JPH11349643A - 感温性高分子化合物およびその製造方法、感温性高分子組成物、細胞培養基材 - Google Patents

感温性高分子化合物およびその製造方法、感温性高分子組成物、細胞培養基材

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JPH11349643A
JPH11349643A JP10158225A JP15822598A JPH11349643A JP H11349643 A JPH11349643 A JP H11349643A JP 10158225 A JP10158225 A JP 10158225A JP 15822598 A JP15822598 A JP 15822598A JP H11349643 A JPH11349643 A JP H11349643A
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gelatin
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pnipam
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cell culture
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JP10158225A
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Takehisa Matsuda
武久 松田
Noriyuki Morikawa
訓行 森川
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Nitta Gelatin Inc
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 ゼラチンが有する細胞接着性などの優れた特
性を活かせるとともに感温性にも優れた高分子化合物を
得る。 【解決手段】 ゼラチンにN−イソプロピルアクリルア
ミドポリマーがグラフト重合されてなる感温性高分子化
合物。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、感温性高分子化合
物およびその製造方法、感温性高分子組成物、細胞培養
基材に関し、詳しくは、特定の温度を境界にして、その
上下の温度領域で表面性状などの特性が臨界的に変化す
る感温性高分子化合物と、このような感温性高分子化合
物を製造する方法と、感温性高分子化合物を含む組成物
と、感温性高分子化合物を用いて製造され各種動物細胞
やヒト細胞などを培養するための細胞培養基材とに関す
る。
【0002】
【従来の技術】動物細胞やヒト細胞の細胞培養基材とし
てゼラチンは良く知られた材料である。ゼラチンは、動
物由来の材料であり、分子中に細胞接着性ペプチド(R
GD:Arg−Gly−Asp)配列を有していて、動
物組織と類似した構造を有しているため、動物細胞やヒ
ト細胞の接着性に優れている。これらの細胞は、細胞膜
タンパク質であるインテグラン等を介してゼラチン分子
の細胞接着性ペプチド配列との間に生物的な結合が生じ
ることでゼラチンに対して強固に接着され、活発に伸展
・増殖することができる。
【0003】ゼラチン基材の表面に層状に増殖した細胞
層を回収するには、培養皿等にコーティングされたゼラ
チン基材に接着している細胞層を、ゼラチン基材あるい
は培養皿から分離しなければならない。前記した生物的
な結合で接着している細胞層を分離するには、ゼラチン
を分解する酵素であるコラゲナーゼなどの剥離剤を作用
させてゼラチンを分解することで、培養細胞をゼラチン
基材あるいは培養皿から剥離し回収していた。
【0004】この方法では、コラゲナーゼ等の剥離剤
が、ゼラチンだけでなく培養細胞にも作用して悪影響を
与えるという欠点があった。特に、ゼラチン基材の表面
に形成された細胞層が、剥離剤によってバラバラに分解
されてしまうという問題がある。細胞培養基材としてポ
リイソプロピルアクリルアミド(以下、PNIPAMと
略称する。)を用いる技術が提案されている。
【0005】PNIPAMは、水溶液中において下限臨
界点温度(LCST)31℃の感温性高分子である。臨
界点温度以下の温度では分子表面が親水性あるいは水溶
性を呈して水に溶けるが、臨界点温度以上の温度では分
子表面が疎水性を示すので水中に析出するという、いわ
ゆる感温性の相分離特性を有している。しかも、臨界点
温度以上の温度環境では、表面が疎水性を有することで
細胞に対する接着性を発現する。
【0006】PNIPAMを細胞培養基材として使用す
るには、培養皿の表面にPNIPAMをコーティングす
る。臨界点温度以上に維持されたPNIPAM層の表面
には細胞が接着し増殖する。細胞培養が終了した後、P
NIPAM層を臨界点温度以下の温度にすれば、PNI
PAM層の表面は親水性になって細胞が接着できなくな
り、PNIPAM層は水に溶解する。その結果、培養さ
れた細胞層は培養皿の表面から剥離して回収される。
【0007】この方法では、前記した剥離剤を使用しな
くてもよいため、培養細胞に与える悪影響が少ないとい
う利点がある。但し、細胞の接着性については、前記し
たゼラチンのほうが優れている。PNIPAMには接着
が困難な細胞もある。これは、PNIPAM層の場合
は、表面が親水性になることで、疎水性であるガラスな
どからなる培養皿の表面に比べて細胞が付着し易くなる
というだけであるのに対し、細胞接着性ペプチド配列を
有するゼラチンの場合は、細胞膜タンパク質であるイン
テグラン等を介して細胞とゼラチンとの間に生物的な結
合を生じて強固に一体化し接着されるためである。
【0008】特開平4−278083号公報には、PN
IPAM等の温度感応性高分子化合物とコラーゲンやゼ
ラチン等の細胞接着性物質とが混合された細胞培養基材
を用いる技術が開示され、細胞に対する接着性あるいは
培養の機能と、温度変化による剥離回収の機能との両方
が達成されると説明されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】前記先行技術のよう
に、PNIPAMとコラーゲン等とを混合しただけで
は、十分な性能は発揮できない。すなわち、培養細胞を
剥離する際に、感温性のPNIPAMは温度変化によっ
て水溶性に変化しても、感温性を有しないコラーゲン等
の細胞接着性物質が培養皿と培養細胞とを接着したまま
になると、培養細胞の剥離が良好に行えない。
【0010】また、PNIPAMとゼラチンやコラーゲ
ンとは相溶性がないため、均一な混合塗膜が形成でき難
い。そのため、PNIPAMとコーラゲンやゼラチンと
が均等に配置された状態の細胞培養基材を得ることが困
難である。細胞培養基材に組成の偏りが発生するため、
それぞれの成分が有する特性をバランス良く発揮させる
ことが困難である。
【0011】本発明の課題は、ゼラチンが有する細胞接
着性などの優れた特性を活かし、且つ感温性を付与した
高分子化合物を得、これによって任意の形状を有する容
器等に塗布が可能であると同時に、PNIPAMとの相
溶性が大幅に改善され、任意の接着力を有する基材を提
供できるようにすることである。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明の感温性高分子化
合物は、ゼラチン分子にN−イソプロピルアクリルアミ
ドポリマー(PNIPAM)がグラフト重合されてな
る。具体的構成について説明する。 〔ゼラチン〕通常のゼラチンが使用できる。ゼラチン
は、その製造方法および原料によって、様々な特性を備
えたものがあり、感温性高分子化合物の用途や要求性能
に合わせて、適切な特性を有するゼラチンを使用すれば
よい。例えば、ゼラチンの原料となるコラーゲンには、
タイプ1コラーゲン、タイプ2コラーゲン、タイプ3コ
ラーゲンなどがある。製造方法の違いによってアルカリ
ゼラチン、酸性ゼラチン、酵素処理ゼラチンなどがあ
る。 〔グラフト重合〕高分子化合物の製造技術におけるグラ
フト重合法およびグラフト化法が適用できる。
【0013】グラフト重合は、ゼラチン分子にラジカル
重合開始剤を結合させる。通常、カルボキシル基あるい
は水酸基を有するアゾビスイソブチロニトリル系開始剤
を結合剤を用いてゼラチンのアミノ酸やカルボキシル基
に結合させて、NIPAMモノマー存在下で熱重合させ
る方法が採用される。この方法では、ほぼ等量のNIP
AMのホモポリマーが形成されることが原理的に予想さ
れる。したがって、大量のホモポリマーを、グラフトゼ
ラチンと選別(透析)する工程が必要になる。
【0014】一方、後述するインファータ法と呼ばれる
方法は、光照射により重合開始し、リビング重合性が高
いため、照射時間によって容易にグラフト重合鎖を変え
られる利点がある。グラフト化法は、予めホモポリマー
を合成しておき、ポリマーの末端基に導入した官能基
(アミノ基、水酸基やホルボキシル基)とゼラチンの側
鎖の官能基との結合反応によってグラフトポリマーを得
る。上記のポリマーはラジカル重合の際に、アミノ基や
水酸基、カルボキシル基を有する連鎖移動剤であるアル
カンチオール(例えば、アミノエタンチオール)を用い
ることで、分子量が2,000〜10,000で末端に
上記官能基が入ったポリマーが容易に得られる。
【0015】具体的には以下の2工程を含む方法が採用
できる。 (a) ゼラチンと4−(N,N−ジエチルジチオカルバミ
ル)安息香酸とを縮合剤の存在下で反応させて、ジチオ
カルバメート化ゼラチン分子を得る工程。 (b) 前記ジチオカルバメート化ゼラチンと感温性高分
子生成単量体との混合水溶液に紫外線を照射して、ゼラ
チンに前記単量体のホモポリマーがグラフト重合された
感温性高分子化合物を得る工程。
【0016】上記製造方法で、感温性高分子生成単量体
とは、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)
のように、ホモポリマー(例えば、PNIPAM)を生
成させたときに、特定の臨界温度で性状や特性に急激な
変化を生じるホモポリマーが得られる単量体である。N
IPAMの代わりに、同様の特性を有する別の単量体を
用いることも可能である。
【0017】グラフト重合の重合条件によって、ゼラチ
ン分子にグラフトされるPNIPAMの分子数やグラフ
ト鎖長が変わり、得られる感温性高分子化合物の特性を
調整することができる。ゼラチン分子1本当たり3本以
上のPNIPAMがグラフト重合されてなり、平均グラ
フト鎖長が2.1×103 以上である感温性高分子化合
物が、ゼラチンが有する特性とPNIPAMが有する感
温性とを適切に発揮できるので好ましい。
【0018】〔感温性高分子化合物〕PNIPAMがグ
ラフト重合されたゼラチンすなわちPNIPAMグラフ
トゼラチンの下限臨界点温度(LCST)は、PNIP
AMのグラフト分子数やグラフト鎖長などグラフト重合
の条件によって変更できる。通常、PNIPAMのLC
STは31℃であり、PNIPAMグラフトゼラチンの
場合はこれよりも少し高い温度になる。NIPAMの代
わりに別の感温性高分子生成単量体を用いる場合、得ら
れるグラフトゼラチンのLCSTが常温付近になるもの
が、後述する細胞培養基材などの用途に好ましいものと
なる。
【0019】PNIPAMグラフトゼラチンは水溶液の
状態で提供でき、コーティングによって膜を形成するこ
とができる。 〔感温性高分子組成物〕感温性高分子化合物は、単独で
使用することもできるが、他の高分子材料などと組み合
わせた組成物として利用することもできる。前記感温性
高分子化合物に、単体のN−イソプロピルアクリルアミ
ドポリマー(PNIPAM)を組み合わせた感温性高分
子組成物が用いられる。
【0020】具体的には、感温性高分子化合物とPNI
PAMとの混合水溶液にすれば、コーティング処理など
の取り扱いが容易である。共通する構造を備えたPNI
PAMグラフトゼラチンとPNIPAMとは、均一かつ
安定した状態で混合しておくことができる。PNIPA
Mとゼラチンとの組み合わせのような相溶性の問題は生
じない。
【0021】上記のような感温性高分子組成物は、PN
IPAMグラフトゼラチンからなる感温性高分子化合物
を単独で使用する場合に比べて、PNIPAMが有する
感温特性をより強力に発揮させることができる。例え
ば、細胞培養基材として用いたときに、剥離性が向上
し、剥離剤を全く使用しなくても、培養細胞の剥離回収
が良好に行えるようになる。
【0022】感温性高分子化合物とPNIPAMとの混
合割合を変更することで、特性を変えることができる。
例えば、細胞培養基材として、細胞に対する接着性を変
えることができ、特定の細胞には強い接着性があり、別
の細胞にはあまり接着性を示さない細胞選択性のある細
胞培養基材が得られる。 〔細胞培養基材〕前記感温性高分子化合物を用いて、通
常の細胞培養基材と同様の製造手段で製造できる。例え
ば、感温性高分子化合物の水溶液を培養皿の表面に塗布
し乾燥させれば、面状あるいはシート状の細胞培養基材
が得られる。感温性高分子化合物溶液をスポット状、市
松模様状、格子状などのパターン形状でコートしておけ
ば、パターン形状にしたがって細胞を培養することがで
きる。感温性高分子化合物溶液を円筒などの立体面にコ
ートしておけば、立体形状を有する細胞培養基材を得る
こともできる。筒状に配置された細胞培養基材で血管細
胞を培養すれば、筒状の人工血管細胞を得ることができ
る。
【0023】細胞培養基材で培養されたシート状あるい
は層状をなす細胞は、人工血管、人工皮膚、人工臓器な
どの人工生体材料として利用できる。細胞培養の処理方
法は、通常の細胞培養と同様の方法が採用できる。但
し、細胞培養は、感温性高分子化合物の臨界温度よりも
高い温度環境で行い、細胞培養の終了後に、臨界温度よ
りも低い温度環境にすることで、感温性高分子化合物が
培養細胞との接着性を失い、培養細胞が剥離回収できる
ようになる。
【0024】動物由来の材料であるゼラチンを基本成分
とするPNIPAMグラフトゼラチンは、生体に対する
安全性に優れているので、PNIPAMグラフトゼラチ
ンからなる細胞培養基材と培養細胞とを一体化させたま
まで人工生体材料として利用することもできる。 〔その他の用途〕感温性高分子化合物は、臨界温度を境
界にして水溶性と不溶性とに可逆的に変化する機能が必
要とされる用途であれば、上記細胞培養基材以外の用途
にも利用できる。また、臨界温度においては、水溶性と
不溶性との変化以外にも、感温性高分子化合物の各種性
状が変化するので、これらの性状の可逆的変化を必要と
される用途にも利用することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】感温性高分子化合物を製造し、そ
の性能を評価した結果を説明する。 〔材 料〕溶媒(すべて特級試薬)は、和光純薬工業
(株)から入手したものであり、精製処理を行わずにそ
のまま用いた。N−イソプロピルアクリルアミド(NI
PAM)(イーストマン・コダック社製)は、トルエン
およびn−ヘキサンから再結晶して精製した。ゼラチン
(分子量=95,000、牛骨から抽出したもの)、
N,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム3水和
物、過硫酸アンモニウム、N,N,N’,N’−テトラ
メチルエチレンジアミンおよび2,4,6−トリニトロ
ベンゼンスルホン酸ナトリウム2水和物(TNBS)は
和光純薬工業(株)から、4−(クロロメチル)安息香
酸はアルドリッチ化学社から、それぞれ購入した。水溶
性のカルボジイミドである1−エチルー3−(3−ジメ
チルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)
は同仁化学社から入手した。
【0026】ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)
およびウシ胎仔血清(FBS)は、ギブコ・ラボラトリ
ーズ・ライフ・テクノロジーズ社から購入した。抗生物
質(ペニシリン、ストレプトマイシンおよびアンホテリ
シンB)は、大日本製薬(株)から購入した。リン酸緩
衝塩水(PBS)は、日水製薬(株)から入手した。透
析膜(カットオフ分子量=12,000〜14,00
0)は、ビスケースセールス社から購入した。ポリスチ
レン製細胞培養皿(35mm組織培養皿および35mm
未処理皿)は、岩城硝子(株)から入手した。
【0027】〔ポリ(N−イソプロピルアクリルアミ
ド)(PNIPAM)の合成〕NIPAM10gを脱イ
オン水100mlに溶解した。単量体溶液を10分間脱
気した後、過硫酸アンモニウム100mgとN,N,
N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン1.0ml
を添加した。重合反応を25℃で12時間行った。反応
溶液を60℃に加熱して沈殿化処理することにより重合
体を得た後、それをメチルアルコール溶液からジエチル
エーテルへ繰り返し沈殿化処理することにより精製し、
さらに、1日間減圧乾燥することで、PNIPAMが得
られた。
【0028】展開液としてN,N−ジメチルホルムアミ
ドを用い、α−5000およびα−5000シリーズの
カラム(東ソー社製)でゲルパーミエーションクロマト
グラフィー(GPC)を40℃で行った。標準ポリエチ
レングリコールの検量線を参照して溶出曲線からPNI
PAMの数平均分子量を求めた。 〔4−(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)安
息香酸の合成〕4−(クロロメチル)安息香酸を、phot
oiniferterであるN,N−ジエチルジチオカルバミン酸
ナトリウムと反応させることにより、4−(N,N−ジ
エチルジチオカルバミルメチル)安息香酸を合成した。
【0029】すなわち、磁気攪拌器および滴下ロートを
備えた300mlの3つ口フラスコに、N,N−ジエチ
ルジチオカルバミン酸ナトリウム3水和物12.4g
(0.055mol)およびエチルアルコール50ml
を仕込んだ。エチルアルコールとトルエンとの混合物
(体積比50/50)100mlに4−(クロロメチ
ル)安息香酸7.85g(0.046mol)を溶解し
てなる溶液を室温で滴下した。よく攪拌しながら反応を
室温で12時間続けた。その後、反応溶液を脱イオン水
300mlに注ぎ、ジエチルエーテルで抽出処理を行っ
た。得られた抽出物を脱イオン水で洗浄後、無水硫酸マ
グネシウム上で乾燥させた。
【0030】得られた乾燥溶液を減圧下で濃縮した後、
残留物を 1H−NMRスペクトル分析器(機種名JNM
−GX270、JEOL(株)製)で分析した結果、4
−(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)安息香
酸と同定された。収率11.0g(84.6%); 1
−NMR(溶媒DMSO−d6 、化学シフト基準物質S
i(CH3 4 )化学シフトδ値:7.91と7.52
(dd、4H、C6 4 )、4.61(s、2H、CH
2 S)、3.99と3.76(qq、4H、NC
2 )、1.21(t、6H、CH2 CH3 )。
【0031】〔PNIPAMグラフトゼラチンの合成〕
フォトインファータ(photoinferter )を複数持つゼラ
チンを以下のようにして合成した。氷浴で冷却しながら
水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより、pH9
の水20mlに4−(N,N−ジエチルジチオカルバミ
ルメチル)安息香酸(2.18g、7.69mmol)
を溶解した。PBS(pH7.4)120mlにEDC
(2.94g、15.3mmol)を溶解してなる溶液
を上記で得られた溶液に、攪拌下かつ氷浴での冷却下で
添加した。攪拌下で反応を1時間続けた後、PBS(p
H7.4)40mlにゼラチン(4.0g)を溶解して
なる溶液を反応混合物に攪拌下、室温で添加した。得ら
れた反応混合物を連続的に攪拌しながら一晩放置した。
透析膜を用い、水中、約40℃で3日間拡張透析(exte
nsivedialysis)を行った。
【0032】生成物を真空凍結乾燥した後、エチルアル
コール、アセトンおよびジエチルエーテルで洗浄した。
ジチオカルバミルゼラチンを濾過して集め、1日間減圧
乾燥した。得られたジチオカルバミルゼラチン中のフォ
トインファータ含有率は、波長281.5nmの光に対
するN,N−ジエチルジチオカルバミン酸塩の吸光係数
ε281.5 =13,300M-1cm-1を用いた吸光度から
求めた。
【0033】ジチオカルバミルゼラチンとNIPAM
を、各々の濃度が1.0w/v%、10w/v%になる
ように蒸留水に溶解した後、乾燥窒素ガス流をガス導入
口から混合溶液中へ10分間導入した。この混合溶液を
直径17.5mmの水晶ガラス管に入れ、窒素雰囲気
中、250WのHgランプ(スポットキュア、ウシオ社
製)から紫外線を照射して光重合を行った。光の強度
は、光度計(UVR−25、トップコン社製)で測定し
て5mW/cm2 に調節した。室温で15分間または3
0分間重合を行った後、透析膜を用い、水中、約40℃
で3日間拡張透析(extensive dialysis)を行った。透
析した重合体を真空凍結乾燥することにより、白色固体
からなるPNIPAMグラフトゼラチンを得た。
【0034】フィールズにより報告されたTNBS法に
より、得られた重合体中のアミノ基含有率を求めた。手
短に述べると、濃度が1.0〜10mg/mlになるよ
うに重合体を水に溶解した。Na2 4 7 を0.1M
含む0.1M−NaOH溶液(0.5ml)に上記で得
られた重合体溶液(0.5ml)を添加した後、1.1
M−TNBS水溶液(0.02ml)を添加した。5分
間培養した後、Na2SO3 を1.5mM含有する0.
1M−NaH2 PO4 水溶液(2ml)を添加すること
により、反応を停止させた。得られた反応溶液の吸光度
(波長420nm)を1cmの吸光セルで測定し、アミ
ノ基濃度を、トリニトロフェニル−α−アミノ基共役の
吸光係数ε420 =22,000M-1cm-1から求めた。
【0035】ジチオカルバミルゼラチンの分子量を以下
のようにして計算した。ゼラチン中のリシン残基のモル
数は変性の有無に関わらず一定のままなので、以下の関
係が成り立つ。 MWd ×(〔アミノ〕d +〔ジチオカルバミル〕d ) =MWg ×〔アミノ〕g …(1) ここで、MWd はジチオカルバミルゼラチンの分子量、
MWg はゼラチンの分子量(=95,000)、〔アミ
ノ〕d はジチオカルバミルゼラチン中のアミノ基含有率
(mol/g)、〔ジチオカルバミル〕d はジチオカル
バミルゼラチン中のジチオカルバミル基含有率(mol
/g)、〔アミノ〕g はゼラチン中のアミノ基含有率
(mol/g)である。
【0036】PPNIPAM−グラフトゼラチンの分子
量も以下のようにして計算した。ジチオカルバミン酸塩
誘導体化ゼラチン中の遊離アミノ基のモル数は光グラフ
ト重合の有無に関わらず一定のままなので、以下の関係
が成り立つ。 MWn ×〔アミノ〕n =MWd ×〔アミノ〕d …(2) ここで、MWn はPPNIPAM−グラフトゼラチンの
分子量、〔アミノ〕n はPPNIPAM−グラフトゼラ
チン中のアミノ基含有率(mol/g)である。
【0037】〔下限臨界点温度(LCST)の測定〕P
NIPAMまたはPNIPAMグラフトゼラチンを、そ
の濃度が1.0mg/mlになるように脱イオン水に溶
解し、UV−VIS分光光度計(Ubest−30、J
ASCO社製)を用い、10℃/時の速度で昇温しなが
ら、波長600nmの光に対する各溶液の透過率を測定
した。この透過率が100%から90%に低下した温度
を重合体のLCSTとした。
【0038】〔PNIPAMおよびPNIPAM−グラ
フトゼラチンの具体例〕ゼラチンは、アミノ基含有率
3.16×10-4mol/g、分子量9.5×104
ものを用いた。フォトインファータすなわち4−(N,
N−ジエチルジチオカルバミルメチル)安息香酸は、前
項で説明した方法に従って合成し、NMRスペクトル測
定により同定した。アミノ基含有率0.393×10-4
mol/g、ジチオカルバミル基含有率2.54×10
-4nol/g、前記算出式で計算した分子量1.0×1
5 であった。
【0039】PNIPAMグラフトゼラチンは以下のよ
うにして調製した。まず、縮合剤を用い、ゼラチンのリ
シン残基中のアミノ基とフォトインファータ中のカルボ
キシル基とを水溶液中で縮合反応させることにより、ゼ
ラチン上にフォトインファータを誘導体化した。その
後、フォトインファータ誘導体化ゼラチン(アミノ基を
滴定して求めたフォトインファータ含有率=2.54m
ol/g、アミノ基1個当たりの誘導体化度=87.6
%)へのNIPAMの光グラフト重合を水溶液中で行っ
た。重合時間は、15分および30分に設定した。得ら
れた重合体は、15分間の重合で得られたものをPNI
PAMグラフトゼラチン(I)と称し、30分間の重合
で得られたものをPNIPAMグラフトゼラチン(II)
と称した。PNIPAMはレドックス重合により調製し
た。
【0040】得られた各物質の性状を表1に示す。
【0041】
【表1】 ────────────────────────────────── 実施例1 実施例2 比較例 ────────────────────────────────── 重合体 PNIPAM- PNIPAM- PNIPAM ゼラチン(I) ゼラチン(II) LCST(℃) 34.4 33.4 33.1 アミノ酸含量(x10-4mol/g) 0.284 0.105 − 分子量 ※1 1.4x105 3.8x105 4.8x105 グラフト鎖分子量 ※2 1.5x103 1.1x104 − ────────────────────────────────── ※1:PNIPAM−ゼラチン(I)、(II)の分子量
は前記方法で計算した値であり、PNIPAMの分子量
は、DMF中、40℃でGPC法により測定された数平
均分子量である。
【0042】※2:誘導体化されたジチオカルバミル基
がすべてグラフト重合を開始したと仮定した場合のグラ
フト鎖の数平均分子量を表す。 〔LCSTの測定〕PNIPAMおよびPNIPAMグ
ラフトゼラチンの各水溶液の光透過率の変化を図1に示
す。
【0043】PNIPAM水溶液の光透過率は、溶液温
度が生理温度まで上昇すると急激に低下してゼロにな
り、他方、前記2種のPNIPAM−グラフトゼラチン
水溶液の光透過率は、いずれも、温度上昇とともに徐々
に低下し、生理温度では一定(PNIPAMグラフトゼ
ラチン(I)は約60%、PNIPAMグラフトゼラチ
ン(II)は35%)になった。
【0044】光透過率90%で測定したLCSTは、以
下の通りであった。PNIPAMは33.1℃、PNI
PAMグラフトゼラチン(II)は33.4℃、PNIP
AMグラフトゼラチン(I)は34.3℃。これらは、
ゼラチンにPNIPAMをグラフトした結果、前記2種
のPNIPAMグラフトゼラチンのLCSTが、PNI
PAMのLCSTより少し高い温度へシフトしたことを
示す。より高い分子量のグラフト鎖(PNIPAM−グ
ラフトゼラチン(I))は、PNIPAAMにより近い
LCSTを与えると思われる。
【0045】〔細胞培養基材〕PNIPAM(比較例)
およびPNIPAMグラフトゼラチン(実施例2)を脱
イオン水に溶解した後、孔径0.22μmのマイクロフ
ィルター(ミリポアー社製)で濾過して無菌化した。P
NIPAMおよびPNIPAMグラフトゼラチンの溶液
を約4℃で均一に混合した後、得られた混合溶液0.4
mlを35mmの未処理ディシュ(9.62cm2 )に
注いでその表面を均一に被覆し、さらに、清浄なベンチ
中で7時間風乾した。
【0046】コラゲナーゼ消化法によりウシ胸部大動脈
から採取した内皮細胞(EC)を、FBS15%、ペニ
シリン50IU/ml、ストレプトマイシン50μg/
mlおよびアンホテリシンB2.5μg/mlを補充し
たDMEM中で、5%CO2/95%空気からなる相対
湿度100%の雰囲気下、37℃で培養した。前記ポリ
マーがコートされた培養皿にECを播種密度1×105
個/cm2 で播種した後、5%CO2 /95%空気から
なる相対湿度100%の雰囲気下、37℃で培養した。
コントロール(照査実験)として、35mm組織培養皿
(9.62cm2 )上でも同様の条件下でECを培養し
た。
【0047】1日間培養後、培養皿を37℃から、LC
STよりも低い雰囲気温度(20℃)下に移すと、重合
体被覆培養皿からシート状をなす細胞の塊が離脱した。
得られた細胞シートを集め、トリプシンで処理した後、
位相差顕微鏡(OPTIPHOT2−POL、ニコン社
製)を用いて細胞の数を測定した。試験条件によって、
細胞が培養皿から離脱せずに接着したままになった場合
もある。そこで、それぞれの試験で、培養皿から離脱し
なかった細胞の数も、前記同様の操作で測定した。
【0048】図2は、混合溶液中のPNIPAMグラフ
トゼラチンの配合割合を変えて、上記試験を行った結果
を示している。また、培養細胞として、前記ECの代わ
りに、平滑筋細胞(SMC)を用いて同様の試験を行
い、その結果を示している。上記試験の結果、PNIP
AMのみでは、細胞培養基材に細胞が接着せず培養がで
きなかった。PNIPAMグラフトゼラチンの配合割合
が一定以上であれば、培養細胞は細胞培養基材に良好に
接着して培養が行えた。培養細胞の種類によって、好ま
しい配合割合の条件は異なる。PNIPAMグラフトゼ
ラチンが100%の場合、細胞培養は良好に行えたが、
温度の変化だけでは細胞の剥離が完全には行えなかっ
た。少量の剥離剤を併用すれば細胞の剥離回収は可能で
あり、この場合、剥離剤のみで剥離させる場合に比べ
て、細胞に対する悪影響を低減することができる。細胞
の剥離回収をより確実に行い、良質の細胞を得るには、
PNIPAMグラフトゼラチンとPNIPAMとを、適
切な配合割合で併用することが好ましい。
【0049】〔細胞の選別(cell sorting)〕異なる細
胞に対する接着性の違い(differential cell adhesive
ness)を利用して、細胞の選別を行うことができる。図
2に例示するように、細胞培養基材におけるPNIPA
Mグラフトゼラチンの配合割合を変えたときに、細胞が
ECの場合とSMCの場合とでは、細胞培養の結果に大
きな違いが生じている。PNIPAMグラフトゼラチン
とPNIPAMとが特定の配合割合からなる細胞培養基
材では、SMCに比べてECのほうが極端に高い接着性
を示している。
【0050】例えば、PNIPAMグラフトゼラチンと
PNIPAMとが特定の配合割合のときに、接着性が1
0倍異なる細胞の組み合わせでは、前記した細胞培養操
作を3回繰り返すことによって、選択的に取得したい細
胞(接着性が良好)に対して排除したい細胞(接着性が
劣る)細胞は1/1000にも濃度が希釈されることに
なる。
【0051】具体的には、培養細胞としてECとSMC
との両方を播種する以外は、前記実施形態と同様にして
細胞培養試験を行った。試験の結果、PNIPAMグラ
フトゼラチンの配合割合が2.9〜5重量%の範囲で、
ECのみを選択的に培養して回収することができた。こ
の結果から、生体から採取された組織のように、複数の
細胞が混在している試料を用いても、目的の細胞のみを
選択的に培養して回収できることが判る。
【0052】この技術は、細胞の選別操作あるいはモノ
クロナール選別に適用することができる。 〔モノクロナール選別〕図3に示す実施形態は、組織塊
から得られた細胞を、シャーレ等に前記細胞培養基材を
介して接着させた後、任意の場所にある特定の単一細胞
あるいはコロニーのみを回収する。
【0053】図3(a) に示すように、ガラス等からなる
培養皿20の内底に、PNIPAMグラフトゼラチンと
PNIPAMとを含む細胞培養基材の層22を介して、
単一細胞または細胞のコロニー(以下、細胞コロニーと
総称する)10、12、14を接着させる。基材層22
をLCSTよりも高い温度に維持しておけば、細胞コロ
ニー10、12、14は確実に接着された状態となる。
培養皿20には培養液24が満たされている。
【0054】図3(b) に示すように、培養皿20の底部
裏側に、棒状のガラス等からなり、低温(例えば、−7
0℃程度)に冷却された冷却体30を押し当てる。冷却
体30の接触個所付近が急速に冷却される。培養皿20
の内底面に配置された細胞培養基材22のうち、冷却体
30の接触個所に近い部分がLCSTよりも低い温度ま
で冷却されると、その部分の細胞培養基材22のみが接
着性を失って、接着されていた細胞コロニー12が剥が
れる。そのとき、冷却体30よりも遠い個所では、まだ
LCSTを超える温度が維持されているので、その部分
の細胞培養基材22は細胞コロニー10、14を接着し
続ける。目的の細胞コロニー12が培養皿20から剥離
されれば、直ちに冷却体30を培養皿20から引き離
す。
【0055】培養皿20の内底面から剥がれた細胞コロ
ニー12は、顕微鏡下でピペットなどを用いて吸い上げ
て回収する。その結果、多数の細胞コロニー10〜14
の中から目的の細胞コロニー12だけを選択的に取り出
すことができる。
【0056】
【発明の効果】本発明の感温性高分子化合物は、ゼラチ
ンにPNIPAMがグラフト重合しているので、ゼラチ
ンが有する各種の優れた機能と、PNIPAMが有する
優れた感温性との両方を確実に発揮することが可能にな
る。細胞培養基材として使用したときには、細胞の接着
性が高く細胞培養が良好に行えるとともに、温度を変え
るだけで培養された細胞を容易に剥離して回収すること
ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の感温性高分子化合物のLCST測定結
果を示すグラフ図
【図2】細胞培養試験の結果を示すグラフ図
【図3】モノクロナール選別の実施工程を段階的に表す
断面図
【符号の説明】
10〜14 細胞コロニー 20 培養皿 22 細胞培養基材層 30 冷却体

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】ゼラチンにN−イソプロピルアクリルアミ
    ドポリマーがグラフト重合されてなる感温性高分子化合
    物。
  2. 【請求項2】前記ゼラチン分子1本当たり3本以上の前
    記N−イソプロピルアクリルアミドポリマーがグラフト
    重合されてなり、平均グラフト鎖長が2.1×103
    上である請求項1に記載の感温性高分子化合物。
  3. 【請求項3】ゼラチンと4−(N,N−ジエチルジチオ
    カルバミル)安息香酸とを縮合剤の存在下で反応させ
    て、ジチオカルバメート化ゼラチン分子を得る工程と、 前記ジチオカルバメート化ゼラチンと感温性高分子生成
    単量体との混合水溶液に紫外線を照射して、ゼラチンに
    前記単量体のホモポリマーがグラフト重合された感温性
    高分子化合物を得る工程とを含む感温性高分子化合物の
    製造方法。
  4. 【請求項4】請求項1または2に記載の感温性高分子化
    合物と、 単体のN−イソプロピルアクリルアミドポリマーとを含
    む感温性高分子組成物。
  5. 【請求項5】請求項1または2に記載の感温性高分子化
    合物を含む細胞培養基材。
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