JPWO2002048400A1 - Ugt1a1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスクを予測する方法 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は、薬物の代謝に関与する酵素をコードする遺伝子の多型を解析することにより、薬物の副作用発現リスクを予測する方法に関する。また、副作用発現リスクを予測するために用いられるキットに関する。さらに、副作用発現リスクの予測結果に基づき薬物の副作用発現リスクを低減する方法に関する。
詳しくは、UDP−グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)をコードする遺伝子の多型を分析することにより、UGTによってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスクを予測する方法及び副作用発現リスク予測用キット、並びに副作用発現リスクを低減する方法に関する。
背景技術
ヒトには2種類のUDP−グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)酵素、即ちUGT1とUGT2が存在する。UGT1ファミリーは、スプライシングにより共通のエクソン2に連結される各プロモータ及びエクソン1を伴う遺伝子群から構成される(Ritter,J.K.,Chen,F.,Sheen,Y.Y.,Tran,H.M.,Kimura,S.,Yeatman,M.T.,and Owens,I.S.,J.Biol.Chem.,267:3257−3261,1992)。従って、その基質特異性はエクソン1に依存している。
UGT1ファミリーの一つであるUGT1A1遺伝子は、プロモータ及びエクソン2〜5に近接するエクソン1から構成される。UGT1A1酵素は、主としてビリルビンの抱合を担い、薬剤(エチニルエストラヂオール等)、生体異物化合物(フェノール、アントラキノン、フラボン等)、内因性ステロイドをグルクロニド化することができる(Senafi,S.B.,Clarke,D.J.,Burchell,B.,Biochem.J.,303:233−240,1994)。現在のところ、プロモータ領域とエクソンにおける30以上の遺伝子多型がUGT1A1酵素活性を低下させて体質性非抱合黄疸、クリグラー−ナジャー症候群、ギルバート症候群を引き起こすことが知られている(Mackenzie,P.I.,et al.,Pharmacogenetics,7:255−269,1997)。最近のin vitro分析により、UGT1A1のアイソフォームがSN−38のグルクロニド化を担うこと、及び遺伝子多型がビリルビンの場合と同様にSN−38のグルクロニド化活性の減少に関与することが示唆された(Iyer,L.,et al.,J.Clin.Invest.,101:847−854,1998,Iyer,L.,et al.,Clin.Pharmacol.Ther.,65:576−582,1999)。また、本発明者らは、UGT1A1遺伝子型に依存したSN−38及びSN−38グルクロニドの薬物動態学的個人差を指摘した(Ando,Y.,Saka,H.,Asai,G.,Sugiura,S.,Shimokata,K.,and Kamataki,T.,Ann.Oncol.,9:845−847,1998)。
UGT1A1酵素によりその中間代謝物が代謝(抱合)される化合物の一つにイリノテカン(CPT−11)がある。イリノテカンは、カルボキシルエステラーゼにより代謝されて活性型SN−38となる。SN−38は、さらにUGT1A1に抱合、解毒化されてそのβ−グルクロニドとなる。その後、胆汁を介して小腸で排泄され、細菌由来グルクロニダーゼによりSN−38とグルクロン酸に分解される(Takasuna,K.,Hagiwara,T.,Hirohashi,M.,Kato,M.,Nomura,M.,Nagai,E.,Yokoi,T.,and Kamataki,T.,Cancer Res.,56:3752−3757,1996)。SN−38については、その薬物動態学的個人差により、薬物の効果の変動が引き起こされる可能性が示唆されている(Gupta,E.,Lestingi,T.M.,Mick,R.,Ramirez,J.,Vokes,E.E.,and Ratain,M.J.,Cancer Res.,54:3723−3725,1994,Kudoh,S.,Fukuoka,M.,Masuda,N.,Yoshikawa,A.,Kusunoki,Y.,Matsui,K.,Negoro,S.,Takifuji,N.,Nakagawa,K.,Hirashima,T.,Yana,T.,and Takada,M.,Jap.J.Cancer Res.,86:406−413,1995)。
イリノテカンは、カンプトテシン類似化合物の一つであって、トポイソメラーゼIを抑制することによる強い抗腫瘍活性を有することで知られている。イリノテカンは、特に結腸癌や肺癌の治療薬として広範に使用されているが、白血球の減少、下痢といった副作用が報告されており、その投与薬剤の用量規定因子(dose limiting toxicity)が問題とされる(Negoro,S.et al.,J.Natl.Cancer Inst.,83:1164−1168,1991,Akabayashi,A.,Lancet,350:124,1997,Pharmaceuticals and Cosmetics Division,Pharmaceutical Affairs Bureau,Ministry of Health and Welfare(ed),Summary Basis of Approval(SBA)No.1(revised edition):irinotecan hydrochloride.Tokyo:Yakuji Nippo,Ltd.,1996)。イリノテカンの副作用は、時として致死的なものであり(Rougier,P.et al.,Lancet,352:1407−1412,1998,Kudoh,S.et al.,J.Clin.Oncol.,16:1068−1674,1998,Masuda,N.et al.,Proc.Am.Soc.Clin.Oncol.,18:459a,1999,Negoro,S.et al.,J.Natl.Cancer Inst.,83:1164−1168,1991)、実際、臨床試験中に、1245名中55名の患者がイリノテカンの副作用により亡くなっているとの報告がある(Akabayashi,A.,Lancet,350:124,1997,Pharmaceuticals and Cosmetics Division,Pharmaceutical Affairs Bureau,Ministry of Health and Welfare(ed),Summary Basis of Approval(SBA)No.1(revised edition):irinotecan hydrochloride.Tokyo:Yakuji Nippo,Ltd.,1996)。
尚、Ratainらは、UGTの活性を上昇させる化合物を用いることにより、イリノテカンの副作用を低減させる方法を提案している(米国特許第5786344号)。
発明の開示
以上のように、UGT1A1酵素が代謝に関与する薬剤の副作用は深刻な問題である。しかしながら、かかる副作用を予測する有効な手段は知られていない。一方、癌の化学療法においては、多くの場合治療指標が限られるので、薬剤の副作用を低減し、かつその効果を高めるために、各個人に応じた薬剤投与量を設定することが非常に重要となる。
このような状況に鑑み、本発明は、イリノテカンに代表される、それ自体又は中間代謝物がUGT1A1酵素に代謝される化合物の投与による副作用を低減させる画期的な手段を提供することを目的とする。即ち、UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスクを予測する方法、当該方法を利用したキット、及び当該化合物の副作用発現リスクを低減させる方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、以上の課題を解決すべく、UGT1A1酵素をコードする遺伝子の多型に注目して研究を行った。具体的には、癌の化学治療においてイリノテカンの投与を受けた患者を対象に、UGT1A1遺伝子の多型とイリノテカンの副作用との相関について調べた。特に、UGT1A1遺伝子のプロモータ領域、エクソン1、エクソン4、及びエクソン5における多型について検討を行った。その結果、プロモータ領域におけるTA反復配列の反復数の違いによる多型、及びエクソン1内の一塩基置換による二種類の多型(211位の塩基、及び686位の塩基)とイリノテカンの副作用との間に相関が認められた。かかる知見より、UGT1A1遺伝子におけるこれらの多型と、UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用の程度との間に相関があることが示唆された。従って、UGT1A1遺伝子のこれらの多型を解析することが、イリノテカンに代表される、UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスクの予測をするために有効な手段であると考えられた。特に、プロモータ領域における多型、及びエクソン1の686位の塩基置換による多型については、それぞれ単独でイリノテカンの副作用との間に相関が認められ、従って、当該二つの多型の解析は、それぞれ単独でもUGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスクの予測をするために有効な手段であると考えられた。本発明は、以上の知見及び検討の結果に基づきなされたものであり、次の構成からなる。
1.UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスクを予測する方法であって、少なくとも(a):UGT1A1酵素をコードする遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列数を解析するステップを含む方法。
2.TA反復配列数を解析するステップが、TA反復配列数が5ないし8のいずれかであることを解析するステップである、1.に記載の方法。
3.TA反復配列数を解析するステップが、TA反復配列数が6または7であることを解析するステップである、1.に記載の方法。
4.UGT1A1酵素をコードする遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列領域を含むDNAを増幅するステップをさらに含む、1.ないし3.のいずれかに記載の方法。
5.UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスクを予測する方法であって、(b):UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を解析するステップ、及び/又は、(c):UGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を解析するステップをさらに含む、1.ないし4.のいずれかに記載の方法。
6.686位の塩基を解析するステップが、686位の塩基がシトシンであるかまたはアデニンであるかを解析するステップである、5.に記載の方法。
7.211位の塩基を解析するステップが、211位の塩基がグアニンであるかまたはアデニンであるかを解析するステップである、5.に記載の方法。
8.UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を含むDNA、及び/又はUGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を含むDNA、を増幅するステップをさらに含む、5.ないし7.のいずれかに記載の方法。
9.UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスクを予測する方法であって、少なくとも(b):UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を解析するステップを含む方法。
10.686位の塩基を解析するステップが、686位の塩基がシトシンであるかまたはアデニンであるかを解析するステップである、9.に記載の方法。
11.UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を含むDNAを増幅するステップをさらに含む、9.又は10.に記載の方法。
12.前記化合物は、カンプトテシン類似化合物である、ことを特徴とする1.ないし11.のいずれかに記載の方法。
13.前記カンプトテシン類似化合物はカンプトテシン誘導体である、ことを特徴とする12.に記載の方法。
14.前記カンプトテシン誘導体は、トポテカン又はイリノテカンである、ことを特徴とする13.に記載の方法。
15.前記カンプトテシン誘導体は、イリノテカンである、ことを特徴とする13.に記載の方法。
16.1.ないし15.のいずれかに記載の副作用発現リスクを予測する方法の結果に基づき前記化合物の投与量を設定するステップを含む、ことを特徴とする前記化合物の投与量設定方法。
17.UGT1A1酵素をコードする遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列数を解析するための核酸であって、
UGT1A1酵素をコードする遺伝子のTA反復領域の塩基を含み、かつ配列番号7及び配列番号8のプライマーを用いたPCR法によって増幅され得る領域に由来するDNA断片に対して特異的にハイブリダイズする核酸。
18.UGT1A1酵素をコードする遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列数を解析するための核酸であって、
UGT1A1酵素をコードする遺伝子のTA反復領域の塩基を含み、かつ配列番号9及び配列番号10のプライマーを用いたPCR法によって増幅され得る領域に由来するDNA断片に対して特異的にハイブリダイズする核酸。
19.UGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を解析するための核酸であって、
UGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を含み、かつ配列番号1及び配列番号2のプライマーを用いたPCR法によって増幅され得る領域に由来するDNA断片に対して特異的にハイブリダイズする核酸。
20.UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を解析するための核酸であって、
UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を含み、かつ配列番号3及び配列番号4のプライマーを用いたPCR法によって増幅され得る領域に由来するDNA断片に対して特異的にハイブリダイズする核酸。
21.UGT1A1酵素をコードする遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列数を解析するための核酸を含む、UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスク予測用キット。
22.UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を解析するための核酸、及び/又は、UGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を解析するための核酸をさらに含む、21.に記載のキット。
23.UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を解析するための核酸を含む、UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスク予測用キット。
24.前記化合物は、カンプトテシン類似化合物である、ことを特徴とする21.ないし23.のいずれかに記載のキット。
25.前記カンプトテシン類似化合物はカンプトテシン誘導体である、ことを特徴とする24.に記載のキット。
26.前記カンプトテシン誘導体は、トポテカン又はイリノテカンである、ことを特徴とする25.に記載のキット。
27.前記カンプトテシン誘導体は、イリノテカンである、ことを特徴とする25.に記載のキット。
28.イリノテカンの副作用発現リスク予測用キットであって、少なくとも(a):UGT1A1酵素をコードする遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列数を解析するための核酸、(b):UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を解析するための核酸、のいずれか1以上を含む、キット。
29.イリノテカンの副作用発現リスク予測用キットであって、UGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を解析するための核酸、をさらに含む、28.に記載のキット。
30.イリノテカンの副作用発現リスク予測用キットであって、少なくとも(a):UGT1A1酵素をコードする遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列数を解析するための核酸、(b):UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を解析するための核酸、のいずれか1以上を含み、さらに解析対象となるUGT1A1酵素をコードする遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列領域を含むDNA、あるいはUGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を含むDNAを増幅するための試薬を含む、キット。
31.イリノテカンの副作用発現リスク予測用キットであって、UGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を解析するための核酸及びUGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を含むDNAを増幅するための試薬をさらに含む、30.に記載のキット。
発明を実施するための最良の形態
本発明は、(a):UGT1A1酵素をコードする遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列数を解析するステップを含む、UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスクを予測する方法に関する。
UGT1A1酵素とは、UDP(ウリジンニリン酸)−グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)の一分子種である。UGTは生体においてビリルビンやステロイド等の内因性物質、特定の構造を有する薬剤等のグルクロン酸抱合(グルクロニド抱合)を触媒する酵素の総称であり、多くの薬剤の解毒化に関与する。UGT1A1は、例えば、上述のようにイリノテカンの代謝に深く関与することで知られている。
UGT1A1酵素をコードする遺伝子(以下、「UGT1A1遺伝子」という、GenBank Accession No.:AF297093)は、プロモータ領域、エクソン1、エクソン1に続いて配置されるエクソン2〜エクソン5を有する。プロモータ領域、エクソン1〜エクソン5には複数の多型が存在することが知られている。
プロモータ領域における多型は、2塩基ペアー(TA)の反復配列(TA反復配列)数の違いによるものであり、(TA)5、(TA)6(TA)7、及び(TA)8(TA反復配列がそれぞれ5、6、7、及び8存在する)と称される多型が存在する(Monaghan,G.et al.,Lancet,347:578−581,1996,Bosma,P.J.et al.,N.Engl.J.Med.,333:1171−1175,1995、Lampe JW et al.,Pharmacogenetics,9,341−349,1999)。
本発明における、「TA反復配列数を解析する」とは、被検遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列の数を分析すること(当該配列数が5ないし8のいずれかであること、当該配列数が6又は7であること、を解析すること含む)を意味する。
一方、(b):UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を解析するステップを含むことにより、UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスクを予測する方法を構成することができる。
また、上記(a)のステップと上記(b)のステップを含むことにより本発明の方法を構成することもできる。また、上記(a)のステップと(c):UGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を解析するステップを含むことにより本発明の方法を構成することもできる。さらには、上記(a)のステップ、上記(b)のステップ、及び上記(c)のステップを含むことにより本発明の方法を構成することもできる。ここで、686位の塩基とは、UGT1A1遺伝子の転写開始点から下流方向に数えて686番目の塩基のことであり、同様に211位の塩基とは211番目の塩基である。
ステップ(b)は、UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を解析するステップである。686位の塩基には、シトシン(C)とアデニン(A)の二種類の多型が存在することが知られている(Aono,S.et al.,Lancet,345:958−959,1995)。従って、「UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を解析する」とは、特に、686位の塩基がシトシン又はアデニンのいずれかであることを分析することを意味する。
ステップ(c)は、UGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を解析するステップである。211位の塩基には、グアニン(G)とアデニン(A)の二種類の多型が存在することが知られている(Aono,S.et al.,Lancet,345:958−959,1995)。従って、「UGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を解析する」とは、特に、211位の塩基がグアニン又はアデニンのいずれかであることを分析することを意味する。
尚、上記のプロモータ領域におけるTA反復配列数の解析、686位の塩基の解析、及び/又は211位の塩基の解析は、両アレルを対象とすることができる。
TA反復配列数を解析する方法、686位又は211位の塩基を解析する方法は特に限定されるものではなく、例えば、PCR(polymerase chain reaction)法を利用したPCR−RFLP(restriction fragment length polymorphism:制限酵素断片長多型)法、PCR−SSCP(single strand conformation polymorphism:単鎖高次構造多型)法(Orita,M.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.,86,2766−2770(1989)等)、PCR−SSO(specific sequence oligonucleotide:特異的配列オリゴヌクレオチド)法、PCR−SSO法とドットハイブリダイゼーション法を組み合わせたASO(allele specific oligonucleotide:アレル特異的オリゴヌクレオチド)ハイブリダイゼーション法(Saiki,Nature,324,163−166(1986)等)、又はTaqMan−PCR法(Livak,KJ,Genet Anal,14,143(1999),Morris,T.et al.,J.Clin.Microbiol.,34,2933(1996))、Invader 法(Lyamichev V et al.,Nat Biotechnol,17,292(1999))、プライマー伸長法を用いたMALDI−TOF/MS(matrix)法(Haff LA,Smirnov IP Genome Res 7,378(1997))、RCA(rolling cicle amplification)法(Lizardi PM et al.,Nat Genet 19,225(1998))、DNAチップ又はマイクロアレイを用いた方法(Wang DG et al.,Science 280,1077(1998)等)、プライマー伸長法、サザンブロットハイブリダイゼーション法、ドットハイブリダイゼーション法(Southern,E.,J.Mol.Biol.98,503−517(1975))等、公知の解析方法を用いることができる。さらに、当該配列部分を直接シークエンスすることにより解析してもよい。尚、これらの方法は、任意に組み合わせて用いることもできる。また、ステップ(a)ないし(c)の少なくとも二つを行い副作用発現リスクの予測をする場合には、全てのステップにおいて同じ解析方法を用いることができることは勿論のこと、それぞれのステップにおいて任意の解析方法を選択して用いることができる。
被験DNAが少量の場合には、PCR法を利用したPCR−RFLP法等により解析することが検出感度ないし精度の面から好ましい。また、PCR法又はPCR法に準じた遺伝子増幅方法により被検DNAを予め増幅した後、上記いずれかの解析方法を適用することもできる。一方、多数の被験DNAを解析する場合には、特にTaqMan−PCR法、Invader法、プライマー伸長法を用いたMALDI−TOF/MS(matrix)法、RCA(rolling cicle amplification)法、又はDNAチップ又はマイクロアレイを用いた方法を用いることが好ましい。
UGT1A1遺伝子は、被験者の血液、皮膚細胞、粘膜細胞、毛髪等から公知の抽出方法、精製方法を用いて取得することができる。また、本発明において解析される塩基部分を含むものであれば、全長DNA又は部分DNAの別を問わず、本発明におけるUGT1A1遺伝子として用いることができる。換言すれば、プロモータ領域の反復配列(TA)の反復数を解析するステップにおいては、当該反復配列部分を含む限り任意の長さのDNA断片を用いることができる。また、686位の塩基を解析するステップにおいては、当該塩基部分を含む限り任意の長さのDNA断片を用いることができる。同様に、211位の塩基を解析するステップにおいては、当該塩基部分を含む限り任意の長さのDNA断片を用いることができる。
また、UGT1A1遺伝子の転写産物であるmRNAを用いて、各ステップにおける解析を行うこともできる。この場合には、例えばUGT1A1遺伝子のmRNAを被験者の血液等から抽出、精製した後、逆転写によりcDNAを調製する。そして、当該cDNAの塩基配列を解析することによりゲノムDNAの多型部分の配列を予測する。
さらに、エクソン1における二つの多型については、UGT1A1遺伝子の発現産物を用いて解析することもできる。即ち、多型部分の発現産物(アミノ酸)を分析することにより、エクソン1の遺伝子型を決定することができる。この場合、エクソン1の当該多型部分に対応するアミノ酸を含んでいる限り、部分ペプチドであっても測定対象とすることができる。具体的には、エクソン1の211位における多型はコドン71を変化させるため(グリシン又はアルギニンを生ずる)、コドン71に対応するアミノ酸を少なくとも含むペプチドを測定対象として用いることができる。同様に、エクソン1の686位における多型はコドン229を変化させるため(プロリン又はグルタミンを生ずる)、コドン229に対応するアミノ酸を少なくとも含むペプチドを測定対象として用いることができる。尚、コドン71に対応するアミノ酸及びコドン229に対応するアミノ酸の両者を含むペプチドないしタンパクを用いれば、二つの多型を併せて解析することが可能である。
ペプチド又はタンパクを用いて多型部分に対応するアミノ酸を分析する方法としては、周知のアミノ酸配列分析法(エドマン法を利用した方法)を用いることができる。また、アミノ酸の変化によりUGT1A1遺伝子の発現産物の立体構造が変化することが予想されるため、免疫学的な手法によりアミノ酸の種類を分析することもできる。免疫学的な手法としては、例えば、ELISA法(酵素結合免疫吸着定量法)、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降法、免疫拡散法等を挙げることができる。
「UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物」とは、生体に投与されたときに、生体内においてUGT1A1酵素によって直接代謝される化合物、又は一旦他の酵素等によって代謝され、その結果生ずる代謝産物(中間代謝物)がUGT1A1酵素によって代謝される化合物をいう。かかる性質の化合物であれば特に限定されないが、例えば、カンプトテシン類似化合物が該当する。上記性質を有するカンプトテシン類似化合物であればその種類は特に限定されず、例えば、トポテカン、イリノテカン(CPT−11)等の公知のカンプトテシン誘導体が該当する。さらに、上記性質が維持されることを条件に、公知のカンプトテシン類似化合物、公知のカンプトテシン誘導体(トポテカン、イリノテカン等)において一又は数個の置換基が他の原子又は原子団に置換された化合物であってもよい。
尚、UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の好適な例としてはイリノテカンを挙げることできる。
副作用発現リスクとは、本発明における化合物を投与することに起因して副作用が生ずる危険性をいう。ここで、副作用とは、本発明における化合物を投与した場合に期待される効果(薬効)以外の作用・効果をいい、生体に悪影響を及ぼすものは勿論のこと、当該化合物本来の効果を減少させるものも含まれる。従って、本発明の方法では当該化合物投与の本来の効果を減少させる危険性も副作用発現リスクに含まれる。
本発明の化合物がイリノテカンである場合の副作用の一例を示せば、白血球減少症又は下痢がある。これらの症状は、イリノテカンを投与された患者に対して、時として致死的な悪影響を及ぼす。
副作用の発現リスクを予測した結果は当該化合物の投与量を設定することに利用できる。そこで、本発明の他の局面は、上記副作用発現リスクを予測する方法の結果に基づき前記化合物の投与量を設定するステップを含む、ことを特徴とする前記化合物の投与量設定方法である。かかる投与量設定方法によれば、当該化合物投与により生ずる副作用の程度と、当該化合物投与により期待される本来の効果の程度とを比較考量して、投与対象(患者)毎に適切な投与量の設定を行うことができる。従って、副作用の発生を抑えつつ、当該化合物による効果的な治療を行うことが可能となる。即ち、別の見方をすれば、当該化合物の副作用を低減するための方法が提供されることとなる。
本発明の他の局面は、UGT1A1酵素をコードする遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列数を解析するための核酸(以下、「TA反復数解析用核酸」という)、UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を解析するための核酸(以下、「686位解析用核酸」という)、及びUGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を解析するための核酸(以下、「211位解析用核酸」という)を提供する。
TA反復数解析用核酸としては、UGT1A1酵素をコードする遺伝子のTA反復領域の塩基を含み、かつ次の二組のプライマーセット(配列番号7と配列番号8の組、又は配列番号9と配列番号10の組)のいずれかを用いたPCR法によって増幅され得る領域に由来するDNA断片に対して特異的にハイブリダイズする核酸を挙げることができる。
順方向プライマー(配列番号7)
逆方向プライマー(配列番号8)
順方向プライマー(配列番号9)
逆方向プライマー(配列番号10)
686位解析用核酸としては、UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を含み、かつ次のプライマーセット(配列番号3及び配列番号4)を用いたPCR法によって増幅され得る領域に由来するDNA断片に対して特異的にハイブリダイズする核酸を挙げることができる。
順方向プライマー(配列番号3)
逆方向プライマー(配列番号4)
211位解析用核酸としては、UGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を含み、かつ次のプライマーセット(配列番号1及び配列番号2)を用いたPCR法によって増幅され得る領域に由来するDNA断片に対して特異的にハイブリダイズする核酸を挙げることができる。
順方向プライマー(配列番号1)
逆方向プライマー(393位〜412位)(配列番号2)
本発明の他の局面は、UGT1A1酵素をコードする遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列数を解析するための核酸(TA反復数解析用核酸)を含む、UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスク予測用キットを提供する。
一方、UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を解析するための核酸(686位解析用核酸)を含むことにより、UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスク予測用キットを構成することができる。
また、TA反復配列数解析用核酸に加えて、686位解析用核酸を含むことにより、本発明のキットを構成することもできる。さらに、TA反復配列数解析用核酸に加えて、UGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を解析するための核酸(211位解析用核酸)をさらに含むことにより、本発明のキットを構成することもできる。尚、各キットの使用方法に応じた一又は二以上の試薬を組み合わせて上記各キットを構成してもよい。例えば、UGT1A1酵素をコードする遺伝子のTA反復配列数領域を含むDNAを増幅するための試薬、UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基領域を含むDNAを増幅するための試薬、及び/又はUGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基領域を含むDNAを増幅するための試薬を組み合わせてキットを構成することができる。
以上の各核酸は、それぞれのキットにおいて利用される解析方法(上述したPCR−RFLP(restriction fragment length polymorphism:制限酵素断片長多型)法、PCR−SSCP(single strand conformation polymorphism:単鎖高次構造多型)法(Orita,M.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,U.S.A.,86,2766−2770(1989)等)等の解析方法)に用いられるものであって、例えば、プライマー、プローブである。プライマーの例としては、解析対象となる多型部位(プロモータ領域、686位の塩基、211位の塩基)を含む領域を特異的に増幅させることができるプライマーが挙げられる。また、PCR−RFLP法を実行するキットを構成する場合には、例えば、PCR増幅産物を制限酵素処理した場合に遺伝子型が識別されるように、特定の多型を有する場合に当該多型部分において特定の制限酵素部位が形成されるように設計したプライマーが用いられる。また、TaqMan−PCR法、Invader法等を実行するキットを構成する場合には、各方法に用いられるプライマー及び/又はプローブを核酸の例として挙げることができる。
プローブ、プライマーには、解析方法に応じて、適宜DNA断片又はRNA断片が用いられる。プローブ、プライマーの塩基長は、それぞれの機能が発揮される長さであればよく、プライマーの塩基長の例としては15〜30bp程度、好ましくは20〜25bp程度である。
上記のように、本発明の方法を容易に実施するためには、これに適した遺伝子多型検出キットを用いることが好ましい。このようなキットは、上記の説明に基づき容易に設計することができるが、基本的にPCR法等による被検DNAの増幅を行わずにゲノムDNAでもアッセイが実施できる方法であるInvader法を例としてさらに説明する。
Invader法によるキットを構成する場合には、2種類の非蛍光標識オリゴヌクレオチド(1)、(2)と1種類の蛍光標識オリゴヌクレオチド(3)並びにDNAの構造を認識して切断する特殊なエンドヌクレアーゼ活性を有する酵素(4)を使用する。2種類の非蛍光標識オリゴヌクレオチドをそれぞれ「アレルプローブ(あるいはシグナルプローブ、レポータプローブ)」、「インベーダープローブ」と呼び、蛍光標識オリゴヌクレオチドを「FRETプローブ」、DNAの構造を認識して切断する特殊なエンドヌクレアーゼ活性を有する酵素を「clevase」と呼ぶ。
(1)アレルプローブは、鋳型であるUGT1A1酵素をコードする遺伝子(以下、略して「UGT1A1遺伝子」ともいう)中の解析対象となる多型部位(以下、「多型部位」という)より5’側に対して相補的となる塩基配列を有し、多型部位より一塩基3’側に対して相補結合し得ない任意の塩基配列(フラップと呼ぶ)を有するように設計する。すなわちアレルプローブ自体から見た場合、5’末端よりフラップ部分・鋳型中の多型部位より5’側に相補的な配列部分の順で構成されている。なおフラップの配列はUGT1A1遺伝子配列はもとより、アレルプローブあるいはインベーダープローブ、さらには試料中のUGT1A1遺伝子以外のDNAと相補結合をし得ない配列を使用する。
(2)インベーダープローブは、鋳型であるUGT1A1遺伝子中の多型部位より3’側に対して相補的に結合するように設計するが、多型部位にあたる配列は任意の塩基(N)でよい。すなわちインベーダープローブ自体から見た場合、5’末端より鋳型の多型部位より3’側に対して相補的な配列部分−3’末端にNの順で構成されている。
このように構成された(1)、(2)は本発明の「TA反復数解析用核酸」、「686位解析用核酸」あるいは「211位解析用核酸」に相当する。(1)、(2)2種類のプローブとUGT1A1遺伝子を相補結合させると多型部位にインベーダープローブの1塩基(N)が浸入(invasion)することができる。
(3)FRET(fluorescence resonance energy transfer)プローブは、UGT1A1遺伝子とは全く無関係な配列により構成することができ、検出したい多型部位によらず共通でよい。5’側には自分自身で相補結合できる配列を有し、3’側にはフラップに対して相補的な配列を有している。また、5’末端には蛍光色素を標識し、その上流には消光物質(クエンチャー)が結合されている。
(4)clevaseは、構造特異的フラップエンドヌクレアーゼ(FENs)に分類されるDNAの構造を認識して切断する特殊なエンドヌクレアーゼ活性を有する酵素であり、鋳型DNA、インベーダープローブおよびアレルプローブの3つの塩基が並び、アレルプローブの5’末端がフラップ状になっている部分を認識して、そのフラップ部分を切断する。
以上のような3種類のプローブ(1)〜(3)とcleavase(4)を用いると模式的に以下のような二段階の反応が生じる。
まずアレルプローブ(1)がUGT1A1遺伝子と相補結合したときに、多型部位にインベーダープローブ(2)の3’末端(N)が侵入する。この3塩基が並んだ多型部位の構造をcleavase(4)が認識してアレルプローブ(1)のフラップ部分を切断し、フラップ部分が遊離する。次に、アレルプローブ(1)から遊離したフラップ部分は、FRETプローブ(3)と相補的な配列をもつためFRETプローブ(3)と相補結合する。このときフラップ部分の3’末端に存在する多型部位がFRETプローブ(3)自身の相補結合部位に侵入する。cleavase(4)は、今度はこの構造を認識して蛍光色素が結合している部位を切断する。これにより蛍光色素はクエンチャーと離れるため蛍光を発する。この蛍光強度を測定して多型を検出し、解析する。
(1)〜(4)は例えば、(1)と(2)、(3)と(4)を組み合わせて2種類の試薬組成物として組み合わせて使用することや、(3)および(4)を事前に乾燥させてマイクロタイタープレートに封入しておくこともできる。これらによりアッセイのステップ数を減らすことができる。また(1)と(2)を含む試薬組成物にマグネシウム、緩衝剤等を適宜配合し、反応を最適化することもできる。さらに(1)〜(4)以外に測定中の試料の蒸発を防止する鉱油などを組み合わせてキットとすることもできる。
なお、アレルプローブ(1)について2種類のプローブを用意すれば、UGT1A1遺伝子がホモ接合体であるかヘテロ接合体であるかを鑑別することもできる。これらは、大西洋三,ポストシークエンスのゲノム科学「SNP遺伝子多型の戦略」,94−135,中山書店,2000、Treble,M.,et al.,遺伝子医学,4:68−72,2000の総説や国際公開公報であるWO97/27214、WO98/42873に図解され、記載されているので、これらを参照して最適な設計をすることが可能である。
尚、本発明のキットによりUGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスクが予測できるため、その予測結果に基づいて投与対象毎に適切な当該化合物の投与量を設定できる。換言すれば、本発明のキットは、UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与量を設定するために用いることができる。
副作用発現リスクの少ないと判断される遺伝子多型(即ち、プロモータ領域のTA反復配列数が6、エクソン1の211位がグアニン(G)である、及び/又は、エクソン1の686位がシトシンである)を有するUGT1A1遺伝子又は、当該いずれかの多型部位を少なくとも一つ含有するDNA断片を、化合物の投与を受ける患者の細胞、特に、UGT1A1酵素が当該化合物の代謝、解毒化に作用する部位における細胞に導入することにより、当該化合物の副作用の発現リスクを低減することができる。遺伝子の導入は、当該化合物の投与前、投与中、又は投与後に行うことができる。遺伝子の導入は、例えば、遺伝子導入用プラスミド又はウイルスベクターを用いた方法、エレクトロポーレーション(Potter,H.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.81,7161−7165(1984))、リポフェクション(Felgner,P.L.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.34,7413−7417(1984))、マイクロインジェクション(Graessmann,M.&Graessmann,A.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.73,366−370(1976))等の方法により行うことができる。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。本実施例では、イリノテカン投与による副作用とUGT1A1遺伝子の多型との相関を統計学的に解析した。
[患者情報及び臨床情報]
1994年7月から1999年6月にイリノテカンを含む化学療法を受けている日本人患者を対象とした。患者の安全を確保するために、イリノテカン使用前に骨髄機能が問題ないこと(白血球3×109/l以上、血小板100×109/l以上)を確認した。さらに、水溶性下痢、麻痺性イレウス、間質性肺炎や肺線維症、広範囲にわたる重症の腹水や胸水、明らかな黄疸、イリノテカンに過敏症の既往歴がある患者を除外した。この結果、118名の患者を本実施例の対象とした。
イリノテカンの適応性を確認するため、週に一回は全血、血小板数および血清化学値について測定を行った。また、ビリルビン値は常に測定することとした。
患者情報(年齢、性別等)を含む臨床記録、並びにイリノテカン投与量及び投与スケジュール、他の薬や放射線療法の記録、イリノテカンによる副作用等について、レトロスペクティブに調査を行った。顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)やイリノテカン誘導性の下痢に対して日本において一般的に処方されている塩酸ロペラミドの投与日を数えた。G−CSFの予防投与により、好中球減少症がはっきりと発症することはなかった。イリノテカンの量規定因子(dose limiting toxicity)により、白血球減少症と下痢を引き起こすことが知られていることから、グレード4の白血球減少(<0.9×109/l)、グレード3又はそれ以上悪化した下痢(グレード3は5日以上続く下痢、グレード4は出血または脱水症状を伴う、各グレードは日本がん治療学会の基準に準ずる)を、severe toxicity(重篤副作用)と定義した。他の副作用は種々の患者背景に影響されることから、本実施例において分析対象としなかった。血清全ビリルビン値は、イリノテカン投与直前及び治療後の最高値について記録した。
[遺伝子型の分析]
各患者(118名)より血液サンプルを採取し、各サンプルについて遺伝子型の分析を行った。まず、100〜200μlの全血からQIAamp Blood Kit(QIAGEN GmbH,Hilden,Germany)を用いてゲノムDNAを調製した。尚、操作方法は当該キットに添付された説明書に従った。
各ゲノムDNAについて、次の変異配列を解析した(図1を参照)。即ちUGT1A1遺伝子における、TATAボックス内の2塩基ペアー(TA)の挿入(この結果、−39位〜−53位に(TA)7TAAを生ずる。このタイプをUGT1A1*28と称する(Monaghan,G.,Ryan,M.,Seddon,R.,Hume,R.,and Burchell,B.,Lancet,347:578−581,1996,Bosma,P.J.et al.,N.Engl.J.Med.,333:1171−1175,1995)、エクソン1のコドン71における置換(転写開始点の下流211位のグアニン(G)をアデニン(A)に置換する。当該置換はグリシンをアルギニンに変化させる(当該変異をG71Rと表す。このタイプをUGT1A1*6と称する。)、エクソン1のコドン229におけるプロリンをグルタミンに換える置換(P229Qと表す。このタイプをUGT1A1*27と称する。)、エクソン4のコドン367における置換(1099位における置換。シトシン(C)からグアニン(G)への置換。当該置換はアルギニンをグリシンに置換する。R367Gと表す。このタイプをUGT1A1*29と称する。)、及びエクソン5のコドン486における置換(1456位における置換。チミン(T)からグアニン(G)への置換。当該置換はチロシン(Y)をアスパラギン酸(D)に置換する。Y486Dと表す。このタイプをUGT1A1*7と称する。)。(Monaghan,G.,Ryan,M.,Seddon,R.,Hume,R.,and Burchell,B.,Lancet,347:578−581,1996,Bosma,P.J.et al.,N.Engl.J.Med.,333:1171−1175,1995,Aono,S.et al.,Lancet,345:958−959,1995,Aono,S.et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,197:1239−1244,1993)。
UGT1A1*28は、先に報告されたPCR増幅反応を用いた方法(Monaghan,G.et al.,Lancet,347:578−581,1996,Ando,Y.et al.,Pharmacogenetics,8:357−360,1998に記載される方法)により得られる253−255塩基対の配列を直接決定することにより、最も一般的なアレル(UGT1A1*1)と識別された。
塩基配列の解析は、ABI PRISM 310 Genetic Analizerを用いたダイ・ターミネタ・シークエンス反応を利用したサイクルシークエンシング法により行った(ABI Prism DNA Sequencing Kit、Perkin−Elmer、Foster City,CA)。
その他の変異遺伝子型(UGT1A1*6等)はPCR−RFLP法によりUGT1A1*1と識別された。エクソン1の分析のために、エクソン1を含む923塩基対の断片を先に報告された方法(Akaba,K.et al.,Biochem.Mol.Biol.Int.,46:21−26,1998)に従って第1段階PCRにより増幅した。
続いて、UGT1A1*6の分析のために、235塩基対の断片を増幅するように設計された入れ子(nested)プライマーを用いて第2段階PCRによる増幅反応を行った。ミスマッチ配列を含む順方向プライマーと逆方向プライマーは次のとおりである。
順方向プライマー(178位〜210位)(配列番号1)
逆方向プライマー(393位〜412位)(配列番号2)
下線部はミスマッチ部位である。UGT1A1*1ではMspI(タカラ酒造 株式会社、大津市、日本)制限酵素サイトが導入され、UGT1A1*6では導入されないように順方向プライマーは設計されている。第1段階PCR反応による増幅産物を1000倍に希釈し、入れ子プライマーを用いたPCR(nested PCR、第2段階 PCR)に供した。その際、サンプル50μl中に、0.2mMの各デオキシヌクレオチド三リン酸、50mM KCl、10mM Tris−HCl(pH8.3)、1.5mM MgCl2、各プライマー0.5μM、及びTaqポリメラーゼ1.3ユニット(宝酒造 株式会社、大津市、日本)を含有させた。PCRの条件は次のとおりである。95℃、5minの反応、及びこれに続いて行われる25サイクルの反応(94℃、30s、60℃、40s、及び72℃、40s)である(PCR Thermal Cycler MP,宝酒造 株式会社、大津市、日本)。1μlのPCR増幅産物を4unitsのMspIで37℃、1h処理した。UGT1A1*1由来のDNAは203塩基対と32塩基対の断片に消化され、UGT1A1*6からは消化されなかった235塩基対の断片が生じ、ヘテロ接合DNAからは上記3断片の全てが生じた。
UGT1A1*27の塩基配列を決定には、399塩基対の断片を増幅するために設計された以下のプライマー(片方を入れ子プライマー(nested primer)としてある)を用いた第2段階PCRを行った。
順方向プライマー(485位〜503位)(配列番号3)
逆方向プライマー(865位〜867位及びイントロン1)(配列番号4)
UGT1A1*27には二つのBsrI(New England Biolabs,Inc.,Bevverly,MA)制限酵素サイトが存在し(552位〜556位、及び684位〜688位)、一方、UGT1A1*1にはかかる制限酵素サイトが一つ存在する(552位〜556位)。一連のPCR増幅反応は上記のMspI RFLPの場合と同一の条件で行った。PCR増幅産物を、2.5unitのBsrIにより、65℃、1hの条件で消化した。その結果、UGT1A1*27からは199塩基対、132塩基対、及び68塩基対の断片が生じ、UGT1A1*1からは331塩基対及び68塩基対の断片が生じた。尚、ヘテロ接合型のDNAからは上記4断片の全てが生じた。
同様に、UGT1A1*29の塩基配列を、入れ子プライマーを用いたPCR−RFLP法により解析した。エクソン2、3、及び4を包含する第1段階PCR増幅反応を、先に報告されている方法(Akaba,K.et al.,Biochem.Mol.Biol.Int.,46:21−26,1998)に多少の改良を加えた方法に従って行った。即ち、第2段階PCR増幅反応には、285塩基対の断片を増幅するために設計された、ミスマッチ配列を含む順方向プライマー及び逆方向プライマーを用いた。
順方向プライマー(イントロン3、及び1085位〜1098位、下線部はミスマッチ部位を示す)(配列番号5)
逆方向プライマー(イントロン4)(配列番号6)
順方向プライマーは、UGT1A1*1からCfr13I(宝酒造 株式会社、大津市、日本)制限酵素サイト(1095位〜1099位)を生じ、UGT1A1*29からはかかる制限酵素サイトが生じないように設計してある。尚、PCR反応試薬混合物は、上記UGT1A1*6における第2段階PCR反応の場合と同一のものを使用した。PCR増幅産物をCfr13I酵素により消化した。UGT1A1*1由来のDNAは252塩基対及び33塩基対の断片に消化され、UGT1A1*29由来のDNAからは消化されなかった285塩基対の断片を生じた。
UGT1A1*7の検出のために、先に報告されたプライマー(Akaba,K.,et al.,Biochem.Mol.Biol.Int.,46:21−26,1998)を用いて、エクソン5の579塩基対の断片をPCR法により増幅した。
尚、PCR反応試薬混合物は、上記UGT1A1*6における第2段階PCR反応の場合と同一のものを使用した。UGT1A1*1の配列にはBsrI制限酵素サイト(1452位〜1456位)が存在し、一方、UGT1A1*7には当該制限酵素サイトは存在しない。従って、BsrI酵素を加えてインキュベーションすることにより、UGT1A1*1は365塩基対及び214塩基対の断片に消化され、一方、UGT1A1*7由来DNAからは消化されなかった579塩基対の断片が生じた。
上記の操作の結果得られた各制限酵素断片を、4%アガロースゲルを用いた電気泳動及びエチジウムブロマイド染色により分析した。以上全ての変異についての遺伝子型解析の結果は、直接的シークエンス分析により確認した。
以上の操作により、患者毎にUGT1A1遺伝子の型を決定した。
[統計的解析]
イリノテカンの重篤副作用とUGT1A1遺伝子の型(遺伝子多型)との相関関係の解析及び評価は、以下の統計的手法によって行った。
候補ファクターとして、性別、年齢、一般状態(Performance Status:PS)、主要疾患、遠隔転移の存在、治療履歴、糖尿病と肝臓疾患との併発、化学療法レジュメ、同時に行われる放射線療法、及びイリノテカン点滴の投与スケジュール及び一回あたりの投与量を用いた。化学療法レジュメについては、3つのグループに分けた。即ち、イリノテカンのみを投与したグループ、イリノテカン及びプラチナ製剤(シスプラチン又はカルボプラチン)を投与したグループ、イリノテカン及び他の薬剤(パクリタセル(paclitaxel)、ドセタセル(docetaxel)、エトポシド(etoposide)、ミトマイシン C(mitomysin C)、又は5−フルオトウラシル(5−fluorouracil))を投与したグループである。位置変数間の相関性(関連性)は、絶対変数に対してのχ2(カイ二乗)テスト又はFisher’s exact test、又は連続変数に対してのMann−Whitney U testを用いて評価した。重篤副作用(p<0.1)と相関があると予想される候補変数は非限定マルティプルロジスティック回帰分析(unconditional multiple logistic regression analysis)において取り込むこととした。顆粒球コロニー刺激因子及びロペラミド塩酸塩の全実質的投与量及び使用については、化学療法の結果に強く依存するものと考えられるため、多変量解析において考慮しなかった。最終的な統計モデルにおける変数は、ステップワイズ法を用いて有意水準0.25(forward)および0.1(backward)において選択した。重篤副作用の発現に対する遺伝子多型の重要性は、その他の要因を補正に加えることにより検討した。
上記の解析は、JMP ver.3.0.2ソフトウウェア(SAS Institute Inc.,Cary,NC)を用いて行った。両側検定値(P値)が0.05より小さい場合に統計的に有意な相違とした。
[イリノテカンの副作用と臨床情報]
118名の患者についての臨床情報を検討した結果、9名(8%)がグレード4の白血球減少症(≦0.9×109/liter)を経験しており、38名(32%)がグレード3の白血球減少症(1.9−1.0×109/liter)を経験していた。一方、3名(3%)がグレード4(出血性又は脱水症)の下痢を経験しており、19名(16%)がグレード3(5日以上の間、水状)の下痢を経験していた。グレード4の白血球減少症を経験した患者9名の内、5名はグレード3又は4の下痢も経験していた。また、グレード3又は4の下痢を経験した患者22名の内、16名はグレード3又は4の白血球減少症も経験していた。以上の臨床情報を基に、重篤副作用を経験した患者(以下、「副作用経験者」という)26名と経験していない患者(以下、「副作用非経験者」という)92名とに区分けし、臨床情報及びイリノテカン化学療法の情報を、図2の表及び図3の表にそれぞれまとめた。副作用経験者では、イリノテカンの実質的全投与量がより少なく、顆粒球コロニー刺激因子又はロペラミド(loperamide)塩酸塩をより多く投与したことが分る。
[遺伝子型の分布]
118名全ての患者について、上記の方法によりその遺伝子型を決定し、図4にまとめた。尚、UGT1A1*29又はUGT1A1*7を有する患者はいなかった。また、9名については既に報告された結果(UCT1A1*28)を用いた(Ando,Y.,Saka,H.,Asai,G.,Sugiura,S.,Shimokata,K.,and Kamataki,T.,Ann.Oncol.,9:845−847,1998.)。また、117名の患者に関して、化学療法前の全ビリルビンレベル、及び化学療法期間における全ビリルビンレベルの最大値を測定し、その結果を図4の表に併せて記載した。
図4の表に示されるように、5名の遺伝子型において、同時に二つの多型が認められた。即ち、2名(矢印Aで示される)は、ヘテロ接合のUGT1A1*28及びヘテロ接合のUGT1A1*6を有していた。また、3名は、ヘテロ接合のUGT1A1*27を有し、同時にホモ接合(2名:矢印Cで示される)又はヘテロ接合(1名:矢印Bで示される)のUGT1A1*28を有していた。
ともにヘテロ接合のUGT1A1*28及びUGT1A1*6を有する2名(矢印Aで示される)は正常範囲のビリルビンレベルであった(化学療法前は、それぞれ13.9μmol/literと15.4μmol/liter、化学療法開始後は、それぞれ10.3μmol/literと15.4μmol/liter)。これらの2名を除いて、遺伝型間のビリルビンレベルの相違は、化学療法前(p=0.031、Kruskal−Wallis test)及び化学療法開始後(p<0.001、)ともに、統計的に有意であった。
UGT1A1*28アレルの出現頻度は、副作用経験者と副作用非経験患者について、それぞれ0.308(95%CI、0.004〜0.149)と0.087(95%CL、0.046〜0.128)であり、UGT1A1*6アレルの出現頻度については、同様に0.077(95%CI、0.004〜0.149)と0.136(95%CI、0.086〜0.185)であった。
副作用経験者と副作用非経験者間のアレル分布における相違は、UGT1A1*28に関しては統計的に有意(p<0.001)であったが、UGT1A1*6に関しては有意と認められなかった(p>0.2、GENEPOP ver.3.1dソフトウェア、the Laboratoirede Genetique et Environment,Montpellier,France)。
[遺伝子型と副作用との相関]
ロジスティック回帰分析(logistic regression analysis)を行ったところ、ヘテロ接合又はホモ接合のUGT1A1*28を有する遺伝子型が、重篤副作用の有効な指標になることが示された(見込み確率、5.21;95% CI,1.98〜13.96;p<0.001、図4を参照)。他方、UGT1A1*6と重篤副作用との統計的相関は見られなかった(見込み確率、0.55;95% CI,0.15−1.61;p>0.2)。
次に、重篤副作用に影響を与える他の因子と遺伝子型の変異との比較を行った。図2の表及び図3の表に示されるように、性別、化学療法レジュメ、イリノテカン点滴スケジュールが高い毒性に関連する。そこで、これらのファクターについて相関性を調べた。その結果、化学療法レジュメとイリノテカン点滴スケジュールとの間に有意な相関(p<0.001、χ2テスト)がみられた。即ち、3又は4週サイクルのイリノテカン治療を受けた19名の内12名(63%)が、その他の抗癌剤の投与を受けていた。化学療法レジュメはイリノテカンの高い毒性と強い相関を有する変数と考えられたため、これを統計モデルに取り込んだ。
一方、化学療法レジュメ、性別、及びUGT1A1*28遺伝子型の間には有意な相関が見られなかった。また、UGT1A1*28の他に、女性であること、及び他の抗癌剤(プラチナ製剤を除く)を使用すること、が重篤副作用に重要な因子であることがわかった。これらの二つの因子とUGT1A1*28との比較を図5の表に示した。図5の表に示されるように、UGT1A1*28を有することにより、イリノテカンによる重篤副作用が7倍にも増加する。また、女性であることとイリノテカンの重篤副作用との間には有意なレベルの相関性は認められなかった。以上の知見より、UGT1A1*28が重篤副作用に対する指標として非常に有効であることがわかる。
一方、グレード4の白血球減少症及びグレード3以上の下痢を併発した5名の患者の内2名はUGT1A1*28及びUGT1A1*27を、他の2名はヘテロ接合のUGT1A1*6を、残りの一名はホモ接合のUGT1A1*1を(即ち、変異した遺伝型を有していない)それぞれ有していた。一方、5名の内4名(80%)がプロモータ領域(UGT1A1*28)及びエクソン1(UGT1A1*6又はUGT1A1*27)の両方に変異した配列を有しており、これらの患者は生命に危険なレベルの毒性を受けていた。以上の結果から、UGT1A1*28に注目すれば、UGT1A1*28を有することにより、高い確率でイリノテカンの重篤副作用が生ずることが示唆される。従って、プロモータ領域の変異(TA反復配列の違い)を解析することによりイリノテカンの副作用発現リスクを予測可能であるといえる。また、UGT1A1*28とUGT1A1*6又はUGT1A1*27のいずれかを併せて有することにより、高い確率でイリノテカンの重篤副作用が生ずることが示唆される。従って、プロモータ領域の変異とエクソン1における変異とを併せて解析することにより、イリノテカンの副作用発現リスクを予測可能であるといえる。
さらに、ホモ接合のUGT1A1*6を有する2名(図4の表、矢印Dで示される)は、重篤副作用を経験しておらず、また、ヘテロ接合のUGT1A1*27を有する3名(同表、矢印B及び矢印Cで示される)はいずれも重篤副作用を経験していることがわかる。このことから、UGT1A1*27を有することにより、高い確率でイリノテカンの重篤副作用が生ずることが示唆される。従って、UGT1A1*27の存在、即ち、コドン229における多型を解析することにより、イリノテカンの副作用発現リスクを予測可能であるといえる。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
産業上の利用の可能性
本発明の方法によれば、イリノテカンを代表とする、それ自体又は中間代謝物がUGT1A1酵素に代謝される化合物の投与による副作用のリスクを事前に予測することができる。その結果、患者毎に副作用のリスクを考慮した化合物(薬剤)の投与が可能となり、副作用の低減が可能となる。特に、イリノテカンの投与による白血球減少症、下痢といった副作用の発現リスクを事前に予測することができ、当該副作用のリスクを軽減することができる。
また、日本人の20%以上がUGT1A1に変異を有しており、そのためイリノテカンの高い毒性に対して高いリスクを有し得ると考えられるため、UGT1A1の遺伝型を分析することにより、特に日本人患者におけるイリノテカンの副作用を軽減することができるといえる。
【配列表】
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例において解析されるUGT1A1遺伝子の多型をまとめた表である。211G→Aは211位におけるグアニンからアデニンへの置換、686C→Aは686位におけるシトシンからアデニンへの置換、1099C→Gは1099位におけるシトシンからグアニンへの置換、1456T→Gは1456位におけるチミンからグアニンへの置換をそれぞれ表す。また、G71Rはコドン71におけるグリシンからアルギニンへの置換、P229Qはコドン229におけるプロリンからグルタミンへの置換、R367Gはコドン367におけるアルギニンからグリシンへの置換、Y486Dはチロシンからアスパラギン酸への置換をそれぞれ表す。
図2は、実施例において対象とされる患者の臨床情報をまとめた表である。aは、日本癌治療学会の基準による。また、bは、カイ2乗テストの結果であり、cはMann−Whitney Uテストの結果である。
図3は、実施例において対象とされる患者のイリノテカン化学療法の情報をまとめた表である。a:日本癌治療学会の基準、b:カイ2乗テスト、c:Fisher’s Exact test。
図4は、遺伝子型の分布を表にまとめたものである。6/6はTA反復配列が6のアレルのホモ接合であること、6/7はTA反復配列が6のアレルと7のアレルとのヘテロ接合であること、7/7はTA反復配列が7のアレルのホモ接合であることをそれぞれ表す。Gly/Glyはコドン71がグリシンのアレルのホモ接合であること、Gly/Argはコドン71がグリシンのアレルとアルギニンのアレルとのヘテロ接合であること、Arg/Argはコドン71がアルギニンのアレルのホモ接合であることをそれそれ表す。Pro/Proはコドン229がプロリンのアレルのホモ接合であること、Pro/Glnはコドン229がプロリンのアレルとグルタミンのアレルとのヘテロ接合であることをそれぞれ表す。a:日本癌治療学会の基準、b:平均値(四分位数間領域)。
図5は、重篤副作用に対するUGT1A1*28の影響と他の因子の影響を統計的に比較(multiple logistic regression analysis)した結果を示した表である。a:係数、b:イリノテカンと他の抗癌剤(プラチナ製剤を除く)との組合せのレジュメ。
Claims (31)
- UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスクを予測する方法であって、少なくとも(a):UGT1A1酵素をコードする遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列数を解析するステップを含む方法。
- TA反復配列数を解析するステップが、TA反復配列数が5ないし8のいずれかであることを解析するステップである、請求の範囲第1項に記載の方法。
- TA反復配列数を解析するステップが、TA反復配列数が6または7であることを解析するステップである、請求の範囲第1項に記載の方法。
- UGT1A1酵素をコードする遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列領域を含むDNAを増幅するステップをさらに含む、請求の範囲第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の方法。
- UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスクを予測する方法であって、(b):UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を解析するステップ、及び/又は、(c):UGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を解析するステップをさらに含む、請求の範囲第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の方法。
- 686位の塩基を解析するステップが、686位の塩基がシトシンであるかまたはアデニンであるかを解析するステップである、請求の範囲第5項に記載の方法。
- 211位の塩基を解析するステップが、211位の塩基がグアニンであるかまたはアデニンであるかを解析するステップである、請求の範囲第5項に記載の方法。
- UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を含むDNA、及び/又はUGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を含むDNA、を増幅するステップをさらに含む、請求の範囲第5項ないし第7項のいずれか1項に記載の方法。
- UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスクを予測する方法であって、少なくとも(b):UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を解析するステップを含む方法。
- 686位の塩基を解析するステップが、686位の塩基がシトシンであるかまたはアデニンであるかを解析するステップである、請求の範囲第9項に記載の方法。
- UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を含むDNAを増幅するステップをさらに含む、請求の範囲第9項又は第10項に記載の方法。
- 前記化合物は、カンプトテシン類似化合物である、ことを特徴とする請求の範囲第1項ないし第11項のいずれか1項に記載の方法。
- 前記カンプトテシン類似化合物はカンプトテシン誘導体である、ことを特徴とする請求の範囲第12項に記載の方法。
- 前記カンプトテシン誘導体は、トポテカン又はイリノテカンである、ことを特徴とする請求の範囲第13項に記載の方法。
- 前記カンプトテシン誘導体は、イリノテカンである、ことを特徴とする請求の範囲第13項に記載の方法。
- 請求の範囲第1項ないし第15項のいずれか一項に記載の副作用発現リスクを予測する方法の結果に基づき前記化合物の投与量を設定するステップを含む、ことを特徴とする前記化合物の投与量設定方法。
- UGT1A1酵素をコードする遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列数を解析するための核酸であって、
UGT1A1酵素をコードする遺伝子のTA反復領域の塩基を含み、かつ配列番号7及び配列番号8のプライマーを用いたPCR法によって増幅され得る領域に由来するDNA断片に対して特異的にハイブリダイズする核酸。 - UGT1A1酵素をコードする遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列数を解析するための核酸であって、
UGT1A1酵素をコードする遺伝子のTA反復領域の塩基を含み、かつ配列番号9及び配列番号10のプライマーを用いたPCR法によって増幅され得る領域に由来するDNA断片に対して特異的にハイブリダイズする核酸。 - UGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を解析するための核酸であって、
UGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を含み、かつ配列番号1及び配列番号2のプライマーを用いたPCR法によって増幅され得る領域に由来するDNA断片に対して特異的にハイブリダイズする核酸。 - UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を解析するための核酸であって、
UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を含み、かつ配列番号3及び配列番号4のプライマーを用いたPCR法によって増幅され得る領域に由来するDNA断片に対して特異的にハイブリダイズする核酸。 - UGT1A1酵素をコードする遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列数を解析するための核酸を含む、UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスク予測用キット。
- UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を解析するための核酸、及び/又は、UGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を解析するための核酸をさらに含む、請求の範囲第21項に記載のキット。
- UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を解析するための核酸を含む、UGT1A1酵素によってそれ自体又は中間代謝物が代謝される化合物の投与による副作用発現リスク予測用キット。
- 前記化合物は、カンプトテシン類似化合物である、ことを特徴とする請求の範囲第21項ないし第23項のいずれか1項に記載のキット。
- 前記カンプトテシン類似化合物はカンプトテシン誘導体である、ことを特徴とする請求の範囲第24項に記載のキット。
- 前記カンプトテシン誘導体は、トポテカン又はイリノテカンである、ことを特徴とする請求の範囲第25項に記載のキット。
- 前記カンプトテシン誘導体は、イリノテカンである、ことを特徴とする請求の範囲第25項に記載のキット。
- イリノテカンの副作用発現リスク予測用キットであって、少なくとも(a):UGT1A1酵素をコードする遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列数を解析するための核酸、(b):UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を解析するための核酸、のいずれか1以上を含む、キット。
- イリノテカンの副作用発現リスク予測用キットであって、UGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を解析するための核酸、をさらに含む、請求の範囲第28項に記載のキット。
- イリノテカンの副作用発現リスク予測用キットであって、少なくとも(a):UGT1A1酵素をコードする遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列数を解析するための核酸、(b):UGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を解析するための核酸、のいずれか1以上を含み、さらに解析対象となるUGT1A1酵素をコードする遺伝子のプロモータ領域におけるTA反復配列領域を含むDNA、あるいはUGT1A1酵素をコードする遺伝子の686位の塩基を含むDNAを増幅するための試薬を含む、キット。
- イリノテカンの副作用発現リスク予測用キットであって、UGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を解析するための核酸及びUGT1A1酵素をコードする遺伝子の211位の塩基を含むDNAを増幅するための試薬をさらに含む、請求の範囲第30項に記載のキット。
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