JPH11315351A - 転がり軸受 - Google Patents

転がり軸受

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JPH11315351A
JPH11315351A JP5592199A JP5592199A JPH11315351A JP H11315351 A JPH11315351 A JP H11315351A JP 5592199 A JP5592199 A JP 5592199A JP 5592199 A JP5592199 A JP 5592199A JP H11315351 A JPH11315351 A JP H11315351A
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浩道 武村
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Abstract

(57)【要約】 【課題】オルタネータ用軸受などの高振動・高荷重で使
用される転がり軸受の寿命を大幅に延長する。 【解決手段】回転輪である内輪3を以下の組成の鉄鋼材
料で形成する。すなわち、この鉄鋼材料は、合金成分と
してCを0.65〜1.20重量%、Siを0.10〜
0.70重量%、Mnを0.20〜1.20重量%、C
rを0.20〜1.80重量%の範囲内で含み、且つO
の含有率は16ppm以下である。また、内輪3の熱処
理後の残留オーステナイト量を0〜6体積%とし、軌道
面の表面硬さをHRC57以上65以下とする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、転がり軸受に関
し、特に、エンジン補機用(オルタネータ、電磁クラッ
チ、中間プーリ、カーエアー用コンプレッサ、水ポンプ
用等)のグリース封入軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、自動車の小型・軽量化に伴い、エ
ンジンの補機類にも小型・軽量化と共に高性能・高出力
化が求められている。例えばオルタネータ用の軸受に
は、エンジンの作動と同時に、高速回転に伴う高振動、
高荷重(重力加速度で4G〜20G位)がベルトを介し
て作用する。そのため、オルタネータ用軸受には、グリ
ース潤滑されている軸受を用いると焼付きが生じてロッ
クし易く、また、固定輪である外輪の軌道面に早期剥離
が生じ易いという問題があり、その結果、十分に長い寿
命が得られていなかった。
【0003】高振動、高荷重下で使用される軸受の寿命
向上を図る技術としては、例えば、特公平7−7256
5号公報に、高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)で形成さ
れた固定輪に対して通常の焼入れを施した後、サブゼロ
処理を施し、その後に高温焼戻し処理を施すことで、固
定輪の残留オーステナイト量を10体積%以下にするこ
とが開示されている。すなわち、固定輪の残留オーステ
ナイト量を少なくすることによって、固定輪の硬さを高
く維持し、且つ高振動、高荷重下における固定輪の軌道
面の塑性変形を低減して早期剥離を防止しようとしてい
る。
【0004】また、固定輪の早期剥離を防止する対策と
して、「SAEテクニカルペーパー:SAE95094
4(開催日1995年2月27日〜3月2日)」の第1
項〜第14項には、オルタネータ用軸受の疲労メカニズ
ムを解明し、封入グリースをEグリースからMグリース
に変更することが開示されている。このMグリースはダ
ンパー効果が高いため、高振動、高荷重下で使用される
軸受に使用すると、振動および負荷を十分に吸収して固
定輪の早期剥離を防止することができる。
【0005】一方、特公平6−33441号公報には、
Cを0.95〜1.10重量%、SiあるいはAlを1
〜2重量%、Mnを0.50重量%以下、Crを0.9
0〜1.60重量%の範囲で含み、酸素含有量が13p
pm以下とした鋼で軌道輪を形成し、焼入れ後に230
℃〜300℃の高温で焼き戻しを行って残留オーステナ
イト量を8体積%以下とし、且つ表面硬度をHRC60
以上とする技術が開示されている。この技術は、高温使
用時に高い寸法安定性と長い転動寿命を有する軸受を得
ることを目的としている。
【0006】また、特開平7−103241号公報に
は、軸受鋼またはステンレス鋼からなる軸受軌道輪の残
留オーステナイト量を6体積%以下にする技術が開示さ
れている。この技術は、HDD用やオーディオ用の転が
り軸受を対象とし、使用中に軌道面に圧痕が発生して振
動が生じることを防止して、音響特性の向上を図ること
を目的としている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、特公平
7−72565号公報および前記SAEテクニカルペー
パーに開示された技術では、高振動、高荷重下で使用さ
れる軸受の固定輪の早期剥離防止効果は得られるが、エ
ンジン補機用軸受では高温使用時の耐焼付き性を更に向
上することが望まれる。
【0008】すなわち、雰囲気温度が100℃以上の高
温で長時間使用される場合には、回転輪である内輪の温
度が、固定輪である外輪の温度より10℃以上高くなり
やすい。これは、回転により軸受に発生した摩擦熱はシ
ャフトおよびハウジングを通じて放熱されるが、内輪が
固定されているシャフトより外輪が固定されているハウ
ジングの方が放熱条件が良いためである。そして、外輪
より温度の高い内輪の方が残留オーステナイト量の分解
量が多くなるため、内輪の軌道径が膨張して軸受隙間が
減少する。その結果、焼付きが生じ易くなる。
【0009】また、特公平6−33441号公報および
特開平7−103241号公報には、上記のような高温
使用時の焼付きを防止することを目的とする記載はな
い。さらに、特公平6−33441号公報に記載の技術
では、固定輪を形成する鋼におけるSiあるいはAlの
含有量が1〜2重量%と多いため酸素含有量を13pp
m以下に規定しているが、転がり寿命を著しく低下させ
るシリコン系やアルミナ系の巨大な介在物が生じやすく
なる傾向がある。
【0010】また、特開平7−103241号公報に記
載の技術は、軸受内径が10mm未満の小型玉軸受やミ
ニアチュア玉軸受のように、玉径が3mm以下で複数の
玉が配列されるピッチ円の直径が11mm以下である玉
軸受に効果を有するものであり、軸受内径が10mm以
上のエンジン補機用軸受の場合には、HDD用やオーデ
ィオ用の場合よりも高温、高振動下で使用されるため、
さらなる耐剥離性および耐焼付き性が求められる。
【0011】本発明は、このような従来技術の問題点に
着目してなされたものであり、高振動、高荷重、高温条
件下で使用されるエンジン補機用転がり軸受において、
早期剥離の防止および焼付き防止の両方の効果が高く、
軸受寿命の大幅な延長が可能な転がり軸受を提供するこ
とを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】上記課題を達成するため
に、本発明の転がり軸受は、グリース潤滑される固定輪
と回転輪との間に複数の転動体が配設された転がり軸受
において、少なくとも回転輪は、合金成分としてCを
0.65〜1.20重量%、Siを0.10〜0.70
重量%、Mnを0.20〜1.20重量%、Crを0.
20〜1.80重量%の範囲内で含み、且つOの含有率
は16ppm以下である鉄鋼材料で形成され、熱処理後
の残留オーステナイト量が0〜6体積%であり、軌道面
の表面硬さがHRC57以上65以下であることを特徴
とする。
【0013】本発明においては、回転輪を形成する鉄鋼
材料の組成について、前述のように、C、Si、Mn、
およびCrの含有範囲とOの含有率を限定する。各数値
限定の臨界的意義について以下に述べる。 〔C:0.65〜1.20重量%〕Cは鋼に硬さを付与
する元素であり、Cの含有量が0.65未満であると、
転がり軸受に要求される硬さ(スケールCの場合のロッ
クウェル硬さ(HRC)で57以上)を確保できない場
合がある。また、Cはマトリックスに固溶するとともに
他の合金成分元素(特にCr)と結合して炭化物となる
が、Cの含有量が1.20重量%を超えると、製鋼時に
巨大炭化物が生成しやすくなって、疲労寿命や耐衝撃性
が低下する恐れがある。 〔Si:0.10〜0.70重量%〕Siは製鋼時に脱
酸剤として作用し、焼入れ性を向上させるとともに、組
織変化を遅延させる元素であり、0.1重量%未満では
脱酸効果が十分ではない。また、Siの含有率が0.7
重量%を超えると、加工性が著しく低下するとともに、
靱性や耐久性を著しく低下させると考えられている珪酸
塩系介在物が生じる恐れがある。 〔Mn:0.20〜1.20重量%〕Mnは鋼の焼入れ
性を向上させる効果のある元素であり、0.20重量%
未満であるとその効果が不十分となる。Mnの含有率が
1.20重量%を超えると加工性が低下する。また、S
の存在により寿命低下の要因となり得る介在物であるM
nSが生じるため、Sの含有率を0.02重量%以下と
してMnSの生成量を少なくすることが好ましい。 〔Cr:0.20〜1.80重量%〕Crは焼入れ性を
向上させ、炭化物球状化を促進させる元素であるが、含
有量が0.20重量%未満であるとこれらの作用が実質
的に発揮されない。また、CrはCと結びついて巨大な
炭化物を形成する恐れがあり、含有量が多いと被切削性
を劣化させる場合もあるため、これを避けるためにCr
含有率の上限値を1.80重量%とする。 〔O≦16ppm〕Oは鋼において酸化物系の介在物
(例えばAl2 3 やCaO)を生成し、転がり寿命を
低下させる元素であり、その含有率が16ppmを超え
ると転がり寿命の低下が著しくなるため、16ppmを
上限値とした。 〔残留オーステナイト量が0〜6体積%〕本発明の限定
を満たす同一組成の鉄鋼材料を使用して多数の回転輪
(内輪)を形成し、異なる条件で熱処理を施すことによ
り、残留オーステナイト量が異なる回転輪を作製し、こ
れを用いて転がり軸受を組み立て、振動・高荷重・高温
下での転がり寿命試験を行ったところ、残留オーステナ
イト量が6体積%を超えると極端に寿命が低下すること
が判明した。なお、高温使用時の焼付き防止効果は残留
オーステナイト量が少ないほど高くなり、特に残留オー
ステナイト量が4体積%以下であることが好ましい。 〔軌道面の表面硬さがHRC57以上65以下〕HRC
57未満であると軸受として十分な剛性が得られない。
HRC65を超えると、靱性が低下し、亀裂伝搬特性が
著しく悪くなる。
【0014】以上のような鉄鋼材料および残留オーステ
ナイト量の特定により、固定輪に比べて放熱され難い回
転輪の高温使用時の寸法変化(内輪軌道径の膨張)が抑
制されるため、軸受隙間の減少が防止される。その結
果、高温使用時の焼き付けが防止されて転がり寿命が延
長される。また、鉄鋼材料の特定のうちの酸素含有率の
特定により、非金属介在物の生成が抑制される。この非
金属介在物生成の抑制および軌道面の表面硬さの特定の
結果、転がり軸受の寿命がさらに延長される。
【0015】なお、転動体の残留オーステナイト量を0
〜6体積%とすることにより、高温使用時に転動体の膨
張が防止されるため、焼付き防止効果がより高くなる。
また、グリース潤滑される固定輪と回転輪との間に複数
の転動体が配設された転がり軸受において、回転輪は、
合金成分としてCを0.65〜1.20重量%、Siを
0.10〜0.70重量%、Mnを0.20〜1.20
重量%、Crを0.20〜1.80重量%の範囲内で含
み、且つOの含有率は16ppm以下である鉄鋼材料で
形成され、熱処理後の残留オーステナイト量が0〜6体
積%であり、軌道面の表面硬さがHRC57以上65以
下であり、固定輪は、前記と同じ組成範囲の鉄鋼材料で
形成され、熱処理後の残留オーステナイト量が7体積%
以上であり、軌道面の表面硬さがHRC60以上65以
下である転がり軸受は、回転輪および固定輪ともに残留
オーステナイト量が0〜6体積%であるものと比較し
て、転がり寿命がより高くなる。
【0016】表1に、内輪(回転輪)と外輪(固定輪)
の残留オーステナイト量(γR )の組合せの違いによ
る、転がり軸受の特性の違いを示す。
【0017】
【表1】
【0018】この表から分かるように、内輪の残留オー
ステナイト量が0〜6体積%であると、高温使用時の内
輪軌道径の膨張が抑制されるため寸法安定性が高くな
る。これに対して、内輪の残留オーステナイト量が7体
積%以上であると寸法安定性は悪くなる。また、外輪の
残留オーステナイト量が7体積%以上であると、耐圧痕
性が良好となって転がり寿命が高くなる。これに対し
て、外輪の残留オーステナイト量が0〜6体積%である
と、耐圧痕性が不十分となって転がり寿命は低くなる。
【0019】したがって、タイプB,C,Dの組合せで
は、内輪の寸法安定性および転がり寿命のいずれかの点
が不十分となるが、タイプAの組合せでは、内輪の寸法
安定性および転がり寿命のいずれの点も良好になる。す
なわち、内輪の残留オーステナイト量が0〜6体積%で
あって、外輪の残留オーステナイト量が7体積%以上で
ある組合せの転がり軸受は、内輪の寸法安定性および転
がり寿命のいずれの点も良好になる。
【0020】つまり、高温使用時に内輪の寸法安定性を
高くして内輪の焼付き防止効果を得るためには、タイプ
AおよびBのように、内輪の残留オーステナイト量を0
〜6体積%とすることが好ましい。これにより、軸と内
輪内周面との間のクリープも発生しなくなり、内輪の発
熱も少なく抑えられる。外輪の剥離防止のためには、軌
道面の硬さを保持して耐圧痕性を高くするために、タイ
プAおよびCのように、外輪の残量オーステナイト量を
7体積%以上とすることが好ましい。
【0021】そして、残留オーステナイト量がこのよう
な好ましい値となっている内輪および外輪を組み合わせ
た転がり軸受(タイプA)は、高振動、高荷重、高温の
条件下で使用した場合に、寿命が最も長く、クリープも
生じない、最も優れた転がり軸受となる。
【0022】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を具体的
な実施例および比較例により説明する。図1は、本発明
の一実施形態である転がり軸受を示す断面図である。こ
の転がり軸受1はJIS呼び番6303の深みぞ玉軸受
であり、外輪2がハウジング8に固定されて固定輪とな
り、内輪3はシャフト7に外嵌されて回転輪となってい
る。また、外輪2と内輪3との間には、保持器5により
保持された多数の転動体4が配設され、保持器5の両側
位置の外輪2と内輪3との間には、シール部材6,6が
装着されている。また、シール部材6,6によって囲ま
れる空間にはグリース10として前述のグリースMが封
入されている。
【0023】そして、この転がり軸受1は、シャフト7
の回転に伴って内輪3が回転し、この回転による振動・
荷重は、シャフト7から内輪3及び転動体4を介して外
輪2の負荷圏に作用する。ここで、内輪3は、下記の表
2に示す組成の鉄鋼材料で形成され、下記のいずれかの
条件で焼入れ・焼き戻しすることによって、硬さ(HR
C)および残留オーステナイト量(γR )が、下記の表
2に示す値となっているものである。 〔焼入れ・焼き戻し条件〕 条件I:840℃で焼入れ後、160℃で焼き戻し。
【0024】 条件II:840℃で焼入れ後、200℃で焼き戻し。 条件III :840℃で焼入れ後、250℃で焼き戻し。 条件IV:840℃で焼入れ後、300℃で焼き戻し。 条件V:840℃で焼入れ後、400℃で焼き戻し。 条件VI:840℃で焼入れ後、−80℃でサブゼロ処
理後、160℃で焼き戻し。
【0025】
【表2】
【0026】また、実施例および比較例とも、外輪2及
び転動体4は、同じ高炭素クロム軸受鋼2種(SUJ
2)で形成して条件Iの熱処理を施すことにより、残留
オーステナイト量を3〜5体積%とし、表面硬さをHR
C62とした。内輪3および外輪2の表面粗さをRaで
0.01〜0.04μm、転動体4の表面粗さをRaで
0.003〜0.010μmとした。
【0027】このようにして作製された、異なる内輪
(実施例1〜10および比較例1〜10)3と、同じ外
輪2及び転動体4を備えた転がり軸受1に対し、以下の
ようにして寿命試験を行った。試験機としては、特開平
9−89724号公報に開示されている軸受用寿命試験
装置を用い、回転数を所定時間毎(例えば9秒毎)に9
000rpmと18000rpmとに切り換える急加減
速試験を行った。転がり軸受1の軸受隙間を10〜15
μmとし、荷重条件は、P(負荷荷重)/C(動定格荷
重)=0.10とし、試験温度を130℃で一定にし
た。
【0028】この条件での転がり軸受1の計算寿命(理
論的な最大寿命)は1350時間であるため、試験打ち
切り時間を1500時間とした。また、この試験は、実
施例1〜10および比較例1〜10の試験体をそれぞれ
10個ずつ用意して、焼付きや剥離などの異常が生じる
までの時間を測定した。10個の試験体の結果のうち、
異常が生じるまでの時間が最も短い時間を評価時間(試
験寿命)とした。これらの結果を下記の表3に示す。
【0029】なお、表3で下線を施した数値は、本発明
の数値限定範囲から外れるものを示す。また、10個の
試験体すべてに試験打ち切り時間までに焼付きや剥離な
どの異常が生じなかった場合には、評価時間を1500
時間とした。
【0030】
【表3】
【0031】この寿命試験結果から分かるように、内輪
3を形成する鉄鋼材料の組成が C:0.65〜1.20重量% Si:0.10〜0.70重量% Mn:0.20〜1.20重量% Cr:0.20〜1.80重量% O:O≦16ppm を全て満たすとともに、その熱処理後の残留オーステナ
イト量が0〜6体積%であり、且つ軌道面の表面硬さが
HRC57〜65である場合(実施例1〜10)に限っ
て、高振動、高荷重、高温下での本寿命試験において、
計算寿命1350時間より長い寿命が得られた。
【0032】実施例1および2に関しては、残留オース
テナイト量が6体積%および5体積%と比較的大きかっ
たため、それぞれ10個中3個、10個中2個の試験体
について焼付きが生じたが、転がり寿命は計算寿命13
50時間より長く、比較例1〜10の2倍程度またはそ
れ以上となった。実施例1および2の試験体のうち焼付
きが生じていない軸受について、試験後に内輪の軌道径
の膨張量を測定したところ5〜10μmであった。焼付
きが生じた軸受では、これ以上の膨張量となっていた。
【0033】実施例3〜10に関しては、残留オーステ
ナイト量が4体積%以下であったため、全ての試験体に
ついて、試験打ち切り時間までに焼付きや剥離などの異
常が生じなかった。実施例3〜10の軸受について、試
験後に内輪の軌道径の膨張量を測定したところ5μm以
下であった。また、軌道面の表面状態を観察したところ
良好であり、この程度の軸受隙間の減少量では焼付きを
引き起こすまでには至らなかった。
【0034】比較例1および7は軌道面の表面硬さがH
RC55と低いため、評価時間は計算寿命の1/3程度
であった。試験終了後に内輪のミクロ組織を調査したと
ころ、塑性変形が極端に進行していることが分かった。
また、X線による疲労解析(「半値幅の減少量と残留オ
ーステナイトの分解量との組合せ」NSKベアリングジ
ャーナル No.643,p1〜10,1982年参照)を
行った結果、内部疲労が認められ、全ての剥離はマトリ
ックス起点型であることが分かった。
【0035】比較例2および5では、CおよびCrの含
有率が高い材料を使用しているため、熱処理後に軌道表
面に10μm以上の巨大な炭化物(Cr炭化物)が確認
された。そして、この炭化物を起点にして表面から剥離
が生じた結果、評価時間が525時間および504時間
と短くなった。比較例3では、Siの含有率が本発明の
範囲より大きい材料を使用しているため、Si系の介在
物を起点とした剥離が、計算寿命の1/2程度の時間で
発生した。比較例4では、Mnの含有率が本発明の範囲
より大きい材料を使用しているため、MnS系の介在物
を起点とした剥離が、計算寿命の1/2程度の時間で発
生した。比較例6では、Oの含有率が本発明の範囲より
大きい材料を使用しているため、アルミナ系の介在物を
起点とした剥離が、計算寿命の1/2程度の時間で発生
した。
【0036】比較例8〜10は、使用材料の組成および
軌道面の表面硬さは本発明の範囲内であったが、残留オ
ーステナイト量が6体積%よりも大きかったため、軸受
隙間の減少が生じた。その結果、計算寿命の1/7〜1
/10程度の時間で焼付きが生じた。次に、高炭素クロ
ム軸受鋼2種(SUJ2)を用いて、図1の軸受用の内
輪3、外輪2、および転動体4を形成し、内輪3および
外輪2については、前記I〜VIのいずれかの条件で熱
処理を施して、残留オーステナイト量および軌道面の表
面硬度を調整した。転動体4に対しては全て同じ熱処理
(通常の熱処理)を行った。内輪3および外輪2の表面
粗さはRaで0.01〜0.04μm、転動体4の表面
粗さはRaで0.003〜0.010μmとした。
【0037】このようにして作製された、異なる内輪と
外輪を、前記表1に示す4つのタイプに組合せて転がり
軸受1を組み立てた。表4に示すように、A〜Dの各タ
イプについて2種類の試験体を作製した。これらの試験
体に対して、前記と同じ試験装置を用い、回転数を変化
させないで(すなわち、振動を発生させないで)、高荷
重(P/C=0.4)、高速回転(10000rp
m)、高温(130℃)の条件で、Mグリース潤滑下で
寿命試験を行った。
【0038】ここで、この条件での転がり軸受1の計算
寿命は26時間であるため、試験打ち切り時間を50時
間とした。また、この試験は、各種類の試験体をそれぞ
れ10個ずつ用意して、焼付きや剥離などの異常が生じ
るまでの時間を測定した。10個の試験体の結果のう
ち、異常が生じるまでの時間が最も短い時間を評価時間
とした。これらの結果を下記の表4に示す。また、10
個の試験体すべてに試験打ち切り時間までに焼付きや剥
離などの異常が生じなかった場合には、評価時間を50
時間とした。
【0039】
【表4】
【0040】この寿命試験結果から分かるように、内輪
の残留オーステナイト量が0〜6体積%であって、外輪
の残留オーステナイト量が7体積%以上である組合せ
(タイプA)の転がり軸受は、高荷重、高温下での本寿
命試験において、剥離および焼き付きが生じないで計算
寿命より長い寿命が得られた。また、内輪および外輪の
両方の残留オーステナイト量が0〜6体積%である組合
せ(タイプB)の転がり軸受は、内輪には焼付きは生じ
なかった。しかし、外輪の軌道面硬さがHRC57,5
8であることから、高荷重での耐圧痕性が低下したた
め、ほぼ半分の試験体の外輪に剥離が生じて、計算寿命
程度の寿命となった。
【0041】また、内輪および外輪の両方の残留オース
テナイト量が7体積%以上である組合せ(タイプC)の
転がり軸受は、内輪の残留オーステナイト量が10体積
%または15体積%と大きいため、内輪軌道面の膨張に
より多数の試験体で内輪に焼付きが生じた。その結果、
評価時間は計算寿命より少し短かくなった。また、外輪
には剥離が生じていなかった。
【0042】また、内輪の残留オーステナイト量が6体
積%を超え、外輪の残留オーステナイト量が7体積%未
満である組合せ(タイプD)の転がり軸受は、内輪軌道
面の膨張により、多数の試験体の内輪に焼付きが生じ、
内輪と軸とのクリープも生じていた。また、外輪の残留
オーステナイト量が0.5体積%または3体積%と小さ
く、外輪軌道面の硬さもHRC58と低いため、外輪の
耐圧痕性が低くなって、外輪に剥離が生じた。これらの
点から、計算寿命の1/2程度の寿命となった。
【0043】なお、この実施形態で使用した高炭素クロ
ム軸受鋼に代えて高周波焼入れ鋼を用い、熱処理によっ
て残留オーステナイト量を所定範囲に調整した内輪およ
び外輪を用いてタイプAの組み合わせで組み立てた転が
り軸受についても、高炭素クロム軸受鋼を用いた場合と
同じ効果が得られる。
【0044】
【発明の効果】以上の説明したように、本発明によれ
ば、回転輪を形成する鉄鋼材料の組成限定、残留オース
テナイト量の限定、および軌道面の表面硬さの限定によ
って、高振動、高荷重、高温下で使用される転がり軸受
の寿命を、大幅に延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に相当する転がり軸受を示
す断面図である。
【符号の説明】
1 転がり軸受 2 外輪(固定輪) 3 内輪(回転輪) 4 転動体 10 グリース

Claims (1)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 グリース潤滑される固定輪と回転輪との
    間に複数の転動体が配設された転がり軸受において、 少なくとも回転輪は、 合金成分としてCを0.65〜1.20重量%、Siを
    0.10〜0.70重量%、Mnを0.20〜1.20
    重量%、Crを0.20〜1.80重量%の範囲内で含
    み、且つOの含有率は16ppm以下である鉄鋼材料で
    形成され、 熱処理後の残留オーステナイト量が0〜6体積%であ
    り、軌道面の表面硬さがHRC57以上65以下である
    ことを特徴とする転がり軸受。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2009047273A (ja) * 2007-08-22 2009-03-05 Nsk Ltd 玉軸受
JP2020105618A (ja) * 2018-12-28 2020-07-09 日本製鉄株式会社 転がり軸受部品及びその製造方法

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