JPWO2003015116A1 - 焼結型陰極及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
焼結型陰極C1は、陽極に対向する一方の端部側に設けられた円錐状の尖頭部31と、他方の端部側に設けられた円柱状の基部33とからなる砲弾形状の陰極先端部35を有する。陰極先端部35は、電子を放出する電子放射部を構成する。陰極先端部35は、粒子状に形成された高融点金属41と、高融点金属41の表面の少なくとも一部を被覆するアルミニウム層43と、易電子放射物質としての金属酸化物45とを含んでいる。この陰極先端部35は、アルミニウム層43が被覆された高融点金属41に、易電子放射物質となる金属を含み加熱処理により金属酸化物45に変化する化合物(金属炭酸塩)を混合して、焼結することにより形成される。
Description
技術分野
本発明は、焼結型陰極及びその製造方法に関する。
背景技術
この種の焼結型陰極として、たとえば特開平8−50849号公報に開示されたようなものが知られている。特開平8−50849号公報に開示された焼結型陰極は、Niと、還元作用を有する金属(還元性金属)と、電子放射剤とを含み、熱間等方加熱処理により焼結一体化されている。また、特開平8−50849号公報に開示された焼結型陰極では、Niと還元性金属とは、熱間等方加熱処理に先立って、合金化されている。
発明の開示
本発明は、大電流動作に適した放電特性を有し、初期始動性が改善された焼結型陰極及びその製造方法を提供することを課題としている。
本発明者らは、調査研究の結果、以下のような事実を新たに見出した。陰極として、たとえば特公昭62−56628号公報に開示されたようなガス放電管用のものが知られている。特公昭62−56628号公報に開示されたガス放電管用陰極(傍熱型陰極)は、熱良導性の円筒の外壁に2重コイルを複数ターン巻回して密に固定し、ペースト状の陰極物質材を2重コイルの1次螺旋内部及び2次螺旋間に塗布して円筒表面に一様な陰極面を形成し、円筒の内部にヒータを設けて構成されている。
易電子放射物質としての金属酸化物は、通常、陰極物質材として金属炭酸塩(たとえば、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム等)の形で塗布され、塗布された金属炭酸塩を熱活性(真空加熱分解)することにより得られる。金属炭酸塩(たとえば、炭酸バリウム)が、この金属炭酸塩を保持する保持部材(たとえば、2重コイル等の多重コイル)に塗布された状態では、保持部材の主成分である金属(たとえば、タングステン)と金属炭酸塩とは、ファンデルワールス力が主体である中性分子間引力により結合されている(W+2BaCO3)。そして、保持部材の主成分金属と結合状態にある金属炭酸塩を熱活性すると、下記のように熱分解される。
W+BaOBa +2CO2↑ +1/2O2↑
直熱型陰極では、保持部材自身が発熱体(加熱用ヒータ)となり、保持部材におけるBaOとの接触表面温度が1000℃以上の高温となるため、熱化学反応が起こり、BaWOBa組成の酸素侵入型の金属間化合物が生成される。これにより、放電の際に、電子供給源である保持部材の主成分金属から放電表面であるBa表面にまで放電経路(給電路)が形成され、熱電子放出が開始できる状態となる。
一方、傍熱型陰極では、加熱用ヒータからの熱を間接的に保持部材に伝播させるために、保持部材におけるBaOとの接触表面温度が、上述した熱化学反応を起こすまでの温度領域に達し難く、W+BaOBaの中性分子間引力による結合状態が続き、上述したような放電経路が形成されない。このため、保持部材の主成分金属からBa表面への電子供給が不充分となり、始動性が悪くなる。
しかしながら、傍熱型陰極であっても、陰極との近距離放電による補助点灯、あるいはテスラコイルにより予備電離させて強制放電を行うテスラ点灯等により、強制始動を行わせると、放電部への電荷集中により、一部が高温になるスポット加熱が起き、熱化学反応によるBaWOBa組成の酸素侵入型の金属間化合物が生成される。BaWOBa組成の酸素侵入型の金属間化合物が生成されることによって、保持部材の主成分金属から放電表面であるBa表面にまで放電経路が形成され、始動性が改善される。そして、放電開始後は、順次、BaWOBa組成の酸素侵入型の金属間化合物が、放電熱量、強制加熱量に応じて形成されていく。
このように、本発明者等は、保持部材の主成分金属と金属酸化物に含まれる金属とによる金属間化合物(導電性を有する酸素侵入型中間生成物)の生成が、初期始動性に影響を及ぼす要因であることを新たに見出した。また、本発明者等は、一度BaWOBa組成の酸素侵入型の金属間化合物が生成されて、保持部材の主成分金属から放電表面であるBa表面にまで放電経路が形成されれば、以後、Baが消失するまで熱陰極として動作することも見出した。なお、金属炭酸塩(たとえば、炭酸バリウム)を熱活性する際に、過剰酸素放出(過加熱)は、遊離Baの過剰生成を促し、Baの消耗を速めることになるため、得策ではない。
また、焼結型陰極においては、WとBaとを結合(合金化)することが好ましいが、WとBaのイオン化ポテンシャル及び融点の差が大きく、WとBaとを直接的に結合させることは困難である。Wのイオン化ポテンシャルは7.980eV(770kJ/mol)程度であり、融点は3382℃程度である。Baのイオン化ポテンシャルは5.210eV(502kJ/mol)程度であり、融点は714℃程度である。WとBaとの結合が未形成であると、陰極での電子供給回路が形成されず、WからBaへの電子供給が不十分となる。この結果、放電を継続することが難しくなってしまう。
上述した傍熱型陰極及び焼結型陰極から得られた知見等を踏まえ、本発明に係る焼結型電極の製造方法は、易電子放射物質としての金属酸化物と、高融点金属とを含み、電子を放出する電子放射部を備えた焼結型陰極の製造方法であって、高融点金属として、粒子状に形成された高融点金属を用い、粒子状に形成された高融点金属の表面の少なくとも一部をアルミニウム層で被覆する第1の工程と、第1の工程にてアルミニウム層が被覆された高融点金属と、易電子放射物質となる金属を含み加熱処理により金属酸化物に変化する化合物とを混合する第2の工程と、第2の工程にて混合された高融点金属と化合物とを圧縮成形する第3の工程と、第3の工程にて圧縮成形された高融点金属と化合物とを焼結する第4の工程と、を含むことを特徴としている。
アルミニウム(Al)は、イオン化ポテンシャル及び融点が高融点金属よりも低く、イオン化ポテンシャルは易電子放射物質となる金属(以下、単に「金属M」と称する)と同等である。このため、本発明では、上記化合物を熱分解して形成された金属M−酸素(O)化合物における金属Mと容易に置換され、耐熱性を有する金属M−Al−Oの結合を有する化合物が形成される。また、高融点金属とAlとの間は金属結合であり、Alと金属Mとの間は電子が供給されやすい結合状態であることから、高融点金属とAlと金属Mとの間には導電性がある。
以上のことから、本発明によれば、Alが高融点金属と金属Mとの間の橋かけとなり、酸素を介在した金属間化合物(Al−O−金属M)を含む酸素侵入型の金属間化合物(Al−金属Mの金属結晶の格子間位置に酸素が侵入固溶した化合物)(以降、単に「酸素侵入型の金属間化合物」と呼ぶ)が形成されることとなる。この金属間化合物には、接続された電源から供給される放電用電子が高融点金属からAlを介して金属M(易電子放射物質となる金属)に連続的に且つ多量に供給される回路が形成されていることから、大電流動作に適した放電特性を有し、初期始動性が改善された焼結型陰極を得ることができる。
また、本発明において、Alは、粒子状に形成された高融点金属の表面の少なくとも一部を層状に被覆するので、Alの露出表面積が大きくなり、酸素侵入型の金属間化合物が、高融点金属と金属Mとの間に多く形成することができる。なお、Alと高融点金属とを合金化した場合には、合金内に内包され、表面に露出しないAlが多量に存在することとなり、この内包されたAlは、上述した金属間化合物の形成に何ら寄与せず、陰極の動作中に蒸発するという問題を含むことになる。
また、上記第4の工程では、低酸素濃度雰囲気、不活性ガス雰囲気、真空雰囲気、二酸化炭素雰囲気、あるいは水素還元雰囲気の単一雰囲気もしくはこれらの雰囲気の組み合わせにて焼結することが好ましい。
本発明に係る焼結型電極の製造方法は、易電子放射物質としての金属酸化物と、高融点金属とを含み、電子を放出する電子放射部を備えた焼結型陰極の製造方法であって、高融点金属として粒子状に形成された高融点金属を用い、当該粒子状に形成された高融点金属の表面の少なくとも一部をアルミニウム層で被覆する第1の工程と、第1の工程にてアルミニウム層が被覆された高融点金属と、易電子放射物質となる金属を含み加熱処理により金属酸化物に変化する化合物とを混合する第2の工程と、第2の工程にて混合された高融点金属と化合物とを加圧、焼結する第3の工程と、を含むことを特徴としている。
上述したように、本発明によれば、Alが高融点金属と金属Mとの間の橋かけとなり、酸素侵入型の金属間化合物が形成されることとなる。この金属間化合物には、接続された電源から供給される放電用電子が高融点金属からAlを介して金属M(易電子放射物質となる金属)に連続的に且つ多量に供給される回路が形成されていることから、大電流動作に適した放電特性を有し、初期始動性が改善された焼結型陰極を得ることができる。また、本発明において、Alは、粒子状に形成された高融点金属の表面の少なくとも一部を層状に被覆するので、Alの露出表面積が大きくなり、酸素侵入型の金属間化合物が、高融点金属と金属Mとの間に多く形成することができる。
また、上記第3の工程では、低酸素濃度雰囲気、不活性ガス雰囲気、真空雰囲気、二酸化炭素雰囲気、あるいは水素還元雰囲気の単一雰囲気もしくはこれらの雰囲気の組み合わせにて加圧、焼結することが好ましい。また、上記第3の工程における加圧は、等方加圧あるいは一軸加圧であることが好ましい。
また、高融点金属として、タングステン、タンタル、モリブデン、レニウム、ニオブ、オスミウム、イリジウム、鉄、ニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム、マンガン、クロム、バナジウム、ロジウムの単体金属もしくはこれらの合金からなるものを用いることが好ましい。これにより、仕事関数が低下し、良好な熱電子放出が可能となる。また、良好な耐熱性及び熱放散性を発揮することとなる。
また、高融点金属として、特に、タングステン、タンタル、モリブデンの単体金属もしくはこれらの合金からなるものを用いることが好ましい。これにより、コスト、取扱い等の面で、実用性に優れることとなる。また、これらの高融点金属の融点は2500℃以上であり、1400℃以上の高温での焼結が行え、金属間化合物を確実且つ多量に形成することができる。
一方、本発明に係る焼結型陰極は、電子を放出する電子放射部を備えた焼結型陰極であって、電子放射部は、粒子状に形成された高融点金属と、易電子放射物質としての金属酸化物と、高融点金属と電気的に導通するように当該高融点金属の表面の少なくとも一部を層状に被覆するアルミニウムと、を含み、アルミニウムにより高融点金属と金属酸化物とが橋かけされて、酸素侵入型の金属間化合物が形成されていることを特徴としている。
上述したように、本発明によれば、Alが高融点金属と金属Mとの間の橋かけとなり、酸素侵入型の金属間化合物が形成されることとなる。この金属間化合物には、接続された電源から供給される放電用電子が高融点金属からAlを介して金属M(易電子放射物質となる金属)に連続的に且つ多量に供給される回路が形成されていることから、大電流動作に適した放電特性を有し、初期始動性が改善された焼結型陰極を得ることができる。また、本発明において、Alは、粒子状に形成された高融点金属の表面の少なくとも一部を層状に被覆するので、Alの露出表面積が大きくなり、酸素侵入型の金属間化合物が、高融点金属と金属Mとの間に多く形成することができる。
また、高融点金属は、タングステン、タンタル、モリブデン、レニウム、ニオブ、オスミウム、イリジウム、鉄、ニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム、マンガン、クロム、バナジウム、ロジウムの単体金属もしくはこれらの合金からなることが好ましい。このように構成した場合、仕事関数が低下し、良好な熱電子放出が可能となる。また、良好な耐熱性及び熱放散性を発揮する。
また、高融点金属は、特に、タングステン、タンタル、モリブデンの単体金属もしくはこれらの合金からなることが好ましい。このように構成した場合、コスト、取扱い等の面で、実用性に優れる。また、これらの高融点金属の融点は2500℃以上であり、1400℃以上の高温での焼結が行え、金属間化合物を確実且つ多量に形成することができる。
また、金属酸化物は、バリウム、ストロンチウム、カルシウムの内のいずれか単体の酸化物、又はこれらの酸化物の混合物あるいは希土類金属の酸化物を含んでいることが好ましい。このように構成した場合、仕事関数を効果的に小さくすることが可能となり、熱電子の放出が容易となる。
発明を実施するための最良の形態
以下、図面を参照しながら本発明による焼結型陰極及びその製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
ます、図1に基づいて、本実施形態に係る焼結型陰極C1を説明する。図1は、本実施形態に係る焼結型陰極の構成を説明するための模式図である。本実施形態の焼結型陰極C1は、たとえば、キセノン・ショートアークランプの放電管、冷陰極放電管等における陰極に用いられる。
焼結型陰極C1は、図1に示されるように、陽極(図示せず)に対向する一方の端部側に設けられた円錐状の尖頭部31と、他方の端部側に設けられた円柱状の基部33とからなる砲弾形状の陰極先端部35を有している。焼結型陰極C1は、タングステン等の高融点金属により形成されたリード棒(図示せず)の先端に基部33が固定されることにより構成される。陰極先端部35は、電子を放出する電子放射部を構成する。
陰極先端部35は、粒子状に形成された高融点金属41と、高融点金属41の表面の少なくとも一部を被覆するアルミニウム層43と、易電子放射物質としての金属酸化物45とを含んでいる。この陰極先端部35は、アルミニウム層43が被覆された高融点金属41に、易電子放射物質となる金属を含み加熱処理により金属酸化物45に変化する化合物(金属炭酸塩)を混合して、焼結することにより形成される。
高融点金属41は、導電性を有する剛体(金属導体)で、周期律表のIIIa〜VIIa、VIII、Ib族に属し、具体的にはタングステン、タンタル、モリブデン、レニウム、ニオブ、オスミウム、イリジウム、鉄、ニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム、マンガン、クロム、バナジウム、ロジウム等の高融点金属(融点1000℃以上)の単体金属もしくはこれらの合金からなる。高融点金属41を上述した材料とすることにより、陰極先端部35における仕事関数が低下し、ガス放電管用電極C3(陰極先端部35)からの良好な熱電子放出が可能となる。また、良好な耐熱性及び熱放散性を発揮する。
高融点金属41は、特に、タングステン、タンタル、モリブデンの単体金属もしくはこれらの合金からなることが好ましい。高融点金属41をタングステン、タンタル、モリブデンの単体金属もしくはこれらの合金とすることにより、コスト、取扱い等の面で、実用性に優れることになる。また、タングステン、タンタル、モリブデンの高融点金属の融点は2500℃以上であり、1400℃以上の高温での焼結が行え、後述する金属間化合物を確実且つ多量に形成することができる。
アルミニウム層43は、粒子状に形成された高融点金属41の表面にアルミニウム(Al)を、蒸着(物理蒸着(PVD)法、化学蒸着(CVD)法)、めっき等により形成され、高融点金属41と電気的に導通した状態となっている。アルミニウム層43の形成は、特に、PVD法における真空蒸着法やイオンプレーティング法が有効である。なお、アルミニウム層43は、高融点金属41の全表面に形成する必要はなく、高融点金属41の表面の少なくとも一部に形成されればよい。
金属酸化物45は、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)の内のいずれか単体の酸化物、又はこれらの酸化物の混合物、スカンジウム、イットリウムを含む希土類金属(周期律表のIIIa)単体の酸化物、又はこれらの酸化物の混合物、あるいは、主構成要件がバリウム、ストロンチウム、カルシウムの内のいずれか単体の酸化物、又はこれらの酸化物の混合物であり副構成要件がスカンジウム、イットリウムを含む希土類金属(周期律表のIIIa)である酸化物が用いられる。バリウム、ストロンチウム、カルシウム、スカンジウム、イットリウムを含む希土類金属は、仕事関数が小さく、熱電子を容易に放出することができ、熱電子供給量を増加させることができる。また、副構成要件として希土類金属(周期律表のIIIa)を添加した場合、熱電子供給量を更に増加させることができると共に、耐スパッタ性能を向上することもできる。
金属酸化物45は、電極物質材として金属炭酸塩(たとえば、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム等)の形で含有させ、焼結時の熱により加熱分解(熱活性)することにより得られる。このようにして、易電子放射物質としての金属酸化物45が得られる。
金属酸化物45として、バリウム、ストロンチウム、カルシウムの酸化物の単体、あるいは混合体を用いる場合、アルミニウム層43を形成するアルミニウムのモル数比率が、バリウム、ストロンチウム、カルシウムの総合計モル量に対して2分の1以下であることが好ましい。アルミニウムと、バリウム、ストロンチウム、カルシウムとの間で、鉱物状のアルミン酸塩を作るが、その組成はスピネル構造、たとえばBaAl2O4で表される。この鉱物状のアルミン酸塩が出来ると安定化してしまい、バリウム、ストロンチウム、カルシウムが易電子放射物質としての役目を果たさなくなる。このため、遊離したバリウム、ストロンチウム、カルシウムを存在させるためには、アルミニウムの化学量論的比率をバリウム、ストロンチウム、カルシウムの消費量以下に抑える必要があり、上述したようにアルミニウムのモル数比率を、バリウム、ストロンチウム、カルシウムの総合計モル量に対して2分の1以下とすることが好ましい。
また、金属酸化物45として、スカンジウム、イットリウムを含む希土類金属(周期律表のIIIa)の酸化物の単体、あるいは混合体を用いる場合、アルミニウム層43を形成するアルミニウムのモル数比率が、希土類金属(周期律表のIIIa)の総合計モル量に対して1以下であることが好ましい。アルミニウムと、希土類金属(周期律表のIIIa)との間で、鉱物状のアルミン酸塩を作るが、その組成は、一般にペロブスカイト構造、たとえばLnAlO3で表される。この鉱物状のアルミン酸塩が出来ると安定化してしまい、希土類金属(周期律表のIIIa)が易電子放射物質としての役目を果たさなくなる。このため、遊離した希土類金属(周期律表のIIIa)を存在させるためには、アルミニウムの化学量論的比率を希土類金属(周期律表のIIIa)の消費量以下に抑える必要があり、上述したようにアルミニウムのモル数比率を、希土類金属(周期律表のIIIa)の総合計モル量に対して1以下とすることが好ましい。
また、金属酸化物45として、バリウム、ストロンチウム、カルシウムの酸化物の単体、あるいは混合体に、スカンジウム、イットリウムを含む希土類金属(周期律表のIIIa)の酸化物の単体、あるいは混合体を添加して用いる場合、アルミニウム層43を形成するアルミニウムのモル数比率が、バリウム、ストロンチウム、カルシウムの総合計モル量に対して2分の1以下であることが好ましい。バリウム、ストロンチウム、カルシウムは希土類金属(周期律表のIIIa)よりも反応性が高いため、鉱物状のアルミン酸塩の生成反応が、バリウム、ストロンチウム、カルシウムとアルミニウムとの反応に律速されることになる。このため、上述したようにアルミニウムのモル数比率を、バリウム、ストロンチウム、カルシウムの総合計モル量に対して2分の1以下とすることが好ましい。
また、焼結された陰極先端部35における高融点金属41のアルミニウム容積を除いた容積率は、45%〜90%であることが好ましい。高融点金属41(たとえば、タングステン)量が減少するにつれて、易電子放射物質としての金属酸化物45が増加する。この易電子放射物質としての金属酸化物45は、粒界性が高いため、焼結体(陰極先端部35)の強度が劣化する。また、高融点金属41量が減少するにつれ焼結体(陰極先端部35)の耐熱性が低下し、陰極動作中における金属酸化物45に含まれる金属の蒸発散乱を助長する。更に、金属酸化物45量とアルミニウム量とが増えたとしても、電子放射を行う陰極としての性能向上にはならない。これらのことから、焼結された陰極先端部35における高融点金属41のアルミニウム容積を除いた容積率は、45%〜90%であることが好ましい。
上記容積率は、後述する加圧(圧縮)処理を行う前の状態におけるものであり、その計算式は、容積率=高融点金属容積÷(高融点金属容積+易電子放射物質としての金属酸化物容積)で表される。ここで、高融点金属容積は、混合された高融点金属の容積である。また、易電子放射物質としての金属酸化物容積は、炭酸塩の質量から熱分解により生じる二酸化炭素分の質量を引いたものを易電子放射物質としての金属酸化物の密度で除した値である。
次に、図2を参照して、上述した構成の焼結型陰極C1の製造方法について説明する。
まず、粒子状に形成された高融点金属41(たとえば、タングステン粒子)の表面の少なくとも一部をアルミニウム層43で被覆する(S101:アルミニウム被覆工程)。アルミニウム層43は、たとえば、タングステン粒子を真空容器内に入れ、アルミニウムを加熱することにより、タングステン粒子の表面にアルミニウム薄膜を蒸着させることにより形成することができる。
高融点金属41の平均粒径は、1〜100μmが好ましい。平均粒径が1μm未満であると、各粒子が二次粒子を形成して、粗粒化する傾向が強くなってしまう。また、平均粒径が100μmより大きくなると、局所的に電子が放射されない領域の大きさが無視できなくなる。
アルミニウム層43の厚みは、単層(アルミニウム原子1個分の厚み)〜3nmであることが好ましい。アルミニウム層43の厚みが大きすぎると、余剰となった遊離アルミニウムを溶融除去するための蒸発時間が長くなり、実用的でない。
なお、高融点金属41の表面は、電気的な導通を有する程度に、酸化(酸化被膜を形成)していてもよい。同様に、アルミニウム層43の表面も、電気的な導通を有する程度に、酸化(酸化被膜を形成)していてもよい。
次に、アルミニウム被覆工程にてアルミニウム層43が被覆された高融点金属41と、易電子放射物質となる金属(たとえば、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)及びカルシウム(Ca))を含み加熱処理により金属酸化物45に変化する化合物(たとえば、Ba、Sr及びCaを含有する三元炭酸塩)を混錬する(S103:混合工程)。
次に、混合工程にて混合された高融点金属41と上記化合物とを圧縮成形する(S105:圧縮成形工程)。圧縮成形には、機械プレスや静水圧プレス等の圧縮成形機を用いることができる。本実施形態においては、高融点金属41と上記化合物との混合物を圧縮成形機の金属金型に充填し、所定の圧力にて砲弾形状に圧縮成形する。圧縮成形圧力は、500〜8000kg/cm2が好ましい。圧縮成形圧力が500kg/cm2未満となると、成形物が型崩れを起こす惧れがある。また、8000kg/cm2より大きくなると、焼結体が割れてしまう惧れがある。なお、混合物が緻密体となると、電子供給に差障りが生じてしまう惧れがあることを考慮すると、圧縮成形圧力は500〜4000kg/cm2であることがより好ましい。なお、圧縮成形手段として、上記プレス成形の他に、メタル・インジェクション・モールディング(MIM)等の金属射出成形でもよい。
次に、圧縮成形工程にて圧縮成形された混合物を焼結する(S107:焼結工程)。焼結工程では、たとえば、圧縮成形された混合物を真空炉内に置き、焼結初期の加熱時には炉内を低酸素濃度雰囲気とし、その後、炉内を真空雰囲気あるいは不活性ガス(たとえば、アルゴンガス)雰囲気として800℃程度まで徐々に昇温し、その後、炉内を真空雰囲気として最高温度1450℃にて焼結を行う。
焼結温度は、1000℃以上であることが好ましい。上述した金属炭酸塩の完全分解、陰極の動作温度が1000℃以上である。また、アルミニウムの融点が660℃であり、アルミン酸塩の融点が1000℃以上である。これらのことから、アルミン酸塩を形成せずに存在する遊離アルミニウムを溶融除去するためにも、1000℃以上での焼結が必要となり、上述したように、焼結温度は1000℃以上、好ましくは1400℃以上であることが好ましい。焼結最高温度は、高融点金属41の融点、金属酸化物45の蒸発温度等による。高融点金属41がタングステンであり、金属酸化物45がバリウムの酸化物である場合、焼結最高温度は1800℃程度が上限となる。高融点金属41がニッケルである場合、ニッケルの融点の関係から、焼結最高温度は1400℃程度が上限となり、1200℃以下が好ましい。
なお、焼結の際、炭酸塩の熱分解段階である、700〜900℃の範囲に昇温するまでは徐々に温度を高めることが好ましい。これは、急激に昇温した場合、熱分解時に生じる二酸化炭素量が急増して焼結体内のガス容積が急膨張し、焼結体の割れの原因になるためである。また、800℃以上の高温焼結の雰囲気として、炉内を二酸化炭素雰囲気とする、あるいは還元炉に移して還元雰囲気とするようにしてもよい。
焼結中の処理雰囲気としては、低酸素濃度雰囲気、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気、真空雰囲気、二酸化炭素雰囲気、あるいは還元雰囲気であることが好ましい。低酸素濃度雰囲気とすれば、アルミニウム層43の表面が電気的な導通を有する程度に表面酸化させる効果がある。不活性ガス雰囲気とすれば、炭酸塩熱分解中のアルミニウムの融点低下抑制による流動化防止効果がある。真空雰囲気とすれば、高温時に、役割を終えた余分なアルミニウム等低融点物を蒸発除去する効果がある。二酸化炭素雰囲気とすれば、比較的低温で金属間化合物形成を促す効果がある。還元雰囲気とすれば、酸化物の還元化により、余分な酸素除去、あるいは易電子放射物質となる金属を遊離する効果がある。焼結は、これらの特徴を考慮し、単一雰囲気、あるいは複数雰囲気を組み合わせて行うことができる。これら雰囲気は共に、炭酸塩の熱分解による易電子放射物質としての金属酸化物形成の環境を提供すると共に、加熱処理時の過度の金属酸化を防止する効果がある。
このように、1000℃以上での焼結温度(たとえば、1400℃程度)にて焼結すると、金属炭酸塩(たとえば、炭酸バリウム)が真空加熱分解(熱活性)される。また、この高温焼成により、高融点金属41(たとえば、タングステン(W))と酸化バリウム(BaO)とが粒界状態となった焼結体にて、アルミニウム(Al)がタングステンとバリウム等との橋渡し役となって酸素侵入型の金属間化合物(WAlOBa)が形成されることになる。金属間化合物中では、共有結合とイオン結合とが混在した状態となり、上述したように、遊離バリウム(Ba)が存在することになる。
アルミニウム(Al)は、イオン化ポテンシャル及び融点がタングステンよりも低く、イオン化ポテンシャルはバリウムと同等である。アルミニウムのイオン化ポテンシャルは5.984eV(577kJ/mol)であり、融点は660℃である。このため、炭酸バリウムを熱分解して形成されたBa−酸素(O)化合物におけるバリウムがアルミニウムに容易に置換され、耐熱性を有するBa−Al−Oの結合を有する化合物が形成される。また、タングステンとアルミニウムとの間は金属結合であり、アルミニウムとバリウムとの間は電子が供給されやすい結合状態であることから、タングステンとアルミニウムとバリウムとの間には導電性がある。
以上のことから、本実施形態によれば、アルミニウムが橋かけとなり、アルミニウム層43と高融点金属41と金属酸化物45との間において、WAlOBa組成の酸素侵入型の金属間化合物を容易に生成することができる。この金属間化合物には、接続された電源から供給される放電用電子が高融点金属41からAlを介して易電子放射物質となる金属(バリウム等)に連続的に且つ多量に供給される回路が形成されていることから、焼結型陰極C1は、焼結された状態で、熱電子放出が開始可能な状態となっており、初期始動性が改善されることとなる。
また、本実施形態においては、焼結型陰極C1(陰極先端部35)の耐熱温度が高く、また、上述したように焼結型陰極C1(陰極先端部35)には放電経路が多数存在することになり、大放電電流に対応可能な陰極を実現できる。
また、本実施形態において、アルミニウムは、粒子状に形成された高融点金属41の表面の少なくとも一部を層状に被覆するので、アルミニウムの露出表面積が大きくなり、酸素侵入型の金属間化合物が、高融点金属41と易電子放射物質となる金属(バリウム等)との間に多く形成することができる。
ここで、本実施形態により製作した焼結型陰極C1とバリウム含浸型陰極との比較試験を行った。試験は、それぞれの陰極をキセノンランプに装着し、放電特性を測定した。なお、炭酸塩として、モル比がバリウム:ストロンチウム:カルシウム=46:44:10であり、分子量(式量)166の三元炭酸塩を0.3g用いた。この場合、金属酸化物としては、分子量(式量)122、密度5.36g/cm3となる。また、高融点金属として、平均粒径56μm、密度19.3g/cm3のタングステンを3.3g用いた。上述した容積率は、81%=(3.3/19.3)/((3.3/19.3)+0.3×(122/166)/5.36)となる。
焼結型陰極C1をキセノンランプに装着した場合、放電開始電圧は8.5kVとなり、ランプ管電圧は17.5Vとなる。バリウム含浸型陰極を装着した場合、放電開始電圧は8.5kVとなり、ランプ管電圧は17.5Vとなる。このように、焼結型陰極C1は、大電流動作に適したバリウム含浸型陰極と同等の性能を有することが確認できた。また、焼結型陰極C1を装着したキセノンランプにおいて、ランプ管壁の汚れも確認されなかった。
次に、図3を参照して、上述した焼結型陰極C1の製造方法の変形例について説明する。
まず、粒子状に形成された高融点金属41(たとえば、タングステン粒子)の表面の少なくとも一部をアルミニウム層43で被覆する(S201:アルミニウム被覆工程)。高融点金属41の平均粒径は、1〜100μmが好ましい。また、アルミニウム層43の厚みは、単層(アルミニウム原子1個分の厚み)〜3nmであることが好ましい。
次に、アルミニウム被覆工程にてアルミニウム層43が被覆された高融点金属41と、易電子放射物質となる金属(たとえば、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)及びカルシウム(Ca))を含み加熱処理により金属酸化物45に変化する化合物(たとえば、Ba、Sr及びCaを含有する三元炭酸塩)を混錬する(S203:混合工程)。
次に、混合工程にて混合された高融点金属41と上記化合物とを成形する(S205:成形工程)。本実施形態においては、高融点金属41と上記化合物との混合物をゴム製の円筒形型に密封し、500kg/cm2未満の圧力で円柱状に成形する。
次に、成形工程で成形された混合物を加圧、焼結する(S207:加圧・焼結工程)。本実施形態においては、ゴム製円筒形型に密封された状態の成形済み品を熱間等方加圧用の円筒形カプセルに真空封入した後に、所定の温度・圧力プログラムに従って熱間等方加圧処理し、焼結体を得ている。ここで、成形済み品を上記カプセルに真空封入するのは、高融点金属41の酸化防止のためである。なお、熱間等方加圧処理に代えて、一軸加圧であるホットプレス処理としてもよい。
高融点金属41としてタングステンを用いた場合、焼結温度の下限が900℃以上であり、焼結温度は1000℃以上であることが好ましい。また、最高焼結温度が1000℃未満では十分な焼結ができず焼結体の強度が低くなり、脆くなる。このため最高焼結温度は1000℃以上であることが好ましい。また、熱間等方加圧処理で、1400℃より高い温度では、焼結体の強度は高くなるが、結晶化を引き起こし、電子放出能が低下する場合がある。これらのことから、熱間等方加圧処理最高温度は、1000℃以上1400℃以下にすることが好ましく、最適には1300°Cである。なお、上述したように、700〜900℃の範囲に昇温するまでは徐々に温度を高めることが好ましい。
また、圧力は、500〜8000kg/cm2が好ましい。圧縮成形圧力が500kg/cm2未満となると、成形物が型崩れを起こす惧れがある。また、8000kg/cm2より大きくなると、焼結体が割れてしまう惧れがある。なお、混合物が緻密体となると、電子供給に差障りが生じてしまう惧れがあることを考慮すると、圧縮成形圧力は500〜4000kg/cm2であることがより好ましい。
加圧するタイミングについては、700〜900℃では加圧を行わない、もしくは、低圧力とする。そして、炭酸塩の熱分解後の二酸化炭素放出により空孔部が生じた後、900〜1400℃で加圧を開始して、圧縮及び加熱溶融する。これにより、空孔部がなくなって、構成原子の接触面積が増え、金属間化合物の形成が容易となり、放電経路(給電路)形成量が増加することとなる。
処理雰囲気としては、低酸素濃度雰囲気、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気、真空雰囲気、二酸化炭素雰囲気、あるいは還元雰囲気の単一雰囲気、あるいは複数雰囲気を組み合わせとすることが好ましい。
以上のことから、最終熱間等方加圧処理条件は、温度が1300℃であり、圧力が500kg/cm2以上の低酸素濃度雰囲気、あるいは不活性ガス(たとえば、アルゴンガス)雰囲気であることが好ましい。
また、アルミニウムの融点が660℃であり、アルミン酸塩の融点が1000℃以上であることから、アルミン酸塩を形成せずに存在する遊離アルミニウムを溶融除去するためにも、熱間等方加圧処理終了後、熱間等方加圧用円筒形カプセルから取り出された焼結体を、1400℃以上で再焼結することが好ましい。この場合、処理雰囲気は、真空雰囲気、あるいは二酸化炭素雰囲気、あるいは還元炉に移した還元雰囲気の何れか、あるいは組み合わせとすることが好ましい。
次に、加圧・焼結工程により得られた焼結体を所定の形状(砲弾形状)に仕上げる(S209:仕上げ工程)。
上述した変形例においても、アルミニウムが橋かけとなり、アルミニウム層43と高融点金属41と金属酸化物45との間において、WAlOBa組成の酸素侵入型の金属間化合物を容易に生成することができる。この金属間化合物には、接続された電源から供給される放電用電子が高融点金属41からAlを介して易電子放射物質となる金属(バリウム等)に連続的に且つ多量に供給される回路が形成されていることから、焼結型陰極C1は、焼結された状態で、熱電子放出が開始可能な状態となっており、初期始動性が改善されることとなる。
また、本実施形態においては、焼結型陰極C1(陰極先端部35)の耐熱温度が高く、また、上述したように焼結型陰極C1(陰極先端部35)には放電経路が多数存在することになり、大放電電流に対応可能な陰極を実現できる。
なお、高融点金属41の量が減少するにつれ焼結体の耐熱性が低下するものの、熱間等方加圧及びホットプレス等の加圧処理を行う場合、焼結体は緻密化されるため、容積率の下限が低下しても耐熱性低下は緩和されることとなる。このため、高融点金属41のアルミニウム容積を除いた容積率は、40%〜90%であることが好ましい。
次に、図4に基づいて、本実施形態に係る焼結型陰極の変形例を説明する。図4は、本実施形態に係る焼結型陰極の変形例の構成を説明するための模式図である。焼結型陰極C2は、上記焼結型陰極C1と同じく、キセノン・ショートアークランプの放電管、冷陰極放電管等における陰極に用いられる。
焼結型陰極C2は、図4に示されるように、陽極(図示せず)に対向する一方の端部側に設けられた円錐状の尖頭部51と、他方の端部側に設けられた円柱状の基部53とからなる砲弾形状の陰極先端部55を有している。この陰極先端部55は、タングステン等の高融点金属により形成される。尖頭部51の先端部分には穴部57が穿設されており、この穴部57に電子放射部59が埋設されている。
電子放射部59は、粒子状に形成された高融点金属41と、高融点金属41の表面の少なくとも一部を被覆するアルミニウム層43と、易電子放射物質としての金属酸化物45とを含んでいる。この電子放射部59は、アルミニウム層43が被覆された高融点金属41と、易電子放射物質となる金属を含み加熱処理により金属酸化物45に変化する化合物とを混錬したものを、穴部57に充填加圧成形して、焼結することにより形成される。
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。たとえば、高融点金属41は、ニッケル、鉄、コバルトの単体金属もしくはこれらの合金であってもよい。この場合、コスト、取扱い等の面で、実用性に優れることとなる。ニッケル、鉄、コバルトの融点は1500℃前後であることから、最高焼結温度の上限は1400℃未満とする必要があり、1200℃以下が好ましい。
また、高融点金属41を、ニッケル、鉄、コバルトの単体金属もしくはこれらの合金とした場合、焼結型陰極は、比較的低温度で動作するCRT用陰極、電子管用陰極、電子銃用陰極等に適したものとなる。また、特開平8−50849号公報にも記載された傍熱型陰極として使用してもよい。
また、焼結型陰極C1の放電開始後は、放電熱量等に応じて上述した金属間化合物が形成されていくので、粒子状に形成された高融点金属41の全表面をアルミニウム層43で被覆する必要はない。
また、焼結型陰極表面に、オスミウム、イリジウムあるいはレニウムを蒸着等により成膜することで、双極子効果を増大させて、動作温度を低くできる効果がある。
産業上の利用可能性
本発明の焼結型陰極及びその製造方法は、蛍光ランプ用陰極、キセノンランプ用陰極、CRT用陰極、電子管用陰極、電子銃用陰極等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施形態に係る焼結型陰極の構成を説明するための模式図である。
図2は、実施形態に係る焼結型陰極の製造工程の一例を説明するための図である。
図3は、実施形態に係る焼結型陰極の製造工程の一例を説明するための図である。
図4は、実施形態に係る焼結型陰極の変形例の構成を説明するための模式図である。
本発明は、焼結型陰極及びその製造方法に関する。
背景技術
この種の焼結型陰極として、たとえば特開平8−50849号公報に開示されたようなものが知られている。特開平8−50849号公報に開示された焼結型陰極は、Niと、還元作用を有する金属(還元性金属)と、電子放射剤とを含み、熱間等方加熱処理により焼結一体化されている。また、特開平8−50849号公報に開示された焼結型陰極では、Niと還元性金属とは、熱間等方加熱処理に先立って、合金化されている。
発明の開示
本発明は、大電流動作に適した放電特性を有し、初期始動性が改善された焼結型陰極及びその製造方法を提供することを課題としている。
本発明者らは、調査研究の結果、以下のような事実を新たに見出した。陰極として、たとえば特公昭62−56628号公報に開示されたようなガス放電管用のものが知られている。特公昭62−56628号公報に開示されたガス放電管用陰極(傍熱型陰極)は、熱良導性の円筒の外壁に2重コイルを複数ターン巻回して密に固定し、ペースト状の陰極物質材を2重コイルの1次螺旋内部及び2次螺旋間に塗布して円筒表面に一様な陰極面を形成し、円筒の内部にヒータを設けて構成されている。
易電子放射物質としての金属酸化物は、通常、陰極物質材として金属炭酸塩(たとえば、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム等)の形で塗布され、塗布された金属炭酸塩を熱活性(真空加熱分解)することにより得られる。金属炭酸塩(たとえば、炭酸バリウム)が、この金属炭酸塩を保持する保持部材(たとえば、2重コイル等の多重コイル)に塗布された状態では、保持部材の主成分である金属(たとえば、タングステン)と金属炭酸塩とは、ファンデルワールス力が主体である中性分子間引力により結合されている(W+2BaCO3)。そして、保持部材の主成分金属と結合状態にある金属炭酸塩を熱活性すると、下記のように熱分解される。
W+BaOBa +2CO2↑ +1/2O2↑
直熱型陰極では、保持部材自身が発熱体(加熱用ヒータ)となり、保持部材におけるBaOとの接触表面温度が1000℃以上の高温となるため、熱化学反応が起こり、BaWOBa組成の酸素侵入型の金属間化合物が生成される。これにより、放電の際に、電子供給源である保持部材の主成分金属から放電表面であるBa表面にまで放電経路(給電路)が形成され、熱電子放出が開始できる状態となる。
一方、傍熱型陰極では、加熱用ヒータからの熱を間接的に保持部材に伝播させるために、保持部材におけるBaOとの接触表面温度が、上述した熱化学反応を起こすまでの温度領域に達し難く、W+BaOBaの中性分子間引力による結合状態が続き、上述したような放電経路が形成されない。このため、保持部材の主成分金属からBa表面への電子供給が不充分となり、始動性が悪くなる。
しかしながら、傍熱型陰極であっても、陰極との近距離放電による補助点灯、あるいはテスラコイルにより予備電離させて強制放電を行うテスラ点灯等により、強制始動を行わせると、放電部への電荷集中により、一部が高温になるスポット加熱が起き、熱化学反応によるBaWOBa組成の酸素侵入型の金属間化合物が生成される。BaWOBa組成の酸素侵入型の金属間化合物が生成されることによって、保持部材の主成分金属から放電表面であるBa表面にまで放電経路が形成され、始動性が改善される。そして、放電開始後は、順次、BaWOBa組成の酸素侵入型の金属間化合物が、放電熱量、強制加熱量に応じて形成されていく。
このように、本発明者等は、保持部材の主成分金属と金属酸化物に含まれる金属とによる金属間化合物(導電性を有する酸素侵入型中間生成物)の生成が、初期始動性に影響を及ぼす要因であることを新たに見出した。また、本発明者等は、一度BaWOBa組成の酸素侵入型の金属間化合物が生成されて、保持部材の主成分金属から放電表面であるBa表面にまで放電経路が形成されれば、以後、Baが消失するまで熱陰極として動作することも見出した。なお、金属炭酸塩(たとえば、炭酸バリウム)を熱活性する際に、過剰酸素放出(過加熱)は、遊離Baの過剰生成を促し、Baの消耗を速めることになるため、得策ではない。
また、焼結型陰極においては、WとBaとを結合(合金化)することが好ましいが、WとBaのイオン化ポテンシャル及び融点の差が大きく、WとBaとを直接的に結合させることは困難である。Wのイオン化ポテンシャルは7.980eV(770kJ/mol)程度であり、融点は3382℃程度である。Baのイオン化ポテンシャルは5.210eV(502kJ/mol)程度であり、融点は714℃程度である。WとBaとの結合が未形成であると、陰極での電子供給回路が形成されず、WからBaへの電子供給が不十分となる。この結果、放電を継続することが難しくなってしまう。
上述した傍熱型陰極及び焼結型陰極から得られた知見等を踏まえ、本発明に係る焼結型電極の製造方法は、易電子放射物質としての金属酸化物と、高融点金属とを含み、電子を放出する電子放射部を備えた焼結型陰極の製造方法であって、高融点金属として、粒子状に形成された高融点金属を用い、粒子状に形成された高融点金属の表面の少なくとも一部をアルミニウム層で被覆する第1の工程と、第1の工程にてアルミニウム層が被覆された高融点金属と、易電子放射物質となる金属を含み加熱処理により金属酸化物に変化する化合物とを混合する第2の工程と、第2の工程にて混合された高融点金属と化合物とを圧縮成形する第3の工程と、第3の工程にて圧縮成形された高融点金属と化合物とを焼結する第4の工程と、を含むことを特徴としている。
アルミニウム(Al)は、イオン化ポテンシャル及び融点が高融点金属よりも低く、イオン化ポテンシャルは易電子放射物質となる金属(以下、単に「金属M」と称する)と同等である。このため、本発明では、上記化合物を熱分解して形成された金属M−酸素(O)化合物における金属Mと容易に置換され、耐熱性を有する金属M−Al−Oの結合を有する化合物が形成される。また、高融点金属とAlとの間は金属結合であり、Alと金属Mとの間は電子が供給されやすい結合状態であることから、高融点金属とAlと金属Mとの間には導電性がある。
以上のことから、本発明によれば、Alが高融点金属と金属Mとの間の橋かけとなり、酸素を介在した金属間化合物(Al−O−金属M)を含む酸素侵入型の金属間化合物(Al−金属Mの金属結晶の格子間位置に酸素が侵入固溶した化合物)(以降、単に「酸素侵入型の金属間化合物」と呼ぶ)が形成されることとなる。この金属間化合物には、接続された電源から供給される放電用電子が高融点金属からAlを介して金属M(易電子放射物質となる金属)に連続的に且つ多量に供給される回路が形成されていることから、大電流動作に適した放電特性を有し、初期始動性が改善された焼結型陰極を得ることができる。
また、本発明において、Alは、粒子状に形成された高融点金属の表面の少なくとも一部を層状に被覆するので、Alの露出表面積が大きくなり、酸素侵入型の金属間化合物が、高融点金属と金属Mとの間に多く形成することができる。なお、Alと高融点金属とを合金化した場合には、合金内に内包され、表面に露出しないAlが多量に存在することとなり、この内包されたAlは、上述した金属間化合物の形成に何ら寄与せず、陰極の動作中に蒸発するという問題を含むことになる。
また、上記第4の工程では、低酸素濃度雰囲気、不活性ガス雰囲気、真空雰囲気、二酸化炭素雰囲気、あるいは水素還元雰囲気の単一雰囲気もしくはこれらの雰囲気の組み合わせにて焼結することが好ましい。
本発明に係る焼結型電極の製造方法は、易電子放射物質としての金属酸化物と、高融点金属とを含み、電子を放出する電子放射部を備えた焼結型陰極の製造方法であって、高融点金属として粒子状に形成された高融点金属を用い、当該粒子状に形成された高融点金属の表面の少なくとも一部をアルミニウム層で被覆する第1の工程と、第1の工程にてアルミニウム層が被覆された高融点金属と、易電子放射物質となる金属を含み加熱処理により金属酸化物に変化する化合物とを混合する第2の工程と、第2の工程にて混合された高融点金属と化合物とを加圧、焼結する第3の工程と、を含むことを特徴としている。
上述したように、本発明によれば、Alが高融点金属と金属Mとの間の橋かけとなり、酸素侵入型の金属間化合物が形成されることとなる。この金属間化合物には、接続された電源から供給される放電用電子が高融点金属からAlを介して金属M(易電子放射物質となる金属)に連続的に且つ多量に供給される回路が形成されていることから、大電流動作に適した放電特性を有し、初期始動性が改善された焼結型陰極を得ることができる。また、本発明において、Alは、粒子状に形成された高融点金属の表面の少なくとも一部を層状に被覆するので、Alの露出表面積が大きくなり、酸素侵入型の金属間化合物が、高融点金属と金属Mとの間に多く形成することができる。
また、上記第3の工程では、低酸素濃度雰囲気、不活性ガス雰囲気、真空雰囲気、二酸化炭素雰囲気、あるいは水素還元雰囲気の単一雰囲気もしくはこれらの雰囲気の組み合わせにて加圧、焼結することが好ましい。また、上記第3の工程における加圧は、等方加圧あるいは一軸加圧であることが好ましい。
また、高融点金属として、タングステン、タンタル、モリブデン、レニウム、ニオブ、オスミウム、イリジウム、鉄、ニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム、マンガン、クロム、バナジウム、ロジウムの単体金属もしくはこれらの合金からなるものを用いることが好ましい。これにより、仕事関数が低下し、良好な熱電子放出が可能となる。また、良好な耐熱性及び熱放散性を発揮することとなる。
また、高融点金属として、特に、タングステン、タンタル、モリブデンの単体金属もしくはこれらの合金からなるものを用いることが好ましい。これにより、コスト、取扱い等の面で、実用性に優れることとなる。また、これらの高融点金属の融点は2500℃以上であり、1400℃以上の高温での焼結が行え、金属間化合物を確実且つ多量に形成することができる。
一方、本発明に係る焼結型陰極は、電子を放出する電子放射部を備えた焼結型陰極であって、電子放射部は、粒子状に形成された高融点金属と、易電子放射物質としての金属酸化物と、高融点金属と電気的に導通するように当該高融点金属の表面の少なくとも一部を層状に被覆するアルミニウムと、を含み、アルミニウムにより高融点金属と金属酸化物とが橋かけされて、酸素侵入型の金属間化合物が形成されていることを特徴としている。
上述したように、本発明によれば、Alが高融点金属と金属Mとの間の橋かけとなり、酸素侵入型の金属間化合物が形成されることとなる。この金属間化合物には、接続された電源から供給される放電用電子が高融点金属からAlを介して金属M(易電子放射物質となる金属)に連続的に且つ多量に供給される回路が形成されていることから、大電流動作に適した放電特性を有し、初期始動性が改善された焼結型陰極を得ることができる。また、本発明において、Alは、粒子状に形成された高融点金属の表面の少なくとも一部を層状に被覆するので、Alの露出表面積が大きくなり、酸素侵入型の金属間化合物が、高融点金属と金属Mとの間に多く形成することができる。
また、高融点金属は、タングステン、タンタル、モリブデン、レニウム、ニオブ、オスミウム、イリジウム、鉄、ニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム、マンガン、クロム、バナジウム、ロジウムの単体金属もしくはこれらの合金からなることが好ましい。このように構成した場合、仕事関数が低下し、良好な熱電子放出が可能となる。また、良好な耐熱性及び熱放散性を発揮する。
また、高融点金属は、特に、タングステン、タンタル、モリブデンの単体金属もしくはこれらの合金からなることが好ましい。このように構成した場合、コスト、取扱い等の面で、実用性に優れる。また、これらの高融点金属の融点は2500℃以上であり、1400℃以上の高温での焼結が行え、金属間化合物を確実且つ多量に形成することができる。
また、金属酸化物は、バリウム、ストロンチウム、カルシウムの内のいずれか単体の酸化物、又はこれらの酸化物の混合物あるいは希土類金属の酸化物を含んでいることが好ましい。このように構成した場合、仕事関数を効果的に小さくすることが可能となり、熱電子の放出が容易となる。
発明を実施するための最良の形態
以下、図面を参照しながら本発明による焼結型陰極及びその製造方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
ます、図1に基づいて、本実施形態に係る焼結型陰極C1を説明する。図1は、本実施形態に係る焼結型陰極の構成を説明するための模式図である。本実施形態の焼結型陰極C1は、たとえば、キセノン・ショートアークランプの放電管、冷陰極放電管等における陰極に用いられる。
焼結型陰極C1は、図1に示されるように、陽極(図示せず)に対向する一方の端部側に設けられた円錐状の尖頭部31と、他方の端部側に設けられた円柱状の基部33とからなる砲弾形状の陰極先端部35を有している。焼結型陰極C1は、タングステン等の高融点金属により形成されたリード棒(図示せず)の先端に基部33が固定されることにより構成される。陰極先端部35は、電子を放出する電子放射部を構成する。
陰極先端部35は、粒子状に形成された高融点金属41と、高融点金属41の表面の少なくとも一部を被覆するアルミニウム層43と、易電子放射物質としての金属酸化物45とを含んでいる。この陰極先端部35は、アルミニウム層43が被覆された高融点金属41に、易電子放射物質となる金属を含み加熱処理により金属酸化物45に変化する化合物(金属炭酸塩)を混合して、焼結することにより形成される。
高融点金属41は、導電性を有する剛体(金属導体)で、周期律表のIIIa〜VIIa、VIII、Ib族に属し、具体的にはタングステン、タンタル、モリブデン、レニウム、ニオブ、オスミウム、イリジウム、鉄、ニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム、マンガン、クロム、バナジウム、ロジウム等の高融点金属(融点1000℃以上)の単体金属もしくはこれらの合金からなる。高融点金属41を上述した材料とすることにより、陰極先端部35における仕事関数が低下し、ガス放電管用電極C3(陰極先端部35)からの良好な熱電子放出が可能となる。また、良好な耐熱性及び熱放散性を発揮する。
高融点金属41は、特に、タングステン、タンタル、モリブデンの単体金属もしくはこれらの合金からなることが好ましい。高融点金属41をタングステン、タンタル、モリブデンの単体金属もしくはこれらの合金とすることにより、コスト、取扱い等の面で、実用性に優れることになる。また、タングステン、タンタル、モリブデンの高融点金属の融点は2500℃以上であり、1400℃以上の高温での焼結が行え、後述する金属間化合物を確実且つ多量に形成することができる。
アルミニウム層43は、粒子状に形成された高融点金属41の表面にアルミニウム(Al)を、蒸着(物理蒸着(PVD)法、化学蒸着(CVD)法)、めっき等により形成され、高融点金属41と電気的に導通した状態となっている。アルミニウム層43の形成は、特に、PVD法における真空蒸着法やイオンプレーティング法が有効である。なお、アルミニウム層43は、高融点金属41の全表面に形成する必要はなく、高融点金属41の表面の少なくとも一部に形成されればよい。
金属酸化物45は、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)の内のいずれか単体の酸化物、又はこれらの酸化物の混合物、スカンジウム、イットリウムを含む希土類金属(周期律表のIIIa)単体の酸化物、又はこれらの酸化物の混合物、あるいは、主構成要件がバリウム、ストロンチウム、カルシウムの内のいずれか単体の酸化物、又はこれらの酸化物の混合物であり副構成要件がスカンジウム、イットリウムを含む希土類金属(周期律表のIIIa)である酸化物が用いられる。バリウム、ストロンチウム、カルシウム、スカンジウム、イットリウムを含む希土類金属は、仕事関数が小さく、熱電子を容易に放出することができ、熱電子供給量を増加させることができる。また、副構成要件として希土類金属(周期律表のIIIa)を添加した場合、熱電子供給量を更に増加させることができると共に、耐スパッタ性能を向上することもできる。
金属酸化物45は、電極物質材として金属炭酸塩(たとえば、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム、炭酸カルシウム等)の形で含有させ、焼結時の熱により加熱分解(熱活性)することにより得られる。このようにして、易電子放射物質としての金属酸化物45が得られる。
金属酸化物45として、バリウム、ストロンチウム、カルシウムの酸化物の単体、あるいは混合体を用いる場合、アルミニウム層43を形成するアルミニウムのモル数比率が、バリウム、ストロンチウム、カルシウムの総合計モル量に対して2分の1以下であることが好ましい。アルミニウムと、バリウム、ストロンチウム、カルシウムとの間で、鉱物状のアルミン酸塩を作るが、その組成はスピネル構造、たとえばBaAl2O4で表される。この鉱物状のアルミン酸塩が出来ると安定化してしまい、バリウム、ストロンチウム、カルシウムが易電子放射物質としての役目を果たさなくなる。このため、遊離したバリウム、ストロンチウム、カルシウムを存在させるためには、アルミニウムの化学量論的比率をバリウム、ストロンチウム、カルシウムの消費量以下に抑える必要があり、上述したようにアルミニウムのモル数比率を、バリウム、ストロンチウム、カルシウムの総合計モル量に対して2分の1以下とすることが好ましい。
また、金属酸化物45として、スカンジウム、イットリウムを含む希土類金属(周期律表のIIIa)の酸化物の単体、あるいは混合体を用いる場合、アルミニウム層43を形成するアルミニウムのモル数比率が、希土類金属(周期律表のIIIa)の総合計モル量に対して1以下であることが好ましい。アルミニウムと、希土類金属(周期律表のIIIa)との間で、鉱物状のアルミン酸塩を作るが、その組成は、一般にペロブスカイト構造、たとえばLnAlO3で表される。この鉱物状のアルミン酸塩が出来ると安定化してしまい、希土類金属(周期律表のIIIa)が易電子放射物質としての役目を果たさなくなる。このため、遊離した希土類金属(周期律表のIIIa)を存在させるためには、アルミニウムの化学量論的比率を希土類金属(周期律表のIIIa)の消費量以下に抑える必要があり、上述したようにアルミニウムのモル数比率を、希土類金属(周期律表のIIIa)の総合計モル量に対して1以下とすることが好ましい。
また、金属酸化物45として、バリウム、ストロンチウム、カルシウムの酸化物の単体、あるいは混合体に、スカンジウム、イットリウムを含む希土類金属(周期律表のIIIa)の酸化物の単体、あるいは混合体を添加して用いる場合、アルミニウム層43を形成するアルミニウムのモル数比率が、バリウム、ストロンチウム、カルシウムの総合計モル量に対して2分の1以下であることが好ましい。バリウム、ストロンチウム、カルシウムは希土類金属(周期律表のIIIa)よりも反応性が高いため、鉱物状のアルミン酸塩の生成反応が、バリウム、ストロンチウム、カルシウムとアルミニウムとの反応に律速されることになる。このため、上述したようにアルミニウムのモル数比率を、バリウム、ストロンチウム、カルシウムの総合計モル量に対して2分の1以下とすることが好ましい。
また、焼結された陰極先端部35における高融点金属41のアルミニウム容積を除いた容積率は、45%〜90%であることが好ましい。高融点金属41(たとえば、タングステン)量が減少するにつれて、易電子放射物質としての金属酸化物45が増加する。この易電子放射物質としての金属酸化物45は、粒界性が高いため、焼結体(陰極先端部35)の強度が劣化する。また、高融点金属41量が減少するにつれ焼結体(陰極先端部35)の耐熱性が低下し、陰極動作中における金属酸化物45に含まれる金属の蒸発散乱を助長する。更に、金属酸化物45量とアルミニウム量とが増えたとしても、電子放射を行う陰極としての性能向上にはならない。これらのことから、焼結された陰極先端部35における高融点金属41のアルミニウム容積を除いた容積率は、45%〜90%であることが好ましい。
上記容積率は、後述する加圧(圧縮)処理を行う前の状態におけるものであり、その計算式は、容積率=高融点金属容積÷(高融点金属容積+易電子放射物質としての金属酸化物容積)で表される。ここで、高融点金属容積は、混合された高融点金属の容積である。また、易電子放射物質としての金属酸化物容積は、炭酸塩の質量から熱分解により生じる二酸化炭素分の質量を引いたものを易電子放射物質としての金属酸化物の密度で除した値である。
次に、図2を参照して、上述した構成の焼結型陰極C1の製造方法について説明する。
まず、粒子状に形成された高融点金属41(たとえば、タングステン粒子)の表面の少なくとも一部をアルミニウム層43で被覆する(S101:アルミニウム被覆工程)。アルミニウム層43は、たとえば、タングステン粒子を真空容器内に入れ、アルミニウムを加熱することにより、タングステン粒子の表面にアルミニウム薄膜を蒸着させることにより形成することができる。
高融点金属41の平均粒径は、1〜100μmが好ましい。平均粒径が1μm未満であると、各粒子が二次粒子を形成して、粗粒化する傾向が強くなってしまう。また、平均粒径が100μmより大きくなると、局所的に電子が放射されない領域の大きさが無視できなくなる。
アルミニウム層43の厚みは、単層(アルミニウム原子1個分の厚み)〜3nmであることが好ましい。アルミニウム層43の厚みが大きすぎると、余剰となった遊離アルミニウムを溶融除去するための蒸発時間が長くなり、実用的でない。
なお、高融点金属41の表面は、電気的な導通を有する程度に、酸化(酸化被膜を形成)していてもよい。同様に、アルミニウム層43の表面も、電気的な導通を有する程度に、酸化(酸化被膜を形成)していてもよい。
次に、アルミニウム被覆工程にてアルミニウム層43が被覆された高融点金属41と、易電子放射物質となる金属(たとえば、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)及びカルシウム(Ca))を含み加熱処理により金属酸化物45に変化する化合物(たとえば、Ba、Sr及びCaを含有する三元炭酸塩)を混錬する(S103:混合工程)。
次に、混合工程にて混合された高融点金属41と上記化合物とを圧縮成形する(S105:圧縮成形工程)。圧縮成形には、機械プレスや静水圧プレス等の圧縮成形機を用いることができる。本実施形態においては、高融点金属41と上記化合物との混合物を圧縮成形機の金属金型に充填し、所定の圧力にて砲弾形状に圧縮成形する。圧縮成形圧力は、500〜8000kg/cm2が好ましい。圧縮成形圧力が500kg/cm2未満となると、成形物が型崩れを起こす惧れがある。また、8000kg/cm2より大きくなると、焼結体が割れてしまう惧れがある。なお、混合物が緻密体となると、電子供給に差障りが生じてしまう惧れがあることを考慮すると、圧縮成形圧力は500〜4000kg/cm2であることがより好ましい。なお、圧縮成形手段として、上記プレス成形の他に、メタル・インジェクション・モールディング(MIM)等の金属射出成形でもよい。
次に、圧縮成形工程にて圧縮成形された混合物を焼結する(S107:焼結工程)。焼結工程では、たとえば、圧縮成形された混合物を真空炉内に置き、焼結初期の加熱時には炉内を低酸素濃度雰囲気とし、その後、炉内を真空雰囲気あるいは不活性ガス(たとえば、アルゴンガス)雰囲気として800℃程度まで徐々に昇温し、その後、炉内を真空雰囲気として最高温度1450℃にて焼結を行う。
焼結温度は、1000℃以上であることが好ましい。上述した金属炭酸塩の完全分解、陰極の動作温度が1000℃以上である。また、アルミニウムの融点が660℃であり、アルミン酸塩の融点が1000℃以上である。これらのことから、アルミン酸塩を形成せずに存在する遊離アルミニウムを溶融除去するためにも、1000℃以上での焼結が必要となり、上述したように、焼結温度は1000℃以上、好ましくは1400℃以上であることが好ましい。焼結最高温度は、高融点金属41の融点、金属酸化物45の蒸発温度等による。高融点金属41がタングステンであり、金属酸化物45がバリウムの酸化物である場合、焼結最高温度は1800℃程度が上限となる。高融点金属41がニッケルである場合、ニッケルの融点の関係から、焼結最高温度は1400℃程度が上限となり、1200℃以下が好ましい。
なお、焼結の際、炭酸塩の熱分解段階である、700〜900℃の範囲に昇温するまでは徐々に温度を高めることが好ましい。これは、急激に昇温した場合、熱分解時に生じる二酸化炭素量が急増して焼結体内のガス容積が急膨張し、焼結体の割れの原因になるためである。また、800℃以上の高温焼結の雰囲気として、炉内を二酸化炭素雰囲気とする、あるいは還元炉に移して還元雰囲気とするようにしてもよい。
焼結中の処理雰囲気としては、低酸素濃度雰囲気、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気、真空雰囲気、二酸化炭素雰囲気、あるいは還元雰囲気であることが好ましい。低酸素濃度雰囲気とすれば、アルミニウム層43の表面が電気的な導通を有する程度に表面酸化させる効果がある。不活性ガス雰囲気とすれば、炭酸塩熱分解中のアルミニウムの融点低下抑制による流動化防止効果がある。真空雰囲気とすれば、高温時に、役割を終えた余分なアルミニウム等低融点物を蒸発除去する効果がある。二酸化炭素雰囲気とすれば、比較的低温で金属間化合物形成を促す効果がある。還元雰囲気とすれば、酸化物の還元化により、余分な酸素除去、あるいは易電子放射物質となる金属を遊離する効果がある。焼結は、これらの特徴を考慮し、単一雰囲気、あるいは複数雰囲気を組み合わせて行うことができる。これら雰囲気は共に、炭酸塩の熱分解による易電子放射物質としての金属酸化物形成の環境を提供すると共に、加熱処理時の過度の金属酸化を防止する効果がある。
このように、1000℃以上での焼結温度(たとえば、1400℃程度)にて焼結すると、金属炭酸塩(たとえば、炭酸バリウム)が真空加熱分解(熱活性)される。また、この高温焼成により、高融点金属41(たとえば、タングステン(W))と酸化バリウム(BaO)とが粒界状態となった焼結体にて、アルミニウム(Al)がタングステンとバリウム等との橋渡し役となって酸素侵入型の金属間化合物(WAlOBa)が形成されることになる。金属間化合物中では、共有結合とイオン結合とが混在した状態となり、上述したように、遊離バリウム(Ba)が存在することになる。
アルミニウム(Al)は、イオン化ポテンシャル及び融点がタングステンよりも低く、イオン化ポテンシャルはバリウムと同等である。アルミニウムのイオン化ポテンシャルは5.984eV(577kJ/mol)であり、融点は660℃である。このため、炭酸バリウムを熱分解して形成されたBa−酸素(O)化合物におけるバリウムがアルミニウムに容易に置換され、耐熱性を有するBa−Al−Oの結合を有する化合物が形成される。また、タングステンとアルミニウムとの間は金属結合であり、アルミニウムとバリウムとの間は電子が供給されやすい結合状態であることから、タングステンとアルミニウムとバリウムとの間には導電性がある。
以上のことから、本実施形態によれば、アルミニウムが橋かけとなり、アルミニウム層43と高融点金属41と金属酸化物45との間において、WAlOBa組成の酸素侵入型の金属間化合物を容易に生成することができる。この金属間化合物には、接続された電源から供給される放電用電子が高融点金属41からAlを介して易電子放射物質となる金属(バリウム等)に連続的に且つ多量に供給される回路が形成されていることから、焼結型陰極C1は、焼結された状態で、熱電子放出が開始可能な状態となっており、初期始動性が改善されることとなる。
また、本実施形態においては、焼結型陰極C1(陰極先端部35)の耐熱温度が高く、また、上述したように焼結型陰極C1(陰極先端部35)には放電経路が多数存在することになり、大放電電流に対応可能な陰極を実現できる。
また、本実施形態において、アルミニウムは、粒子状に形成された高融点金属41の表面の少なくとも一部を層状に被覆するので、アルミニウムの露出表面積が大きくなり、酸素侵入型の金属間化合物が、高融点金属41と易電子放射物質となる金属(バリウム等)との間に多く形成することができる。
ここで、本実施形態により製作した焼結型陰極C1とバリウム含浸型陰極との比較試験を行った。試験は、それぞれの陰極をキセノンランプに装着し、放電特性を測定した。なお、炭酸塩として、モル比がバリウム:ストロンチウム:カルシウム=46:44:10であり、分子量(式量)166の三元炭酸塩を0.3g用いた。この場合、金属酸化物としては、分子量(式量)122、密度5.36g/cm3となる。また、高融点金属として、平均粒径56μm、密度19.3g/cm3のタングステンを3.3g用いた。上述した容積率は、81%=(3.3/19.3)/((3.3/19.3)+0.3×(122/166)/5.36)となる。
焼結型陰極C1をキセノンランプに装着した場合、放電開始電圧は8.5kVとなり、ランプ管電圧は17.5Vとなる。バリウム含浸型陰極を装着した場合、放電開始電圧は8.5kVとなり、ランプ管電圧は17.5Vとなる。このように、焼結型陰極C1は、大電流動作に適したバリウム含浸型陰極と同等の性能を有することが確認できた。また、焼結型陰極C1を装着したキセノンランプにおいて、ランプ管壁の汚れも確認されなかった。
次に、図3を参照して、上述した焼結型陰極C1の製造方法の変形例について説明する。
まず、粒子状に形成された高融点金属41(たとえば、タングステン粒子)の表面の少なくとも一部をアルミニウム層43で被覆する(S201:アルミニウム被覆工程)。高融点金属41の平均粒径は、1〜100μmが好ましい。また、アルミニウム層43の厚みは、単層(アルミニウム原子1個分の厚み)〜3nmであることが好ましい。
次に、アルミニウム被覆工程にてアルミニウム層43が被覆された高融点金属41と、易電子放射物質となる金属(たとえば、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)及びカルシウム(Ca))を含み加熱処理により金属酸化物45に変化する化合物(たとえば、Ba、Sr及びCaを含有する三元炭酸塩)を混錬する(S203:混合工程)。
次に、混合工程にて混合された高融点金属41と上記化合物とを成形する(S205:成形工程)。本実施形態においては、高融点金属41と上記化合物との混合物をゴム製の円筒形型に密封し、500kg/cm2未満の圧力で円柱状に成形する。
次に、成形工程で成形された混合物を加圧、焼結する(S207:加圧・焼結工程)。本実施形態においては、ゴム製円筒形型に密封された状態の成形済み品を熱間等方加圧用の円筒形カプセルに真空封入した後に、所定の温度・圧力プログラムに従って熱間等方加圧処理し、焼結体を得ている。ここで、成形済み品を上記カプセルに真空封入するのは、高融点金属41の酸化防止のためである。なお、熱間等方加圧処理に代えて、一軸加圧であるホットプレス処理としてもよい。
高融点金属41としてタングステンを用いた場合、焼結温度の下限が900℃以上であり、焼結温度は1000℃以上であることが好ましい。また、最高焼結温度が1000℃未満では十分な焼結ができず焼結体の強度が低くなり、脆くなる。このため最高焼結温度は1000℃以上であることが好ましい。また、熱間等方加圧処理で、1400℃より高い温度では、焼結体の強度は高くなるが、結晶化を引き起こし、電子放出能が低下する場合がある。これらのことから、熱間等方加圧処理最高温度は、1000℃以上1400℃以下にすることが好ましく、最適には1300°Cである。なお、上述したように、700〜900℃の範囲に昇温するまでは徐々に温度を高めることが好ましい。
また、圧力は、500〜8000kg/cm2が好ましい。圧縮成形圧力が500kg/cm2未満となると、成形物が型崩れを起こす惧れがある。また、8000kg/cm2より大きくなると、焼結体が割れてしまう惧れがある。なお、混合物が緻密体となると、電子供給に差障りが生じてしまう惧れがあることを考慮すると、圧縮成形圧力は500〜4000kg/cm2であることがより好ましい。
加圧するタイミングについては、700〜900℃では加圧を行わない、もしくは、低圧力とする。そして、炭酸塩の熱分解後の二酸化炭素放出により空孔部が生じた後、900〜1400℃で加圧を開始して、圧縮及び加熱溶融する。これにより、空孔部がなくなって、構成原子の接触面積が増え、金属間化合物の形成が容易となり、放電経路(給電路)形成量が増加することとなる。
処理雰囲気としては、低酸素濃度雰囲気、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気、真空雰囲気、二酸化炭素雰囲気、あるいは還元雰囲気の単一雰囲気、あるいは複数雰囲気を組み合わせとすることが好ましい。
以上のことから、最終熱間等方加圧処理条件は、温度が1300℃であり、圧力が500kg/cm2以上の低酸素濃度雰囲気、あるいは不活性ガス(たとえば、アルゴンガス)雰囲気であることが好ましい。
また、アルミニウムの融点が660℃であり、アルミン酸塩の融点が1000℃以上であることから、アルミン酸塩を形成せずに存在する遊離アルミニウムを溶融除去するためにも、熱間等方加圧処理終了後、熱間等方加圧用円筒形カプセルから取り出された焼結体を、1400℃以上で再焼結することが好ましい。この場合、処理雰囲気は、真空雰囲気、あるいは二酸化炭素雰囲気、あるいは還元炉に移した還元雰囲気の何れか、あるいは組み合わせとすることが好ましい。
次に、加圧・焼結工程により得られた焼結体を所定の形状(砲弾形状)に仕上げる(S209:仕上げ工程)。
上述した変形例においても、アルミニウムが橋かけとなり、アルミニウム層43と高融点金属41と金属酸化物45との間において、WAlOBa組成の酸素侵入型の金属間化合物を容易に生成することができる。この金属間化合物には、接続された電源から供給される放電用電子が高融点金属41からAlを介して易電子放射物質となる金属(バリウム等)に連続的に且つ多量に供給される回路が形成されていることから、焼結型陰極C1は、焼結された状態で、熱電子放出が開始可能な状態となっており、初期始動性が改善されることとなる。
また、本実施形態においては、焼結型陰極C1(陰極先端部35)の耐熱温度が高く、また、上述したように焼結型陰極C1(陰極先端部35)には放電経路が多数存在することになり、大放電電流に対応可能な陰極を実現できる。
なお、高融点金属41の量が減少するにつれ焼結体の耐熱性が低下するものの、熱間等方加圧及びホットプレス等の加圧処理を行う場合、焼結体は緻密化されるため、容積率の下限が低下しても耐熱性低下は緩和されることとなる。このため、高融点金属41のアルミニウム容積を除いた容積率は、40%〜90%であることが好ましい。
次に、図4に基づいて、本実施形態に係る焼結型陰極の変形例を説明する。図4は、本実施形態に係る焼結型陰極の変形例の構成を説明するための模式図である。焼結型陰極C2は、上記焼結型陰極C1と同じく、キセノン・ショートアークランプの放電管、冷陰極放電管等における陰極に用いられる。
焼結型陰極C2は、図4に示されるように、陽極(図示せず)に対向する一方の端部側に設けられた円錐状の尖頭部51と、他方の端部側に設けられた円柱状の基部53とからなる砲弾形状の陰極先端部55を有している。この陰極先端部55は、タングステン等の高融点金属により形成される。尖頭部51の先端部分には穴部57が穿設されており、この穴部57に電子放射部59が埋設されている。
電子放射部59は、粒子状に形成された高融点金属41と、高融点金属41の表面の少なくとも一部を被覆するアルミニウム層43と、易電子放射物質としての金属酸化物45とを含んでいる。この電子放射部59は、アルミニウム層43が被覆された高融点金属41と、易電子放射物質となる金属を含み加熱処理により金属酸化物45に変化する化合物とを混錬したものを、穴部57に充填加圧成形して、焼結することにより形成される。
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。たとえば、高融点金属41は、ニッケル、鉄、コバルトの単体金属もしくはこれらの合金であってもよい。この場合、コスト、取扱い等の面で、実用性に優れることとなる。ニッケル、鉄、コバルトの融点は1500℃前後であることから、最高焼結温度の上限は1400℃未満とする必要があり、1200℃以下が好ましい。
また、高融点金属41を、ニッケル、鉄、コバルトの単体金属もしくはこれらの合金とした場合、焼結型陰極は、比較的低温度で動作するCRT用陰極、電子管用陰極、電子銃用陰極等に適したものとなる。また、特開平8−50849号公報にも記載された傍熱型陰極として使用してもよい。
また、焼結型陰極C1の放電開始後は、放電熱量等に応じて上述した金属間化合物が形成されていくので、粒子状に形成された高融点金属41の全表面をアルミニウム層43で被覆する必要はない。
また、焼結型陰極表面に、オスミウム、イリジウムあるいはレニウムを蒸着等により成膜することで、双極子効果を増大させて、動作温度を低くできる効果がある。
産業上の利用可能性
本発明の焼結型陰極及びその製造方法は、蛍光ランプ用陰極、キセノンランプ用陰極、CRT用陰極、電子管用陰極、電子銃用陰極等に利用できる。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施形態に係る焼結型陰極の構成を説明するための模式図である。
図2は、実施形態に係る焼結型陰極の製造工程の一例を説明するための図である。
図3は、実施形態に係る焼結型陰極の製造工程の一例を説明するための図である。
図4は、実施形態に係る焼結型陰極の変形例の構成を説明するための模式図である。
Claims (11)
- 易電子放射物質としての金属酸化物と、高融点金属とを含み、電子を放出する電子放射部を備えた焼結型陰極の製造方法であって、
前記高融点金属として、粒子状に形成された高融点金属を用い、
前記粒子状に形成された高融点金属の表面の少なくとも一部をアルミニウム層で被覆する第1の工程と、
前記第1の工程にて前記アルミニウム層が被覆された前記高融点金属と、前記易電子放射物質となる金属を含み加熱処理により前記金属酸化物に変化する化合物とを混合する第2の工程と、
前記第2の工程にて混合された前記高融点金属と前記化合物とを圧縮成形する第3の工程と、
前記第3の工程にて圧縮成形された前記高融点金属と前記化合物とを焼結する第4の工程と、を含むことを特徴とする焼結型陰極の製造方法。 - 前記第4の工程では、低酸素濃度雰囲気、不活性ガス雰囲気、真空雰囲気、二酸化炭素雰囲気、水素還元雰囲気の単一雰囲気もしくはこれらの雰囲気の組み合わせにて焼結することを特徴とする請求の範囲第1項に記載の焼結型陰極の製造方法。
- 易電子放射物質としての金属酸化物と、高融点金属とを含み、電子を放出する電子放射部を備えた焼結型陰極の製造方法であって、
前記高融点金属として粒子状に形成された高融点金属を用い、当該粒子状に形成された高融点金属の表面の少なくとも一部をアルミニウム層で被覆する第1の工程と、
前記第1の工程にて前記アルミニウム層が被覆された前記高融点金属と、前記易電子放射物質となる金属を含み加熱処理により前記金属酸化物に変化する化合物とを混合する第2の工程と、
前記第2の工程にて混合された前記高融点金属と前記化合物とを加圧、焼結する第3の工程と、を含むことを特徴とする焼結型陰極の製造方法。 - 前記第3の工程では、低酸素濃度雰囲気、不活性ガス雰囲気、真空雰囲気、二酸化炭素雰囲気、あるいは水素還元雰囲気の単一雰囲気もしくはこれらの雰囲気の組み合わせにて加圧、焼結することを特徴とする請求の範囲第3項に記載の焼結型陰極の製造方法。
- 前記第3の工程における加圧は、等方加圧あるいは一軸加圧であることを特徴とする請求の範囲第3項に記載の焼結型陰極の製造方法。
- 前記高融点金属として、タングステン、タンタル、モリブデン、レニウム、ニオブ、オスミウム、イリジウム、鉄、ニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム、マンガン、クロム、バナジウム、ロジウムの単体金属もしくはこれらの合金からなるものを用いることを特徴とする請求の範囲第1項又は第3項に記載の焼結型陰極の製造方法。
- 前記高融点金属として、特に、タングステン、タンタル、モリブデンの単体金属もしくはこれらの合金からなるものを用いることを特徴とする請求の範囲第6項に記載の焼結型陰極の製造方法。
- 電子を放出する電子放射部を備えた焼結型陰極であって、
前記電子放射部は、
粒子状に形成された高融点金属と、
易電子放射物質としての金属酸化物と、
前記高融点金属と電気的に導通するように当該高融点金属の表面の少なくとも一部を層状に被覆するアルミニウムと、を含み、
前記アルミニウムにより前記高融点金属と前記金属酸化物とが橋かけされて、酸素侵入型の金属間化合物が形成されていることを特徴とする焼結型陰極。 - 前記高融点金属は、タングステン、タンタル、モリブデン、レニウム、ニオブ、オスミウム、イリジウム、鉄、ニッケル、コバルト、チタン、ジルコニウム、マンガン、クロム、バナジウム、ロジウムの単体金属もしくはこれらの合金からなることを特徴とする請求の範囲第8項に記載の焼結型陰極。
- 前記高融点金属は、特に、タングステン、タンタル、モリブデンの単体金属もしくはこれらの合金からなることを特徴とする請求の範囲第9項に記載の焼結型陰極。
- 前記金属酸化物は、バリウム、ストロンチウム、カルシウムの内のいずれか単体の酸化物、又はこれらの酸化物の混合物あるいは希土類金属の酸化物を含んでいることを特徴とする請求の範囲第8項に記載の焼結型陰極。
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JP2001238201 | 2001-08-06 | ||
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