JP4320825B2 - 転がり軸受 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、転がり軸受に関し、特に、エンジン補機用(オルタネータ、電磁クラッチ、中間プーリ、カーエアー用コンプレッサ、水ポンプ用等)のグリース封入軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車の小型・軽量化に伴い、エンジンの補機類にも小型・軽量化と共に高性能・高出力化が求められている。例えばオルタネータ用の軸受には、エンジンの作動と同時に、高速回転に伴う高振動、高荷重(重力加速度で4G〜20G位)がベルトを介して作用する。そのため、オルタネータ用軸受には、グリース潤滑されている軸受を用いると焼付きが生じてロックし易く、また、固定輪である外輪の軌道面に早期剥離が生じ易いという問題があり、その結果、十分に長い寿命が得られていなかった。
【0003】
高振動、高荷重下で使用される軸受の寿命向上を図る技術としては、例えば、特公平7−72565号公報に、高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)で形成された固定輪に対して通常の焼入れを施した後、サブゼロ処理を施し、その後に高温焼戻し処理を施すことで、固定輪の残留オーステナイト量を10体積%以下にすることが開示されている。すなわち、固定輪の残留オーステナイト量を少なくすることによって、固定輪の硬さを高く維持し、且つ高振動、高荷重下における固定輪の軌道面の塑性変形を低減して早期剥離を防止しようとしている。
【0004】
また、固定輪の早期剥離を防止する対策として、「SAEテクニカルペーパー:SAE950944(開催日1995年2月27日〜3月2日)」の第1項〜第14項には、オルタネータ用軸受の疲労メカニズムを解明し、封入グリースをEグリースからMグリースに変更することが開示されている。このMグリースはダンパー効果が高いため、高振動、高荷重下で使用される軸受に使用すると、振動および負荷を十分に吸収して固定輪の早期剥離を防止することができる。
【0005】
一方、特公平6−33441号公報には、Cを0.95〜1.10重量%、SiあるいはAlを1〜2重量%、Mnを0.50重量%以下、Crを0.90〜1.60重量%の範囲で含み、酸素含有量が13ppm以下とした鋼で軌道輪を形成し、焼入れ後に230℃〜300℃の高温で焼き戻しを行って残留オーステナイト量を8体積%以下とし、且つ表面硬度をHRC60以上とする技術が開示されている。この技術は、高温使用時に高い寸法安定性と長い転動寿命を有する軸受を得ることを目的としている。
【0006】
また、特開平7−103241号公報には、軸受鋼またはステンレス鋼からなる軸受軌道輪の残留オーステナイト量を6体積%以下にする技術が開示されている。この技術は、HDD用やオーディオ用の転がり軸受を対象とし、使用中に軌道面に圧痕が発生して振動が生じることを防止して、音響特性の向上を図ることを目的としている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特公平7−72565号公報および前記SAEテクニカルペーパーに開示された技術では、高振動、高荷重下で使用される軸受の固定輪の早期剥離防止効果は得られるが、エンジン補機用軸受では高温使用時の耐焼付き性を更に向上することが望まれる。
【0008】
すなわち、雰囲気温度が100℃以上の高温で長時間使用される場合には、回転輪である内輪の温度が、固定輪である外輪の温度より10℃以上高くなりやすい。これは、回転により軸受に発生した摩擦熱はシャフトおよびハウジングを通じて放熱されるが、内輪が固定されているシャフトより外輪が固定されているハウジングの方が放熱条件が良いためである。そして、外輪より温度の高い内輪の方が残留オーステナイト量の分解量が多くなるため、内輪の軌道径が膨張して軸受隙間が減少する。その結果、焼付きが生じ易くなる。
【0009】
また、特公平6−33441号公報および特開平7−103241号公報には、上記のような高温使用時の焼付きを防止することを目的とする記載はない。
さらに、特公平6−33441号公報に記載の技術では、固定輪を形成する鋼におけるSiあるいはAlの含有量が1〜2重量%と多いため酸素含有量を13ppm以下に規定しているが、転がり寿命を著しく低下させるシリコン系やアルミナ系の巨大な介在物が生じやすくなる傾向がある。
【0010】
また、特開平7−103241号公報に記載の技術は、軸受内径が10mm未満の小型玉軸受やミニアチュア玉軸受のように、玉径が3mm以下で複数の玉が配列されるピッチ円の直径が11mm以下である玉軸受に効果を有するものであり、軸受内径が10mm以上のエンジン補機用軸受の場合には、HDD用やオーディオ用の場合よりも高温、高振動下で使用されるため、さらなる耐剥離性および耐焼付き性が求められる。
【0011】
本発明は、このような従来技術の問題点に着目してなされたものであり、高振動、高荷重、高温条件下で使用されるエンジン補機用転がり軸受において、早期剥離の防止および焼付き防止の両方の効果が高く、軸受寿命の大幅な延長が可能な転がり軸受を提供することを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を達成するために、本発明の転がり軸受は、グリース潤滑される固定輪と回転輪との間に複数の転動体が配設されたエンジン補機用グリース封入転がり軸受において、回転輪は、合金成分としてCを0.65〜1.20重量%、Siを0.10〜0.70重量%、Mnを0.20〜1.20重量%、Crを0.20〜1.80重量%の範囲内で含み、且つOの含有率は16ppm以下であり、残部Feおよび不可避不純物からなる鉄鋼材料で形成され、焼入れ焼戻し後の残留オーステナイト量が0〜6体積%であり、軌道面の表面硬さがHRC57以上65以下であり、固定輪は、前記と同じ組成範囲の鉄鋼材料で形成され、焼入れ焼戻し後の残留オーステナイト量が7体積%以上であり、軌道面の表面硬さがHRC60以上65以下であり、転動体の残留オーステナイト量が0〜6体積%であることを特徴とする。
【0013】
本発明においては、回転輪を形成する鉄鋼材料の組成について、前述のように、C、Si、Mn、およびCrの含有範囲とOの含有率を限定する。各数値限定の臨界的意義について以下に述べる。
〔C:0.65〜1.20重量%〕
Cは鋼に硬さを付与する元素であり、Cの含有量が0.65未満であると、転がり軸受に要求される硬さ(スケールCの場合のロックウェル硬さ(HRC)で57以上)を確保できない場合がある。また、Cはマトリックスに固溶するとともに他の合金成分元素(特にCr)と結合して炭化物となるが、Cの含有量が1.20重量%を超えると、製鋼時に巨大炭化物が生成しやすくなって、疲労寿命や耐衝撃性が低下する恐れがある。
〔Si:0.10〜0.70重量%〕
Siは製鋼時に脱酸剤として作用し、焼入れ性を向上させるとともに、組織変化を遅延させる元素であり、0.1重量%未満では脱酸効果が十分ではない。また、Siの含有率が0.7重量%を超えると、加工性が著しく低下するとともに、靱性や耐久性を著しく低下させると考えられている珪酸塩系介在物が生じる恐れがある。
〔Mn:0.20〜1.20重量%〕
Mnは鋼の焼入れ性を向上させる効果のある元素であり、0.20重量%未満であるとその効果が不十分となる。Mnの含有率が1.20重量%を超えると加工性が低下する。また、Sの存在により寿命低下の要因となり得る介在物であるMnSが生じるため、Sの含有率を0.02重量%以下としてMnSの生成量を少なくすることが好ましい。
〔Cr:0.20〜1.80重量%〕
Crは焼入れ性を向上させ、炭化物球状化を促進させる元素であるが、含有量が0.20重量%未満であるとこれらの作用が実質的に発揮されない。また、CrはCと結びついて巨大な炭化物を形成する恐れがあり、含有量が多いと被切削性を劣化させる場合もあるため、これを避けるためにCr含有率の上限値を1.80重量%とする。
〔O≦16ppm〕
Oは鋼において酸化物系の介在物(例えばAl2 O3 やCaO)を生成し、転がり寿命を低下させる元素であり、その含有率が16ppmを超えると転がり寿命の低下が著しくなるため、16ppmを上限値とした。
〔残留オーステナイト量が0〜6体積%〕
本発明の限定を満たす同一組成の鉄鋼材料を使用して多数の回転輪(内輪)を形成し、異なる条件で熱処理を施すことにより、残留オーステナイト量が異なる回転輪を作製し、これを用いて転がり軸受を組み立て、振動・高荷重・高温下での転がり寿命試験を行ったところ、残留オーステナイト量が6体積%を超えると極端に寿命が低下することが判明した。なお、高温使用時の焼付き防止効果は残留オーステナイト量が少ないほど高くなり、特に残留オーステナイト量が4体積%以下であることが好ましい。
〔軌道面の表面硬さがHRC57以上65以下〕
HRC57未満であると軸受として十分な剛性が得られない。HRC65を超えると、靱性が低下し、亀裂伝搬特性が著しく悪くなる。
【0014】
以上のような鉄鋼材料および残留オーステナイト量の特定により、固定輪に比べて放熱され難い回転輪の高温使用時の寸法変化(内輪軌道径の膨張)が抑制されるため、軸受隙間の減少が防止される。その結果、高温使用時の焼き付けが防止されて転がり寿命が延長される。また、鉄鋼材料の特定のうちの酸素含有率の特定により、非金属介在物の生成が抑制される。この非金属介在物生成の抑制および軌道面の表面硬さの特定の結果、転がり軸受の寿命がさらに延長される。
【0015】
なお、転動体の残留オーステナイト量を0〜6体積%とすることにより、高温使用時に転動体の膨張が防止されるため、焼付き防止効果がより高くなる。
また、グリース潤滑される固定輪と回転輪との間に複数の転動体が配設された転がり軸受において、回転輪は、合金成分としてCを0.65〜1.20重量%、Siを0.10〜0.70重量%、Mnを0.20〜1.20重量%、Crを0.20〜1.80重量%の範囲内で含み、且つOの含有率は16ppm以下である鉄鋼材料で形成され、熱処理後の残留オーステナイト量が0〜6体積%であり、軌道面の表面硬さがHRC57以上65以下であり、固定輪は、前記と同じ組成範囲の鉄鋼材料で形成され、熱処理後の残留オーステナイト量が7体積%以上であり、軌道面の表面硬さがHRC60以上65以下である転がり軸受は、回転輪および固定輪ともに残留オーステナイト量が0〜6体積%であるものと比較して、転がり寿命がより高くなる。
【0016】
表1に、内輪(回転輪)と外輪(固定輪)の残留オーステナイト量(γR )の組合せの違いによる、転がり軸受の特性の違いを示す。
【0017】
【表1】
【0018】
この表から分かるように、内輪の残留オーステナイト量が0〜6体積%であると、高温使用時の内輪軌道径の膨張が抑制されるため寸法安定性が高くなる。これに対して、内輪の残留オーステナイト量が7体積%以上であると寸法安定性は悪くなる。また、外輪の残留オーステナイト量が7体積%以上であると、耐圧痕性が良好となって転がり寿命が高くなる。これに対して、外輪の残留オーステナイト量が0〜6体積%であると、耐圧痕性が不十分となって転がり寿命は低くなる。
【0019】
したがって、タイプB,C,Dの組合せでは、内輪の寸法安定性および転がり寿命のいずれかの点が不十分となるが、タイプAの組合せでは、内輪の寸法安定性および転がり寿命のいずれの点も良好になる。すなわち、内輪の残留オーステナイト量が0〜6体積%であって、外輪の残留オーステナイト量が7体積%以上である組合せの転がり軸受は、内輪の寸法安定性および転がり寿命のいずれの点も良好になる。
【0020】
つまり、高温使用時に内輪の寸法安定性を高くして内輪の焼付き防止効果を得るためには、タイプAおよびBのように、内輪の残留オーステナイト量を0〜6体積%とすることが好ましい。これにより、軸と内輪内周面との間のクリープも発生しなくなり、内輪の発熱も少なく抑えられる。
外輪の剥離防止のためには、軌道面の硬さを保持して耐圧痕性を高くするために、タイプAおよびCのように、外輪の残量オーステナイト量を7体積%以上とすることが好ましい。
【0021】
そして、残留オーステナイト量がこのような好ましい値となっている内輪および外輪を組み合わせた転がり軸受(タイプA)は、高振動、高荷重、高温の条件下で使用した場合に、寿命が最も長く、クリープも生じない、最も優れた転がり軸受となる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を具体的な実施例および比較例により説明する。
図1は、本発明の一実施形態である転がり軸受を示す断面図である。
この転がり軸受1はJIS呼び番6303の深みぞ玉軸受であり、外輪2がハウジング8に固定されて固定輪となり、内輪3はシャフト7に外嵌されて回転輪となっている。また、外輪2と内輪3との間には、保持器5により保持された多数の転動体4が配設され、保持器5の両側位置の外輪2と内輪3との間には、シール部材6,6が装着されている。また、シール部材6,6によって囲まれる空間にはグリース10として前述のグリースMが封入されている。
【0023】
そして、この転がり軸受1は、シャフト7の回転に伴って内輪3が回転し、この回転による振動・荷重は、シャフト7から内輪3及び転動体4を介して外輪2の負荷圏に作用する。
ここで、内輪3は、下記の表2に示す組成の鉄鋼材料で形成され、下記のいずれかの条件で焼入れ・焼き戻しすることによって、硬さ(HRC)および残留オーステナイト量(γR )が、下記の表2に示す値となっているものである。
〔焼入れ・焼き戻し条件〕
条件I:840℃で焼入れ後、160℃で焼き戻し。
【0024】
条件II:840℃で焼入れ後、200℃で焼き戻し。
条件III :840℃で焼入れ後、250℃で焼き戻し。
条件IV:840℃で焼入れ後、300℃で焼き戻し。
条件V:840℃で焼入れ後、400℃で焼き戻し。
条件VI:840℃で焼入れ後、−80℃でサブゼロ処理後、160℃で焼き戻し。
【0025】
【表2】
【0026】
また、実施例および比較例とも、外輪2及び転動体4は、同じ高炭素クロム軸受鋼2種(SUJ2)で形成して条件Iの熱処理を施すことにより、残留オーステナイト量を3〜5体積%とし、表面硬さをHRC62とした。内輪3および外輪2の表面粗さをRaで0.01〜0.04μm、転動体4の表面粗さをRaで0.003〜0.010μmとした。
【0027】
このようにして作製された、異なる内輪(実施例1〜10および比較例1〜10)3と、同じ外輪2及び転動体4を備えた転がり軸受1に対し、以下のようにして寿命試験を行った。
試験機としては、特開平9−89724号公報に開示されている軸受用寿命試験装置を用い、回転数を所定時間毎(例えば9秒毎)に9000rpmと18000rpmとに切り換える急加減速試験を行った。転がり軸受1の軸受隙間を10〜15μmとし、荷重条件は、P(負荷荷重)/C(動定格荷重)=0.10とし、試験温度を130℃で一定にした。
【0028】
この条件での転がり軸受1の計算寿命(理論的な最大寿命)は1350時間であるため、試験打ち切り時間を1500時間とした。また、この試験は、実施例1〜10および比較例1〜10の試験体をそれぞれ10個ずつ用意して、焼付きや剥離などの異常が生じるまでの時間を測定した。10個の試験体の結果のうち、異常が生じるまでの時間が最も短い時間を評価時間(試験寿命)とした。これらの結果を下記の表3に示す。
【0029】
なお、表3で下線を施した数値は、本発明の数値限定範囲から外れるものを示す。また、10個の試験体すべてに試験打ち切り時間までに焼付きや剥離などの異常が生じなかった場合には、評価時間を1500時間とした。
【0030】
【表3】
【0031】
この寿命試験結果から分かるように、内輪3を形成する鉄鋼材料の組成が
C:0.65〜1.20重量%
Si:0.10〜0.70重量%
Mn:0.20〜1.20重量%
Cr:0.20〜1.80重量%
O:O≦16ppm
を全て満たすとともに、その熱処理後の残留オーステナイト量が0〜6体積%であり、且つ軌道面の表面硬さがHRC57〜65である場合(実施例1〜10)に限って、高振動、高荷重、高温下での本寿命試験において、計算寿命1350時間より長い寿命が得られた。
【0032】
実施例1および2に関しては、残留オーステナイト量が6体積%および5体積%と比較的大きかったため、それぞれ10個中3個、10個中2個の試験体について焼付きが生じたが、転がり寿命は計算寿命1350時間より長く、比較例1〜10の2倍程度またはそれ以上となった。実施例1および2の試験体のうち焼付きが生じていない軸受について、試験後に内輪の軌道径の膨張量を測定したところ5〜10μmであった。焼付きが生じた軸受では、これ以上の膨張量となっていた。
【0033】
実施例3〜10に関しては、残留オーステナイト量が4体積%以下であったため、全ての試験体について、試験打ち切り時間までに焼付きや剥離などの異常が生じなかった。実施例3〜10の軸受について、試験後に内輪の軌道径の膨張量を測定したところ5μm以下であった。また、軌道面の表面状態を観察したところ良好であり、この程度の軸受隙間の減少量では焼付きを引き起こすまでには至らなかった。
【0034】
比較例1および7は軌道面の表面硬さがHRC55と低いため、評価時間は計算寿命の1/3程度であった。試験終了後に内輪のミクロ組織を調査したところ、塑性変形が極端に進行していることが分かった。また、X線による疲労解析(「半値幅の減少量と残留オーステナイトの分解量との組合せ」NSKベアリングジャーナル No.643,p1〜10,1982年参照)を行った結果、内部疲労が認められ、全ての剥離はマトリックス起点型であることが分かった。
【0035】
比較例2および5では、CおよびCrの含有率が高い材料を使用しているため、熱処理後に軌道表面に10μm以上の巨大な炭化物(Cr炭化物)が確認された。そして、この炭化物を起点にして表面から剥離が生じた結果、評価時間が525時間および504時間と短くなった。
比較例3では、Siの含有率が本発明の範囲より大きい材料を使用しているため、Si系の介在物を起点とした剥離が、計算寿命の1/2程度の時間で発生した。比較例4では、Mnの含有率が本発明の範囲より大きい材料を使用しているため、MnS系の介在物を起点とした剥離が、計算寿命の1/2程度の時間で発生した。比較例6では、Oの含有率が本発明の範囲より大きい材料を使用しているため、アルミナ系の介在物を起点とした剥離が、計算寿命の1/2程度の時間で発生した。
【0036】
比較例8〜10は、使用材料の組成および軌道面の表面硬さは本発明の範囲内であったが、残留オーステナイト量が6体積%よりも大きかったため、軸受隙間の減少が生じた。その結果、計算寿命の1/7〜1/10程度の時間で焼付きが生じた。
次に、高炭素クロム軸受鋼2種(SUJ2)を用いて、図1の軸受用の内輪3、外輪2、および転動体4を形成し、内輪3および外輪2については、前記I〜VIのいずれかの条件で熱処理を施して、残留オーステナイト量および軌道面の表面硬度を調整した。転動体4に対しては全て同じ熱処理(通常の熱処理)を行った。内輪3および外輪2の表面粗さはRaで0.01〜0.04μm、転動体4の表面粗さはRaで0.003〜0.010μmとした。
【0037】
このようにして作製された、異なる内輪と外輪を、前記表1に示す4つのタイプに組合せて転がり軸受1を組み立てた。表4に示すように、A〜Dの各タイプについて2種類の試験体を作製した。これらの試験体に対して、前記と同じ試験装置を用い、回転数を変化させないで(すなわち、振動を発生させないで)、高荷重(P/C=0.4)、高速回転(10000rpm)、高温(130℃)の条件で、Mグリース潤滑下で寿命試験を行った。
【0038】
ここで、この条件での転がり軸受1の計算寿命は26時間であるため、試験打ち切り時間を50時間とした。また、この試験は、各種類の試験体をそれぞれ10個ずつ用意して、焼付きや剥離などの異常が生じるまでの時間を測定した。10個の試験体の結果のうち、異常が生じるまでの時間が最も短い時間を評価時間とした。これらの結果を下記の表4に示す。また、10個の試験体すべてに試験打ち切り時間までに焼付きや剥離などの異常が生じなかった場合には、評価時間を50時間とした。
【0039】
【表4】
【0040】
この寿命試験結果から分かるように、内輪の残留オーステナイト量が0〜6体積%であって、外輪の残留オーステナイト量が7体積%以上である組合せ(タイプA)の転がり軸受は、高荷重、高温下での本寿命試験において、剥離および焼き付きが生じないで計算寿命より長い寿命が得られた。
また、内輪および外輪の両方の残留オーステナイト量が0〜6体積%である組合せ(タイプB)の転がり軸受は、内輪には焼付きは生じなかった。しかし、外輪の軌道面硬さがHRC57,58であることから、高荷重での耐圧痕性が低下したため、ほぼ半分の試験体の外輪に剥離が生じて、計算寿命程度の寿命となった。
【0041】
また、内輪および外輪の両方の残留オーステナイト量が7体積%以上である組合せ(タイプC)の転がり軸受は、内輪の残留オーステナイト量が10体積%または15体積%と大きいため、内輪軌道面の膨張により多数の試験体で内輪に焼付きが生じた。その結果、評価時間は計算寿命より少し短かくなった。また、外輪には剥離が生じていなかった。
【0042】
また、内輪の残留オーステナイト量が6体積%を超え、外輪の残留オーステナイト量が7体積%未満である組合せ(タイプD)の転がり軸受は、内輪軌道面の膨張により、多数の試験体の内輪に焼付きが生じ、内輪と軸とのクリープも生じていた。また、外輪の残留オーステナイト量が0.5体積%または3体積%と小さく、外輪軌道面の硬さもHRC58と低いため、外輪の耐圧痕性が低くなって、外輪に剥離が生じた。これらの点から、計算寿命の1/2程度の寿命となった。
【0043】
なお、この実施形態で使用した高炭素クロム軸受鋼に代えて高周波焼入れ鋼を用い、熱処理によって残留オーステナイト量を所定範囲に調整した内輪および外輪を用いてタイプAの組み合わせで組み立てた転がり軸受についても、高炭素クロム軸受鋼を用いた場合と同じ効果が得られる。
【0044】
【発明の効果】
以上の説明したように、本発明によれば、回転輪を形成する鉄鋼材料の組成限定、残留オーステナイト量の限定、および軌道面の表面硬さの限定によって、高振動、高荷重、高温下で使用される転がり軸受の寿命を、大幅に延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に相当する転がり軸受を示す断面図である。
【符号の説明】
1 転がり軸受
2 外輪(固定輪)
3 内輪(回転輪)
4 転動体
10 グリース
Claims (1)
- グリース潤滑される固定輪と回転輪との間に複数の転動体が配設されたエンジン補機用グリース封入転がり軸受において、
回転輪は、
合金成分としてCを0.65〜1.20重量%、Siを0.10〜0.70重量%、Mnを0.20〜1.20重量%、Crを0.20〜1.80重量%の範囲内で含み、且つOの含有率は16ppm以下であり、残部Feおよび不可避不純物からなる鉄鋼材料で形成され、
焼入れ焼戻し後の残留オーステナイト量が0〜6体積%であり、軌道面の表面硬さがHRC57以上65以下であり、
固定輪は、前記と同じ組成範囲の鉄鋼材料で形成され、焼入れ焼戻し後の残留オーステナイト量が7体積%以上であり、軌道面の表面硬さがHRC60以上65以下であり、
転動体の残留オーステナイト量が0〜6体積%であることを特徴とするエンジン補機用グリース封入転がり軸受。
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