血糖、あるいは脂質低下作用についての報告がなされている。例えば、糖尿病治療薬であるチアゾリジン誘導体はPPARγのリガンドであり、血清中のトリグリセリドレベルを有意に低下させることが知られている(非特許文献6−9参照)。一方、古くから脂質低下薬として用いられているフィブレート系薬剤は、PPARαのリガンド効果を有することが知られており、臨床では、強い血清トリアシルグリセロールレベルの低下が認められている(非特許文献10−11参照)。
PPARγアゴニストは細胞の増殖を停止し、細胞分化を促進することが報告されている(非特許文献12参照)。PPARγは特に脂肪組織で発現が認められ(非特許文献13−14参照)、ホモ欠損型マウスでは脂肪細胞の分化誘導が起こらない。またPPARγのアゴニストとして作用するチアゾリジン誘導体の投与は大型脂肪細胞の減少と小型脂肪細胞の増加を引き起こす(非特許文献15参照)。以上の知見から、チアゾリジン誘導体がインスリン抵抗性を改善する機構はPPARγアゴニストが急速に脂肪細胞の分化を促進する結果、インスリン抵抗性誘発原因物質であるTNFαの産生抑制、末梢組織でのグルコーストランスポーター発現の促進、遊離脂肪酸産生の抑制が起こり、結果、細胞内への糖取り込みが亢進して高血糖が改善されると考えられている。(非特許文献16参照)。
近年チアゾリジン誘導体を用いた臨床での知見から、PPARγのアゴニスト作用を持つ従来の合成リガンドは、インスリン抵抗性改善作用のみでなく、いずれも生体内の循環血漿量を増大させて浮腫を惹起することが報告された(非特許文献17−18参照)。このPPARγの合成アゴニストによる浮腫の惹起は心肥大等をもたらす重篤な副作用であり、インスリン抵抗性改善という主作用との乖離が強く望まれている。しかしながら、これまでPPARγとリガンドの複合体がどのようなシグナル経路を介して前述の脂肪細胞の分化及びインスリン抵抗性改善と、浮腫の惹起という異なる応答を誘導するのか、そこに至る分子メカニズムは解明されていない。
PPARの転写因子活性には他の核内受容体同様に転写共役因子群との相互作用が必要であり、PPARと相互作用する因子を同定しようとする試みがなされて来た。実際に、生化学的な手法により、既存の核内受容体相互作用因子とPPARγとの結合が調べられており、SRC−1(非特許文献19参照)、CBP/p300(非特許文献20参照)、DRIP205、TRAP220(非特許文献21参照)、SMRT(非特許文献22参照)、Gadd45(非特許文献23参照)、RIP140(非特許文献24参照)など複数の分子がPPARγと相互作用することが報告されている。同じく生化学的な手法で、レチノイドXレセプター(RXR:retinoid X receptor)がPPARとリガンドの存在依存的にヘテロダイマーを形成し、標的遺伝子上流の応答配列に結合することが報告されている(非特許文献25参照)。しかしながら、これらの共役因子群のアゴニスト依存性や、下流のシグナル経路にどのように関わるか、その詳細な機構は明らかでない。
一方、新規の核内受容体の相互作用因子を網羅的に探索する方法として、リガンドを介在させた、酵母ツーハイブリッドシステム(Yeast Two−hybrid system)(非特許文献26参照)を用いる手法が広く用いられてきたが、ことPPARγに関してはこれまで酵母ツーハイブリッドシステムでリガンド依存的な結合因子を見つけることが困難であった。リガンドを介在させない酵母ツーハイブリッドシステムでPPARγ結合因子を探索した結果では、PBP(非特許文献27参照)、PGC−1(非特許文献28参照)、PGC−2(非特許文献29参照)、SHP(非特許文献30参照)などのPPARγ結合因子が報告されているが、いずれの因子もリガンドの非存在下においてもPPARγと相互作用しており、明らかなリガンド依存的PPARγ結合因子は得られてこなかった。また酵母ツーハイブリッドシステムでPPARγと相互作用因子の結合におけるリガンド依存性を検出したとするわずかな報告例は、いずれも既存の核内受容体の相互作用因子をPPARγとともに発現させた酵母を培養、濃縮して相互作用を検出したもので(特許文献1及び非特許文献24参照)、cDNAライブラリーから明らかなリガンド依存性を有するPPARγの相互作用因子を、酵母ツーハイブリッドシステムでスクリーニングすることに成功した事例はなかった。例えば、上述のGadd45及びPGC−1は、サブタイプのPPARαを含めて核内受容体とのリガンド依存的な相互作用が酵母ツーハイブリッドシステムで検出されているにもかかわらず、PPARγに関しては生化学的手法でしかリガンド依存性が見られない(非特許文献24参照)。生化学的手法と酵母を用いる手法では感度、プローブ対相互作用因子の比率が異なるため、PPARγリガンドの作用を酵母ツーハイブリッドシステムでは効率よく検出できないと説明されてきた(非特許文献24参照)。しかし生化学的な手法は1対の蛋白質間の相互作用を検出するのには適しているが、特定の蛋白質に相互作用する蛋白質を網羅的に検索することが困難である。一方酵母ツーハイブリッドシステムでは特定の蛋白質と相互作用する蛋白質をライブラリー中から検索することが可能である。
以上述べたように、浮腫の惹起という副作用とインスリン抵抗性改善という主作用との乖離が強く望まれていながら、そこに至る分子メカニズムは解明されておらず、メカニズムの解明と副作用の少ないインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングする方法が待望されていた。
一方、ECHLP/Ech1は分子内に脂肪酸代謝に働くエノイルCoA加水酵素(enoyl−CoA hydratase)とジエノイルCoA異性化酵素(dienoyl−CoA isomerase)の2種類の酵素活性領域と予想される構造を有しており(非特許文献31参照)、配列に関して種々の報告があるが(特許文献2−7参照)、その生理機能は明らかではなかった。AOP2は分子内にペルオキシダーゼ様配列を持つことから抗オキシダント蛋白質2(anti−oxidant protein 2:Genbankアクセッション番号XM_001415)と呼称されており配列に関して種々の報告がある(特許文献8−12参照)。実際の生理活性としてはカルシウム非依存性のフォスフォリパーゼA2として機能する報告があり(非特許文献32参照)、またマウスでは同Aop2蛋白質の遺伝子座が多嚢胞性腎症の原因遺伝子として報告されている(非特許文献33参照)。このようにAOP2はそのアミノ酸配列構造から予想される分子機能とは異なる作用を持つことが明らかであり、その本来の生理機能は確定されていない。FLJ13111の配列に関する報告はあるが(特許文献13−14参照)、FLJ13111は機能未知の蛋白質であり、アミノ酸配列から分子内に細胞核内の存在を示唆する核標的配列やグリコシル化を受けうる部位の存在が予想される他はアミノ酸配列構造から分子機能を示唆する情報はなかった。
(特許文献1)特開平11−56369号公報
(特許文献2)国際公開第00/55350号パンフレット
(特許文献3)国際公開第02/29103号パンフレット
(特許文献4)国際公開第02/00677号パンフレット
(特許文献5)国際公開第01/49716号パンフレット
(特許文献6)国際公開第00/37643号パンフレット
(特許文献7)国際公開第01/75067号パンフレット
(特許文献8)国際公開第98/43666号パンフレット
(特許文献9)国際公開第02/12328号パンフレット
(特許文献10)国際公開第02/29086号パンフレット
(特許文献11)国際公開第02/06317号パンフレット
(特許文献12)国際公開第01/55301号パンフレット
(特許文献13)欧州特許出願公開第1074617号明細書
(特許文献14)国際公開第00/58473
(非特許文献1)J.Biol.Chem.,1995年,第270巻,p.12953−12956
(非特許文献2)J.Med.Chem.,1996年,第39巻,p.665−668
(非特許文献3)Cell,1995年,第83巻,p.835−839
(非特許文献4)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1994年、第91巻、p.7355−7359
(非特許文献5)蛋白質・核酸・酵素,1995年,第40巻,第13号、p.50−55
(非特許文献6)Diabetes,1997年,第46巻,p.433−439
(非特許文献7)Diabetes Care,1996年,第19巻,第2号,p.151−156
(非特許文献8)Diabetes Care,1992年,第15巻,第2号,p.193−203
(非特許文献9)Diabetologia,1996年,第39巻,p.701−709
(非特許文献10)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1997年,第94巻、p.4312−4317
(非特許文献11)Drugs,1990年,第40巻,第2号,p.260−290
(非特許文献12)Jpn.J.Cancer Res.,1999年,第90巻,p.75
(非特許文献13)Genes and Dev.,1994年,第8巻,p.1224−1234
(非特許文献14)Cell,1994年,第79巻,p.1147−1156
(非特許文献15)Mol.Cell,1999年,第4巻,p.597−609
(非特許文献16)J.Biol.Chem.,1995年,第270巻,p.12953−12956
(非特許文献17)Diabetes Frontier,1999年,第10巻,p.811−818
(非特許文献18)Diabetes Frontier,1999年,第10巻,p.819−824
(非特許文献19)Gene Expr.,1996年,第6巻,p.185−195
(非特許文献20)J.Biol.Chem.,1999年,第274巻,p.7681−7688
(非特許文献21)Mol.Cell.Biol.,2000年,第20巻,p.8008−8017
(非特許文献22)Pro.Natl.Acad.Sci.USA,1998年,第95巻,p.2920−2925
(非特許文献23)Biochem.Biophys.Res.Commun.,2000年,第272巻,第1号,p.193−198
(非特許文献24)Mol Endocrinol.,1998年,第12巻,第6号,p.864−881
(非特許文献25)Ann.Rev.Cell Dev.Biol.,1996年,第12巻,p.335−363
(非特許文献26)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1991年,第88巻,p.9578−9582
(非特許文献27)J.Biol.Chem.,1999年,第274巻,p.7681−7688
(非特許文献28)Cell,1998年,第92巻,p.829−839
(非特許文献29)EMBO J.,1999年,第18巻,第13号,p.3676−3687
(非特許文献30)Biochim.Biophys.Acta.,1997年,第1巻,第1350号,p.27−32
(非特許文献31)J.Biol.Chem.,1998年,273巻1号:p.349−355
(非特許文献32)J.Biol.Chem.,1997年,272巻16号p.10981
(非特許文献33)Genomics,1997年,42巻3号p.474−478
発明の開示
本発明者らは、酵母ツーハイブリッドシステムに、活性の高いPPARγアゴニストを高濃度で介在させる独自の手法により、糖代謝改善作用(主作用)惹起効果の高いアゴニストの存在に依存してPPARγに結合する蛋白質群、および浮腫(副作用)惹起効果の高いアゴニストの存在に依存してPPARγに結合する蛋白質群を同定した。その結果、主作用アゴニストに依存してPPARγに結合する分子として、ECH−1(enoyl−CoA hydratase)様蛋白質(enoyl−CoA hydratase like protein:ECHLP)を、副作用アゴニストに依存してPPARγに結合する分子として、ヒト抗オキシダント蛋白質2(anti−oxidant protein 2またはnon−selenium glutathione peroxidase,acidic calcium−independent phospholipase A2;Genbankアクセッション番号XM_001415、以下AOP2と略記する)を見出した。
細胞中でECHLPが過剰に発現するとリガンド依存的なPPARγの転写誘導活性を顕著に抑制することを見出した。さらに同蛋白質は糖尿病モデルマウスにおいて血糖値の変動に関わらず発現量が亢進していることを遺伝子チップ法で測定し、同蛋白質が糖尿病態の原因因子であることを確認した。また、細胞中でAOP2が過剰に発現するとリガンド依存的なPPARγの転写誘導活性を顕著に促進することを見出した。さらにAOP2は糖尿病モデルマウスにおいてその蛋白質量が増大していることを2次元電気泳動法で検定し、糖尿病態における同蛋白質の過剰な存在が、PPARγを介して浮腫をもたらす特定の遺伝子群の発現を亢進させることを確認した。
同様に上記の酵母ツーハイブリッドシステムに活性の高いPPARγアゴニストを高濃度で介在させる独自の手法により、主作用アゴニストに依存してPPARγに結合する分子として、FLJ13111(GenBankアクセッション番号AK023173)を見出した。さらに細胞中でFLJ13111蛋白質が過剰に発現すると主作用アゴニストに依存してPPARγの転写誘導活性が顕著に亢進することを見出した。さらに、FLJ13111遺伝子は、糖尿病モデルマウスの筋肉において発現が顕著に減少していることを確認した。FLJ13111のプロモーター領域を新規に取得し、FLJ13111のプロモーターアッセイを構築した。該アッセイは、PPARγ蛋白質を利用せずにPPARγリガンドあるいはインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングするために利用できる。
これらの知見をもとにして、PPARを介して主作用に特異的に寄与し、副作用を惹起しない物質を検出する新しいインスリン抵抗性改善薬の同定およびスクリーニング方法を提供し本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1)糖代謝改善作用惹起効果の高いPPARリガンド存在下で、バイト(bait)として配列番号2で表されるPPARγ蛋白質の少なくとも第204番目から505番目を含む領域をコードするポリヌクレオチドを用い、プレイ(prey)としてcDNAライブラリーを用いる酵母ツーハイブリッドシステムを利用した、リガンド依存的にPPARγと相互作用する蛋白質をスクリーニングする方法、
(2)浮腫惹起効果の高いPPARリガンド存在下で、バイト(bait)として配列番号2で表されるPPARγ蛋白質の少なくとも第204番目から505番目を含む領域をコードするポリヌクレオチドを用い、プレイ(prey)としてcDNAライブラリーを用いる酵母ツーハイブリッドシステムを利用した、リガンド依存的にPPARγと相互作用する蛋白質をスクリーニングする方法、
(3)i)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ii)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質の少なくともリガンド結合領域と転写因子のDNA結合領域とからなる融合蛋白質をコードする遺伝子、及び、iii)前記転写因子のDNA結合領域が結合し得る応答配列に融合されたレポーター遺伝子により形質転換された細胞、
あるいは、
i)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及びii)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質が結合し得る応答配列に融合されたレポーター遺伝子により形質転換され、a)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチド、及び、b)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質を発現している細胞、
(4)i)配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号8で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ii)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質の少なくともリガンド結合領域と転写因子のDNA結合領域からなる融合蛋白質をコードする遺伝子、及び、iii)該転写因子のDNA結合領域が結合し得る応答配列に融合されたレポーター遺伝子により形質転換された細胞、
あるいは、
i)配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号8で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及びii)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質が結合し得る応答配列に融合されたレポーター遺伝子により形質転換され、a)配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号8で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチド、及び、b)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質を発現している細胞、
(5)転写因子が酵母のGAL4蛋白質である(3)または(4)記載の細胞、
(6)レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である(3)または(4)記載の細胞、
(7)i)(3)に記載の細胞、PPARリガンド、及び被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として該リガンド依存的な相互作用の変化または該リガンド依存的なPPARの転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴とする、被験物質がPPARを介した糖代謝改善作用を促進するか否かを検出する方法、
(8)i)(3)に記載の細胞、PPARリガンド、及び被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として該リガンド依存的な相互作用の変化または該リガンド依存的なPPARの転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴とする、インスリン抵抗性改善薬をスクリーニングする方法、
(9)インスリン抵抗性改善薬が糖代謝改善剤である(8)記載のスクリーニング方法、
(10)i)(4)に記載の細胞に被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として該被験物質による相互作用の変化または該被験物質によるPPARの転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴とする、被験物質がPPARを介する浮腫惹起活性を促進するか否かを検出する方法、
(11)i)(4)に記載の細胞に被験物質を接触させる工程、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として該被験物質による相互作用の変化または該被験物質によるPPARの転写活性誘導活性の変化を分析する工程、及びiii)レポーター活性を増大させない被験物質を選択する工程を含むことを特徴とする、浮腫惹起活性のないインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングする方法、
(12)インスリン抵抗性改善薬が糖代謝改善剤である(11)記載のスクリーニング方法
(13)i)配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ii)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質の少なくともリガンド結合領域と転写因子のDNA結合領域とからなる融合蛋白質をコードする遺伝子、及び、iii)前記転写因子のDNA結合領域が結合し得る応答配列に融合されたレポーター遺伝子により形質転換された細胞、
あるいは、
i)配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及びii)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質が結合し得る応答配列に融合されたレポーター遺伝子により形質転換され、a)配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチド、及び、b)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質を発現している細胞、
(14)i)(13)に記載の細胞に被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として該被験物質による相互作用の変化または該被験物質によるPPARの転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴とする、被験物質がPPARを介した糖代謝改善作用を促進するか否かを検出する方法、
(15)i)(13)に記載の細胞に被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として該被験物質による相互作用の変化または該被験物質によるPPARの転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴とする、インスリン抵抗性改善薬をスクリーニングする方法、
(16)インスリン抵抗性改善薬が糖代謝改善剤である(15)記載のスクリーニング方法、
(17)i)配列番号26で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、あるいは配列番号26で表される塩基配列において、1〜10個の塩基が欠失、置換、及び/または挿入されたポリヌクレオチド配列を含みかつ転写プロモーター活性を有するポリヌクレオチド
に融合されたレポーター遺伝子により形質転換された細胞に被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として被験物質による転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴とする、インスリン抵抗性改善薬をスクリーニングする方法、
(18)レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である(17)に記載の方法、
(19)(8)、(11)、(15)及び/又は(17)に記載のスクリーニング方法を用いてスクリーニングする工程、及び
前記スクリーニングにより得られた物質を用いて製剤化する工程
を含むことを特徴とする、インスリン抵抗性改善用医薬組成物の製造方法
に関する。
配列番号4からなるECHLPの全長又は部分配列と高い相同性を有するアミノ酸配列及び該配列をコードする塩基配列については種々の報告(WO00/55350、WO02/29103、WO02/00677、WO01/49716、WO00/37643、WO01/75067)があるが、いずれにもECHLPがインスリン抵抗性に関与するとの記載はない。配列番号8からなるAOP2の全長又は部分配列及びそれらと高い相同性を有するアミノ酸配列及び該配列をコードする塩基配列については種々の報告(WO98/43666、Antioxid Redox Signal.1999 Winter;1(4):571−84.Review.、WO200212328、WO200229086、WO200206317)があるが、いずれにもAOP2がインスリン抵抗性に関与するとの記載はない。WO01/55301には本発明者らが同定したAOP2と同一の配列が示され、該配列の機能を調整する物質の用途として多数の疾患の治療が列挙された中に糖尿病治療が含まれるが、該配列が糖尿病に関与するとの裏付けの実施例及び記載はない。配列番号17からなるFLJ13111と同一のアミノ酸配列及び該配列をコードする塩基配列については、EP1074617において開示されているが、同報告においてはFLJ13111の関与する特定の疾患名の記載がない。FLJ13111の塩基配列と相同性を有する配列はWO00/58473に開示されており、該配列の機能を調整する物質の用途として多数の疾患の治療が列挙された中に糖尿病治療が含まれるが、該配列が糖尿病に関与するとの裏付けの実施例及び記載はない。従って、ECHLP、AOP2、及びFLJ13111がPPARと結合することは本発明者らが初めて見出した知見であり、更には、これらを用いることによりPPARを介して主作用に特異的に寄与し、副作用を惹起しない物質を検出する新しいインスリン抵抗性改善薬スクリーニングは本願発明者らが初めて行った発明である。
発明を実施するための最良の形態
本発明で使用される用語につき説明する。
本明細書中で使用される「主作用」は「糖代謝改善作用」を、「副作用」は「浮腫を惹起する作用」を表す。糖代謝改善作用とは、細胞内に血液中の糖(グルコース)を取り込んでエネルギーとして消費したり、グリコーゲンのようなエネルギー貯蔵物質として蓄積する機能を促進する作用をいう。浮腫を惹起する作用とは、細胞外液が間質に蓄積、貯留して浮腫(むくみ)を惹起させる効果をいう。「主作用リガンド」は「糖代謝改善作用(主作用)惹起効果の高いリガンド」を、「副作用リガンド」は「浮腫(副作用)惹起効果の高いリガンド」を表す。糖代謝改善作用惹起効果の高いリガンドとしては、Miwa Iらの血糖測定法(Clin Chim Acta 37巻538頁1972年)において、より好ましくは、実施例1の条件の下で、対照群に比較して血糖値を25%低下させるのに必要な化合物濃度が従来型のPPARγリガンド(例えばピオグリタゾン)に比較して、5分の1以下の低濃度、より好ましくは、10分の1以下の低濃度であるものが好ましい。例えば、後述のGW−7282やGI−262570などを例示できる。なおMiwa Iらの血糖測定法とは、ムタローゼとグルコースオキシダーゼを組み合わせた酵素法により血糖値を測定するものである。浮腫惹起効果の高いリガンドとしては、Brizzee BLらの循環血漿量測定法(J.Appl.Physiol.69(6):2091−2096,1990)において、より好ましくは実施例1の条件の下で、100mg/kgの化合物を投与したときに二週間で対照群に比較して25%以上の循環血漿量の増大をもたらすもの、あるいは従来型のPPARγリガンド(例えばピオグリタゾン)に比較して15%以上の循環血漿量の増大をもたらすものが好ましい。例えば、後述のGW−7282やGL−100085などを例示できる。「試験用細胞」は「PPARとPPAR相互作用ECHLPとのリガンド依存的な相互作用をレポーター遺伝子の発現を指標として測定できる細胞」、「PPARとPPAR相互作用AOP2とのリガンド依存的な相互作用をレポーター遺伝子の発現を指標として測定できる細胞」、または「PPARとPPAR相互作用FLJ13111とのリガンド依存的な相互作用をレポーター遺伝子の発現を指標として測定できる細胞」を表す。「酵母ツーハイブリッドシステム」は、酵母の転写活性化因子にはDNA結合領域と転写活性化領域が存在し、転写活性化の開始には両者の相互作用が必要であることを利用し、▲1▼前記DNA結合領域に結合させた標的蛋白質と▲2▼前記転写活性化領域に結合させた蛋白質の相互作用を検出するシステムである。酵母ツーハイブリッドシステムにおいて、バイト(bait)はDNA結合領域に結合させた標的蛋白質を、プレイ(prey)は転写活性化領域に結合させた蛋白質を示す。「cDNAライブラリー」とは、細胞内で合成されている数万種類のmRNA(遺伝子情報の写しでタンパク質のアミノ酸配列を指令する)を抽出・分離し、逆転写酵素によりそのmRNAに相補なDNAを合成し、末端の加工をへてベクターへ組み込んだものである。本明細書において、「PPARリガンド結合領域」はPPARのリガンドが結合する領域であって、配列番号2記載のヒトPPARγ2アミノ酸配列では第204番から第505番目までを含む領域、ヒトPPARαアミノ酸配列では第167番から第468番目までを含む領域をそれぞれ示す。「DNA結合領域」は、DNAに結合するために機能する領域であり、応答配列に対するDNA結合能を有するが、単独で転写活性化能を有しないものを示す。GAL4転写因子のDNA結合領域は、N末端側(およそ第1番目から147番目までのアミノ酸を含む領域)に存在する。
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書の試験用細胞作製用のPPAR相互作用蛋白質遺伝子に含まれるポリヌクレオチドによりコードされるPPAR相互作用ポリペプチドには、
(1)配列番号4、配列番号8、または配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号4、配列番号8、または配列番号17で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARに結合する蛋白質であるポリペプチド(以下、機能的等価改変体と称する);及び
(3)配列番号4、配列番号8または配列番号17で表されるアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、リガンド依存的にPPARに結合する蛋白質であるポリペプチド(以下、相同ポリペプチドと称する);
が含まれる。
機能的等価改変体としては、「配列番号4、配列番号8、または配列番号17で表されるアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARに結合する蛋白質であるポリペプチド」、「配列番号4または配列番号17で表されるアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、主作用リガンド依存的にPPARに結合する蛋白質であるポリペプチド」あるいは「配列番号8で表されるアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、副作用リガンド依存的にPPARに結合する蛋白質であるポリペプチド」が好ましい。
相同ポリペプチドは、配列番号4、配列番号8、または配列番号17で表されるアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、リガンド依存的にPPARに結合する蛋白質である限り、特に限定されるものではないが、配列番号4または配列番号17で表されるアミノ酸配列に関して、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなることができ、好ましくは主作用リガンド依存的にPPARに結合する蛋白質であり、配列番号8で表されるアミノ酸配列に関して、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなることができ、好ましくは副作用リガンド依存的にPPARに結合する蛋白質である。なお、本明細書における前記「相同性」とは、Clustal program(Higgins and Sharp、Gene 73、237−244、1998;Thompson et al.Nucleic Acid Res.22、4673−4680、1994)検索によりデフォルトで用意されているパラメータを用いて得られた値を意味する。前記のパラメータは以下のとおりである。
Pairwise Alignment Parametersとして
K tuple 1
Gap Penalty 3
Window 5
Diagonals Saved 5
以上、本明細書の試験用細胞に含まれるPPAR相互作用ポリペプチドについて説明したが、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、その機能的等価改変体、及びその相同ポリペプチドを総称して、以下、「PPAR相互作用ECHLP」と称する。配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、その機能的等価改変体、及びその相同ポリペプチドを総称して、以下、「PPAR相互作用AOP2」と称する。また、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、その機能的等価改変体、及びその相同ポリペプチドを総称して、以下、「PPAR相互作用FLJ13111」と称する。
また、PPAR相互作用ECHLP、PPAR相互作用AOP2、またはPPAR相互作用FLJ13111をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドは、配列番号4、配列番号8、または配列番号17記載のアミノ酸配列で示されるポリヌクレオチド、その機能的等価改変体、または、その相同ポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドなら何れでもよい。好ましくは、配列番号4、配列番号8、または配列番号17記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、さらに好ましくは、配列番号3、配列番号7、または配列番号16記載の塩基配列である。
本発明の、副作用と乖離したインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングする為に有用なツールとなるリガンド依存的にPPARと相互作用する蛋白質をスクリーニングする方法、該蛋白質を利用した副作用と乖離したインスリン抵抗性改善薬のスクリーニング方法を以下に記載する。
<リガンド依存的にPPARと相互作用する蛋白質のスクリーニング方法>
本発明においては、PPARγとリガンド依存的に相互作用する因子を酵母ツーハイブリッドシステムを利用したレポーター遺伝子の発現を指標としてcDNAライブラリー中から網羅的に同定することができる。本発明ではPPARとその転写共役因子のリガンド依存的な相互作用を検出し、PPAR自身の転写誘導能の検出を必要としないため、同転写誘導能発現に関与する哺乳動物固有の因子群の存在を要しない。従って試験用細胞として特に哺乳動物細胞を用いる必要がなく、真核細胞、例えば、酵母細胞、昆虫細胞及び哺乳動物細胞などでもよい。これらのうち、酵母細胞は培養が容易で迅速に実施できる上、外来遺伝子の導入など遺伝子組換え技術を適用するのが容易である。またPPARと相互作用因子との結合におけるリガンド依存性は同じ酵母ツーハイブリッドシステムを利用した方法で効率よく追試、検出することができる。
酵母ツーハイブリッドシステムは、レポーター遺伝子の発現をマーカーとして蛋白−蛋白質間相互作用を検出する方法である。一般に転写因子はDNA結合領域と転写活性化領域という機能の異なる2つの領域を有するが、ツーハイブリッドシステムでは、2種類の蛋白質XとYの相互作用を調べるために、転写因子のDNA結合領域とXからなる融合蛋白質、および、転写因子の転写活性化領域とYからなる融合蛋白質の2種類を同時に酵母細胞内で発現させる。蛋白質XとYが相互作用すると2種類の融合蛋白質が1つの転写複合体を形成し、これが細胞の核内において該転写因子の応答配列(特異的に結合するDNAの部位)と結合してその下流に配置されたレポーター遺伝子の転写を活性化する。このように2つの蛋白質の相互作用をレポーター遺伝子の発現に置き換えて検出することができる。
酵母ツーハイブリッドシステムは、通常、特定の蛋白質をプローブとしてこれと相互作用する未知蛋白質の遺伝子同定に用いられる。しかしながら核内受容体とその一部の転写共役因子群に見られるような、両者の結合が受容体リガンドの存在に依存して起こる場合には、リガンドを外部から添加したツーハイブリッドシステムを用いる必要がある。しかしながら、従来の技術の項で前述した通り、酵母ツーハイブリッドシステムではPPARγと相互作用因子のリガンド依存性の検出が困難であり、リガンド依存性のPPARγ相互作用因子の網羅的なスクリーニングは成功していなかった。この理由を本発明者らは、酵母の性質上PPARγアゴニストの細胞内へ透過性が低く、リガンド依存性の検出感度が低いためと予見し、報告された中でPPARγアゴニストとして最も活性の高い化合物群を高濃度で酵母に作用させることにより、PPARγと相互作用因子のリガンド依存性の検定やスクリーニングに適用できる酵母ツーハイブリッドシステムの独自の方法を完成した。より具体的には実施例2に記載の方法で本スクリーニングを実施できる。
PPARγのリガンド依存的相互作用因子を検出し、該相互作用に対する被験物質の作用を測定することを特徴とする方法の別の実施態様としては、例えば、PPARγと相互作用因子とのリガンド依存的結合を、生化学的に検出する方法がある。このような方法では、例えばRIなどで標識した培養細胞の抽出液から、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、プロテインA、β−ガラクトシダーゼ、マルトース−バインディングプロテイン(MBP)など適当なタグ蛋白質とPPARγのリガンド結合領域からなる融合タンパク質と結合する蛋白質を被験物質の存在下で直接的に検出し、該結合蛋白質を精製し、アミノ酸配列決定により同定することで実施できる。
<リガンド依存的にPPARと相互作用する蛋白質を利用した、糖代謝改善作用の検出方法・インスリン抵抗性改善薬のスクリーニング方法;リガンド依存的にPPARと相互作用する蛋白質を利用した、浮腫惹起活性の検出方法・浮腫惹起活性のないインスリン抵抗性改善薬のスクリーニング方法>
1.PPAR相互作用ECHLPを利用した糖代謝改善作用の検出法・インスリン抵抗性改善薬スクリーニング法
本発明の一つの実施態様としては、(i)PPARαまたはγの少なくともリガンド結合領域と転写因子のDNA結合領域の融合遺伝子、あるいはPPARαまたはγ分子の全長域をコードする遺伝子、(ii)PPAR相互作用ECHLPをコードする遺伝子、及び(iii)該転写因子のDNA結合領域が結合し得る応答配列に連結されたレポーター遺伝子、あるいはPPARαまたはγが結合し得る応答配列に連結されたレポーター遺伝子で形質転換された試験用細胞を用い、PPARリガンド存在下でこれを被験物質と共存させ、試験用細胞における、PPAR相互作用ECHLPによるPPARの転写活性化能抑制作用の被験物質による変化をレポーター遺伝子の発現を指標として検出し、測定することからなるPPARを介する主作用を選択的に促進するか否かの検出方法が挙げられる。また、同検出方法により検出するレポーター活性を増大させる化合物を選択することにより、PPARを介する主作用を選択的に促進する化合物をスクリーニングする方法が挙げられる。
2.PPAR相互作用AOP2を利用した浮腫惹起活性の検出法・浮腫惹起活性のないインスリン抵抗性改善薬のスクリーニング法
本発明の一つの実施態様としては、(i)PPARαまたはγの少なくともリガンド結合領域と転写因子のDNA結合領域の融合遺伝子、あるいはPPARαまたはγ分子の全長域のコード遺伝子(ii)PPAR相互作用AOP2のコード遺伝子、及び(iii)該転写因子のDNA結合領域が結合し得る応答配列に連結されたレポーター遺伝子、あるいはPPARαまたはγが結合し得る応答配列に連結されたレポーター遺伝子で形質転換された試験用細胞を用い、これを被験物質と共存させ、試験用細胞における、PPAR相互作用AOP2によるPPARの転写活性化能促進作用の被験物質による変化をレポーター遺伝子の発現を指標として検出し、測定することからなるPPARを介する副作用を有する化合物を検出する方法、同レポーター系により、副作用と乖離した、主作用を選択的に促進する化合物を選択、スクリーニングする方法が挙げられる。
3.PPAR相互作用FLJ13111を利用した糖代謝改善作用の検出法・インスリン抵抗性改善薬スクリーニング法
本発明の一つの実施態様としては、(i)PPARγの少なくともリガンド結合領域と転写因子のDNA結合領域の融合遺伝子、あるいはPPARγ分子の全長域をコードする遺伝子、(ii)PPAR相互作用FLJ13111をコードする遺伝子、及び(iii)該転写因子のDNA結合領域が結合し得る応答配列に連結されたレポーター遺伝子、あるいはPPARαまたはγが結合し得る応答配列に連結されたレポーター遺伝子で形質転換された試験用細胞を用い、これを被験物質と共存させ、試験用細胞における、PPAR相互作用FLJ13111によるPPARの転写活性化亢進作用の被験物質による変化をレポーター遺伝子の発現を指標として検出し、測定することからなるPPARを介する主作用を選択的に促進するか否かの検出方法が挙げられる。また、同検出方法により検出するレポーター活性を増大させる化合物を選択することにより、PPARを介する主作用を選択的に促進する化合物をスクリーニングする方法が挙げられる。
上記1、2、または3の実施態様において、PPARの転写誘導能を検出するために用いられる転写因子は、細胞核内で特定のDNA配列に結合する領域を有する真核生物の転写因子であれば限定されない。また転写因子のDNA結合領域は、応答配列に対するDNA結合能は有するが、単独で転写活性化能を有しないものであればよい。このような転写因子としては、例えば、酵母のGAL4蛋白質(Keeganら、Science、第231巻、第699−704頁、1986年、Maら、Cell、第48巻、第847−853頁、1987年)が挙げられる。GAL4転写因子のDNA結合領域および転写活性化領域は、例えばGAL4の場合、N末端側(およそ第1番目から147番目までのアミノ酸を含む領域)に存在する。
応答配列は、転写因子のDNA結合領域が結合し得るDNA配列を用いる。遺伝子の上流域からその領域を切り出して用いる、あるいはその配列を化学合成により合成して用いてもよい。
応答配列の下流に配置されるレポータ遺伝子は、一般に用いられるものであれば特に限定されないが、定量的測定が容易な酵素遺伝子などが好ましい。例えば、バクテリアトランスポゾン由来のクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(CAT)、ホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子(Luc)、クラゲ由来の緑色蛍光蛋白質遺伝子(GFP)等があげられる。レポータ遺伝子は、応答配列の下流に機能的に連結される。
PPARαまたはγ、転写因子のDNA結合領域、PPAR相互作用ECHLP、PPAR相互作用AOP2、またはPPAR相互作用FLJ13111をコードするポリヌクレオチドは、既知のアミノ酸配列や塩基配列の情報などをもとに設計し合成したプライマーやプローブを用いて、PCR(Polymerase Chain Reaction)法やハイブリダイゼーションによるスクリーニングにより、cDNAライブラリーから単離できる。PPAR相互作用ECHLPは、同じ分子種として同定されるもので、PPARとリガンド依存的に相互作用して該受容体の転写誘導能に影響を与えるものであればいずれの種由来のものであってもよく、例えばヒト(LOC115289;GenBank accession番号XM_008904、HPXEL;GenBank accession番号U16660、FitzPatrick DRら、Genomics 1995年27巻(3):457−466頁)、マウス(Ech1;GenBank accession番号NM_016772)、ラット(HPXEL;GenBank accession番号NM_022594、FitzPatrick DRら、Genomics 1995年27巻(3):457−466頁)などの哺乳動物由来のものが挙げられる。
PPAR相互作用AOP2は、同じ分子種として同定されるもので、PPARとリガンド依存的に相互作用して該受容体の転写誘導能に影響を与えるものであればいずれの種由来のものであってもよく、例えばヒト(AOP2/KIAA0106;GenBank accession番号XM_001415、D14662)、マウス(AOP2/1−Cys Prx/nonselenium glutathione peroxidase;GenBank accession番号AF004670、AF093852、Y12883)、ラット(AOX2;GenBank accession番号AF014009)、ウシ(GPX/PHGPx;GenBank accession番号AF080228、AF090194)などの哺乳動物由来のものが挙げられる。
PPAR相互作用FLJ13111は、同じ分子種として同定されるもので、PPARとリガンド依存的に相互作用して該受容体の転写誘導能に影響を与えるものであればいずれの種由来のものであってもよく、例えばヒト(FLJ13111;GenBank accession番号AK023173、NM_025082)、マウス(ヒトFLJ13111様蛋白質;GenBank accession番号XM_134598)などの哺乳動物由来のものが挙げられる。
PPARγは、同じ分子種として同定されるもので、核内レセプターとしての生体内での機能を果たすものであればいずれの種由来のものであってもよく、例えばヒト、マウス、ラットなどの哺乳動物由来のものの他、アフリカツメガエル由来のものなどが挙げられる。PPARγ(Dreyerら、Cell、第68巻、第879−887頁、1992年、Zhuら、Journal of Biological Chemistry、第268巻、第26817−26820頁、1993年、Kliewerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第91巻、第7355−7359頁、1994年、Mukherjeeら、Journal of Biological Chemistry、第272巻、第8071−8076頁、1997年、Elbrechtら、Biochem.Biophys.Res.Commun.、第224巻、第431−437頁、1996年、Chemら、Biochem.Biophys.Res.Commun.、第196巻、第671−677頁、1993年、Tontonozら、Genes & Development、第8巻、第1224−1234頁、1994年、Aperloら、Gene、第162巻、第297−302頁、1995年)の遺伝子配列およびアミノ酸配列はすでに報告されている。また、PPARγには、PPARγ1及びPPARγ2の二種のアイソフォームが存在し、PPARγ1はPPARγ2と比較するとN末端側の30アミノ酸が欠失しているが、その他のアミノ酸配列は全く同じであり、いずれも脂肪組織に発現していることが知られている。
PPARα若しくはγ、転写因子のDNA結合領域、PPAR相互作用ECHLP、PPAR相互作用AOP2、またはPPAR相互作用FLJ13111をコードするポリヌクレオチドは、例えば次のように得ることができるが、この方法に限らず公知の操作「Molecular Cloning」[Sambrook,Jら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年]でも得ることができる。
該蛋白質を産生する能力を有する細胞あるいは組織、例えば脂肪組織から該蛋白をコードするものを包含するmRNAを既知の方法により抽出する。抽出法としては、グアニジン・チオシアネート・ホット・フェノール法、グアニジン・チオシアネート−グアニジン・塩酸法等が挙げられるが、好ましくはグアニジン・チオシアネート塩化セシウム法が挙げられる。PPARα若しくはγ、PPAR相互作用ECHLP、PPAR相互作用AOP2、またはPPAR相互作用FLJ13111の産生能力を有する細胞あるいは組織は、該蛋白質をコードする塩基配列を有する遺伝子あるいはその一部を用いたノーザンブロッティング法、該蛋白質に特異的な抗体を用いたウエスタンブロッティング法などにより特定することができる。
mRNAの精製は常法に従えばよく、例えばmRNAをオリゴ(dT)セルロースカラムに吸着・溶出させ、精製することができる。さらに、ショ糖密度勾配遠心法等によりmRNAをさらに分画することもできる。また、mRNAを抽出せずとも、市販されている抽出済mRNAを用いても良い。
次に、精製されたmRNAをランダムプライマー又はオリゴdTプライマーの存在下で、逆転写酵素反応を行い、第1鎖cDNAを合成する。この合成は常法によって行うことができる。得られた第1鎖cDNAを用い、目的遺伝子の一部の領域をはさんだ2種類のプライマー、例えばPPARγには配列番号9と配列番号10、PPAR相互作用ECHLPには配列番号12と配列番号13、PPAR相互作用AOP2には配列番号14と配列番号15、PPAR相互作用FLJ13111には配列番号18と配列番号19を用いてPCRに供し、目的とする遺伝子配列を増幅する。また、市販のcDNAライブラリーを用い、同様の目的遺伝子の一部の領域をはさんだ2種類のプライマーを用いてPCRに供し、目的とする遺伝子配列を増幅することもできる。得られたDNAをアガロースゲル電気泳動等により分画する。所望により、上記DNAを制限酵素等で切断し、接続することによって目的とするDNA断片を得ることもできる。具体的には実施例2,4,5,7,8,10,11記載の方法により得られる。
これまで述べた方法により得られるDNAの配列決定は、例えば、マキサム−ギルバートの化学修飾法(Maxam,A.M.及びGilbert,W.,“Methods in Enzymology”,65,499−559,1980)やジデオキシヌクレオチド鎖終結法(Messing,J.及びVieira,J.,Gene,19,269−276,1982)等により行なうことができる。
「Molecular Cloning」[Sambrook,Jら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年]に記載の方法により、これら各領域をコードするDNAを単独、あるいは連結し、適当なプロモーターの下流に連結することでPPARαまたはγ及びPPAR相互作用ECHLPの試験細胞内での発現系、並びに、PPARαまたはγ及びPPAR相互作用AOP2の試験細胞内での発現系が構築できる。同様にしてPPARγ及びPPAR相互作用FLJ13111の試験細胞内での発現系が構築できる。
具体的には上述のように得られたポリヌクレオチドは、適当なベクタープラスミドに組み込み、プラスミドの形で宿主細胞に導入すればよい。これらは、両者が一つのプラスミド上に含まれるよう構成してもよく、あるいは各々別々のプラスミド上に含まれるよう構成してもよい。あるいは、このような構成が染色体DNAに組み込まれた細胞を取得してこれを用いてもよい。
応答配列に連結されたレポーター遺伝子も、一般的な遺伝子組換え技術を用いて構築し、この構成をベクタープラスミド中に組込んだ上、得られた組換えプラスミドを宿主細胞中に導入したものを用いる。あるいは、このような構成が染色体DNAに組み込まれた細胞を取得してこれを用いてもよい。
PPARは外部から導入しても良いが、内在性のPPARγが豊富に存在する脂肪由来細胞、あるいは腎由来細胞を宿主細胞として用いる場合は、上述の構成のうち、PPARγを省いて、応答配列に連結されたレポーターとPPAR相互作用ECHLPからなる構成のみ、PPARγを省いて、応答配列に連結されたレポーターとPPAR相互作用AOP2からなる構成のみ、あるいは、PPARγを省いて、応答配列に連結されたレポーターとPPAR相互作用FLJ13111からなる構成のみを導入してもよい。
より具体的には、単離されたポリヌクレオチドを含む断片は、適当なベクタープラスミドに再び組込むことにより、真核生物及び原核生物の宿主細胞を形質転換させることができる。さらに、これらのベクターに適当なプロモーターおよび形質発現にかかわる配列を導入することにより、それぞれの宿主細胞において遺伝子を発現させることが可能である。
例えば、真核生物の宿主細胞には、脊椎動物、昆虫、酵母等の細胞が含まれ、脊椎動物細胞としては、例えばサルの細胞であるCOS細胞(Gluzman,Y.(1981)Cell,23,175−182)やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO)のジヒドロ葉酸レダクターゼ欠損株(Urlaub,G.and Chasin,L.A.(1980)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77,4216−4220)、ヒト胎児腎臓由来HEK293細胞および同細胞にEpstein Barr VirusのEBNA−1遺伝子を導入した293−EBNA細胞(Invitrogen社製)等がよく用いられているが、これらに限定されるわけではなく、PPAR相互作用ECHLPによるPPARαまたはγの転写誘導能阻害、PPAR相互作用AOP2によるPPARαまたはγの転写誘導活性、あるいはPPAR相互作用FLJ13111によるPPARγの転写誘導活性を検出できるものであればよい。
脊椎動物細胞の発現ベクターとしては、通常発現しようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位および転写終結配列等を有するものを使用でき、これはさらに必要により複製起点を有してもよい。該発現ベクターの例としては、SV40の初期プロモーターを有するpSV2dhfr(Subramani,S.et al.(1981)Mol.Cell.Biol.,1,854−864)、ヒトのelongation factorプロモーターを有するpEF−BOS(Mizushima,S.and Nagata,S.(1990)Nucleic Acids Res.,18,5322)、cytomegalovirusプロモーターを有するpCEP4(Invitrogen社製)等を例示できるが、これに限定されない。
宿主細胞として、COS細胞を用いる場合を例に挙げると、発現ベクターとしては、SV40複製起点を有し、COS細胞において自律増殖が可能であり、さらに転写プロモーター、転写終結シグナルおよびRNAスプライス部位を備えたものを用いることができ、例えば、pME18S、(Maruyama,K.and Takebe,Y.(1990)Med.Immunol.,20,27−32)、pEF−BOS(Mizushima,S.and Nagata,S.(1990)Nucleic Acids Res.,18,5322)、pCDM8(Seed,B.(1987)Nature,329,840−842)等が挙げられる。該発現ベクターはDEAE−デキストラン法(Luthman,H.and Magnusson,G.(1983)Nucleic Acids Res.,11,1295−1308)、リン酸カルシウム−DNA共沈殿法(Graham,F.L.and van der Ed,A.J.(1973)Virology,52,456−457)、FuGENE6(Boeringer Mannheim社製)を用いた方法、および電気パルス穿孔法(Neumann,E.et al.(1982)EMBO J.,1,841−845)等によりGOS細胞に取り込ませることができ、かくして所望の形質転換細胞を得ることができる。
また、宿主細胞としてCHO細胞を用いる場合には、発現ベクターと共に、G418耐性マーカーとして機能するneo遺伝子を発現し得るベクター、例えばpRSVneo(Sambrook,J.et al.(1989):“Molecular Cloning−A Laboratory Manual″Cold Spring Harbor Laboratory,NY)やpSV2−neo(Southern,P.J.and Berg,P.(1982)J.Mol.Appl.Genet.,1,327−341)等をコトランスフェクトし、G418耐性のコロニーを選択することにより該蛋白質群を安定に産生する形質転換細胞を得ることができる。また、宿主細胞として293−EBNA細胞を用いる場合には、Epstein Barr Virusの複製起点を有し、293−EBNA細胞で自己増殖が可能なpCEP4(Invitrogen社)などの発現ベクターを用いて所望の形質転換細胞を得ることができる。
上記で得られる所望の形質転換体は、常法に従い培養することができ、該培養により細胞内に目的の蛋白質群が生産される。該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択でき、例えば上記COS細胞であればRPMI−1640培地やダルベッコ修正イーグル最小必須培地(DMEM)等の培地に必要に応じ牛胎児血清(FBS)等の血清成分を添加したものを使用できる。また、上記293−EBNA細胞であれば牛胎児血清(FBS)等の血清成分を添加したダルベッコ修正イーグル最小必須培地(DMEM)等の培地にG418を加えたものを使用できる。
試験用細胞を被験物質の存在下で培養し、PPARαまたはγの転写誘導能に対するPPAR相互作用ECHLPの抑制作用が被験物質により阻害されることをレポーター遺伝子の発現により検出し測定することができる。▲1▼被験物質がPPAR相互作用ECHLPあるいはPPARに作用し、その作用に依存してPPAR相互作用ECHLPのPPAR転写誘導活性に対する抑制効果の減弱を生じるとき、発現するレポーター活性の増大が観察される。このような被験物質は、PPARの主作用促進剤として同定される。また、例えば▲2▼被験物質がPPARと結合して転写誘導能を促進し、一方でPPAR相互作用ECHLPによる抑制効果を阻害するとき、発現するレポーター活性の増大が観察される。このような被験物質はPPARの主作用特異的アゴニストとして同定される。また、例えば▲3▼被験物質がPPAR相互作用ECHLPと結合してPPARの転写誘導能抑制効果を阻害するとき、あるいは被験物質がPPAR相互作用ECHLPの発現を阻害したり分解を促進するとき、やはり発現するレポーター活性の増大が観察される。このような物質はPPARの主作用を促進するPPAR相互作用ECHLP阻害剤として同定される。これら▲1▼、▲2▼及び▲3▼はいずれもPPARアゴニストがもたらす副作用と乖離したインスリン抵抗性改善薬として作用することが期待される。より具体的には実施例5、9に記載の方法でインスリン抵抗性改善薬を同定・スクリーニングできる。例えば、実施例9に記載の条件で、IC50が10μM以下の物質を、好ましくは1μM以下の物質をインスリン抵抗性改善薬として選択することができる。
試験用細胞を被験物質の存在下で培養し、PPARαまたはγの転写誘導能に対するPPAR相互作用AOP2の促進作用が被験物質により抑制されることをレポーター遺伝子の発現により検出し測定することができる。▲1▼被験物質がPPAR相互作用AOP2あるいはPPARγに作用し、その作用に依存してPPAR相互作用AOP2のPPARγ転写誘導活性に対する促進効果の減弱を生じるとき、発現するレポーター活性の減少が観察される。このような被験物質は、PPARγの副作用を抑制する物質として同定される。また、例えば▲2▼被験物質がPPARγと結合して転写誘導能を促進し、一方でPPAR相互作用AOP2による促進効果を阻害するとき、発現するレポーター活性はPPAR相互作用AOP2を共発現させない状態と同じレベルにまで減少することが観察される。このような被験物質はPPARγの、副作用と乖離した主作用選択的アゴニストとして同定される。また、例えば▲3▼被験物質がPPAR相互作用AOP2と結合してPPARγの転写誘導能促進効果を阻害するとき、あるいは被験物質がPPAR相互作用AOP2の発現を阻害したり分解を促進するとき、やはり発現するレポーター活性の減少が観察される。このような物質はPPARγの副作用を抑制するPPAR相互作用AOP2阻害剤として同定される。これらはいずれもPPARγアゴニストがもたらす副作用と乖離したインスリン抵抗性改善薬として作用することが期待される。一方で、例えば被験物質がPPAR相互作用AOP2あるいはPPARγに作用し、その作用に依存してPPAR相互作用AOP2のPPARγ転写誘導活性に対する促進効果を亢進させるとき、発現するレポーター活性の増大が観察される。このような被験物質はPPARγの副作用を強く惹起する物質として同定されることから、レポーター活性を増大させない被験物質を選択することにより、浮腫惹起活性のないインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングすることができる。
試験用細胞を被験物質の存在下で培養し、PPARγの転写誘導能に対するPPAR相互作用FLJ13111の促進作用が被験物質により亢進されることをレポーター遺伝子の発現により検出し測定することができる。▲1▼被験物質がPPAR相互作用FLJ13111あるいはPPARγに作用し、その作用に依存してPPAR相互作用FLJ13111のPPARγ転写誘導活性に対する促進効果の増強を生じるとき、発現するレポーター活性の増大が観察される。このような被験物質は、PPARγの主作用促進剤として同定される。また、例えば▲2▼被験物質がPPARと結合して転写誘導能を促進し、かつPPAR相互作用FLJ13111による促進効果を増強するとき、発現するレポーター活性の増大が観察される。このような被験物質はPPARの主作用特異的アゴニストとして同定される。また、例えば▲3▼被験物質がPPAR相互作用FLJ13111と結合してPPARの転写誘導能促進効果を増強するとき、あるいは被験物質がPPAR相互作用FLJ13111の発現を促進したり分解を抑制するとき、やはり発現するレポーター活性の増大が観察される。このような物質はPPARの主作用を促進するPPAR相互作用FLJ13111活性化剤として同定される。これら▲1▼、▲2▼及び▲3▼はいずれもPPARアゴニストがもたらす副作用と乖離したインスリン抵抗性改善薬として作用することが期待される。より具体的には実施例11、12に記載の方法でインスリン抵抗性改善薬を同定・スクリーニングできる。例えば、実施例12に記載の条件で、ED50が10μM以下の物質を、好ましくは1μM以下の物質をインスリン抵抗性改善薬として選択することができる。
<PPAR相互作用FLJ13111プロモーターを利用してインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングする方法>
i)配列番号26で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、あるいは配列番号26で表される塩基配列において、1〜10個の塩基が欠失、置換、及び/または挿入されたポリヌクレオチド配列を含みかつ転写プロモーター活性を有するポリヌクレオチドに融合されたレポーター遺伝子により形質転換された細胞に被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として被験物質による転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴として、インスリン抵抗性改善薬をスクリーニングすることができる。
レポーター遺伝子アッセイ(田村ら、転写因子研究法、羊土社、1993年)は、レポーター遺伝子の発現をマーカーとして遺伝子の発現調節を検出する方法である。一般に遺伝子の発現調節はその5’上流域に存在するプロモーター領域と呼ばれる部分で制御されており、転写段階での遺伝子発現量はこのプロモーターの活性を測定することで推測することができる。被験物質がプロモーターを活性化すれば、プロモーター領域の下流に配置されたレポーター遺伝子の転写を活性化する。このようにプロモーター活性化作用すなわち発現亢進作用をレポーター遺伝子の発現に置き換えて検出することができる。したがって、PPAR相互作用FLJ13111のプロモーター領域を用いたレポーター遺伝子アッセイにより、PPAR相互作用FLJ13111の発現調節に対する被験物質の作用はレポーター遺伝子の発現に置き換えて検出することができる。配列番号26で表される塩基配列からなるFLJ13111のプロモーター領域と融合された「レポーター遺伝子」は、一般に用いられるものであれば特に限定されないが、定量的測定が容易な酵素遺伝子などが好ましい。例えば、バクテリアトランスポゾン由来のクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(CAT)、ホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子(Luc)、クラゲ由来の緑色蛍光蛋白質遺伝子(GFP)等があげられる。レポーター遺伝子は、配列番号26で表される塩基配列からなるFLJ13111のプロモーター領域と機能的に融合されていればよい。PPAR相互作用FLJ13111のプロモーター領域と融合されたレポーター遺伝子により形質転換された細胞に被験物質を接触した場合と接触しなかった場合のレポーター遺伝子の発現量を比較することにより被験物質依存的な転写誘導活性の変化を分析することができる。上記工程を実施することにより、FLJ13111の発現を亢進する物質並びにインスリン抵抗性を改善する物質のスクリーニングを実施できる。具体的には、実施例14に記載の方法により、前記スクリーニングを実施できる。
本発明のスクリーニング法で使用する被験物質としては、特に限定されるものではないが、例えば、市販の化合物(ペプチドを含む)、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術(N.K.Terrett,M.Gardner,D.W.Gordon,R.J.Kobylecki,J.Steele,Tetrahedron,51,8135−73(1995))によって得られた化合物群、微生物の培養上清、植物や海洋生物由来の天然成分、動物組織抽出物、あるいは、本発明のスクリーニング法により選択された化合物(ペプチドを含む)を化学的又は生物学的に修飾した化合物(ペプチドを含む)を挙げることができる。
<インスリン抵抗性改善用医薬組成物の製造方法>
本発明には、本発明のスクリーニング方法を用いてスクリーニングする工程、及び前記スクリーニングにより得られた物質を用いて製剤化する工程を含むことを特徴とする、インスリン抵抗性改善用医薬組成物の製造方法が包含される。
本発明のスクリーニング方法により得られる物質を有効成分とする製剤は、前記有効成分のタイプに応じて、それらの製剤化に通常用いられる担体、賦形剤、及び/又はその他の添加剤を用いて調製することができる。
投与としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、又は経口用液剤などによる経口投与、あるいは、静注、筋注、若しくは関節注などの注射剤、坐剤、経皮投与剤、又は経粘膜投与剤などによる非経口投与を挙げることができる。特に胃で消化されるペプチドにあっては、静注等の非経口投与が好ましい。
経口投与のための固体組成物においては、1又はそれ以上の活性物質と、少なくとも一つの不活性な希釈剤、例えば、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどと混合することができる。前記組成物は、常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えば、滑沢剤、崩壊剤、安定化剤、又は溶解若しくは溶解補助剤などを含有することができる。錠剤又は丸剤は、必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質などのフィルムで被覆することができる。
経口のための液体組成物は、例えば、乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、又はエリキシル剤を含むことができ、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば、精製水又はエタノールを含むことができる。前記組成物は、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えば、湿潤剤、懸濁剤、甘味剤、芳香剤、又は防腐剤を含有することができる。
非経口のための注射剤としては、無菌の水性若しくは非水性の溶液剤、懸濁剤、又は乳濁剤を含むことができる。水溶性の溶液剤又は懸濁剤には、希釈剤として、例えば、注射用蒸留水又は生理用食塩水などを含むことができる。非水溶性の溶液剤又は懸濁剤の希釈剤としては、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油)、アルコール類(例えば、エタノール)、又はポリソルベート80等を含むことができる。前記組成物は、更に湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解若しくは溶解補助剤、又は防腐剤などを含むことができる。前記組成物は、例えば、バクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合、又は照射によって無菌化することができる。また、無菌の固体組成物を製造し、使用の際に、無菌水又はその他の無菌用注射用媒体に溶解し、使用することもできる。
投与量は、有効成分、すなわち、LTRPC2タンパク質の活性化を阻害する物質、あるいは、本発明のスクリーニング方法により得られる物質の活性の強さ、症状、投与対象の年齢、又は性別等を考慮して、適宜決定することができる。
例えば、経口投与の場合、その投与量は、通常、成人(体重60kgとして)において、1日につき約0.1〜100mg、好ましくは0.1〜50mgである。非経口投与の場合、注射剤の形では、1日につき0.01〜50mg、好ましくは0.01〜10mgである。
実施例
以下、実施例によって本発明を詳述するが、本発明は該実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りがない場合は、公知の方法(「Molecular Cloning」Sambrook,Jら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年、等)に従って実施可能である。また、市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従って実施可能である。
(実施例1)主作用リガンド及び副作用リガンドの同定
PPARγのアゴニストとして作用することが報告されている5種類のチアゾリジン誘導体、GW7282((S)−3−[4−[2−(5−メチル−2−フェニルオキサゾール−4−イル)エトキシ]フェニル]−2−(1−ピロリル)プロピオン酸;GlaxoSmithKline,Drug Data Rep 2001,23(9):889)、GI−262570((S)−2−[(2−ベンゾイルフェニル)アミノ]−3−[4−[2−(5−メチル−2−フェニルオキサゾール−4−イル)エトキシ]フェニル]プロピオン酸;GlaxoSmithKline,WO00/38811)、GL−100085(2−(3−(2−(5−メチル−2−フェニルオキサゾール−4−イル)エトキシ)フェニルメチルチオ)酢酸;小野薬品工業、WO99/46232)、ロジグリタゾン(Rosiglitazone、(±)−5−[4−[2−[N−メチル−N−(2−ピリジル)アミノ]エトキシ]ベンジル]−2,4−チアゾリジンジオン マレエート;GlaxoSmithKline,WO01/47529)、ピオグリタゾン(pioglitazone、(+)−5−[4−[2−(5−エチル−2−ピリジニル)エトキシ]ベンジル]−2,4−チアゾリジンジオン;武田薬品工業,特開昭61−267580)の各化合物について作用メカニズムを解明するために、これらをそれぞれの化合物の特許明細書または文献報告の方法に従って合成し、それらの存在下における主作用および副作用を動物個体を用いてそれぞれ測定し、数値化した。なお、主作用の指標として血糖降下作用を、浮腫を惹起する作用の指標として循環血漿量の増加(荒川正昭、最新内科学大系 第三巻 主要症状−症候から診断へ−260−266、1966;金澤ら、Diabetes Frontier、第10巻、811−818頁、1999年;岩本、Diabetes Frontier、第10巻、819−824頁、1999年)を測定した。
(1)化合物群の血糖降下作用の測定
7−8週齢のKKAy/Taマウス(日本クレア社)に対し、0.5%メチルセルロース(MC)に懸濁後、濃度調製(1−10mg/kg)した各化合物を1日1回、4日間連続経口投与した。対照群には0.5% MCのみを投与した。最終投与16時間後にマウス尾静脈より採血を行い、血糖値をムタローゼとグルコースオキシダーゼを組み合わせた酵素法(Miwa Iら Clin Chim Acta 37巻538頁 1972年 参照)を用いた市販キット(グルコースCIIテストワコー、和光純薬工業)により測定した。対照群の血糖値を100%とし、各化合物投与群における結果より、対照群の血糖値を25%低下させると推測される化合物濃度(ED25)を最小自乗法を用いた線形回帰により算出した(表1)。
(2)化合物群の浮腫惹起活性の測定
ラット(Sprague−Dawley rats;オス、3週齢)に、被験化合物を100mg/kg(0.5%Methylcelluloseに懸濁)の用量で、一日一回で二週間連続経口投与した。血漿容量の測定は、基本的にJ.Appl.Physiol.69(6):2091−2096,1990に示された方法に従って測定した。エーテル麻酔下で下腿静脈より0.25%エバンスブルー(Evans Blue)溶液(生理食塩水)を0.25ml(0.625mg)/ラットで注入し、5分後、腹部下大静脈より採血した。血漿を水で希釈し、その吸光度(620nm)から得られたエバンスブルー濃度(mg/ml)を注入量(0.625mg)で割った値を血漿容量とした。さらに、血漿容量を体重で補正した値において、対照群(vehicle投与群)に対する量(%)を算出した(表1)。
これらの結果、GW7282は主作用、副作用ともに強く惹起した。一方GI−262570は主作用の惹起は比較的高い値を示すが、副作用は弱い。またGL−100085は主作用の惹起は弱いが、副作用を強く惹起した。
【表1】PPARγアゴニストの血糖低下作用と循環血漿量増加作用
(実施例2)PPARγとリガンド依存的に相互作用する蛋白質の同定
(1)PPARγ遺伝子の単離
PPARγのDNA結合領域およびリガンド結合領域を含むC末端側302アミノ酸をコードするcDNAを、ヒト脂肪組織由来のcDNAライブラリー(クロンテック社;Marathon ReadyTM cDNA)からポリメラーゼ・チェイン・リアクション法(PCR法)によって取得した。遺伝子データベースGenBankのアクセッション番号U79012に記載されたヒトPPARγ2の遺伝子配列を元に、酵母ツーハイブリッド用発現ベクターpDBtrp(インビトロジェン社、選択マーカーとしてTRP1遺伝子を有する)に挿入するため、同ベクターのマルチクローニングサイトの前後40ヌクレオチドとの相同領域を付加し、さらに挿入されたPPARγの遺伝子断片の両側にそれぞれ制限酵素Kpn IとSma Iの認識サイトが形成されるように配列番号9及び10に示したプライマーを設計した。PCRはDNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA polymerase;宝酒造社)を用い、98℃(1分)の後、98℃(5秒)/55℃(30秒)72℃(3分)のサイクルを35回、繰り返した。その結果得られた1004塩基対のDNA断片はPPARγ2の第204アミノ酸から終止コドン直前までの302アミノ酸からなるPPARγのコード領域を有している。
(2)酵母ツーハイブリッド用発現プラスミドの作製
制限酵素SalIおよびNcoIで切断して直鎖上にしたベクターpDBtrp及び(1)で得られたPPARγのcDNAを含むPCR断片を同時にツーハイブリッド用酵母株MaV203(インビトロジェン社)へ添加し、リチウム酢酸法により形質転換した(C Guthrie,R Fink Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology,Academic,San Diego,1991年)。その結果、同酵母細胞内で相同組換えが生じ、pDBtrpのマルチクローニングサイトにPPARγ cDNAが挿入されたプラスミド(以下pDB−PPARγと略称する)が形成された。同プラスミドを有する酵母細胞を、プラスミドの選択マーカーであるトリプトファンを欠乏させた固形合成最小培地(DIFCO社)(20%アガロース)上にて培養することにより選択し、同酵母細胞をザイモリエース(生化学工業)で室温にて30分間処理した後、アルカリ法(「Molecular Cloning」Sambrook,Jら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年)でプラスミドを単離精製し、シーケンシングキット(アプライドバイオシステムズ社)およびシーケンサー(ABI3700 DNA sequencerアプライドバイオシステムズ社)を用いて塩基配列の決定を行い、PPARγのcDNAがpDBtrpのGAL4のDNA結合領域のコード領域と翻訳のフレームが一致して挿入されているものを選択した。
(3)酵母ツーハイブリッドスクリーニング
上述のpDB−PPARγにより形質転換したツーハイブリッド用酵母株MaV203を400mlのYPD液体培地(DIFCO社)に懸濁し、波長590ナノメートルの吸光度が0.1から0.4になるまで30℃で約6時間振とう培養した後、リチウム酢酸法でコンピテントセルとし、最終量を1.0mlの0.1Mリチウム−トリス緩衝液に懸濁した。同細胞をヒト腎臓cDNAライブラリー、ヒト肝臓ライブラリー、またはヒト骨格筋ライブラリー(いずれもクロンテック社Match Maker cDNA library)各20μgで形質転換し、同細胞をpDB−PPARγおよびライブラリーそれぞれのプラスミドの選択マーカーであるトリプトファン、ロイシンを欠乏させた固形合成最小培地(DIFCO社)(20%アガロース)上にて培養することにより選別し、両プラスミドが導入された形質転換株を得た。同時に同じ形質転換細胞をトリプトファン、ロイシンのほかに、ツーハイブリッドシステムにおいて人工的に発現させたGAL4 DNA結合領域の融合蛋白質に、GAL4転写促進領域の融合蛋白質が結合した場合に発現するレポーター遺伝子HIS3が作動した細胞を選択するため、ヒスチジンを培地から除き、さらにHIS3がコードする酵素の阻害剤である3AT(3−AMINO−1,2,4−TRIAZOLE;シグマ社)20mMを添加した固形最小倍地(20%アガロース)上で30℃で5日間培養した。同培地中には主作用、副作用ともに強く惹起するPPARγのアゴニストGW7282を最終濃度1.5μM添加しておき、同アゴニストの存在下でPPARγに結合する蛋白質を発現していることを示す3AT耐性の酵母のコロニーを取得した。これらの酵母細胞を24時間YPD固形培地上で上述のアゴニストGW7282を15μMの濃度で添加、あるいは非添加の状態で成長させた後、HIS3とは別のツーハイブリッドシステムの結合指示レポーターであるlacZ遺伝子の発現をβ−ガラクトシダーゼ活性を指標として調べた。β−ガラクトシダーゼ活性は培地上の酵母細胞をニトロセルロースフィルターに移し取り、液体窒素に付けて凍結させた後、室温で解凍し、フィルターを0.4%のX−GAL(シグマ社)溶液を浸した濾紙上にのせて37℃で24時間静置し、β−ガラクトシダーゼによる青色変化を測定した。フィルター上に写し取った細胞内容物が白色から青色に変化したコロニーを選択することにより、上述のアゴニストの存在に依存してPPARγに結合する蛋白質を発現している酵母細胞を複数特定し、同細胞からクロンテック社Yeast Protocols Handbookの方法に従ってライブラリー由来のプラスミドを抽出した。そこに含まれる遺伝子断片の塩基配列を、配列番号11で表される塩基配列(GAL4AD領域に結合する配列;GenBankアクセッション番号U29899 Cloning vector pACT2由来)をプライマーとし、シーケンシングキット(アプライドバイオシステムズ社)およびシーケンサー(ABI 3700 DNA sequencerアプライドバイオシステムズ社)を用いて決定した結果、上述3種類のいずれのライブラリーからも配列番号3に記載のECHLPの部分配列を含むクローンが含まれていることをBLAST(NCBI)によるホモロジー検索により確認した。また腎臓由来ライブラリーからは核内受容体の転写共役因子として知られているSRC−1(Smith CLらProc.Natl.Acad,Sci.USA.,20巻93(17)号8884−8888頁 1996年:),N−CoR(Nagy LらCell,89巻3号373−380頁1997年)の遺伝子断片を含むクローンが含まれており、上記のスクリーニングでリガンド依存性のPPARγの共役因子が取得できることが確認された。
また、同様の酵母ツーハイブリッドスクリーニングを以下の条件のもとで行った。ライブラリーとしてはヒト腎臓cDNAライブラリーで形質転換した細胞を用いた。GW7282は最終濃度1μMとなるように添加し、同アゴニスト存在下でPPARγに結合する蛋白質を発現している酵母細胞を24時間YPD固形培地上でGW7282を10μMの濃度で添加した状態で成長させた。β−ガラクトシダーゼ活性測定により、上述のアゴニストの存在に依存してPPARγに結合する蛋白質を発現している酵母細胞を複数特定し、同細胞からライブラリー由来のプラスミドを抽出した。そこに含まれる遺伝子断片の塩基配列を決定した結果、配列番号7に記載のAOP2(GenBankアクセッション番号XM_001415)の部分配列を含む独立したクローン2個が含まれていた。また核内受容体の転写共役因子として知られているSRC−1(Smith CLらProc.Natl.Acad.Sci.USA.,20巻93(17)号8884−8888頁 1996年:),N−CoR(Nagy LらCell,89巻3号373−380頁1997年)の遺伝子断片を含むクローンが含まれており、上記のスクリーニングでリガンド依存性のPPARγの転写共役因子を取得できることが確認された。
また、同様の酵母ツーハイブリッドスクリーニングを以下の条件のもとで行った。ライブラリーとしてヒト肝臓cDNAライブラリーで形質転換した細胞を用いた。GW7282は最終濃度1μMとなるように添加し、同アゴニスト存在下でPPARγに結合する蛋白質を発現している酵母細胞を24時間YPD固形培地上でGW7282を10μMの濃度で添加した状態で成長させた。β−ガラクトシダーゼ活性測定により、上述のアゴニストの存在に依存してPPARγに結合する蛋白質を発現している酵母細胞を複数特定し、同細胞からライブラリー由来のプラスミドを抽出した。そこに含まれる遺伝子断片の塩基配列を決定した結果、配列番号16に記載の新規遺伝子(FLJ13111類似遺伝子;GenBankアクセッション番号AK023173の1塩基置換体)の部分配列を含むクローンが含まれていた。
(実施例3)PPARγとECHLPまたはAOP2のリガンド選択的相互作用の検出
実施例2で得たECHLP、AOP2をはじめとする蛋白質群とPPARγの相互作用に対するアゴニストの依存性を、上述の主作用、副作用に対する効果が異なる2種のアゴニストGI−262570(最終濃度5μM、又は0.5μM)とGL−100085(最終濃度5μM、又は0.5μM)を用いて、酵母ツーハイブリッドシステムのβ−ガラクトシダーゼ活性を指標として測定した(図1;矢尻は黒が主作用選択的な化合物、縞が副作用選択的な化合物の濃度差により相互作用が大きく変化するものをそれぞれ示す。白の矢尻は主・副作用いずれに選択的な化合物でも濃度差による相互作用の変化が大きいものを示す。)。用いたアゴニスト以外の方法の詳細は実施例2と同様である。その結果、主作用に高い効果を持つ化合物GI−262570は、濃度を5μMから0.5μMに減じても同様にPPARγとECHLPの結合を誘導したが(図1b)、副作用に比較的高い効果を持つ化合物GL−100085では濃度を5μMから0.5μMに減じるとPPARγとECHLPの結合は大きく減退した(図1c)。一方、副作用に比較的高い効果を持つ化合物GL−100085は、濃度を5μMから0.5μMに減じても同様にPPARγとAOP2の結合を誘導し(図1c)、主作用に高い効果を持つ化合物GI−262570添加では濃度を5μMから0.5μMに減じるとPPARγとAOP2の結合は大きく減弱した(図1b)。これらは、アゴニストGI−262570、GL−100085の存在によってPPARγとECHLP、あるいはPPARγとAOP2のリガンド依存的相互作用がおこったことによると考えられ、この結果から、ECHLPはPPARγと主作用に高い効果を持つアゴニストにより高い感度で相互作用することが明らかとなった。一方AOP2は副作用に高い効果を持つアゴニストにより高い感度で相互作用することが明らかとなった(図1c)。これらの結果はアゴニストの主作用、副作用に相関してアゴニスト依存的にPPARγに相互作用する共役因子があることを示唆している。ECHLPは主作用の強く現れるアゴニストに、より選択的に応答して相互作用しており、このPPARγとECHLPのリガンド依存的相互作用を利用することで主作用に高い効果をもつアゴニストを選択的に検出できるものと考えられた。一方クローン#1,4,5,6,7およびN−CoRはアゴニストGI−262570、GL−100085いずれの濃度減少でもPPARγとの結合が減弱し、アゴニストの主作用−副作用に相関が見られなかった。
(実施例4)正常および糖尿病モデルマウスにおけるECHLP発現量の測定
上述の知見に基づき、ECHLPとPPARγの相互作用がPPARγアゴニストを介した主作用である糖代謝改善に関わることが予想された。そこで2種類の糖尿病モデルマウスKKAy/Ta(Iwatsukaら、Endocrinol.Japon.、第17巻、第23−35頁、1970年、Taketomiら、Horm.Metab.Res.、第7巻、第242−246頁、1975年)、C57BL/KsJ−db/db(Chenら、Cell、第84巻、第491−495頁、1996年、Leeら、Nature、第379巻、第632−635頁、1996年、Kakuら、Diabetologia、第32巻、第636−643頁、1989年)の骨格筋、脂肪におけるECHLP遺伝子のマウスオルソログech1遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)発現量をDNAアレイ(アフィメトリクス社)を用いて測定し(de Saizieuら、Nature Biotechnology、第16巻、第45−48頁、1998年、Wodickaら、Nature Biotechnology、第15巻、第1359−1367頁、1997年、Lockhartら、Nature Biotechnology、第14巻、第1675−1680頁、1996年)、正常個体C57BL/6J、C57BL/KsJ−+m/+mのそれと比較することにした。
(1)マウスの組織の摘出:日本クレア社よりオスのC57BL/6J、KKAy/Ta、C57BL/KsJ−+m/+m及びC57BL/KsJ−db/dbマウスを各8匹購入した。C57BL/6Jは普通食で15週齢になるまで集団飼育した。KKAy/Taマウスは高カロリー食(CMF,Oriental Yeast Co.,Ltd.)で15週齢になるまで単独飼育した。C57BL/KsJ−+m/+mマウス及びC57BL/KsJ−db/dbマウスは普通食で12週齢になるまで集団飼育した。KKAy/TaマウスおよびC57BL/KsJ−db/dbマウスが正常マウスと比較して高血糖、高体重になっていることを確認した(KKAy/Taマウス:血糖値514.2±18.2mg/dl、体重49.9±0.7g、C57BL/KsJ−db/dbマウス:血糖値423.7±14.1mg/dl、体重48.6±0.5g)。血糖値はマウス尾静脈より採血を行い、血糖値をグルコースオキシダーゼ法を用いた市販キット(オートパックA・グルコース試薬、ベーリンガー・マンハイム社)により測定した。これらの4種類のマウスをジエチルエーテルで麻酔し、副睾丸脂肪とひふく筋を摘出した。摘出直後に液体窒素で凍結し、−80℃で保存した。
(2)mRNAの抽出:組織は凍結プレス破砕装置CRYO−PRESS CP−100(マイクロテック・ニチオン社)を用いて破砕した。RNA抽出用試薬ISOGEN(ニッポンジーン社)を加え、ホモジナイザーULTRA−TURRAX T−8(IKA LABORTECHNIK社)を用いてホモジネートした。メーカー添付のプロトコールに従い、これらのサンプルからRNAを抽出した。これをDNase(ニッポンジーン社)で処理し、混入しているDNAを分解した。その後、フェノール/クロロホルム処理、エタノール沈殿を行い、RNase−free H2Oに溶解した。RNA調製試薬QuickPrep Micro mRNA Purification kit(アマシャム社)を用いて添付プロトコールに従いmRNAを抽出した。
(3)ラベル化cRNAの調製:アフィメトリクス社のプロトコール(GeneChip Expression Analysis Technical Manual)に従って、mRNAから第1ストランドcDNA合成、第2ストランドcDNA合成、ビオチンラベル化cRNAの合成、ラベル化cRNAのフラグメント化を行った。
(4)ハイブリダイゼーション:アフィメトリクス社のDNAアレイ(GeneChip U74)は3枚のサブアレイA、B、Cからなっている。アフィメトリクス社の上記プロトコールに従って、DNAアレイにラベル化cRNAをハイブリダイズした後、洗浄し、各プローブの蛍光強度を測定した。
(5)アレイ間の測定値の補正:測定値については、サンプル間の補正を行った後、サブアレイ間の補正を行った。サンプル間の補正は、特定のサブアレイ上の遺伝子の蛍光強度の合計値をサンプル間で求め、最も高い蛍光強度の合計値を示したアレイと等しくなるようにその他のアレイの各遺伝子の測定値にアレイごとに一定の倍率をかけた。サブアレイ間の補正は、サブアレイごとにAFFXプローブの蛍光強度の平均値を求め、サブアレイA、B、Cでそれらの平均値が同じになるようにサブアレイごとに各遺伝子の測定値に一定の倍率をかけた。
その結果KKAy/Taマウスでは、発症が進行していない5週齢の個体、あるいは正常個体と比較して病態発症が顕著な15週齢の個体ではech1 mRNAの発現量が2倍以上に増大していることが確認された(図2)。同様にdb/dbマウスでも正常個体に比較してech1発現量が2倍以上に増大していた。また15週齢のKKAy/Taマウスにおけるech1発現量の亢進は腎尿細管糖輸送における再吸収阻害剤として知られるフロリジン(phlorizin)を100mg/kgの用量で30分おきに3回、腹腔内投与し、血糖値が短期的に正常レベルになった最初の投与から7時間後の組織でも変化がないことから、ech1は、糖尿病態の結果としておこる血糖値の変動に起因して発現が亢進しているのではなく、その発現の亢進が糖尿病態を惹起する原因因子の一つであると考えられた。
上述と同じDNAアレイを用いて12週齢、オスの正常マウスC57BL/6J個体の臓器毎にech1のmRNA発現量を測定した結果、ech1は主要臓器のうちPPARγの作用がある脂肪、筋肉、肝臓、腎臓と、ほかに心臓、肺での発現が顕著であった(図3)。これにより発現部位からもECHLP/Ech1がPPARγの共役因子であることが裏付けられた。
(実施例5)PPARγのリガンド依存的転写誘導能に対するECHLPの調節作用の検出
上述の結果から、ECHLPはPPARγとリガンドを介して相互作用し、主作用(糖代謝改善)に関わること、さらにその発現亢進が糖尿病の病態と関連することが示された。そこでECHLPがPPARγの有する転写誘導活性にどのような影響を及ぼすか、培養細胞COS−1を用いたレポーターアッセイで調査した。
(1)動物細胞発現用プラスミドGAL−PPARγの作製
ヒトPPARγ2のリガンド結合領域をコードするcDNAを酵母Gal4のDNA結合領域(1−147アミノ酸)のC末端側に融合したキメラ蛋白質をコードする遺伝子を動物細胞発現ベクターpZeoSV(インビトロジェン社)のマルチクローニングサイトに組み込んだ発現プラスミドGAL−PPARγを作製した。まずプラスミドpGBT9(クロンテック社)からGal4のDNA結合領域をコードする遺伝子断片を制限酵素Hind III、Sma Iを用いて切り出し、これをpZeoSVのマルチクローニングサイトのサイトに挿入した(以下pZeo−DBと略記する)。次に前述のプラスミドpDB−PPARγからPPARγのリガンド結合領域をコードするDNA断片をKpn I、Sma Iを用いて切り出し、これをpZeo−DBのマルチクローニングサイトにあるKpnI、Pvu IIサイトの間に組み込み、動物細胞発現用プラスミドGAL−PPARγを作製した。
(2)動物細胞発現用プラスミドpcDNA−EGHLPの作製
配列番号12及び13に示したプライマーを用いて、ヒト骨格筋cDNAライブラリー(クロンテック社)からPCR法によりECHLPの全長域をコードする987bp(ベースペア)を含むcDNA断片を取得した。PCRはDNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA polymerase;宝酒造社)を用い、98℃(1分)の後、98℃(5秒)/55℃(30秒)72℃(3分)のサイクルを35回、繰り返した。これをpcDNA3.1/V5−HIS−TOPOベクター(インビトロジェン社)にin vitro組換えによるTOPOクローニング法(インビトロジェン社)により挿入して動物細胞発現用プラスミドpcDNA−ECHLPを作製した。なおECHLPには終止コドンを挿入せず、C末端側にベクター由来のV5エピトープおよびHIS6タグが融合されるようにプライマーを設計した。
(3)PPARγのリガンド依存的転写誘導能に対するECHLPの調節作用の検出
培養細胞COS−1細胞は6ウェル培養プレート(ウェル直径35mm)の培養皿に各ウェル2mlの10%牛胎児血清(シグマ社)を含む最少必須培地DMEM(ギブコ社)を加えて70%コンフルエントの状態になるまで培養した。この細胞にリン酸カルシウム法(Graham LらVirology、52巻456頁1973年、新井直子、遺伝子導入と発現/解析法13−15頁1994年)により、上述のGAL−PPARγ(0.15μg/ウェル)、およびGAL4結合配列を8個繰り返しルシフェラーゼ遺伝子の上流に配置したレポーターコンストラクト(RE×8−Luci,;下川ら、国際公開番号WO99/04815)(0.8μg/ウェル)をpcDNA−ECHLP(0.05−0.2μg/ウェル)とともに一過性にコトランスフェクトした。PPARγアゴニスト2μMあるいは被験化合物を培地に添加して48時間培養した後、培地を除去し、細胞をリン酸緩衝液(以下PBSと略称する)で洗浄した後にウェルあたり0.4mlの細胞溶解液(100mM リン酸カリウム(pH7.8)、0.2%トリトンX−100)を添加して細胞を溶解した。この細胞溶解液100μlにルシフェラーゼ基質溶液100μl(ピッカジーン社)を添加し、AB−2100型化学発光測定装置(アトー社)を用いて10秒間の発光量を測定した。ルシフェラーゼレポーター遺伝子と同時にβ−ガラクトシダーゼ発現遺伝子をもつプラスミドpCH110(アマシャムファルマシアバイオテク社)0.4μg/ウェルを細胞にコトランスフェクトし、β−ガラクトシダーゼ活性検出キットGalacto−Light PlusTMsystem(アプライドバイオシステムズ社)を用いてβ−ガラクトシダーゼ活性を測定し数値化した。これを導入遺伝子のトランスフェクション効率として上述のルシフェラーゼ活性を各ウェル毎に補正した。
上記実験の結果、PPARγのアゴニスト依存的な転写誘導活性は、細胞にトランスフェクトしたECHLP発現プラスミドの用量に依存して著しい阻害が認められた(図4)。これによりPPARγとECHLPのリガンド依存的な相互作用がおこると、PPARγの転写誘導活性が抑制されることが明らかになった。この事実は、前述の糖尿病モデルマウスにおいて、過剰なECHLP/Ech1が病態の原因因子であることを示した結果とよく一致する。すなわち、糖尿病の病態ではECHLP/Ech1の過剰発現が生じたことによってPPARγ転写誘導活性の抑制が起こり、その結果PPARγによって誘導されるべき下流遺伝子の発現が十分でないために糖代謝が阻害されると考えられた。
ECHLP/Ech1は分子内に脂肪酸代謝に働くエノイルCoA加水酵素(enoyl−CoA hydratase)とジエノイルCoA異性化酵素(dienoyl−CoA isomerase)の2種類の酵素活性領域と予想される構造を有する(Filppula AらJ.Biol.Chem.,273巻1号:349−355頁1998年)。また脂肪酸代謝酵素の阻害剤は糖尿病態マウスにおいて血糖値を降下させることが以前から知られていた(Collier RらHorm.Metab.Res.,25巻1号:9−12頁1993年)。この事実と、ECHLPがPPARγ活性の抑制作用をもつという上述の知見から、ECHLPは過剰に存在するとPPARγを介する糖代謝を抑えて自らの脂肪酸代謝酵素活性により脂質からのエネルギー生成を促進し、減少するとPPARγ活性を解除して糖代謝へ生体のエネルギー源をシフトさせる、糖・脂肪代謝の拮抗的な調節を担う分子であると考えられた。これを利用して、PPAR相互作用ECHLPの量を減じれば、あるいは相互作用ECHLPによるPPARγに対する抑制作用を阻害すれば、生体のエネルギー源を糖代謝へ向かわせ血糖値を降下させることが可能である。同時にECHLPを用い、そのような作用を持つ化合物を容易に選択することが可能である。
(実施例6)正常および糖尿病モデルマウスにおけるAOP2蛋白量の比較
上述の知見に基づき、AOP2とPPARγの相互作用がPPARγアゴニストを介した副作用である浮腫の惹起に関わることが予想された。そこで糖尿病モデルマウスKKAy/Ta(Iwatsukaら、Endocrinol.Japon.、第17巻、第23−35頁、1970年、Taketomiら、Horm.Metab.Res.、第7巻、第242−246頁、1975年)と正常個体C57BL/6Jの脂肪に含まれる蛋白質含量を蛍光標識2次元ディファレンス電気泳動
Proteomics、第1巻、第377−396頁、2001年)を用いて比較した。病態モデルマウスにおいて蛋白質含量に2倍以上の差異が認められる蛋白質群について、質量分析法を用いて各蛋白質を同定した。
(1)マウスの組織の摘出
日本クレアよりオスのC57BL/6J、KKAy/Taマウスを購入した。C57BL/6Jは普通食で12週齢になるまで集団飼育した。KKAy/Taマウスは高カロリー食(CMF,オリエンタルイースト社)で12週令になるまで単独飼育した。KKAy/Taマウスが正常マウスと比較して高血糖、高体重になっていることを確認した(KKAy/Taマウス:血糖値514.2±18.2mg/dl、体重49.9±0.7g)後、これら2種類のマウスをジエチルエーテルで麻酔し、副睾丸脂肪を摘出した。摘出直後に液体窒素で凍結し、−80℃で保存した。
(2)蛋白質試料の調製
凍結した副睾丸脂肪をウレア、両性界面活性剤を含むトリス緩衝液中でホモジナイザーULTRA−TURRAX T−8(IKA LABORTECHNIK社)を用いてホモジネートした。メーカー添付のプロトコールに従い、これらのサンプルから遠心分離操作により上清を得て以下の二次元電気泳動用の試料とした。
(3)2次元電気泳動
アマシャムファルマシアバイオテクのプロトコールに従った。それぞれの試料に対して吸光度を測定することにより含有蛋白質量を決定し、それらから約50μgの蛋白質を含む量をとり、それぞれ異なる蛍光色素(Cy3およびCy5、アマシャムファルマシアバイオテク社)による標識を行った後に混合し、IPGストリップ(アマシャムファルマシアバイオテク社)を用いて一次元目の等電点電気泳動を行った。二次元目の電気泳動の前に、IPGストリップをウレア、ドデシル硫酸ナトリウム、グリセロール、ジチオスレイトールを含むトリス緩衝液で平衡化し、さらにヨードアセトアミドを溶解したウレア、ドデシル硫酸ナトリウム、グリセロール、ジチオスレイトールを含むトリス緩衝液で平衡化した。二次元目の電気泳動はドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミド電気泳動を用いて行った。二次元電気泳動が終了したゲルを蛍光イメージ解析装置(アマシャムファルマシアバイオテク社)を用いて、それぞれの蛍光色素に特異的な励起・検出波長を使用して、それぞれの二次元電気泳動像を得た。それら二つの泳動像を解析ソフトウエア(アマシャムファルマシアバイオテク社)を用いて定量化し、病態モデル動物において蛋白質含量に2倍以上の差異が認められるスポットを特定し、スポットピッキング装置(アマシャムファルマシアバイオテク社)により切り出し、トリプシンを用いてゲル内酵素消化法(Schevchenkoら、Analytical Chemistry、第68巻、第850−858頁、1996年)によりタンパク質を断片化し、ペプチド混合物をゲルより回収した。
(4)マススペクトル法による蛋白質の同定
得られたペプチド混合物をキャピラリー逆相液体クロマトグラフィーカラム(直径0.075mm、長さ150mm、エルシーパッキング社)を用い、0.2%ギ酸存在下、流速を毎分約200nLに設定し、アセトニトリル勾配溶出法にて各ペプチドを分離した。液体クロマトグラフ装置(マイクローム・バイオリソース社)に直接接続したエレクトロスプレーイオン源を有する四重極イオントラップ型質量分析装置(サーモクエスト社)により、自動的に各ペプチドの分子イオンを選択しそのプロダクトイオンスペクトルを測定する方法を用いて各ペプチドのプロダクトイオンスペクトルを得た。
KKAy/Taマウスの副睾丸脂肪において正常個体と比較して2倍の含量増加を確認した蛋白質の断片ペプチドの個々のプロダクトイオンスペクトルを、公共の蛋白質データベースMSDB(リリース20010401)を用い、解析ソフトMascot(マトリクスサイエンス社)にて検索照合した結果、マウスAOP2蛋白質(AOP2/1−Cys Prx/nonselenium glutathione peroxidase;GenBank accession番号AF004670、AF093852、Y12883)中の4カ所の部分アミノ酸配列が一致し、マウスAOP2蛋白質であることが判明した。これにより糖尿病態においてはAOP2蛋白質含量が増加することが明らかとなった。
(実施例7)組織によるAOP2発現量の比較
配列番号14及び15に示したプライマーを用いて、ヒトcDNAライブラリー(クロンテック社)からPCR法(DNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA polymerase;宝酒造社)を用い、98℃(1分)の後、98℃(5秒)/55℃(30秒)72℃(3分)のサイクルを35回繰り返した)によりAOP2をコードする673bp(ベースペア)のcDNA断片の増幅をアガロースゲル電気泳動法により検出した。その結果、AOP2は主要臓器のうちPPARγの作用がある脂肪、筋肉、肝臓、腎臓と、ほかに心臓での発現が顕著であった。これにより発現部位からもAOP2がPPARγの転写共役因子であることが裏付けられた。
(実施例8)PPARγのリガンド依存的転写誘導能に対するAOP2の調節作用の検出
上述の結果から、AOP2はPPARγとリガンドを介して相互作用し、浮腫の惹起に関わること、さらにその発現亢進が糖尿病の病態と関連することが示された。そこでAOP2がPPARγの有する転写誘導活性にどのような影響を及ぼすか、培養細胞COS−1を用いたレポーターアッセイで調査した。
(1)動物細胞発現用プラスミドpcDNA−AOP2の作製
配列番号14及び15に示したプライマーを用いて、ヒト腎臓cDNAライブラリー(クロンテック社)からPCR法(DNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA polymerase;宝酒造社)を用い、98℃(1分)の後、98℃(5秒)/55℃(30秒)72℃(3分)のサイクルを35回繰り返した)によりAOP2の全長域をコードする673bpを含むcDNA断片を取得した。これをpCDNA3.1/V5−His−TOPOベクター(インビトロジェン社)にin vitro組換えによるTOPOクローニング法(インビトロジェン社)により挿入して動物細胞発現用プラスミドpcDNA−AOP2を作製した。なおAOP2には終止コドンを挿入せず、C末端側にベクター由来のV5epitopeおよびHis6タグが融合されるようにプライマーを設計した。
(2)PPARγのリガンド依存的転写誘導能に対するAOP2の調節作用の検出
培養細胞COS−1細胞は6ウェル培養プレート(ウェル直径35mm)の培養皿に各ウェル2mlの10%牛胎児血清(シグマ社)を含む最少必須培地DMEM(ギブコ社)を加えて70%コンフルエントの状態になるまで培養した。この細胞にリン酸カルシウム法(Graham LらVirology、52巻456頁1973年、新井直子、遺伝子導入と発現/解析法13−15頁1994年)により、実施例5(1)により作製したGAL−PPARγ(0.15μg/ウェル)、およびGAL4結合配列を8個繰り返しルシフェラーゼ遺伝子の上流に配置したレポーターコンストラクト(RE×8−Luci,;下川ら、国際公開番号WO99/04815)(0.8μg/ウェル)をpcDNA−AOP2(0.05−0.2μg/ウェル)とともに一過性にコトランスフェクトした。PPARγアゴニストGW7282を2mMあるいは被験化合物を培地に添加して48時間培養した後、培地を除去し、細胞をリン酸緩衝液(以下PBSと略称する)で洗浄した後にウェルあたり0.4mlの細胞溶解液(100mMリン酸カリウム(pH7.8)、0.2%トリトンX−100)を添加して細胞を溶解した。この細胞溶解液100μlにルシフェラーゼ基質溶液100μl(ピッカジーン社)を添加し、AB−2100型化学発光測定装置(アトー社)を用いて10秒間の発光量を測定した。ルシフェラーゼレポーター遺伝子と同時にβ−ガラクトシダーゼ発現遺伝子をもつプラスミドpCH110(アマシャムファルマシアバイオテク社)0.4μg/ウェルを細胞にコトランスフェクトし、β−ガラクトシダーゼ活性検出キットGalacto−Light PlusTMsystem(アプライドバイオシステムズ社)を用いてβ−ガラクトシダーゼ活性を測定し数値化した。これを導入遺伝子のトランスフェクション効率として上述のルシフェラーゼ活性を各ウェル毎に補正した。
上記実験の結果、PPARγのアゴニスト依存的な転写誘導活性は、細胞にトランスフェクトしたAOP2発現プラスミドの用量に依存した促進が認められた(図5)。これにより、PPARγとAOP2のアゴニスト依存的な相互作用が起こるとPPARγの転写誘導活性が亢進することが明らかになった。
この事実と、腎臓を含む組織でAOP2の発現があり、糖尿病モデルマウスにおいてAOP2蛋白量が病態で亢進している前述の結果から、糖尿病の病態では細胞中のAOP2存在量が亢進し、それに伴う腎臓など特定組織での過剰なPPARγ活性の促進が副作用(浮腫)をもたらすと考えられた。
AOP2はアミノ酸配列の相同性から分子内にペルオキシダーゼ様配列を持つことから抗オキシダント蛋白質2(anti−oxidant protein 2、(GenBankアクセッション番号XM_001415)と呼称されているが、実際の生理活性としてはカルシウム非依存性のフォスフォリパーゼA2として機能する報告があり(acidic calcium−independent phospholipase A2;Kim TSら、J.Biol.Chem.,272巻16号10981頁1997年)、またマウスでは同Aop2蛋白質の遺伝子座が多嚢胞性腎症の原因遺伝子として報告されている(LTW4/Aop2;lakoubova OA,らGenomics 42巻3号 474−478頁1997年)。このようにAOP2はそのアミノ酸配列構造から予想される分子機能とは異なる作用を持つことが明らかであり、その本来の生理機能は確定されていない。AOP2がPPARγとリガンド依存的に結合し、その転写共役因子として機能するという本発明者による発見は、該分子の機能における新規の知見である。このAOP2を利用することにより、PPARγの作動薬から浮腫を惹起するものを発見し除去することが可能である。
(実施例9)PPARγを介した主作用を選択的に亢進する化合物のスクリーニング系
以上の知見から、実施例5におけるレポーターアッセイ系で検出可能なECHLPとPPARγの相互作用、およびECHLPによるPPARγのリガンド依存転写促進能の抑制は、これを阻害する化合物をスクリーニングすることによって糖代謝を改善し、糖尿病態の回復に寄与する新規の糖尿病治療薬のスクリーニングが可能である。さらにそこで得られる被験物質の中から、実施例8におけるレポーターアッセイ系で検出できるAOP2とPPARγの相互作用、およびAOP2によるPPARγのリガンド依存転写促進能の亢進を引き起こさない物質をスクリーニングすることにより、副作用である浮腫を引き起こさずに糖尿病態の回復に寄与する糖尿病治療薬のスクリーニングが可能である。
すなわち実施例5、8と全く同様のレポーター活性測定系で被験化合物をスクリーニングできるが、より大量の被験化合物を効率よくスクリーニングするために下記のレポーターアッセイ系を構築した。
方法の詳細は前述の実施例5に示したものと同一とし、PPARアゴニストの存在によりECHLPによるPPARγの転写活性化能抑制が認められる条件下において、過剰量の被験化合物を並存させ競合させることで該転写活性化能抑制作用を阻害する化合物をスクリーニングした。具体的には6ウェル培養プレートに培養細胞COS−1細胞を10%牛胎児血清を含む最少必須培地DMEM中で70%コンフルエントの状態になるまで培養した。同細胞にリン酸カルシウム法でGAL−PPARγ(0.15μg/ウェル)、およびRE×8−Luci(0.8μg/ウェル)を、pcDNA−ECHLP(0.15μg/ウェル)とともにコトランスフェクトした。ここへPPARγアゴニストとして最終濃度0.1μMのGW7282を添加した条件下で、被験化合物(10−1.0μM)をさらに培地に添加して並存させるかたちで48時間培養した後、細胞をPBSで洗浄した後にウェルあたり0.4mlの細胞溶解液を添加して溶解した。同液100μlを96ウェルプレートに移して前述実施例5の方法に従いルシフェラーゼ活性およびβ−ガラクトシダーゼ活性を測定してPPARγの活性化を数値化した。PPARγアゴニストとして添加した低濃度のGW7282(0.1μM)が存在する条件下で認められるECHLPの発現によるリガンド依存的なPPARγの転写誘導能抑制(補正したルシフェラーゼ活性値の比)を基準とし、そこへ過剰の被験化合物10あるいは1.0μMを加えた条件で前記転写誘導能抑制を阻害する化合物をスクリーニングした。このECHLPによるPPARγ転写誘導能抑制を阻害する物質をスクリーニングする基準は、阻害活性強度(IC50)において、好ましくは10μM以下、さらに好ましくは1.0μM以下である。本スクリーニング系により、先に記載した化合物GI−262570は、10μMでECHLPによるリガンド(0.1μM GW7282)依存的なPPARγ転写誘導能抑制を一部阻害した(図6a)。一方化合物GL−100085は、10μMでも同転写誘導能抑制を阻害せず、GI−262570はPPARγの主作用に特異性が高く、GL−100085の同主作用が低い化合物として実際に選択することができた。
続いてさらに同スクリーニング系で選択した各被験化合物(10−1.0μM)をここでは単独で、同スクリーニング系のpcDNA−ECHLPをpcDNA−AOP2(0.15μg/ウェル)に置き換えて構築したスクリーニング系に添加し、AOP2によるPPARγの転写誘導能に対する被験化合物依存的な促進が存在するか上述と同様に補正したルシフェラーゼ活性を測定することにより検定した。このスクリーニング系により、上述の化合物GW7282およびGL−100085は、1.0−10μMでその存在依存的にAOP2の共存下でPPARγの転写誘導能を約4−5倍あるいは4−6倍に促進することを確認した。一方で化合物GI−262570は1.0μM、10μMいずれにおいても同転写誘導能を3.5倍程度にしか促進しなかった(図6B)。これにより、本スクリーニング系を用いてPPARγの副作用に特に特異性が高い化合物としてGL−100085を、また副作用惹起に比較的特異性の低い化合物としてGI−262570を、実際に選択することが可能であった。
(実施例10)組織によるFLJ13111の発現量の比較
配列番号18及び配列番号19に示したプライマーを用いて、ヒトcDNAライブラリー(クロンテック社)からPCR法(DNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA polymerase;宝酒造社)を用い、98℃(1分)の後、98℃(5秒)/55℃(30秒)72℃(3分)のサイクルを35回繰り返した)によりFLJ13111をコードするcDNA断片の増幅をアガロースゲル電気泳動法により検出した。その結果、FLJ13111は主要臓器のうちPPARγの作用がある筋肉、肝臓のほか、乳腺、肺、胎盤、卵巣、リンパ球、白血球での発現が顕著であったが、PPARγリガンドの浮腫の惹起にかかわる腎臓では殆ど発現が見られなかった。これにより発現部位からFLJ13111はPPARγの転写共役因子であることが裏付けられた。
(実施例11)PPARγのリガンド依存的転写誘導能に対するFLJ13111の調節作用の検出
上述の酵母ツーハイブリッド解析の結果から、FLJ13111はPPARγとリガンドを介して相互作用することが示された。そこでFLJ13111がPPARγの有する転写誘導活性にどのような影響を及ぼすか、培養細胞COS−1を用いたレポーターアッセイで調査した。
(1)動物細胞発現用プラスミドpcDNA−FLJ13111の作製
配列番号18及び配列番号19に示したプライマーを用いて、ヒト肝臓cDNAライブラリー(クロンテック社)からPCR法(DNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA polymerase;宝酒造社)を用い、98℃(1分)の後、98℃(5秒)/55℃(30秒)72℃(3分)のサイクルを35回繰り返した)により配列番号16に示すFLJ13111をコードする897bpを含むcDNA断片を取得した。これをpCDNA3.1/V5−His−TOPOベクター(インビトロジェン社)にin vitro組換えによるTOPOクローニング法(インビトロジェン社)により挿入して動物細胞発現用プラスミドpcDNA−FLJ13111を作製した。なおFLJ13111には終止コドンを挿入せず、C末端がわにベクター由来のV5epitopeおよびHis6タグが融合されるようにプライマーを設計した。
(2)PPARγのリガンド依存的転写誘導能に対するFLJ13111の調節作用の検出
上述実施例5(3)と同様の方法でpcDNA−ECHLPをpcDNA−FLJ13111に置き換えることにより、PPARγのリガンド依存的転写誘導能に対するFLJ13111の作用をレポーターアッセイで測定する系を作製した。また、PPARγアゴニストとしてはロジグリタゾン1mMを用いた。ロジグリタゾンを添加してルシフェラーゼ活性を測定した結果、PPARγのアゴニスト依存的な転写誘導活性は、細胞にトランスフェクトしたFLJ13111発現プラスミドの用量に依存した促進が認められた(図7)。これにより、PPARγとFLJ13111のアゴニスト依存的な相互作用が起こるとPPARγの転写誘導活性が亢進することが明らかになった。
この事実と、PPARγリガンドの浮腫の惹起にかかわる腎臓でFLJ13111の発現が殆ど無いことから、FLJ13111によるPPARγ活性の促進は、副作用でなく主作用を増強すると考えられた。
FLJ13111は機能未知の蛋白質であり、アミノ酸配列から分子内に細胞核内の存在を示唆する核標的配列(Nuclear Targeting Sequence)やグリコシル化を受けうる部位(N−glycosylation site)の存在が予想される他は、アミノ酸配列構造から分子機能を示唆する情報はなかった。FLJ13111がPPARγとリガンド依存的に結合し、その転写共役因子として機能するという本発明者による発見は、該分子の機能における新規の知見である。このFLJ13111を利用することにより、PPARγの主作用選択的な作動薬を発見することが可能である。
(実施例12)PPARγを介したFLJ13111のリガンド選択的作用の検出、およびPPARγを介した主作用を選択的に亢進する化合物のスクリーニング系
以上の知見から、実施例11におけるレポーターアッセイ系で検出可能なFLJ13111によるPPARγのリガンド依存転写促進能の亢進作用を促進する化合物をスクリーニングすることによって糖代謝を改善し、糖尿病態の回復に寄与する新規の糖尿病治療薬のスクリーニングが可能である。またさらにそこで得られる被験物質の中から、実施例8におけるレポーターアッセイ系で検出できるAOP2とPPARγの相互作用、およびAOP2によるPPARγのリガンド依存転写促進能の亢進を阻害する物質をスクリーニングすることにより、副作用である浮腫を引き起こさずに糖尿病態の回復に寄与する糖尿病治療薬のスクリーニングが可能である。
すなわち実施例11と全く同様のレポーター活性測定系で被験化合物をスクリーニングできるが、大量の被験化合物を効率よくスクリーニングするために下記の条件に設定しレポーターアッセイを実施した。GAL−PPARγ(0.15μg/ウェル)、レポーターコンストラクト(RE×8−Luci;0.8μg/ウェル)およびβ−ガラクトシダーゼ発現遺伝子をもつプラスミドpCH110(0.4μg/ウェル)をpcDNA−FLJ13111(0.1μg/ウェル)とともにCOS−1細胞に一過性にコトランスフェクトした。ここへ最終濃度10−0.1μMの被験化合物を培地に添加して48時間培養した後、ルシフェラーゼ活性およびβ−ガラクトシダーゼ活性を測定してPPARγの活性化を数値化した。上記条件以外のトランスフェクション方法およびルシフェラーゼ測定方法の詳細は実施例5及び実施例9に従った。被験化合物の添加、非添加の各条件下でFLJ13111の発現によるPPARγの転写誘導能促進(補正したルシフェラーゼ活性値の比)を指標にスクリーニングした。このFLJ13111によるPPARγ転写誘導能を促進する物質をスクリーニングする基準は、有効濃度(ED50)において、好ましくは10μM以下、さらに好ましくは1.0μM以下とした。本スクリーニング系により、ロジグリタゾンおよびピオグリタゾンは、1μMでFLJ13111によるPPARγ転写誘導能を促進した。一方化合物GL−100085は、10μMでも同転写誘導能を促進せず、ロジグリタゾン、ピオグリタゾンはPPARγの主作用に特異性が高く、GL−100085は同主作用が低い化合物として実際に選択することが可能であった。
(実施例13)正常マウスおよび糖尿病モデルマウスにおけるFLJ13111発現量の測定
上述の知見によりFLJ13111蛋白質とPPARγの相互作用がPPARγアゴニストを介した主作用である糖代謝改善に関わることが予想された。そこで前述実施例4に記載の2種類の糖尿病モデルマウス、KKAy/TaおよびC57BL/KsJ−db/dbの筋肉におけるFLJ13111遺伝子のマウスオルソログ遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)発現量を測定し、正常個体C57BL/6J、C57BL/KsJ−+m/+mのそれと比較することにした。遺伝子発現量は、本発明のFLJ13111遺伝子の発現量を測定し、同時に測定したグリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素(Glyceraldehyde 3−phosphate dehydrogenase(G3PDH))遺伝子の発現量により補正した。測定系としてはPRISMTM7700 Sequence Detection SystemとSYBR Green PCR Master Mix(アプライドバイオシステムズ社)を用いた。本測定系においてはPCRで増幅された2本鎖DNAがとりこむSYBR Green I色素の蛍光量をリアルタイムに検出及び定量することにより、目的とする遺伝子の発現量が決定される。
具体的には、以下の手順により測定した。
(1)マウスの組織の摘出およびmRNAの抽出
前述実施例4と同一の方法により調製した。
(2)1本鎖cDNAの合成
全RNAから1本鎖cDNAへの逆転写は、(1)で調製した1μgのRNA(15あるいは12週齢のマウスの筋肉)をそれぞれ用い、逆転写反応用キット(AdvantageTM RT−for−PCR Kit;クロンテック社)を用いて20μlの系で行った。逆転写後、滅菌水180μlを加えて−20℃で保存した。
(3)PCRプライマーの作製
4つのオリゴヌクレオチド(配列番号20−24)を(4)の項で述べるPCRのプライマーとして設計した。FLJ13111遺伝子に対しては配列番号20と配列番号21の組み合せ、G3PDH遺伝子に対しては配列番号22と配列番号23の組み合わせで使用した。
(4)遺伝子発現量の測定
PRISMTM7700 Sequence Detection SystemによるPCR増幅のリアルタイム測定は25μlの系で説明書に従って行った。各系において1本鎖cDNAは5μl、2xSYBR Green試薬を12.5μl、各プライマーは7.5pmol使用した。ここで1本鎖cDNAは(1)で調製したものをG3PDHに関しては30倍希釈、FLJ13111に関しては10倍希釈して使用した。なお検量線作成には、1本鎖cDNAに代えて0.1μg/μlのマウスゲノムDNA(クロンテック社)を適当に希釈したものを5μl用いた。PCRは、50℃で10分に続いて95℃で10分の後、95℃で15秒、60℃で60秒の2ステップからなる工程を45サイクル繰り返すことにより行った。
各試料におけるマウスFLJ13111遺伝子の発現量は、下記式に基づいてG3PDH遺伝子の発現量で補正した。
[FLJ13111補正発現量]=[FLJ13111遺伝子の発現量(生データ)]/[G3PDH遺伝子の発現量(生データ)]
発現量の比較においてはC57BL/6Jマウスの発現量を100とした相対量を図8に示した。図8に示す通り、FLJ13111遺伝子の発現は、糖尿病モデルマウスの筋肉において発現が顕著に減少していることが判明した。従ってFLJ13111の筋肉における発現量減少はインスリン抵抗性を惹起すると考えられる。以上のことからインスリン抵抗性にFLJ13111の関与が大きいと結論づけられる。
また本実施例の結果より、FLJ13111発現量の測定により糖尿病病態の診断が出来ることが明らかとなった。
(実施例14)FLJ13111のプロモーター配列の同定、および該配列の転写誘導活性を利用した主作用を選択的に亢進する化合物のスクリーニング系
前述実施例11の知見から、FLJ13111の存在量の増加は主作用惹起効果の高いPPARγリガンドの作用を増強することが明らかである。この事実からFLJ13111遺伝子からのFLJ13111発現量を正に調節することにより、インスリン抵抗性を改善できる可能性が予測される。しかしFLJ13111遺伝子の発現調節に関わるプロモーター配列は明らかではなかった。そこでFLJ13111プロモーター配列の取得を試みた。まず、配列番号24および25に示す一対のプライマーを設計した。これらのプライマーを用いて実施例11(1)に記載のPCRと同じ反応条件でFLJ13111のプロモーター配列の増幅を試みたところ、約1.8kbpのcDNA断片の増幅に成功した。上述の実施例と同様の方法により該断片の塩基配列を決定したところ、3’末端側にFLJ13111遺伝子のコード配列の一部を含む、配列番号26に示すポリヌクレオチドであることがわかった。該ポリヌクレオチド配列がFLJ13111の発現を制御するプロモーター活性を有するか否か、次の方法で検討した。ルシフェラーゼレポーターベクターであるpGL3−Basic Vector(プロメガ社)のマルチクローニングサイトに該ヌクレオチドを制限酵素BglIIおよびHind IIIを用いて挿入し、pGL3−FLJ13111pと名付けたレポータープラスミドを作製した。該プラスミドをCOS−1細胞にトランスフェクトし、前記ポリヌクレオチドを含まないpGL3−Basic Vector(空ベクター)をトランスフェクトした場合と比較することにより、該ポリヌクレオチドのプロモーターとしての発現誘導活性をルシフェラーゼの活性を指標に測定した。細胞へのトランスフェクション効率の補正及びルシフェラーゼアッセイの詳細は前述実施例5(3)に記載の方法と同じものを用いた。その結果、図9に示すように前記ポリヌクレオチドの存在に依存した有意なプロモーター活性が確認された。さらにこのプロモーター活性はトランスフェクトした細胞にPPARγのリガンドであるピオグリタゾン(0.1μM)を加えた場合に亢進されることが明らかになった。また本実験において前述のFLJ13111発現プラスミドであるpcDNA−FLJ13111をコトランスフェクトすると図9に示す通り前記ポリヌクレオチドのプロモーター活性は低下した。これらの事実から、クローニングしたポリヌクレオチドにはFLJ13111の発現を制御するプロモーター配列が含まれており、このプロモーターはインスリン抵抗性を低減させるピオグリタゾンなどのPPARγリガンドによって正に制御され、FLJ13111自身の存在によって負に制御されていることを示している。これにより、FLJ13111はリガンドを介してPPARγの活性を亢進させるのみでなく、インスリン抵抗性を低減させる効果が知られるPPARγのリガンドによってFLJ13111自身の発現量が亢進することにより、相乗的にインスリン抵抗性の低減に作用していることが予想された。
以上の知見から、本実施例におけるFLJ1311のプロモーターアッセイは、PPARγ蛋白質を利用せずにPPARγリガンドあるいはインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングするために利用できる。
(実施例15)ECHLP過剰発現細胞における脂肪細胞分化能の測定
上述の通り、ECHLP蛋白質はPPARγのリガンドの存在に依存してPPARγに結合し、PPARγの転写誘導活性を抑制することことが判明した。さらにECHLPは糖尿病態において発現量が増加していることから、その過剰発現がPPARγの活性抑制を介してインスリン抵抗性を惹起し、2型糖尿病の原因となっていることが予想された。一方、PPARγはリガンドに依存した転写活性の誘導により脂肪細胞の分化を促進し、その結果分化した脂肪細胞が血糖を取り込むことにより糖代謝が改善され、インスリン抵抗性が低減されることが知られている。そこで、実際にECHLPの細胞中での過剰発現がインスリン抵抗性にリンクする脂肪細胞の分化に影響を与えるか否かを以下の実験により調査した。
(1)ECHLP過剰発現L1細胞の樹立
C末端にDYKDDDDKからなるFLAG配列を付加したECHLPをレトロウイルスベクターpCLNCX(イムジェネックス社)に組み換えるため、pcDNA−ECHLPプラスミドより制限酵素を用いて約1−kbのBamHI−NotI断片を調製した。また、NotI部位−FLAG配列−XbaI部位からなるDNA断片を調製するため、配列番号27と配列番号28に示す2本の合成オリゴDNAを混合し加熱、徐冷して2本鎖DNA断片とした。これらのDNA断片を、pCLNCXのBamHIおよびXbaI部位で組み換え、pCLNCX−ECHLP−FLAGベクターを得た。このpCLNCX−ECHLP−FLAGベクターとpCL−Ecoベクター(イムジェネックス社)を共に、293細胞にリン酸カルシウム法により遺伝子導入した。遺伝子導入後24および48時間に、培養上清中の組み換えウイルスを回収した。未使用の細胞培養液(最少必須培地DMEM(ギブコ社))により2倍希釈し、更に最終濃度8μg/mlとなるようにポリブレン(シグマ社)を添加してマウス培養前駆脂肪細胞3T3−L1(ATCC)細胞に感染させた。感染後48時間より、1.5mg/mlG418(ナカライ)によりウイルス感染細胞を選別し、ECHLP−FLAG安定発現L1細胞を樹立した。コントロールとして、pCLNCXベクター(空ベクター)を感染させた細胞も同様に作製した。樹立細胞におけるECHLP−FLAGの発現は、抗FLAG M2抗体(シグマ社)を用いたウエスタンブロット法により確認した。具体的には、上述のECHLP−FLAG発現細胞の溶解液10μlに10μlの2倍濃度SDSサンプルバッファー(125mMトリス塩酸(pH6.8)、3%ラウレル硫酸ナトリウム、20%グリセリン、0.14M β−メルカプトエタノール、0.02%ブロムフェノルブルー)を添加し、100℃で2分間処理した後、10%のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、試料中に含まれている蛋白質を分離した。セミドライ式ブロッティング装置(バイオラッド社)を用いてポリアクリルアミド中の蛋白質をニトロセルロース膜に転写した後、常法に従いウエスタンブロッティング法により該ニトロセルロース上のECHLP蛋白質の検出を行った。一次抗体にはECHLPのC末端に融合させたFLAGエピトープを認識するモノクローナル抗体(インビトロジェン社)を用い、二次抗体にはラビットIgG−HRP融合抗体(バイオラッド社)を用いた。その結果ECHLP−FLAG融合蛋白質を示す蛋白質がECHLP−FLAG発現ベクターの細胞導入に依存して検出されることを確認した。
(2)ピオグリタゾンによる脂肪細胞分化
上記の方法により樹立した空ベクター感染L1細胞又はECHLP感染L1細胞を、96穴プレートに104cell/wellで培養し、48時間後よりインスリン(1μg/ml)およびピオグリタゾン(0.1−3μM)を用いて脂肪細胞へ分化誘導した。脂肪細胞への分化の程度は細胞中に取り込まれたトリグリセリド量を指標とし、分化誘導開始後7日目の細胞を、トリグリセリド含量の測定に供与した。
(3)細胞内トリグリセリド量の測定
2穴の細胞を40μlの0.1%SDS溶液中に溶解し、1mlのトリグリセリド測定試薬(トリグリセリドG−テストワコー、和光純薬工業)を加え、37℃にて10分間加温した。反応液の波長505nmの吸光度(OD505)を測定した。その結果、図10に示すとおりコントロール細胞(空ベクター感染L1細胞)ではピオグリタゾン(0.1−3μM)により用量依存的に細胞内トリグリセリドが増加し、脂肪細胞への分化が認められた。一方ECHLP過剰発現細胞(ECHLP感染L1細胞)においては、ピオグリタゾン(0.1−3μM)により誘導されたトリグリセリド増加は、いずれのピオグリタゾン用量においてもコントロール細胞における増加量の43−57%に抑制された。
脂肪細胞の分化抑制は脂肪細胞によって引き起こされる糖取込の総量を減少させる。したがって上記の結果からECHLPの過剰発現は脂肪細胞分化を抑制することにより2型糖尿病の原因因子として作用していることが明らかになった。
(実施例16)FLJ13111とPPARγの結合を選択的に誘導するリガンドの同定
上述実施例12に示したものと同一のレポーターアッセイによるスクリーニングを行った結果、PPARγの転写誘導活性を促進する化合物XFが得られた(図11)。その力価は10μMでピオグリタゾンの0.1μMにほぼ匹敵することがわかった。さらにこの化合物XFによるPPARγの転写活性化能の促進作用はピオグリタゾンの場合と同様にFLJ13111の過剰発現(0.1μg/ウェル)によって亢進することがわかった。
また、前述の実施例2に示したリガンド依存的なPPARγとFLJ13111の結合を酵母ツーハイブリッド法により検出する系において、同一の条件下でGW7282を化合物XFに置き換える形で実験したところ、化合物XFは前述のSRC−1、ECHLP,AOP2などの蛋白質とPPARγの結合は誘導せずに、FLJ13111とPPARγの結合のみを誘導することを見出した。
(実施例17)FLJ13111選択的PPARγリガンドによるナトリウム−カリウムATP分解酵素発現量の測定
PPARγリガンドによる浮腫は循環血漿量の増大によって引き起こされるが、これは腎細胞におけるナトリウム−カリウムATP分解酵素の発現量上昇とリンクして起こることが知られている。そこで、化合物XFが浮腫の惹起にリンクする腎細胞のナトリウム−カリウムATP分解酵素の発現量に影響を与えるか否か調査した。
具体的にはイヌ腎上皮細胞MDCKは、10%牛胎児血清(シグマ社)を添加した最少必須培地DMEM(ギブコ社)を用いて24穴培養プレートに1.5x105細胞/穴で37℃にて48時間培養した。培養液に溶媒(ジメチルスルホキシド)のみ、あるいはピオグリタゾン(終濃度0.1−10μM)または被験化合物XF(終濃度0.1−10μM)を添加し、さらに6時間培養した。1mlの測定用緩衝液(3mM MgSO4,3mM Na2HPO4,10mM トリス塩酸,250mM ショ糖)で細胞を2回洗浄した後、3H−ウアバイン(74Bq/μl、アマシャムバイオサイエンス社)および2μMウアバインを含む測定用緩衝液200μlを加えて37℃で2時間静置した。この条件で得られる結合放射活性を全結合量とした。また、非特異的結合量の測定には3H−ウアバイン(74Bq/μl)および1mM ウアバインを用いた。反応液を吸引除去後、1mlの氷冷測定用緩衝液で3回細胞を洗浄し、0.5N NaOH水溶液(250μl)により細胞を溶解した。等量の0.5N HCl水溶液により中和後、5ml液体シンチレータを加え、液体シンチレーション測定器により放射活性を計測した。3H−ウアバインの特異的結合量は、全結合量から非特異的結合量を差し引いた値として求め、ナトリウム−カリウムATP分解酵素の発現量を測定した。
その結果図12に示すとおり、ピオグリタゾンは溶媒のみを添加したコントロール細胞に比較して0.1μMの添加で有意なナトリウム−カリウムATP分解酵素の発現量増大作用が見られた。それに対して化合物XFは、上述の知見からPPARγ転写活性化においてはピオグリタゾンとほぼ同様の効果を示す10μMの濃度を添加してもナトリウム−カリウムATP分解酵素の発現量を増大させなかった。すなわち、FLJ13111選択的PPARγリガンドである化合物XFは浮腫を惹起するナトリウム−カリウムATP分解酵素の酵素発現量の増大を引き起こさないことが明らかとなり、化合物XFが浮腫の惹起に関与しないことが示された。
(実施例18)FLJ13111選択的PPARγリガンドによる脂肪細胞分化能の測定
次に化合物XFの添加がインスリン抵抗性の低減にリンクする脂肪細胞の分化に影響を与えるか否かを前述の実施例15と同様の方法により調査した。具体的にはマウス培養前駆脂肪細胞3T3−L1(ATCC)細胞に、化合物XF(1.0−10.0μM)を添加して7日目の細胞のトリグリセリド量を指標として脂肪細胞への分化の度合いを測定した。その結果、化合物XFの添加は溶媒のみを添加した細胞に比較して約20%程度のトリグリセリド量の増加が認められた。
脂肪細胞の分化促進は脂肪細胞が担う糖取込の総量を増加させ、インスリン抵抗性を改善する。したがって以上の結果から化合物XFは浮腫の惹起を引き起こさずにインスリン抵抗性を改善する作用を持つことが示された。
以上の結果から、FLJ13111を用いることにより、主作用を選択的にもたらして副作用を引き起こさない化合物、すなわちインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングできることは明らかである。
産業上の利用可能性
本発明の、リガンド存在下で行う酵母ツーハイブリッドスクリーニング方法により、副作用と乖離したインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングするのに有用なツールとなるリガンド依存的にPPARと相互作用する蛋白質をスクリーニングすることができる。前記方法により得られた、主作用リガンド依存性PPAR結合分子ECHLP、主作用リガンド選択的PPARγ作用因子FLJ13111、および副作用リガンド依存性PPAR結合分子AOP2を用いることにより、主作用を選択的にもたらして副作用を引き起こさない化合物を同定及びスクリーニングすることができる。該スクリーニング系により選択された物質は、インスリン抵抗性改善薬の候補物質として有用である。
配列表フリーテキスト
以下の配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。具体的には、配列表の配列番号9、10、11、13、24、25、27、28の配列で表される各塩基配列は、人工的に合成したプライマー配列である。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
図1は、リガンド依存的なPPARγ相互作用因子とPPARγの結合におけるアゴニスト選択性を示す図である。
図2は、糖尿病モデルマウスKKAy/Ta(KKAy)およびC57BL/KsJ−db/db(db/db)と正常マウスにおけるEch1発現量の比較を示す図である。
図3は、Ech1の組織別発現分布を示す図である。
図4は、ECHLPによるPPARγのリガンド依存的転写誘導能に対する抑制作用を示す図である。
図5は、AOP2によるPPARγのリガンド依存的転写誘導能に対する促進作用を示す図である。
図6は、ECHLP、AOP2によるPPARγのリガンド依存的転写誘導能に対する作用を利用した主作用特異的なPPARγリガンドのスクリーニングを示す図である。
図7は、FLJ13111によるPPARγのリガンド依存的転写誘導能に対する促進作用を示す図である。
図8は、糖尿病モデルマウスKKAy/Ta(KKAy)、C57BL/KsJ−db/db(db/db)および正常マウス(C57BL/6J(C57BL)、C57BL/KsJ−+m/+m(m+/m+))におけるFLJ13111発現量の比較を示す図である。
図9は、FLJ13111プロモーターの転写誘導活性及び該活性に及ぼすピオグリタゾン又はFLJ13111過剰発現の影響を示す図である。
図10は、マウス3T3−L1細胞におけるピオグリタゾンによるトリグリセリド含量の増加に対するECHLP過剰発現の影響を示す図である。
図11は、FLJ13111存在あるいは非存在下におけるピオグリタゾン又は化合物XFに依存したPPARγの転写誘導能を示す図である。
図12は、腎上皮細胞におけるナトリウム−カリウムATP分解酵素の発現量に対するピオグリタゾンあるいは化合物XFの影響を示す図である。
本発明は、リガンド依存的にPPARと相互作用する蛋白質をスクリーニングする方法、該蛋白質を利用したインスリン抵抗性改善薬のスクリーニング方法に関する。
背景技術
インスリン抵抗性改善薬として効果が認められているチアゾリジン誘導体はペルオキシソーム増殖剤応答性受容体ガンマ(peroxisome proliferator activated receptor:PPARγ)のアゴニストとして作用することが示されている(非特許文献1参照)。チアゾリジン誘導体のPPARγとの親和性は生体内の血糖降下作用と相関することから、該化合物群のインスリン抵抗性改善作用はPPARγを介した作用であると考えられている(非特許文献2参照)。このためPPARγのアゴニストの検出方法はインスリン抵抗性糖尿病治療薬をスクリーニングする有効な手法であると考えられてきた。
糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンの作用不足から引き起こされるが主に2つのタイプが存在する。1型糖尿病と呼ばれるものは膵臓のβ細胞が破壊されて発病し、治療にはインスリンを必要とする。一方で2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)は遺伝的な要素に過食や運動不足、ストレスなど、身体に負担となる生活習慣が加わり発病する。日本人の糖尿病では1型はごくわずかで2型が大部分を占めており、2型糖尿病患者ではインスリンによる糖代謝促進が起こりにくいインスリン抵抗性が生じている。そのため糖尿病の治療薬には単純な血糖降下剤のみでなく、インスリン抵抗性改善により糖代謝を促進する2型糖尿病の治療を対象とした研究が進められてきた。
PPARは核内受容体スーパーファミリーに属し、リガンドの結合によって活性化される転写促進因子として標的遺伝子上流にある応答配列に結合し、その転写を誘導することが知られている(非特許文献3参照)。
PPARには3つのサブタイプの存在が知られており、PPARα、PPARβ、PPARγと称する(非特許文献4−5参照)。更に、種々の化合物について、PPARのサブタイプの活性化やその血糖、あるいは脂質低下作用についての報告がなされている。例えば、糖尿病治療薬であるチアゾリジン誘導体はPPARγのリガンドであり、血清中のトリグリセリドレベルを有意に低下させることが知られている(非特許文献6−9参照)。一方、古くから脂質低下薬として用いられているフィブレート系薬剤は、PPARαのリガンド効果を有することが知られており、臨床では、強い血清トリアシルグリセロールレベルの低下が認められている(非特許文献10−11参照)。
PPARγアゴニストは細胞の増殖を停止し、細胞分化を促進することが報告されている(非特許文献12参照)。PPARγは特に脂肪組織で発現が認められ(非特許文献13−14参照)、ホモ欠損型マウスでは脂肪細胞の分化誘導が起こらない。またPPARγのアゴニストとして作用するチアゾリジン誘導体の投与は大型脂肪細胞の減少と小型脂肪細胞の増加を引き起こす(非特許文献15参照)。以上の知見から、チアゾリジン誘導体がインスリン抵抗性を改善する機構はPPARγアゴニストが急速に脂肪細胞の分化を促進する結果、インスリン抵抗性誘発原因物質であるTNFαの産生抑制、末梢組織でのグルコーストランスポーター発現の促進、遊離脂肪酸産生の抑制が起こり、結果、細胞内への糖取り込みが亢進して高血糖が改善されると考えられている。(非特許文献16参照)。
近年チアゾリジン誘導体を用いた臨床での知見から、PPARγのアゴニスト作用を持つ従来の合成リガンドは、インスリン抵抗性改善作用のみでなく、いずれも生体内の循環血漿量を増大させて浮腫を惹起することが報告された(非特許文献17−18参照)。このPPARγの合成アゴニストによる浮腫の惹起は心肥大等をもたらす重篤な副作用であり、インスリン抵抗性改善という主作用との乖離が強く望まれている。しかしながら、これまでPPARγとリガンドの複合体がどのようなシグナル経路を介して前述の脂肪細胞の分化及びインスリン抵抗性改善と、浮腫の惹起という異なる応答を誘導するのか、そこに至る分子メカニズムは解明されていない。
PPARの転写因子活性には他の核内受容体同様に転写共役因子群との相互作用が必要であり、PPARと相互作用する因子を同定しようとする試みがなされて来た。実際に、生化学的な手法により、既存の核内受容体相互作用因子とPPARγとの結合が調べられており、SRC−1(非特許文献19参照)、CBP/p300(非特許文献20参照)、DRIP205、TRAP220(非特許文献21参照)、SMRT(非特許文献22参照)、Gadd45(非特許文献23参照)、RIP140(非特許文献24参照)など複数の分子がPPARγと相互作用することが報告されている。同じく生化学的な手法で、レチノイドXレセプター(RXR:retinoid X receptor)がPPARとリガンドの存在依存的にヘテロダイマーを形成し、標的遺伝子上流の応答配列に結合することが報告されている(非特許文献25参照)。しかしながら、これらの共役因子群のアゴニスト依存性や、下流のシグナル経路にどのように関わるか、その詳細な機構は明らかでない。
一方、新規の核内受容体の相互作用因子を網羅的に探索する方法として、リガンドを介在させた、酵母ツーハイブリッドシステム(Yeast Two−hybrid system)(非特許文献26参照)を用いる手法が広く用いられてきたが、ことPPARγに関してはこれまで酵母ツーハイブリッドシステムでリガンド依存的な結合因子を見つけることが困難であった。リガンドを介在させない酵母ツーハイブリッドシステムでPPARγ結合因子を探索した結果では、PBP(非特許文献27参照)、PGC−1(非特許文献28参照)、PGC−2(非特許文献29参照)、SHP(非特許文献30参照)などのPPARγ結合因子が報告されているが、いずれの因子もリガンドの非存在下においてもPPARγと相互作用しており、明らかなリガンド依存的PPARγ結合因子は得られてこなかった。また酵母ツーハイブリッドシステムでPPARγと相互作用因子の結合におけるリガンド依存性を検出したとするわずかな報告例は、いずれも既存の核内受容体の相互作用因子をPPARγとともに発現させた酵母を培養、濃縮して相互作用を検出したもので(特許文献1及び非特許文献24参照)、cDNAライブラリーから明らかなリガンド依存性を有するPPARγの相互作用因子を、酵母ツーハイブリッドシステムでスクリーニングすることに成功した事例はなかった。例えば、上述のGadd45及びPGC−1は、サブタイプのPPARαを含めて核内受容体とのリガンド依存的な相互作用が酵母ツーハイブリッドシステムで検出されているにもかかわらず、PPARγに関しては生化学的手法でしかリガンド依存性が見られない(非特許文献24参照)。生化学的手法と酵母を用いる手法では感度、プローブ対相互作用因子の比率が異なるため、PPARγリガンドの作用を酵母ツーハイブリッドシステムでは効率よく検出できないと説明されてきた(非特許文献24参照)。しかし生化学的な手法は1対の蛋白質間の相互作用を検出するのには適しているが、特定の蛋白質に相互作用する蛋白質を網羅的に検索することが困難である。一方酵母ツーハイブリッドシステムでは特定の蛋白質と相互作用する蛋白質をライブラリー中から検索することが可能である。
以上述べたように、浮腫の惹起という副作用とインスリン抵抗性改善という主作用との乖離が強く望まれていながら、そこに至る分子メカニズムは解明されておらず、メカニズムの解明と副作用の少ないインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングする方法が待望されていた。
一方、ECHLP/Ech1は分子内に脂肪酸代謝に働くエノイルCoA加水酵素(enoyl−CoA hydratase)とジエノイルCoA異性化酵素(dienoyl−CoA isomerase)の2種類の酵素活性領域と予想される構造を有しており(非特許文献31参照)、配列に関して種々の報告があるが(特許文献2−7参照)、その生理機能は明らかではなかった。AOP2は分子内にペルオキシダーゼ様配列を持つことから抗オキシダント蛋白質2(anti−oxidant protein 2:Genbankアクセッション番号XM_001415)と呼称されており配列に関して種々の報告がある(特許文献8−12参照)。実際の生理活性としてはカルシウム非依存性のフォスフォリパーゼA2として機能する報告があり(非特許文献32参照)、またマウスでは同Aop2蛋白質の遺伝子座が多嚢胞性腎症の原因遺伝子として報告されている(非特許文献33参照)。このようにAOP2はそのアミノ酸配列構造から予想される分子機能とは異なる作用を持つことが明らかであり、その本来の生理機能は確定されていない。FLJ13111の配列に関する報告はあるが(特許文献13−14参照)、FLJ13111は機能未知の蛋白質であり、アミノ酸配列から分子内に細胞核内の存在を示唆する核標的配列やグリコシル化を受けうる部位の存在が予想される他はアミノ酸配列構造から分子機能を示唆する情報はなかった。
(特許文献1)特開平11−56369号公報
(特許文献2)国際公開第00/55350号パンフレット
(特許文献3)国際公開第02/29103号パンフレット
(特許文献4)国際公開第02/00677号パンフレット
(特許文献5)国際公開第01/49716号パンフレット
(特許文献6)国際公開第00/37643号パンフレット
(特許文献7)国際公開第01/75067号パンフレット
(特許文献8)国際公開第98/43666号パンフレット
(特許文献9)国際公開第02/12328号パンフレット
(特許文献10)国際公開第02/29086号パンフレット
(特許文献11)国際公開第02/06317号パンフレット
(特許文献12)国際公開第01/55301号パンフレット
(特許文献13)欧州特許出願公開第1074617号明細書
(特許文献14)国際公開第00/58473
(非特許文献1)J.Biol.Chem.,1995年,第270巻,p.12953−12956
(非特許文献2)J.Med.Chem.,1996年,第39巻,p.665−668
(非特許文献3)Cell,1995年,第83巻,p.835−839
(非特許文献4)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1994年、第91巻、p.7355−7359
(非特許文献5)蛋白質・核酸・酵素,1995年,第40巻,第13号、p.50−55
(非特許文献6)Diabetes,1997年,第46巻,p.433−439
(非特許文献7)Diabetes Care,1996年,第19巻,第2号,p.151−156
(非特許文献8)Diabetes Care,1992年,第15巻,第2号,p.193−203
(非特許文献9)Diabetologia,1996年,第39巻,p.701−709
(非特許文献10)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1997年,第94巻、p.4312−4317
(非特許文献11)Drugs,1990年,第40巻,第2号,p.260−290
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(非特許文献19)Gene Expr.,1996年,第6巻,p.185−195
(非特許文献20)J.Biol.Chem.,1999年,第274巻,p.7681−7688
(非特許文献21)Mol.Cell.Biol.,2000年,第20巻,p.8008−8017
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(非特許文献24)Mol Endocrinol.,1998年,第12巻,第6号,p.864−881
(非特許文献25)Ann.Rev.Cell Dev.Biol.,1996年,第12巻,p.335−363
(非特許文献26)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1991年,第88巻,p.9578−9582
(非特許文献27)J.Biol.Chem.,1999年,第274巻,p.7681−7688
(非特許文献28)Cell,1998年,第92巻,p.829−839
(非特許文献29)EMBO J.,1999年,第18巻,第13号,p.3676−3687
(非特許文献30)Biochim.Biophys.Acta.,1997年,第1巻,第1350号,p.27−32
(非特許文献31)J.Biol.Chem.,1998年,273巻1号:p.349−355
(非特許文献32)J.Biol.Chem.,1997年,272巻16号p.10981
(非特許文献33)Genomics,1997年,42巻3号p.474−478
発明の開示
本発明者らは、酵母ツーハイブリッドシステムに、活性の高いPPARγアゴニストを高濃度で介在させる独自の手法により、糖代謝改善作用(主作用)惹起効果の高いアゴニストの存在に依存してPPARγに結合する蛋白質群、および浮腫(副作用)惹起効果の高いアゴニストの存在に依存してPPARγに結合する蛋白質群を同定した。その結果、主作用アゴニストに依存してPPARγに結合する分子として、ECH−1(enoyl−CoA hydratase)様蛋白質(enoyl−CoA hydratase like protein:ECHLP)を、副作用アゴニストに依存してPPARγに結合する分子として、ヒト抗オキシダント蛋白質2(anti−oxidant protein 2またはnon−selenium glutathione peroxidase,acidic calcium−independent phospholipase A2;Genbankアクセッション番号XM_001415、以下AOP2と略記する)を見出した。
細胞中でECHLPが過剰に発現するとリガンド依存的なPPARγの転写誘導活性を顕著に抑制することを見出した。さらに同蛋白質は糖尿病モデルマウスにおいて血糖値の変動に関わらず発現量が亢進していることを遺伝子チップ法で測定し、同蛋白質が糖尿病態の原因因子であることを確認した。また、細胞中でAOP2が過剰に発現するとリガンド依存的なPPARγの転写誘導活性を顕著に促進することを見出した。さらにAOP2は糖尿病モデルマウスにおいてその蛋白質量が増大していることを2次元電気泳動法で検定し、糖尿病態における同蛋白質の過剰な存在が、PPARγを介して浮腫をもたらす特定の遺伝子群の発現を亢進させることを確認した。
同様に上記の酵母ツーハイブリッドシステムに活性の高いPPARγアゴニストを高濃度で介在させる独自の手法により、主作用アゴニストに依存してPPARγに結合する分子として、FLJ13111(GenBankアクセッション番号AK023173)を見出した。さらに細胞中でFLJ13111蛋白質が過剰に発現すると主作用アゴニストに依存してPPARγの転写誘導活性が顕著に亢進することを見出した。さらに、FLJ13111遺伝子は、糖尿病モデルマウスの筋肉において発現が顕著に減少していることを確認した。FLJ13111のプロモーター領域を新規に取得し、FLJ13111のプロモーターアッセイを構築した。該アッセイは、PPARγ蛋白質を利用せずにPPARγリガンドあるいはインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングするために利用できる。
これらの知見をもとにして、PPARを介して主作用に特異的に寄与し、副作用を惹起しない物質を検出する新しいインスリン抵抗性改善薬の同定およびスクリーニング方法を提供し本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1)糖代謝改善作用惹起効果の高いPPARリガンド存在下で、バイト(bait)として配列番号2で表されるPPARγ蛋白質の少なくとも第204番目から505番目を含む領域をコードするポリヌクレオチドを用い、プレイ(prey)としてcDNAライブラリーを用いる酵母ツーハイブリッドシステムを利用した、リガンド依存的にPPARγと相互作用する蛋白質をスクリーニングする方法、
(2)浮腫惹起効果の高いPPARリガンド存在下で、バイト(bait)として配列番号2で表されるPPARγ蛋白質の少なくとも第204番目から505番目を含む領域をコードするポリヌクレオチドを用い、プレイ(prey)としてcDNAライブラリーを用いる酵母ツーハイブリッドシステムを利用した、リガンド依存的にPPARγと相互作用する蛋白質をスクリーニングする方法、
(3)i)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ii)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質の少なくともリガンド結合領域と転写因子のDNA結合領域とからなる融合蛋白質をコードする遺伝子、及び、iii)前記転写因子のDNA結合領域が結合し得る応答配列に融合されたレポーター遺伝子により形質転換された細胞、
あるいは、
i)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及びii)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質が結合し得る応答配列に融合されたレポーター遺伝子により形質転換され、a)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチド、及び、b)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質を発現している細胞、
(4)i)配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号8で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ii)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質の少なくともリガンド結合領域と転写因子のDNA結合領域からなる融合蛋白質をコードする遺伝子、及び、iii)該転写因子のDNA結合領域が結合し得る応答配列に融合されたレポーター遺伝子により形質転換された細胞、
あるいは、
i)配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号8で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及びii)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質が結合し得る応答配列に融合されたレポーター遺伝子により形質転換され、a)配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号8で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチド、及び、b)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質を発現している細胞、
(5)転写因子が酵母のGAL4蛋白質である(3)または(4)記載の細胞、
(6)レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である(3)または(4)記載の細胞、
(7)i)(3)に記載の細胞、PPARリガンド、及び被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として該リガンド依存的な相互作用の変化または該リガンド依存的なPPARの転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴とする、被験物質がPPARを介した糖代謝改善作用を促進するか否かを検出する方法、
(8)i)(3)に記載の細胞、PPARリガンド、及び被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として該リガンド依存的な相互作用の変化または該リガンド依存的なPPARの転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴とする、インスリン抵抗性改善薬をスクリーニングする方法、
(9)インスリン抵抗性改善薬が糖代謝改善剤である(8)記載のスクリーニング方法、
(10)i)(4)に記載の細胞に被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として該被験物質による相互作用の変化または該被験物質によるPPARの転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴とする、被験物質がPPARを介する浮腫惹起活性を促進するか否かを検出する方法、
(11)i)(4)に記載の細胞に被験物質を接触させる工程、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として該被験物質による相互作用の変化または該被験物質によるPPARの転写活性誘導活性の変化を分析する工程、及びiii)レポーター活性を増大させない被験物質を選択する工程を含むことを特徴とする、浮腫惹起活性のないインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングする方法、
(12)インスリン抵抗性改善薬が糖代謝改善剤である(11)記載のスクリーニング方法
(13)i)配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ii)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質の少なくともリガンド結合領域と転写因子のDNA結合領域とからなる融合蛋白質をコードする遺伝子、及び、iii)前記転写因子のDNA結合領域が結合し得る応答配列に融合されたレポーター遺伝子により形質転換された細胞、
あるいは、
i)配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及びii)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質が結合し得る応答配列に融合されたレポーター遺伝子により形質転換され、a)配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチド、及び、b)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質を発現している細胞、
(14)i)(13)に記載の細胞に被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として該被験物質による相互作用の変化または該被験物質によるPPARの転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴とする、被験物質がPPARを介した糖代謝改善作用を促進するか否かを検出する方法、
(15)i)(13)に記載の細胞に被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として該被験物質による相互作用の変化または該被験物質によるPPARの転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴とする、インスリン抵抗性改善薬をスクリーニングする方法、
(16)インスリン抵抗性改善薬が糖代謝改善剤である(15)記載のスクリーニング方法、
(17)i)配列番号26で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、あるいは配列番号26で表される塩基配列において、1〜10個の塩基が欠失、置換、及び/または挿入されたポリヌクレオチド配列を含みかつ転写プロモーター活性を有するポリヌクレオチド
に融合されたレポーター遺伝子により形質転換された細胞に被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として被験物質による転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴とする、インスリン抵抗性改善薬をスクリーニングする方法、
(18)レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である(17)に記載の方法、
(19)(8)、(11)、(15)及び/又は(17)に記載のスクリーニング方法を用いてスクリーニングする工程、及び
前記スクリーニングにより得られた物質を用いて製剤化する工程
を含むことを特徴とする、インスリン抵抗性改善用医薬組成物の製造方法
に関する。
配列番号4からなるECHLPの全長又は部分配列と高い相同性を有するアミノ酸配列及び該配列をコードする塩基配列については種々の報告(WO00/55350、WO02/29103、WO02/00677、WO01/49716、WO00/37643、WO01/75067)があるが、いずれにもECHLPがインスリン抵抗性に関与するとの記載はない。配列番号8からなるAOP2の全長又は部分配列及びそれらと高い相同性を有するアミノ酸配列及び該配列をコードする塩基配列については種々の報告(WO98/43666、Antioxid Redox Signal.1999 Winter;1(4):571−84.Review.、WO200212328、WO200229086、WO200206317)があるが、いずれにもAOP2がインスリン抵抗性に関与するとの記載はない。WO01/55301には本発明者らが同定したAOP2と同一の配列が示され、該配列の機能を調整する物質の用途として多数の疾患の治療が列挙された中に糖尿病治療が含まれるが、該配列が糖尿病に関与するとの裏付けの実施例及び記載はない。配列番号17からなるFLJ13111と同一のアミノ酸配列及び該配列をコードする塩基配列については、EP1074617において開示されているが、同報告においてはFLJ13111の関与する特定の疾患名の記載がない。FLJ13111の塩基配列と相同性を有する配列はWO00/58473に開示されており、該配列の機能を調整する物質の用途として多数の疾患の治療が列挙された中に糖尿病治療が含まれるが、該配列が糖尿病に関与するとの裏付けの実施例及び記載はない。従って、ECHLP、AOP2、及びFLJ13111がPPARと結合することは本発明者らが初めて見出した知見であり、更には、これらを用いることによりPPARを介して主作用に特異的に寄与し、副作用を惹起しない物質を検出する新しいインスリン抵抗性改善薬スクリーニングは本願発明者らが初めて行った発明である。
発明を実施するための最良の形態
本発明で使用される用語につき説明する。
本明細書中で使用される「主作用」は「糖代謝改善作用」を、「副作用」は「浮腫を惹起する作用」を表す。糖代謝改善作用とは、細胞内に血液中の糖(グルコース)を取り込んでエネルギーとして消費したり、グリコーゲンのようなエネルギー貯蔵物質として蓄積する機能を促進する作用をいう。浮腫を惹起する作用とは、細胞外液が間質に蓄積、貯留して浮腫(むくみ)を惹起させる効果をいう。「主作用リガンド」は「糖代謝改善作用(主作用)惹起効果の高いリガンド」を、「副作用リガンド」は「浮腫(副作用)惹起効果の高いリガンド」を表す。糖代謝改善作用惹起効果の高いリガンドとしては、Miwa Iらの血糖測定法(Clin Chim Acta 37巻538頁1972年)において、より好ましくは、実施例1の条件の下で、対照群に比較して血糖値を25%低下させるのに必要な化合物濃度が従来型のPPARγリガンド(例えばピオグリタゾン)に比較して、5分の1以下の低濃度、より好ましくは、10分の1以下の低濃度であるものが好ましい。例えば、後述のGW−7282やGI−262570などを例示できる。なおMiwa Iらの血糖測定法とは、ムタローゼとグルコースオキシダーゼを組み合わせた酵素法により血糖値を測定するものである。浮腫惹起効果の高いリガンドとしては、Brizzee BLらの循環血漿量測定法(J.Appl.Physiol.69(6):2091−2096,1990)において、より好ましくは実施例1の条件の下で、100mg/kgの化合物を投与したときに二週間で対照群に比較して25%以上の循環血漿量の増大をもたらすもの、あるいは従来型のPPARγリガンド(例えばピオグリタゾン)に比較して15%以上の循環血漿量の増大をもたらすものが好ましい。例えば、後述のGW−7282やGL−100085などを例示できる。「試験用細胞」は「PPARとPPAR相互作用ECHLPとのリガンド依存的な相互作用をレポーター遺伝子の発現を指標として測定できる細胞」、「PPARとPPAR相互作用AOP2とのリガンド依存的な相互作用をレポーター遺伝子の発現を指標として測定できる細胞」、または「PPARとPPAR相互作用FLJ13111とのリガンド依存的な相互作用をレポーター遺伝子の発現を指標として測定できる細胞」を表す。「酵母ツーハイブリッドシステム」は、酵母の転写活性化因子にはDNA結合領域と転写活性化領域が存在し、転写活性化の開始には両者の相互作用が必要であることを利用し、▲1▼前記DNA結合領域に結合させた標的蛋白質と▲2▼前記転写活性化領域に結合させた蛋白質の相互作用を検出するシステムである。酵母ツーハイブリッドシステムにおいて、バイト(bait)はDNA結合領域に結合させた標的蛋白質を、プレイ(prey)は転写活性化領域に結合させた蛋白質を示す。「cDNAライブラリー」とは、細胞内で合成されている数万種類のmRNA(遺伝子情報の写しでタンパク質のアミノ酸配列を指令する)を抽出・分離し、逆転写酵素によりそのmRNAに相補なDNAを合成し、末端の加工をへてベクターへ組み込んだものである。本明細書において、「PPARリガンド結合領域」はPPARのリガンドが結合する領域であって、配列番号2記載のヒトPPARγ2アミノ酸配列では第204番から第505番目までを含む領域、ヒトPPARαアミノ酸配列では第167番から第468番目までを含む領域をそれぞれ示す。「DNA結合領域」は、DNAに結合するために機能する領域であり、応答配列に対するDNA結合能を有するが、単独で転写活性化能を有しないものを示す。GAL4転写因子のDNA結合領域は、N末端側(およそ第1番目から147番目までのアミノ酸を含む領域)に存在する。
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書の試験用細胞作製用のPPAR相互作用蛋白質遺伝子に含まれるポリヌクレオチドによりコードされるPPAR相互作用ポリペプチドには、
(1)配列番号4、配列番号8、または配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(2)配列番号4、配列番号8、または配列番号17で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARに結合する蛋白質であるポリペプチド(以下、機能的等価改変体と称する);及び
(3)配列番号4、配列番号8または配列番号17で表されるアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、リガンド依存的にPPARに結合する蛋白質であるポリペプチド(以下、相同ポリペプチドと称する);
が含まれる。
機能的等価改変体としては、「配列番号4、配列番号8、または配列番号17で表されるアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARに結合する蛋白質であるポリペプチド」、「配列番号4または配列番号17で表されるアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、主作用リガンド依存的にPPARに結合する蛋白質であるポリペプチド」あるいは「配列番号8で表されるアミノ酸配列において、1〜10個、好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、副作用リガンド依存的にPPARに結合する蛋白質であるポリペプチド」が好ましい。
相同ポリペプチドは、配列番号4、配列番号8、または配列番号17で表されるアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、リガンド依存的にPPARに結合する蛋白質である限り、特に限定されるものではないが、配列番号4または配列番号17で表されるアミノ酸配列に関して、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなることができ、好ましくは主作用リガンド依存的にPPARに結合する蛋白質であり、配列番号8で表されるアミノ酸配列に関して、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなることができ、好ましくは副作用リガンド依存的にPPARに結合する蛋白質である。なお、本明細書における前記「相同性」とは、Clustal program(Higgins and Sharp、Gene 73、237−244、1998;Thompson et al.Nucleic Acid Res.22、4673−4680、1994)検索によりデフォルトで用意されているパラメータを用いて得られた値を意味する。前記のパラメータは以下のとおりである。
Pairwise Alignment Parametersとして
K tuple 1
Gap Penalty 3
Window 5
Diagonals Saved 5
以上、本明細書の試験用細胞に含まれるPPAR相互作用ポリペプチドについて説明したが、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、その機能的等価改変体、及びその相同ポリペプチドを総称して、以下、「PPAR相互作用ECHLP」と称する。配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、その機能的等価改変体、及びその相同ポリペプチドを総称して、以下、「PPAR相互作用AOP2」と称する。また、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、その機能的等価改変体、及びその相同ポリペプチドを総称して、以下、「PPAR相互作用FLJ13111」と称する。
また、PPAR相互作用ECHLP、PPAR相互作用AOP2、またはPPAR相互作用FLJ13111をコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドは、配列番号4、配列番号8、または配列番号17記載のアミノ酸配列で示されるポリヌクレオチド、その機能的等価改変体、または、その相同ポリペプチドをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドなら何れでもよい。好ましくは、配列番号4、配列番号8、または配列番号17記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、さらに好ましくは、配列番号3、配列番号7、または配列番号16記載の塩基配列である。
本発明の、副作用と乖離したインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングする為に有用なツールとなるリガンド依存的にPPARと相互作用する蛋白質をスクリーニングする方法、該蛋白質を利用した副作用と乖離したインスリン抵抗性改善薬のスクリーニング方法を以下に記載する。
<リガンド依存的にPPARと相互作用する蛋白質のスクリーニング方法>
本発明においては、PPARγとリガンド依存的に相互作用する因子を酵母ツーハイブリッドシステムを利用したレポーター遺伝子の発現を指標としてcDNAライブラリー中から網羅的に同定することができる。本発明ではPPARとその転写共役因子のリガンド依存的な相互作用を検出し、PPAR自身の転写誘導能の検出を必要としないため、同転写誘導能発現に関与する哺乳動物固有の因子群の存在を要しない。従って試験用細胞として特に哺乳動物細胞を用いる必要がなく、真核細胞、例えば、酵母細胞、昆虫細胞及び哺乳動物細胞などでもよい。これらのうち、酵母細胞は培養が容易で迅速に実施できる上、外来遺伝子の導入など遺伝子組換え技術を適用するのが容易である。またPPARと相互作用因子との結合におけるリガンド依存性は同じ酵母ツーハイブリッドシステムを利用した方法で効率よく追試、検出することができる。
酵母ツーハイブリッドシステムは、レポーター遺伝子の発現をマーカーとして蛋白−蛋白質間相互作用を検出する方法である。一般に転写因子はDNA結合領域と転写活性化領域という機能の異なる2つの領域を有するが、ツーハイブリッドシステムでは、2種類の蛋白質XとYの相互作用を調べるために、転写因子のDNA結合領域とXからなる融合蛋白質、および、転写因子の転写活性化領域とYからなる融合蛋白質の2種類を同時に酵母細胞内で発現させる。蛋白質XとYが相互作用すると2種類の融合蛋白質が1つの転写複合体を形成し、これが細胞の核内において該転写因子の応答配列(特異的に結合するDNAの部位)と結合してその下流に配置されたレポーター遺伝子の転写を活性化する。このように2つの蛋白質の相互作用をレポーター遺伝子の発現に置き換えて検出することができる。
酵母ツーハイブリッドシステムは、通常、特定の蛋白質をプローブとしてこれと相互作用する未知蛋白質の遺伝子同定に用いられる。しかしながら核内受容体とその一部の転写共役因子群に見られるような、両者の結合が受容体リガンドの存在に依存して起こる場合には、リガンドを外部から添加したツーハイブリッドシステムを用いる必要がある。しかしながら、従来の技術の項で前述した通り、酵母ツーハイブリッドシステムではPPARγと相互作用因子のリガンド依存性の検出が困難であり、リガンド依存性のPPARγ相互作用因子の網羅的なスクリーニングは成功していなかった。この理由を本発明者らは、酵母の性質上PPARγアゴニストの細胞内へ透過性が低く、リガンド依存性の検出感度が低いためと予見し、報告された中でPPARγアゴニストとして最も活性の高い化合物群を高濃度で酵母に作用させることにより、PPARγと相互作用因子のリガンド依存性の検定やスクリーニングに適用できる酵母ツーハイブリッドシステムの独自の方法を完成した。より具体的には実施例2に記載の方法で本スクリーニングを実施できる。
PPARγのリガンド依存的相互作用因子を検出し、該相互作用に対する被験物質の作用を測定することを特徴とする方法の別の実施態様としては、例えば、PPARγと相互作用因子とのリガンド依存的結合を、生化学的に検出する方法がある。このような方法では、例えばRIなどで標識した培養細胞の抽出液から、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、プロテインA、β−ガラクトシダーゼ、マルトース−バインディングプロテイン(MBP)など適当なタグ蛋白質とPPARγのリガンド結合領域からなる融合タンパク質と結合する蛋白質を被験物質の存在下で直接的に検出し、該結合蛋白質を精製し、アミノ酸配列決定により同定することで実施できる。
<リガンド依存的にPPARと相互作用する蛋白質を利用した、糖代謝改善作用の検出方法・インスリン抵抗性改善薬のスクリーニング方法;リガンド依存的にPPARと相互作用する蛋白質を利用した、浮腫惹起活性の検出方法・浮腫惹起活性のないインスリン抵抗性改善薬のスクリーニング方法>
1.PPAR相互作用ECHLPを利用した糖代謝改善作用の検出法・インスリン抵抗性改善薬スクリーニング法
本発明の一つの実施態様としては、(i)PPARαまたはγの少なくともリガンド結合領域と転写因子のDNA結合領域の融合遺伝子、あるいはPPARαまたはγ分子の全長域をコードする遺伝子、(ii)PPAR相互作用ECHLPをコードする遺伝子、及び(iii)該転写因子のDNA結合領域が結合し得る応答配列に連結されたレポーター遺伝子、あるいはPPARαまたはγが結合し得る応答配列に連結されたレポーター遺伝子で形質転換された試験用細胞を用い、PPARリガンド存在下でこれを被験物質と共存させ、試験用細胞における、PPAR相互作用ECHLPによるPPARの転写活性化能抑制作用の被験物質による変化をレポーター遺伝子の発現を指標として検出し、測定することからなるPPARを介する主作用を選択的に促進するか否かの検出方法が挙げられる。また、同検出方法により検出するレポーター活性を増大させる化合物を選択することにより、PPARを介する主作用を選択的に促進する化合物をスクリーニングする方法が挙げられる。
2.PPAR相互作用AOP2を利用した浮腫惹起活性の検出法・浮腫惹起活性のないインスリン抵抗性改善薬のスクリーニング法
本発明の一つの実施態様としては、(i)PPARαまたはγの少なくともリガンド結合領域と転写因子のDNA結合領域の融合遺伝子、あるいはPPARαまたはγ分子の全長域のコード遺伝子(ii)PPAR相互作用AOP2のコード遺伝子、及び(iii)該転写因子のDNA結合領域が結合し得る応答配列に連結されたレポーター遺伝子、あるいはPPARαまたはγが結合し得る応答配列に連結されたレポーター遺伝子で形質転換された試験用細胞を用い、これを被験物質と共存させ、試験用細胞における、PPAR相互作用AOP2によるPPARの転写活性化能促進作用の被験物質による変化をレポーター遺伝子の発現を指標として検出し、測定することからなるPPARを介する副作用を有する化合物を検出する方法、同レポーター系により、副作用と乖離した、主作用を選択的に促進する化合物を選択、スクリーニングする方法が挙げられる。
3.PPAR相互作用FLJ13111を利用した糖代謝改善作用の検出法・インスリン抵抗性改善薬スクリーニング法
本発明の一つの実施態様としては、(i)PPARγの少なくともリガンド結合領域と転写因子のDNA結合領域の融合遺伝子、あるいはPPARγ分子の全長域をコードする遺伝子、(ii)PPAR相互作用FLJ13111をコードする遺伝子、及び(iii)該転写因子のDNA結合領域が結合し得る応答配列に連結されたレポーター遺伝子、あるいはPPARαまたはγが結合し得る応答配列に連結されたレポーター遺伝子で形質転換された試験用細胞を用い、これを被験物質と共存させ、試験用細胞における、PPAR相互作用FLJ13111によるPPARの転写活性化亢進作用の被験物質による変化をレポーター遺伝子の発現を指標として検出し、測定することからなるPPARを介する主作用を選択的に促進するか否かの検出方法が挙げられる。また、同検出方法により検出するレポーター活性を増大させる化合物を選択することにより、PPARを介する主作用を選択的に促進する化合物をスクリーニングする方法が挙げられる。
上記1、2、または3の実施態様において、PPARの転写誘導能を検出するために用いられる転写因子は、細胞核内で特定のDNA配列に結合する領域を有する真核生物の転写因子であれば限定されない。また転写因子のDNA結合領域は、応答配列に対するDNA結合能は有するが、単独で転写活性化能を有しないものであればよい。このような転写因子としては、例えば、酵母のGAL4蛋白質(Keeganら、Science、第231巻、第699−704頁、1986年、Maら、Cell、第48巻、第847−853頁、1987年)が挙げられる。GAL4転写因子のDNA結合領域および転写活性化領域は、例えばGAL4の場合、N末端側(およそ第1番目から147番目までのアミノ酸を含む領域)に存在する。
応答配列は、転写因子のDNA結合領域が結合し得るDNA配列を用いる。遺伝子の上流域からその領域を切り出して用いる、あるいはその配列を化学合成により合成して用いてもよい。
応答配列の下流に配置されるレポータ遺伝子は、一般に用いられるものであれば特に限定されないが、定量的測定が容易な酵素遺伝子などが好ましい。例えば、バクテリアトランスポゾン由来のクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(CAT)、ホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子(Luc)、クラゲ由来の緑色蛍光蛋白質遺伝子(GFP)等があげられる。レポータ遺伝子は、応答配列の下流に機能的に連結される。
PPARαまたはγ、転写因子のDNA結合領域、PPAR相互作用ECHLP、PPAR相互作用AOP2、またはPPAR相互作用FLJ13111をコードするポリヌクレオチドは、既知のアミノ酸配列や塩基配列の情報などをもとに設計し合成したプライマーやプローブを用いて、PCR(Polymerase Chain Reaction)法やハイブリダイゼーションによるスクリーニングにより、cDNAライブラリーから単離できる。PPAR相互作用ECHLPは、同じ分子種として同定されるもので、PPARとリガンド依存的に相互作用して該受容体の転写誘導能に影響を与えるものであればいずれの種由来のものであってもよく、例えばヒト(LOC115289;GenBank accession番号XM_008904、HPXEL;GenBank accession番号U16660、FitzPatrick DRら、Genomics 1995年27巻(3):457−466頁)、マウス(Ech1;GenBank accession番号NM_016772)、ラット(HPXEL;GenBank accession番号NM_022594、FitzPatrick DRら、Genomics 1995年27巻(3):457−466頁)などの哺乳動物由来のものが挙げられる。
PPAR相互作用AOP2は、同じ分子種として同定されるもので、PPARとリガンド依存的に相互作用して該受容体の転写誘導能に影響を与えるものであればいずれの種由来のものであってもよく、例えばヒト(AOP2/KIAA0106;GenBank accession番号XM_001415、D14662)、マウス(AOP2/1−Cys Prx/nonselenium glutathione peroxidase;GenBank accession番号AF004670、AF093852、Y12883)、ラット(AOX2;GenBank accession番号AF014009)、ウシ(GPX/PHGPx;GenBank accession番号AF080228、AF090194)などの哺乳動物由来のものが挙げられる。
PPAR相互作用FLJ13111は、同じ分子種として同定されるもので、PPARとリガンド依存的に相互作用して該受容体の転写誘導能に影響を与えるものであればいずれの種由来のものであってもよく、例えばヒト(FLJ13111;GenBank accession番号AK023173、NM_025082)、マウス(ヒトFLJ13111様蛋白質;GenBank accession番号XM_134598)などの哺乳動物由来のものが挙げられる。
PPARγは、同じ分子種として同定されるもので、核内レセプターとしての生体内での機能を果たすものであればいずれの種由来のものであってもよく、例えばヒト、マウス、ラットなどの哺乳動物由来のものの他、アフリカツメガエル由来のものなどが挙げられる。PPARγ(Dreyerら、Cell、第68巻、第879−887頁、1992年、Zhuら、Journal of Biological Chemistry、第268巻、第26817−26820頁、1993年、Kliewerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、第91巻、第7355−7359頁、1994年、Mukherjeeら、Journal of Biological Chemistry、第272巻、第8071−8076頁、1997年、Elbrechtら、Biochem.Biophys.Res.Commun.、第224巻、第431−437頁、1996年、Chemら、Biochem.Biophys.Res.Commun.、第196巻、第671−677頁、1993年、Tontonozら、Genes & Development、第8巻、第1224−1234頁、1994年、Aperloら、Gene、第162巻、第297−302頁、1995年)の遺伝子配列およびアミノ酸配列はすでに報告されている。また、PPARγには、PPARγ1及びPPARγ2の二種のアイソフォームが存在し、PPARγ1はPPARγ2と比較するとN末端側の30アミノ酸が欠失しているが、その他のアミノ酸配列は全く同じであり、いずれも脂肪組織に発現していることが知られている。
PPARα若しくはγ、転写因子のDNA結合領域、PPAR相互作用ECHLP、PPAR相互作用AOP2、またはPPAR相互作用FLJ13111をコードするポリヌクレオチドは、例えば次のように得ることができるが、この方法に限らず公知の操作「Molecular Cloning」[Sambrook,Jら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年]でも得ることができる。
該蛋白質を産生する能力を有する細胞あるいは組織、例えば脂肪組織から該蛋白をコードするものを包含するmRNAを既知の方法により抽出する。抽出法としては、グアニジン・チオシアネート・ホット・フェノール法、グアニジン・チオシアネート−グアニジン・塩酸法等が挙げられるが、好ましくはグアニジン・チオシアネート塩化セシウム法が挙げられる。PPARα若しくはγ、PPAR相互作用ECHLP、PPAR相互作用AOP2、またはPPAR相互作用FLJ13111の産生能力を有する細胞あるいは組織は、該蛋白質をコードする塩基配列を有する遺伝子あるいはその一部を用いたノーザンブロッティング法、該蛋白質に特異的な抗体を用いたウエスタンブロッティング法などにより特定することができる。
mRNAの精製は常法に従えばよく、例えばmRNAをオリゴ(dT)セルロースカラムに吸着・溶出させ、精製することができる。さらに、ショ糖密度勾配遠心法等によりmRNAをさらに分画することもできる。また、mRNAを抽出せずとも、市販されている抽出済mRNAを用いても良い。
次に、精製されたmRNAをランダムプライマー又はオリゴdTプライマーの存在下で、逆転写酵素反応を行い、第1鎖cDNAを合成する。この合成は常法によって行うことができる。得られた第1鎖cDNAを用い、目的遺伝子の一部の領域をはさんだ2種類のプライマー、例えばPPARγには配列番号9と配列番号10、PPAR相互作用ECHLPには配列番号12と配列番号13、PPAR相互作用AOP2には配列番号14と配列番号15、PPAR相互作用FLJ13111には配列番号18と配列番号19を用いてPCRに供し、目的とする遺伝子配列を増幅する。また、市販のcDNAライブラリーを用い、同様の目的遺伝子の一部の領域をはさんだ2種類のプライマーを用いてPCRに供し、目的とする遺伝子配列を増幅することもできる。得られたDNAをアガロースゲル電気泳動等により分画する。所望により、上記DNAを制限酵素等で切断し、接続することによって目的とするDNA断片を得ることもできる。具体的には実施例2,4,5,7,8,10,11記載の方法により得られる。
これまで述べた方法により得られるDNAの配列決定は、例えば、マキサム−ギルバートの化学修飾法(Maxam,A.M.及びGilbert,W.,“Methods in Enzymology”,65,499−559,1980)やジデオキシヌクレオチド鎖終結法(Messing,J.及びVieira,J.,Gene,19,269−276,1982)等により行なうことができる。
「Molecular Cloning」[Sambrook,Jら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年]に記載の方法により、これら各領域をコードするDNAを単独、あるいは連結し、適当なプロモーターの下流に連結することでPPARαまたはγ及びPPAR相互作用ECHLPの試験細胞内での発現系、並びに、PPARαまたはγ及びPPAR相互作用AOP2の試験細胞内での発現系が構築できる。同様にしてPPARγ及びPPAR相互作用FLJ13111の試験細胞内での発現系が構築できる。
具体的には上述のように得られたポリヌクレオチドは、適当なベクタープラスミドに組み込み、プラスミドの形で宿主細胞に導入すればよい。これらは、両者が一つのプラスミド上に含まれるよう構成してもよく、あるいは各々別々のプラスミド上に含まれるよう構成してもよい。あるいは、このような構成が染色体DNAに組み込まれた細胞を取得してこれを用いてもよい。
応答配列に連結されたレポーター遺伝子も、一般的な遺伝子組換え技術を用いて構築し、この構成をベクタープラスミド中に組込んだ上、得られた組換えプラスミドを宿主細胞中に導入したものを用いる。あるいは、このような構成が染色体DNAに組み込まれた細胞を取得してこれを用いてもよい。
PPARは外部から導入しても良いが、内在性のPPARγが豊富に存在する脂肪由来細胞、あるいは腎由来細胞を宿主細胞として用いる場合は、上述の構成のうち、PPARγを省いて、応答配列に連結されたレポーターとPPAR相互作用ECHLPからなる構成のみ、PPARγを省いて、応答配列に連結されたレポーターとPPAR相互作用AOP2からなる構成のみ、あるいは、PPARγを省いて、応答配列に連結されたレポーターとPPAR相互作用FLJ13111からなる構成のみを導入してもよい。
より具体的には、単離されたポリヌクレオチドを含む断片は、適当なベクタープラスミドに再び組込むことにより、真核生物及び原核生物の宿主細胞を形質転換させることができる。さらに、これらのベクターに適当なプロモーターおよび形質発現にかかわる配列を導入することにより、それぞれの宿主細胞において遺伝子を発現させることが可能である。
例えば、真核生物の宿主細胞には、脊椎動物、昆虫、酵母等の細胞が含まれ、脊椎動物細胞としては、例えばサルの細胞であるCOS細胞(Gluzman,Y.(1981)Cell,23,175−182)やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO)のジヒドロ葉酸レダクターゼ欠損株(Urlaub,G.and Chasin,L.A.(1980)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77,4216−4220)、ヒト胎児腎臓由来HEK293細胞および同細胞にEpstein Barr VirusのEBNA−1遺伝子を導入した293−EBNA細胞(Invitrogen社製)等がよく用いられているが、これらに限定されるわけではなく、PPAR相互作用ECHLPによるPPARαまたはγの転写誘導能阻害、PPAR相互作用AOP2によるPPARαまたはγの転写誘導活性、あるいはPPAR相互作用FLJ13111によるPPARγの転写誘導活性を検出できるものであればよい。
脊椎動物細胞の発現ベクターとしては、通常発現しようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位および転写終結配列等を有するものを使用でき、これはさらに必要により複製起点を有してもよい。該発現ベクターの例としては、SV40の初期プロモーターを有するpSV2dhfr(Subramani,S.et al.(1981)Mol.Cell.Biol.,1,854−864)、ヒトのelongation factorプロモーターを有するpEF−BOS(Mizushima,S.and Nagata,S.(1990)Nucleic Acids Res.,18,5322)、cytomegalovirusプロモーターを有するpCEP4(Invitrogen社製)等を例示できるが、これに限定されない。
宿主細胞として、COS細胞を用いる場合を例に挙げると、発現ベクターとしては、SV40複製起点を有し、COS細胞において自律増殖が可能であり、さらに転写プロモーター、転写終結シグナルおよびRNAスプライス部位を備えたものを用いることができ、例えば、pME18S、(Maruyama,K.and Takebe,Y.(1990)Med.Immunol.,20,27−32)、pEF−BOS(Mizushima,S.and Nagata,S.(1990)Nucleic Acids Res.,18,5322)、pCDM8(Seed,B.(1987)Nature,329,840−842)等が挙げられる。該発現ベクターはDEAE−デキストラン法(Luthman,H.and Magnusson,G.(1983)Nucleic Acids Res.,11,1295−1308)、リン酸カルシウム−DNA共沈殿法(Graham,F.L.and van der Ed,A.J.(1973)Virology,52,456−457)、FuGENE6(Boeringer Mannheim社製)を用いた方法、および電気パルス穿孔法(Neumann,E.et al.(1982)EMBO J.,1,841−845)等によりGOS細胞に取り込ませることができ、かくして所望の形質転換細胞を得ることができる。
また、宿主細胞としてCHO細胞を用いる場合には、発現ベクターと共に、G418耐性マーカーとして機能するneo遺伝子を発現し得るベクター、例えばpRSVneo(Sambrook,J.et al.(1989):“Molecular Cloning−A Laboratory Manual″Cold Spring Harbor Laboratory,NY)やpSV2−neo(Southern,P.J.and Berg,P.(1982)J.Mol.Appl.Genet.,1,327−341)等をコトランスフェクトし、G418耐性のコロニーを選択することにより該蛋白質群を安定に産生する形質転換細胞を得ることができる。また、宿主細胞として293−EBNA細胞を用いる場合には、Epstein Barr Virusの複製起点を有し、293−EBNA細胞で自己増殖が可能なpCEP4(Invitrogen社)などの発現ベクターを用いて所望の形質転換細胞を得ることができる。
上記で得られる所望の形質転換体は、常法に従い培養することができ、該培養により細胞内に目的の蛋白質群が生産される。該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択でき、例えば上記COS細胞であればRPMI−1640培地やダルベッコ修正イーグル最小必須培地(DMEM)等の培地に必要に応じ牛胎児血清(FBS)等の血清成分を添加したものを使用できる。また、上記293−EBNA細胞であれば牛胎児血清(FBS)等の血清成分を添加したダルベッコ修正イーグル最小必須培地(DMEM)等の培地にG418を加えたものを使用できる。
試験用細胞を被験物質の存在下で培養し、PPARαまたはγの転写誘導能に対するPPAR相互作用ECHLPの抑制作用が被験物質により阻害されることをレポーター遺伝子の発現により検出し測定することができる。▲1▼被験物質がPPAR相互作用ECHLPあるいはPPARに作用し、その作用に依存してPPAR相互作用ECHLPのPPAR転写誘導活性に対する抑制効果の減弱を生じるとき、発現するレポーター活性の増大が観察される。このような被験物質は、PPARの主作用促進剤として同定される。また、例えば▲2▼被験物質がPPARと結合して転写誘導能を促進し、一方でPPAR相互作用ECHLPによる抑制効果を阻害するとき、発現するレポーター活性の増大が観察される。このような被験物質はPPARの主作用特異的アゴニストとして同定される。また、例えば▲3▼被験物質がPPAR相互作用ECHLPと結合してPPARの転写誘導能抑制効果を阻害するとき、あるいは被験物質がPPAR相互作用ECHLPの発現を阻害したり分解を促進するとき、やはり発現するレポーター活性の増大が観察される。このような物質はPPARの主作用を促進するPPAR相互作用ECHLP阻害剤として同定される。これら▲1▼、▲2▼及び▲3▼はいずれもPPARアゴニストがもたらす副作用と乖離したインスリン抵抗性改善薬として作用することが期待される。より具体的には実施例5、9に記載の方法でインスリン抵抗性改善薬を同定・スクリーニングできる。例えば、実施例9に記載の条件で、IC50が10μM以下の物質を、好ましくは1μM以下の物質をインスリン抵抗性改善薬として選択することができる。
試験用細胞を被験物質の存在下で培養し、PPARαまたはγの転写誘導能に対するPPAR相互作用AOP2の促進作用が被験物質により抑制されることをレポーター遺伝子の発現により検出し測定することができる。▲1▼被験物質がPPAR相互作用AOP2あるいはPPARγに作用し、その作用に依存してPPAR相互作用AOP2のPPARγ転写誘導活性に対する促進効果の減弱を生じるとき、発現するレポーター活性の減少が観察される。このような被験物質は、PPARγの副作用を抑制する物質として同定される。また、例えば▲2▼被験物質がPPARγと結合して転写誘導能を促進し、一方でPPAR相互作用AOP2による促進効果を阻害するとき、発現するレポーター活性はPPAR相互作用AOP2を共発現させない状態と同じレベルにまで減少することが観察される。このような被験物質はPPARγの、副作用と乖離した主作用選択的アゴニストとして同定される。また、例えば▲3▼被験物質がPPAR相互作用AOP2と結合してPPARγの転写誘導能促進効果を阻害するとき、あるいは被験物質がPPAR相互作用AOP2の発現を阻害したり分解を促進するとき、やはり発現するレポーター活性の減少が観察される。このような物質はPPARγの副作用を抑制するPPAR相互作用AOP2阻害剤として同定される。これらはいずれもPPARγアゴニストがもたらす副作用と乖離したインスリン抵抗性改善薬として作用することが期待される。一方で、例えば被験物質がPPAR相互作用AOP2あるいはPPARγに作用し、その作用に依存してPPAR相互作用AOP2のPPARγ転写誘導活性に対する促進効果を亢進させるとき、発現するレポーター活性の増大が観察される。このような被験物質はPPARγの副作用を強く惹起する物質として同定されることから、レポーター活性を増大させない被験物質を選択することにより、浮腫惹起活性のないインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングすることができる。
試験用細胞を被験物質の存在下で培養し、PPARγの転写誘導能に対するPPAR相互作用FLJ13111の促進作用が被験物質により亢進されることをレポーター遺伝子の発現により検出し測定することができる。▲1▼被験物質がPPAR相互作用FLJ13111あるいはPPARγに作用し、その作用に依存してPPAR相互作用FLJ13111のPPARγ転写誘導活性に対する促進効果の増強を生じるとき、発現するレポーター活性の増大が観察される。このような被験物質は、PPARγの主作用促進剤として同定される。また、例えば▲2▼被験物質がPPARと結合して転写誘導能を促進し、かつPPAR相互作用FLJ13111による促進効果を増強するとき、発現するレポーター活性の増大が観察される。このような被験物質はPPARの主作用特異的アゴニストとして同定される。また、例えば▲3▼被験物質がPPAR相互作用FLJ13111と結合してPPARの転写誘導能促進効果を増強するとき、あるいは被験物質がPPAR相互作用FLJ13111の発現を促進したり分解を抑制するとき、やはり発現するレポーター活性の増大が観察される。このような物質はPPARの主作用を促進するPPAR相互作用FLJ13111活性化剤として同定される。これら▲1▼、▲2▼及び▲3▼はいずれもPPARアゴニストがもたらす副作用と乖離したインスリン抵抗性改善薬として作用することが期待される。より具体的には実施例11、12に記載の方法でインスリン抵抗性改善薬を同定・スクリーニングできる。例えば、実施例12に記載の条件で、ED50が10μM以下の物質を、好ましくは1μM以下の物質をインスリン抵抗性改善薬として選択することができる。
<PPAR相互作用FLJ13111プロモーターを利用してインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングする方法>
i)配列番号26で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、あるいは配列番号26で表される塩基配列において、1〜10個の塩基が欠失、置換、及び/または挿入されたポリヌクレオチド配列を含みかつ転写プロモーター活性を有するポリヌクレオチドに融合されたレポーター遺伝子により形質転換された細胞に被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として被験物質による転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴として、インスリン抵抗性改善薬をスクリーニングすることができる。
レポーター遺伝子アッセイ(田村ら、転写因子研究法、羊土社、1993年)は、レポーター遺伝子の発現をマーカーとして遺伝子の発現調節を検出する方法である。一般に遺伝子の発現調節はその5’上流域に存在するプロモーター領域と呼ばれる部分で制御されており、転写段階での遺伝子発現量はこのプロモーターの活性を測定することで推測することができる。被験物質がプロモーターを活性化すれば、プロモーター領域の下流に配置されたレポーター遺伝子の転写を活性化する。このようにプロモーター活性化作用すなわち発現亢進作用をレポーター遺伝子の発現に置き換えて検出することができる。したがって、PPAR相互作用FLJ13111のプロモーター領域を用いたレポーター遺伝子アッセイにより、PPAR相互作用FLJ13111の発現調節に対する被験物質の作用はレポーター遺伝子の発現に置き換えて検出することができる。配列番号26で表される塩基配列からなるFLJ13111のプロモーター領域と融合された「レポーター遺伝子」は、一般に用いられるものであれば特に限定されないが、定量的測定が容易な酵素遺伝子などが好ましい。例えば、バクテリアトランスポゾン由来のクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(CAT)、ホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子(Luc)、クラゲ由来の緑色蛍光蛋白質遺伝子(GFP)等があげられる。レポーター遺伝子は、配列番号26で表される塩基配列からなるFLJ13111のプロモーター領域と機能的に融合されていればよい。PPAR相互作用FLJ13111のプロモーター領域と融合されたレポーター遺伝子により形質転換された細胞に被験物質を接触した場合と接触しなかった場合のレポーター遺伝子の発現量を比較することにより被験物質依存的な転写誘導活性の変化を分析することができる。上記工程を実施することにより、FLJ13111の発現を亢進する物質並びにインスリン抵抗性を改善する物質のスクリーニングを実施できる。具体的には、実施例14に記載の方法により、前記スクリーニングを実施できる。
本発明のスクリーニング法で使用する被験物質としては、特に限定されるものではないが、例えば、市販の化合物(ペプチドを含む)、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術(N.K.Terrett,M.Gardner,D.W.Gordon,R.J.Kobylecki,J.Steele,Tetrahedron,51,8135−73(1995))によって得られた化合物群、微生物の培養上清、植物や海洋生物由来の天然成分、動物組織抽出物、あるいは、本発明のスクリーニング法により選択された化合物(ペプチドを含む)を化学的又は生物学的に修飾した化合物(ペプチドを含む)を挙げることができる。
<インスリン抵抗性改善用医薬組成物の製造方法>
本発明には、本発明のスクリーニング方法を用いてスクリーニングする工程、及び前記スクリーニングにより得られた物質を用いて製剤化する工程を含むことを特徴とする、インスリン抵抗性改善用医薬組成物の製造方法が包含される。
本発明のスクリーニング方法により得られる物質を有効成分とする製剤は、前記有効成分のタイプに応じて、それらの製剤化に通常用いられる担体、賦形剤、及び/又はその他の添加剤を用いて調製することができる。
投与としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、又は経口用液剤などによる経口投与、あるいは、静注、筋注、若しくは関節注などの注射剤、坐剤、経皮投与剤、又は経粘膜投与剤などによる非経口投与を挙げることができる。特に胃で消化されるペプチドにあっては、静注等の非経口投与が好ましい。
経口投与のための固体組成物においては、1又はそれ以上の活性物質と、少なくとも一つの不活性な希釈剤、例えば、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどと混合することができる。前記組成物は、常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えば、滑沢剤、崩壊剤、安定化剤、又は溶解若しくは溶解補助剤などを含有することができる。錠剤又は丸剤は、必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質などのフィルムで被覆することができる。
経口のための液体組成物は、例えば、乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、又はエリキシル剤を含むことができ、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば、精製水又はエタノールを含むことができる。前記組成物は、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えば、湿潤剤、懸濁剤、甘味剤、芳香剤、又は防腐剤を含有することができる。
非経口のための注射剤としては、無菌の水性若しくは非水性の溶液剤、懸濁剤、又は乳濁剤を含むことができる。水溶性の溶液剤又は懸濁剤には、希釈剤として、例えば、注射用蒸留水又は生理用食塩水などを含むことができる。非水溶性の溶液剤又は懸濁剤の希釈剤としては、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油)、アルコール類(例えば、エタノール)、又はポリソルベート80等を含むことができる。前記組成物は、更に湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解若しくは溶解補助剤、又は防腐剤などを含むことができる。前記組成物は、例えば、バクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合、又は照射によって無菌化することができる。また、無菌の固体組成物を製造し、使用の際に、無菌水又はその他の無菌用注射用媒体に溶解し、使用することもできる。
投与量は、有効成分、すなわち、LTRPC2タンパク質の活性化を阻害する物質、あるいは、本発明のスクリーニング方法により得られる物質の活性の強さ、症状、投与対象の年齢、又は性別等を考慮して、適宜決定することができる。
例えば、経口投与の場合、その投与量は、通常、成人(体重60kgとして)において、1日につき約0.1〜100mg、好ましくは0.1〜50mgである。非経口投与の場合、注射剤の形では、1日につき0.01〜50mg、好ましくは0.01〜10mgである。
実施例
以下、実施例によって本発明を詳述するが、本発明は該実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りがない場合は、公知の方法(「Molecular Cloning」Sambrook,Jら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年、等)に従って実施可能である。また、市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従って実施可能である。
(実施例1)主作用リガンド及び副作用リガンドの同定
PPARγのアゴニストとして作用することが報告されている5種類のチアゾリジン誘導体、GW7282((S)−3−[4−[2−(5−メチル−2−フェニルオキサゾール−4−イル)エトキシ]フェニル]−2−(1−ピロリル)プロピオン酸;GlaxoSmithKline,Drug Data Rep 2001,23(9):889)、GI−262570((S)−2−[(2−ベンゾイルフェニル)アミノ]−3−[4−[2−(5−メチル−2−フェニルオキサゾール−4−イル)エトキシ]フェニル]プロピオン酸;GlaxoSmithKline,WO00/38811)、GL−100085(2−(3−(2−(5−メチル−2−フェニルオキサゾール−4−イル)エトキシ)フェニルメチルチオ)酢酸;小野薬品工業、WO99/46232)、ロジグリタゾン(Rosiglitazone、(±)−5−[4−[2−[N−メチル−N−(2−ピリジル)アミノ]エトキシ]ベンジル]−2,4−チアゾリジンジオン マレエート;GlaxoSmithKline,WO01/47529)、ピオグリタゾン(pioglitazone、(+)−5−[4−[2−(5−エチル−2−ピリジニル)エトキシ]ベンジル]−2,4−チアゾリジンジオン;武田薬品工業,特開昭61−267580)の各化合物について作用メカニズムを解明するために、これらをそれぞれの化合物の特許明細書または文献報告の方法に従って合成し、それらの存在下における主作用および副作用を動物個体を用いてそれぞれ測定し、数値化した。なお、主作用の指標として血糖降下作用を、浮腫を惹起する作用の指標として循環血漿量の増加(荒川正昭、最新内科学大系 第三巻 主要症状−症候から診断へ−260−266、1966;金澤ら、Diabetes Frontier、第10巻、811−818頁、1999年;岩本、Diabetes Frontier、第10巻、819−824頁、1999年)を測定した。
(1)化合物群の血糖降下作用の測定
7−8週齢のKKAy/Taマウス(日本クレア社)に対し、0.5%メチルセルロース(MC)に懸濁後、濃度調製(1−10mg/kg)した各化合物を1日1回、4日間連続経口投与した。対照群には0.5% MCのみを投与した。最終投与16時間後にマウス尾静脈より採血を行い、血糖値をムタローゼとグルコースオキシダーゼを組み合わせた酵素法(Miwa Iら Clin Chim Acta 37巻538頁 1972年 参照)を用いた市販キット(グルコースCIIテストワコー、和光純薬工業)により測定した。対照群の血糖値を100%とし、各化合物投与群における結果より、対照群の血糖値を25%低下させると推測される化合物濃度(ED25)を最小自乗法を用いた線形回帰により算出した(表1)。
(2)化合物群の浮腫惹起活性の測定
ラット(Sprague−Dawley rats;オス、3週齢)に、被験化合物を100mg/kg(0.5%Methylcelluloseに懸濁)の用量で、一日一回で二週間連続経口投与した。血漿容量の測定は、基本的にJ.Appl.Physiol.69(6):2091−2096,1990に示された方法に従って測定した。エーテル麻酔下で下腿静脈より0.25%エバンスブルー(Evans Blue)溶液(生理食塩水)を0.25ml(0.625mg)/ラットで注入し、5分後、腹部下大静脈より採血した。血漿を水で希釈し、その吸光度(620nm)から得られたエバンスブルー濃度(mg/ml)を注入量(0.625mg)で割った値を血漿容量とした。さらに、血漿容量を体重で補正した値において、対照群(vehicle投与群)に対する量(%)を算出した(表1)。
これらの結果、GW7282は主作用、副作用ともに強く惹起した。一方GI−262570は主作用の惹起は比較的高い値を示すが、副作用は弱い。またGL−100085は主作用の惹起は弱いが、副作用を強く惹起した。
【表1】PPARγアゴニストの血糖低下作用と循環血漿量増加作用
(実施例2)PPARγとリガンド依存的に相互作用する蛋白質の同定
(1)PPARγ遺伝子の単離
PPARγのDNA結合領域およびリガンド結合領域を含むC末端側302アミノ酸をコードするcDNAを、ヒト脂肪組織由来のcDNAライブラリー(クロンテック社;Marathon ReadyTM cDNA)からポリメラーゼ・チェイン・リアクション法(PCR法)によって取得した。遺伝子データベースGenBankのアクセッション番号U79012に記載されたヒトPPARγ2の遺伝子配列を元に、酵母ツーハイブリッド用発現ベクターpDBtrp(インビトロジェン社、選択マーカーとしてTRP1遺伝子を有する)に挿入するため、同ベクターのマルチクローニングサイトの前後40ヌクレオチドとの相同領域を付加し、さらに挿入されたPPARγの遺伝子断片の両側にそれぞれ制限酵素Kpn IとSma Iの認識サイトが形成されるように配列番号9及び10に示したプライマーを設計した。PCRはDNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA polymerase;宝酒造社)を用い、98℃(1分)の後、98℃(5秒)/55℃(30秒)72℃(3分)のサイクルを35回、繰り返した。その結果得られた1004塩基対のDNA断片はPPARγ2の第204アミノ酸から終止コドン直前までの302アミノ酸からなるPPARγのコード領域を有している。
(2)酵母ツーハイブリッド用発現プラスミドの作製
制限酵素SalIおよびNcoIで切断して直鎖上にしたベクターpDBtrp及び(1)で得られたPPARγのcDNAを含むPCR断片を同時にツーハイブリッド用酵母株MaV203(インビトロジェン社)へ添加し、リチウム酢酸法により形質転換した(C Guthrie,R Fink Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology,Academic,San Diego,1991年)。その結果、同酵母細胞内で相同組換えが生じ、pDBtrpのマルチクローニングサイトにPPARγ cDNAが挿入されたプラスミド(以下pDB−PPARγと略称する)が形成された。同プラスミドを有する酵母細胞を、プラスミドの選択マーカーであるトリプトファンを欠乏させた固形合成最小培地(DIFCO社)(20%アガロース)上にて培養することにより選択し、同酵母細胞をザイモリエース(生化学工業)で室温にて30分間処理した後、アルカリ法(「Molecular Cloning」Sambrook,Jら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年)でプラスミドを単離精製し、シーケンシングキット(アプライドバイオシステムズ社)およびシーケンサー(ABI3700 DNA sequencerアプライドバイオシステムズ社)を用いて塩基配列の決定を行い、PPARγのcDNAがpDBtrpのGAL4のDNA結合領域のコード領域と翻訳のフレームが一致して挿入されているものを選択した。
(3)酵母ツーハイブリッドスクリーニング
上述のpDB−PPARγにより形質転換したツーハイブリッド用酵母株MaV203を400mlのYPD液体培地(DIFCO社)に懸濁し、波長590ナノメートルの吸光度が0.1から0.4になるまで30℃で約6時間振とう培養した後、リチウム酢酸法でコンピテントセルとし、最終量を1.0mlの0.1Mリチウム−トリス緩衝液に懸濁した。同細胞をヒト腎臓cDNAライブラリー、ヒト肝臓ライブラリー、またはヒト骨格筋ライブラリー(いずれもクロンテック社Match Maker cDNA library)各20μgで形質転換し、同細胞をpDB−PPARγおよびライブラリーそれぞれのプラスミドの選択マーカーであるトリプトファン、ロイシンを欠乏させた固形合成最小培地(DIFCO社)(20%アガロース)上にて培養することにより選別し、両プラスミドが導入された形質転換株を得た。同時に同じ形質転換細胞をトリプトファン、ロイシンのほかに、ツーハイブリッドシステムにおいて人工的に発現させたGAL4 DNA結合領域の融合蛋白質に、GAL4転写促進領域の融合蛋白質が結合した場合に発現するレポーター遺伝子HIS3が作動した細胞を選択するため、ヒスチジンを培地から除き、さらにHIS3がコードする酵素の阻害剤である3AT(3−AMINO−1,2,4−TRIAZOLE;シグマ社)20mMを添加した固形最小倍地(20%アガロース)上で30℃で5日間培養した。同培地中には主作用、副作用ともに強く惹起するPPARγのアゴニストGW7282を最終濃度1.5μM添加しておき、同アゴニストの存在下でPPARγに結合する蛋白質を発現していることを示す3AT耐性の酵母のコロニーを取得した。これらの酵母細胞を24時間YPD固形培地上で上述のアゴニストGW7282を15μMの濃度で添加、あるいは非添加の状態で成長させた後、HIS3とは別のツーハイブリッドシステムの結合指示レポーターであるlacZ遺伝子の発現をβ−ガラクトシダーゼ活性を指標として調べた。β−ガラクトシダーゼ活性は培地上の酵母細胞をニトロセルロースフィルターに移し取り、液体窒素に付けて凍結させた後、室温で解凍し、フィルターを0.4%のX−GAL(シグマ社)溶液を浸した濾紙上にのせて37℃で24時間静置し、β−ガラクトシダーゼによる青色変化を測定した。フィルター上に写し取った細胞内容物が白色から青色に変化したコロニーを選択することにより、上述のアゴニストの存在に依存してPPARγに結合する蛋白質を発現している酵母細胞を複数特定し、同細胞からクロンテック社Yeast Protocols Handbookの方法に従ってライブラリー由来のプラスミドを抽出した。そこに含まれる遺伝子断片の塩基配列を、配列番号11で表される塩基配列(GAL4AD領域に結合する配列;GenBankアクセッション番号U29899 Cloning vector pACT2由来)をプライマーとし、シーケンシングキット(アプライドバイオシステムズ社)およびシーケンサー(ABI 3700 DNA sequencerアプライドバイオシステムズ社)を用いて決定した結果、上述3種類のいずれのライブラリーからも配列番号3に記載のECHLPの部分配列を含むクローンが含まれていることをBLAST(NCBI)によるホモロジー検索により確認した。また腎臓由来ライブラリーからは核内受容体の転写共役因子として知られているSRC−1(Smith CLらProc.Natl.Acad,Sci.USA.,20巻93(17)号8884−8888頁 1996年:),N−CoR(Nagy LらCell,89巻3号373−380頁1997年)の遺伝子断片を含むクローンが含まれており、上記のスクリーニングでリガンド依存性のPPARγの共役因子が取得できることが確認された。
また、同様の酵母ツーハイブリッドスクリーニングを以下の条件のもとで行った。ライブラリーとしてはヒト腎臓cDNAライブラリーで形質転換した細胞を用いた。GW7282は最終濃度1μMとなるように添加し、同アゴニスト存在下でPPARγに結合する蛋白質を発現している酵母細胞を24時間YPD固形培地上でGW7282を10μMの濃度で添加した状態で成長させた。β−ガラクトシダーゼ活性測定により、上述のアゴニストの存在に依存してPPARγに結合する蛋白質を発現している酵母細胞を複数特定し、同細胞からライブラリー由来のプラスミドを抽出した。そこに含まれる遺伝子断片の塩基配列を決定した結果、配列番号7に記載のAOP2(GenBankアクセッション番号XM_001415)の部分配列を含む独立したクローン2個が含まれていた。また核内受容体の転写共役因子として知られているSRC−1(Smith CLらProc.Natl.Acad.Sci.USA.,20巻93(17)号8884−8888頁 1996年:),N−CoR(Nagy LらCell,89巻3号373−380頁1997年)の遺伝子断片を含むクローンが含まれており、上記のスクリーニングでリガンド依存性のPPARγの転写共役因子を取得できることが確認された。
また、同様の酵母ツーハイブリッドスクリーニングを以下の条件のもとで行った。ライブラリーとしてヒト肝臓cDNAライブラリーで形質転換した細胞を用いた。GW7282は最終濃度1μMとなるように添加し、同アゴニスト存在下でPPARγに結合する蛋白質を発現している酵母細胞を24時間YPD固形培地上でGW7282を10μMの濃度で添加した状態で成長させた。β−ガラクトシダーゼ活性測定により、上述のアゴニストの存在に依存してPPARγに結合する蛋白質を発現している酵母細胞を複数特定し、同細胞からライブラリー由来のプラスミドを抽出した。そこに含まれる遺伝子断片の塩基配列を決定した結果、配列番号16に記載の新規遺伝子(FLJ13111類似遺伝子;GenBankアクセッション番号AK023173の1塩基置換体)の部分配列を含むクローンが含まれていた。
(実施例3)PPARγとECHLPまたはAOP2のリガンド選択的相互作用の検出
実施例2で得たECHLP、AOP2をはじめとする蛋白質群とPPARγの相互作用に対するアゴニストの依存性を、上述の主作用、副作用に対する効果が異なる2種のアゴニストGI−262570(最終濃度5μM、又は0.5μM)とGL−100085(最終濃度5μM、又は0.5μM)を用いて、酵母ツーハイブリッドシステムのβ−ガラクトシダーゼ活性を指標として測定した(図1;矢尻は黒が主作用選択的な化合物、縞が副作用選択的な化合物の濃度差により相互作用が大きく変化するものをそれぞれ示す。白の矢尻は主・副作用いずれに選択的な化合物でも濃度差による相互作用の変化が大きいものを示す。)。用いたアゴニスト以外の方法の詳細は実施例2と同様である。その結果、主作用に高い効果を持つ化合物GI−262570は、濃度を5μMから0.5μMに減じても同様にPPARγとECHLPの結合を誘導したが(図1b)、副作用に比較的高い効果を持つ化合物GL−100085では濃度を5μMから0.5μMに減じるとPPARγとECHLPの結合は大きく減退した(図1c)。一方、副作用に比較的高い効果を持つ化合物GL−100085は、濃度を5μMから0.5μMに減じても同様にPPARγとAOP2の結合を誘導し(図1c)、主作用に高い効果を持つ化合物GI−262570添加では濃度を5μMから0.5μMに減じるとPPARγとAOP2の結合は大きく減弱した(図1b)。これらは、アゴニストGI−262570、GL−100085の存在によってPPARγとECHLP、あるいはPPARγとAOP2のリガンド依存的相互作用がおこったことによると考えられ、この結果から、ECHLPはPPARγと主作用に高い効果を持つアゴニストにより高い感度で相互作用することが明らかとなった。一方AOP2は副作用に高い効果を持つアゴニストにより高い感度で相互作用することが明らかとなった(図1c)。これらの結果はアゴニストの主作用、副作用に相関してアゴニスト依存的にPPARγに相互作用する共役因子があることを示唆している。ECHLPは主作用の強く現れるアゴニストに、より選択的に応答して相互作用しており、このPPARγとECHLPのリガンド依存的相互作用を利用することで主作用に高い効果をもつアゴニストを選択的に検出できるものと考えられた。一方クローン#1,4,5,6,7およびN−CoRはアゴニストGI−262570、GL−100085いずれの濃度減少でもPPARγとの結合が減弱し、アゴニストの主作用−副作用に相関が見られなかった。
(実施例4)正常および糖尿病モデルマウスにおけるECHLP発現量の測定
上述の知見に基づき、ECHLPとPPARγの相互作用がPPARγアゴニストを介した主作用である糖代謝改善に関わることが予想された。そこで2種類の糖尿病モデルマウスKKAy/Ta(Iwatsukaら、Endocrinol.Japon.、第17巻、第23−35頁、1970年、Taketomiら、Horm.Metab.Res.、第7巻、第242−246頁、1975年)、C57BL/KsJ−db/db(Chenら、Cell、第84巻、第491−495頁、1996年、Leeら、Nature、第379巻、第632−635頁、1996年、Kakuら、Diabetologia、第32巻、第636−643頁、1989年)の骨格筋、脂肪におけるECHLP遺伝子のマウスオルソログech1遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)発現量をDNAアレイ(アフィメトリクス社)を用いて測定し(de Saizieuら、Nature Biotechnology、第16巻、第45−48頁、1998年、Wodickaら、Nature Biotechnology、第15巻、第1359−1367頁、1997年、Lockhartら、Nature Biotechnology、第14巻、第1675−1680頁、1996年)、正常個体C57BL/6J、C57BL/KsJ−+m/+mのそれと比較することにした。
(1)マウスの組織の摘出:日本クレア社よりオスのC57BL/6J、KKAy/Ta、C57BL/KsJ−+m/+m及びC57BL/KsJ−db/dbマウスを各8匹購入した。C57BL/6Jは普通食で15週齢になるまで集団飼育した。KKAy/Taマウスは高カロリー食(CMF,Oriental Yeast Co.,Ltd.)で15週齢になるまで単独飼育した。C57BL/KsJ−+m/+mマウス及びC57BL/KsJ−db/dbマウスは普通食で12週齢になるまで集団飼育した。KKAy/TaマウスおよびC57BL/KsJ−db/dbマウスが正常マウスと比較して高血糖、高体重になっていることを確認した(KKAy/Taマウス:血糖値514.2±18.2mg/dl、体重49.9±0.7g、C57BL/KsJ−db/dbマウス:血糖値423.7±14.1mg/dl、体重48.6±0.5g)。血糖値はマウス尾静脈より採血を行い、血糖値をグルコースオキシダーゼ法を用いた市販キット(オートパックA・グルコース試薬、ベーリンガー・マンハイム社)により測定した。これらの4種類のマウスをジエチルエーテルで麻酔し、副睾丸脂肪とひふく筋を摘出した。摘出直後に液体窒素で凍結し、−80℃で保存した。
(2)mRNAの抽出:組織は凍結プレス破砕装置CRYO−PRESS CP−100(マイクロテック・ニチオン社)を用いて破砕した。RNA抽出用試薬ISOGEN(ニッポンジーン社)を加え、ホモジナイザーULTRA−TURRAX T−8(IKA LABORTECHNIK社)を用いてホモジネートした。メーカー添付のプロトコールに従い、これらのサンプルからRNAを抽出した。これをDNase(ニッポンジーン社)で処理し、混入しているDNAを分解した。その後、フェノール/クロロホルム処理、エタノール沈殿を行い、RNase−free H2Oに溶解した。RNA調製試薬QuickPrep Micro mRNA Purification kit(アマシャム社)を用いて添付プロトコールに従いmRNAを抽出した。
(3)ラベル化cRNAの調製:アフィメトリクス社のプロトコール(GeneChip Expression Analysis Technical Manual)に従って、mRNAから第1ストランドcDNA合成、第2ストランドcDNA合成、ビオチンラベル化cRNAの合成、ラベル化cRNAのフラグメント化を行った。
(4)ハイブリダイゼーション:アフィメトリクス社のDNAアレイ(GeneChip U74)は3枚のサブアレイA、B、Cからなっている。アフィメトリクス社の上記プロトコールに従って、DNAアレイにラベル化cRNAをハイブリダイズした後、洗浄し、各プローブの蛍光強度を測定した。
(5)アレイ間の測定値の補正:測定値については、サンプル間の補正を行った後、サブアレイ間の補正を行った。サンプル間の補正は、特定のサブアレイ上の遺伝子の蛍光強度の合計値をサンプル間で求め、最も高い蛍光強度の合計値を示したアレイと等しくなるようにその他のアレイの各遺伝子の測定値にアレイごとに一定の倍率をかけた。サブアレイ間の補正は、サブアレイごとにAFFXプローブの蛍光強度の平均値を求め、サブアレイA、B、Cでそれらの平均値が同じになるようにサブアレイごとに各遺伝子の測定値に一定の倍率をかけた。
その結果KKAy/Taマウスでは、発症が進行していない5週齢の個体、あるいは正常個体と比較して病態発症が顕著な15週齢の個体ではech1 mRNAの発現量が2倍以上に増大していることが確認された(図2)。同様にdb/dbマウスでも正常個体に比較してech1発現量が2倍以上に増大していた。また15週齢のKKAy/Taマウスにおけるech1発現量の亢進は腎尿細管糖輸送における再吸収阻害剤として知られるフロリジン(phlorizin)を100mg/kgの用量で30分おきに3回、腹腔内投与し、血糖値が短期的に正常レベルになった最初の投与から7時間後の組織でも変化がないことから、ech1は、糖尿病態の結果としておこる血糖値の変動に起因して発現が亢進しているのではなく、その発現の亢進が糖尿病態を惹起する原因因子の一つであると考えられた。
上述と同じDNAアレイを用いて12週齢、オスの正常マウスC57BL/6J個体の臓器毎にech1のmRNA発現量を測定した結果、ech1は主要臓器のうちPPARγの作用がある脂肪、筋肉、肝臓、腎臓と、ほかに心臓、肺での発現が顕著であった(図3)。これにより発現部位からもECHLP/Ech1がPPARγの共役因子であることが裏付けられた。
(実施例5)PPARγのリガンド依存的転写誘導能に対するECHLPの調節作用の検出
上述の結果から、ECHLPはPPARγとリガンドを介して相互作用し、主作用(糖代謝改善)に関わること、さらにその発現亢進が糖尿病の病態と関連することが示された。そこでECHLPがPPARγの有する転写誘導活性にどのような影響を及ぼすか、培養細胞COS−1を用いたレポーターアッセイで調査した。
(1)動物細胞発現用プラスミドGAL−PPARγの作製
ヒトPPARγ2のリガンド結合領域をコードするcDNAを酵母Gal4のDNA結合領域(1−147アミノ酸)のC末端側に融合したキメラ蛋白質をコードする遺伝子を動物細胞発現ベクターpZeoSV(インビトロジェン社)のマルチクローニングサイトに組み込んだ発現プラスミドGAL−PPARγを作製した。まずプラスミドpGBT9(クロンテック社)からGal4のDNA結合領域をコードする遺伝子断片を制限酵素Hind III、Sma Iを用いて切り出し、これをpZeoSVのマルチクローニングサイトのサイトに挿入した(以下pZeo−DBと略記する)。次に前述のプラスミドpDB−PPARγからPPARγのリガンド結合領域をコードするDNA断片をKpn I、Sma Iを用いて切り出し、これをpZeo−DBのマルチクローニングサイトにあるKpnI、Pvu IIサイトの間に組み込み、動物細胞発現用プラスミドGAL−PPARγを作製した。
(2)動物細胞発現用プラスミドpcDNA−EGHLPの作製
配列番号12及び13に示したプライマーを用いて、ヒト骨格筋cDNAライブラリー(クロンテック社)からPCR法によりECHLPの全長域をコードする987bp(ベースペア)を含むcDNA断片を取得した。PCRはDNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA polymerase;宝酒造社)を用い、98℃(1分)の後、98℃(5秒)/55℃(30秒)72℃(3分)のサイクルを35回、繰り返した。これをpcDNA3.1/V5−HIS−TOPOベクター(インビトロジェン社)にin vitro組換えによるTOPOクローニング法(インビトロジェン社)により挿入して動物細胞発現用プラスミドpcDNA−ECHLPを作製した。なおECHLPには終止コドンを挿入せず、C末端側にベクター由来のV5エピトープおよびHIS6タグが融合されるようにプライマーを設計した。
(3)PPARγのリガンド依存的転写誘導能に対するECHLPの調節作用の検出
培養細胞COS−1細胞は6ウェル培養プレート(ウェル直径35mm)の培養皿に各ウェル2mlの10%牛胎児血清(シグマ社)を含む最少必須培地DMEM(ギブコ社)を加えて70%コンフルエントの状態になるまで培養した。この細胞にリン酸カルシウム法(Graham LらVirology、52巻456頁1973年、新井直子、遺伝子導入と発現/解析法13−15頁1994年)により、上述のGAL−PPARγ(0.15μg/ウェル)、およびGAL4結合配列を8個繰り返しルシフェラーゼ遺伝子の上流に配置したレポーターコンストラクト(RE×8−Luci,;下川ら、国際公開番号WO99/04815)(0.8μg/ウェル)をpcDNA−ECHLP(0.05−0.2μg/ウェル)とともに一過性にコトランスフェクトした。PPARγアゴニスト2μMあるいは被験化合物を培地に添加して48時間培養した後、培地を除去し、細胞をリン酸緩衝液(以下PBSと略称する)で洗浄した後にウェルあたり0.4mlの細胞溶解液(100mM リン酸カリウム(pH7.8)、0.2%トリトンX−100)を添加して細胞を溶解した。この細胞溶解液100μlにルシフェラーゼ基質溶液100μl(ピッカジーン社)を添加し、AB−2100型化学発光測定装置(アトー社)を用いて10秒間の発光量を測定した。ルシフェラーゼレポーター遺伝子と同時にβ−ガラクトシダーゼ発現遺伝子をもつプラスミドpCH110(アマシャムファルマシアバイオテク社)0.4μg/ウェルを細胞にコトランスフェクトし、β−ガラクトシダーゼ活性検出キットGalacto−Light PlusTMsystem(アプライドバイオシステムズ社)を用いてβ−ガラクトシダーゼ活性を測定し数値化した。これを導入遺伝子のトランスフェクション効率として上述のルシフェラーゼ活性を各ウェル毎に補正した。
上記実験の結果、PPARγのアゴニスト依存的な転写誘導活性は、細胞にトランスフェクトしたECHLP発現プラスミドの用量に依存して著しい阻害が認められた(図4)。これによりPPARγとECHLPのリガンド依存的な相互作用がおこると、PPARγの転写誘導活性が抑制されることが明らかになった。この事実は、前述の糖尿病モデルマウスにおいて、過剰なECHLP/Ech1が病態の原因因子であることを示した結果とよく一致する。すなわち、糖尿病の病態ではECHLP/Ech1の過剰発現が生じたことによってPPARγ転写誘導活性の抑制が起こり、その結果PPARγによって誘導されるべき下流遺伝子の発現が十分でないために糖代謝が阻害されると考えられた。
ECHLP/Ech1は分子内に脂肪酸代謝に働くエノイルCoA加水酵素(enoyl−CoA hydratase)とジエノイルCoA異性化酵素(dienoyl−CoA isomerase)の2種類の酵素活性領域と予想される構造を有する(Filppula AらJ.Biol.Chem.,273巻1号:349−355頁1998年)。また脂肪酸代謝酵素の阻害剤は糖尿病態マウスにおいて血糖値を降下させることが以前から知られていた(Collier RらHorm.Metab.Res.,25巻1号:9−12頁1993年)。この事実と、ECHLPがPPARγ活性の抑制作用をもつという上述の知見から、ECHLPは過剰に存在するとPPARγを介する糖代謝を抑えて自らの脂肪酸代謝酵素活性により脂質からのエネルギー生成を促進し、減少するとPPARγ活性を解除して糖代謝へ生体のエネルギー源をシフトさせる、糖・脂肪代謝の拮抗的な調節を担う分子であると考えられた。これを利用して、PPAR相互作用ECHLPの量を減じれば、あるいは相互作用ECHLPによるPPARγに対する抑制作用を阻害すれば、生体のエネルギー源を糖代謝へ向かわせ血糖値を降下させることが可能である。同時にECHLPを用い、そのような作用を持つ化合物を容易に選択することが可能である。
(実施例6)正常および糖尿病モデルマウスにおけるAOP2蛋白量の比較
上述の知見に基づき、AOP2とPPARγの相互作用がPPARγアゴニストを介した副作用である浮腫の惹起に関わることが予想された。そこで糖尿病モデルマウスKKAy/Ta(Iwatsukaら、Endocrinol.Japon.、第17巻、第23−35頁、1970年、Taketomiら、Horm.Metab.Res.、第7巻、第242−246頁、1975年)と正常個体C57BL/6Jの脂肪に含まれる蛋白質含量を蛍光標識2次元ディファレンス電気泳動
Proteomics、第1巻、第377−396頁、2001年)を用いて比較した。病態モデルマウスにおいて蛋白質含量に2倍以上の差異が認められる蛋白質群について、質量分析法を用いて各蛋白質を同定した。
(1)マウスの組織の摘出
日本クレアよりオスのC57BL/6J、KKAy/Taマウスを購入した。C57BL/6Jは普通食で12週齢になるまで集団飼育した。KKAy/Taマウスは高カロリー食(CMF,オリエンタルイースト社)で12週令になるまで単独飼育した。KKAy/Taマウスが正常マウスと比較して高血糖、高体重になっていることを確認した(KKAy/Taマウス:血糖値514.2±18.2mg/dl、体重49.9±0.7g)後、これら2種類のマウスをジエチルエーテルで麻酔し、副睾丸脂肪を摘出した。摘出直後に液体窒素で凍結し、−80℃で保存した。
(2)蛋白質試料の調製
凍結した副睾丸脂肪をウレア、両性界面活性剤を含むトリス緩衝液中でホモジナイザーULTRA−TURRAX T−8(IKA LABORTECHNIK社)を用いてホモジネートした。メーカー添付のプロトコールに従い、これらのサンプルから遠心分離操作により上清を得て以下の二次元電気泳動用の試料とした。
(3)2次元電気泳動
アマシャムファルマシアバイオテクのプロトコールに従った。それぞれの試料に対して吸光度を測定することにより含有蛋白質量を決定し、それらから約50μgの蛋白質を含む量をとり、それぞれ異なる蛍光色素(Cy3およびCy5、アマシャムファルマシアバイオテク社)による標識を行った後に混合し、IPGストリップ(アマシャムファルマシアバイオテク社)を用いて一次元目の等電点電気泳動を行った。二次元目の電気泳動の前に、IPGストリップをウレア、ドデシル硫酸ナトリウム、グリセロール、ジチオスレイトールを含むトリス緩衝液で平衡化し、さらにヨードアセトアミドを溶解したウレア、ドデシル硫酸ナトリウム、グリセロール、ジチオスレイトールを含むトリス緩衝液で平衡化した。二次元目の電気泳動はドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミド電気泳動を用いて行った。二次元電気泳動が終了したゲルを蛍光イメージ解析装置(アマシャムファルマシアバイオテク社)を用いて、それぞれの蛍光色素に特異的な励起・検出波長を使用して、それぞれの二次元電気泳動像を得た。それら二つの泳動像を解析ソフトウエア(アマシャムファルマシアバイオテク社)を用いて定量化し、病態モデル動物において蛋白質含量に2倍以上の差異が認められるスポットを特定し、スポットピッキング装置(アマシャムファルマシアバイオテク社)により切り出し、トリプシンを用いてゲル内酵素消化法(Schevchenkoら、Analytical Chemistry、第68巻、第850−858頁、1996年)によりタンパク質を断片化し、ペプチド混合物をゲルより回収した。
(4)マススペクトル法による蛋白質の同定
得られたペプチド混合物をキャピラリー逆相液体クロマトグラフィーカラム(直径0.075mm、長さ150mm、エルシーパッキング社)を用い、0.2%ギ酸存在下、流速を毎分約200nLに設定し、アセトニトリル勾配溶出法にて各ペプチドを分離した。液体クロマトグラフ装置(マイクローム・バイオリソース社)に直接接続したエレクトロスプレーイオン源を有する四重極イオントラップ型質量分析装置(サーモクエスト社)により、自動的に各ペプチドの分子イオンを選択しそのプロダクトイオンスペクトルを測定する方法を用いて各ペプチドのプロダクトイオンスペクトルを得た。
KKAy/Taマウスの副睾丸脂肪において正常個体と比較して2倍の含量増加を確認した蛋白質の断片ペプチドの個々のプロダクトイオンスペクトルを、公共の蛋白質データベースMSDB(リリース20010401)を用い、解析ソフトMascot(マトリクスサイエンス社)にて検索照合した結果、マウスAOP2蛋白質(AOP2/1−Cys Prx/nonselenium glutathione peroxidase;GenBank accession番号AF004670、AF093852、Y12883)中の4カ所の部分アミノ酸配列が一致し、マウスAOP2蛋白質であることが判明した。これにより糖尿病態においてはAOP2蛋白質含量が増加することが明らかとなった。
(実施例7)組織によるAOP2発現量の比較
配列番号14及び15に示したプライマーを用いて、ヒトcDNAライブラリー(クロンテック社)からPCR法(DNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA polymerase;宝酒造社)を用い、98℃(1分)の後、98℃(5秒)/55℃(30秒)72℃(3分)のサイクルを35回繰り返した)によりAOP2をコードする673bp(ベースペア)のcDNA断片の増幅をアガロースゲル電気泳動法により検出した。その結果、AOP2は主要臓器のうちPPARγの作用がある脂肪、筋肉、肝臓、腎臓と、ほかに心臓での発現が顕著であった。これにより発現部位からもAOP2がPPARγの転写共役因子であることが裏付けられた。
(実施例8)PPARγのリガンド依存的転写誘導能に対するAOP2の調節作用の検出
上述の結果から、AOP2はPPARγとリガンドを介して相互作用し、浮腫の惹起に関わること、さらにその発現亢進が糖尿病の病態と関連することが示された。そこでAOP2がPPARγの有する転写誘導活性にどのような影響を及ぼすか、培養細胞COS−1を用いたレポーターアッセイで調査した。
(1)動物細胞発現用プラスミドpcDNA−AOP2の作製
配列番号14及び15に示したプライマーを用いて、ヒト腎臓cDNAライブラリー(クロンテック社)からPCR法(DNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA polymerase;宝酒造社)を用い、98℃(1分)の後、98℃(5秒)/55℃(30秒)72℃(3分)のサイクルを35回繰り返した)によりAOP2の全長域をコードする673bpを含むcDNA断片を取得した。これをpCDNA3.1/V5−His−TOPOベクター(インビトロジェン社)にin vitro組換えによるTOPOクローニング法(インビトロジェン社)により挿入して動物細胞発現用プラスミドpcDNA−AOP2を作製した。なおAOP2には終止コドンを挿入せず、C末端側にベクター由来のV5epitopeおよびHis6タグが融合されるようにプライマーを設計した。
(2)PPARγのリガンド依存的転写誘導能に対するAOP2の調節作用の検出
培養細胞COS−1細胞は6ウェル培養プレート(ウェル直径35mm)の培養皿に各ウェル2mlの10%牛胎児血清(シグマ社)を含む最少必須培地DMEM(ギブコ社)を加えて70%コンフルエントの状態になるまで培養した。この細胞にリン酸カルシウム法(Graham LらVirology、52巻456頁1973年、新井直子、遺伝子導入と発現/解析法13−15頁1994年)により、実施例5(1)により作製したGAL−PPARγ(0.15μg/ウェル)、およびGAL4結合配列を8個繰り返しルシフェラーゼ遺伝子の上流に配置したレポーターコンストラクト(RE×8−Luci,;下川ら、国際公開番号WO99/04815)(0.8μg/ウェル)をpcDNA−AOP2(0.05−0.2μg/ウェル)とともに一過性にコトランスフェクトした。PPARγアゴニストGW7282を2mMあるいは被験化合物を培地に添加して48時間培養した後、培地を除去し、細胞をリン酸緩衝液(以下PBSと略称する)で洗浄した後にウェルあたり0.4mlの細胞溶解液(100mMリン酸カリウム(pH7.8)、0.2%トリトンX−100)を添加して細胞を溶解した。この細胞溶解液100μlにルシフェラーゼ基質溶液100μl(ピッカジーン社)を添加し、AB−2100型化学発光測定装置(アトー社)を用いて10秒間の発光量を測定した。ルシフェラーゼレポーター遺伝子と同時にβ−ガラクトシダーゼ発現遺伝子をもつプラスミドpCH110(アマシャムファルマシアバイオテク社)0.4μg/ウェルを細胞にコトランスフェクトし、β−ガラクトシダーゼ活性検出キットGalacto−Light PlusTMsystem(アプライドバイオシステムズ社)を用いてβ−ガラクトシダーゼ活性を測定し数値化した。これを導入遺伝子のトランスフェクション効率として上述のルシフェラーゼ活性を各ウェル毎に補正した。
上記実験の結果、PPARγのアゴニスト依存的な転写誘導活性は、細胞にトランスフェクトしたAOP2発現プラスミドの用量に依存した促進が認められた(図5)。これにより、PPARγとAOP2のアゴニスト依存的な相互作用が起こるとPPARγの転写誘導活性が亢進することが明らかになった。
この事実と、腎臓を含む組織でAOP2の発現があり、糖尿病モデルマウスにおいてAOP2蛋白量が病態で亢進している前述の結果から、糖尿病の病態では細胞中のAOP2存在量が亢進し、それに伴う腎臓など特定組織での過剰なPPARγ活性の促進が副作用(浮腫)をもたらすと考えられた。
AOP2はアミノ酸配列の相同性から分子内にペルオキシダーゼ様配列を持つことから抗オキシダント蛋白質2(anti−oxidant protein 2、(GenBankアクセッション番号XM_001415)と呼称されているが、実際の生理活性としてはカルシウム非依存性のフォスフォリパーゼA2として機能する報告があり(acidic calcium−independent phospholipase A2;Kim TSら、J.Biol.Chem.,272巻16号10981頁1997年)、またマウスでは同Aop2蛋白質の遺伝子座が多嚢胞性腎症の原因遺伝子として報告されている(LTW4/Aop2;lakoubova OA,らGenomics 42巻3号 474−478頁1997年)。このようにAOP2はそのアミノ酸配列構造から予想される分子機能とは異なる作用を持つことが明らかであり、その本来の生理機能は確定されていない。AOP2がPPARγとリガンド依存的に結合し、その転写共役因子として機能するという本発明者による発見は、該分子の機能における新規の知見である。このAOP2を利用することにより、PPARγの作動薬から浮腫を惹起するものを発見し除去することが可能である。
(実施例9)PPARγを介した主作用を選択的に亢進する化合物のスクリーニング系
以上の知見から、実施例5におけるレポーターアッセイ系で検出可能なECHLPとPPARγの相互作用、およびECHLPによるPPARγのリガンド依存転写促進能の抑制は、これを阻害する化合物をスクリーニングすることによって糖代謝を改善し、糖尿病態の回復に寄与する新規の糖尿病治療薬のスクリーニングが可能である。さらにそこで得られる被験物質の中から、実施例8におけるレポーターアッセイ系で検出できるAOP2とPPARγの相互作用、およびAOP2によるPPARγのリガンド依存転写促進能の亢進を引き起こさない物質をスクリーニングすることにより、副作用である浮腫を引き起こさずに糖尿病態の回復に寄与する糖尿病治療薬のスクリーニングが可能である。
すなわち実施例5、8と全く同様のレポーター活性測定系で被験化合物をスクリーニングできるが、より大量の被験化合物を効率よくスクリーニングするために下記のレポーターアッセイ系を構築した。
方法の詳細は前述の実施例5に示したものと同一とし、PPARアゴニストの存在によりECHLPによるPPARγの転写活性化能抑制が認められる条件下において、過剰量の被験化合物を並存させ競合させることで該転写活性化能抑制作用を阻害する化合物をスクリーニングした。具体的には6ウェル培養プレートに培養細胞COS−1細胞を10%牛胎児血清を含む最少必須培地DMEM中で70%コンフルエントの状態になるまで培養した。同細胞にリン酸カルシウム法でGAL−PPARγ(0.15μg/ウェル)、およびRE×8−Luci(0.8μg/ウェル)を、pcDNA−ECHLP(0.15μg/ウェル)とともにコトランスフェクトした。ここへPPARγアゴニストとして最終濃度0.1μMのGW7282を添加した条件下で、被験化合物(10−1.0μM)をさらに培地に添加して並存させるかたちで48時間培養した後、細胞をPBSで洗浄した後にウェルあたり0.4mlの細胞溶解液を添加して溶解した。同液100μlを96ウェルプレートに移して前述実施例5の方法に従いルシフェラーゼ活性およびβ−ガラクトシダーゼ活性を測定してPPARγの活性化を数値化した。PPARγアゴニストとして添加した低濃度のGW7282(0.1μM)が存在する条件下で認められるECHLPの発現によるリガンド依存的なPPARγの転写誘導能抑制(補正したルシフェラーゼ活性値の比)を基準とし、そこへ過剰の被験化合物10あるいは1.0μMを加えた条件で前記転写誘導能抑制を阻害する化合物をスクリーニングした。このECHLPによるPPARγ転写誘導能抑制を阻害する物質をスクリーニングする基準は、阻害活性強度(IC50)において、好ましくは10μM以下、さらに好ましくは1.0μM以下である。本スクリーニング系により、先に記載した化合物GI−262570は、10μMでECHLPによるリガンド(0.1μM GW7282)依存的なPPARγ転写誘導能抑制を一部阻害した(図6a)。一方化合物GL−100085は、10μMでも同転写誘導能抑制を阻害せず、GI−262570はPPARγの主作用に特異性が高く、GL−100085の同主作用が低い化合物として実際に選択することができた。
続いてさらに同スクリーニング系で選択した各被験化合物(10−1.0μM)をここでは単独で、同スクリーニング系のpcDNA−ECHLPをpcDNA−AOP2(0.15μg/ウェル)に置き換えて構築したスクリーニング系に添加し、AOP2によるPPARγの転写誘導能に対する被験化合物依存的な促進が存在するか上述と同様に補正したルシフェラーゼ活性を測定することにより検定した。このスクリーニング系により、上述の化合物GW7282およびGL−100085は、1.0−10μMでその存在依存的にAOP2の共存下でPPARγの転写誘導能を約4−5倍あるいは4−6倍に促進することを確認した。一方で化合物GI−262570は1.0μM、10μMいずれにおいても同転写誘導能を3.5倍程度にしか促進しなかった(図6B)。これにより、本スクリーニング系を用いてPPARγの副作用に特に特異性が高い化合物としてGL−100085を、また副作用惹起に比較的特異性の低い化合物としてGI−262570を、実際に選択することが可能であった。
(実施例10)組織によるFLJ13111の発現量の比較
配列番号18及び配列番号19に示したプライマーを用いて、ヒトcDNAライブラリー(クロンテック社)からPCR法(DNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA polymerase;宝酒造社)を用い、98℃(1分)の後、98℃(5秒)/55℃(30秒)72℃(3分)のサイクルを35回繰り返した)によりFLJ13111をコードするcDNA断片の増幅をアガロースゲル電気泳動法により検出した。その結果、FLJ13111は主要臓器のうちPPARγの作用がある筋肉、肝臓のほか、乳腺、肺、胎盤、卵巣、リンパ球、白血球での発現が顕著であったが、PPARγリガンドの浮腫の惹起にかかわる腎臓では殆ど発現が見られなかった。これにより発現部位からFLJ13111はPPARγの転写共役因子であることが裏付けられた。
(実施例11)PPARγのリガンド依存的転写誘導能に対するFLJ13111の調節作用の検出
上述の酵母ツーハイブリッド解析の結果から、FLJ13111はPPARγとリガンドを介して相互作用することが示された。そこでFLJ13111がPPARγの有する転写誘導活性にどのような影響を及ぼすか、培養細胞COS−1を用いたレポーターアッセイで調査した。
(1)動物細胞発現用プラスミドpcDNA−FLJ13111の作製
配列番号18及び配列番号19に示したプライマーを用いて、ヒト肝臓cDNAライブラリー(クロンテック社)からPCR法(DNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA polymerase;宝酒造社)を用い、98℃(1分)の後、98℃(5秒)/55℃(30秒)72℃(3分)のサイクルを35回繰り返した)により配列番号16に示すFLJ13111をコードする897bpを含むcDNA断片を取得した。これをpCDNA3.1/V5−His−TOPOベクター(インビトロジェン社)にin vitro組換えによるTOPOクローニング法(インビトロジェン社)により挿入して動物細胞発現用プラスミドpcDNA−FLJ13111を作製した。なおFLJ13111には終止コドンを挿入せず、C末端がわにベクター由来のV5epitopeおよびHis6タグが融合されるようにプライマーを設計した。
(2)PPARγのリガンド依存的転写誘導能に対するFLJ13111の調節作用の検出
上述実施例5(3)と同様の方法でpcDNA−ECHLPをpcDNA−FLJ13111に置き換えることにより、PPARγのリガンド依存的転写誘導能に対するFLJ13111の作用をレポーターアッセイで測定する系を作製した。また、PPARγアゴニストとしてはロジグリタゾン1mMを用いた。ロジグリタゾンを添加してルシフェラーゼ活性を測定した結果、PPARγのアゴニスト依存的な転写誘導活性は、細胞にトランスフェクトしたFLJ13111発現プラスミドの用量に依存した促進が認められた(図7)。これにより、PPARγとFLJ13111のアゴニスト依存的な相互作用が起こるとPPARγの転写誘導活性が亢進することが明らかになった。
この事実と、PPARγリガンドの浮腫の惹起にかかわる腎臓でFLJ13111の発現が殆ど無いことから、FLJ13111によるPPARγ活性の促進は、副作用でなく主作用を増強すると考えられた。
FLJ13111は機能未知の蛋白質であり、アミノ酸配列から分子内に細胞核内の存在を示唆する核標的配列(Nuclear Targeting Sequence)やグリコシル化を受けうる部位(N−glycosylation site)の存在が予想される他は、アミノ酸配列構造から分子機能を示唆する情報はなかった。FLJ13111がPPARγとリガンド依存的に結合し、その転写共役因子として機能するという本発明者による発見は、該分子の機能における新規の知見である。このFLJ13111を利用することにより、PPARγの主作用選択的な作動薬を発見することが可能である。
(実施例12)PPARγを介したFLJ13111のリガンド選択的作用の検出、およびPPARγを介した主作用を選択的に亢進する化合物のスクリーニング系
以上の知見から、実施例11におけるレポーターアッセイ系で検出可能なFLJ13111によるPPARγのリガンド依存転写促進能の亢進作用を促進する化合物をスクリーニングすることによって糖代謝を改善し、糖尿病態の回復に寄与する新規の糖尿病治療薬のスクリーニングが可能である。またさらにそこで得られる被験物質の中から、実施例8におけるレポーターアッセイ系で検出できるAOP2とPPARγの相互作用、およびAOP2によるPPARγのリガンド依存転写促進能の亢進を阻害する物質をスクリーニングすることにより、副作用である浮腫を引き起こさずに糖尿病態の回復に寄与する糖尿病治療薬のスクリーニングが可能である。
すなわち実施例11と全く同様のレポーター活性測定系で被験化合物をスクリーニングできるが、大量の被験化合物を効率よくスクリーニングするために下記の条件に設定しレポーターアッセイを実施した。GAL−PPARγ(0.15μg/ウェル)、レポーターコンストラクト(RE×8−Luci;0.8μg/ウェル)およびβ−ガラクトシダーゼ発現遺伝子をもつプラスミドpCH110(0.4μg/ウェル)をpcDNA−FLJ13111(0.1μg/ウェル)とともにCOS−1細胞に一過性にコトランスフェクトした。ここへ最終濃度10−0.1μMの被験化合物を培地に添加して48時間培養した後、ルシフェラーゼ活性およびβ−ガラクトシダーゼ活性を測定してPPARγの活性化を数値化した。上記条件以外のトランスフェクション方法およびルシフェラーゼ測定方法の詳細は実施例5及び実施例9に従った。被験化合物の添加、非添加の各条件下でFLJ13111の発現によるPPARγの転写誘導能促進(補正したルシフェラーゼ活性値の比)を指標にスクリーニングした。このFLJ13111によるPPARγ転写誘導能を促進する物質をスクリーニングする基準は、有効濃度(ED50)において、好ましくは10μM以下、さらに好ましくは1.0μM以下とした。本スクリーニング系により、ロジグリタゾンおよびピオグリタゾンは、1μMでFLJ13111によるPPARγ転写誘導能を促進した。一方化合物GL−100085は、10μMでも同転写誘導能を促進せず、ロジグリタゾン、ピオグリタゾンはPPARγの主作用に特異性が高く、GL−100085は同主作用が低い化合物として実際に選択することが可能であった。
(実施例13)正常マウスおよび糖尿病モデルマウスにおけるFLJ13111発現量の測定
上述の知見によりFLJ13111蛋白質とPPARγの相互作用がPPARγアゴニストを介した主作用である糖代謝改善に関わることが予想された。そこで前述実施例4に記載の2種類の糖尿病モデルマウス、KKAy/TaおよびC57BL/KsJ−db/dbの筋肉におけるFLJ13111遺伝子のマウスオルソログ遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)発現量を測定し、正常個体C57BL/6J、C57BL/KsJ−+m/+mのそれと比較することにした。遺伝子発現量は、本発明のFLJ13111遺伝子の発現量を測定し、同時に測定したグリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素(Glyceraldehyde 3−phosphate dehydrogenase(G3PDH))遺伝子の発現量により補正した。測定系としてはPRISMTM7700 Sequence Detection SystemとSYBR Green PCR Master Mix(アプライドバイオシステムズ社)を用いた。本測定系においてはPCRで増幅された2本鎖DNAがとりこむSYBR Green I色素の蛍光量をリアルタイムに検出及び定量することにより、目的とする遺伝子の発現量が決定される。
具体的には、以下の手順により測定した。
(1)マウスの組織の摘出およびmRNAの抽出
前述実施例4と同一の方法により調製した。
(2)1本鎖cDNAの合成
全RNAから1本鎖cDNAへの逆転写は、(1)で調製した1μgのRNA(15あるいは12週齢のマウスの筋肉)をそれぞれ用い、逆転写反応用キット(AdvantageTM RT−for−PCR Kit;クロンテック社)を用いて20μlの系で行った。逆転写後、滅菌水180μlを加えて−20℃で保存した。
(3)PCRプライマーの作製
4つのオリゴヌクレオチド(配列番号20−24)を(4)の項で述べるPCRのプライマーとして設計した。FLJ13111遺伝子に対しては配列番号20と配列番号21の組み合せ、G3PDH遺伝子に対しては配列番号22と配列番号23の組み合わせで使用した。
(4)遺伝子発現量の測定
PRISMTM7700 Sequence Detection SystemによるPCR増幅のリアルタイム測定は25μlの系で説明書に従って行った。各系において1本鎖cDNAは5μl、2xSYBR Green試薬を12.5μl、各プライマーは7.5pmol使用した。ここで1本鎖cDNAは(1)で調製したものをG3PDHに関しては30倍希釈、FLJ13111に関しては10倍希釈して使用した。なお検量線作成には、1本鎖cDNAに代えて0.1μg/μlのマウスゲノムDNA(クロンテック社)を適当に希釈したものを5μl用いた。PCRは、50℃で10分に続いて95℃で10分の後、95℃で15秒、60℃で60秒の2ステップからなる工程を45サイクル繰り返すことにより行った。
各試料におけるマウスFLJ13111遺伝子の発現量は、下記式に基づいてG3PDH遺伝子の発現量で補正した。
[FLJ13111補正発現量]=[FLJ13111遺伝子の発現量(生データ)]/[G3PDH遺伝子の発現量(生データ)]
発現量の比較においてはC57BL/6Jマウスの発現量を100とした相対量を図8に示した。図8に示す通り、FLJ13111遺伝子の発現は、糖尿病モデルマウスの筋肉において発現が顕著に減少していることが判明した。従ってFLJ13111の筋肉における発現量減少はインスリン抵抗性を惹起すると考えられる。以上のことからインスリン抵抗性にFLJ13111の関与が大きいと結論づけられる。
また本実施例の結果より、FLJ13111発現量の測定により糖尿病病態の診断が出来ることが明らかとなった。
(実施例14)FLJ13111のプロモーター配列の同定、および該配列の転写誘導活性を利用した主作用を選択的に亢進する化合物のスクリーニング系
前述実施例11の知見から、FLJ13111の存在量の増加は主作用惹起効果の高いPPARγリガンドの作用を増強することが明らかである。この事実からFLJ13111遺伝子からのFLJ13111発現量を正に調節することにより、インスリン抵抗性を改善できる可能性が予測される。しかしFLJ13111遺伝子の発現調節に関わるプロモーター配列は明らかではなかった。そこでFLJ13111プロモーター配列の取得を試みた。まず、配列番号24および25に示す一対のプライマーを設計した。これらのプライマーを用いて実施例11(1)に記載のPCRと同じ反応条件でFLJ13111のプロモーター配列の増幅を試みたところ、約1.8kbpのcDNA断片の増幅に成功した。上述の実施例と同様の方法により該断片の塩基配列を決定したところ、3’末端側にFLJ13111遺伝子のコード配列の一部を含む、配列番号26に示すポリヌクレオチドであることがわかった。該ポリヌクレオチド配列がFLJ13111の発現を制御するプロモーター活性を有するか否か、次の方法で検討した。ルシフェラーゼレポーターベクターであるpGL3−Basic Vector(プロメガ社)のマルチクローニングサイトに該ヌクレオチドを制限酵素BglIIおよびHind IIIを用いて挿入し、pGL3−FLJ13111pと名付けたレポータープラスミドを作製した。該プラスミドをCOS−1細胞にトランスフェクトし、前記ポリヌクレオチドを含まないpGL3−Basic Vector(空ベクター)をトランスフェクトした場合と比較することにより、該ポリヌクレオチドのプロモーターとしての発現誘導活性をルシフェラーゼの活性を指標に測定した。細胞へのトランスフェクション効率の補正及びルシフェラーゼアッセイの詳細は前述実施例5(3)に記載の方法と同じものを用いた。その結果、図9に示すように前記ポリヌクレオチドの存在に依存した有意なプロモーター活性が確認された。さらにこのプロモーター活性はトランスフェクトした細胞にPPARγのリガンドであるピオグリタゾン(0.1μM)を加えた場合に亢進されることが明らかになった。また本実験において前述のFLJ13111発現プラスミドであるpcDNA−FLJ13111をコトランスフェクトすると図9に示す通り前記ポリヌクレオチドのプロモーター活性は低下した。これらの事実から、クローニングしたポリヌクレオチドにはFLJ13111の発現を制御するプロモーター配列が含まれており、このプロモーターはインスリン抵抗性を低減させるピオグリタゾンなどのPPARγリガンドによって正に制御され、FLJ13111自身の存在によって負に制御されていることを示している。これにより、FLJ13111はリガンドを介してPPARγの活性を亢進させるのみでなく、インスリン抵抗性を低減させる効果が知られるPPARγのリガンドによってFLJ13111自身の発現量が亢進することにより、相乗的にインスリン抵抗性の低減に作用していることが予想された。
以上の知見から、本実施例におけるFLJ1311のプロモーターアッセイは、PPARγ蛋白質を利用せずにPPARγリガンドあるいはインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングするために利用できる。
(実施例15)ECHLP過剰発現細胞における脂肪細胞分化能の測定
上述の通り、ECHLP蛋白質はPPARγのリガンドの存在に依存してPPARγに結合し、PPARγの転写誘導活性を抑制することことが判明した。さらにECHLPは糖尿病態において発現量が増加していることから、その過剰発現がPPARγの活性抑制を介してインスリン抵抗性を惹起し、2型糖尿病の原因となっていることが予想された。一方、PPARγはリガンドに依存した転写活性の誘導により脂肪細胞の分化を促進し、その結果分化した脂肪細胞が血糖を取り込むことにより糖代謝が改善され、インスリン抵抗性が低減されることが知られている。そこで、実際にECHLPの細胞中での過剰発現がインスリン抵抗性にリンクする脂肪細胞の分化に影響を与えるか否かを以下の実験により調査した。
(1)ECHLP過剰発現L1細胞の樹立
C末端にDYKDDDDKからなるFLAG配列を付加したECHLPをレトロウイルスベクターpCLNCX(イムジェネックス社)に組み換えるため、pcDNA−ECHLPプラスミドより制限酵素を用いて約1−kbのBamHI−NotI断片を調製した。また、NotI部位−FLAG配列−XbaI部位からなるDNA断片を調製するため、配列番号27と配列番号28に示す2本の合成オリゴDNAを混合し加熱、徐冷して2本鎖DNA断片とした。これらのDNA断片を、pCLNCXのBamHIおよびXbaI部位で組み換え、pCLNCX−ECHLP−FLAGベクターを得た。このpCLNCX−ECHLP−FLAGベクターとpCL−Ecoベクター(イムジェネックス社)を共に、293細胞にリン酸カルシウム法により遺伝子導入した。遺伝子導入後24および48時間に、培養上清中の組み換えウイルスを回収した。未使用の細胞培養液(最少必須培地DMEM(ギブコ社))により2倍希釈し、更に最終濃度8μg/mlとなるようにポリブレン(シグマ社)を添加してマウス培養前駆脂肪細胞3T3−L1(ATCC)細胞に感染させた。感染後48時間より、1.5mg/mlG418(ナカライ)によりウイルス感染細胞を選別し、ECHLP−FLAG安定発現L1細胞を樹立した。コントロールとして、pCLNCXベクター(空ベクター)を感染させた細胞も同様に作製した。樹立細胞におけるECHLP−FLAGの発現は、抗FLAG M2抗体(シグマ社)を用いたウエスタンブロット法により確認した。具体的には、上述のECHLP−FLAG発現細胞の溶解液10μlに10μlの2倍濃度SDSサンプルバッファー(125mMトリス塩酸(pH6.8)、3%ラウレル硫酸ナトリウム、20%グリセリン、0.14M β−メルカプトエタノール、0.02%ブロムフェノルブルー)を添加し、100℃で2分間処理した後、10%のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、試料中に含まれている蛋白質を分離した。セミドライ式ブロッティング装置(バイオラッド社)を用いてポリアクリルアミド中の蛋白質をニトロセルロース膜に転写した後、常法に従いウエスタンブロッティング法により該ニトロセルロース上のECHLP蛋白質の検出を行った。一次抗体にはECHLPのC末端に融合させたFLAGエピトープを認識するモノクローナル抗体(インビトロジェン社)を用い、二次抗体にはラビットIgG−HRP融合抗体(バイオラッド社)を用いた。その結果ECHLP−FLAG融合蛋白質を示す蛋白質がECHLP−FLAG発現ベクターの細胞導入に依存して検出されることを確認した。
(2)ピオグリタゾンによる脂肪細胞分化
上記の方法により樹立した空ベクター感染L1細胞又はECHLP感染L1細胞を、96穴プレートに104cell/wellで培養し、48時間後よりインスリン(1μg/ml)およびピオグリタゾン(0.1−3μM)を用いて脂肪細胞へ分化誘導した。脂肪細胞への分化の程度は細胞中に取り込まれたトリグリセリド量を指標とし、分化誘導開始後7日目の細胞を、トリグリセリド含量の測定に供与した。
(3)細胞内トリグリセリド量の測定
2穴の細胞を40μlの0.1%SDS溶液中に溶解し、1mlのトリグリセリド測定試薬(トリグリセリドG−テストワコー、和光純薬工業)を加え、37℃にて10分間加温した。反応液の波長505nmの吸光度(OD505)を測定した。その結果、図10に示すとおりコントロール細胞(空ベクター感染L1細胞)ではピオグリタゾン(0.1−3μM)により用量依存的に細胞内トリグリセリドが増加し、脂肪細胞への分化が認められた。一方ECHLP過剰発現細胞(ECHLP感染L1細胞)においては、ピオグリタゾン(0.1−3μM)により誘導されたトリグリセリド増加は、いずれのピオグリタゾン用量においてもコントロール細胞における増加量の43−57%に抑制された。
脂肪細胞の分化抑制は脂肪細胞によって引き起こされる糖取込の総量を減少させる。したがって上記の結果からECHLPの過剰発現は脂肪細胞分化を抑制することにより2型糖尿病の原因因子として作用していることが明らかになった。
(実施例16)FLJ13111とPPARγの結合を選択的に誘導するリガンドの同定
上述実施例12に示したものと同一のレポーターアッセイによるスクリーニングを行った結果、PPARγの転写誘導活性を促進する化合物XFが得られた(図11)。その力価は10μMでピオグリタゾンの0.1μMにほぼ匹敵することがわかった。さらにこの化合物XFによるPPARγの転写活性化能の促進作用はピオグリタゾンの場合と同様にFLJ13111の過剰発現(0.1μg/ウェル)によって亢進することがわかった。
また、前述の実施例2に示したリガンド依存的なPPARγとFLJ13111の結合を酵母ツーハイブリッド法により検出する系において、同一の条件下でGW7282を化合物XFに置き換える形で実験したところ、化合物XFは前述のSRC−1、ECHLP,AOP2などの蛋白質とPPARγの結合は誘導せずに、FLJ13111とPPARγの結合のみを誘導することを見出した。
(実施例17)FLJ13111選択的PPARγリガンドによるナトリウム−カリウムATP分解酵素発現量の測定
PPARγリガンドによる浮腫は循環血漿量の増大によって引き起こされるが、これは腎細胞におけるナトリウム−カリウムATP分解酵素の発現量上昇とリンクして起こることが知られている。そこで、化合物XFが浮腫の惹起にリンクする腎細胞のナトリウム−カリウムATP分解酵素の発現量に影響を与えるか否か調査した。
具体的にはイヌ腎上皮細胞MDCKは、10%牛胎児血清(シグマ社)を添加した最少必須培地DMEM(ギブコ社)を用いて24穴培養プレートに1.5x105細胞/穴で37℃にて48時間培養した。培養液に溶媒(ジメチルスルホキシド)のみ、あるいはピオグリタゾン(終濃度0.1−10μM)または被験化合物XF(終濃度0.1−10μM)を添加し、さらに6時間培養した。1mlの測定用緩衝液(3mM MgSO4,3mM Na2HPO4,10mM トリス塩酸,250mM ショ糖)で細胞を2回洗浄した後、3H−ウアバイン(74Bq/μl、アマシャムバイオサイエンス社)および2μMウアバインを含む測定用緩衝液200μlを加えて37℃で2時間静置した。この条件で得られる結合放射活性を全結合量とした。また、非特異的結合量の測定には3H−ウアバイン(74Bq/μl)および1mM ウアバインを用いた。反応液を吸引除去後、1mlの氷冷測定用緩衝液で3回細胞を洗浄し、0.5N NaOH水溶液(250μl)により細胞を溶解した。等量の0.5N HCl水溶液により中和後、5ml液体シンチレータを加え、液体シンチレーション測定器により放射活性を計測した。3H−ウアバインの特異的結合量は、全結合量から非特異的結合量を差し引いた値として求め、ナトリウム−カリウムATP分解酵素の発現量を測定した。
その結果図12に示すとおり、ピオグリタゾンは溶媒のみを添加したコントロール細胞に比較して0.1μMの添加で有意なナトリウム−カリウムATP分解酵素の発現量増大作用が見られた。それに対して化合物XFは、上述の知見からPPARγ転写活性化においてはピオグリタゾンとほぼ同様の効果を示す10μMの濃度を添加してもナトリウム−カリウムATP分解酵素の発現量を増大させなかった。すなわち、FLJ13111選択的PPARγリガンドである化合物XFは浮腫を惹起するナトリウム−カリウムATP分解酵素の酵素発現量の増大を引き起こさないことが明らかとなり、化合物XFが浮腫の惹起に関与しないことが示された。
(実施例18)FLJ13111選択的PPARγリガンドによる脂肪細胞分化能の測定
次に化合物XFの添加がインスリン抵抗性の低減にリンクする脂肪細胞の分化に影響を与えるか否かを前述の実施例15と同様の方法により調査した。具体的にはマウス培養前駆脂肪細胞3T3−L1(ATCC)細胞に、化合物XF(1.0−10.0μM)を添加して7日目の細胞のトリグリセリド量を指標として脂肪細胞への分化の度合いを測定した。その結果、化合物XFの添加は溶媒のみを添加した細胞に比較して約20%程度のトリグリセリド量の増加が認められた。
脂肪細胞の分化促進は脂肪細胞が担う糖取込の総量を増加させ、インスリン抵抗性を改善する。したがって以上の結果から化合物XFは浮腫の惹起を引き起こさずにインスリン抵抗性を改善する作用を持つことが示された。
以上の結果から、FLJ13111を用いることにより、主作用を選択的にもたらして副作用を引き起こさない化合物、すなわちインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングできることは明らかである。
産業上の利用可能性
本発明の、リガンド存在下で行う酵母ツーハイブリッドスクリーニング方法により、副作用と乖離したインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングするのに有用なツールとなるリガンド依存的にPPARと相互作用する蛋白質をスクリーニングすることができる。前記方法により得られた、主作用リガンド依存性PPAR結合分子ECHLP、主作用リガンド選択的PPARγ作用因子FLJ13111、および副作用リガンド依存性PPAR結合分子AOP2を用いることにより、主作用を選択的にもたらして副作用を引き起こさない化合物を同定及びスクリーニングすることができる。該スクリーニング系により選択された物質は、インスリン抵抗性改善薬の候補物質として有用である。
配列表フリーテキスト
以下の配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。具体的には、配列表の配列番号9、10、11、13、24、25、27、28の配列で表される各塩基配列は、人工的に合成したプライマー配列である。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
図1は、リガンド依存的なPPARγ相互作用因子とPPARγの結合におけるアゴニスト選択性を示す図である。
図2は、糖尿病モデルマウスKKAy/Ta(KKAy)およびC57BL/KsJ−db/db(db/db)と正常マウスにおけるEch1発現量の比較を示す図である。
図3は、Ech1の組織別発現分布を示す図である。
図4は、ECHLPによるPPARγのリガンド依存的転写誘導能に対する抑制作用を示す図である。
図5は、AOP2によるPPARγのリガンド依存的転写誘導能に対する促進作用を示す図である。
図6は、ECHLP、AOP2によるPPARγのリガンド依存的転写誘導能に対する作用を利用した主作用特異的なPPARγリガンドのスクリーニングを示す図である。
図7は、FLJ13111によるPPARγのリガンド依存的転写誘導能に対する促進作用を示す図である。
図8は、糖尿病モデルマウスKKAy/Ta(KKAy)、C57BL/KsJ−db/db(db/db)および正常マウス(C57BL/6J(C57BL)、C57BL/KsJ−+m/+m(m+/m+))におけるFLJ13111発現量の比較を示す図である。
図9は、FLJ13111プロモーターの転写誘導活性及び該活性に及ぼすピオグリタゾン又はFLJ13111過剰発現の影響を示す図である。
図10は、マウス3T3−L1細胞におけるピオグリタゾンによるトリグリセリド含量の増加に対するECHLP過剰発現の影響を示す図である。
図11は、FLJ13111存在あるいは非存在下におけるピオグリタゾン又は化合物XFに依存したPPARγの転写誘導能を示す図である。
図12は、腎上皮細胞におけるナトリウム−カリウムATP分解酵素の発現量に対するピオグリタゾンあるいは化合物XFの影響を示す図である。
Claims (19)
- 糖代謝改善作用惹起効果の高いPPARリガンド存在下で、バイト(bait)として配列番号2で表されるPPARγ蛋白質の少なくとも第204番目から505番目を含む領域をコードするポリヌクレオチドを用い、プレイ(prey)としてcDNAライブラリーを用いる酵母ツーハイブリッドシステムを利用した、リガンド依存的にPPARγと相互作用する蛋白質をスクリーニングする方法。
- 浮腫惹起効果の高いPPARリガンド存在下で、バイト(bait)として配列番号2で表されるPPARγ蛋白質の少なくとも第204番目から505番目を含む領域をコードするポリヌクレオチドを用い、プレイ(prey)としてcDNAライブラリーを用いる酵母ツーハイブリッドシステムを利用した、リガンド依存的にPPARγと相互作用する蛋白質をスクリーニングする方法。
- i)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ii)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質の少なくともリガンド結合領域と転写因子のDNA結合領域とからなる融合蛋白質をコードする遺伝子、及び、iii)前記転写因子のDNA結合領域が結合し得る応答配列に融合されたレポーター遺伝子により形質転換された細胞、
あるいは、
i)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及びii)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質が結合し得る応答配列に融合されたレポーター遺伝子により形質転換され、a)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチド、及び、b)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質を発現している細胞。 - i)配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号8で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ii)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質の少なくともリガンド結合領域と転写因子のDNA結合領域からなる融合蛋白質をコードする遺伝子、及び、iii)該転写因子のDNA結合領域が結合し得る応答配列に融合されたレポーター遺伝子により形質転換された細胞、
あるいは、
i)配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号8で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及びii)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質が結合し得る応答配列に融合されたレポーター遺伝子により形質転換され、a)配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号8で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチド、及び、b)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質を発現している細胞。 - 転写因子が酵母のGAL4蛋白質である請求の範囲3または4記載の細胞。
- レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である請求の範囲3または4記載の細胞。
- i)請求項3に記載の細胞、PPARリガンド、及び被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として該リガンド依存的な相互作用の変化または該リガンド依存的なPPARの転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴とする、被験物質がPPARを介した糖代謝改善作用を促進するか否かを検出する方法。
- i)請求項3に記載の細胞、PPARリガンド、及び被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として該リガンド依存的な相互作用の変化または該リガンド依存的なPPARの転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴とする、インスリン抵抗性改善薬をスクリーニングする方法。
- インスリン抵抗性改善薬が糖代謝改善剤である請求の範囲8記載のスクリーニング方法
- i)請求の範囲4に記載の細胞に被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として該被験物質による相互作用の変化または該被験物質によるPPARの転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴とする、被験物質がPPARを介する浮腫惹起活性を促進するか否かを検出する方法。
- i)請求の範囲4に記載の細胞に被験物質を接触させる工程、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として該被験物質による相互作用の変化または該被験物質によるPPARの転写活性誘導活性の変化を分析する工程、及びiii)レポーター活性を増大させない被験物質を選択する工程を含むことを特徴とする、浮腫惹起活性のないインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングする方法。
- インスリン抵抗性改善薬が糖代謝改善剤である請求の範囲11記載のスクリーニング方法。
- i)配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ii)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質の少なくともリガンド結合領域と転写因子のDNA結合領域とからなる融合蛋白質をコードする遺伝子、及び、iii)前記転写因子のDNA結合領域が結合し得る応答配列に融合されたレポーター遺伝子により形質転換された細胞、
あるいは、
i)配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及びii)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質が結合し得る応答配列に融合されたレポーター遺伝子により形質転換され、a)配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいは配列番号17で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/または挿入されたアミノ酸配列を含み、しかもリガンド依存的にPPARと相互作用するポリペプチド、及び、b)配列番号2または配列番号6で表されるPPAR蛋白質を発現している細胞。 - i)請求の範囲13に記載の細胞に被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として該被験物質による相互作用の変化または該被験物質によるPPARの転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴とする、被験物質がPPARを介した糖代謝改善作用を促進するか否かを検出する方法。
- i)請求の範囲13に記載の細胞に被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として該被験物質による相互作用の変化または該被験物質によるPPARの転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴とする、インスリン抵抗性改善薬をスクリーニングする方法。
- インスリン抵抗性改善薬が糖代謝改善剤である請求の範囲15記載のスクリーニング方法。
- i)配列番号26で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、あるいは配列番号26で表される塩基配列において、1〜10個の塩基が欠失、置換、及び/または挿入されたポリヌクレオチド配列を含みかつ転写プロモーター活性を有するポリヌクレオチド
に融合されたレポーター遺伝子により形質転換された細胞に被験物質を接触させる工程、及び、ii)レポーター遺伝子の発現を指標として被験物質による転写活性誘導活性の変化を分析する工程を含むことを特徴とする、インスリン抵抗性改善薬をスクリーニングする方法。 - レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である請求の範囲17に記載の方法。
- 請求の範囲8、11、15及び/又は17に記載のスクリーニング方法を用いてスクリーニングする工程、及び
前記スクリーニングにより得られた物質を用いて製剤化する工程
を含むことを特徴とする、インスリン抵抗性改善用医薬組成物の製造方法。
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