JP2018201463A - 幹細胞を調製するための方法およびキット - Google Patents

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千鶴 平井
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優史 丸山
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靖彦 多田
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Abstract

【課題】幹細胞を培養し、培養された幹細胞の中から、未分化の幹細胞を選択的に得る。【解決手段】本発明の幹細胞の調製方法は、刺激応答性ポリマーを含む基材上で幹細胞を培養する工程と、38℃未満の温度で基材に緩衝液を30秒〜10分間接触させて、培養した幹細胞を基材から剥離する工程と、を備え、緩衝液が、6より大きくかつ8未満のpHを有し、1ppm以下のCa2+濃度およびMg2+濃度を有する。【選択図】なし

Description

本発明は幹細胞を調製するための方法およびキットに関する。
幹細胞は、増殖能と他の細胞に分化する能力を有するため、再生医療への応用が期待されている。例えば、幹細胞を培養して、生体に移植するための組織を形成することができる。一般に、細胞を培養し、回収する方法として、刺激応答性ポリマーを用いる方法が知られている(例えば、非特許文献1)。
"Journal of Materials Chemistry"、2012、22(37):p.19514−19522
幹細胞は培養中の少しの刺激によって分化能を失いやすい。分化した幹細胞を含む培養細胞は、移植のための組織形成に使用することができない。しかしながら、従来の細胞培養方法では、培養した幹細胞の中から未分化の幹細胞を選択的に回収することはできなかった。
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、分化した幹細胞と未分化の幹細胞とでは細胞表面の状態が異なるため、刺激応答性ポリマーを含む基材上で幹細胞を培養し、培養細胞の基材からの剥離を特定の条件で行うことで、未分化の幹細胞を選択的に回収することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、刺激応答性ポリマーを含む基材上で幹細胞を培養する工程と、38℃未満の温度で基材に緩衝液を30秒〜10分間接触させて、培養した幹細胞を基材から剥離する工程と、を備え、緩衝液が、6より大きくかつ8未満のpHを有し、1ppm以下のCa2+濃度およびMg2+濃度を有する、幹細胞の調製方法を提供する。
また、本発明は、幹細胞を調製するためのキットであって、刺激応答性ポリマーを含む基材と、緩衝液と、を含み、緩衝液が、6より大きくかつ8未満のpHを有し、1ppm以下のCa2+濃度およびMg2+濃度を有するキットを提供する。
刺激応答性ポリマーは、温度応答性を示す部位Xと、温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yとを構成単位として有し、温度応答性を示す部位Xがエーテル部分構造またはスルフィド部分構造を有し、温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yが水中でのpKaが2以上12以下の官能基を有していてもよい。好ましくは、部位Xは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、およびポリペンチレングリコールからなる群より選ばれるポリマーに由来する構造単位を有し、部位Yは、pH応答性を示す部位であり、アルキレンジアミンに由来する。より好ましくは、刺激応答性ポリマーは、リジン、グルタミン酸およびアスパラギン酸からなる群より選ばれるアミノ酸に由来する構造単位をさらに有する。
幹細胞は、多能性幹細胞または体性幹細胞であってよく、iPS細胞、ES細胞、およびMUSE細胞からなる群より選ばれてもよい。
緩衝液は、リン酸塩、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸、3−モルホリノプロパンスルホン酸、およびトリスヒドロキシメチルアミノメタンからなる群より選ばれる緩衝成分を有していてもよい。
基材は、足場分子をさらに含んでいてよく、足場分子は、ラミニンまたはラミニン断片であってもよい。
本発明の幹細胞の調製方法およびキットによれば、幹細胞を培養し、培養された幹細胞の中から、未分化の幹細胞を選択的に得ることができる。
実施参考例におけるポリマー2−2の、水溶液中での温度応答性を示すグラフである。 実施参考例におけるポリマー2−2の、分子量分布を示すグラフである。 実施参考例における培養容器内の顕微鏡写真である。
本発明の幹細胞の調製方法は、刺激応答性ポリマーを含む基材上で幹細胞を培養する工程と、38℃未満の温度で基材に緩衝液を30秒〜10分間接触させて、培養した幹細胞を基材から剥離する工程と、を備える。本方法により調製できる幹細胞は、例えば、iPS細胞(人工多能性幹細胞)、ES細胞(胚性幹細胞)等の多能性幹細胞、またはMUSE細胞(ミューズ細胞)等の体性幹細胞である。
一実施形態において、本発明の刺激応答性ポリマーは、温度応答性を示す部位Xと、温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yとを構成単位として有する。このような刺激応答性ポリマーを表面に備える細胞培養容器は、温度変化および温度変化以外の刺激によって表面状態が変化することで培養された細胞の表面に対する接着性が変化し、細胞の剥離を促すことができる。特に、刺激応答性ポリマーが、培養温度において疎水性で、刺激によって親水性に変化する場合には、一般に、細胞は疎水性表面に接着しやすい傾向があるため、細胞の剥離に有利である。本実施形態の刺激応答性ポリマーは、温度および温度以外の刺激の両方に応答性であり、低い表面密度でも細胞剥離に十分に作用できるため、簡便な手法で培養容器に導入でき、また、優れた細胞剥離性を有する。
温度応答性を示す部位Xは、温度変化に応じてポリマーの溶解性(親水性または疎水性)等の性質または構造を変化し得る部位である。例えば、部位Xが、温度変化に応じてポリマーの溶解性を変化させる場合、ポリマーは、下限臨界溶解温度および/または上限臨界溶解温度を示し得る。下限臨界溶解温度を示す場合には、ポリマーは、臨界温度以下で可溶であり、臨界温度超で不溶であり、また、上限臨界溶解温度を示す場合には、ポリマーは、臨界温度以上で可溶であり、臨界温度未満で不溶である。ここで、細胞の剥離に本質的に必要となる現象は、細胞が感じる表面状態の変化であるため、部位Xは、下限臨界溶解温度および/または上限臨界溶解温度を示してもよいし、示さなくてもよい。ポリマーにおける下限臨界溶解温度や上限臨界溶解温度はバルクの性質であって、培養容器表面に固定化された材料の分子の状態(構造、運動性、物性等の変化)とは必ずしも相関しないためである。また、培地は多種の有機物や塩を含むため、水中で下限臨界溶解温度や上限臨界溶解温度を示さない化合物が必ずしも培地中で下限臨界溶解温度や上限臨界溶解温度を示さないとは限らない。ただし、一般に、水溶液中で下限臨界溶解温度や上限臨界溶解温度を示すことは、ポリマーの溶解性が温度応答性であることの参考にすることはできる。一実施形態において、本発明の刺激応答性ポリマーは、水溶液中で下限臨界溶解温度および/または上限臨界溶解温度を示し得、好ましくは、水溶液中で下限臨界溶解温度を示し得る。また、部位Xが温度変化に応じて異性化する場合、温度変化に応じてポリマーの構造が変化する。
温度応答性を示す部位Xが応答性を示す温度変化は、細胞に悪影響を与えない範囲内であれば特に制限はないが、例えば、培養温度(例えば、37℃)から室温(例えば、25℃)、20℃または低温(例えば4℃)への降温である。
温度応答性を示す部位Xは、エーテル部分構造またはスルフィド部分構造を有する。部位Xは、エーテル部分構造またはスルフィド部分構造を主鎖または側鎖のいずれに有していてもよい。部位Xは、好ましくは、エーテル部分構造またはスルフィド部分構造を2つ以上有する。この場合、各エーテル部分構造またはスルフィド部分構造は、連続して存在していてもよいし、離れて存在していてもよい。部位Xが、2つ以上のエーテル部分構造またはスルフィド部分構造を連続して有する場合、この部分構造は、式:−O−(C2n)−O−または−S−(C2n)−S−(式中、nは、例えば、1〜20であり、好ましくは、1〜10であり、より好ましくは、1〜5である)で表すことができる。
温度応答性を示す部位Xは、好ましくは、アルキレングリコール単位:−O−RO−(式中、ROは、Rが直鎖または分枝のアルキレンであるオキシアルキレン基である)を有する。前記式中、Rは、好ましくは、直鎖または分枝のC〜C20アルキレンであり、より好ましくは、直鎖または分枝のC〜C10アルキレンであり、特に好ましくは、直鎖または分枝のC〜Cアルキレンである。各アルキレングリコール単位は、アルキレン部分が直鎖または分岐のいずれであってもよい。よって、例えば、プロピレングリコール単位は、1,2−プロピレングリコール単位(−O−CH(CH)CHO−)および1,3−プロピレングリコール単位(−O−CHCHCHO−)を含み、ブチレングリコール単位は、1,2−ブチレングリコール単位(−O−C(CHCH)CHO−)、1,3−ブチレングリコール単位(−O−CH(CH)CHCHO−)および1,4−ブチレングリコール単位(−O−CHCHCHCHO−)を含む。部位Xは、特に好ましくは、エチレングリコール単位(−O−CHCHO−)、プロピレングリコール単位、ブチレングリコール単位およびペンチレングリコール単位から選ばれる少なくとも1つを有する。
温度応答性を示す部位Xは、好ましくは、2つ以上のオキシアルキレン基を有するポリアルキレングリコール部分構造:−O−(RO)−(式中、Rは前記の通りであり、nは、好ましくは、1〜1000である)を有する。部位Xは、より好ましくは、ポリエチレングリコール部分構造、ポリプロピレングリコール部分構造、ポリブチレングリコール部分構造およびポリペンチレングリコール部分構造から選ばれる少なくとも1つを有する。
好ましい実施形態において、温度応答性を示す部位Xは、式:−O−(C2n)−O−または−S−(C2n)−S−(式中、nは、例えば、1〜20であり、好ましくは、2〜10であり、より好ましくは、2〜5である)で表される部分構造を有するか、または、ポリエチレングリコール部分構造、ポリプロピレングリコール部分構造、ポリブチレングリコール部分構造およびポリペンチレングリコール部分構造から選ばれる少なくとも1つのポリアルキレングリコール部分構造を有するものである。
具体的には、温度応答性を示す部位Xは、例えば、アルキレングリコール、アルキレンジチオエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリペンチレングリコール、ポリヘキシレングリコール等のポリアルキレングリコール類、ポリフェニレングリコール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アルキルセルロース類、ポリビニルアルコールメチルエーテルおよびポリビニルアルコールエーテル類を部分構造として有し、好ましくは、アルキレングリコール部分構造、アルキレンジチオエーテル部分構造、ポリエチレングリコール部分構造、ポリプロピレングリコール部分構造、ポリブチレングリコール部分構造およびポリペンチレングリコール部分構造である。部位Xは、これらの部分構造の組み合わせを有していてもよい。
温度応答性を示す部位Xとして、エーテル部分構造またはスルフィド部分構造を側鎖に有するポリマーを用いることもできる。エーテル部分構造またはスルフィド部分構造を側鎖に導入することができるポリマーとしては、例えば、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−ジイソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−ジエチルアクリルアミド)、ポリ(N−メチルアクリルアミド)、ポリ(N−ジメチルアクリルアミド)、ポリアクリルアミド、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸プロピル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリメタクリル酸、ポリ(アクリル酸ブチル)、ポリ(アクリル酸プロピル)、ポリ(アクリル酸エチル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリアクリル酸、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)、ポリ乳酸、N−アシル化−ε−ポリリジン、N−アルキル化−ε−ポリリジン、γ−ポリグルタミン酸アミド誘導体およびδ−ポリアスパラギン酸アミド誘導体等を用いることができる。
一実施形態において、温度応答性を示す部位Xは、両末端に原料由来の基を有する。原料由来の基は、重合可能な基であれば特に限定されずに、例えば、エポキシ基由来の基、カルボン酸基由来の基およびアミン基由来の基等である。すなわち、部位Xは、好ましくは、エーテル部分構造またはスルフィド部分構造と、両末端の原料由来の基とを有する。一実施形態において、部位Xは、エーテル部分構造またはスルフィド部分構造と、両末端の原料由来の基とからなる。
好ましい実施形態において、温度応答性を示す部位Xは、下記式:
式:L−O−(RO)−L’ (I)
(式中、Rは直鎖または分枝のアルキレン基であり、LおよびL’は原料由来の基であり、nは1〜1000である)、
式:L−O−(C2n)−O−L’ (II)
(nは、例えば、1〜20であり、好ましくは、2〜10であり、より好ましくは、2〜5である)、または
式:L−S−(C2n)−S−L’ (III)
(nは、例えば、1〜20であり、好ましくは、2〜10であり、より好ましくは、2〜5である)
で表される。前記式(I)において、Rは、好ましくは、直鎖または分枝のC〜C20アルキレンであり、より好ましくは、直鎖または分枝のC〜C10アルキレンであり、特に好ましくは、直鎖または分枝のC〜Cアルキレンである。前記式(I)〜(III)において、LおよびL’は、例えば、エポキシ基由来の基、カルボン酸基由来の基およびアミン基由来の基であり、具体的には、例えば、−CH(OH)CH−、−CO−または−(CH)NH−である。
あるいは、部位Xは、リジン、グルタミン酸等のアミノ酸由来部分にエーテル部分構造またはスルフィド部分構造が置換したものであってもよい。また、原料として二重結合を有するモノマーを用いた場合に形成される、側鎖にエーテル部分構造またはスルフィド部分構造を有するアルキレン部分であってもよい。
温度応答性を示す部位Xは、特に好ましくは、下記のものから選ばれる少なくとも1つである。

(式中、aは1〜1000であり、bは1〜500であり、cは1〜400であり、dは1〜500であり、eは1〜500であり、gは1〜500である。)
温度応答性を示す部位Xは、低分子またはポリマーのいずれでもよいが、細胞が表面状態の変化を感じるためには一定以上の分子量を有することが望ましいため、オリゴマーまたはポリマーが好ましい。部位Xがオリゴマーまたはポリマーである場合、部位Xの数平均分子量は、例えば、約300〜10000である。
温度応答性を示す部位Xは、温度以外の刺激に対しても応答性であり得る。部位Xが温度以外の刺激に対しても応答性であると、細胞に損傷を与えることなく細胞の剥離を促進することができ、また、温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yの効果を増強することができる。温度以外の刺激としては、例えば、細胞に対して非侵襲的な外的環境の変化を用いることができ、特に限定されずに、例えば、pH変化、塩濃度変化、組成変化、糖・ペプチド・弱還元剤のような生体適合性物質の添加および光照射等が挙げられる。部位Xは、好ましくは、温度変化に加えて、pHおよび/または塩濃度の変化に対して応答性である。これらの刺激は、細胞に悪影響を与えない程度に弱い刺激であることが好ましく、例えば、部位XがpH変化に応答性である場合、pH変化は、例えば、pH7.4からpH6.5、pH7.4からpH7.0またはpH7.4からpH8.0への若干の変化であり、また、部位Xが塩濃度または組成の変化に応答性である場合、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)や幹細胞用無血清培地(TeSR−E8)からPBS緩衝液またはHEPES緩衝液への変化である。
温度応答性を示す部位Xは、温度変化以外の刺激に対しても応答性を示す構造を含むことにより、または、部位Xに含まれるエーテル部分構造またはスルフィド部分構造が温度変化以外の刺激に対しても応答性を示すことにより、温度応答性に加えて、これらの刺激にも応答性を示すことができる。例えば、部位Xに含まれるエーテル部分構造またはスルフィド部分構造は、pHおよび/または塩濃度の変化に応答性であり得る。また、部位Xは、エーテル部分構造またはスルフィド部分構造に加えて、塩やプロトン等と相互作用し得る配位性部位を含むことで、pHおよび/または塩濃度の変化に応答性を示すことができる。配位性部位は、特に限定されずに、例えば、別のエーテル、別のチオエーテル、カルボン酸基、含窒素芳香族基、アミン基、カルボン酸基およびリン酸基等であるが、細胞の培養容器への非特異的な吸着を防ぐ観点からは、ポリエーテルのような構造が好ましい。
温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yは、特に限定されずに、例えば、pH変化、塩濃度変化、組成変化、糖・ペプチド・弱還元剤のような生体適合性物質の添加および光照射等の細胞に対して非侵襲的な刺激に対して応答性を示す。部位Yは、これらの刺激によってポリマーの溶解性等の性質を変化させることで、細胞の接着または剥離に、特に細胞の剥離に作用することができる。これらの刺激は、細胞に悪影響を与えない程度に弱い刺激であることが好ましく、例えば、部位YがpH変化に応答性である場合、pH変化は、通常、pH7.4からpH6.5、pH7.4からpH7.0またはpH7.4からpH8.0への若干の変化であり、また、部位Yが塩濃度または組成の変化に応答性である場合、例えば、DMEMやTeSR−E8からPBS緩衝液またはHEPES緩衝液への変化である。部位Yは、好ましくは、pH、塩濃度および/または糖添加応答性であり、より好ましくは、pHおよび/または塩濃度応答性であり、特にpH応答性である。
温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yは、用いる刺激に応じて適した構造が異なるが、部位Yは、水中でのpKaが2以上12以下の官能基を含む。これは、刺激がpH変化および/または塩濃度変化の場合に好ましい。部位Yの官能基の水中でのpKaが前記範囲内であると、水のpKaである15.7以下かつ水中におけるオキソニウムイオンのpKaである−1.7以上の範囲内となり、さらに、細胞培養が可能なpH7付近での応答性を実現することができる。部位Yは、水中でのpKaが3以上11以下の官能基を含むことがより好ましい。ここで、本発明では、所定のpKaの官能基には、その共役酸または共役塩基のpKaがその範囲内となる官能基も含む。なお、一つの分子内に同一の官能基が複数存在する場合にはそれぞれのpKaが異なり得る。単独で存在する場合の水中でのpKaが上記範囲内に入らなくとも、複数で存在する場合に水中でのpKaが上記範囲内に入っていればよい。
温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yが有する官能基としては、例えば、カルボン酸基(脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸)、アミン基(脂肪族1級アミン基、脂肪族2級アミン基、脂肪族3級アミン基、芳香族1級アミン基、芳香族2級アミン基、芳香族3級アミン基)、イミン基、チオエーテル基、ボロン酸基(脂肪族ボロン酸基、芳香族ボロン酸基)、リン酸基(脂肪族リン酸基、芳香族リン酸基)、含窒素芳香族基(ピロール基、イミダゾリル基、ピリジル基、ピリミジル基、オキサゾリル基、チアゾリル基およびトリアゾリル基等)およびフェノール性水酸基等が挙げられるが、それらに限定されない。部位Yが有する官能基は、好ましくは、カルボン酸基、アミン基、チオエーテル基、ボロン酸基および含窒素芳香族基(特に、イミダゾリル基)である。これらの基は、通常、水中でのpKaが3以上11以下である。部位Yが有する官能基は、前記のものの組み合わせであってもよい。部位Yが有する官能基の好ましい組み合わせは、アミン基およびカルボン酸基の組み合わせ、アミン基およびチオエーテル基の組み合わせ、アミン基、チオエーテル基およびカルボン酸基の組み合わせ、ならびにアミン基および含窒素芳香族基(特に、イミダゾリル基)の組み合わせである。
温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yは、前記の官能基を少なくとも1つ有していればよいが、好ましくは、部位Yは、前記の官能基を2つ以上有し、より好ましくは、前記の官能基を2つまたは3つ有する。
温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yは、好ましくは、アルキレンジアミン部分構造またはアルキルアミノチオエーテル部分構造を有し、これらは、カルボン酸基またはアミン基をさらに有していてもよく、アミノ酸(例えば、リジン、システイン、グルタミン酸等)由来部分であってもよい。
一実施形態において、温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yは、好ましくは、両末端に原料由来の基を有する。原料由来の基は、重合可能な基であれば特に限定されずに、例えば、アミン基由来の基、チオール基由来の基およびカルボン酸基由来の基等である。部位Yにおいて、原料由来の基が、水中でのpKaが2以上12以下の官能基となり得る。
好ましい実施形態において、部位Yは、式:−R−(C2n)−R−(式中、RおよびRは、それぞれNHまたはSであり、nは、例えば、1〜20であり、好ましくは、1〜10であり、より好ましくは、1〜5である)で表されるものであり、アルキレン部分は、カルボン酸基またはアミン基で置換されていてもよい。また、部位Yは、式:−NH−(C2n)−CO−(式中、nは、例えば、1〜20であり、好ましくは、1〜10であり、より好ましくは、1〜5である)で表されるものであってもよく、アルキレン部分は、カルボン酸基またはアミン基で置換されていてもよい。また、部位Yは、リジン、システイン、グルタミン酸等のアミノ酸由来部分であってもよい。また、部位Yは、式:−CHCHR−(式中、Rは、カルボン酸基、アミン基、ボロン酸基および含窒素芳香族基から選択され、好ましくは、ボロン酸基であり、特に好ましくは、フェニルボロン酸基である)で表されるものであってもよい。
部位Yは、刺激が塩濃度変化である場合には、例えば、エーテル、チオエーテル、カルボニル基、含窒素芳香族基、アミン基、カルボン酸基およびリン酸基から選ばれる配位性部位を含む。また、刺激が糖添加である場合には、部位Yは、好ましくは、ボロン酸基等のような糖と反応し得る部位を含む。刺激が還元剤の添加である場合には、部位Yは、好ましくは、ジスルフィド等のような被還元性の部位を含む。刺激が光照射である場合には、部位Yは、好ましくは、アゾベンゼン、スピロピラン、ジアリールエテンおよびo−ニトロベンジル基等のような光応答性の部位を含む。なお、例えば、ジスルフィドのような還元により切断される官能基や、o−ニトロベンジル基のような光により切断される官能基を用いる場合は、結合の切断によって生じる成分が培地中に溶け出して細胞に与える影響に留意する必要がある。
温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yは、特に好ましくは、下記のものから選ばれる少なくとも1つである。
温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yは、低分子またはポリマーのいずれであってもよいが、好ましくは低分子である。
刺激応答性ポリマーにおける温度応答性を示す部位Xと、温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yとのモル比は、例えば、10:1〜1:10であり、好ましくは5:1〜1:5であり、より好ましくは3:1〜1:3である。
本実施形態の刺激応答性ポリマーは、温度応答性を示す部位Xおよび温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yに加えて、物性を調節する部位X’またはY’を有していてもよい。物性を調節する部位X’またはY’を有することで、ポリマーを望ましい物性に調節することができ、例えば、温度または温度以外の刺激に対する応答性を増大すること、溶解性を変化させること、電荷密度を変化させること、別の応答性を付与すること、細胞接着性を調節すること、薬物徐放性を付与すること、等が可能となる。ここで、温度または温度以外の刺激に対する応答性を増大することとは、応答性の程度を増大することや、応答可能な温度または温度以外の刺激の範囲を広くすることをいう。
物性を調節する部位X’またはY’は、特に限定されずに、刺激応答性ポリマーの物性を変化させることができる物性調節部位を含むものであればよい。本発明において、部位X’は部位Xと類似する構造を有し、部位Y’は、部位Yと類似する構造を有するものである。また、部位X’は、部位Xとして用いることができるものであってもよいが、1つのポリマーにおいて、部位X’は部位Xとは異なるものである。また、同様に、部位Y’は、部位Yとして用いることができるものであってもよいが、1つのポリマーにおいて、部位Y’は部位Yとは異なるものである。
具体的には、例えば、部位X’またはY’がカルボン酸基、ボロン酸基、リン酸基、スルホン酸、アミン基、イミン基、イミダゾリル基、ピリジル基、グアニジル基、4級アンモニウム基、等を有する場合、例えば、リジン等のアミノ酸由来部分を有する場合、刺激応答性ポリマーのpH変化に対する応答性を変化させることができる。部位X’またはY’がアゾベンゼン、スピロピラン、ジアリールエテンおよびo−ニトロベンジル基等の光応答性部分を含む場合、刺激応答性ポリマーの光応答性を増大することができる。部位X’またはY’がゼラチン、コラーゲン、ポリリジン、RDGペプチド、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、キチン、キトサン、インテグリン、カドヘリン、アルブミン、グロブリン、ヘパリン、へパラン硫酸、デキストラン硫酸、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、エラスチン等の接着性部分を含む場合、刺激応答性ポリマーの細胞接着性を調節することができる。部位X’またはY’がエステル結合のような加水分解可能な結合を介して生理活性物質が導入された構造を含む場合、薬物徐放性を付与することができる。
部位X’は部位Xと類似する構造を有する。部位X’は、好ましくは、両末端に原料由来の基を有する。原料由来の基は、前記の部位Xの原料と同様である。
部位Y’は部位Yと類似する構造を有する。部位Y’は、好ましくは、両末端に原料由来の基を有する。原料由来の基は、前記の部位Yの原料と同様である。
物性を調節する部位X’またはY’は、特に好ましくは、下記のものから選ばれる少なくとも1つである。
刺激応答性ポリマーにおける温度応答性を示す部位Xと、物性を調節する部位X’とのモル比は、例えば、100:1〜1:10であり、好ましくは20:1〜1:5であり、温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yと、物性を調節する部位Y’とのモル比は、例えば、100:1〜1:10であり、好ましくは20:1〜1:5である。
本実施形態の刺激応答性ポリマーは、好ましくは、水溶性である。刺激応答性ポリマーの数平均分子量は、好ましくは500〜500000であり、より好ましくは500〜200000であり、特に好ましくは500〜100000である。好ましい刺激応答性ポリマーは、実施参考例のポリマー1−1〜1−4、2−1〜2−7、3−1〜3−4、4−1〜4−4および5−1〜5−4のポリマーである。
本実施形態の刺激応答性ポリマーは、例えば、温度応答性を示す部位Xの原料と、温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yの原料と、場合によって物性を調節する部位X’またはY’の原料とを共重合することで製造できる。各部位の原料としては、モノマーまたはマクロモノマーを用いることができる。これらの原料に加えて、別のモノマーまたはマクロモノマーを共存させた状態で共重合してもよい。重合形式としては、例えば、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、配位重合、重縮合、重付加、付加縮合、開環重合およびメタセシス重合等を用いることができ、所望の構造に応じて適宜選択できる。重合形式は、好ましくは、ラジカル重合、重縮合、重付加、付加縮合および開環重合である。原料中の官能基は必要に応じて保護したものを用いてもよく、この場合、重合後に脱保護を実施した後に精製することが好ましい。
一実施形態において、重縮合または開環重合により刺激応答性ポリマーを製造する場合、部位Xおよび部位Yの原料としては、重縮合または開環重合可能な基を両末端に有するものを用いることができる。例えば、重縮合の場合、部位Xおよび部位Yの原料として、両末端にカルボン酸基および/またはアミン基を有するものを用いることができ、具体的には、部位Xおよび部位Yの原料として、一方の末端にカルボン酸基を有し、他方の末端にアミン基を有するものを用いることができ、また、部位Xの原料として両末端にカルボン酸基を有するものを用い、部位Yの原料として両末端にアミン基を有するものを用いることもできる。部位X’および部位Y’の原料は、それぞれ部位Xおよび部位Yと同様の末端基を有することが好ましい。また、開環重合の場合、例えば、部位Xの原料として、エポキシ基を両末端に有するものを用いることができ、部位Yの原料として、求核性基(例えば、アミン基またはチオール基)を両末端に有するものを用いることができる。重合条件は、用いる原料および重合方法によって適宜選択できる。
一実施形態において、ラジカル付加重合により刺激応答性ポリマーを製造する場合、部位Xおよび部位Yの原料は、ラジカル付加重合可能な基を有しているものであればよく、例えば、二重結合を有する原料が用いられる。この場合、好ましくは、部位Xの原料は、側鎖にエーテル部分構造またはスルフィド部分構造を有し、また、部位Yの原料は、側鎖に官能基を有する。この重合方法では、部位Xおよび部位Yが順不同で結合したポリマーが得られる。重合条件は、用いる原料および重合方法によって適宜選択できる。
あるいは、本実施形態の刺激応答性ポリマーは、ポリマーを原料として用い、該ポリマーの側鎖に、部位Xまたは部位Yを導入して、側鎖の全てまたは一部に部位Xまたは部位Yを導入することで製造することもできる。例えば、温度応答性を示す部位Xを構成単位として有するポリマーと、温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yの原料とを反応させて、部位Xを構成単位として有するポリマーの側鎖に部位Yを導入してもよいし、温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yを構成単位として有するポリマーと、温度応答性を示す部位Xの原料とを反応させて、部位Yを構成単位として有するポリマーの側鎖に部位Xを導入してもよい。一実施形態において、例えば、部位Yを構成単位として有するポリマーとしてポリリジンまたはポリグルタミン酸を用い、これらの側鎖に温度応答性を示す部位Xを導入することができる。この場合、部位Yは、それぞれ、ポリリジンまたはポリグルタミン酸の構成単位であるリジンまたはグルタミン酸となる。
刺激応答性ポリマーの温度変化や温度変化以外の刺激に対する応答性は、一般に、該当する応答性を示す部位の導入量やポリマーの分子量に影響を受けるため、例えば、モノマー濃度、モノマー比、溶媒、反応温度および雰囲気等の重合条件を制御することによって、応答性の範囲を制御することができる。
複数の反応部位を有する原料を用いる場合には、得られるポリマーは必ずしも直鎖状ではなく、枝分かれ状やネットワーク状になるが、機能に影響を与えない範囲内でそれらでも構わない。また、ポリマーのタクティシティや重合の位置選択性や末端官能基は、機能に影響を与えない範囲内で複数の構造の混合物であって構わず、ポリマー内の結合様式や末端構造は不問である。
本発明は、前記の製造方法で製造された刺激応答性ポリマーも含む。よって、本発明は、部位Xの原料と、部位Yの原料と、場合によって物性を調節する部位X’またはY’の原料とを共重合することで得られる刺激応答性ポリマーも含む。
本実施形態において、未分化細胞をより選択的に得る観点から、刺激応答性ポリマーは、次の部位Xおよび部位Yの組み合わせを含むことが好ましい。部位Xは、好ましくは、アルキレングリコール、アルキレンジチオエーテル、ポリフェニレングリコール、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、またはポリビニルエーテルに由来する構造単位を有する。より好ましくは、部位Xは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、およびポリペンチレングリコールからなる群より選ばれるポリマーに由来する構造単位を1種以上有する。部位Yは、好ましくは、pH応答性部位であり、水中でのpKaが2以上かつ12以下のカルボン酸基、アミン基(1級、2級または3級脂の肪族または芳香族アミン由来)、チオール基、ボラン酸基または含窒素芳香族基(特に、イミダゾリル基)を有する。より好ましくは、部位Yは、pH応答性部位であり、水中でのpKaが3以上かつ11以下のアミン基(1級、2級または3級脂の肪族または芳香族アミン由来)を有する。さらに好ましくは、部位Yは、pH応答性であり、エチレンジアミン等のアルキレンジアミンに由来する。刺激応答性ポリマーは、上記部位Xおよび部位Yの組み合わせとともに、アミノ酸に由来する構造単位を部位Y’としてさらに有することがより好ましい。アミノ酸の具体例は、リジン、グルタミン酸およびアスパラギン酸である。刺激応答性ポリマーがこのような部位Y’を有することで、細胞の剥離にかかる時間をより短縮することができる。このような刺激応答性ポリマーにおいて、部位Xと部位Yとのモル比は、例えば、3:2〜2:3であり、部位Yと部位Y’とのモル比は、例えば、5:1〜3:1である。
本実施形態の刺激応答性ポリマーは、構成単位および構造に応じて、例えば、下記の式(1−1)、式(1−2)、式(1−3)または式(2−1)で表される。
式(1−1)の刺激応答性ポリマー

(式中、Xは温度応答性を示す部位であり、Yは温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位であり、Xはエーテル部分構造またはスルフィド部分構造を有し、Yは水中でのpKaが2以上12以下の官能基を含み、nは、好ましくは、2〜1000である)。
式(1−1)の刺激応答性ポリマーは、温度応答性を示す部位Xおよび温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yを構成単位として有する。部位Xおよび部位Yならびにそれらの好ましいものについては前記の通りである。式(1−1)の刺激応答性ポリマーは、部位Xと部位Yとが交互に結合した構造を有する。各原料の適切な組み合わせと適切な分子量を選ぶことで、目的の細胞剥離性を得ることができる。式(1−1)の刺激応答性ポリマーは、温度応答性を示す部位Xおよび温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yを有することにより、細胞に損傷を与えない弱い刺激により細胞を剥離することを可能にし、低密度でも十分に細胞剥離に作用できる。
式(1−1)の刺激応答性ポリマーは、例えば、両末端にエポキシ基またはカルボン酸基を有する部位Xの原料と、両末端に求核性基を有する部位Yの原料とを重縮合または開環重合することにより製造できる。
式(1−2)の刺激応答性ポリマー

(式中、Xは温度応答性を示す部位であり、Yは温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位であり、Y’は物性を調節する部位であり、Xはエーテル部分構造またはスルフィド部分構造を有し、Yは水中でのpKaが2以上12以下の官能基を含み、Y’は物性調節部位を含み、Yと同一ではなく、nは、好ましくは、1〜1000であり、n’は、好ましくは、1〜500である)。
式(1−2)のポリマーは、温度応答性を示す部位X、温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yおよび物性を調節する部位Y’を構成単位として有する。部位X、部位Yおよび部位Y’ならびにそれらの好ましいものについては前記の通りである。
式(1−2)のポリマーは、温度応答性を示す部位Xと、温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yが交互に結合した構造のうち、部位Yの一部が、物性を調節する部位Y’によって置換された構造を有する。物性を調節する部位Y’を有することで、部位Xおよび部位Yのみを構成単位として有する式(1−1)のポリマーでは得ることが難しい物性を得ることができる。
式(1−2)の刺激応答性ポリマーは、例えば、両末端にエポキシ基またはカルボン酸基を有する部位Xの原料と、両末端に求核性基を有する部位Yおよび部位Y’の原料とを重縮合または開環重合することにより製造できる。
式(1−3)の刺激応答性ポリマー

(式中、Xは温度応答性を示す部位であり、Yは温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位であり、X’は物性を調節する部位であり、Xはエーテル部分構造またはスルフィド部分構造を有し、Yは水中でのpKaが2以上12以下の官能基を含み、X’は物性調節部位を含み、Xと同一ではなく、nは、好ましくは、1〜1000であり、n’は、好ましくは、1〜500である。)
式(1−3)のポリマーは、温度応答性を示す部位X、温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yおよび物性を調節する部位X’を構成単位として有する。部位X、部位X’および部位Yならびにそれらの好ましいものについては前記の通りである。
式(1−3)のポリマーは、温度応答性を示す部位Xと、温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yが交互に結合した構造のうち、温度応答性を示す部位Xの一部が、物性を調節する部位X’によって置換された構造を示す。物性を調節する部位X’を有することで、部位Xおよび部位Yのみを構成単位として有する式(1−1)のポリマーでは得ることが難しい物性を得ることができる。
式(1−3)の刺激応答性ポリマーは、例えば、両末端にエポキシ基またはカルボン酸基を有する部位Xおよび部位X’の原料と、両末端に求核性基を有する部位Yの原料とを重縮合または開環重合することにより製造できる。
式(2−1)の刺激応答性ポリマー

(式中、Xは温度応答性を示す部位であり、Yは温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位であり、Xはエーテル部分構造またはスルフィド部分構造を有し、Yは水中でのpKaが2以上12以下の官能基を含み、nは、好ましくは、1〜1000であり、n’は、好ましくは、1〜500である)
式(2−1)のポリマーは、温度応答性を示す部位Xおよび温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yを構成単位として有する。式(2−1)のポリマーは、式(1−1)のポリマーとは異なり、部位Xおよび部位Yが順不同で結合した構造を有し、例えば、ランダム共重合体およびブロック共重合体等の構造を有する。温度応答性を示す部位Xと、温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yとの結合順が重要とならない場合には、このような構造を用いることもできる。
式(2−1)のポリマーは、例えば、部位Xおよび部位Yの各原料を用いて、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、配位重合、重縮合、重付加、付加縮合、開環重合およびメタセシス重合等により製造できる。あるいは、式(2−1)のポリマーは、部位Xを構成単位として有するポリマーの側鎖に部位Yを、または、部位Yを構成単位として有するポリマーの側鎖に部位Xを導入することによっても製造できる。
刺激応答性ポリマーは、細胞を剥離する観点から一定以上の分子量を有することが好ましく、例えば、300〜100000の数平均分子量を有する。本明細書において、数平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)−MALS(多角度光散乱検出器)により測定した値である。
刺激応答性ポリマーを含む基材は、例えば、培養皿、ウェルプレート(ウェルディッシュ)、培養容器等の支持体上に保持または固定化することができる。この場合、基材中の刺激応答性ポリマーは、例えば、共有結合、電荷相互作用、または物理吸着により支持体表面に保持または固定化してもよい。一例として、カルボン酸基、アミン基等の官能基を表面に備えるポリスチレン製のウェルプレートに、刺激応答性ポリマーの官能基を反応させ、ウェルプレートに刺激応答性ポリマーを固定化することができる。
刺激応答性ポリマーを含む基材は、細胞接着を促進する足場分子をさらに含んでいてもよい。足場分子は、細胞の培養において一般的に使用される足場分子であってよく、例えば、細胞外基質または細胞接着分子の一部および全部、並びにこれらの構造を有する分子からなる群より選ばれる1種以上である。足場分子の具体例は、細胞外基質の一種であるラミニンおよびラミニン断片であり、これらの足場分子は、細胞がiPS細胞の場合に好ましい。ラミニン断片には、ラミニンの部分構造を有する組替えタンパクおよび合成分子も含まれる。足場分子は、幹細胞の種類に応じて適宜選択できる。
刺激応答性ポリマーおよび足場分子を含む基材は、一例として、刺激応答性ポリマーと足場分子とが層を成すように構成されていてもよい。例えば、支持体の表面に刺激応答性ポリマーを固定化し、固定された刺激応答性ポリマーの表面の少なくとも一部に、足場分子の層をコーティングしてもよい。
幹細胞の培養条件は、培養が刺激応答性ポリマーを含む基材上で行われる限り限定されず、幹細胞の一般的な培養条件を適用することができる。例えば、幹細胞は、37℃以上の温度でフィーダーレス培養することができる。
培養した幹細胞は、次の工程で、基材に緩衝液を接触させることにより、基材から剥離して回収する。
緩衝液は、リン酸塩、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、3−モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、およびトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)からなる群より選ばれる緩衝成分を有していてよい。より具体的には、緩衝液として、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、HEPES緩衝液、MOPS緩衝液、またはTris−HCl緩衝液を使用することができる。なお、細胞の損傷を抑える観点から、緩衝液が細胞に接触することにより起こる浸透圧の変化は、最小限に抑えることが好ましい。緩衝液の浸透圧は、例えば、260〜320mOSM/kgである。
緩衝液のpHは、6より大きくかつ8未満である。細胞の剥離にかかる時間を短縮する観点から、緩衝液のpHは、6.5〜7.6が好ましく、6.5〜7.4がより好ましく、6.5〜7.2が特に好ましい。緩衝液は幹細胞の生存に少なからず影響を与えるため、質の高い培養細胞をより効率的に得る観点からは、幹細胞が緩衝液に接触している時間は短いほど好ましい。
緩衝液中のCa2+濃度およびMg2+濃度はいずれも1ppm(1mg/L)以下である。細胞の剥離にかかる時間を短縮する観点から、いずれのイオン濃度も0.1ppm以下であることがより好ましい。
幹細胞は38℃未満の温度で剥離する。幹細胞の培養効率の観点から、幹細胞を剥離する際の温度は、4℃以上であってよく、20℃以上であってよく、25℃以上であってもよい。幹細胞の分化を抑える観点から、幹細胞を剥離する際の温度は室温付近であることが好ましく、より具体的には、15℃〜37℃が好ましく、18℃〜35℃がより好ましく、20℃〜30℃がさらに好ましい。
緩衝液を基材に接触させる時間は、30秒〜10分間である。未分化細胞は分化細胞に比べて剥離されやすいため、接触させる時間がこの範囲にあれば、分化細胞の剥離を抑え、未分化細胞を選択的に剥離することができる。未分化細胞をより選択的に剥離する観点、および作業の再現性の観点から、緩衝液を基材に接触させる時間は、1分〜8分が好ましく、2分〜6分がより好ましい。
本発明の幹細胞を調製するためのキットは、上記の方法で幹細胞を調製する場合に使用することができるキットである。キットは、刺激応答性ポリマーを含む基材と、緩衝液と、を含む。刺激応答性ポリマーを含む基材および緩衝液の詳細は上記の方法で述べたとおりである。
幹細胞を調製するためのキットは、培養皿、ウェルプレート、培養容器等の支持体、培地など、その他の構成をさらに備えていてもよい。また、基材は、基材に含まれる刺激応答性ポリマーが支持体に固定化または保持されていてもよく、足場分子をさらに備えていてもよい。ポリマーの固定化および足場分子についての詳細は、上記の方法において述べたとおりである。
(試験1 幹細胞の剥離)
本発明の刺激応答性ポリマーを調製した。以下のポリマー調製において記載したモル当量は仕込み時のモル当量であり、また、部位Xに対応する原料に対する各原料のモル当量である。また、原料中の官能基は必要に応じて保護したものを用い、この場合、重合後に脱保護を実施した後に精製した。
<ポリマー1−1〜1−4の調製>
部位Xに対応する両末端にエポキシ基を有する原料と、部位Yに対応する2つ以上の求核部位を有する原料を重合に用いて式(1−1)で表されるポリマー1−1〜1−4を調製した。
ポリマー1−1は、PEG2000−ジグリシジルエーテルと1,4−ブタンジアミン(1.2モル当量)の水−エタノール(1:1)溶液を60℃で2時間加熱することで重合させた。得られたポリマーを再沈または透析(MWCO1000)により精製し、凍結乾燥によって粉末化してポリマー1−1を得た。ポリマー1−1の数平均分子量は約40000であった。
ポリマー1−2は、PPG640−ジグリシジルエーテルおよびエチレンジアミン(1.2モル当量)から、ポリマー1−1と同様にして調製した。ポリマー1−2の数平均分子量は約30000であった。ポリマー1−2はダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で下限溶解臨界温度を示すことが確認された。
ポリマー1−3は、PBG400−ジグリシジルエーテルおよびエチレンジアミン(1.4モル当量)から、ポリマー1−1と同様にして調製した。ポリマー1−3の数平均分子量は約20000であった。
ポリマー1−4は、rand−PEG/PPG1000−ジグリシジルエーテルおよびリジン(1.4モル当量)から、ポリマー1−1と同様にして調製した。ポリマー1−4の数平均分子量は約10000であった。
表1にポリマー1−1〜1−4の構造を示す。

(式中、aは1〜1000であり、bは1〜500であり、cは1〜400であり、dは1〜500であり、eは1〜500である。)
<ポリマー2−1〜2−7の調製>
部位Xに対応する両末端にエポキシ基を有する原料と、部位Yまたは部位Y’に対応する2つ以上の求核部位を有する原料を重合に用いて式(1−2)で表されるポリマー2−1〜2−7を調製した。
ポリマー2−1は、PEG2000−ジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジアミン(0.8モル当量)およびシステイン(0.8モル当量)から、ポリマー1−1と同様にして調製した。ポリマー2−1の数平均分子量は約40000であった。
ポリマー2−2は、PPG640−ジグリシジルエーテル、エチレンジアミン(1.2モル当量)およびリジン(0.4モル当量)から、ポリマー1−1と同様にして調製した。ポリマー2−2はDMEM中で下限溶解臨界温度を示すことが確認された。図1に、ポリマー2−2の水溶液中での温度応答性を温度可変光透過度測定により測定した結果を示す。図1より、ポリマー2−2は水溶液中で下限臨界溶解温度を示すことが確認された。ポリマー2−2の数平均分子量は約30000であった。図2にポリマー2−2の分子量分布を示す。
ポリマー2−3は、PPG640−ジグリシジルエーテル、エチレンジアミン(1.25モル当量)および4,4’−ジアミノアゾベンゼン(0.25モル当量)から、ポリマー1−1と同様にして調製した。ポリマー2−3の数平均分子量は約20000であった。ポリマー2−3はDMEM中で下限溶解臨界温度を示すことが確認された。
ポリマー2−4は、rand−PEG/PPG1000−ジグリシジルエーテル、エチレンジアミン(1.2モル当量)およびリジン(0.4モル当量)から、ポリマー1−1と同様にして調製した。ポリマー2−4の数平均分子量は約40000であった。
ポリマー2−5は、ブチレングリコールジグリシジルエーテル、システイン(1.5モル当量)およびω,ω’−ジチオール−PNIPAM(0.3モル当量)から、ポリマー1−1と同様にして調製した。ポリマー2−5の数平均分子量は約50000であった。ポリマー2−5はDMEM中で下限溶解臨界温度を示すことが確認された。
ポリマー2−6は、PEG2000−ジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジアミン(1.6モル当量)およびε−ポリリジン(0.16モル当量)から、ポリマー1−1と同様にして調製した。ポリマー2−6の数平均分子量は約100000であった。
ポリマー2−7は、PPG640−ジグリシジルエーテル、エチレンジアミン(1.6モル当量)およびゼラチン(0.16モル当量)から、ポリマー1−1と同様にして調製した。ポリマー2−7の数平均分子量は約100000であった。ポリマー2−7はDMEM中で下限溶解臨界温度を示すことが確認された。
表2にポリマー2−1〜2−7の構造を示す。表2中、[Y]:[Y’]は合成時の仕込みモル比を示す。

(式中、aは1〜1000であり、bは1〜500であり、cは1〜400であり、dは1〜500であり、eは1〜500である。)
<ポリマー3−1〜3−4の調製>
部位Xまたは部位X’に対応する両末端にエポキシ基を有する原料と、部位Yに対応する2つ以上の求核部位を有する原料を重合に用いて式(1−3)で表されるポリマー3−1〜3−4を調製した。
ポリマー3−1は、PEG2000−ジグリシジルエーテル、ブチレングリコールジグリシジルエーテル(0.5モル当量)およびシステイン(1.5モル当量)から、ポリマー1−1と同様にして調製した。ポリマー3−1の数平均分子量は約40000であった。
ポリマー3−2は、PEG2000−ジグリシジルエーテル、オクタフルオロデカンビスオキシド(0.05モル当量)および1,4−ブタンジアミン(1.5モル当量)から、ポリマー1−1と同様にして調製した。ポリマー3−2の数平均分子量は約40000であった。
ポリマー3−3は、PEG2000−ジグリシジルエーテル、PBG1000−ジグリシジルエーテル(2モル当量)およびエチレンジアミン(4.8モル当量)から、ポリマー1−1と同様にして調製した。ポリマー3−3の数平均分子量は約40000であった。
ポリマー3−4は、PPG640−ジグリシジルエーテル、ブチレングリコールジグリシジルエーテル(0.33モル当量)およびエチレンジアミン(2モル当量)から、ポリマー1−1と同様にして調製した。ポリマー3−4の数平均分子量は約30000であった。
表3にポリマー3−1〜3−4の構造を示す。表3中、[X]:[X’]は合成時の仕込みモル比を示す。

(式中、aは1〜1000であり、bは1〜500であり、cは1〜400である。)
<ポリマー4−1〜4−4の調製>
部位Xまたは場合によってX’に対応する両末端にカルボン酸を有する原料と、部位Yまたは場合によってY’に対応する両末端にアミンを有する原料を用いて、脱水縮合反応による重合によって、前記の式(1−1)、式(1−2)または式(1−3)で表されるポリマーを調製した。
ω,ω’−ジカルボキシルPEG1000およびスペルミジン(1.5モル当量)を水−エタノール(1:1)溶媒中で1.2当量の縮合剤DMT−MMと撹拌することで重合を実施しポリマーを得た。得られたポリマーを再沈または透析(MWCO1000)により精製し、凍結乾燥によって粉末化してポリマー4−1を得た。ポリマー4−1の数平均分子量は約20000であった。
ポリマー4−2は、3,5−ジチアオクタン−1,8−ジカルボン酸、スペルミジン(1.5モル当量)および1,4−ブタンジアミン(0.3モル当量)から、ポリマー4−1と同様にして調製した。ポリマー4−2の数平均分子量は約5000であった。
ポリマー4−3は、ω,ω’−ジカルボキシルPEG1000、ω,ω’−ジカルボキシルPPG640(2モル当量)およびカルボキシル基が保護されたリジン(4.8モル当量)から、ポリマー4−1と同様にして調製した。ポリマー4−3の数平均分子量は約10000であった。
ポリマー4−4は、ω,ω’−ジアミノPPG640およびアミノ基が保護されたグルタミン酸(1.5モル当量)から、ポリマー4−1と同様にして調製した。ポリマー4−4の数平均分子量は約10000であった。
表4にポリマー4−1〜4−4の構造を示す。表4中、[X]:[X’]および[Y]:[Y’]は合成時の仕込みモル比を示す。
<ポリマー5−1〜5−4の調製>
脱水縮合反応またはラジカル付加反応を重合に用い、式(2−1)で表されるポリマーを調製した。
ブトキシエトキシ酢酸とε−ポリリジンを水中で1.2当量のDMT−MMと撹拌することで、ε−ポリリジンの側鎖にブトキシエトキシ酢酸アミド部分を導入した。得られたポリマーを再沈または透析により精製し、凍結乾燥によって粉末化してポリマー5−1を得た。ポリマー5−1の数平均分子量は約6000であった。
N,N−ビス(エトキシエチル)アミンとポリ−γ−グルタミン酸を水中で1.2当量のDMT−MMと撹拌することで、ポリ−γ−グルタミン酸の側鎖にN,N−ビス(エトキシエチル)アミド部分を導入した。得られたポリマーを再沈または透析により精製し、凍結乾燥によって粉末化してポリマー5−2を得た。ポリマー5−2の数平均分子量は約10000であった。
末端にそれぞれカルボン酸基とアミン基を有するPPG640誘導体およびヒスチジンを水−エタノール(1:1)溶媒中で1.2当量のDMT−MMと撹拌することで重合を実施した。得られたポリマーを再沈または透析により精製し、凍結乾燥によって粉末化してポリマー5−3を得た。ポリマー5−3の数平均分子量は約20000であった。
炭素−炭素二重結合を有する2種類のモノマー、ビニル(ジエチレングリコール)エーテルおよびスチレンボロン酸とAIBN(0.01当量)の混合物をアセトン中で60℃に加熱することで重合を実施した。得られたポリマーを再沈または透析(MWCO1000)により精製し、凍結乾燥によって粉末化してポリマー5−4を得た。ポリマー5−4の数平均分子量は約5000であった。
表5にポリマー5−1〜5−4の構造を示す。表5中、[X]:[Y]は合成時の仕込みモル比を示している。
<培養容器の作製>
実施参考例1〜7の培養容器
前記で得られたポリマーの代表例について、ポリマーを培養容器表面に導入して、該ポリマーを表面に備える培養容器を作製した。
表面官能基としてカルボン酸基を有するポリスチレン製6ウェルディッシュに、1重量%のEDC・HCl溶液(pH5.8)を40℃で2時間作用させた。その後、6ウェルディッシュをpH5.8緩衝溶液で洗浄し、0.1重量%の1級または2級アミン基を有するポリマー(ポリマー1−1、2−2、3−3、4−4)の溶液(pH5.8)を40℃で12時間作用させた。その後、6ウェルディッシュをpH7.4のPBSで洗浄した後に純水で洗浄し、乾燥し、紫外線滅菌して実施参考例1〜4の培養容器をそれぞれ作製した。
また、表面官能基としてアミン基を有するポリスチレン製6ウェルディッシュに、カルボン酸基を有するポリマー(ポリマー1−4、2−4、5−2)を0.1重量%とDMT−MMを1重量%含むpH5.8緩衝溶液を40℃で2時間作用させた。その後、6ウェルディッシュをpH7.4のPBSで洗浄した後に純水で洗浄し、乾燥し、紫外線滅菌して実施参考例5〜7の培養容器を作製した。
比較参考例1〜9の培養容器
比較参考例1〜5の培養容器は、温度応答性を示す部位Xを含まないポリマーとして、ε−ポリリジン、ポリ−γ−グルタミン酸、ポリビニルアミン、アミン末端ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)またはゼラチン(それぞれポリマー6−1、6−2、6−3、6−4または6−5とする)を実施参考例1〜4の培養容器と同様にして培養容器表面へ導入して作製した。
比較参考例6および7の培養容器は、温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yを含まない化合物として、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコール(それぞれポリマー6−6または6−7とする)を、前記の実施参考例の培養容器と同様にして培養容器表面へ導入して作製した。
表6にポリマー6−1〜6−7の化合物名または構造を示す。
比較参考例8の培養容器として、表面にポリマー修飾がされていない、表面官能基としてカルボン酸基を有する無処理の培養容器(実施参考例1〜4および比較参考例1〜5で用いた培養容器)を用いた。また、比較参考例9の培養容器として、表面にポリマー修飾がされていない、表面官能基としてアミン基を有する無処理の培養容器(実施参考例5〜7で用いた培養容器)を用いた。
<培養・剥離試験>
実施参考例1〜7の培養容器および比較参考例1〜9の培養容器を用いて細胞の培養および剥離試験を実施した。
細胞の培養および剥離試験は以下のようにして行った:
一般的なプロトコルにて培養容器表面をラミニンコートし、iPS細胞を培養容器に播種し、COインキュベータ中で7日間培養した。培地等は一般的なフィーダーレス用の条件に従った。その後、培養容器をCOインキュベータから取り出し、培地を所定の剥離液と交換し、室温で静置した。一定時間の後に、培養容器内を軽くピペッティングすることで撹拌したところ、細胞が剥離した。剥離しなかった細胞は酵素処理にて完全に剥離し計数し、刺激応答にて剥離した細胞数と足し合わせることで全細胞数とし、剥離率(全細胞数に対する刺激応答にて剥離した細胞数の比率)の計算に用いた。結果を表7に示す。また、図3に、実施参考例の培養容器の1つについて、細胞剥離試験の経過を写真で示す(培養時→剥離液(PBS)添加5分後→ピペッティング後)。なお、培養容器1〜7にて培養したiPS細胞の未分化状態をALP染色にて確認したところ、コロニー全てが青色に染色され、目視で未分化率は少なくとも90%以上であることが確認された。
表7より、実施参考例1〜7の培養容器では、いずれも剥離された細胞の生存率は85%以上であった。一方、比較参考例1〜9の培養容器では、いずれも剥離された細胞の生存率は非常に低かった。本発明のポリマーを用いた培養容器では、剥離された細胞の生存率が顕著に向上し、本発明のポリマーが細胞培養方法および細胞剥離方法において非常に有用であることがわかった。
(試験2 未分化幹細胞の選択的剥離)
<培養容器の作製>
実施例1〜6、比較例1、2、4、5で使用する培養容器を次のように作製した。表面にカルボン酸基を有するポリスチレン製の6ウェルディッシュに、1質量%の1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)溶液(pH5.8)を40℃で2時間反応させた。6ウェルディッシュをpH5.8の緩衝液で洗浄し、0.1質量%のポリマー1−2またはポリマー2−2の溶液(pH5.8)を40℃で12時間反応させた。6ウェルディッシュを、pH5.8のPBSと、続いて純水で洗浄し、乾燥し、紫外線により滅菌した。このようにして表面をポリマー1−2またはポリマー2−2で修飾されたディッシュを得た。ディッシュに、0.5μg/mLになるようにPBS(−)緩衝液で希釈した「iMatrix(登録商標)−511」を加え、室温にて3時間静置することで、ポリマー1−2またはポリマー2−2で修飾されたディッシュをさらにラミニン断片でコーティングした。なお、「iMatrix(登録商標)−511」は、ラミニン断片と同一の配列を有する組換えタンパク質であり、株式会社ニッピから販売されている。
比較例3で使用する培養容器は、6ウェルディッシュに上記の方法でラミニン断片をコーティングすることにより作製した。この培養容器には、刺激応答性ポリマーをコーティングしていない。
<培養・剥離試験>
作製した培養容器を用いて、次のように細胞の培養および剥離試験を行った。一般的なフィーダーレスの培養条件に従い、COインキュベータ内でiPS細胞を培養した。培養容器をインキュベータ内から取り出し、培養容器内の上記所定の箇所を顕微鏡で撮影した。培養容器内の培地を所定の緩衝液と交換し、温度25℃で所定時間静置した。ピペットを用いて培養容器内の緩衝液を撹拌した。その後、培養容器の所定の箇所を再び顕微鏡で撮影した。顕微鏡写真を用いて未分化細胞と分化細胞の残存量を目視で確認し、培養したiPS細胞の剥離の度合いを記録した。各実施例および比較例の試験条件の詳細および試験結果を表8に示す。表8において、「反応時間」とは、基材と緩衝液とを反応させた時間であり、細胞が剥離した実施例1〜6、比較例1、5については、細胞が剥離するまでに要した時間を意味する。

A=未分化細胞が選択的に剥離された
B=未分化細胞および分化細胞の両方が剥離された
C=細胞が剥離しなかった
実施例1〜6では、未分化のiPS細胞が選択的に剥離された。比較例1、5では、未分化細胞および分化細胞の両方が剥離された。比較例2〜4では、未分化細胞および分化細胞のいずれも剥離されなかった。実施例1〜3の結果から、緩衝液のpHにより、未分化細胞の剥離に要する時間に差が出ることが示された。

Claims (18)

  1. 刺激応答性ポリマーを含む基材上で幹細胞を培養する工程と、
    38℃未満の温度で基材に緩衝液を30秒〜10分間接触させて、培養した幹細胞を基材から剥離する工程と、を備え、
    緩衝液が、6より大きくかつ8未満のpHを有し、1ppm以下のCa2+濃度およびMg2+濃度を有する、
    幹細胞の調製方法。
  2. 刺激応答性ポリマーが、温度応答性を示す部位Xと、温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yとを構成単位として有し、
    温度応答性を示す部位Xがエーテル部分構造またはスルフィド部分構造を有し、
    温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yが水中でのpKaが2以上12以下の官能基を有する、請求項1に記載の方法。
  3. 部位Xが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、およびポリペンチレングリコールからなる群より選ばれるポリマーに由来する構造単位を有し、
    部位Yが、pH応答性を示す部位であり、アルキレンジアミンに由来する、請求項2に記載の方法。
  4. 刺激応答性ポリマーが、リジン、グルタミン酸およびアスパラギン酸からなる群より選ばれるアミノ酸に由来する構造単位をさらに有する、請求項3に記載の方法。
  5. 幹細胞が多能性幹細胞または体性幹細胞である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 幹細胞がiPS細胞、ES細胞、およびMUSE細胞からなる群より選ばれる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  7. 緩衝液が、リン酸塩、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸、3−モルホリノプロパンスルホン酸、およびトリスヒドロキシメチルアミノメタンからなる群より選ばれる緩衝成分を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 基材が、足場分子をさらに含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
  9. 足場分子が、ラミニンまたはラミニン断片である、請求項8に記載の方法。
  10. 幹細胞を調製するためのキットであって、
    刺激応答性ポリマーを含む基材と、緩衝液と、を含み、
    緩衝液が、6より大きくかつ8未満のpHを有し、1ppm以下のCa2+濃度およびMg2+濃度を有する、
    キット。
  11. 刺激応答性ポリマーが、温度応答性を示す部位Xと、温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yとを構成単位として有し、
    温度応答性を示す部位Xがエーテル部分構造またはスルフィド部分構造を有し、
    温度変化以外の刺激に対して応答性を示す部位Yが水中でのpKaが2以上12以下の官能基を有する、請求項10に記載のキット。
  12. 部位Xが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、およびポリペンチレングリコールからなる群より選ばれるポリマーに由来する構造単位を有し、
    部位Yが、pH応答性を示す部位であり、アルキレンジアミンに由来する、請求項11に記載のキット。
  13. 刺激応答性ポリマーが、リジン、グルタミン酸およびアスパラギン酸からなる群より選ばれるアミノ酸に由来する構造単位をさらに有する、請求項12に記載のキット。
  14. 幹細胞が多能性幹細胞または体性幹細胞である、請求項10〜13のいずれか一項に記載のキット。
  15. 幹細胞がiPS細胞、ES細胞およびMUSE細胞からなる群より選ばれる、請求項10〜13のいずれか一項に記載のキット。
  16. 緩衝液が、リン酸塩、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸、3−モルホリノプロパンスルホン酸、およびトリスヒドロキシメチルアミノメタンからなる群より選ばれる緩衝成分を有する、請求項10〜15のいずれか一項に記載のキット。
  17. 基材が足場分子をさらに含む、請求項10〜16のいずれか一項に記載のキット。
  18. 足場分子が、ラミニンまたはラミニン断片である、請求項17に記載のキット。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2020036096A1 (ja) * 2018-08-17 2020-02-20 東ソー株式会社 細胞懸濁液の製造方法
WO2022080408A1 (ja) * 2020-10-14 2022-04-21 昭和電工マテリアルズ株式会社 組成物

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