JP3311074B2 - 細胞培養基材 - Google Patents

細胞培養基材

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彰 寺本
満直 田中
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、少なくとも表面が、カ
チオン性高分子電解質であるキトサンとアニオン性高分
子電解質であるセルロース誘導体とからなる高分子電解
質錯体により形成されている細胞培養基材に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、動物細胞を培養し、その細胞から
ワクチンやインターフェロン等の生理活性物質を生産す
る研究や、人工臓器等のバイオテクノロジー分野の急速
な発展に伴い、生体内(in vivo)の細胞が有す
る機能を生体外(in vitro)で培養した細胞に
発現させるための研究等、細胞培養に関する研究は盛ん
に行われている。従来の細胞培養法には多くの種類があ
るが、ガラスや合成高分子樹脂からなる担体、例えばシ
ャーレ等の表面に細胞を付着させ、増殖と共に単層を形
成させる単層培養法が主体である。
【0003】接着性動物細胞を増殖させるためには、基
材表面と細胞の接着性が良好であることと共に、接着し
た細胞の形態、配列が、細胞の伸展、増殖に有効な形態
となっていることが必要である。そこで、基材自体の表
面を親水化することで種々改良が試みられてきた(特開
昭52−41291号公報、特開昭57−22691号
公報)。しかし、これらの基材を用いても本来生体内で
有していた細胞機能を維持することは不十分であり、細
胞は生存・増殖はするものの急速に脱分化して機能を失
う場合がほとんどである。このような機能の消失を防ぐ
ために、組織を生体外で再構築することにより、細胞機
能の発現を試みようとする機能培養が模索されている。
即ち、in vitroの培養用基材として細胞外マト
リックスを用い、細胞に組織構築を行わせようとするも
のである。例えば浮遊コラーゲンゲルを基材として用い
る肝実質細胞の培養〔Exp.Cell Res.,9
4,70(1975)〕や、コラーゲン合成のコファク
ターであるL−アスコルビン酸2−リン酸を培養系に添
加し、細胞のコラーゲン合成を活発化させ、三次元的に
培養する〔生化,60,201(1988)〕ことも検
討されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、コラーゲン自
体が生体成分であるために高価であり、また製品の均一
性欠如、劣化、ゲル製造の煩雑さ等に多くの問題点を有
している。従って、本発明の目的は、完全な人工合成材
料からなり、機能培養に適した基材を提供することにあ
る。
【0005】
【課題を解決するための手段】前記の目的は、本発明に
より少なくとも表面が、カチオン性高分子電解質として
のキトサンとアニオン性高分子電解質としてのセルロー
ス誘導体とからなる高分子電解質錯体により形成されて
いることを特徴とする、細胞培養基材によって達成する
ことができる。
【0006】以下、発明を詳細に説明する。本発明に用
いられる高分子電解質錯体(polyelectrol
yte complex:以下、PECともいう)は、
それ自体公知の物質である。PECは正荷電を有する高
分子電解質であるカチオンポリマーの溶液と負荷電を有
する高分子電解質であるアニオンポリマーの溶液とを混
合することにより瞬時に形成することができる。こうし
て得られたPECは、特殊な3元系溶媒(例えば、特定
の組成からなる、水/アセトン/低分子塩)には溶解す
るが、一般的な溶媒には不溶性である。PECは、出発
ポリマー(高分子電解質)の種類、それらの混合比、調
製条件などにより、多様な性質を有する各種の高分子電
解質錯体を提供することができる。
【0007】本発明では、カチオンポリマーとして下記
構造式(1)のキトサンを用いる。周知のとおり、キト
サンは、キチン(β−ポリ−N−アセチル−D−グルコ
サミン)を脱アセチル化して得られる生成物で、β−ポ
リ−D−グルコサミンである。式(1)中、R1 は水素
原子又はアセチル基であり、X - 対イオンであり、脱
アセチル化度は50〜100%(好ましくは70〜10
0%)、q1 は10〜3000(好ましくは10〜20
00)である。
【0008】
【化1】
【0009】本発明では、アニオンポリマーとして下記
構造式(2)のセルロース誘導体を用いる。式(2)
中、R2 は水素原子、カルボキシメチル基、硫酸基又は
リン酸基であり、q2 は10〜15000(好ましくは
20〜5000)である。
【0010】
【化2】
【0011】上記のカチオンポリマーとしてのキトサン
とアニオンポリマーとしてのセルロース誘導体とを通常
の方法で反応させると、前記式(1)中の−N+ 2
1 のN+ 原子と、前記式(2)中のCOOH基、SO3
H基及び/又はPO3 H基の少なくとも一部とが反応し
て、容易にPECを調製することができる。即ち、前記
のキトサン及びセルロース誘導体の各水溶液(10-5
ル/リットル〜10-2モル/リットル)を、カチオンポ
リマーのカチオン席とアニオンポリマーのアニオン席と
の濃度比(カチオン席/アニオン席)が0.25〜4.
0の範囲内、好ましくは0.4〜2.5の範囲内で、水
溶液中で混合して反応させれば良い。カチオン席とアニ
オン席の濃度比が0.25〜4.0の範囲外になると、
PECが形成され難くなるので好ましくない。各ポリマ
ーを溶解する溶媒としては、精製水や各種緩衝液(例え
ばリン酸緩衝液等)、あるいはそれらと水混和性有機溶
媒(例えばメタノール、エタノール、アセトン等)との
混合液を用いることができる。この反応は比較的活性が
高いので、溶液のpH、イオン強度、温度などは比較的
広い範囲であることができるが、一般的にはpH3〜
9、イオン強度0〜1.0及び20〜60℃で実施す
る。こうして得られる高分子電解質錯体を直接細胞培養
基材として形成するか、あるいは従来の適当な材料に被
覆することによって、細胞培養基材として用いることが
できる。
【0012】本発明においては、キトサンとセルロース
誘導体との組合せや配合比を変化させることにより、生
成するPECの荷電バランスを容易に変更し、調整する
ことができる。即ち、種々の荷電バランスを有するPE
Cを用いることで、細胞培養基材の表面電荷を調整し、
その使用条件に従って表面特性を適宜選択することが可
能となる。本発明で用いるPECの荷電バランスは、−
6〜+6の範囲で選択し得る。ここで、荷電バランスと
は、PECの荷電状態を、その出発原料であるカチオン
ポリマー及びアニオンポリマーの、各々のカチオン席及
びアニオン席の濃度比で表現するものである。例えば、
使用するカチオンポリマーのカチオン席及びアニオンポ
リマーのアニオン席の濃度比が等しい場合は、生成する
PECの荷電バランスは±0となる。濃度比がこれより
大きければ(即ち、カチオン席の濃度の方が高ければ)
荷電バランスはプラスとなり、小さければ(即ち、アニ
オン席の方が高ければ)マイナスとなる。また、濃度比
が1.5の場合は荷電バランスは+2となり、濃度比が
0.5の場合は荷電バランスは−3.3となる。荷電バ
ランスの調整は、等濃度のカチオンポリマー溶液及びア
ニオンポリマー溶液の混合量を変化させることによって
容易に行うことができる。
【0013】PECの調製時における溶液のpH、塩濃
度、水混和性有機溶媒の含有量を変化させることによ
り、生成PECの物性(例えば、硬度や弾性)を自由に
調整することが可能で、粒子状、板状又はフィルム状等
への成型も容易に行えるので、PECそれ自体から本発
明の細胞培養基材を形成することができる。また、PE
Cは種々の材料に簡便且つ容易に被覆できるので、適当
な担体や従来の基材に、PECを被覆して本発明の細胞
培養基材を形成することもできる。更に、PECそれ自
体からなる部分と、適当な担体や従来の基材にPECを
被覆した部分とから形成してもよい。
【0014】PECを被覆することのできる担体又は従
来の細胞培養基材としては、既に適当な材質(ガラス、
セルロース、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアク
リル酸、ポリスチレン、ポリエステル、ポリイソプレ
ン、ポリプロピレン、ポリアミド等の合成高分子樹脂、
綿、紙等の天然高分子、キュプロファン、レーヨン等の
再生樹脂、金属、セラミックス等)で加工されたシャー
レ、プレート、培養容器、培養バッグ、フィルム、繊
維、マイクロキャリア、ビーズ等が挙げられる。従来の
細胞培養基材は、既に形状やサイズ、多孔質の孔径等が
管理されているので、単にPECをコートするだけで、
種々の規格が管理された本発明による細胞培養基材を簡
便に製造することができる。
【0015】PECを担体又は従来の基材に被覆させる
には、例えば、塗布、噴霧又は浸漬などの方法で行うこ
とができる。PEC溶液を担体に単に接触させるだけで
も良い。例えば、キトサン溶液とセルロース誘導体溶液
とを混合し、その溶液と担体又は従来の基材とを0.5
〜48時間程度接触させておき、そうして処理した担体
又は従来の基材を生理食塩水や精製水で洗浄した後、室
温で風乾あるいは50〜100℃程度に加温して乾燥す
る。このとき、例えばNaCl等の塩を0.01〜5
M、温度を0〜100℃の雰囲気範囲でPECを生成さ
せ、担体又は従来の基材と接触又は浸漬させることによ
り、PECの被覆処理時間を短縮(例えば温度を高める
ことによる)し、温和な条件下でPECを被覆すること
もできる。
【0016】こうして調製したキトサン−セルロース高
分子電解質錯体からなる本発明の細胞培養基材を用いて
培養することのできる細胞は、従来の細胞培養基材で培
養されているものと特に異なるものではなく、上皮細胞
や繊維芽細胞等の所謂接着性動物細胞全般である。ま
た、本発明の細胞培養基材を用いる培養方法も従来の培
養方法と特に異なるものではなく、培養規模や培養の目
的等に応じて、従来公知の培養法を適用することができ
る。
【0017】
【作用】本発明と同様のPECを利用した細胞培養基材
が、特開昭63−79587号公報に開示されている。
しかし、この公報記載のPECは4級化ポリエチレンイ
ミンをカチオンポリマーとして用いるのに対し、本発明
による細胞培養基材のPECは、かさ高い環構造を主鎖
に含む多糖類をカチオンポリマーとして用いる。従っ
て、本発明のPECは、前記公報記載のPECと比較し
て、内部回転の拘束性がはるかに高く、解離基の立体的
配置の自由度が少ないため、規則的な梯子状(ladd
er)構造を呈するPECを形成しやすく、構成成分や
全体構造がかなり異なるので、培養基材としての物性も
異なるものとなる。すなわち、細胞と基材の接着は、血
清に含まれる接着因子による作用以外にも、静電的な結
合力を介して相互作用する。このため、基材表面の親水
性・疎水性、表面エネルギー、ミクロドメイン構造など
が深く関与していることが考えられる。
【0018】多糖類のPECの場合には、前記公報など
に記載のその他のPECが有する特性以外の特性を有す
ることが容易に考えられる。例えば、解離基の種類、密
度や位置により、PEC全体としては理論的に中性であ
っても、イオン結合に関与しないフリーの解離基が生
じ、細胞の接着性や増殖性に何らかの影響を与えたり、
PEC自体が細胞の増殖に因子的機能を有する可能性
等、従来には予測し得なかった機能を発現させているも
のと考えられる。更に、PECはハイドロゲルとしても
機能しているので、物理的な表面の運動性、排除体積効
果なども関与していることが考えられる。このような幾
つかの要因があいまって従来に無い、極めて好適な細胞
培養基材としての機能を発現しているものと思われる。
【0019】
【実施例】以下、実施例により本発明を更に具体的に説
明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではな
い。なお、以下の実施例に記載の平均分子量は蒸気圧降
下法で測定した数平均分子量である。以下の実施例にお
いて使用したポリマー及びその略称を以下に示す。(1)カチオンポリマー(キトサン) CS:キトサン(脱アセチル化度100%;平均分子量
約5000)(2)アニオンポリマー(セルロース誘導体) CCEL:カルボキシメチルセルロ−ス(1ピラノ−ス
酸基当たりの官能基導入率0.9;平均分子量約18000
0) PCEL:リン酸化セルロ−ス(1ピラノ−ス酸基当た
りの官能基導入率0.5;平均分子量約160000) SCEL:硫酸化セルロ−ス(1ピラノ−ス酸基当たり
の官能基導入率0.8;平均分子量約120000)
【0020】実施例1:PECコーティングディッシュ
の調製 カチオンポリマーであるCSを1.62mg/mlの濃度(イオ
ン席として10-2M;以下10-2UMともいう)となる
ように1%酢酸溶液(pH6.0)を用いて調製し、CS
溶液とした。アニオンポリマーであるCCELを2.14mg
/mlの濃度(10-2UM)となるよう蒸留水(pH7.
0)を用いて調製し、CCEL溶液とした。これらの溶
液を等量ずつ混合しPECを形成させ、直ちにこのPE
C溶液1mlを細胞培養用ディッシュ(NUNCLON DELTA)に
注入し、室温で一晩静置した後、上清を除去し、次いで
65℃で一晩乾燥した。乾燥後、蒸留水1mlを注入して
ディッシュを洗浄し、再度65℃で乾燥させて、PEC
コーティングディッシュを得た。上記のCCELに換え
てPCEL及びSCELを用いて同様の操作を行い、C
S−PCEL及びCS−SCELコーティングディッシ
ュをそれぞれ調製した。対照としてPEC未コートのデ
ィッシュを用い、以下の試験を行った。
【0021】実施例2:細胞接着性の評価 細胞として歯周靱体由来の歯根膜細胞(以下、HPLF
という)を用い、培養液はDulbecco's Modified Eagle'
s Medium (以下、DMEMという)に牛胎児血清(以
下、FBSという)10%を加えた培養液を用いた。こ
の培養液を用いてHPLF細胞懸濁液(8×104 cell
s/ml)を調製した。この懸濁液1.5mlずつを実施例
1で調製した各ディッシュに注入し(12×104 cell
s/dish)、5%CO2 及び37℃で24時間培養した。
その後上澄み液を回収し、更に20mMリン酸緩衝液(pH
7.4)1mlでディッシュをリンスすることにより、
非接着細胞を完全に回収した。この非接着細胞を血球計
算盤(ビルケルチュルク型)を用いて位相差顕微鏡下で
計数し、接着率を求めた。結果を表1に示す。
【0022】実施例3:細胞増殖の評価 実施例2で用いた培養液を用いてHPLF細胞懸濁液
(2.5×104 cells/ml)を調製した。この懸濁液2
mlずつを実施例1で調製した各ディッシュに注入し
(5×104 cells/dish)、5%CO2 及び37℃で4
日間培養した。その後、浮遊細胞を上澄み液と共に取り
除き、更に20mMリン酸緩衝液(pH7.4)1mlでディ
ッシュをリンスした。0.02W/V%のEDTAと0.25W/V%の
トリプシンを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4)1ml
を注入し、37℃で10分間インキュベートした後、ピ
ペッティングを行い、接着している細胞を剥離回収し
た。更に、ディッシュを20mMリン酸緩衝液(pH7.4)
1mlでリンスして細胞を完全に回収した。この回収し
た細胞を実施例2と同様に血球計算盤を用いて計数し
た。結果を表1に示す。
【0023】
【表1】 ディッシュ 接着性 増殖性 細胞形態 CS−CCEL ○ ○ R、A CS−PCEL ○ ○ S CS−SCEL ○ ○ S 対照 ○ △ S
【0024】表1中で、○は良好、△はやや不良、Rは
丸いままの状態、Aは凝集形態、Sは伸展を示す。表1
から明らかなように、本発明の細胞培養基材は、接着性
について対照と同程度であるが、増殖性については対照
よりも優れている。従って、PECコートディッシュを
用いると、増殖率と長期間培養の点で、対照よりも優れ
ている。また、細胞形態から判断して、特にCS−CC
ELコートディッシュを用いると、細胞が三次元的に増
殖していることが確認できた。
【0025】
【発明の効果】本発明の細胞培養基材には、キトサンと
セルロース誘導体とからなるPECを用いるので、培養
対象細胞の性質に応じて、キトサンとセルロース誘導体
との組合せや配合比を適宜選択して、適切な物性を有す
る培養基材を容易に提供することができる。また、生体
成分を用いる場合と比較して、製品間の均一性欠如、劣
化、ゲル製造の煩雑さ等の問題がなく、しかも安価であ
る。更に、培養細胞が脱分化して機能を失うことのな
い、機能培養が可能になる。
フロントページの続き (56)参考文献 特開 平4−293481(JP,A) 特開 昭63−301234(JP,A) 特開 昭63−79587(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C12M 3/00 - 3/06 C12N 11/10 BIOSIS(DIALOG) JICSTファイル(JOIS)

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 少なくとも表面が、カチオン性高分子電
    解質としてのキトサンとアニオン性高分子電解質として
    のセルロース誘導体とからなる高分子電解質錯体により
    形成されていることを特徴とする、細胞培養基材。
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