【発明の詳細な説明】
海生ホヤ ポリシンクラトン・リソストロツムからの
エンジイン抗腫瘍抗生物質ナメナマイシン
関連出願のクロスリファレンス
本出願は、1995年10月20日出願の米国暫定特許出願第60/005,756号の恩典を請
求の範囲に記載する。
連邦後援研究開発に関する供述
本発明は、国立衛生研究所によって与えられた交付番号CA 36622および S10 R
R06262に基づく政府援助によって行われた。政府は、本発明に一定の権利を有す
る。
発明の背景
本発明は、癌を治療するための組成物およびその使用方法に関する。更に詳し
くは、本発明は、抗癌活性を有するエンジイン抗生物質ナメナマイシン(namena
micin)およびそれを必要とする個体において癌を治療するためのその使用方法
に関する。
海生生物、特に、ホヤ類、海綿動物、ウミトサカ類および軟体動物などの無脊
椎動物は、陸上世界では見出されない多数の二次代謝産物を生産する。海生天然
物の分野における最近の研究は、生物医学的に重要な化合物の検出に集中してき
ている。この探求は、抗癌活性、抗ウイルス活性および抗炎症活性を有する化合
物の発見をもたらしてきた。CNS膜活性毒素、イオンチャンネルエフェクター
、並びにDNAおよび微小繊維過程と相互作用する代謝産物もまた同定された。
それぞれの門は、化合物の特徴的な分布を生じる。例えば、1977年〜19
85年に、腔腸動物から単離された代謝産物の85%はテルペノイドであり;海
綿動物から単離された化合物の37%および41%はそれぞれテルペノイドおよ
び窒素代謝産物であり;そしてホヤ類から単離された化合物の89%は、アミノ
酸誘導体などの窒素化合物であった。C.M.アイルランド(Ireland)ら,13P
roc.Calif.Acad.Sci.41(1987)。
海生天然物の分野の誕生は、海綿動物クリプトエチア・クリプタ(Cryptoethy
a crypta)からの数種類の修飾アラビノヌクレオシドの単離で足跡が印された。
W.バーガン(Bergann)およびR.J.フィーニー(Feeney),72 J.Am.Chem.
Soc.2809(1950)。ホヤ類の一次代謝産物であるゲラニルヒドロキノンは、197
4年にマンジュウボヤ(Aplidium)種から単離された。W.フェニカル(Fenica
l),1974 Food-Drugs Sea 388(1976)。この化合物は、試験動物における白血病
、ラウス肉腫および乳癌のいくつかの状態に対して活性を示した。その後、ホヤ
類は、生物医学的に重要な化合物を単離する具体的な目的の的にされてきた。1
988年〜1992年の間に、約165種類の新規ホヤ代謝産物が発見された。
C.M.アイルランドら,D.G.フォーティン(Fautin)監修,13 Biomedica
l Importance of Marine Organisms 41(1988)中。
ペプチドは、ホヤ類から単離された化合物の主要構造クラスの一つである。ウ
リシルアミドおよびウリチアシクラミドは、リソクリヌム・パテラ(Lissoclinu
m patella)から単離された一連の環状ペプチドの最初のものであった。C.M
.アイルランドおよびP.J.シューア(Scheuer),102 J.Am.Chem.Soc.5688(
1980)。リソクリヌム属は、環状ペプチドの二つのクラス、すなわち、ヘプタペ
プチドであるリソクリナミドおよびオクタペプチドであるパテルアミド/ウリチ
アシクラミドの豊富な生産者であることが判明した。これらクラスはそれぞれ、
トリアゾールおよびオキサゾリンアミノ酸の存在を特徴とする。これらペプチド
は、それらの効力に大きな影響を与えるオキサゾリン環の存在と共に、in vitro
毒素活性を示す。
第三相臨床試験に加えられるホヤ類からの一次代謝産物は、カリブ海のホヤで
あるトリジデンヌム・ソリドゥム(Trididemnum solidum)から単離された環状
デプシペプチドであるジデムニン(didemnin)Bであった。K.L.ラインハー
ト(Rinehart)ら,212 J.Am.Chem.Soc.933(1981);K.L.ラインハートら,2
12 Science 933(1981)。ジデムニンA、BおよびCは、1981年に初めて単離
され、そして独特の構造単位であるヒドロキシイソバレリルプロピオネート(H
IP)およびスタチンの新規 allo 立体異性体を有すると提案された。K.L.
ラインハートら,109 J.Am.Chem.Soc.6846(1987)。これらジデムニンは、単純庖
疹ウイルスI型およびII型、リフトバレー熱ウイルス、ベネズエラウマ脳脊髄炎
ウイルス並びに黄熱病ウイルスを阻害することが判った。ジデムニンHは、A.
ブーランジェ(Boulanger)ら,35 Tetrahedron Lett.4345(1994)により、DN
Aと相互作用することが判った。J.M.ペズト(Pezzuto)ら,54 J.Nat'1Pr
od.1522(1991)。
海生ホヤ類からの有力な生物学的性質を有する他の主要な天然物には、ビスト
ラミド(bistramide)A、M.P.フォスター(Foster)ら,114 J.Amer.Chem.
Soc.1110-14(1992);バラシン(varacin)、B.S.デビッドソン(Davidson)
ら,113 J.Amer.Chem.Soc.4709-10(1991);およびパテラゾール類(patellazole
s)、T.M.ザブリスキー(Zabriskie)ら,110 J.Amer.Chem.Soc.7919-20(19
88)が含まれる。
癌は、多くの国々において主要な死亡原因である。米国およびカナダでは、心
臓および血管の病気に次いで多くの人々を死なせている。約100種類の癌がヒ
トを襲っている。薬物療法または化学療法は、このような癌を治療する重要な方
法である。50種類を越える薬物が様々な癌に対して用いられ、そしてこのよう
な薬物は、白血病およびリンパ腫を治療する場合に特に有効であることが証明さ
れている。抗癌薬は、正常細胞をできる限りほとんど傷つけることなく癌細胞を
破壊するように設計される。それにもかかわらず、薬物は正常細胞を若干傷つけ
る性質があり、したがって、悪心から高血圧まで様々な望ましくない副作用を生
じる。様々な種類の癌に対して有効であり且つ正常細胞に対してあまり害がない
新規抗癌薬を開発することが必要である。
前述のことを考えると、新規抗癌薬および癌性腫瘍を治療するためのその使用
方法を提供することが当該技術分野における著しい進歩であることは理解される
であろう。
発明の簡単な概要
本発明の目的は、新規抗癌薬を提供することである。
本発明のもう一つの目的は、癌の治療を必要とする患者の癌を治療する方法を
提供することである。
本発明の目的は、更に、ナメナマイシンを精製する方法を提供することである
。
本発明の更にもう一つの目的は、DNAを配列特異的部位で切断する方法を提
供することである。
これらおよび他の目的は、式
で表される精製化合物を提供することによって達成できる。
癌を治療するための組成物は、式
で表される化合物の有効量および不活性担体を含む。この組成物は、賦形剤、湿
潤剤、乳化剤および緩衝剤から成る群より選択されるメンバーを更に含むことが
できる。
式
で表される化合物を精製する方法は、
(a)ポリシンクラトン・リソストロツム(Polysyncraton lithostrotum)の
標本を集め;
(b)該標本をメタノールで繰返し抽出してメタノール抽出物を生成し;
(c)該メタノール抽出物を増加する極性の溶媒での逐次抽出によって分配し
た後、該化合物を含有する溶媒を生化学的誘導検定によって選択し;
(d)該化合物を含有する溶媒に、増加する極性の溶媒での段階勾配溶離を用
いるシリカゲルクロマトグラフィーを施し、そして該化合物を含有する第一画分
を生化学的誘導検定によって選択し;
(e)該化合物を含有する第一画分に、減少する極性の溶媒での段階勾配溶離
を用いる逆相クロマトグラフィーを施した後、該化合物を含有する第二画分を生
化学的誘導検定によって選択し;そして
(e)該化合物を含有する第二画分を、減少する極性の溶媒での段階勾配溶離
を用いる逆相クロマトグラフィーによって再度クロマトグラフィー分離した後、
精製化合物を含有する画分を生化学的誘導検定によって選択する工程を含む。
癌の治療を必要とする個体で癌を治療する方法は、式
で表される化合物および不活性担体を含む組成物を投与することを含む。該組成
物は、賦形剤、湿潤剤、乳化剤および緩衝剤から成る群より選択されるメンバー
を更に含むことができる。好ましくは、該組成物は、全身性投与によって投与さ
れる。
DNAを配列特異的部位で切断する方法は、DNAを含有する水性溶液を、こ
のような切断が起こるのに充分な条件下において式
で表される化合物と接触させる工程を含む。
水性培地中で微生物の成長を阻害する方法は、該水性培地を有効量の式
で表される化合物と混合することを含む。
図面のいくつかの見方の簡単な説明
図1は、ナメナマイシンの構造を示す。
図2は、ナメナマイシンおよびカリケアマイシン(calicheamicin)Y1 1によ
るDNAの部位選択的切断の典型を示し;三つの主要なカリケアマイシン切断セ
グメントは破線で示され、そしてナメナマイシン切断部位は実線矢印で示されて
いる。
詳細な説明
癌性腫瘍を治療するための本組成物およびその使用方法を開示し且つ記載する
に先立ち、本発明が本明細書中で開示された具体的な立体配置、作業工程および
材料に制限されないし、それなりに、立体配置、作業工程および材料はある程度
変化しうるということは理解されるべきである。更に、本明細書中で用いられる
専門用語は、具体的な実施態様を記載するためにのみ用いられ且つ制限するため
のものではないということが理解されるべきであり、以後、本発明の範囲は、請
求の範囲およびそれらの同等物によってのみ制限されるであろう。
本明細書および請求の範囲で用いられる単数形(“a”、“an”および“the
”)には、前後関係で特に明確に示されない限り複数の対象も含まれることに注
意する必要がある。したがって、例えば、「賦形剤」を含有する組成物という意
味には、2種類またはそれ以上のこのような賦形剤の意味が含まれ、「乳化剤」
という意味には、1種類またはそれ以上のこのような薬剤の意味が含まれ、そし
て「湿潤剤」という意味には、2種類またはそれ以上のこのような湿潤剤の意味
が含まれる。
本発明を記載し且つ請求の範囲で記載する場合、次の専門用語は、以下で示さ
れた定義にしたがって用いられるであろう。
本明細書中で用いられる「薬学的に許容しうる」成分は、合理的な効能/危険
率に相応して過度の不利な副作用(毒性、刺激およびアレルギー反応)を伴うこ
となくヒトおよび/または動物で用いるのに適しているものである。
本明細書中で用いられる「有効量」は、いずれの医学的処置にも従う合理的な
効能/危険率で無毒性であるが、癌細胞に対して所望の作用および性能を与える
のに充分である抗癌剤の量を意味する。微生物の成長を阻害するナメナマイシン
の有効量は、選択された時間、温度および成長条件下においてある選択された程
度までその成長を阻害するのに充分な量である。
本明細書中で用いられる「投与すること」および類似の用語は、抗癌剤が癌細
胞に対して作用しうる身体の部分まで化合物または組成物が全身的に循環しうる
ように処置される個体に対して化合物または組成物を供給することを意味する。
したがって、該組成物は、好ましくは、個体に対して全身性投与、典型的には、
皮下、筋肉内若しくは静脈内投与または腹腔内投与によって投与される。このよ
うに用いるための注射剤は、溶液かまたは懸濁液として慣用的な形で、或いは、
注射の前に液体中溶液若しくは懸濁液としてまたはエマルジョンとして製造する
のに適当な固体の形で製造することができる。適当な賦形剤には、例えば、水、
食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール等が含まれ;そして所望な
らば、湿潤剤または乳化剤、緩衝剤等のような微量の補助物質を加えることがで
きる。
実施例1
抽出・同定法
Polysyneraton lithostrotum(無管類亜目(aplousobranchia、Didemnidae科。
Francoise Monniot博士により同定され、フランス、パリの自然史博物館蔵)の
標本は、フィジー諸島ナメナララ島で採集され、抽出までの間凍結保存された。
凍結皮膜はその後凍結乾燥され、粉砕され、再度メタノール抽出された。メタノ
ール抽出物は濃縮され、極性を徐々に上げた一連の溶媒を用いて連続的に分割さ
れた(S.M.Kupchan et.al.,38 J.Org.Chem.178(1973)、本明細書では参考文献と
して挙げる)。メタノール抽出物はまず最初にヘキサンで、次いでクロロホルム
で抽出された。一連の試薬級溶媒は、使用前に滅菌された。寒天を使用した生化
学誘導アッセイ(BIA)(R.K.Elespuru & R.J.White,43 Cancer Res.2819-30(1
983)、本明細書では参考文献として挙げる)は、各段階で、ナメナマイシンを含
む分画の決定に用いられた。
結果として生じたナメナマイシンを含む抽出物は、次に、徐々に高い極性を持
つ溶媒(例えば、CHCl3、98:2 CHCl3/メタノール、95:5 CH3Cl/メタノール、90:1
0 CHCl3/メタノール)による段階的な勾配溶出によるシリカゲルクロマトグラフ
ィーにかけられた。活性分子を含む分画はBIAにより同定され、それらの分画は
次いで徐々にに減少する極性を持つ溶媒(例えば100% H2O、50%メタノール/H2O、
70%メタノール/H2O、80%メタノール/H2O、90%メタノール/H2O、100%メタノール
、100%CHCl3)を用いて段階的な勾配溶出による分離用逆相クロマトグラフィーに
かけられた。活性分画は再びBIAによって同定され、一つにまとめられて、再度
クロマトグラフィーにかけられた。結果として生じた活性分画は、純粋ナメナマ
イシンを含んだ。収量は、凍結組織1kgあたり1mgであった。
実施例2
質量分析法
例1の方法に従って調製されたナメナマイシンは、当該技術分野でよく知られ
ている方法に従い、VG Fisons Trio 4重(quadrupole)質量分析器を用いて、エレ
クトロスプレー質量分析にかけられた。エレクトロスプレー質量スペクトルにお
ける主要なイオンは、991の質量対電荷比率(m/z)を示し、これは(MH)+に相当す
る。この結果はC43H62N2O14S5という分子式を示唆する。
一貫して観察される別のイオンはm/z172であり、グリコシド結合のAおよびC糖
の間での切断によって生じた断片に相当する(図1)。このイオンは、同一の炭
化水素単位を有するエスペラマイシンについても報告されている(J.Golik,Ene
diyne Antibiotics as Antitumor Agents 187(D.B.Borders & T.W.Doyle eds.,
Marcel Dekker,1995))。
実施例3
NMR分析
1Hと13C分析が、Varian Unity 500分光計で行われた。1Hと13CのNMRスペクト
ルのデータの詳細な分析、一連の2D相関実験、およびカリケアマイシンとの比較
から、図1に示されたアグリコンの完全な帰属が直ちに得られた。NMRの帰属は表
1に示されている。全ての帰属はカリケアマイシンと完全に類似している(M.D.L
ee et al.,114 J.Am Chem.Soc.985-97(1992))。炭素3 と6 の帰属はカリケ
アマイシンと一致したが、エスペラマイシンとは相違した(M.D.Lee et al.,109
J.Am Chem.Soc.3462-64(1987))。H8(6.25ppm)と83.44ppmの炭素との間の強
いHBMC相関から、このアセチレン共鳴のC6への帰属が支持される。
a 共役HMQC(ヘテロ核多重量子コヒーレンス)実験(A.Bax & S.Subramanian,69
J.Mag.Reson.565(1986);L.Muller,101 J.Am.Chem.Soc.4481(1979))
により得られた。
b これらのシグナルは炭素スペクトルにおいては観察されなかったが、HMQC実験
で交差ピークとして観察された。
c これらのシグナルは炭素スペクトルにおいては観察されなかったが、HMBC(ヘ
テロ核多重結合相関)実験(M.F.Summers et al.,108 J.Am.Chem.Soc.4285(1
986))において、交差ピークとして観察された。
d PS DQF COSY(相感受性二重量子フィルター相関分光分析)実験(U.Piantinietal
.,104J.Am.Chem.Soc.6800(1982);M.Rance et al.,117 Biochem.Biophys
.Res.Commun.458(1983))により得られた結合定数。
e このシグナルは非常に幅広かった。
この糖、および糖とエネジインアグリコン間のグリコシド結合の性質が、化学
シフト、1JCHと3JHHの結合定数およびカリケアマイシンβ11とエスペラマイシン
A1との比較に基づき確立された。化学シフトと炭素A1の1JCH(δ100.33,1JCH=1
63Hz)はβグリコシド結合と一致する(A.Liptak et al.,36Tetrahedron 1261-
68(1980))。A1での陽子の上方シフト(H-A1,4.53,d,J=8Hz)およびH-A1とH-
A2間の大きい8Hz結合(3.84,dd,J=10,8Hz)から、A環糖とアグリコンとの
間のβグリコシド結合がさらに支持される。H-A3(4.08,d,J=10 Hz)は、その
H-A2との速結部の上に軸方向に置かれている。間に入る4級炭素A4がスカラーカ
ップリング定数を用いたA環の構造のさらなる解析を不可能にした。しかし、H-A
1とH-A5(3.97,q,J=6 Hz)の間の非常に強い核オーバーハウザー効果(nOe)の相
関が、これらのプロトン間の1,3-双軸(ジアキシャル)関係を明確にした。A4と
B1の間のCH(CH2OH)-O連結は、A7およびA8のようにそれぞれ指定されたδ84.46お
よび61.56における酸素を有する炭素の共鳴、およびδ3.55(HA7,dd,J=7,7 Hz
), 3.78(HA8,dd,J=13,7 Hz)及び3.93(HA8,dd,J=13,7 Hz)における対応す
るプロトンによって明確にされた。AおよびB糖の間のこの連結の方向付けおよび
位置づけは、A4からH-A7および-8の両方へのヘテロ核二重結合相関(HMBC)によっ
て指示されたが、B1はH-A7との相関のみを示した。B環糖の構造は、プロトンカ
ップリング様式およびnOe相互作用の解析により確立した。H-B1(4.82,dd,J=1
0, 2 Hz)のH-B2への1JCH(162 Hz)およびカップリング、δ2.27および1.73にお
けるジアステレオトピックなメチレンのプロトンは、H-B1がアキシャルであり、
再びβグリコシル結合を支持することを示している。H-B2プロトンおよびH-B3(4
.13,ddd,J=5,5,3 Hz)間の比較的小さなカップリングは、H-B3が水平である
ことを示唆している。H-B4(2.49,dd,J= 11,3 Hz)およびH-B5(3.80,dd,J=
11,6 Hz)は非常に強く共役し、H-B5はH-B1と強い1,3-ジアキシャルnOe相互作
用を示し、B環の構造は既に示したように確立し、それは、B4の位置の硫黄原子
における置換基を除けばカリケアマイシンにおける対応した糖と同一である。C
環の糖に対するNMRのデータは、4の位置に同じイソプロピルアミン置換基をもつ
カリケアマイシンβ1 1のE環と本質的には同一である。興味深いことに、H-C1お
よびH-C4間のnOeカップリングの観測とともに、H-C1およびH-C2プロトン間のカ
ップリング様式は、この環はカリケアマイシンγ群における対応する環と比較し
て平坦化されていることを示唆している。この環の平坦性はおそらく、(カリケ
アマイシンγ群におけるエチルアミンに対応する)C4イソプロピルアミンおよびA
環および弾頭ユニットの間の立体的な相互作用によるものである。ナメナマイシ
ンのBおよびC環に対するNMRデータもまた、エスペラマイシンA1の対応する環と
同一である。J.Golik et al.,109 J.Am.Chem.Soc.3462-64(1987)。
これらの結果はナメナマイシンがカリケアマイシンのように「エネジイン弾頭
(enediyne warhead)」を含むことを示唆している(M.D.Lee et al.,24 Acc.Chem
.Res.235-240(1991)および同文献に記載されている参考文献)。しかしながら、
結合した炭水化物部分はAおよびB環の間のN-O糖結合がC-Oに置き換えられている
点、A4の位置におけるS-メチル置換基、B環に付加された安息香酸環が欠如して
いる等の点で異なっている。”抗腫瘍試薬としてのエネジイゾ”(D.B.Borders
& T.W.Doyle eds.,Marcel Dekker,1995).
実施例4
生体内(in vivo)での抗腫瘍活性
CDF1マウスの腹腔内に第0日目に1x106個のP388腫瘍細胞を注入することにより
、実施例1の方法により精製したナメナマイシンの生体内(in vivo)活性を検診し
た。5個体の動物を無作為に一つの集団に割り当てた。腫瘍の移植後の第1,5,お
よび9日目に、これらのマウスの腹腔内をプラセボまたはナメナマイシンによっ
て処理した。動物は一日に2回確認され、それぞれのマウスの死亡日を記録した
。陽性の薬物反応はプラセボ対照群と比較して25%以上の平均寿命(%ILS)の増加
として定義する。この実験の結果は、ナメナマイシンは3μg/kgの投薬により140
%の平均寿命の増加を与えることを示した。これらの結果は、ナメナマイシンが
生体内(in vivo)において抗腫瘍活性をもつことを示しており、したがって、当
業者によって予測の合理性が認められているこの試験によれば、抗腫瘍試薬であ
ると考えられる。
実施例5
試験管内(in vitro)での細胞傷害性
ナメナマイシンを含むPolysyncraton Iithostrotumのメタノール抽出物を寒天
を基にした生化学的誘導分析(BIA)(R.K.Elespuru & R.J.White,43 Cancer Res.
2819-30(1930),本明細書に参考文献として含まれている)に付した。このメタ
ノール抽出物はBIAにおいてSOS反応を示した。
ナメナマイシンをまた、26のヒト腫瘍細胞系列のパネルに対して試験した。細
胞は、本明細書に参考文献として含めたM.C.Alley et al.,48 Cancer Res.58
9(1988)の方法にしたがって培養した。
スクリーニングは96穴のマイクロタイタープレートを用いて、NIHにおいて抗
癌薬剤スクリーニング用に採用された、標準3-[4,5-ジメチルチアゾール-2-イル
]-2,5-フェニルテトラゾリウムブロマイド; チアゾールブルー(MTT)細胞阻害分
析によって行われた。J.Carmichael et al.,47 Cancer Res.936(1987)、本明
細書に参考文献として記載した。陽性対照を同時に行った。
この試験によれば、ナメナマイシンは試験管内(in vitro)において、平均IC50
値(50%阻害濃度)3.5 ng/mlの細胞傷害性の能力を示した。このように、当業者
によって予測の合理性が認められたこの試験によれば、ナメナマイシンは抗腫瘍
試薬である。このヒト腫瘍細胞系列のパネルに対する細胞傷害性の平均棒グラフ
解析は、ナメナマイシンがDNA切断試薬であることを示唆している。
実施例6
配列特異的DNA切断
ナメナマイシンの配列特異的DNA相互作用を、142塩基対のpBR322制限断片の上
にマッピングし、カリケアマイシンγ1 1と比較した。G.Krishnamurthy et al.,
34 Biochemistry 1001-1010(1995),本明細書に参考文献として記載した。
プラスミドpBR322のDNAは制限酵素HindIIIによる消化によって線状化された。
例えば、本明細書において参考文献とされる、J.Sambrook et al.,Molecular
Cloning: A Laboratory Manual(2d ed.,1989); T.Maniatis et al.,Molecular
Cloning: A Laboratory Manual(1982); F.Ausubel et al.,Current Protocols
in Molecular Biology(1997)のような当該技術分野においてよく知られた方法
によって末端の3’のリン酸基はα-32P ATPおよびDNAポリメラーゼのKlenow断片
を用いて標識された。末端標識されたDNAはつぎに制限酵素NciIによって消化さ
れ、調製用7%ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動され目的の142塩基対の断片(
SEQ ID NO:1)が電気溶出によって精製された。精製されたDNAは0.5mlの10mMトリ
ス緩衝溶液に懸濁され、おおよそでDNA保存溶液が20nMの濃度と4x107cpm/mlの放
射化学濃度になるようにされた。マッピング実験は担体としての子牛胸腺
DNAの存在下で行われた。標識されたDNAはトリス-HClおよびNaClを含む緩衝溶液
中で担体と混ぜられた。等量のDNA混合物が微小遠心分離管に移された。鎖を解
裂を開始させるためDNA-ナメナマイシン混合液にジチオトレイトールが加えられ
た。以下は解裂反応開始時の反応成分の濃度である:50mMトリス緩衝溶液(pH8.1)
とエタノールが90:10の割合、担体DNAが7.7μM、NaCl 50mM、ジチオトレイトー
ル10mM。ナメナマイシンの濃度は1.0または6.0μMであり、カリケアマイシンの
濃度は0.1、0.2、または1.0μMであった。反応は37℃で1時間行われた。DNA解裂
反応は塩濃度を0.3Mに上昇させることおよび、3倍量の氷冷エタノールを加える
ことで止められた。DNA解裂生成物はエタノール沈澱によって回収された。回収
されたDNAはフォルムアミド/ブロモフェノールブルーからなる装填用緩衝溶液
に懸濁された。7%ポリアクリルアミド変性ゲル上での電気泳動に先だって、DNA
解裂断片は90℃で2分間加熱されることで変性され、氷槽内で素早く冷やされた
。電気泳動の後、ゲルは乾燥され、露光されたKodak x-OMAT AR filmを用いてオ
ートラジオグラフィされた。
図2はこの実験の結果を示している。ナメナマイシンが作る高特異性の解裂部
位はカリカエマイシンよりも少ない。同等の濃度においてはナメナマイシンはカ
リケアマイシンよりも低い効率でDNAを解裂させる。配列の特異的な認識のパタ
ーンについて2つの化合物の間にいくらかの類似性およびいくつかの明らかな違
いがあった。例えばカリケアマイシンの第一解裂部位であるTCCTはナメナマイシ
ンによってより低い解裂強度で解裂される。この制限酵素断片におけるナメナマ
イシンの第一認識部位はTTT部分であるが、これはカリケアマイシンのATCT認識
部位と重なり合っている。カリケアマイシンとナメナマイシンの両方がこの領域
内を解裂させる。興味深いことにカリケアマイシンの強い解裂部位であるTTGTは
ナメナマイシンによっては解裂されない。
ナメナマイシンがより少ない高親和性解裂部位しか作らず、カリケアマイシン
のY1 1と比べて僅かに変化した認識パターンを示すことはそれが短縮された構造
を持つことに起因し得る。第一に、ナメナマイシンはカリケアマイシンY1 1のラ
ムノース糖(D環)およびチオベンゾエート部分を持たない。第二の違いはAおよび
B糖の間のN-OがC-Oグリコシド結合に置換されていることである。第三に、A糖が
その4位にS-メチル基を持つことである。チオベンゾエートおよびD糖の両方がカ
リケアマイシンの部位特異的な相互作用の全体的な強度に寄与していることは広
く認識されている。
ナメナマイシンによる解裂パターンはM.Uesugi & Y.Sugiura,32 Biochemistry
4622-27(1993)によってエスペラマイシンCに対して報告された解裂パターンと
いくらかの類似を示す。例えば、ナメナマイシンとエスペラマイシンは共にピリ
ミジンの連続(TTT)およびTCCT残基を認識し、解裂させる。解裂の効率の低下お
よび選択性の変化は、炭化水素部位の幾つかの構造的な特徴、つまり、ラムノー
ス糖およびチオベンゾエート環の欠如、A糖におけるSメチル基の存在、およびよ
り重要なことにはAおよびB環糖間のグリコシド結合の変化に寄与され得る。
実施例7
抗生物質活性
実施例1の方法に従って精製されたナメナマイシンの抗生物質活性は、微生物
のパネルに対する培養液希釈法によって試験された。培養液は10倍低い濃度で接
種された菌類を除いて1-5x105cfu/mlで接種された。細菌の培養は37℃で36時間
、菌類の培養は28度36時間行われた。ナメナマイシンまたは対照の抗生物質であ
るカリケアマイシンまたはペニシリンGは様々な濃度で加えられた。この実験の
結果は表に示されている。
これらの結果はナメナマイシンが潜在的な抗生物質活性を持つことを示す。
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(51)Int.Cl.6 識別記号 FI
C12N 15/09 ZNA C12N 15/00 ZNAA
(72)発明者 アイルランド,クリス・エム
アメリカ合衆国ユタ州84093,サンディ,
サウス・レッド・ウィロー・サークル
8914
(72)発明者 メイズ,ウィリアム・エム
アメリカ合衆国ニュージャージー州07042,
モンクレア,マルフォード・レーン 15