JP2014034717A - 高炭素鋼板 - Google Patents

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Abstract

【課題】熱処理後のビッカース硬度で650以上を要求されるような高強度鋼板部品の素材に供され、熱処理前においては軟質で良好な成形性を備え、熱処理後においては硬度に比して優れた耐摩耗性を備えるとともに優れた靭性をも備える高炭素鋼板を提供する。
【解決手段】C:0.50〜1.00%、Si:0.35%以下、Mn:0.60〜1.00%、P:0.015%以下、S:0.0030%以下、Cr:0.30〜0.60%、sol.Al:0.005〜0.080%、N:0.0050%以下を含有し、さらに、Ti:0.0010〜0.020%およびNb:0.0010〜0.030%からなる群から選択された1種または2種を含有し、残部Feおよび不純物からなり、さらに、Cr含有量およびMn含有量が(1)式:1.20≦(Mn/55)/(Cr/52)≦2.00を満足する化学組成を有する。
【選択図】図2

Description

本発明は、高炭素鋼板に関する。例えば、本発明は、熱処理後のビッカース硬度で650以上を要求されるような高強度鋼板部品の素材に供される高炭素鋼板に関するものであり、熱処理前においては軟質で良好な成形性を備え、かつ熱処理後においては硬度に比して優れた耐摩耗性を備えるとともに優れた靭性をも備える高炭素鋼板に関する。
自動車のトランスミッション部品等には、その複雑な動きや耐久性の観点から、非常に高い強度と優れた耐摩耗性および靭性が要求される。
強度を向上させる手段としてCを添加する方法等が、耐摩耗性を向上させる手段としてCrを添加する方法等が、靭性を向上させる手段としてNbを添加する方法等が、一般に知られる。しかしながら、C、Cr、Nb等の合金元素を単に添加するのみで何ら工夫を施すことなく製造される鋼板は、合金元素の影響により硬化し、熱処理前の素材段階における成形性が劣化する。
一方、成形性と耐摩耗性とを具備する鋼板として、以下の技術が提案されている。
特許文献1には、成形性と耐摩耗性とに優れた熱処理用鋼板が開示されている。
特許文献2には、耐摩耗性に優れた加工面を有する加工部材の製造方法およびそれに供する加工部材用高強度鋼板が開示されている。
特許文献3には、耐摩耗性及び打抜き加工性に優れたオートマチックトランスミッションプレート用冷延鋼板が開示されている。
さらに、特許文献4には、熱処理前においては軟質で良好な成形性を備え、かつ熱処理後においては硬度に比して優れた耐摩耗性を備える高炭素鋼板が開示されている。
特開2002−121647号公報 特開2003−268491号公報 特開2003−277883号公報 特開2006−274348号公報
自動車のトランスミッション用の部品等には、素材として供される鋼板を成形して鋼板部材とし、この鋼板部材に焼入れ焼戻しやオーステンパー等の熱処理を施すものがあり、熱処理前の素材段階における鋼板については軟質で良好な加工性を有することが、また熱処理後の鋼板部材については高い強度と耐摩耗性、さらには優れた靭性を有することが、それぞれ要求される。
熱処理後の鋼板部材について耐摩耗性を確保するには、CやCr等の含有量が多いほうが有利であるが、これにより、熱処理前の素材段階における鋼板の成形性の劣化を招くことにつながる。
一方、熱処理前の素材段階における鋼板を軟質化することにより良好な成形性を確保しようとしてCやCr等の含有量を減らすと、熱処理後の硬度が低下し、熱処理後の鋼板部材について必要な強度が確保できなくなったり耐摩耗性が劣化したりする。
特許文献1により開示される熱処理用鋼板のC含有量は0.25〜0.40%(本明細書においては特にことわりがない限り化学組成についての「%」は「質量%」を意味するものとする)であり、しかも鋼中の炭化物としてグラファイトの含有をある程度許容するものである。鋼中の炭化物をグラファイト化させることは、鋼板の降伏点(YP)や引張強度(TS)を低下させることには有効な手段であるものの、グラファイト自体は延性に乏しいために曲げ加工等の際にその部分から亀裂を生じ易く、真に成形性に優れるとは云えない。また、この熱処理用鋼板は、C含有量が少ないために耐摩耗性も充分とは云えない。
特許文献2により開示される加工部材用高強度鋼板のC含有量は0.05〜0.25%であり、しかも成形後に塗装焼付け処理程度の低温熱処理を施すものであり、本発明のように焼入れ等の高温熱処理を施すことを前提とするものとは用途が異なる。
さらに、特許文献3により開示されるオートマチックトランスミッションプレート用冷延鋼板のC含有量は0.15〜0.25%であり、かつ成形後に熱処理を施さないものであり、高温熱処理に供することを前提とするものとは用途が異なる。
これらの技術は、C含有量が少ないことからある程度良好な成形性を示すものの、耐摩耗性の点では充分であるとは云えない。
これらの技術に対し、特許文献4により開示される高炭素鋼板は、熱処理前においては軟質で良好な成形性を備え、かつ熱処理後においては硬度に比して優れた耐摩耗性を備えており、優れた発明である。しかし、靭性に関しては十分に検討されているとは云い難く、この点において改善の余地がある。
本発明者らは、上述した課題を解決するために、熱処理前の素材段階における高炭素鋼板の組成および組織について鋭意検討を行った結果、以下に列記する知見(A)〜(C)を得た。
(A)熱処理後の鋼板部材の耐摩耗性には、鋼板部材の硬度のみならず鋼板部材中の炭化物が重要な働きをする。すなわち、素材として供される高炭素鋼板は、一般に、鋼板部材に成形加工された後に焼入れ焼戻し等の熱処理が施されて使用されるが、この熱処理の際に、炭化物を総てオーステナイト中に固溶させるのではなく適度に未固溶炭化物として残留させることが有効である。そして、この未固溶炭化物の硬度が鋼板部材の耐摩耗性に大きく影響を及ぼす。この未固溶炭化物は、MnとCrが溶け込み複炭化物となっており、高炭素鋼板におけるMnとCrとの原子数比{(Mn/55)/(Cr/52)}を特定の範囲内とすることにより耐摩耗性を著しく向上させることができる。
(B)熱処理前の素材段階における鋼板を軟質にするには、C、Mn、Cr等の合金元素の含有量を低減することが有効であるが、鋼板部材の強度と耐摩耗性とを確保するためには、ある程度含有させることが必要となり、鋼組成のみで鋼板の軟質化を図ることには限界がある。そこで、フェライトの粒径および球状化炭化物の分布を特定の範囲内とすることにより、従来材よりも合金元素の含有量に比して軟質化することが可能となり、素材段階における鋼板について良好な加工性を実現することができる。
(C)熱処理後の鋼板部材の靭性は、TiおよびNbの1種または2種を含有させることにより向上させることができる。しかし、TiやNbは、熱処理前における鋼板を硬質化させ、優れた加工性を確保することが困難にしたり、焼入れ時のオーステナイトの細粒化させ、焼入れ性の低下を招いたりする。また、Tiは、焼入れ後の硬さに影響を及ぼすCをTiCを形成することで消費してしまい、焼入後において目的とする硬度を確保することを困難にする。そこで、これらの副作用を考慮しつつTiおよびNbによる靭性向上作用を享受することにより、上述した性能を損なうことなく、熱処理後の鋼板部材について優れた靭性をも確保することができる。
本発明は、これらの新規な知見(A)〜(C)に基づくものであり、以下に列記の通りである。
(1)C:0.50〜1.00%、Si:0.35%以下、Mn:0.60〜1.00%、P:0.015%以下、S:0.0030%以下、Cr:0.30〜0.60%、sol.Al:0.005〜0.080%、N:0.0050%以下を含有し、さらに、Ti:0.0010〜0.020%およびNb:0.0010〜0.030%からなる群から選択された1種または2種を含有し、残部Feおよび不純物からなり、さらに、Cr含有量およびMn含有量が下記(1)式を満足する化学組成を有し、フェライトの平均結晶粒径が10.0μm以上であるとともに、球状化炭化物のうち粒径が1.0μm以上であるものの個数比率が50%以上であることを特徴とする高炭素鋼板。
1.20≦(Mn/55)/(Cr/52)≦2.00・・・・・・・(1)
ただし、(1)式における符号MnおよびCrは、いずれも、鋼中における各元素の含有量(質量%)を示す。
(2)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ni:0.15%以下、Mo:0.30%以下およびV:0.05%以下からなる群から選択された1種または2種以上を含有することを特徴とする、(1)項に記載の高炭素鋼板。
(3)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.010%以下を含有することを特徴とする、(1)項または(2)項に記載の高炭素鋼板。
(4)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cu:0.15%以下を含有することを特徴とする、(1)項から(3)項までのいずれかに記載の高炭素鋼板。
本発明により、熱処理後のビッカース硬度で650以上を要求されるような高強度鋼板部品の素材に供される高炭素鋼板であって、熱処理前においては軟質で良好な成形性を備え、熱処理後においては硬度に比して優れた耐摩耗性を備えるとともに優れた靭性をも備える高炭素鋼板を得ることができる。
より具体的には、本発明により、熱処理前の素材段階における鋼板の状態では、ビッカース硬度が170以下と非常に軟質でありながら、熱処理後の鋼板部材の状態では、ビッカース硬度が650以上と高い強度を備えるとともに優れた耐摩耗性と靭性とを備える高炭素鋼板を得ることができる。
このため、本発明は、自動車のトランスミッション部品等の用途に利用価値の高い発明である。
図1は、大越式摩耗試験機の概要を示す説明図である。 図2は、摩耗試験の結果を示すグラフである。
以下、本発明に係る高炭素鋼板を実施するための形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明の高炭素鋼板の限定理由を説明する。
(C:0.50〜1.00%)
Cは、焼入れ焼戻しあるいはオーステンパー、さらには必要に応じて浸炭処理等の熱処理を施した後における、硬度、耐摩耗性さらには疲労強度を向上させる。本発明においては、熱処理後のビッカース硬度で650以上を確保するために、C含有量を0.50%以上とする。一方、過剰に含有させると熱処理前の冷間加工性や熱処理後の靱性が劣化するため、C含有量を1.00%以下とする。好ましいC含有量は、0.65%以上0.80%以下である。
(Si:0.35%以下)
Siは、多量に含有するとSi酸化物を形成して熱処理後の鋼材の疲労強度の低下を招く。そこで、Si含有量を0.35%以下とする。好ましくは0.20%以下である。
(Mn:0.60〜1.00%)
Mnは、本発明において重要な元素である。すなわち、Mnは、セメンタイト中に固溶してセメンタイトの硬度を増加させることにより耐摩耗性を向上する。さらに、熱処理時の焼入性の確保を容易にしたり、あるいは靱性向上のための焼戻し温度およびオーステンパー温度を上昇させる。そこで、Mn含有量を0.60%以上とする。しかし、1.00%を超えて含有すると、熱処理前における鋼板の高度が高くなり、優れた加工性を確保することが困難となる。このため、Mn含有量を0.60%以上1.00%以下とする。好ましくは、0.70%以上0.85%以下である。
(P:0.015%以下)
Pは、鋼中に不可避的に含有される不純物元素であり、靭性を劣化させる。したがって、Pはなるべく少ないほうがよく、P含有量を0.015%以下とする。好ましくは0.010%以下である。
(S:0.0030%以下)
Sは、鋼中に不可避的に含有される不純物元素であり、Mnと結び付いてMnSを形成し、鋼板の靭性を劣化させる。したがって、Sはなるべく少ないほうがよく、S含有量を0.0030%以下とする。好ましくは0.0020%以下である。
(Cr:0.30〜0.60%)
Crは、本発明の中で耐摩耗性を確保する点で最も重要な元素である。Mnと同様に、セメンタイト中に固溶してセメンタイトの硬度を増加させることにより耐摩耗性の向上に寄与する。さらに、熱処理時の焼入性の確保を容易にしたり、あるいは靱性向上のための焼戻し温度およびオーステンパー温度を上昇させる作用を有する。そこで、Cr含有量を0.30%以上とする。しかし、0.60%を超えて含有させると、熱処理前における鋼板の硬度が高くなり、優れた加工性を確保することが困難となる。このため、Crの含有量を0.30%以上0.60%以下とする。好ましくは、0.45%以上0.55%以下である。
(sol.Al:0.005〜0.080%)
Alは、鋼の溶製過程で脱酸剤として添加される。また、NをAlNとして固定する作用も有する。Al含有量が0.005%未満では脱酸作用が不十分であり、一方0.080%を超えると清浄度が低下して表面性状が劣化する。このため、sol.Al含有量を0.005%以上0.080%以下とする。好ましくは0.020%以上0.040%以下である。
(N:0.0050%以下)
Nは、鋼中に不可避的に含有される不純物元素であり、Alと結び付いてAlNを形成し、その量が多量になると焼入れ性を阻害する場合がある。したがって、N含有量を0.0050%以下とする。好ましくは0.0040%以下である。
(Ti:0.0010〜0.020%およびNb:0.0010〜0.030%からなる群から選択された1種または2種)
TiおよびNbは、靭性を向上させる作用を有する元素であり、本発明の中で靭性を確保する点で重要な元素である。Ti:0.0010%未満かつNb:0.0010%未満では、目的とする靭性を確保することが困難である。したがって、Ti:0.0010%以上およびNb:0.0010%以上からなる群から選択された1種または2種を含有させる。一方、Ti含有量が0.020%超であったり、Nb含有量が0.020%超であったりすると、熱処理前における鋼板の硬度が高くなり、優れた加工性を確保することが困難となる。また、焼入れ時のオーステナイト粒径が小さくなるため、焼入れ性が低下する。さらにまた、Tiについては焼入れ後の硬さに影響を及ぼすCをTiCを形成することで消費してしまい、焼入後において目的とする硬度を確保することが困難となる。したがって、Ti含有量は0.020%以下、Nb含有量は0.030%以下とする。Ti含有量は0.010%以下とすることが好ましく、Nb含有量は0.010%以下とすることが好ましい。
(Cr含有量およびMn含有量:1.20≦(Mn/55)/(Cr/52)≦2.00)
Mn、Crはいずれも鉄炭化物に溶け易い元素である。セメンタイトにこれらの元素が固溶すると、一部のFeが置換されてMCと表される複炭化物になると考えられる。この際、鉄炭化物に溶ける元素の個数比が、耐摩耗性の確保に必要とされる炭化物の性質を決定する重要な因子である。すなわち、MnとCrとの原子数比{(Mn/55)/(Cr/52)}が1.20≦(Mn/55)/(Cr/52)≦2.00の関係を満たすときに、炭化物が大きな耐摩耗性の向上効果を発揮する。好ましくは、1.4≦(Mn/55)/(Cr/52)≦1.8である。
(Ni:0.15%以下、Mo:0.30%以下およびV:0.05%以下からなる群から選択された1種または2種以上)
Ni、MoおよびVは、いずれも靭性を向上させる作用を有する元素である。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、NiおよびMoは高価な元素であり、また、Mo含有量が過剰になると熱処理前における鋼板の硬度が高くなり、優れた加工性を確保することが困難となる。したがって、Ni含有量は0.15%以下、Mo含有量は0.30%以下とする。また、V含有量が過剰になると却って靭性が劣化するうえに、焼入れ後の硬さに影響を及ぼすCを炭化物を形成することで消費してしまい、焼入後において目的とする硬度を確保することが困難となる。したがって、V含有量は0.05%以下とする。上記作用による効果をより確実に得るには、Ni:0.001%以上、Mo:0.001%以上およびV:0.001%以上のいずれかを満足させることが好ましい。
(Ca:0.010%以下)
Caは、鋼中の介在物清浄度を向上させ、特に巾方向の衝撃値を向上させる作用を有する。したがって、Caを含有させてもよい。しかし、Ca含有量が過剰になると、Ca系の析出物により、却って清浄度が悪くなる。したがって、Ca含有量は0.010%以下とする。上記作用による効果をより確実に得るにはCa含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。
(Cu:0.15%以下)
Cuは、熱間圧延後の酸洗時のオーバーピックルによるピンホール疵等を防止し、鋼板の表面品質の向上に効果がある。したがって、Cuを含有させてもよい。しかし、Cuを過剰に含有させるとコスト増につながるので好ましくない。したがって、Cu含有量は0.15%以下とする。上記作用による効果をより確実に得るには、Cu含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
上記以外は、Feおよび不純物である。
また、熱処理前の素材段階における鋼板の組織は、素材としての加工性に重大な影響を及ぼすばかりか、熱処理そのものにも影響を与え、また、熱処理後の鋼板部材における耐摩耗性にも影響を及ぼす。このため、本実施の形態の高炭素鋼板の組織を説明する。
(フェライトの平均結晶粒径:10.0μm以上)
フェライトの結晶粒径は、熱処理前の鋼板の軟質性に大きな影響を及ぼす。具体的には、フェライトの平均結晶粒径が10.0μm未満では、熱処理前の鋼板を軟質化して成形性を確保することが困難になる。したがって、フェライトの平均結晶粒径を10.0μm以上とする。フェライトの平均結晶粒径の上限は特に規定しないが、フェライトの平均結晶粒径が50μm超であると、粒径を大きくすることに要する製造コストの増加が著しくなるので、フェライトの平均結晶粒径を50μm以下とすることが好ましい。
このフェライトの平均結晶粒径は、鋼板表面から板厚1/4深さの部位の領域で0.2mm×0.2mmの視野を500倍で撮影した組織写真から観察されるフェライト粒径の平均値として、規定される。
(球状化炭化物のうち粒径が1.0μm以上であるものの個数比率:50%以上)
球状化炭化物の粒径は、熱処理前の鋼板の加工性に大きな影響を及ぼすのはもちろんのこと、本発明の重要なポイントである耐摩耗性に対しても大きな影響を及ぼす。すなわち、炭化物の粒径が大きいほうが熱処理前の素材段階における鋼板の加工性を確保することを容易にするとともに、熱処理中における炭化物の固溶を抑制して未固溶炭化物の残存させることを容易にして、耐摩耗に好影響を及ぼす。具体的には、球状化炭化物のうち粒径が1.0μm以上であるものの個数比率が50%以上である状態が最も良好である。
球状化炭化物の粒径の測定は、ピクリン酸アルコールでエッチングしたミクロ組織を走査型電子顕微鏡によって観察し、さらに2000倍で10視野撮影した写真を画像解析して、個々の炭化物の面積を測定し、この測定値から個々の炭化物の円相当径を算出して、その大きさを測定することにより、行われる。
このように、本発明の高炭素鋼板は、MnとCrとの原子数比{(Mn/55)/(Cr/52)}を所定の範囲内とすることによって成形加工された後に行われる焼入れ焼戻し等の熱処理の際に、炭化物を総てオーステナイト中に固溶させるのではなく、MnとCrとが溶け込んだ未固溶炭化物として適度に残留させることができ、この未固溶炭化物の硬度により鋼板部材の耐摩耗性を大きく向上することができるとともに、フェライトの平均結晶粒径、および粒径が1.0μm以上である球状化炭化物の個数比率を、それぞれ10μm以上50μm以下、50%以上とすることにより、従来材よりも合金元素の含有量に比較して軟質化することができ、熱処理前の素材段階における鋼板を軟質にして、良好な加工性を確保することができる。さらに、適量のTiおよびNbの1種または2種を含有させることにより、上記性能を損なうことなく、熱処理後の鋼板部材について優れた靭性をも確保することができる。
このため、本発明によれば、熱処理後のビッカース硬度で650以上を要求されるような高強度鋼板部品の素材に供される高炭素鋼板であって熱処理前においては軟質で良好な成形性を備え、さらに熱処理後においては硬度に比して優れた耐摩耗性を備えるとともに優れた靭性をも備える高炭素鋼板、より具体的には、熱処理前の素材段階における鋼板の状態ではビッカース硬度が170以下と非常に軟質でありながら、熱処理後の鋼板部材の状態ではビッカース硬度が650以上と高い強度を備えるとともに優れた耐摩耗性を備え、かつ優れた靭性をも備える高炭素鋼板が提供される。このため、例えば自動車のミッション部品等の用途に利用価値が高い高炭素鋼板が提供される。
本発明を実施例に基づいて、さらに具体的に説明する。
表1−1、1−2に示す化学成分を有する鋼を溶製した。そして、表2−1、2−2に示すように、連続鋳造によりスラブとし、このスラブを1250℃に加熱してから、仕上げ温度860℃及び巻取温度550℃で3.6mm厚の熱延コイルを製造し、次いで、この熱延コイルを酸洗して黒皮スケールを除去した後、箱形焼鈍炉にて690〜720℃で25時間、並びに750℃で6時間の炭化物球状化焼鈍(前焼鈍)を行い、中間処理として、冷間圧延機による2.0〜2.8mm厚までの冷間圧延(中間冷延1、2)と、箱形焼鈍炉での700℃で20時間の焼鈍(中間焼鈍1、2)とを、1回ないし2回繰返して行った後、仕上げ処理として、1.8mmまでの冷間圧延(仕上冷圧)と690℃で4時間の焼鈍(仕上焼鈍)とを行って、鋼材No.1〜4、6〜103の高炭素鋼板を製造した。
これらの高炭素鋼板について、上述した方法によってフェライトの平均結晶粒径、球状化炭化物のうち粒径が1.0μm以上であるものの個数比率、及びビッカース硬度を測定した。測定結果を表2−1、2−2に併せて示す。
Figure 2014034717
Figure 2014034717
Figure 2014034717
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次に、これらの高炭素鋼板から3cm×3cmの試料を打抜き、この試料を800℃で30分間均熱した後、60℃の油中へ焼入れを行い、その後150℃で30分間焼戻す熱処理を行った。
この後、表面研磨を行い、図1に概要を示す大越式摩耗試験機により表面の摩耗試験を行った。なお、図1における符号Pは摩耗試験時の負荷荷重を示し、符号Vは摩耗速度を示し、符号Lは摩耗距離(図示しない)を示し、符号bは摩耗痕の幅を示し、符号rは回転円板の半径を示し、さらに、符号Bは回転円板の厚さを示す。
本実施例では、P=67(N)、V=0.76(m/s)、L=400(m)、r=30(mm)、B=3.0(mm)とするとともに、相手材としてSCM415を用いて、摩耗試験を行った。そして、摩耗量(mm)を測定した。
また、熱処理後のビッカース硬度およびシャルピー衝撃値も測定した。
摩耗試験の結果ならびに熱処理後のビッカース硬度およびシャルピー衝撃値を表2−1,2−2に併せて示す。
また、図2は、各試料の摩耗量が1.50(mm/(mm・mm))未満である試料を●印(摩耗量小)として、摩耗量が1.50(mm/(mm・mm))以上1.60(mm/(mm・mm))未満である試料を▲印(摩耗量中)として、さらに摩耗量が1.60(mm/(mm・mm))以上である試料を×印(摩耗量大)として、各試料の母材である高炭素鋼板のCr量及びMn量をプロットして示すグラフである。なお、図2には、各試料の母材である高炭素鋼板のMnとCrとの原子数比{(Mn/55)/(Cr/52)}が、1.0、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0及び2.2となる直線を併記してある。
図2のグラフから理解されるように、MnとCrとの原子数比{(Mn/55)/(Cr/52)}が1.2≦(Mn/55)/(Cr/52)≦2.0の関係を満たすときには、摩耗量小又は摩耗量中であり、炭化物が大きな耐摩耗性の向上効果を発揮することがわかるとともに、原子数比{(Mn/55)/(Cr/52)}が1.4≦(Mn/55)/(Cr/52)≦1.8の関係を満たすときには、摩耗量小であり、炭化物がさらに大きな耐摩耗性の向上効果を発揮することがわかる。
また、表2−1および表2−2から理解されるように、本発明に係る高炭素鋼板は、熱処理前においては軟質で良好な成形性を備えながら、熱処理後においては硬度に比して優れた耐摩耗性を備えるとともに優れた靭性をも備えることがわかる。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.50〜1.00%、Si:0.35%以下、Mn:0.60〜1.00%、P:0.015%以下、S:0.0030%以下、Cr:0.30〜0.60%、sol.Al:0.005〜0.080%、N:0.0050%以下を含有し、さらに、Ti:0.0010〜0.020%およびNb:0.0010〜0.030%からなる群から選択された1種または2種を含有し、残部Feおよび不純物からなり、さらに、Cr含有量およびMn含有量が下記(1)式を満足する化学組成を有し、フェライトの平均結晶粒径が10.0μm以上であるとともに、球状化炭化物のうち粒径が1.0μm以上であるものの個数比率が50%以上であることを特徴とする高炭素鋼板。
    1.20≦(Mn/55)/(Cr/52)≦2.00・・・・・・・(1)
    ただし、(1)式における符号MnおよびCrは、いずれも、鋼中における各元素の含有量(質量%)を示す。
  2. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ni:0.15%以下、Mo:0.30%以下およびV:0.05%以下からなる群から選択された1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の高炭素鋼板。
  3. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.010%以下を含有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の高炭素鋼板。
  4. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cu:0.15%以下を含有することを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれかに記載の高炭素鋼板。
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