JPH1180884A - 局部延性および焼入れ性に優れた中・高炭素鋼板 - Google Patents

局部延性および焼入れ性に優れた中・高炭素鋼板

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JPH1180884A
JPH1180884A JP25798397A JP25798397A JPH1180884A JP H1180884 A JPH1180884 A JP H1180884A JP 25798397 A JP25798397 A JP 25798397A JP 25798397 A JP25798397 A JP 25798397A JP H1180884 A JPH1180884 A JP H1180884A
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浩次 面迫
Terushi Hiramatsu
昭史 平松
Toshiro Yamada
利郎 山田
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 伸びフランジ性等の局部延性および高周波焼
入れ性を改善した中・高炭素鋼板を提供する。 【解決手段】 C:0.1〜0.8質量%、S:0.01質量%以
下の亜共析鋼からなり、炭化物球状化率が90%以上であ
るように炭化物がフェライト中に分散しており、かつ平
均炭化物粒径は0.4〜1.0μmであり、必要に応じてフェ
ライト結晶粒径が20μm以上に調整されている中・高炭
素鋼板。鋼成分として、Si,Mn,Cr,Mo,C
u,Ni等を適宜添加したものを用いることができる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、炭化物の分散形態
に特徴を有する、局部延性および焼入れ性に優れた中・
高炭素鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】鋼中のC含有量が概ね0.1〜0.8質量%
の、いわゆる中・高炭素鋼板は、焼入れ強化が可能であ
るとともに焼鈍状態ではある程度の加工性も有している
ため、自動車部品をはじめ各種機械部品や軸受け部品の
素材として広く使用されている。部品の製造にあたって
は、一般的には打抜加工や曲げ成形が施され、さらに比
較的軽度な絞り加工,伸びフランジ成形が施されること
もある。また、部品形状が複雑な場合は、二ないし三部
品を溶接して製造される場合も多い。そしてこれらの加
工部品は熱処理を経て各種用途の部品に仕上げられてい
く。
【0003】ところが近年、部品の製造コストを低減す
べく、部品の一体成形や、部品加工の工程簡略化が進め
られている。このことは素材側から見ればより加工率の
高い(=塑性変形量の大きい)加工に耐えなくてはなら
ないことを意味する。つまり、加工技術の高度化に伴
い、素材である中・高炭素鋼板自体にもより高い加工性
が要求されるようになってきた。特に昨今では、打抜加
工や曲げ加工のみならず、高度な伸びフランジ成形加工
(例えば穴拡げ加工)にも耐え得る局部延性に優れた鋼
板素材のニーズが高まるつつある。
【0004】こうした中、特公昭61-15930号公報,特公
平5-70685号公報,および特開平4-333527号公報には、
加工方法あるいは熱処理方法を工夫することによって棒
鋼中の炭化物を球状化し、棒鋼線材の加工性を改善する
技術が紹介されている。しかし、これらはいずれも棒鋼
線材を対象とするものであり、素材が板材である場合に
問題となる伸びフランジ性の改善手段は明らかにされて
いない。
【0005】また、特開平8-3687号公報には、Cを0.3m
ass%以上含有し、炭化物の占める面積率が20%以下
で、粒径1.5μm以上の炭化物の割合が30%以上である
加工用高炭素鋼板が示されている。これは炭化物の形態
を制御して鋼板の加工性を改善したものではあるが、局
部延性に関連する伸びフランジ性といった高度な加工性
を改善するには至っていない。また、炭化物粒径を1.5
μm以上と粗大化させることは、高周波焼入れ等で行わ
れる短時間の加熱処理において炭化物の固溶化を不十分
にし、焼入れ不良を起こし易くする。
【0006】さらに特開平8-120405号公報には、C:0.
20〜0.60%の他、Si,Al,N,B,Ca等の黒鉛化
を促進する元素を含有し、C含有量の10〜50%が黒鉛化
しており、断面の鋼組織が3μm以上の黒鉛粒子を特定
量含んだ球状化セメンタイトの分散したフェライト相に
なっている加工性に優れた薄鋼板が示されている。この
薄鋼板は穴拡げ性と二次加工性に優れているという。し
かしその薄鋼板は含有炭素の黒鉛化を利用して加工性を
改善したものであるから、黒鉛化を促進する元素の添加
した鋼を用いる必要があり、一般的な市販の中・高炭素
鋼種に広く適用できるものではない。またこの場合も、
粗大化した黒鉛粒子を含ませることは、高周波焼入れ等
の短時間加熱による焼入れ性を阻害する要因になる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】以上のように、加工性
の中でも「伸びフランジ性」といった、特に局部延性を
改善した中・高炭素鋼板のニーズが高いにもかかわら
ず、一般的な中・高炭素の鋼種において、部品加工後の
焼入れ性を確保しつつ鋼板の局部延性を改善する手法は
確立されていない。その理由として、局部延性と焼入れ
性をともに満足させるに足る鋼板の好適な金属組織が未
だ明らかにされていないことが挙げられる。
【0008】そこで本発明は、「伸びフランジ性」等の
局部延性を安定的に改善することができ、かつ、部品加
工後に行う焼入れ処理として高周波焼入れ等の短時間加
熱による焼入れ処理を採用することができるような鋼板
の金属組織を特定し、特殊な元素を添加することなく一
般的な中・高炭素鋼の鋼種において局部延性および焼入
れ性に優れた鋼板を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的は、請求項1の
発明、すなわち、C:0.1〜0.8質量%、S:0.01質量%
以下の亜共析鋼からなり、下記(a)で定義される炭化物
球状化率が90%以上であるように炭化物がフェライト中
に分散しており、かつ下記(b)で定義される平均炭化物
粒径が0.4〜1.0μmである局部延性および焼入れ性に優
れた中・高炭素鋼板によって達成される。 (a)炭化物球状化率:鋼板断面の金属組織観察におい
て、観察視野内の炭化物総数に占める、炭化物の最大長
さpとその直角方向の最大長さqの比(p/q)が3未満
である炭化物の数の割合(%)をいう。ただし、観察視野
は炭化物総数が300個以上となる領域とする。 (b)平均炭化物粒径:鋼板断面の金属組織観察におい
て、観察視野内の個々の炭化物について測定した円相当
径を全測定炭化物について平均した値をいう。ただし、
観察視野は炭化物総数が300個以上となる領域とする。
【0010】請求項2の発明は、請求項1の発明におい
て、対象とする鋼を特に、質量%において、C:0.1〜
0.8%,Si:0〜0.40%(無添加を含む),Mn:0.3
〜1.0%を含有し、P:0.03%以下,S:0.01%以下,
T.Al:0.1%以下で、残部がFeおよび不可避的不純
物である鋼としたものである。ここでT.Alは、鋼中
に含まれるトータルAlを意味する。
【0011】請求項3の発明は、同様に対象とする鋼
を、質量%において、C:0.1〜0.8%,Si:0〜0.40
%(無添加を含む),Mn:0.3〜1.0%,Cr:0〜1.2
%(無添加を含む),Mo:0〜0.3%(無添加を含
む),Cu:0〜0.3%(無添加を含む),Ni:0〜2.0
%(無添加を含む)を含有し、P:0.03%以下,S:0.
01%以下,T.Al:0.1%以下で、残部がFeおよび不
可避的不純物である鋼としたものである。ここで、S
i,Cr,Mo,Cu,Niの下限の0%はその元素が
無添加であることを意味する。例えば請求項3で対象と
する鋼の一例としては、これらの元素のうちSiとCr
とMoだけを規定範囲内で添加し他のCu,Niは添加
しない鋼などが挙げられる。
【0012】請求項4の発明は、請求項1,2または3
の発明において、特にフェライトの結晶粒径が20μm以
上であることに特徴を有するものである。
【0013】請求項5の発明は、請求項1,2,3また
は4の発明における局部延性および焼入れ性に優れた中
・高炭素鋼板において、特に当該鋼板が伸びフランジ加
工用の鋼板であることに特徴を有するものである。
【0014】
【発明の実施の形態】本発明者らは、一般的な中・高炭
素鋼種における鋼板の加工性を改善する手段について詳
細に検討してきた。その結果、一般的な打抜加工性や
曲げ加工性が向上する場合でも、伸びフランジ性等の局
部延性が改善されるとは限らないこと、炭化物を単に
球状化させるだけでは局部延性の安定した改善を図るこ
とはできないこと、そして、伸びフランジ性等の局部
延性は、鋼板中における炭化物の分散形態に大きく依存
し、具体的には炭化物のより一層の球状化と、平均炭化
物粒径を大きくすることによって改善し得ることを知見
した。さらにその際、高周波焼入れ性を阻害しない範囲
で、局部延性を十分に改善することが可能であることも
わかった。
【0015】伸びフランジ成形加工によって生じる割れ
や亀裂は、加工変形中に生じる非常に局所的な欠陥によ
って敏感に引き起こされるものと考えられる。中・高炭
素鋼板においては、そのような欠陥の生成原因として、
炭化物(セメンタイト)を起点として生じたミクロボイ
ドの成長(連結)が挙げられる。このため、中・高炭素
鋼板の伸びフランジ性を改善するうえで、加工変形時に
おいて上記ミクロボイドの生成・成長をできるだけ抑制
できるような金属組織に調整することが重要であると考
えられる。伸びフランジ性が他の一般的な加工性の改善
に伴って必ずしも同様に改善されないのは、他の加工性
には影響を及ぼさないようなミクロ的な欠陥が、伸びフ
ランジ性に対しては敏感に影響するためであると推察さ
れる。以下、本発明を特定するための事項について説明
する。
【0016】本発明では、C:0.1〜0.8質量%を含有す
る中・高炭素鋼を対象とする。Cは炭素鋼においては最
も基本となる合金元素であり、その含有量によって焼入
れ硬さおよび炭化物量が大きく変動する。C含有量が0.
1質量%以下の鋼では、各種機械構造用部品に適用する
うえで十分な焼入れ硬さが得られない。一方、C含有量
が0.8質量%を超えると、熱間圧延後の靭性が低下して
鋼帯の製造性・取扱い性が悪くなるとともに、焼鈍後に
おいても十分な延性が得られないため、加工度の高い部
品への適用が困難になる。したがって、本発明では適度
な焼入れ硬さと加工性を兼ね備えた素材鋼板を提供する
観点から、C含有量が0.1〜0.8質量%の範囲の鋼を対象
とする。なお、C含有量が低くなるほど局部延性は一層
改善される。このため、伸びフランジ性を特に重視する
用途ではC含有量が0.1〜0.5質量%の鋼を使用すること
が望ましい。
【0017】Sは、MnS系介在物を形成する元素であ
る。この介在物の量が多くなると局部延性が劣化するの
で、鋼中のS含有量はできるだけ低減することが望まし
い。本発明で規定する炭化物分散形態を実現させれば、
S含有量を特別に低減していない一般的な市販鋼に対し
ても伸びフランジ性の向上効果は得られる。しかし、C
含有量が0.8質量%近くまで高くなった場合でも、後述
するElv値およびλ値がそれぞれ例えば35%以上,40
%以上というような、高い局部延性を安定して確保する
ためには、S含有量を0.01質量%以下に低減した鋼を用
いるのが望ましい。本願発明ではそのような観点からS
含有量を0.01質量%以下に規定した。なお、さらにEl
v値およびλ値をそれぞれ40%以上,55%以上にまで高
めた非常に優れた局部延性を有する鋼板素材を安定して
得るためには、前述のようにC含有量を0.1〜0.5質量%
としたうえで、S含有量を0.005質量%以下に低減した
鋼を用いるのがよい。
【0018】Pは、延性や靭性を劣化させるので、0.03
質量%以下の含有量とすることが望ましい。Alは溶鋼
の脱酸剤として添加されるが、鋼中のT.Al量が0.1質
量%を超えると鋼の清浄度が損なわれて鋼板に表面疵が
発生しやすくなるので、T.Al含有量は0.1質量%以下
とすることが望ましい。
【0019】Siは、局部延性に対して影響の大きい元
素の1つである。Siを過剰に添加すると固溶強化作用
によりフェライトが硬化し、成形加工時に割れ発生の原
因となる。またSi含有量が増加すると製造過程で鋼板
表面にスケール疵が発生する傾向を示し、表面品質の低
下を招く。そこでSiを添加するに際しては0.40質量%
以下の含有量となるようにする。加工性を特に重視する
用途ではSi含有量は0.1質量%以下とすることが望ま
しい。Mnは、鋼板の焼入れ性を高め、強靭化にも有効
な添加元素である。十分な焼入れ性を得るためには0.3
質量%以上の含有が望ましい。しかし、1.0質量%を超
えて多量に含有させるとフェライトが硬化し、加工性の
劣化を招く。そこで、Mnは0.3〜1.0質量%の範囲で含
有させることが望ましい。
【0020】また本発明では必要に応じてCr,Mo,
Cu,Ni等の元素を添加して各特性の改善を図った鋼
を使用できる。Crは、焼入れ性を改善するとともに焼
戻し軟化抵抗を大きくする元素である。しかし、1.2質
量%を超える多量のCrが含まれると3段階焼鈍を施し
ても軟質化しにくく焼入れ前のプレス成形性や加工性が
劣化するようになる。したがってCrを添加する場合は
1.2質量%以下の範囲とする。Moは、少量の添加でC
rと同様に焼入れ性・焼戻し軟化抵抗の改善に寄与す
る。しかし、0.3質量%を超える多量のMoが含まれる
と3段階焼鈍を施しても軟質化しにくく焼入れ前のプレ
ス成形性や加工性が劣化するようになる。したがってM
oを添加する場合は0.3質量%以下の範囲とする。Cu
は、熱延中に生成する酸化スケールの剥離性を向上させ
るので、鋼板の表面性状の改善に有効である。しかし、
0.3質量%以上含有させると溶融金属脆化により鋼板表
面に微細なクラックが生じやすくなるので、Cuは0.3
質量%以下の範囲で添加できる。Cu含有量の好ましい
範囲は0.10〜0.15質量%である。Niは、焼入れ性を改
善するとともに低温脆性を防止する合金成分である。ま
たNiは、Cu添加によって問題となる溶融金属脆化の
悪影響を打ち消す作用を示すので、特にCuを約0.2%
以上添加する場合にはCu添加量と同程度のNiを添加
することが極めて効果的である。しかし、2.0質量%を
超える多量のNiが含まれると3段階焼鈍を施しても軟
質化しにくく焼入れ前のプレス成形性や加工性が劣化す
るようになる。したがってNiを添加する場合は2.0質
量%以下の範囲とする。
【0021】次に、本発明鋼板の金属組織を特定するた
めの事項について説明する。
【0022】〔炭化物球状化率〕炭化物球状化率は先に
定義したとおりであるが、これは、全炭化物のうち「球
状化した炭化物」とみなされるものがどの程度を占めて
いるかを表している。ここで、ある炭化物が「球状化し
た炭化物」とみなされるための条件として、鋼板断面の
金属組織観察平面内において、その炭化物の最大長さp
とそれに直角方向の最大長さqの比(p/q)が3未満で
あることを要件とした。例えば、再生パーライトにおけ
る炭化物では、そのほとんどは上記の比(p/q)が3以
上である。一方、Ac1点以上の加熱で残留した未溶解炭
化物を起点として成長した炭化物では、上記の比(p/
q)が3未満を満たすようになる。
【0023】炭化物の形状を立体的に正確に捉えて規定
することは難しく、また製品鋼板の適否を判定するうえ
でも煩雑である。これに対し、鋼板断面の平面的な金属
組織を観察することは容易である。本発明者らは、鋼板
断面の金属組織の中で観察される炭化物形状について上
記のようなpとqの比(p/q)を用いて球状化の程度を
捉えたとき、鋼板の局部延性に対する炭化物形状の影響
を適切に評価できることを確認した。そして、種々の実
験の結果、上記の比(p/q)が3未満であるような「球
状化した炭化物」の数が全体の炭化物数の90%以上を占
めており、かつ後述の平均炭化物粒径が特定範囲となる
ときに、その鋼板は高い局部延性を示すことを見出し
た。
【0024】炭化物球状化率を高めると局部延性が向上
するのは、球状化率の高い炭化物は加工時におけるミク
ロボイドの生成起点になりにくいためであると考えられ
る。炭化物球状化率の低い鋼板では、分散している炭化
物のうち、例えば再生パーライトの炭化物のように球状
化が不十分な炭化物を起点としてミクロボイドの生成・
連結が助長され、これが割れの原因となる。伸びフラン
ジ性等の局部延性を安定して改善するためには、後述の
平均炭化物粒径と相まって、鋼板の炭化物球状化率を90
%以上とする必要がある。
【0025】〔平均炭化物粒径〕炭化物の平均粒径を大
きくすることによっても局部延性は顕著に改善されるこ
とが確認された。鋼中の炭素量は一定であるから、平均
炭化物粒径の増大は炭化物総数の減少を意味する。炭化
物総数が減少すれば、個々の炭化物を起点として生成し
たミクロボイドの連結が抑制され、これが局部延性の顕
著な向上に寄与するものと考えられる。一方、高周波焼
入れのような短時間の加熱による焼入れ性を向上させる
ためには、炭化物の粒径は小さい方が良い。これは、炭
化物粒径が大きいと短い加熱時間で炭化物を十分に固溶
させることが困難となるからである。このように、局部
延性の向上と焼入れ性の向上は、平均炭化物粒径の変化
に対して相反する挙動をとる。したがって、これら両特
性を満足させるためには、平均炭化物粒径を厳格に規定
する必要がある。
【0026】平均炭化物粒径は、鋼板断面の金属組織観
察において、観察視野内の個々の炭化物について測定し
た円相当径を全測定炭化物について平均した値をいう。
具体的には個々の炭化物について面積を測定し、その面
積から円相当径を算出する。面積の測定は画像処理装置
を用いて行うことができる。そして測定した全ての炭化
物の円相当径の総和を求め、その総和を測定炭化物の総
数で除した値を平均炭化物粒径とする。数値の信頼性を
高めるために、観察視野は測定炭化物総数が300個以上
となる領域とする。
【0027】本発明者らの詳細な伸びフランジ成形実験
の結果、局部延性の観点からは、先述の炭化物球状化率
を90%以上としたうえで、平均炭化物粒径を0.4μm以
上とする必要があることがわかった。一方、加工後に高
周波焼入れを実施する場合の焼入れ性の観点からは、平
均炭化物粒径を1.0μm以下に抑える必要があることが
実験により明らかになった。したがって、本発明では鋼
板中の平均炭化物粒径を0.4〜1.0μmの範囲に規定し
た。
【0028】〔フェライトの結晶粒径〕焼鈍後のフェラ
イト粒径も、局部延性の改善に影響を与える因子であ
る。フェライト粒径が20μm未満になると、材料の局部
延性が低下する傾向を示すようになる。したがって、前
記の炭化物分散形態適正化の効果を最大限発揮するため
には、フェライトの結晶粒径(平均粒径)を20μm以上
とすることが望ましい。また、フェライト結晶粒径が不
揃いの、いわゆる混粒組織を呈すると加工性に悪影響を
及ぼすようになるので、できるだけ整粒組織にすること
が望ましい。平均粒径が35μmを超えると混粒組織にな
りやすいので フェライト結晶粒径(平均粒径)は20〜
35μmの範囲に調整することが一層望ましい。
【0029】以上のような金属組織を有する鋼板は、焼
鈍方法を工夫することによって得ることができる。例え
ば、鋼板のA1変態点直下および直上の特定温度範囲に
おける加熱を適切に組み合わせた焼鈍によって実現でき
る。具体的には例えば、熱延鋼板または冷延鋼板に対し
て、Ac1−50℃〜Ac1未満の温度範囲で0.5時間以上保
持する1段目の加熱を行った後、Ac1〜Ac1+100℃の
温度範囲で0.5〜20時間保持する2段目の加熱およびAr
1−50℃〜Ar1の温度範囲で2〜20時間保持する3段目の
加熱を連続して行い、かつ、2段目の保持温度から3段
目の保持温度への冷却速度を5〜30℃/hとする3段階
焼鈍を施すことによって、本発明で規定する適正な金属
組織を有する鋼板を好適に製造することができる。
【0030】
【実施例】表1に示す化学組成の鋼を溶製し、熱間圧延
により板厚2.3mmの熱延板とした。その際、熱延コイ
ル巻取温度を変えて熱延組織を変化させた。得られた熱
延板は、酸洗後、種々の条件で焼鈍し、鋼板の炭化物球
状化率,平均炭化物粒径,フェライト結晶粒径を変化さ
せた。その後、引張試験,切欠引張試験,穴拡げ試験,
および高周波焼入れ試験に供した。
【0031】
【表1】
【0032】炭化物球状化率は、走査電子顕微鏡により
鋼板断面の一定領域内を観察し、炭化物の最大長さpと
その直角方向の最大長さqの比(p/q)が3未満となる
ものを「球状化した炭化物」としてカウントし、測定炭
化物総数に占める当該「球状化した炭化物」の数の割合
を算出して求めた。その際、測定炭化物総数は300〜100
0個の範囲であった。平均炭化物粒径は、上記の炭化物
球状化率を測定した領域内について画像処理装置(ニレ
コ社製、LUZEX III U)を利用して、個々の炭化
物の円相当径を算出し、それを全測定炭化物について平
均して求めた。フェライト結晶粒径は、JIS G 0522に規
定される切断法に従って、直行する2つの線分で切断さ
れるフェライト結晶粒の数を測定し、10視野測定の結果
を平均して求めた。
【0033】引張試験は、JIS 5号引張試験片を用い、
平行部の標点間距離を50mmとして行った。切欠引張試
験は、JIS 5号引張試験片の平行部長手方向中央位置に
おける幅方向両サイドに開き角45°,深さ2mmのVノ
ッチを形成した試験片を用いて引張試験を行う方法で行
った。Vノッチを含む標点間距離5mmに対する伸び率
を破断後に求め、その伸び率を切欠引張伸びElvとし
た。穴拡げ試験は、150mm角の鋼板の中央部にクリア
ランス20%にて10mm(d0)の穴を打抜いた後、その穴
部について、50mmφ球頭ポンチにて押し上げる方法で
行い、穴周囲に亀裂が発生した時点での穴径dを測定し
て、次式で定義される穴拡げ率λ(%)を求めた。 λ=(d−d0)/d0×100 これらElv値およびλ値は局部延性を表す指標であ
り、伸びフランジ性を定量的に評価し得るものである。
高周波焼入れ試験は、直径5mm×長さ10mmの試験片
を鋼板から切り出し、これを高周波加熱にて900℃で5秒
間保持したのち、水焼入れする方法で行い、焼入れ後の
サンプルの硬度を測定して焼入れ性を評価した。これら
の試験結果を金属組織と併せて表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】表2において、No.1のA鋼は、Elv値,
λ値とも高い値を示し、加工性に優れているが、これは
C含有量が0.1質量%未満であるため、加工後の熱処理
において焼入れ不良が生じた。No.15のH鋼は、逆にC
含有量が0.8質量%を超えるため加工性が著しく低いと
ともに、加工後の焼入れ時にいわゆる焼き割れが生じ
た。また、No.6のD鋼は、S含有量が0.01質量%を超え
て高いため、Elv値,λ値とも他のものより低下し
た。
【0036】これらA鋼,H鋼,D鋼以外の鋼において
は、炭化物球状化率および平均炭化物粒径が本発明で規
定する範囲内にある本発明例(No.2,4,5,9,10,12,13,1
6,17)では、C含有量が同レベルの比較例と比べていず
れもElv値およびλ値が顕著に向上しており、また、
高周波焼入れ性にも優れていた。その中でも特にフェラ
イト結晶粒径が20μm以上のNo.2,5,10では、Elv値,
λ値とも一層高い値を示した。
【0037】これに対し、炭化物球状化率が不足し、平
均炭化物粒径も小さいNo.7はElv値,λ値とも低下し
た。炭化物球状化率は高いが、平均炭化物粒径の小さい
No.3,11も、Elv値,λ値が低かった。逆に炭化物球状
化率が低く、平均炭化物粒径が大きいNo.8でもElv
値,λ値とも低かった。
【0038】また、平均炭化物粒径が1.0μmを超えて
いるNo.14では、高周波焼入れ後の硬度が不足した。
【0039】図1は、表2のNo.2〜14について、C含有
量とλ値の関係をプロットしたものである。C含有量が
同じレベルであっても、本発明で規定した範囲に金属組
織が厳密にコントロールされたものは、λ値(局部延
性)が著しく向上していることがわかる。
【0040】次に、表2における本発明例の鋼板の製造
条件を示しておく。No.2,4,5,9,10,12,13は、熱延巻取
温度600〜650℃で熱延板を得た後、酸洗し、「Ac1点よ
り低い690℃で4h保持→Ac1点以上の730℃で4h保持→
冷却速度10℃/hで冷却→Ar1点以下の690℃で4h保持
→650℃まで冷却速度10℃/hで冷却→空冷」の焼鈍を
施して製造したものである。No.16は、熱延巻取温度580
〜630℃で熱延板を得た後、酸洗し、「Ac1点より低い6
90℃で4h保持→Ac1点以上の770℃で4h保持→冷却速
度10℃/hで冷却→Ar1点以下の710℃で8h保持→650
℃まで冷却速度10℃/hで冷却→空冷」の焼鈍を施して
製造したものである。No.17は、熱延巻取温度580〜630
℃で熱延板を得た後、酸洗し、「Ac1点より低い690℃
で4h保持→Ac1点以上の750℃で4h保持→冷却速度10
℃/hで冷却→Ar1点以下の710℃で8h保持→650℃ま
で冷却速度10℃/hで冷却→空冷」の焼鈍を施して製造
したものである。
【0041】
【発明の効果】以上のように、本発明では、「炭化物球
状化率」および「平均炭化物粒径」を適正な範囲に特定
し、優れた局部延性および焼入れ性を有する中・高炭素
鋼板を実現した。したがって、本発明に係る鋼板は、従
来の中・高炭素鋼板より局部変形能が著しく向上したこ
とにより部品形状が複雑な自動車部品等、各種機械部品
の素材として好適に用いられ、特に伸びフランジ成形加
工用鋼板として非常に適している。また、部品加工後に
は高周波焼入れを適用することができるので生産性の向
上にも寄与できる。さらに、軟質化によりプレス金型寿
命の向上にも貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明例と比較例の鋼板におけるC含有量とλ
値の関係を表すグラフ。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 平松 昭史 広島県呉市昭和町11番1号 日新製鋼株式 会社技術研究所内 (72)発明者 山田 利郎 兵庫県尼崎市鶴町1番地 日新製鋼株式会 社技術研究所内

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 C:0.1〜0.8質量%、S:0.01質量%以
    下の亜共析鋼からなり、下記(a)で定義される炭化物球
    状化率が90%以上であるように炭化物がフェライト中に
    分散しており、かつ下記(b)で定義される平均炭化物粒
    径が0.4〜1.0μmである局部延性および焼入れ性に優れ
    た中・高炭素鋼板。 (a)炭化物球状化率:鋼板断面の金属組織観察におい
    て、観察視野内の炭化物総数に占める、炭化物の最大長
    さpとその直角方向の最大長さqの比(p/q)が3未満
    である炭化物の数の割合(%)をいう。ただし、観察視野
    は炭化物総数が300個以上となる領域とする。 (b)平均炭化物粒径:鋼板断面の金属組織観察におい
    て、観察視野内の個々の炭化物について測定した円相当
    径を全測定炭化物について平均した値をいう。ただし、
    観察視野は炭化物総数が300個以上となる領域とする。
  2. 【請求項2】 質量%において、C:0.1〜0.8%,S
    i:0〜0.40%(無添加を含む),Mn:0.3〜1.0%を
    含有し、P:0.03%以下,S:0.01%以下,T.Al:
    0.1%以下で、残部がFeおよび不可避的不純物である
    鋼からなり、請求項1の(a)で定義される炭化物球状化
    率が90%以上であるように炭化物がフェライト中に分散
    しており、かつ請求項1の(b)で定義される平均炭化物
    粒径が0.4〜1.0μmである局部延性および焼入れ性に優
    れた中・高炭素鋼板。
  3. 【請求項3】 質量%において、C:0.1〜0.8%,S
    i:0〜0.40%(無添加を含む),Mn:0.3〜1.0%,
    Cr:0〜1.2%(無添加を含む),Mo:0〜0.3%(無
    添加を含む),Cu:0〜0.3%(無添加を含む),N
    i:0〜2.0%(無添加を含む)を含有し、P:0.03%以
    下,S:0.01%以下,T.Al:0.1%以下で、残部がF
    eおよび不可避的不純物である鋼からなり、請求項1の
    (a)で定義される炭化物球状化率が90%以上であるよう
    に炭化物がフェライト中に分散しており、かつ請求項1
    の(b)で定義される平均炭化物粒径が0.4〜1.0μmであ
    る局部延性および焼入れ性に優れた中・高炭素鋼板。
  4. 【請求項4】 フェライトの結晶粒径は20μm以上であ
    る、請求項1〜3に記載の局部延性および焼入れ性に優
    れた中・高炭素鋼板。
  5. 【請求項5】 鋼板は伸びフランジ加工用の鋼板であ
    る、請求項1〜4に記載の中・高炭素鋼板。
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